JP2019063868A - オーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料 - Google Patents

オーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料 Download PDF

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Abstract

【課題】高強度と優れた低温靱性とを両立できるオーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料を提供する。【解決手段】オーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料は、化学組成が、質量%で、C:0.005〜0.10%、Si:1.2%以下、Mn:4.0〜8.0%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Ni:14.0〜18.0%、Cr:20.0〜26.0%、Mo:1.0〜4.0%、V:0.50%以下、Nb:0.50%以下、N:0.15〜0.45%、Cu:0〜3%、W:0〜3%、Ti:0〜0.5%、Al:0〜0.5%、残部:Fe及び不純物であり、組織が、面積率で0.05〜2.5%のδフェライトを含み、下記式(1)で定義されるF1が、38.0〜48.0である。F1=10C+Si+0.5Mn−0.8Ni+1.3Cr+Cu+5Mo+2.5W+15(V+Nb+Ti)+30N+δ (1)【選択図】図1

Description

本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料に関する。
近年、水素をエネルギーとする輸送機器の研究開発、及び水素を供給する水素ステーションの実用化研究が盛んに進められている。これらの実用化に際して、水素ガスを高圧貯蔵、使用する環境の整備が急務とされており、引張強さで800MPaを上回る高強度材料の開発及び適用検討が進められている。
国際公開第2004/83476号には、高強度のオーステナイト系ステンレス鋼が記載されている。このオーステナイト系ステンレス鋼は、高Mn化することによってNの溶解度を高め、さらにVやNbを添加することによって、Nの固溶強化及び窒化物の析出強化を活用して高強度化が図られている。
このような材料を構造物として使用する場合、溶接による組み立てが必要であるが、溶接部にも母材と同等以上の強度が要求される。国際公開第2013/5570号には、溶接材料のN含有量、溶接時のシールドガス、溶融池面積等を管理することによって溶接金属のN含有量を増大させて、溶接後熱処理を実施しなくても高強度化を達成できる溶接継手が記載されている。また、特開2015−6678号公報には、溶接材料を用いずに高強度の溶接継手を製造する方法が記載されている。
国際公開第2004/83476号 国際公開第2013/5570号 特開2015−6678号公報 特開平7−88684号公報
高圧水素ガスの研究開発と並行して、液化水素を用いた水素の貯蔵及び使用に対する期待も高まっており、液化水素用材料に対する需要の増加が予想されている。水素の沸点は−253℃であり、液化水素用の材料には、このような極低温での靱性が求められる。また、常温で狙いの圧力にするためには、液化水素時にある程度昇圧しておく必要がある。そのため、液化水素用の材料には、高強度が求められる。
国際公開第2004/83476号に記載されているような高強度のオーステナイト系ステンレス鋼の溶接材料として、従来は309MoLが用いられている。309MoLでは、強度は確保できるものの、低温靱性を確保することができない。
本発明の目的は、高強度と優れた低温靱性とを両立できるオーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料を提供することである。
本発明の一実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料は、化学組成が、質量%で、C:0.005〜0.10%、Si:1.2%以下、Mn:4.0〜8.0%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Ni:14.0〜18.0%、Cr:20.0〜26.0%、Mo:1.0〜4.0%、V:0.50%以下、Nb:0.50%以下、N:0.15〜0.45%、Cu:0〜3%、W:0〜3%、Ti:0〜0.5%、Al:0〜0.5%、残部:Fe及び不純物であり、組織が、面積率で0.05〜2.5%のδフェライトを含み、下記式(1)で定義されるF1が、38.0〜48.0である。
F1=10C+Si+0.5Mn−0.8Ni+1.3Cr+Cu+5Mo+2.5W+15(V+Nb+Ti)+30N+δ (1)
式(1)中のC、Si、Mn、Ni、Cr、Cu、Mo、W、V、Nb、Ti、Nには、対応する元素の含有量が質量%で代入される。式(1)中のδには、δフェライトの量が面積%で代入される。
本発明によれば、高強度と優れた低温靱性とを両立できるオーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料が得られる。
図1は、F1と引張強さとの関係を示す散布部である。 図2は、F1と吸収エネルギーとの関係を示す散布図である。
本発明者らは、上記の課題を解決するため、種々の検討を実施した。まず、固溶強化及び析出強化に寄与する元素であるC、Si、Mn、Cr、Cu、Mo、W、V、Nb、Ti及びNに着目し、これらの元素と強度との関係を調査した。また、低温靱性確保の観点から、オーステナイト安定化元素であるNi含有量との関係を調査した。その結果、以下の知見を得た。
C、Si、Mn、Cr、Cu、Mo、W、V、Nb、Ti及びNの含有量を増やすと、強度は向上するが、低温靱性は低下する傾向がある。低温靱性を確保するためには、Ni含有量を高くすることが効果的である。一方、Ni含有量を高くすると、δフェライトの析出が抑制される。δフェライトは靱性を低下させる因子であるが、少量のδフェライトは、溶接金属の割れを顕著に抑制する。また、δフェライトは、分散強化によって溶接金属の強度を向上させる。そのため、δフェライトの析出を完全に抑制することは好ましくなく、フェライト形成元素とオーステナイト形成元素とのバランスを適正化して、適量のδフェライトを析出させることが好適である。
本発明者らは、所定の化学組成を有し、組織が面積率で0.05〜2.5%のδフェライトを含み、かつ下記の式(1)で表されるF1が38.0〜48.0であれば、高強度と優れた低温靱性とを備えたオーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料が得られることを見出した。
F1=10C+Si+0.5Mn−0.8Ni+1.3Cr+Cu+5Mo+2.5W+15(V+Nb+Ti)+30N+δ (1)
式(1)中のC、Si、Mn、Ni、Cr、Cu、Mo、W、V、Nb、Ti、Nには、対応する元素の含有量が質量%で代入される。式(1)中のδには、δフェライトの量が面積%で代入される。
以上の知見に基づいて、本発明は完成された。以下、本発明の一実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼溶接材料を詳細に説明する。
[化学組成]
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料は、以下に説明する化学組成を有する。以下の説明において、元素の含有量の「%」は、質量%を意味する。
C:0.005〜0.10%
炭素(C)は、固溶強化によって鋼の強度の向上に寄与する。C含有量が0.005%未満では、この効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.10%を超えると、炭化物が粒界に析出して靱性が低下する。そのため、C含有量は0.005〜0.10%である。C含有量の下限は、好ましくは0.006%であり、さらに好ましくは0.008%である。C含有量の上限は、好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Si:1.2%以下
シリコン(Si)は、固溶強化によって鋼の強度の向上に寄与する。Siが少しでも含有されていれば、この効果が得られる。一方、Siが1.2%を超えると、Ni、Cr等と金属間化合物を形成して、鋼の靱性を低下させる。そのため、Si含有量は1.2%以下である。Si含有量の下限は、好ましくは0.1%であり、さらに好ましくは0.2%である。Si含有量の上限は、好ましくは1.0%であり、さらに好ましくは0.8%である。
Mn:4.0〜8.0%
マンガン(Mn)は、安価なオーステナイト形成元素であり、Cr、Ni、N等との適正な組み合わせによって、高強度化、並びに延性及び靱性の向上に寄与する。Mn含有量が4.0%未満では、Nの溶解量が少なくなり、Nによる固溶強化や析出強化の効果が十分に得られなくなる。一方、Mn含有量が8.0%を超えると、鋼の熱間加工性が低下する。そのため、Mn含有量は4.0〜8.0%である。Mn含有量の下限は、好ましくは4.2%であり、さらに好ましくは4.3%である。Mn含有量の上限は、好ましくは7.0%であり、さらに好ましくは6.0%である。
P:0.03%以下
燐(P)は不純物である。Pは、鋼の靱性及び溶接性を低下させる。そのため、P含有量は0.03%以下である。P含有量は、好ましくは0.02%以下であり、さらに好ましくは0.01%以下である。
S:0.02%以下
硫黄(S)は不純物である。Sは、鋼の靱性及び溶接性を低下させる。そのため、S含有量は0.02%以下である。S含有量は、好ましくは0.01%以下であり、さらに好ましくは0.005%以下である。
Ni:14.0〜18.0%
ニッケル(Ni)は、オーステナイト形成元素であり、耐水素脆化性、及び低温靱性を向上させる。Ni含有量が14.0%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Ni含有量が18.0%を超えると、適量のδフェライトを析出させることが困難になる。そのため、Ni含有量は14.0〜18.0%である。Ni含有量の下限は、好ましくは14.5%であり、さらに好ましくは15.0%であり、さらに好ましくは15.5%である。Ni含有量の上限は、好ましくは17.5%であり、さらに好ましくは17.0%である。
Cr:20.0〜26.0%
クロム(Cr)は、鋼の耐食性を向上させるとともに、Nの溶解度を高めて硬度の向上に寄与する。Cr含有量が20.0%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が26.0%を超えると、オーステナイトが不安定になり、低温靱性が低下する。そのため、Cr含有量は20.0〜26.0%である。Cr含有量の下限は、好ましくは21.0%であり、さらに好ましくは22.0%である。Cr含有量の上限は、好ましくは25.0であり、さらに好ましくは24.5%である。
Mo:1.0〜4.0%
モリブデン(Mo)は、固溶強化及び析出強化によって鋼の強度を向上させる。Mo含有量が1.0%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Mo含有量が4.0%を超えると、オーステナイトが不安定になり、低温靱性が低下する。そのため、Mo含有量は1.0〜4.0%である。Mo含有量の下限は、好ましくは1.5%であり、さらに好ましくは2.0%である。Mo含有量の上限は、好ましくは3.5%であり、さらに好ましくは3.0%である。
V:0.50%以下
バナジウム(V)は、固溶強化及び析出強化によって鋼の強度を向上させる。Vが少しでも含有されていれば、この効果が得られる。一方、V含有量が0.50%を超えると、窒化物が過剰に析出し、低温靱性が低下する。そのため、V含有量は0.50%以下である。V含有量の下限は、好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.08%である。V含有量の上限は、好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.20%である。
Nb:0.50%以下
ニオブ(Nb)は、固溶強化及び析出強化によって鋼の強度を向上させる。Nbが少しでも含有されていれば、この効果が得られる。一方、Nb含有量が0.50%を超えると、窒化物が過剰に析出し、低温靱性が低下する。そのため、Nb含有量は0.50%以下である。Nb含有量の下限は、好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.08%である。Nb含有量の上限は、好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.20%である。
N:0.15〜0.45%
窒素(N)は、固溶強化元素であり、また、窒化物を形成することで結晶粒を微細化し、高強度化に寄与する。N含有量が0.15%未満では、これらの効果が十分に得られない。一方、N含有量が0.45%を超えると、製造時の熱間加工性が低下するともに、溶接時にブローホールが発生しやすくなる。そのため、N含有量は0.15〜0.45%である。N含有量の下限は、好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.25%である。N含有量の上限は、好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%である。
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料の化学組成の残部は、Fe及び不純物である。ここで不純物とは、鋼を工業的に製造する際に、原料として利用される鉱石やスクラップから混入する元素、又は製造過程の環境等から混入する元素を意味する。
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料の化学組成は、Feの一部に代えて、Cu、W、Ti、及びAlからなる群から選択される1種以上の元素を含有してもよい。Cu、W、Ti、及びAlは、すべて選択元素である。すなわち、本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料の化学組成は、Cu、W、Ti、及びAlの一部又は全部を含有していなくてもよい。
Cu:0〜3%
銅(Cu)は、オーステナイト組織を安定化させる。Cuはさらに、固溶強化により強度を高める。Cuが少しでも含有されていれば、この効果が得られる。一方、Cu含有量が3%を超えると、鋼の延性が低下する。そのため、Cu含有量は0〜3%である。Cu含有量の上限は、好ましくは2.5%であり、さらに好ましくは2%である。
W:0〜3%
タングステン(W)は、固溶強化により鋼の強度を高める。Wが少しでも含有されていれば、この効果が得られる。一方、W含有量が3%を超えると、鋼の延性が低下する。そのため、W含有量は0〜3%である。W含有量の上限は好ましくは2.5%であり、さらに好ましくは2%である。
Ti:0〜0.5%
チタン(Ti)は、固溶強化及び析出強化によって鋼の強度を向上させる。Tiが少しでも含有されていれば、この効果が得られる。一方、Ti含有量が0.5%を超えると、窒化物が過剰に析出し、低温靱性が低下する。そのため、Ti含有量は0〜0.5%である。Ti含有量の下限は、好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.08%である。Ti含有量の上限は、好ましくは0.3%であり、さらに好ましくは0.2%である。
Al:0〜0.5%
アルミニウム(Al)は、脱酸剤として使用される場合がある。一方、Alの残留が多過ぎ、Al含有量が0.5%を超えると、靱性が低下する。そのため、Al含有量は0〜0.5%である。Al含有量の上限は、好ましくは0.4%であり、さらに好ましくは0.2%である。
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼用溶接継手は、組織が、面積率で0.05〜2.5%のδフェライトを含む。本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼溶接材料の組織の残部は、オーステナイト相及び析出相である。
δフェライトは、溶接時の高温割れを顕著に抑制する。δフェライトはまた、分散強化によって溶接金属の強度を向上させる。δフェライトの面積率が0.05%未満では、これらの効果が十分に得られない。一方、δフェライトの面積率が2.5%を超えると、低温靱性を確保することが困難になる。そのため、δフェライトの面積率は0.05〜2.5%である。δフェライトの面積率の下限は、好ましくは0.07%である。δフェライトの面積率の上限は、好ましくは2.0%であり、さらに好ましくは1.5%である。
δフェライトの面積率は、次のように測定する。鋼を切断し、断面を研磨し、ピクリン酸アルコール等でエッチングする。倍率500倍程度の顕微鏡で研磨面を観察し、画像解析によって面積率を算出する。
δフェライトの量は、主にフェライト形成元素(Si、Cr、Mo、V等)の量とオーステナイト形成元素(C、Mn、Ni、N等)の量とのバランスによって決まる。例えば、Ni含有量を高くする場合には、その量に応じて、Cr含有量やMo含有量も多くする必要がある。
[F1について]
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料は、下記式(1)で定義されるF1が、38.0〜48.0である。
F1=10C+Si+0.5Mn−0.8Ni+1.3Cr+Cu+5Mo+2.5W+15(V+Nb+Ti)+30N+δ (1)
式(1)中のC、Si、Mn、Ni、Cr、Cu、Mo、W、V、Nb、Ti、Nには、対応する元素の含有量が質量%で代入される。式(1)中のδには、δフェライトの量が面積%で代入される。
F1において、C、Si、Mn、Cr、Cu、Mo、W、V、Nb、Ti、N、δは、いずれも鋼の強度を向上させる因子である。本実施形態の化学組成において、F1の値を38.0以上にすれば、引張強さを690MPa以上にすることができる。一方、F1の値が大きくなると、低温靱性は低下する傾向がある。F1において、Niは、靱性を向上させる因子である。本実施形態の化学組成において、F1の値を48.0以下にすれば、−196℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーを27J以上にすることができる。F1の下限は、好ましくは40.0であり、さらに好ましくは42.0である。F1の上限は、好ましくは47.0であり、さらに好ましくは46.0である。
[引張強さ及び低温靱性]
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼用溶接継手は、好ましくは、室温において690MPa以上の引張強さを有する。引張強さは、より好ましくは750MPa以上である。また、本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼用溶接継手は、−196℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが、27J以上である。−196℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーは、より好ましくは45J以上である。
[製造方法]
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料の製造方法の一例を説明する。オーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料の製造方法は、これに限定されない
上述の化学組成を有する鋼を溶製する。溶製は例えば、電気炉、Ar−O混合ガス底吹き脱炭炉(AOD炉)、真空脱炭炉(VOD炉)等を用いることができる。溶製された鋼を鋳造してインゴットにし、インゴットを熱間加工して溶接材料を製造する。溶接材料の形状は例えば、棒状、ワイヤー状、ブロック状等である。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
表1に示す化学組成を有する鋼種1〜21を溶製した。表1の「−」は、該当する元素の含有量が不純物レベルであることを示す。
Figure 2019063868
各鋼種から、溶接棒と板材とを作製した。具体的には、1150℃で熱間鍛造、熱間加工及び機械加工を施して2mm角の溶接棒を作製した。1150℃で熱間鍛造後、さらに1150℃で熱間圧延して厚さ4mmの板材を作製した。
作製した溶接棒を用いて、全溶着金属試験片を作製した。具体的には、手動のガスタングステンアーク溶接(GTAW)で、開先面へのバタリング溶接後、開先内に積層溶接を行った。入熱は9〜12kJ/cmとし、層間温度は150℃以下とした。溶接前熱処理(予熱)及び溶接後熱処理は実施しなかった。作製した全溶着金属試験片から、ミクロ観察用試験片、引張試験片、及びシャルピー衝撃試験を採取した。
ミクロ試験片から、実施形態で説明した方法によって、δフェライトの面積率を測定した。測定結果を前掲の表1に示す。
引張試験片は、平行部直径が6mmの丸棒試験片とした。室温、大気中で引張試験を実施し、引張強さを測定した。
シャルピー衝撃試験片は、JIS Z 2242に準拠し、フルサイズの2mmVノッチ試験片とし、−196℃でシャルピー衝撃試験を実施した。
作製した板材からトランスバレストレイン試験片を採取した。その後、溶接電流100A、溶接速度15cm/minの条件にてGTAWによりビードオンプレート溶接を行った。溶融池が試験片の長手方向の中央部に到達したとき、試験片に曲げ変形を加え、溶接金属に付加歪みを与えて割れを発生させた。付加歪みは、最大割れ長さが飽和する2%とした。評価は、溶接金属内に生じた最大割れ長さを測定し、溶接材料が有する凝固割れ感受性の評価指標とした。割れ長さは、Alloy800Hの最大割れ長さである1.65mm以下を目標とした。
引張試験、シャルピー衝撃試験、及びトランスバレストレイン試験の結果を表2に示す。表2の「−」は、該当する試験を実施していないことを示す。
Figure 2019063868
鋼種1〜8から作製された全溶着金属試験片は、690MPa以上の引張強さを有し、−196℃でのシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが27J以上であった。また、トランスバレストレイン試験での最大割れ長さも小さかった。
鋼種9〜15から作製された全溶着金属試験片は、690MPa以上の引張強さを有していたものの、−196℃でのシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが27J未満であった。これは鋼種9〜15のF1が大きすぎたためと考えられる。
鋼種16及び18から作製された全溶着金属試験片は、引張強さが690MPa未満であった。これは、鋼種16及び18のMn含有量及びN含有量が低すぎたため、又はF1が低すぎたためと考えられる。
鋼種17は、高強度のオーステナイト系ステンレス鋼の溶接材料として従来用いられている309MoLである。鋼種17から作製された全溶着金属試験片は、690MPa以上の引張強さを有していたものの、−196℃でのシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが27J未満であった。これは鋼種17のNi含有量が低すぎたため、及びF1が大きすぎたためと考えられる。
鋼種19から作製された全溶着金属試験片は、引張強さが690MPa未満であった。これは、F1が低すぎたためと考えられる。
鋼種20から作製された板材では、トランスバレストレイン試験において大きな割れが発生した。これは、鋼種20のNi含有量が高すぎたことによって、δフェライトの析出が完全に抑制されていたためと考えられる。
鋼種21から作製された全溶着金属試験片は、690MPa以上の引張強さを有していたものの、−196℃でのシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが27J未満であった。これは、鋼種21のNi含有量が低すぎたためと考えられる。
図1は、F1と引張強さとの関係を示す散布部である。図2は、F1と吸収エネルギーとの関係を示す散布図である。図1及び図2に示すとおり、F1の値が大きくなるほど、引張強さは大きくなり、吸収エネルギーは低下する傾向がある。F1を38.0〜48.0にすることで、690MPa以上の引張強さと、27J以上の吸収エネルギーとを両立することができる。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。

Claims (1)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C :0.005〜0.10%、
    Si:1.2%以下、
    Mn:4.0〜8.0%、
    P :0.03%以下、
    S :0.02%以下、
    Ni:14.0〜18.0%、
    Cr:20.0〜26.0%、
    Mo:1.0〜4.0%、
    V :0.50%以下、
    Nb:0.50%以下、
    N :0.15〜0.45%、
    Cu:0〜3%、
    W :0〜3%、
    Ti:0〜0.5%、
    Al:0〜0.5%、
    残部:Fe及び不純物であり、
    組織が、面積率で0.05〜2.5%のδフェライトを含み、
    下記式(1)で定義されるF1が、38.0〜48.0である、オーステナイト系ステンレス鋼用溶接材料。
    F1=10C+Si+0.5Mn−0.8Ni+1.3Cr+Cu+5Mo+2.5W+15(V+Nb+Ti)+30N+δ (1)
    式(1)中のC、Si、Mn、Ni、Cr、Cu、Mo、W、V、Nb、Ti、Nには、対応する元素の含有量が質量%で代入される。式(1)中のδには、δフェライトの量が面積%で代入される。
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