JP2005336602A - 入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材 - Google Patents

入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材 Download PDF

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Abstract

【課題】 入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材を提供する。
【解決手段】 本発明は、質量%で、C:0.03〜0.17%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.40〜1.90%、P:0.020%以下、S:0.0010〜0.020%、Al:0.001〜0.070%、Ti:0.005〜0.030%、N:0.0010〜0.0100%、B:0.0002〜0.0050%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、炭素当量Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15および固溶B量式EB=B−0.69×N+0.12×Tiがそれぞれ、0.30≦Ceq≦0.35、0.0002≦EB≦0.0010を満たし、粒界フェライトが組織中に占める割合が1〜20%であることを特徴とする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、船舶、海洋構造物、中高層ビル、橋梁などに使用される溶接熱影響部(以下、HAZと称す。)の靭性に優れた溶接構造用鋼材に関するものである。
近年、船舶、海洋構造物、中高層ビル、橋梁などの大型構造物に使用される溶接用鋼材の材質特性に対する要望は厳しさを増している。さらに、そのような構造物を建造する際、溶接の効率化を促進するため、エレクトロガス溶接法、エレクトロスラグ溶接法などに代表されるような大入熱溶接法の適用が希望されており、鋼材自身の靭性と同様に、HAZの靭性への要求も厳しさを増している。
従来から、大入熱溶接法が適用される鋼材のHAZ靭性に注目した提案は、数多くなされてきた。例えば、特許文献1等に開示されるように、微細なTi窒化物を鋼中に確保することによって、HAZのオーステナイト粒を小さくし、靭性を向上させる方法がある。また、特許文献2ではTi窒化物とMnSとの複合析出物をフェライトの変態核として活用し、HAZの靭性を向上させる方法が提案されている。さらに、特許文献3ではTi窒化物とBNとの複合析出物を粒界フェライトの析出核として活用し、HAZ靭性を向上させる方法が提案されている。
しかしながら、このTi窒化物は、HAZのうち最高到達温度が1400℃を超える溶接金属との境界(以下、溶接ボンド部とも称する。)近傍ではほとんど固溶してしまうので、靭性向上効果が低下してしまうという問題がある。そのため、上記のようなTi窒化物を利用した鋼材では、近年のHAZ靭性に対する厳しい要求や、超大入熱溶接におけるHAZ靭性の必要特性を達成することが困難である。
この溶接ボンド部近傍の靭性を改善する方法として、Ti酸化物を含有した鋼が厚板、形鋼などの様々な分野で使用されている。例えば、厚板分野では特許文献4や特許文献5に例示されているように、Ti酸化物を含有した鋼が大入熱溶接部靭性向上に非常に有効であり、高張力鋼への適用が有望である。この原理は、鋼の融点においても安定なTi酸化物をサイトとして、溶接後の温度低下途中にTi窒化物、MnS等が析出し、さらにそれらをサイトとして微細フェライトが生成し、その結果、靭性に有害な粗大フェライトの生成が抑制されて、靭性の劣化が防止できるというものである。
しかしながら、このようなTi酸化物は、鋼中へ分散される個数をあまり多くすることができないという問題がある。その原因は、Ti酸化物の粗大化や凝集合体であり、Ti酸化物の個数を増加させようとすれば5μm以上の粗大なTi酸化物、いわゆる介在物が増加してしまうためと考えられる。この5μm以上の介在物は、構造物の破壊の起点となったり、靭性の低下を引き起こしたりして、有害であるため回避すべきものである。そのため、さらなるHAZ靭性の向上を達成するためには、粗大化や凝集合体が起こりにくく、Ti酸化物よりも微細に分散する酸化物を活用する必要があった。
また、このようなTi酸化物の鋼中への分散方法としては、Al等の強脱酸元素を実質的に含まない溶鋼中へのTi添加によるものが多い。しかしながら、単に溶鋼中にTiを添加するだけでは鋼中のTi酸化物の個数、分散度を制御することは困難であり、さらには、TiN、MnS等の析出物の個数、分散度を制御することも困難である。そのため、Ti脱酸のみによってTi酸化物を分散させた鋼においては、例えば、Ti酸化物の個数が充分ではなかったり、厚板の板厚方向の靭性変動を生じたりする問題があった。
さらに、上記特許文献4などの方法では、Ti酸化物を生成しやすくするために、Al量の上限を、0.007%という非常に少ない量で制限している。そのため、鋼材中のAl量が少ない場合、AlN析出物量の不足などの原因により、母材の靭性が低下する場合があった。また、通常使用されている溶接材料を用いてAl量の少ない鋼板を溶接した場合、溶接金属の靭性が低下する場合があった。
このような問題に対して、特許文献6や特許文献7において、Ti添加直後のAl添加、あるいはAl、Ca複合添加で、生成するTi−Al複合酸化物やTi、Al、Caの複合酸化物を活用する技術が提案されている。このような技術により、大入熱溶接HAZ靭性を大幅に向上させることが可能となった。
特公昭55−026164号公報 特開平03−264614号公報 特開平04−143246号公報 特開昭61−079745号公報 特開昭62−103344号公報 特開平06−293937号公報 特開平10−183295号公報
しかしながら、造船業界、建設業界においては、近年、20kJ/mm以上の大入熱溶接、大きいものでは100kJ/mmにもなる大入熱溶接の適用が検討されるようになり、上記の特許文献5〜7などの従来手法では、特に溶接ボンド部近傍で十分な溶接熱影響部靱性を得ることができず、更なる靭性の向上が必要とされるようになってきた。
そこで、本発明は、HAZ靭性低下の原因となるHAZ部の硬さの低減と、入熱の増加に伴う冷却速度の低下により粗大化しHAZ靭性の低下の原因となる粒界フェライトの粗大化を抑制することにより、優れたHAZ靭性を実現できる、溶接熱影響部靭性の優れた鋼材を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、HAZ部の硬さの低減に(1)式で示される炭素当量(Ceq.)の低減を、さらに、粒界フェライトの粗大化抑制にBを利用することで達成することを着想した。以下に、本発明がなされるまでの経緯を説明する。
Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 (1)
炭素当量はHAZ硬さ低減の観点から低ければ低いほど良いと考えられるが、母材強度を確保する必要があることから0.30以上0.35以下とした。また、溶接時の入熱が高くなると溶融部では、高温に加熱される時間が長くなるため、オーステナイト粒が粗大に成長し、それに付随して最終組織も粗くなるため靭性の低下を招く。従って、靭性改善にはオーステナイト粒の成長を抑制することが必要である。その手段として最も有効な方法は、分散粒子によりオーステナイトの粒界をピンニングし、粒界の移動を止める方法である。このような分散粒子としては、従来、Ti窒化物(特許文献1〜3参照)や、1400℃以上の高温で安定なTi酸化物(特許文献4、5参照)がピンニング粒子として活用されてきた。そして、分散粒子による結晶粒界のピンニング効果は、分散粒子の体積率が大きいほど大きいことから、Al、Caを随時脱酸元素として用いて酸化物の体積分率を大きくし、かつ適正な粒子径とする方法が提案されてきた(特許文献6、7参照)。これにより、オーステナイト粒は細粒化し、HAZ靭性もそれに伴い向上するが、同時にオーステナイト粒が微細化するに伴い粒界面積が増し、粒界からのフェライト生成能も増し、上述したように、非常に厳しい靭性要求や溶接直後の冷却速度が非常に遅い場合では、粒界に生成するフェライトが粗大化して脆性破壊の発生起点となることから十分なHAZ靭性が得られないという問題点が見出された。
従ってHAZ靭性を改善するためには、粒界に形成するフェライトを抑制することが必要であると考えた。そして、粒界のフェライト成長の抑制にBを適用した。但し、単にBを添加するだけではフェライト生成を抑制しない場合がある。そこで本発明者ら更に詳細検討した。その結果、下記の(2)式で示される固溶B量(EB)を0.0002以上とすることにより、HAZの組織中に占める粒界フェライト分率を20%以下に抑えられ、延性・脆性遷移温度が−10℃以下となる良好な靭性が得られることを見出した。さらに、固溶B量(EB)の上限に関して検討した結果、0.0010を超える場合では、HAZの組織中の粒界フェライトが1%未満となりほぼ全体が上部ベイナイト組織となるために靭性が低下することを見出した。すなわち、図4に示すように、計算固溶B量(EB)を0.0002以上0.0010以下とすることによりHAZ組織中の粒界フェライト分率を1〜20%にさせることができ、靭性を改善できることを見出した。
EB=(質量%B)−0.69(質量%N)+0.12×(質量%Ti) (2)
さらに、式(3)で示されるEBN値を0.0002以上、または、γ粒径を250μm以下にするとHAZ靭性は1段と向上し、延性脆性遷移温度で−20℃以下となることを見出した。
EBN=0.69×(質量%N)−0.12×(質量%Ti) (3)
本発明は、以上の知見に基づき、さらに検討を重ねてはじめてなされたものであり、その要旨は、下記のとおりである。
(1)質量%で、C:0.03〜0.17%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.40〜1.90%、P:0.020%以下、S:0.0010〜0.020%、Al:0.001〜0.070%、Ti:0.005〜0.030%、N:0.0010〜0.0100%、B:0.0002〜0.0050%を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記(1)式で示される炭素当量(Ceq)が0.30≦Ceq≦0.35を満たし、下記(2)式で示される固溶B量(EB)が0.0002≦EB≦0.0010を満たし、かつHAZ組織の粒界フェライトが組織中に占める割合(以下「粒界フェライト分率」ともいう。)が1〜20%であることを特徴とする、入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材。
Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 (1)
EB=B−0.69×N+0.12×Ti (2)
ただし、C、Mn、Cr、Mo、V、Ni、Cu、B、N、Tiは、各元素の含有量(質量%)である。
(2)さらに、下記(3)式で示されるBN析出量(EBN)がEBN≧0.0002を満たすことを特徴とする、上記(1)に記載の入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材。
EBN=0.69×N−0.12×Ti (3)
ただし、N、Tiは、各元素の含有量(質量%)である。
(3)さらに、質量%で、Cu:0.10〜1.00%、Ni:0.10〜4.00%、Cr:0.01〜0.60%、Mo:0.01〜0.60%の1種または2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材。
(4)さらに、質量%で、Nb:0.002〜0.100%、V:0.002〜0.100%の1種または2種を含有することを特徴とする、上記(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材。
(5)さらに、質量%で、Ca:0.0002〜0.0050%、Mg:0.0002〜0.0050%、Zr:0.0010〜0.1000%、REM:0.0010〜0.1000%の1種または2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材。
(6)2次元円相当粒子径が0.05〜1.0μmとなる酸化物粒子を、100〜3000個/mm2含有することを特徴とする、上記(5)に記載の入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材。
(7)45kJ/mm相当の溶接熱サイクルを付与したときの再現HAZ組織のオーステナイト粒の平均粒径が250μm以下であることを特徴とする、上記(6)に記載の入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材。
なお、本発明でいう粒界フェライトとは、粒界に沿って成長するアルトリオモルフ・フェライト(allotriomorphic ferrite)を指し、粒界フェライト分率は、HAZ組織を100倍の倍率で撮影(測定範囲:1mm2以上)し、組織に占める粒界フェライトの分率を画像処理によって求めた。
γ粒径の測定は、HAZ組織を50倍の倍率で撮影(測定範囲:1mm2以上)し、切断法によって求めた。
酸化物の測定は、HAZ組織を電解研磨してレプリカを作製し、TEM(透過型電子顕微鏡)にて0.01mm2の範囲を観察し、0.05〜1.0μmの酸化物をカウントして、1mm2あたりの粒子密度に換算した。
本発明は、船舶、海洋構造物、中高層ビルなどの破壊に対する厳しい靭性要求を満足する鋼板を供給するものであり、この種の産業分野にもたらす効果は極めて大きく、さらに構造物の安全性の意味から社会に対する貢献も非常に大きい。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、船舶、海洋構造物、中高層ビル、橋梁などに使用される溶接構造用鋼材全般に加えて、鋼管用素材の鋼板、棒鋼、条鋼、熱延鋼板などにも適用可能であり、いずれの場合も溶接継手部の靭性の大幅向上が得られるものである。
まず、本発明の基本成分範囲の限定理由について述べる。
Cは、鋼の強度を向上させる有効な成分として下限を0.03%とし、また過剰の添加は、鋼材の溶接性やHAZ靭性などを著しく低下させるので、上限を0.17%とした。
Siは、母材の強度確保、脱酸などに必要な成分であり0.01%以上添加するが、HAZの硬化により靭性が低下するのを防止するため上限を0.50%とした。
Mnは、母材の強度、靭性の確保に有効な成分として0.40%以上の添加が必要であるが、1.90%より多く添加するとHAZ中に島状マルテンサイト(MA)が生成しやすくなり靭性を低下させるため、上限を1.9%とした。
Pは、含有量が少ないほど望ましいが、これを工業的に低減させるためには多大なコストがかかることから、許容範囲を0.020%以下とした。
Sは、鋼中で硫化物として析出し、粒内フェライトの生成核となるBNの析出サイトとなる重要な元素であり、0.0010%以上添加することが必要である。しかし、添加量が多くなると母材靭性を劣化させることから、0.020%を上限とした。
Alは、重要な脱酸元素であり、0.001%は必要であることから、下限値を0.001%とした。また、Alが多量に存在すると、鋳片の表面品位が劣化するため、上限を0.070%とした。
TiはNと結合してTi窒化物を形成させるために0.005%以上添加する。しかし、固溶Ti量が増加するとHAZ靭性が低下するため、0.030%を上限とした。
Nは、Tiと結合してTi窒化物を形成させるために0.0010%以上添加するが、量が増えると固溶Nが増大しHAZ靭性の低下を招くことから0.0100%を上限とした。
Bは、加熱オーステナイト粒界に生成するフェライトの成長を抑制する上で有効な元素であり、少なくとも0.0002%添加する。しかし多量に添加すると母材靭性を劣化させるため、上限を0.0050%とした。
Cuは、鋼材の強度および耐食性を向上させるために必要に応じて0.10%以上添加するが、1.00%を越えるとHAZ靭性を低下させることから、1.00%を上限とした。
Niは、母材靭性の大きく低下させずに強度を向上させ、またHAZ靭性を改善させる傾向があることから必要に応じて0.10%以上添加するが、4.00%以上の添加は製造コストを上昇させることから、Niの範囲を0.10%以上4.00%以下とした。
Cr、Moは、母材の強度を向上させるために有効な元素であり必要に応じて0.01%添加するが、ともに過剰な添加は母材靭性を著しく低下させることから、それぞれ0.60%、0.60%を上限とした。
Nbは、焼き入れ性を向上させることにより母材の強度を向上させるために有効な元素であり必要に応じて添加するが、低Ceqにおいては0.002%未満の添加では十分な強度上昇が得られず、また0.100%を超える過剰な添加は母材の靭性を著しく低下させることから、Nbの添加範囲を0.002%以上0.100%以下とした。
Vは、母材の強度を向上させるために有効な元素であり必要に応じて0.002%以上添加するが、過剰な添加は母材靭性を著しく低下させることから0.100%を上限とした。
Ca,Mg、REM、Zrは、いずれも溶鋼中で強い脱酸力を有し、微細酸化物形成を補助する働きがあることから、必要に応じて添加する。それぞれの脱酸効果を示す添加量は、Ca:0.0002%、Mg:0.0002、REM:0.0010%、Zr:0.0010%であるが、多量に添加すると、粗大な介在物ができて母材特性を損ねることから、それぞれの添加の上限をCa:0.0050%、Mg:0.0050、REM:0.1000%、Zr:0.1000%とした。
次に、粒界フェライト成長の抑制条件について述べる。本発明では粒界フェライト成長の抑制としてBを用いるが、Bを添加するだけでは粒界フェライト生成を抑制しない場合があることを見出した。そこで本発明者らは更に詳細検討した。その結果、粗大化した粒界フェライトの抑制には、フェライトを抑制する固溶状態のBの存在が必要であるが、過剰に存在すると粒界フェライトが消滅してしまい組織全体が上部ベイナイト組織になり靭性が低下する。一方、Ti、N添加鋼においては、B添加量中に占める固溶B量はN、Ti量によっても変化する。このことから本発明者らはHAZ靭性に影響を及ぼす粒界フェライト分率と、固溶B量をTi、Nを含めて(2’)式のように化学量論的に求めた値(EB’値)との関係を検討した。
検討には熱サイクル試験片を用いて、板厚65mmの鋼板を入熱45kJ/mmのエレクトロガス溶接を施した際に得られるHAZのいくつかの部位から得られた熱履歴をもとに解析した板厚中心の溶融線での熱履歴(室温から最高加熱温度1400℃まで40秒で加熱し、この最高加熱温度に25秒間保持した後、800℃から500℃までを5分間かけて冷却)を施した時の再現HAZ組織を用いた。
その結果、図1に示すように、EB’値が0.0004以上0.0020以下の範囲であれば粒界フェライトの量が最適範囲の1〜20%となり、HAZ靭性が飛躍的に向上し、延性・脆性遷移温度(vTrs)で−10℃以下に向上することを見出した。
さらに、発明者らはオーステナイト粒の粒径を250μm以下に抑制することで再現HAZ靭性は一層向上させることができ、vTrsで−20℃以下に改善させることを見出した。
EB’=(質量%B)−0.77×(質量%N)+0.23×(質量%Ti)(2’)
なお、オーステナイト粒を細粒化させる方法としては、通常脱酸後、より酸化力の強いCa、Mg、REM、Zrを、粗大な介在物が生成しないように、鋼中の酸素濃度を10〜40ppmに制御し、かつ添加量を上述の範囲に制限することで達成させる。例えば、溶解時にAl、Caにより逐次脱酸することで微細酸化物を多数分散させ、酸化物のピンニングによる方法等がある。これらの方法によって2次元円相当粒子径が0.05〜1.0μmとなる酸化物粒子を100〜3000個/mm含有させることによって、オーステナイト粒径を250μm以下に抑えることができる。また、微細酸化物を多数分散させずに、熱サイクルで最高加熱温度を低く抑えたり、最高加熱温度での保持時間を短くしたりしてオーステナイト粒を250μmに抑えることができる。
次に発明者らは、粒界フェライト(α)生成前のBの存在状態と再現HAZの組織および靭性との関係をより明確にするため、Bの存在状態との関係を詳細検討した。図2は、上述の熱履歴の冷却途中である変態前の実測固溶B量と、室温まで冷却させたときの再現HAZ組織の粒界α分率(上図)と靭性(下図)を示したものである。オーステナイト(γ)中のBの存在状態は、上述の熱履歴の冷却途中である変態前(この場合は750℃)で水冷したものを化学分析して、固溶B、析出Bに分類したものである。析出Bは更にB窒化物(BN)とB炭化物の分類を行った。図2から、粒界α分率が、変態前のオーステナイト中での固溶B量によって一義的に減少し靭性が向上することが確認できる。さらに、靭性が向上する固溶B量が2ppmから10ppmであることを確認した。ここで化学分析による固溶B量は、本結果から、含有するTi量、B量およびN量を用いて(2)式で算出されるEBで示され、0.0002≦EB≦0.0010の条件ではHAZ靭性がvTrsで−10℃以下となる。
さらに、発明者らは、図3にも示されるように、α分率が1〜20%に規定した上で、Bの析出物であるBNがB量で2ppm以上析出する場合にHAZ靭性がさらに向上し、vTrsで−20℃以下になることを見出した。このBNとしてのB量は、本結果から、含有するTi量やN量を用いて(3)式で算出されるEBNで示され、EBN≧0.0002のときHAZ靭性が更に改善する。
なお、図1で示した鋼に関して、固溶B量を上述の(2)式を用いて再現HAZ靭性を整理し直すと図4となり、EB値が、0.0002≦EB≦0.0010の条件でvTrsで−10℃以下となることが確認できる。さらに、γ粒径が250μm以下、もしくは、上述のEBN値がEBN≧0.0002となる場合では、vTrsが−20℃以下となり靭性がさらに向上することが確認できる。
本発明は、(1)式で示すCeqが0.30以上0.35以下であれば、入熱45kJ相当入熱の場合だけでなく、入熱20〜100kJ/mmの場合でも同様な傾向を示すことを上述のサンプルを用いた再現熱サイクル試験によって確認している。すなわち、γ中での固溶B量が2ppm以上10ppm以下で靭性が向上し、さらにEBN値が0.0002以上であればHAZ靭性が一層向上する結果が得られる。なお、C量が0.08以上になるとB析出物の一部はB炭化物になるが、この場合もBNが2ppm以上析出する場合には、靭性は改善する。
表1に示した化学成分で試験材を試作した。A1〜A18が本発明鋼、B1〜B11が比較鋼である。試験材は真空溶解で溶製している。A1〜A7およびB1〜B8の脱酸は、Ti投入前に溶鋼の溶存酸素をCで調整し、その後Ti、Al、Caを順に添加し脱酸を行った。A8〜A14およびB9の脱酸は、溶鋼中の酸素を10〜30ppmに制御した後、Ca、Mg、REM、Zrを1種類もしくは2種類以上添加し脱酸を行った。A15〜A18,およびB10〜B11はAl脱酸である。その後これらを1200℃に加熱し15mmの圧延材とし、熱サイクル試験片を採取した。
得られた試験片に45kJ/mm相当の大入熱溶接を模擬した熱サイクル(室温から最高加熱温度1400℃まで40秒で加熱し、この最高加熱温度に25秒間保持した後、800℃から500℃までを5分間かけて冷却)を付与しシャルピー衝撃試験による靭性を評価した。また同時に再現HAZ組織をナイタール腐食し光学顕微鏡により観察し、オーステナイト粒径の測定は50倍の倍率で撮影した写真(160mm×200mm)から切断法により測定し、粒界フェライトの分率は100倍の倍率で撮影した写真(160mm×200mm)を用いて画像解析から求めた。さらに、2次元円相当粒子径が0.05〜1.0μmの酸化物粒子の密度を測定するため、再現HAZ組織を電解研磨してレプリカを作製し、TEMにて0.01mm2の範囲を観察し、0.05〜1.0μmの酸化物をカウントして1mm2あたりの粒子密度に換算した。
表2には、式(1)で示されるCeq値、式(2)、(3)、(2’)で示されるEB値、EBN値、EB’値、オーステナイト粒径、HAZ組織に占める粒界フェライト分率、2次元円相当粒子径が0.05〜1.0μmの酸化物粒子の密度、およびHAZ靭性値(延性・脆性遷移温度(vTrs))を示す。
表2から明らかなように、A1〜A18の本発明鋼は、延性・脆性遷移温度(vTrs)が−10℃以下であり、優れたHAZ靭性を有することが判る。この中でオーステナイト粒径を250μmに制御しており、また、2次元円相当粒子径が0.05〜1.0μmの酸化物粒子の密度が100〜3000個あるA1〜A15、およびEBNが0.0002以上であるA16はHAZ靭性がさらに高く、vTrsで−20℃以下になっている。
一方、比較例のB1〜11は、いずれも延性・脆性遷移温度が0℃以上となっておりHAZ靭性が低い。これらの原因はB1〜8、B10、B11では、EB値が本発明範囲から外れ、そのため粒界フェライト分率が本発明範囲から外れるためであり、B9はCeq値が高く本発明範囲から外れるためである。
Figure 2005336602
Figure 2005336602
(2’)式から算出した固溶B量(EB’値)と再現HAZ靭性の関係を示す図である。 実測固溶B量と粒界フェライト分率、再現HAZ靱性の関係を示す図である。 粒界フェライト分率と再現HAZ靭性の関係を示す図である。 (2)式から算出した固溶B量(EB値)と再現HAZ靭性の関係を示す図である。

Claims (7)

  1. 質量%で、
    C :0.03〜0.17%、
    Si:0.01〜0.50%、
    Mn:0.40〜1.90%、
    P :0.020%以下、
    S :0.0010〜0.020%、
    Al:0.001〜0.070%、
    Ti:0.005〜0.030%、
    N :0.0010〜0.0100%、
    B :0.0002〜0.0050%
    を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記(1)式で示される炭素当量(Ceq)が0.30≦Ceq≦0.35を満たし、下記(2)式で示される固溶B量(EB)が0.0002≦EB≦0.0010を満たし、かつHAZ組織の粒界フェライトが組織中に占める割合(以下「粒界フェライト分率」ともいう。)が1〜20%であることを特徴とする、入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材。
    Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 (1)
    EB=B−0.69×N+0.12×Ti (2)
    ただし、C、Mn、Cr、Mo、V、Ni、Cu、B、N、Tiは、各元素の含有量(質量%)である。
  2. さらに、下記(3)式で示されるBN析出量(EBN)がEBN≧0.0002を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材。
    EBN=0.69×N−0.12×Ti (3)
    ただし、N、Tiは、各元素の含有量(質量%)である。
  3. さらに、質量%で、
    Cu:0.10〜1.00%、
    Ni:0.10〜4.00%、
    Cr:0.01〜0.60%、
    Mo:0.01〜0.60%
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材。
  4. さらに、質量%で、
    Nb:0.002〜0.100%、
    V :0.002〜0.100%
    の1種または2種を含有することを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材。
  5. さらに、質量%で、
    Ca:0.0002〜0.0050%、
    Mg:0.0002〜0.0050%、
    Zr:0.0010〜0.1000%、
    REM:0.0010〜0.1000%
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材。
  6. 2次元円相当粒子径が0.05〜1.0μmとなる酸化物粒子を、100〜3000個/mm2含有することを特徴とする、請求項5に記載の入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材。
  7. 45kJ/mm相当の溶接熱サイクルを付与したときの再現HAZ組織のオーステナイト粒の平均粒径が250μm以下であることを特徴とする、請求項6に記載の入熱20〜100kJ/mmの大入熱溶接用高HAZ靭性鋼材。
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