以下に添付図面を参照して、この発明にかかる電気機械変換素子の製造方法、電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド、及び液滴吐出装置の一の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
まず、本実施の形態における電気機械変換素子の製造方法によって製造される電気機械変換素子10の構成の一例を説明する。
図1に示すように、本実施の形態の電気機械変換素子10は、第1の電極12、電気機械変換膜14、第2の電極16を有している。電気機械変換素子10は、基板18上に形成されている。
第1の電極12及び第2の電極16は、導電性を有し、電極として機能する。第1の電極12及び第2の電極16の構成材料は、高い耐熱性と低い反応性を有する観点から、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptから選ばれる少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。具体的には、第1の電極12及び第2の電極16の構成材料としては、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptの白金族元素や、これらの合金や、これらの酸化物等が挙げられる。なお、第1の電極12は、基板18等の下地(特にSiO2)との密着性を良好にする観点から、Ti、TiO2、TiN、Ta、Ta2O5、Ta3N5等を先に積層することが好ましい。
なお、第1の電極12及び第2の電極16は、複数の薄膜層が積層された構成であってもよい。この場合には、各第1の電極12及び第2の電極16を構成する複数の薄膜層は、同じ材料から構成してもよいし、異なる材料から構成してもよく、目的とする電気機械変換素子10の特性にあわせて適宜調整すればよい。
第1の電極12及び第2の電極16としては、電気機械変換膜14に接する領域(薄膜層)を、上記白金族元素や合金の酸化物からなる酸化物電極層とすることが好ましい。このように構成することで、電気機械変換膜14が酸化物の電極層によってはさまれた状態となる。このため、電気機械変換膜14として、例えば、PZT(詳細後述)を用いた場合であっても、電気機械変換膜14に含まれるPbの拡散を防止することができ、圧電特性の劣化を抑制することができる。
電気機械変換膜14は、第1の電極12と第2の電極16とによる電気的入力を機械的な変形に変換する圧電特性を有する膜である。電気機械変換膜14としては、電気機械変換膜としての圧電特性を示す材料であれば特に限定されない。電気機械変換膜14としては、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が挙げられる。PZTとは、ジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体であり、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成は、PbZrO3とPbTiO3の比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O3、一般にPZT(53/47)と示される。
電気機械変換素子10の設けられる基板18としては、電気機械変換素子10を形成可能な基板であればいかなるものであってもよいが、シリコン単結晶基板を用いることが好ましい。シリコン単結晶基板の面方位としては、(100)、(110)、(111)と3種あり、基板18として何れの面方位のシリコン単結晶基板を用いてもよいが、(100)、(111)を用いることが好ましく、(100)を用いることがより好ましい。
なお、電気機械変換素子10を用いて液滴吐出ヘッドを構成する場合には、基板18としては、第1の電極12側に振動板として機能する層が設けられたものを用いる(図1では図示省略)。電気機械変換素子10を用いて構成した液滴吐出ヘッドでは、電気機械変換膜14によって発生した力を受けて振動板が変形変位することで、液滴吐出ヘッドの圧力室内のインク滴等の液滴が吐出される。
この振動板としては、Si、SiO2、Si3N4等の材料を用いてCVD法(化学的気相成長法)により作製したものが挙げられる。
次に、上記構成の電気機械変換素子10の製造方法について説明する。
上記のように構成された電気機械変換素子10は、基板18上に設けられた第1の電極12上に、電気機械変換膜14、及び第2の電極16をこの順に積層することによって製造する。なお、電気機械変換膜14は、複数の層の積層体である(詳細後述)。
具体的には、図2(A)に示すように、まず、第1の電極12の形成された基板18を容易する。なお、第1の電極12を基板18上に形成する方法としては、周知の成膜方法が挙げられる。第1の電極12の成膜方法としては、具体的には、真空成膜法(例えばスパッタリング法、MO−CVD法(金属有機化合物を用いた化学的気相成長法)、真空蒸着法、イオンプレーティング法)やゾルゲル法、水熱合成法、AD(エアロゾルデポジション)法、塗布・熱分解法(MOD)などの周知の成膜技術が挙げられる。
次に、電気機械変換膜14の前駆体溶液を調整する。この前駆体溶液とは、電気機械変換膜14の構成材料を溶媒に溶解させた溶液である。この前駆体溶液としては、例えば、酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドジルコニウム、イソプロポキシドチタンを出発材料にし、これらの出発材料を、共通溶媒としてのメトキシエタノールに溶解させたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)前駆体溶液が挙げられる。なお、金属アルコキシド化合物は、大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、該前駆体溶液には、アセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミン等の安定剤を適宜添加してもよい。
なお、以下、電気機械変換膜14の前駆体溶液を、PZT前駆体溶液と称して説明する。
そして、この調整したPZT前駆体溶液を、ゾルゲル法によって、第1の電極12上に塗布する。これによって、図2(A)に示すように、第1の電極12上に、PZT前駆体溶液による塗膜17Bを形成する(第1工程)。
そして、図2(A)に示すように、この塗膜17Bを乾燥することによって、乾燥した塗膜17B、すなわち乾燥膜15とする(第2工程)。
なお、この第2工程における塗膜17Bの乾燥とは、塗膜17Bに含まれる溶媒の重量が、5重量%以下となるまで溶媒を蒸発させることを示す。このため、第2工程における乾燥条件(温度、及び加熱時間)は、塗膜17Bの成分や厚みに応じて、上記条件を満たすように予め設定すればよい。
次に、図2(B)に示すように、この乾燥膜15上の全領域のうちの、電気機械変換膜14形成対象となる領域(第1領域)(以下、特定の領域と称する場合がある)に、選択的に、加熱装置20によって熱分解温度以上の熱を加える(第3工程)。この熱分解温度とは、該乾燥膜15に含まれる有機化合物が熱分解する温度である。この熱分解温度以上の温度としては、例えば、300℃以上の温度が挙げられる。
この第3工程において乾燥膜15の特定の領域に加える熱の温度は、上述のように、乾燥膜15に含まれる有機化合物が熱分解する熱分解温度以上であればよいが、該熱分解温度以上で且つ結晶化温度未満であることが好ましい。この結晶化温度とは、乾燥膜15に含まれる構成材料が結晶化する温度である。この結晶化温度としては、例えば、500℃以上700℃以下の温度が挙げられる。
このため、第3工程で乾燥膜15の特定の領域に加える熱の温度は、熱分解温度以上で且つ結晶化温度未満の温度として、例えば、300℃以上500℃未満等が好ましい。
なお、以下では、第3工程で乾燥膜15の特定の領域に加える熱の温度は、熱分解温度以上で且つ結晶化温度未満の温度であるものとして説明するが、上述のように、このような形態に限られない。なお、第3工程で乾燥膜15の特定の領域に加える熱の温度を、熱分解温度以上で且つ結晶化温度未満の温度とし、後述する第8工程における温度を結晶化温度以上の温度とする方が、電気機械変換膜14を構成する各層の結晶欠損を防ぐ観点から好ましい。
また、加熱装置20は、上記条件を満たす温度の熱を、乾燥膜15上の電気機械変換膜14形成対象となる領域に選択的に加えることの出来る装置であればよい。この加熱装置20としては、例えば、レーザ光を照射する装置等が挙げられる。
第3工程を経ることによって、乾燥膜15上の全領域のうち、熱分解温度以上の熱が加えられた領域は、非晶質(アモルファス)の非晶質領域15Aとなる。このため、第3工程によって、乾燥膜15には、該加熱によって熱分解した非晶質領域15Aと、それ以外の領域15Bと、が形成された状態となる。
次に、図2(C)に示すように、乾燥膜15における、非晶質領域15A以外の領域15Bを、ウェットエッチングによって除去する(第4工程)。
なお、このウェットエッチングに用いるエッチャントとしては、乾燥膜15における非晶質領域15A以外の領域15Bを選択的に除去する液体であればよいが、例えば、ふっ酸が用いられる。
なお、上記第3工程における熱分解によって熱分解した非晶質領域15Aは上記エッチャントによってエッチングされない。一方、乾燥膜15における非晶質領域15A以外の領域15Bには、まだ溶剤成分等が含まれているため、エッチャントによってエッチングされる。従って、第4工程を経ることによって、第1の電極12上には、非晶質領域15AであるPZT薄膜17のみが形成された状態となる(図2(C)参照)。なお、1回の成膜によって形成されるPZT薄膜17の厚みは、塗布するPZT前駆体溶液の量によって調整すればよいが、例えば、100nmが挙げられる。
次に、第1の電極12を表面改質して撥液化する(第5工程)。
具体的には、図2(D)に示すように、第1の電極12上に、SAM膜(自己組織化単分子膜(SAM:Self−Assembled Monolayer)22を形成する。これによって、第1の電極12上には、SAM膜22による親液領域24Bが形成される。一方、非晶質領域15A上には、SAM膜22が形成されないので、該非晶質領域15A上は撥液領域24Bとなる。
なお、このSAM膜22は、自己組織化単分子(SAM材料)を含む膜である。このSAM材料としては、アルカンチオール(CH3(CH2)n−SH)を用いる(nは1以上の整数)。
SAM膜22は、第1の電極12上にSAM溶液を塗布することによって形成する。このSAM溶液としては、SAM材料を有機溶媒に溶解させたものを用いればよい。なお、アルカンチオールは、分子鎖長により反応性や疎水性が異なるものの、C6からC18の分子を一般的な有機溶媒(アルコール、アセトン、トルエンなど)に溶解させればよい(濃度数モル/l)。そして、SAM膜22の成膜には、このSAM溶液を用いて、浸漬、蒸気、スピンコーター等により全面塗布処理を行い、余剰な分子を溶媒で置換洗浄し乾燥する方法を用いればよい。
なお、SAM膜22に含まれるSAM材料として、アルカンチオールを用いることから、第1の電極12及びPZT薄膜17の内の、金属領域である第1の電極12上にのみ、選択的にSAM材料が自己配列してSAM膜22が形成される。そして、PZT薄膜17は、酸化物であることから、PZT薄膜17上にはSAM膜22は形成されない。このため、第5工程を経ることによって、基板18上には、SAM膜22による親液領域24Aと、SAM膜22の設けられていないPZT薄膜17上の領域である撥液領域24Bと、が形成される。
なお、本実施の形態において撥液領域とは、純水に対する接触角が70°以上の領域を示す。一方、親液領域とは、純水に対する接触角が10°未満である領域を示す。
なお、上記接触角は、接触角計(協和界面科学(株)製:CA−X)を用い、25℃、50%RHの環境下で、純水を測定対象物の表面に3.1μl滴下し、該滴下から15秒後に求めた接触角を示す。なお、該接触角の測定は、滴下された液滴の端部、中央部で周方向に4点測定し、これらの平均値を接触角とした。
次に、PZT薄膜17上に、上記第1工程で用いたPZT前駆体溶液を、インクジェット法によりPZT薄膜17上に塗布する(第6工程)。これによって、PZT薄膜17上に、PZT前駆体溶液の塗膜17Bを形成する(図2(E)参照)。
上述のように、第5工程を経ることによって、基板18上には、撥液領域24Bと、PZT薄膜17上の領域である親液領域24Aとが形成されている。このため、このPZT薄膜17上にPZT前駆体溶液による液滴17Aをインクジェット法よって吐出することによって、第1の電極12上に選択的にPZT前駆体溶液による塗膜17Bが形成される。
次に、上記第1工程及び上記第2工程と同様に、この塗膜17Bを乾燥させた後に上記熱分解温度以上の温度で加熱する。これによって、図2(F)に示すように、熱分解した塗膜17BであるPZT薄膜17が、第1の電極12上に先に形成されているPZT薄膜17上に積層された状態となる(第7工程)。
なお、インクジェット法を用いた場合、1層あたり約30nm以上100nm以下の膜厚になるため、何層か重ね打ちする必要がある場合がある。このため、上記第5工程(図2(D)参照)、上記第6工程(図2(E)参照、及び上記第7工程(図2(F)参照)を繰り返す(第8工程(図2(G)参照))。これによって、第1の電極12上における電気機械変換膜14の形成対象領域に、複数のPZT薄膜17の積層された積層体14Aが形成される。なお、この第8工程の繰り返し数は、形成対象の電気機械変換膜14の厚みに応じて調整すればよい。
そして、更に、この積層体14Aを、上記結晶化温度以上の温度で加熱することによって、結晶化した積層体14Aとしての電気機械変換膜14が形成される(図2(H)参照)(第9工程)。
以上説明したように、本実施の形態の電気機械変換素子10の製造方法では、第1の電極12上に、PZT前駆体溶液による塗膜17Bを形成して乾燥膜15とした後に、該乾燥膜15の特定の領域にのみ選択的に熱分解温度以上の熱を加える(第1工程、第2工程、第3工程)。そして、乾燥膜15の熱分解された領域である非晶質領域15Aを残し、この非晶質領域15A以外の領域をウェットエッチングによって除去することで非晶質領域15AとしてのPZT薄膜17のみが第1の電極12上に形成された状態とする(第4工程)。そして、この第1の電極12を表面改質して撥液化し(第5工程)、さらにPZT前駆体溶液の液滴17Aを吐出して親液領域24AであるPZT薄膜17上に選択的にPZT前駆体溶液による塗膜17Bを形成する(第6工程)。そしてさらに、この塗膜17Bを乾燥及び熱分解する(第7工程)。そして、上記第5工程、第6工程、及び第7工程を繰り返した(第8工程)後に第9工程を経ることによって、所望の厚みの電気機械変換膜14を作製する。
このように、本実施の形態の電気機械変換素子10の製造方法では、最も第1の電極12側に形成されるPZT薄膜17を、PZT前駆体溶液の塗膜17Bを乾燥した乾燥膜15の一部の領域を選択的に熱分解温度以上の温度で加熱した後に該加熱領域以外の領域を除去することによって作製する。そして、この最も第1の電極12側のPZT薄膜17の上に設けるPZT薄膜17については、第1の電極12を表面改質して撥液領域24Bとし、親液領域24AであるPZT薄膜17上にPZT前駆体溶液を塗布することによって作製する。そして、上記第5工程、第6工程、及び第7工程を繰り返す(第8工程)ことで、所望の厚みの電気機械変換膜14を作製する。
従って、本実施の形態の電気機械変換素子10では、精度よく且つ容易に、目的とする形状で且つ安定した圧電特性を示す電気機械変換素子を容易に作製することができる。
なお、上記第6工程におけるPZT前駆体溶液の液滴17Aの塗布及び第7工程における乾燥及び熱分解温度以上の加熱は、公知の装置を用いればよいが、下記装置を用いることが好ましい。
図3及び図4には、上記第6工程及び上記第7工程で用いる薄膜形成装置30の構成の一例を示した。
図3及び図4に示すように、薄膜形成装置30において、架台200上にはY軸駆動手段201が設置されている。また、薄膜形成装置30には、ステージ203が設けられている。ステージ203上には、上記第5工程を経た基板18、すなわち基板18上の第1の電極12にSAM膜22が形成され、PZT薄膜17上のみが親液領域24Aとされた基板19(図2(D)参照)としての、基板202が載置される。ステージ203上に載置された基板202は、Y軸駆動手段201により、図3中Y−Y’方向に駆動される。なお、ステージ203は、真空や静電気などによって基板202をステージ203に固定するための吸着手段(図示しない)を備える。基板202は、この吸着手段によってステージ203で固定されている。
また、架台200上にはX軸支持部材204がY軸駆動手段201によりY−Y’方向に駆動されるステージ203を跨ぐように設置されている。X軸支持部材204には、X軸駆動手段205が取り付けられている。X軸駆動手段205にはZ軸駆動手段211に搭載されたヘッドスペース206が取り付けられている。このため、ヘッドスペース206は、ステージ203上においてX−X’方向及びZ−Z’方向に駆動される。ヘッドスペース206には、ステージ203に固定された基板202上に、PZT前駆体溶液の液滴17Aを吐出させるIJヘッド208(IJ;インクジェット)と、アライメント用カメラ215と、第2のレーザヘッド217とが搭載されている。IJヘッド208には、PZT前駆体溶液の供給用パイプ210が接続されている。IJヘッド208には、図示しないタンクからPZT前駆体溶液の供給用パイプ210を介してPZT前駆体溶液が供給される。これにより、IJヘッド208は、ステージ203に設置された基板202の表面にPZT前駆体液の液滴17Aを吐出させる。また、架台200上にはIJヘッド208の洗浄を行うためのヘッド洗浄機構212が設置されている。
アライメント用カメラ215は、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサなどのデジタルカメラであり、Y軸駆動手段201、X軸駆動手段205、Z軸駆動手段211などの駆動を制御するCPU(Central Processing Unit)等の制御装置に接続されている。薄膜形成装置30では、アライメント用カメラ215によりステージ203に設置された基板202の表面を撮像し、その撮像画像をもとに制御装置が駆動を制御することで、基板202の表面に対するIJヘッド208のアライメントを行う。また、基板202に照射されるレーザ光を撮像し、その撮像画像をもとに制御装置が駆動を制御することで、そのレーザ光とIJヘッド208により基板202上に吐出されたPZT前駆体溶液による塗膜17Bとのアライメントを行う。
第2のレーザヘッド217は、ステージ203に設置された基板202の表面にレーザ光を照射して、基板202上に吐出された塗膜17Bを加熱する。第2のレーザヘッド217は、塗膜17Bを乾燥温度に加熱した後に、熱分解温度以上の温度に加熱する。また、第2のレーザヘッド217は、結晶化温度以上の温度に加熱することもできる構成となっている。第2のレーザヘッド217はヘッドスペース206に設置されていることから、第2のレーザヘッド217とIJヘッド208とは、ステージ203に設置された基板202に対するY−Y’方向及びX−X’方向における動きが同期したものとなる。すなわち、第2のレーザヘッド217によるレーザ光の走査位置とIJヘッド208によるPZT前駆体溶液の液滴17Aの吐出位置とは連動する。なお、第2のレーザヘッド217はヘッドスペース206に設置されている必要はなく、第2のレーザヘッド217によるレーザ光の走査位置とIJヘッド208によるPZT前駆体溶液の液滴17Aの吐出位置とが連動できればよい。
図4は、薄膜形成装置30のレーザ照射機構を説明する概念図である。図4に示すように、第2のレーザヘッド217によるレーザ光を照射するタイミング及び強度は任意に制御される。すなわち、IJヘッド208から液滴17A吐出されて基板202の表面に付着した塗膜17Bを、レーザ光で乾燥及び熱分解、または乾燥、熱分解、及び結晶化(焼成)するタイミング及び強度は、任意に制御される。
このように、薄膜形成装置30は、レーザ光を塗膜17Bの位置に合わせて照射することができ、また、レーザの強度(加えられる熱の温度)も任意に調整することができる。このため、この薄膜形成装置30を用いて、上記第6工程、上記第7工程、上記第8工程、及び上記第9工程等を行うことで、スムーズでダメージレスな加熱工程を実現できる。
(第2の実施の形態)
次に、上記第1の実施の形態で作製した電気機械変換素子10を用いた液滴吐出ヘッドについて説明する。
図5に示すように、本実施の形態に係る電気機械変換素子10を用いた液滴吐出ヘッド50は、ノズル42の設けられたノズル板40と、流路基板18と、電気機械変換素子10と、密着層46と、を順に積層した構成である。流路基板18は、圧力室基板38と、振動板45と、を有している。密着層46は第1の電極12と振動板45との密着力を強めるために設けられた層である。振動板45と圧力室基板38とノズル板40とで圧力室44が形成され、この中にインク等の液体が充填されている。なお、図5では、共通液室、流体抵抗部等は省略している。
液滴吐出ヘッド50は、電気機械変換素子10により振動板45を振動させて圧力室44を加圧することで、ノズル板40のノズル42からインク滴等の液滴を吐出する構成である。また、液滴吐出装置は、画素毎に対応して設けられた液滴吐出ヘッド50が複数並べられた液滴吐出ヘッド52(図6参照)により、用紙などの記録媒体に画像形成を行う。
上述した液滴吐出ヘッド50及び液滴吐出ヘッド52においては、前述した電気機械変換素子10を備えているので、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。
(第3の実施の形態)
次に、上述した液滴吐出ヘッド50を搭載した液滴吐出装置の一例について図7及び図8を参照して説明する。
図7、及び図8に示すように、液滴吐出装置54は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93、キャリッジ93に搭載し、上述した薄膜形成で形成された液滴吐出ヘッド50または液滴吐出ヘッド52からなる記録ヘッド94、記録ヘッド94へインクを供給するインクカートリッジ95等で構成される印字機構部82等を収納する。記録装置本体81の下方部には前方側から多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット84(或いは給紙トレイでもよい)を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができ、給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する、上述した薄膜形成で形成された液滴吐出ヘッド50(または液滴吐出ヘッド52)からなる記録ヘッド94を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ93には記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
インクカートリッジ95は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により記録ヘッド94へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッド94としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
ここで、キャリッジ93は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、このタイミングベルト100をキャリッジ93に固定しており、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
一方、給紙カセット84にセットした用紙83を記録ヘッド94の下方側に搬送するために、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、用紙83を案内するガイド部材103と、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104と、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を記録ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設け、さらに用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び114と、排紙経路を形成するガイド部材115とを配設している。
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
また、キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で記録ヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(図示しない)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
上述した液滴吐出装置54においては、前述した液滴吐出ヘッド50または液滴吐出ヘッド52を用いた記録ヘッド94を搭載しているので、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。
以下に、電気機械変換素子の製造方法について、実施例により説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
(実施例A1)
シリコンウェハ上に、第1の電極として、白金膜をスパッタ成膜した。
次に、上記白金膜上に、PZT前駆体溶液をスピンコーターにより塗布した。
なお、このPZT前駆体溶液は、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。なお、化学両論組成に対し鉛量を10モル%過剰にした。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。
そして、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、先記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。このPZT濃度は0.1モル/lにした。
そして、白金膜上に塗布したPZT前駆体溶液による塗膜を、温度120℃、湿度40%RHの条件下に1分放置することによって乾燥膜とした。なお、この乾燥膜の厚みは20nmであった。
その後、このPZT前駆体溶液による塗膜を乾燥した乾燥膜上の、任意の領域(0.05mm×1mmの領域)に、CWレーザ装置を用いてレーザ光を照射した。なお、レーザ光の照射条件として、該乾燥膜の該レーザ光の照射領域が500℃となる温度条件(23W)で10ミリ秒間の照射を行った。
その後、ふっ酸(液体フッ化水素)をエッチャントとして用いてエッチングを行った。その結果、PZT前駆体溶液による塗膜を乾燥した乾燥膜における、該レーザ光を照射した領域としてのPZT薄膜のみが、第1の電極としての白金膜上に残り、レーザ光を照射しなかった領域は除去された。
次に、第1の電極としての白金膜の表面改質として、アルカンチオールにCH3(CH2)2−SHを用いた濃度0.01モル/l(溶媒:イソプロピルアルコール)のSAM溶液に、上記白金膜上にPZT薄膜の形成された積層体を浸漬させ、その後、イソプロピルアルコールで洗浄・乾燥させた。これによって、白金膜上にはSAM膜が形成された。なお、PZT上にはSAM膜が形成されていなかった。
このSAM膜形成後の白金膜における、純水に対する水の接触角を測定したところ、92.2°であった(図9(A)参照)。すなわち、図9(A)に示すように、第1の電極12としての白金膜上に、ノズル60から純水の液滴62Aを滴下し、白金膜上に滴下された水滴62Cの接触角を上述した方法で求めたところ、92.2°であった。
一方、SAM膜の形成されていない領域であるPZT薄膜における、純水に対する水の接触角を測定したところ、5°であった(図9(B)参照)。すなわち、図9(B)に示すように、PZT薄膜17としてのPZT薄膜に、ノズル60から純水の液滴62Aを滴下し、滴下された水滴62Cの接触角を上述した方法で求めたところ、5°であった。
次に、このSAM膜の形成された白金膜以外の領域、すなわち、PZT薄膜上に、インクジェット法により上記に調整したPZT前駆体溶液の液滴を吐出した。吐出されたPZT前駆体溶液は、白金膜の領域には広がらず、PZT薄膜上の領域にみに存在することを確認した。
そして、この吐出したPZT前駆体溶液による塗膜を、温度120℃、湿度40%RHの条件下に1分放置することによって乾燥膜とした。なお、そしてさらに、該乾燥膜に、上記と同様にして、該乾燥膜の該レーザ光の照射領域が500℃となる温度条件(23W)で10ミリ秒間の照射を行うことによって、熱分解を行った。熱分解後の該乾燥膜であるPZT薄膜の厚みは90nmであった。
引き続き、表面改質としてアルカンチオールによる浸漬処理、インクジェット法によるPZT前駆体溶液の液滴の吐出、乾燥(120℃)、熱分解(500℃)、の一連の処理を、6回繰り返すことによって、複数のPZT薄膜の積層体(合計膜厚540nm)を得た。
その後、700℃の温度で加熱する結晶化処理(焼成処理)を、RTA(急速熱処理)にて行った。得られたPZT薄膜の積層体を観察したところ、クラック等の不良は生じていなかった。
そして、さらに、表面改質としてアルカンチオールによる浸漬処理、インクジェット法によるPZT前駆体溶液の液滴の吐出、乾燥(120℃)、熱分解(500℃)、の一連の処理を、6回繰り返すことによって、複数のPZT薄膜の積層体(合計膜厚1000nm)を得た。
その後、700℃の温度で加熱する結晶化処理(焼成処理)を、RTA(急速熱処理)にて行った。得られたPZT薄膜の積層体を観察したところ、クラック等の不良は生じていなかった。
以上の工程を経ることによって、電気機械変換膜を作製した。
そして、この電気機械変換膜上に、第2の電極16としての白金電極を成膜し、電気機械変換素子を作製した。
なお、この第2の電極16としての白金電極の成膜は、該白金電極を成膜しない領域にレジストを塗布した後に、インクジェット法により白金溶液の塗布を行った。そして、120℃で乾燥処理した後に、レジストを剥離して、さらに250℃に加熱焼成した。焼成後の、白金電極の厚みは0.5μmであり、比抵抗は5×10−6Ωcmであった。
―評価―
上記作製した電気機械変換素子について、圧電特性の評価を行った。
具体的には、上記作製した電気機械変換素子について、電気機械変換膜の比誘電率、誘電損失、残留分極、抗電界を測定した。その結果、実施例A1で作製した電気機械変換素子の比誘電率は1220、誘電損失は0.02、残留分極は19.3μC/cm2、抗電界は36.5kV/cmであり、セラミック焼結体と同等の値を示した。このため、液滴吐出ヘッドに用いる電気機械変換素子として十分な圧電特性を示すことが確認できた。
なお、この比誘電率の測定は、測定器として、日本ヒューレット・パッカード社製HP4194A、HP4274Aを用い、日本ヒューレット・パッカード社製の電極(HP16451B、電極サイズ:φ5mm)を用いて、23℃の環境下で、周波数1MHzの交流電圧5Vを印加してから1分後の計測値を用いて比誘電率を測定するとともに、誘電損失を測定した。
残留分極と抗電界の値は、ソーヤ・タワー回路を用いて室温、50kHzで電界強度と分極のヒステリシス曲線の観察を行うことによって求めた。なお、通常のセラミック焼結体と同等の特性を有するP−Eヒステリシス曲線を、図10に示した。
また、電気機械変換能の評価として、圧電定数の測定を行った。
圧電定数は、上記作製した電気機械変換素子について、20℃の環境下で、第1の電極と第2の電極の間に15Vの電圧(周波数1kHz)を1×10−3秒印加したときの電気機械変換膜の最大変位量を、レーザドップラー振動計で測定し、測定結果から求めた。その結果、本実施例で作製した電気機械変換素子の圧電定数d31は、120pm/Vとなり、こちらもセラミック焼結体と同等の値を示した。このため、液滴吐出ヘッドに用いる電気機械変換素子として十分な圧電特性を示すことが確認できた。
さらに、電気機械変換膜の配向性を、XRD(X線回折)により測定したところ、通常のセラミック焼結体と比較して、面方位(111)に強く配向した膜が得られ、電気機械変換膜として良好な特性を示すことが確認できた(図11参照)。
(実施例A2、実施例A3、実施例A4、実施例A5)
上記実施例A1で作製した電気機械変換素子において、第1の電極として、白金電極に変えて、ルテニウムのチタン密着層、イリジウムのチタン密着層、ロジウムのチタン密着層、白金−ロジウム合金(ロジウム濃度が15重量%)のチタン密着層の各々を用いた以外は、実施例A1と同じ製法及び同じ条件で、実施例A2、実施例A3、実施例A4、及び実施例A5の各々の電気機械変換素子を作製した。
なお、本実施例A2〜実施例A5の各々における電気機械変換素子の作製において、SAM膜形成後の、第1の電極における、純水に対する水の接触角を測定したところ、90.0°であった。また、SAM膜の形成されていない領域であるPZT薄膜における、純水に対する水の接触角を測定したところ、5°以下であった。
また、実施例A2〜実施例A5の各々で作製した電気機械変換素子の各々について、実施例A1と同様にして、圧電特性の評価を行った。その結果、実施例A2で作製した電気機械変換素子の比誘電率は1200、誘電損失は2.5%、残留分極は20μC/cm2、抗電界は40kV/cm、圧電定数は−130pm/Vであった。また、実施例A3で作製した電気機械変換素子の比誘電率は1250、誘電損失は2.7%、残留分極は19μC/cm2、抗電界は40kV/cm、圧電定数は−130pm/Vであった。実施例A4で作製した電気機械変換素子の比誘電率は1200、誘電損失は2.7%、残留分極は19μC/cm2、抗電界は40kV/cm、圧電定数は−130pm/Vであった。また、実施例A5で作製した電気機械変換素子の比誘電率は1200、誘電損失は2.4%、残留分極は20μC/cm2、抗電界は40kV/cm、圧電定数は−130pm/Vであった。
以上のことから、実施例A2〜実施例A5の各々で作製した電気機械変換素子についても、液滴吐出ヘッドに用いる電気機械変換素子として十分な圧電特性を示すことが確認できた。
(実施例B)
上記実施例A1〜実施例A5で作製した電気機械変換素子を用いて、図6に示す液滴吐出ヘッドを作製し、液滴の吐出評価を行った。
具体的には、粘土を5cp(5×10−3Pa・s)に調整したインクを用いて、単純Push波形(プッシュプル回路)により−10V〜−30Vの印可電圧を加えたときの吐出状況を確認したところ、どのノズル孔からも、同じ量のインク滴の吐出を確認した。