JP5817427B2 - オキシ塩素化触媒及びそれを用いた1,2−ジクロロエタンの製造方法 - Google Patents

オキシ塩素化触媒及びそれを用いた1,2−ジクロロエタンの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、新規なオキシ塩素化触媒に関するものであり、さらに詳しくは、エチレンから塩化ビニルモノマーの原料として有用な1,2−ジクロロエタンを高選択的かつ安定に製造する新規なオキシ塩素化触媒及びそれを用いた1,2−ジクロロエタンの製造方法に関する。
塩化ビニルモノマー(以下、VCMと記すこともある。)の製造法のうち、バランスド・オキシクロリネーション・プロセスと呼ばれる方法、即ち、(1)エチレンの直接塩素化反応による1,2−ジクロロエタン(以下、EDCと記すこともある。)の製造、(2)EDCの熱分解反応によるVCMの製造、(3)エチレンのオキシ塩素化反応によるEDCの製造、からなるプロセスが石油化学工業で広く採用されている。
このうち、エチレンのオキシ塩素化反応によるEDCの製造法は、EDCの熱分解反応で副生した塩化水素をリサイクルして利用する他、ウレタン原料であるジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等のジイソシアネート製造時に副生した塩化水素をリサイクルすることが可能であり、ますます重要な製造法として位置づけられている。
エチレンのオキシ塩素化反応、即ち、エチレン、塩化水素および酸素から1,2−ジクロロエタンおよび水を生成する反応は、264kJ/molという非常に大きな反応熱を有するため反応熱の除去が大きな課題で、触媒層中の局部加熱により異常反応が起こると、オキシ塩素化触媒が劣化して副生物の増大や触媒活性低下の原因になる。また、オキシ塩素化反応によるEDCの製造は、その製造設備の大型化が進んでおり、10万トンスケールでの大型装置が稼動している。このような大型装置での生産においては、生産効率上、1,2−ジクロロエタン選択率は重要なファクターであり、たとえ0.1%の選択率向上であってもその経済的価値は極めて大きなものとなる。
反応方式として固定床連続流通式反応器または流動床連続流通式反応器が採用されている。固定床連続流通式反応器のオキシ塩素化触媒として、アルミナ担体に塩化銅および塩化カリウムを担持した中空円筒形状のオキシ塩素化触媒が知られており、例えば円筒形の形状寸法が規定されたオキシ塩素化触媒が提案されている(例えば特許文献1参照。)。
特開昭56−141842号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
しかし、特許文献1により提案されたオキシ塩素化触媒であっても、触媒層中の局部加熱の抑制やEDC選択性はまだ満足できるものではなく、更にオキシ塩素化触媒の粒子毎の活性が揃い、しかもEDC選択性の向上したオキシ塩素化触媒が期待されている。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的はオキシ塩素化触媒の粒子毎の活性が均一で、しかも高EDC選択率を発現するオキシ塩素化触媒を提供するものである。
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特定の細孔、特定形状を有し、しかもアルミナ担体上の塩化銅に対する周期表1族元素の塩化物のモル比が特定の標準偏差を有するオキシ塩素化触媒が、オキシ塩素化触媒の粒子毎の活性が揃うと同時に、高EDC選択率を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、アルミナ担体に少なくとも塩化銅および周期表1族元素の塩化物を担持した中空円筒形状を有するオキシ塩素化触媒であって、該触媒は細孔直径3〜15nm未満の範囲内の細孔および細孔直径15〜50nmの範囲内の細孔を有するとともに、細孔直径3〜15nm未満の細孔および細孔直径15〜50nmの細孔の細孔分布が共に1つ以上のピーク頂点を有し、塩化銅に対する周期表1族元素の塩化物のモル比の標準偏差が0.1以下であることを特徴とするオキシ塩素化触媒に関するものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のオキシ塩素化触媒は、アルミナ担体に少なくとも塩化銅および周期表1族元素の塩化物を担持した中空円筒形状の触媒であり、細孔直径3〜15nm未満の範囲内の細孔および細孔直径15〜50nmの範囲内にそれぞれの細孔を有するものである。
ここで、細孔とは、IUPACにおいては、直径2nm以下の細孔をマイクロ孔、直径2〜50nmの細孔をメソ孔、直径50nm以上の細孔をマクロ孔と定義されている。本発明においては、細孔直径1〜100nm程度のものを細孔と称するものである。
本発明における細孔直径は、例えば触媒粒子に水銀を圧入し、圧入時の水銀の圧力から測定する方法(水銀圧入法)により測定することが可能であり、細孔容積は、水銀の細孔への進入容積から算出できる。
ここで、細孔分布とは、細孔の大きさとその体積の関係を示すものであり、表現方法として、積算細孔容積分布、差分細孔容積分布、微分細孔容積分布(dV/dD)、Log微分細孔容積分布(dV/d(logD))等が知られている。本発明における細孔直径は、Log微分細孔容積分布(dV/d(logD))で得られる細孔分布により求めることが可能であり、細孔直径とLog微分細孔容積の関係から導きだされる細孔分布として示される。
本発明のオキシ塩素化触媒は、細孔直径3〜15nm未満の範囲内の細孔および細孔直径15〜50nmの範囲内の細孔を共に有するものである。細孔直径3〜15nm未満の範囲内の細孔および/又は細孔直径15〜50nmの範囲内の細孔を有さない触媒である場合、触媒の塩化銅に対する周期表1族元素の塩化物のモル比の標準偏差が大きくなったり、触媒活性、安定性、EDC選択性に劣るものとなる。
そして、特にEDC選択率と触媒強度のバランスに優れたオキシ塩素化触媒となることから、これら細孔を細孔分布として表した際に細孔直径3〜15nm未満の範囲内及び細孔直径15〜50nmの範囲内のそれぞれに1つ以上のピーク頂点を有するものであることが好ましい。細孔直径3〜15nm未満の範囲内の細孔における細孔分布のピーク頂点の数としては、好ましくは1〜2点であり、さらに好ましくは1点である。また、細孔直径15〜50nmの細孔における細孔分布のピーク頂点の数は、さらにEDC選択率が高い触媒となることから1〜5点が好ましく、特に好ましくは1点である。この際、EDCの選択性と触媒強度に共に優れる触媒となることから、細孔直径3〜15nm未満の範囲内のピーク頂点に対する細孔直径15〜50nmの範囲内のピーク頂点の強度比が0.1〜1.0であるものが好ましく、特に0.2〜0.8であるものが好ましい。また、該細孔分布のピーク頂点は、細孔直径6〜13nmの範囲内および細孔直径30〜45nmの範囲内にそれぞれ存在することがより好ましい。
また、オキシ塩素化触媒の粒子毎の担持塩化銅量が揃うと同時に触媒強度が優れる触媒となることから、細孔直径50nm以下の範囲内の細孔が全細孔容積の85%以上であることが好ましい。
本発明のオキシ塩素化触媒は、アルミナ担体に少なくとも塩化銅および周期表1族元素の塩化物を担持した中空円筒形状を有するものである。ここで、塩化銅としては、塩化第一銅および/または塩化第二銅を挙げることができ、その中でも特に安定性に優れるオキシ塩素化触媒となることから塩化第二銅であることが好ましい。また、オキシ塩素化触媒に担持されている塩化銅の担持量としては、オキシ塩素化触媒が触媒として作用する限りにおいて如何なる制限はなく、その中でも触媒活性に優れるオキシ塩素化触媒となることから8〜25重量%であることが好ましく、特に10〜20重量%であることが好ましい。
周期表1族元素の塩化物としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウムおよび塩化セシウムからなる群から選択される1種以上の塩化物が挙げられる。これらのうち、オキシ塩素化触媒の安定性が高くなることから、塩化カリウム及び/又は塩化セシウムが好ましい。
周期表1族元素の塩化物の担持量としては、オキシ塩素化触媒が触媒として作用する限りにおいて如何なる制限はなく、その中でも塩化銅の安定性に寄与し触媒活性に優れるオキシ塩素化触媒となることから1〜20重量%であることが好ましく、特に1〜10重量%であることが好ましい。また、本発明のオキシ塩素化触媒における塩化銅と周期表1族元素の塩化物の担持割合は、オキシ塩素化触媒が触媒として作用する限りにおいて如何なる制限はなく、その中でも触媒活性と安定性に優れるオキシ塩素化触媒となることからに塩化銅1モルに対し周期表1族元素の塩化物0.01〜3モルであることが好ましく、特に0.1〜1モルであることが好ましい。
本発明のオキシ塩素化触媒は、特に触媒活性と安定性に優れたものとなることから、さらに周期表2族元素の塩化物を担持したものであることが好ましい。この際の周期表2族元素の塩化物としては、例えば塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム等が挙げられ、その中でも、特に塩化マグネシウムであることが好ましい。その際の周期表2族元素の塩化物の担持量としては、好ましくは0.01〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%である。
本発明のオキシ塩素化触媒は、塩化銅に対する周期表1族元素の塩化物のモル比の標準偏差が0.1以下である。ここで、標準偏差とはデータの散らばりの度合いを表す数値であり、具体的には平均値と各データの値の差(偏差)を二乗し、それを算術平均した値の平方根として求められるものである。標準偏差が小さいことは、平均値のまわりの散らばりの度合が小さいことを示す。
オキシ塩素化反応は前記の通り、非常に大きな反応熱を有するため、固定床流通式反応管に充填されたオキシ塩素化触媒はできる限り触媒粒子毎の活性が均一であることが望まれている。反応管に充填された触媒の活性が不揃い、特に周期表1属元素/Cu比の異なる触媒粒子が混在すると、周期表1属元素/Cu比の小さな触媒粒子付近でヒートスポットが発生し、オキシ塩素化反応の制御が難しくなり、安定運転に影響が出る恐れがある。
オキシ塩素化触媒における塩化銅に対する周期表1族元素の塩化物のモル比の標準偏差が小さいということは、アルミナ担体に担持された塩化銅および周期表1族元素の塩化物が均質に担持されていることを意味しており、オキシ塩素化触媒の粒子毎の触媒活性が揃うことになる。そして、特にオキシ塩素反応の安定性が増すことから、塩化銅に対する周期表1族元素の塩化物のモル比の標準偏差は0.08以下が好ましく、特に0.05以下が好ましい。塩化銅に対する周期表1族元素の塩化物のモル比の標準偏差が0.1を超える触媒である場合、触媒活性、安定性に劣る触媒となる。
本発明のオキシ塩素化触媒の塩化銅に対する周期表1族元素の塩化物のモル比の標準偏差は、例えば触媒調製における焼成終了後、トレイ上の触媒を積層毎に採取し、各々の層の触媒の金属組成分析を行い、その平均値と各データの値の差(偏差)を二乗し、それを算術平均した値の平方根として求めることができる。
本発明のオキシ塩素化触媒は、触媒活性が高いものとなることから、100〜300m/gの表面積を有するものであることが好ましく、特に120〜260m/gであることが好ましい。また、0.40〜0.70ml/gの全細孔容積を有するものであることが好ましく特に0.56〜0.65ml/gであることが好ましい。
本発明のオキシ塩素化触媒は、圧縮破壊強度に特に制限はなく、触媒の耐久性を高めることができることから直径方向に対し5〜80N(木屋式強度計での測定値。)の圧縮破壊強度を有するものであることが好ましく、特に10〜40Nであることが好ましい。
本発明のオキシ塩素化触媒は、中空円筒形状を有するものであり、その形状寸法に特に制限はなく、その中でも触媒活性に優れるものとなることから外径2〜8mm、内径1〜7mm、長さ2〜8mmの円筒形状であることが好ましく、さらに外径3〜6mm、内径1〜3mm未満、長さ3〜6mmであることが好ましい。
本発明のオキシ塩素化触媒を構成するアルミナ担体に特に限定はなく、その中でも細孔を有する多孔質アルミナ担体が好ましく、好ましくは細孔直径3〜15nm未満、特に好ましくは3〜14nmの範囲内の細孔および好ましくは細孔直径15〜80nm、特に好ましくは15〜70nmの範囲内の細孔を有する中空円筒形状の多孔質アルミナ担体であることが好ましい。このようなアルミナ担体は、いかなる方法により成形されても差し支えなく、例えば押出成形法または圧縮成形法により成形することができる。
本発明のオキシ塩素化触媒は、いかなる方法により製造されても差し支えなく、例えば細孔直径3〜15nm未満、特に好ましくは3〜14nmの範囲内の細孔および好ましくは細孔直径15〜80nm、特に好ましくは15〜70nmの範囲内の細孔を有する中空円筒形状のアルミナ担体に、少なくとも塩化銅および周期表1族元素の塩化物を担持し、更に乾燥および焼成することにより製造する方法を挙げることができる。その際の担持方法としては、例えば浸漬法、含浸法、共沈殿法、等の方法を挙げることができ、これらの中でも、操作が簡便で、生産性に優れることから、浸漬法であることが好ましい。
この際の浸漬法としては、例えば塩化銅および周期表1族元素の塩化物の水溶液に該アルミナ担体を浸漬し、浸漬処理後、アルミナ担体と水溶液を分離した後、塩化銅および周期表1族元素の塩化物が付着したアルミナ担体を乾燥、次いで焼成処理を行い、オキシ塩素化触媒を製造する方法を挙げることができる。浸漬液としては、特に制限はなく、塩化銅水溶液、周期表1族元素の塩化物水溶液を挙げることができる。塩化銅水溶液の濃度としては、好ましくは50〜400g/lであり、さらに好ましくは100〜300g/lである。また、周期表1族元素の塩化物水溶液の濃度としては、好ましくは20〜400g/lであり、さらに好ましくは40〜200g/lである。浸漬時の温度としては、例えば0〜80℃、好ましくは10〜50℃である。浸漬時の圧力としては、通常、常圧である。また、浸漬時間は、温度や塩化銅、周期表1族元素の塩化物の濃度により選択可能であり、通常、0.5〜10時間である。浸漬時の雰囲気に特に制限はなく、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスによって置換して用いることができる。
本発明のオキシ塩素化触媒を浸漬法で製造する場合の塩化銅および周期表1族元素の塩化物の担持順序に制限はなく、例えば塩化銅および周期表1族元素の塩化物を一度に担持する方法、塩化銅および周期表1族元素の塩化物を分割して担持する方法、を挙げることができ、さらに、前記の周期表2族元素の塩化物も必要に応じて各々の塩化物水溶液の状態で担持することができる。また、浸漬処理後、浸漬液からアルミナ担体を分離した後、アルミナ担体の外表面に付着した浸漬水を紙ウエスや布等で拭き取っても差し支えない。付着した浸漬水の拭き取りにより、塩化銅に対する周期表1族元素の塩化物のモル比の標準偏差が小さくなる効果が認められる。
本発明において、乾燥処理の方式に特に制限はなく、任意の方式で行うことが可能であり、例えば、バッチ式、コンベアー式、ロータリーキルン式、流動層式等の乾燥装置で行うことができる。また、加熱の方法も制限がなく、熱風、赤外線、マイクロ波等の加熱方式で行われる。これらのうち、装置が簡便なこと、静置状態での乾燥が可能であり均一な乾燥が可能となることからバッチ式で行うことが好ましい。乾燥温度に特に制限はなく、中でも塩化銅に対する周期表1族元素の塩化物のモル比の標準偏差が小さくなることから、0〜250℃が好ましく、30〜200℃であることが特に好ましい。乾燥時間としては、1〜20時間が好ましく、特に2〜10時間であることが好ましい。乾燥中の雰囲気に制限はなく、通常、空気中で行なわれる。また、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスによって置換して乾燥することもできる。
また、焼成処理の方式に特に制限はなく、任意の方式で行うことが可能であり、例えば、バッチ式、コンベアー式、ロータリーキルン式等の焼成装置で行うことができる。これらのうち、装置が簡便なこと、静置状態での焼成が可能であり触媒の破砕等が発生し難くなることからバッチ式で行うことが好ましい。焼成温度に特に制限はなく、触媒の安定性が高いことから、0〜500℃が好ましく、100〜400℃であることが好ましい。焼成時間としては、1〜20時間が好ましく、特に2〜10時間であることが好ましい。また、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスによって置換して焼成することもできる。なお、乾燥処理と焼成処理は同じ装置で、実施しても差し支えない。
本発明のオキシ塩素化触媒は、エチレン、塩化水素および酸素を原料にしてEDCを製造する際のオキシ塩素化触媒として用いることが可能であり、特にEDCの選択性に優れる製造方法となるものである。
エチレン、塩化水素および酸素を原料にして、オキシ塩素化反応によるEDCを製造する際の反応形式に特に制限はなく、任意の反応形式で行うことが可能であり、例えば、固定床流通式または流動床流通式で行うことができる。これらのうち、装置が簡便なことから固定床流通式で行うことが好ましい。反応温度に特に制限はなく、中でもEDCへの転換が効率的になることから、100℃〜400℃が好ましく、特に150℃〜350℃であることが好ましい。反応圧力に特に制限はなく、通常、絶対圧で0.01〜2MPaであり、好ましくは0.05〜1MPaである。また、固定床流通式反応の際のガス時間空間速度(GHSV)は、EDCへ効率的に転換できることから、好ましくは10hr−1〜10000hr−1、さらに好ましくは30hr−1〜8000hr−1である。ここで、ガス時間空間速度(GHSV)とは、単位触媒体積当たりの単位時間(hr)に対するエチレンの供給量を表すものである。
オキシ塩素化反応は発熱反応であることから、必要に応じて希釈剤を触媒層に混合しても良い。希釈剤としては、特に限定されないが、例えばシリカ、アルミナ、カーボン等が用いられる。
なお、エチレン、塩化水素および酸素は、そのまま用いても、不活性ガスで希釈して用いても良い。不活性ガスとしては特に制限されるものではないが、例えば窒素、ヘリウムまたはアルゴン等が挙げられ、これらの不活性ガスは単独で使用するのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。代表的な例として、原料の一つである酸素に空気を用いるいわゆる空気法、空気に酸素を追加して用いる酸素富化法、窒素などの不活性ガスを使用しない酸素法が、工業化プロセスとして広く採用され実施されている。本発明のオキシ塩素化触媒は、いずれのプロセスにも好適に使用することができる。
本発明の新規なオキシ塩素化触媒は、エチレンから塩化ビニルモノマーの原料として有用なEDCを高選択的かつ安定に製造することが可能となり、工業的にも極めて有用である。
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下に実施例に用いた測定方法および反応評価方法を示す。
<細孔分布の測定>
細孔分布の測定は、水銀圧入法細孔分布測定装置(カンタクローム社製、(商品名)PoreMaster 60GT)を用い、細孔直径0.0036μm〜400μmの範囲で測定を行った。細孔分布のピークおよびピークの頂点は、Log微分細孔容積分布(dV/d(logD))、即ち、横軸に細孔直径、縦軸にLog微分細孔容積をプロットした図から読み取った。
<金属組成分析(塩化銅、塩化カリウムおよび塩化セシウムの定量分析)>
触媒調製における焼成終了後、トレイ上に4層に積層した触媒を積層(上部から第1層、第2層、第3層、第4層)毎に採取し、各々の触媒の金属組成分析を行った。金属組成分析は、走査型蛍光X線分析装置(理学製、(商品名)ZSX PrimusII)を用い、積層毎の触媒約3gを粉砕、次いで加圧プレスで試料プレートを作製し、このプレートをRh管球、管電圧/管電流50kV/60mAの条件で測定した。得られたCu、KおよびCs濃度は、各々CuCl、KClおよびCsClに換算して、表1に記載した。
<標準偏差の求め方>
第1層、第2層、第3層および第4層の触媒の周期表1属元素(アルカリ)/Cu(モル比)を用いて、平均値と各データの値の差(偏差)を二乗し、それを算術平均した値の平方根として標準偏差を求めた。
<反応評価方法>
オキシ塩素化触媒の反応評価は、ガラス製反応管(内径22mm、長さ600mm)を備えた固定床気相流通式反応装置を用いて行った。ガラス製反応管の中段に、オキシ塩素化触媒を充填し、エチレン、塩化水素、酸素および希釈用窒素を触媒層に供給した。
比活性は、触媒層のトップ温度が230℃、250℃、270℃になるよう制御し、各々の充填率に対するエチレン転化率の平均値を活性と設定した。また、EDC選択性は触媒層のトップ温度が240℃になるよう制御し、選択性を求めた。各反応条件での反応出口ガスおよび反応液を採取し、ガスクロマトグラフを用い、ガス成分および液成分を個別に分析し、活性および選択性を算出した。
ガス成分は、ガスクロマトグラフ(島津製作所製、(商品名)GC−1700)を用いて分析した。充填剤は、Waters社製(商品名)PorapakQおよびGLサイエンス社製(商品名)MS−5Aを用いた。液成分は、ガスクロマトグラフ(島津製作所製、(商品名)GC−1700)を用いて分析した。分離カラムは、キャピラリーカラム(GLサイエンス社製、(商品名)TC−1)を用いた。
実施例1
細孔直径8nmおよび35nmにそれぞれ細孔分布のピーク頂点を有する中空円筒形状のアルミナ担体(外径5.0mm、内径1.8mm、長さ5.0mm)に水を十分に吸収させた。CuCl=249g/l、KCl=68g/l、CsCl61g/lの濃度の塩化銅−塩化カリウム−塩化セシウム水溶液800mlに前記のアルミナ担体300gを浸漬させ、室温で4時間浸漬した。アルミナ担体を浸漬液から取り出した後、直ぐにトレイ(長さ20cm、幅20cm、高さ6cm)に移して、アルミナ担体をトレイ上、4層に積層した。バッチ式の恒温器(ヤマト科学製、(商品名)精密恒温器DH650)にトレイを入れ、150℃で1.5時間乾燥させた後、200℃で5時間焼成して、外径5.0mm、内径1.8mm、長さ5.0mmを有する中空円筒形状のオキシ塩素化触媒(細孔直径12nmおよび40nmにそれぞれ細孔分布のピーク頂点を有する。)を調製した。細孔分布の測定から、細孔直径50nm以下の範囲内の細孔は全細孔容積の88%であった。
焼成終了後、トレイ上の触媒を積層(上部から第1層、第2層、第3層、第4層)毎に採取し、各々の触媒の金属組成分析および反応評価を行った。結果を表1に示す。
得られたオキシ塩素化触媒は、周期表1属元素(アルカリ)/Cu比の標準偏差が0.042と小さいことから、比活性のバラツキは小さく安定性に優れるものであった。また、EDC選択性も高いものであった。
実施例2
細孔直径8nmおよび60nmにそれぞれ細孔分布のピーク頂点を有する中空円筒形状のアルミナ担体(外径5.0mm、内径1.8mm、長さ5.0mm)に水を十分に吸収させた。CuCl=217g/l、KCl=56g/l、CsCl50g/lの濃度の塩化銅−塩化カリウム−塩化セシウム水溶液800mlに前記のアルミナ担体300gを浸漬させ、室温で4時間浸漬した。アルミナ担体を浸漬液から取り出した後、直ぐにトレイに移して、アルミナ担体をトレイ上、4層に積層した。バッチ式の恒温器にトレイを入れ、150℃で1.5時間乾燥させた後、200℃で5時間焼成して、外径5.0mm、内径1.8mm、長さ5.0mmを有する中空円筒形状のオキシ塩素化触媒(細孔直径11nmおよび40nmにそれぞれ細孔分布のピーク頂点を有する。)を調製した。細孔分布の測定から、細孔直径50nm以下の範囲内の細孔は全細孔容積の97%であった。
焼成終了後、トレイ上の触媒を積層(上部から第1層、第2層、第3層、第4層)毎に採取し、各々の触媒の金属組成分析および反応評価を行った。結果を表1に示す。
得られたオキシ塩素化触媒は、周期表1属元素(アルカリ)/Cu比の標準偏差が0.044と小さいことから、比活性のバラツキは小さく安定性に優れるものであった。また、EDC選択性も高いものであった。
実施例3
浸漬液からアルミナ担体を取り出し、担体表面を紙製ウエスで拭き取った以外は実施例2と同様の方法で外径5.0mm、内径1.8mm、長さ5.0mmを有する中空円筒形状のオキシ塩素化触媒(細孔直径11nmおよび45nmにそれぞれ細孔分布のピーク頂点を有する。)を調製し、反応評価を行った。細孔分布の測定から、細孔直径50nm以下の範囲内の細孔は全細孔容積の90%であった。結果を表1に示す。
得られたオキシ塩素化触媒は、周期表1属元素(アルカリ)/Cu比の標準偏差が0.022と極めて小さいことから、比活性のバラツキは極めて小さく安定性に特に優れるものであった。また、EDC選択性も高いものであった。
実施例4
細孔直径8nmおよび60nmにそれぞれ細孔分布のピーク頂点を有する中空円筒形状のアルミナ担体(外径5.0mm、内径1.8mm、長さ5.0mm)に水を十分に吸収させた。CuCl=217g/l、KCl=78g/lの濃度の塩化銅−塩化カリウム水溶液800mlに前記のアルミナ担体300gを浸漬させ、室温で4時間浸漬した。アルミナ担体を浸漬液から取り出した後、直ぐにトレイに移して、アルミナ担体をトレイ上、4層に積層した。バッチ式の恒温器にトレイを入れ、150℃で1.5時間乾燥させた後、200℃で5時間焼成して、外径5.0mm、内径1.8mm、長さ5.0mmを有する中空円筒形状のオキシ塩素化触媒(細孔直径11nmおよび44nmにそれぞれ細孔分布のピーク頂点を有する。)を調製した。細孔分布の測定から、細孔直径50nm以下の範囲内の細孔は全細孔容積の95%であった。
焼成終了後、トレイ上の触媒を積層(上部から第1層、第2層、第3層、第4層)毎に採取し、各々の触媒の金属組成分析および反応評価を行った。結果を表1に示す。
得られたオキシ塩素化触媒は、周期表1属元素(アルカリ)/Cu比の標準偏差が0.011と極めて小さいことから、比活性のバラツキは極めて小さく安定性に特に優れるものであった。また、EDC選択性も高いものであった。
比較例1
細孔直径7nmおよび97nmにそれぞれ細孔分布のピーク頂点を有する中空円筒形状のアルミナ担体(外径5.0mm、内径1.8mm、長さ5.0mm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で外径5.0mm、内径1.8mm、長さ5.0mmを有する中空円筒形状のオキシ塩素化触媒(細孔直径9nmおよび91nmにそれぞれ細孔分布のピーク頂点を有する。)を調製し、反応評価を行った。結果を表1に示す。
得られた触媒は、EDC選択性の高いものではあったが、周期表1属元素(アルカリ)/Cu比の標準偏差が0.118と非常に大きいことから、比活性のバラツキは非常に大きく安定性に劣るものあった。
比較例2
細孔直径9nmに細孔分布のピーク頂点を有する中空円筒形状のアルミナ担体(外径5.0mm、内径1.8mm、長さ5.0mm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で外径5.0mm、内径1.8mm、長さ5.0mmを有する中空円筒形状のオキシ塩素化触媒(細孔直径12nmに細孔分布のピーク頂点を有する。)を調製し、反応評価を行った。結果を表1に示す。
得られた触媒は、周期表1属元素(アルカリ)/Cu比の標準偏差が0.037と小さいことから、比活性のバラツキは小さいものであったが、EDC選択性に劣るものであった。
Figure 0005817427
本発明の新規なオキシ塩素化触媒は、エチレンから塩化ビニルモノマーの原料として有用な1,2−ジクロロエタンを製造する際の触媒として利用することが可能であり、その際の1,2−ジクロロエタンの選択性は極めて高いものとなり、経済的にも優れたものとなる。また、安定生産ができることから、安全性にも優れたものとなる。

Claims (11)

  1. アルミナ担体に少なくとも塩化銅および周期表1族元素の塩化物を担持した中空円筒形状を有するオキシ塩素化触媒であって、該触媒は細孔直径3〜15nm未満の範囲内の細孔および細孔直径15〜50nmの範囲内の細孔を有するとともに、細孔直径3〜15nm未満の細孔および細孔直径15〜50nmの細孔の細孔分布が共に1つ以上のピーク頂点を有し、塩化銅に対する周期表1族元素の塩化物のモル比の標準偏差が0.1以下であることを特徴とするオキシ塩素化触媒。
  2. 周期表1族元素の塩化物が塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウムおよび塩化セシウムからなる群から選択される1種以上の塩化物であることを特徴とする請求項1に記載のオキシ塩素化触媒。
  3. 塩化銅に対する周期表1族元素の塩化物のモル比の標準偏差が0.05以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のオキシ塩素化触媒。
  4. 外径3〜6mm、内径1〜3mm未満、長さ3〜6mmの中空円筒形状を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のオキシ塩素化触媒。
  5. 塩化銅の担持量が8〜25重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のオキシ塩素化触媒。
  6. 周期表1族元素の塩化物の担持量が1〜20重量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のオキシ塩素化触媒。
  7. 塩化銅1モルに対する周期表1族元素の塩化物の担持量が0.1〜1モルであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のオキシ塩素化触媒。
  8. 細孔直径50nm以下の範囲内の細孔が、全細孔容積の85%以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のオキシ塩素化触媒。
  9. 細孔直径3〜15nm未満の細孔および細孔直径15〜80nmの細孔を有する中空円筒形状のアルミナ担体に、少なくとも塩化銅及び周期表1族元素の塩化物を浸漬法で担持する際に100〜300g/lの塩化銅水溶液及び40〜200g/lの周期表1族元素の塩化物水溶液を用い、更に乾燥および焼成することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のオキシ塩素化触媒の製造方法
  10. 乾燥および焼成を、バッチ式の乾燥装置およびバッチ式の焼成装置で行うことを特徴とする請求項9に記載のオキシ塩素化触媒の製造方法。
  11. 請求項1〜8のいずれかに記載のオキシ塩素化触媒の存在下、エチレン、塩化水素及び酸素のオキシ塩素化反応を行なうことを特徴とする1,2−ジクロロエタンの製造方法
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