JP5935678B2 - 高靭性高張力鋼およびその製造方法 - Google Patents

高靭性高張力鋼およびその製造方法 Download PDF

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本発明は、船舶や海洋構造物、圧力容器、ペンストックなど鋼製構造物に用いられる高張力鋼板およびその製造方法に関し、特に降伏強度が630MPa以上で、母材の強度、靱性に優れるだけでなく、多層溶接時の溶接熱影響部の靱性に優れる高靭性高張力鋼板およびその製造方法に関わる。
船舶や海洋構造物、圧力容器に用いられる鋼材は、溶接により所望の形状の構造物に仕上げられる。これらの鋼では、構造物の安全性を確保するために、母材靭性だけでなく、溶接熱影響部の靭性にも優れることが要求される。
上記鋼について、板厚が厚い鋼板の溶接は多層溶接により施工されるが、溶接熱影響部では、複雑な熱履歴を受けるために局所脆化域が発生しやすく、特に、ボンド部およびフェライトとオーステナイトの2相域加熱部において靭性の著しい低下が問題となる。このような領域では、島状マルテンサイトの生成を伴う上部ベイナイト組織を形成し、靭性が低下するためである。
上記問題への対策として、特許文献1にはTi等の酸化物を鋼中に微細分散させボンド部のオーステナイト粒の粗大化を防止することでフェライト粒を微細化し、溶接熱影響部の靭性を向上させる技術が開示されている。しかし、この技術は、フェライトを母相とする比較的低強度の鋼材を対象にしており、より高強度材の溶接熱影響部はフェライトを含まない組織となるために、フェライトの微細化による溶接熱影響部の靭性の向上効果は得られにくい。
また、2相域加熱部、つまり最初の溶接時に溶融点近傍まで加熱された領域が、後続の溶接による再加熱によりフェライトとオーステナイトの2相域になる領域が最も脆化する。これは、後続の再加熱により変態したオーステナイト領域に炭素が濃化し、この部分が冷却時に島状マルテンサイト生成を伴う上部ベイナイト組織を形成し、靭性を著しく劣化させるためである。2相域加熱部などに代表される溶接熱影響部の対策として、特許文献2には、低C化および低Si化することで島状マルテンサイトの生成を抑制し、さらにCuを添加することで母材強度を確保する技術が開示されている。
また、特許文献3では、低C化して溶接熱影響部靭性を向上しCuにより強度を高める技術が開示されている。この先行技術は時効処理によるCuの析出を利用して強度を高めるものであるが、多量のCuを添加するために熱間延性が低下し、生産性を著しく阻害する。特許文献4には実施例で板厚45mm以下の鋼板についてPcm≦0.23の条件を満たし、降伏強度が690MPa以上の鋼板について記載されているが、本発明の様にCを低減し厚肉化を行うためには、Pcm≦0.23と成分が低く強度の確保が難しい。特許文献5に開示されている技術は熱間圧延前に長時間の熱処理を行う必要があり、製造性が低下する。
さらに、従来技術では次に挙げる、いくつかの解決すべき問題点が残されている。例えば、Ti酸化物を利用する技術では、鋼中への酸化物の均一な微細分散が難しいという問題点がある。さらに、構造物の大型化に伴い、使用される鋼材の更なる高強度化、厚肉化が求められている。高強度化、厚肉化のためには特許文献2および3の技術とは異なり、合金元素の多量添加が有効である。しかし合金元素の添加は、溶接熱影響部の靭性を低下させる問題がある。特許文献4の技術では、厚板分野では比較的板厚の薄いものを使用する鋼管に適用可能な技術であり、溶接時に生成した島状マルテンサイトを微細化するために最高1000℃までの再加熱が必要となるなど、厚肉かつ生産性の高い鋼材が必要とされる海洋構造物などの用途には適用できない。
特開2001−323336号公報 特開平5−186823号公報 特開2001−335884号公報 特許2777538号公報 特開2005−213534号公報
そこで、本発明の目的は、従来未解決の上記の問題点を解決し、合金元素の添加量を増やさざるを得ない厚肉の高強度鋼板においても、母材の強度、靱性に優れるとともに、溶接熱影響部の靭性にも優れる、板厚が75mm以上の厚肉の高張力鋼板とその有利な製造方法を提供することにある。
発明者らは、合金元素を添加して強度を確保した厚肉高張力鋼板(母材)の靱性を向上するとともに、該厚肉高張力鋼板を多層溶接したときに形成される溶接熱影響部(HAZ)の靭性を改善する方法について、種々の比較検討を行った。
その結果、
1)降伏強度が630MPa以上の母材の靱性には鋼中の酸化物量の影響が大きい
こと
2)多層溶接時の溶接熱影響部の靱性劣化は、2相域加熱部に形成される脆化組織
の生成に起因すること
を見いだした。
上記1)の鋼中の酸化物量を低減するためには、鋼中酸素量を低減することが有効であり、鋼中酸素量を0.0030質量%以下にすると母材の靱性が大幅に向上することが明らかになった。
また、上記2)の多層溶接時の溶接熱影響部における脆化組織の靱性を改善する方法について鋭意検討した結果、従来技術のように単にCを低減しただけでは不十分であり、さらに、2相域加熱部に生成する個々の島状マルテンサイトの大きさ(面積)を小さくしてやる必要があること、そして、その達成手段としては、Mn、Ni、Cr、Mo、Vを適正量添加し、Cを低減してやることが有効であることを見いだした。
本発明者らは、上記の知見に基づき本発明を完成させた。
すなわち、本発明の要旨は以下の[1]〜[5]のとおりである。
[1]質量%で、C:0.005〜0.05%、Si:0.05〜0.3%、Mn:0.5〜5%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Cr:3%以下、Ni:5%以下、Ti:0.005〜0.02%、Al:0.02〜0.04%、N:0.007%以下、B:0.0003〜0.003%、O:0.0005〜0.0030%を下記の(1)式および(2)式で定義されるそれぞれについてCeqIIW≧0.65%、Pc≧5.5の関係を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学成分を有し、X開先(開先角度45°)で入熱50kJ/cmのサブマージアーク溶接による多層溶接時の溶接熱影響部に形成される個々の島状マルテンサイトの平均面積が3μm以下であって、母材強度がTS(引張強度)≧720MPa、YP(降伏強度)≧630MPaおよび母材靭性がvE −60 ≧120Jであることを特徴とする、母材の強度、靱性および多層溶接時の溶接熱影響部の靱性に優れる板厚が75mm以上の厚肉高張力鋼板。

CeqIIW=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15(%)・・・(1)
Pc=2Mn+3Ni+Cr+Mo+V−12.5×C(%)・・・(2)
〔式中の各元素記号はそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。〕
[2]前記化学成分が、さらに、質量%で、Cu:0.2%を超えかつ0.5%未満、Mo:1%以下、V:0.2%以下、Nb:0.1%以下の中から少なくとも1種または2種以上を含有することを特徴とする、[1]に記載の母材の強度、靱性および多層溶接時の溶接熱影響部の靱性に優れる板厚が75mm以上の厚肉高張力鋼板。
[3]前記化学成分が、さらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.003%、REM:0.0003〜0.003%の中から少なくとも1種または2種を含有することを特徴とする、[1]または[2]に記載の母材の強度、靱性および多層溶接時の溶接熱影響部の靱性に優れる板厚が75mm以上の厚肉高張力鋼板。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載の鋼板の製造方法であって、スラブを、Ac点〜1200℃に加熱し、累積圧下率が50%以上となるように熱間圧延を行い、次いでAr点以上の温度から、板厚中心部が350℃以下になるまで直接急冷し、その後、450℃〜650℃の温度で焼戻すことを特徴とする、母材の強度、靱性および多層溶接時の溶接熱影響部の靱性に優れる板厚が75mm以上の厚肉高張力鋼板の製造方法。
[5][1]〜[3]のいずれかに記載の鋼板の製造方法であって、スラブを、Ac点〜1200℃に加熱し、累積圧下率が50%以上となるように熱間圧延を行った後放冷し、次いで再度Ac点〜1050℃に加熱後、次いでAr点以上の温度から、板厚中心部が350℃以下になるまで急冷し、その後450℃〜650℃で焼戻すことを特徴とする、母材の強度、靱性および多層溶接時の溶接熱影響部の靱性に優れる板厚が75mm以上の厚肉高張力鋼板の製造方法。
本発明を用いることで、母材の引張強度が720MPa以上でかつ降伏強度が630MPa以上の高強度を有するとともに、母材の靭性にも優れ、さらに、多層溶接時の溶接熱影響部の靭性にも優れる、板厚が75mm以上の厚肉の高張力鋼板とその有利な製造方法とを提供することができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
はじめに、本発明の鋼の化学成分の限定理由を説明する。なお、化学成分における各元素の含有量は全て、質量%である。
・C:0.005〜0.05%
Cは、構造用鋼に求められる強度を得るために必要不可欠な元素であるが、多量に添加すると、溶接熱影響部に生成する島状マルテンサイトの生成量が多くなり、さらに島状マルテンサイト中のC濃度を上昇させ、島状マルテンサイトの硬度を上昇させて靭性を低下させるので上限を0.05%とした。また、0.005%より添加量が少ないと、十分な強度が得られず、合金元素の大量添加が必要になり製造コストが高くなるので、下限を0.005%とする。好ましくは0.01%〜0.05%である。
・Si:0.05〜0.3%
Siは脱酸剤として作用し、本発明では適度な脱酸を行うために0.05%以上添加する必要があるが、0.3%を超えて含有すると、母材靭性が著しく低下するとともに、溶接熱影響部において島状マルテンサイトの生成を助長し、溶接熱影響部靭性が顕著に低下する。このため、Siの範囲を0.05%〜0.3%とした。
・Mn:0.5〜5%
Mnは母材強度を確保する観点から0.5%以上添加する必要がある。一方5%より多く添加すると、過剰に焼入性を高め、溶接熱影響部の靭性を著しく低下させることから、5%以下とする必要がある。
・P:0.015%以下
Pは、0.015%を超えて含有すると、母材および溶接熱影響部の靭性を著しく低下させるため0.015%以下に制限する。
・S:0.005%以下
Sは、0.005%を超えて含有すると、母材および溶接熱影響部の靭性を顕著に低下させるため、0.005%以下とする。
・Cr:3%以下
Crは、母材の高強度化に有効な元素であるが、多量に添加すると靭性を低下させるので、3%以下とする。好ましくは、0.1%〜2.7%である。
・Ni:5%以下
Niは、鋼の強度および溶接熱影響部の靭性を向上させる有益な元素である。しかし、他の合金元素に比べ高価であるため上限を5%とする。好ましくは0.8〜5%である。
・Ti:0.005〜0.02%
Tiは鋼中でTi窒化物を形成して固溶窒素量を低下させることでBNの析出を抑制し、鋼中にBを十分に固溶させて焼入性を確保することができる。さらに、Ti窒化物はオーステナイト温度域でも安定な析出物であり、溶接熱影響部のオーステナイトの粗大化を効果的に抑制することができるので、Tiを0.005%以上添加する必要がある。一方、0.02%より多く含有すると、Ti窒化物が粗大化し母材および溶接熱影響部の靭性を低下させるので0.02%以下に制限する必要がある。
・Al:0.02%〜0.04%
Alは溶鋼を十分に脱酸するために、0.02%以上含有する必要がある。一方、0.04%より多く含有すると、母材中に固溶するAl量が多くなり、母材靭性を低下させるので0.04%以下に制限する必要がある。
・N:0.007%以下
Nは、母材中に固溶すると著しく母材靭性を低下させ、さらに溶接熱影響部においても粗大な炭窒化物を形成し靭性を低下させるので、0.007%以下に制限する必要がある。
・B:0.0003〜0.003%
Bは、オーステナイト粒界に偏析することで粒界からのフェライト変態を抑制し、ベイナイト分率を増加させることで高強度化する効果があり、0.0003%以上添加する必要がある。しかし、0.003%を超えて添加すると、炭窒化物として析出し焼入性を低下させ、靭性が低下するので上限を0.003%とする。好ましくは0.0005〜0.0020%である。
・O:0.0005〜0.0030%
O(酸素)は、鋼中に酸化物の形態で存在する場合、オーステナイトの粒成長を抑制することで母材靱性を改善する場合があるが、降伏強度が630MPa以上の高張力鋼板では、強度が高いことで酸化物を起点とする破壊が起こりやすく、その上限を0.0030%とする必要がある。一方、酸素量を0.0005%未満とすることは操業上の負荷が大きいことから下限を0.0005%とする。
本発明の高張力鋼は、上記必須元素に加えて、さらに強度、靱性を高める目的でCu、Mo、V、Nbの中から少なくとも1種類または2種類以上を含有することができる。
・Cu:0.2%を超え0.5%未満
Cuは靱性を損なうことなく鋼の強度の向上が図れるが、0.5%以上添加すると熱間圧延時に鋼板表面に割れを生じるので0.5%未満とする。また、添加量が0.2%以下の場合、十分な強度上昇が得られないので、添加する場合には、0.2%を超える添加が必要である。
・Mo:1%以下
Moは、母材の高強度化に有効な元素であるが、多量に添加すると合金炭化物の析出による硬度の上昇を引き起こし、靭性を低下させるので1%以下とする。
・V:0.2%以下
Vは母材の強度、靱性の向上に効果があり、また、VNとして析出することで固溶Nの低下に有効であるが、0.2%より多く添加すると硬質なVCの析出により靭性が低下するので0.2%以下にする。好ましくは、0.1%以下である。
・Nb:0.1%以下
Nbは鋼の強化に有効な元素であるが、0.1%を超える添加は多層溶接時の溶接熱影響部の靭性を著しく低下させるので、0.1%以下とする。
本発明の高張力鋼は、上記化学成分に加えて、さらに材質を改善する目的でCa,REMの中から少なくとも1種類または2種類を含有することができる。
・Ca:0.0005〜0.003%
Caを0.0005%以上添加すると、有害なOおよびNを酸化物および硫化物として固定し鋼の材質を改善する。しかし、0.003%を超えて添加しても、その効果が飽和するため0.003%以下とする。
・REM:0.0003〜0.003%
REMとはCe、Laをはじめとする希土類金属を指す。REMも0.0003%以上添加すると、Caと同様に、鋼中で酸化物および硫化物を形成して材質の改善効果があるが、0.003%より多く添加してもその効果が飽和するため、0.0003〜0.003%に限定する。
・CeqIIW≧0.65%
本発明では、多層溶接時の溶接熱影響部(HAZ)の靭性を向上させる目的で母材中のC量を低減しているが、一方で強度を確保するために合金元素の添加が必要であり、下記の式(1)式で定義するCeqIIWがCeqIIW≧0.65%の関係を満たすように成分を添加すれば、母材の引張強度が720MPa以上で、かつ降伏強度が630MPa以上にすることができ、母材の強度を十分に確保することができる。
CeqIIW=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15(%)・・・(1)
なお、式中の各元素記号はそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
・Pc≧5.5
多層溶接時の溶接熱影響部のボンド部近傍における靱性劣化は、多層溶接時に2相域加熱部に形成される島状マルテンサイトを含む脆化組織の生成に起因している。この脆化組織の靱性を改善するには、従来技術のように単にCを低減しただけでは不十分であり、さらに、形成される個々の島状マルテンサイトの大きさ(面積)を小さくして、島状マルテンサイトの硬さを低減してマトリクスとの硬度差を小さくしてやる必要があること、そして、その達成手段としては、Mn、Ni、Cr、Mo、Vを適正量添加し、Cを低減してやることが有効であり、下記(2)式で定義されるPcがPc≧5.5の関係を満たすことが必要である。
Pc=2Mn+3Ni+Cr+Mo+V−12.5×C(%)・・・(2)
なお、式中の各元素記号はそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
ここで、上記Pc≧5.5の関係の意味するところは、以下のとおりである。
MnおよびNiは、オーステナイト安定化元素であるため、これらの元素の含有量を高めることによって、オーステナイト中に固溶するCの濃度上昇を抑制し、さらに炭化物生成元素であるCr、Mo、Vを添加することにより析出した炭化物が溶解してオーステナイト中に濃化することを抑制することによって、溶接熱影響部に生成する島状マルテンサイトの1つ1つの大きさを微細化することができる。
そして、Pc≧5.5の関係を満たすように、Mn、Ni、Cr、Mo、Vを適正量添加し、Cを低減することにより、個々の島状マルテンサイトの平均面積を3μm以下とすることができ、同時に島状マルテンサイトの硬さが低下し、マトリクス組織との硬度差を小さくすることができる。その結果、島状マルテンサイトが破壊の起点になり難くなり、溶接部の靱性を顕著に向上することができる。
本発明において、溶接熱影響部に形成される個々の島状マルテンサイトの平均面積とは、溶接熱影響部の断面において観察される個々の島状マルテンサイトの面積の平均値のことである。
具体的には、例えば、溶接熱影響部の断面を2段エッチングして島状マルテンサイトを現出させた後、2相域に加熱されるボンド部近傍を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率3000倍で10視野撮影し、画像解析することにより、個々の島状マルテンサイトの平均面積を測定することができる。
次に、本発明の製造工程について説明する。
・スラブの加熱温度:Ac点〜1200℃
上記化学成分の溶鋼を連続鋳造法および造塊法等の通常の鋳造方法でスラブを製造して圧延素材とする。
スラブの加熱温度は、添加元素を充分に固溶させるためおよび圧延負荷を小さくするため、Ac点以上とすることが必要である。しかし加熱温度が1200℃を超えると、オーステナイト粒が粗大化して、充分な靱性が得られない。このため、スラブの加熱温度はAc点〜1200℃の範囲内とする。
なお、Ac点は、下記の(3)式より計算される。
Ac=937.2−476.5C+56Si−19.7Mn−16.3Cu−
26.6Ni−4.9Cr+38.1Mo+124.8V+136.3Ti−
19.1Nb+198.4Al+3315B(℃) ・・・(3)
なお、(3)式での各元素記号はそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。
・熱間圧延の累積圧下率:50%以上
上記の温度範囲に加熱されたスラブは、板厚中心部まで十分な加工を加え組織を微細化し、強度と靱性を向上させるため、累積圧下率が50%以上となるように熱間圧延することが必要である。
・熱間圧延後の熱処理(焼入れ):板厚中心部が350℃以下になるまで急冷
熱間圧延後の熱処理として急冷を行うが、本発明では、以下の1)、2)のいずれかの冷却を行う。
1)熱間圧延後、Ar点以上の焼入温度から直接、板厚中心部が350℃以下になる
まで急冷を行う(この処理を「DQ−T」という)。
2)熱間圧延後放冷し、Ac点〜1050℃の間に再加熱し、Ar点以上の焼入温度
から板厚中心部が350℃以下になるまで急冷を行う(この処理を「RQ−T」と
いう)。
ここで、板厚中心部が350℃以下になるまで急冷としているのは、鋼全体を焼入れするためである。
また、2)において再加熱温度を1050℃以下としているのは、1050℃を超える高温の再加熱ではオーステナイト粒の粗大化による、母材強度および靭性の低下が著しいためである。
なお、Ar点は、以下の(4)式から計算される。
Ar=910−273C−74Mn−56Ni−16Cr−9Mo−5Cu(℃)
・・・(4)
〔(4)式における各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を示す。〕
板厚中心部の温度は、板厚、表面温度および冷却条件等から、シミュレーション計算等により求められる。例えば、差分法を用い、板厚方向の温度分布を計算することにより、板厚中心温度が求められる。
急冷の方法は、工業的には水冷とすることが一般的であるが、冷却速度は可能な限り早い方が望ましいため、冷却方法は水冷以外でも良く、例えばガス冷却などの方法もある。
・焼戻し処理温度:450℃〜650℃
急冷後、上記の熱処理の1)、2)のいずれの場合でも450℃〜650℃で焼戻しを行う。
急冷後、450℃〜650℃で焼戻すのは、450℃未満では残留応力の除去効果が少なく、一方、650℃を超える温度では、種々の炭窒化物が析出するとともに、母材の組織が粗大化し、強度、靱性が大幅に低下するためである。
なお、工業的には、鋼の強靭化を目的に、繰返し焼入れする場合があるが、本発明においても繰返し焼入れしても良いが、最終の焼入れの際に、Ac点〜1050℃に加熱後、板厚中心部が350℃以下になるまで急冷し、その後450℃〜650℃で焼戻すことが必要である。
以上説明したように、本発明の高張力鋼板の製造では、焼入れ焼戻しを行うことが重要であり、この熱処理によって、強度および靱性に優れる鋼を製造することができる。
表1に示す種々の化学成分(鋼番1〜22)に調整したスラブを素材とし、該スラブを1050〜1200℃に加熱して累積圧下率が50〜70%の熱間圧延を行い、そして、表2に示す製造条件で板厚75〜155mmの厚鋼板(試料No.1〜27)を製造した。
ここで、表1における鋼番No.1〜14は本発明の化学成分の条件を満たしている本発明鋼であるのに対して、鋼番No.15〜22は本発明の化学成分の条件を外れる比較鋼である。
この様にして得られた鋼板に、引張試験およびシャルピー試験を実施した。
引張試験は、各鋼板の板厚の1/4の位置から圧延方向にJIS4号引張試験片を採取し、引張強度(TS)および降伏強度(YP)を測定した。
シャルピー試験は、各鋼板の板厚の1/4の位置から、圧延方向にVノッチ試験片を採取し−60℃における吸収エネルギー(vE−60)を3回の平均値として求めて、母材の靱性を評価した。
また、各鋼板から採取した鋼板にX開先(開先角度45°)加工を施し、入熱50kJ/cmのサブマージアーク溶接を行って多層溶接継手を作製し、板厚の1/4の位置から圧延方向にVノッチ試験片を、ボンド部をノッチ位置として採取し、−60℃における吸収エネルギー(vE−60)を3回の平均値として求めて、溶接熱影響部(HAZ)の靱性を評価した。
溶接熱影響部に形成される個々の島状マルテンサイトの平均面積は、溶接熱影響部の断面を2段エッチングして島状マルテンサイトを現出させた後、2相域に加熱されるボンド部近傍を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率3000倍で10視野撮影し、画像解析することにより、個々の島状マルテンサイトの面積を測定し、その平均値を求めた。
Figure 0005935678

Figure 0005935678
上記の製造条件および試験結果を表2に示す。
この結果から、本発明例(試料No.1〜15)の鋼材は、いずれも母材強度がTS(引張強度)≧720MPa、YP(降伏強度)≧630MPaおよび母材靭性がvE−60≧120Jであり、母材の強度と靭性がともに優れていることがわかる。さらに、溶接熱影響部(HAZ)では、vE−60≧70Jであり、溶接熱影響部においても良好な靱性を有していることがわかる。
これに対して、本発明の化学成分範囲を外れる試料No.16〜23の比較例(鋼番15〜22)は、母材の引張強度がTS<720MPaまたは降伏強度がYP<630MPaであるか、もしくは母材の靭性がvE−60<120J、もしくは溶接熱影響部(HAZ)においてvE−60<70Jとなっており、母材の強度、靱性および溶接熱影響部における靭性のいずれか一つ以上の特性が劣っていることが認められる。
また、表2の試料No.24〜27の比較例は、鋼番がそれぞれ8、10、13、13であり、化学成分が本発明の範囲内であるものの、製造条件が本発明の範囲外であり、母材特性が低化し、母材の強度、靱性のいずれか一つ以上の特性が劣っていることが認められる。

Claims (5)

  1. 質量%で、C:0.005〜0.05%、Si:0.05〜0.3%、Mn:0.5〜5%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Cr:3%以下、Ni:5%以下、Ti:0.005〜0.02%、Al:0.02〜0.04%、N:0.007%以下、B:0.0003〜0.003%、O:0.0005〜0.0030%を下記の(1)式および(2)式で定義されるそれぞれについてCeqIIW≧0.65%、Pc≧5.5の関係を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学成分を有し、X開先(開先角度45°)で入熱50kJ/cmのサブマージアーク溶接による多層溶接時の溶接熱影響部に形成される個々の島状マルテンサイトの平均面積が3μm以下であって、母材強度がTS(引張強度)≧720MPa、YP(降伏強度)≧630MPaおよび母材靭性がvE −60 ≧120Jであることを特徴とする、母材の強度、靱性および多層溶接時の溶接熱影響部の靱性に優れる板厚が75mm以上の厚肉高張力鋼板。

    CeqIIW=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15(%)・・・(1)
    Pc=2Mn+3Ni+Cr+Mo+V−12.5×C(%)・・・(2)
    〔式中の各元素記号はそれぞれの元素の含有量(質量%)を示す。〕
  2. 前記化学成分が、さらに、質量%で、Cu:0.2%を超えかつ0.5%未満、Mo:1%以下、V:0.2%以下、Nb:0.1%以下の中から少なくとも1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の母材の強度、靱性および多層溶接時の溶接熱影響部の靱性に優れる板厚が75mm以上の厚肉高張力鋼板。
  3. 前記化学成分が、さらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.003%、REM:0.0003〜0.003%の中から少なくとも1種または2種を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の母材の強度、靱性および多層溶接時の溶接熱影響部の靱性に優れる板厚が75mm以上の厚肉高張力鋼板。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋼板の製造方法であって、スラブを、Ac点〜1200℃に加熱し、累積圧下率が50%以上となるように熱間圧延を行い、次いでAr点以上の温度から、板厚中心部が350℃以下になるまで直接急冷し、その後、450℃〜650℃の温度で焼戻すことを特徴とする、母材の強度、靱性および多層溶接時の溶接熱影響部の靱性に優れる板厚が75mm以上の厚肉高張力鋼板の製造方法。
  5. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋼板の製造方法であって、スラブを、Ac点〜1200℃に加熱し、累積圧下率が50%以上となるように熱間圧延を行った後放冷し、次いで再度Ac点〜1050℃に加熱後、次いでAr点以上の温度から、板厚中心部が350℃以下になるまで急冷し、その後450℃〜650℃で焼戻すことを特徴とする、母材の強度、靱性および多層溶接時の溶接熱影響部の靱性に優れる板厚が75mm以上の厚肉高張力鋼板の製造方法。
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