JP5218200B2 - 溶接金属および溶接材料 - Google Patents
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Cは、Ti、AlおよびCrとともに本発明の根幹に係る元素で、凝固割れおよび延性低下割れを防止する作用を有する。すなわち、Cは、Cr、Ti等と結合し、溶接金属が凝固する際に共晶炭化物を生成して、液相の消失を早めるとともに、最終凝固部の組織をM23C6とオーステナイトの層状組織とする。その結果、液相の残存形態が面状から点状に変化するとともに、特定面への応力集中が抑制され、また、不純物の偏析サイトとなる最終凝固界面積が増大するので、凝固割れおよび延性低下割れを防止することができる。上記のCの効果を十分に得るためには、0.16%以上のC含有量が必要である。一方、Cの含有量が過剰になり、特に、0.35%を超えると、凝固の際に炭化物とならないCが増加し、却って液相の融点が低下して凝固割れ感受性が増大する。さらには、多量の炭化物を形成するため、溶接金属の延性が低下するし、炭化物として存在するTi量が増えるので、強化に寄与するNi3TiあるいはNi3(Al、Ti)の析出駆動力の低下が生じる。そのため、Cの含有量は0.16〜0.35%とする。なお、C含有量の望ましい下限は0.18%であり、望ましい上限は0.32%である。
Siは、脱酸剤として添加される。しかしながら、Siの含有量が多くなって0.5%を超えると、溶接金属の凝固時に柱状晶粒界に偏析し、液相の融点を下げ、凝固割れ感受性を増大させる。そのため、Siの含有量を0.5%以下とする。Si含有量は、望ましくは、0.4%以下で、さらに望ましくは、0.3%以下である。なお、Siの含有量について特に下限を設ける必要はないが、過度の低減は、脱酸効果が十分に得られず合金の清浄性が低下するとともに、製造コストの増大を招く。そのため、Si含有量の望ましい下限は0.01%である。少なくともSiを0.01%含んでおれば、脱酸効果を得ることができる。
Mnは、Siと同様、脱酸剤として添加される。しかしながら、Mnの含有量が多くなって2.0%を超えると、延性および靱性の低下を招く。そのため、Mnの含有量を2.0%以下とする。Mn含有量は、望ましくは、1.8%以下で、さらに望ましくは、1.6%以下である。なお、Mnの含有量について特に下限を設ける必要はないが、過度の低減は、脱酸効果が十分に得られず合金の清浄性が低下するとともに、製造コストの増大を招く。そのため、Mn含有量の望ましい下限は0.01%である。少なくともMnを0.01%含んでおれば、脱酸効果を得ることができる。
Niは、安定なオーステナイト組織を得るばかりでなく、Ni3(Al、Ti)あるいはNi3Tiとして微細に分散し、溶接金属の強度を大きく向上させる作用を有する元素である。上記のNiの効果を得るためには、18%以上のNi含有量が必要である。一方、Niの含有量が多くなって38%を超えると、接ガス環境の種類によっては脆化を招く。したがって、Niの含有量は18〜38%とする。なお、Ni含有量の望ましい下限は20%であり、望ましい上限は35%である。
Crは、耐食性を改善する作用のある元素であるとともに、C、TiおよびAlとともに本発明の根幹に係る元素で、凝固割れおよび延性低下割れを防止する作用を有する。すなわち、Crは、溶接金属の凝固過程でTiを固溶するM23C6とオーステナイトの共晶凝固を生じさせ、凝固末期の液相の消失を促進させるとともに、液相中に凝固偏析して融点を降下させる有害なTiの量を軽減することで凝固割れを防止する作用を有する。加えて、上記のM23C6は、凝固後にはデンドライト境界にオーステナイトと層状組織を形成して存在するため、不純物元素の偏析の軽減および特定面への応力集中の軽減がなされて、延性低下割れが防止できる。これらの効果を十分に確保するとともに、M23C6中へのTiの固溶量を適正にし、短時間の溶接後熱処理で強化に寄与するNi3TiおよびNi3(Al、Ti)を析出させるためには、本発明の上記18〜38%というNi含有量の範囲ではCrの含有量を9%以上とする必要がある。しかしながら、Crの含有量が過剰になって22%を超えると、M23C6が多量に生成して溶接金属延性の低下を招く。したがって、Crの含有量は9〜22%とする。なお、Cr含有量の望ましい下限は11%であり、望ましい上限は20%である。
Tiは、C、Al等とともに本発明の根幹に係る元素である。すなわち、Tiは、Ni3TiあるいはNi3(Al、Ti)として微細に析出し、溶接金属の強度を増大させる作用を有する。さらに、Tiが微細な炭窒化物として粒内に析出することによっても、溶接金属を少なからず強化することができる。上記のTiの効果を得るためには、2.0%以上のTi含有量が必要である。しかしながら、Tiの含有量が過剰になって6.0%を超えると、上記の強化効果は飽和するし、Ni3TiあるいはNi3(Al、Ti)が粗大化して、溶接金属延性の低下を招く。そのため、Tiの含有量は2.0〜6.0%とする。なお、Ti含有量の望ましい下限は2.5%であり、望ましい上限は5.5%である。
Alは、Ti等とともに本発明の根幹に係る元素の一つである。すなわち、Alを含有させることにより、最終安定相であるNi3Tiに至る遷移相としてのNi3(Al、Ti)を生成し、結果として短時間の溶接後熱処理で溶接金属の強度向上を可能にする。この効果を得るためには、0.05%以上のAl含有量が必要である。しかしながら、Alの含有量が過剰になって0.65%を超えると、溶接中に酸化スラグとして浮上してしまうため、その効果は飽和するばかりか、溶接ビードの美観や溶接作業性を損なうことになる。そのため、Alの含有量は0.05〜0.65%とする。なお、Al含有量の望ましい下限は0.10%であり、望ましい上限は0.60%である。
Vは、微細な炭窒化物として粒内に析出することによって溶接金属を強化する作用を有する元素である。この効果を得るためには、0.1%以上のV含有量が必要である。しかしながら、Vの含有量が過剰になって0.6%を超えると前記の効果が飽和してコストが嵩むばかりであるし、炭窒化物の粗大化が生じて却って強化効果が損なわれることもある。したがって、Vの含有量は0.1〜0.6%とする。なお、V含有量の望ましい下限は0.15%であり、望ましい上限は0.55%である。
Nは、マトリックスに固溶するとともに微細な窒化物を形成して溶接金属の強度を高める作用を有する元素である。しかしながら、Nの含有量が過剰になって0.15%を超えると、TiNやAlNとして析出し、高強度化に必要なNi3(Al、Ti)やNi3Tiの析出を抑制してしまう。そのため、Nの含有量を0.15%以下とする。なお、Nの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端な低減は製鋼コストの著しい増大を招く。そのため、N含有量の望ましい下限は0.001%である。少なくともNを0.001%含んでおれば、強度向上効果を得ることができる。
Nbは、Ni3Nbとして微細に析出し、溶接金属の強度を増大させる作用を有する。さらに、Nbが微細な炭窒化物として粒内に析出することによっても、溶接金属を少なからず強化することができる。したがって、強度増大のためにNbを含有してもよい。しかしながら、5%を超える量のNbを含有させても上記の効果が飽和してコストが嵩むばかりである。したがって、Nbを含有させる場合の含有量を5%以下とした。なお、Nbの含有量は4%以下とすることが好ましい。
Oは、不純物として存在し、多量に含まれると、溶接材料の加工性や溶接金属の延性を劣化させる。そのため、Oの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、0.02%以下であれば、本発明の溶接金属や溶接材料の特性に顕著な劣化は認められない。したがって、Oの含有量を0.02%以下とする。
Pは、不純物として含まれ、溶接金属の凝固時に最終凝固部の融点を低下させ、凝固割れ感受性を著しく増大させてしまう。さらに、結晶粒界に偏析して延性低下割れ感受性をも高めてしまう。そのため、Pの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、P含有量の極度の低減は製鋼コストの増大を招くし、0.01%以下であれば、本発明の溶接金属や溶接材料の特性に顕著な劣化は認められない。したがって、Pの含有量を0.01%以下とする。
Sは、Pと同様に不純物として含まれ、溶接金属の凝固時に最終凝固部の融点を低下させ、凝固割れ感受性を著しく増大させてしまう。さらに、結晶粒界に偏析して延性低下割れ感受性をも高めてしまう。そのため、Sの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、Pの場合と同様に、S含有量の極度の低減は製鋼コストの増大を招くし、0.01%以下であれば、本発明の溶接金属や溶接材料の特性に顕著な劣化は認められない。したがって、Sの含有量を0.01%以下とする。
Claims (5)
- 質量%で、C:0.16〜0.35%、Si:0.5%以下、Mn:2.0%以下、Ni:18〜38%、Cr:9〜22%、Ti:2.0〜6.0%、Al:0.05〜0.65%、V:0.1〜0.6%およびN:0.15%以下を含み、残部がFeおよび不純物からなり、かつ、不純物中のO、PおよびSがそれぞれ、O:0.02%以下、P:0.01%以下およびS:0.01%以下であることを特徴とする溶接金属。
- 残部としてのFeの一部に代えて、質量%で、Nb:5%以下を含むことを特徴とする請求項1に記載の溶接金属。
- ビッカース硬さが320以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の溶接金属。
- 質量%で、C:0.16〜0.35%、Si:0.5%以下、Mn:2.0%以下、Ni:18〜38%、Cr:9〜22%、Ti:2.0〜6.0%、Al:0.05〜0.65%、V:0.1〜0.6%およびN:0.15%以下を含み、残部がFeおよび不純物からなり、かつ、不純物中のO、PおよびSがそれぞれ、O:0.02%以下、P:0.01%以下およびS:0.01%以下であることを特徴とする溶接材料。
- 残部としてのFeの一部に代えて、質量%で、Nb:5%以下を含むことを特徴とする請求項4に記載の溶接材料。
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