JP3616609B2 - 溶接熱影響部靭性の優れた鋼材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、船舶、海洋構造物、中高層ビル、橋梁などに使用される溶接熱影響部(以下HAZと称す)の靭性に優れた溶接構造用鋼材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、船舶、海洋構造物、中高層ビル、橋梁などの大型構造物に使用される溶接用鋼材の材質特性に対する要望は厳しさを増している。さらに、そのような構造物を建造する際、溶接の効率化を促進するため、フラックス−バッキング溶接法、エレクトロガス溶接法、エレクトロスラグ溶接法などに代表されるような大入熱溶接法の適用が希望されており、鋼材自身の靭性と同様に、HAZの靭性への要求も厳しさを増している。
【0003】
大入熱溶接時の鋼材のHAZ靭性に注目した提案は従来から数多くある。例えば、特公昭55−26164号公報等に開示されるように、微細なTi窒化物を鋼中に確保することによって、HAZのオーステナイト粒を小さくし、靭性を向上させる方法がある。
【0004】
また、特開平3−264614号公報では、Ti窒化物とMnSとの複合析出物をフェライトの変態核として活用し、HAZの靭性を向上させる方法が提案されている。さらに、特開平4−143246公報では、Ti窒化物とBNとの複合析出物を粒界フェライトの析出核として活用し、HAZ靭性を向上させる方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、Ti窒化物は、HAZのうち最高到達温度が1400℃を超える溶接金属との境界(溶接ボンド部と称する)近傍ではほとんど固溶してしまうので、靭性向上効果が低下してしまうという問題があり、近年のHAZ靭性に対する厳しい要求や、超大入熱溶接におけるHAZ靭性を達成することが困難である。
【0006】
この溶接ボンド部近傍の靭性を改善する方法として、鋼にTi酸化物を含有せしめることが、厚板、形鋼などの様々な分野で使用されている。例えば、厚板分野では、特開昭61−79745号公報や特開昭62−103344号公報に例示されているように、Ti酸化物の含有が大入熱溶接部の靭性向上に非常に有効であり、Ti酸化物の高張力鋼への適用が有望である。
【0007】
この原理は、鋼の融点においても安定なTi酸化物をサイトとして、溶接後の温度低下途中に、Ti窒化物、MnS等が析出し、さらに、それらをサイトとして微細フェライトが生成し、その結果、靭性に有害な粗大フェライトの生成が抑制され、靭性の劣化が防止できるというものである。
【0008】
しかしながら、このようなTi酸化物は、鋼中へ分散する個数をあまり多くすることができない。その原因は、Ti酸化物の粗大化や凝集合体化であり、Ti酸化物の個数を増加させようとすれば、5μm以上の粗大なTi酸化物、いわゆる介在物が増加してしまう。
【0009】
この5μm以上の介在物は、構造物の破壊の起点となって有害であり、靭性の低下を引き起こす。したがって、さらなるHAZ靭性の向上を達成するためには、粗大化や凝集合体化が起こりにくく、Ti酸化物よりも微細に分散する酸化物を活用する必要がある。
【0010】
また、このようなTi酸化物の鋼中への分散方法として、Al等の強脱酸元素を実質的に含まない溶鋼中へTiを添加する方法が多く用いられる。しかしながら、単に溶鋼中にTiを添加するだけでは、鋼中のTi酸化物の個数、分散度を制御することは困難であり、さらには、TiN、MnS等の析出物の個数、分散度を制御することも困難である。
【0011】
その結果、Ti脱酸のみによってTi酸化物を分散させた鋼においては、例えば、Ti酸化物の個数が充分でなかったり、厚板の板厚方向における靭性の変動が生じる等の問題点が認められる。
【0012】
さらに、上記特開昭61−79745号公報などの方法では、Ti酸化物を生成しやすくするために、Al量の上限を、0.007%という非常に少ない量で制限しているが、鋼材中のAl量が少ない場合、AlN析出物量の不足などが原因となって、母材の靭性が低下する場合がある。また、通常使用されている溶接材料を用いてAl量の少ない鋼板を溶接した場合、溶接金属の靭性が低下する場合がある。
【0013】
このような課題に対して、特開平6−293937号公報においては、Ti添加直後にAlを添加して、この添加で生成するTi−Al複合酸化物を活用する技術が提案されている。この技術により、大入熱溶接HAZ靭性を大幅に向上させることが可能であるが、直近、造船業界、建設業界においては、200kJ/cm以上、大きいものでは1000kJ/cmものさらなる溶接入熱の増加が進められており、より一層のHAZ靭性を有する鋼材が必要とされている。そして、この際、特に、溶接融合部近傍における靭性の向上が必要となる。
【0014】
さらに、使用される鋼材においても、さらに厚手高強度化が要求されている。例えば、海運業界においては、物流の拡大に伴い船体の大型化が進んでおり、施工や輸送効率の面から、鋼材の厚手高強度化が要求されている。また、建築や橋梁、海洋構造物などの分野においても、建造物の大型化が進むとともに、より広く空間を確保するために、厚手高強度鋼が要求されている。
【0015】
一般に、鋼材の高強度化は、添加元素を増やし炭素当量(以下Ceqと称す)を高くすることで達成されるが、溶接性が著しく阻害されるため、Ceqを上昇しない強度向上が望まれる。その中で最も有望なのはNbによる強度向上である。
【0016】
しかし、Nbの増量は、HAZ組織中の粒界フェライトを硬化させたり、残留オーステナイト等の脆化相を増加させたりして、HAZ靭性を大きく低下させてしまうので、上述の従来技術だけでは十分なHAZ靭性を得ることができない。
【0017】
そこで、低Ceq化で厚手化、高強度化するためにNbを添加する場合においても、高HAZ靭性を有する鋼材が必要となる。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
特開昭62−103344号公報、特開平6−293937号公報などに記載されている上記の従来手法に比べて、飛躍的にHAZ特性を向上させるために、高温に長時間加熱されたときのオーステナイト粒の粗大化を一層抑制し、かつ、高強度化のためにNbを添加した場合であっても、優れたHAZ靭性を実現することを課題とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、当量式ENI=(%Ni)−18(%C)−36(%Nb)+1、および、EN=(%N)−0.292(%Ti)−1.292(%B)において、ENIおよびENを、それぞれ、所定の範囲に収め、かつ、分散する酸化物粒子の粒子径、組成、および、分散個数を、それぞれ、所定の範囲に収めると、溶接熱影響部の靭性が著しく向上することを知見した。
【0020】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は、以下のとおりである。
【0021】
(1)質量%で、
C :0.03〜0.18%
Si:≦0.50%
Mn:0.40〜2.0%
P :≦0.02%
S :≦0.02%
Ni:2.56〜4.0%
Nb:0.005〜0.10%
Al:0.005〜0.070%
Ti:0.005〜0.030%
Ca:0.0005〜0.0050%
N :0.0005〜0.0070%
B :0.0005〜0.0030%
を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなり、
ENI=(%Ni)−18(%C)−36(%Nb)+1
なる当量式において ENI≧0 を満足し、かつ、
EN=(%N)−0.292(%Ti)−1.292(%B)
なる当量式において 0≦EN≦0.002 を満足し、さらに、
円相当粒子径が0.005〜2.0μmであって、組成として少なくともCa、Al、Oを含み、Oを除いた元素の平均質量%で、
Ca:3%以上
Al:1%以上
を含有し、残部が他の脱酸元素および/または不可避不純物からなる粒子を、粒子数100〜3000個/mm2含有する
ことを特徴とする溶接熱影響部靭性の優れた鋼材。
【0022】
(2)質量%で、
C :0.03〜0.18%
Si:≦0.50%
Mn:0.40〜2.0%
P :≦0.02%
S :≦0.02%
Ni:2.56〜4.0%
Nb:0.005〜0.10%
Al:0.005〜0.070%
Ti:0.005〜0.030%
Ca:0.0005〜0.0050%
N :0.0005〜0.0070%
B :0.0005〜0.0030%
を基本成分とし、さらに
Cu:≦1.0%
V :≦0.1%
Cr:≦0.6%
Mo:≦0.6%
Mg:≦0.0050%
REM:≦0.100%
の1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなり、
ENI=(%Ni)−18(%C)−36(%Nb)+1
なる当量式において ENI≧0 を満足し、かつ、
EN=(%N)−0.292(%Ti)−1.292(%B)
なる当量式において 0≦EN≦0.002 を満足し、さらに、円相当粒子径が0.005〜2.0μmであって、組成として少なくともCa、Al、Oを含み、Oを除いた元素の平均質量%で、
Ca:3%以上
Al:1%以上
を含有し、残部が他の脱酸元素および/または不可避不純物からなる粒子を、粒子数100〜3000個/mm2含有する
ことを特徴とする溶接熱影響部靭性の優れた鋼材。
【0023】
(3)前記(1)または(2)に記載の溶接熱影響部靭性の優れた鋼材において、円相当粒子径が0.1〜2.0μmであって、組成として少なくともCa、Al、Oを含み、Oを除いた元素の平均質量%で、
Ca:3%以上
Al:1%以上
を含有し、残部が他の脱酸元素および/または不可避不純物からなる粒子を、粒子数100〜3000個/mm含有する
ことを特徴とする溶接熱影響部靭性の優れた鋼材。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明者らはHAZ靭性を向上させる金属組織要因として、1400℃以上に加熱されるHAZ領域の再加熱オーステナイト細粒化を、酸化物を利用して達成することを検討した。
【0025】
再加熱オーステナイト粒を細粒化するためには、高温でのオーステナイト粒の成長を抑制することが必要である。その手段として最も有効な方法として、分散粒子によりオーステナイトの粒界をピンニングし、粒界の移動を止める方法が考えられる。そして、そのような作用をする分散粒子の一つとして、従来は、Ti窒化物が有効であると考えられていた。
【0026】
しかしながら、Ti窒化物は、1400℃以上の高温では固溶する割合が大きくなるため、溶接入熱の増加に伴いピンニング効果が小さくなることは先に延べたとおりである。したがって、Ti窒化物より高温で安定な酸化物をピンニング粒子として活用することが必要である。
【0027】
また、分散粒子による結晶粒界のピンニング効果は、分散粒子の体積率が大きいほど、また、一個の粒子径が大きいほど大きい。ただし、分散粒子の体積率は鋼中に含まれる粒子を構成する元素の濃度によって上限があるので、体積率を一定と仮定した場合には、粒子径はある程度小さい方がピンニングには有効である。
【0028】
このような観点から、本発明者らは酸化物の体積分率を大きく、かつ、適正な粒子径となるよう、種々の検討を行った。
【0029】
酸化物の体積分率を大きくする手段の一つとして、酸素量を増大させる方法があるが、酸素量の増大は、材質に有害な粗大介在物をも多数生成する原因となるため、有効な手段ではない。
【0030】
そこで、本発明者らは、酸素を最大限に利用するため、酸素との溶解度積が小さい元素を活用することを検討した。酸素との溶解度積が小さい元素、すなわち、強脱酸元素として、一般的にはAlが用いられる。しかしながら、Alだけでは酸素を充分利用するには不充分であり、さらに、Alよりも強い脱酸元素が必要である。
【0031】
本発明者は、種々検討の結果、溶鋼中最強の脱酸力を持つCaを活用することが有効との結論に至った。そして、脱酸元素として主にCaを含んだ実験を種々行った結果、鋼中に生成する酸化物粒子の組成として、Caを3%以上、Alを1%以上含ませることで、酸化物の体積分率、すなわち、酸化物量を大きくすることが可能となることを知見した。
【0032】
この結果を基に、鋼中に含まれる粒子の組成を、少なくともCa、Al、Oを含み、Oを除いた元素が質量%で、Ca:3%以上、Al:1%以上とした。
【0033】
この際、残部の酸化物構成元素として、脱酸力がAlとCaの間にあるMgあるいは/およびREMを含ませても、本発明の効果は有効である。
【0034】
次に、ピンニングに有効な粒子の大きさについて述べる。分散粒子による結晶粒界のピンニング効果は、分散粒子の体積率が大きいほど、また、一個の粒子径が大きいほど大きいが、粒子の体積率が一定のとき、一個の粒子の大きさが小さい方が粒子数が多くなり、ピンニング効果が大きくなる。
【0035】
しかし、粒子の大きさがあまり小さくなると、粒界に存在する粒子の割合が小さくなるため、その効果は低減すると考えた。粒子の大きさを種々変化させた試験片を用いて、高温に加熱したときのオーステナイト粒径を詳細に調査した結果、ピンニングには、粒子の大きさとして、0.005〜2.0μmのものが有効であることをつきとめ、さらにその中でも、0.1〜2.0μmの粒子の大きさのものが、特に有効であることを知見するに至った。また、0.005μmより小さい酸化物粒子はほとんど観察されなかった。
【0036】
この結果より、必要な粒子径を0.005〜2.0μm、その中でも、特に、0.1〜2.0μmとした。
【0037】
次に、HAZ靭性に必要なピンニング粒子の個数について検討した。粒子個数が多いほど組織単位は微細になり、そのため、図1に示すように、粒子個数が多いほどHAZ靭性が向上する。
【0038】
鋼材に要求されるHAZ靭性は、その用途、使用される溶接方法などによって複雑に異なるが、特に要求特性が厳しいと考えられる高強度の造船用鋼において、大入熱溶接施工する場合に要求されるHAZ靭性を満足するためには、粒子数は、少なくとも100個/mm以上必要であることを知見した。
【0039】
一方、粒子数が3000個/mmを越えると粒子間隔が小さくなり、加熱オーステナイト粒の微細化には有効であるが、介在物を起点とする破壊の間隔が小さくなるため、シャルピー衝撃吸収エネルギーに代表される靭性にはむしろ有害であることが分かった。
【0040】
したがって、有効かつ必要な粒子個数を、100〜3000個/mmとした。
【0041】
上記酸化物粒子の大きさおよび個数の測定は、例えば、以下の要領で行なう。母材となる鋼板から抽出レプリカを作製し、それを電子顕微鏡にて10000倍で20視野以上、観察面積にして1000μm以上を観察することで、酸化物粒子の大きさおよび個数を測定する。このとき、酸化物粒子が適正に観察可能であれば、観察倍率を低くしてもかまわない。
【0042】
酸化物粒子は、溶鋼を脱酸する際に生成する。これを一次酸化物と称する。さらには、鋳造、凝固中に、溶鋼温度の低下とともにTi−Al−Ca酸化物が生成する。これを二次酸化物と称する。本発明では、一次酸化物と二次酸化物のどちらを用いてもかまわない。
【0043】
なお、鋼材を製造するプロセスとして、通常圧延まま、制御圧延、さらに、これと制御冷却・焼もどしの組合せ、および、焼入れ・焼もどしの組合せなどを採用しても酸化物粒子の効果は影響を受けない。
【0044】
一方、このようにして鋼中に酸化物粒子を分散させることにより、HAZの再加熱オーステナイト粒は、酸化物粒子によるピンニングにより極めて有効に細粒化し、HAZ靭性もそれに伴い向上するが、同時に、オーステナイト粒が微細化するに伴い粒界面積が増し、粒界からのフェライト生成能も増し、非常に厳しい靭性要求においては、特に、粒界の角部(粒界三重点)に生成する比較的粗大なフェライトが起点となって、靭性の向上を律速することが新たな問題点として見出された。
【0045】
言い換えれば、このような粒界および粒界三重点に生成する比較的粗大なフェライトを抑制・改善することができれば、HAZ組織の微細化効果と重畳して、さらに、靭性を大幅に向上することが可能である。
【0046】
このような粒界および粒界三重点に生成する比較的粗大なフェライトの問題は、大入熱溶接のHAZ組織を、酸化物粒子によるピンニングにより、従来になく微細化することで、初めて見出されたものである。
【0047】
本発明者は、HAZ組織の微細化による靭性向上の効果を飛躍的に向上すべく、さらに検討を加えた。その結果、微細な酸化物粒子を多数分散させて再加熱オーステナイト粒を細粒化する場合、HAZ組織の形成過程で粒界および粒界三重点でのフェライトの成長を抑制するためには、Bの添加が極めて有効であることを見出した。
【0048】
さらに、Bの添加効果の機構を詳細に調査した結果、BとNのバランスが重要であり、Bとの原子比で、当量以上の固溶Nがフェライト生成段階で残存していることがBの添加効果を高め、細粒HAZの靭性を大幅に向上させ、安定化させることが明らかとなった。
【0049】
Ti添加鋼では、TiとNの親和力が極めて大きいため、Tiによって消費されるNを考慮した結果、図2に示すごとく、HAZ靭性は、
EN=(%N)−0.292(%Ti)−1.292(%B)
なる当量式でよく整理でき、当量値が「0〜0.002」の範囲にあれば、その添加効果が最も大きく、靭性が大幅に向上することが分かった。
【0050】
この当量値が0未満の場合は、Bの効果が認められず、他方、0.002を越える場合は、フェライトは微細化するものの、HAZ靭性は余剰のNによって大きく低下した。
【0051】
上記条件により、特に、Si−Mn鋼において、大幅なHAZ靭性の改善がみられるが、ここで、さらに鋼材を高強度化する場合、上記条件では十分なHAZ靭性が得られないという新たな問題が生じた。
【0052】
それは、鋼材を高強度化する場合、上述したように、溶接性の観点からCeqを低く抑えなければならないため、Ceqに影響を及ぼさない強度元素であるNbを添加しなければならないが、Nbの添加または増量は、HAZ靭性を大きく低下させるからである。
【0053】
そこで、本発明者は、さらに、Nb添加鋼で高HAZ靭性が得られる条件を鋭意検討した。まず、HAZ靭性の低下の原因について詳細調査した結果、HAZ靭性の低下が、HAZ組織中の粒界フェライトがNbの添加または増量によって硬化し、脆性破壊の起点になりやすくなるために生じることを見出した。
【0054】
そこで、次に、この脆性破壊の起点になりやすい硬化した粒界フェライトの特性に注目し、種々調査した結果、鋼中にNiを2.56%以上添加すると、この硬化した粒界フェライトの限界破壊応力が向上して、破壊起点になりにくくなり、HAZ靭性の低下が抑制されることを見出した。
【0055】
これは、従来から言われているNiによるマトリクスの高靭化とは異なり、硬化フェライトの限界破壊応力をNi添加により向上させることで、破壊に対する抵抗を高めHAZ靭性を向上させるものであり、本発明者がNb添加鋼にNiを2.56%以上添加したことにより、初めて見出したものである。
【0056】
さらに、粒界フェライトの硬さはNbの添加量に伴い増加することから、Niの添加量もNbの添加量に伴い増加させなければ、高HAZ靭性を保つために必要な限界破壊応力を有することはできないことが分かった。
【0057】
そして、その条件は、Nb増加量36に対し1以上のNiを増加させることであり、それ以下では粒界フェライトが破壊起点になり、HAZ靭性が低下する。
【0058】
さらに、粒界フェライトが脆性破壊起点になりにくくなると、次に、脆化相が破壊の起点になりやすくなり、HAZ靭性がC量の影響を受けやすくなるが、本発明者は、さらに、Ni量を適量添加することにより、この脆化相が微細分散化しHAZ靭性低下を抑制することも見出した。
【0059】
そして、脆化相をNi添加により細分化させるには、C増加量18に対して1以上のNi必要であることを突き止めた。
【0060】
以上の条件を、Ni量、C量、Nb量とHAZ靭性との関係で整理した結果、図3に示すように、Ni、C、Nbの各量が、当量式:ENI=(%Ni)−18(%C)−36(%Nb)+1において ENI≧0 を満足すると、HAZ靭性の低下が抑えられ、高HAZ靭性が得られることが分かった。
【0061】
すなわち、この当量値が0未満であれば、Niの効果が十分ではなく、Cによる脆化相の粗大化、および/または、Nbにより硬化した粒界フェライトが脆性破壊起点になりやすくなることにより、HAZ靭性が低下する。
【0062】
次に、本発明の基本成分範囲の限定理由について述べる。なお、%は質量%を意味する。
【0063】
Cは、鋼の強度を向上させる有効な成分として下限を0.03%とし、一方、過剰の添加は、鋼材の溶接性やHAZ靭性などを著しく低下させるので、上限を0.18%とした。
【0064】
Siは、母材の強度確保、脱酸などに必要な成分であるが、HAZの硬化により靭性が低下するのを防止するため、上限を0.50%とした。
【0065】
Mnは、母材の強度、靭性の確保に有効な成分として0.40%以上の添加が必要であるが、溶接部の靭性、割れ性などの許容できる範囲で上限を2.0%とした。
【0066】
Pは、含有量が少ないほど望ましいが、これを工業的に低減させるためには多大なコストがかかることから、0.02%を上限とした。
【0067】
Sは、含有量が少ないほど望ましいが、これを工業的に低減させるためには多大なコストがかかることから、0.02%を上限とした。
【0068】
Niは、鋼材の強度および母材靭性を向上させるために有効であり、特に、Nb、CによるHAZ靭性低下の抑制に有効であるが、2.56%未満の添加では、HAZ靭性低下の抑制には充分ではなく、一方、4.0%を越える添加は製造コストを上昇させるので、Niの範囲は2.56%以上4.0%以下とした。
【0069】
Nbは、焼き入れ性を向上させることにより母材の強度を向上させるため有効な元素であるが、低Ceqにおいては、0.005%未満の添加では十分な強度上昇が得られず、また、0.10%を越える過剰な添加は母材の靭性をも著しく低下させることから、その添加範囲を0.005〜0.10%とした。
【0070】
Alは、重要な脱酸元素であり、下限値を0.005%とした。一方、Alが多量に存在すると、鋳片の表面品位が劣化するため、上限を0.070%とした。
【0071】
Tiは、Nと結合してTi窒化物を形成させるために、0.005%以上添加する。しかし、固溶Ti量が増加するとHAZ靭性が低下するため、0.030%を上限とした。
【0072】
Caは、Ca系酸化物を生成させるために、0.0005%以上の添加が必要である。しかしながら、過剰の添加は粗大介在物を生成させるため、0.0050%を上限とした。
【0073】
Nは、TiNとして析出することでHAZ靭性の向上に効果があるため、下限を0.0005%とした。しかし、固溶Nが増大するとHAZ靭性の低下を招くことから0.0070%を上限とした。
【0074】
Bは、Nとの共存下で加熱オーステナイト粒界に生成するフェライトの成長を抑制する上で有効な元素であり、少なくとも0.0005%添加する。しかし、多量に添加すると鋼材の靭性を劣化させるため、上限を0.0030%とした。
【0075】
Cuは、鋼材の強度を向上させるために有効であるが、1.0%を越えるとHAZ靭性を低下させることから、1.0%を上限とした。
【0076】
V、Cr、MoについてもNbと同様な効果を有することから、それぞれ、0.1%、0.6%、0.6%を上限とした。
【0077】
Mg、REMは、いずれも、溶鋼中Caに次ぐ脱酸力を有し、Caによる微細酸化物の形成を補助する働きがあるが、過剰に入れると、Caと比較してコストアップが大きいとともに、粗大介在物を作って、鋼板およびHAZの靭性を阻害することから、上限を、それぞれ、0.0050%、0.100%とした。
【0078】
【実施例】
(実施例)
表1に示した化学成分の鋼で、50〜60キロ鋼を試作した。鋼種3、6が本発明鋼、鋼種9〜16が比較鋼である。試作鋼は、転炉で溶製し、RH方式にて真空脱ガス処理する時に脱酸を行った。Ti投入前に溶鋼の溶存酸素をSiで調整し、その後、Ti、Al、Caを順に添加し脱酸を行い、連続鋳造により280mmの厚の鋳片に鋳造した。その後、この鋳片を加熱圧延して、板厚70mmの鋼板を製造した。得られた鋼板を1パスのエレクトロガス溶接で溶接した。入熱は約410kJ/cm2である。
【0079】
【表1】
Figure 0003616609
【0080】
【表2】
Figure 0003616609
【0081】
表2に、酸化物粒子の平均組成、電子顕微鏡にて測定した粒子径0.005〜2.0μmの粒子数と粒子径0.1〜2.0μmの粒子数、ENI=(%Ni)−18(%C)−36(%Nb)+1の値、EN=(%N)−0.292(%Ti)−1.292(%B)の値、100倍の光学顕微鏡写真20視野にて切断法で測定したHAZ組織のオーステナイト粒の平均粒径、オーステナイト粒界あるいは粒界三重点における最大フェライトサイズ(幅)、および、HAZの靭性を示す。
【0082】
HAZ靭性評価のためのシャルピー試験は−40℃にて行った。ボンドからHAZ1mmの部位で9本の試験を行ない、その平均値を採った。
【0083】
表2から明らかなように、鋼種3、6の本発明鋼は、比較鋼と比べて、優れたHAZ靭性を有することが判る。すなわち、粒子径が0.005〜2.0μmで、Ca、Alを所定の組成で含む酸化物の粒子数が100〜3000個/mm2の範囲内にあることによって、比較鋼と比較して、HAZ組織のオーステナイト粒径も小さく、かつ、Bの効果によりオーステナイト粒界あるいは粒界三重点におけるフェライトも小さくなっている。
【0084】
そして、その結果、−40℃のシャルピー吸収エネルギー値は、鋼構造物の破壊力学的立場から一般に要求される平均50Jを大きく上回っており、本発明鋼は、HAZ靭性に極めて優れていることが明らかである。
【0086】
一方、比較鋼の鋼種9〜16は、いずれも、シャルピー試験−40℃で50J未満の低い靭性しか示さなかった。
【0087】
これらの原因は、鋼種9〜12では、化学成分が本発明の範囲から外れ、酸化物が本発明の所定の組成になっていないか、および/または、酸化物粒子数が所定の個数より少なかったためであり、
鋼種13では、酸化物組成および個数、は本発明の範囲内にあるが、ENI当量およびEN当量が本発明範囲から外れているためであり、鋼種14では、酸化物組成、個数、EN当量は本発明の範囲内にあるが、ENI当量が本発明範囲から外れているためであり、鋼種15では、酸化物組成、個数、ENI当量は本発明の範囲内にあるが、EN当量が本発明範囲から外れているためである。また、鋼種16は、他の鋼より鋼中酸素量が、高く酸化物粒子数が所定の個数よりも多いため、本発明鋼よりも低い靭性となった。
【0088】
【発明の効果】
本発明は、船舶、海洋構造物、中高層ビル、橋梁などの破壊に対する厳しい靭性要求を満足する鋼板を供給するものであり、この種の産業分野にもたらす効果は極めて大きく、さらに、構造物の安全性の意味から社会に対する貢献も非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】酸化物粒子数とHAZ靭性の関係を示す図である。
【図2】EN=(%N)−0.292(%Ti)−1.292(%B)とHAZ靭性の関係を示す図である。
【図3】ENI=(%Ni)−18(%Ti)−36(%B)+1とHAZ靭性の関係を示す図である。

Claims (3)

  1. 質量%で、
    C :0.03〜0.18%
    Si:≦0.50%
    Mn:0.40〜2.0%
    P :≦0.02%
    S :≦0.02%
    Ni:2.56〜4.0%
    Nb:0.005〜0.10%
    Al:0.005〜0.070%
    Ti:0.005〜0.030%
    Ca:0.0005〜0.0050%
    N :0.0005〜0.0070%
    B :0.0005〜0.0030%
    を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなり、
    ENI=(%Ni)−18(%C)−36(%Nb)+1
    なる当量式において ENI≧0 を満足し、かつ、
    EN=(%N)−0.292(%Ti)−1.292(%B)
    なる当量式において 0≦EN≦0.002 を満足し、さらに、
    円相当粒子径が0.005〜2.0μmであって、組成として少なくともCa、Al、Oを含み、Oを除いた元素の平均質量%で、
    Ca:3%以上
    Al:1%以上
    を含有し、残部が他の脱酸元素および/または不可避不純物からなる粒子を、粒子数100〜3000個/mm2含有する
    ことを特徴とする溶接熱影響部靭性の優れた鋼材。
  2. 質量%で、
    C :0.03〜0.18%
    Si:≦0.50%
    Mn:0.40〜2.0%
    P :≦0.02%
    S :≦0.02%
    Ni:2.56〜4.0%
    Nb:0.005〜0.10%
    Al:0.005〜0.070%
    Ti:0.005〜0.030%
    Ca:0.0005〜0.0050%
    N :0.0005〜0.0070%
    B :0.0005〜0.0030%
    を基本成分とし、さらに、
    Cu:≦1.0%
    V :≦0.1%
    Cr:≦0.6%
    Mo:≦0.6%
    Mg:≦0.0050%
    REM:≦0.100%
    の1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなり、
    ENI=(%Ni)−18(%C)−36(%Nb)+1
    なる当量式において ENI≧0 を満足し、かつ、
    EN=(%N)−0.292(%Ti)−1.292(%B)
    なる当量式において 0≦EN≦0.002 を満足し、さらに、
    円相当粒子径が0.005〜2.0μmであって、組成として少なくともCa、Al、Oを含み、Oを除いた元素の平均質量%で、
    Ca:3%以上
    Al:1%以上
    を含有し、残部が他の脱酸元素および/または不可避不純物からなる粒子を、粒子数100〜3000個/mm2含有する
    ことを特徴とする溶接熱影響部靭性の優れた鋼材。
  3. 請求項1または2に記載の溶接熱影響部靭性の優れた鋼材において、円相当粒子径が0.1〜2.0μmであって、組成として少なくともCa、Al、Oを含み、Oを除いた元素の平均質量%で、
    Ca:3%以上
    Al:1%以上
    を含有し、残部が他の脱酸元素および/または不可避不純物からなる粒子を、粒子数100〜3000個/mm2含有する
    ことを特徴とする溶接熱影響部靭性の優れた鋼材。
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