JP4261968B2 - 溶接熱影響部靭性の優れた鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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- Treatment Of Steel In Its Molten State (AREA)
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、船舶、海洋構造物、中高層ビル、橋梁などに使用される、溶接熱影響部(以下、HAZとも称す。)の靭性に優れた溶接構造用鋼材およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、船舶、海洋構造物、中高層ビル、橋梁などの大型構造物に使用される溶接用鋼材の材質特性に対する要望は厳しさを増している。さらに、そのような構造物を建造する際、溶接の効率化を促進するため、エレクトロガス溶接法、エレクトロスラグ溶接法などに代表されるような大入熱溶接法の適用が希望されており、鋼材自身の靭性と同様に、HAZの靭性への要求も厳しさを増している。
【0003】
従来から、大入熱溶接法が適用される鋼材のHAZ靭性に注目した提案は、数多くなされてきた。例えば、特許文献1等に開示されるように、微細なTi窒化物を鋼中に確保することによって、HAZのオーステナイト粒を小さくし、靭性を向上させる方法がある。また、特許文献2ではTi窒化物とMnSとの複合析出物をフェライトの変態核として活用し、HAZの靭性を向上させる方法が提案されている。さらに、特許文献3ではTi窒化物とBNとの複合析出物を粒界フェライトの析出核として活用し、HAZ靭性を向上させる方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、このTi窒化物は、HAZのうち最高到達温度が1400℃を超える溶接金属との境界(以下、溶接ボンド部とも称する。)近傍ではほとんど固溶してしまうので、靭性向上効果が低下してしまうという問題がある。そのため、上記のようなTi窒化物を利用した鋼材では、近年のHAZ靭性に対する厳しい要求や、超大入熱溶接におけるHAZ靭性の必要特性を達成することが困難である。
【0005】
この溶接ボンド部近傍の靭性を改善する方法として、Ti酸化物を含有した鋼が厚板、形鋼などの様々な分野で使用されている。例えば、厚板分野では特許文献4や特許文献5に例示されているように、Ti酸化物を含有した鋼が大入熱溶接部靭性向上に非常に有効であり、高張力鋼への適用が有望である。この原理は、鋼の融点においても安定なTi酸化物をサイトとして、溶接後の温度低下途中にTi窒化物、MnS等が析出し、さらにそれらをサイトとして微細フェライトが生成し、その結果、靭性に有害な粗大フェライトの生成が抑制されて、靭性の劣化が防止できるというものである。
【0006】
しかしながら、このようなTi酸化物は、鋼中へ分散される個数をあまり多くすることができないという問題がある。その原因は、Ti酸化物の粗大化や凝集合体であり、Ti酸化物の個数を増加させようとすれば5μm以上の粗大なTi酸化物、いわゆる介在物が増加してしまうためと考えられる。この5μm以上の介在物は、構造物の破壊の起点となったり、靭性の低下を引き起こしたりして、有害であるため回避すべきものである。そのため、さらなるHAZ靭性の向上を達成するためには、粗大化や凝集合体が起こりにくく、Ti酸化物よりも微細に分散する酸化物を活用する必要があった。
【0007】
また、このようなTi酸化物の鋼中への分散方法としては、Al等の強脱酸元素を実質的に含まない溶鋼中へのTi添加によるものが多い。しかしながら、単に溶鋼中にTiを添加するだけでは鋼中のTi酸化物の個数、分散度を制御することは困難であり、さらには、TiN、MnS等の析出物の個数、分散度を制御することも困難である。そのため、Ti脱酸のみによってTi酸化物を分散させた鋼においては、例えば、Ti酸化物の個数が充分でなかったり、厚板の板厚方向の靭性変動を生じる等の問題があった。
【0008】
さらに、上記特許文献4などの方法では、Ti酸化物を生成しやすくするために、Al量の上限を、0.007%という非常に少ない量で制限している。そのため、鋼材中のAl量が少ない場合、AlN析出物量の不足などの原因により、母材の靭性が低下する場合があった。また、通常使用されている溶接材料を用いてAl量の少ない鋼板を溶接した場合、溶接金属の靭性が低下する場合があった。
【0009】
このような問題に対して、特許文献6や特許文献7において、Ti添加直後のAl添加、あるいはAl、Ca複合添加で、生成するTi−Al複合酸化物やTi、Al、Caの複合酸化物を活用する技術が提案されている。このような技術により、大入熱溶接HAZ靭性を大幅に向上させることが可能となった。
【0010】
【特許文献1】
特公昭55−26164号公報
【特許文献2】
特開平3−264614号公報
【特許文献3】
特開平4−143246号公報
【特許文献4】
特開昭61−79745号公報
【特許文献5】
特開昭62−103344号公報
【特許文献6】
特開平6−293937号公報
【特許文献7】
特開平10−183295号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、造船業界、建設業界においては、近年、200kJ/cm以上の大入熱溶接、大きいものでは1000kJ/cmにもなる大入熱溶接の適用が検討されるようになり、上記の特許文献5〜7などの従来手法より飛躍的に溶接熱影響部靱性を向上させた鋼材が必要とされるようになってきた。この際、特に溶接ボンド部近傍の靭性向上が必要となる。
【0012】
そこで、本発明は、高温に長時間加熱されたときのオーステナイト粒粗大化を一層抑制して、優れたHAZ靭性を実現できる、溶接熱影響部靭性の優れた鋼材およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、HAZ靭性を向上させる金属組織要因として、1400℃以上に加熱されるHAZ領域の再加熱オーステナイト組織の細粒化に着目し、この細粒化を、酸化物に加えて硫化物を利用することで達成することを着想した。以下に、本発明がなされるまでの経緯を説明する。
【0014】
前述のとおり、再加熱オーステナイト粒を細粒化するためには、高温でのオーステナイト粒の成長を抑制することが必要である。その手段として最も有効な方法は、分散粒子によりオーステナイトの粒界をピンニングし、粒界の移動を止める方法が考えられる。そのような作用をする分散粒子としては、従来、Ti窒化物(特許文献1〜3参照)や、1400℃以上の高温で安定なTi酸化物(特許文献4、5参照)がピンニング粒子として活用されてきた。そして、分散粒子による結晶粒界のピンニング効果は、分散粒子の体積率が大きいほど大きいことから、Al、Caを随時脱酸材として用いて酸化物の体積分率を大きくし、かつ適正な粒子径とする方法が提案されてきた(特許文献6、7参照)。しかし、大入熱溶接において更にHAZ靭性を改善するためには、ピンニング粒子の更なる増加が必要となるが、上記の従来技術で更に酸化物数を増やすことは困難であった。
【0015】
そこで、本発明者らは、上記の酸化物の微細分散に加え、硫化物の微細分散の検討を行った。
【0016】
ピンニング粒子の体積分率を大きくする手段の一つとして、単に硫化物を増大させようとすると、材質に有害な粗大介在物をも多数生成させることになり、有効な手段とはなり得ない。そこで、本発明者らは、硫化物を最大限に利用するため、硫黄との溶解度積が小さい元素を活用することを検討した。硫黄との溶解度積が小さい元素、すなわち強い硫化物生成元素として、Mnがあるが、従来から知られているように、Mnだけでは、Sの大量添加によりMnSが粗大化し母材の機械特性を大きく低下させるという問題がある。このことから、さらにMnよりも強い硫化物生成元素について種々検討の結果、溶鋼中で強い硫化物生成能を持つCaにMgおよび/またはREMを添加すると、微細な粒子を分散させることができることを見出した。さらに微細酸化物が多数存在させることにより、これらの酸化物を生成サイトとする微細な硫化物が析出し、より確実に微細な硫化物を分散させることを見出した。
【0017】
本発明は、以上の知見に基づき、さらに検討を重ねてはじめてなされたものであり、その要旨は、下記のとおりである。
(1) 質量%で、C:0.03〜0.18%、Si:0.03〜0.5%、Mn:0.4〜2.0%、P:0.02%以下、S:0.02〜0.20%、Al:0.005〜0.070%、Ti:0.005〜0.069%、Ca:0.0005〜0.0050%、N:0.0005〜0.007%を含有し、さらに、Mg:0.0005〜0.0050%、REM:0.0005〜0.0050%のうちの1種または2種を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなり、かつ、円相当粒子径が0.005〜2.0μmで、Sを質量%で3〜60%含有する粒子を、5×103〜1×106個/mm2含有することを特徴とする、溶接熱影響部靭性の優れた鋼材。
(2) さらに、質量%で、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜4.0%、V:0.003〜0.1%、Cr:0.05〜0.6%、Mo:0.05〜0.6%、Nb:0.005〜0.1%、B:0.0003〜0.0030%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)に記載の溶接熱影響部靭性の優れた鋼材。
【0018】
(3) 溶鋼を転炉溶製し、真空脱ガス処理設備で脱酸処理を行った後、Ti投入前に溶鋼の溶存酸素をSiで調整し、その後Ti、Al、Caを順に添加して脱酸処理を行い、その過程中もしくはその後にMgおよび/またはREMを添加し、連続鋳造にて、質量%で、C:0.03〜0.18%、Si:0.03〜0.5%、Mn:0.4〜2.0%、P:0.02%以下、S:0.02〜0.20%、Al:0.005〜0.070%、Ti:0.005〜0.069%、Ca:0.0005〜0.0050%、N:0.0005〜0.007%を含有し、さらに、Mg:0.0005〜0.0050%、REM:0.0005〜0.0050%のうちの1種または2種を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなる鋳片に鋳造した後、加熱、通常圧延を行うことで、鋼中に、円相当粒子径が0.005〜2.0μmで、Sを質量%で3〜60%含有する粒子を、5×103〜1×106個/mm2含有させることを特徴とする、溶接熱影響部靭性の優れた鋼材の製造方法。
(4) 前記鋳片が、さらに、質量%で、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜4.0%、V:0.003〜0.1%、Cr:0.05〜0.6%、Mo:0.05〜0.6%、Nb:0.005〜0.1%、B:0.0003〜0.0030%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、上記(3)に記載の溶接熱影響部靭性の優れた鋼材の製造方法。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
本発明は、船舶、海洋構造物、中高層ビル、橋梁などに使用される溶接構造用鋼材全般に加えて、鋼管用素材の鋼板、棒鋼、条鋼、熱延鋼板などにも適用可能であり、いずれの場合も溶接継手部の靭性の大幅向上が得られるものである。
【0021】
まず、本発明の基本成分範囲の限定理由について述べる。
【0022】
Cは、鋼の強度を向上させる有効な成分として下限を0.03%とし、また過剰の添加は、鋼材の溶接性やHAZ靭性などを著しく低下させるので、上限を0.18%とした。
【0023】
Siは、母材の強度確保、脱酸などに必要な成分であり0.03%添加するが、HAZの硬化により靭性が低下するのを防止するため上限を0.5%とした。
【0024】
Mnは、母材の強度、靭性の確保に有効な成分として0.4%以上の添加が必要であるが、溶接部の靭性、割れ性などの許容できる範囲で上限を2.0%とした。
【0025】
Pは、延性や靱性などの材質の面からは含有量が少ないほど望ましいが、これを工業的に低減させるためには多大なコストがかかることから、延性や靱性などの材質の面から許容できる0.02%を上限とした。
【0026】
Sは、本発明では硫化物粒子および硫化物と酸化物の混合物粒子を多く生成させるのに重要な元素であり、その実現のためには0.02%以上の添加が必要であるが、多量の添加は逆に粗大な硫化物や硫化物酸化物混合粒子を生成することになるので、その上限を0.20%とした。
【0027】
Alは、重要な脱酸元素であり、脱酸効果を得るためには最低限0.005%が必要であるため、0.005%を下限とした。また、Alが多量に存在すると、鋳片の表面品位が劣化するため、上限を0.070%とした。
【0028】
Tiは、Nと結合してTi窒化物を形成させるために0.005%以上添加する。しかし、過剰のTi添加は、固溶Ti量が増加してHAZ靭性が低下するため、0.069%を上限とした。
【0029】
Caは、Ca系の酸化物および硫化物を生成させるために0.0005%以上の添加が必要である。しかしながら、過剰の添加は粗大介在物を生成させるため、0.0050%を上限とした。
【0030】
Nは、TiNとして析出することでHAZ靭性の向上効果があるため下限を0.0005%としたが、固溶Nが増大するとHAZ靭性の低下を招くことから0.007%を上限とした。
【0031】
Mg、REMは、いずれも強い脱酸元素および硫化物生成元素であり、Caによる微細酸化物、硫化物、もしくは硫化物酸化物混合粒子の形成を補助する働きがあり、その効果はともに0.0005%以上の添加で現れるが、ともに0.0050%を超える過剰の添加はCaと比較して高価であることや、粗大介在物を作って鋼板及びHAZの靭性を阻害することから、それぞれの限定範囲をともに0.0005%以上、0.0050%以下とした。
【0032】
さらに、母材の強度及び靭性を向上させる元素として以下の元素を添加することも有効である。
【0033】
Cuは、鋼材の強度を向上させるために有効であるが、0.05%未満の添加では強度上昇が得られず、1.0%を越えるとHAZ靭性を低下させることから、0.05%以上、1.0%以下とした。
【0034】
Niは、鋼材の強度および母材靭性を向上させるために有効であるが、0.05%未満の添加では強度上昇が得られず、4.0%超の添加は製造コストを上昇させることから、Niの範囲を0.05%以上、4.0%以下とした。
【0035】
Nbは、焼き入れ性を向上させることにより母材の強度を向上させるために有効な元素であるが、0.005%未満の添加では十分な強度上昇が得られず、また0.1%を超える過剰な添加は母材の靭性をも著しく低下させることから、Nbの添加範囲を0.005%以上、0.1%以下とした。
【0036】
V、Cr、Moについても、鋼材の強度および母材靭性を向上させるために有効であるが、それぞれ、0.003%未満、0.05%未満、0.03%未満の添加では強度上昇が得られないが、一方で過剰の添加はどれも母材の靭性を低下させることから、それぞれの上限を0.1%、0.6%、0.6%とした。
【0037】
Bは、焼き入れ性を向上させることにより母材の強度を向上させるために有効な元素であるが、0.0003%未満ではその効果が現れず、また多量の添加は母材の靭性を劣化させるため、Bの添加範囲を0.0003〜0.0030%とした。
【0038】
次に、結晶粒界のピンニングに有効な粒子の限定条件について述べる。
【0039】
分散粒子による結晶粒界のピンニング効果は、分散粒子の体積率が大きいほど大きいことから、大入熱溶接において更にHAZ靭性を改善するために、従来技術の酸化物の微細分散に加え、本発明では硫化物の微細分散を利用する。すなわち、本発明では、溶鋼中で強い硫化物生成能を持つCaにMgおよび/またはREMを添加して、S含有量が3〜60%の微細な硫化物粒子を分散させる。なお、Ca、Mgおよび/またはREM、ならびに酸素以外の残部の粒子構成元素として、不可避的に混入するSi、Tiなどの不純物元素を含んでも本発明効果に影響のないことを確認している。
【0040】
ピンニングに有効な粒子の大きさについて、一般的には、分散粒子の体積率が大きく、一個の粒子径が大きいほど、ピンニング効果が大きく、粒子の体積率が一定のとき、一個の粒子の大きさが小さい方が粒子数が多くなりピンニング効果が大きくなるといえる。本発明では、ピンニング粒子の大きさとして、0.005〜2.0μmと限定する。0.005μmより小さい粒子はほとんど観察されないが、例え存在しても粒界に存在する粒子の割合が小さくなるため、その効果は期待できないためである。また、2.0μm超の粗大粒子は材質に有害な粗大介在物となるばかりでなく、ピンニングに有効な粒子数を減少させることになるためその上限を2.0μmと限定する。
【0041】
ピンニングに有効な粒子の個数については、図1に示すように、粒子個数が多いほど組織単位は微細になり、HAZ靭性が向上する。鋼材に要求されるHAZ靭性は、その用途、使用される溶接方法などによって複雑で種々異なるが、特に要求特性が厳しいと考えられる高強度の造船用鋼で大入熱溶接施工される場合に要求されるHAZ靭性を満足するためには、粒子数が少なくとも5×103個/mm2以上必要である。一方、粒子数が1×106個/mm2を越えると粒子間隔が小さくなり、加熱オーステナイト粒の微細化には有効であるが、介在物を起点とする破壊の間隔が小さくなるためシャルピー衝撃吸収エネルギーに代表される靭性にはむしろ有害である。したがって、有効かつ必要な粒子個数を、5×103〜1×106個/mm2とした。
【0042】
なお、本発明では、ピンニング粒子の大きさおよび個数の測定は、母材となる鋼板から抽出レプリカを作製し、それを電子顕微鏡にて10000倍で20視野以上、観察面積にして1000μm2以上を観察することでピンニング粒子の大きさおよび個数を測定したが、この測定方法に限定されるものではない。また、粒子が適正に観察可能であれば、観察倍率を低くしてもかまわない。
【0043】
次に本発明の製造方法について説明する。
【0044】
上述のように、微細な硫化物をより確実に分散させるため、硫化物の生成サイトとなる微細酸化物が多数存在することが好ましい。このことから、製造方法としては、微細酸化物を生成させるために、転炉溶製後、RHにて真空脱ガス処理時に脱酸を行い、Ti投入前に溶鋼の溶存酸素をSiで調整し、その後、Ti、Al、Caを順に添加して脱酸を行う。そして、その過程中もしくはその後に、Mgおよび/またはREMを添加する。
【0045】
なお、その他の製造プロセスとして、通常圧延まま、制御圧延、さらにこれと制御冷却と焼もどしの組合せ、および焼入れ・焼もどしの組合せなどであっても粒子の効果は影響を受けない。
【0046】
【実施例】
表1に示した化学成分で、490〜590N/mm2級鋼を試作した。1〜20が本発明鋼、21〜28が比較鋼である。試作鋼は転炉溶製し、RHにて真空脱ガス処理時に脱酸を行っている。Ti投入前に溶鋼の溶存酸素をSiで調整し、その後Ti、Al、Caを順に添加し脱酸を行い、その過程中もしくはその後にMgおよび/またはREMを添加し、連続鋳造により280mm厚鋳片に鋳造した。その後、加熱圧延を経て、板厚70mmの鋼板として製造した。得られた鋼板を1パスのエレクトロガス溶接で溶接し、各種試験サンプルを採取した。なお、溶接時の溶接入熱は、約450kJ/cm2であった。
【0047】
【表1】
【0048】
表2には、電子顕微鏡にて測定した粒子径0.005〜2.0μmの硫化物粒子の数、100倍の光学顕微鏡写真20視野にて切断法で測定したHAZ組織のオーステナイト粒の平均径、およびオーステナイト粒界、およびHAZの靭性を示す。HAZ靭性評価のためのシャルピー試験は、−40℃にて行った。なお、このシャルピー衝撃試験値は、ボンドからHAZ1mmの部位で9本の試験を行った平均値である。
【0049】
【表2】
【0050】
表2から明らかなように、1〜20の本発明鋼は比較鋼と比べて優れたHAZ靭性を有することが判る。すなわち、粒子径が0.005〜2.0μmで、硫化物粒子の数が5×103〜1×106 個/mm2の範囲であることによって、比較鋼と比較してHAZ組織のオーステナイト粒径も小さく、−40℃のシャルピー吸収エネルギー値は、鋼構造物の破壊力学的立場から一般に要求される平均50Jを大きく上回っており、HAZ靭性に極めて優れていることは明らかである。
【0051】
一方、比較例21〜28は、いずれもシャルピー試験−40℃で50J未満の低い靭性しか示さなかった。これらの原因は比較例21〜28では、化学成分が本発明範囲から外れており粒子が本発明の所定の組成になっていないか、さらに/または、0.005〜2.0μmの粒子が所定の個数より少ないか、さらに/または、所定の個数を満たしているものの5μm以上の粗大な粒子が多数生成しているためである。すなわち、比較例の21、24、25、26はS量が所定の範囲を満たしておらず粒子数が所定未満であるためHAZ靭性は低い。比較例の28は逆にS量が所定範囲を超えていることにより、5μmを越す粗大な粒子も多数生成しているためHAZ靭性は低い。比較例の22、27は、S量は所定範囲添加されているが、Ca量が所定未満もしくは添加していないことから5μmを越す粗大な粒子も多数生成しHAZ靭性が低い。比較例の23は、S量は所定範囲内でありCaも所定範囲内添加されているが、Mgの添加は所定範囲未満でかつREMも添加されていないことから5μmを越す粗大な粒子も多数生成しHAZ靭性が低い。
【0052】
【発明の効果】
本発明は、船舶、海洋構造物、中高層ビルなどの溶接構造物の破壊に対する厳しい靭性要求を満足する鋼材を供給するものであり、この種の産業分野にもたらす効果は極めて大きく、さらに構造物の安全性の意味から社会に対する貢献も非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】粒子径0.005〜2.0μmのピンニング粒子数とHAZ靱性の関係を示す図である。
Claims (4)
- 質量%で、
C :0.03〜0.18%
Si:0.03〜0.5%
Mn:0.4〜2.0%
P :0.02%以下
S :0.02〜0.20%
Al:0.005〜0.070%
Ti:0.005〜0.069%
Ca:0.0005〜0.0050%
N :0.0005〜0.007%
を含有し、さらに、
Mg:0.0005〜0.0050%
REM:0.0005〜0.0050%
のうちの1種または2種を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなり、かつ、円相当粒子径が0.005〜2.0μmで、Sを質量%で3〜60%含有する粒子を、5×103〜1×106個/mm2含有することを特徴とする、溶接熱影響部靭性の優れた鋼材。 - さらに、質量%で、
Cu:0.05〜1.0%
Ni:0.05〜4.0%
V :0.003〜0.1%
Cr:0.05〜0.6%
Mo:0.03〜0.6%
Nb:0.005〜0.1%
B :0.0003〜0.0030%
のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の溶接熱影響部靭性の優れた鋼材。 - 溶鋼を転炉溶製し、真空脱ガス処理設備で脱酸処理を行った後、Ti投入前に溶鋼の溶存酸素をSiで調整し、その後Ti、Al、Caを順に添加して脱酸処理を行い、その過程中もしくはその後にMgおよび/またはREMを添加し、連続鋳造にて、質量%で、
C :0.03〜0.18%
Si:0.03〜0.5%
Mn:0.4〜2.0%
P :0.02%以下
S :0.02〜0.20%
Al:0.005〜0.070%
Ti:0.005〜0.069%
Ca:0.0005〜0.0050%
N :0.0005〜0.007%
を含有し、さらに、
Mg:0.0005〜0.0050%
REM:0.0005〜0.0050%
のうちの1種または2種を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなる鋳片に鋳造した後、加熱、通常圧延を行うことで、鋼中に、円相当粒子径が0.005〜2.0μmで、Sを質量%で3〜60%含有する粒子を、5×103〜1×106個/mm2含有させることを特徴とする、溶接熱影響部靭性の優れた鋼材の製造方法。 - 前記鋳片が、さらに、質量%で、
Cu:0.05〜1.0%
Ni:0.05〜4.0%
V :0.003〜0.1%
Cr:0.05〜0.6%
Mo:0.03〜0.6%
Nb:0.005〜0.1%
B :0.0003〜0.0030%
のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項3に記載の溶接熱影響部靭性の優れた鋼材の製造方法。
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