JP4344919B2 - 予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板とその製造方法及び溶接鋼構造物 - Google Patents

予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板とその製造方法及び溶接鋼構造物 Download PDF

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Description

【0001】
本発明は、予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板とその製造方法及び溶接鋼構造物に関する。より詳しくは、高度の安全性が要求される揚水型発電所の水圧鉄管や氷海域の海洋構造物などの用途に好適な、780MPa以上の引張強さを有する予熱なしでの溶接性に優れた高張力鋼板及びその製造方法と溶接鋼構造物とに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、溶接鋼構造物が大型化する傾向が顕著となっている。したがって、こうした大型溶接鋼構造物に使用される厚鋼板に対して要求される強度もますます高くなっている。
【0003】
高強度鋼板には、十分な焼入れ性を確保するために通常多くの合金元素が添加されているので、溶接すると熱影響部(以下、HAZという)の硬度が上昇してしまう。HAZ、特に溶接ボンド部の硬度が上昇すると、溶接割れの発生が誘発される。この溶接割れを防止するためには、溶接施工前に予熱を行い、溶接部の冷却速度を低下させて硬度の上昇を防止する方法が有効である。
【0004】
しかし、高温での予熱は溶接施工コストが嵩むばかりか工期が長期化するし、特に、予熱温度が150℃を超える場合には、現場の作業環境が著しく劣悪となるので作業者への負担も急激に増加する。
【0005】
このため、溶接施工前に行う予熱が100℃以下の低い温度であってもHAZの硬度があまり上昇せず、溶接割れを発生しない高強度鋼板、なかでも780MPaを超える引張強さ(以下、TSという)を有する高強度鋼板が求められている。
【0006】
最近では更に、現場作業者の負荷を軽減させるために、予熱温度を50℃以下の低い温度にしたり、予熱フリー(予熱なし)にするという厳しい要求もなされている。
【0007】
TSが780MPaを超える高強度鋼板については、種々の製造方法が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、特定の化学組成を有する鋼をいわゆる「圧延後直接焼入れ」した後に焼戻しして高強度鋼を製造する方法が開示されている。しかし、この特許文献1で提案された技術の場合、添加元素によるHAZの硬化量を示す前記(a)式で表されるPcm値が規定されていないばかりか、熱間圧延後の急冷停止温度も200℃以下であるため、特に、板厚が30mmを超えるような厚鋼板の場合には、予熱温度が100℃以下の低い温度であると必ずしも溶接割れが防止できるというものではなかった。
【0009】
特許文献2、特許文献3や特許文献4にも「圧延後直接焼入れ」する高強度鋼の製造法が開示されている。しかしながら、これらの特許文献で提案された技術の場合も、添加元素によるHAZの硬化量を示すPcm値が規定されていないので溶接性が悪くなる可能性が大きい。つまり、溶接割れを防止するための予熱温度を低くする配慮がなされていないので、予熱温度が100℃以下の低い温度であると必ずしも溶接割れが防止できるというものではなかった。
【0010】
予熱温度をできる限り低温で行うための高強度鋼板の製造方法としては、例えば特許文献5に、化学組成を適正化してPcmを0.25%以下にするとともに加熱・圧延条件を適正化することによって、溶接施工時の予熱温度が100℃以下であっても溶接割れを発生することのない技術が開示されている。しかし、この特許文献5で提案された技術をもってしても、予熱温度を50℃以下の低温にしたり予熱フリーとした場合には、必ずしも溶接割れが防止できるというものではなかった。
【0011】
また、特許文献6には、CuやVの析出強化により鋼材の強度を保ち、溶接部ではこれらの元素を再固溶させて硬度を下げる技術が開示されている。しかしこの特許文献6で提案された高張力鋼についても、予熱温度を50℃以下の低温にしたり予熱フリーとした場合には、必ずしも溶接割れが防止できるものではなかった。
【0012】
【特許文献1】
特開昭59−136418号公報
【特許文献2】
特開昭61−136622号公報
【特許文献3】
特開平2−205629号公報
【特許文献4】
特開平9−263828号公報
【特許文献5】
特開2000−319726号公報
【特許文献6】
特開平5−209222号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、その目的は、揚水型発電所の水圧鉄管や氷海域の海洋構造物などの用途に好適な、TSが780MPa以上、JIS Z 2202(1998)に記載の幅10mmのVノッチ試験片を用いた衝撃試験における−80℃での吸収エネルギー(vE-80 )が80J以上で、しかも溶接施工時予熱なしであっても溶接割れを発生しない高強度鋼板及びその廉価な製造方法と溶接鋼構造物とを提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記(1)及び(2)に示す予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板、(3)及び(4)に示す予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板の製造方法並びに、(5)に示す溶接鋼構造物にある。
【0015】
(1)質量%で、C:0.03〜0.15%、Si:0.02〜0.4%、Mn:1.0〜1.6%、Ni:0.6〜7.0%、Ti:0.005〜0.03%、sol.Al:0.002〜0.070%、N:0.0005〜0.0070%、Cu:1.5%以下(0%を含む)、Cr:1.0%以下(0%を含む)、Mo:1.0%以下(0%を含む)、V:0.05%以下(0%を含む)、Nb:0.06%以下(0%を含む)及びB:0.0025%以下(0%を含む)を含有し、残部はFe及び不純物からなり、下記(a)式で表されるPcmの値が0.25%以下及び下記(b)式で表されるFn1の値が3.0%以上の化学組成で、且つ、下記(c)式で表されるSRの値が800MPa以下であることを特徴とする予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板。
【0016】
Pcm=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B・・・・(a)、
Fn1=Mn+2Ni・・・・(b)、
SR=−{1−(Tr/830)}×YS+2.45×(Tr−Th)・・・・(c)。
ここで、(a)式及び(b)式中の元素記号はその元素の含有量(質量%)を表す。また、(c)式中のTrは鋼板の変態点(℃)、YSは鋼板の降伏応力(MPa)、Thは溶接前の予熱温度(℃)を表す。
【0017】
(2)Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.007%以下(0%を含まず)、Mg:0.007%以下(0%を含まず)、Ce:0.007%以下(0%を含まず)、Y:0.5%以下(0%を含まず)、Nd:0.5%以下(0%を含まず)及びREM:0.05%以下(0%を含まず)から選択される1種以上を含有する上記(1)に記載の予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板。
【0018】
(3)上記(1)又は(2)に記載の化学組成を有する鋼を、1000〜1180℃の温度域に加熱し、900℃以下の温度域での累積圧下率が50%以上となるように熱間圧延した後、直ちに5℃/s以上の冷却速度で急冷し、表面温度が350℃以下で200℃を超える温度に達した時点でその急冷を停止し、その後0.5℃/s以下の冷却速度で50℃まで冷却することを特徴とする予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0019】
(4)上記(1)又は(2)に記載の化学組成を有する鋼を、1000〜1180℃の温度域に加熱し、900℃以下の温度域での累積圧下率が50%以上となるように熱間圧延した後、直ちに5℃/s以上の冷却速度で急冷し、表面温度が350℃以下で200℃を超える温度に達した時点でその急冷を停止し、その後0.5℃/s以下の冷却速度で50℃まで冷却した後、更に650℃以下の温度に加熱し、板厚(mm)×4.5分以上の時間保持して焼戻しすることを特徴とする予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0020】
(5)母材が上記(1)又は(2)に記載の高強度鋼板からなる溶接鋼構造物であって、その溶接ボンド部に占める島状マルテンサイトの割合が5%以下であることを特徴とする溶接鋼構造物。
【0021】
本発明でいう鋼板の「変態点(℃)」Trとは、直径が3mmで長さが10mmの試験片をフォーマスター試験機(富士電波工機製)に取り付け、1350℃で5秒間加熱後、1350℃から100℃までをヘリウムガスを用いてほぼ40℃/sの冷却速度で冷却した際のベイナイト変態の開始温度(但し、ベイナイト変態が生じない場合にはマルテンサイト変態の開始温度)をいう。この温度は、鋼板の化学成分だけではなく、その製造方法にも依存し、組織や粒径によって決まる。
【0022】
「降伏応力」YSとは常温(室温)で引張試験した場合の下降伏点又は0.2%耐力とする。
【0023】
「溶接前の予熱温度」Thは、室温を超える温度で予熱した場合にはその温度とし、予熱フリー(予熱なし)の場合には「0℃」と定義する。
【0024】
本発明でいう「圧下率」とは、圧延による厚さの減少割合をいう。
【0025】
また、熱間圧延後「直ちに」鋼板を急冷するとは、圧延後の鋼板を再加熱することなく水や油などの冷却媒体によっていわゆる「圧延後直接焼入れ」することをいう。
【0026】
「島状マルテンサイト」とは、ベイナイトのラス状組織の間又は旧オーステナイト粒界に存在するマルテンサイトを指す。なお、溶接鋼構造物の溶接ボンド部における島状マルテンサイトは、例えば、溶接鋼構造物と同じ条件で溶接したy型溶接割れ試験板の溶接ボンド部を透過型電子顕微鏡を用いて観察することで、溶接鋼構造物を破壊することなく容易に確認することができる。
【0027】
そこで、本発明に係る溶接鋼構造物の溶接ボンド部における島状マルテンサイトの割合は、溶接鋼構造物と同じ条件で溶接したy型溶接割れ試験板の溶接ボンド部を透過型電子顕微鏡の倍率を10000倍として合計10視野観察し、各視野において求めた島状マルテンサイトが占める割合を算術平均した値と定義する。
【0028】
本発明で「REM」とは、Ce及びNdを除く原子番号57から71までの元素をいう。
【0029】
以下、上記(1)及び(2)の予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板に係る発明、(3)及び(4)の予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板の製造方法に係る発明、(5)の溶接鋼構造物に係る発明をそれぞれ(1)〜(5)の発明という。
【0030】
溶接割れは、鋼に含有される合金元素量、鋼中の水素量及び溶接時に鋼中に侵入する水素量によって決定される。
【0031】
合金元素の含有量が多い場合には、鋼の焼入れ性が向上して優れた母材強度が得られる反面、HAZの硬度が上昇して溶接割れが発生しやすくなる。
【0032】
一方、溶接時に溶接金属や雰囲気から鋼中に侵入する水素が溶接ボンド部に代表されるような応力集中部に集まってポロシティーを形成し、これによって溶接割れが発生するといわれている。
【0033】
溶接施工現場における溶接雰囲気を変化させることは困難であるので、鋼中への侵入水素量を軽減するためには、溶接材料を十分に乾燥させて水分を蒸発させることが重要であるが、溶接割れを防止するためには高い温度での予熱が必要となる。
【0034】
また、例えば前述の特許文献5にも記載されているように、溶接施工前の鋼板内に存在する水素のポロシティーが溶接割れを引き起こす。そして、溶接施工前の鋼板内に含有される水素量を低減することも溶接時の予熱温度低減のための重要な因子となるが、前述のとおり特許文献5に開示された技術によって単に鋼板内に含有される水素量を低減するだけでは、予熱温度を50℃以下の低温にしたり予熱フリーとした場合には、必ずしも溶接割れが防止できるというものではない。
【0035】
そこで、本発明者らは、特に、溶接施工時予熱なしであっても溶接割れを発生しない高強度鋼板及びその製造方法に関して種々検討を重ね、下記(イ)〜(ヘ)の知見を得た。
【0036】
(イ)鋼材をオーステナイト領域から冷却すると相変態して体積変化をきたし、特に、オーステナイトがベイナイト又はマルテンサイトに変態する場合には膨張するが、この膨張量は変態の開始点が低いほど大きく、引張残留応力の低減に寄与する。
【0037】
(ロ)溶接部には凝固収縮による引張残留応力が発生し、この引張残留応力が溶接割れを引き起こす。しかし、母材が低温変態してその膨張量が増加すれば引張残留応力が低減し、これによって溶接割れを低減することができる。
【0038】
(ハ)引張残留応力を低減すれば、溶接割れを引き起こす限界水素量が増加する。
【0039】
(ニ)溶接ボンド部における島状マルテンサイトの割合を抑制して炭化物の析出を促進させれば、溶接割れの起点が消滅して溶接割れに対する抵抗性(つまり、耐溶接割れ性)が増加する。
【0040】
(ホ)母相と島状マルテンサイトの境界部は水素のトラップサイトとなるので、島状マルテンサイト量を低減することが溶接割れの防止に有効である。
【0041】
(ヘ)ベイナイト変態時にベイニティックフェライトから排出された炭素がセメンタイトとして析出せずにオーステナイト中に固溶したままとなり、その炭素が濃縮したオーステナイトが冷却によってマルテンサイトに変態して島状マルテンサイトが生成するので、セメンタイト析出を容易にすることで島状マルテンサイトの形成を抑制することができる。
【0042】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、溶接部の硬度の低減ではなく、特に、溶接ボンド部におけるベイナイト変態の開始温度を低下させて溶接後の引張残留応力を低減することによって、予熱なしであっても溶接割れを発生させない技術である。なお、既に述べたように、ベイナイト変態が生じない場合、上記の「ベイナイト変態の開始温度」は「マルテンサイト変態の開始温度」を指す。なお、以下の説明においてはこの場合も含めて単に「ベイナイト変態の開始温度」ということにする。
【0043】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
【0044】
(A)鋼板の化学組成
C:0.03〜0.15%
Cは、溶接ボンド部のベイナイト変態の開始温度を低下させるとともに、鋼板の強度を確保する目的で添加する。その含有量が0.03%未満ではベイナイト変態の開始温度の低下効果が十分ではなく、予熱温度を50℃以下の低い温度とすれば、溶接割れを生じてしまう。更に、焼入れ性が不足して所望の780MPaのTSを確保するのが困難であり、また靱性も劣化する。TSが780MPa以上、JIS Z 2202(1998)に記載の幅10mmのVノッチ試験片を用いた衝撃試験におけるvE-80 が80J以上という、強度と靱性を確保する上で、Cは0.03%以上含有させることが必要である。一方、その含有量が0.15%を超えると、溶接ボンド部のベイナイト変態の開始温度は低下するものの、HAZの硬度が上昇して溶接割れ感受性が逆に高くなる。したがって、Cの含有量を0.03〜0.15%とした。なお、C含有量の上限は0.12%とすることが望ましく、0.09%とすれば一層好ましい。また、C含有量の下限は0.05%とすることが望ましい。
【0045】
Si:0.02〜0.4%
Siは、脱酸作用を有する。しかし、その含有量が0.02%未満では前記の効果が得られない。一方、Siの含有量が0.4%を超えると、HAZにおいて島状マルテンサイトの局所的な生成が誘発され、耐溶接割れ性の著しい低下を招く。したがって、Siの含有量を0.02〜0.4%とした。なお、Si含有量の上限は0.3%とすることが望ましい。
【0046】
Mn:1.0〜1.6%
Mnは、溶接ボンド部のベイナイト変態の開始温度の低下に最も効果のある元素であり、含有量を増加させることは溶接割れ防止のために有効である。この効果を得るためにはMnの含有量を1.0%以上とする必要がある。一方、Mnにはセメンタイトの析出を抑制する作用があるので、多量に含有させると耐溶接割れ性の低下を招き、特に、その含有量が1.6%を超えると耐溶接割れ性の低下が著しくなる。したがって、Mnの含有量を1.0〜1.6%とした。
【0047】
Ni:0.6〜7.0%
Niは、Mnの次に溶接ボンド部のベイナイト変態の開始温度を低下するのに有効な元素であり、含有量を増加させることは溶接割れ防止のために有効である。この効果を得るためにはNiを0.6%以上含有させることが必要である。なお、Mnの場合とは異なって、Niにはセメンタイトの析出を促進させる作用があるため、Niの含有量が多いほど耐溶接割れ性は向上する。しかし、Niは高価な元素であり、添加することによって鋼板価格の上昇を招き、特に、7.0%を超えて含有させると鋼板価格の上昇が著しくなる。したがって、Niの含有量を0.6〜7.0%とした。Niの含有量は1.0〜5.0%とすることが望ましく、1.5〜3.0%とすることが更に望ましい。なお、Niの含有量はMnの含有量に対し、0.8〜1.5倍とすることが望ましい。
【0048】
Ti:0.005〜0.03%
Tiは、オーステナイト粒の微細化のために不可欠な元素である。また、連続鋳造鋳片の横ひび割れを防止する上でもその添加が不可欠である。しかし、その含有量が0.005%未満では添加効果が得られない。一方、Tiを0.03%を超えて含有させると、母材靱性やHAZの靱性が著しく損なわれる。したがって、Tiの含有量を0.005〜0.03%とした。
【0049】
sol.Al:0.002〜0.070%
Alは、脱酸作用を有する。この効果を得るには、Alはsol.Alで0.002%以上の含有量とすることが必要である。一方、AlはSiと同様に、HAZにおける島状マルテンサイトの局所的な生成を誘発し、耐溶接割れ性の著しい低下を招く。したがって、Alの含有量をsol.Alで0.002〜0.070%とした。なお、sol.Al含有量の上限は0.040%とすることが望ましい。
【0050】
N:0.0005〜0.0070%
Nは、TiNとして析出し、オーステナイト粒の微細化を通じて靱性を高める作用を有するので、0.0005%以上含有させる必要がある。しかし、Nの多量の含有は母材及びHAZの靱性低下を招き、特にその含有量が0.0070%を超えると、母材及びHAZの靱性低下が著しくなる。したがって、Nの含有量を0.0005〜0.0070%とした。
【0051】
Cu:1.5%以下(0%を含む)
Cuは添加しなくてもよい。添加すれば、母材の強度を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Cuの含有量は0.7%以上とすることが望ましい。しかし、その含有量が1.5%を超えると、析出強化による著しい靱性の劣化を招く。したがって、Cuの含有量を1.5%以下(0%を含む)とした。
【0052】
Cr:1.0%以下(0%を含む)
Crは添加しなくてもよい。添加すれば、溶接ボンド部のベイナイト変態の開始温度を低下する作用を有する。この効果を確実に得るには、Crの含有量は0.3%以上とすることが望ましい。しかし、その含有量が1.0%を超えると、母材靱性や溶接性の劣化を招く。したがって、Crの含有量を1.0%以下(0%を含む)とした。
【0053】
Mo:1.0%以下(0%を含む)
Moは添加しなくてもよい。添加すれば、溶接ボンド部のベイナイト変態の開始温度を低下する作用がある。この効果を確実に得るには、Moは0.2%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が1.0%を超えると、強度が高くなりすぎて母材靱性が低下するし溶接性の著しい劣化も招く。したがって、Moの含有量を1.0%以下(0%を含む)とした。
【0054】
V:0.05%以下(0%を含む)
Vは添加しなくてもよい。添加すれば、焼戻し軟化抵抗を増大させて高温での焼戻しを可能とし、強度及び靱性を向上させる作用がある。この効果を確実に得るには、Vの含有量は0.001%以上とすることが望ましい。しかし、その含有量が0.05%を超えると、靱性が劣化する。したがって、Vの含有量を0.05%以下(0%を含む)とした。なお、Vの含有量の上限は0.03%とすることが好ましい。
【0055】
Nb:0.06%以下(0%を含む)
Nbも添加しなくてもよい。添加すれば、オーステナイトの低温域で微細なNb炭窒化物を形成することによりオーステナイト粒を微細化する作用を有する。更に、析出したNb炭窒化物は圧延などによる加工を受けた未再結晶オーステナイト粒の回復、再結晶を抑制する効果を有しており、母材靱性の確保に有効である。こうした効果を確実に得るには、Nbの含有量は0.005%以上とすることが望ましい。しかし、その含有量が0.06%を超えると、耐溶接割れ性が低下してしまう。したがって、Nbの含有量を0.06%以下(0%を含む)とした。なお、Nb含有量の上限は0.03%とすることが望ましい。
【0056】
B:0.0025%以下(0%を含む)
Bは添加しなくてもよい。添加すれば、溶接ボンド部のベイナイト変態の開始温度を低下させて耐溶接割れ性を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Bの含有量は0.0005%以上とすることが望ましい。しかし、その含有量が0.0025%を超えると母材靱性及びHAZ靱性の大幅な劣化を招く。したがって、Bの含有量を0.0025%以下(0%を含む)とした。
【0057】
Pcm:0.25%以下
前記(a)式で表されるPcmの値が大きくなると溶接部の硬度が上昇して溶接割れ感受性が高まり、特に、Pcmの値が0.25%を超えると溶接部の硬度が過剰に上昇して、耐溶接割れ性の著しい低下を招く。したがって、前記(a)式で表されるPcmの値を0.25%以下とした。なお、好ましいPcmの値は0.23%以下である。また、TSが780MPa以上という所望の強度の確保や次に述べる前記(b)式で表されるFn1の値を3.0%以上とするためには、Pcmの下限値はほぼ0.21%程度となる。
【0058】
Fn1:3.0%以上
前記(b)式で表されるFn1の値が3.0%未満の場合は、溶接ボンド部の変態点(ベイナイト変態の開始温度)が高くなり、予熱が必要となる。したがって、前記(b)式で表されるFn1の値を3.0%以上とした。なお、Fn1の上限値はMnとNiの含有量がそれぞれ1.6%と7.0%の場合の15.6%であってもよい。
【0059】
前記(1)の発明に係る予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板は、上記のCからBまでの元素と、残部がFe及び不純物からなり、前記(a)式で表されるPcmの値が0.25%以下、且つ、前記(b)式で表されるFn1の値が3.0%以上の化学組成を有する鋼板である。
【0060】
前記(2)の発明に係る予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板は、組織を微細化し、靱性を高めることを目的として、前記(1)の発明の鋼のFeの一部に代えて、Ca:0.007%以下(0%を含まず)、Mg:0.007%以下(0%を含まず)、Ce:0.007%以下(0%を含まず)、Y:0.5%以下(0%を含まず)、Nd:0.5%以下(0%を含まず)及びREM:0.05%以下(0%を含まず)から選択される1種以上を含有させた化学組成を有する鋼板である。
【0061】
上記のCaからREMまでのいずれの元素も組織を微細化して靱性を高める作用を有するので、CaからREMまでの元素は、以下に述べる範囲内でそれぞれを単独で含有させてもよいし、2種以上を複合して含有させてもよい。
【0062】
Ca:0.007%以下(0%を含まず)
Caは組織を微細化して靱性を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Caは0.0015%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.007%を超えると、Ca介在物の量が過剰となり却って靱性が劣化する。したがって、Caを添加する場合には、その含有量を0.007%以下(0%を含まず)とするのがよい。なお、望ましいCa含有量の上限は0.003%である。
【0063】
Mg:0.007%以下(0%を含まず)
Mgは組織を微細化して靱性を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Mgは0.0005%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.007%を超えると、Mg介在物の量が過剰となり却って靱性が劣化する。したがって、Mgを添加する場合には、その含有量を0.007%以下(0%を含まず)とするのがよい。なお、望ましいMg含有量の上限は0.003%である。
【0064】
Ce:0.007%以下(0%を含まず)
Ceは組織を微細化して靱性を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Ceは0.0005%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.007%を超えると、Ce介在物の量が過剰となり却って靱性が劣化する。したがって、Ceを添加する場合には、その含有量を0.007%以下(0%を含まず)とするのがよい。なお、望ましいCe含有量の上限は0.003%である。
【0065】
Y:0.5%以下(0%を含まず)
Yは組織を微細化して靱性を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Yは0.01%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.5%を超えると、Y介在物の量が過剰となり却って靱性が劣化する。したがって、Yを添加する場合には、その含有量を0.5%以下(0%を含まず)とするのがよい。なお、望ましいY含有量の上限は0.05%である。
【0066】
Nd:0.5%以下(0%を含まず)
Ndは組織を微細化して靱性を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Ndは0.01%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.5%を超えると、Nd介在物の量が過剰となり却って靱性が劣化する。したがって、Ndを添加する場合には、その含有量を0.5%以下(0%を含まず)とするのがよい。なお、望ましいNd含有量の上限は0.05%である。
【0067】
REM:0.05%以下(0%を含まず)
REMは組織を微細化して靱性を高める作用を有する。この効果を確実に得るには、REMは0.005%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.05%を超えると、REM介在物の量が過剰となり却って靱性が劣化する。したがって、REMを添加する場合には、その含有量を0.05%以下(0%を含まず)とするのがよい。望ましいREM含有量の上限は0.03%である。
【0068】
(B)鋼板のSR値
前記(c)式で表されるSRの値は、引張残留応力の大きさを表し、800MPa以下であれば、試験体の弾性範囲内で割れが発生しない。したがって、前記(c)式で表されるSRの値を800MPa以下とした。
【0069】
既に述べたように、前記(c)式における鋼板の「変態点(℃)」Trとは、直径が3mmで長さが10mmの試験片をフォーマスター試験機(富士電波工機製)に取り付け、1350℃で5秒間加熱後、1350℃から100℃までをヘリウムガスを用いてほぼ40℃/sの冷却速度で冷却した際のベイナイト変態の開始温度をいう。但し、前述のように、ベイナイト変態が生じない場合にはマルテンサイト変態の開始温度を指す。「降伏応力」YSとは常温(室温)で引張試験した場合の下降伏点又は0.2%耐力を指す。また、「溶接前の予熱温度」Thは、室温を超える温度で予熱した場合にはその温度で、予熱フリー(予熱なし)の場合には「0℃」である。
【0070】
なお、前記(c)式で表されるSRの値を800MPa以下とするには、例えば、前記(A)項に記載の化学組成を有する鋼を用いて、次の(C)項で述べる条件で鋼板を製造すればよい。
【0071】
(C)鋼板の製造条件
次いで、前記(3)及び(4)の発明に係る予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板の製造方法について説明する。
【0072】
(C−1)鋼の加熱温度
鋼の加熱温度は1000〜1180℃とするのがよい。鋼の加熱温度が1000℃未満では加熱時に均一なオーステナイト粒が得られない場合がある。一方、、1180℃を超えて加熱するとオーステナイト粒が著しく大きくなって母材靱性が劣化する場合がある。したがって、鋼の加熱温度は1000〜1180℃とするのがよい。
【0073】
(C−2)熱間圧延
鋼板の組織を微細化するために、「圧延後直接焼入れ」して未再結晶温度域で適正量の圧下(加工)を加えるのがよい。オーステナイトの再結晶温度域での圧下ではオーステナイト粒内に格子欠陥が蓄積され難く、圧延後に急冷しても組織の微細化が生じ難い。また、未再結晶温度域で圧下してもその累積圧下量が少ないと、オーステナイト粒内に蓄積される格子欠陥が少なくなって、圧延後に急冷しても組織の微細化が生じ難い。
【0074】
本発明が対象とする前記(A)項に記載の化学組成を有する鋼の場合、添加されたTiがTiNとなり、再結晶抑制効果を持つので、その未再結晶温度域は900℃以下であり、この温度域で累積圧下率が50%以上となる圧下を行った場合、容易に「圧延後直接焼入れ」した組織を微細にすることができる。したがって、前記(3)の発明及び(4)の発明においては、上記(C−1)項に記載の温度域の温度に加熱した鋼を熱間圧延して鋼板にするに際して、900℃以下の温度域での累積圧下率を50%以上とした。50%以上の累積圧下を加える未再結晶温度域の下限の温度は、圧延後の急冷で強度を確保する観点から750℃とするのがよい。なお、900℃以下の温度域での累積圧下率が50%以上でありさえすればよいので、900℃を超える再結晶温度域での圧下率については特に規定しなくてもよい。
【0075】
(C−3)「圧延後直接焼入れ」のための急冷及びそれに続く冷却
熱間圧延後は直ちに5℃/s以上の冷却速度で急冷を行い、しかも、その急冷は被処理材の表面温度が350℃以下で200℃を超える温度に達した時点で停止するのがよい。
【0076】
急冷時の冷却速度が5℃/sを下回る場合には、所望の強度である780MPa以上のTSが得られない場合がある。この急冷時の冷却速度の上限は特に規定するものではなく、設備的に得られる上限値であってもよいが、冷却の停止を容易にするという観点からは15℃/s程度とするのが好ましい。
【0077】
一方、急冷の停止温度が被処理材の表面温度で200℃以下の場合には、鋼板内の水素の拡散が十分に行われず、溶接割れを引き起こすことがある。また、急冷の停止温度が被処理材の表面温度で350℃を超える場合には、強度が不足する場合がある。
【0078】
したがって、前記(3)の発明及び(4)の発明においては、(C−2)項に記載の条件で熱間圧延した後、直ちに5℃/s以上の冷却速度で急冷し、表面温度が350℃以下で200℃を超える温度に達した時点でその急冷を停止することとした。
【0079】
既に述べたように、熱間圧延後「直ちに」鋼板を急冷するとは、圧延後の鋼板を再加熱することなく水や油などの冷媒によって「圧延後直接焼入れ」することをいう。
【0080】
次に、上述の温度域で急冷を停止した後は、0.5℃/s以下の冷却速度で50℃まで冷却するのがよい。
【0081】
急冷を停止した後の冷却速度が0.5℃/sを超える場合には、水素の拡散が十分でなく、溶接割れが生じることがある。この冷却を停止した後の冷却速度の下限は、設備的に得られる下限値であってもよいが、生産効率の観点からは0.2℃/s程度とするのが好ましい。
【0082】
一方、急冷を停止した後は、少なくとも被処理材の表面温度が50℃になるまでは上記の冷却速度で冷却するのがよい。
【0083】
被処理材の表面温度が50℃を超える温度域で冷却速度が0.5℃/sを超える場合には、水素の拡散が十分に行われず、溶接割れが生じることがある。
【0084】
したがって、前記(3)の発明及び(4)の発明においては、前述の温度域で急冷を停止した後、0.5℃/s以下の冷却速度で50℃まで冷却するものとした。冷却速度を0.5℃/s以下とするには、例えばパイリング徐冷やカバー徐冷、保温炉内徐冷等の処置を講じればよい。
【0085】
なお、前記(3)の発明及び(4)の発明において、表面温度が50℃を下回る温度域は急冷してもよく、冷却速度の制限はない。
【0086】
既に述べた(A)項、(B)項、(C−1)項及び(C−2)項における規定と本(C−3)項の規定を満足させることによって、(3)の発明に係る予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板の製造方法が得られる。
【0087】
(3)の発明の方法で製造された高強度鋼板には、必要に応じて強度と靱性のバランスを調整するための焼戻しを施してもよい。
【0088】
(C−4)焼戻し
「圧延後直接焼入れ」した鋼板に焼戻しを施すことで、優れた強度と靱性のバランスを確保することができる。更に、焼戻しによって鋼中の水素を効果的に低減することもできる。しかし、焼戻し温度が650℃を超える場合には強度が著しく低下し、TSで780MPa以上という所望の強度を確保することが困難となる場合がある。また、焼戻しの保持時間が板厚(mm)×4.5分を下回る場合には焼戻しが不十分となって機械的性質にバラツキが生じることがある。
【0089】
したがって、(4)の発明においては、前述の(C−1)〜(C−3)の条件で処理した鋼板を、650℃以下の温度に加熱し、板厚(mm)×4.5分以上の時間保持して焼戻しすることとした。
【0090】
(D)溶接鋼構造物
最後に、前記(5)の発明に係る溶接鋼構造物について説明する。
【0091】
溶接鋼構造物の溶接ボンド部に占める島状マルテンサイトの割合は5%以下であることが好ましい。溶接ボンド部に占める島状マルテンサイトの割合が5%を超えると、予熱温度を50℃以下の低い温度とすれば、島状マルテンサイトを起点とする割れが生じて、構造物としての強度が低下する場合がある。
【0092】
したがって、(5)の発明においては、溶接ボンド部に占める島状マルテンサイトの割合を5%以下とした。溶接ボンド部には島状マルテンサイトが存在しない方がよいので、上記の島状マルテンサイトの存在割合の下限は0%であってもよい。
【0093】
既に述べたように、(5)の発明に係る溶接鋼構造物の溶接ボンド部における島状マルテンサイトの割合は、溶接鋼構造物と同じ条件で溶接したy型溶接割れ試験板の溶接ボンド部を透過型電子顕微鏡の倍率を10000倍として合計10視野観察し、各視野において求めた島状マルテンサイトが占める割合を算術平均して求めた値をいう。
【0094】
以下、実施例により本発明を詳しく説明する。
【0095】
【実施例】
表1、表2に示す化学組成を有する鋼1〜12及び鋼X1〜X12を150kg真空溶解炉を用いて溶製した。表1、表2における鋼1〜12は化学組成が本発明で規定する範囲内にある本発明例、鋼X1〜X12は成分のいずれかが本発明で規定する範囲から外れた比較例である。
【0096】
【表1】
Figure 0004344919
【0097】
【表2】
Figure 0004344919
【0098】
次いで、これらの鋼を通常の方法で厚さ160mmの鋼片とした後、表3に記載の各種条件で熱間圧延、直接焼入れ、焼戻しして板厚50mmの鋼板とした。
【0099】
【表3】
Figure 0004344919
【0100】
このようにして得た各鋼板の板厚中心部から、JIS4号引張試験片とJIS Z 2202(1998)に記載の幅10mmのVノッチ試験片をそれぞれ圧延方向と平行な方向に採取し、母材の機械的性質(引張特性と靱性)を調査した。
【0101】
また、各鋼板の板厚中心部から、直径が3mmで長さが10mmの試験片を採取し、フォーマスター試験機を用いて、1350℃で5秒間加熱後、1350℃から100℃までをヘリウムガスによってほぼ40℃/sの冷却速度で冷却し、鋼板の変態点Tr(℃)、すなわち、ベイナイト変態の開始温度(但し、前述のように、ベイナイト変態が生じない場合にはマルテンサイト変態の開始温度)を測定した。
【0102】
更に、JIS Z 3158(1993)に記載のy型溶接割れ試験を行って、溶接割れが発生しない予熱温度を調査した。なお、y型溶接割れ試験は、溶接棒にLB80−ULを用い、温度30℃、湿度80%の条件で溶接を行った。
【0103】
また、上記のようにして溶接したy型溶接割れ試験板の溶接ボンド部を透過型電子顕微鏡の倍率を10000倍として合計10視野観察し、各視野において求めた島状マルテンサイトが占める割合を算術平均し、これを溶接鋼構造物の溶接ボンド部における島状マルテンサイトの割合として求めた。
【0104】
表4に試験結果をまとめて示す。なお、表4には、y型溶接割れ試験において割れを生じない最も低い予熱温度(Th)と前記(c)式で表されるSRの値を併せて示した。ここで、予熱温度の「0℃」は既に述べたとおり「予熱フリー」を指す。
【0105】
なお、母材の強度と靱性の目標はそれぞれTSで780MPa以上、vE-80 で80J以上である。また、y型溶接割れ試験における割れ防止のための予熱はなしを目標とした。また、溶接ボンド部における島状マルテンサイトの割合は5%以下を目標とした。
【0106】
【表4】
Figure 0004344919
【0107】
表4における試験番号1〜12の場合、鋼の成分の含有量が本発明で規定する範囲内にあり、しかも前記した(a)式、(b)式及び(c)式を満たすので、いずれの場合もTSで780MPa以上の強度とvE-80 で80J以上の靱性が得られている。更に、上記の試験番号1〜12の場合には、予熱フリー(予熱なし)としてもy型溶接割れ試験において割れが発生せず、溶接性に優れていることが明らかであり、また、溶接ボンド部における島状マルテンサイトの割合も高々3%で5%以下の目標を満足している。
【0108】
これに対して、少なくとも成分のいずれかが本発明で規定する範囲から外れた比較例の鋼を用いた試験番号13〜24の場合、靱性、溶接性(y割れ特性及び島状マルテンサイトの割合)の少なくとも1つが目標に達していない。
【0109】
【発明の効果】
本発明の鋼板はTSが780MPa以上、JIS Z 2202(1998)に記載の幅10mmのVノッチ試験片を用いた衝撃試験における−80℃での吸収エネルギー(vE-80 )が80J以上で、しかも溶接施工時予熱なしであっても溶接割れを発生しないので、揚水型発電所の水圧鉄管や氷海域の海洋構造物など溶接鋼構造物の素材として好適である。この鋼板は本発明の方法によって、比較的容易且つ廉価に得られる。更に、650℃での引張強度も大きく高温強度にも優れていることが明らかである。

Claims (5)

  1. 質量%で、C:0.03〜0.15%、Si:0.02〜0.4%、Mn:1.0〜1.6%、Ni:0.6〜7.0%、Ti:0.005〜0.03%、sol.Al:0.002〜0.070%、N:0.0005〜0.0070%、Cu:1.5%以下(0%を含む)、Cr:1.0%以下(0%を含む)、Mo:1.0%以下(0%を含む)、V:0.05%以下(0%を含む)、Nb:0.06%以下(0%を含む)及びB:0.0025%以下(0%を含む)を含有し、残部はFe及び不純物からなり、下記(a)式で表されるPcmの値が0.25%以下及び下記(b)式で表されるFn1の値が3.0%以上の化学組成で、且つ、下記(c)式で表されるSRの値が800MPa以下であることを特徴とする予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板。
    Pcm=C+(Si/30)+(Mn/20)+(Cu/20)+(Ni/60)+(Cr/20)+(Mo/15)+(V/10)+5B・・・・(a)
    Fn1=Mn+2Ni・・・・(b)
    SR=−{1−(Tr/830)}×YS+2.45×(Tr−Th)・・・・(c)
    ここで、(a)式及び(b)式中の元素記号はその元素の含有量(質量%)を表す。また、(c)式中のTrは鋼板の変態点(℃)、YSは鋼板の降伏応力(MPa)、Thは溶接前の予熱温度(℃)を表す。
  2. Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.007%以下(0%を含まず)、Mg:0.007%以下(0%を含まず)、Ce:0.007%以下(0%を含まず)、Y:0.5%以下(0%を含まず)、Nd:0.5%以下(0%を含まず)及びREM:0.05%以下(0%を含まず)から選択される1種以上を含有する請求項1に記載の予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板。
  3. 請求項1又は2に記載の化学組成を有する鋼を、1000〜1180℃の温度域に加熱し、900℃以下の温度域での累積圧下率が50%以上となるように熱間圧延した後、直ちに5℃/s以上の冷却速度で急冷し、表面温度が350℃以下で200℃を超える温度に達した時点でその急冷を停止し、その後0.5℃/s以下の冷却速度で50℃まで冷却することを特徴とする予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板の製造方法。
  4. 請求項1又は2に記載の化学組成を有する鋼を、1000〜1180℃の温度域に加熱し、900℃以下の温度域での累積圧下率が50%以上となるように熱間圧延した後、直ちに5℃/s以上の冷却速度で急冷し、表面温度が350℃以下で200℃を超える温度に達した時点でその急冷を停止し、その後0.5℃/s以下の冷却速度で50℃まで冷却した後、更に650℃以下の温度に加熱し、板厚(mm)×4.5分以上の時間保持して焼戻しすることを特徴とする予熱なしでの溶接性に優れた高強度鋼板の製造方法。
  5. 母材が請求項1又は2に記載の高強度鋼板からなる溶接鋼構造物であって、その溶接ボンド部に占める島状マルテンサイトの割合が5%以下であることを特徴とする溶接鋼構造物。
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