JP4220871B2 - 高張力鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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本発明は、低音響異方性、溶接性[溶接熱影響部(HAZ)の靭性]および耐力(例えば、0.2%伸長時の耐力)に優れた590MPa以上780MPa未満の鋼板(以下、単に「590MPa級鋼板」という)およびその製造方法に関するものである。本発明の高張力鋼板は、特に建築構造物や橋梁などの大型構造物に好適に用いられる。
例えば、建築用や橋梁用の鋼板(厚鋼板)では、溶接部に欠陥が存在すると、この部分が破壊発生の起点となり易いため、超音波探傷試験によって欠陥部分の有無を調査し、欠陥部分が存在していた場合には、該部分を補修するといった作業が一般的に行われている。ところが、探傷方向によって著しく音速が変化する鋼板では、超音波探傷試験で溶接欠陥部の正確な位置を検出できないことから、上記分野などに適用される鋼板においては、所謂「音響異方性」が小さいことが要求されている。
また、こうした建築用や橋梁用などに用いられる鋼板では、母材強度、靭性、溶接性などの各種特性が要求されるに加えて、製造コストの低減化の面から、焼入れ焼戻しを行わずに製品とする所謂非調質であっても、こうした特性が十分に確保できることが求められている。
例えば、特許文献1には、極低炭素ベイナイト鋼において、αB(Granular bainitic α)組織の中に、より拡散的なαq(Quasi−Polygonal α)を微細分散させることで、母材強度(引張り強さ)、板厚方向の靭性、および低音響異方性を確保した極厚鋼板が開示されている。
また、特許文献2や特許文献3には、マルテンサイトまたはベイナイトの一方あるいは双方の組織を有し、旧オーステナイト(γ)粒のアスペクト比が1.5以下、旧γ粒の短径の平均値が60〜700μmであり、且つTi、N、Sの含有量および旧γ粒の短径の平均値が、特定の関係を有する鋼材が提案されている。
これら特許文献1〜3では、低音響異方性はある程度達成されているものの、例えば溶接性や母材靭性の面で、不十分な場合があった。
他方、特許文献4では、化学組成を特定のものとすることで、溶接性(大入熱HAZ靭性および耐溶接割れ性)に優れた高張力鋼板が開示されている。この特許文献4に開示の高張力鋼板は、非常に優れた特性を有しているものの、音響異方性については一切考慮されておらず、必ずしも低音響異方性が達成されている訳ではないため、かかる点に未だ改善の余地を残していた。
特開平11−193445号公報 特開2000−178645号公報 特開2001−3137号公報 特開2002−47532号公報
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、非調質であっても、低音響異方性、母材靭性、溶接性(特に大入熱HAZ靭性)といった各種特性に優れた590MPa級鋼板と、その製造方法を提供することにある。
上記目的を達成し得た本発明の高張力鋼板は、C:0.010〜0.06%(質量%の意味、以下同じ),Mn:1.25〜2.5%,Cr:0.1〜2.0%,Mo:0.005〜1.5%,V:0.04%以下(0%を含む),Nb:0.001〜0.04%,Ti:0.005〜0.03%,B:0.0006〜0.005%,N:0.0020〜0.010%を満たす鋼からなり、2.4≦KP≦4.5、KV≦0.040を夫々満足すると共に、鋼組織の90体積%以上がベイナイトであり、旧γ粒(旧オーステナイト粒)は、平均アスペクト比が1.8以下であり、且つ平均円相当径が100μm以下であり、引張強さが590MPa以上780MPa未満であるところに要旨を有するものである。
ここで、上記KP値は下記式(1)で、また上記KV値は下記式(2)で表される。
KP=[Mn]+1.5×[Cr]+2×[Mo] (1)
KV=[V]+[Nb] (2)
《式中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を意味する。》
本発明において、上記鋼組織に占めるマルテンサイトとオーステナイトよりなる混合組織(MA組織)の平均体積分率が3%以下である高張力鋼板は、母材靭性が一層良好となるので好ましい。このとき、上記MA組織の平均円相当径は1μm以下であるものが好ましく、上記MA組織の平均アスペクト比は2.5以下であるものが好ましい。
本発明の高張力鋼板としては、前記Mo含量が0.05〜1.5%であり、且つ、前記Nb含量が0.005〜0.04%であるものが好ましい。
本発明において、さらにNi:5%以下および/またはCu:1.2%以下を含有する高張力鋼板、あるいは上記のMn含有量が1.25〜1.8%であるとき、さらにCu:1.2%を超え、2.0%以下を含有する高張力鋼板や、これらのMn量およびCu量を満たし、さらにNi:5%以下を含有する高張力鋼板は、溶接性がより高められるので好ましい。また、さらにCa:0.005%以下を含有する高張力鋼板や、さらにSi:1%以下,P:0.020%以下,S:0.010%以下,Al:0.2%以下に夫々抑えられている高張力鋼板は、溶接性が一層高められるので好ましい態様である。
このような本発明の高張力鋼板は、肉厚(板厚)が80mm以上のものでも良好な特性を有するものである。
上記の高張力鋼板は、Ac3点〜1300℃に加熱して熱間圧延を行う際に、全圧下量の50%以上を部分再結晶域で圧延することにより製造できる。ここで、上記部分再結晶域とは、該温度域においてγ粒径(オーステナイト粒径):100±10μmとした鋼板試験片を、歪速度:10sec-1、相当歪:0.2の条件で圧下し10sec後に組織を凍結したときに、20〜80体積%が再結晶粒となる温度域である。
また、上記熱間圧延後に、200℃まで冷却し、その後Ac1点以下の温度で焼戻しを行うことも推奨される。このときの冷却は、水冷で行うことが好ましい。
また、上記熱間圧延の後、Bs点以下の温度まで水冷することも好ましい態様である。
なお、本発明に係る上記高張力鋼板の化学組成は、典型的には上記元素の他は残部Feおよび不可避不純物からなるが、その他の化学成分についても、本発明の効果を阻害しない範囲内で含有されていてもよい。
本発明によれば、優れた母材特性および溶接性に加えて、鋼組織中の旧γ粒を特定の形態に制御することにより、優れた低音響異方性をも有する高張力鋼板を提供できる。これにより、超音波探傷試験による溶接欠陥の正確な調査が可能であり、例えば、建築構造物や橋梁などの大型構造物の分野において、信頼性の高い材料として適用し得る。
さらに、本発明の高張力鋼板は、部分再結晶という現象を利用する方法で製造可能であり、非調質鋼板としても、上述の優れた特性を確保し得る。
本発明者等は、前掲の従来技術では達成困難であった低音響異方性、母材強度・靭性、さらに大入熱HAZ靭性といった特性を、再加熱焼入れ、さらには調質処理なしでも確保し得る鋼板を開発すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の化学組成に加えて、旧γ粒の形態を適切に制御すれば、こうした目的が高度に達成されることを見出した。また、このような鋼板の組織制御は、熱間圧延条件を厳格に管理し、部分再結晶という現象を利用することによって、実施可能であることも見出し、本発明を完成させたのである。
なお、本発明でいう「旧γ粒」とは、上記の通り、旧オーステナイト粒を意味し、一般に組織がオーステナイトの状態から冷却されると、組織変態が生じてフェライトやマルテンサイトなどの別組織になるが、この変態前のオーステナイト粒を、変態後の鋼材(鋼板など)より見る立場から指す用語が「旧γ粒」である。以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の鋼板は、鋼組織の90体積%以上がベイナイトであり、旧γ粒について、平均アスペクト比が1.8以下であり、且つ平均円相当径が100μm以下である。
まず、鋼板の音響異方性の低減と、母材靭性向上の観点から、旧γ粒の形態に着目して検討を重ねた。音響異方性については、JIS Z 3060に規定される横波音速比CSL/CSC[振動方向をL方向(主圧延方向)とC方向(L方向に直交する方向)として得られた横波音速値CSL(m/sec)とCSC(m/sec)の比]の値を、例えば1.02以下といった低い値、すなわち、低音響異方性とすべく、旧γ粒の形態との関係を調査した。
図1は、C:0.03%、Si:0.1%、Mn:1.5%、Ni:0.4%、Cr:0.6%、Mo:0.3%、Nb:0.01%、Ti:0.014%、B:0.010%、を含み、KP値:3.0、KV値:0.01、板厚:80mm、旧γ粒:60μmである鋼板(焼戻しなし)において、旧γ粒の平均アスペクト比(横軸)と横波音速比CSL/CSC(縦軸)との関係を表したグラフである。このように、旧γ粒の平均アスペクト比(「長径/短径」の比)が1.8以下のときに、例えば横波音速比が1.02以下といった低音響異方性が達成されることを見出した。より好ましい旧γ粒の平均アスペクト比は1.5未満、さらに好ましくは1.3未満である。
また、母材靭性については、鋼板の板厚1/4部位からJIS4号試験片を採取して−5℃でシャルピー衝撃試験を行い、測定される吸収エネルギー(vE-5)と旧γ粒の形態との関係を調査した。
図2は、C:0.03%、Si:0.1%、Mn:1.5%、Ni:0.4%、Cr:0.6%、Mo:0.3%、Nb:0.01%、Ti:0.014%、B:0.010%、を含み、KP値:3.0、KV値:0.01、板厚:80mmである鋼板(焼戻しなし)において、旧γ粒の平均円相当径(横軸)と母材靭性(vE-5、縦軸)との関係を表したグラフである。このように、旧γ粒の平均円相当径が100μm以下のときには、例えば、vE-5が200J以上といった優れた母材靭性を確保できることが判明した。より好ましい旧γ粒の平均円相当径は60μm以下であり、さらに好ましくは40μm以下である。他方、旧γ粒の平均円相当径の下限は3μmであることが望ましい。旧γ粒の平均円相当径が3μm未満になると、焼入れ性が極端に低下し、ベイナイト組織を得るために多量の合金元素が必要となり、溶接性が低下傾向になると共にコストアップを招く原因になる。より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。
なお、旧γ粒の平均アスペクト比および平均円相当径は、以下のようにして測定される。板厚の1/4部位を鏡面研磨した試験片を、山本科学工具研究社製AGS液や、2%硝酸−エタノール液(2%ナイタール液)などを用いてエッチング処理する。エッチング条件は、上記AGS液の場合は室温で5〜10分、2%ナイタール液の場合は室温で5〜30秒とすることが推奨される。エッチング処理を施した後の試験片を、光学顕微鏡を用いて倍率:400倍で観察し、写真撮影をする。得られた顕微鏡写真(観察視野10視野)について、Media Cybernetics社製「Image−Pro Plus」などを用いて画像解析を行い、旧γ粒の長径、短径および円相当径を測定する。
平均アスペクト比については、観察視野中に認められる個々の旧γ粒のアスペクト比(長径/短径)を求め、このアスペクト比の平均値を求めることで得られる。また、旧γ粒の円相当径は、各旧γ粒の面積を画像解析により測定し、該面積から個々の旧γ粒の円相当径(観察した旧γ粒を、真円であると見なした場合の直径)を求める。旧γ粒の平均円相当径は、観察視野中に認められる全ての旧γ粒の円相当径を平均して求める。
さらに本発明の鋼板では、旧γ粒の形態制御に伴う母材強度(例えば、0.2%伸長時の耐力)低下を抑制するため、鋼組織の90体積%以上をベイナイトとする。すなわち、母材靭性確保の点で旧γ粒を微細化するため、結果として焼入れ性の低下による鋼板の強度低下が引き起こされるが、鋼組織をベイナイト主体とすることによってこれを回避するのである。
図3は、C:0.03%、Si:0.1%、Mn:1.5%、Ni:0.4%、Cr:0.6%、Mo:0.3%、Nb:0.01%、Ti:0.014%、B:0.010%、を含み、KP値:3.0、KV値:0.01、板厚:80mmである鋼板(焼戻しなし)において、組織中のベイナイト分率(横軸)と、0.2%伸長時の耐力(縦軸)との関係を表したグラフである。このように、鋼組織の90体積%以上をベイナイトとすることで、例えば430MPa以上といった優れた耐力を確保することができ、さらには、引張強度を590MPa以上790MPa未満とすることができる。なお、上記0.2%伸長時の耐力および引張強度は、鋼板の板厚1/4部位からJIS4号試験片を採取し、引張試験を行うことで得られる値である。より好ましい鋼組織中のベイナイト分率は95体積%以上であり、さらに好ましくは97体積%以上である。
なお、鋼組織中のベイナイト分率は、上述した旧γ粒の平均アスペクト比および平均円相当径を測定する際に得られる光学顕微鏡写真を、上記と同様の方法で画像解析し、フェライト、擬ポリゴナルフェライト、MA(Martensite Austenite Constituent)以外のラス状組織を全てベイナイトと見なして、ベイナイトの面積率を測定し、この値からベイナイト分率(体積%)を算出し、観察視野10視野の平均値として求める。
本発明の高張力鋼板において特に好ましいのは、上記鋼組織に占めるマルテンサイトとオーステナイトよりなる混合組織(以下「MA組織」と称する場合がある)の平均体積分率が、3%以下であるものである。後述する実施例から明らかな様に、本発明者らが種々研究を重ねた結果、MA組織の平均体積分率を3%以下に抑制することによって、母材の靭性が一段と向上することが明らかになったからである。母材の靭性を確保する観点からは、MA組織の割合は3%まで許容できるが、MA組織の割合はできるだけ少ない方が良く、より好ましくは2%以下に抑えることが推奨される。最も好ましいMA組織の割合は0%であるが、実操業でMA組織の生成量を0%にすることは非常に困難であり、少なからず生成する。
MA組織の生成を3%以下に抑制するには、後述する如く、熱間圧延後に水冷で急冷すればよく、冷却時の降温速度を高めて急冷することでMA組織の生成を抑えればよい。
この様に、MA組織の平均体積分率を3%以下に抑えると、母材の靭性が飛躍的に向上するので、MoやNbなどの添加量を低減することができる(詳細は後述する)。
MA組織以外の組織は、実質的にベイナイト組織であることが好ましい。「実質的に」とは、不可避的に生成する他の組織の混入を許容する意味であり、基本的にはMA組織とベイナイト組織からなることを表している。
鋼組織に占めるMA組織の平均体積分率は、鋼板の厚みをtとしたときに、鋼板表面からの深さがt/4の位置における組織を光学顕微鏡で観察することによって求める。鋼板の組織は、加熱条件や冷却条件に大きく影響を受けて変化するので、鋼板の表面部と中心部では生成する組織の割合に若干のバラツキを生じる。そのため、鋼板の表面部におけるMA組織の生成量と中心部におけるMA組織の生成量を比べると、MA組織の生成量は表面部の方が中心部よりも相対的に少なくなる。そこで、本発明において上記MA組織の平均体積分率は、鋼板表面からの深さがt/4の位置における組織を観察し、これを代表値として用いることとする。また、鋼板の特性を評価する際に用いる試験片(供試体)は、鋼板表面からの深さがt/4の位置から切り出すことが一般的であり、このことからも明らかな様に、鋼板表面からの深さがt/4の位置における組織組成を鋼板全体の組織組成とすることは妥当である。
本発明の高張力鋼板においては、上記MA組織の平均円相当径が1μm以下であるものが好ましい。MA組織が微細化することによって、母材の靭性が一層高くなるからである。MA組織の平均円相当径は0.7μm以下であることがより好ましい。
MA組織の平均円相当径を1μm以下に制御するには、後述する如く、熱間圧延の後に水冷すればよい。水冷により冷却時の降温速度を高めて急冷すると、ベイナイト変態途中における未変態オーステナイトへのCの濃縮が緩和され、MA組織の平均円相当径が相対的に小さくなるからである。
本発明の高張力鋼板においては、上記MA組織の平均アスペクト比が2.5以下であるものが好ましい。MA組織の形状は母材の靭性に影響を与え、MA組織が球状化することで、母材の靭性が向上するからである。MA組織のより好ましい平均アスペクト比は2.2以下である。
MA組織の平均アスペクト比を2.5以下に制御するには、旧γ粒径をできるだけ小さくすればよく、旧γ粒径を小さくすることによって、MA組織の結晶成長が阻害されてアスペクト比が小さくなる。旧γ粒径を制御する具体的な手段については後述する。
なお、MA組織の平均体積分率や平均円相当径、平均アスペクト比は、次の様に測定する。まず、鋼板表面からの深さがt/4となる部位を鏡面研磨した試験片を、腐食液を用いてエッチング処理し、処理後の試験片を、光学顕微鏡を用いて倍率:1000倍で観察して写真撮影する。MA組織を観察するためのエッチング処理には、エタノール(96質量%)とピクリン酸(4質量%)を混合して得られるA液と、蒸留水(99質量%)とメタ重亜硫酸ナトリウム(1質量%)を混合して得られるB液を、50質量部:60質量部(A液:B液)で混合して得られる腐食液を用いる。
次に、得られた顕微鏡写真(観察視野10視野)について、Media Cybernetics社製「Image−Pro Plus」などを用いて画像解析を行ってMA組織の平均面積率、平均円相当径および平均アスペクト比を夫々測定し、平均面積率を平均体積率とする。
MA組織の平均円相当径については、各MA組織の面積を画像解析により測定し、該面積から個々のMA組織の円相当径を求める。次に、観察視野中に認められる全てのMA組織の円相当径を平均して平均円相当径を求める。円相当径とは、観察したMA組織を真円と見なした場合の直径である。
MA組織の平均アスペクト比については、観察視野中に認められる個々のMA組織のアスペクト比(長径/短径)を求め、このアスペクト比の平均値を求めることで得られる。
上記の鋼組織は、後述する化学組成の鋼を用いて、後記の方法によって鋼板を製造することで確保できる。
さらに、本発明の鋼板では、優れた溶接性(特に大入熱HAZ靭性や耐溶接割れ性)を確保する観点からも、その化学組成を特定する。具体的には、Cを極低Cに制限した上で、焼入れ性向上元素であるMn、CrおよびMoを積極的に添加し、これら焼入れ向上元素の含有量によって定まるKP値を適切に制御すると共に、さらにBを添加し、大入熱HAZ靭性低下元素であるVおよびNbの添加をKV値として適切に制御する。これらの成分を適量添加すると、ベイナイトの連続冷却曲線(図4のCCT線図を参照)が短時間側且つ低温度側へ移動すると共に、フェライトのCCT線が長時間側へ移動する(実線から破線へ移動)。
そのため、従来は、高冷却速度ではマルテンサイト、低冷却速度ではフェライトまたは擬ポリゴナルフェライトを生成するために、硬さの冷却速度依存性が大きく、小入熱溶接時におけるHAZ部の硬さ低減(耐溶接割れ性の改善)と母材強度を両立できず、予熱フリーの達成が困難であったが、本発明によれば、高冷却速度、低冷却速度のいずれにおいても低温変態ベイナイトを生成し、硬さの冷却速度依存が低下し、溶接時のHAZ部の硬さ低減(耐溶接割れ性の改善)と母材強度確保を両立ならしめた。
一方、大入熱溶接の場合、HAZの冷却速度が遅くなるため、従来はフェライトまたは擬ポリゴナルフェライトが生成し、それに伴い粗大且つ塊状の島状マルテンサイト組織が生成してHAZ靭性の劣化を招いていたが、本発明では、冷却速度が遅くても低温変態ベイナイトが生成するため塊状ではなくフィルム状のマルテンサイト組織になると同時に、極低Cであるため生成するマルテンサイト組織が微細となり、HAZ靭性を確保できる。
加えて、上述の如く極低Cとすると共に焼入れ性向上元素の添加は、鋼組織をベイナイト主体とする点においても重要である。以下、本発明の鋼板の化学組成について説明する。
C:0.010〜0.06%
Cは、溶接時におけるHAZ部の耐溶接割れ性と母材強度を両立させ、且つ大入熱HAZ靭性を改善するために重要な元素である。Cが0.06%を超えると高冷却速度側で低温変態ベイナイトでなくマルテンサイトが生成するようになり、耐溶接割れ性および大入熱HAZ靭性が改善されない。好ましくは0.055%以下である。なお、0.010%未満では必要最小限の母材強度が得られない。好ましくは0.020%以上、さらに好ましくは0.030%以上である。
Mn:1.25〜2.5%,Cr:0.1〜2.0%,Mo:0.005〜1.5%
これらの元素は焼入れ性を改善する作用を有し、高冷却速度〜低冷却速度で低温変態ベイナイトを生成しやすくすると共に、上記の通り、極低Cとし、同時に所定のB量を添加することで小入熱溶接時におけるHAZ部の耐溶接割れ性と母材強度確保を両立させ、且つ大入熱HAZ靭性を高めるうえで重要な元素である。
Mn、CrおよびMoの含有量は、夫々1.25%以上、0.1%以上、0.005%以上であることが必要となる。これらの含有量に満たないと所望の焼入れ性改善作用が発揮されず、母材強度が不足する。好ましくはMn:1.3%以上、Cr:0.3%以上、Mo:0.05%以上である。Cr:0.5%超、Mo:0.1%以上であると一層好ましい。ただし、Mn,CrおよびMoの含有量が、夫々2.5%、2.0%、1.5%を超えると母材の靭性が低下する。好ましくはMn:2.2%以下、Cr:1.5%以下、Mo:1.3%以下である。
さらに、これらの元素の含有量によって定まる前記KP値は、2.4以上4.5以下であることが必要である。KP値が2.4未満では上記作用を有効に発揮させることができず、擬ポリゴナルフェライトやフェライトが生成し易くなり、590MPa以上の母材強度が得られなくなる。好ましくは2.7以上である。ただし、KP値が4.5を超えると大入熱HAZ靭性が低下する。好ましくは4.3以下である。
V:0.04%以下(0%を含む),Nb:0.001〜0.04%以下
Vは少量の添加で焼入れ性および焼戻し軟化抵抗を高める作用がある。ただし、0.04%を超えて添加すると大入熱HAZ靭性が低下する。好ましくはV:0.03%以下である。Nbも少量の添加で焼入れ性を高め、母材強度の向上に寄与する。よって、Nbの添加量は0.001%以上とする。好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.006%以上である。ただし、Nbの添加量が0.04%を超えると大入熱HAZ靭性が低下する。好ましくはNb:0.03%以下である。
さらにこれらの元素によって定まる前記KV値は、0.040以下であることが必要である。上記の通り、これらの元素はどちらも添加量が多すぎると大入熱HAZ靭性を低下させるからである。好ましくは0.035以下である。
B:0.0006〜0.005%
Bは焼入れ性改善元素であり、低冷却速度で低温変態ベイナイトを生成しやすくすると共に、上述の如く極低Cとし、同時に適量のMn,Cr,Moを添加することで小入熱溶接時におけるHAZ部の耐溶接割れ性と母材強度を高める作用を発揮する。しかし、B量が0.0006%未満では焼入れ性改善効果が不足し、満足のいく母材強度が得られない。好ましくは0.0007%以上、さらに好ましくは0.0010%以上である。ただし、B量が0.005%を超えるとかえって焼入れ性が低下し、母材強度が不足する。好ましくは0.003%以下である。
Ti:0.005〜0.03%
TiはNと窒化物を形成して大入熱溶接時におけるHAZ部のγ粒を微細化し、HAZ靭性改善に寄与する点で有用である。ただし、Tiが0.03%を超えると逆にHAZ靭性が低下する。好ましくは0.02%以下である。なお、0.005%未満では大入熱HAZ靭性改善の効果が十分でない。好ましくは0.007%以上である。
N:0.0020〜0.010%
Nは上記の通り、Tiと窒化物を形成して大入熱溶接時におけるHAZ靭性改善に寄与する点で有用である。ただし、NはBと結合して固溶Bを減少させ、Bの焼入れ性向上作用を阻害し、母材の靭性および大入熱HAZ靭性を低下させる作用も有しており、Nの含有量が0.010%を超えるとその作用が顕著になる。好ましくは0.008%以下である。なお、0.0020%未満ではTiとの窒化物形成による大入熱HAZ靭性改善の効果が十分でない。好ましくは0.0030%以上である。
さらに本発明では、溶接性の一層の向上を目指して、下記の元素を積極的に添加すること、あるいはその含有量を抑制することが推奨される。
Ni:5%以下
Niは母材靭性向上に有用な元素であるが、5%を超えて添加するとスケール疵が発生しやすくなるため、その上限を5%とすることが好ましい。より好ましくは4%以下である。
Cu:1.2%以下
Cuは固溶強化および析出強化により母材強度を向上させると共に、焼入れ性向上作用も有する元素である。ただし、1.2%を超えて添加すると大入熱HAZ靭性が低下するため、1.2%以下に抑えることが好ましい。より好ましくは1.0%以下である。
ただし、Mn量が1.25〜1.8%の範囲にある場合は、Cuによる大入熱HAZ靭性の低下を補うことができるので、1.2%超のCuを添加しても大入熱HAZ靭性を確保できる。しかし、この場合でもCu量が2.0%を超えると大入熱HAZ靭性が低下するため、その上限を2.0%とすることが好ましい。より好ましくは1.5%以下である。
Ca:0.005%以下
CaはMnSを球状化し、介在物の異方性を低減する効果を有する元素である。このような作用を発揮させるためには0.0005%以上添加することが好ましい。より好ましくは0.0010%以上である。ただし、0.005%を超えて過剰に添加すると母材靭性が低下するので0.005%以下に抑えることが好ましい。より好ましくは0.004%以下である。
Si:1%以下
Siは脱酸剤として有用な元素であるが、1%を超えると溶接性および母材靭性が低下するので1%以下に抑えることが好ましい。より好ましくは0.6%以下である。
P:0.020%以下,S:0.010%以下
PおよびSは、靭性等の物性に悪影響を及ぼす有害な不純物元素であり、P:0.020%以下、S:0.010%以下に夫々抑えられていることが好ましい。
Al:0.2%以下
Alは脱酸元素であると共に、Nを固定して固溶Bを増加させることでBに基づく焼入れ性向上作用を高める元素であるが、0.2%を超えると母材の靭性が低下するので、その上限を0.2%とすることが好ましい。より好ましくは0.1%以下である。
本発明の高張力鋼板の化学組成は上述した通りであるが、鋼組織の90体積%以上がベイナイトで、且つ、鋼組織に占めるMA組織の平均体積分率が3%を超える場合は、Mo含量とNb含量を夫々Mo:0.05〜1.5%、且つ、Nb:0.005〜0.04%とすることが好ましい。MoとNbを比較的多く添加することによってYRの極端な低下を防ぎ、0.2%耐力を確保するためである。
一方、鋼組織の90体積%以上がベイナイトで、且つ、鋼組織に占めるMA組織の平均体積分率が3%以下の場合は、Mo含量とNb含量を夫々Mo:0.005〜1.5%、且つ、Nb:0.001〜0.04%とすることが好ましい。MoとNbの添加量を減らしても、MA組織を低減することによって0.2%耐力を確保できるからである。
次に、本発明に係る鋼板の製法について説明する。本発明の製法においては、上記化学組成を満足する鋼を用いることに加えて、特に旧γ粒の形態を上述のように制御するに当たり、熱間圧延条件を厳格に管理する必要がある。具体的には、Ac3点〜1300℃に加熱して熱間圧延を行う際に、全圧下量の50%以上、好ましくは全圧下量の70%以上を、部分再結晶域で圧延する。こうした操作で部分再結晶という現象を利用することにより、鋼板中の旧γ粒を上述の形態(平均アスペクト比、および平均円相当径)に抑制することができる。
ここで、上記部分再結晶域とは、該温度域においてγ粒径:100±10μmとした鋼板試験片を、歪速度:10sec-1、相当歪:0.2の条件で圧下を加えて10sec後に組織を凍結(例えば水冷)したときに、20〜80体積%が再結晶粒となる温度域である。この部分再結晶域は、鋼板の化学組成に応じて変動するので、熱間圧延を実施する前に、各鋼板と同じ化学組成の鋼板試験片について上記操作を行い確認しておけばよい。
本発明の高張力鋼板を製造するには、上記部分再結晶域におけるトータルの圧下率が重要であり、熱間圧延後の冷却手段や冷却条件は特に限定されず、通常通り空冷すればよい。
ただし、鋼組織の90体積%以上をベイナイト組織とすると共に、該鋼組織に占めるMA組織の平均体積率を3%以下に抑制するためには、上記熱間圧延後、Bs点以下の温度まで水冷することが好ましい。熱間圧延後の鋼板を水冷によって急冷すると、MA組織の生成が抑制されて当該組織の平均円相当径も小さくなり、母材の靭性が向上するからである。
上記水冷条件は特に限定されないが、本発明で採用する上記水冷とは、降温速度が3℃/sec以上の冷却を指す。より好ましくは水冷時の降温速度を5℃/sec以上とするのがよく、さらに好ましくは10℃/sec以上とすることが望ましい。
また、上記熱間圧延後に200℃以下まで冷却し、その後、必要に応じてAc1点以下の温度で焼戻しを行ってもよい。例えば、より高い母材靭性が求められる場合には、上記焼戻しにより靭性阻害因子であるMA組織をフェライトとセメンタイトに分解できることから有効である。
なお、上記200℃まで冷却する際の冷却手段も特に限定されず、通常通り空冷すればよいが、空冷の代わりに水冷することによってMA組織の結晶成長を抑えても勿論構わない。
本発明の鋼板を製造する際の、その他の工程・条件は特に限定されず、通常用いられる高張力鋼板の製造工程、および条件(温度、時間など)を適宜採用すればよい。なお、本発明では、所謂調質処理を施さない非調質鋼板のままで、低音響異方性、母材強度・靭性、溶接性、といった各種特性を確保できる。よって、製造工程の省略が可能であり、生産コストを低減できる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。
表1および2に示す化学組成の鋼を通常の溶製法により溶製し、スラブとした後、表3および4に示す条件で熱間圧延を行い、所定板厚の評価用鋼板を製造した。一部の鋼板については、上記熱間圧延後、200℃まで冷却した後に、表3および4に示す温度で焼戻しを行った。
このようにして得られた評価用鋼板について、下記の各測定を行った。結果を表5および6に示す。
[旧γ粒の形態、およびベイナイト分率]
各鋼板の板厚1/4部位を鏡面研磨した試験片を、2%ナイタール液でエッチング後、該箇所について光学顕微鏡を用いて400倍で観察し、写真撮影をした。この観察視野10視野について、Media Cybernetics社製「Image−Pro Plus」を用いて画像解析を行い、鋼組織中の旧γ粒の形態(平均アスペクト比および平均円相当径)およびベイナイト分率を測定した。この際、フェライト、擬ポリゴナルフェライトおよびMA以外のラス状組織はベイナイトとみなした。
[引張強度(TS)、0.2%伸長時の耐力(0.2%耐力)、および降伏比(YR)]
各鋼板の板厚1/4部位からJIS4号試験片を採取し、引張試験を行うことによりTS、0.2%耐力、およびYRを測定した。このうち、TSおよび0.2%耐力については、590MPa≦TS<780MPa、0.2%耐力≧430MPaを合格とした。
[母材靭性]
各鋼板の板厚1/4部位からJIS4号試験片を採取し、−5℃でシャルピー衝撃試験をおこなうことにより吸収エネルギー(vE-5)を測定した。vE-5≧200Jを合格とした。
[音響異方性(横波音速比)]
JIS Z 3060の規定に準じて、横波音速比CSL/CSCを測定した。CSL/CSC≦1.02を合格とした。
[HAZ靭性]
最高加熱温度を1350℃、Tc(800〜500℃の冷却時間)=40sec、あるいは最高加熱温度を1400℃、Tc=100secの条件でHAZ再現試験を行い、該試験後にJIS4号試験片を採取して、−5℃でシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギー(vE-5)を求めた。なお、Tc=40secは入熱5kJ/mmに、Tc=100secは入熱15kJ/mmに相当するものである。いずれの条件でHAZ再現試験をしたものにおいても、vE-5≧80Jを合格とした。
Figure 0004220871
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表3〜6において、鋼板No.のAまたはBの後の数字は、表1および2における鋼種No.を意味している。また、表5および6のHAZ特性における「Tc=40sec」は、最高加熱温度を1350℃、Tc=40secの条件でHAZ再現試験をした試験片について測定した結果を、「Tc=100sec」は、最高加熱温度を1400℃、Tc=100secの条件でHAZ再現試験をした試験片について測定した結果を、夫々意味している。なお、表6の旧γ粒における「―」は、旧γ粒が実質的に観察不可であったことを意味している。
表5および6から、以下のように考察できる。表5に示す各鋼板は、成分組成、鋼組織、およびTSが本発明の要件を満足しており、低音響異方性、その他の各種母材特性(0.2%耐力、vE-5)、および溶接性(HAZ特性)のいずれも良好であった。
他方、表6に示す各鋼板は、本発明で定めるいずれかの要件を欠く比較例であり、以下の不具合を有している。
B2−1、B2−2、B13−1、B13−2の各鋼板は、部分再結晶域での圧下量が本発明の範囲を下回る熱間圧延条件で製造されており、B2−1およびB13−1の鋼板は旧γ粒の平均アスペクト比が、B2−2およびB13−2の鋼板は旧γ粒の平均円相当径が、夫々大きい例である。B2−1およびB13−1の鋼板では横波音速比が大きく、低音響異方性が低減されておらず、B2−2およびB13−2の鋼板では、母材靭性が劣っている。
B20の鋼板はC量が高い例であり、母材靭性が劣っている。B21の鋼板はC量が低い例であり、TSおよび0.2%耐力が劣っている。
B22の鋼板はMo量が、B23の鋼板はMo量およびNb量が、B28の鋼板はCr量およびKP値が、夫々低い例であり、いずれもベイナイト分率が低く、旧γ粒が実質的に観察されない。これらの鋼板では、TSおよび0.2%耐力が劣っている。
B24の鋼板はKV値が、B25の鋼板はV量およびKV値が、夫々高い例であり、母材靭性が劣っている。
B26の鋼板は、Mn量およびKP値が低い例であり、TSおよび0.2%耐力が劣っている。
B27の鋼板はKP値が高く、B29の鋼板はMn量が低く、且つMo量およびKP値が高い例である。これらの鋼板では、TSが非常に高く、母材靭性が劣っている。
B30の鋼板は、Mn量、Cr量およびKP値が低く、且つCu量が高い例であり、母材靭性が劣っている。
B31の鋼板はTi量が、B32の鋼板はN量が、夫々低い例であり、HAZ靭性(Tc=40secの条件の場合)が劣っている。
表7および8に示す化学組成の鋼を通常の溶製法により溶製し、スラブとした後、表9および10に示す条件で熱間圧延し、次いで表9および10に示す冷却停止温度まで同表に示す冷却速度で冷却し、所定の板厚からなる評価用鋼板を製造した。
一部の鋼板については、上記熱間圧延後、200℃まで表9および10に示す冷却速度で冷却し、次いで表9および10に示す温度で焼戻しを行った。
また、一部の鋼板については、上記熱間圧延後、表9および10に示す冷却停止温度まで同表に示す冷却速度で水冷し、次いで200℃以下まで空冷した後に、表9および10に示す温度で焼戻しを行なった。
このようにして得られた評価用鋼板について、上記実施例1と同様に、各測定を行った。結果を表11および12に示す。
なお、MA組織の平均体積分率、平均円相当径および平均アスペクト比は、下記の方法で測定した。
[MA組織の平均体積分率、平均円相当径および平均アスペクト比]
鋼板の板厚をtとしたとき、鋼板表面からの深さがt/4となる部位を鏡面研磨した試験片を、腐食液を用いてエッチング処理し、処理後の試験片を、光学顕微鏡を用いて倍率:1000倍で観察して写真撮影した。なお、エッチング処理には、エタノール(96質量%)とピクリン酸(4質量%)を混合して得られるA液と、蒸留水(99質量%)とメタ重亜硫酸ナトリウム(1質量%)を混合して得られるB液を、50質量部:60質量部(A液:B液)で混合して得られる腐食液を用いた。
次に、得られた顕微鏡写真(観察視野10視野)について、Media Cybernetics社製「Image−Pro Plus」などを用いて画像解析を行ってMA組織の平均面積率や平均円相当径、平均アスペクト比を測定し、この平均面積率を平均体積率とした。
また、母材靭性については、各鋼板の板厚1/4部位からJIS4号試験片を採取し、−10℃でシャルピー衝撃試験をおこなうことにより吸収エネルギー(vE-10)を測定した。vE-10≧200Jを合格とした。
Figure 0004220871
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表9〜12において、鋼板No.のAまたはBの後の数字は、表7および8における鋼種No.を意味している。また、表11および12のHAZ特性における「Tc=40sec」は、最高加熱温度を1350℃、Tc=40secの条件でHAZ再現試験をした試験片について測定した結果を、「Tc=100sec」は、最高加熱温度を1400℃、Tc=100secの条件でHAZ再現試験をした試験片について測定した結果を、夫々意味している。なお、表12の旧γ粒における「測定不能」とは、フェライトや擬ポリゴナルフェライトが生成していたため、旧γ粒の判別がつかなかったことを意味している。
表11および12から、以下のように考察できる。表11に示す各鋼板は、成分組成、鋼組織、およびTSが本発明の要件を満足しており、低音響異方性、その他の各種母材特性(0.2%耐力)、および溶接性(HAZ特性)のいずれもが良好であった。特に、母材特性のうち母材靭性(vE-10)は非常に優れたものであった。
他方、表12に示す各鋼板は、本発明の要件を満足しない比較例であり、上記何れかの特定が劣っている。
鋼板中の旧γ粒の平均アスペクト比と、鋼板の横波音速比との関係を示すグラフである。 鋼板中の旧γ粒の平均円相当径と、母材靭性との関係を示すグラフである。 鋼板中のベイナイト分率と、鋼板の0.2%伸長時の耐力との関係を示すグラフである。 溶接性向上の面から本発明における成分設計の考え方を説明するための模式的なCCT線図である。

Claims (12)

  1. C :0.010〜0.06%(質量%の意味、以下同じ),
    Mn:1.25〜2.5%,
    Cr:0.1〜2.0%,
    Mo:0.005〜1.5%,
    V :0.04%以下(0%を含む),
    Nb:0.001〜0.04%,
    Ti:0.005〜0.03%,
    B :0.0006〜0.005%,
    N :0.0020〜0.010%
    Ni:5%以下および/またはCu:1.2%以下,
    Al:0.2%以下を含有し,
    Si:1%以下,P:0.020%以下,S:0.010%以下に抑制されており、
    残部:Feおよび不可避不純物
    を満たす鋼からなり、
    2.4≦KP≦4.5
    KV≦0.040
    を夫々満足すると共に、
    鋼組織の90面積%以上がベイナイトであり、残部:フェライト、擬ポリゴナルフェライト、マルテンサイトとオーステナイトよりなる混合組織(MA組織)であり、
    旧γ粒は、平均アスペクト比が1.8以下で、且つ平均円相当径が100μm以下であり、
    引張強さが590MPa以上780MPa未満であることを特徴とする高張力鋼板。
    ただし、
    KP=[Mn]+1.5×[Cr]+2×[Mo]
    KV=[V]+[Nb]
    《式中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を意味する。》
  2. C :0.010〜0.06%(質量%の意味、以下同じ),
    Mn1.25〜1.8%
    Cr:0.1〜2.0%,
    Mo:0.005〜1.5%,
    V :0.04%以下(0%を含む),
    Nb:0.001〜0.04%,
    Ti:0.005〜0.03%,
    B :0.0006〜0.005%,
    N :0.0020〜0.010%,
    Cu:1.2%を超え、2.0%以下
    Al:0.2%以下を含有し,
    Si:1%以下,P:0.020%以下,S:0.010%以下に抑制されており、
    残部:Feおよび不可避不純物
    を満たす鋼からなり、
    2.4≦KP≦4.5
    KV≦0.040
    を夫々満足すると共に、
    鋼組織の90面積%以上がベイナイトであり、残部:フェライト、擬ポリゴナルフェライト、マルテンサイトとオーステナイトよりなる混合組織(MA組織)であり、
    旧γ粒は、平均アスペクト比が1.8以下で、且つ平均円相当径が100μm以下であり、
    引張強さが590MPa以上780MPa未満であることを特徴とする高張力鋼板。
    ただし、
    KP=[Mn]+1.5×[Cr]+2×[Mo]
    KV=[V]+[Nb]
    《式中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を意味する。》
  3. さらにNi:5%以下を含有するものである請求項に記載の高張力鋼板。
  4. 上記鋼組織に占めるマルテンサイトとオーステナイトよりなる混合組織(MA組織)の平均面積分率が3%以下のものである請求項1〜3のいずれかに記載の高張力鋼板。
  5. 上記MA組織の平均円相当径が1μm以下のものである請求項に記載の高張力鋼板。
  6. 上記MA組織の平均アスペクト比が2.5以下のものである請求項またはに記載の高張力鋼板。
  7. さらにCa:0.005%以下を含有するものである請求項1〜のいずれかに記載の高張力鋼板。
  8. 板厚が80mm以上である請求項1〜のいずれかに記載の高張力鋼板。
  9. 請求項1〜のいずれかに記載の高張力鋼板を製造する方法であって、
    Ac3点〜1300℃に加熱して熱間圧延を行うに当たり、全圧下量の50%以上を部分再結晶域で圧延することを特徴とする高張力鋼板の製造方法。
    ここで、上記部分再結晶域とは、該温度域においてγ粒径:100±10μmとした鋼板試験片に、歪速度:10sec-1、相当歪:0.2の条件で圧下を加えて10sec後に組織を凍結したときに、20〜80面積%が再結晶粒となる温度域である。
  10. 上記熱間圧延後、200℃まで冷却し、その後Ac1点以下の温度で焼戻しを行う請求項に記載の製造方法。
  11. 上記冷却を水冷で行う請求項10に記載の製造方法。
  12. 上記熱間圧延後、Bs点以下の温度まで水冷する請求項に記載の製造方法。
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