以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る加熱調理器である炊飯器を示す。この炊飯器は、調理物である飯米を水と一緒にセットする内釜10と、この内釜10を収容する炊飯器本体13(調理器本体)と、この炊飯器本体13に回動可能に取り付けられた蓋体25とからなる。そして、本実施形態の炊飯器は、蓋体25に形成した排気通路内にふきこぼれを防止するための羽根部材64を配設するとともに、内釜10内の温度を検出する上部温度検出手段である蓋温度センサ31の検出値に基づいた上部測定温度TUと予め設定したふきこぼれ判定温度Tjとに基づいてふきこぼれが発生する前段階の状況を判断し、羽根部材64の回転数を調整する構成としている。
内釜10は、鉄などの金属材料等を鋳造により形成したもので、誘導加熱コイル20に高周波電流を流すことで発生した磁界により渦電流が流れることにより誘導加熱される。この内釜10は有底略逆円錐筒状をなし、その上端に径方向外向きに突出する第1フランジ部11が設けられている。また、内釜10には、第1フランジ部11を設けた上端と誘導加熱コイル20によって加熱される下側部分の間の中間位置に、径方向外向きに突出する第2フランジ部12が設けられている。この第2フランジ部12は、第1フランジ部11の外径より小さい外径の円環状に形成されている。
炊飯器本体13は、上下端を開口した筒状をなす金属(SUS430)製の胴体14と、胴体14の下端開口を閉塞する底体15と、胴体14の上端開口を閉塞する肩体16とを有する外装体を備えている。この肩体16には、略中央に開口部が設けられ、この開口部の上側縁で内釜10の第1フランジ部11を受ける。また、開口部には、内釜10の収容部を構成する筒状の内胴17と、非導電性材料からなる受け皿状の保護枠18とが配設されている。保護枠18には、上部に内釜10の第2フランジ部12を受ける段部19が設けられている。
保護枠18の外面には、内釜10の底を誘導加熱する第1(下部)加熱手段である誘導加熱コイル20がフェライトコア21を介して固定されている。また、保護枠18の段部19には、内釜10の中間層である第2フランジ部12を直接加熱する第2加熱手段として、中間層ヒータ22が配設されている。この中間層ヒータ22は、段部19に上下方向に移動可能に配設した環状の当接部材の内部に配設した線状ヒータからなる。さらに、内胴17の外側には、内釜10の外周部上層を加熱する第3加熱手段として胴ヒータ23が更に配設されている。そして、保護枠18の底中央には、保護枠18を貫通して内釜10に接触し、この内釜10の温度を検出する下部温度検出手段として底温度センサ24が配設されている。
図1および図2に示すように、蓋体25は、上板26と下板28とを有する外装体を備え、炊飯器本体13の上部を覆うものである。上板26の正面側には、蓋体25を開放するための開放操作部材27が配設され、その内部にロック機構(図示せず)が配設されている。下板28は、炊飯器本体13の背部のヒンジ接続部に開閉可能に装着されている。この下板28の下側面には放熱板29が配設され、この放熱板29上に、内釜10内の上部を加熱する第4(上部)加熱手段として蓋ヒータ30が配設されている。また、蓋体25の内部には、放熱板29上に位置するように、内釜10内の上部の空気層の温度を検出する蓋温度センサ31が配設されている。
蓋体25の内部には、内釜10の内部で発生した蒸気を外部に排気するための排気通路が形成されている。この排気通路は、後述する内蓋35の略中央に設けた連通部32が入口を構成する。内釜10内の蒸気は、連通部32から内蓋35に配設した圧力投入機構のケーシング内に流入し、このケーシング内を通ってケーシングと下板28に形成した弁収容部33との間に流入する。その後、弁収容部33の下端から放熱板29と内蓋35の間の空隙部34に流入し、この空隙部34を通って上板26に着脱可能に配設した後述する蒸気口セット43に流入する。そして、この蒸気口セット43内を通って外部へ排出される。即ち、本実施形態では、内釜10内を臨む連通部32、圧力投入機構、弁収容部33、空隙部34および蒸気口セット43を経た経路が排気通路を構成する。また、蓋ヒータ30は、排気通路を構成する空隙部34を介して内釜10の上部空間を加熱し、蓋温度センサ31は、同様に空隙部34を介して内釜10内の温度を検出する。
具体的には、蓋体25の内側面には、内釜10の上端開口を閉塞する内蓋35が着脱可能に配設されている。この内蓋35は金属製であり、外周部に内釜10の上端開口の内周部を密閉するシール部材36が配設されている。この内蓋35には、図示しない周知の圧力投入機構(リリーフ弁)が配設されている。この圧力投入機構は、内釜10の内部を大気圧より高い圧力に昇圧可能とするもので、内蓋35を蓋体25に装着した状態で排気通路を構成する弁収容部33内に配置される。圧力投入機構は、内釜10内と外部とを連通させた開状態、および、外部と遮断した閉状態に移動可能な球状部材を備えている。この球状部材は、下板28上に配設したソレノイドがオフ状態では、通気穴から離反されて排気通路を開状態とする。また、ソレノイドのオン状態では、球状部材を通気穴上に転動させて排気通路を閉状態とする。この閉状態では、内釜10内の圧力が設定した許容値を超えると、その蒸気圧によって球状部材が通気穴から後退して排気通路を開状態とする。
蒸気口セット43は、排気通路の出口部分を構成するもので、上板26に形成した配設凹部37に着脱可能に配設される。なお、配設凹部37には連通孔38が設けられ、下板28の上下に一致する部分には接続部39が設けられ、放熱板29の上下に一致する部分には通気部40が設けられている。そして、連通孔38と接続部39とはパッキン41によって気密にシールされ、接続部39と通気部40とはパッキン42によって気密にシールされている。そして、この配設凹部37に装着される蒸気口セット43は、図2および図3(A),(B)に示すように、下容器44に上カバー55を回転可能かつ着脱可能にヒンジ接続したものである。
下容器44は受皿状をなし、連通孔38内に挿入され、パッキン41によってシールされる挿入部45を備えている。この挿入部45の上部には、上向きに突出する筒状の流入口部46が設けられている。この流入口部46は、外周壁の一部が軸方向に沿って貫通され、この貫通溝から蒸気が流入されるとともに、おねばを含む結露水を内釜10へ還流させる。また、下容器44には、背面側外周部に上カバー55を回転可能に組み付けるヒンジ接続部47が設けられている。さらに、対向する正面側外周部には、背面側に向けて移動可能なロック部材48が配設されている。このロック部材48は、上方に設けられたロック爪部49により上カバー55を係止して閉塞状態に維持する。
下容器44の内部背面側には、蒸気口セット43内に流入した粘性液体であるおねばを掻き出すとともに、おねばによる気泡を破壊する気泡破壊機構63の配設段部50が設けられている。この配設段部50は平面視扇形形状をなし、その外周部に上向きに突出する外枠51が設けられている。この外枠51の中央部には、平面視十字形状の枠状をなす保護カバー部52が設けられている。保護カバー部52の交差した中央部には、羽根部材64を回転可能に支持する支持部53が設けられている。また、外枠51の正面側の面には、保護カバー部52内に連通する通気孔54が設けられている。
上カバー55は、蒸気口セット43を配設凹部37に配設した状態で、蓋体25の上板26と面一の外形をなすものである。この上カバー55には、下容器44の上端開口に嵌合する嵌合溝56が設けられ、この嵌合溝56内にパッキン57が配設されている。また、上カバー55は、配設段部50に外嵌する嵌合枠部58が設けられている。この嵌合枠部58内には、保護カバー部52の両側板に重畳する側板部59が更に設けられ、その間に排気通路出口である排気口60が設けられている。また、上カバー55には、背面側に下容器44のヒンジ接続部47に接続する接続部61が設けられるとともに、正面側にロック部材48に係止される被ロック部62が設けられている。
気泡破壊機構63は、排気通路の出口近傍である蒸気口セット43の配設段部50に配設されている。この気泡破壊機構63は、配設段部50上に回転可能に配設される羽根部材64と、羽根部材64を回転駆動する駆動手段であるモータ71とを備えている。
羽根部材64は、モータ71によって回転される回転体であり、排気口60へ向かう粘性液体状のおねばを排気口60から遠ざけるように掻き出すとともに、送風により吹き飛ばす。また、おねばによる気泡を当接により破壊するとともに、排気口60からの排気方向を除く方向への送風により蒸気口セット43の壁面に衝突させて破壊する。この羽根部材64は、保護カバー部52に対して排気通路の外(下)側から装着されるもので、羽根部材本体65、第1磁性部材68および組付基板69を備えている。
羽根部材本体65は樹脂製であり、保護カバー部52の支持部53に回転可能に支持される軸部66を備えている。この軸部66の外周には、4枚の羽根部67が等間隔で突設されている。第1磁性部材68は、モータ71との非接触式連結部を構成するもので、羽根部材本体65の下面に配設されている。この第1磁性部材68は、周方向にS極とN極とが交互に位置するように配設した磁石からなり、磁極の違いにより後述する第2磁性部材74に連動して回転可能としたものである。組付基板69は、羽根部材本体65を支持部53との間に回転可能に支持するとともに、保護カバー部52の下端開口を閉塞するもので、特殊ネジ(図示せず)を挿通する挿通孔70が設けられている。
モータ71は、配設段部50の下部に位置するように配設凹部37内に配設されている。このモータ71は、印加した電圧に比例して出力軸72の回転数が設定される直流モータからなる。モータ71の駆動回転数は、駆動回路73によって高速回転数となるように設定されている。モータ71の出力軸72は、配設段部50に配設した羽根部材64の軸部66と同一軸線上に位置するように配設され、その先端に非接触式連結部を構成する第2磁性部材74が配設されている。この第2磁性部材74は、第1磁性部材68と同様に、S極とN極とを交互に位置するように配設した磁石からなる。
この炊飯器には、炊飯器本体13内に制御基板(図示せず)が配設されている。この制御基板には、制御手段であるマイコン75が実装されている。図4に示すように、マイコン75は、内蔵した記憶手段であるROM76に予め記憶されたプログラムに従って、誘導加熱コイル20、中間層ヒータ22、胴ヒータ23および蓋ヒータ30の加熱(通電)制御を行い、予熱、昇温(中ぱっぱ)、沸騰維持、および、むらしなどの各工程を経て炊飯(調理)処理を実行するとともに、炊き上げた米飯を所定温度に保温する保温処理を実行する。
また、マイコン75は、内釜10の内部で飯米成分を含んだ蒸気が多く発生する工程にて、モータ71を介して羽根部材64を回転させる。そして、内釜10内で発生したおねばやおねばによる気泡が排気通路を通って排気口60の近傍まで排出されたり、排気通路内で発生したおねばによる気泡が排気口60の近傍まで排出されたりした場合に、おねばを排気口60から遠ざけるように掻き出すとともに、おねばによる気泡を羽根部材64と当接させることにより破壊する。または、羽根部材64の羽根部67による径方向外向きの送風により、おねばを吹き飛ばしたり、おねばによる気泡を蒸気口セット43の壁面に衝突させて破壊する。これにより、排気口60からの液状おねばのふきこぼれや、おねばによる気泡状のふきこぼれを防止する構成としている。
ふきこぼれの原因となるおねばまたは気泡が蒸気と一緒に排気通路に浸入するのは、水が沸騰する昇温工程の終わりから沸騰維持工程中である。そのため、本実施形態では、気泡破壊機構63を動作させる工程を、沸騰維持工程を含む昇温工程からむらし工程としている。そして、これらの工程にて、蓋温度センサ31によって検出した実際の検出値に基づいた内釜10内の上部測定温度TUと、予め設定したふきこぼれ判定温度Tj、ふきこぼれ抑制温度Tsおよびふきこぼれ抑制解除温度Trに基づいて、羽根部材64の回転数を調整する構成としている。なお、これらふきこぼれ判定温度Tj1,Tj2、ふきこぼれ抑制温度Tsおよびふきこぼれ抑制解除温度Trは、制御プログラムと一緒にROM76に予め記憶されている。
ここで、温度センサ24,31による測定温度TL,TUとふきこぼれの関係について説明する。炊飯処理が進み、昇温工程に移行すると、誘導加熱コイル20による加熱量が増大されるため、温度センサ24,31による測定温度TL,TUは徐々に上昇する。そして、内釜10内が沸騰する昇温工程の終盤から沸騰維持工程に移行すると、蓋体25の排気通路内に蒸気と一緒に粘性液体であるおねばやおねばによる気泡が浸入する場合がある。底温度センサ24による下部測定温度TLは、排気通路内へのおねばまたは気泡の浸入の有無に拘わらず変わることはない。しかし、蓋温度センサ31による上部測定温度TUは、排気通路内におねばまたは気泡が浸入すると、おねばや気泡が浸入していない正常炊飯時の上部測定温度TU1と比較して低くなる。即ち、蓋温度センサ31は、放熱板29および内蓋35(空隙部34)を介して内釜10内の上部測定温度TUを検出する。また、蓋ヒータ30は放熱板29および内蓋35(空隙部34)を介して内釜10の上部を加熱する。そして、おねばや気泡が排気通路内に浸入すると、おねばや気泡が排気通路の壁面である放熱板29に接するため、この放熱板29の熱がおねばや気泡に奪われる。その結果、蓋温度センサ31による上部測定温度TUは、おねばや気泡が浸入していない正常炊飯時の上部測定温度TU1と比較して低くなる。
そこで、本実施形態では、排気通路へのおねばまたは気泡の浸入の有無を判断するためのふきこぼれ判定温度Tjを設定している。このふきこぼれ判定温度Tjは、正常炊飯時に検出する上部測定温度TU1未満で、ふきこぼれ発生時に蓋温度センサ31が検出する上部測定温度TU2以上の範囲で設定している。これにより、蓋温度センサ31による上部測定温度TUが、ふきこぼれ判定温度Tj以下になった場合、排気通路に蒸気と一緒におねばまたは気泡が浸入したと判断できる。そして、蓋温度センサ31による上部測定温度TUが、ふきこぼれ判定温度Tj以下になると羽根部材64の回転数を上げ、ふきこぼれ判定温度Tjを超えると羽根部材64の回転数を下げる構成としている。
但し、沸騰維持工程での蓋温度センサ31による上部測定温度TUは、図5に示すように移行直後が低く、誘導加熱コイル20や蓋ヒータ30の加熱により蒸気温度が昇温するに従って昇温して略平衡する。そのため、本実施形態では、沸騰維持工程に移行した直後に用いる第1ふきこぼれ判定温度Tj1と、略平衡した状態で用いる第2ふきこぼれ判定温度Tj2とを、予め設定している。第1ふきこぼれ判定温度Tj1は、前述した温度範囲で、かつ、沸騰維持工程への移行温度(例えば70℃)より高い温度(例えば80℃)に設定している。第2ふきこぼれ判定温度Tj2は、前述した温度範囲で、かつ、第1ふきこぼれ判定温度Tj1より高い温度(例えば105℃)に設定している。
また、本実施形態では、排気通路におねばまたは気泡が浸入する前に予め羽根部材64を動作させるためのふきこぼれ抑制温度Tsを設定している。このふきこぼれ抑制温度Tsは、昇温工程にて使用されるもので、内釜10内で蒸気が出始める温度(例えば蓋温度センサ31による上部測定温度TUが60℃)としている。
さらに、本実施形態では、排気通路におねばまたは気泡が浸入しなくなった状態を判断するためのふきこぼれ抑制解除温度Trを設定している。このふきこぼれ抑制解除温度Trは、沸騰維持工程またはむらし工程にて使用される。具体的には、沸騰維持工程が進み、内釜10内の水が殆どなくなると、おねばまたは気泡が排気通路に浸入しなくなる。そうすると、蓋ヒータ30によって加熱される放熱板29の熱がおねばまたは気泡に奪われなくなるため、放熱板29を介して検出する蓋温度センサ31による上部測定温度TUは、正常炊飯時と同等になる。そのため、本実施形態では、第2ふきこぼれ判定温度Tj2より高く、ドライアップ後の上部測定温度TU1と略同等の温度(例えば140℃)にふきこぼれ抑制解除温度Trを設定している。そして、蓋温度センサ31による上部測定温度TUが、ふきこぼれ抑制解除温度Tr以上になると羽根部材64の回転を停止する構成としている。
次に、図5に示す一例に従って本発明の制御フローを具体的に説明する。
まず、炊飯処理が実行されると、予熱工程にて誘導加熱コイル20と蓋ヒータ30とが動作され、底温度センサ24による下部測定温度TLが約40℃を維持するように、誘導加熱コイル20をオンオフ制御(温調)する。この状態では、羽根部材64は動作が停止されている。なお、この状態での各温度センサ24,31による測定温度TL,TUは、温調温度と略同一である。
昇温工程に移行すると、誘導加熱コイル20がフルパワーで通電されることにより、底温度センサ24による下部測定温度TLが昇温した後、蓋温度センサ31による上部測定温度TUが昇温する。そして、蓋温度センサ31による内釜10内の上部測定温度TUが、ふきこぼれ抑制温度Ts以上になると(ふきこぼれ判断1)、羽根部材64の低速回転を開始する。その後、蓋温度センサ31による上部測定温度TUが予め設定した移行温度以上になると昇温工程を終了する。この移行温度は、余熱による内釜10内の突沸と防ぐため、内釜10内が沸騰しない程度の温度に設定している。そのため、この昇温工程での蓋温度センサ31による上部測定温度TUは、正常炊飯時およびふきこぼれ発生時のいずれでも略同じである。
沸騰維持工程に移行すると、誘導加熱コイル20のオンオフ制御(温調)が開始されるとともに、中間層ヒータ22および胴ヒータ23の動作が開始される。そして、底温度センサ24による下部測定温度TLが予め設定した移行温度(例えば110℃)以上になると沸騰維持工程を終了する。また、沸騰維持工程では、底温度センサ24による下部測定温度TLに基づいた温調制御と並行して、蓋温度センサ31による上部測定温度TUに基づいて羽根部材64の回転制御が実行される。そのため、羽根部材64の回転制御は、沸騰維持工程で終了する場合と、むらし工程に移行した後に終了する場合とがある。
具体的には、沸騰維持工程に移行すると、誘導加熱コイル20への通電が遮断される(沸騰維持1)。そして、所定時間後に誘導加熱コイル20への通電が再開される(沸騰維持2)と、第1ふきこぼれ判定温度Tj1との比較によるふきこぼれ判断2を実行する。そして、蓋温度センサ31による上部測定温度TUが、第1ふきこぼれ判定温度Tj1以下の場合には羽根部材64の回転数を高速に上げ、第1ふきこぼれ判定温度Tj1より高い場合には羽根部材64の回転数を低速に維持する。なお、図示のふきこぼれ発生時は、蓋温度センサ31による上部測定温度TUが第1ふきこぼれ判定値Tj1以下であり、羽根部材64を高速に上げた例を示している。
第1ふきこぼれ判定温度Tj1を用いたふきこぼれ判断2を実行すると、第2ふきこぼれ判定温度Tj2との比較によるふきこぼれ判断2’,3を実行する。このふきこぼれ判断2’,3は、沸騰維持工程への移行後に、上部測定温度TUが第2ふきこぼれ判定温度Tj2を超える予め設定した時間t以後に所定時間毎に実行される。具体的には、蓋温度センサ31による上部測定温度TUが、第2ふきこぼれ判定温度Tj2以下の場合(ふきこぼれ判断2’)には羽根部材64の回転数を高速に上げ、第2ふきこぼれ判定温度Tj2より高い場合(ふきこぼれ判断3)には羽根部材64の回転数を低速に下げる。なお、図示のふきこぼれ発生時は、蓋温度センサ31による上部測定温度TUが、第2ふきこぼれ判定値Tj2を超えたため羽根部材64を低速に下げ、再び第2ふきこぼれ判定値Tj2以下になったため羽根部材64を高速に上げた後、更に第2ふきこぼれ判定値Tj2を超えたため羽根部材64を低速に下げた例を示している。
また、沸騰維持工程では、前述したふきこぼれ判断2’,3と並行して、ふきこぼれ抑制解除温度Trとの比較によるふきこぼれ判断4が実行される。このふきこぼれ判断4では、蓋温度センサ31による上部測定温度TUが、ふきこぼれ抑制解除温度Trより高い場合には羽根部材64の回転を停止する。なお、図示のふきこぼれ発生時は、むらし工程への移行後に、蓋温度センサ31による上部測定温度TUがふきこぼれ抑制解除温度Trを超えた例を示している。
むらし工程に移行すると、誘導加熱コイル20への通電率を下げるとともに、中間層ヒータ22および胴ヒータ23への通電率を下げて、内釜10内の米飯をむらす。そして、予め設定された移行時間が経過すると、むらし工程を終了する。
また、本実施形態の羽根部材64の回転数は、図4(B)に示すように、炊飯容量毎に異なるように構成している。なお、この炊飯容量は、昇温工程にて予め設定した温度範囲を昇温するのに要した時間に基づいて判断される。また、図4(B)では、炊飯可能容量が5CUPの場合を示している。また、本実施形態の羽根部材64は、停止状態を除き、5段階で回転数を変更できるように構成している。そして、「0」は停止状態を意味し、「5」は最も回転数を上げた状態を意味する。
具体的には、多量の場合には、内釜10に適切な量で飯米と水をセットしていても、水面が元もと高い位置にあるため、誤って水を多く入れ過ぎると飯米成分を含むおねばが発生し易くなり、粘性液体状のふきこぼれが発生する。また、少量の場合には、使用する家庭の電圧状態や、製品を構成する部品のバラツキなどにより、強い火力が投入されると飯米成分を含むおねばによる気泡が多く発生し易くなり、気泡状のふきこぼれが発生する。そして、中量の場合には、多量や少量の場合と比較すると、多量ほどセットする水の量は多くなく、少量ほどおねばによる気泡が発生しないため、最もふきこぼれが発生し難い。よって、各ふきこぼれ判断1〜3での羽根部材64の回転数は、図示のように容量毎で異なり、中量での羽根部材64の回転数を他の容量の場合より少なくしている。
次に、マイコン75による炊飯処理について具体的に説明する。
マイコン75は、操作パネル部77の操作により炊飯処理が実行されると、図6に示すように、ステップS1で、予熱工程を実行する。この予熱工程では、前述のように、誘導加熱コイル20と蓋ヒータ30を所定の通電量かつ通電率で通電し、底温度センサ24の検出値に基づいた測定温度が約40℃になるように温度調整(オンオフ制御)する。そして、選択された炊飯メニューに応じた移行時間が経過すると、ステップS2からステップS9の昇温工程に移行する。
昇温工程では、まず、ステップS2で、誘導加熱コイル20と蓋ヒータ30に対してフルパワーで通電し続けるように電力を投入した後、ステップS3で、底温度センサ24による測定温度TLが移行温度(60℃)になるまで待機する(昇温1)。ついで、測定温度TLが60℃になると、ステップS4で、誘導加熱コイル20に対する通電量を約80%に抑え、ステップS5で、蓋温度センサ31による上部測定温度TUがふきこぼれ抑制温度Tsになるまで待機する(昇温2)。
そして、蓋温度センサ31による上部測定温度TUがふきこぼれ抑制温度Tsになると、ステップ6で、誘導加熱コイル20に対する通電率を低減(例えば約2/3)した後、ステップS7で、羽根部材64の回転を開始させる。この際、この時点では炊飯容量を判別していないため、羽根部材64の回転数は、5段階中の「2」の低速回転とする。また、ステップS8で、従来と同様の容量判別を行った後、ステップS9で、蓋温度センサ31による上部測定温度TUが移行温度(70℃)になるまで待機する(昇温3)。そして、上部測定温度TUが移行温度になると、図7に示す沸騰維持工程に移行する。
沸騰維持工程では、誘導加熱コイル20、中間層ヒータ22、胴ヒータ23および蓋ヒータ30に対して通電を行い、動作させる。そのうち、誘導加熱コイル20は、通電率が調整される一方、他の中間層ヒータ22、胴ヒータ23および蓋ヒータ30は予め設定された通電率で制御される。
具体的には、図7に示すように、まず、ステップS10で、昇温工程にて判別した炊飯容量を読み込む。そして、ステップS11で、内釜10内でふきこぼれが発生することを防止するための沸騰維持1を実行する。この沸騰維持1は、誘導加熱コイル20への通電を停止するもので、予め設定された時間が経過すると終了する。
そして、この沸騰維持1が終了すると、ステップS12に進むととともに、ステップS16からステップS25の回転数制御工程を並行処理する。
ステップS12では、内釜10内を沸騰温度に維持するように温調する沸騰維持2を実行する。この沸騰維持2では、誘導加熱コイル20が約80%の通電量で、かつ、昇温工程より低い通電率で動作される。そして、ステップS13で、底温度センサ24による測定温度TLがドライアップ設定温度(110℃)になるまで待機し、このドライアップ設定温度になると終了する。
沸騰維持2が終了すると、ステップS14で、ドライアップした内釜10内での余熱による米飯の焦げを防止する沸騰維持3を実行する。この沸騰維持3は、誘導加熱コイル20へ通電を停止するもので、予め設定した時間が経過すると終了する。
沸騰維持工程が終了すると、ステップS15で、むらし工程を実行する。このむらし工程では、設定された炊飯メニューと判別した炊飯容量に応じて、誘導加熱コイル20、中間層ヒータ22、胴ヒータ23および蓋ヒータ30に対する通電が行われる。そして、予め設定された移行時間が経過すると、炊飯処理の全工程が終了し、保温処理に移行する。
一方、前述したステップS12からステップS15の工程と並行処理される回転数制御工程では、まず、ステップS16で、ふきこぼれ判断2’,3を実行するためのカウントダウンタイマをリセットしてスタートさせる。
そして、ステップS17で、蓋温度センサ31による上部測定温度TUが第1ふきこぼれ判定温度Tj1より高いか否かを判定する。そして、上部測定温度TUが第1ふきこぼれ判定温度Tj1以下である場合には、ステップS18に進み、羽根部材64の回転数を上げてステップS19に進む。また、上部測定温度TUが第1ふきこぼれ判定温度Tj1より高い場合には、そのままステップS19に進む。なお、ステップS18での羽根部材64の回転数の増加は、図4(B)の判断2,2’で示すように、ステップS8で判別した炊飯容量毎に異なる。
ステップS19では、カウントダウンタイマがカウントアップするまで待機する。そして、カウントダウンタイマがカウントアップした場合にはステップS20に進む。なお、本実施形態では、ふきこぼれ判断2’を実行する基準を時間により構成したが、温度(第2ふきこぼれ判定温度Tj2)としてもよい。
ステップS20では、蓋温度センサ31による上部測定温度TUが第2ふきこぼれ判定温度Tj2以下であるか否かを判定する。そして、上部測定温度TUが第2ふきこぼれ判定温度Tj2以下である場合には、ステップS21に進み、羽根部材64の回転数を上げてステップS23に進む。また、上部測定温度TUが第2ふきこぼれ判定温度Tj2より高い場合には、ステップS22に進み、羽根部材64の回転数を下げてステップS23に進む。なお、ステップS21,S22での羽根部材64の回転数の増減は、図4(B)の判断2,2’および判断3で示すように、昇温工程にて判別した炊飯容量毎に異なる。また、既に羽根部材64の回転数が上げられている場合には、その高回転状態を維持し、既に羽根部材64の回転数が下げられている場合には、その低回転状態を維持する。
ステップS23では、蓋温度センサ31による上部測定温度TUがふきこぼれ抑制解除温度Trより高いか否かを判定する。そして、上部測定温度TUがふきこぼれ抑制解除温度Tr以下である場合には、ステップS20に戻る。また、上部測定温度TUがふきこぼれ抑制解除温度Trより高い場合には、ステップS24に進み、羽根部材64の回転を停止してステップS25に進む。
ステップS25では、移行時間が経過することによりむらし工程が終了するまで待機する。そして、むらし工程が終了すると、この回転数制御工程をむらし工程と共に終了して、保温処理に移行する。
このように、本発明の炊飯器は、ふきこぼれが発生し易い工程にて、気泡破壊機構63を構成する羽根部材64を回転させるため、排気通路の出口近傍の液状のおねばを排気口60から遠ざけることができるとともに、おねばによる気泡を破壊することができる。よって、効率的に液状ふきこぼれや気泡状ふきこぼれを防止できるため、炊飯時に内釜10に対して高い火力(加熱量)を加えることが可能になる。その結果、炊飯プログラムを作成する際の自由度を高め、おいしい米飯を炊き上げることが可能になる。
また、蒸気と一緒に飯米成分を含むおねばや気泡が排気通路に浸入すると、蓋ヒータ30によって加熱した排気通路の壁面である放熱板29の熱が、接しているおねばや気泡に奪われる。その結果、蓋温度センサ31による上部測定温度TUが通常炊飯時より低くなる。そして、この蓋温度センサ31による上部測定温度TUと予め設定したふきこぼれ判定温度Tjを比較することにより、排気通路に蒸気と一緒におねばまたは気泡が蓋温度センサ31の付近まで浸入したか否かを判定することができる。そして、蓋温度センサ31による上部測定温度TUがふきこぼれ判定温度Tj以下となり、蒸気と一緒におねばや気泡が浸入したと判断すると、羽根部材64の回転数を上げ、おねばを掻き出したり、気泡を破壊したりすることにより、確実にふきこぼれを防止できる。
即ち、本発明では、部品点数を増やすことなくふきこぼれが生じる前段階であるおねばまたはおねばによる気泡の浸入状況を検出し、気泡破壊機構63によって確実にふきこぼれを防止できる。その結果、内釜10を最大限に加熱し、理想的な火力で炊飯を行うことができる。また、気泡破壊機構63の回転体の回転数は、ふきこぼれが発生する可能性によって調整されるため、無駄な電力消費や騒音を抑えることができる。しかも、本実施形態では、炊飯容量毎に羽根部材64の回転数を異なるように設定し、特にふきこぼれが生じ難い中量での回転体の回転数を他の容量の場合より少なくしているため、無駄な電力消費や騒音を確実に防止できる。
なお、本発明の加熱調理器は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、ふきこぼれの発生の有無を前段階で判定するために、2個のふきこぼれ判定温度Tj1,Tj2を設定したが、1個(Tj2)だけとしてもよい。また、図8に示すように、正常時の上部測定温度TU1に対して一定温度差で複数個のふきこぼれ判定温度Tjを設定してもよい。さらに、複数のふきこぼれ判定温度Tjからなる温度勾配を設定し、所定時間毎の上部測定温度TUによる実際の温度勾配との比較により判定する構成としてもよい。
また、前記実施形態では、羽根部材64の回転を昇温工程の途中で開始したが、予熱工程の最初から動作を開始させてもよい。この場合、予熱工程では最も低回転数とし、昇温工程にてふきこぼれ抑制温度Tsになると、羽根部材64の回転数を上げる構成としてもよい。
さらに、前記実施形態では、蓋温度センサ31の検出値に基づいた上部測定温度TUとふきこぼれ判定温度Tjとの比較により回転体である羽根部材64の回転数を調整したが、底温度センサ24の検出値に基づいた測定温度TLとふきこぼれ判定温度Tjとの比較により羽根部材64の回転数を調整してもよい。
そして、前記実施形態では、本発明の加熱調理器として、炊飯器を例に挙げて説明したが、電磁調理器など、調理時に排気通路中に調理物成分を含む粘性液体や粘性液体による気泡が通過する加熱調理器であれば、いずれでも適用が可能であり、同様の作用および効果を得ることができる。