以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただ、本発明は本実施形態に開示の構成のみに限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
本発明者らは、優れた耐汚染性、具体的には、優れた耐雨だれ汚染性を有する塗装鋼板であって、塗膜表面に基材鋼板に達するような疵が生じた場合であっても、腐食の進行を抑制できる塗装鋼板について鋭意検討した結果、以下の知見を得るに至った。図1および図2に、本実施形態に係る塗装鋼板の断面模式図を参考として示す。
すなわち、基材鋼板2と、基材鋼板2上に配された内塗膜3と、内塗膜3上に配されて最外膜となる外塗膜4と、を備える塗装鋼板1であって、外塗膜4がシリケートとメラミンとを含み、外塗膜4の外表面43(塗膜表面)から内塗膜3に向かって深さが10nm未満までの領域を外塗膜4の最表層42aとし、外表面43から内塗膜3に向かって深さが0.1μm未満までの領域を外塗膜4の表層42とし、外塗膜4内で表層42以外の領域を外塗膜4の本体層41とし、最表層42aの平均Si含有量を単位質量%でSiTSとし、表層42の平均Si含有量を単位質量%でSiSとし、本体層41の平均Si含有量を単位質量%でSiBとするとき、SiTS、SiS、およびSiBが、下記の式1、式2、および式3を同時に満足し、また、最表層42aの平均N含有量を単位質量%でNTSとし、表層42の平均N含有量を単位質量%でNSとし、本体層41の平均N含有量を単位質量%でNBとするとき、NTS、NS、およびNBが、下記の式4、式5、および式6を同時に満足し、外塗膜4のN含有量のデプスプロファイルカーブ5が、深さ0以上10nm未満の領域に最大値51を持ち、深さ10nm以上0.1μm未満の領域に極大値52を持ち、この極大値52を上記最大値51で割った値が0.8以上1.0未満となる塗装鋼板1である場合に、耐雨だれ汚染性と塗膜表面に疵が生じたときの耐食性(以後、疵耐食性と呼ぶ)とを同時に向上できる。
SiB<SiS<SiTS ・・・(式1)
7.0≦SiS≦50 ・・・(式2)
7.0≦SiTS/SiB≦50 ・・・(式3)
NS<NTS ・・・(式4)
30≦NTS≦50 ・・・(式5)
1.0<NTS/NB≦3.0 ・・・(式6)
一般に、塗装鋼板の耐汚染性、特に耐雨だれ汚染性を向上させるためには、塗装鋼板の外塗膜の親水性(濡れ性)を高め、かつバリア性を高める必要がある。すなわち、親水性が高まることによって、塗膜表面の汚染物が洗浄され易くなり、またバリア性が高まることによって、汚染物が塗膜内部に浸透されにくくなる。塗装鋼板の外塗膜がシリケートとメラミンとを含むとき、シリケートに由来するSi(シリコン)は、外塗膜の親水性を高める効果を有し、メラミンに由来するN(窒素)は、外塗膜のバリア性を高める効果を有する。
上記の知見に加えて、本発明者らが、外塗膜のSi含有量と疵耐食性との関係を検討した結果、外塗膜のSi含有量が上記条件を満足するとき、定性的に言えば、塗膜表面に向ってSi含有量が高くなるとき、親水性だけでなく疵耐食性も合わせて向上することが明らかになった。疵耐食性が向上する詳細な機構はまだ明らかではないが、以下と推測される。
基材鋼板に例えば亜鉛めっき鋼板が用いられ、かつ塗膜表面の傷によってこの基材鋼板が露出する場合、腐食環境下では基材鋼板のめっき層からZn2+等のカチオンが溶出する。このカチオンは、外塗膜中のシリケートに由来する(SiO3)2−等のケイ酸イオンと反応して不溶性の塩を生成し、疵部に付着する。この不溶性の塩が、基材鋼板の腐食の進行を抑制すると考えられる。すなわち、シリケートに由来するケイ酸イオンは、インヒビターとしての役割を果たし、塗装鋼板の疵耐食性を向上させると考えられる。また、塗膜表面に向ってSi含有量が上記範囲内で高くなるほど、腐食環境下でケイ酸イオンは溶出しやすくなる。すなわち、外塗膜のSi含有量が上記の式1〜式3を満足するときに、腐食環境下で外塗膜から好適にケイ酸イオンが溶出し、インヒビターとして作用し、その結果、塗装鋼板の疵耐食性が好ましく向上すると考えられる。
さらに言えば、塗膜表面に向ってSi含有量が上記範囲内で高くなるほど、外塗膜の親水性が高まり、塗膜表面の濡れ性が高くなる。すなわち、外塗膜のSi含有量が上記の式1〜式3を満足するときに、塗膜表面と雨滴との接触面積が大きくなり、外塗膜から好適にケイ酸イオンが溶出し、その結果、塗装鋼板の疵耐食性が好ましく向上すると考えられる。
上述のように、塗膜表面に向ってSi含有量が上記範囲内で高くなるほど、具体的には、外塗膜のSi含有量が上記の式1〜式3を満足するときに、塗装鋼板の疵耐食性が向上し、かつ耐雨だれ汚染性の向上に必要な親水性も高まる。しかし、塗装鋼板の耐雨だれ汚染性を向上させるためには、親水性に加えて、バリア性も合わせて高める必要がある。
外塗膜のバリア性は、外塗膜のN含有量に影響を受ける。本発明者らが検討した結果、外塗膜のN含有量が上記条件を満足するとき、定性的に言えば、塗膜表面でN含有量が最も高くなるとき、親水性に加えて、バリア性も合わせて向上することが明らかになった。
塗膜表面でのN含有量が上記範囲内で高いほど塗膜表面の架橋密度が大きくなるので、外塗膜のバリア性が高くなる。具体的には、外塗膜のN含有量が上記の式4〜式6を満足するときに、外塗膜のバリア性が好適に高まり、塗膜内部に汚染物が浸み込みにくくなり、その結果、塗装鋼板の耐雨だれ汚染性が好ましく向上する。
すなわち、塗装鋼板の耐雨だれ汚染性と疵耐食性とを好ましく両立させるためには、外塗膜のSi含有量およびN含有量が、上記の式1〜式6を同時に満足する必要がある。
しかし、SiおよびNの表面濃化は競争反応であるので、塗膜表面に向かってSi含有量を上記範囲内で高めるほど、塗膜表面でのN含有量は低くなる傾向にある。このように、塗膜表面に向かってSi含有量とN含有量とを同時に高めることは一般に容易でない。すなわち、外塗膜のSi含有量およびN含有量を同時に上記の式1〜式6に制御することは困難である。
例えば、熱風炉による外塗膜の焼き付けでは、雰囲気からの伝熱によって外塗膜が焼き付け硬化されるので、塗膜表面が過剰に温度上昇し、塗膜表面からSiが揮散しやすい。そのため、塗膜表面のSi含有量が低下し、塗膜表面のN含有量が過剰に高くなる。一方、IH炉による外塗膜の焼き付けでは、誘導加熱された基材鋼板からの伝熱によって外塗膜が焼き付け硬化されるので、塗膜表面の過剰な温度上昇が抑制され、塗膜表面からのSiの揮散が抑制される。そのため、塗膜表面に向かってSi含有量が高まるが、塗膜表面のN含有量が低下する。
このような課題を解決するため、本実施形態に係る塗装鋼板では、外塗膜を最適に制御する。具体的には、本実施形態に係る塗装鋼板では、外塗膜のN含有量のデプスプロファイルカーブが、深さ0以上10nm未満の領域に最大値を持ち、深さ10nm以上0.1μm未満の領域に極大値を持ち、この極大値を上記最大値で割った値が0.8以上1.0未満となるように、外塗膜を制御する。外塗膜のN含有量のデプスプロファイルカーブが上記条件を満足するとき、外塗膜のSi含有量およびN含有量が上記の式1〜式6に好ましく制御される。
図3に、本実施形態に係る塗装鋼板の外塗膜のN含有量のデプスプロファイルカーブを示す。図3に示すデプスプロファイルカーブは、外塗膜の焼き付け条件を最適に制御することによって初めて達成できる。具体的には、外塗膜の焼き付けの際に、基材鋼板から塗膜表面へ向かって伝熱する誘導加熱(IH)と、塗膜表面から基材鋼板へ向かって伝熱する熱風吹き付けとを、それぞれ最適に制御する。
図3のデプスプロファイルカーブ5は、図3に示すように、第1の波形53および第2の波形54の重ね合わせにより形成されていると考えられる。このデプスプロファイルカーブ5の第1の波形53は、最表層に存在する層状のメラミンの自己縮合物に由来すると考えられる。一方、デプスプロファイルカーブ5の第2の波形54は、粒状のメラミンの自己縮合物、およびポリエステルと架橋しているメラミンに由来すると考えられる。
基材鋼板から塗膜表面へ向かって伝熱する誘導加熱と、塗膜表面から基材鋼板へ向かって伝熱する熱風吹き付けとは、互いに相反する方向の伝熱である。従って、N含有量のデプスプロファイルカーブを意図的に作り込むことを目的として上記の相反する制御条件をそれぞれ個別にかつ最適に制御することによって初めて、本実施形態の上記条件を満足するデプスプロファイルカーブを得ることが可能となる。
外塗膜のN含有量のデプスプロファイルカーブは、種々の外塗膜の焼き付け条件に複合的に影響を受ける。従って、一義的に規定される単なる焼き付け条件では、本実施形態の上記条件を満足するN含有量のデプスプロファイルカーブを得ることができない。基材鋼板から塗膜表面へ向かって伝熱する誘導加熱と、塗膜表面から基材鋼板へ向かって伝熱する熱風吹き付けとを、個別に意図的にかつ最適に制御する必要がある。上記した2つの加熱方法の内、どちらか一方の加熱方法のみが優勢となる場合、上記条件を満足するデプスプロファイルカーブが得られなくなり、その結果、塗膜表面に向かってSi含有量およびN含有量を同時に高めることが困難となる。
本実施形態に係る塗装鋼板では、詳細な制御条件は後述するが、上記の相反する制御条件をそれぞれ最適に制御することで、上記条件を満足するN含有量のデプスプロファイルカーブを意図的に作り込む。その結果、外塗膜のSi含有量およびN含有量が上記の式1〜式6を好ましく満足するように制御することが可能となる。
加えて、外塗膜のN含有量のデプスプロファイルカーブが上記条件を満足するとき、外塗膜の加工性が好ましく向上する。
熱風加熱の場合、塗膜表面から基材鋼板へ向かって伝熱するので、外塗膜の最表層には、層状に存在するメラミンの自己縮合物が優先的に形成しやすいと考えられる。この層状のメラミンの自己縮合物は、汚染物質のバリア性(耐雨だれ汚染性)を高めると考えられる。しかし、この層状のメラミンの自己縮合物は、硬質であるため、外塗膜の加工性を低下させやすい。一方、誘導加熱の場合、基材鋼板から塗膜表面へ向かって伝熱するので、外塗膜の深さ10nm以上0.1μm未満の領域には、粒状に存在するメラミンの自己縮合物、およびポリエステルと架橋しているメラミンが優先的に形成しやすいと考えられる。この粒状のメラミンの自己縮合物は、その形状に起因して、外塗膜の加工性を好ましく向上させると考えられる。しかし、この粒状のメラミンの自己縮合物は、汚染物質のバリア性(耐雨だれ汚染性)を低下させやすい。
熱風加熱のみで外塗膜を焼き付けた場合、外塗膜の深さ10nm以上0.1μm未満の領域に上記の極大値を持つようなN含有量のデプスプロファイルカーブを得にくい。そのため、最表層のN含有量が過剰に高くなり、かつSi含有量が低下しやすい。一方、誘導加熱のみで外塗膜を焼き付けた場合、外塗膜の深さ0以上10nm未満の領域に上記の最大値を持つようなN含有量のデプスプロファイルカーブを得にくい。そのため、最表層のSi含有量が高くなるが、N含有量が低下しやすい。
本実施形態に係る塗装鋼板では、上記したように、熱風加熱および誘導加熱での焼き付け条件を最適に制御する。その結果、外塗膜のN含有量のデプスプロファイルカーブが上記条件を満足する。層状のメラミンの自己縮合物は、架橋密度が高くて硬質であるため、最表層に存在するとバリア性を好ましく高めるが、この層状のメラミンの自己縮合物が、外塗膜の厚さ方向の全領域に渡って多量に存在すると外塗膜が過剰に硬化しやすい。本実施形態に係る塗装鋼板では、外塗膜の深さ10nm以上0.1μm未満の領域に粒状のメラミンの自己縮合物などが好ましく存在するので、外塗膜の加工性が好ましく向上すると考えられる。
すなわち、本実施形態に係る塗装鋼板の外塗膜では、上記範囲内に制御されたSiによって疵耐食性が向上しかつ耐雨だれ汚染性の向上に必要な親水性が高まり、上記範囲内に制御されたNによって耐雨だれ汚染性の向上に必要なバリア性が高まり、加えて上記条件に制御されたN含有量のデプスプロファイルカーブによって加工性も向上する。
以下、本実施形態に係る塗装鋼板について詳しく説明する。
1.外塗膜
本実施形態に係る塗装鋼板に形成される外塗膜は、シリケートを含有する。このシリケートに由来するSiが、塗装鋼板の親水性(濡れ性)および疵耐食性に影響を与える。
外塗膜の最表層のSi含有量であるSiTSと、外塗膜の表層のSi含有量であるSiSと、外塗膜の本体層のSi含有量であるSiBとが、上記の式1に示すように、SiB<SiS<SiTSを満足する必要がある。SiB<SiS<SiTSを満足するとき、外塗膜の外表面(塗膜表面)に向ってSi含有量が高くなり、外塗膜の最表層にてSi含有量が最大になる。そのため、塗装鋼板の親水性および疵耐食性が好ましく向上する。なお、SiTSとSiSとSiBとが、4×SiB<2×SiS<SiTSを満足することが好ましく、6×SiB<3×SiS<SiTSを満足することがさらに好ましい。
また、外塗膜の表層のSi含有量であるSiSは、上記の式2に示すように、7.0質量%以上かつ50質量%以下となる必要がある。SiSが7.0質量%未満の場合、外塗膜の表層(および最表層)でのSi含有量が不十分であり、上記効果が得られない。また、SiSが50質量%超の場合、上記効果が飽和する。なお、SiSの上限値は、45質量%、40質量%であることが好ましく、SiSの下限値は、10質量%、15質量%であることが好ましい。
また、外塗膜の最表層のSi含有量であるSiTSを、外塗膜の本体層のSi含有量であるSiBで割った値であるSiTS/SiBは、上記の式3に示すように、7.0以上かつ50以下となる必要がある。SiTS/SiBが7.0未満の場合、塗膜表面でのSiの濃化が不十分であり、塗膜表面に疵が発生した場合の長期にわたるケイ酸イオンの供給が不十分となる。また、SiTS/SiBが50超の場合、上記効果が飽和する。なお、SiTS/SiBの上限値は、45、40であることが好ましく、SiTS/SiBの下限値は、10、15であることが好ましい。
なお、外塗膜の本体層のSi含有量であるSiBは、0.5質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましい。SiBの上限値は、7質量%、5質量%であることがさらに好ましく、SiBの下限値は、1質量%、2質量%であることが好ましい。
また、本実施形態に係る塗装鋼板に形成される外塗膜は、メラミンを含有する。このメラミンに由来するNが、塗装鋼板のバリア性に影響を与える。
外塗膜の最表層のN含有量であるNTSと、外塗膜の表層のN含有量であるNSとが、上記の式4に示すように、NS<NTSを満足する必要がある。上記の式6に加えて、NS<NTSを満足するとき、本実施形態では外塗膜の最表層にてN含有量が最大となる。そのため、塗膜表面の架橋密度が大きくなり、バリア性が好ましく向上する。なお、上記NTSと、上記NSと、外塗膜の本体層のN含有量であるNBとが、(NB+NS)÷2<NTSを満足することが好ましい。
また、外塗膜の最表層のN含有量であるNTSは、上記の式5に示すように、30質量%以上かつ50質量%以下となる必要がある。NTSが30質量%未満の場合、外塗膜の最表層でのN含有量が不十分であり、上記効果が得られない。また、NTSが50質量%超の場合、所定のSiTSが得られなくなる。なお、NTSの上限値は、45質量%、40質量%であることが好ましく、NTSの下限値は、35質量%であることが好ましい。
また、外塗膜の最表層のN含有量であるNTSを、外塗膜の本体層のN含有量であるNBで割った値であるNTS/NBは、上記の式6に示すように、1.0超かつ3.0以下となる必要がある。NTS/NBが1.0以下では、塗膜のバリア性が不十分となり、耐雨だれ汚染性が不十分となる。一方、NTS/NBが3.0を超える場合、外塗膜の最表層が硬化し過ぎて加工性が悪化する。なお、NTS/NBの上限値は、2.5であることが好ましく、NTS/NBの下限値は、1.2であることが好ましい。
なお、外塗膜の本体層のN含有量であるNBは、10質量%以上かつ50質量%以下であることが好ましい。NBの上限値は、45質量%、40質量%であることが好ましく、NBの下限値は、15質量%、20質量%であることが好ましい。
本実施形態に係る塗装鋼板に形成される外塗膜は、板厚方向に対して傾斜構造を有する。具体的には、本実施形態に係る塗装鋼板の外塗膜では、N含有量のデプスプロファイルカーブが、深さ0以上10nm未満の領域に最大値を持ち、深さ10nm以上0.1μm未満の領域に極大値を持ち、この極大値を上記最大値で割った値が0.8以上1.0未満となる。極大値/最大値の値が0.8未満の場合、疵耐食性、耐雨だれ汚染性、および1T曲げでの加工性が不十分となりやすい。極大値/最大値の値が1.0以上の場合、耐雨だれ汚染性が不十分となりやすい。また、一般に、外塗膜のSi含有量およびN含有量を同時に上記の式1〜式6に制御することは必ずしも容易でない。しかし、外塗膜のN含有量のデプスプロファイルカーブが上記条件を満足するとき、外塗膜のSi含有量およびN含有量が上記の式1〜式6に好ましく制御される。極大値を最大値で割った上記の値の上限値は、0.95であることが好ましく、この下限値は、0.85であることが好ましい。
また、本実施形態に係る塗装鋼板の外塗膜は、さらにTi(チタン)を含むことが好ましい。そして、外塗膜の最表層のTi含有量であるTiTSと、外塗膜の本体層のTi含有量であるTiBとが、TiTS<TiBを満足することが好ましい。
なお、本実施形態に係る塗装鋼板の外塗膜の化学成分は、上記した各条件を満足するならば、特に制限されない。なお、外塗膜は有機物であるので、外塗膜は化学成分としてC(炭素)やO(酸素)などを含む。しかし、外塗膜中のCやOなどの含有量は、上記効果を得るために、特に限定する必要がない。
なお、外塗膜中の各元素の含有量は、EPMA(Electron Probe Micro−Analyzer)、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)、AES(Atomic Emission Spectrometry)、GDS(Glow Discharge Spectroscopy)等を用いて測定すればよい。ただ、本実施形態に係る塗装鋼板では、微小領域での各元素の含有量を測定する必要がある。よって、各測定方法の分解能や検出下限などを考慮して、好ましい測定方法を選択すればよい。一般には、外塗膜中の各元素の含有量は、GDSを用いて測定することが好ましい。例えば、GDSを用いて外塗膜を外表面(塗膜表面)から深さ方向に向かって連続的に分析し、最表層、表層、本体層にて各元素の含有量の平均値を算出すればよい。なお、本体層での各元素の含有量は、表面濃化の影響がなくなる深さ、例えば、1.0μm深さにおける測定値を用いてもよい。
外塗膜の膜厚は、特に制限されない。ただ、優れた耐雨だれ汚染性および疵耐食性を確保するためには、外塗膜の膜厚が、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。一方、外塗膜の膜厚が過剰であると、経済的に不利となるばかりでなく、塗装焼き付け時にクレータ状の欠陥が発生することがある。そのため、外塗膜の膜厚が、50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。
また、外塗膜の最表層の硬さは、ナノインデンテーション法によって求めたマルテンス硬さHMが、30以上かつ300以下であることが好ましい。同様に、外塗膜の表層の硬さは、10以上かつ100以下であることが好ましく、外塗膜の本体層の硬さは、10以上かつ100以下であることが好ましい。
外塗膜に含有されるシリケートは、テトラアルコキシシランまたはその部分加水分解縮合物のうちの少なくとも1つを含むことが望ましい。テトラアルコキシシランの例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等が挙げられる。また、これらのモノマーを加水分解・縮合反応を不完全に生じさせることでそれらの部分加水分解縮合物を調製し用いることが可能である。
また、シリケートとして、市販品である、メチルシリケート51、エチルシリケート40、もしくはエチルシリケート48(以上、コルコート社製)、またはMKCシリケートMS51、もしくはMS56(以上、三菱化学株式会社製)等を用いてもよい。
外塗膜に用いられる樹脂は、特に限定されない。要求される性能および接着剤の種類等によって適宜選択すればよい。但し、曲げ加工性と塗膜硬度(耐疵付き性)とのバランスを考慮すると、ポリエステル系、エポキシ系、またはポリウレタン系の樹脂を用いるのが好ましい。また、樹脂と共に使用され、焼き付け硬化過程において反応する架橋剤は、メラミン(アルキルエーテル化アミノホルムアルデヒド樹脂等)を用い、必要に応じてイソシアネート化合物、エポキシ樹脂等、一般に使用されるものを併用してもよい。当業者であれば、使用する樹脂および要求性能に応じて、適当な架橋剤を選択することができる。例えば、外塗膜は、ポリエステル樹脂またはメラミン樹脂を含むことが好ましい。
外塗膜には、上記以外に必要に応じて、着色顔料、体質顔料、防錆顔料、ワックス等が含有されてもよい。
2.内塗膜
本実施形態に係る塗装鋼板の内塗膜は、特に制限されない。内塗膜として、外塗膜と基材鋼板との間に、少なくとも1膜以上の塗膜が形成されていればよい(以下、外塗膜以外の塗膜をまとめて「内塗膜」と呼ぶ)。
内塗膜は、通常、1膜で十分と考えられるが、用途および要求性能等に応じて2膜以上設けても構わない。内塗膜の成分についても特に制限はなく、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、もしくはエポキシ系樹脂、またはそれらを複合したものを含むことが好ましい。また、架橋剤を含むことが望ましい。また、上記の成分以外に、必要に応じて体質顔料、防錆顔料等が含有されてもよい。
さらに、上記の内塗膜と基材鋼板との間に、塗装下地を有してもよい。塗装下地に用いられる処理液は、特に制限されない。例えば、ケイ素化合物を主な皮膜成分とする有機樹脂を強増させたシリカ系処理液を用いることができる。
3.基材鋼板
本実施形態に係る塗装鋼板の基材鋼板は、特に制限されない。基材鋼板として、普通鋼(炭素鋼)、極低炭素鋼、高炭素鋼、キルド鋼、高張力鋼、Ni含有鋼、Cr含有鋼等が使用可能である。また、基材鋼板は、めっき層を有していなくてもよく、または耐食性を向上させるためにめっき層を有していてもよい。このめっき層は、電気めっき層、溶融めっき層等であってもよい。
電気めっき層としては、電気亜鉛めっき、電気Zn−Ni合金めっき、電気Zn−Fe合金めっき等が例示される。また、溶融めっき層としては、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき、溶融Zn−Al合金めっき、溶融Zn−Al−Mg合金めっき、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき等が例示される。めっき付着量は特に制限されず、一般的な範囲内で調整すればよい。
なお、本実施形態に係る塗装鋼板では、基材鋼板から溶出するカチオン(例えば、亜鉛イオン)と、外塗膜から溶出するアニオン(例えば、ケイ酸イオン)とが反応することで、疵耐食性が向上すると考えられる。よって、基材鋼板は、腐食環境下でカチオンを溶出しやすい亜鉛めっき鋼板であることが好ましい。この亜鉛めっき鋼板は、めっき層が亜鉛を含有しているならば、電気めっき鋼板または溶融めっき鋼板のどちらであってもよい。ただ、腐食環境下では、基材鋼板から亜鉛以外の元素もカチオンとして溶出するので、基材鋼板は亜鉛めっき鋼板でなくてもよい。
次に、一例として、本実施形態に係るめっき塗装鋼板の製造方法を説明する。
なお、上記した技術特徴を満足するのであれば、本実施形態に係る塗装鋼板の製造方法は特に限定されない。例えば、一例として示す下記の製造方法により塗装鋼板を製造すればよい。
本実施形態に係る塗装鋼板の製造方法は、基材鋼板上に内塗膜を形成する内塗膜形成工程と、内塗膜上に最外膜となる外塗膜を形成する外塗膜形成工程とを有することが好ましい。
内塗膜形成工程では、基材鋼板を必要に応じて脱脂等の清浄を行い、基材鋼板の表面に必要に応じて塗装下地処理を施し、その後、内塗膜を形成する。内塗膜の成分は、特に限定されない。用途に応じて適宜選択すればよい。
外塗膜形成工程では、内塗膜形成工程後に、内塗膜上に塗料を塗布し、この塗料を焼き付けることで、外塗膜を形成する。この塗料には、シリケートおよびメラミンが含有されている必要があり、加えて、ベース樹脂が含有されていることが望ましい。
本実施形態に係る塗装鋼板では、外塗膜の外表面(塗膜表面)から内塗膜に向かって0.1μm未満の深さまでの領域(外塗膜の表層)の平均Si含有量が、7.0質量%以上かつ50質量%以下となる必要がある。そのため、上記塗料中のシリケート含有量は、塗料全体に対して、0.1〜30質量%とすることが望ましい。このシリケート含有量の下限値は、1質量%以上、3質量%以上とすることが望ましく、シリケート含有量の上限値は、10質量%以下、7質量%以下とすることが望ましい。
また、上記塗料中の架橋剤は、ベース樹脂100質量部に対して、3〜40質量部であることが望ましい。上記塗料中には、必要に応じて、着色顔料、体質顔料、防錆顔料、ワックス等を含有させることができる。
すなわち、上記塗料は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、シリケートを0.1〜10質量部、メラミン樹脂を3〜40質量部、ならびにその他の成分である着色顔料、体質顔料、防錆顔料およびワックスを合計0〜50質量部、含有すればよい。
内塗膜上に上記塗料を塗布した後、焼き付け処理を施す。この焼き付け処理は、誘導加熱炉(IH炉)を用いて焼き付けを行うことが望ましい。通常用いられる熱風炉を用いた場合、雰囲気加熱であるため、基材鋼板より塗膜表面の温度が高温となる。そのため、塗膜表面の温度が過度に上昇し、塗膜中のSiが揮散するおそれがある。それに対して、IH炉を用いた場合、基材鋼板の直接加熱(自己発熱)であるため、基材鋼板の温度が最も高くなる。そのため、塗膜に含まれるSiの揮散を抑制し、外塗膜の表層での平均Si含有量を7.0質量%以上かつ50質量%以下に制御することが可能となる。
IH炉を用いた焼き付け処理では、基材鋼板の平均温度が室温から210〜250℃の温度範囲内に到達するまでを平均として昇温速度2℃/秒〜10℃/秒で加熱することが好ましい。
上記加熱後の鋼板を、目的の処理温度(保持温度)で、所定の処理時間(保持温時間)だけ保持する。この焼き付け処理の処理温度は、基材鋼板の平均温度が210〜250℃となる温度であることが望ましい。基材鋼板の平均温度が210℃未満では、塗膜の硬化が不十分となり、基材鋼板の平均温度が250℃を超えると、塗膜表面の温度が過剰に高くなり、Siの揮散が生じる恐れがある。なお、基材鋼板の平均温度は、接触式温度計などによって求めればよい。例えば、熱伝導解析を行うシミュレーションによって、各製造条件における温度計の表示温度と基材鋼板の平均温度との関係を求めておけばよい。そして、接触式温度計で鋼板の温度を実測することで、その製造条件における基材鋼板の平均温度を類推することが可能となる。
また、焼き付け処理の処理時間は、塗膜の硬化を十分に促進させ、かつ、Siの揮散が生じない範囲で適宜調整すればよい。例えば、基材鋼板の平均温度が210〜250℃となる温度範囲で、0.5〜120秒の範囲内で鋼板を保持することが好ましい。
焼き付け処理での上記保持後、基材鋼板の平均温度が210〜250℃の温度範囲内から室温に到達するまでを平均として冷却速度3℃/秒〜50℃/秒で冷却することが好ましい。
また、IH炉を用いた上記の焼き付け処理中、塗膜表面(塗料表面)に対して熱風を吹き付けることが好ましい。IH炉を用いた焼き付けと熱風の吹き付けとの両方を行うことによって、N含有量のデプスプロファイルカーブを好ましく制御することが可能となる。
上記の熱風の吹き付けは、熱風の平均温度が140〜200℃であり、熱風の平均風速が0.1〜1.0m/秒であることが好ましい。この熱風吹き付けは、IH炉を用いた上記焼き付け処理の補助処理であり、従来の熱風条件と比較して、熱風温度が低温度であり、熱風風量が低風量である。また、上記の熱風は、鋼板の通板方向に対して対向する方向から吹き付けることが好ましい。
なお、本実施形態に係る塗装鋼板の外塗膜のN含有量のデプスプロファイルカーブは、上記した種々の焼き付け条件をそれぞれ最適に組み合わせることによって初めて制御することができる。外塗膜のN含有量のデプスプロファイルカーブは上記した種々の焼き付け条件に複合的に影響を受けるので、デプスプロファイルカーブを制御する焼き付け条件は一義的に決まらない。
例えば、上記したIH炉での焼き付け条件の内、昇温速度を変更すると、焼き付け処理中の塗料(外塗膜)内にて板厚方向の温度分布が変化して、基材鋼板から塗膜表面へ向かう伝熱速度が変化する。この場合には、IH炉に起因する架橋反応のみが優勢とならないように、熱風の吹き付け条件も合わせて変更する必要がある。
また例えば、上記したIH炉での焼き付け条件の内、保持温度を変更すると、同様に基材鋼板から塗膜表面へ向かう伝熱速度が変化する。この場合にも、IH炉に起因する架橋反応のみが優勢とならないように、熱風の吹き付け条件も合わせて変更する必要がある。
なお、定性的には、上記条件の内、誘導加熱が優勢となる場合、最表層でのSi含有量が高くなり、N含有量が低くなる。また、上記条件の内、熱風吹き付けが優勢となる場合、最表層でのSi含有量が低くなり、N含有量が高くなる。例えば、熱風の吹き付け条件を高温度または高風量である方向に変更することによって、図3に示すデプスプロファイルカーブ5中の第1の波形53が強まる傾向となる。
このように、N含有量のデプスプロファイルカーブを意図的に作り込むことを目的として、誘導加熱(基材鋼板から塗膜表面へ向う伝熱)および熱風吹き付け(塗膜表面から基材鋼板へ向う伝熱)という相反する制御条件をそれぞれ個別にかつ最適に制御すればよい。具体的には、IH炉での焼き付け条件と熱風の吹き付け条件とに関して、上記した数値範囲内で適宜好ましい値を選択して、目的のN含有量のデプスプロファイルカーブを意図的に作り込めばよい。その結果、外塗膜のSi含有量およびN含有量が上記の式1〜式6に好ましく制御される。
なお、上記では、一例として、IH炉での焼き付け条件および熱風の吹き付け条件を示した。しかし、本実施形態に係る塗装鋼板の製造方法は、上記方法に限定されない。例えば、誘導加熱の代わりに通電加熱を用い、熱風の吹き付けの代わりに光加熱を用いても、本実施形態に係る塗装鋼板を製造できる。
上記の製造方法により製造された塗装鋼板は、外塗膜が上記した技術特徴を満足し、そのため耐雨だれ汚染性と疵耐食性とに優れる。
次に、実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に詳細に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
溶融亜鉛めっき鋼板(板厚:0.5mm、片面当たりのめっき付着量:60g/m2)を基材鋼板として用いた。この基材鋼板の両表面(両板面)に対して、アルカリ脱脂および水洗を行った。洗浄後の両板面に対して、日本ペイント(株)製のシリカ系クロムフリー化成処理液(製品名:サーフコートEC2330)を塗装下地処理液として用いて、塗装下地処理を施した。塗装下地処理後の両板面に対して、内塗膜用塗料をバーコータで塗布した。この内塗膜用塗料は、(ポリエステル樹脂100質量部に対して、メラミン樹脂を20質量部、ならびにその他の成分である着色顔料、体質顔料、防錆顔料およびワックスを合計30質量部)を含有している塗料である。両板面に塗布した内塗膜用塗料を焼き付けて、厚さ5μmの内塗膜を形成させた。
内塗膜の形成後の両板面に対して、外塗膜用塗料をバーコータで塗布した。この外塗膜用塗料の組成を表1に示す。表1に示すように、外塗膜用塗料は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、シリケートを0〜10質量部、メラミン樹脂を0〜40質量部を含み、その他の成分である着色顔料、体質顔料、防錆顔料およびワックスを含む塗料である。
上記の塗料を塗布した鋼板を、誘導加熱および/または熱風加熱によって焼き付けて、厚さ10μmの外塗膜を形成させた。そして、製造した塗装鋼板について、外塗膜の深さ方向の分析を、GDSを用いて行った。外塗膜の最表層の平均Si含有量(SiTS)および平均N含有量(NTS)、外塗膜の表層の平均Si含有量(SiS)および平均N含有量(NS)、ならびに外塗膜の本体層の平均Si含有量(SiB)および平均N含有量(NB)を表2〜5に示す。なお、外塗膜の最表層は、外塗膜の外表面(塗膜表面)から内塗膜に向かって深さが(10nm未満)までの領域であり、表層は、外表面から内塗膜に向かって深さが0.1μm未満までの領域であり、本体層は、外塗膜内で表層以外の領域である。なお、外塗膜の本体層でのSi含有量およびN含有量であるSiBおよびNBの値としては、外塗膜の外表面から深さ1.0μmの位置での分析値を代表値として用いた。
また、表3および表5に、外塗膜のN含有量のデプスプロファイルカーブに関する深さ0以上10nm未満の領域に存在する最大値および深さ10nm以上0.1μm未満の領域に存在する極大値の値を示す。
製造した塗装鋼板を用いて腐食試験を実施し、耐食性の評価を行った。腐食試験方法は、JIS Z 2371(2000)に規定される条件で塩水噴霧試験を500時間実施し、試験片の端面の塗膜膨れ幅を測定した。試験片の端面では、基材鋼板が露出している。よって、端面の塗膜膨れ幅は、疵耐食性の評価として用いることが可能である。疵耐食性の評価結果を表3および表5に併せて示す。疵耐食性は、塗膜膨れ幅が3mm以下の塗装鋼板を「Excellent」、塗膜膨れ幅が3mm超かつ5mm以下の塗装鋼板を「Good」、そして塗膜膨れ幅が5mm超の塗装鋼板を「Poor」と判断した。ここで、「Excellent」が最も疵耐食性に優れることを表す。なお、塗膜膨れ幅とは、基材鋼板の腐食に伴う塗膜の膨れの程度を示すものであり、値が大きいほど耐腐食性が劣ることを意味する。
また、製造した塗装鋼板を用いてカーボンブラック汚染試験を実施し、耐雨だれ汚染性の評価を行った。これは、カーボンブラックの0.1%懸濁液を滴下し、これを20℃で乾燥させた後、適下部を流水で洗浄した試験片の色調変化を測定した。耐雨だれ汚染性の評価結果を表3および表5に併せて示す。耐雨だれ汚染性は、色調変化デルタEが3以下の塗装鋼板を「Excellent」、色調変化デルタEが3超かつ5以下の塗装鋼板を「Good」、そして色調変化デルタEが5超の塗装鋼板を「Poor」と判断した。ここで、「Excellent」が最も耐雨だれ汚染性に優れることを表す。
本発明例No.1〜15は、誘導加熱および熱風加熱の焼き付け条件を最適に制御して外塗膜を形成した塗装鋼板である。IH炉では、基材鋼板の平均温度が室温から210〜250℃の温度範囲内に到達するまでを平均として昇温速度2〜10℃/秒で加熱し、加熱後に基材鋼板の平均温度が210〜250℃となる温度範囲で0.5〜120秒保持し、保持後に基材鋼板の平均温度が210〜250℃の温度範囲内から室温に到達するまでを平均として冷却速度3〜50℃/秒で冷却した。また、IH炉を用いた上記の焼き付け処理中、塗膜表面(塗料表面)に対して、熱風の平均温度が140〜200℃であり、熱風の平均風速が0.1〜1.0m/秒である条件で、鋼板の通板方向に対して対向する方向から熱風を吹き付けた。これら誘導加熱および熱風加熱の条件を適宜好ましく組み合わせて、誘導加熱または熱風加熱のどちらか一方の加熱方法のみが優勢とならないように制御して、外塗膜のN含有量のデプスプロファイルカーブを制御した。
表2および表3に示すように、本発明例No.1〜15は、何れもが、本発明の範囲を満足し、疵耐食性と耐雨だれ汚染性とに優れた塗装鋼板となっている。また、表中に示さないが、これらの本発明例は、1T折り曲げ試験で評価した加工性にも優れていた。
一方、表4および表5に示すように、比較例No.1〜17は、誘導加熱のみによって外塗膜を形成した塗装鋼板、熱風加熱のみによって外塗膜を形成した塗装鋼板、または誘導加熱および熱風加熱を併用して外塗膜を形成したが焼き付け条件が好ましくなかった塗装鋼板である。
比較例No.1は、外塗膜にシリケートを含まない塗装鋼板であり、外塗膜のSiS、SiB<SiS<SiTS、NS<NTS、およびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、疵耐食性および耐雨だれ汚染性が不十分となった。
比較例No.2は、外塗膜にメラミンを含まない塗装鋼板であり、外塗膜の架橋反応が不十分であった。そのため、外塗膜のSi含有量およびN含有量、疵耐食性および耐雨だれ汚染性を評価できなかった。
比較例No.3は、誘導加熱および熱風加熱を併用して外塗膜を焼き付けたが、熱風の平均風速が1.1m/秒であった塗装鋼板であり、外塗膜のNTS、SiTS/SiB、およびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、疵耐食性および耐雨だれ汚染性が不十分となった。
比較例No.4は、誘導加熱および熱風加熱を併用して外塗膜を焼き付けたが、熱風の平均風速が0.05m/秒であった塗装鋼板であり、外塗膜のNTS、NS<NTS、およびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、耐雨だれ汚染性が不十分となった。
比較例No.5は、誘導加熱および熱風加熱を併用して外塗膜を焼き付けたが、熱風の平均風速が0.02m/秒であった塗装鋼板であり、外塗膜のNTS、SiS、およびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、耐雨だれ汚染性が不十分となった。
比較例No.6は、誘導加熱および熱風加熱を併用して外塗膜を焼き付けたが、熱風の平均風速が5.0m/秒であった塗装鋼板であり、外塗膜のNTS、SiS、SiTS/SiB、およびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、疵耐食性および耐雨だれ汚染性が不十分となった。
比較例No.7は、誘導加熱および熱風加熱を併用して外塗膜を焼き付けたが、熱風の平均温度が130℃であった塗装鋼板であり、外塗膜のNTSおよびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、耐雨だれ汚染性が不十分となった。
比較例No.8は、誘導加熱および熱風加熱を併用して外塗膜を焼き付けたが、IH炉での平均昇温速度が1℃/秒であった塗装鋼板であり、外塗膜のNTS、SiTS/SiB、およびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、疵耐食性および耐雨だれ汚染性が不十分となった。
比較例No.9は、誘導加熱および熱風加熱を併用して外塗膜を焼き付けたが、IH炉での平均昇温速度が11℃/秒であった塗装鋼板であり、外塗膜のNTSおよびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、耐雨だれ汚染性が不十分となった。
比較例No.10は、誘導加熱および熱風加熱を併用して外塗膜を焼き付けたが、IH炉での保持温度が200℃であった塗装鋼板であり、外塗膜のNTS、SiTS/SiB、およびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、疵耐食性および耐雨だれ汚染性が不十分となった。
比較例No.11は、誘導加熱および熱風加熱を併用して外塗膜を焼き付けたが、IH炉での保持温度が260℃であった塗装鋼板であり、外塗膜のNTSおよびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、耐雨だれ汚染性が不十分となった。
比較例No.12は、誘導加熱および熱風加熱を併用して外塗膜を焼き付けた塗装鋼板である。誘導加熱および熱風加熱による焼き付けの各条件は、本発明の好ましい数値範囲を満足していた。しかし、熱風の平均温度が200℃であり、熱風の平均風速が1.0m/秒であるのに対して、IH炉での平均昇温速度が2℃/秒であり、保持温度が210℃であり、保持時間が1秒であったため、熱風加熱に起因する架橋反応が優勢となった。その結果、外塗膜のNTS、SiTS/SiB、およびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、疵耐食性および耐雨だれ汚染性が不十分となった。
比較例No.13は、誘導加熱および熱風加熱を併用して外塗膜を焼き付けた塗装鋼板である。誘導加熱および熱風加熱による焼き付けの各条件は、本発明の好ましい数値範囲を満足していた。しかし、熱風の平均温度が140℃であり、熱風の平均風速が0.1m/秒であるのに対して、IH炉での保持温度が250℃であったため、誘導加熱に起因する架橋反応が優勢となった。その結果、外塗膜のNTS、NS<NTS、およびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、耐雨だれ汚染性が不十分となった。
比較例No.14は、誘導加熱および熱風加熱を併用して外塗膜を焼き付けたが、熱風の平均温度が220℃で、熱風の平均風速が5.0m/秒であった塗装鋼板であり、外塗膜のNTS、SiS、SiB<SiS<SiTS、SiTS/SiB、およびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、疵耐食性および耐雨だれ汚染性が不十分となった。
比較例No.15は、誘導加熱および熱風加熱を併用して外塗膜を焼き付けたが、IH炉での保持時間が0秒であった塗装鋼板であり、外塗膜のNTS、SiTS/SiB、およびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、疵耐食性および耐雨だれ汚染性が不十分となった。
比較例No.16は、誘導加熱のみによって外塗膜を焼き付けた塗装鋼板であり、外塗膜のNTS、SiS、NS<NTS、NTS/NB、およびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、耐雨だれ汚染性が不十分となった。
比較例No.17は、熱風加熱のみによって外塗膜を焼き付けた塗装鋼板であり、外塗膜のNTS、SiS、SiB<SiS<SiTS、SiTS/SiB、およびN含有量デプスプロファイルが条件を満たさなかった。そのため、疵耐食性および耐雨だれ汚染性が不十分となった。