JP4335789B2 - 音響異方性の小さい溶接性に優れた高張力鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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また、いずれの技術についても音響異方性を低減させることは考慮されておらず、音響異方性の点で問題があった。
AS=[Mn]+[Ni]+2×[Cu]
DL=2.5×[Mo]+30×[Nb]+10×[V]
ただし、[X]は元素Xの含有量(mass%)を表す。
同図より、本発明の鋼板では、熱間圧延後の冷却が高冷却速度(CR1)、低冷却速度(CR2)のいずれにおいても、BFが面積率で85%以上、より好ましくは90%以上生成するようになる。かかるBFを主体とする組織(残部はGBF、MA)により、焼き入れ、焼き戻し熱処理を特に施すことなく、肉厚が50mm以上の厚板であっても、母材の機械的性質として780MPa以上の強度が得られ、また優れた靭性を備えたものになる。しかも、高冷却速度(CR1)、低冷却速度(CR2)のいずれにおいても、上記のとおり、マトリックス組織が冷却速度感受性の低いBFとなるため、小入熱溶接条件においてはHAZの硬さを低減(耐低温割れ性を向上)させることができ、大入熱溶接条件においてもHAZ靭性を確保することができる。
本発明者は、横波音速比CSL/CSCを、例えば1.020以下といった低い値、すなわち低音響異方性とすべく、横波音速比(CSL/CSC)と旧γ粒の扁平率との関係を調査した。その結果を図2に示す。図2より、旧γ粒の扁平率が3.0以下(最小値は1.0)のときに、横波音速比が1.020以下といった低音響異方性が達成されることがわかった。音響異方性の観点から、旧γ粒の扁平率を好ましくは1.8以下、より好ましくは1.6以下とすることが望ましい。なお、図2は後述の実施例から得られたものである。
また、組織中のMAは、少ないほど母材靭性が向上する。このため、MAは面積率で5.0%未満、好ましい3.0%以下、より好ましくは2.0%以下とするのがよい。MAを減少させる方法については後述する。
C:0.010〜0.080%
Cは母材強度を確保するために必要な元素である。0.010%未満では焼き入れ性向上元素であるMn、NiおよびCuを積極的に添加しても780MPa以上の母材強度を確保することができないようになる。一方、0.080%超になると、高冷却速度側でベイニティックフェライトではなく、マルテンサイトが生成するようになり、耐低温割れ性が劣化するようになる。C量を0.010%以上添加するとともに0.080%以下に制限し、同時に適量のMn、Ni、CuおよびCrを添加することで、小入熱溶接時のHAZの耐低温割れ性と母材強度を両立させ、かつ大入熱時のHAZの靭性を改善することができる。このため、C量の下限を0.010%、好ましくは0.030%とし、一方その上限を0.080%、好ましくは0.060%とする。
Siは脱酸作用を有する元素であり、Si量が0.02%未満ではその効果が過小であり、一方0.50%を超えると溶接性および母材靭性を劣化させる。このため、Si量の下限を0.02%とし、その上限を0.50%、好ましくは0.20%とする。
これらの元素は焼き入れ性を改善する作用を有し、高冷却速度から低冷却速度に渡ってベイニティックフェライトを生成させやすくし、これらの積極的な添加と極低C化によって、小入熱溶接時のHAZ靭性と耐低温割れ性を両立させ、かつ母材強度、勒性および大入熱溶接時のHAZ靭性を改善することができる。
Niも鋼の低温靭性の向上および焼き入れ性を高めて強度を向上させるとともに、熱間割れおよび溶接高温割れの防止にも効果がある。Ni量が0.40%未満ではこれらの効果が過小であり、一方2.50%を超えるとスケール疵が発生しやすくなる。このため、Ni量の下限を0.40%、好ましくは0.50%とし、その上限を2.50%、好ましくは2.00%とする。
CuはMo、Mn、Ni、Crほどではないが焼き入れ性を向上させ、また固溶強化と析出強化によって母材強度を向上させる。かかる作用を効果的に発現させるには好ましくは0.10%以上、より好ましくは0.50%以上、さらに好ましくは0.80%以上の添加が望ましい。もっとも、1.60%を超えると母材靭性、大入熱溶接時のHAZ靭性を低下させるようになるので、Cu量の上限を1.60%、好ましくは1.20%とする。
Mn、Ni、Cuの添加量は、母材強度と密接な関係があり、CuはMn、Niに比して2倍程度、強度向上効果が高い。高冷却速度から低冷却速度の範囲で母材強度を780MPa以上にするには、後述の実施例から明らかなようにAS値を4.00以上、好ましくは4.20以上、さらに好ましくは4.40以上となるようにMn、Ni、Cuを添加することが必要である。
不純物元素であるPは母材、溶接部の靭性に悪影響を及ぼすため、0.030%以下に止める。好ましくは0.010%以下とするのがよい。
SはMnSを形成して延性を低下させる元素であり、特に高強度鋼においてその影響が大きいため、0.010%以下、好ましくは0.005%以下に止めるのがよい。
Alは脱酸およびミクロ組織の微細化による母材靭性向上効果を有する。かかる作用を効果的に発現させるには好ましくは0.010%以上、より好ましくは0.020%以上の添加が望ましい。もっとも、過多に添加するとかえって母材靭性が低下するため、上限を0.200%とする。好ましくは0.060%以下とするのがよい。
Nは後述のTiと結合し、TiNを形成して大入熱溶接時のオーステナイト粒を微細化し、HAZ靭性を向上させる効果を有する。かかる作用を効果的に発現させるには好ましくは0.0020%以上、より好ましくは0.0040%以上の添加が望ましい。しかし、Nの過剰な添加はは母材靭性、HAZ靭性に悪影響を与えるため、その上限を0.0100%、好ましくは0.0080%、より好ましくは0.0060%以下とする。
Crは母材、溶接部の強度を高めるが、Cr量が0.30%未満ではかかる効果が過小であり、一方2.00%を超えると溶接性やHAZ靭性を劣化させるようになる。このため、Cr量の下限を0.30%、好ましくは0.50%、より好ましくは0.70%とし、その上限を2.00%、好ましくは1.50%、より好ましくは1.00%とする。
Moは焼き入れ性を向上させ、強度を確保するために有効であり、また焼き戻し脆性を防止する効果を有する。Mo量が0.10%未満ではかかる作用が過小であるので、Mo量の下限を0.10%、好ましくは0.15%とする。一方、Moは再結晶抑制作用があり、過多に添加すると、圧延後に粗大なオーステナイト粒となり、変態後のベイナイトブロック(ベイニティックフェライトの束)が粗大化し、母材の靭性が劣化する。また、Moはオーステナイト粒界に偏析しやすく、過剰に添加すると変態時の核生成頻度を低下させ、変態後のベイナイトブロックを粗大化させて、母材靭性、HAZ靭性を劣化させる。このため、Mo量の上限を1.10%、好ましくは0.60%とする。
Moおよび後述のNb、Vは焼き入れ性を向上させる作用があるが、その一方でベイナイトブロックを粗大化させ、母材靭性、HAZ靭性を劣化させる。このような母材靭性の劣化作用は各元素について一様ではなく、発明者等の実験によりMoを1としたとき、Nbは12倍程度、Vは4倍程度である。後述の実施例から明らかなようにDL値を2.80以下、好ましくは2.50以下、より好ましくは2.00以下とするようにMo、Nb、Vの添加を抑制することによって、ベイナイトブロックの粗大化を抑制し、前記AS≧4.00と、部分再結晶温度域での圧下量を熱延全圧下率の50%以上とすることで、旧γ粒の平均円相当径が70μm 程度以下に微細化され、vE-50 ≧100J以上の母村靭性を確保することができ、また良好なHAZ靭性を兼ね備えることができる。
TiはNと結合して窒化物を形成し、溶接時におけるHAZのオーステナイト粒を微細化し、HAZ靭性改善に有効な元素である。Ti量が0.002%未満では細粒化効果が過小であり、一方0.030%を超えるとかえってHAZ靭性を劣化させる。このため、Ti量の下限を0.002%、好ましくは0.005%とし、その上限を0.030%、好ましくは0.020%とする。
Bは焼き入れ性を向上させてHAZ靭性を改善する作用を有する。特に、入熱量の大きい溶接の際にその効果は大きい。かかる作用を効果的に発現させるためには、0.0005%以上の添加が好ましい。もっとも多量に添加すると、かえって母材靭性、HAZ靭性を劣化させる。このため、B量の上限を0.0050%、好ましくは0.0045%とする。より好ましくは0.0010〜0.0040%とするのがよい。
固溶Nbは素地の焼き入れ性を向上させて母材強度、溶接継手強度を向上させる効果があり、必要に応じて添加することができる。その一方、固溶Nbは加工オーステナイトの回復を抑制し、再結晶を抑制させるため、圧延後に粗大なオーステナイト粒となり、変態後のベイナイトブロックが粗大化し、母材靭性を著しく低下させる。また、Nbはオーステナイト粒界に偏析しやすく、過剰に添加すると変態時の核生成頻度を低下させ、変態後のベイナイトブロックを粗大化させて、母材靭性、HAZ靭性を劣化させる。このため、Nb量の上限を0.10%、好ましくは0.020%、より好ましくは0.015%とする。
Vは少量の添加により焼き入れ性および焼き戻し軟化抵抗を高くする効果があり、必要に応じて添加することができる。一方、Vは加工オーステナイトの回復を抑制し、再結晶を抑制させるため、圧延後に粗大なオーステナイト粒となり、変態後のベイナイトブロックが粗大化し、母材靭性を著しく低下させる。また、Vはオーステナイト粒界に偏析しやすく、過剰に添加すると変態時の核生成頻度を低下させ、変態後のベイナイトブロックを粗大化させて、母材靭性、HAZ靭性を劣化させる。このため、V量の上限を0.30%、好ましくは0.05%、より好ましくは0.04%とする。
CaおよびREMはMnSを球状化するという介在物の形態制御により異方性を低減する効果を有する。Ca:0.0050%超、REM:0.0100%超では添加量が過剰なため母材の靭性をかえって劣化させる。このため、Ca量の上限を0.0050%、好ましくは0.0030%とし、REMの上限を0.0100%、好ましくは0.0070%とする。前記各元素を効果的に活用するには、Ca:0.0005%以上、REM:0.0010%以上含有させることが好ましい。
MgはMgOを形成し、HAZのオーステナイト粒の粗大化を抑制することによってHAZ靭性を向上させる作用を有する。かかる作用を効果的に活用するには、Mg:0.0001%以上含有させることが好ましい。Mg:0.0050%超では添加量が過剰なため母材の靭性をかえって劣化させる。このため、Mg量の上限を0.0050%、好ましくは0.0035%とする。
Zr、HfはTiと同様、Nと窒化物を形成して溶接時におけるHAZのオーステナイト粒を微細化し、HAZ靭性改善に有効な元素である。しかし、過剰に添加するとかえって母材靭性、HAZ靭性を低下させる。このため、Zr量の上限を0.100%、Hf量の上限を0.050%とする。
Co、Wは焼き入れ性を向上させ、強度を容易に確保するために有効な元素であり、Wの場合はさらに焼き戻し軟化抵抗を向上させる効果を有する。一方、過剰に添加すると、Coの場合はスケール疵が発生し易くなり、Wの場合は母材靭性が劣化するようになる。このため、Co量、W量の上限をそれぞれ2.50%、好ましくは1.00%とする。
本発明の製造方法においては、上記化学組成を有する鋼を用いることを前提とし、さらに旧γ粒の形態を制御するに当たり、熱間圧延条件を厳格に管理する必要がある。本発明の鋼板を製造する際の他の工程、条件は特に限定されず、通常用いられる高張力鋼板の製造工程および条件(温度、時間など)を適宜採用することができる。
引張試験は、各鋼板の板厚1/4部位から採取したJIS4号試験片を用いて行い、0.2%耐力、引張強さを測定した。また、衝撃試験は各鋼板の板厚1/4部位から採取したJIS4号試験片を用いて、−50℃でシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギー(vE-50 )を求めた。本発明では、母材靭性として、vE-50 =100(J)を合格基準とした。
HAZ靭性は、入熱5kJ/mm、10kJ/mm、さらに15kJ/mmで溶接(サブマージアーク溶接)を行い、ボンド部を含む図4に示す試験片採取部位3からJIS4号試験片を採取し、シャルピー衝撃試験を行い、ボンド部の吸収工ネルギ(vE-40 )を求め、vE-40 ≧80Jを合格レベルとした。図中、1は鋼板、2は溶接金属部であり、3が試験片採取部位であり、板厚中心から開先開き側に位置している。入熱が15kJ/mmの超大入熱溶接は、冷却速度が非常に遅くなった場合の合金元素の影響を見るために実施したものである。
耐低温割れ性はJISZ3158に規定されたy形溶接割れ試験方法に基づいて、入熱1.7kJ/mmで被覆アーク溶接を行い、ルート割れ防止予熱温度を測定した。予熱温度が0℃とあるのは、試験に供した鋼板を0℃に冷やした状態で溶接を行い、溶接後に割れが生じなかったものを示す。
Claims (12)
- mass%で、
C:0.010〜0.080%、
Si:0.02〜0.50%、
Mn:1.10〜3.00%、
Cu:1.60%以下、
Ni:0.40〜2.50%、
P:0.030%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.200%以下、
N:0.0100%以下
Cr:0.30〜2.00%、
Mo:0.10〜1.10%、
Ti:0.002〜0.030%、
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記式で定義されるAS値およびDL値がAS≧4.00、DL≦2.80であり、板厚1/4部位における組織が面積率で85%以上のベイニティックフェライトからなり、かつ旧オーステナイト粒の長軸/短軸の平均値が1.0〜3.0で、さらに旧オーステナイト粒の円相当径の平均値が70μm 以下であることを特徴とする音響異方性の小さい溶接性に優れた高張力鋼板。
AS=[Mn]+[Ni]+2×[Cu]
DL=2.5×[Mo]+30×[Nb]+10×[V]
ただし、[X]は元素Xの含有量(mass%)を表す。 - 前記組織において、MAが5面積%未満である請求項1に記載した高張力鋼板。
- さらにB:0.0050%以下を含有する請求項1又は2に記載した高張力鋼板。
- さらに、Nb:0.10%以下、V:0.30%以下のいずれか1種または2種を含有する請求項1から3のいずれか1項に記載した高張力鋼板。
- さらに、Ca:0.0050%以下、希土類元素:0.0100%以下のいずれか1種または2種を含有する請求項1から4のいずれか1項に記載した高張力鋼板。
- さらに、Mg:0.0050%以下を含有する請求項1から5のいずれか1項に記載した高張力鋼板。
- さらに、Hf:0.050%以下、Zr:0.100%以下のいずれか1種または2種を含有する請求項1から6のいずれか1項に記載した高張力鋼板。
- さらに、Co:2.50%以下、W:2.50%以下のいずれか1種または2種を含有する請求項1から7のいずれか1項に記載した高張力鋼板。
- 請求項1から8のいずれか1項に記載した成分を有する鋼をAC3点〜1300℃に加熱し、オーステナイト粒径を100±10μm とした鋼板試験片を歪速度10/秒、相当歪0.2の条件で圧下し、10秒後に組織を凍結したときに20〜80 vol%が再結晶粒となる部分再結晶温度域で全圧下量の50%以上を熱間圧延し、冷却することを特徴とする音響異方性の小さい溶接性に優れた高張力鋼板の製造方法。
- 熱間圧延後、200℃以下まで冷却し、その後AC1点以下の温度で焼き戻しを行う請求項9に記載した製造方法。
- 前記焼き戻しを2回以上行う請求項10に記載した製造方法。
- 熱間圧延後、10〜60℃/秒の冷却速度で200℃以下まで加速冷却する請求項10又は11に記載した製造方法。
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