以下に添付図面を参照して、この発明にかかる電気機械変換素子、電気機械変換素子の製造方法、液滴吐出ヘッド、及び液滴吐出装置の一の実施形態を詳細に説明する。
図1に示すように、本実施の形態の電気機械変換素子10は、第1の電極12、第2の電極14、電気機械変換膜16、第3の電極18を有している。電気機械変換素子10は、基板22上に、振動板24を介して形成されている。なお、図1中、20は、第2の電極14の表面に付着したアルカンチオール等の自己組織化単分子膜(Self Assembled Monolayer)を示している(以下、SAM膜と称する)。
第1の電極12は、少なくとも最表面に酸化物電極層を有する構成とされている。なお、この第1の電極12は、少なくとも最表面に酸化物電極層を有する構成であればよく、第1の電極12を酸化物電極層のみで構成してもよいし(図1中の酸化物電極層12A参照)、図2に示すように、金属電極層12B上に酸化物電極層12Aを積層した積層体として構成してもよい(図2、電気機械変換素子10C参照)。なお、第1の電極12を、金属電極層12B上に酸化物電極層12Aを積層した積層体とすることが、配線抵抗を補う観点から好ましい。
第2の電極14は、第1の電極12における酸化物電極層12A上に設けられている。第2の電極14は、後述する製造工程においてパターニングされて、第1の電極12(酸化物電極層12A)上に設けられている。このパターニングによって、第1の電極12(酸化物電極層12A)には、第2の電極14の設けられた領域と、第2の電極14の設けられていない領域と、が形成される。なお、第2の電極14は、金属電極とされている。
このように、第2の電極14として、酸化物電極に比べて比抵抗の十分低い金属電極を用いることで、電気機械変換素子10の電圧駆動を行ったときに共通電極(詳細後述)に対して十分な電流を供給することができ、多数の電気機械変換素子10を同時に駆動した場合においても、素子間でばらつきがなく、詳細を後述する電気機械変換膜16の十分な変位量を得ることが出来る。また、第2の電極14として金属電極を用いることで、酸化物電極を用いた場合に比べて比抵抗値の増大(酸化物電極は金属電極に比べて比抵抗値が10〜103倍)によるインク吐出特性の劣化が抑制される。
電気機械変換膜16は、第1の電極12と第3の電極18とによる電気的入力を機械的な変形に変換する圧電特性を有する膜である。本実施の形態の電気機械変換素子10では、電気機械変換膜16は、第1の電極12の酸化物電極層12Aにおける、第2の電極14の形成されていない領域に設けられている。すなわち、電気機械変換膜16は、第1の電極12における酸化物電極層12A上に接するように設けられている。この電気機械変換膜16としては、該圧電特性を有する膜であればよいが、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛(lead zirconate titanate)等が用いられる(詳細後述)。
第3の電極18は、電気機械変換膜16上に設けられている。第3の電極18は、酸化物を含む酸化物電極とされている。本実施の形態の電気機械変換素子10では、第3の電極18が酸化物電極であり、第1の電極12の電気機械変換膜16側の最表面が酸化物電極層12Aであるので、電気機械変換膜16は、酸化物の電極によってはさまれた状態となる。このため、電気機械変換膜16としてPZTを用いた場合であっても、電気機械変換膜16に含まれるPbの拡散を防止することができ、電気機械変換特性の劣化を抑制することができる。
なお、第3の電極18についても、第1の電極12と同様に、配線抵抗を補うために、酸化物電極層と金属電極層とを積層した構成とすることが好ましい。この場合には、電気機械変換膜16におけるPbの拡散防止の観点から、第3の電極18の酸化物電極層を、電気機械変換膜16に接する側に設けた構成が望ましい。
なお、上記「金属電極層」及び「金属電極」とは、各金属電極層及び金属電極が、導電性(体積抵抗率が1×10−6Ωcm以下)を示す程度に金属材料を含んだ構成であることを示している。また、上記第1の電極12、第2の電極14、第3の電極18の何れにおいても、導電性を示す。また、「酸化物の電極」及び「酸化物電極」とは、酸化物を含む電極を示している。
なお、各層の材料構成の詳細については後述する。
次に、電気機械変換素子10を構成する各層の構成について詳細に説明する。
―基板―
電気機械変換素子10の設けられる基板22としては、電気機械変換素子10を形成可能な基板であればいかなるものであってもよいが、シリコン単結晶基板を用いることが好ましい。この基板22の厚みとしては、例えば、100μm以上600μm以下の範囲が挙げられる。シリコン単結晶基板の面方位としては、(100)、(110)、(111)と3種あり、基板22として何れの面方位のシリコン単結晶基板を用いてもよいが、(100)、(111)を用いることが好ましく、(100)を用いることがより好ましい。
なお、本実施の形態における基板22としては、(100)の面方向を持つシリコン単結晶基板を用いた。
なお、電気機械変換素子10を用いて液滴吐出ヘッドを構成する場合には、シリコン単結晶基板をエッチングにより加工するが、この場合のエッチング方法としては、異方性エッチングが挙げられる。
異方性エッチングとは、結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものである。例えばKOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、面方位(100)では約54°の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、面方位(1
10)では深い溝を掘ることができるため、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができる。
―振動板―
電気機械変換素子10を用いて構成した液滴吐出ヘッドでは、電気機械変換膜16によって発生した力を受けて振動板24が変形変位することで、液滴吐出ヘッドの圧力室内のインク滴等の液滴が吐出される。このため、振動板24は、液滴の吐出のための振動に耐えうる程度の強度を有することが好ましい。
このような観点から、振動板24としては、Si、SiO2、Si3N4等の材料を用いてCVD法(化学的気相成長法)により作製したものが挙げられる。更に、振動板24の材料としては、第1の電極12及び電気機械変換膜16の線膨張係数に近い(電気機械変換膜16と第1の電極12の線膨張係数の差が±3×10−6(1/K)以下)材料を選択することが好ましい。
例えば、電気機械変換膜16の材料としてPZTを用いた場合には、振動板24の材料としては、PZTの線膨張係数8×10−6(1/K)に近い線膨張係数である5×10−6(1/K)〜10×10−6(1/K)の線膨張係数を有する材料を用いることが好ましく、7×10−6(1/K)〜9×10−6(1/K)の線膨張係数を有する材料を用いることがより好ましい。
振動板24の具体的な材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウ
ム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等が挙げられる。
振動板24の膜厚としては、インク滴等の液滴の吐出のための振動及び強度が実現される厚みであればよく、電気機械変換素子10の構成や構成材料によって選択される。具体的には、振動板24の膜厚としては0.1μm以上10μm以下が好ましく、0.5μm以上3μm以下がより好ましい。振動板24の厚みが上記範囲内とされていることで、電気機械変換素子10を用いて液滴吐出ヘッドを構成するときに圧力室の加工が容易となり、且つ振動板24が変形変位しやすく、インク滴が安定して吐出される。
―第1の電極―
上述のように、第1の電極12は、少なくとも最表面に酸化物電極層12Aを有する構成とされている。
第1の電極12の最表面に設けられている酸化物電極層12Aは、一般式(1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物、すなわち一般式(1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物を主成分とする構成とされている。
ABO3 (1)
一般式(1)中、Aは、Sr、Ba、Ca、Laから選ばれる少なくとも1種を主成分とするAサイト元素を示し、Bは、Ru、Co、Niから選ばれる少なくとも1種を主成分とするBサイト元素を示す。
なお、本明細書において、「主成分」とは、含有量が80原子%以上であることを意味する。
上記一般式(1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物としては、具体的には、SrRuO3やCaRuO3、これらの固溶体である(Sr1−xCax)O3、LaNiO3やSrCOO3、これらの固溶体である(La,Sr)(Ni1−yCOy)O3等が挙げられる。なかでも、上記一般式(1)で示されるペロブスカイト型複合化合物としては、電気機械変換膜16として使用されるPZTを配向制御させる観点から、LaNiO3、SrRuO3を用いることが好ましく、PZTを(100)もしくは(001)方位に配向制御させるためには、下地層としてLaNiO3が好ましく、(111)方位に配向制御させるためには、下地層としてはSrRuO3を用いることが特に好ましい。
なお、上記(Sr1−xCax)O3中、Xは0.3以上0.7以下であり、(La,Sr)(Ni1−yCOy)O3中、Yは0.3以上0.7以下である。なお、Yは1であってもよい。
第1の電極12の最表面に設けられている酸化物電極層は、上述のように、一般式(1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物を主成分とする構成とされていればよいが、該酸化物電極層に含まれるその他の成分として、IrO2やRuO2等の酸化物を含む構成であってもよい。
第1の電極12は、配線抵抗を補うために、金属電極層(図2中、金属電極層12B参照)上に、酸化物電極層(図2中、酸化物電極層12A参照)を設けた積層体としてもよい。この金属電極層12Bの構成材料としては、高い耐熱性と低い反応性を有するRu、Rh、Pd、Os、Ir、Ptの白金族元素や、これら白金族元素を含んだ合金材料が挙げられる。また、第1の電極12は、基板22や振動板24等の下地(特にSiO2)との密着性が悪いために、Ti、TiO2、TiN、Ta、Ta2O5、Ta3N5等を先に積層することが好ましい。
―第2の電極―
第2の電極14は、金属電極とされている。第2の電極14に用いる金属材料としては、Au、Ag等の触媒作用の小さい白金属元素以外の遷移金属からなる材料を用いることが好ましい。なお、第2の電極14として、Au、Agのどちらかの材料を用いた場合には、耐熱性の観点から、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptの白金族元素との合金材料を用いることが好ましい。
第2の電極14として、AuもしくはAgを含んだ合金材料を用いた場合には、それらの重量比率が20%以上であることが好ましく、40%以上がさらに好ましい。該重量比率が20%以上であると、触媒作用が抑制され、電極表面上へのPbの付着が抑制される。第2の電極14の膜厚としては、例えば、0.05μm以上1μm以下や、0.1μm以上0.5μm以下が挙げられる。
―電気機械変換膜―
電気機械変換膜16の材料としては、電気機械変換膜としての圧電特性を示す材料であれば特に限定されないが、例えば、PZTが挙げられる。PZTとは、ジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体であり、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成は、PbZrO3とPbTiO3の比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O3、一般にPZT(53/47)と示される。酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物の出発材料は、この化学式に従って秤量される。
なお、金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定剤を適量、添加してもよい。
また、電気機械変換膜16に用いられるPZTとしては、ABO3(一般式(X))示される複合酸化物を用いてもよい。なお、一般式(X)中におけるAは、Pb、Ba、Srの少なくとも1種を主成分とするAサイト元素を示し、Bは、Ti、Zr、Sn、Ni、Znmg、Nbの少なくとも1種を主成分とするBサイト元素を示す。
このような複合酸化物としては、具体的には、(Pb1−x,Ba)(Zr,Ti)O3や、(Pb1−x,Sr)(Zr,Ti)O3が挙げられる。これらは、上記一般式(X)におけるAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
なお、上記(Pb1−x,Ba)(Zr,Ti)O3及び(Pb1−x,Sr)(Zr,Ti)O3中、Xは0.3以上0.7以下の値である。
電気機械変換膜16に用いられるPZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムなどが挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。
電気機械変換膜16の膜厚としては0.5μm以上5μm以下や、1μm以上2μm以下が挙げられる。電気機械変換膜16の膜厚がこの範囲であれば、インク滴を吐出するために十分な電気機械変位が発生し、且つ製造時の工程数の減少が図れる。
―第3の電極―
第3の電極18は、酸化物を含む酸化物電極とされている。なお、第3の電極18は、酸化物のみからなる電極であることが好ましい。
この第3の電極18に含まれる酸化物としては、上記一般式(1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物や、IrO2やRuO2等の酸化物が挙げられる。
なお、第3の電極18の材料としては、第1の電極12の酸化物電極層12Aと同じ材料(ペロブスカイト型複合酸化物)を用いてもよいし、異なる複合酸化物や酸化物を用いてもよい。
また、配線抵抗を補うために、第3の電極18を、該酸化物を含む酸化物電極層上に、金属電極層を設けた構成としてもよい。この金属電極層の構成材料としては、白金、イリジウム、白金−ロジウムなどの白金族元素や、これらの合金膜、またはAg合金、Cu、Al、Auが挙げられる。
第3の電極18の膜厚としては、0.05μm以上1μm以下や、0.1μm以上0.5μm以下が挙げられる。
上記のように構成された電気機械変換素子10は、基板22上に形成された振動板24上に、第1の電極12及び第2の電極14をこの順に形成した後に、電気機械変換膜16、第3の電極18をこの順に形成することによって製造される。
具体的には、まず、基板22上に振動板24を形成する(図3(A)参照)。基板22上に振動板24を設ける方法としては、周知の成膜方法が挙げられる。具体的には、真空成膜法(例えばスパッタリング法、MO−CVD法(金属有機化合物を用いた化学的気相成長法)、真空蒸着法、イオンプレーティング法)やゾルゲル法、水熱合成法、AD(エアロゾルデポジション)法、塗布・熱分解法(MOD)などの周知の成膜技術が挙げられる。
次に、基板22上に形成された振動板24上に、第1の電極12を形成する(図3(B)参照)(第1の工程)。ここでは、第1の電極12として酸化物電極層12Aのみを形成する場合を説明する。この第1の電極12としての酸化物電極層12Aは、スパッタリング法やゾルゲル法を用いて、スピンコーターにて作製される。
なお、酸化物電極層12A(第1の電極12)の一部においてパターニングを行う必要がある場合には、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得ればよい。これ以外のパターニングの方法として、下地である振動板24の、酸化物電極層12A(第1の電極12)の形成領域以外を表面改質させて疎水化し、疎水化していない親水性の領域にインクジェット法を用いて酸化物電極層12A(第1の電極12)を形成する方法を用いてもよい。なお、この酸化物電極層12A(第1の電極12)を、インクジェット法を用いて形成する方法は、後述する第2の電極14を、インクジェット法を用いて形成する方法と同様の方法であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
なお、第1の電極12を、金属電極層12B上に上記酸化物電極層12Aの積層された積層体とする場合には、振動板24上に金属電極層12Bを積層した後に、酸化物電極層12Aを設ければよい。
次に、第1の電極12の最表面に設けられた酸化物電極層12A上に第2の電極14を形成する(図3(C−1)、図5(A)参照)(第2の工程)。
第2の電極14は、真空成膜法(例えばスパッタリング法、MO−CVD法(金属有機化合物を用いた化学的気相成長法)、真空蒸着法、イオンプレーティング法)やゾルゲル法、水熱合成法、AD(エアロゾルデポジション)法、塗布・熱分解法(MOD)などの周知の成膜技術により堆積させて、電極層を形成した後に、フォトリソグラフィー・エッチングによりパターニングを行うことで形成される。これにより、各第2の電極14が個別電極とされる。また、上述したように、このパターニングによって、第1の電極12(酸化物電極層12A)には、第2の電極14の設けられた領域と、第2の電極14の設けられていない領域と、が形成される。
また、パターニングされることで形成された第2の電極14の作製方法としては、インクジェット法が挙げられる。インクジェット法は、下地である酸化物電極層12A(第1の電極12)の、第2の電極14の形成対象領域以外を表面改質させて疎水化し、疎水化していない親水性の領域にインクジェット法を用いて第2の電極14を形成する方法である。
インクジェット法を用いて第2の電極14を形成する方法は、詳細には、まず、下地(塗布対象)となる酸化物電極層12A上にSAM膜20(自己組織化単分子膜)を全面塗布する(図4(A)及び図4(B)参照)。SAM膜(自己組織化単分子膜(SAM:Self−Assembled Monolayer)20は、下地の材料によって異なる。具体的には、酸化物を下地とする場合には、このSAM膜としては、主に有機シラン化合物、ホスホン酸、リン酸エステル、カルボン酸を選定し、窒化シリコンのような窒化物を下地とする場合は主に臭化アルキルを選定する。アルカンチオールは、分子鎖長により反応性や疎水性が異なるものの、C6からC18の分子を一般的な有機溶媒(アルコール、アセトン、トルエンなど)に溶解させる(濃度数モル/l)。この溶液を用いて、浸漬、蒸気、スピンコーター等により全面塗布処理を行い、余剰な分子を溶媒で置換洗浄し乾燥することで、酸化物電極層12A上にSAM膜20が形成される(図4(B)参照)。なお、以下では、このSAM膜20を形成する処理を、SAM処理、あるいはSAM膜形成処理と称して説明する場合がある。
次に、フォトリソグラフィーによりフォトレジスト26をパターン形成する(図4(C)参照)。次に、ドライエッチングにより、フォトレジスト26に覆われていない領域のSAM膜20を除去し、更に、フォトレジスト26を除去してSAM膜20のパターニングが終了する(図4(D)参照)。これによって、振動板24上には、SAM膜20によって覆われた疎水部と、SAM膜20の形成されていない領域である親水部と、が形成される(図4(D−1)参照)。
次に、液滴吐出ヘッド28によって、第2の電極14の形成に用いる液滴を塗布すると、疎水部であるSAM膜20上には塗膜が形成されず、SAM膜20が除去された親水部のみに第2の電極14の前駆体膜14Cが形成される(図4(E−1)参照)。なお、この第2の電極14の形成に用いる液滴としては、第2の電極14用の前駆体溶液が用いられる。この第2の電極14用の前駆体溶液としては、例えば、第2の電極14の構成元素を含む材料を共通溶媒に溶解したものや、市販のナノAgインク等が挙げられる。
その後、通常のゾルゲルプロセスに従って熱処理を行う。前駆体膜14Cの熱処理温度は有機物の燃焼温度:300℃〜500℃、結晶化温度:500℃〜700℃等とする。このような高温処理により、SAM膜20は消失し、前駆体膜14Cが熱処理されることで、パターン化された第2の電極14が作製される(図4(F−1)参照)。
なお、インクジェット法を用いた場合、1層あたり約30nm以上100nm以下の膜厚になるため、何層か重ね打ちする必要がある場合がある。この場合には、図4(D−2)、図4(E−2)、図4(F−2)に示すように、図4(D−1)、図4(E−1)、図4(F−1)と同様の処理を繰り返し実行することで、所望の膜厚に調整すればよい。すなわち、再びSAM膜20をパターニングして第2の電極14の周囲にSAM膜20を形成する(図4(D−2)参照)。そして、液滴吐出ヘッド28により液滴として第2の電極14用の前駆体溶液を塗布しSAM膜20が除去された親水部である第2の電極14上に、第2の電極用14の前駆体膜14Cを形成する(図4(E−2)参照)。その後、熱処理を行えばよい(図4(F−2)参照)。このようにして、インクジェット法によりパターン化された第2の電極14が得られる。
なお、図4では、インクジェット法によって酸化物電極層12A上に第2の電極14を形成する方法を示したが、例えば、下地となる振動板24上に第1の電極12を形成する場合や、第2の電極14上にインクジェット法により電気機械変換膜16を形成する場合や、電気機械変換膜16上にインクジェット法により第3の電極18を形成する場合等にも、同様の工程(インクジェット法)を用いてもよい。
なおインクジェット法により第1の電極12の酸化物電極層12Aを形成する場合には、液滴吐出ヘッド28から吐出する液滴には、酸化物電極層12A用の前駆体溶液を用いればよい。この酸化物電極層12A用の前駆体溶液としては、例えば、酸化物電極層12Aの構成元素を含む化合物の水和物を出発物質とし、この出発物質の脱水処理を行った後に、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ均一溶液を得る。この均一溶媒を第1の電極12用の前駆体溶液と称して説明する。なお、出発物質が、大気中の水分により容易に加水分解してしまう場合には、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定剤を適量、添加してもよい。
また、電気機械変換膜16や第3の電極18を形成する場合についても同様に、各々の構成材料を含む溶液を共通溶媒に溶解させた均一溶液を用いればよい。
次に、第2の電極14の表面のみを表面改質させて疎水化する(第3の工程)。
詳細には、上記工程によって、第1の電極12上に、エッチングによってパターニングされた第2の電極14が形成せれた積層体を、上記SAM膜20の構成材料として挙げたSAM材料を用いて浸漬処理させる。これによって、金属電極である第2の電極14の表面にはチオール材料等のSAM材料が反応してSAM膜20が選択的に付着して表面改質され、表面が疎水化される。一方、酸化物電極層12A(第1の電極12)における第2の電極14の形成されていない領域には、チオール材料が反応しないため、SAM膜20が形成されず、親水化されている。このため、第2の電極14の表面のみが、選択的に表面改質されて疎水化した状態となる(図3(D)及び図5(A)参照)。
このように、酸化物電極層12A上にパターン化された金属電極である第2の電極14を設けた構成とすることで、SAM材料の塗布のみで、親水部と疎水部の自己調整が可能となる。そのため、後述する第4の工程における電気機械変換膜16の作製工程の簡略化及び製造時間の短縮を図ることができる。
次に、第1の電極12における、第2の電極14の形成されていない領域に、電気機械変換膜16を設ける(図3(E)及び図5(B)参照)(第4の工程)。
電気機械変換膜16の作製方法としては、本実施の形態の電気機械変換素子10においては、インクジェット法を用いることが好ましい。
また、インクジェット法により電気機械変換膜16を作製する場合は、上記第2の電極14と同様の作製工程(図4参照)にてパターニングされた膜を得ることができる。なお、表面改質材については、下地の材料によっても異なるが、電気機械変換膜16を作製する場合には、酸化物電極層12Aである酸化物が下地となるので、主にシラン化合物を選定する。
ここで、電気機械変換膜16については数μm程度の厚みにするため、何層も重ねて作製する必要が出てくる。具体的には、電気機械変換膜16としてPZTを材料として選択した場合、インクジェット法における熱処理温度(前駆体膜の熱処理温度)としては400℃以上を必要とする。このため、熱処理後においては、第2の電極14上のSAM膜20が消失してしまう場合があるため、再度、インクジェット法で電気機械変換膜16を作製する前に、SAM膜20を形成する処理を行う必要が生じる。
しかし、本実施の形態の電気機械変換素子10は、酸化物電極層12A上にパターン化された金属電極である第2の電極14を設けている。このため、インクジェット法における熱処理後に再度SAM膜20を設ける場合であっても、SAM材料の塗布のみで、親水部と疎水部の自己調整が可能となる。
なお、上記第3の工程における、第2の電極14の表面改質を行う方法として、第1の電極12上に第2の電極14がパターニングされた積層体を、アルカンチオール等の上記SAM膜20の構成材料として挙げたSAM材料を用いて浸漬処理した後に、さらに、有機シラン材料を用いて同様な浸漬処理を行ってもよい。有機シラン材料は金属表面に反応しないため、酸化物表面のみに処理される。このため、第2の電極14のみの選択的な表面改質が実現される。
上記有機シラン材料としては、親水性の高い基を有する有機シラン材料を用いることで、さらに表面の親水部と疎水部のコントラスト比をつけることが出来るようになり、電気機械変換膜16をインクジェット法により形成するにあたってより効果的になる。
電気機械変換膜16は、スパッタリング法もしくは、ゾルゲル法を用いてスピンコーターにて作製してもよい。その場合は、パターニングが必要となるので、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。PZTをゾルゲル法により作製した場合、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ均一溶液を得ることで、PZT前駆体溶液が作製できる。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加してもよい。
次に、電気機械変換膜16上に、第3の電極18を設ける(図3(F)参照)(第5の工程)。
第3の電極18の作製方法としては、スパッタリング法もしくは、ゾルゲル法を用いてスピンコーターにて作製する方法が挙げられる。第3の電極18のパターニングには、フォトリソエッチング等を用いればよい。また、第3の電極18の作製方法としては、上述した表面改質及びインクジェット法と同様にして、第2の電極14と電気機械変換膜16とを第2の電極14とを部分的に表面改質させる工程を用いて、インクジェット法によりパターニングされた第3の電極18を作製してもよい。
上記工程を経ることによって、電気機械変換素子10が作製される。
ここで、本実施の形態の電気機械変換素子10は、上述のように、第1の電極2の最表面の酸化物電極層12Aにおける第2の電極14の形成されていない領域に、電気機械変換膜16の設けられた構成である。また、上述のように、酸化物電極層12A及び第3の電極18は、酸化物電極であり、第2の電極14は金属電極である。
このような構成とすることで、上述のように、電気機械変換膜16の形成工程の簡略化や、電気機械変換膜16のPb拡散の抑制や、電気機械変換膜16の液滴の吐出に十分な変位量が実現される。
しかしながら、上述のように、酸化物電極層12A(第1の電極12)上に第2の電極14を設ける上記第2の工程では、パターニングのためにエッチング処理が行われるため、酸化物電極層12Aの表面の、上記一般式(1)ABO3で示される複合酸化物の組成比率がエッチング前とは異なるものとなる。
具体的には、上述したように、第2の電極14の形成時には、スパッタリング法、インクジェット法等の何れの方法を用いた場合についても、エッチングを行う。このエッチング時のオーバーエッチングにより、下地であるの酸化物電極層12A表面の組成比がずれてくる。この組成比のずれは、特に、ドライエッチングの場合に顕著である。
詳細には、質量のより軽いものの方がエッチングされやすいため、上記一般式(1)ABO3で示される複合酸化物では、Aサイト元素とBサイト元素との質量比の差が大きいほど、エッチング後、すなわち第2の電極14がエッチングによりパターニングされた後の酸化物電極層12Aの組成比が、エッチング前とは大きく異なるものとなる。
このため、この酸化物電極層12A上に電気機械変換膜16を形成する工程を経て電気機械変換素子10を作製すると、酸化物電極層12Aの組成比の変化によって、電気機械変換素子10として十分な圧電特性が得られない場合がある。
なお、本実施の形態では、この圧電特性とは、具体的には、残留分極や圧電定数を示している。
そこで、本実施の形態では、電気機械変換素子10として形成された後、具体的には、第2の電極14のパターニングのためのエッチング処理が行われた後の、上記一般式(1)中のAとBとの組成比A/Bが0.8以上1.2以下となるように、酸化物電極層12Aの組成比率を予め調整する。
すなわち、本実施の形態の電気機械変換素子10は、第1の電極12の最表面に設けられている酸化物電極層12Aにおける、第2の電極14の形成されていない領域の電気機械変換膜16側の最表面の、上記一般式(1)中のAとBとの組成比A/Bが0.8以上1.2以下である。
このため、第1の電極12の酸化物電極層12Aにおける第2の電極14の形成されていない領域に、電気機械変換膜16の設けられた電気機械変換素子10とした場合であっても、圧電素子として十分な圧電特性を実現することができる。
本実施の形態の電気機械変換素子10の、酸化物電極層12Aにおける、第2の電極14の形成されていない領域の電気機械変換膜16側の最表面の、上記一般式(1)中のAとBとの組成比A/Bは、上述のようにA/Bが0.8以上1.2以下であることが必須であるが、該組成比A/Bは、0.9以上1.1以下であることがさらに好ましく、0.95以上1.05以下であることが特に好ましい。
本実施の形態において、酸化物電極層12Aの最表面に含まれる上記一般式(1)中のAとBとの組成比A/Bは、XPS(X線光電子分光法)を用いて求められた値を意味する。従って、本実施の形態において、「酸化物電極層12Aの最表面」とは、酸化物電極層12Aの電気機械変換膜16側(第2の電極14側)の表面から、XPS(X線光電子分光法)により測定される厚み(深さ)までの領域を意味し、具体的には、酸化物電極層12Aの表面にX線を照射した際に発生する光電子の脱出深さに相当する数nmから十数nm程度の厚みを意味する。
なお、酸化物電極層12Aの最表面に含まれる上記一般式(1)中のAとBとの組成比A/Bは、具体的には、以下のようにして求めることができる。
例えば、XPSの測定装置として複合型表面分析装置(PHI社製、ESCA−5600)を用い、X線ソースにはMgKα線を用い、10kV,20mAの条件で照射することにより測定できる。この場合、光電子の測定は1eVのステップで行い、元素の含有量は、スペトクルの面積強度と感度因子により求めることができる。
酸化物電極層12Aにおける、第2の電極14の形成されていない領域の電気機械変換膜16側の最表面の、上記一般式(1)中のAとBとの組成比A/Bが上記範囲となるように調整する方法としては、下記方法が挙げられる。
まず1つの方法としては、酸化物電極層12Aの成膜条件を調整する方法が挙げられる。
具体的には、上記第1の工程によって第1の電極12を形成するときの成膜条件を調整し、第2の電極14形成のためのエッチング後の酸化物電極層12Aの上記一般式(1)中のAとBとの組成比A/Bが上記範囲内(0.8以上1.2以下)となるように、該エッチング前の酸化物電極層12Aの上記組成比A/Bを軽元素リッチとなるように調整する。
詳細には、エッチング前の酸化物電極層12Aの組成比A/Bと、エッチング後の酸化物電極層12Aの組成比A/Bと、の差が0以上1.0以下となるように、エッチング前の酸化物電極層12Aの組成比A/Bを調整する。
なお、第2の電極14のパターニングのためのエッチング前の、酸化物電極層12Aの形成時の上記一般式(1)中の組成比A/Bを上述のように調整することで、作製した電気機械変換素子10においては、酸化物電極層12Aにおける第2の電極14の形成されていない領域(電気機械変換膜16の形成された領域)における組成比A/Bと、酸化物電極層12Aにおける第2の電極14の形成された領域における組成比A/Bと、の差は、上記0以上1.0以下となる。
具体的には、例えば、上記一般式(1)で示されるペロブスカイト型複合酸化物として、LaNiO3を用いた場合には、第2の電極14のパターニングためのエッチング前の酸化物電極層12Aにおける一般式(1)ABO3の組成比をLa:Ni=1:1としたとする。この場合、該パターニングのためのエッチング後においては、酸化物電極層12Aにおける一般式(1)ABO3の組成比は、La:Ni=1.3:0.7〜1.5:0.5に変化する。このため、該パターニングのためのエッチング後の、酸化物電極層12AとしてのLaNiO3膜の最表面の組成比をLa:Ni=1:1にしておくためには、La/Niを0.5以下にしておく必要がある。
なお、本実施の形態の電気機械変換素子10では、酸化物電極層12Aにおける、第2の電極14の形成されていない領域(電気機械変換膜16の形成された領域)と、酸化物電極層12Aにおける第2の電極14の形成された領域と、における組成比A/Bには上記のような差が生じるが、酸化物電極層12Aの電気機械変換膜16の設けられていない領域については特に電気機械変換膜16の圧電特性に影響を及ぼさないため、問題はない。
酸化物電極層12Aの組成比の具体的な調整方法としては、例えば、スパッタによる成膜方法においては、組成比の異なるターゲットを用いることで酸化物電極層12Aの組成比を調整する方法や、多元のターゲットにより共スパッタして、そのスパッタレートを個別に調整することにより、酸化物電極層12Aの組成比を調整する方法が挙げられる。
また、スピンコーターによる成膜方法においては、成膜時に用いる塗布液の組成比を調整する方法が挙げられる。
また、酸化物電極層12Aの組成比を調整する他の方法としては、第2の電極14のパターニングのためのエッチングがなされて、第1の電極12上にパターニングされた第2の電極14が形成された後に、第1の電極12(酸化物電極層12A)における第2の電極14の設けられていない領域に、組成比A/Bが0.8以上1.2以下の範囲の酸化物電極層12Aの材料を、インクジェット法を用いて成膜する方法が挙げられる(図3(C−2)参照)。
次に、本実施の形態の電気機械変換素子について、上記に説明した電気機械変換素子10とは異なる形態について説明する。
本実施の形態の電気機械変換素子は、上記に説明した第1の電極12、第2の電極14、電気機械変換膜16、及び第3の電極18を有する構成であればよく、図1に示す構成の電気機械変換素子10に限られない。例えば、図6及び図7に示す構成の電気機械変換素子10Aであってもよい。
電気機械変換素子10Aは、第1の電極12、第2の電極14、電気機械変換膜16、第3の電極18、絶縁保護膜30、第4の電極34、第5の電極32を有する。電気機械変換素子10Aは、基板22上に振動板24を介して形成されている。
電気機械変換素子10Aは、絶縁保護膜30、第4の電極34、及び第5の電極32をさらに備える以外は、電気機械変換素子10と同じ構成であるため、同じ機能及び構成である部分には同じ符号を付与して詳細な説明を省略する。
絶縁保護膜30は、第2の電極14、電気機械変換膜16、及び第3の電極18を被覆するように形成されている。第4の電極34は、絶縁保護膜30上に設けられ、絶縁保護膜30を貫通するコンタクトホール34Aを介して第2の電極14と電気的に接続されている。第5の電極32は、絶縁保護膜30上に設けられ、絶縁保護膜30を貫通するコンタクトホール32Aを介して第3の電極18と電気的に接続されている。第3の電極18、及び第5の電極32は、各電気機械変換膜16に対して個別に設けられた個別電極であり、第4の電極34は、各電気機械変換膜16に対して共通に設けられた共通電極である。
図6及び図7に示すような絶縁保護膜30を形成することにより、電気ショート等による不具合や水分やガス等による電気機械変換膜16の破壊を防止できる。
―絶縁保護膜―
絶縁保護膜30は、電気ショート等による不具合や水分やガス等による電気機械変換膜16の破壊防止を目的に設けられている。絶縁保護膜30の材料としては、シリコン酸化膜や窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜等の無機膜、又は、ポリイミドやパリレン膜等の有機膜が挙げられる。絶縁保護膜30の膜厚としては、0.5μm以上20μm以下が好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましい。絶縁保護膜30の膜厚がこの範囲内であると、絶縁保護膜30としての機能が十分果たせ、且つプロセス時間の短縮が図れる。
絶縁保護膜30の作製方法としては、スパッタリング法、スピンコート法等の公知の成膜方法を用いることができる。また、第4の電極34及び第5の電極32を、それぞれ第2の電極14及び第3の電極18と導通させるためのコンタクトホール34A及び32Aの作製が必要となり、それについては、フォトリソエッチング等により目的とするパターンを得る。
また、スクリーン印刷法を用いて、一度のプロセスでコンタクトホール34Aを有する絶縁保護膜30の作製を行うことができる。スクリーン印刷に用いられるペースト状材料としては、樹脂と無機又は有機粒子とを有機溶媒に溶解させたものを用いることができる。樹脂については、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル系樹脂、エチルセルロース樹脂などを含む材料が挙げられる。無機粒子については、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸バリウム(BaTiO3)等が挙げられる。中でもシリカ、アルミナ、酸化亜鉛などの比較的比誘電率の低い材料が好ましい。
絶縁保護膜30として、精細度のパターンを形成する場合においては、線径が15μm以上50μm以下、開口率が40%以上60%以下のメッシュ中に充填されたペースト状材料を転写することで、絶縁保護膜30を形成してもよい。このようにすれば、絶縁保護膜30を、コンタクトホール34A及び34Bとともに形成することができる。
―第4の電極及び第5の電極―
第4の電極34及び第5の電極32の材料は、Ag合金、Cu、Al、Au、Pt、Irの何れかからなる金属電極用の材料であることが好ましい。第4の電極34及び第5の電極32は、例えば、スパッタリング法やスピンコート法等を用いて作製し、その後フォトリソエッチング等により目的とするパターンとすることができる。
この第4の電極34及び第5の電極32の作製方法には、上述したインクジェット法を用いてもよい。なお、インクジェット法により第4の電極34及び第5の電極32を作製していく場合については、表面改質材(SAM材料)については、下地である絶縁保護膜30が酸化物である場合は主にシラン化合物を選定する。また、下地がポリイミド(PI)のような有機物の場合には、紫外線を照射して、照射された領域の表面エネルギーを増大させることができる。その結果、インクジェット法を用いて、表面エネルギーを増大させた領域に、高精細な第4の電極34及び第5の電極32のパターンを直接描画することができる。紫外線で表面エネルギーを増大させることが可能な高分子材料としては、例えば、特開2006−060079号公報に記載されている材料等を用いることができる。
また、以下のような市販されているペースト状材料を用いてスクリーン印刷で第4の電極34及び第5の電極32となる電極膜を得ることが出来る。パーフェクトゴールド(登録商標)(金ペースト、真空冶金社製商品名)、パーフェクトカッパー(銅ペースト、真空冶金社製商品名)、OrgacOnPastevariant 1/4、Paste variant 1/3(以上、印刷用透明PEDOT/PSSインク、日本アグファ・ゲバルト社製商品名)、OrgacOnCarbOnPaste variant 2/2(カーボン電極ペースト、日本アグファ・ゲバルト社製商品名)、BAYTRON(登録商標)P(PEDT/PSS水溶液、日本スタルクヴィテック社製商品名)。
第4の電極34及び第5の電極32のそれぞれの膜厚としては、0.1μm以上20μm以下が好ましく、0.2μm以上10μm以下がより好ましい。第4の電極34及び第5の電極32のそれぞれの膜厚がこの範囲内であると、電極に十分な電流が流れて安定した液滴吐出が実現されるとともに、プロセス時間の短縮が図れる。
次に、本実施の形態の電気機械変換素子10を用いた液滴吐出ヘッドについて説明する。
図8に示すように、本実施の形態に係る電気機械変換素子10を用いた液滴吐出ヘッド36は、電気機械変換素子10と、密着層46と、振動板24と、シリコン基板である圧力室基板38と、ノズル42が設けられたノズル板40とを有する。密着層46は第1の電極12と振動板24との密着力を強めるために設けられた層である。振動板24と圧力室基板38とノズル板40とで圧力室44が形成され、この中にインク等の液体が充填されている。なお、図8では、液体供給手段、流路、流体抵抗は省略している。
液滴吐出ヘッド36は、電気機械変換素子10により振動板24を振動させて圧力室44を加圧することで、ノズル板40のノズル42からインク滴等の液滴を吐出する構成である。また、インクジェット記録装置は、画素毎に対応して設けられた液滴吐出ヘッド36が所定の間隔で並べられた液滴吐出ヘッド48(図9参照)により、用紙などの記録媒体に画像形成を行う。
次に、上述した液滴吐出ヘッド36を搭載したインクジェット記録装置の一例について図10及び図11を参照して説明する。
図10、及び11に示すように、インクジェット記録装置50は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93、キャリッジ93に搭載し、上述した薄膜形成で形成された液滴吐出ヘッド36または液滴吐出ヘッド48からなる記録ヘッド94、記録ヘッド94へインクを供給するインクカートリッジ95等で構成される印字機構部82等を収納する。記録装置本体81の下方部には前方側から多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット84(或いは給紙トレイでもよい)を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができ、給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する、上述した薄膜形成で形成された液滴吐出ヘッド36(または液滴吐出ヘッド48)からなる記録ヘッド94を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ93には記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
インクカートリッジ95は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により記録ヘッド94へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッド94としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
ここで、キャリッジ93は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、このタイミングベルト100をキャリッジ93に固定しており、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
一方、給紙カセット84にセットした用紙83を記録ヘッド94の下方側に搬送するために、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、用紙83を案内するガイド部材103と、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104と、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を記録ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設け、さらに用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び114と、排紙経路を形成するガイド部材115とを配設している。
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
また、キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で記録ヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(図示しない)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
上述したインクジェット記録装置50においては、前述した液滴吐出ヘッド36または液滴吐出ヘッド48を用いた記録ヘッド94を搭載しているので、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。
以下に、本発明の電気機械変換素子について、実施例により説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
(実施例A1)
シリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1ミクロン)を形成し、第1の電極として、チタン膜(膜厚50nm)、白金膜(膜厚200nm)、LaNiO3膜(膜厚100nm)をスパッタ成膜した。なお、チタン膜は、熱酸化膜と白金膜とを密着する密着層として機能する。また、白金膜は、酸化物電極層であるLaNiO3膜の下層側(基板側)に設けられた金属電極層として機能する。
なお、酸化物電極層であるLaNiO3膜のスパッタ条件は、下記条件とした。
酸化物電極層であるLaNiO3膜は、LaNiO3をターゲットとし、Ar流量24sccm、O2流量6sccm、RFパワー300W、全圧1.3Paとした。
形成した酸化物電極層であるLaNiO3膜について、最表面の一般式(1)ABO3のAとBとの組成比を、XPS(PHI社製、商品名ESCA−5600)を用いて上述した条件で測定したところ、La:Ni=0.42:1.58(La/Ni=0.27)であった。
次に第2の電極としてAgPd合金(Ag:Pd=70:30)膜(膜厚50nm)をスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜(膜厚2000nm)し、フォトリソグラフィーによりレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ社製、商品名RIE−101 IPH)を用い、ドライエッチングを行うことで、図1に示すようなパターニングを行った。
なお、エッチング条件は、エッチングガスとして、ArとO2を用い、ソース電力200W、バイアス電力0W、ガス流量34sccm、ガス圧力1.8とした。
ここでエッチングによるパターニングによって第2の電極を形成した後の、酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の組成比を、上記と同様にして測定して求めたところ、La:Ni=0.89:1.11(La/Ni=0.80)であった。
次に第2の電極の表面改質として、アルカンチオールにCH3(CH2)6−SHを用い、濃度0.01モル/l(溶媒:イソプロピルアルコール)溶液に浸漬させ、その後、イソプロピルアルコールで洗浄・乾燥させ、SAM処理を行った。SAM処理後のAgPd合金膜(第2の電極)上の水の接触角は92.2°であるのに対して、酸化物電極層であるLaNiO3膜上の水の接触角は15°であり、その後の電気機械変換膜をインクジェットにより成膜するには、親水面と疎水面のコントラストが十分取れていることが確認できた。
次に電気機械変換膜としてPZT(53/47)をインクジェットにより成膜する。前駆体塗布液の合成は、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を10モル%過剰にした。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。
イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、先記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。このPZT濃度は0.1モル/lにした。次に、図10に示すインクジェット塗布装置により、上記工程でパターニングされた親水領域(酸化物電極層であるLaNiO3膜)にPZT前駆体溶液を塗布した。次に、溶媒乾燥のために120℃の熱処理を行った後に、有機物の熱分解(500℃)を行うことで電気機械変換膜を得た。このときの膜厚は90nmであった。
引き続き、繰返し表面改質としてアルカンチオールによる浸漬処理を行うことで、パターニング化したSAM膜を形成した。SAM処理後のAgPd合金膜上の水の接触角は92.2°であるのに対して、インクジェット塗布装置により作製した上記電気機械変換膜上の水の接触角は15°であり、2層目以降を繰り返し、インクジェットにより成膜するには、親水面と疎水面のコントラストが十分取れていることが確認できた。
これらの工程を6回繰り返して、540nmの膜を得た後、結晶化熱処理(温度700℃)をRTA(急速熱処理)にて行った。膜にクラックなどの不良は生じなかった。さらに6回のSAM処理、PZT前駆体の選択塗布、120℃乾燥、500℃熱分解を繰り返し行い、結晶化処理をした。膜にクラックなどの不良は生じなかった。これによって、結果的に、酸化物電極層であるLaNiO3膜の、第2の電極であるAgPd合金膜の設けられていない領域のみに、膜厚1000nmの電気機械変換膜を形成した。
次に第3の電極として、SrRuO膜(膜厚100nm)、及び白金膜(膜厚100nm)を順にスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、フォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ社製)を用いて図1のようなパターンを形成した。
次に絶縁保護膜として、パリレン膜(膜厚2μm)をCVD成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、フォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、RIE(サムコ社製)を用いて図6及び図7のようなパターンを作製した。
最後に第4の電極、及び第5の電極としてAl膜(膜厚5μm)をスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、フォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、RIE(サムコ社製)を用いて図6及び図7のようなパターンを形成し、電気機械変換素子を作製した。
(実施例A2)
シリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1ミクロン)を形成し、実施例A1と同様にしてチタン膜(膜厚50nm)及び白金膜(膜厚200nm)をこの順でスパッタリング法により成膜した後に、酸化物電極層としてのLaNiO3膜をスピンコート法で成膜し、第1の電極とした。
なお、該スピンコート法による酸化物電極層の形成に用いる塗布液(前駆体塗布液)には、下記塗布液を用いた。具体的には、出発材料にイソプロポキシドランタン、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)(二水和物)を用いた。そして、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)(二水和物)の脱水処理を行った後、脱水処理されたビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)(二水和物)に対して、イソプロポキシドランタン、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)をメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、LaNiO3前駆体溶液を合成し、濃度を0.3モル/lにした。これを、酸化物電極層の形成に用いる塗布液として用いた。
形成した酸化物電極層であるLaNiO3膜について、最表面の一般式(1)ABO3のAとBとの組成比を、実施例A1と同じ条件で測定したところ、La:Ni=0.57:1.43(La/Ni=0.40)であった。
次に第2の電極としてAuPd合金(Au:Pd=70:30)膜(膜厚50nm)をスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、フォトリソグラフィーによりレジストパターンを形成した後、実施例A1と同じエッチング装置を用い、同じエッチング条件で、図1に示すパターニングを行った。
そして、エッチングによるパターニングによって第2の電極を形成した後の、酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の組成比を、実施例A1と同じ測定条件で測定したところ、La/Ni=1.10であった。
次に、実施例A1と同じ条件で、第2の電極及び電気機械変換膜の選択的な表面改質、及び電気機械変換膜の形成を行った。これによって、酸化物電極層であるLaNiO3膜の、第2の電極であるAuPd合金膜の設けられていない領域のみに、膜厚1000nmの電気機械変換膜を形成した。
次に、第3の電極としてLaNiO3膜(膜厚100nm)、及び白金膜(膜厚100nm)をこの順にスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、フォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ社製)を用いて図1のようなパターンを作製した。
次に絶縁保護膜として、SiO2を(膜厚2μm)をCVD成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、RIE(サムコ製)を用いて図6及び図7のようなパターンを作製した。
次に下地のSAM処理を行った後、市販のAgPdインクを用い、実施例A1で用いた装置と同じインクジェット装置を用いてパターンに印刷後、300℃で熱処理し、第4の電極と第5の電極を形成し、電気機械変換素子を作製した。
(実施例A3)
シリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1ミクロン)を形成し、実施例A1と同様にしてチタン膜(膜厚50nm)及び白金膜(膜厚200nm)をこの順でスパッタリング法により成膜した後に、酸化物電極層としてのLaNiO3膜をスパッタリング法で成膜し、第1の電極とした。
なお、本実施例では、スパッタ条件を調整することによって、形成した酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の一般式(1)ABO3のAとBとの組成比が、La:Ni=0.51:1.49(La/Ni=0.34)となるように調整した。なお、このAとBとの組成比は、実施例A1と同じ条件で測定した。
次に、実施例A2と同じ製法及び同じ条件で、第2の電極としてのAuPd合金(Au:Pd=70:30)膜(膜厚50nm)のスパッタ成膜、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)の成膜、レジストパターン形成、及びエッチングによる図1に示すパターニングを行った。
そして、エッチングによるパターニングによって第2の電極を形成した後の、酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の組成比を、実施例A1と同じ測定条件で測定したところ、La:Ni=1.02:0.98(La/Ni=1.04)であった。
次に、実施例A1と同じ条件で、第2の電極及び電気機械変換膜の選択的な表面改質、及び電気機械変換膜の形成を行った。また、実施例A1と同じ条件で、第3の電極の形成、絶縁保護膜の形成、SAM処理、第4の電極の形成、及び第5の電極の形成を行い、電気機械変換素子を作製した。
(実施例A4)
シリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1ミクロン)を形成し、実施例A1と同様にしてチタン膜(膜厚50nm)及び白金膜(膜厚200nm)をこの順でスパッタリング法により成膜した後に、酸化物電極層としてのLaNiO3膜をスパッタリング法で成膜し、第1の電極とした。
なお、本実施例では、スパッタ条件を調整することによって、形成した酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の一般式(1)ABO3のAとBとの組成比が、La:Ni=0.36:1.64(La/Ni=0.22)となるように調整した。なお、このAとBとの組成比は、実施例A1と同じ条件で測定した。
次に、実施例A2と同じ製法及び同じ条件で、第2の電極としてのAuPd合金(Au:Pd=70:30)膜(膜厚50nm)のスパッタ成膜、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)の成膜、レジストパターン形成、及びエッチングによる図1に示すパターニングを行った。
そして、エッチングによるパターニングによって第2の電極を形成した後の、酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の組成比を、実施例A1と同じ測定条件で測定したところ、La:Ni=1.07:0.93(La/Ni=1.15)であった。
次に、実施例A1と同じ条件で、第2の電極及び電気機械変換膜の選択的な表面改質、及び電気機械変換膜の形成を行った。また、実施例A1と同じ条件で、第3の電極の形成、絶縁保護膜の形成、SAM処理、第4の電極の形成、及び第5の電極の形成を行い、電気機械変換素子を作製した。
(実施例A5)
シリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1ミクロン)を形成し、実施例A1と同様にしてチタン膜(膜厚50nm)及び白金膜(膜厚200nm)をこの順でスパッタリング法により成膜した後に、酸化物電極層としてのLaNiO3膜をスパッタリング法で成膜し、第1の電極とした。
なお、本実施例では、スパッタ条件を調整することによって、形成した酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の一般式(1)ABO3のAとBとの組成比が、La:Ni=0.68:1.32(La/Ni=0.52)となるように調整した。なお、このAとBとの組成比は、実施例A1と同じ条件で測定した。
次に、実施例A2と同じ製法及び同じ条件で、第2の電極としてのAuPd合金(Au:Pd=70:30)膜(膜厚50nm)のスパッタ成膜、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)の成膜、レジストパターン形成、及びエッチングによる図1に示すパターニングを行った。
そして、エッチングによるパターニングによって第2の電極を形成した後の、酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の組成比を、実施例A1と同じ測定条件で測定したところ、La:Ni=0.92:1.08(La/Ni=0.85)であった。
次に、実施例A1と同じ条件で、第2の電極及び電気機械変換膜の選択的な表面改質、及び電気機械変換膜の形成を行った。また、実施例A1と同じ条件で、第3の電極の形成、絶縁保護膜の形成、SAM処理、第4の電極の形成、及び第5の電極の形成を行い、電気機械変換素子を作製した。
(実施例A6)
シリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1ミクロン)を形成し、第1の電極として、チタン膜(膜厚50nm)、白金膜(膜厚200nm)、SrRuO3膜(膜厚100nm)をスパッタ成膜した。なお、チタン膜は、熱酸化膜と白金膜とを密着する密着層として機能する。また、白金膜は、酸化物電極層であるSrRuO3膜の下層側(基板側)に設けられた金属電極層として機能する。
なお、酸化物電極層であるSrRuO3膜のスパッタ条件は、下記条件とした。
酸化物電極層であるSrRuO3膜は、SrRuO3をターゲットとし、Ar流量24sccm、O2流量6sccm、RFパワー300W、全圧1.3Paとした。
形成した酸化物電極層であるSrRuO3膜について、最表面の一般式(1)ABO3のAとBとの組成比を、XPS(PHI社製、商品名ESCA−5600)を用いて上述した条件で測定したところ、Sr/Ru=0.36であった。
次に第2の電極としてAgPd合金(Ag:Pd=70:30)膜(膜厚50nm)をスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜(膜厚2000nm)し、フォトリソグラフィーによりレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ社製、商品名RIE−101 IPH)を用い、ドライエッチングを行うことで、図1に示すようなパターニングを行った。
なお、エッチング条件は、エッチングガスとして、ArとO2を用い、ソース電力200W、バイアス電力0W、ガス流量34sccm、ガス圧力1.8とした。
ここでエッチングによるパターニングによって第2の電極を形成した後の、酸化物電極層であるSrRuO3膜の最表面の組成比を、上記と同様にして測定して求めたところ、Sr/Ru=1.03であった。
次に、実施例A1と同じ条件で、第2の電極及び電気機械変換膜の選択的な表面改質、及び電気機械変換膜の形成を行った。また、実施例A1と同じ条件で、第3の電極の形成、絶縁保護膜の形成、SAM処理、第4の電極の形成、及び第5の電極の形成を行い、電気機械変換素子を作製した。
(実施例A7)
シリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1ミクロン)を形成し、実施例A1と同様にしてチタン膜(膜厚50nm)及び白金膜(膜厚200nm)をこの順でスパッタリング法により成膜した後に、酸化物電極層としてのLaNiO3膜をスパッタリング法で成膜し、第1の電極とした。
なお、本実施例では、スパッタ条件を調整することによって、形成した酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の一般式(1)ABO3のAとBとの組成比が、La:Ni=0.98:1.02(La/Ni=0.96)となるように調整した。なお、このAとBとの組成比は、実施例A1と同じ条件で測定した。
次に第2の電極としてAuPd合金(Au:Pd=70:30)膜(膜厚50nm)をスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、フォトリソグラフィーによりレジストパターンを形成した後、実施例A1と同じエッチング装置を用い、同じエッチング条件で、図1に示すパターニングを行った。
そして、エッチングによるパターニングによって第2の電極を形成した後の、酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の組成比を、実施例A1と同じ測定条件で測定したところ、La:Ni=1.37:0.67(La/Ni=2.04)であった。
次に、第2の電極の表面のSAM処理として下記処理を行った以外は、実施例A1と同じ条件で、第2の電極の選択的な表面改質を行った。具体的には、実施例A7では、第2の電極の表面改質として、アルカンチオールにCH3(CH2)6−SHを用い、濃度0.01モル/l(溶媒:イソプロピルアルコール)溶液に浸漬させ、その後、イソプロピルアルコールで洗浄・乾燥させて、SAM処理を行った。
次に、電気機械変換膜を形成する前に、本実施例における、スピンコート法による上記酸化物電極層としてのLaNiO3膜の成膜に用いた塗布液(前駆体塗布液)を、高沸点、粘度溶媒と混合することによってインクジェット用に調合し、この調合した溶液を、上記で成膜したLaNiO3膜上(酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の第2の電極の形成されていない領域)に吐出することで、LaNiO3膜をさらに形成した。このLaNiO3膜の厚みは、20nmであった。これによって、エッチングによるパターニングによって第2の電極を形成した後のLaNiO3膜上に、該エッチング前におけるLaNiO3膜の形成に用いた塗布液によってLaNiO3膜を形成し、これらの積層体である酸化物電極層とした。
該エッチング前におけるLaNiO3膜の形成に用いた塗布液によって形成したLaNiO3膜について、最表面の一般式(1)ABO3のAとBとの組成比を、実施例A1と同じ条件で測定したところ、La:Ni=0.98:1.02(La/Ni=0.96)であった。
次に、実施例A1と同様にして、インクジェット法により電気機械変換膜(膜厚1000nm)を形成した。さらに、実施例A1と同様にして、第3の電極、絶縁保護膜、第4の電極、及び第5の電極を形成し、電気機械変換素子を作製した。
(比較例A1)
シリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1ミクロン)を形成し、実施例A1と同様にしてチタン膜(膜厚50nm)及び白金膜(膜厚200nm)をこの順でスパッタリング法により成膜した後に、酸化物電極層としてのLaNiO3膜をスパッタリング法で成膜し、第1の電極とした。
なお、本比較例では、スパッタ条件を調整することによって、形成した酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の一般式(1)ABO3のAとBとの組成比が、La/Ni=0.80となるように調整した。なお、このAとBとの組成比は、実施例A1と同じ条件で測定した。
次に、実施例A2と同じ製法及び同じ条件で、第2の電極としてのAuPd合金(Au:Pd=70:30)膜(膜厚50nm)のスパッタ成膜、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)の成膜、レジストパターン形成、及びエッチングによる図1に示すパターニングを行った。
そして、エッチングによるパターニングによって第2の電極を形成した後の、酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の組成比を、実施例A1と同じ測定条件で測定したところ、La:Ni=1.34:0.66(La/Ni=2.03)であった。
次に、実施例A1と同じ条件及び方法で、電気機械変換膜をインクジェット法により形成した。次に実施例A1と同じ条件及び方法で、第3の電極、絶縁保護膜、第4の電極、及び第5の電極を形成し、比較電気機械変換素子を作製した。
(比較例A2)
シリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1ミクロン)を形成し、実施例A1と同様にしてチタン膜(膜厚50nm)及び白金膜(膜厚200nm)をこの順でスパッタリング法により成膜した後に、酸化物電極層としてのLaNiO3膜をスパッタリング法で成膜し、第1の電極とした。
なお、本比較例では、スパッタ条件を調整することによって、形成した酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の一般式(1)ABO3のAとBとの組成比が、La/Ni=0.23(La:Ni=0.37:1.63)となるように調整した。なお、このAとBとの組成比は、実施例A1と同じ条件で測定した。
次に、実施例A2と同じ製法及び同じ条件で、第2の電極としてのAuPd合金(Au:Pd=70:30)膜(膜厚50nm)のスパッタ成膜、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)の成膜、レジストパターン形成、及びエッチングによる図1に示すパターニングを行った。
そして、エッチングによるパターニングによって第2の電極を形成した後の、酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の組成比を、実施例A1と同じ測定条件で測定したところ、La:Ni=0.82:1.18(La/Ni=0.69)であった。
次に、実施例A1と同じ条件及び方法で、電気機械変換膜をインクジェット法により形成した。次に実施例A1と同じ条件及び方法で、第3の電極、絶縁保護膜、第4の電極、及び第5の電極を形成し、比較電気機械変換素子を作製した。
(比較例A3)
シリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1ミクロン)を形成し、実施例A1と同様にしてチタン膜(膜厚50nm)及び白金膜(膜厚200nm)をこの順でスパッタリング法により成膜した後に、酸化物電極層としてのLaNiO3膜をスパッタリング法で成膜し、第1の電極とした。
なお、本比較例では、スパッタ条件を調整することによって、形成した酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の一般式(1)ABO3のAとBとの組成比が、La:Ni=0.61:1.39(La/Ni=0.44)となるように調整した。なお、このAとBとの組成比は、実施例A1と同じ条件で測定した。
次に、実施例A2と同じ製法及び同じ条件で、第2の電極としてのAuPd合金(Au:Pd=70:30)膜(膜厚50nm)のスパッタ成膜、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)の成膜、レジストパターン形成、及びエッチングによる図1に示すパターニングを行った。
そして、エッチングによるパターニングによって第2の電極を形成した後の、酸化物電極層であるLaNiO3膜の最表面の組成比を、実施例A1と同じ測定条件で測定したところ、La:Ni=1.14:0.86(La/Ni=1.33)であった。
次に、実施例A1と同じ条件及び方法で、電気機械変換膜をインクジェット法により形成した。次に実施例A1と同じ条件及び方法で、第3の電極、絶縁保護膜、第4の電極、及び第5の電極を形成し、比較電気機械変換素子を作製した。
―評価―
実施例A1〜実施例A7で作製した電気機械変換素子、及び比較例A1〜比較例A3で作製した比較電気機械変換素子の各々について、初期特性、及び1010回後の各々における、電気特性、及び電気機械変換能(圧電定数)の評価を行った。評価結果を表1に示した。
なお、上記「初期特性」とは、実施例A1〜実施例A7で作製した電気機械変換素子、及び比較例A1〜比較例A3で作製した比較電気機械変換素子の各々について、第1の電極と第3の電極との間に下記「1010回後」の特性評価のための電圧を印加する前における電気機械変換膜の特性を意味している。
また、上記「1010回後」の特性とは、実施例A1〜実施例A7で作製した電気機械変換素子、及び比較例A1〜比較例A3で作製した比較電気機械変換素子の各々について、第1の電極と第3の電極との電極間に15Vの電圧を1×10−5秒間印加する処理を1010回実行した後における特性を示している。
各評価条件は、以下の条件とした。
(電気特性評価)
―比誘電率、誘電損失―
実施例及び比較例で作製した電気機械変換素子及び比較電気機械変換素子の各々について、電気機械変換膜の形成直前の酸化物電極層12Aの比誘電率及び誘電損失を測定した。
なお、この比誘電率の測定は、測定器として、日本ヒューレット・パッカード社製HP4194A、HP4274Aを用い、日本ヒューレット・パッカード社製の電極(HP16451B、電極サイズ:φ5mm)を用いて、23℃の環境下で、周波数1MHzの交流電圧5Vを印加してから1分後の計測値を用いて比誘電率を測定するとともに、誘電損失を測定した。
―残留分極、抗電界―
次に、ソーヤ・タワー回路を用いて室温、50kHzで電界強度と分極のヒステリシス曲線の観察を行い、残留分極と抗電界の値を求めた。結果を表1に示した。
―圧電定数―
圧電定数は、実施例及び比較例で作製した電気機械変換素子及び比較電気機械変換素子の各々について、20℃の環境下で、第1の電極と第3の電極の間に15Vの電圧(周波数1kHz)を1×10−3秒印加したときの電気機械変換膜の最大変位量を、レーザドップラー振動計で測定し、測定結果から求めた。
表1に示すように、実施例A1〜実施例A7及び比較例A1〜比較例A3で作製した何れの電気機械変換素子及び比較電気機械変換素子においても、初期特性においては、電気機械変換膜の比誘電率は1200前後、誘電損失は0.02前後、残留分極は20〜31μC/cm2、抗電界は38〜50kV/cmの範囲であり、一般的なセラミック焼結体と同等の特性を有していた。なお図12には、実施例Aで作製した電気機械変換素子のP−Eヒステリシス曲線を示すグラフを示した。
また、実施例A1〜実施例A7及び比較例A1〜比較例A3で作製した何れの電気機械変換素子及び比較電気機械変換素子においても、初期特性においては、圧電定数は−140〜−160pm/Vであり、こちらも該セラミック焼結体と同等の値であった。
これらの結果から、初期特性においては、実施例A1〜実施例A7及び比較例A1〜比較例A3で作製した何れの電気機械変換素子及び比較電気機械変換素子においても、液滴吐出ヘッドとして十分に機能しうる特性値を示していたといえる。
しかしながら、1010回後(1010回繰り返し印加電圧を加えた直後)の特性においては、比較例A1〜比較例A3で作製した比較電気機械変化素子は残留分極及び圧電定数の双方において劣化が見られた。一方、実施例A1〜実施例A7で作製した電気機械変換素子は、何れの電気機械変換素子においても、1010回後(1010回繰り返し印加電圧を加えた直後)の特性の劣化が比較例の比較電気機械変換素子に比べて効果的に抑制されていた。
(実施例B)
上記実施例A1〜実施例A7、及び比較例A1〜比較例A3の各々で作製した電気機械変換素子を用いて、図9に示す液滴吐出ヘッドを作製し、液滴の吐出評価を行った。
具体的には、粘土を5cp(5×10−3Pa・s)に調整したインクを用いて、単純Push波形(プッシュプル回路)により−10V〜−30Vの印可電圧を加えたときの吐出状況を確認したところ、どのノズル孔からも、同じ量のインク滴の吐出を確認した。しかしながら比較例A1〜比較例A3については、繰り返し印可電圧を加えた後には、ノズルの箇所によってはインクの吐出量にばらつきが生じ、不安定であった。