JP4313730B2 - 材質異方性が少なく低温靭性に優れた高張力鋼板 - Google Patents
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このような鋼板として、例えば、特開平9−111337号公報(特許文献1)には、低Cの下、Tiに比べて析出強化に伴う靭性劣化が格別に小さいNbを積極的に添加し、NbCによって析出強化を図りつつ、焼入性を高めた高張力鋼板が提案されている。また、特開2000−178645号公報(特許文献2)には、MnS、TiN析出量の削減による清浄化により靭性を改善すると共に、オーステナイト(γ)粒を粗粒化することでMnによる焼入性を向上させた高張力鋼板が提案されている。
C:0.01〜0.055%
Cは、溶接時におけるHAZの耐溶接割れ性と母材強度を両立させ、且つ大入熱HAZ靭性を改善するために重要な元素である。Cが0.055%を超えると高冷却速度側でベイニティックフェライトでなくマルテンサイトが生成するようになり、耐溶接割れ性が低下する。また、低冷却速度側(大入熱HAZ)ではMAが多量に生成するようになり、大入熱HAZ靭性が改善されない。一方、0.01%未満では母材強度が低下する。好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上とするのがよい。
Siは脱酸剤として有用な元素であるが、0.8%を超えて添加すると溶接性および母材靭性が低下するので、上限を0.8%とする。好ましくは0.6%以下、さらに好ましくは0.3%以下とするのがよい。
Mnは焼入れ改善作用を有すると共に、結晶粒を微細化して母材靭性を改善する効果を有する。もっとも、1.9%を超えるとHAZの耐溶接割れ性が低下する。好ましくは1.8%以下、さらに好ましくは1.6%以下とするのがよい。一方、Mnが0.5%未満では十分な母材強度が得られない。好ましくは0.8%以上、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.2%以上、最も好ましくは1.3%以上とするのがよい。
Tiは焼入性向上元素として本発明では重要であり、またNと窒化物を形成してHAZのγ粒を微細化すると共に、BNの生成サイトとなり、粒内フェライトの生成を促進し、HAZ靭性を大幅に改善する効果を有する。0.005%未満では、こうした効果が十分に確保できない。好ましくをま0.007%以上、より好ましくは0.009%以上とするのがよい。一方、Tiが0.10%を超えると、HAZ靭性、母材靭性共に劣化する。好ましくは0.025%以下、より好ましくは0.020%以下とするのがよい。Tiの焼入性についてはTP値の限定理由にて詳述する。
Bは固溶することにより焼入性を改善する作用を有するが、固溶量が多過ぎる場合には却って靭性を損なう。また、HAZにおいては、BNとなりフェライトの核生成サイトとして働き、HAZ靭性を向上させる効果を有する。B量が0.0012%未満では、Bの添加効果が十分に確保できない。他方、B量が0.005%を超えると、却って焼入性が低下すると共に、母材靭性、HAZ靭性が劣化する。好ましくは0.0030%以下、さらに好ましくは0.0025%以下とするのがよい。
Nは、Tiと窒化物を形成してHAZのγ粒径を微細化すると共に、Bと窒化物を形成してHAZのフェライトの生成を促進し、HAZ靭性を改善する効果を有する。N量が0.010%を超えると、母材靭性、HAZ靭性共に劣化する。また、固溶B量が低下することによって強度が低下するようになる。好ましくは0.0060%以下とするのがよい。他方、N量が0.002%未満では、Tiとの窒化物形成によるHAZ靭性改善効果が不十分となる。好ましくは0.0030%以上とするのがよい。
Ca:0.0050%以下
CaはMnSを球状化し、介在物の異方性を低減する効果を有する。この効果を十分に発揮させるために、Caを0.0005%以上添加することが好ましい。より好ましくは0.001%以上とするのがよい。他方、Ca量が0.0050%を超えると母材靭性が低下する傾向にあるため、その上限を0.0050%とする。より好ましくは0.0030%以下とするのがよい。
KPは、低炭素ベイナイトでのMAの生成し易さを示す指標であり、KPが2.4以上になると、MAの生成量が多くなり過ぎてHAZ靭性(特に低温HAZ靭性)が劣化する。KPの値はHAZ靭性改善の観点から小さいほど望ましく、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.7以下とするのがよい。
[Ti]/[C]はオーステナイト中における固溶Ti量、すなわちTiによる焼入性を示す指標であり、Tiによる焼入性を有効に発揮させることにより材質異方性、材質バランスを改善しつつ、MAの生成を抑制することができる。後述の実施例から明らかなとおり、TP値が0.62以下では焼入性に寄与する固溶Ti量が不足し、MAの生成量が増し、また材質異方性が著しくなる。すなわち、固溶Ti量が不足すると、Tiに比して偏析し易いMn、Cu、Ni、Nbが焼入性に寄与するようになり、それらの元素の偏析に起因して材質異方性、材質バラツキが生じ易くなる。
Nbは焼入性を改善する作用を有するが、0.030%以上では結晶粒が粗大化し、母材靭性およびHAZ靭性が低下する。好ましくは0.025%以下、さらに好ましくは0.018%以下とするのがよい。他方、Nbの添加効果を有効に発揮させるためには、0.005%以上とすることが好ましく、0.008%以上とすることがより好ましい。さらに、Nbを添加する場合、2[Nb]/[Ti]が4.0以上になると、Nbによる焼入性がTiより支配的になり、凝固時のNbのマクロ偏析、ミクロ偏析により材質バラツキ、材質異方性が大きくなる。このため、2[Nb]/[Ti]を4.0未満とし、好ましくは3.0以下とするのがよい。
Niは母材強度および母材靭性の向上に有用な元素であるが、2.0%を超えて含有させるとHAZ靭性が却って劣化する傾向にあるため、その上限を2.0%とすることが好ましい。より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは0.9%以下である。
Cuは固溶強化および析出強化により母材強度を向上させると共に、焼入性向上作用を有する。2.0%を超えると大入熱HAZ靭性が低下する傾向にあるため、上限を2.0%とすることが好ましい。より好ましくは1.2%以下、さらに好ましくは0.9%以下とするのがよい。
Crは焼入性改善により母材強度を向上させる作用を有するが、1.0%を超えるとMAの生成量が増えてHAZ靭性が劣化する傾向にあるため、その上限を1.0%とすることが好ましい。より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下とするのがよい。
Mo:0.30%以下
Moは焼入性を改善して母材強度を向上させる作用を有するが、他方、HAZ靭性を大幅に劣化させる作用も有するため、その上限を0.30%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.15%以下、さらに好ましくは0.10%以下とするのがよい。
Vは少量の添加により、焼入性および焼戻し軟化抵抗を高める作用を有するが、0.10%を超えると母材靭性やHAZ靭性が低下する傾向にあるため、その上限を0.10%とすることが好ましい。より好ましくは0.06%以下、さらに好ましくは0.02%以下とするのがよい。
これらの元素はHAZ靭性を向上させる作用を有するが、過剰に含有させると却ってHAZ靭性が劣化する傾向にあるため、Mg:0.005%以下、REM:0.02%以下、Zr:0.050%以下とすることが好ましい。より好ましくは、Mg:0.003%以下、REM:0.01%以下、Zr:0.03%以下である。なお、本発明の鋼板で含有されることのあるREMは、周期律表3属に属するスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)およびランタノイド系列希土類元素(原子番号57〜71)の元素のいずれをも用いることができる。
FRT(℃)≧(4[Nb]+[Ti]+20[B])×1000+770
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定的に解釈されるものではない。
引張試験は、各鋼板の3カ所(鋼板の長さ方向の前部、中央部、後部)においてL方向およびC方向に沿って板厚1/4部位から採取したJIS4号試験片を用いて行い、0.2%耐力(YS)、引張強さ(TS)を測定した。また、衝撃試験は引張試験片の場合と同様にしてJIS4号試験片を採取し、これを用いてシャルピー衝撃試験を行い、−60℃での吸収エネルギー(vE-60 )を求めた。本発明の鋼板用途では、引張強さが490MPa以上、vE-60 が250J以上であれば実用上、合格レベルにある。表3のYS、TS、vE-60 には、測定した値の内、最小の値を表示した。
また、HAZ靭性を評価するため、各鋼板を1400℃に加熱して5秒保持した後、800℃から500℃まで500秒で冷却する熱サイクル処理(70kJ/mmの入熱でサブマージアーク溶接したときのHAZの熱履歴に相当)を施した後、板厚1/4部位からJIS4号試験片を採取し、シャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギー(vE-60 )を測定した。本発明の鋼板用途では、HAZ靭性がvE-60 で100J以上であれば実用上、合格レベルにある。これらの測定結果を表3に併せて示す。
これに対し、比較例の試料No. 5はC量が過多であり、No. 8はSi量が過多であるため、MA量が多くなり、母材靭性、HAZ靭性の劣化が著しい。また、試料No. 9はMn量が過少であるため引張強さが低下し、一方No. 12はMn量が過多であるため引張強さは高いが、母材靭性が劣化している。また、試料No. 14はNb量が過多であるため、Ti量とのバランスが崩れ、材質異方性および材質バランスが共に悪化している。試料No. 15はTi量が過少であるため、特に材質バランスが低下している。一方、No. 18はTi量が過多であるため、焼入性が向上して高強度が得られているが、母材靭性やHAZ靭性が劣化し、また未再結晶粒が多くなったため、材質異方性も劣化している。また試料No. 19とNo. 22はB量が不適当であるため、引張強さあるいは母材靭性が低下している。また、試料No. 23と26はN量が不適当であるため、母材靭性やHAZ靭性あるいは引張強さが悪化している。また、試料No. 38,42,45は鋼成分は適正であるが、圧延温度が低いため、総じて旧γ粒の平均アスペクト比が過大となり、材質異方性が低下している。
Claims (5)
- mass%で、
C:0.01〜0.055%、
Si:0.8%以下、
Mn:0.5〜1.9%、
Ti:0.005〜0.10%、
B:0.0012〜0.0050%、
N:0.002〜0.010%、
Al:0.20%以下、
P:0.020%以下、
S:0.010%以下、
Ca:0.0050%以下
を含むと共に、Nb:0.030%未満かつ2[Nb]/[Ti]<4.0を満足する範囲、Ni:2.0%以下、Cu:2.0%以下、Cr:1.0%以下の中から選ばれるいずれか1種以上を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ
KP=[Mn]+1.5[Cr]+2[Mo]とし、TP=4[Ti]/[C]([X]は元素Xの含有量(mass%)を示す。)するとき、KP<2.4、TP>0.62を満足する成分を含み、
さらにMAの平均面積率が0.5%以下であり、旧オーステナイト粒の平均アスペクト比が1.3以下である材質異方性が少なく低温靭性に優れた高張力鋼板。 - さらに、Mo:0.30%以下、V:0.10%以下のいずれか1種以上を含む請求項1に記載した高張力鋼板。
- さらに、Mg:0.005%以下、REM:0.02%以下、Zr:0.05%以下のいずれか1種以上を含む請求項1または2に記載した高張力鋼板。
- 前記MAの平均円相当径が1.0μm 以下、平均アスペクト比が2.0以下である請求項1から3のいずれか1項に記載した高張力鋼板。
- 板厚が50mm以上である請求項1から4のいずれか1項に記載した高張力鋼板。
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