JP5736819B2 - 電気機械変換膜の作製方法及び電気機械変換素子の作製方法 - Google Patents

電気機械変換膜の作製方法及び電気機械変換素子の作製方法 Download PDF

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Description

本発明は電気機械変換膜の作製方法及び電気機械変換素子の作製方法に関する。
振動センサ、圧電スピーカ、各種駆動装置などの装置は、電気機械変換膜を積層した電気機械変換素子を具備している。駆動装置において、例えば、インクジェット用記録装置の液体吐出ヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する加圧室と、圧電素子などの電気機械変換素子とを含み、加圧室内のインクを加圧することでノズルからインク滴を吐出させる。
電気機械変換膜の作製方法としては、スピンコート法などの方法がある。この方法は、スピンコート方式により基板全面に電気機械変換膜成分の前駆体を有するゾルゲル液を塗布し、熱処理(乾燥・熱分解・結晶化)することにより、均一な電気機械変換膜を形成する方法である。従来、加熱工程はホットプレートにより加熱してきたが、昇温レートが低く、成膜に長時間を要した。
そこで、特許文献1では、スピンコート法により基板全面にゾルゲル液を形成し、ゾルゲル液の面側とその裏面側との両方から赤外線を照射させて加熱する方法が紹介されている。
しかしながら、特許文献1の方法では、ゾルゲル液側から照射した赤外線の多くが、ゾルゲル液に吸収されるため、ゾルゲル液の膜内に結晶核が発生しやすくなることがあった。そのため、作製される電気機械変換膜は多結晶膜となり、配向や結晶粒サイズ等の結晶性が悪くなり、電気機械変換膜の電気的特性が悪くなることがあった。
そこで本発明は、ゾルゲル液を赤外線照射することにより電気機械変換膜を作製する方法であって、結晶性に優れ、電気的特性に優れた電気機械変換膜の作製方法を提供することを課題とする。
本発明によると、基板上に形成された下部電極を所定のパターンに表面改質する工程と、前記下部電極上の表面改質を行わない領域に、インクジェット方式によりゾルゲル液を塗布する工程と、前記基板の両面から赤外線を照射して前記ゾルゲル液を熱処理する工程と、を含み、前記熱処理する工程は、前記ゾルゲル液の膜と同じパターンを有するガラスマスクを、前記ゾルゲル液の膜の上に設置して施される電気機械変換膜の作製方法が提供される。
本発明によれば、ゾルゲル液を赤外線照射することにより電気機械変換膜を作製する方法であって、結晶性に優れ、電気的特性に優れた電気機械変換膜の作製方法が提供できる。
図1は、基板の表面改質の工程を説明するための概略図である。 図2は、ゾルゲル液をインクジェット法で塗布する工程を説明するための概略図である。 図3は、本発明に係る液滴吐出ヘッドの構成の一例を示す概略図である。 図4は、図3の液滴吐出ヘッドを複数個配置した様子を示す概略図である。 図5は、インクジェット用記録装置の斜視説明図である。 図6は、インクジェット用記録装置の機構部の側面説明図である。 図7は、インクジェット方式により形成した電気機械変換膜のパターンの一例である。 図8は、本発明に係る電気機械変換素子のヒステリシス曲線の一例である。
本発明に係る電気機械変換素子の作製方法を詳細に説明する。
電気機械変換素子は、一般的に、基板上に形成された下部電極と、電気機械変換膜と、上部電極と、を積層したものを含む。
[下部電極]
下部電極の材料としては、高い耐熱性と低い反応性を有するルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、プラチナ(Pt)の白金族金属や、これら白金族金属を含む合金材料などを使用することができる。また、これらの金属層を作製した後に、導電性酸化物層を積層して使用することも可能である。導電性酸化物としては、具体的には、化学式ABOで記述され、A=Sr、Ba、Ca、La、 B=Ru、Co、Ni、を主成分とする複合酸化物があり、SrRuOやCaRuO、これらの固溶体である(Sr1−x Ca)Oのほか、LaNiOやSrCoO、さらにはこれらの固溶体である(La, Sr)(Ni1−y Co)O (y=1でも良い)が挙げられる。それ以外の酸化物材料として、IrO、RuOも挙げられる。
電気機械変換素子を液体吐出ヘッドに応用する場合、電気機械変換素子と振動板との密着性を良くするために、基板上にTi、TiO、TiN、Ta、Ta、Ta等を密着層として先に積層しても良い。
下部電極の作製方法としては、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜法などの方法により作製することができる。
[電気機械変換膜]
本実施の形態においては、電気機械変換膜の材料として、PZTを主に使用した。PZTとはジルコン酸鉛(PbZrO)とチタン酸鉛(PbTiO)の固溶体である。例えば、PbZrOとPbTiOの比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53、Ti0.47)O、一般にはPZT(53/47)と示されるPZTなどを使用することができる。
PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムなどが挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。これら材料は一般式ABOで記述され、A=Pb、Ba、Sr B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbを主成分とする複合酸化物が該当する。その具体的な記述として(Pb1−x、 Ba)(Zr、 Ti)O、(Pb1−x、 Sr)(Zr, Ti)O、と表され、これはAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
PZTをゾルゲル法により作製する場合、出発材料に酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ均一溶液を得ることで、PZT前駆体溶液が作製できる。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加しても良い。
[電気機械変換膜の作製方法]
本発明に係る電気機械変換膜の作製方法について、図を参照して説明する。
まず、電気機械変換膜を作製する基板の表面改質について詳説する。図1に、基板の表面改質の工程を説明するための概略図を示す。図1(a)は、図示しない下部電極が形成された基板1である。この基板1上に、ドデカンチオール(CH(CH11−SH)等からなるSAM(Self Assembled Monolayer)を用いて浸漬処理させる(図1(b))。これにより、下部電極表面にはSAM材料2が反応しSAM膜が付着するため、表面状態を撥水化することができる。次に公知のフォトリソグラフィーにより、フォトマスク4を用いてフォトレジスト3を所望のパターンにパターン形成する(図1(c))。次に、酸素プラズマ又はUV光を基板表面に照射することや、ドライエッチングにより、フォトレジストに覆われていない部分のSAM膜を除去し、さらに、フォトレジストを除去してSAM膜のパターニングを終了する(図1(d))。
次に、ゾルゲル液をインクジェット法で基板に塗布する工程について詳説する。図2に、ゾルゲル液をインクジェット法で塗布する工程を説明するための概略図を示す。前記フォトリソグラフィーでフォトレジストが残った領域は、レジスト剥離後もパターン化SAM膜は残っているので、疎水性となる。一方、前記フォトリソグラフィーでフォトレジストが除去された領域は、ドライエッチングによりSAM膜が除去され、表面が電極材料となっているため、表面は親水性となっている(図2(a))。
その後、インクジェット方式により、インクジェット用記録ヘッド5よりPZT等の前駆体を含むゾルゲル液6を塗布する(図2(b))。この時、表面エネルギーのコントラストにより、ゾルゲル液の塗布領域は親水性の領域のみとなる。親水面の領域のみにゾルゲル液を吐出させることにより、塗布するゾルゲル液の使用量がスピンコート法等の従来プロセスよりも減らすことができると共に、工程を簡略化することが可能である。
インクジェット方式によりゾルゲル液を塗布した後、図示しない赤外線加熱装置により赤外線を照射することで熱処理を行う(図2(c))。ここで言う熱処理とは、ゾルゲル液膜に含まれる溶媒成分を乾燥させる工程と、乾燥させたゾルゲル液膜を熱分解させる工程と、熱分解されたゾルゲル液膜を結晶化させる工程と、を含む。この時、各々の工程は独立して行っても良く、連続して実施しても良い。また、各々の熱処理の好ましい温度としては、前駆体成分によっても変わるが、一般的には、ゾルゲル液膜に含まれる溶媒成分を乾燥させる工程は70℃〜350℃であり、乾燥させたゾルゲル液膜を熱分解させる工程は350℃〜650℃であり、熱分解されたゾルゲル液膜を結晶化させる工程は650℃〜950℃である。
インクジェット法では、一般的に、一層あたりおよそ30nm〜100nm程度の膜厚の電気機械変換膜が得られる(図2(d))。引き続き繰返し処理としてイソプロピルアルコール洗浄後、同様の浸漬処理にてSAM膜を形成する。2回目以降はSAM膜は酸化膜上には形成されず、図2(e)に示すようにフォトリソグラフィーの工程は不要である。次に、1度目に形成した電気機械変換膜パターン上に位置合わせを行い、再度インクジェット塗布装置によりゾルゲル液を塗布する(図2(f))。1回目と同じ熱処理を経て(図2(g))、重ね塗りされたPZT膜が得られる(図2(h))。以後、所望の膜厚となるまでこの工程を複数回繰り返すことができる。また、この時、下部電極上に所望のパターンにパターン化されたゾルゲル液膜と、同様のパターンを有するガラスマスク7を使用して熱処理することも好ましい(図2(i)。これにより、パターン化されたゾルゲル液膜周囲の下部電極領域に赤外線が照射されるため、ゾルゲル液膜自体は赤外線を吸収しない。そのため、さらに配向や結晶粒サイズ等の結晶性情報を引き継いで結晶成長することができ、より結晶性の優れた電気機械変換膜を作製することができる。
例えば、フォトリソグラフィー工程においてポジ型レジストを使用する場合、パターン化したゾルゲル液膜が形成される領域に光が透過し、パターン化ゾルゲル液膜が形成されない領域は遮光するフォトマスクが使用される。赤外線を照射する際に、このフォトマスクと同一なパターンを有し、かつ、透過/遮光領域が反転しているガラスマスクを、基板上のゾルゲル液膜パターンとガラスマスク上の遮光パターンとが合致するように設置しておく。これにより、ゾルゲル液膜自体は赤外線を吸収しない。つまり、基板裏面側からの赤外線照射熱と、パターン化ゾルゲル液膜周囲のPtからの伝熱効果と、から熱処理される。そのため、配向や結晶粒サイズ等の結晶性が優れた結晶を作製でき、電気機械変換膜特性がより向上する。前記基板上にフォトリソグラフィー工程により所定のパターンに下部電極を形成する場合に使用するフォトマスクを、熱処理する際のガラスマスクとして使用する場合は、ガラスマスクを共通化することができるため、コスト削減が可能となる。
赤外線加熱装置により赤外線を照射する場合、下部電極上のゾルゲル液塗布面側と、ゾルゲル液を塗布しない面側の、両方から照射することが好ましい。両面から赤外線を照射することで、昇温レートを速くすることができ、基板面内の温度分布を抑制することができる。そのため、良好な結晶性を有する電気機械変換膜を作製することができる。
ゾルゲル液は、インクジェット方式による塗布によりパターン化されている。そのため、下部電極上のゾルゲル液塗布面の占有面積は、下部電極の面積と比較して小さい。つまり、下部電極上のゾルゲル液塗布面側から赤外線照射では、下部電極面への伝熱効果が大きく取れ、かつゾルゲル液膜の赤外線吸収量は小さくなる。そのため、電気機械変換膜は、配向や結晶粒サイズ等の結晶性情報を引き継いで結晶成長することができ、結晶性の優れた電気機械変換膜を作製することができる。
一度の成膜で得られる電気機械変換膜の膜厚は、100nm程度であることが好ましい。この方法を繰り返すことで、所望の電気機械変換膜の膜厚を得ることができるが、5μm以下であることが好ましい。膜厚が5μmより大きいと何層も積層させる必要があるため、工程数が多くなりプロセス時間が長くなる。また、ゾルゲル液の濃度は、成膜面積と前駆体塗布量の関係から、当業者が適宜選択することができるものである。
下部電極として、金属層上に導電性酸化物層を積層した場合も、同様のプロセスにより電気機械変換膜層を作製することができる。具体的には、導電性酸化物層をフォトリソグラフィー工程およびエッチング工程でパターニングすることで、導電性酸化物層が除去され、金属層が露出する領域と導電性酸化物層が残留する領域とが形成できる。前記SAM処理では、金属層上のみにSAM膜が形成され撥水性となる一方、導電性酸化物層上はSAM膜が形成されないため親水性となる。そのため、インクジェット方式によるゾルゲル液の塗り分けが可能となる。
[液滴吐出ヘッド]
本発明に係る液滴吐出ヘッドについて、図と共に説明する。図3は、本発明に係る液滴吐出ヘッドの構成の一例を示す概略図である。図中では、液体供給手段、流路、流体抵抗部などについては省略している。また、図4は図3の液滴吐出ヘッドを複数個配置した例を示す。
液滴吐出ヘッドは、インク滴を吐出するノズル11と、このノズル11が連通する加圧室21(インク流路、加圧液室、圧力室、吐出室、液室等とも称される)と、加圧室内のインクを加圧する電気機械変換素子等の電気機械変換素子40と、インク流路の壁面を形成する振動板30とを備えている。電気機械変換素子は主に白金電極から成る上部電極44と、電気機械変換膜43と、酸化物電極42と白金族電極41とからなる下部電極を有する。圧力室は圧力室基盤20と振動板30と、ノズル板10とから構成される。前記電気機械変換素子で発生したエネルギーを受けて、振動板30が変形変位し、加圧室21内のインクを加圧することによってノズルからインク滴を吐出させる。
本発明によれば、図3中の電気機械変換素子40が簡便な製造工程で形成でき、かつセラミックス焼結体と同等の性能を有する。そのため、その後の圧力室形成のための裏面からのエッチング除去、ノズル孔を有するノズル板を接合することで簡便に液体吐出ヘッドを製造できる。
[インクジェット用記録装置]
次に、本発明に係る液滴吐出ヘッドを搭載した、インクジェット用記録装置の一例について、図5及び図6を参照して説明する。なお、図5はインクジェット用記録装置の斜視説明図を示し、図6はインクジェット用記録装置の機構部の側面説明図を示す。
本発明に係るインクジェット記録装置は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93、キャリッジ93に搭載した本発明の一実施形態であるインクジェット用記録ヘッド94、インクジェット用記録ヘッド94へインクを供給するインクカートリッジ95等で構成される印字機構部82等を収納する。記録装置本体81の下方部には、多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)84を抜き差し自在に装着することができる。また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができる。給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持する。キャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係るインクジェット用記録ヘッド94を、複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ93は、インクジェット用記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
インクカートリッジ95は、上方に大気と連通する図示しない大気口、下方にはインクジェット用記録ヘッド94へインクを供給する図示しない供給口を、内部にはインクが充填された図示しない多孔質体を有している。多孔質体の毛管力によりインクジェット用記録ヘッド94へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、インクジェット用記録ヘッド94としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
キャリッジ93は、用紙搬送方向下流側を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、用紙搬送方向上流側を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。タイミングベルト100は、キャリッジ93に固定されている。
また、本発明に係るインクジェット記録装置は、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101、フリクションパッド102、用紙83を案内するガイド部材103、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105、搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106、を設けている。これにより、給紙カセット84にセットした用紙83を、インクジェット用記録ヘッド94の下方側に搬送される。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
用紙ガイド部材である印写受け部材109は、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を記録ヘッド94の下方側で案内する。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設けている。さらに、用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115、116とを配設している。
画像記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を有する。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有する。キャリッジ93は、印字待機中に回復装置117側に移動されてキャッピング手段でヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに、記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド94の吐出口を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出す。また、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。さらに、吸引されたインクは、本体下部に設置された図示しない廃インク溜に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
本発明に係るインクジェット記録装置においては、本発明を実施したインクジェットヘッドを搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。
(実施例1)
基板上の白金膜を成膜した。白金層上に、ドデカンチオール(CH(CH11−SH)液を使用してディップすることによりSAM処理した。次に、フォトリソグラフィー法によりレジストを所定の位置にパターン化した。次に、酸素プラズマにより基板表面を照射することで、ゾルゲル液膜を形成する部分のSAM膜を除去した。そして、レジストを剥離した。
この工程により形成されたSAM膜の、純水に対する接触角を調べたところ、110度であった。また、SAM膜を除去した白金層の、純水に対する接触角は10度以下であった。つまり、インクジェット法により電気機械変換膜を成膜する際の、親水面と撥水面のコントラストが十分取れていることが確認できた。
次に、前記工程でパターニングされた親水領域に、インクジェット塗布装置によりゾルゲル液を塗布した。ゾルゲル液は、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。この時、化学両論組成に対し鉛量を15mol%過剰にした。これにより、熱処理中の鉛抜けによる結晶性低下を防ぐことが可能である。また、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進行させた。この溶液と、酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液とを混合することでゾルゲル液を合成した。ゾルゲル液のPZTの濃度は0.1mol/lにした。
図7にインクジェット方式により形成した電気機械変換膜のパターンの一例を示す。電気機械変換膜のパターニングは幅40μm、長さ500μmの長尺パターンとし、幅方向に1:1ピッチ(パターン幅=スペース幅=40μm)で複数個配列させた。電気機械変換膜のパターニングは、当業者が適宜選択できるものであり、本実施例のパターニングに限定されない。
基板のSAM処理を施した面側と、その裏面側の両方から、赤外線を照射することにより加熱処理した。第一の加熱(溶媒乾燥)として、120℃で処理した後、有機物の熱分解処理温度として500℃で熱処理を行った。この時、膜厚は100nmであった。
繰返し処理としては、イソプロピルアルコールで基板を洗浄した後、同様の浸漬処理にてSAM膜を形成した。この時の純水に対する接触角を調べたところ、SAM膜上は108度であり、PZT膜上は20度であった。1度目に形成した電気機械変換膜のパターン上に位置合わせを行い、再度インクジェット塗布装置によりゾルゲル液を塗布した。塗布後のPZT膜の膜厚は200nmであった。
前記工程をさらに4回繰り返し、600nmのPZT膜のパターンを得た。そして、赤外線照射による結晶化処理(温度700℃)を80℃/secの昇温レートにて行った。
さらに、同様の工程で、6回のSAM膜処理→ゾルゲル液の塗布→120℃乾燥→500℃熱分解を行い、最後に700℃による結晶化処理を同様に実施した。得られたPZT膜の膜厚は1200nmであった。得られたPZT膜にはクラックはなかった。
実施例1で得られたパターン化されたPZT膜上に、上部電極として白金を成膜した。
(実施例2)
赤外線照射をする際に、フォトリソグラフィー工程によるSAM膜のパターニングで使用したパターンと同じパターンのガラスマスクであって、遮光面/透過面が反転しているガラスマスクを基板に合致させて赤外線照射した以外は、実施例1と同様の工程で電気機械変換素子を作製した。
(実施例3)
基板上に白金膜を成膜した。さらに、その白金膜の上面にニッケル酸ランタン(LNO)電極を形成した。その後、フォトリソグラフィー法を用いてLNO電極を所定のパターンにパターニングした。その後の工程は実施例2と同様の工程で電気機械変換素子を作製した。なお、一度目のSAM処理後における、SAM膜の純水に対する接触角は118度あり、LNOパターン膜上の接触角は13度であった。
(比較例1)
基板のSAM処理が施されていない面側からのみ、赤外線照射による加熱処理を行った以外は、実施例1と同様の工程で、PZT膜を作製した。赤外線照射による熱処理を行った後の、PZT膜にはクラック不良が生じていた。
(比較例2)
基板のSAM処理が施されていない面側からのみ、赤外線照射による加熱処理を行った以外は、実施例3と同様の工程で、電気機械変換素子を作製した。
[特性評価]
各実施例及び比較例2について、各種電気特性及び圧電定数の評価を行った。図8に実施例1における電気機械変換素子のヒステリシス曲線を示す。実施例1及び実施例2でえら得た電気機械変換素子はいずれも、比誘電率1190、誘電損失0.03、残留分極19.5uC/cm2、抗電界36.5kV/cmであり、通常のセラミック焼結体と同等の特性を有していた。また、電界印加による変形量をレーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせこみから電気機械変換能を算出した。その結果、実施例1では圧電定数d31は121pm/V、実施例2では圧電定数d31は130pm/Vであり、セラミック焼結体とほぼ同等の値であった。また、この電気機械変換素子を、例えば、インクジェット用プリンタの液滴吐出ヘッドに使用する場合に、十分に設計可能の特性値である。実施例3では比誘電率が1210であり、圧電定数d31が128pm/Vであった。こちらも、インクジェット用プリンタの液滴吐出ヘッドに使用する場合に、十分に設計可能の特性値である。比較例2では、比誘電率が870であり、圧電定数d31が23pm/Vであった。
1 基板
2 SAM材料
3 フォトレジスト
4 フォトマスク
5 インクジェット用記録ヘッド
6 ゾルゲル液
7 ガラスマスク
特開平10−291887号公報

Claims (6)

  1. 基板上に形成された下部電極を所定のパターンに表面改質する工程と、
    前記下部電極上の表面改質を行わない領域に、インクジェット方式によりゾルゲル液を塗布する工程と、
    前記基板の両面から赤外線を照射して前記ゾルゲル液を熱処理する工程と、
    を含み、
    前記熱処理する工程は、前記ゾルゲル液の膜と同じパターンを有するガラスマスクを、前記ゾルゲル液の膜の上に設置して施される電気機械変換膜の作製方法。
  2. 前記熱処理する工程は、
    前記下部電極上に塗布された前記ゾルゲル液を乾燥する工程、
    乾燥された前記ゾルゲル液を熱分解する工程、
    熱分解された前記ゾルゲル液を結晶化する工程、
    を含む、請求項1に記載の電気機械変換膜の作製方法。
  3. 前記下部電極は、フォトマスクを用いて前記基板上に所定のパターンにパターニングされ、前記フォトマスクは前記ガラスマスクと同一である、請求項1又は2に記載の電気機械変換膜の作製方法。
  4. 前記表面改質する工程は、チオール化合物により前記下部電極上を撥水性に表面改質する、請求項1から3のいずれか1項に記載の電気機械変換膜の作製方法。
  5. 前記表面改質する工程と前記ゾルゲル液を塗布する工程と前記熱処理する工程とを2回以上繰り返す、請求項1から4のいずれか1項に記載の電気機械変換膜の作製方法。
  6. 請求項1から5のいずれか1項に記載の方法で形成された電気機械変換膜上のみに上部電極を配置する、電気機械変換素子の作製方法。
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