JP2007177327A - 溶接熱影響部の靭性に優れ、軟化が小さい厚鋼板 - Google Patents

溶接熱影響部の靭性に優れ、軟化が小さい厚鋼板 Download PDF

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Abstract

【課題】HAZ靭性に優れると共に、HAZ軟化が抑制された厚鋼板を提供する。
【解決手段】C:0.030%以上0.080%以下(%は質量%の意味。以下同じ)、Si:1.0%以下(0%を含まない)、Mn:0.8%以上2.0%以下、Al:0.01%以上0.10%以下、Ti:0.015%以上0.030%未満、N:0.0055%超0.0100%以下、B:0.0015%以上0.0035%未満,Nb:0.015%以下(0%を含む)を含有し、残部:Fe及び不可避不純物からなり、旧オーステナイト粒の扁平率(長軸/短軸)が1.5以上であり、且つ、下式(1)および(2)を満足する厚鋼板である。 2.0≦[Ti]/[N]≦4.0(1)、0<P値<23.0(2)、P値=2000×[B]+300×([Ti]−3.42×[N])+1000×[Nb]。式中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を意味する。
【選択図】図2

Description

本発明は、船舶や海洋構造物などの溶接構造物に適用される厚鋼板に関し、特に、溶接後の熱影響部(Heat Affected Zone,HAZ)の靭性に優れ、軟化が抑えられた厚鋼板に関するものである。
近年、船舶や海洋構造物などの溶接構造物に適用される厚鋼板は、溶接構造物の大型化に伴い、従来より過酷な条件で溶接されるようになっており、例えば、板厚が約60mm以上の厚鋼板に対し、入熱量が60kJ/mmを超える超大入熱溶接が行われている。上記の入熱条件では、ボンド部は、概ね、厚鋼板を1400℃に加熱して50秒間保持した後、780℃から500℃の範囲を500秒で冷却する熱サイクルを受けたことになる。
ところが、このような超大入熱溶接を実施すると、高温のオーステナイト領域まで加熱されてから冷却されるため、HAZのボンド部(溶接金属と母材との境界部、「溶接溶融線」とも呼ばれる。)付近の組織の粒径は著しく粗大化し、HAZにおける靭性(HAZ靭性)が低下するという問題がある。
そこで、HAZ靭性を向上するための様々な提案がなされている。
例えば、鋼中に微細なTiNを分散させることによってオーステナイト粒(γ粒)の成長を抑制し、ボンド部を微細化させることによって靭性を改善する技術が古くから提案されている。特許文献1は、上記技術を改善したものであり、特に、TiNの粒径や個数を制御することによってHAZ靭性を高めている。
特許文献2には、C含有量を低減すると共に、不可避的に混入するPの含有量を制限し、且つ、NbおよびBの含有量を適切な範囲に制御することによって、幅広い溶接入熱に対しても良好なHAZ靭性を確保できる厚鋼板が記載されている。
特許文献3には、Nを比較的多量に添加し、且つ、TiとBの添加バランスを適切に制御することによってHAZ靭性が改善された鋼材が記載されている。
特許文献4には、TiおよびNbを含有する鋼において、TiN系介在物の粒径および個数を所定の範囲に制御したうえで、TiN系介在物中にNbを積極的に添加し、HAZ靭性を高めた溶接用鋼が記載されている。
特開2001−98340号公報 特開2003−166033号公報 特開2005−200716号公報 特開2004−218010号公報
一方、鋼材の溶接部に要請される特性としては、前述したHAZ靭性の向上のほか、HAZ軟化が小さいことが挙げられる。HAZ軟化は、ボンド部から少し離れた領域において見られる現象であり、当該領域では、ボンド部より加熱温度が低く、細粒オーステナイトより変態するため、焼入れ性が低下して軟質なフェライト相の分率が多くなり、硬度が低下すると考えられている。図1は、母材同士を溶接金属で溶接したときの様子を模式的に示す図であり、図1(a)は、溶接部の断面図であり、図1(b)は、図1(a)中に示す領域Aの硬度分布を模式的に示している。図1(b)に示すように、ボンド部から離れるにつれてHAZの硬度は低下し、軟化している。HAZが軟化すると、継手強度が低下するなどの問題がある。
HAZ軟化を改善するため、鋼中にNb、V、Moなどの元素を添加して焼入れ性を高める試みがなされている。しかしながら、この方法によれば、HAZ軟化は抑えられたとしても、HAZのボンド部に粗大なベイナイト組織が生成するため、HAZ靭性が低下するという問題がある。
前述した特許文献1〜4の方法は、いずれも、HAZ靭性を向上するという観点のみから提案されたものであり、HAZ軟化の抑制については、全く考慮されていない。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、HAZ靭性(詳細には、ボンド部の靭性)に優れると共に、HAZ軟化(詳細には、ボンド部から離れた位置における硬度の低下)が抑制された厚鋼板を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明に係る溶接熱影響部の靭性に優れ、軟化が小さい厚鋼板は、C:0.030%以上0.080%以下(%は質量%の意味。以下同じ)、Si:1.0%以下(0%を含まない)、Mn:0.8%以上2.0%以下、Al:0.01%以上0.10%以下、Ti:0.015%以上0.030%未満、N:0.0055%超0.0100%以下、B:0.0015%以上0.0035%未満、Nb:0.015%以下(0%を含む)を含有し、残部:Fe及び不可避不純物からなり、旧γ粒の扁平率(長軸/短軸)が1.5以上であり、且つ、下式(1)および(2)を満足することに要旨が存在する。
2.0≦[Ti]/[N]≦4.0 ・・・ (1)
0<P値<23.0 ・・・ (2)
P値
=2000×[B]+300×([Ti]−3.42×[N])+1000×[Nb]
式中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を意味する。
本発明において、(ア)Cu:1.0%以下(0%を含まない)、Ni:1.0%以下(0%を含まない)、およびCr:1.0%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種を更に含有すること、(イ)P:0.03%以下およびS:0.01%以下に抑制されたものであること、(ウ)Mo:0.5%以下(0%を含まない)を更に含有すること、(エ)V:0.10%以下(0%を含まない)を更に含有すること、(オ)Ca:0.0050%以下(0%を含まない)、Mg:0.0050%以下(0%を含まない)、およびREM:0.010%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも1種を更に含有すること、(カ)Zr:0.10%以下(0%を含まない)および/またはHf:0.050%以下(0%を含まない)を更に含有すること、(キ)Co:2.5%以下(0%を含まない)および/またはW:2.5%以下(0%を含まない)を更に含有することは、いずれも、好ましい実施形態である。
本発明の厚鋼板は、上記のように構成されているため、HAZ靭性に優れているのみならず、HAZ軟化も著しく抑制されている。従って、本発明の厚鋼板を用いれば、例えば、板厚が約60mm以上の厚鋼板に対し、入熱量が約60kJ/mmを超える超大入熱溶接を施したとしても、溶接部の機械的特性に優れた溶接構造物を提供することができる。
更に、本発明の厚鋼板を用いれば、調質処理を施さない非調質鋼板のままで、所望の母材強度およびHAZ靭性を確保することができるほか、HAZ軟化も抑えられる。従って、製造工程の省略が可能であり、生産コストを著しく低減できる。
本発明者は、例えば、板厚が約60mm以上の厚鋼板に対し、入熱量が約60kJ/mmを超える超大入熱溶接を施したとしても、HAZ靭性に優れ、且つ、HAZ軟化が抑えられた厚鋼板を提供するため、鋭意検討してきた。その結果、これらの特性を両立させるためには、鋼中成分のうちTi、N、およびBを活用すると共に、母材の前組織として旧γ粒の形態を扁平形状に制御すれば良いことを見出した。詳細には、(ア)主に、TiNによるオーステナイト粒(γ粒)の微細化と、TiN中にBNを核にした粒内フェライトの生成とによって、微細なTiNによるHAZ靭性作用は最大限に高められること、及び(イ)Nに対し、TiおよびB(更には、必要に応じてNb)を過剰に添加することによって焼入れ性を確保し、フェライト変態を抑制することによって、HAZの軟化を最大限に抑えられることを突き止めた。そして、このような作用を有効に発揮させるための構成要件を追及するために更に検討を重ねた結果、(ア)HAZ靭性改善のためには、上式(1)を満足し、且つ、旧γ粒を扁平形状にすれば良いこと、(イ)HAZ軟化の抑制のためには、上式(2)を満足すれば良いことを見出し、本発明を完成した。
本明細書において、「HAZ靭性に優れた」とは、後記する方法により、入熱60kJ/mmで溶接試験を実施し、ボンド部の吸収エネルギー(vE−60)を求めたとき、vE−60≧150Jを満足するものをいう。また、「HAZ軟化が抑制された」とは、後記する方法により、板厚の1/4部位における溶接溶融線(ボンド)位置から30mm離れた位置まで1mmピッチで連続的に硬さを測定し、硬さの最高値(ボンド部の硬さ)と最低値との差(Q値)をHAZ軟化の指標としたとき、Q値≦40HVを満足するものをいう。
また、本明細書において、厚鋼板とは、板厚が6mm以上である鋼板を意味する。本発明の厚鋼板は、例えば、板厚が60mm〜80mmの厚物も包含される。
まず、本発明を特徴付ける式(1)および式(2)、並びに旧γ粒の形状について説明する。これらの式中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を意味する。
式(1):2.0≦[Ti]/[N]≦4.0
上式(1)は、微細なTiNを生成するための、Ti量とN量との比率を規定したものであり、これにより、HAZ靭性の向上を図っている。更に、上式(1)とすることにより、BNを核にした粒内フェライトを生成することができる。この比率が2.0を下回ると、B量を高めても鋼中の固溶N量が多くなり過ぎるため、HAZ靭性が低下し、一方、この比率が4.0を超えると、TiNが粗大化し、HAZ靭性が低下する(後記する実施例を参照)。[Ti]/[N]の好ましい比率は、例えば、B量などによっても相違するが、2.2以上3.0以下であることが好ましく、2.4以上2.8以下であることがより好ましい。
なお、前述した特許文献3においても、HAZ靭性向上のために[Ti]/[N]の比率を規定しているが、ここでは、上記比率を1.0以上3.0以下に定めており、本発明で定める比率の上限(4.0)を下回っている。本発明において、[Ti]/[N]の比率を4.0まで高めることができたのは、母材の前組織(旧γ粒)の形態を後記するように扁平形状としたためである。詳細は、後述する。
式(2):0<P値<23.0
P値=2000×[B]+300×([Ti]−3.42×[N])+1000×[Nb]である。
上式(2)は、HAZ軟化を抑制するための指標として、多くの基礎実験に基づいて定めたものである。本発明では、上式(2)に示すように、Nに比べ、TiおよびB、Nbを添加する場合にはNbを多く添加しており、これにより、主に、Bによる焼入れ性向上作用を有効に発揮させ、フェライトの生成を抑制してHAZ軟化を防止している。このように本発明では、合金元素として、特にBを積極的に活用し、B添加による焼入れ性向上作用をうまく利用してHAZ軟化の防止とHAZ靭性の向上との両立を図っている点で、前述した特許文献1〜4と相違している。
後記する実施例に示すように、P値が0以下の場合、HAZ軟化(前述したQ値で表される特性)が生じてしまう。P値は、HAZ軟化の防止という観点からは高ければ高いほど良いが、P値が23.0以上になると、粗大なベイナイトが生成し、HAZ靭性が低下してしまう。HAZ靭性の向上とHAZ軟化の防止との両立を図るという観点から、P値は、5以上20以下であることが好ましく、10以上15以下であることがより好ましい。
次に、本発明を特徴付ける旧γ粒の形状について説明する。
旧オーステナイト粒の扁平率(長軸/短軸)≧1.5
旧オーステナイト粒(旧γ粒)とは、オーステナイトの状態から冷却された鋼材がフェライトやマルテンサイトなどの別組織に変態したとき、変態前のオーステナイト粒を、変態後の鋼材側から命名された用語である。本発明では、母材の前組織として、旧γ粒の形状を上記のように扁平形状に制御しており、これにより、HAZ靭性が高められることが明らかになった。
図2に、旧γ粒の扁平率とHAZ靭性との関係を示す。この図は、後記する実施例の一部をグラフ化して示したものである。図中の記号は、後記する表5〜7のNo.である。図2より、旧γ粒の扁平率とHAZ靭性とは、密接な相関関係を有しており、旧γ粒の扁平率を1.5以上とすると、所望とするHAZ靭性(vE-60≧150J)が得られる
ことが分かる。上記のように旧γ粒が扁平形状になると、溶接時(オーステナイト域までの再加熱時)におけるオーステナイト(γ)の核生成サイトが増加するため、HAZのγ粒径が微細化され、HAZ靭性が高められるものと思料される。
このような作用を有効に発揮させるため、旧γ粒の扁平率を1.5以上とする。HAZ靭性向上の観点からすれば、旧γ粒の扁平率は大きい程良く、例えば、2.0以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましい。その上限は特に限定されないが、扁平率が大きくなり過ぎると焼入れ性が低下し、母材強度が低下する恐れがあるため、おおむね、15.0とすることが好ましい。旧γ粒の扁平率は、後に詳しく説明するように、例えば、圧延工程を制御することによって調整することができる。
旧γ粒の扁平率は、以下のようにして測定される。
まず、図3に示すように、板厚の1/4位置における圧延方向に垂直な横方向断面を鏡面研磨した試験片を用意する。この試験片を、山本科学工具研究社製AGS液や、2%硝酸−エタノール液(2%ナイタール液)などを用いて腐食処理(エッチング)する。なお、腐食条件は、上記AGS液の場合は室温で5〜10分、2%ナイタール液の場合は室温で5〜30秒とすることが推奨される。腐食処理後の試験片を、光学顕微鏡を用いて倍率400倍で観察して写真撮影を行う。得られた顕微鏡写真(観察視野10視野)について、Media Cybernetics社製「Image−Pro Plus」などを用いて画像解析を行い、観察視野中に認められる個々の旧γ粒の長軸および短軸を測定して扁平率(長軸/短軸)を求め、観察視野10視野の平均値を「旧γ粒の扁平率」とする。
次に、本発明に係る厚鋼板の化学成分を説明する。
C:0.030%以上0.080%以下
Cは、母材強度を確保するために必要な元素である。C量が0.030%未満では母材強度を確保することができなくなる。一方、C量が0.080%を超えると、硬質のMA組織(マルテンサイトとオーステナイトよりなる混合組織)が多くなりすぎてHAZ靭性が低下する。C量は、0.035%以上0.060%未満であることが好ましい。
Si:1.0%以下(0%を含まない)
Siは、鋼材の強度を確保するために有用な元素であり、そのためには、0.10%以上添加することが好ましい。ただし、Siを過剰に添加すると、HAZにMA組織が多く生成し、HAZ靭性が低下するため、その上限を1.0%とする。Siは、0.8%以下であることが好ましい。
Mn:0.8%以上2.0%以下
Mnは、焼入れ性を向上させ、母材の強度を確保するのに有用な元素である。Mnが0.8%未満では、上記作用が有効に発揮されない。一方、Mnが2.0%を超えると、母材靭性およびHAZ靭性が低下する。Mnの下限は、1.25%であることが好ましく、1.50%であることがより好ましく、一方、Mnの上限は、1.60%であることが好ましい。
Al:0.01%以上0.10%以下
Alは、脱酸、およびミクロ組織の微細化による母材靭性向上効果を有する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Alを0.01%以上添加する。ただし、Alを過剰に添加すると、これらの特性がかえって低下するため、上限を0.10%とする。Alの下限は、0.02%であることが好ましく、一方、Alの上限は、0.06%であることが好ましく、0.04%とすることがより好ましい。
Ti:0.015%以上0.030%未満
Tiは、Nと結合して窒化物を形成し、溶接時におけるHAZ部のオーステナイト粒を微細化し、HAZ靭性改善に有効な元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Tiを0.015%以上添加する。ただし、Tiを過剰に添加すると、かえってHAZ靭性が低下するようになるため、Tiの上限を0.030%未満に定めた。Tiは、0.018%以上0.025%以下であることが好ましい。
N:0.0055%超0.0100%以下
Nは、Tiと結合し、TiNを形成して大入熱溶接時のオーステナイト粒を微細化し、HAZ靭性を向上させる元素である。Nの添加量が0.0055%以下では、上記作用が有効に発揮されない。一方、Nを過剰に添加すると、母材靭性やHAZ靭性に悪影響を及ぼすため、その上限を0.0100%とする。Nは、0.0060%以上0.0090%以下であることが好ましく、0.0070%以上0.0080%以下であることがより好ましい。
B:0.0015%以上0.0035%未満
Bは、HAZ靭性の向上とHAZ軟化の防止とを両立させるために極めて重要な元素である。具体的には、HAZのボンド部付近では、TiN中にBNを核にした粒内フェライトを生成し、HAZ靭性の向上に寄与すると共に、HAZから離れた位置(細粒域)では、B添加による焼入れ性向上作用によってHAZ軟化を防止している。このような作用を有効に発揮させるため、Bの下限を0.0015%に定めた。ただし、Bを過剰に添加すると、ボンド部が粗大なベイナイト組織となり、HAZ靭性が低下するため、その上限を0.0035%未満に定めた。Bは、0.0020%以上0.0030%未満であることが好ましい。
Nb:0.015%以下(0%を含む)
Nbは、素地の焼入れ性を向上させて母材強度を高め、HAZ軟化を抑制する元素であり、本発明では、必要に応じて添加される選択成分である。このような作用を有効に発揮させるため、Nbは、0.003%以上添加することが好ましく、0.005%以上添加することがより好ましい。ただし、Nbを過剰に添加すると、母材靭性やHAZ靭性が低下するため、上限を0.015%に定めた。Nbは、0.012%未満であることが好ましく、0.010%未満であることがより好ましい。
本発明の鋼中成分は、上記成分を含有し、残部:Fe及び不可避不純物である。
更に、本発明では、PおよびSの含有量を、以下に示すようにできるだけ少なくすることが好ましい。
P:0.03%以下
Pは、HAZ靭性に悪影響を及ぼすため、0.03%以下に抑制することが好ましく、0.01%以下に抑制することがより好ましい。Pは、少なければ少ないほど良い。
S:0.01%以下
Sは、MnSを形成して延性を低下させる元素であり、特に、高強度鋼において、延性低下作用が大きくなる。このような観点から、Sを0.01%以下に抑制することが好ましく、0.005%以下に抑制することがより好ましい。Sは、少なければ少ないほど良い。
更に、本発明では、以下の元素を積極的に添加して厚鋼板の特性を改善することが好ましい。
Cu:1.0%以下(0%を含まない)、Ni:1.0%以下(0%を含まない)、およびCr:1.0%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種
Cu、Ni、およびCrは、鋼の低温靭性(低温でのシャルピー吸収エネルギー)を向上させると共に、焼入れ性を高めて強度向上に寄与する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Cu、Ni,Crを、それぞれ、0.20%以上添加することが好ましく、0.40%以上添加することがより好ましい。ただし、これらの元素を過剰に添加すると、かえって母材靭性やHAZ靭性が低下するため、Cu、Ni,Crの上限を、それぞれ、1.0%とすることが好ましく、0.80%とすることがより好ましい。なお、これらの元素は、単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても構わない。
Mo:0.5%以下(0%を含まない)
Moは、焼入れ性を高め、強度の確保に有効であるほか、焼戻し脆性を防止するために有効な元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Moを0.1%以上添加することが好ましい。ただし、Moを過剰に添加すると、母材靭性およびHAZ靭性が低下するため、その上限を0.5%とすることが好ましく、0.30%とすることがより好ましい。
V:0.10%以下(0%を含まない)
Vは、少量の添加で焼入れ性および焼戻し軟化抵抗を高める作用を有する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Vを、例えば、0.01%以上添加することが好ましい。ただし、Vを過剰に添加すると、母材靭性およびHAZ靭性が低下するため、Vの上限を0.10%とすることが好ましく、0.05%とすることがより好ましい。
Ca:0.0050%以下(0%を含まない)、Mg:0.0050%以下(0%を含まない)、およびREM:0.010%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種
Ca、Mg、およびREM(希土類元素)は、いずれも、HAZ靭性向上作用を有する元素である。具体的には、CaおよびREMは、MnSを球状化するという介在物の形態制御による異方性を低減する効果を有しており、これにより、HAZ靭性が向上する。一方、Mgは、MgOを形成し、HAZのオーステナイト粒の粗大化を抑制することによってHAZ靭性を向上させる効果を有する。
このような作用を有効に発揮させるため、Ca、Mg、REMの下限を、それぞれ、0.0005%、0.0001%、0.0005%とすることが好ましい。ただし、これらの元素を過剰に添加すると、母材靭性やHAZ靭性がかえって低下するため、Ca、Mg、REMの上限を、それぞれ、0.0050%、0.0050%、0.010%とすることが好ましく、それぞれ、0.0030%、0.0035%、0.005%とすることがより好ましい。これらの元素は、単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても構わない。
Zr:0.10%以下(0%を含まない)および/またはHf:0.050%以下(0%を含まない)
ZrおよびHfは、Tiと同様、Nと結合して窒化物を形成し、溶接時におけるHAZのオーステナイト粒を微細化し、HAZ靭性の改善に寄与する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Zrを0.001%以上、Hfを0.001%以上添加することが好ましい。ただし、これらの元素を過剰に添加すると、かえって母材靭性やHAZ靭性が低下するため、Zrの上限を0.10%、Hfの上限を0.050%とする。これらの元素は、単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても構わない。
Co:2.5%以下(0%を含まない)および/またはW:2.5%以下(0%を含まない)
CoおよびWは、焼入れ性を向上させ、母材強度を高める元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Coを0.2%以上、Wを0.2%以上添加することが好ましい。ただし、これらの元素を過剰に添加すると、母材靭性やHAZ靭性が低下するため、CoおよびWの上限を、それぞれ、2.5%とすることが好ましい。
次に、本発明に係る厚鋼板の好ましい製造方法を説明する。
本発明の厚鋼板は、上記の化学成分を満足する鋼材を用い、加熱および熱間圧延を行った後、必要に応じて、焼戻し処理を行って製造される。
本発明において、旧γ粒の形態を上記のように制御するためには、前述したように鋼中成分を制御すると共に、熱間圧条件を制御することが必要である。具体的には、例えば、AC3点〜1300℃に加熱して熱間圧延を行う際、850℃以下の圧下量を全圧下量の50%以上、好ましくは全圧下量の60%以上とする。このように、低温圧延での圧下量を高くすることにより、旧γ粒の扁平率を上記の範囲に制御することができる。後記する実施例に示すように、鋼中成分が上記範囲を満足する鋼材を用いても、低温圧延での圧下量が上記範囲を満足しないものは、旧γ粒の扁平率が上記範囲を満足しないため、結果的に、HAZ靭性が低下してしまう。
その他の圧延条件は、特に限定されないが、例えば、圧延開始温度を1100℃以下(より好ましくは950℃以下)に設定することが好ましい。また、圧延後の冷却手段や冷却条件は、特に限定されず、通常通り空冷しても良いし、空冷の代わりに水冷してMA組織の生成を抑えても良い。水冷する場合は、例えば、3℃/sec以上、好ましくは5℃/sec以上、より好ましくは10℃/sec以上の冷却速度で行うことが推奨される。
なお、圧延後に、例えば、600℃以下(好ましくは、550℃以下)の温度で焼戻しを行っても良い。これにより、マルテンサイトの分解による母材靭性の向上効果が得られる。
また、加熱条件は特に限定されず、例えば、1200℃以下の温度で加熱することが好ましい。加熱温度は、1100℃以下であることがより好ましく、950℃以下であることが更に好ましい。
以下、実施例を挙げ、本発明を詳細に説明する。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施しても良く、このような態様も、すべて、本発明の技術的範囲に包含される。
表1〜4に示す種々の組成の鋼を、通常の溶製法によって溶製してスラブとした後、加熱、熱間圧延、および焼戻し処理を行って板厚80mmの高張力鋼板を製造した。具体的には、表5〜8に示すように、1100℃の温度で加熱し、全圧下量に対する850℃以下の圧下量を種々変化させて圧延した。圧延開始温度は1050℃とした。その後、500℃の温度で焼戻し処理を行った。
このようにして製造した鋼板に対し、下記要領で、旧γ粒の扁平率を測定すると共に、母材の引張強度、溶接性(HAZ靭性およびHAZ軟化)、およびHAZ軟化(前述したQ値で表されるHAZの最高硬さと最低硬さとの差)を測定した。
[旧γ粒の扁平率]
前述した方法により、各鋼板の板厚1/4部位を鏡面研磨した試験片を、2%ナイタール液でエッチングした後、光学顕微鏡を用いて50倍で観察し、写真撮影をした。この観察視野10視野(1.35mm×1.80mm/視野)について、Media Cybernetics社製「Image−Pro Plus」を用いて画像解析を行い、鋼組織中の旧γ粒の形態(扁平率)を測定した。
[引張強度]
各鋼板の板厚1/4部位からJIS4号試験片を採取し、引張試験を行うことにより、引張強度を測定した。本実施例では、引張強度が490MPa以上のものを合格(本発明例)とした。
[HAZ靭性]
入熱60kJ/mmで溶接(エレクトロガスアーク溶接)を行い、図4に示す部位からJIS4号試験片を採取し、−60℃でシャルピー衝撃試験を行い、板厚の1/4部位における溶接溶融線(ボンド部)の吸収エネルギー(vE-60)を求めた。vE-60が、vE-60≧150Jのものを合格(本発明例)とした。この入熱条件によれば、ボンド
部は、1400℃の温度に加熱して50秒間保持した後、780℃から500℃の温度範囲を500秒で冷却する熱サイクルを受けたことになる。
[HAZ軟化]
前述したHAZ靭性と同じ条件で溶接を行った溶接継手部分を鏡面研磨した試験片を用意し、この試験片の板厚1/4部位における溶接溶融線(ボンド)位置から30mm離れた位置まで1mmピッチで連続的に硬さを測定し、硬さの最高値(ボンド部の硬さ)と最低値との差(Q値)をHAZ軟化の指標とした。硬さは、マイクロビッカース硬度計(MATSUZAWA SEIKI製DMH−1)を用いて測定した。本実施例では、Q値≦40HVのものを合格(HAZ軟化が抑えられた)と評価した。
これらの結果を表5〜8に併記する。表5〜8の各No.は、それぞれ、表1〜4の鋼種No.と対応しており、例えば、表5のNo.1は、表1の鋼種No.1を用いて、表5に示す条件で製造した例である。
Figure 2007177327
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表5〜8より、以下のように考察することができる。
表5〜6のNo.1〜44は、鋼中成分が本発明の要件を満足する表1〜2の鋼種1〜39を用いた本発明例であり、本発明で規定する製造条件で製造したため、旧γ粒の扁平率も本発明の範囲を満足している。その結果、vE-60が150J以上と、HAZ靭性
に優れており、且つ、Q値≦40HVと、HAZ軟化を抑えることもできた。
これに対し、表7〜8のNo.51、54〜85は、鋼中成分が本発明の要件を満足しない表3〜4の鋼種51、54〜85を用いた比較例であり、当該鋼種を用いた場合は、本発明で規定する製造条件で製造したとしても、所望の特性をすべて満足することはできなかった。
また、表7のNo.52〜53は、鋼中成分が本発明の要件を満足しない表3の鋼種52〜53を用いているが、本発明で規定する圧下量を満足しない条件で製造した比較例であり、旧γ粒の扁平率が小さくなってHAZ靭性が低下した。
図1は、母材同士を溶接金属で溶接したときの様子を模式的に示す図であり、図1(a)は、溶接部の断面図であり、図1(b)は、図1(a)中に示す領域Aの硬度分布を模式的に示す図である。 旧γ粒の扁平率とHAZ靭性との関係を示すグラフである。 旧γ粒の扁平率の測定位置を示す図である。 ボンド部の靭性(HAZ靭性)の試験片採取位置を示す図である。

Claims (8)

  1. C :0.030%以上0.080%以下(%は質量%の意味。以下同じ)、
    Si:1.0%以下(0%を含まない)、
    Mn:0.8%以上2.0%以下、
    Al:0.01%以上0.10%以下、
    Ti:0.015%以上0.030%未満、
    N :0.0055%超0.0100%以下、
    B :0.0015%以上0.0035%未満、
    Nb:0.015%以下(0%を含む)
    を含有し、
    残部:Fe及び不可避不純物からなり、
    旧オーステナイト粒の扁平率(長軸/短軸)が1.5以上であり、且つ、
    下式(1)および(2)を満足することを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れ、軟化が小さい厚鋼板。
    2.0≦[Ti]/[N]≦4.0 ・・・ (1)
    0<P値<23.0 ・・・ (2)
    P値
    =2000×[B]+300×([Ti]−3.42×[N])+1000×[Nb]
    式中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を意味する。
  2. Cu:1.0%以下(0%を含まない)、Ni:1.0%以下(0%を含まない)、およびCr:1.0%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種を更に含有する請求項1に記載の厚鋼板。
  3. P:0.03%以下およびS:0.01%以下に抑制されたものである請求項1または2に記載の厚鋼板。
  4. Mo:0.5%以下(0%を含まない)を更に含有する請求項1〜3のいずれかに記載の厚鋼板。
  5. V:0.10%以下(0%を含まない)を更に含有する請求項1〜4のいずれかに記載の厚鋼板。
  6. Ca:0.0050%以下(0%を含まない)、Mg:0.0050%以下(0%を含まない)、およびREM:0.010%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも1種を更に含有する請求項1〜5のいずれかに記載の厚鋼板。
  7. Zr:0.10%以下(0%を含まない)および/またはHf:0.050%以下(0%を含まない)を更に含有する請求項1〜6のいずれかに記載の厚鋼板。
  8. Co:2.5%以下(0%を含まない)および/またはW:2.5%以下(0%を含まない)を更に含有する請求項1〜7のいずれかに記載の厚鋼板。
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