JP5743480B2 - 鋼材の脱スケール酸洗剤及び脱スケール酸洗方法 - Google Patents

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Description

本発明は鋼材のスケールを除去する脱スケール酸洗剤、酸洗剤の濃厚液、酸洗剤製造キット及び脱スケール処理方法に関する。ここで、本願のチオ尿素ならびにチオ尿素誘導体以外の有機硫黄化合物とは、分子中に硫黄原子を含むが>N−C(=S)−N<という構造を含まない有機化合物のことである。ノニオン系界面活性剤とは親水部が非電解質の界面活性剤のことである。酸洗剤の濃厚液とは、水で希釈し、又は希釈とともに硫酸又は硫酸主体の酸を添加することで酸洗剤を製造できる液のことである。また、酸洗剤製造キットとは、硫酸又は硫酸主体の酸と2種類以上の製品を同時に希釈または溶解することで酸洗剤を製造できるキットのことである。
鋼材の脱スケール処理は塩酸、硫酸などの酸あるいはその混酸の水溶液に浸漬し酸洗する。硫酸を用いると不溶解のスマット残留やピッチングと呼ばれる孔食を起こしやすいため鋼材に対しては塩酸が主に用いられてきた。しかし、塩酸は特に熱処理された鋼材に対する脱スケール処理能力不足、塩化水素ガス発生による装置・設備の腐食の問題があるため、硫酸を用いてもスマット残留やピッチングが不発生で、特に熱処理された鋼材に対する脱スケール処理が出来る方法の開発が進められてきた。
例えば、特許第3065280号(特許文献1)には硫酸酸洗用の脱スケール促進剤としてチオ尿素、酸洗抑制剤としてチオ尿素誘導体を使用することで、スマット残留やピッチングなく熱処理した鋼材のスケール除去を行う方法が記載されている。
また、特開2006−183116(特許文献2)には脂肪族カルボン酸またはその塩と硫黄化合物を酸洗促進剤として塩酸又は硫酸を主体とする酸洗剤に添加することで酸洗後の鋼板の品質低下なく酸洗時間の短縮を図る方法が記載されている。しかし、当該先行文献では実施例にあるのは塩酸を用いた場合のみ、しかも全て数十秒程度の浸漬で除去できるスケールに対してのものである。実際に本出願の発明者が硫酸を用いて分単位の浸漬が求められるスケールで試験を行った場合には満足のいく性能が得られなかった。
特許第3065280号明細書 特開2006−183116号公報
本発明は硫酸又は硫酸主体の酸を用いる鋼材の酸洗において、短時間での脱スケールを可能にする上、管理幅が広く、さらに酸洗液寿命の長い酸洗剤及びこれを用いた脱スケール方法を提供する。
本発明は前記課題を解消するために、周知であるチオ尿素を用いた硫酸または硫酸主体の酸からなる酸洗剤に、さらにチオ尿素ならびにチオ尿素誘導体以外の有機硫黄化合物やノニオン系界面活性剤を併用する方法を見出した。この方法を用いることで、従来の方法と比較して、より短時間でもスマット発生やピッチング発生がほとんどない平滑で良好な表面性状を得ることに成功した。しかもこの方法を用いるとチオ尿素が周知の方法より低濃度であっても脱スケール可能である。また、酸洗液のランニング性も向上しているため、管理をより容易とすることにも成功している。
本発明について詳しく説明すると、本発明の脱スケール酸洗剤に使用される硫酸の濃度は5重量%から35重量%であり、好ましくは10重量%から25重量%である。また、この硫酸濃度範囲の硫酸を含む脱スケール酸洗剤に、他の無機酸(塩酸、フッ酸、硝酸、リン酸など)や有機酸(カルボン酸、スルホン酸など)を必要に応じ添加した硫酸主体の酸洗剤は優れた酸洗能力を有する。添加する酸の種類に制限はないが、その添加量は鋼材の腐食防止のため、塩酸又はフッ酸の場合は5重量%以下、硝酸の場合は1重量%以下が好ましく、作業環境を考慮すればリン酸及びスルホン酸などのガス発生のない酸を用いるのが好ましい。
このような硫酸または硫酸主体の酸による脱スケール酸洗剤にチオ尿素、有機硫黄化合物、ノニオン系界面活性剤を添加することにより、鋼材表面の脱スケール促進、素地侵食抑制、スマット生成抑制効果があることを見出した。従来、チオ尿素は硫酸酸洗剤においては0.5g/L以上の添加で脱スケール促進効果を生じ、1g/L以上で脱スケール促進効果が強くなることが公知であったが、有機硫黄化合物を併用した場合においてはチオ尿素濃度0.1g/L以上で脱スケール促進効果が強くなる。
有機硫黄化合物とチオ尿素の濃度比は重量比で0.05〜20:1が望ましく、さらに望ましくは0.2〜5:1である。濃度比が範囲を外れると必要な有機化合物の総濃度が増大し非効率である。有機硫黄化合物としてはメルカプトエタノール、メルカプトヒポキサチン、メルカプトベンズイミダゾール及びメルカプトベンズチアゾール等のメルカプト類、チオシアン酸及びその塩、アミノチアゾール等のアミノ化合物、商品としては大内新興化学(株) のノクセラーTMU、ノクセラーTBT、ノクセラーNS−P、ノクラックTBTU及びノクラックNS−10N、川口化学工業(株)のアクセル22−R、アクセル22−S、アクセルBUR−F、アクセルCZ、アクセルEUR−H、アクセルLUR、アクセルTET及びアクセルTP等がある。また、チオ蟻酸、チオ酢酸等のチオカルボン酸及びその塩、ジチオ蟻酸、ジチオ酢酸、ジチオカルバミン酸等のジチオカルボン酸及びその塩、チオリンゴ酸、チオグリコール酸、チオジグリコール酸、ジチオジグリコール酸、チオサリチル酸等、硫黄を含有するカルボン酸、ジカルボン酸およびその塩はキレート剤と似た骨格を持ち有用である。その中でも特にチオカルボン酸類、ジチオカルボン酸類、硫黄を含有するカルボン酸、ジカルボン酸およびその塩は有用であり、ジスルフィド基を含有する多価カルボン酸及びその塩がより好ましい。
キレート剤と似た骨格を持つ有機硫黄化合物がより有用で好ましい理由として、ランニング性の向上につながる点がある。ランニング性向上の理由は不明だがランニングで酸洗剤中の鉄濃度が上昇することにより酸洗剤の性能が悪化することが知られている。キレート剤と似た骨格を持つ有機硫黄化合物のキレート効果により鉄イオンをキレートすることで酸洗剤の劣化速度を落とす効果があるためにランニング性が向上するためではないかと考える。
ノニオン系界面活性剤を添加することも重要である。ノニオン系界面活性剤に脱スケール促進効果があることは知られていたが(特開平4−59116)、それに実用上有効な効果があるのは前記文献に実施例がある塩酸または塩酸主体の酸洗剤の場合であり、硫酸主体の酸洗剤ではその効果は非常に小さく、逆に素地侵食、スマット生成、ピッチング増大、さらには酸洗剤の泡立ちによる作業性の悪化といった界面活性剤のデメリットのほうが大きいことが当業者の認識であった(特許第3065280号)
しかし、チオ尿素と併用した場合には理由は不明だが硫酸または硫酸主体の酸洗剤であっても上記の界面活性剤のデメリットが低減され脱スケール促進効果のみが実用上有効なレベルで発揮される上、脱スケール時のミスト発生を低減でき、作業環境を改善する効果もある。
ノニオン系界面活性剤としてはポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシアルキレンブロックコポリマー類が挙げられるがこれに限定されない。添加を行う場合、5mg/L〜1g/L、より好ましくは10mg/L〜500mg/Lである。5mg/L以下では効果を示さず、1g/L以上では効果が頭打ちである上、酸洗剤の泡立ちが大きくなり作業性が悪化する。
さらにチオ尿素使用時に酸洗抑制剤を添加して素地侵食を抑え、スマットの発生やピッチングを減少することが出来ることは周知であるが(特許第3065280号)、本発明においても同様に酸洗抑制剤を添加することが可能であり、酸洗剤の濃度、スケールや素地の性状によっては有効である上、脱スケール終了後、更に長時間浸漬する場合において素地荒れの発生を抑える効果も期待できる。特に以下の式で表すチオ尿素誘導体が有効であった(R1、R2:炭素数1〜5のアルキル基またはフェニル基R3:炭素数2〜5のアルキレン基またはフェニレン基)。
Figure 0005743480
チオ尿素誘導体の添加量は添加を行う場合には0.2〜100mg/L、好ましくは0.5〜50mg/Lである。0.2mg/L以下では添加の効果がなく、100mg/L以上では脱スケール速度が低下する。
本発明の構成要素以外の脱スケール促進剤、酸洗抑制剤、酸洗促進剤などを適宜、酸洗剤に添加することが可能である。また、酸洗剤の構成に難溶性の物質を用いる場合にはアルコールなどの可溶化剤で溶かし込むことも可能である。これらは過度に脱スケールを妨げず、また、過度に腐食を促進させることがなければ特に限定は存在しない。
(実施例1〜8)
硫酸濃度が10重量%から20重量%であって本発明のチオ尿素、有機硫黄化合物としてジチオジグリコール酸ジナトリウム、ノニオン系界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルに属するエマルゲンLS−114(花王株式会社製)を加えた表1記載の組成の酸洗液を500ccのビーカーに用意し、これを60℃に設定した中に、熱処理された焼鈍スケールの付いた鋼線材を浸漬し、脱スケール時間、脱スケール時のスマットの生成状況、素材の素地荒れ状況を観察した。その結果を比較例とともに示す。この試験において発明の効果はスマット生成や素地荒れ等がなく外観が良い程、また、脱スケール時間が短い程良い。また、実施例8、比較例2、3は他の実施例・比較例と比べて脱スケール処理中にミストの発生が多いことを目視にて確認した。○△×評価については脱スケール時間については、○:脱スケール完了、△:スケールが若干残る、×:スケールが大量に残る、スマット生成については、○:スマット生成なし、△:スマットが若干生成、×:スマットが大量に生成、素地荒れについては、○:肉眼では素地荒れなし、△:肉眼で若干の素地荒れが確認できる、×:素地荒れがひどい状態、といった基準で評価した。
Figure 0005743480
(実施例9〜13)
有機硫黄化合物の種類を変化させて試験を行った。有機硫黄化合物の種類以外の条件は実施例3と同様であり、10分間浸漬後の脱スケールレベルを評価した。
Figure 0005743480
(実施例14〜17)
界面活性剤の種類を変化させて試験を行った。界面活性剤の種類以外の条件は実施例3と同様であり、10分間浸漬後の脱スケールレベルを評価した。
Figure 0005743480
ここで、エマルゲンLS−110(花王株式会社製)はポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ソルポール900A(東邦化学工業株式会社製)はポリオキシアルキレンアルキルアリルエーテル類、サーフィノール104E(日信化学工業株式会社製)はアセチレングリコール類、ニューコール3240(日本乳化剤株式会社製)はポリオキシアルキレンブロックコポリマー類に属する。
(実施例18〜21)
実施例9、10、14、15について、添加剤の種類以外の条件を実施例2と同様にして15分間浸漬後の脱スケールレベルを評価した。
Figure 0005743480
(実施例22〜24)
実施例3の酸洗剤に各種チオ尿素誘導体を添加した。10分間浸漬した結果を下表に示す。
Figure 0005743480
(実施例25〜27)
実施例3の酸洗剤に各種チオ尿素誘導体を添加した。20分間浸漬した結果を下表に示す。
Figure 0005743480
(実施例28〜30)
実施例3の条件に各種硫酸以外の酸を添加した。8分間浸漬した結果を下表に示す。また、スルホン酸にはトシル酸を用いた。
Figure 0005743480
(ランニング試験)
実施例3、7、8、比較例2について、これまでの試験に用いた鋼線材を連続で100本、脱スケールした。最初と最後に処理した鋼線材の評価を下表に示す。
Figure 0005743480
(特許文献との比較)
特許文献2の実施例には脂肪族カルボン酸として蟻酸、硫黄化合物としてグアニルチオ尿素、白色度向上成分としてポリエチレングリコール、硫化水素捕捉成分として尿素を用いた塩酸主体の酸洗剤が提示されている。そこで、硫酸15%の硫酸酸洗剤に特許文献2の実施例に相当する濃度で添加して試験を行った。
Figure 0005743480
以上より、蟻酸、ポリエチレングリコール、尿素を硫酸酸洗剤に添加しても脱スケール時間短縮やスマット発生防止、素地荒れ防止といった効果は発揮されず、グアニルチオ尿素は素地荒れを悪化させるのみである。以上より、特許文献2記載の発明は塩酸主体の酸洗剤に適用することで効果を得られるものであり、硫酸主体の酸洗剤に適用しても効果は得られないと考えられる。

Claims (7)

  1. 脱スケール促進剤としてチオ尿素と、チオ尿素ならびにチオ尿素誘導体以外の有機硫黄化合物を含有し、該有機硫黄化合物対該チオ尿素の重量比が0.05〜20:1であることを特徴とする硫酸又は硫酸主体の酸からなる鋼材の脱スケール酸洗剤。
  2. 脱スケール促進剤としてチオ尿素と、ノニオン系界面活性剤を含有することを特徴とする硫酸又は硫酸主体の酸からなる鋼材の脱スケール酸洗剤。
  3. 脱スケール促進剤としてチオ尿素、チオ尿素ならびにチオ尿素誘導体以外の有機硫黄化合物、ノニオン系界面活性剤を全て含有することを特徴とする硫酸又は硫酸主体の酸からなる鋼材の脱スケール酸洗剤。
  4. 前記有機硫黄化合物が硫黄を含有するカルボン酸、多価カルボン酸またはそれらの塩である請求項1、3のいずれか1項記載の脱スケール酸洗剤。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の脱スケール酸洗剤の濃厚液。
  6. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の脱スケール酸洗剤製造キット。
  7. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸洗剤を用いる鋼材の脱スケール酸洗方法。
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