JP5827456B2 - スリッター機 - Google Patents

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Description

本発明は、切断機、これを備えるスリッター機およびフィルムの切断方法に関するものである。
近年、フィルムは、光学フィルム、導電フィルム、保護フィルム、導電フィルム、配電板用フィルム、転写フィルムなどの様々の用途に用いられている。フィルムの製造過程における長尺のフィルムの巻取前には、フィルムの端部を切断する工程や、広幅のフィルムを所望の幅に応じて複数の狭幅に切断する工程がなされる。フィルムの切断には切断刃が広く用いられているが、以下のような問題点がある。
(1)フィルムは長尺であり、特にフィルムが積層フィルムである場合、切断刃に対する切断抵抗および摩擦力が大きい。このため、切断刃が欠ける、いわゆるチッピングの発生および切断刃が磨耗する問題がある。これにより、切断刃の交換によってランニングコストが増大する。
(2)フィルムを切断することによってフィルム屑が発生する。また、コーティングフィルムまたは積層フィルムを切断する際に、フィルムと共に接着層または粘着層を切断することによって樹脂屑が生じる。これらの異物が切断後のフィルムに付着することによって品質が低下し、歩留まりが低下することとなる。
(3)保護フィルムが積層された積層フィルムを切断する場合、保護フィルムの剥離が必ず生じるため、切断後に積層フィルムの端面研磨が必要不可欠となる。当該工程が必要なため、製造コストが圧迫される。
(4)割れが生じ易いフィルム、特に積層型偏光フィルムの切断において、PVA(ポリビニルアルコール)層の切断面にノッチ(クラック)が入り易いため、積層型偏光フィルムに割れまたは破れが非常に生じ易い。
また、切断刃による切断に代わるレーザー光によるフィルムの切断方法の提案もなされている。例えば、特許文献1には、シェア刃の磨耗による切れ味の低下を回避するため、レーザー光による薄膜切断方法が開示されている。当該方法ではシェア刃を用いないため、シェア刃の磨耗は生じ得ない。
しかしながら、レーザー光にてフィルムを切断した場合、レーザー光のエネルギーがフィルムに吸収されて熱エネルギーに変換される。熱エネルギーは、フィルム材料の溶融、蒸発反応を引き起こしてフィルムを切断する。ここで、フィルムにレーザー光が照射された際、フィルムを形成する高分子材料の局部的な溶融が発生し、溶融した高分子材料において配向結晶構造から無配向非晶構造へ局部的構造変化が生じる。溶融した高分子材料の凝集力または表面張力によって切断面の表面形状は滑らかな面となるが、このとき同時に、切断端部にはビード状の盛り上がりが生じる。
このようなビード状の隆起物はフィルムがロール状に巻き取られるにつれて積層され、フィルムロールの両端部は中央部に比べて大径になる。いわゆる耳立ち現象が生じる。これにより、フィルム皺、ロール変形などの問題が生じてしまう。当該問題を解消する技術としては、特許文献2に配向フィルムをレーザー光にて切断した後、切断端部を押圧処理する方法が開示されている。
特開昭56‐151189号公報(1981年11月24日公開) 特公平3‐16236号公報(1991年3月5日公告)
しかしながら、特許文献2の方法では、フィルム端部においてビード状の隆起物の発生を抑制できないという問題点がある。
具体的に説明すると、特許文献2の方法では発生した盛り上がりを押圧することによって耳立ち現象を解消できるが、ビード状の隆起物が発生することに変わりはなく、切断端部においてフィルムに変形が生じてしまう。これにより、切断端部における品質が低下する。当該品質の低下によって種々の問題が生じ得る。一例として、貼合時に高い密着性が要求されるフィルム、例えば基板に貼合される偏光フィルムにおいて貼合面に気泡が咬み込むなどの問題が生じることが挙げられる。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、レーザー光を用いたフィルムの切断において、ビード状の隆起物の発生を抑制する切断機を提供することにある。
本発明者らは、上記ビード状の隆起物を抑制するために鋭意検討を行ったところ、従来のレーザー光による切断方法では、フィルムが上下に振れるためレーザー光の焦点が定まらないことに着眼した。すなわち、特許文献2の図1のように、フィルムを搬送するラインにおいて、2つの搬送ローラー間に位置するフィルム部分にレーザー光が照射される。また、フィルムの照射装置とは反対側には通常、フィルムの切断時に生じたヒュームを吸引する装置が設置されるため、照射装置と反対面には、搬送ローラーを設置することは困難である。
このように、レーザー光が照射されるフィルム部分は支持がなされておらず、フィルムが上下に振れることとなる。振れの程度は、フィルムの搬送条件によるが少なくとも100μ〜200μmである。このため、レーザー光の焦点を安定してフィルムに照射することができない。そこで、本発明者らは、フィルムをできるだけぶれないように一定の搬送状態でフィルムを搬送することに着眼して本発明を創作した。
本発明の切断機は、上記課題を解決するために、フィルムを吸引する吸引ロールと、フィルムにレーザー光を照射してフィルムを切断するレーザー光照射装置とを備える切断機において、上記吸引ロールには複数の吸引孔が形成されており、上記レーザー光照射装置のレーザー光の照射方向は、上記吸引孔に向かっており、上記吸引ロールには、吸引孔を介して空気を吸引することによって上記フィルムを吸引ロールの表面に向かって吸引する空気吸引装置を備えることを特徴としている。
上記の発明によれば、空気吸引装置による空気の吸引によって、フィルムが吸引ローラーの表面に向かって吸引される。当該切断機を、フィルム搬送機能を有するスリッター機などに組み込むことによって、フィルムは搬送が妨げられない状態で吸引ローラーの表面に沿って保持されることができ、フィルムに振れがほとんど生じない効果を得ることができる。このため、レーザー光照射装置からレーザー光が照射されると、フィルムにおけるレーザー光の焦点はフィルムに垂直な方向においてほとんど振れることがなく、レーザー光による熱エネルギーを集中させることができる。その結果、フィルムの切断端部においてビード状の隆起物の発生を抑制することができる。
さらに、上記レーザー光照射装置のレーザー光の照射方向は、上記吸引孔に向かっており、フィルムの切断に伴い生じるヒュームを吸引孔から速やかに吸引することができる。これにより、レーザー光の照射が妨げられない。
また、本発明の切断機では、上記複数の吸引孔が、吸引ロールの軸に対して垂直な複数の方向に沿って形成されていることが好ましい。
これにより、フィルムのより広範囲に対して吸引ロールの表面への吸引を行うことができる。これにより、フィルムをより安定して吸引ロールの表面に向かう方向へ吸引することが可能となる。
また、本発明の切断機では、上記レーザー光照射装置は、上記フィルムに非球面レンズを介してレーザー光を照射することが好ましい。
これにより、レーザー光の球面収差を補正することができ、フィルムにおけるレーザー光の焦点を狭くすることができる。よって、レーザー光による熱エネルギーを集中することができ、より鋭利にフィルムを切断することができる。
また、本発明のスリッター機は、フィルムを巻き出す巻出部と、上記巻出部から巻き出されたフィルムを切断する請求項1〜4の何れか1項に記載の切断機と、上記切断機によって切断されたフィルムを巻き取る巻取部を備えるものである。
上記スリッター機は、本発明に係る切断機を備えているため、フィルムにぶれがほとんど生じない状態でレーザー光による切断を行うことができ、ビード状の隆起物の発生を抑制することができる。
また、本発明のスリッター機では、フィルムの搬送方向におけるレーザー光照射装置よりも上流に、上記フィルムの一部を切断する切断刃および/またはフィルムの搬送方向におけるレーザー光照射装置よりも下流に、上記フィルムを切断する切断刃を備えることが好ましい。
これにより、レーザー光照射装置によってフィルムを切断しきれなかった場合であっても、さらに切断刃によって切断を行うことができ、非常に厚いフィルムであっても、レーザー光照射装置による切断が可能となる。
また、本発明のスリッター機では、少なくとも一方の面に剥離フィルムが積層されているフィルムを切断対象物とすることが好ましい。
本発明のスリッター機によれば切断したフィルムの切断端面にビード状の隆起物が生じ難いため、上記フィルムが切断対象物である場合、積層フィルムにおける剥離フィルムに浮きが生じ難く、好ましいといえる。
本発明の切断方法は、上記課題を解決するために、搬送されているフィルムを切断するフィルムの切断方法において、上記フィルムを、吸引孔が設けられた吸引ローラーの表面方向に上記吸引孔を介して吸引し、吸引ローラーの表面方向に向かって吸引されたフィルムに対してレーザー光を照射することによってフィルムを切断することを特徴としている。
これにより、搬送されているフィルムを吸引ローラーの表面方向に向かって吸引することができ、フィルムにぶれがほとんど生じない状態でレーザー光による切断を行うことができ、ビード状の隆起物の発生を抑制することができるという効果を奏する。
本発明の切断機は、以上のように、吸引ロールには複数の吸引孔が形成されており、上記吸引ロールには、吸引孔を介して空気を吸引することによって上記フィルムを吸引ロールの表面に向かって吸引する空気吸引装置を備えているものである。
それゆえ、上記切断機を、フィルム搬送機能を有するスリッター機などに組み込むことによって、フィルムにぶれがほとんど生じない状態でレーザー光による切断を行うことができ、ビード状の隆起物の発生を抑制することができるという効果を奏する。
また、本発明のフィルムの切断方法は、搬送されているフィルムを切断するフィルムの切断方法において、上記フィルムを、吸引孔が設けられた吸引ローラーの表面方向に上記吸引孔を介して吸引し、吸引ローラーの表面方向に向かって吸引されたフィルムに対してレーザー光を照射することによってフィルムを切断する方法である。
それゆえ、搬送されているフィルムを吸引ローラーの表面方向に向かって吸引することができ、フィルムにぶれがほとんど生じない状態でレーザー光による切断を行うことができ、ビード状の隆起物の発生を抑制することができるという効果を奏する。
本発明に係るスリッター機を示す側面図である。 本発明に係る吸引ロールおよびホースを示す平面図である。 図2のA‐A’断面を示す断面図である。 図2のB‐B’断面を示す断面図である。 本発明に係る照射装置の一例を示す側面図である。 本発明に係る照射装置の変形例を示す側面図である。 図3の吸引ロールおよびホースに照射装置を設置した状態を示す断面図である。 本発明に係るスリッター機によってフィルムを切断する過程を示すフローチャートである。 本発明に係るスリッター機を用いたフィルムの切断過程を示す平面図である。 (a)は実施例1にて切断した積層フィルムを示す側面図であり、(b)は(a)は比較例1にて切断した積層フィルムを示す側面図である。 (a)は、実施例1に係るガラス基板および貼合された偏光フィルムを示す断面図であり、(b)は、比較例1に係るガラス基板および貼合された偏光フィルムを示す断面図である。
本発明の一実施形態について図1〜図9に基づいて説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。まず、本発明に係るスリッター機について説明する。図1は、本発明に係るスリッター機1を示す側面図である。
スリッター機1は、巻出部2、搬送ロール3・3a・3b・3c・3d、測長計4、切断刃4a、タッチロール4b、測長計4c、吸引ロール5、照射装置6、ホース7、空気吸引装置7aおよび巻取部8a・8bを備えている。以下、各部材について説明する。
巻出部2は切断されるフィルム9を保持し、切断機10へと巻き出すものである。巻出部2としては特に限定されず、公知の巻出部を使用できる。スリッター機1では、巻出部2として、円筒状の軸を用いており、フィルム9が巻かれた紙管またはプラスチック管などを保持することができる。巻出部2の側面には図示しないが巻出部2を回転される回転装置が備えられており、回転装置によって巻出部2が回転されて設置されたフィルム9が搬送方向に巻き出される。巻出部2の高さおよび巻出部2の水平方向における位置は適宜調整可能である。
巻出部2は1箇所に設置されているが、巻取部8a・8bのように巻出部2は互いに上下となる2箇所に設置されていてもよい。これにより、一方の巻出部2のフィルムが全て巻き出される前に、2つの巻出部2のフィルム同士を連結することができ、フィルム9の原反を交換する時間を削減できる。
スリッター機1には、搬送ロール3・3a・3b・3c・3dがフィルムの搬送経路に沿って配置されている。各搬送ロールの配置場所はフィルムの搬送経路に応じて適宜変更すればよい。また、フィルムをロールに押し当てるタッチロール4bもフィルムに沿って配置されている。上記搬送ロールおよびタッチロールは特に限定されず、公知のものを使用すればよい。また、上記搬送ロールおよびタッチロールの幅および直径も限定されない。通常、搬送ロールおよびタッチロールの幅は、1.5m〜2.5m程度である。
巻出部2および巻取部8a・8bの間には、吸引ロール5、照射装置6、ホース7および空気吸引装置7aが備えられている。吸引ロール5、照射装置6および空気吸引装置7aは、本発明における切断機10に該当する。切断機10は、搬送されたフィルム9を切断するものである。切断機10については、図2〜図4を用いて後述する。
切断されたフィルム9は、搬送ロール3bから、3cおよび3dを通り、巻取部8aに巻き取られる。なお、図1では、フィルム9を切断して巻き取っている状態を示している。巻取部8aの下方には巻取部8bが配置されており、分割されたフィルムを分けて巻き取ることができる。
フィルム9は、スリッター機1の切断対象物である。フィルム9として特に限定されない。例えば、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリスチレン(PS)フィルム、ポリイミド(PI)フィルム、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルム、シクロオレフィンポリマー、環状オレフィン共重合体、ポリメタクリル酸メチルフィルム(PMMAフィルム)などが挙げられる。また、フィルム9は複数フィルムが粘着層または接着層を介して積層された積層フィルムであってもよい。本発明に係るスリッター機によれば、フィルムの切断端部に変形が生じ難いため、積層されたフィルム、例えば剥離フィルム(セパレーター)に浮きが生じにくい。なお、本スリッター機によれば、単層フィルムはもちろん積層フィルムをも切断することができる。
スリッター機1は好ましい形態として切断刃4a・Cを備えている。切断刃4a・Cは、フィルムの厚さ方向においてフィルムを切断するものである。
積層フィルムのうち切断対象となるフィルムは、単に肉厚のフィルムである場合もあるが、切断対象が例えば偏光フィルムの場合、保護フィルムや機能を付加するフィルムの積層構造となっている場合が通常である。そして、積層されるフィルムの種類によってはレーザー光を吸収し難いフィルムもある。このような場合には、強いレーザー光を照射して切断することも考えられるが、レーザー光を吸収し易いフィルムはレーザー光を用いて切断し、レーザー光を吸収し難いフィルムのみを刃物で切断する、併用方式の採用が効率的となる。
このレーザー光を吸収し難いフィルムが積層構造の上側にくるか下側に来るかは、製品種により異なるので、切断刃の設置場所はレーザー切断機の上流側でも下流側の何れであってもよい。スリッター機1では、好ましい形態として上流側に切断刃Cを、下流側に切断刃4aを備える構成となっている。ちなみにレーザー光を吸収し難いフィルムとしてはシクロオレフィンポリマー等が挙げられる。
これに対して、切断刃Cは照射装置6の上流に配置されており、レーザーカット前にフィルム9の一部を切断する、すなわち、切断するフィルムが厚い場合に事前に切り込みを入れておくこともできる。これによって、照射装置6に加えて切断がなされるため、非常に厚いフィルムであっても、照射装置6および切断刃Cによる切断が可能となる。また、切断刃4aは照射装置6の下流に配置されており、レーザーカット後に完全に切断されていないフィルム9を切断することもできる。
上述したように、切断刃Cはフィルム9の搬送方向における照射装置6よりも上流に備えられている。上流とは、フィルムが巻き出される方向と逆の方向を意味し、具体的には、レーザー光照射装置よりも巻出部2寄りの位置を意味する。一方、切断刃4aはフィルム9の搬送方向におけるレーザー光照射装置よりも下流に備えられている。下流とは、フィルムが巻き取られる方向を意味し、具体的には、レーザー光照射装置よりも巻取部8a寄りの位置を意味する。つまり、切断刃4aはレーザーカット後にさらに切断を行うものである。
通常、照射装置6のみでフィルム9を切断することが可能であるが、フィルム9にレーザー光を吸収し難いフィルムが含まれている場合、照射装置6のみでは切断できない場合がある。そのような場合に、切断刃C・4aを用いて切断の補助を行うことができる。つまり、これら切断刃C・4aは、あくまで補助的なものである。このため、スリッター機1には切断刃Cおよび切断刃4aの両方が備えられていてもよく、切断刃Cまたは切断刃4aが備えられていてもよく、切断刃C・4aが何れも備えられていない構成とすることもできる。
このように切断刃Cおよび/または切断刃4aが備えられている場合、切断刃Cおよび/または切断刃4aに加えて照射装置6によって切断がなされるため、切断刃Cおよび/または4aのフィルム9の端辺からの距離は、照射装置6のフィルム9の端辺からの距離と同一である。
スリッター機1では切断刃C・4aとして丸刃を用いているが、フィルム9の切断をすることができればよく、丸刃に代えて、平刃、2組の丸刃(シャーカット)などを用いてもよい。
図2は吸引ロール5およびホース7を示す平面図である。また、図3は図2のA‐A’断面を示す断面図であり、図4は図2のB‐B’断面を示す断面図である。切断機10は、空気吸引装置7aによる吸引孔を介した空気の吸引によってフィルム9を吸引ロール5の表面に吸引するものである。なお、フィルム9を吸引ロール5の表面に吸引するとは、換言すると、フィルム9を吸引ロール5の表面に引きつけるということもできる。本発明のスリッター機1は、あくまでフィルム9を吸引ロール5の表面に吸引した(引きつけた)状態で搬送および切断するものであり、上記吸引はフィルム9の搬送を妨げるものではない。
図2に示すように、吸引ロール5と図示しない空気吸引装置7aとはホース7によって接続されている。ホース7は、吸引ロール5と空気吸引装置7aとを接続する部材であり、接続し易いよう蛇腹構造となっているが、構造は特に限定されない。土台11の上には吸引ロール5を支持する支持部12・13が配置されており、支持部12・13の内側には、吸引ロール5位置調整に用いられる位置調整部14・14aが配置されている。吸引ロール5には、支軸17および支軸18が備えられており、それぞれ支持部12および支持部13にて支持される構造となっている。
吸引ロール5は円筒形の形状を有しており、フィルム9は吸引ロールの軸方向(図2中のA‐A’方向)がフィルム9の搬送方向と直交するように配置される。吸引ロール5の筐体内部および支軸17の内部は図3および図4に示すように中空となっている。また、表面15には複数の吸引孔16が形成されている。吸引孔16の形状は形成の容易さなどから円形状としている。しかし、吸引孔16から空気が吸引されると共にフィルム9を表面15に吸引することができればよいため、円形状に限定されるものではない。例えば、楕円状または三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形状としてもよい。
また、吸引孔16の直径はフィルム9を適切に吸引することができる大きさであれば特に限定されるものではない。例えば、1mm以上、20mm以下の範囲とすることができ、形成の容易さから2mm以上、5mm以下とすることもできる。吸引孔16は、吸引ロール5に複数形成されているが、吸引孔16同士の間隔も適宜設定すればよい。
吸引ロール5において、吸引孔16は表面15から所定の距離を設けて形成されている。このため、吸引ロール5の胴部の吸引孔が形成されている部分は括れた構造となっている。このように形成することで、フィルム9を吸着した際にフィルム9が吸引孔16の周囲と接触することを回避することができ好ましい。しかしながら、吸引孔16は表面15に沿った位置に形成されていてもよい。
吸引孔16〜16cが形成されている部分を具体的に例示すると、吸引孔16〜16cが形成されている部分は、吸引ロール5の表面15よりも15mm以上凹状であり、窪みの幅は略孔径と同じか若干大きめであり、深さは15mm以上であり、そこに吸引孔16〜16cが穿たれている。
吸引孔16〜16cの形成面は表面15に沿った位置であってもよいが、作業環境(フィルムをレーザー切断する際に発生するフュームの除去効率)、フューム凝集物固着によるフィルム汚染防止等の観点から凹状であることが好ましい。この場合、吸引孔が穿たれていない凹部表面にフィルムを貫通したレーザー光が反射し、切断所望箇所以外のフィルムが溶断され、切断品位を低下させるので、15mm以上の深さの凹状部に吸引孔16〜16cを形成している。
図2に示す吸引ロール5には、複数の吸引孔16・16a・16b・16cが吸引ロール5の軸に対して垂直な複数の方向に沿って形成されている。本発明に係る吸引ロールでは複数の吸引孔は少なくとも1列に形成されていればその効果が得られるが、吸引ロール5のように複数の吸引孔が複数列に形成されていることによって、フィルム9のより広範囲に対して表面15への吸引を行うことができる。これにより、フィルム9をより安定して表面15の方向へ吸引することが可能となる。なお、吸引孔の列の数は4列に限定されず、吸引孔の列同士の間隔も特に限定されるものではない。また、レーザーカットの吸引孔の列が形成された位置を変えることにより、スリットサイズを変えることができ、様々な幅に対応できる。
図示しない空気吸引装置7aによって空気が吸引されると、図3の矢印方向へ空気が移動する。これにより、吸引孔16・16a・16b・16cを通って空気が吸引されるため、当該空気の移動に伴い、搬送されているフィルム9を表面15に向かって吸引することができる。また、ヒュームを吸引でき、フィルムの品質を確保できる。
次に、照射装置6について具体的に説明する。照射装置6はレーザー光を照射する部材であり、切断対象物であるフィルム9にレーザー光を照射して切断するために備えられている。図5は照射装置6の一例を示す側面図である。図5(a)に示すように、照射装置6はレーザー光発振器21、ビームエキスパンダー22、ベンドミラー23および球面レンズ24を備えている。これらの部材自体は特に限定されず、公知のものを使用することができる。また、各部材の設定もフィルム9を切断することができれば特に限定されるものではない。
図5(a)では、レーザー光発振器21からレーザー光26が照射される。レーザー光発振器21としては二酸化炭素を媒体としたガスレーザーを発振する構成となっている。なお、レーザー光26は、媒体が、固体、液体、半導体などであってもよい。
レーザー光26はビームエキスパンダー22にて直径が3倍に拡大されたレーザー光27となる。さらに、レーザー光27はベンドミラー23でコリメート光28とされた後、集光レンズである球面レンズ24によってコリメート光29はフィルム9に集光される。
図5(b)は、球面レンズ24周辺を示す側面図である。同図に示すように、集光レンズとして球面レンズ24を用いた場合、球面収差によりフィルム9に平行な焦点幅には広がりが生じる。
一方、照射装置6の変形例を図6に示す。図6は、照射装置6の変形例を示す側面図である。図6(a)では、集光レンズとして非球面レンズを用いて球面収差を補正する点が特に異なっている。また、レーザー光発振器21から照射されてレーザー光30は、ビームエキスパンダー22によって2倍に拡大されたレーザー光31となるよう設定している。これにより、より焦点を狭くすることができる。
レーザー光31はベンドミラー23によってコリメート光32となり、集光レンズである非球面レンズ25によってコリメート光33はフィルム9に集光される。図6(b)は、非球面レンズ25周辺を示す側面図である。同図に示すように、集光レンズとして非球面レンズ25を用いた場合、球面収差を補正することができる。このため、コリメート光33はフィルム9において集中され、焦点幅は狭くなる。このため、フィルム9をより鋭利に切断することができる。
照射装置6の配置について図7を用いて説明する。図7は、図3の吸引ロール5およびホース7に照射装置6を設置した状態を示す断面図である。図7ではフィルム9が吸引されている。同図に示すように、照射装置6は、レーザー光の照射方向が吸引孔16に向かうように配置されている。同図において照射装置6は吸引ロール5の上方に配置されているが、レーザー光の照射方向が吸引孔16に向かって配置されていればよく、照射装置6は吸引ロール5の側面または下方、斜め方向などに配置されていてもよい。
照射装置6がこのように配置されていることによって、レーザー光によりフィルム9が溶解された際に生じるヒュームは、吸引孔16へと吸引されるため、レーザー光の照射が妨げられないという優れた効果を得ることができる。なお、上記ヒュームとは、フィルム9を構成する高分子が熱エネルギーによって溶解される際に生じる蒸気である。
照射装置6によってフィルム9へレーザー光が照射されるが、この際、空気吸引装置7aによる空気の吸引によって、フィルム9が表面15に向かって吸引されている。これにより、フィルム9は搬送が妨げられない状態で表面15に沿って保持されており、上下への振れはほとんど生じない。このため、フィルム9におけるレーザー光の焦点はフィルム9に垂直な方向にほとんど振れることがなく、レーザー光による熱エネルギーを集中させることができる。その結果、フィルム9の切断端部においてビード状の隆起物の発生を抑制することができる。
従来の切断方法によれば、ビード状の隆起物が発生するため、フィルム切断後に切断端部の研磨工程を行う必要があった。しかし、本発明によれば、ビード状の隆起物の発生を抑制できるため、研磨工程を行う必要がない。このため、製品のタクトタイムを短いものとすることができ、製造コストも低減することができるという大きな効果がある。
また、同図ではフィルム9の端部をスリットする場合を示しているが、フィルム9を狭幅にスリットする際には、吸引孔16aまたは吸引孔16bに向かって照射装置6を設置すればよい。さらに、照射装置6を複数設置してもよい。例えば、吸引孔16・16a・16b・16cのそれぞれに向かって照射装置6を4台設置することによって、フィルム9の両端部をスリットすると共に、狭幅の3つのフィルムにスリットすることができる。
図8は、スリッター機1によってフィルム9を切断する過程を示すフローチャートである。また、図9は、フィルム9の切断過程を示す平面図である。
まず、スリッター機1において巻出部2から巻取部8aまでフィルム9を設置する(図8のS1(Sはステップを示す))。その後、巻出部2および巻取部8aを回転させ、フィルム9を巻取部8aに向かって搬送する(図8のS2)。ここで、S2と並行して空気吸引装置7aによって空気を吸引すると共にフィルム9を表面15に向かって吸引する(図8のS3)。図9(a)はフィルム9が表面15に沿って保持されている状態を示している。
次に、照射装置6からレーザー光をフィルム9に対して照射する(図8のS4)。これにより、フィルム9が切断される。図9(b)は、切断された初期のフィルム9を示している。レーザー光の照射によりフィルム9が切断され、フィルム9に切断線Sが入っている。図9(c)は図9(b)の状態から時間が経過した状態を示しており、フィルム9が搬送方向に移動するにつれて、切断線Sが伸びていることが分かる。このようにしてフィルム9の切断(スリット)がなされる。
図8のS5において、スリットが終了したか否かが判断され、スリットが終了していない場合、S4に戻りレーザー光の照射が継続される。一方、スリットが終了した場合、一連の工程が終了する。
当該スリッター機1によるフィルム9の切断過程では、フィルム9が表面15に向かって吸引されることにより搬送されつつも保持されている、すなわち、フィルム9にばたつきは生じ難い。このため、照射装置6から照射されたレーザー光(コリメート光)はフィルム9においてその位置がぶれ難く、所望の焦点に集中される。したがって、フィルム9の切断端面においてビード状の隆起物は生じがたい。よってフィルム9の鋭利な切断が可能となる。
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
〔実施例1〕
図1に係るスリッター機1を用いてフィルム9である積層フィルムを切断した。なお、切断刃Cは使用せず、切断には照射装置6のみを用いた。積層フィルムは、上から、PETフィルム(58μm)、TACフィルム(80μm)、PVAフィルム(25μm)、シクロオレフィンポリマーフィルム(70μm)、セパレートフィルムとしてPETフィルム(38μm)が積層された構成となっている。
まず、積層フィルムをスリッター機1の巻出部2から巻取部8aにまで設置し、積層フィルムの搬送速度が10m/分、張力が150N(単位を追記下さい)の条件にて積層フィルムを搬送した。
次に、空気吸引装置7aを用いて、吸引孔16を介して積層フィルムを吸引した。吸引は0.5barの圧力にて行った。積層フィルムの吸引後、照射装置6を用いて積層フィルムを切断した。照射装置6としては、Coherent社製のDiamond E400iを用い、パルス間隔が66μsec、パルス幅が6μsecにてレーザー光を照射した。集光レンズとしては非球面レンズを用い、図6に示した構成を採用した。
切断した積層フィルムを図10(a)に示す。図10(a)の積層フィルムは幅方向が横方向となるように示されており、切断面が右側に位置している。同図に示すように、切断した積層フィルムの切断端部には変形がほとんど生じていない。また、ビード状の隆起物もほとんど観測されなかった。
さらに、切断した積層フィルムからセパレートフィルムを剥離して、偏光フィルムをガラス基板に貼合した状態を図11(a)に示す。図11(a)は、ガラス基板および貼合された偏光フィルムを示す断面図である。ガラス基板は図中下側に配置されており、25μmの粘着層を介して偏光フィルムが貼合されている。同図に示すように、偏光フィルムには気泡がかみこまない状態で貼合がなされている。これは、偏光フィルムに変形がほとんど生じず、フラットな状態が保たれたためである。
〔比較例〕
スリッター機1における、吸引ロール5、ホース7および空気吸引装置7aに代えて、照射装置6下方の積層フィルムを、特許文献2の図1のように2つの搬送ロールにて支持して切断を行った。すなわち、積層フィルムの吸引はなされない。また、実施例1とは異なり、照射装置6の下には何れのロールも配置されていない。上記の事項以外は、実施例1と同じ条件である。
切断した積層フィルムを図10(b)に示す。図10(b)の積層フィルムは幅方向が横方向となるように示されており、切断面が右側に位置している。同図に示すように、切断した積層フィルムの切断端部には変形が生じており、最上層のプロテクトフィルムには18μmの、最下層のセパレートフィルムには35μmのビード状の隆起物が発生していた。
さらに、切断した積層フィルムからセパレートフィルムを剥離して、偏光フィルムをガラス基板に貼合した状態を図11(b)に示す。図11(b)は、ガラス基板および貼合された偏光フィルムを示す断面図である。ガラス基板は図中下側に配置されており、ガラス基板に貼合された偏光フィルムには520μmに亘り気泡が観測された。これは、実施例1と異なり、照射装置6の下方において積層フィルムが上下に振れた(ばたついた)ため、レーザー光の焦点にぶれが生じたことが要因であると考えられる。
実施例1と比較例1とにおける切断された積層フィルムから、本発明に係るスリッター機を用いることによって、積層フィルムをより鋭利に切断することができた。その結果、積層フィルムにビード状の隆起物の発生を抑制することができた。
本発明に係る切断機は、ビード状の隆起物の発生を抑制してフィルムを切断することができるため、フィルムを用いる分野において利用可能である。
1 スリッター機
2 巻出部
3・3a・3b・3c・3d 搬送ロール
4・4c 側長計
4a 切断刃
4b タッチロール
5 吸引ロール
6 照射装置(レーザー光照射装置)
7 ホース
7a 空気吸引装置
8a 巻取部
8b 巻取部
9 フィルム
10 切断機
11 土台
12・13 支持部
14・14a 位置調整部
15 表面
16・16a・16b・16c 吸引孔
17・18 支軸
21 レーザー光発振器
22 ビームエキスパンダー
23 ベンドミラー
24 球面レンズ
25 非球面レンズ
26・27・30・31 レーザー光
28・29・32・33 コリメート光
C 切断刃
S 切断線

Claims (6)

  1. フィルムを巻き出す巻出部と、
    上記巻出部から巻き出されたフィルムを切断する切断機と、
    上記切断機によって切断されたフィルムを巻き取る巻取部とを備えるスリッター機であって、
    上記切断機は、フィルムを吸引する吸引ロールと、フィルムにレーザー光を照射してフィルムを切断するレーザー光照射装置とを備え、上記吸引ロールには複数の吸引孔が形成されており、上記レーザー光照射装置のレーザー光の照射方向は、上記吸引孔に向かっており、上記吸引ロールの吸引孔を介して空気を吸引することによって上記フィルムを吸引ロールの表面に向かって吸引する空気吸引装置を備え、上記吸引孔は、上記吸引ロールの胴部表面から所定の距離凹んだ部分に形成されていることを特徴とするスリッター機。
  2. 上記吸引孔は、上記吸引ロールの胴部表面から15mm以上の深さの凹状部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスリッター機
  3. 上記複数の吸引孔が、吸引ロールの軸に対して垂直な複数の方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のスリッター機
  4. 上記レーザー光照射装置は、上記フィルムに非球面レンズを介してレーザー光を照射することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のスリッター機
  5. フィルムの搬送方向におけるレーザー光照射装置よりも上流に、上記フィルムの一部を切断する切断刃および/またはフィルムの搬送方向におけるレーザー光照射装置よりも下流に、上記フィルムを切断する切断刃を備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のスリッター機。
  6. 少なくとも一方の面に剥離フィルムが積層されているフィルムを切断対象物とすることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のスリッター機。
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