JP5749908B2 - 熱伝導性と放熱性に優れた電子機器用樹脂被覆鋼板 - Google Patents
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Description
本発明に用いられる素地鋼板は、60W/m・K以上の熱伝導率を有するものとした。素地鋼板の熱伝導率が60W/m・K未満だと、鋼板面内の温度勾配を下げる効果が得られないからである。熱伝導率は好ましくは65W/m・K以上、より好ましくは68W/m・K以上である。
本発明に用いられる素地鋼板は、その化学成分組成を適切に規定することが必要である。これら各成分の限定理由は、以下の通りである。
Cは、鋼板(素地鋼板)の熱伝導率に大きな悪影響を及ぼす元素である。C含有量が少ないほど熱伝導率は高くなるため、Cは0.1%以下とする必要がある。好ましくは、0.06%以下、より好ましくは0.04%以下である。その一方で、Cは薄鋼板としたときの強度を確保する上で有用な元素である。強度が不足した鋼板では、バックシャーシのような大型の電子機器部品として用いる場合、構造を支持したり、鋼板の平坦度を確保することが難しくなる。そこで、他の元素との組み合わせによって、バックシャーシとして必要な強度を確保する必要があるが、強度を低下させることなくバックシャーシとして使用できる範囲のC含有量の下限として、0.001%とする。好ましくは0.0015%以上、より好ましくは0.0020%以上である。
Siは、鋼板の熱伝導率に悪影響を及ぼす元素である。Si含有量が少ないほど熱伝導率は高くなるため、Siは0.1%以下とする必要がある。好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.03%以下である。一方、Siは固溶強化元素として作用し、薄鋼板の強度を確保するのに作用する元素でもある。したがって鋼板の強度を確保するためには、Siは好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.002%以上、更に好ましくは0.003%以上である。
Mnは、鋼板の熱伝導率に悪影響を及ぼす元素である。Mn含有量が少ないほど熱伝導率は高くなるため、Mnは0.90%以下とする必要がある。好ましくは、0.40%以下、より好ましくは0.30%以下である。一方、Mnは焼入れ性の向上に作用する元素でもある。従って、鋼板の強度を確保するためには、Mnは0.05%以上含有させることが必要である。好ましくは、0.08%以上、より好ましくは0.10%以上である。
Alは、鋼板の熱伝導率に大きな悪影響を及ぼす元素の一つである。熱伝導率を良好に維持するためには、sol−Al含有量は0.1%以下とする必要がある。好ましくは0.07%以下、より好ましくは0.06%以下である。しかしながら、Alは脱酸元素として作用し、こうした作用を有効に発揮させるには、sol−Alの含有量は0.01%以上とする必要がある。好ましくは0.015%以上、より好ましくは0.020%以上である。
Sは不可避的不純物であるが、Mnと結合して鋼板の延性を劣化させるため、少ないほど好ましく、こうした観点から0.04%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.02%以下であり、更に好ましくは0.01%以下である。また、この範囲であれば、鋼板の熱伝導率には悪影響を及ぼすこともない。
Pは不可避的不純物であるが、粒界偏析による粒界破壊を助長させるので、その含有量はできるだけ少ない方が望ましい。こうした観点から、P含有量は0.05%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.04%以下であり、更に好ましくは0.025%以下である。また、この範囲であれば、鋼板の熱伝導率には悪影響を及ぼすこともない。
Nは不可避的不純物である。Nは、粗大な介在物(TiNなど)を形成し、鋼板の靭性を劣化させる元素であるため、できるだけ低減することが望ましい。こうした観点から、N含有量は、0.01%以下とするのが良い。より好ましくは0.008%以下であり、更に好ましくは0.004%以下である。また、この範囲であれば、熱伝導率には悪影響を及ぼさない。
Cu、Ni、Mo、Crは、もともと鋼中に不可避的不純物として含まれ得る元素であるが、いずれも焼き入れ性を向上させる元素であると共に、熱伝導率が鉄(Fe:80W/m・K)よりも高い(Cu:401W/m・K、Ni:91W/m・K、Mo:138W/m・K、Cr:94W/m・K)ことから、鋼板の熱伝導率向上に寄与する元素である。鋼板の強度や加工性に影響を及ぼさない範囲で、熱伝導特性を改善させるために、Cu、Ni、Mo、及びCrよりなる群から選ばれる少なくとも1種を0.01%以上添加するのが好ましい。これらの元素は単独、或いは2種以上を併用してもよい。但し、これらの元素の含有量が過剰になると鋼板の強度や加工性に悪影響を及ぼすだけでなく、めっき性も悪くなるため、各々0.1%以下とする。Crの好ましい上限は0.08%、Ni、Mo、Cuの好ましい上限はいずれも0.05%である。
Tiは、鋼板の熱伝導率の向上に寄与する元素である。Cとカーバイドを形成して固溶Cを低減させ、またNと窒化物を形成して熱伝導率向上に寄与する元素である。こうした効果を発揮させるためには0.01%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.02%以上、更に好ましくは0.03%以上である。しかしながら、Ti含有量が過剰になると、鋼板の強度を劣化させるので、その上限は0.1%とする。Ti含有量のより好ましい上限は0.07%であり、更に好ましい上限は0.06%である。
本発明の電子機器用樹脂被覆鋼板は、素地鋼板の少なくとも片面に樹脂皮膜を有する。具体的には素地鋼板の表面、或いは後記するめっき鋼板(「めっき」には電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき等の亜鉛めっきを含む意味である。以下、同じ)のめっき表面に樹脂皮膜を形成する。樹脂皮膜で被覆すると放熱性と耐指紋性が向上するからである。
本発明の電子機器用樹脂被覆鋼板は、素地鋼板に好ましくは亜鉛めっき皮膜が形成されていてもよい。亜鉛の熱伝導率(116W/m・K)は、鉄の熱伝導率(80W/m・K)よりも高いことから、めっき皮膜を素地鋼板の表面に形成すると、素地鋼板の熱伝導性を向上できる。めっき皮膜は素地鋼板の少なくとも片面に形成すればよい。
第2の鋼板に用いられる樹脂皮膜は、前述した第1の鋼板(Tiを所定量含有しない鋼板)に用いられる樹脂皮膜と、厚さが異なること以外は同じである。
以下では、第2の鋼板の膜厚設定理由について説明する。その他の要件は、前述した第1の鋼板に用いられる樹脂皮膜の説明を参照することができる。
第2の鋼板は、素地鋼板の少なくとも片面に合金化溶融亜鉛めっき皮膜を有する。上記した様に亜鉛めっきを合金化することで放射率が高くなり、鋼板の放熱性が良好となることから、鋼板の熱伝導性が向上する。このような効果を得るには合金化溶融亜鉛めっき付着量は、片面当たり30g/m2以上とする必要がある。好ましくは45g/m2以上、より好ましく50g/m2以上である。但し、合金化溶融亜鉛めっき付着量が過剰になると、めっき密着性が低下するため、合金化溶融亜鉛めっき付着量の上限は80g/m2以下とすることが好ましく、より好ましく60g/m2以下である。
(1) アルカリ水溶液浸漬脱脂:3質量%苛性ソーダ水溶液、60℃、2秒
(2) アルカリ水溶液電解脱脂:3質量%苛性ソーダ水溶液、60℃、2秒、10〜30A/dm2
(3) 水洗
(4) 酸洗 :3〜7質量%硫酸水溶液、40℃、2秒
(5) 水洗
(6) 電気亜鉛めっき :下記[電気亜鉛めっき条件]の通り
(7) 水洗
(8) 乾燥
めっきセル :横型めっきセル
めっき浴組成:ZnSO4・7H2O 300〜400g/L
Na2SO4 50〜100g/L
H2SO4 25〜35g/L
電流密度:50〜200A/dm2
めっき浴温度:60℃
めっき浴流速:1〜2m/秒
電極(陽極):IrO2合金電極
めっき付着量:15〜30g/m2(片面当たり)
上記冷延鋼板を、酸洗工程を通すことなく、溶融亜鉛めっきを施した。溶融亜鉛めっきは、還元性ガス雰囲気中での加熱による還元、めっき浴浸漬、ガスワイピングする装置を使用し、溶融亜鉛めっきを施した。
還元温度:780℃〜860℃
還元時間:10〜80秒
めっき浴組成:Zn−0.2%Al
めっき浴温度:455〜465℃
亜鉛付着量:60〜133g/m2(片面当たり)
(合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)の作製)
上記溶融亜鉛めっき鋼板に下記条件にて合金化加熱処理を施して合金化溶融亜鉛めっき鋼板を作製した。具体的にはFe−ZnおよびFe−Al合金化速度の違いによる粒界内の空洞発生を抑制するため、加熱速度は10〜30℃/s、合金化温度を550〜700℃の範囲で制御した。また、合金化反応が停止する400℃までの冷却は、めっき層表面にFe−Zn皮膜が生成し、めっき層中に液状で残留したZnが最後に合金化して体積収縮による空洞発生を抑制するため、冷却速度を10〜30℃/sの範囲で制御した。合金めっき層中のFe%はパウダリングなど加工性を考慮して5〜20%の範囲で制御した。
・加熱速度:25℃/s
・合金化加熱温度:650℃
・冷却速度:25℃/s
・合金めっき中のFe%:12%
(下地処理)
上記各めっき鋼板(めっき処理を施していない場合は素地鋼板)に、下地処理としてノンクロメート皮膜(CTE−213A:日本パーカーライジング社製)を用い、その付着量が100mg/m2となるように下地処理を行った。
樹脂は、有機溶剤型ポリエステル樹脂(「バイロン(登録商標)29」東洋紡績社製)を用いた。架橋剤として、メラミン樹脂(「スミマール(登録商標)M−40ST」:住友化学社製・固形分80%)を用いた。更にシンナーとしてキシレン50%+シクロヘキサノン50%混合溶剤(大伸化学製)を用いた。ポリエステル樹脂と架橋剤を質量比(ドライ)100:20で混合した。希釈溶剤としてキシレン/シクロヘキサノン混合溶剤を用い、樹脂固形分濃度が5〜15%となるよう溶剤で希釈した後、ディスパー攪拌機で3000rpm×5分攪拌して樹脂皮膜用原料組成物を調整した。
得られた各鋼板について、レーザーフラッシュ法によって熱伝導率を測定した。この方法の概要は次の通りである。
測定装置:レーザーフラッシュ法熱定数測定装置 「TC−7000アルバック 理工株式会社製」
まず下記の方法によって各鋼板の熱拡散率を測定する。
(1)25mm角の試料(鋼板)を作製し、その表面をカーボンスプレーによって黒化する。
(2)試料の黒化した面に赤外線レーザー光を瞬間的に照射し、裏面の温度変化を熱電対または赤外線検出器を用いて測定する。
(3)得られた時間−温度上昇曲線から熱拡散率を求める。
(4)レーザー光照射点と温度検出点との距離(即ち、各鋼板の厚さに相当)をL(mm)、試料裏面での最高到達温度の1/2の温度に到達するまでの時間をt1/2(sec)とすると、熱拡散率α[m2/sec]は下記の式で示される(このような測定方法をハーフタイム法と呼ぶ)。
熱拡散率α=1.37(L/π)2・1/t1/2 [m2/sec]
試料にレーザー光を瞬間的に照射したときに、試料に吸収された熱量をQ[J/cm2]、試料の質量をM(g)、温度上昇量をΔT(K)とすると、比熱Cp[J/(g・K)]は以下の式で示される。なお、各試料の質量は50〜60gであり、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ製 DSC220C)を用いて室温、アルゴン雰囲気下における比熱を測定した。
比熱Cp=Q/(M・ΔT) [J/(g・K)]
25mm角の試料を作製し、該試料を用いて室温で水中置換法により密度を測定した。
熱拡散率をα[m2/sec]、比熱をCp[J/(g・K)]、密度をρ[g/cm3]とすると、熱伝導率η[W/m・K]は以下の式で示される。密度ρはアルキメデス法によって測定した値を採用した。
熱伝導率η=Cp・α・ρ [W/m・K]
「赤外線積分放射率」とは、換言すれば、赤外線(熱エネルギー)の放出し易さ(吸収し易さ)を意味する。従って、上記赤外線積分放射率が高い程、放出(吸収)される熱エネルギー量は大きくなることを示す。例えば物体(本発明では樹脂皮膜)に与えられた熱エネルギーを100%放射する場合には、当該赤外線積分放射率は1となる。
測定波長範囲:4.5〜15.4μm
測定温度:試料の加熱温度を100℃に設定する
積算回数:200回
分解能 :16cm-1
ε(λ) :波長λにおける試料の分光放射率(%)
E(T) :温度T(℃)における試料の積分放射率(%)
M(λ,T) :波長λ、温度T(℃)における試料の分光放射強度(実測値)
A(λ) :装置関数
KFB(λ) :波長λにおける固定バックグラウンド(試料によって変化しないバックグラウンド)の分光放射強度
KTB(λ,TTB):波長λ、温度TTB(℃)におけるトラップ黒体の分光放射強度
KB(λ,T) :波長λ、温度T(℃)における黒体の分光放射強度(ブランクの理論式からの計算値)
λ1,λ2 :積分する波長の範囲を夫々、意味する。
M160℃(λ,160℃):波長λにおける160℃の黒体炉の分光放射強度(実測値)
M80℃(λ,80℃) :波長λにおける80℃の黒体炉の分光放射強度(実測値)
K160℃(λ,160℃):波長λにおける160℃の黒体炉の分光放射強度(ブランクの理論式からの計算値)
K80℃(λ,80℃):波長λにおける80℃の黒体炉の分光放射強度(ブランクの理論式からの計算値)を夫々、意味する。
KTB(λ,TTB)=0.96×KB(λ,TTB)
式中、KB(λ,TTB)は、波長λ、温度TTB(℃)における黒体の分光放射強度を意味する。
図1Aに示すような軸対称2次元モデルを用い、長さ100mm×厚さ0.8mmの鋼板を設定し、熱伝導性を熱伝導シミュレーションによって評価した。
発熱体温度(T0):ヒーターと鋼板の接触面の中心温度
面内最高温度(Tmax):鋼板の反対面の中心温度
最低温度(Tmin):鋼板の反対面の周辺端部(角部)温度
面内温度差(Tdiff):面内最高温度(Tmax)から最低温度(Tmin)を引いた値
鋼板No.74(アルミ板:熱伝導率120W/m・K)のシミュレーション値(T0=94.5℃)を基準値として、鋼板の発熱体温度(T0)が95.5℃(94.5℃+1℃)以下の場合を合格とし(○:T0≦95.5℃)、更に94.5℃以下の場合を、特に優れているとした(◎:T0≦94.5℃)。また95.5℃を超える場合を不合格(×:T0>95.5℃)と評価した。
鋼板No.74のシミュレーション値(Tdiff=14.6℃)と、鋼板No.73のシミュレーション値(Tdiff=21.9℃)の中間値18.3℃を基準値として、鋼板の面内温度差(Tdiff)が19.3℃以下の場合を合格とし(○:Tdiff≦19.3℃)、更に18.3℃以下の場合を特に優れているとした(◎:Tdiff≦18.3℃)。また面内温度差(Tdiff)が19.3℃を超える場合を不合格(×:Tdiff>19.3℃)と評価した。
鋼板(50×120mm)をワセリン飽和アセトン溶液(50℃)に浸漬した(浸漬時間10秒)。浸漬後乾燥させた後、鋼板について同時測定光方式分光式色差計(日本電色工業製SQ−2000)を用いて色差(ΔE)を算出して評価した。
Claims (3)
- 素地鋼板の少なくとも片面に樹脂皮膜を有する電子機器用樹脂被覆鋼板であって、
前記素地鋼板は、
C:0.1%以下(0%を含まない)(「質量%」の意味、以下同じ)、
Si:0.1%以下(0%を含まない)、
Mn:0.05〜0.90%、及び
sol−Al:0.01〜0.1%、
を夫々含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなると共に、
前記素地鋼板は熱伝導率が60W/m・K以上有し、
前記樹脂皮膜は、前記素地鋼板の表面、あるいは前記素地鋼板に形成された溶融亜鉛めっき、または電気亜鉛めっきの表面のいずれかに形成されており、
前記樹脂皮膜の厚さは0.3〜8μmであることを特徴とする熱伝導性及び放熱性に優れた電子機器用樹脂被覆鋼板。 - 素地鋼板の少なくとも片面に樹脂皮膜を有する電子機器用樹脂被覆鋼板であって、
前記素地鋼板は、
C:0.1%以下(0%を含まない)、
Si:0.1%以下(0%を含まない)、
Mn:0.05〜0.90%、
sol−Al:0.01〜0.1%、及び
Ti:0.01〜0.1%、
を夫々含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなると共に、
前記素地鋼板は熱伝導率が60W/m・K以上有し、
前記樹脂皮膜は、前記素地鋼板の表面、あるいは前記素地鋼板に形成された溶融亜鉛めっき、または電気亜鉛めっきの表面のいずれかに形成されており、
前記樹脂皮膜の厚さは0.1〜8μmであることを特徴とする熱伝導性及び放熱性に優れた電子機器用樹脂被覆鋼板。 - 前記溶融亜鉛めっき皮膜、または前記電気亜鉛めっき皮膜の片面当たりの付着量が10g/m2以上である請求項1または2に記載の電子機器用樹脂被覆鋼板。
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