本発明の電子機器部材用塗装体は、基本的に下記(a)〜(b)の態様を包含するものである。
(a)放熱性に優れた電子機器部材用塗装体(第一の塗装体)
(b)放熱性及び潤滑性に優れた電子機器部材用塗装体(第二の塗装体)
即ち、上記第一〜第二のいずれの塗装体も放熱性に優れたものであり、積分放射率に関する式(1)、好ましくは式(5)、より好ましくは式(6)を満足する点では一致するが、第二の塗装体(b)は更に潤滑性が、夫々、付加されたものである。このうち第一の塗装体では、式(2)定められる放射率の領域、並びに式(3)及び式(4)の両方を満足する放射率の領域をいずれも除外しているが、これは、本発明の前に出願した特願2002−217145に記載の発明(先願発明)と重複する領域を除く為である(後記する)。
まず、上記(a)〜(b)に共通する基本思想(放熱特性向上に対する基本的な考え方)について、先願発明との関係で説明する。
本発明者らは、電子機器部材用塗装体自体の放熱性を改善すべく、特に図2に示す放熱性評価装置(内部空間が100mm(縦)×130mm(横)×100mm(高さ)である直方体の装置)を用いて、T1位置[内部空間の中央部(発熱体3から50mm上方)]における内部温度が如何に低減できるかを指標として鋭意検討してきた。図2中、1は供試材(被験体、測定面積は100×130mm)、2は断熱材、3は発熱体(底面積は1300mm2)、5は測温装置である。その結果、基板の表裏面に、所定の塗膜を被覆すれば所期の目的が達成されることを見出し、先に出願を完了した(特願2002−217145、以下、先願発明と呼ぶ)。
そのメカニズムは、「電子機器内部の熱源(発熱体)から放出される熱(輻射熱)を裏面の塗膜で吸収(放射)し、この熱を表面の放熱塗膜から放射させる」というものであり、所謂『熱スルー方式』の考えを電子機器部材にうまく適用したところに特徴がある。そして、この様な基本思想のもと、先願発明では、下記(イ)〜(ハ)の三つの態様を開示した。
(イ)放熱性(電子機器内部温度の低減化)に優れた電子機器部材用塗装体
(第一の塗装体)
(ロ)放熱性及び自己冷却性(塗装体自体の温度上昇を抑える特性)に
優れた電子機器部材用塗装体(第二の塗装体)
(ハ)上記(イ)及び(ロ)の塗装体において、更に導電性も高められた
塗装体(第二の塗装体)
このうち(イ)第一の塗装体(放熱性に優れた塗装体)と、(ロ)第二の塗装体(放熱性及び自己冷却性に優れた塗装体)は、いずれも前述した「熱スルー」の考えを電子機器部材に適用して放熱性の向上を図る点で、基本思想は一致するが、両者は、究極的に目指す解決課題(主な解決課題)、当該解決課題を解決する為の技術的思想、及び構成は相違している。
即ち、(イ)第一の塗装体では、放熱性の向上(電子機器内部温度の低減化)を最大の解決課題として掲げており、「表面(塗装体から見て外気側)・裏面(塗装体の内側)の赤外線放射率の積はできるだけ高い程好ましい」という思想のもと、表面・裏面を、放熱塗膜を構成する一体として捉えて当該放熱塗膜の構成を特定しており、当該第一の塗装体における「優れた放熱性」を表す指標として、前述した式(2)、即ち、a×b≧0.42を定めている(図3)。即ち、図3の斜線部分が、上記第一の塗装体における放熱特性の範囲である。
これに対し、(ロ)第二の塗装体では、上述した「熱スルーの考え」を利用して放熱特性を或る程度維持しながら、且つ、「塗装体自体の温度上昇抑制」を最大の解決課題として掲げており、「表裏面の赤外線放射率について積極的に差を設け、裏面の赤外線放射率は表面よりも低く、表面の赤外線放射率はできるだけ高くすることにより、塗装体に吸収された熱を放出させる」という思想のもと、表面・裏面の塗膜構成を夫々、別々に捉えて制御しており、当該第二の塗装体における「優れた自己冷却性」を示す指標として、前述した式(3)、即ち、b≦0.9(a−0.05)を規定すると共に、当該第二の塗装体における「優れた放熱性」を示す指標として、前述した式(4)、即ち、(a−0.05)×(b−0.05)≧0.08を定めている(図4)。上記第二の塗装体は、これらの式(3)及び(4)の両方を満足するものであり、図4の斜線部分が、上記第二の塗装体における、自己冷却性と放熱特性の双方に優れる範囲である。
以上が先願発明の概略であるが、その後も本願発明者らは、電子機器部材用塗装体の更なる特性向上を図るべく、特に、実使用環境下においては、筺体内部の状態が、埃や電磁波等との関係で意図的に密閉空間となっているのに対し、筺体外部の状態は、(i)筺体が最外層部品の場合は開放空間となっており、(ii)筺体が内部部品であって、当該筺体を覆うカバー等が設置されている場合は、カバーに空気穴等が取り付けられていたり、更には筺体とカバーの間には冷却ファン等が設置されていることも多いことから、筺体の外部側は空気の流れ(対流)が大きい。この様な実使用環境下における実情を考慮すると、放熱性を評価する装置として、先願発明で使用した図2の装置(装置の外部には放熱部品は設置されていない)ではなく、図1の如く、装置外部に放熱部品6を設置した装置を使用することにした。尚、図1の装置は、放熱部品6を設置したこと以外は、図2の装置と全く同じ構成である。
その結果、先願発明で開示した「放熱特性に優れる領域」(図3若しくは図4の斜線部分)は、実使用環境下での塗装体における「放熱特性に優れる領域」とは必ずしも一致しないことが判明した。
即ち、前述した図3及び図4からも分かる様に、先願発明では概して、裏面よりも表面の赤外線放射率が高い領域を対象としており、表面よりも裏面の赤外線放射率が高い領域は排除している。しかしながら、実使用環境下での放熱特性を改善する為には、先願発明では除外していた上記領域(表面よりも裏面の赤外線放射率の方が高い領域)も有用であって、当該領域をも含めた新たな積分放射率の式[本発明で定める式(1):b≧0.72−(a+0.1)1/2/6]の設定が必要であることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明を導き出した経緯につき、詳細に説明する。
前述した通り、本発明は、電子機器等の筺体として有用な塗装体を提供するものであるが、実使用環境下では、特にカーAV機器、PC、コピー機、DVD等の製品や部品の場合、外部に空気穴や冷却ファン等の放熱部品を設置し、シャージ内部における発熱量を強制的に放熱させているものが多い。一方、上記製品や部品の内部は、埃除去や電磁波漏洩対策等の観点から放熱部品は設置しておらず、閉塞された密閉空間となっている。その結果、筺体の外部(本発明における表面)に関しては、筺体自体(筺体外部)の放熱特性をわざわざ改善しなくとも、放熱部品等による強制冷却のみによって放熱特性の向上が可能であるのに対し、筺体の内部(本発明における裏面)は密閉空間で無風状態である為、筺体自体(筺体内部)の放熱特性を改善することが必要とされる。即ち、筺体外部に比べて、むしろ筺体内部の放熱特性が高められた、その様な塗装体を提供することこそが、実使用レベルでの要求特性に合致した塗装体といえることが判明した。
筺体内部(塗装体の裏面側)の放熱特性を改善する手段として最も期待されるのは、放射による放熱効果である。放熱手段は一般に、熱伝導、対流、放射の三パターンに大別されるが、本発明の如く、特に密閉空間における電子機器部材用筺体としての使用を意図する場合、裏面側は対流による放熱効果は期待できず、構造的に熱伝導を有効に活用できないこともあって、放射による放熱効果の占める比率が極めて大きくなるからである。
この様な放射による放熱効果を最大にする為には、表面の放射率も裏面の放射率もできるだけ大きくすればよく[特に先願発明の(イ)は、この様な考え方に基づいて積分放射率の式を定めた次第である]、この考え方は、本発明においても同じである。従って、放熱特性の向上を主目的とする用途においては、表面及び裏面の放射率を共に高くすることが有用である。
一方、放熱特性に加えて、意匠性(シルバーメタリック調外観、淡彩色外観等の付与)、曲げ加工性(曲げ加工部における塗膜のひび割れ防止)、耐疵付き性(取り扱い時に発生する疵対策)等といった他の特性(以下、「意匠性等」で代表させる場合がある)も要求される用途に適用する場合、先願発明の如く表面の放射率をできるだけ高くしようとすると、意匠性等に悪影響を及ぼす恐れがある。実際のところ、表面側と裏面側とは要求特性が相違しており、意匠性等は、とりわけ表面に要求される特性であるが、表面の放熱特性を高めるあまり、本来、表面に要求されている特性を犠牲にすることは現実的でない。むしろ、実使用環境下での塗装体においては、表面の放熱特性は、放熱部品による強制冷却に委ねた方が良いと考えられる。一方、裏面側には意匠性等は要求されず、放熱特性と、アース性や電磁波シールド性を確保する為の導電性が不可欠な特性であるから、裏面の放射率をできるだけ高くすることは、裏面の要求特性とも合致する。また、裏面の放射率を高くすることにより表面の放熱特性を補完することも可能である。
この様な観点から、本発明では、図1に代表される如く「電子機器部品を密閉空間で使用する場合であって、筺体外部には、冷却ファン等の放熱部品が設置された」実操業環境下での使用に適した塗装体の放熱特性を改善する為に、積分放射率に関する新たな式(1)を定めた。本発明では、表面の放射率も裏面の放射率もできるだけ大きい領域は勿論のこと、表面に比べて裏面の放射率が高い領域も包含しており、塗装体の用途に応じた領域を適宜選択することが可能である。
以下、本発明に係る(a)〜(b)の塗装体について、順次説明する。
(a)放熱性に優れた電子機器部材用塗装体(第一の塗装体)
上記第一の塗装体は、基板の表面及び裏面[本発明では、当該塗装体から見て外気側を「表面」、当該塗装体の内側を「裏面」と呼ぶ]に0.3μm以上の塗膜が被覆されており、このうち基板の少なくとも裏面は、放熱性を有する放熱塗膜が被覆された塗装体であり、該放熱塗膜は、黒色添加剤を含有する黒色塗膜か、または黒色添加剤以外の放熱性添加剤を含有する放熱塗膜であり、該塗装体を100℃に加熱したときの赤外線(波長:4.5〜15.4μm)の積分放射率が、下式(1)を満足する[但し、下式(2)を満足するもの、並びに、下式(3)及び(4)の両方を満足するものは除く]ものである。
まず、式(1)について説明する。
式(1):b≧0.72−(a+0.1) 1/2 /6
[但し、
式(2):a×b≧0.42、式(3):b≦0.9(a−0.05)、
及び式(4):(a−0.05)×(b−0.05)≧0.08を満足する
ものを除く]
式中、a及びbは、基板の表裏面に塗膜が被覆された塗装体を100℃に加熱したときの赤外線(波長:4.5〜15.4μm)の積分放射率において、表面の赤外線積分放射率(a)及び裏面の赤外線積分放射率(b)を夫々、意味する。赤外線積分放射率は後述する方法で測定され、表面若しくは裏面の赤外線積分放射率を夫々、別々に測定することができる。
上記「赤外線積分放射率」とは、換言すれば、赤外線(熱エネルギー)の放出し易さ(吸収し易さ)を意味する。従って、上記赤外線放射率が高い程、放出(吸収)される熱エネルギー量は大きくなることを示す。例えば物体(本発明では塗装体)に与えられた熱エネルギーを100%放射する場合には、当該赤外線積分放射率は1となる。
尚、本発明では、100℃に加熱したときの赤外線積分放射率を定めているが、これは、本発明塗装体が電気機器用途(部材等によっても相違するが、通常の雰囲気温度は概ね、50〜70℃で、最高で約100℃)に適用されることを考慮し、当該実用レベルの温度と一致させるべく、加熱温度を100℃に定めたものである。
本発明における赤外線積分放射率の測定方法は以下の通りである。
装置:日本電子(株)製「JIR−5500型フーリエ変換赤外分光
光度計」及び放射測定ユニット「IRR−200」
測定波長範囲:4.5〜15.4μm
測定温度:試料の加熱温度を100℃に設定する
積算回数:200回
分解能 :16cm-1
上記装置を用い、赤外線波長域(4.5〜15.4μm)における試料の分光放射強度(実測値)を測定した。尚、上記試料の実測値は、バックグラウンドの放射強度及び装置関数が加算/付加された数値として測定される為、これらを補正する目的で、放射率測定プログラム[日本電子(株)製放射率測定プログラム]を用い、積分放射率を算出した。算出方法の詳細は以下の通りである。
式中、
ε(λ) :波長λにおける試料の分光放射率(%)
E(T) :温度T(℃)における試料の積分放射率(%)
M(λ,T) :波長λ、温度T(℃)における試料の分光放射強度
(実測値)
A(λ) :装置関数
KFB(λ) :波長λにおける固定バックグラウンド(試料によって
変化しないバックグラウンド)の分光放射強度
KTB(λ,TTB):波長λ、温度TTB(℃)におけるトラップ黒体の
分光放射強度
KB(λ,T) :波長λ、温度T(℃)における黒体の分光放射強度
(ブランクの理論式からの計算値)
λ1,λ2 :積分する波長の範囲
を夫々、意味する。
ここで、上記A(λ:装置関数)、及び上記KFB(λ:固定バックグラウンドの分光放射強度)は、2つの黒体炉(80℃、160℃)の分光放射強度の実測値、及び当該温度域における黒体の分光放射強度(ブランクの理論式からの計算値)に基づき、下記式によって算出したものである。
式中、
M160℃(λ,160℃):
波長λにおける160℃の黒体炉の分光放射強度(実測値)
M80℃(λ,80℃):
波長λにおける80℃の黒体炉の分光放射強度(実測値)
K160℃(λ,160℃):
波長λにおける160℃の黒体炉の分光放射強度
(ブランクの理論式からの計算値)
K80℃(λ,80℃):
波長λにおける80℃の黒体炉の分光放射強度
(ブランクの理論式からの計算値)
を夫々、意味する。
尚、積分放射率E(T=100℃)の算出に当たり、KTB(λ,TTB)を考慮しているのは、測定に当たり、試料の周囲に、水冷したトラップ黒体を配置している為である。上記トラップ黒体の設置により、変動バックグランド放射(試料によって変化するバックグラウンド放射を意味する。試料の周囲からの放射が試料表面で反射される為、試料の分光放射強度の実測値は、このバックグランド放射が加算された数値として表れる)の分光放射強度を低くコントロールすることができる。上記のトラップ黒体は、放射率0.96の疑似黒体を使用しており、前記KTB[(λ,TTB):波長λ、温度TTB(℃)におけるトラップ黒体の分光放射強度]は、以下の様にして算出する。
KTB(λ,TTB)=0.96×KB(λ,TTB)
式中、KB(λ,TTB)は、波長λ、温度TTB(℃)における黒体の
分光放射強度を意味する。
本発明に係る第一の塗装体は、この様にして測定した赤外線(波長4.5〜15.4μm)の積分放射率[上記E(T=100℃)]であって、表面に塗膜が被覆された塗装体の赤外線積分放射率(a)及び裏面に塗膜が被覆された塗装体の赤外線積分放射率(b)の関係式が上式(1)、好ましくは下式(5):b≧0.82−(a+0.06)1/2/5.2、より好ましくは下式(6):b≧0.97−(a+0.04)1/2/3.8を満足するものである。図5に、上式(1)を満足する放熱特性に優れた範囲を示す。
但し、前述した通り、上式(1)は、先願発明で開示した式[放熱特性を規定した先願の式(1)、並びに自己冷却性を規定した先願の式(4)及び式(5)]と領域が重複する部分があることから、本発明を出願するに当たっては、先願発明との重複部分を排除する目的で、先願発明の式を除いた「除くクレーム」とした次第である。先願発明の式(1)、(4)及び(5)は夫々、本発明における式(2)、(3)、及び(4)に対応する。図6に、上式(1)の範囲から、先願発明で特定する式の範囲を除いた領域を示す。
次に、上記第一の塗装体を得る為の具体的構成について説明する。
上記塗装体は、基板の表裏面に、0.3μm以上の塗膜が被覆されており、このうち基板の少なくとも裏面は、放熱性を有する放熱塗膜が被覆された塗装体であり、該放熱塗膜は、黒色添加剤を含有する黒色塗膜か、または黒色添加剤以外の放熱性添加剤を含有する放熱塗膜である。
図1に示す通り、上記第一の塗装体は概して、(i)表面と裏面の赤外線放射率が共に高い領域と、(ii)表面に比べて裏面の赤外線放射率が高い領域の両方を包含している。従って、本発明において所望の特性を得る為には、少なくとも裏面の赤外線放射率をできるだけ高くすることが必要であって、その為には、所定の放熱塗膜(放熱性添加剤を含有する塗膜)とする必要がある。一方、表面の塗膜については、表面と同様に放熱塗膜とすることにより所望の放熱特性を確保することが最も推奨されるが、必ずしも放熱塗膜とする必要はなく、膜厚が0.3μm以上の塗膜(放熱性添加剤は添加しなくても良い)であって所望の放熱特性を確保し得るものは全て本発明の範囲に包含される。
この様に表面と裏面は要求される放熱特性の程度が異なるので、以下、表面と裏面に分けて説明する。
(1)裏面の塗膜について
本発明に用いられる裏面の塗膜は、放熱性を有する放熱塗膜(放熱性添加剤を含有する塗膜)であり、この様な放熱塗膜として、(1-1)黒色添加剤を含有する黒色塗膜か、または(1-2)黒色添加剤以外の、放熱性添加剤(「他の放熱性添加剤」と呼ぶ場合がある)を含有する放熱塗膜の二種類が挙げられる。これら放熱塗膜を基板の裏面に形成することにより、裏面の赤外線放射率を高めることができる。尚、上記放熱塗膜は裏面のみならず表面に適用してもよく、これにより、裏面のみならず表面の赤外線放射率も高くすることができる。
(1-1)黒色添加剤を含有する黒色塗膜
上記黒色添加剤としては、少なくともカーボンブラックの使用が推奨される。カーボンブラックは、優れた放熱性を有する黒色添加剤だからである。
尚、上記黒色塗膜には、カーボンブラックのみ含有されていても良いが、その他の黒色添加剤を併用しても良く、例えばFe,Co,Ni,Cu,Mn,Mo,Ag,Sn等の酸化物、硫化物、カーバイドや黒色の金属微粉等を使用することができる。但し、所望の放熱性を確保する為には、黒色添加剤中、カーボンブラックの占める比率を10質量%以上(好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上)に制御することが推奨される。カーボンブラックは、他の代表的な黒色添加剤(酸化物系の添加剤等)に比べて比重が小さい為、質量比率で換算した場合は、少ない比率でも充分所望の放熱効果が発揮されることになる。最も好ましいのは、黒色添加剤がカーボンブラックのみで構成される黒色塗膜である。
ここで、黒色塗膜中に含まれる黒色添加剤の含有量は、当該黒色塗膜の膜厚との関係で適切に制御する必要があるが、1%(質量%:以下、特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する)以上添加することが推奨される。基本的には黒色添加剤の添加量が多い程、優れた放熱特性が得られることから、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上である。尚、その上限は放熱特性との関係では特に制限されないが、15%以上になると塗装性が悪くなる他、耐疵付き性等も低下する。従って、塗装性等を考慮した場合は上限を15%未満とすることが好ましく、より好ましい順に13%、12%である。
ここで、黒色塗膜中のカーボンブラックの添加量は、以下の方法により、測定することができる。
まず、被験体(分析サンプル)に溶媒を加えて加温し、被験体中の有機物を分解する。使用する溶媒の種類は、ベース系樹脂の種類によっても異なり、各樹脂の溶解度に応じて、適宜、適切な溶媒を使用すれば良いが、例えば、ベース樹脂としてポリエステル系樹脂やウレタン系樹脂を用いる場合は、水酸化ナトリウム−メタノール溶液を添加した容器(ナス型フラスコ等)に被験体を加え、この容器を70℃のウオーターバスで加温し、被験体中の有機物を分解すれば良い。
次いで、この有機物をガラスフィルター(孔径0.2μm)で濾別し、得られた残渣中の炭素を、燃焼赤外線吸収法により定量し、塗膜中のカーボンブラック濃度を算出する。
また、上記黒色塗膜の膜厚は、少なくとも1μm超とすることが推奨される。前述した通り、黒色塗膜の好ましい膜厚は、当該黒色塗膜に含まれる黒色添加剤の含有量によっても変化し得るが、黒色塗膜の膜厚は概ね大きい程、優れた放熱特性を確保することができ、より好ましくは順に、3μm、5μm、7μm、10μmである。
尚、上記放熱塗膜の上限は放熱特性との関係では特に制限されないが、本発明塗装体は電子機器部品への適用を意図しており、当該用途との関係上、加工性の向上も要求されること;特に曲げ加工時における塗膜のクラックや剥離等の発生防止等を考慮すると、50μm以下(より好ましい順に、45μm以下、40μm以下、35μm以下、30μm以下)に制御することが推奨される。
また、上記黒色添加剤の平均粒径は5〜100nmに制御することが好ましい。上記添加剤の平均粒径が5nm未満では、所望の放熱特性が得られない他、塗料の安定性が悪く、塗装外観に劣る。一方、平均粒径が100nmを超えると放熱特性が低下するのみならず、塗装後外観が不均一となってしまう。好ましくは10nm以上、90nm以下;より好ましくは15nm以上、80nm以下である。尚、放熱特性に加え、塗膜安定性、塗装後外観均一性等を総合的に勘案すれば、黒色添加剤の最適平均粒径は概ね20〜60nmとすることが推奨される。
本発明では、上記平均粒径を満足する黒色添加剤として市販品を使用しても良く、例えばカーボンブラックとして、三菱化学製「三菱カーボンブラック」(平均粒径13〜75μm)等の使用が推奨される。尚、本発明に用いられる黒色添加剤の平均粒径は、上記市販品のパンフレットにも記載されている通り、電子顕微鏡による算術平均径によって算出すれば良い。
更に、良好な加工性を備えると共に、優れた導電性も確保する為には、上記黒色塗膜の膜厚を12μm以下(より好ましい順に、11μm以下、更により好ましくは10μm以下)に制御することが推奨される。尚、その下限は、好ましくは1μm、より好ましくは2μmである。
また、塗膜中に添加される樹脂(放熱塗膜を形成するベース樹脂)の種類は、放熱特性の観点からは特に限定されず、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、およびそれらの混合または変性した樹脂等を適宜使用することができる。但し、本発明塗装体は電子機器の筺体として使用される為、放熱性に加え、加工性の向上も要求されることを考慮すると、上記ベース樹脂は、非親水性樹脂[具体的には、水との接触角が30°以上(より好ましくは50°以上、更により好ましくは70°以上)を満足するもの]であることが好ましい。この様な非親水性特性を満足する樹脂は、混合度合や変性の程度等によっても変化し得るが、例えばポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂等の使用が好ましく、なかでもポリエステル系樹脂の使用が推奨される。
更に上記塗膜には、本発明の作用を損なわない範囲で、カーボンブラック等の黒色添加剤の他、防錆顔料,シリカ等の顔料も添加しても良い。或いは、黒色添加剤以外の他の放熱性を有する添加剤(例えばTiO2、ジルコニア、ユージライト、チタン酸アルミニウム、βスポジューメン、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、六方晶窒化ホウ素、酸化鉄、硫酸バリウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等のセラミックス;Al粉(鱗片状のAlフレーク等)等を1種または2種以上)も、本発明の作用を損なわない範囲で、添加することができる。
また、上記塗膜には、架橋剤を添加することができる。本発明に用いられる架橋剤としては、例えばメラミン系化合物やイソシアネート系化合物等が挙げられ、これらを1種または2種以上、0.5〜20重量%の範囲で添加することが推奨される。
この様に本発明塗装体は、カーボンブラック等の黒色顔料を含有する放熱塗膜が被覆されたものであるが、従来においても、樹脂塗膜にカーボンブラック等の黒色顔料を添加した塗装鋼板は開示されている。この様な鋼板として、例えば前述した特許文献3が挙げられるが、両者は、適用対象が相違する為、課題解決手段の基礎となる考え方を異にしており、構成要件も相違する点については、前述した通りである。
この点について、もう少し詳しく説明すると、上記特許文献3に記載の遠赤外線放射板は、基材の片面にのみセラミック層が形成されているに過ぎず、本発明塗装板の如く、基板の表裏面に塗膜が形成されていない為、所望の放熱性は得られない。そもそも上記公報の遠赤外線放射板は、約200〜300℃といった非常に高温下での放熱特性が要求される熱器具(代表的にはストーブ等)の分野に使用されるものであり、本発明塗装体の如く、特に、内部温度が通常雰囲気温度で約40〜70℃、最高でも100℃程度となる電子機器部材への適用については、全く意図していない。従って、上記公報では、ストーブ等の熱器具から放出される遠赤外線の放射率(輻射率)をできるだけ高くしようというという発想しかなく、その為にカーボンブラックを添加しているだけであって、本発明の如く、「電子機器の内部温度を低下させる為に、電子機器から放出される熱量を、基板の裏面→基板の表面へと吸収→放射させる」という所謂「熱スルーの方式」に通じる発想は、熱器具を対象としている以上、生じる余地は全くない。
実際のところ、上記放射板は片面のみしか塗装されていない為、本発明に記載の条件で積分放射率及び放射率の変化幅を調べたところ、本発明の如く優れた放熱特性は得られないことを実験により確認している。
更に上記公報では、Zn−Ni合金めっき鋼板をベースとして黒色化処理して黒色皮膜を形成させ、更にその上層に黒色樹脂皮膜を被覆することにより、高温領域での遠赤外線放射特性を発揮させているが、この様な放射板をそのまま、本発明で対象とする電子機器部材(遠赤外線放射板に比べ、遥かに低温域で使用されるもの)に適用すると、用途の違いによって要求特性も異なる為、種々の不具合が生じる。即ち、(i)熱器具用途に比べて電子機器部材では、より苛酷な曲げ加工性が要求される為、合金めっき層にクラックが発生し、このクラックを起点として黒色樹脂皮膜やめっきのカスが剥離・脱落して外観不良が生じる;(ii)この様な剥離や脱落現象が合金めっき層の内部で生じると、剥離した皮膜やめっきのカスが電子機器の部品に付着、堆積してしまい、電子機器が故障する恐れがある等の不具合が生じる。
従って、本発明と上記放射板は、異なる発明であると考える。
(1-2)「他の放熱性添加剤」を含有する放熱塗膜
上述した黒色添加剤以外の、放熱性を有する添加剤(「他の放熱性添加剤」)としては、例えばTiO2、ジルコニア、ユージライト、チタン酸アルミニウム、βスポジューメン、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、六方晶窒化ホウ素、酸化鉄、硫酸バリウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等のセラミックス;Al粉(鱗片状のAlフレーク等)等が挙げられ、これらを単独で、若しくは2種以上を併用しても良い。この様な「他の放熱性添加剤」を添加する場合、放熱塗膜の膜厚は、使用する「他の放熱性添加剤」の種類や用途等に応じ、所望の放熱特性が得られる様、適宜適切な膜厚を設定することができるが、概ね、15〜30μm程度とすることが推奨される。これらのうち好ましいのは、TiO2、Alフレークであり;更に好ましいのはTiO2である。
具体的にはTiO2含有塗膜の場合、塗膜中にTiO2を約30〜70%含有する皮膜を、約5〜50μm形成させると、概ね、0.8前後の赤外線放射率が得られる。上記塗膜中に、更にカーボンブラック等の黒色添加剤等を添加すれば、赤外線放射率は一層大きくなる。また、メタリック調外観の塗膜を施したいときは、塗膜中にAlフレーク等を概ね、5〜30%添加し、塗膜厚を約5〜30μmとすれば、約0.6〜0.7の赤外線放射率が得られる。
また、上記「他の放熱性添加剤」の平均粒径は、使用する添加剤の種類によっても相違するが、前述した黒色添加剤の限定と概ね同じ理由により、TiO2等のセラミックスを使用する場合は概ね、10μm以下とすることが推奨され(尚、その下限は特に限定されず、細かい方が好ましい);一方、Alフレークを使用する場合は概ね、10〜40μmとすることが推奨される。
本発明では、上記平均粒径を満足する「他の放熱性添加剤」として市販品を使用しても良く、例えばTiO2としてテイカ株式会社製のTiO2(平均粒径0.2〜0.5μm);Alフレークとして昭和アルミパウダー(株)製のAlフレーク(平均粒径10〜40μm)等の使用が推奨される。尚、本発明に用いられる「他の放熱性添加剤」の平均粒径は、前述したカーボンブラックの市販品[三菱化学製「三菱カーボンブラック」(平均粒径13〜75nm)]のパンフレットにも記載されている通り、電子顕微鏡による算術平均径によって算出すれば良い。
更に、良好な加工性を備えると共に、優れた導電性も確保する為には、上記黒色塗膜の膜厚を12μm以下(より好ましい順に、11μm以下、更により好ましくは10μm以下)に制御することが推奨される。尚、その下限は、好ましくは1μm、より好ましくは2μmである。
(2)表面の塗膜について
次に、本発明に用いられる「表面の塗膜」について説明する。前述した通り、「裏面の塗膜」は、優れた放熱特性を確保する為に放熱塗膜とする必要があり、「表面の塗膜」も同様に放熱塗膜とすることが最も推奨されるが、上式(1)に規定する特性が得られる限り、必ずしも放熱塗膜とする必要はなく、塗膜中に放熱性添加剤を含有しなくとも厚さが0.3μm以上の塗膜を有しており、且つ上式(1)を満足するものは全て採用することができる。
具体的には、前述した黒色添加剤・黒色添加剤以外の他の放熱性添加剤を単独または併用し、表面塗膜の放射率に応じて、添加量及び塗膜厚を適宜、適切に調整して表面の塗膜を被覆すればよい。従って、表面の塗膜は放熱性を殆ど有しなくとも、裏面塗膜の赤外線放射率が適切に制御されたものは、目的とする放熱特性を確保することができる(例えば後記する表1のNo.16、表3のNo.40〜44等を参照)。
或いは、上記の添加剤は全く使用せず、表面塗膜の膜厚のみを所定範囲(0.3μm以上)に制御しても良い(例えば後記する表1のNo.13及び15;表3のNo.37〜39、50及び52を参照)。塗膜中に含まれる樹脂(ポリエステル系樹脂等の非親水性樹脂等)のみによっても、或る程度の放熱特性が得られるからである。好ましい膜厚は1μm以上、より好ましくは3μm以上、更により好ましくは5μm以上である。尚、その上限は、放熱性との関係では特に限定されないが、加工性等を考慮すると、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下に制御することが推奨される。
尚、上記「表面の塗膜」において、使用する黒色添加剤の種類や平均粒径;黒色添加剤以外の「他の放熱性添加剤」の種類;塗膜中に添加される樹脂や添加剤の種類等は、前記「裏面の塗膜」のなかで説明した通りである。
(b)放熱性及び潤滑性に優れた電子機器部材用塗装体(第二の塗装体)
本発明に係る第二の塗装体は、更に潤滑性にも優れたものであり、その指標として、少なくとも表面の動摩擦係数0.15以下を設定している。好ましくは0.13以下である。
尚、動摩擦係数は動摩擦係数測定機(ヘイドン14D)を用い、下記の条件にて同一サンプルにつき、測定場所の異なる合計5点を測定し、最大値および最小値を除いた合計3点の平均値を動摩擦係数として定めた。
摺動面 :10mmφ鋼球
摺動速度:100mm/min
摺動距離:50mm
具体的には、少なくとも表面の放熱塗膜中にワックスを添加する。使用するワックスの種類は特に限定されず、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)ワックス、フッ素系ワックス等が挙げられる。好ましくはポリオレフィン系ワックスである。ワックスの添加量は、適用用途や、表面側の放熱塗膜を構成する塗料の種類等によっても相違するが、概ね、0.2〜10質量%(より好ましくは0.5質量%以上、5質量%以下)とすることが好ましい。尚、潤滑性向上という観点からすれば、表面の塗膜厚は1μm以下とすることが好ましく、更に導電性添加剤を用いる等してアース性等の導電性能を高める場合には、10μm以下に制御することが推奨される。
更に本発明の塗装体は、導電性に優れた態様も包含しており、好ましくは電気抵抗100Ω以下(より好ましくは10Ω以下)を満足するものである。
本発明における電気抵抗の測定方法は、以下の通りである。
導電性測定装置として三菱化学製「ロレスタEP」、プローブは三菱化学製2探針プローブ(MCP−TP01)を使用した。測定に当たっては、プローブの探針と測定サンプルとの間に、厚さ0.8mm、大きさ20mm角の銅板を、銅板同士が接触しない様に2枚置き、供試材の抵抗(Ω)を測定した。
この様な導電性に優れた塗装体を得るに当たっては、表面及び/又は裏面の塗膜中に、導電性フィラーを10〜50%含有するものである。尚、本発明塗装体は、第一の塗装体・第二の塗装体のいずれも基板の表裏面に塗膜が被覆されたものであり、表面及び裏面の双方に、導電性フィラーを添加すれば、非常に優れた導電性が得られるが、用途によっては、片面のみに導電性フィラーを添加しても良く、これによっても、所定の導電性を確保することができる。
ここで、本発明に用いられる導電性フィラーとしては、Ag、Zn、Fe、Ni、Cu等の金属単体;FeP等の金属化合物が挙げられる。このうち導電性の高い汎用材料として特にNiの使用が推奨される。尚、その形状は特に限定されないが、より優れた導電性を得る為には、鱗片状のものを使用することが推奨される。
また、上記導電性フィラーの含有量は塗膜形成成分(ポリエステル樹脂等のベース樹脂の他、必要に応じて添加される架橋剤、更には黒色添加剤及び導電性フィラー、及び必要に応じて添加される添加剤も含めた、塗膜を形成する成分すべてを意味する)100%(固形分換算)に対し、10〜50%とする。10%未満では所望の効果が得られない。好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、更により好ましくは25%以上である。一方、導電性フィラーの含有量が50%を超えると加工性が低下する。特に、塗装金属板の如く高度の曲げ加工性が要求される部位に適用する場合には、45%以下とすることが推奨される。より好ましくは40%以下、更により好ましくは35%以下である。
更に、裏面の放熱塗膜中にフェライト粉を含有すれば、電磁波シールド性も高められる。具体的には、裏面の放熱塗膜中に、好ましくは、Mn−Zn系又はNi−Zn系のフェライト粉を、60質量%以下の含有比率で添加することにより、電磁波シールド性を向上させることができる。これらのフェライト粉は、単独で使用しても良いし、両者を混合しても良い。また、使用するフェライト粉の平均粒径は5μm以下が好ましい。尚、電磁波シールド性向上という観点からすれば、裏面の塗膜厚は20μm以下とすることが好ましく、更にアース性等の導電性能を高めるには、10μm以下に制御することが推奨される。
以上、本発明の塗装体を特徴付ける塗膜について詳述した。前述した通り、本発明の最重要ポイントは塗膜の構成を特定したところにあり、塗膜以外の基板については特に限定されない。従って本発明に用いられる基板としては、(i)代表的には金属板、具体的には冷延鋼板、熱延鋼板、電気亜鉛めっき鋼板(EG)、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、5%Al−Znめっき鋼板、55%Al−Znめっき鋼板、Al等の各種めっき鋼板、ステンレス鋼板等の鋼板類や、公知の金属板等を全て適用することができる他、(ii)金属板以外の基板、具体的には線材、棒材、パイプ材、セラミック材等も挙げられる。更に、上記(i)の金属板に、耐食性向上、塗膜の密着性向上等を目的として、クロメート処理やリン酸塩処理等の表面処理を行ったものも本発明の範囲内に包含される。このうち好ましいのは、熱導電性に優れた金属板等の金属材料、セラミックである。
尚、上記(i)の金属板は、耐食性向上、塗膜の密着性向上等を目的として、クロメート処理やリン酸塩処理等の表面処理を施してもよいが、環境汚染等を考慮して、クロムフリー下地処理した金属板を使用してもよく、いずれの態様も本発明の範囲内に包含される。
ここで、クロムフリー下地処理した金属板を用いた本発明塗装体の構成について説明する。
まず、上記基板は、クロムフリーの下地処理がなされており、且つ、少なくとも表面の塗膜は、更に防錆剤を含有することが必要である。一般にクロムフリー下地処理すると耐食性が低下することが知られており、耐食性向上の目的で、防錆剤の使用が不可欠だからである。
ここで、上記「クロムフリーの下地処理」は特に限定されず、通常、使用される公知の下地処理を行えば良い。具体的には、リン酸塩系、シリカ系、チタン系、ジルコニウム系等の下地処理を、単独で、若しくは併用して行うことが推奨される。
また、上記防錆剤としては、シリカ系化合物、リン酸塩系化合物、亜リン酸塩系化合物、ポリリン酸塩系化合物、イオウ系有機化合物、ベンゾトリアゾール、タンニン酸、モリブデン酸塩系化合物、タングステン酸塩系化合物、バナジウム系化合物、シランカップリング剤等が挙げられ、これらを単独で若しくは併用することができる。特に好ましいのは、シリカ系化合物(例えばカルシウムイオン交換シリカ等)と、リン酸塩系化合物、亜リン酸塩系化合物、ポリリン酸塩系化合物(例えばトリポリリン酸アルミニウム等)との併用であり、シリカ系化合物:(リン酸塩系化合物、亜リン酸塩系化合物、またはポリリン酸塩系化合物)を、質量比率で0.5〜9.5:9.5〜0.5(より好ましくは1:9〜9:1)の範囲で併用することが推奨される。この範囲に制御することにより、所望の耐食性と加工性の両方を確保することができる。
尚、これらの防錆剤は、前記の下地処理にも使用しても良い。
上記防錆剤の使用により耐食性は確保できるが、一方、防錆剤の添加による加工性が低下することも知られている。そこで本発明では、放熱塗膜の形成成分として、特に、樹脂及び架橋剤の組合わせに留意しており、エポキシ変性ポリエステル系樹脂及び/又はフェノール誘導体を骨格に導入したポリエステル系樹脂、及び架橋剤(好ましくはイソシアネート系樹脂及び/又はメラミン系樹脂、より好ましくは両者の併用)を組合わせて使用することが推奨される。
このうちエポキシ変性ポリエステル系樹脂及びフェノール誘導体を骨格に導入したポリエステル系樹脂(例えばビスフェノールAを骨格に導入したポリエステル系樹脂等)は、ポリエステル系樹脂に比べ、耐食性及び塗膜密着性に優れている。
一方、イソシアネート系架橋剤は加工性向上作用(加工後の外観向上作用を意味し、後記する実施例では、密着性曲げ試験におけるクラック数で評価している)を有しており、これにより、防錆剤を添加したとしても優れた加工性を確保することが可能となる。
また、メラミン系架橋剤は、優れた耐食性を有することが本発明者らの検討結果により明らかになった。従って、本発明では、前述した防錆剤と併用することにより、非常に良好な耐食性が得られることになる。
本発明では、上記イソシアネート系架橋剤及びメラミン系架橋剤を単独で使用しても良いが、両者を併用すると、加工性及び耐食性を一層向上させることができる。具体的には、イソシアネート系樹脂100質量部に対し、メラミン系樹脂を5〜80質量部の比率で含有することが推奨される。メラミン系樹脂が5質量部未満の場合、所望の耐食性が得られず、一方、メラミン系樹脂が80質量部を超えると、イソシアネート系樹脂の添加による効果が良好に発揮されず、所望の加工性向上作用が得られない。より好ましくは、イソシアネート系樹脂100質量部に対し、10質量部以上、40質量部以下、更により好ましくは15質量部以上、30質量部以下である。
また、クロムフリー塗装体として使用する場合には、塗膜形成成分100質量部に対し、エポキシ変性ポリエステル系樹脂及び/又はフェノール誘導体を骨格に導入したポリエステル系樹脂を35質量部以上(好ましくは40質量部以上、更により好ましくは45質量部以上)、防錆剤を2〜25質量部(好ましくは3質量部以上、20質量部以下;更により好ましくは4質量部以上、15質量部以下)、架橋剤を1〜20質量部(好ましくは2質量部以上、18質量部以下;更により好ましくは3質量部以上、15質量部以下)、黒色添加剤を3質量部超、及び導電性フィラーを10〜50質量部とすることが推奨される。
この様な構成を満足する塗装体は、耐食性、塗膜密着性及び加工性に優れている。具体的には、耐食性に関しては、JIS−Z−2371に規定されている塩水噴霧試験耐食性試験(72時間)における外観異常部(塗膜膨れ、錆等)の面積率が10%以下(より好ましくは5%以下)を満足するものである。上記特性は、使用する架橋剤の種類を適切に制御したり(例えば耐食性向上に有用なメラミン系架橋剤を単独で所定量添加する)、防錆剤の溶出を抑制する目的で、塗膜の上に更に塗膜(好ましくはクリヤー塗膜)を施した二層塗膜とする等の構成を採用することにより、一層高められ、その結果、より過酷な試験[JIS−Z−2371に規定されている塩水噴霧試験耐食性試験(120時間)]における外観異常の面積率が10%以下(より好ましくは5%以下)をも満足するものである。
更に上記塗装体は、塗膜密着性及び加工性にも優れたものである。ここで、「塗膜密着性」も「加工性」も、共に「加工後の外観に優れている」点で共通の性質を備えているが、本発明では、特に「加工性」について、「JIS K 5400に規定されている密着曲げ試験におけるクラック(ひび割れ)の数」で評価しており(本発明塗装体は、上記密着曲げ試験におけるクラック数が5個以下、より好ましくは2個以下、更により好ましくは0個を満足する)、一方、「塗膜密着性」は、「加工した部分の塗膜密着性」で評価している。
更に、上記特性(耐食性、塗膜密着性、及び加工性)に加え、導電性も確保したい場合には、塗膜中に導電性フィラーを添加すれば良く、これにより、電気抵抗を100Ω以下に制御することができる。使用する導電性フィラーの好ましい態様は、前述した通りである。尚、塗膜中に導電性フィラーを添加すると耐食性が低下するが、塗膜の膜厚を2μm以上に制御することにより、クロムフリー塗装体であっても、耐食性と導電性の両方を確保することができる。より好ましくは3μm以上、更により好ましくは5μm以上である。一方、その上限は、前述した通り、12μm以下(より好ましくは10μm以下)に制御することが推奨される。
以上、クロムフリー処理した金属板を用いた本発明塗装体について説明した。
これまで説明した本発明塗装体は、基板に塗膜が施された単層皮膜構成であるが、本発明には、更に、その上に塗膜が一種または2種以上被覆された複層皮膜構成の態様も包含される。特に本発明では、耐疵付き性及び耐指紋性の付与を目指して、特に黒色塗膜を使用した場合、当該黒色塗膜にクリヤー皮膜を施した二層皮膜構成とすることが推奨される。黒色塗膜は濃色系の黒で塗装されている為、手で取扱う際、指紋が目立ち易いというデメリットを抱えており、外観品質が低下するが、クリヤー皮膜の形成により、耐指紋性が改善される。また、たとえ黒色塗膜に疵が付いたとしても、クリヤー皮膜を施すことにより当該疵が目立たなくなるというメリットもある。
ここで、所望の特性(放熱特性/自己冷却性)を維持しつつ、耐疵付き性及び耐指紋性を向上させる為には、クリアー塗膜の膜厚を制御することが重要であるが、放熱性に加えて優れた導電性をも具備させる場合には、当該クリアー塗膜厚の好ましい範囲が変化する。
即ち、塗膜に導電性フィラーを添加しない塗装体の場合、優れた放熱特性/自己冷却性を維持しつつ、しかも耐疵付き性及び耐指紋性の向上を図る為には、クリアー塗膜の膜厚を0.1〜10μmに制御することが推奨される。0.1μm未満では耐疵付き性及び耐指紋性の向上作用が得られない。より好ましくは0.2μm以上、更に好ましくは0.3μm以上である。但し、膜厚が10μm超と厚くしても、耐疵付き性等の向上作用は飽和してしまい、皮膜コストが増加するのみで不経済である為、その上限を10μmにすることが好ましい。より好ましくは8μm以下、更に好ましくは7μm以下である。
一方、塗膜に導電性フィラーを添加する塗装体の場合、放熱特性に加えて良好な導電性を維持しつつ、しかも耐疵付き性及び耐指紋性の向上を図ることが必要であり、その為には、クリアー塗膜の膜厚を0.1〜3.0μmに制御することが推奨される。0.1μm未満では耐疵付き性及び耐指紋性の向上作用が得られない。より好ましくは0.2μm以上、更に好ましくは0.3μm以上である。但し、膜厚が厚くなり過ぎると、導電性に悪影響を及ぼす為、その上限を3.0μmにすることが好ましい。より好ましくは2.0μm以下、更により好ましくは1.5μm以下である。
ここで、上記クリヤー皮膜を構成する樹脂としては特に限定されず、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂等の樹脂、及びこれら樹脂の混合物または変性した樹脂等が挙げられる。更にクリヤー皮膜中には、本発明の作用を損なわない範囲で、架橋剤、ワックス、艶消し剤、顔料等の添加剤を添加しても良い。これにより、塗膜の潤滑性や強度等を容易に調整することが可能になり、その結果、耐疵付き性を更に高めることができるからである。本発明に用いられる添加剤としては、塗膜中に通常使用され、上記作用を有効に発揮し得るものであればとくに限定されず、例えばメラミン系架橋剤、ブロックイソシアネート系架橋剤等の架橋剤が挙げられる。
尚、前述した通り、本発明の塗装体には、クリヤー塗膜でない塗膜が施された複数皮膜構成のものも包含されるが、この場合には、上述したクリヤー塗膜を構成する樹脂および添加剤に、更に着色顔料等の顔料等を添加することができる。
次に、本発明の塗装体を製造する方法について説明する。本発明の塗装体は、上記成分を含む塗料を、公知の塗装方法で基板の表面に塗布し、乾燥させて製造することができる。塗装方法は特に限定されないが、例えば表面を清浄化して、必要に応じて塗装前処理(例えばリン酸塩処理、クロメート処理など)を施した長尺金属帯表面に、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法などを用いて塗料を塗工し、熱風乾燥炉を通過させて乾燥させる方法などが挙げられる。被膜厚さの均一性や処理コスト、塗装効率などを総合的に勘案して実用上好ましいのは、ロールコーター法である。
尚、基板として脂塗装金属板を使用する場合には、樹脂被膜との密着性または耐食性の向上目的で、塗装前処理としてリン酸塩処理またはクロメート処理を施しても構わない。但し、クロメート処理材については、樹脂塗装体使用中のクロム溶出性の観点から、クロメート処理時のCr付着量を35mg/m2以下に抑制することが好ましい。この範囲であれば、下地クロメート処理層からのクロム溶出を抑えることが可能だからである。また、従来のクロメート処理材は必要に応じて設けられる上塗り塗装の耐水密着性が、6価クロムの溶出に伴って、湿潤環境下において低下する傾向にあるが、上記金属板では溶出が抑制される為、上塗り被膜の耐水密着性が悪化することはない。
更に本発明には、閉じられた空間に発熱体を内蔵する電子機器部品であって、該電子機器部品は、その外壁の全部または一部が上記電子機器部材用塗装体で構成されている電子機器部品も包含される。上記電子機器部品としては、CD、LD、DVD、CD−ROM、CD−RAM、PDP、LCD等の情報記録製品;パソコン、カーナビ、カーAV等の電気・電子・通信関連製品;プロジェクター、テレビ、ビデオ、ゲーム機等のAV機器;コピー機、プリンター等の複写機;エアコン室外機等の電源ボックスカバー、制御ボックスカバー、自動販売機、冷蔵庫等が挙げられる。
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することはすべて本願発明に含まれる。
まず、クロメート処理(Cr:20mg/m2)を施した電気亜鉛めっき鋼板(板厚0.8mm、表面・裏面のZn付着量は夫々、20g/m2)を原板として、その表裏面に、表1〜3に示す添加剤4種類(1〜4)、塗料(ベース樹脂としてポリエステル樹脂を用い、架橋剤としてメラミン樹脂を使用;供試体によってはポリエチレン系ワックスを添加)を塗布した後、焼付け、乾燥してNo.28〜35の各供試材(120×150mm)を作製した(クリヤー塗膜なし)。
更に、クリアー塗膜の形成による耐疵付き性の向上作用を確認すべく、上記の塗料を塗布した後、クリアーのポリエステル系樹脂を塗布し、その後、焼付け、及び乾燥することにより、表1のNo.1〜27及び36〜58の各供試材(120×150mm)を作製した(クリヤー塗膜あり、膜厚1μm)。
また、導電性フィラー添加による導電性向上作用を調べる目的で、上記供試材のうち、No.33〜34/53及び57には、表面及び裏面の塗膜中にNi(鱗片状、平均厚さ1μm、平均サイズ15〜20μm)を25質量%/30質量%添加;No.50、51、及び54の裏面の塗膜中には、前述と同じNiを30質量%添加;No.52、及び55の裏面の塗膜中には、Zn粉末(平均サイズ5〜10μm)を40質量%添加し、導電性を評価した。
また、フェライト添加による電磁波シールド性を調べる目的で、No.36には、裏面の塗膜中にNi−Zn系ソフトフェライト(戸田工業製BSN−125)を25質量%添加し、電磁波シールド性を評価した。
更にクロムフリー塗装体における耐食性を調べる目的で、No.59及び60について、以下の処理を行なった。
具体的には、電気亜鉛めっき鋼板(板厚0.8mm、表面のZn付着量20g/m2)を原板として用い、日本ペイント株式会社製「サーフコートEC2000(Si付着量50mg/m2)」によるクロムフリーの下地処理を行った。その表裏面に、下塗り塗料として、表3に記載の添加剤、塗料成分[ベース樹脂として、エポキシ変性ポリエステル樹脂(数平均分子量25,000)、架橋剤としてメラミン樹脂、防錆剤(トリポリりん酸アルミニウムとカルシウムイオン交換シリカを8:2の質量比率で混合したものを使用)]、及び鱗片状Ni(厚み1μm、幅15〜20μm)を同量塗布して塗膜を形成した後、焼付け、乾燥した後、クリアーのポリエステル系樹脂を塗布し、焼付け、及び乾燥することにより、表3のNo.59及び60の供試材(120×150mm)を作製した(クリヤー塗膜あり、膜厚1μm)。
この様にして得られた各供試材について、放熱性、電磁波シールド性、潤滑性、導電性、耐疵付き性、耐食性を以下の要領で測定し、評価した。
[放熱性]
図1の装置を用い、以下の方法に基づいて赤外線(波長:4.5〜15.4μm)の積分放射率、及びΔT1[上記の各供試材を用いたときの温度と、比較例の供試材(無塗装原板)を用いたときの温度の差]を測定した。
ΔT1(=T1 B −T1 A )の測定
このΔT1は、基板(塗膜が被覆されていない裸ままの原板)を用いた場合に比べ、本発明塗装体を用いた場合には、如何に電子機器の内部温度を低減できるかという指標を定めたものであり、本発明では、ΔT1を測定する装置として、特に、図1に示す本発明独自の放熱性評価装置を用いた。前述した通り、図1は、外部に放熱部品(ファン等)を備えた実使用環境下を模擬した装置であり、電子機器等の用途で想定される雰囲気温度(電子機器部材の種類等によって雰囲気温度は異なるが、概ね50〜70℃、最高で100℃程度)の放熱特性を評価し得る装置として極めて有用であり、これにより、電子機器用途を模擬した実用レベルでの放熱効果を正しく評価することが可能となる。
図1中、発熱体3には、シリコンラバーヒーターを用い、その上にアルミ板(赤外線放射率は0.1以下)を密着したものを使用する。また、図1のT1位置[内部空間の中央部(発熱体3から50mm上方)]に、測温装置5として熱電対を固定する。尚、発熱体からの熱輻射の影響を排除する目的で、熱電対の下部をカバーしておく。また、断熱材2は、その種類や使用態様等によって箱内雰囲気温度が変化する(放熱性にも影響する)為、赤外線放射率が0.03〜0.06の金属板[例えば電気亜鉛めっき鋼板(JIS SECC等)]を用い、後記する方法によってT1位置の雰囲気温度(絶対値温度)が約65〜66℃の範囲になる様、断熱材の張り方等を調整する。その他、放熱性に影響を及ぼす因子(例えば供試材の固定法等)についても、同様にT1位置の雰囲気温度(絶対値温度)が約65〜66℃の範囲になる様に調整する。
また、防護部材4は、外気や空調機等に由来する風等の影響を回避し、安定したデータを得る為に有用であり、箱体全面を防護部材4で覆うことにより、外気による影響を完全にカットすることができる。上記防護部材は、外気を遮断し得るものであれば特に限定されず、例えばプラスチック、木質材、金属材料等が使用される。
更に上記装置には、図1の如く放熱部品として、日本サーボ製VE55B5のファン6が設置されており、これにより、供試体1の表面は強制的に冷却されることになる。
次に上記装置を用いて放熱特性を評価する方法について説明する。
測定に当たっては、外気条件(風等)によるデータのバラツキをなくす目的で、測定条件を、温度:23℃、相対湿度:60%に制御しておく。
まず、各供試材1を設置し、電源を入れてホットプレート3を120℃にまで加温する。ホットプレートの温度が安定して120℃となり、T1位置の温度が60℃以上になっていることを確認した後、一旦、供試材を取外す。箱内温度が50℃まで下がった時点で、再び供試材を設置し、設置してから90分後の箱内温度を夫々測定する。次に、上記供試材を用いたときの温度(T1A)と、塗膜を施さない無塗装原板(放射率:0.04)を用いたときの温度(T1B)の差(ΔT1)を算出する。
尚、ΔT1は、各供試材につき5回ずつ測定し、そのうち上限、下限を除いた3点のデータの平均値を、本発明におけるΔT1と定めた。
この様にして算出されたΔT1は大きい程、放熱特性に優れていることを示しており、下記基準で相対評価した。本発明では、◎、●及び○の塗装体を「優れた放熱性を発揮するもの」として評価している。
◎:4.5≦ΔT1
●:4.0≦ΔT1<4.5
○:3.5≦ΔT1<4.0
×:ΔT<3.5
[電磁波シールド性]
No.36についてのみ、KECを用いた下記方法に従って、各周波数(30Mz、60MHz、100Mz、300MHz、600Mz、及び1GHz)における電磁波シールド能を、電界モード及び磁界モードの夫々について測定した(No.36のみ)。
ここでKECは、社団法人関西電子工業振興センターが開発した電磁波シールド測定装置であり、信号発生器より発生した電磁波(周波数10MHz〜1GHz)を試験用サンプルに投入し、当該サンプルから漏洩した電磁波を増幅器で信号増幅させた後、スペクトルアナライザーで受信させ、各周波数における電磁波シールド能(dB)を測定するもので、電解モードと磁界モードの2種類で評価される。
具体的には、まず、測定サンプル(縦及び横が約180mm、板厚0.55mmの鋼板)自体の電磁波シールド性を上記方法により評価し、当該測定サンプルが優れた電磁波シールド性を有することを確認した後、この測定サンプル中央部に直径1.5mmの孔をあけ、電磁波シールド性を強制的に低下させたときのシールド能を同様に評価した。電子機器には通常、配線用の孔や空気穴等がある為、それを模擬したものである。
上記方法に従って、各周波数(30Mz、60MHz、100Mz、300MHz、600Mz、及び1GHz)における電磁波シールド能を、電界モード及び磁界モードの夫々について測定した(No.36のみ)。
[潤滑性]
前述した方法に従って、表裏面の動摩擦係数を測定した。
[導電性]
前述した方法に従って導電性を測定した。尚、導電性は以下の基準で相対評価した。
◎:優れる 抵抗10Ω以下
○:良好 抵抗10〜100Ω
×:劣る 抵抗100Ω超
[耐疵付き性]
各供試材の表面を爪で擦り付け、疵の発生状況を目視で観察した。評価基準は以下の通りである。
○:疵が殆ど目立たない
×:痕跡が明らかに目立つ
[耐食性]
上記のNo.59及び60について、JIS−Z−2371に規定されている塩水噴霧試験を120時間行い、平面部の塗膜に発生した外観異常部(錆・膨れ)の面積率を測定した。この様にして測定された外観異常部の面積率が10%以下であれば「本発明例」とする。
得られた結果を表4〜6に記載する。尚、No.36の電磁波シールド性の結果のみ、表7に示す。
上記表より、以下の様に考察することができる。
[放熱性について]
まず、No.22〜27は、本発明で定める式(1)を満足しない為、所望の放熱特性が得られない。
これに対し、No.1〜21、28〜60は、いずれも本発明で定める式(1)の要件を満足する塗装体であり、放熱特性に優れている。特にNo.1〜16、28〜34、36〜38、40、42〜46、49〜50、及び52〜59は、好ましい式(5)を満足しているので放熱特性が更に向上しており;更にNo.1〜10、28〜30、33、36〜37、40、42〜43、45、52〜57、及び59は、より好ましい式(6)を満足するものであり、放熱特性が更に一層向上していることが分かる。
これらのうち、先願と重複する放熱領域を除いた供試体はNo.13〜16、20〜21、32、35、37〜48、50〜52、58〜60であり、当該供試材は、本発明の第一の塗装体を満足するものである。尚、これらの供試体は、表面の塗膜中には放射率向上の目的で、黒色添加剤/黒色添加剤以外の放熱性添加剤を含有しているが、裏面の塗膜は、これらの態様に限定されず、上記黒色添加剤/放熱性添加剤を含有する態様の他に、当該黒色添加剤/放熱性添加剤を含有せずに所定厚の塗膜のみ被覆した態様の両方を含んでいる。その詳細は以下の通りである。
No.13、38[表面には塗膜のみを0.4〜2μm形成(添加剤なし)、
裏面に酸化チタン含有)
No.14、16、20、32、35、59(表裏面にカーボンブラック添加)
No.15、21、37、50、52
[表面には塗膜のみを0.3〜3μm形成(添加剤なし)、
裏面にカーボンブラック含有]
No.39[表面には塗膜のみを2μm形成(添加剤なし)、
裏面にAlフレーク含有]
No.40〜42、47(表面に酸化チタン、裏面にカーボンブラック含有)
No.43(表面にカーボンブラック、裏面に酸化チタン含有)
No.44、48(表裏面にAlフレーク含有)
No.45〜46、51(表面にAlフレーク、裏面に酸化チタン含有)
No.58、60(表裏面に酸化チタン含有)
尚、上記供試体には、塗膜中にワックス、フェライト粉、導電性フィラーを含有するもの;表面/裏面の塗膜にクリアー塗膜が被覆されたもの等種々の態様が例示されているが、これら添加剤の添加やクリアー塗膜の形成によって、塗装体の放射率は殆ど変化しない(従って、これらを添加したときの放射率と、添加していないときの放射率は殆ど同じである)ことを実験により確認している。
[他の特性について]
更に塗膜中にワックスを添加したもの(No.6、10、及び26の裏面;No.28〜30、及び32の表面;並びにNo.33〜35の表裏面を除き、全てワックスを添加している)は、動摩擦係数が0.15以下に制御されており、潤滑性に優れている。
また、No.28〜35を除く上記例はいずれも、クリヤー塗膜が形成されている為、耐疵付き性に優れている。
更にNo.33〜35、50〜55、57、59〜60は、少なくとも片面の塗膜に導電性フィラーを添加した例であり、導電性に優れている。
また、No.36は、裏面にのみ前述したフェライト粉を添加した例であるが、塗膜を施さない無塗装原板(鋼板まま)に比べて、30MHz〜1GHzの波長域において、電界モード、磁界モード共に約1dB程度上昇している(表7を参照)。本実施例では図1に示す通り、電磁波吸収皮膜として作用し得る六面のうち一面のみを本発明塗装体として適用しており、この様な使用態様であっても電磁波シールド能が約1dB程度上昇したことは、六面全てを本発明塗装体とする実使用レベルの使用態様下では、一層優れた電磁波シールド性が得られる可能性を充分示唆するものである。
また、No.59及び60の耐食性は、外観異常部が1%と低く(表には示さず)、ノンクロ塗装体であるにもかかわらず、極めて優れた耐食性を有することが分かる。