JP3837083B2 - 溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、FCB溶接、FAB溶接、エレクトロガス溶接、エレクトロスラグ溶接等の1パス大入熱溶接継手の溶接熱影響部靭性を良好とするための溶接方法に関するものである。低温靭性が要求され、1パス大入熱溶接が用いられる構造物全般に適用可能であるが、例えば、建築構造物、船舶、橋梁、等の溶接継手作製に用いると極めて有用である。用いる鋼としては、溶接熱影響部の組織中にフェライトが生成し得る程度の化学組成範囲であれば、鋼種、強度レベルは問わない。鋼の形態も特に問わないが、構造部材として用いられ、低温靭性が要求される鋼板、特に厚板、鋼管素材、あるいは形鋼の溶接方法として有用である。
【0002】
【従来の技術】
近年、船舶、海洋構造物、中高層ビル、橋梁などの大型構造物に使用される溶接用鋼材の材質特性に対する要望は厳しさを増している。さらにそのような構造物を建造する際、溶接の効率化を促進するため、フラックス−銅バッキング溶接法(FCB溶接法)、エレクトロガス溶接法、エレクトロスラグ溶接法などに代表されるような大入熱溶接法の適用が希望されており、鋼材自身の靭性と同様に、HAZの靭性への要求も厳しさを増している。
【0003】
大入熱溶接における溶接継手の溶接熱影響部(Heat affected Zone:HAZ)の靭性の良好は鋼あるいは鋼の製造法については従来から数多く提案されている。
【0004】
例えば、特公昭55−26164号公報等に開示されるように、微細なTi窒化物を鋼中に確保することによって、HAZのオーステナイト粒を小さくし、靭性を向上させる方法がある。また、特開平3−264614号公報ではTi窒化物とMnSとの複合析出物をフェライトの変態核として活用し、HAZの靭性を向上させる方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、大入熱溶接におけるHAZ靭性はオーステナイト粒径の微細化や粒内フェライトだけで制御できるものではなく、併せて化学組成も限定しているのが従来の大入熱用鋼の実状である。
【0006】
HAZ靭性を主に決定づけているのは脆性破壊の発生や伝播の抵抗を規定する有効結晶粒径と、脆性破壊の起点となる脆化相、硬質相、介在物のサイズ、量である。特に、1パス大入熱溶接においてはHAZの有効結晶粒径の微細化がHAZ靭性を向上させる上で最も重要な点である。前記オーステナイト粒径の微細化や粒内フェライトの生成はこの有効結晶粒径を微細化するための手段に他ならない。
【0007】
従来の鋼のオーステナイト粒径や粒内フェライト生成能と化学組成によってHAZ靭性を確保する手段では、各々の手段ごとに適用可能な鋼種、溶接方法が限定される。例えば、粒内変態を用いる場合は、粒内変態が生じるような焼入性の低い鋼か、特定の温度履歴となる溶接条件に限定される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、FCB溶接、FAB溶接、エレクトロガス溶接、エレクトロスラス溶接等の1パス大入熱溶接継手の溶接熱影響部靭性を良好とするための溶接方法を提供することを課題とする。より具体的には、鋼と溶接方法の組合せを最適化することにより、普遍的な、すなわち、より広範な溶接方法、条件、鋼の組成において、良好な1パス大入熱溶接におけるHAZの靭性を得るための手段を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、HAZ靭性の向上を鋼の特性の調整だけに頼るのではなく、鋼と溶接方法の両方を調整することによってHAZ組織の微細化を図る、HAZ靭性を高めるための総合的手段を検討した。その結果、HAZのオーステナイト粒径が微細な場合には、HAZ靭性はほぼHAZの粒界フェライト分率によって決定されることを知見した。そして、HAZの粒界フェライト分率と鋼の化学組成、溶接条件との関係を知見することによって1パス大入熱溶接のHAZ靭性を良好にするための溶接方法を新たに発明するに至った。その要旨は以下の通りである。
【0010】
(1) 鋼板を1パスで溶接する方法において、溶接時に、フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の加熱オーステナイト粒径が最大350μm以下で、かつ、溶接後におけるフュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の変態組織の粒界フェライト分率が5〜40%となるような、前記鋼の化学組成及び/又は溶接により加熱された溶接熱影響部の冷却時間とすることを特徴とする溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
【0011】
(2) 前記鋼の化学組成を下記(1)式で示す炭素当量が0.2〜0.5%となる化学組成とすることを特徴とする前記(1)項に記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
Ceq.=C%+Mn%/6+(Cu%+Ni%)/15+(V%+Mo%+Cr%)/5 ・ ・ ・(1)
但し、各成分は質量%。
【0012】
(3) 下記(2)式で示す粒界フェライト指標(GBF)が0.4〜4.5となるような、鋼の化学組成及び/又は溶接により加熱された溶接熱影響部の冷却時間とすることを特徴とする前記(1)又は(2)項のいずれかに記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
GBF=10.7+0.0011・τ+C%−4.3・Si%−4.4・Mn%−4.6・Cu%−0.8・Ni%+10.6・Mo%+4.8・W%+49.7・Nb%+21.4%・V%+24.9・Ta%+45.5・Zr%−1306・B% ・ ・ ・(2)
但し、各成分は質量%、τは溶接により加熱された溶接熱影響部の冷却過程における800℃から500℃までの冷却に要する時間(s)。
【0013】
(4) 質量%で、
C :0.01〜0.2%、
Si:0.05〜1%、
Mn:0.1〜2%、
P:0.015%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.005〜0.1%、
N:0.001〜0.01%、
Ti:0.005〜0.03%、
Ca:0.0005〜0.003%
を含有し、かつ、鋼中に、円相当径で0.005〜2μmの酸化物粒子を単位面積当たりの個数で、100〜3000個/mm2含有し、該酸化物の組成が少なくともCa、Al、Oを含み、Oを除いた元素が質量比で、
Ca:5%以上、
Al:5%以上
を含有する鋼を用いることを特徴とする前記(1)〜(3)項のいずれかに記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
【0014】
(5) 前記酸化物粒子の組成が少なくともCa、Al、O、Sを含み、Oを除いた元素が質量比で、
Ca:5%以上、
Al:5%以上、
S:1%以上
であることを特徴とする前記(4)項に記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
【0015】
(6) さらに、質量%で、
Mg:0.0001〜0.002%
を含有し、かつ、鋼中に、円相当径で0.005〜2μmの酸化物粒子を単位面積当たりの個数で、100〜3000個/mm2含有し、該酸化物の組成が少なくともCa、Al、Mg、Oを含み、Oを除いた元素が質量比で、
Ca:5%以上、
Al:5%以上、
Mg:1%以上
を含有する鋼を用いることを特徴とする前記(4)項に記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
【0016】
(7) 前記酸化物粒子の組成が少なくともCa、Al、Mg、O、Sを含み、Oを除いた元素が質量比で、
Ca:5%以上、
Al:5%以上、
Mg:1%以上、
S:1%以上
であることを特徴とする前記(6)項に記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
【0017】
(8) 質量%で、
Ni:0.1〜6%、
Cu:0.05〜1.5%、
Cr:0.05〜1%、
Mo:0.05〜1%、
W:0.1〜2%、
V:0.01〜0.2%、
Nb:0.003〜0.05%、
Ta:0.01〜0.2%、
Zr:0.005〜0.1%、
B:0.0002〜0.005%
の1種又は2種以上を含有する鋼を用いることを特徴とする前記(1)〜(7)項のいずれかに記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
【0018】
(9) 質量%で、
Y:0.001〜0.01%、
La:0.005〜0.1%、
Ce:0.005〜0.1%
のうち1種又は2種以上を含有する鋼を用いることを特徴とする前記(1)〜(8)項のいずれかに記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、1パス大入熱溶接におけるHAZ靭性に大きな影響を及ぼす有効結晶粒径とミクロ組織との関係を検討し、加熱オーステナイト粒径が粗大な場合と微細な場合とでは、有効結晶粒径を支配する組織因子が異なることを見出した。すなわち、冷却中のオーステナイトから変態するに際して、先ず粒界フェライトが生成するが、溶接金属と熱影響部との境界となる溶融線(以降、フュージョンライン)から溶接熱影響部側1mmの範囲の加熱オーステナイト粒径が母材に比べて粗粒となる領域において、加熱オーステナイト粒径が比較的微細な場合には、粒内組織は先行して変態している粒界フェライトの生成状況にほぼ支配されるため、組織全体の有効結晶粒径はほぼ粒界フェライトの生成状況と1対1に対応する。また、脆性破壊の発生起点となって靭性に悪影響を及ぼす島状マルテンサイトやパーライト、セメンタイト等の硬質相の割合、サイズも粒界フェライト分率で規定される。一方、加熱オーステナイト粒径が粗大であると、粒界領域に比べて粒内領域が大きいため、粒内組織は必ずしも粒界フェライト変態挙動だけでは規定されず、有効結晶粒径は非常に複雑な組織要因、例えばオーステナイト粒径、粒界フェライト、粒内変態核としての介在物、等が複雑に影響を及ぼし合って決定される。
【0020】
本発明者らは、有効結晶粒径が粒界フェライトだけでその大要が決定される微細な加熱オーステナイト粒径の場合には、HAZ靭性の制御が比較的単純な指標により可能であると判断し、加熱オーステナイトが微細な場合のHAZ靭性−有効結晶粒径−粒界フェライトの関係を詳細に検討した。
【0021】
図1は、下記(1)式で示される炭素当量が0.2〜0.5%の範囲で化学組成を種々変化させた小型実験室溶解材を用いて、1パス大入熱溶接におけるフージョンライン近傍のHAZの温度履歴を高周波誘導加熱とガス冷却によってHAZ組織をシミュレートした場合の2mmVノッチシャルピー試験の破面遷移温度(vTrs)と再現HAZ組織における粒界フェライト分率(光学顕微鏡組織写真における面積率)との関係を調べた図である。なお、供試鋼は全て安定な酸化物、硫化物を鋼中に微細分散させた鋼であり、1400℃に100s加熱・保持されたときの加熱オーステナイト粒径は150〜350μmの範囲の微細粒となっているものである。温度履歴は、FCB溶接を想定した条件(室温から1400℃までの昇温時間:15s、1400℃×1s保持、800℃から500℃までの冷却時間(τ):160s)とエレクトロガス溶接を想定した条件(室温から1400℃までの昇温時間:20s、1400℃×20s保持、800℃から500℃までの冷却時間(τ):300s)の2種類を付与している。
Ceq.=C%+Mn%/6+(Cu%+Ni%)/15+(V%+Mo%+Cr%)/5 ・ ・ ・(1)
【0022】
図1に示されるように、加熱オーステナイト粒径が350μm以下と微細であることが前提ではあるが、化学組成は種々変化し、溶接条件も異なるものを含んでいるにもかかわらず、靭性はほぼ粒界フェライト分率によって規定でき、粒界フェライトが5〜40%程度であれば、vTrs≦−20℃の極めて良好な低温靭性が達成されている。従って、1パス大入熱溶接におけるHAZの加熱オーステナイト粒径が微細となる鋼においては粒界フェライトを制御すれば確実に良好な靭性を確保できることになる。
【0023】
そこで、本発明者らは、HAZの加熱オーステナイト粒径が微細な場合の粒界フェライト分率と鋼組成、溶接条件との間の関連性を詳細に検討し、粒界フェライト分率を化学組成と溶接条件とから精度良く推定できる、下記(2)式で示される粒界フェライト指標(GBF)を初めて知見した。
GBF=10.7+0.0011・τ+C%−4.3・Si%−4.4・Mn%−4.6・Cu%−0.8・Ni%+10.6・Mo%+4.8・W%+49.7・Nb%+21.4%・V%+24.9・Ta%+45.5・Zr%−1306・B% ・ ・ ・(2)
【0024】
なお、各成分は質量%、τは溶接により加熱された溶接熱影響部の冷却過程における800℃から500℃までの冷却に要する時間(s)であり、図2に示されるように、図1の実験結果における再現HAZ組織の粒界フェライト分率は、種々の化学組成、異なる溶接条件を包含して、GBFとの間に良好な相関が認められ、再現HAZ靭性が良好となる粒界フェライト分率が5〜40%のHAZ組織を得るためにGBFを適正範囲にすれば良いことが明確である。
【0025】
本発明は以上の新たな知見に基づいて発明に至ったものであり、個々の化学組成、炭素当量を適正化することが前提となるが、その基本要件は、「鋼板を1パスで溶接する方法において、溶接時に、フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の加熱オーステナイト粒径が最大350μm以下で、かつ、溶接後におけるフュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の変態組織の粒界フェライト分率が5〜40%となるような、鋼の化学組成及び/又は溶接により加熱された溶接熱影響部の冷却時間とする」、こと、及び、該組織要件を満足するための手段として、「(2)式で示す粒界フェライト指標(GBF)が0.4〜4.5となるような、鋼の化学組成及び/又は溶接により加熱された溶接熱影響部の冷却時間とする」、ことにある。以下、先ず、基本要件について説明し、順次、鋼板を1パスで溶接する方法において、溶接時に、フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の最大加熱オーステナイト粒径を350μm以下にする手段、化学組成の限定理由について説明する。
【0026】
1パス大入熱溶接において、溶接時に、フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の加熱オーステナイト粒径が最大350μm以下で、かつ、溶接後におけるフュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の変態組織の粒界フェライト分率を5〜40%とすることで、良好なHAZ靭性が達成される。
【0027】
粒界フェライトの分率の規定のみで靭性を制御するためには、フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の加熱オーステナイト粒径が最大350μm以下であることが前提となる。大入熱溶接においては、フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の加熱オーステナイト粒径が特に粗大化し、靭性の最も劣化する領域となるが、該位置での加熱オーステナイト粒径を最大でも350μm以下とすれば、粒内組織は先行して変態している粒界フェライトの生成状況にほぼ支配されるため、粒界フェライトを規定すれば該位置での有効結晶粒径も規定できることになる。一方、該位置での最大加熱オーステナイト粒径が350μm超と粗大であると、粒内組織が粒界フェライトの状態だけでは規定されないため、本発明を適用することができない。従って本発明では、フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の加熱オーステナイト粒径が最大350μm以下であることが前提となる。なお、フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmを超えた母材よりのHAZでは、溶接熱影響部側1mmの範囲の加熱オーステナイト粒径が最大350μm以下となる鋼では必然的に組織が微細となり、靭性が溶接熱影響部側1mmの範囲より劣ることはないため、特に考慮する必要はない。
【0028】
フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の加熱オーステナイト粒径が最大350μm以下となる鋼を用いて、さらに化学組成及びあるいは溶接条件を調整することによって、溶接後におけるフュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の変態組織の粒界フェライト分率を5〜40%とする。これは、図1に示されるように、粒界フェライト分率が5〜40%において、シャルピー衝撃特性が安定的に良好となるためである。該粒界フェライト分率範囲では粒界組織、粒内組織がともに微細となり、その結果、有効結晶粒径が微細となる。一方、粒界フェライト分率が5%未満では主たる組織が粗大な上部ベイナイトとなるため、有効結晶粒径が粗大になり、かつ脆化相の割合も増加するため、またHAZ硬さが上昇するため、良好なHAZ靭性を確保することが困難となる。また、粒界フェライト分率が40%超の場合は、粒界フェライト自体が粗大となり、有効結晶粒径が粗大化するとともに、フェライト変態中のCのフェライト/オーステナイト界面への濃化が過大となり粗大な島状マルテンサイトやパーライトが形成されるため、HAZ靭性が劣化する。
【0029】
本発明における基本要件は上記の如く、「フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmmの範囲の加熱オーステナイト粒径が最大350μm以下で、かつ、溶接後におけるフュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の変態組織の粒界フェライト分率が5〜40%となるような、鋼の化学組成及び/又は溶接により加熱された溶接熱影響部の冷却時間とすること」であるが、本発明では、該組織要件を満足するための手段として、図2に基づいて、「(2)式で示す粒界フェライト指標(GBF)が0.4〜4.5となるような、鋼の化学組成及び/又は溶接により加熱された溶接熱影響部の冷却時間とする」、ことを併せて要件とする。但し、本発明においては、フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の加熱オーステナイト粒径が最大350μm以下で、かつ、溶接後におけるフュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の変態組織の粒界フェライト分率が5〜40%となるように、前記鋼の化学組成及び/又は溶接により加熱された溶接熱影響部の冷却時間を調整する手段として、(2)式で示す粒界フェライト指標(GBF)が0.4〜4.5となるように鋼の化学組成と溶接条件とを調整することだけに限定されるものではない。
【0030】
フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の加熱オーステナイト粒径が最大350μm以下であれば、図2に示すように、粒界フェライト分率は(2)式で示す、化学組成と溶接条件、具体的には、溶接熱影響部の冷却過程における800℃から500℃までの冷却に要する時間(τ)から求められる粒界フェライト指標(GBF)とほぼ1対1に対応する。従って、図2に基づいて、粒界フェライト分率が5〜40%の範囲となるように、GBFを0.4〜4.5とすることでHAZ靭性を確実に良好にできる。GBFが0.4未満では粒界フェライト分率が5%未満と過小となる可能性が高いため、一方、GBFが4.5超では粒界フェライトが40%超になる可能性が高いため、いずれもHAZ靭性を確実に良好とするためには好ましくない。
【0031】
(2)式が化学組成と溶接条件の両方を含むことから明らかなように、1パス大入熱溶接におけるHAZ靭性を向上するためには、溶接方法を確定した上で化学組成を(2)式に基づいて調整しても良いし、逆に、使用すべき鋼の化学組成に応じて、GBFが0.4〜4.5になるように、溶接条件を調整することも可能である。さらに、コスト、作業性等を総合的に勘案して、鋼の組成、溶接条件の両方をあらかじめ設計することもできる。
【0032】
以上の基本要件を満足する上で、前提として、1パス大入熱溶接において、フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の加熱オーステナイト粒径が最大350μm以下となる鋼を用いる必要がある。本発明ではそのための手段として、酸化物を微細分散させて、そのピンニング効果による加熱オーステナイト粒の成長抑制を図った鋼を用いる。以下にその詳細を述べるが、本発明の効果はその手段によらず、フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の加熱オーステナイト粒径が最大350μm以下となることにより発現するものであり、下記の特徴を有する鋼だけに限定されるものではない。
【0033】
加熱オーステナイト粒を細粒化するためには高温でのオーステナイト粒成長を抑制することが必要である。その手段として最も有効な方法は、分散粒子によりオーステナイトの粒界をピンニングし、粒界の移動を止める方法が考えられる。そのような作用をする分散粒子の一つとしては、従来、Ti窒化物が有効であると考えられていた。しかしながら、Ti窒化物は1400℃以上の高温では固溶する割合が大きくなるため、ピンニング効果が小さくなる。これに対し、高温で安定な酸化物と硫化物とを併せてピンニング粒子として活用することが有効である。
【0034】
また、分散粒子による結晶粒界のピンニング効果は、分散粒子の体積率が大きいほど、一個の粒子径が大きいほど大きい。但し、分散粒子の体積率は鋼中に含まれる粒子を構成する元素の濃度によって上限があるので、体積率を一定と仮定した場合には、粒子径はある程度小さい方がピンニングには有効である。
【0035】
酸化物及び硫化物の体積分率を大きくする手段の一つとして、酸素量、硫黄量を増大させることがあるが、酸素量、硫黄量の増大は材質に有害な粗大介在物をも多数生成する原因となるため、有効な手段ではない。酸素及び硫黄を最大限に利用するためには、酸素及び硫黄との溶解度積が小さい元素を活用することが有効である。
【0036】
酸素との溶解度積が小さい、すなわち強脱酸元素として、一般的にはAlが用いられる。しかしながら、Alだけでは酸素を充分利用するには不充分で、さらにAlよりも強い脱酸元素が必要で、Mg、さらにはCaを活用することが重要である。
【0037】
硫化物を生成しやすい元素として、Mnが挙げられる。しかしながら、Mnだけでは硫黄を活用するには不充分で、硫黄との溶解度積が小さい、すなわち安定した硫化物を生成するにはやはりMg、Caの活用が有効である。
【0038】
Ca、Mgを用いた溶解実験を行った結果、鋼中に生成する酸化物粒子の組成として、Caが5%以上、Mgが1%以上含まれることで、酸化物の体積分率すなわち酸化物量を大きくすることが可能となることを知見した。さらには、酸化物の周囲にCaS及びMgSといった硫化物が析出することで、酸化物と硫化物とを併せてより一層の体積分率の増加が可能となることを見出した。その場合、酸化物と硫化物とを併せて一つの粒子と見なしたときの組成が、Mgを含まない場合で、Oを除いた元素が質量比で、CaとAlが5%以上、Sが1%以上含まれる必要がある。また、粒子がMgを含む場合は、Oを除いた元素が質量比で、Ca及びAlが5%以上、Mg及びSが1%以上含まれる必要がある。
【0039】
なお、酸化物中にSを含む場合、酸化物と硫化物とが複合化している場合、酸化物を核として硫化物が該酸化物の周囲に析出している場合、いずれもオーステナイトの成長抑制には同等の効果を有する。以降で、酸化物あるいはピンニング粒子としているものも、特に断らない限り、上記の粒子を包含することとする。この結果をもとに、鋼中に含まれる粒子の組成が下記のいずれかを満足することが有効となる。
▲1▼酸化物が少なくともCa、Al、Oを含み、Oを除いた元素が質量比で、Ca:5%以上、Al:5%以上を含む。必要に応じて、該酸化物中に、さらにS:1%以上を含む。
▲2▼酸化物が少なくともCa、Al、Mg、Oを含み、Oを除いた元素が質量比で、Ca:5%以上、Al:5%以上、Mg:1%以上を含む。必要に応じて、該酸化物中に、さらにS:1%以上を含む。
【0040】
上記要件を満足していれば、該酸化物にその他の元素、例えば、Si、Mn、Ti、Y、La、Ce等が含まれていても効果が損なわれることはない。
【0041】
次にピンニングに有効な粒子の大きさについて述べる。分散粒子による結晶粒界のピンニング効果は、分散粒子の体積率が大きいほど、一個の粒子径が大きいほど大きいが、粒子の体積率が一定のとき、一個の粒子の大きさが小さい方が粒子数が多くなりピンニング効果が大きくなるが、あまり小さくなると粒界に存在する粒子の割合が小さくなるため、その効果は低減する。粒子の大きさを種々変化させた試験片を用いて、高温に加熱したときのオーステナイト粒径を詳細に調査した結果に基づいて、ピンニングには粒子の大きさとして、直径で、0.005〜2μmのものが効果が大きいことをつきとめ、さらにその中でも、0.1〜2μmの粒子の大きさが特に有効であることを知見した。この結果より、必要な粒子径を0.005〜2μm、その中でも特に0.1〜2μmとした。
【0042】
次にフュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の加熱オーステナイト粒径が最大350μm以下とするために必要なピンニング粒子の個数について検討した。粒子個数が多いほどHAZの加熱オーステナイト粒径は微細化するが、粒子数が100個/mm2以上であれば、フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の最大加熱オーステナイト粒径を確実に350μm以下とすることが可能となる。但し、さらに粒子数を増加させても、ピンニング効果は徐々に飽和する傾向にある。必要以上に粒子個数を多くすることは靭性に有害な粗大な粒子が生成する可能性が高くなり、また現在の工業技術では限界もあることを考え、粒子数の上限を3000個/mm2に限定した。
【0043】
該酸化物の大きさ及び個数の測定は、例えば以下の要領で行う。母材となる鋼板から抽出レプリカを作製し、それを電子顕微鏡にて10000倍で20視野以上、観察面積にして1000μm2以上を観察することで該酸化物の大きさ及び個数を測定する。このとき鋼板の表層部から中心部までどの部位から採取した抽出レプリカでも良い。また、粒子が適正に観察可能であれば、観察倍率を低くしてもかまわない。
【0044】
酸化物粒子は溶鋼を脱酸する際に生成する。これを一次酸化物と称する。さらには鋳造、凝固中に溶鋼温度の低下とともにTi−Al−Ca酸化物は生成する。これを二次酸化物と称する。本発明では、一次酸化物と二次酸化物とのどちらを用いてもかまわない。
【0045】
また鋼材を製造するプロセスとして、通常圧延まま、制御圧延、さらにこれと制御冷却と焼もどしの組合せ、及び焼入れ・焼もどしの組合せなどであっても酸化物の効果は影響を受けない。
【0046】
最後に、本発明のおける化学組成に関する要件として、個々の元素の限定理由、炭素当量の限定理由を説明する。
【0047】
先ず、Cは鋼の強度を向上させる有効な成分として添加するもので、0.01%未満では構造用鋼に必要な強度の確保が困難であり、また、0.2%を超える過剰の添加は脆化相を増加させてHAZ靭性を粒界フェライト分率によらず劣化させるため、また、耐溶接割れ性も著しく低下させるため、0.01〜0.2%の範囲とした。
【0048】
次に、Siは脱酸元素として有用であり、また、母材の強度確保にも有効な元素である。0.05未満では脱酸の効果が十分でなく、一方、1%を超える過剰の添加はHAZに高炭素島状マルテンサイトを生成してHAZ靭性を低下させるため、本発明ではSiの範囲を0.05〜1%とした。
【0049】
また、Mnは母材の強度靭性の確保に必要な元素であり、最低限0.1%以上添加する必要があるが、過剰に添加するとHAZ靭性、溶接割れ性などが劣化するため、許容できる範囲で上限を2%とした。
【0050】
Pは不純物元素として、母材、HAZともに靭性に悪影響を及ぼすので、極力低減するべきであり、本発明では上限を0.015%とした。
【0051】
Sは硫化物を形成して延性を大きく劣化させる元素であるため、極力低減する必要があり、本発明では上限を0.01%とした。
【0052】
Alは脱酸、母材の加熱γ粒径微細化等に有効な元素であるが、効果を発揮するためには0.005%以上含有する必要がある。一方、0.1%を超えて過剰に含有すると、溶接熱影響部の加熱オーステナイト微細化に有効な微細酸化物の分散に悪影響を及ぼし、かつ粗大な酸化物を形成して延性を劣化させるため、0.005%〜0.1%の範囲に限定する必要がある。
【0053】
Nは固溶状態では延性、靭性に悪影響を及ぼすため、好ましくないが、V、AlやTiと結びついてγ粒微細化や析出強化に有効に働くため、微量であれば機械的特性向上に有効である。また、工業的に鋼中のNを完全に除去することは不可能であり、必要以上に低減することは製造工程に過大な負荷をかけるため好ましくない。そのため、延性、靭性への悪影響が許容できる範囲で、かつ、工業的に制御が可能で、製造工程への負荷が許容できる範囲として下限を0.001%とする。過剰に含有すると、固溶Nが増加し、延性や靭性に悪影響を及ぼす可能性があるため、許容できる範囲として上限を0.01%とする。
【0054】
Tiは溶接熱影響部の加熱オーステナイト粒径微細化を酸化物によるピンニングで行う場合には、適正に添加が必要である。効果を発揮するためには0.005%以上必要である一方、0.03%を超えると粗大なTiNや酸化物を形成する恐れがあるため、本発明においてはTiは0.005〜0.03%に限定する。
【0055】
CaもTiと同様、酸化物の微細分散をHAZの加熱オーステナイト微細化に用いる場合には必須の元素である。加熱オーステナイト粒径微細化に効果を発揮するためには0.0005%以上必要である一方、0.003%を超えると粗大な硫化物や酸化物を形成する恐れがあるため、本発明においてはCaは0.0005〜0.003%に限定する。
【0056】
また、Mgも酸化物微細分散に有効であり、必要に応じて添加する。添加する場合は、0.0001〜0.002%の範囲とするが、これは0.0001%未満では効果が明確でなく、0.002%超では酸化物の粗大化が懸念されるためである。
【0057】
以上が、本発明において重要な元素及び不純物元素の限定理由であるが、本発明においては、強度・靭性の調整のために、必要に応じて、さらにNi、Cu、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Zr、Bの1種又は2種以上を含有することができる。
【0058】
Niは母材の強度と靭性を同時に向上でき、非常に有効な元素であるが、効果を発揮するためには0.1%以上の添加が必要である。Ni量は増加するほど母材の強度・靭性を向上させるが、6%を超えるような過剰な添加では、効果が飽和する一方で、焼入性が過剰となって、HAZにおいて所望のフェライト分率が得られなくなる恐れがあるため、また、溶接性の劣化を生じる懸念もあり、さらには、高価な元素であるため、経済性も考慮して、本発明においてはNiの上限を6%とする。
【0059】
CuもNiとほぼ同様の効果を有する元素であるが、効果を発揮するるためには0.05%以上の添加が必要であり、1.5%超の添加では熱間加工性やHAZ靭性に問題を生じるため、本発明においては、0.05〜1.5%の範囲に限定する。
【0060】
Crは焼入性の向上、固溶強化により強度向上に有効な元素であり、効果を生じるためには0.05%以上必要であるが、Crは過剰に添加すると硬さの増加、粗大析出物の形成等を通して、母材やHAZの靭性に悪影響を及ぼすため、許容できる範囲として、上限を1%に限定する。
【0061】
MoもCrと同様の効果によって強度を高めるに有効な元素であるが、効果を発揮でき、他特性に悪影響を及ぼさない範囲として、0.05〜1%に限定する。
【0062】
WもCr、Moと同様の効果によって強度を高めるに有効な元素であるが、効果を発揮でき、他特性に悪影響を及ぼさない範囲として、0.1〜2%に限定する。
【0063】
Vは主として析出強化により高強度化に寄与する。効果を発揮するためには、0.01%以上は必要である。但し、0.2%を超えて過剰に添加すると、延性、靭性を極端に劣化させるため、本発明においては、0.01〜0.2%の範囲に限定する。
【0064】
Nbは変態強化、析出強化により微量で高強度化に寄与する。また、オーステナイトの加工・再結晶挙動に大きな影響を及ぼすため、母材靭性向上にも有効である。効果を発揮するためには、0.003%以上は必要である。但し、0.05%を超えて過剰に添加すると、延性、靭性を極端に劣化させるため、本発明においては、0.003〜0.05%の範囲に限定する。
【0065】
TaもNbと同様の効果を有し、適正量の添加により強度、靭性の向上に寄与するが、0.01%未満では効果が明瞭には生ぜず、0.2%を超える過剰な添加では粗大な析出物に起因した靭性劣化が顕著となるため、範囲を0.01〜0.2%とする。
【0066】
Zrも強度向上に有効な元素であるが、効果を発揮するためには0.005%以上必要である。一方、0.1%を超えて過剰に添加すると粗大な析出物を形成して靭性に悪影響を及ぼすため、上限を0.1%とする。
【0067】
Bは極微量で焼入性を高める元素であり、高強度化に有効な元素である。Bは固溶状態でオーステナイト粒界に偏析することによって焼入性を高めるため、極微量でも有効であるが、0.0002%未満では粒界への偏析量を十分に確保できないため、焼入性向上効果が不十分となったり、効果にばらつきが生じたりしやすくなるため好ましくない。一方、0.005%を超えて添加すると、鋼片製造時や再加熱段階で粗大な析出物を形成する場合が多いため、焼入性向上効果が不十分となったり、鋼片の割れや析出物に起因した延性劣化、靭性劣化を生じる危険性も増加する。そのため、本発明においては、Bの範囲を0.0002〜0.005%とする。
【0068】
さらに、本発明においては、延性の向上、継手靭性の向上等のために、必要に応じて、Y、La、Ceの1種又は2種以上を含有することができる。
【0069】
Yは介在物を微細化させて母材、HAZの延性やHAZ靭性向上に有効に働く。その効果を発揮するための下限の含有量は0.001%である。一方、過剰に含有すると、硫化物や酸化物の粗大化を生じ、延性の低下や、HAZにおける加熱オーステナイト粒径ピンニング効果の劣化によるHAZ靭性の劣化を招くため、上限を0.01%とする。
【0070】
La、CeもYとほぼ同様の効果を有し、効果を発揮するためにはいずれの元素とも0.005%以上必要である。一方、過剰な添加による悪影響が生じない上限としては、いずれの元素とも0.1%とする。
【0071】
本発明においてはさらに、粒界フェライトの量、形態を確実に適正範囲内とするために炭素当量(Ceq.)を0.2〜0.5%とすることが好ましい。炭素当量が0.2%未満であると、変態点が過度に高温となって、粒界フェライト分率が本発明範囲であっても個々の粒界フェライトが粗大化して、HAZ靭性が劣化する恐れがある。一方、炭素当量が0.5%超であると、化学組成によっては、GBFが本発明を満足していても、粒界フェライトの生成が不十分となる恐れがある。
【0072】
【実施例】
以上が、本発明の要件についての説明であるが、さらに、実施例に基づいて本発明の効果を示す。実施例に用いた鋼板の化学組成、酸化物の組成、サイズ、個数測定結果、鋼板製造方法、及び強度を表1及び表2に示す。表1及び表2に示した化学組成の鋼片を用いて、板厚25mmあるいは/及び50mmの鋼板を試作した。試作鋼は真空溶解又は転炉により溶製し、インゴット又は鋳片を板厚25mmあるいは/及び50mmの鋼板に製造した。鋼板の製造方法は板厚25mm、50mmとは同一とし、表1及び表2に示すように、化学組成、所望の強度に応じて、通常の熱間圧延(AR)、制御圧延(CR)、熱間圧延後加速冷却(AcC)、再加熱焼入・焼戻し(QT)、焼きならし(N)、等、種々の製造方法によった。
【0073】
表2には併せて、鋼中酸化物粒子の組成、粒子径0.005〜2μmの粒子数の測定結果も示す。酸化物の組成調査、及び大きさ、個数の測定は、鋼板のほぼ板厚の1/4部位から抽出レプリカを作製し、それを電子顕微鏡にて10000倍で20視野以上、観察面積にして1000μm2以上を観察することで行った。なお酸化物粒子とは既述したように、酸化物中にSを含む粒子、酸化物と硫化物とが複合化している粒子、酸化物を核として硫化物が該酸化物の周囲に析出している粒子を全て含んだものである。
【0074】
引張特性は鋼板の圧延方向に直角な方向が試験片長手方向になるように、板厚中心部から丸棒引張試験片を採取して測定した。表2には板厚25mmにおける降伏応力、引張強度を示す。
【0075】
表3に溶接方法、溶接条件、表1及び表2の化学組成と、各溶接条件におけるτから(2)式により計算したGBF、HAZの組織形態(加熱オーステナイト粒径、粒界フェライト分率)、HAZ靭性として2mmVノッチシャルピー衝撃試験における−40℃における吸収エネルギーを示す。
【0076】
各々の試作鋼を用いて、FCB溶接、エレクトロガス溶接、エレクトロスラグ溶接のうち、1〜3種類の溶接方法により溶接継手を作成した。FCB溶接は板厚25mmの鋼板を用いて、入熱15kJ/mmの条件で継手を作成した。エレクトロガス溶接、エレクトロスラグ溶接は板厚50mmの鋼板を用いて、各々入熱30kJ/mm、80kJ/mmの条件で継手を作成した。溶接により加熱された溶接熱影響部の冷却過程における800℃から500℃までの冷却に要する時間は、別途実測して求め、各々、160s、300s、550sであった。
【0077】
HAZの組織形態は、鋼板の板厚1/4位置での継手断面について、光学顕微鏡組織から求めた。加熱オーステナイト粒径は、フージョンラインからHAZ側1mmまでの間での円相当径として求めた最大径であり、粒界フェライト分率はフージョンラインからHAZ側1mmまでの間の平均値を採用した。
【0078】
シャルピー試験片はノッチ位置がフュージョンラインと、フュージョンラインからHAZ側1mmとなる2カ所から、試験片厚さ10mmの標準試験片を板厚の1/4位置から採取して試験に供した。
【0079】
表3のうち、試験番号A1〜A16は本発明を用いた溶接方法である。すなわち、前提となる、加熱オーステナイト最大径が350μmよりも十分小さい加熱オーズテナイト粒径となる鋼で、かつ、化学組成と溶接方法との組合せで、GBFが0.4〜4.5の範囲内にあり、その結果、粒界フェライト分率が5〜40%の範囲内にあるため、−40℃での2mmVノッチシャルピー衝撃特性が極めて良好である。
【0080】
一方、表3のうち、試験番号B1〜B11は本発明の要件のいずれかを満足せずに溶接継手を作成したために、本発明に基づく試験番号A1〜A16に比べてHAZ靭性が大きく劣っている比較例である。以下、個々の比較例に関して、HAZ靭性が劣っている理由を詳細に説明する。
【0081】
試験番号B1は、試験番号A11、A12と同じ鋼板を用いて溶接しているが、溶接方法が異なったために、GBFが本発明の範囲を超えて過小となり、その結果、粒界フェライト分率がほぼ抑制され、HAZ靭性が劣っている。
【0082】
試験番号B2は、試験番号A3と同じ鋼板を用いて溶接しているが、溶接方法が異なったために、GBFが本発明の範囲を超えて過大となり、その結果、粒界フェライト分率も過大となって、HAZ靭性が劣っている。
【0083】
試験番号B3、B4も、試験番号B1、B2と同様、GBFが適正範囲からはずれるような溶接条件を選択したために、ともに粒界フェライト分率が過大となり、同じ鋼板を用いて適正溶接条件で溶接した、各々試験番号A6、A16に比べてHAZ靭性が大幅に劣っている。
【0084】
以上、試験番号B1〜B4は鋼板の化学組成と溶接条件とを調整してGBFを適正化することで、化学組成、溶接条件、どちらか一方の調整だけに頼ることなく、HAZ靭性を制御できることを示している事例であり、本発明の溶接方法に従えば、極めて良好な1パス大入熱溶接HAZ靭性を達成できることを明確に示している。
【0085】
試験番号B5、B6も化学組成と溶接条件との組合せが適正でないために、GBFが本発明範囲を逸脱し、結果として、粒界フェライト分率も適正範囲外となり、HAZ靭性が劣化した例である。
【0086】
また、試験番号B7、B8は炭素当量も本発明範囲外となっているため、一般的に用いられる1パス大入熱溶接では、粒界フェライトを4〜50%の範囲内とすることが困難な例であり、本実施例では、エレクトロガス溶接したときのHAZ靭性を調査しているが、予想通り、HAZ靭性は非常に低い。
【0087】
さらに、試験番号B9〜B11は、酸化物に関する要件が本発明を逸脱しているために、HAZの加熱オーステナイト最大径が350μmを超えて粗大となった例である。HAZ組織が本発明範囲からはずれていたり、加熱オーステナイト粒径が粗大なことが直接影響したりしているため、有効結晶粒径が粗大となっており、その結果、良好なHAZ靭性が得られない。
【0088】
以上の実施例から、本発明の溶接方法に従って作製した1パス大入熱溶接継手では、極めて良好なHAZ靭性が達成されていることが明白である。
【0089】
【表1】
Figure 0003837083
【0090】
【表2】
Figure 0003837083
【0091】
【表3】
Figure 0003837083
【0092】
【発明の効果】
本発明により、FCB溶接、FAB溶接、エレクトロガス溶接、エレクトロスラグ溶接等の1パス大入熱溶接継手の溶接熱影響部靭性を、鋼材組成及び/又は溶接方法に応じて良好とすることが可能となり、溶接構造物の安全性を高められるとともに、施工コストのミニマム化も図ることが可能となり、産業上の効果は極めて顕著である。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接熱影響部再現熱サイクル試験における、粒界フェライト分率と靭性との関係を示す図である。
【図2】溶接熱影響部再現熱サイクル試験における、粒界フェライト指標(GBF)と粒界フェライト分率との関係を示す図である。

Claims (9)

  1. 鋼板を1パスで溶接する方法において、溶接時に、フュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の加熱オーステナイト粒径が最大350μm以下で、かつ、溶接後におけるフュージョンラインから溶接熱影響部側1mmの範囲の変態組織の粒界フェライト分率が5〜40%となるような、前記鋼の化学組成及び/又は溶接により加熱された溶接熱影響部の冷却時間とすることを特徴とする溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
  2. 前記鋼の化学組成を下記(1)式で示す炭素当量が0.2〜0.5%となる化学組成とすることを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
    Ceq.=C%+Mn%/6+(Cu%+Ni%)/15+(V%+Mo%+Cr%)/5 ・ ・ ・(1)
    但し、各成分は質量%
  3. 下記(2)式で示す粒界フェライト指標(GBF)が0.4〜4.5となるような、鋼の化学組成及び/又は溶接により加熱された溶接熱影響部の冷却時間とすることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
    GBF=10.7+0.0011・τ+C%−4.3・Si%−4.4・Mn%−4.6・Cu%−0.8・Ni%+10.6・Mo%+4.8・W%+49.7・Nb%+21.4%・V%+24.9・Ta%+45.5・Zr%−1306・B% ・ ・ ・(2)
    但し、各成分は質量%、τは溶接により加熱された溶接熱影響部の冷却過程における800℃から500℃までの冷却に要する時間(s)。
  4. 質量%で、
    C :0.01〜0.2%、
    Si:0.05〜1%、
    Mn:0.1〜2%、
    P:0.015%以下、
    S:0.01%以下、
    Al:0.005〜0.1%、
    N:0.001〜0.01%、
    Ti:0.005〜0.03%、
    Ca:0.0005〜0.003%
    を含有し、かつ、鋼中に、円相当径で0.005〜2μmの酸化物粒子を単位面積当たりの個数で、100〜3000個/mm2含有し、該酸化物の組成が少なくともCa、Al、Oを含み、Oを除いた元素が質量比で、
    Ca:5%以上、
    Al:5%以上
    を含有する鋼を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
  5. 前記酸化物粒子の組成が少なくともCa、Al、O、Sを含み、Oを除いた元素が質量比で、
    Ca:5%以上、
    Al:5%以上、
    S:1%以上
    であることを特徴とする請求項4に記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
  6. さらに、質量%で、
    Mg:0.0001〜0.002%
    を含有し、かつ、鋼中に、円相当径で0.005〜2μmの酸化物粒子を単位面積当たりの個数で、100〜3000個/mm2含有し、該酸化物の組成が少なくともCa、Al、Mg、Oを含み、Oを除いた元素が質量比で、
    Ca:5%以上、
    Al:5%以上、
    Mg:1%以上
    を含有する鋼を用いることを特徴とする請求項4のいずれかに記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
  7. 前記酸化物粒子の組成が少なくともCa、Al、Mg、O、Sを含み、Oを除いた元素が質量比で、
    Ca:5%以上、
    Al:5%以上、
    Mg:1%以上、
    S:1%以上
    であることを特徴とする請求項6に記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
  8. 質量%で、
    Ni:0.1〜6%、
    Cu:0.05〜1.5%、
    Cr:0.05〜1%、
    Mo:0.05〜1%、
    W:0.1〜2%、
    V:0.01〜0.2%、
    Nb:0.003〜0.05%、
    Ta:0.01〜0.2%、
    Zr:0.005〜0.1%、
    B:0.0002〜0.005%
    の1種又は2種以上を含有する鋼を用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
  9. 質量%で、
    Y:0.001〜0.01%、
    La:0.005〜0.1%、
    Ce:0.005〜0.1%
    のうち1種又は2種以上を含有する鋼を用いることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の溶接熱影響部靭性の優れた1パス大入熱溶接方法。
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