JP5713993B2 - 有機el封着用無鉛ガラス材とこれを用いた有機elディスプレイ及び該ディスプレイの製造方法 - Google Patents

有機el封着用無鉛ガラス材とこれを用いた有機elディスプレイ及び該ディスプレイの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を用いるディスプレイの封着に用いる有機EL封着用無鉛ガラス材と、この無鉛ガラス材によってパネル周辺部間を封着した有機ELディスプレイと、該有機ELディスプレイの製造方法に関する。
近年、液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイパネル(PDP)に代わる次世代のフラットディスプレイとして、ジアミン類等の有機物発光体を用いる自発光型の有機ELディスプレイが脚光を浴びている。この有機ELディスプレイは、例えば図1に示すように、ガラス製のEL素子基板1の片面(内面)側に、下層側から順次、平行ストライプ状の下部電極2、有機発光層3、下部電極2に対して直交方向に沿う平行ストライプ状の上部電極4が形成され、このEL素子基板1と対向配置する封止ガラス板5との周辺部間をシール層6によって封着した構造を有している。
このような有機ELディスプレイは、明るく高いコンストラクトで表示認識性に優れる上、極めて薄型に構成でき、例えばケイタイ(携帯電話)やデジタルカメラ等の小型デバイス用として総厚1mm以下といった超薄型ディスプレイにも適用可能であり、また全体を固体材料で構成できると共に、直流駆動で駆動回路も簡単になるといった多くの利点がある。その反面、水分との接触で有機EL素子の発光特性が著しく劣化するという難点があることから、該有機EL素子を外気から遮断するための封止技術の確率が大きな課題になっている。
現在、有機ELディスプレイの封止手段として、ガラスフリットとレーザーを用いた封止方法が有力視されている。すなわち、ガラスフリットは、金属酸化物を主とする構成成分の粉末混合物を加熱溶融してガラス化し、これを微粉砕した粉末を通常は有機バインダーを有機溶媒に溶解した溶液でペースト化して封着部位に塗着し、加熱によって再溶融させて封着ガラス層を形成するものである。そして、近年では有毒な鉛を含まない種々のガラス組成のガラスフリットが実用化され、LCD,PDP,蛍光表示管(VFD)等の内部を高真空に保つための封止部に多用されているから、湿気に弱い有機EL素子を外気から遮断するのにも適すると考えられる。しかるに、一般的なガラスフリットの封止温度は400℃以上であるため、有機ELディスプレイの場合、炉内加熱による封止では有機EL素子が高温の影響で損傷したり熱劣化するという問題がある。そこで、有機ELディスプレイの封止では、ガラスフリットを介在させたパネル周辺部にレーザービームを照射することにより、ガラスフリットのみを局部的に加熱して溶融させ、もって有機EL素子への熱的悪影響を抑制する方法(特許文献1〜4)が有望になっている。なお、このようなレーザー封止では、炉内加熱による封止に比較して封止時間を大幅に短縮できるという利点もある。
特開平10−74583号公報 特開2001−319775号公報 特表2006−524419号公報 特開2007−200843号公報
前記のガラスフリットとレーザーによる封止では、良好な封止品質を得る上で、ガラスフリットとしてレーザー光の吸収性が高いものを用いる必要がある。しかしながら、従来よりフラットディスプレイの封着に多用されているガラスフリットは、概して明るい色調でレーザー光の吸収性に劣るため、鉄やマンガン等の金属粉末を添加して該吸収性を高める必要があり、それによって材料コストが高く付くと共に、フリットの調製に手間がかかる上、絶縁性が低下するという難点があった。一方、レーザー封止を行う場合でも、有機EL素子への熱的悪影響をより少なくする上で、ガラスフリットがより低温で軟化することが望ましく、また封止を確実にして且つ封着強度を高めるために、ガラスフリットの熱膨張係数をガラス基板の熱膨張係数に近付ける必要がある。更に、有機ELディスプレイの量産において封止を連続的に行う際、封止条件を緩和して且つ該条件のブレによるエラー発生を抑制するために、ガラスフリットとして安定性が高く溶融時に結晶析出を生じにくいことが望ましい。しかるに、従来のガラスフリットでは、これら低温軟化性、熱膨張係数、安定性等の面で満足な性能を発揮できなかった。
本発明は、上述の事情に鑑みて、有機EL封着用無鉛ガラス材として、金属粉末を添加することなくレーザー光に対する高い吸収性を発揮でき、もってレーザー封止によって良好な封止品質が得られる上、低温軟化性及び溶融時の安定性に優れて熱膨張係数も小さく、封止時の入熱量を少なくして有機EL素子の熱的悪影響を充分に抑制しつつ、封止条件の厳密な管理制御を要することなく高歩留りで、高い封止性及び大きな封着強度を達成できるものを提供することを主たる目的としている。また、本発明の他の目的は、上記の有機EL封着用無鉛ガラス材を用いることにより、優れた品質の有機ELディスプレイと、該ディスプレイを効率よく確実に製造する方法を提供することにある。
上記目的を達成するために、請求項1の発明に係る有機EL封着用無鉛ガラス材は、モル%表示で、30〜60%のV25、5〜20%のZnO、5〜20%のBaO、15〜40%のTeO2、0〜7%のNb25、0〜7%のAl23、0〜5%のSiO2、0〜5%のMgO、0〜5%のSb23、0〜4%のCuO、0〜4%のSnOよりなり、且つNb25+Al23が0.5〜10%、SiO2+MgO+Sb23が0〜5%、CuO+SnOが0〜4%であるガラス組成を有してなることを特徴としている。
また、請求項2の発明に係る有機EL封着用無鉛ガラス材は、モル%表示で、35〜55%のV25、10〜18%のZnO、5〜18%のBaO、15〜30%のTeO2、0〜7%のNb25、0〜5%のAl23、0〜5%のSiO2、0〜5%のMgO、0〜5%のSb23、0〜4%のCuO、0〜4%のSnOよりなり、且つNb25+Al23が2〜8%、SiO2+MgO+Sb23が0〜5%、CuO+SnOが0〜4%であるガラス組成を有してなることを特徴としている。
請求項3の発明は、前記請求項1又は2の有機EL封着用無鉛ガラス材において、前記ガラス組成におけるSiO2+MgO+Sb23が0.5〜5モル%である構成としている。
請求項4の発明は、前記請求項1〜3のいずれかの有機EL封着用無鉛ガラス材において、前記ガラス組成におけるCuO+SnOが0.5〜4モル%である構成としている。
請求項5の発明は、前記請求項1〜4の何れかの有機EL封着用無鉛ガラス材において、前記ガラス組成を有するガラス粉末に対してフィラーが、ガラス粉末/フィラーの重量比で50/50〜99/1の範囲で配合されてなるものとしている。
請求項6の発明に係る有機ELディスプレイは、前記1〜5のいずれかに記載の有機EL封着用無鉛ガラス材により、対向するガラス基板の周辺部間が封着されてなるものとしている。
請求項7の発明は、前記請求項6の有機ELディスプレイにおいて、ガラス基板の熱膨張係数が35×10-7/℃〜50×10-7/℃である構成としている。
請求項8の発明に係る有機ELディスプレイの製造方法は、有機ELディスプレイの対向するガラス基板の周辺部間に前記請求項1〜5のいずれかに記載の有機EL封着用無鉛ガラス材を介在させ、このガラス材をレーザー光の照射によって加熱溶融させて両ガラス基板の周辺部間を封着することを特徴としている。
請求項9の発明に係る有機ELディスプレイの製造方法は、請求項1〜5のいずれかに記載の有機EL封着用無鉛ガラス材の粉末に有機バインダー溶液を加えてフリットペーストを調製し、このフリットペーストを有機ELディスプレイの対向配置させる一対のガラス基板の少なくとも一方の周辺部に塗着して軟化点+50℃〜+120℃で仮焼成することにより、塗着層の有機成分を揮散除去したのち、この塗着層を介して両ガラス基板を重ね合わせて該塗着層にレーザー光を照射することにより、該塗着層のガラス成分を溶融させて両ガラス基板の周辺部間を封着することを特徴としている。
請求項1の発明によれば、有機EL封着用無鉛ガラス材として、V25,ZnO,BaO,TeO2の4成分と、Nb25及びAl23の少なくとも一方とを必須成分として各々特定比率で含むガラス組成を有することから、ガラス転移点及び軟化点が低く低温加工性に優れると共に熱膨張係数も小さく、溶融時の流動性及び安定性が良好でレーザー光の吸収性もよく、少ない入熱量でのレーザー封止により、有機EL素子への熱衝撃を抑制して良好な表示性能を確保しつつ、封止条件の厳密な管理制御を要することなく高歩留りで高い封止性及び大きな封着強度を達成できるものが提供される。
請求項2の発明によれば、上記のV25,ZnO,BaO,TeO2の4成分と、Nb25 及びAl23の少なくとも一方とを必須成分として含む有機EL封着用無鉛ガラス材として、各成分がより好適な比率のガラス組成を有することから、低温加工性により優れ、レーザー封止によって有機EL素子への熱衝撃を確実に回避して高い封止品質が得られるものが提供される。
請求項3の発明によれば、上記のV25,ZnO,BaO,TeO2の4成分と、Nb25及びAl23の少なくとも一方とに加え、SiO2とMgOとSb23より選ばれる少なくとも一種を必須成分として特定範囲で含むことから、熱膨張係数がより低減し、有機ELディスプレイのガラス基板の熱膨張性により適合させ易くなるという利点がある。
請求項4の発明によれば、上記のV25,ZnO,BaO,TeO2の4成分と、Nb25及びAl23の少なくとも一方とに加え、CuOとSnOの少なくとも一方を必須成分として特定範囲で含むことから、熱膨張係数が更に低減し、有機ELディスプレイのガラス基板の熱膨張性により適合させ易くなるという利点がある。
請求項5の発明によれば、上記の有機EL封着用無鉛ガラス材において、上記ガラス組成のガラス粉末に対してフィラーが特定量配合されていることから、封止ガラス層の熱膨張係数を有機ELディスプレイのガラス基板の熱膨張性に確実に近付けて封止性を高めることができると共に、該封止ガラス層の強度が向上する。
請求項6の発明によれば、有機ELディスプレイとして、対向するガラス基板の周辺部間が上記の有機EL封着用無鉛ガラス材によって封着されていることから、内部の有機EL素子が外気から完全に遮断されて且つ封止部の封止強度に優れ、もって良好な表示性能を長期にわたって安定的に発揮できるものが提供される。
請求項7の発明によれば、ガラス基板の熱膨張係数が特定範囲にある上記の有機ELディスプレイとして、該ガラス基板と封止ガラス層との熱膨張性が適合し易く、もって高い封止品質を備えて耐久性により優れるものが提供される。
請求項8の発明に係る有機ELディスプレイの製造方法によれば、有機ELディスプレイの対向するガラス基板の周辺部間に上記の有機EL封着用無鉛ガラス材を介在させ、このガラス材をレーザー光の照射によって加熱溶融させて両ガラス基板の周辺部間を封着することから、封止に伴う入熱量を少なくして有機EL素子への熱衝撃を抑制しつつ、また封止条件の厳密な管理制御を要することなく、良好な封止品質を備えて耐久性に優れた有機ELディスプレイを高能率で且つ高歩留りで量産できる。
請求項9の発明に係る有機ELディスプレイの製造方法によれば、上記の有機EL封着用無鉛ガラス材をペースト化してガラス基板の周辺部に塗着し、特定温度で仮焼成して塗着層の有機成分を揮散除去したのち、この塗着層を介して両ガラス基板を重ね合わせてレーザー封止することから、レーザー封止時の入熱量をより少なくして有機EL素子に対する熱的悪影響をより軽減できると共に、封止の準備段階における部材の組付け操作も簡単に且つ確実に行えるという利点がある。
本発明を適用する有機ELディスプレイパネルの概略構成例を示す縦断側面図である。
本発明に係る有機EL封着用無鉛ガラス材は、基本的にはV25−ZnO−BaO− TeO2の4成分系のガラス組成に加えて、更にNb25及びAl23の少なくとも一方を必須成分として含むものであり、V25−ZnO−BaO−TeO2の4成分からなるガラス組成の無鉛ガラス材に比較して低温加工性に優れ、低い溶融温度で良好な流動性及びガラス光沢を示す上、熱膨張係数が格段に小さく、また比較的に暗い色調でレーザー光の吸収性が高く、耐水性及び耐薬品性にも優れている。従って、この無鉛ガラス材を有機ELディスプレイのガラス基板間の封止に用いれば、レーザー封止を少ない入熱量で行えて有機EL素子への熱的悪影響を確実に抑制できると共に、ガラス基板と封止ガラス層との熱膨張性を適合させ易く、もって非常に優れた封止性及び大きな封着強度を付与でき、封止ガラス層の耐水性及び耐薬品性も良好になるから、得られた有機ELディスプレイは耐久性に優れて高い表示性能を長期にわたって発揮できるものとなる。
このような有機EL封着用無鉛ガラス材の各成分の比率は、モル%表示で、V25が30〜60%、ZnOが5〜20%、BaOが5〜20%、TeO2が15〜40%、Nb25が0〜7%、Al23が0〜7%であり、且つNb25とAl23が合量で0.5〜10%とする。このようなガラス組成では、後述する実施例の熱的特性で示すように、軟化点〔Tf〕は320℃未満、ガラス転移点〔Tg〕は300℃未満となり、低い温度での封着加工が可能であると共に、熱膨張係数も110×10-7/℃〜130×10-7/℃と小さく、また概してレーザー光の吸収性がよい濃褐色を呈している。
上記ガラス組成において、V25の割合は、多過ぎてはレーザー封止時に失透する懸念があり、逆に少な過ぎてはガラス転移点〔Tg〕及び軟化点〔Tf〕の上昇によって低温加工性が悪化すると共に熱膨張性が大きくなる。またZnO及びBaOとTeO2の割合は、いずれも多過ぎてはガラス化が阻害されて溶融不能や溶け残りを生じ易くなり、逆に少な過ぎてはレーザー封止時に失透する懸念がある。
Nb25とAl23については、上記規定範囲内での一方の単独使用又は両方の併用により、低温加工性が大きく向上すると共に熱膨張係数も大幅に低減し、またガラスの安定性が増し、耐水性や耐薬品性も上昇する。しかるに、各々が7モル%を超えたり、両者の合量で10モル%を越えると、熱膨張係数が更に下がっても低温加工性は却って悪化する。なお、両者の合量で0.5モル%未満では充分な配合効果が得られない。なお、ガラスの安定性についてはTeO2の配合量を前記規定範囲より多くすることで改善できるが、この場合には熱膨張係数が大幅に増加するという問題がある。
しかして、より好ましいガラス組成は、モル%表示で、V25が35〜55%、ZnOが10〜18%、BaOが5〜18%、TeO2が15〜30%、Nb25が0〜7%、Al23が0〜5%で、且つNb25とAl23が合量で2〜8%の各範囲である。
更に、本発明の有機EL封着用無鉛ガラス材としては、上記のV25,ZnO,BaO,TeO2,Nb25,Al23の6種の成分と共に、必要に応じて他の酸化物成分を配合してもよい。このような任意に配合できる他の酸化物成分として、SiO2、MgO、Sb23、CuO、SnOの5種が挙げられるが、これら以外は不要とする。例えば、封着用無鉛ガラス材の成分として一般的に多用されるB23は、上記ガラス組成に追加配合すると、ガラス転移点(Tg)及び軟化点(Tf)が上昇する上に溶融状態での流動性も悪化するから、実質的に含有しないことが望ましい。
上記の好適な任意成分の内、SiO2、MgO、Sb23の3種の成分はいずれも、上記ガラス組成に追加配合することによって熱膨張係数を低減する効果があるが、配合量が多すぎては低温加工性を阻害する。このため、これら3種の配合量は、各々の単独使用で0〜5モル%、合量(SiO2+MgO+Sb23)でも0〜5モル%とするが、合量で0.1モル%未満では配合効果が認められず、実質的に充分な配合効果を得るには合量で0.5〜5モル%の範囲とするのがよい。
また、上記の好適な任意成分の内、CuO及びSnOの2種の成分は、やはり追加配合によって熱膨張係数を低減する効果があるが、配合量が多すぎては結晶化し易くなると共に溶融状態での流動性が著しく悪化する。従って、これら2種の配合量は、各々の単独使用で0〜4モル%、合量(CuO+SnO)でも0〜4モル%とするが、合量で0.1モル%未満では実質的に配合効果が認められず、充分な配合効果を得るには合量で0.5〜4モル%の範囲とするのがよい。
本発明の有機EL封着用無鉛ガラス材を製造するには、原料の粉末混合物を白金るつぼ等の容器に入れ、これを電気炉等の加熱炉内で所定時間焼成して溶融させてガラス化し、この溶融物をアルミナボート等の適当な型枠に流し込んで冷却し、得られたガラスブロックを粉砕機によって適当な粒度まで粉砕してガラスフリットとすればよい。そのガラスフリットの粒度は、0.05〜100μmの範囲が好適であり、上記粉砕による粗粒分は分級して除去すればよい。ただし、小型デバイス用の超薄型ディスプレイのシール材に用いるガラスフリットでは、前記粒度を10μm以下、より好適には6μm以下とすることが推奨される。
上記の粉砕には、従来よりガラスフリット製造に汎用されているジェットミル等の各種粉砕機を使用できるが、特に3μm以下といった細かい粒度にするには湿式粉砕を利用するのがよい。この湿式粉砕は、水やアルコール水溶液の如き水性溶媒中で、5mm径以下のアルミナやジルコニアからなるメディア(ボール)もしくはビーズミルを用いて粉砕するものであり、ジェットミル粉砕よりも更に細かく粉砕することが可能であるが、水性溶媒を用いた微粉砕であるため、被粉砕物であるガラス組成物が高い耐水性を備えている必要があり、この点でも本発明のガラス材が適合する。
なお、本発明の有機EL封着用無鉛ガラス材は、前記ガラス組成を有するガラス粉末(ガラスフリット)を単独で使用する以外に、そのガラス粉末に充填材や骨材の如きフィラーを混合した混合物形態としてもよい。このようなフィラーは、その配合によって封着ガラス層の熱膨張係数を低下させるから、その配合量の調整によって該封着ガラス層の熱膨張性を有機ELディスプレイのガラス基板の熱膨張性に容易に適合させることができる。また、この混合物形態では、加熱溶融時にガラス成分がフィラーの粒子同士を結着するバインダーとして機能するから、得られる封止ガラス層が高強度で緻密なセラミック形態の焼結体になる。
上記のフィラーとしては、ガラス成分よりも高融点で、加工時の焼成温度では溶融しないものであればよく、特に種類は制約されないが、例えば珪酸ジルコニウム、コジェライト、リン酸ジルコニウム、β・ユークリプタート、β・スポジュメン、ジルコン、アルミナ、ムライト、シリカ、β−石英固溶体、ケイ酸亜鉛、チタン酸アルミニウム等の粉末が好適である。しかして、これらフィラーの配合量は、ガラス粉末/フィラーの重量比で50/50〜99/1の範囲とするのがよい。この配合量が多過ぎては、溶融時の流動性が悪化すると共に、ガラス組成物による結着力が不足して強固な焼結体を形成できない。
なお、有機ELディスプレイに用いるガラス基板の熱膨張係数は、一般的に35×10-7/℃〜50×10-7/℃程度である。これに対し、本発明の有機EL封着用無鉛ガラス材では、ガラス粉末自体の熱膨張係数が低いことから、フィラーの配合による調整で、溶融状態での流動性を充分に確保しつつ、封着ガラス層の熱膨張係数を50×10-7/℃程度まで低下させることができる。これに対し、既述のV25−ZnO−BaO−TeO2の4成分からなるガラス組成の無鉛ガラス材では、フィラーの配合による調整を行っても、溶融状態での流動性を確保する上で、封着ガラス層の熱膨張係数は60×10-7/℃程度までしか低下できない。
本発明の有機EL封着用無鉛ガラス材のガラス粉末(ガラスフリット)、ならびに該ガラス粉末に前記フィラーを混合した混合粉末は、一般的には有機バインダー溶液に高濃度分散させたペーストとし、これを有機ELディスプレイパネルの対向配置させる少なくとも一方のガラス基板の周辺部にスクリーン印刷等で塗工して焼成に供するから、予めペースト形態として製品化してもよい。
上記ペーストに用いる有機バインダー溶液としては、特に制約はないが、例えばニトロセルロースやエチルセルロースの如きセルロース類のバインダーを、ブチルカルビトールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、ターピネオール、パインオイル、芳香族炭化水素系溶剤、シンナーの如き混合溶剤等の溶剤に溶解させたもの、アクリル系樹脂バインダーをケトン類、エステル類、低沸点芳香族等の溶剤に溶解させたものがある。しかして、ペーストの粘度は、塗工作業性面より、30〜3000dPa・sの範囲とするのがよい。
本発明の有機EL封着用無鉛ガラス材を用いた封着加工では、有機ELディスプレイパネルの対向するガラス基板の周辺部間に該ガラス材を介在させ、このガラス材を加熱溶融させて両ガラス基板の周辺部間を封着する。このとき、該ガラス材は粉末形態や薄板状形態で両ガラス基板間に介在させることも不可能ではないが、極薄の封着ガラス層とする上で前記ペーストとして少なくとも一方のガラス基板(通常、有機EL素子を被着しない封止ガラス板側)に塗着する方法が推奨される。また、該ガラス材の加熱溶融は、加熱炉内の高温雰囲気中で保持することでも可能であるが、有機EL素子の熱劣化を回避する上で、既述のようにレーザー光の照射による局部的加熱によって行うのがよい。しかして、ガラス粉末は既述のようにレーザー光の吸収性がよい濃褐色を呈するから、従来のような金属粉末を含有させなくとも支障なくレーザー封着を適用できる。
しかして、この封着加工の熱処理は、一回で行うことも可能であるが、封着品質を高める上では2段階で行うのがよい。すなわち、まず仮焼成としてガラス材の軟化点〔Tf〕付近まで加熱することにより、ペーストのビークル成分(バインダーと溶媒)を揮散・熱分解させてフリット成分のみが残る状態とし、次いで本焼成としてレーザー光の照射による局部的加熱でガラス成分が完全に溶融一体化した封着ガラス層を形成する。
このような2段階の熱処理によれば、一段目の仮焼成でビークル成分が揮散除去され、2段目の本焼成ではガラス成分同士が融着することになるから、封着ガラス層中に気泡や脱気によるピンホールが生じるのを防止でき、もって封止の信頼性及び封止部の強度を高めることができる。また、特に有機ELディスプレイパネルでは、内部に熱劣化し易い有機EL素子を配置させると共に、封着部分に電極やリード線、排気管等を挟んで封着固定することから、組立前のペーストを塗着したガラス基板のみで1段目の熱処理を行ったのち、このガラス基板と他の所要部材を用いて製品形態に組み立て、この組立状態で2段目の熱処理を行うことで有機EL素子への熱的悪影響をより軽減できる。
本発明の有機ELディスプレイパネルは、既述した図1で示す概略構成において、シール層6が上記した本発明の有機EL封着用無鉛ガラス材を用いた封着ガラス層からなるものである。そして、このシール層6は、ガラスフリットの溶融固化物として高い気密保持力を持つと共に、対向配置する両ガラス基板つまりEL素子基板1及び封止ガラス板5の表面に対する密着性及び被着強度に優れ、もって高い封止性と大きな封着強度を付与する上、良好な耐水性及び耐薬品性を示す。従って、この有機ELディスプレイパネルでは、封止部の耐久性に優れ、良好な表示性能を長期にわたって安定的に発揮できる上、パッケージ内部に捕水剤や乾燥剤を配設する必要がなく、それだけパネル構成が簡素になって組立製作を容易に低コストで行え、また耐水性に優れた該ガラス材には水分が吸着しにくいため、封着加工の際にガラスフリットからアウトガスとして水蒸気が発生することがなく、該水蒸気がパッケージ内に入り込んで有機EL素子を劣化させる懸念もない。
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、以下において使用した原料酸化物はいずれも和光純薬社製の特級試薬であり、その他の分析試薬等についても同様に特級試薬を用いた。
製造例1
原料酸化物としてV25、ZnO、BaO、TeO2、Nb25、Al23、SiO2、MgO、Sb23、CuO、SnO、B23の各粉末を後記表1〜3に記載の比率(モル%)で混合したもの(全量10g)を白金るつぼに収容し、電気炉内で約1000℃にて60分間加熱して溶融させたのち、その溶融物をアルミナポートに流し込んでガラスバーを作成し、大気中で冷却後に該ガラスバーを自動乳鉢にて粉砕し、この粉砕物を分級して粒径100μm以下のものを採取し、粉末状の無鉛ガラス材No.1〜29を製造した。
上記方法で製造した無鉛ガラス材No.1〜29について、ガラス転移点〔Tg〕、軟化点〔Tf〕、結晶化開始温度〔Tx〕、熱膨張係数、溶融状態での流動性及びガラス光沢、色合いを調べた。その結果を後記表1〜3に示す。各項目の測定方法は次の通りである。
〔ガラス転移点、軟化点、結晶化開始温度〕
示差熱分析装置(リガク社製TG−8120)により、リファレンス(標準サンプル)としてα−アルミナを用い、加熱速度10℃/分、温度範囲25℃(室温)〜600℃の測定条件でサンプルのガラス転移点〔Tg〕、軟化点〔Tf〕、結晶化開始温度〔Tx〕を測定した。
〔熱膨張係数〕
熱機械分析装置(リガク社製TMA8310)により、熱膨張係数を測定した。この測定は、無鉛ガラス材粉末を再度溶融し、これを5×5×20mm(縦×横×高さ)の四角柱に成形し、上底面が平行に成形されたものを測定試料として用い、常温〜250℃まで10℃/分で昇温させ、平均熱膨張係数αを求めた。また、標準サンプルには石英ガラスを用いた。
〔流動性/ガラス光沢〕
各無鉛ガラス材を型内で溶融・硬化させて径8.8mm、厚さ2.0mmのボタン状の成形試料を作製し、この成形試料をガラス基板上に載置した状態で、電気炉内で加熱速度10℃/分で加熱して昇温させてゆき、420℃、450℃、500℃の各温度で10分間保持後に室温まで冷却し、成形試料の状態変化を観察し、次の4段階で評価した。
◎・・・420℃未満で良好な流動性及びガラス光沢を示す。
○・・・420℃以上〜450℃未満で良好な流動性及びガラス光沢を示す。
△・・・450℃以上〜500℃未満で良好な流動性及びガラス光沢を示す。
×・・・500℃未満では良好な流動性及びガラス光沢を示さない。
Figure 0005713993
Figure 0005713993
Figure 0005713993
表1〜表3の結果から、各々適正比率のV25,ZnO,BaO,TeO2の4成分からなる基本配合に、更にNb25及びAl23の一方又は両方を適正範囲で追加配合したガラス組成を有する本発明の無鉛ガラス材(No.2,4,6〜8,10)は、ガラス転移点〔Tg〕が275〜295℃、軟化点〔Tf〕が285〜316℃と低く、420℃未満という低温で良好な流動性及びガラス光沢を示す上、ガラスの熱膨張係数も小さく、元来より低融性である上記基本配合の4成分からなる無鉛ガラス材(No.1)よりも更に低温加工性及び封止性に優れ、有機EL封着用として高い適性を具備することが明らかである。特に、Nb25及びAl23がより好適な配合範囲にある無鉛ガラス材(No.2,4,6,8,10)では、ガラス転移点〔Tg〕が285℃以下、軟化点〔Tf〕も298℃以下と非常に低く、極めて優れた低温加工性を具備することが判る。しかるに、Nb25及びAl23の単独及び合量の配合比率が高すぎる無鉛ガラス材(No.3,5,9,11)では、ガラスの熱膨張係数がより低減する反面、ガラス転移点〔Tg〕及び軟化点〔Tf〕が逆に上昇しており、却って低温加工性が損なわれることが判る。
また、V25,ZnO,BaO,TeO2の4成分と、Nb25及びAl23の少なくとも一方の成分とに加え、SiO2、MgO、Sb23、CuO、SnOより選ばれる少なくとも一種の成分を適正範囲で追加したガラス組成の無鉛ガラス材(No.12〜14,16,17,22,24)では、優れた低温加工性を確保した上で、熱膨張係数が更に低減しており、より高い封止性が得られることが判る。しかるに、SiO2、MgO、Sb23の3成分について、単独及び合量の配合比率が高すぎる無鉛ガラス材(No.15)では熱膨張係数がより低減しても低温加工性は悪化し、また該配合比率が適正でもNb25及びAl23のいずれをも含まない無鉛ガラス材(No.18〜21)では溶融状態での流動性及びガラス光沢が著しく悪化している。一方、CuO及びSnOの2成分について、配合比率が高すぎる無鉛ガラス材(No23,25)では、結晶化によって溶融状態での流動性を示さなくなる。
なお、V25,ZnO,BaO,TeO2の4成分、ならびに該4成分にNb25を加えた5成分に、更にB23を追加配合した無鉛ガラス材(No.26〜29)では、該4成分からなる無鉛ガラス材(No.1)に比較して熱膨張係数が低減しているが、低温加工性は向上せず、しかもガラスの失透を生じたり、良好な流動性及びガラス光沢を得るための加熱温度が高くなるという欠点が現れている。
製造例2
前記製造例1における無鉛ガラス材No.1(比較例)及びNo.12(実施例)の粉末に対し、それぞれジルコニア系フィラー(リン酸ジルコニウム、最大粒子径5.5μm、平均粒子径約1.0μm)を後記表2に記載の比率で混合し、耐火物フィラー入り無鉛ガラス材No.30及びNo.31を製造した。そして、これら無鉛ガラス材No.30,31について、熱膨張係数と溶融状態での流動性及びガラス光沢を前記同様にして調べ、これらの結果を次の封着試験による封着強度の測定値と共に表4に示す。なお、流動性及びガラス光沢は製造例1と同様の4段階評価とした。
〔封着強度試験〕
前記製造例2で得られた耐火物フィラー入り無鉛ガラス材No.30,31の各100gに対し、エチルセルロース/ブチルカルビトールアセテート/ターピネオールからなるビークル20gを添加混合してフリットペーストを調製し、矩形の無アルカリガラス基板(長さ40mm、幅30mm、厚さ0.7mm、熱膨張係数40×10-7/℃)の片面に、該フリットペーストを線幅0.6mm、厚さ約10μmで30×20mmの矩形を描くように塗着した。そして、このガラス基板を電気炉中で300℃にて60分間仮焼成したのち、該ガラス基板のフリット塗着面側に同寸法の無アルカリガラス基板を長手方向に位置ずれした状態に重ねてクリップで固定し、その仮焼成側のガラス基板を上面として前記フリットペーストの塗着ラインに沿い、半導体レーザー(波長808nm)のレーザー光を照射速度2mm/秒で照射することにより、フリットのガラス成分を溶融させて封着を行った。この封着した一対のガラス基板を垂直に固定し、上記位置ずれで上位になったガラス基板の上端に1000N/分以下で下向きに圧力を加えてゆき、封着面が剥離したときのピーク圧から単位面積当たりの封着力(圧縮剪断強度)を算出し、封着強度として表4に示す。
Figure 0005713993
表4に示すように、本発明の実施例である耐火物フィラー入り無鉛ガラス材No.31では、比較例である耐火物フィラー入り無鉛ガラス材No.30に比べ、熱膨張係数が有機ELディスプレイのガラス基板の熱膨張係数にかなり近くなっており、もって高い封着性が得られると共に、封着強度も2倍近くになっている上、より低い温度で良好な流動性及びガラス光沢を示すから低温加工性にも優れていることが判る。
〔耐水性・耐薬品性試験〕
前記製造例2で得られた耐火物フィラー入り無鉛ガラス材No.30,31について、型内で溶融・硬化させて約1gの角柱状試料(長さ約6.3mm)を作製し、この角柱状試料を各々500mLの水、1モル濃度のHCl水、1モル濃度のNaOH水が入った容器の液中に浸漬し、この各容器を70℃の恒温槽に収容し、所定時間毎に試料を取り出して100℃,1時間の乾燥を行い、自然冷却後の試料の重量を測定し、初期重量からの重量減少率を次式で算出した。その結果を表5に示す。
重量減少率(%)=〔1−測定重量(g)/初期重量(g)〕×100
Figure 0005713993
表5に示すように、本発明の実施例である耐火物フィラー入り無鉛ガラス材No.31は、比較例の耐火物フィラー入り無鉛ガラス材No.30に比べ、耐水性及び耐酸性に優れると共に、耐アルカリ性も遜色がなく、これを封着材として用いることで有機ELディスプレイに優れた耐久性を付与できることが明らかである。
1 EL素子基板(ガラス基板)
2 下部電極
3 有機発光層
4 上部電極
5 封止ガラス板(ガラス基板)
6 シール層(封着ガラス層)

Claims (9)

  1. モル%表示で、30〜60%のV25、5〜20%のZnO、5〜20%のBaO、15〜40%のTeO2、0〜7%のNb25、0〜7%のAl23、0〜5%のSiO2、0〜5%のMgO、0〜5%のSb23、0〜4%のCuO、0〜4%のSnOよりなり、且つNb25+Al23が0.5〜10%、SiO2+MgO+Sb23が0〜5%、CuO+SnOが0〜4%であるガラス組成を有してなる有機EL封着用無鉛ガラス材。
  2. モル%表示で、35〜50%のV25、10〜18%のZnO、5〜18%のBaO、15〜30%のTeO2、0〜7%のNb25、0〜5%のAl23、0〜5%のSiO2、0〜5%のMgO、0〜5%のSb23、0〜4%のCuO、0〜4%のSnOよりなり、且つNb25+Al23が2〜8%、SiO2+MgO+Sb23が0〜5%、CuO+SnOが0〜4%であるガラス組成を有してなる有機EL封着用無鉛ガラス材。
  3. 前記ガラス組成におけるSiO2+MgO+Sb23が0.5〜5モル%である請求項1又は2に記載の有機EL封着用無鉛ガラス材。
  4. 前記ガラス組成におけるCuO+SnOが0.5〜4モル%である請求項1〜3のいずれかに記載の有機EL封着用無鉛ガラス材。
  5. 前記ガラス組成を有するガラス粉末に対してフィラーが、ガラス粉末/フィラーの重量比で50/50〜99/1の範囲で配合されてなる請求項1〜4の何れかに記載の有機EL封着用無鉛ガラス材。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の有機EL封着用無鉛ガラス材により、対向するガラス基板の周辺部間が封着されてなる有機ELディスプレイ。
  7. 前記ガラス基板の熱膨張係数が35×10-7/℃〜50×10-7/℃である請求項6記載の有機ELディスプレイ。
  8. 有機ELディスプレイの対向するガラス基板の周辺部間に前記請求項1〜5のいずれかに記載の有機EL封着用無鉛ガラス材を介在させ、このガラス材をレーザー光の照射によって加熱溶融させて両ガラス基板の周辺部間を封着することを特徴とする有機ELディスプレイの製造方法。
  9. 前記請求項1〜5のいずれかに記載の有機EL封着用無鉛ガラス材の粉末に有機バインダー溶液を加えてフリットペーストを調製し、このフリットペーストを有機ELディスプレイの対向配置させる一対のガラス基板の少なくとも一方の周辺部に塗着して軟化点+50℃〜+120℃で仮焼成することにより、塗着層の有機成分を揮散除去したのち、この塗着層を介して両ガラス基板を重ね合わせて該塗着層にレーザー光を照射することにより、該塗着層のガラス成分を溶融させて両ガラス基板の周辺部間を封着することを特徴とする有機ELディスプレイの製造方法。
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