以下、本発明のタイヤ接地状態推定装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1〜実施例5に基づいて説明する。
ここで、本発明を説明するに当たって、次に定義するパラメータを用いる。なお、パラメータの添え字は、ij={fl,fr,rl,rr}={車両の左前側,右前側,左後側,右後側}を意味し、i={f,r}={車両の前側,後側}を意味する。
(車両に関する既知パラメータ)
m:車両重量
I:車両重心点周りのヨー慣性モーメント
lf:車両重心点から前輪までの距離
lr:車両重心点から後輪までの距離
hcg:車両重心点から接地面までの高さ
Rw:タイヤ有効半径
g:重力加速度
lt:トレッドベースの半分長
Iw:車輪慣性モーメント
Cf:前輪タイヤコーナリングスティフネス
Cr:後輪タイヤコーナリングスティフネス
(変数)
V:車速(車体速度)
Vx:車両縦方向速度(車両進行方向に沿う車体速度)
Vy:車両横方向速度(車両進行方向から横ずれした方向である車両横方向に沿う車体速度)
ω(i,j):車輪速
β:車体すべり角(車両進行方向の車両の前後方向とのなす角度)
γ:ヨーレート
μ:路面摩擦係数(路面μ)
αi:タイヤすべり角
s(i,j):タイヤスリップ率
Fp(i,j):摩擦円半径
Xall:4輪タイヤ縦力合計値
Yall:4輪タイヤ横力合計値
δ:前輪転舵角
T(i,j):制駆動トルク
Mz:前輪SAT左右合計値
(タイヤ力関数)
hyf(.):前輪タイヤ横力
hyr(.):後輪タイヤ横力
hxf(.):前輪タイヤ縦力
hxr(.):後輪タイヤ縦力
Jf(.):前輪タイヤSAT(セルフアライニングトルク)
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1のタイヤ接地状態推定装置が適用された車両を示す全体システム図である。
実施例1における車両1は、図1に示すように、左右前輪FL,FRと、左右後輪RL,RRと、モータ/ジェネレータMGと、モータコントローラ2と、前輪操舵機構10と、統合コントローラ20と、を備えている。
前記左前輪FLは、転舵輪として車体1aの左前側に設置され、前記右前輪FRは、転舵輪として車体1aの右前側に設置されている。
前記左後輪RLは、制駆動輪として車体1aの左後側に設置され、前記右後輪RRは、制駆動輪として車体1aの右後側に設置されている。
前記モータ/ジェネレータMGは、車両1の駆動力発生源であり、ロータに永久磁石を埋設し、ステータにステータコイルが巻き付けられた三相同期型モータ/ジェネレータである。このモータ/ジェネレータMGは、モータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより、制御指令とモータ動作点(Nm,Tm)が一致するように制御される。そして、このモータ/ジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動し、左右後輪RL,RRの駆動を行う電動機として動作することもできるし(力行)、ロータが左右後輪RL,RRから回転エネルギーを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ4を充電することもできる(回生)。なお、このモータ/ジェネレータMGの出力軸は、図示しないディファレンシャルギヤを介して左右後輪RL,RRに連結されている。また、バッテリ4は、ここではリチウムイオンバッテリである。
前記モータコントローラ2は、統合コントローラ20からの目標MGトルク指令及び目標MG回転数指令と、他の必要情報を入力する。そして、モータ/ジェネレータMGのモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電容量をあらわすバッテリSOCを監視していて、このバッテリSOC情報を、統合コントローラ20へ供給する。
前記前輪操舵機構10は、ステアリングホイール11と、ステアリングギヤ12と、補助操舵用モータ13と、を備えている。この前輪操舵機構10では、運転者が操作するステアリングホイール11の回転運動により、ステアリングギヤ12を介して左右前輪FL,FRを主操舵すると共に、補助操舵用モータ13によるアシストトルクで補助操舵する。また、ステアリングホイール11とステアリングギヤ12をつなぐコラムシャフト14には、繰舵角センサ15と、操舵トルクセンサ16と、が設けられている。
前記繰舵角センサ15は、コラムシャフト14の回転角を検出するパルスエンコーダ等を用いて、ステアリングホイール11の回転角(操舵角)θを検出する。検出された回転角情報は、統合コントローラ20に入力される。
前記操舵トルクセンサ16は、運転者の操舵操作によりコラムシャフト14が捩られるトルクを操舵トルクとして検出する。検出された操舵トルク情報は、統合コントローラ20に入力される。
前記統合コントローラ20は、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うものである。この統合コントローラ20には、アクセル開度APOを検出するアクセルペダルセンサ21からのアクセル開度情報と、車両ヨーレートγを検出するヨーレートセンサ22からのヨーレート情報と、左右前輪FL,FRのそれぞれに取り付けられ、左右前輪FL,FRの各車輪速ωfl,ωfrを各々検出する前輪用車輪速センサ23a,23bからの前輪車輪速情報と、上述の回転角情報、操舵トルク情報、他の必要情報が入力される。そして、この統合コントローラ20は、モータコントローラ2へ目標MGトルク指令及び目標MG回転数指令を出力する。さらに、この統合コントローラ20では、図2に示すタイヤ接地状態推定装置30を実装する。
図2は、実施例1のタイヤ接地状態推定装置を示す制御ブロック図である。
実施例1のタイヤ接地状態推定装置30は、路面μモデル31と、車両走行状態検出器32と、横方向運動モデル33と、タイヤSATモデル34と、SAT計測器35と、ヨーレート計測器36と、比較器37と、オブザーバゲイン38と、を備えている。
前記路面μモデル31は、車両1が走行する路面の路面摩擦係数(以下、路面μという)の動特性をモデル化した路面μのダイナミクスモデルを有し、車両1のタイヤ接地状態である路面μを推定するタイヤ接地状態推定手段である。この路面μモデル31によって推定された推定路面μ(推定タイヤ接地状態)は、横方向運動モデル33とタイヤSATモデル34に入力される。
前記車両走行状態検出器32は、車両1の前輪転舵角δ及び車速Vを検出するものであり、前輪転舵角δを検出する転舵角検出手段と、車速Vを検出する車速検出手段と、を含んでいる。
ここで、前輪転舵角δは、左右前輪FL,FRの回転角度であり、ステアリングホイール11の繰舵角θからステアリングギヤ比を考慮した値になる。すなわち、車両走行状態検出器32は、繰舵角センサ15からの回転角情報及びステアリングギヤ比に基づいて前輪転舵角δを求める。また、車速Vは、車両1の速度であり、従動輪となる左右前輪FL,FRの各車輪速ωfl,ωfrの平均から求めることができる。すなわち、車両走行状態検出器32は、前輪用車輪速センサ23a,23bからの前輪車輪速情報に基づいて車速Vを求める。
この車両走行状態検出器32によって求められた前輪転舵角δは、横方向運動モデル33及びタイヤSATモデル34に入力され、車速Vは、横方向運動モデル33に入力される。
前記横方向運動モデル33は、路面μモデル31により推定された推定路面μと、車両走行状態検出器32により求められた前輪転舵角δ及び車速Vと、に基づいて、車両1の横方向状態であるヨーレートと車体すべり角を推定する横方向車両状態推定手段である。この横方向運動モデル33により推定された推定ヨーレート(推定横方向状態)は、タイヤSATモデル34及び比較器37に入力され、推定車体すべり角(推定横方向状態)は、タイヤSATモデル34に入力される。
前記タイヤSATモデル34は、前輪転舵角δと、路面μモデル31により推定された推定路面μと、横方向運動モデル33により推定された推定ヨーレート及び推定車体すべり角と、に基づいて、タイヤ力であるタイヤセルフアライニングトルク(以下、SATという)を推定するタイヤ力推定手段である。ここでは、左右前輪FL,FRのSATの合計である前輪SAT左右合計値Mzを「SAT」として推定する。このとき、タイヤSATモデル34は、実験により、タイヤすべり角αiと輪荷重によって応じて発生する前輪SATを計測し、ブラッシュモデルやマジックフォーミュラ等のタイヤモデルを用いてフィッティングすることで同定する。このタイヤSATモデル34により推定された推定SAT(推定タイヤ力)は、比較器37に入力される。
前記SAT計測器35は、タイヤ力である実際の左右前輪FL,FRに発生するSATを計測するタイヤ力計測手段である。ここでは、左右前輪FL,FRのSATの合計である前輪SAT左右合計値Mzを計測する。このとき、SAT計測器35は、前輪操舵機構10の補助操舵用モータ13への供給電流値と、操舵トルクセンサ16により検出された操舵トルク情報に基づいて前輪SAT左右合計値Mzを演算して求める。このSAT計測器35により計測された計測SAT(計測タイヤ力)は、比較器37に入力される。
前記ヨーレート計測器36は、車両1の横方向状態である実際の車両1が発生するヨーレートを計測する横方向車両状態計測手段である。このヨーレート計測器36は、ヨーレートセンサ22により検出されたヨーレート情報を計測ヨーレートして出力する。このヨーレート計測器36により計測された計測ヨーレート(計測横方向状態)は、比較器37に入力される。
前記比較器37は、タイヤSATモデル34からの推定SATと、SAT計測器35からの計測SATとの差を計算すると共に、横方向運動モデル33からの推定ヨーレートと、ヨーレート計測器36からの計測ヨーレートとの差を計算し、それぞれの推定誤差であるSAT推定誤差とヨーレート推定誤差を求める。この比較器37により求められたSAT推定誤差及びヨーレート推定誤差は、オブザーバゲイン38に入力される。
前記オブザーバゲイン38は、比較器37から入力されたSAT推定誤差及びヨーレート推定誤差に基づいて補正信号を出力するものである。ここでは、オブザーバゲイン38は、SAT推定誤差とヨーレート推定誤差とのそれぞれに補正ゲインLを乗算して補正信号とする。すなわち、この比較器37及びオブザーバゲイン38は、補正信号を演算する補正信号演算手段に相当する。そして、このオブザーバゲイン38により求められた補正信号は、路面μモデル31と、横方向運動モデル33にそれぞれ入力(帰還)される。つまり、オブザーバゲイン38は、補正信号を、路面μモデル31と横方向運動モデル33にフィードバックする。
次に、作用を説明する。
まず、「実施例1でのタイヤ接地状態の推定原理」の説明を行い、続いて、実施例1のタイヤ接地状態推定装置30における「補正信号フィードバック作用」を説明する。
[実施例1でのタイヤ接地状態の推定原理]
路面μモデル31が含むダイナミクスモデルでは、2輪モデルを用いて車両1の車両挙動をモデル化する。このとき、路面μの時間に応じた変化が区分的に一定、すなわちタイヤ接地状態である路面μの時間による1階微分がゼロであると仮定する。これにより、式(1)〜式(3)に示す車両運動方程式が成立する。
ここで、β+lfγ/V-δは前輪タイヤすべり角を表し、β+lrγ/V-δは後輪タイヤすべり角を表す。また、β,γ,μの上にそれぞれ書かれた点(「・」)は、時間による微分を表す。
さらに、車両1の横方向状態であるヨーレートγと、車両1のタイヤ力である左右前輪SAT合計値Mzが観測できると仮定すると、系の出力yは、式(4)と定義できる。
なお、前輪タイヤSAT Jf(.)は、実験により、タイヤすべり角と輪荷重に応じて発生するSATを計測し、フラッシュモデルやマジックフォーミュラ等のタイヤモデルを用いてフィッティングすることで同定する。また、実際の左右前輪SAT合計値Mzは、例えば、前輪操舵機構10に備えられた補助操舵用モータ13への供給電流値と、操舵トルクセンサ16により検出された操舵トルク情報に基づいて計算される。
そして、これらの式(1)〜式(4)を一般的な状態方程式の形式で表現すると、以下の式(5)及び式(6)となる。
ここで、状態量xは[βγμ]T、入力uは前輪転舵角δである。
この式(5)及び式(6)の状態方程式に基づいて、状態オブザーバを構成すると、以下の式(7)及び式(8)を得る。
なお、状態オブザーバにおいて、状態量以外の変数である車速Vは、例えば、前輪用車輪速センサ23a,23bからの前輪車輪速情報から計算する。また、入力である前輪転舵角δは、例えば、繰舵角センサ15からのステアリングホイール11の繰舵角θから、ステアリングギヤ比を考慮して計算した値を用いる。
そして、状態オブザーバの補正ゲインLは、通常、状態オブザーバが安定極を有するように定められる。すなわち、以下の式(9)で定義される行列Aeが、状態オブザーバの各動作点で負定となるように補正ゲインLを定めればよい。
この式(10)及び式(11)に基づき、各計算ステップで得られる推定値のまわりにおいて、例えば、極配置法を用いると、状態オブザーバが所望の極を持つように補正ゲインLを定めることができる。なお、「極配置法」とは、制御系に望ましい固有値を持たせるようにゲインを定める既知の方法である。
したがって、路面μモデル31では、状態オブザーバにより、式(1)〜式(3)に示す車両状態方程式と、式(4)に示す系の出力である観測値を同時に用いて、状態量xを推定し、この推定状態量に含まれる路面μを推定することができる。
なお、補正ゲインLの決定方法に関しては、各計算ステップで補正ゲインLを計算する替わりに、予めオフラインで計算した補正ゲインをスケジューリングしてもよい。すなわち、対象とする非線形成分であるタイヤ横力は、比較的緩やかな非線形成分である。そのため、ノミナル動作点において極配置法を用いて補正ゲインLをオフラインで計算し、このノミナル動作点の近傍で定められた動作範囲内で同一ゲインを用いてもよい。ここで、動作範囲内でのオブザーバ収束性は、例えばH∞理論等に基づいて、想定されるコーナリングパワーの変動等を考慮して保証すればよい。このように、補正ゲインをスケジューリングすることで、ゲイン計算に要する計算量を削減することができる。
一方、観測値にノイズ(誤差)が含まれている場合には、導出した状態方程式である式(5)に基づいて拡張カルマンフィルタ(以下EKFという)を構成することで、高精度に状態量xを推定することができる。
なお、カルマンフィルタとは、誤差を含む観測値を用いて、ある動的システムの状態量を推定或いは制御するための無限インパルス応答フィルタの一種である。また、このカルマンフィルタは、時間ステップを1つ進めるたびに事前推定(予測)と事後推定(更新)の2つの手続きを行う。事前推定の手続きでは、前の時刻の推定状態量から、その次の(現在)の時刻の推定状態量を計算する。事後推定の手続では、今の時刻の観測値を用いて推定値を補正し、より正確な状態量を推定する。
EKFを構成するために、式(5)を離散化すると、下記式(12)を得る。
ここで、添え字kは計算時間ステップであり、k=1,2,3…となる。なお、式(5)の離散化にオイラー法を用いた場合、サンプル時間をΔtとすると、下記式(13)の関係がある。
そして、式(12)で示される離間時間状態方程式を用いて確率系システムを定義すると、下記式(14),式(15)を得る。
ここで、qkはプロセスノイズ、rkは観測ノイズである。プロセスノイズqkは、共分散行列Qk且つ零平均の多数変数正規(ガウス)分布に従うようなノイズであると仮定し、観測ノイズrkは、共分散行列Rk且つ零平均の多数変数正規(ガウス)分布に従うようなノイズであると仮定する。このとき、プロセスノイズqkで路面μのダイナミクスが励起されることで、路面μはランダムウォーク挙動を示す。
この確率系システムに、以下の式(16)〜式(21)に示すEKFアルゴリズムを適用して状態量xを推定する。
ここで、添え字「-」は、事前推定値を表す。そして、xk -は今の時刻の推定値であり、Pk -は今の時刻の行列誤差であり、Skは残差の共分散であり、Kkは最適カルマンゲインであり、xkは更新された状態量の推定値(事後推定値)であり、Pkは更新された誤差の共分散である。
このEKFアルゴリズムを各計算時間ステップで実行することで、更新された状態量xの推定値である事後推定値に含まれる路面μと車体すべり角の推定値を得ることができる。このEKFアルゴリズムでは、推定状態量の分散を最小化するように状態量xを推定するため、観測値に含まれるノイズが顕著な場合や、プロセスノイズを仮定したい場合に精度良く状態量xの推定値を得ることができる。
[補正信号フィードバック作用]
実施例1のタイヤ接地状態推定装置30では、まず、路面μモデル31において路面μを推定する。この路面μの推定は、上述のように、式(1)〜式(3)に示す車両状態方程式と、式(4)に示す系の出力yである観測値を同時に用いて推定した状態量xに、路面μが含まれていることで行う。
次に、推定路面μと前輪転舵角δと車速Vを用いて横方向運動モデル33にてヨーレート及び車体すべり角を推定し、推定路面μと前輪転舵角δと推定ヨーレート、推定車体すべり角を用いてタイヤSATモデル34にてSATを推定する。ここで、推定ヨーレートは、式(1)〜式(3)に示す車両状態方程式と、式(4)に示す系の出力yである観測値を同時に用いて推定した状態量xに、ヨーレートが含まれていることで推定される。また、推定SATは、上述の前輪タイヤSAT Jf(.)を用いることで推定される。
そして、比較器37において推定SATと計測SATの差であるSAT推定誤差と、推定ヨーレートと計測ヨーレートの差であるヨーレート推定誤差を求める。そして、オブザーバゲイン38にて、このSAT推定誤差及びヨーレート推定誤差と補正ゲインLとの積を演算して補正信号とし、路面μモデル31及び横方向運動モデル33にそれぞれフィードバックする。つまり、SAT推定誤差及びヨーレート推定誤差と補正ゲインLとの積を、推定SATの微分と推定ヨーレートの微分にそれぞれフィードバックする。
このとき、補正ゲインLを適切な値に設定することで、式(7),式(8)によって示される状態オブザーバが安定極を有することができる。これにより、状態量xを推定する式(5),式(6)で示される状態方程式が適切に補正されて精度が向上し、高精度で状態量xに含まれるタイヤ接地状態である路面μと、車両1の横方向状態である車体すべり角βを推定することができる。
つまり、推定タイヤ力である推定SATに含まれる誤差(ノイズ)に基づく補正信号によって、路面μモデル31に含まれるダイナミクスモデルを補正することができ、推定SATに含まれる誤差を抑制し、路面μの推定誤差に繋がることを防止できる。
そして、このようにタイヤ接地状態を推定することで、タイヤ限界に達する前に推定タイヤ接地状態(ここでは推定路面μ)に基づいて、例えば制動制御や旋回制御等の車両運動制御を実施することで、前輪転舵角の目標値が限界相当量を超えることを防止できる。この結果、車両のドリフトアウトを抑制できる等、より安定した車両運動制御を実現することができる。
特に、実施例1のタイヤ接地状態推定装置30では、路面μモデル31が、路面μのダイナミクスモデルを含み、補正信号に応じて補正される。すなわち、路面μのダイナミクスモデルに、タイヤ力(SAT)の推定誤差を、オブザーバゲイン38に含まれる補正ゲインLを介して帰還する構造とした。
このため、計測SATから推定路面μまでの伝達特性が低域通過フィルタとなり、その遮断周波数を補正ゲインLの設定に応じて自由に設計できる。そして、推定路面μの耐ノイズ性と高応答性とを両立して実現するタイヤ接地状態推定装置30が構成できる。ここで、低域通過フィルタの遮断周波数は、補正ゲインLの設定に応じて自由に設計できる。例えば、ノイズなど、高周波領域の不確かさが計測SATに多く含まれる場合には、補正ゲインLを小さく設定することで遮断周波数を小さくし、路面μの推定誤差を抑えることができる。反対に、計測SATが精度良く計測できるときには、補正ゲインLを大きく設定することで遮断周波数を大きくし、速い路面μの変化を高応答に推定できる。
この路面μの推定値に基づいて車両運動制御を実施すると、タイヤ力計測値に含まれるノイズ等に起因する路面摩擦係数推定値の変動を抑えられるので、目標値のハンチングを抑えた滑らかな制御が実現でき、推定値の応答性を制御器よりも十分速く設定することで、安定な制御系を構成することができる。
また、この路面μのダイナミクスモデルは、タイヤ接地状態である路面μの時間による1階微分がゼロであると仮定したものである。このため、状態方程式の次数を最小限に抑え、推定路面μを求めるための演算量を低減することができる。
一方、実施例1のタイヤ接地状態推定装置30では、タイヤ力として、タイヤセルフアライニングトルク(SAT)相当量としたため、SAT相当量に基づいてタイヤ接地状態である路面μを推定することになる。これにより、タイヤすべり角が小さい場合であっても、SATが、タイヤすべり角が小さくてもタイヤ接地状態の影響を大きくうける特性を利用してタイヤ接地状態を精度良く推定できる。
また、車両1の横方向状態として、ヨーレートγ及び車体すべり角βを含んでいる。このため、これらヨーレートγ及び車体すべり角βを用いてタイヤ力推定手段タイヤSATモデル34でタイヤ力であるSATをより精度よく推定でき、さらにこれに基づいて推定される路面μの推定精度を向上できる。このように精度良く推定された路面μを考慮して車両運動の制御を実施すると、路面状態によらず安定で乗り心地の良い車両が実現できる。
また、実施例1のタイヤ接地状態推定装置30では、横方向運動モデル33は、推定路面μに応じて車両1の横方向状態を推定する。すなわち、横方向状態であるヨーレートを推定路面μと関連をもたせて推定し、閉ループ系を構成することとなる。これにより、より精度良くタイヤ接地状態である路面μを推定できる。このように精度良く推定された推定路面μを考慮して車両運動の制御を実施すると、路面状態によらず安定で乗り心地の良い車両が実現できる。
さらに、実施例1のタイヤ接地状態推定装置30では、オブザーバゲイン38によって、タイヤ力の誤差であるSAT誤差に加え、車両1の横方向状態の誤差であるヨーレート誤差に応じても補正信号を演算している。すなわち、実施例1のタイヤ接地状態推定装置30では、補正信号を、タイヤ力(SAT推定誤差)だけでなく、横方向状態(ヨーレート推定誤差)をも考慮して演算する。このため、タイヤ力及び横方向状態を考慮した補正信号に基づいて路面μを推定することで、推定精度を向上することができる。このように精度良く推定された推定路面μを考慮して車両運動の制御を実施すると、路面状態によらず安定で乗り心地の良い車両が実現できる。
そして、オブザーバゲイン38によって求められた補正信号は、路面μモデル31だけでなく、横方向運動モデル33にも帰還され、横方向運動モデル33による推定値を補正する。これにより、横方向状態である推定ヨーレートや推定車体すべり角を補正信号で補正することで、より正確に推定ヨーレートや推定車体すべり角を推定でき、さらに、それに基づいて推定されるタイヤ接地状態の推定値である推定路面μの推定精度を向上することができる。このように精度良く推定されたタイヤ接地状態を考慮して車両運動の制御を実施すると、路面状態によらず安定で乗り心地の良い車両が実現できる。
そして、実施例1のタイヤ接地状態推定装置30におけるオブザーバゲイン38では、推定SAT(推定タイヤ力)と計測SAT(計測タイヤ力)との差、又は、推定ヨーレート(推定横方向状態)と計測ヨーレート(計測横方向状態)との差に補正ゲインLを乗算して補正信号を演算している。このため、補正信号を求めるための演算方法が簡便になり、演算量を低減しつつ、出力誤差に応じて推定値を更新することができる。
次に、効果を説明する。
実施例1のタイヤ接地状態推定装置30にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
(1) 車両1のタイヤ接地状態(路面μ)を推定するタイヤ接地状態推定手段(路面μモデル)31と、前記車両1の転舵角δを検出する転舵角検出手段(車両走行状態検出器)32と、前記車両1の車体速度(車速)Vを検出する車速検出手段(車両走行状態検出器)32と、前記転舵角δと、前記車体速度Vに基づいて、前記車両1の横方向状態(ヨーレート,車体すべり角)を推定する横方向車両状態推定手段(横方向運動モデル)33と、前記転舵角δと、前記タイヤ接地状態推定手段31により推定された推定タイヤ接地状態(推定路面μ)と、前記横方向車両状態推定手段33により推定された推定横方向状態(推定ヨーレート,推定車体すべり角)に基づいて、前記車両1のタイヤ力(SAT)を推定するタイヤ力推定手段(タイヤSATモデル)34と、前記車両1のタイヤ力(SAT)を計測するタイヤ力計測手段(SAT計測器)35と、前記タイヤ力推定手段34により推定された推定タイヤ力(推定SAT)と、前記タイヤ力計測手段35により計測された計測タイヤ力(計測SAT)とから、補正信号を演算する補正信号演算手段(比較器37,オブザーバゲイン38)と、を備え、前記補正信号は、前記タイヤ接地状態推定手段31に帰還する構成とした。
このため、計測タイヤ力に含まれる誤差を抑制し、タイヤ接地状態を高精度に推定することができる。
(2) 前記タイヤ接地状態は、前記車両1が走行する路面の路面摩擦係数(路面μ)であり、前記タイヤ接地状態推定手段31は、前記路面摩擦係数のダイナミクスモデル(式(1)〜式(3))を含み、前記補正信号に応じて補正する構成とした。
このため、推定路面μの耐ノイズ性と高応答性とを両立して実現することができる。
(3) 前記ダイナミクスモデル(式(1)〜式(3))は、前記タイヤ接地状態(路面μ)の時間による1階微分がゼロであると仮定する構成とした。
このため、状態方程式の次数を最小限に抑え、演算量を低減することができる。
(4) 前記タイヤ力は、タイヤセルフアライニングトルク(SAT)相当量とする構成とした。
このため、タイヤすべり角が小さいときであっても、タイヤ接地状態を高精度で推定することができる。
(5) 前記横方向状態は、前記車両のヨーレートγ又は前記車両1の車体すべり角δのうち少なくとも一つを含む構成とした。
このため、ヨーレートγや車体すべり角βの影響を考慮してタイヤ力をより精度良く推定することができる。
(6) 前記横方向車両状態推定手段(横方向運動モデル)33は、前記転舵角δと前記車体速度Vと前記推定タイヤ接地状態(推定路面μ)に基づいて前記車両の横方向状態(ヨーレート,車体すべり角)を推定する構成とした。
このため、横方向状態をタイヤ接地状態と関連を持たせて推定し、より精度良くタイヤ接地状態を推定することができる。
(7) 前記車両1の横方向状態(ヨーレート)を計測する横方向車両状態計測手段(ヨーレート計測器)36を備え、前記補正信号演算手段37,38は、前記推定タイヤ力(推定SAT)と前記計測タイヤ力(計測SAT)、及び、前記横方向車両状態推定手段(横方向運動モデル)33により推定された推定横方向状態(推定ヨーレート)と、前記横方向車両状態計測手段36により計測された計測横方向状態(計測ヨーレート)に基づいて、補正信号を演算する構成とした。
このため、補正信号を、タイヤ力に加え横方向状態をも考慮して演算でき、タイヤ接地状態の推定精度を高めることができる。
(8) 前記補正信号は、前記横方向車両状態推定手段36に帰還される構成とした。
このため、横方向運動モデル33によって求められる推定ヨーレートや推定車体すべり角の推定精度を高めることができ、結果としてタイヤ接地状態の推定精度を向上することができる。
(9) 前記補正信号演算手段は、前記推定タイヤ力(推定SAT)と前記計測タイヤ力(計測SAT)との差、又は、前記推定横方向状態(推定ヨーレート)と前記計測横方向状態(計測ヨーレート)との差の少なくとも一方に、補正ゲインLを乗算して前記補正信号を演算する構成とした。
このため、演算方法が簡便なものとなり、演算量を低減しつつ、出力誤差に応じて推定値を更新することができる。
実施例2のタイヤ接地状態推定装置は、車両の横方向状態として、ヨーレートの他に、横加速度、前輪タイヤ横力が計測できるときの例である。
まず、構成を説明する。なお、実施例1において説明した車両1と同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図3は、実施例2のタイヤ接地状態推定装置が適用された車両を示す全体システム図である。
実施例2における車両1Aは、図3に示すように、左右前輪FL,FRと、左右後輪RL,RRと、モータ/ジェネレータMGと、モータコントローラ2と、前輪操舵機構10と、統合コントローラ20Aと、を備えている。
前記統合コントローラ20Aには、実施例1の場合と同様にアクセル開度情報、ヨーレート情報、前輪車輪速情報、回転角情報、操舵トルク情報が入力されると共に、左右前輪FL,FRのそれぞれに取り付けられ、左右前輪FL,FRのタイヤ横力Fyfl,Fyfrを各々検出する横力センサ24a,24bからの前輪タイヤ横力情報と、車両1Aに作用する車体横加速度ayを検出する横加速度センサ25からの横加速度情報が入力される。さらに、この統合コントローラ20Aでは、図4に示すタイヤ接地状態推定装置30Aを実装する。
図4は、実施例2のタイヤ接地状態推定装置を示す制御ブロック図である。
実施例2のタイヤ接地状態推定装置30Aは、路面μモデル31Aと、車両走行状態検出器32Aと、横方向運動モデル33Aと、タイヤモデル34Aと、タイヤ力計測器35Aと、車両出力計測器36Aと、比較器37Aと、オブザーバゲイン38Aと、を備えている。
前記路面μモデル31Aは、車両1Aが走行する路面の路面摩擦係数(以下、路面μという)の動特性をモデル化した路面μのダイナミクスモデルを有し、車両1Aのタイヤ接地状態である路面μを推定するタイヤ接地状態推定手段である。この路面μモデル31Aによって推定された推定路面μ(推定タイヤ接地状態)は、横方向運動モデル33Aとタイヤモデル34Aに入力される。
前記車両走行状態検出器32Aは、車両1Aの前輪転舵角δと車速Vを検出するものであり、前輪転舵角δを検出する転舵角検出手段と、車速Vを検出する車速検出手段と、を含んでいる。なお、前輪転舵角δと車速Vの求め方は実施例1と同一であるため、説明を省略する。この車両走行状態検出器32Aによって求められた転舵角δは、横方向運動モデル33A及びタイヤモデル34Aに入力され、車速Vは、横方向運動モデル33Aに入力される。
前記横方向運動モデル33Aは、路面μモデル31により推定された推定路面μと、車両走行状態検出器32により求められた転舵角δ及び車速Vと、に基づいて、車両1Aの横方向状態であるヨーレートγ、車体すべり角β、車両1Aに作用する車体横加速度ayを推定する横方向車両状態推定手段である。この横方向運動モデル33Aにより推定された推定ヨーレート(推定横方向状態)は、タイヤモデル34Aに入力され、推定車体すべり角(推定横方向状態)は、タイヤモデル34に入力される。さらに、推定車体すべり角又は推定横加速度(推定横方向状態)の何れか一方は、比較器37Aに入力される。
前記タイヤモデル34Aは、転舵角δと、路面μモデル31により推定された推定路面μと、横方向運動モデル33により推定された推定ヨーレート及び推定車体すべり角と、に基づいて、タイヤ力であるSAT又は前輪タイヤ横力Fyfを推定するタイヤ力推定手段である。ここでは、左右前輪FL,FRのSATの合計である前輪SAT左右合計値Mzを「SAT」として推定し、又は、左右前輪FL,FRに作用するタイヤ横力Fyfl,Fyfrの合計を「前輪タイヤ横力」として推定する。このタイヤモデル34Aにより推定された推定SAT(推定タイヤ力)又は推定前輪タイヤ横力(推定タイヤ力)の何れか一方は、比較器37Aに入力される。
前記タイヤ力計測器35Aは、タイヤ力である実際の左右前輪FL,FRに発生するSAT又は前輪タイヤ横力Fyfを計測するタイヤ力計測手段である。このとき、タイヤ力計測器35Aは、前輪操舵機構10の補助操舵用モータ13への供給電流値と、操舵トルクセンサ16により検出された操舵トルク情報に基づいてSATを演算する。また、前輪タイヤ横力Fyfは、例えば、タイヤホイールに横力センサを挿入することで計測してもよいし、ヨーレート情報と横加速度情報から2輪車両モデルを用いて計算してもよい。このタイヤ力計測器35Aにより計測された計測SAT(計測タイヤ力)又は計測前輪タイヤ横力(計測タイヤ力)の何れか一方は、比較器37Aに入力される。
前記車両出力計測器36Aは、実際の車両1Aに発生する車体横加速度ay又は車体すべり角βを計測する横方向車両状態計測手段である。この車両出力計測器36Aは、横加速度センサ25により検出された横加速度情報を計測横加速度として出力する。また、車体すべり角βは、例えば、GPS(Global Positioning System)システムを用いて計測してもよいし、1対の対地車速センサを用いて計測してもよい。この車両出力計測器36Aにより計測された計測横加速度(計測横方向状態)又は計測車体すべり角(計測横方向状態)の何れか一方は、比較器37Aに入力される。
前記比較器37Aは、タイヤモデル34Aからの推定SATと、タイヤ力計測器35Aからの計測SATとの差、又は、タイヤモデル34Aからの推定前輪タイヤ横力と、タイヤ力計測器35Aからの計測前輪タイヤ横力との差を計算すると共に、横方向運動モデル33Aからの推定横加速度と、車両出力計測器36Aからの計測横加速度との差、又は、横方向運動モデル33Aからの推定車体すべり角と、車両出力計測器36Aからの計測車体すべり角との差を計算する。そして、それぞれの推定誤差であるSAT推定誤差又は前輪タイヤ横力推定誤差、及び、横加速度推定誤差又は車体すべり角推定誤差を求める。この比較器37Aにより求められた各推定誤差は、オブザーバゲイン38Aに入力される。
前記オブザーバゲイン38Aは、比較器37Aから入力された各推定誤差に基づいて補正信号を出力するものである。ここでは、オブザーバゲイン38Aは、SAT推定誤差又は前輪タイヤ横力推定誤差、及び、横加速度推定誤差又は車体すべり角推定誤差のうち、実際に観測可能なパラメータの推定誤差に補正ゲインLを乗算し補正信号とする。すなわち、この比較器37A及びオブザーバゲイン38Aは、補正信号を演算する補正信号演算手段に相当する。そして、このオブザーバゲイン38Aにより求められた補正信号は、路面μモデル31Aと、横方向運動モデル33Aにそれぞれ入力(帰還)される。つまり、オブザーバゲイン38Aは、補正信号を、路面μモデル31Aと横方向運動モデル33Aにフィードバックする。
次に、作用を説明する。
まず、「実施例2でのタイヤ接地状態の推定原理」の説明を行い、続いて、実施例2のタイヤ接地状態推定装置30Aにおける「補正信号フィードバック作用」を説明する。
[実施例2でのタイヤ接地状態の推定原理]
前記路面μモデル31Aが含むダイナミクスモデルでは、2輪モデルを用いて車両1Aの車両挙動をモデル化する。このとき、路面μの時間に応じた変化が区分的に線形、すなわちタイヤ接地状態である路面μの時間による2階微分がゼロであると仮定する。これにより、式(22)〜式(25)に示す車両運動方程式が成立する。
ここで、μdは、路面μの時間による1階微分値である。
なお、路面μの時間に応じた変化が区分的に時間の二次関数、すなわちタイヤ接地状態である路面μの時間による3階微分がゼロであると仮定すると、式(26)〜式(30)に示す車両運動方程式が成立する。
ここで、μddは、路面μの時間による2階微分値である。
さらに、実施例1において観測可能と仮定し、観測量として定義したヨーレートγの替わりに、車体横加速度ayが観測できると仮定すると、系の出力yは、式(31)と定義できる。
また、実施例1において観測量として定義した左右前輪SAT合計値Mzの替わりに、前輪タイヤ横力Fyfが観測できると仮定した場合では、系の出力yは、式(32)と定義できる。
なお、前輪タイヤ横力Fyfは、例えばタイヤホイールに横力センサを挿入することで計測してもよいし、車両1Aに作用するヨーレートγと車体横加速度ayから2輪車両モデルを用いて計算してもよい。
さらに、実施例1において観測量として定義したヨーレートγの替わりに、車体すべり角βが観測できると仮定した場合では、系の出力yは、式(33)と定義できる。
なお、車体すべり角βは、例えばGPSシステムを利用して計測する。
そして、上記車両状態量のうち、2つの車両状態量を重複して観測可能と仮定し、観測量として定義してもよい。つまり、例えば、ヨーレートγと車体横加速度ayと左右前輪SAT合計値Mzが観測できると仮定した場合では、系の出力yは、式(34)と定義できる。
このように、系の観測性が保たれる限り、系の出力を自由に定義することができる。そして、上記式(22)〜式(25)又は式(26)〜式(30)に示す車両運動方程式と、上記式(31)〜式(34)のいずれかに示す出力方程式のいずれを組み合わせた場合においても、この運動方程式は、以下の式(35),式(36)に示す一般的な状態方程式で表現することができる。
ここで、状態量xは[βγμ]T、入力uは前輪転舵角δfである。
この式(35)及び式(36)の状態方程式に基づいて、状態オブザーバを構成すると、以下の式(37)及び式(38)を得る。
ここで、補正ゲインLは、例えば、実施例1に記載した手法を用いて状態オブザーバが安定極を有するように定められる。
[補正信号フィードバック作用]
実施例2のタイヤ接地状態推定装置30Aでは、まず、路面μモデル31Aにおいて路面μを推定する。このとき、式(22)〜式(25)又は式(26)〜式(30)に示す車両運動方程式と、上記式(31)〜式(34)のいずれかに示す出力方程式のいずれを組み合わせて推定した状態量xに路面μが含まれていることで行う。ここで、路面μの時間に応じた変化について、高次項までモデル化することで、状態オブザーバを構成した際に、速く変動する路面μをより精度良く推定することができる。
次に、推定路面μと前輪転舵角δと車速Vを用いて、横方向運動モデル33Aにてヨーレート及び車体すべり角を推定すると共に、車体横加速度ayを推定する。また、推定路面μと前輪転舵角δと推定ヨーレート、推定車体すべり角を用いてタイヤモデル34AにてSAT又は前輪タイヤ横力Fyfを推定する。
そして、SATが観測可能と仮定したときには、比較器37Aにおいて推定SATと計測SATの差であるSAT推定誤差を求める。また、SATの替わりに前輪タイヤ横力Fyfが観測可能と仮定したときには、比較器37Aにおいて推定前輪タイヤ横力と計測前輪タイヤ横力の差であるタイヤ横力推定誤差を求める。そして、ヨーレートγの替わりに車体横加速度ayが観測可能と仮定したときには、比較器37Aにおいて推定横加速度と計測横加速度の差である横加速度誤差を求める。さらに、ヨーレートγの替わりに車体すべり角βが観測可能と仮定したときには、比較器37Aにおいて推定車体すべり角と計測車体すべり角の差である車体すべり角誤差を求める。なお、ヨーレートγと車体横加速度ayとSATが観測可能と仮定したときには、SAT推定誤差と、ヨーレート推定誤差と、横加速度推定誤差を求めても良い。
そして、オブザーバゲイン38Aにて、求めた推定誤差と補正ゲインLとの積を演算して補正信号とし、路面μモデル31A及び横方向運動モデル33Aにそれぞれフィードバックする。
このように、系の可観測性が保たれる限り、系の出力を自由に定義することができるため、状況に応じて最適な推定誤差を求めることができる。
特に、実施例2のタイヤ接地状態推定装置30Aでは、タイヤ力として、タイヤ横力(ここでは前輪タイヤ横力Fyf)相当量としている。すなわち、ヨーレートγと車体横加速度ayとから計算できるタイヤ横力Fyに基づいてタイヤ接地状態である路面μを推定する構成としたことで、既存の車載センサを用いて路面μを推定でき、車両原価を低減することができる。
また、実施例2のタイヤ接地状態推定装置30Aでは、路面μモデル31Aのダイナミクスモデルが、タイヤ接地状態である路面μの時間による2階微分がゼロであると仮定したもの、又は、3階微分がゼロであると仮定したものとしている。そのため、路面μの時間変化が大きいときにも、精度良く路面μを推定することができる。また、路面μの時間変化について必要な次項までモデル化することができ、状態オブザーバを構成したときに、必要に応じて精度良く推定することができる。
さらに、実施例2のタイヤ接地状態推定装置30Aでは、車両1Aの横方向状態として、車両1に作用する車体横加速度ayを含んでいる。そのため、既存の車載センサを用いて容易に計測できる計測量から、路面μを推定することができ、車両原価を抑えることができる。
次に、効果を説明する。
実施例2のタイヤ接地状態推定装置30Aにあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
(10) タイヤ接地状態推定手段(路面μモデル)31Aが含むタイヤ接地状態(路面μ)のダイナミクスモデルは、前記タイヤ接地状態の時間による2階微分がゼロであると仮定する構成とした。
このため、タイヤ接地状態の時間に応じた変化が大きいときにも、タイヤ接地状態を精度良く推定することができる。
(11) 前記タイヤ力は、タイヤ横力Fyf相当量とする構成とした。
このため、既存の車載センサを用いてタイヤ接地状態を推定することができ、車両原価の低減を図ることができる。
(12) 前記横方向状態は、前記車両1Aに作用する車体横加速度ayを含む構成とした。
このため、既存の車載センサを用いてタイヤ接地状態を推定することができ、車両原価の低減を図ることができる。
実施例3のタイヤ接地状態推定装置は、輪荷重移動が生じ、制駆動力が作用する場合の例である。
まず、構成を説明する。なお、実施例1及び実施例2において説明した車両1,車両1Aと同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図5は、実施例3のタイヤ接地状態推定装置が適用された車両を示す全体システム図である。
実施例3における車両1Bは、図5に示すように、左右前輪FL,FRと、左右後輪RL,RRと、モータ/ジェネレータMGと、モータコントローラ2と、前輪操舵機構10と、統合コントローラ20Bと、を備えている。
前記統合コントローラ20Bには、実施例1の場合と同様にアクセル開度情報、ヨーレート情報、前輪車輪速情報、回転角情報、操舵トルク情報が入力されると共に、左右後輪RL,RRのそれぞれに取り付けられ、左右後輪RL,RRの車輪速ωrl,ωrrを各々検出する後輪用車輪速センサ26a,26bからの後輪車輪速情報が入力される。そして、この統合コントローラ20Bでは、図6に示すタイヤ接地状態推定装置30Bを実装する。
図6は、実施例3のタイヤ接地状態推定装置を示す制御ブロック図である。
実施例3のタイヤ接地状態推定装置30Bは、タイヤスリップ率検出器40と、路面μモデル31Bと、車両走行状態検出器32Bと、横方向運動モデル33Bと、タイヤSATモデル34Bと、SAT計測器35Bと、ヨーレート計測器36Bと、比較器37Bと、オブザーバゲイン38Bと、を備えている。
前記タイヤスリップ率検出器40は、実際の車両1Bのタイヤスリップ率s(i,j)を検出するタイヤスリップ率検出手段である。ここで、タイヤスリップ率s(i,j)とは、車体速度と車輪速度の差を車体速度で除したものである。
前記路面μモデル31Bは、車両1Bが走行する路面の路面摩擦係数(以下、路面μという)の動特性をモデル化した路面μのダイナミクスモデルを有し、車両1Bのタイヤ接地状態である路面μを推定するタイヤ接地状態推定手段である。この路面μモデル31Bによって推定された推定路面μ(推定タイヤ接地状態)は、横方向運動モデル33BとタイヤSATモデル34Bに入力される。
前記車両走行状態検出器32Bは、車両1Bの前輪転舵角δと車速Vを検出するものであり、前輪転舵角δを検出する転舵角検出手段と、車速Vを検出する車速検出手段と、を含んでいる。なお、前輪転舵角δと車速Vの求め方は実施例1と同一であるため、説明を省略する。この車両走行状態検出器32Bによって求められた前輪転舵角δは、横方向運動モデル33B及びタイヤSATモデル34Bに入力され、車速Vは、横方向運動モデル33Bに入力される。
前記横方向運動モデル33Bは、タイヤスリップ率検出器40によって検出されたタイヤスリップ率s(i,j)を考慮して、路面μモデル31により推定された推定路面μと、車両走行状態検出器32により求められた前輪転舵角δ及び車速Vと、に基づいて、車両1Bの横方向状態であるヨーレートγ、車体すべり角β、輪荷重Fnを推定する横方向車両状態推定手段である。なお、輪荷重Fnは、各タイヤ横力Fyの合計値である。この横方向運動モデル33Bにより推定された推定ヨーレート(推定横方向状態)は、タイヤSATモデル34B及び比較器37Bに入力され、推定車体すべり角(推定横方向状態)は、タイヤSATモデル34Bに入力され、推定輪荷重(推定横方向状態)は、タイヤSATモデル34Bに入力される。
前記タイヤSATモデル34Bは、タイヤスリップ率検出器40によって検出されたタイヤスリップ率s(i,j)を考慮して、前輪転舵角δと、路面μモデル31により推定された推定路面μと、横方向運動モデル33により推定された推定ヨーレート、推定車体すべり角、推定輪荷重と、に基づいて、タイヤ力であるSATを推定するタイヤ力推定手段である。ここでは、左右前輪FL,FRのSATの合計である前輪SAT左右合計値Mzを「SAT」として推定する。このタイヤSATモデル34Bにより推定された推定SAT(推定タイヤ力)は、比較器37Bに入力される。
ここで、タイヤSATモデル34Bは、図7に示すように、左輪タイヤSATモデル34Baと、右輪タイヤSATモデル34Bbと、和算器34Bcと、を有している。
前記左輪タイヤSAT34Baは、タイヤスリップ率s(i,j)を考慮して、路面μモデル31Bにより推定された推定路面μと、横方向運動モデル33Bにより推定された推定ヨーレート、推定車体すべり角、推定輪荷重とから、左輪SATを推定する。
前記右輪タイヤSAT34Bbは、タイヤスリップ率s(i,j)を考慮して、路面μモデル31Bにより推定された推定路面μと、横方向運動モデル33Bにより推定された推定ヨーレート、推定車体すべり角、推定輪荷重とから、右輪SATを推定する。
前記和算器34Bcは、左輪タイヤSAT34Baにより推定された左輪SATと、右輪タイヤSAT34Bbにより推定された右輪SATを和算し、推定SATとする。
前記SAT計測器35Bは、タイヤ力である実際の左右前輪FL,FRに発生するSATを計測するタイヤ力計測手段である。このSAT計測器35Bにより計測された計測SAT(計測タイヤ力)は、比較器37Bに入力される。
前記ヨーレート計測器36Bは、横方向状態である実際の車両1Bに発生するヨーレートを計測する横方向車両状態計測手段である。このヨーレート計測器36Bは、ヨーレートセンサ22により検出されたヨーレート情報を計測ヨーレートとして出力する。このヨーレート計測器36Bにより計測された計測ヨーレート(計測横方向状態)は、比較器37Bに入力される。
前記比較器37Bは、タイヤモデル34Bからの推定SATと、SAT計測器35Bからの計測SATとの差を計算すると共に、横方向運動モデル33Bからの推定ヨーレートと、ヨーレート計測器36Bからの計測ヨーレートとの差を計算する。そして、それぞれの推定誤差であるSAT推定誤差とヨーレート推定誤差を求める。この比較器37Bにより求められた推定誤差は、オブザーバゲイン38Bに入力される。
前記オブザーバゲイン38Bは、比較器37Bから入力されたSAT推定誤差及びヨーレート推定誤差に基づいて補正信号を出力するものである。そして、このオブザーバゲイン38Bにより求められた補正信号は、路面μモデル31Bと、横方向運動モデル33Bにそれぞれ入力(帰還)される。
次に、作用を説明する。
まず、「実施例3でのタイヤ接地状態の推定原理」の説明を行い、続いて、実施例3のタイヤ接地状態推定装置30Bにおける「補正信号フィードバック作用」を説明する。
[実施例3でのタイヤ接地状態の推定原理]
実施例3のタイヤ接地状態推定装置30Bにおいて、輪荷重移動が生じ、制駆動力が作用する場合を考える。
このとき、前記路面μモデル31Bが含むダイナミクスモデルでは、車両挙動は4輪モデルを用いてモデル化する。このとき、路面μの時間に応じた変化が区分的に一定、すなわちタイヤ接地状態である路面μの時間による1階微分がゼロであると仮定する。これにより、式(39)〜式(41)に示す車両運動方程式が成立する。
ここで、hf(.)は、前輪タイヤすべり角β+lfγ/V-δと、前輪摩擦円半径Fp(r,j)と、前輪タイヤスリップ率s(f,j)とに応じて前輪タイヤ横力を計算する関数である。hr(.)は、後輪タイヤすべり角β+lrγ/Vと、後輪摩擦円半径Fp(r,j)と、後輪タイヤスリップ率s(r,j)と、に応じて後輪タイヤ横力を計算するタイヤモデルである。これらのタイヤモデルには、たとえば、ブラッシュモデルやマジックフォーミュラを用いればよい。
このとき、摩擦円半径Fp(i,j)は、たとえばロールモーメントの静的つりあいから導かれた式(42)〜式(45)で示す関係から与えられる。
ここで、Fnfは前輪の静的な輪荷重であり、Fnrは後輪の静的な輪荷重である。
また、Fyallは、車両に作用する横力の合計値であり、以下の式(46)によって与えられる。
そして、制動時のタイヤスリップ率s(i,j)は、以下の式(47)によって求められる。
ここで、車速Vは、例えば、GPSシステムによって計測された値を用いて求め、車輪速ω(i,j)は前輪用車輪速センサ23a,23b及び後輪用車輪速センサ26a,26bによって検出された前輪車輪速情報及び後輪車輪速情報から求められる。
また、駆動時のタイヤスリップ率s(i,j)は、以下の式(48)によって求められる。
ここで、車速Vは、例えば、従動輪である左右前輪FL,FRに取り付けられた前輪用車輪速センサ23a,23bによって検出された前輪車輪速情報から求められる。
そして、車両1Bのヨーレートγ及び左右前輪SAT合計値Mzが観測できると仮定すると、系の出力yは、式(49)と定義できる。
さらに、式(39)〜式(41)に示す運動方程式と、式(49)に示す出力方程式を、一般的な状態方程式の形式で表現すると、以下の式(50),式(51)となる。
ここで、状態量xは[βγμ]T、入力uは前輪転舵角δである。
この式(50)及び式(51)の状態方程式に基づいて、状態オブザーバを構成すると、以下の式(52)及び式(53)を得る。
ここで、補正ゲインLは、例えば、実施例1に記載した手法を用いて状態オブザーバが安定極を有するように定められる。
[補正信号フィードバック作用]
実施例3のタイヤ接地状態推定装置30Bでは、まず、路面μモデル31Bにおいて路面μを推定する。このとき、式(39)〜式(41)に示す車両運動方程式と、式(49)に示す出力方程式に基づいて推定した状態量xに路面μが含まれていることで行う。
次に、推定路面μと前輪転舵角δと車速Vを用いて、横方向運動モデル33Bにてヨーレートγ及び車体すべり角βを推定すると共に、タイヤ横力の合計値である輪荷重を推定する。このとき、式(39),式(40),式(46)に示すように、タイヤスリップ率s(i,j)を考慮して推定する。
また、推定路面μと前輪転舵角δと推定ヨーレート、推定車体すべり角、推定輪荷重を用いてタイヤSATモデル34BにてSATを推定する。このとき、式(42),式(43),式(46),式(49)に示すように、タイヤスリップ率s(i,j)を考慮して推定する。
そして、比較器37Bにおいて推定SATと計測SATの差であるSAT推定誤差を求めると共に、推定ヨーレートと計測ヨーレートの差であるヨーレート推定誤差を求める。そして、オブザーバゲイン38Bにて、求めた推定誤差と補正ゲインLとの積を演算して補正信号とし、路面μモデル31B及び横方向運動モデル33Bにそれぞれフィードバックする。
このように、横方向運動モデル33Bにて、横方向状態であるヨーレートγ、車体すべり角β、輪荷重Fnを推定する際に、タイヤスリップ率s(i,j)を考慮して推定するため、左右前輪FL,FR等に制駆動トルクTが作用してタイヤスリップ率s(i,j)が発生しても、精度良く推定することができる。
また、タイヤSATモデル34Bにて、タイヤ力であるSATを推定する際にも、タイヤスリップ率s(i,j)を考慮して推定するため、左右前輪FL,FR等に制駆動トルクTが作用してタイヤスリップ率s(i,j)が発生しても、精度良く推定することができる。
次に、効果を説明する。
実施例3のタイヤ接地状態推定装置30Bにあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
(13) 前記車両1Bのタイヤスリップ率s(i,j)を検出するタイヤスリップ率検出手段(タイヤスリップ率検出器)40を備え、前記タイヤ力推定手段(タイヤSATモデル)34Bは、前記転舵角δと前記タイヤ接地状態(路面μ)と前記横方向状態(ヨーレート,車体すべり角,輪荷重)と前記タイヤスリップ率検出手段40により検出された検出タイヤスリップ率s(i,j)に基づいて、前記車両1Bのタイヤ力(SAT)を推定する構成とした。
このため、タイヤに制駆動トルクTが作用し、タイヤスリップ率s(i,j)が発生した場合であっても、タイヤ接地状態を精度良く推定できる。この結果、車両1Bの制駆動時にも、このタイヤ接地状態に基づいて車両運動の制御を実施し、例えば、路面状態によらず車両挙動の安定性を向上できる。
(14) 前記車両1Bのタイヤスリップ率s(i,j)を検出するタイヤスリップ率検出手段(タイヤスリップ率検出器)40を備え、前記横方向車両状態推定手段(横方向運動モデル)33Bは、前記転舵角δと前記車体速度Vと前記タイヤスリップ率検出手段40により検出された検出タイヤスリップ率s(i,j)に基づいて、前記車両1Bの横方向状態(ヨーレート,車体すべり角,輪荷重)を推定する構成とした。
このため、タイヤに制駆動トルクが作用し、タイヤスリップ率s(i,j)が発生した場合であっても、タイヤ接地状態を精度良く推定できる。この結果、車両1Bの制駆動時にも、このタイヤ接地状態に基づいて車両運動の制御を実施し、例えば、路面状態によらず車両挙動の安定性を向上できる。
実施例4のタイヤ接地状態推定装置は、左右前輪FL,FRのSATがそれぞれ独立に観測できる場合であって、左右前輪FL,FRにおける路面摩擦係数を独立に推定するときの例である。
まず、構成を説明する。なお、実施例1〜実施例3において説明した車両1,1A,1Bと同一の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図8は、実施例4のタイヤ接地状態推定装置が適用された車両を示す全体システム図である。
実施例4における車両1Cは、図8に示すように、左右前輪FL,FRと、左右後輪RL,RRと、モータ/ジェネレータMGと、モータコントローラ2と、前輪操舵機構10Cと、統合コントローラ20Cと、を備えている。
前記前輪操舵機構10Cは、ステアリングホイール11と、反力モータ17と、補助操舵用モータ13と、左右転舵モータ18a,18bと、を備え、ステアリングホイール11と左右前輪FL,FRの舵取り機構とが機械的に切り離された、いわゆるステイバイワイヤシステムとなっている。
この前輪操舵機構10Cでは、ステアリングホイール11は、反力モータ17のみに連結している。一方、反力モータ17は、SAT相当の操舵反力を発生する。そして、左右転舵モータ18a,18bは、繰舵角センサ15により検出されたステアリングホイール11の回転角(繰舵角)θに応じて出力される転舵角指令に応じて、図示しないステアリングラックを車幅方向に変位させる。これにより、左右前輪FL,FRは、実際の前輪転舵角と転舵角指令とが一致するように、左右同相に転舵される。さらに、左右転舵モータ18a,18bは、モータ出力トルクと、モータ回転軸に取り付けられた回転位置センサ(図示せず)により検出した回転位置センサにより検出したモータ回転速度を、それぞれ統合コントローラ20Cに出力する。
前記統合コントローラ20Cには、実施例1の場合と同様にアクセル開度情報、ヨーレート情報、回転角情報、操舵トルク情報が入力されると共に、左右転舵モータ18a,18bからのモータ出力トルク情報、モータ回転速度情報が入力される。そして、この統合コントローラ20Cでは、図9に示すタイヤ接地状態推定装置30Cを実装する。
図9は、実施例4のタイヤ接地状態推定装置を示す制御ブロック図である。
実施例4のタイヤ接地状態推定装置30Cは、左輪摩擦円半径モデル41と、右輪摩擦円半径モデル42と、車両走行状態検出器32Cと、横方向運動モデル33Cと、左輪タイヤSATモデル43と、右輪タイヤSATモデル44と、左輪SAT計測器45と、右輪SAT計測器46と、ヨーレート計測器36Cと、比較器37Cと、オブザーバゲイン38Cと、を備えている。
前記左輪摩擦円半径モデル41は、車両1Cのタイヤ接地状態である左前輪FLの摩擦円半径Fpflを推定するタイヤ接地状態推定手段である。この左輪摩擦円半径モデル41は、車両1Cが走行する路面の路面摩擦係数(以下、路面μという)と輪荷重の積である摩擦円半径の動特性をモデル化した摩擦円半径のダイナミクスモデルを有している。そして、この左輪摩擦円半径モデル41によって推定された推定左輪摩擦円半径(推定タイヤ接地状態)は、横方向運動モデル33Cと左輪タイヤSATモデル43に入力される。なお、左輪摩擦円半径は、左輪タイヤ力最大値に相当する。
前記右輪摩擦円半径モデル42は、車両1Cのタイヤ接地状態である右前輪FRの摩擦円半径Fpfrを推定するタイヤ接地状態推定手段である。この右輪摩擦円半径モデル42は、車両1Cが走行する路面の路面μと輪荷重の席である摩擦円半径の動特性をモデル化した摩擦円半径のダイナミクスモデルを有している。そして、この右輪摩擦円半径モデル42によって推定された推定右輪摩擦円半径(推定タイヤ接地状態)は、横方向運動モデル33Cと右輪タイヤSATモデル44に入力される。なお、右輪摩擦円半径は、右輪タイヤ力最大値に相当する。
前記車両走行状態検出器32Cは、車両1Cの前輪転舵角δと車速Vを演算により求めるものであり、前輪転舵角δを検出する転舵角検出手段と、車速Vを検出する車速検出手段と、を含んでいる。なお、前輪転舵角δの求め方は実施例1と同一であるため、説明を省略する。また、車速Vは、左右転舵モータ18a,18bからのモータ回転速度情報に基づいて求められる。この車両走行状態検出器32Cによって求められた前輪転舵角δは、左輪タイヤSATモデル43及び右輪タイヤSATモデル44に入力される。
前記横方向運動モデル33Cは、左輪摩擦円半径モデル41により推定された推定左輪摩擦円半径と、右輪摩擦円半径モデル42により推定された推定右輪摩擦円半径と、に基づいて、車両1Cの横方向状態であるヨーレートγ及び車体すべり角βを推定する横方向車両状態推定手段である。この横方向運動モデル33Cにより推定された推定ヨーレート(推定横方向状態)は、左輪タイヤSATモデル43と、右輪タイヤSATモデル44と、比較器37Cに入力される。また、推定車体すべり角(推定横方向状態)は、左輪タイヤSATモデル43と、右輪タイヤSATモデル44に入力される。
前記左輪タイヤSATモデル43は、前輪転舵角δと、車速Vと、左輪摩擦円半径モデル41により推定された推定左輪摩擦円半径と、横方向運動モデル33Cにより推定された推定ヨーレート及び推定車体すべり角と、に基づいて、タイヤ力である左前輪FLのSAT(以下、左輪SATという)を推定するタイヤ力推定手段である。この左輪タイヤSATモデル43により推定された推定左輪SAT(推定タイヤ力)は、比較器37Cに入力される。
前記右輪タイヤSATモデル44は、前輪転舵角δと、車速Vと、右輪摩擦円半径モデル42により推定された推定右輪摩擦円半径と、横方向運動モデル33Cにより推定された推定ヨーレート及び推定車体すべり角と、に基づいて、タイヤ力である右前輪FRのSAT(以下、右輪SATという)を推定するタイヤ力推定手段である。この右輪タイヤSATモデル44により推定された推定右輪SAT(推定タイヤ力)は、比較器37Cに入力される。
前記左輪SAT計測器45は、タイヤ力である実際の左前輪FLに発生するSATを計測するタイヤ力計測手段である。このとき、左輪SAT計測器45は、左転舵モータ18aからのモータ出力情報から、ステアリング系及びサスペンションの幾何構造を考慮することで左輪SATを演算する。この左輪SAT計測器45により計測された計測左輪SAT(計測タイヤ力)は、比較器37Cに入力される。
前記右輪SAT計測器46は、タイヤ力である実際の右前輪FRに発生するSATを計測するタイヤ力計測手段である。このとき、右輪SAT計測器46は、右転舵モータ18bからのモータ出力情報から、ステアリング系及びサスペンションの幾何構造を考慮することで右輪SATを演算する。この右輪SAT計測器46により計測された計測右輪SAT(計測タイヤ力)は、比較器37Cに入力される。
前記ヨーレート計測器36Cは、車両1Cの横方向状態である実際の車両1Cが発生するヨーレートを計測する横方向車両状態計測手段である。このヨーレート計測器36Cは、ヨーレートセンサ22により検出されたヨーレート情報を計測ヨーレートして出力する。このヨーレート計測器36Cにより計測された計測ヨーレート(計測横方向状態)は、比較器37Cに入力される。
前記比較器37Cは、左輪タイヤSATモデル43からの推定左輪SATと、左輪SAT計測器45からの計測左輪SATとの差を計算し、右輪タイヤSATモデル44からの推定右輪SATと、右輪SAT計測器46からの計測右輪SATとの差を計算し、横方向運動モデル33Cからの推定ヨーレートと、ヨーレート計測器36Cからの計測ヨーレートとの差を計算し、それぞれの誤差である左輪SAT推定誤差、右輪SAT推定誤差、ヨーレート推定誤差を求める。この比較器37Cにより求められた各推定誤差は、オブザーバゲイン38Cに入力される。
前記オブザーバゲイン38Cは、比較器37Cから入力された左輪SAT推定誤差、右輪SAT推定誤差、ヨーレート推定誤差に基づいて補正信号を出力するものである。ここでは、オブザーバゲイン38Aは、各推定誤差のそれぞれに補正ゲインLを乗算して補正信号とする。すなわち、この比較器37C及びオブザーバゲイン38Cは、補正信号を演算する補正信号演算手段に相当する。そして、このオブザーバゲイン38Cにより求められた補正信号は、左輪摩擦円半径モデル41と、右輪摩擦円半径モデル42と、横方向運動モデル33Cにそれぞれ入力(帰還)される。つまり、オブザーバゲイン38Cは、補正信号を、左輪摩擦円半径モデル41、右輪摩擦円半径モデル42、横方向運動モデル33Cにフィードバックする。
次に、作用を説明する。
実施例4のタイヤ接地状態推定装置30Cにおいて、左輪摩擦円半径モデル41及び右輪摩擦円半径モデル42がそれぞれ含むダイナミクスモデルでは、路面μと左右前輪FL,FRに作用する輪荷重との積である左右摩擦円半径Fpfl,Fpfrの動特性をモデル化する。このとき、左右摩擦円半径Fpfl,Fpfrの時間に応じた変化が区分的に一定、すなわちタイヤ接地状態である左右摩擦円半径Fpfl,Fpfrの時間による1階微分がゼロであると仮定する。これにより、式(54)〜式(57)に示す車両運動方程式が成立する。
ここで、左後輪RLの摩擦円半径Fprlは以下の式(58)によって求められ、右後輪RRの摩擦円半径Fprrは以下の式(59)によって求められる。
そして、車両1Cの横方向状態であるヨーレートγと、車両1Cのタイヤ力である左輪SAT及び右輪SATが独立に観測できると仮定すると、系の出力yは、式(60)と定義できる。
なお、前輪タイヤSATJf(.)は、実験により、タイヤすべり角と輪荷重に応じて発生するSATを計測し、フラッシュモデルやマジックフォーミュラ等のタイヤモデルを用いてフィッティングすることで同定する。また、実際の左右前輪SATの計測値Mzl,Mzrは、例えば、それぞれ左右転舵モータ18a,18bからのモータ出力情報から、ステアリング系及びサスペンションの幾何構造を考慮することで演算する。
そして、これらの式(54)〜式(57)及び式(60)を一般的な状態方程式の形式で表現すると、以下の式(61),式(62)となる。
ここで、状態量xは[βγFpflFpfr]T、入力uは前輪転舵角δである。
さらに、この式(61)及び式(62)の状態方程式に基づいて、状態オブザーバを構成すると、以下の式(63),式(64)を得る。
ここで、補正ゲインLは、例えば、実施例1に記載した手法を用いて状態オブザーバが安定極を有するように定められる。
このように、実施例4のタイヤ接地状態推定装置30Cでは、左右前輪FL,FRのそれぞれの摩擦円半径Fpfl,Fpfrを独立に推定することができる。そのため、スプリットμ路面等において左右輪で路面状態が異なる場合であっても、タイヤ接地状態を高精度に推定することができる。この結果、車両を安定化する制御系の設計が可能になる。
また、実施例4のタイヤ接地状態推定装置30Cでは、左輪摩擦円半径モデル41、右輪摩擦円半径モデル42が、それぞれ摩擦円半径Fpfl,Fpfrのダイナミクスモデルを含み、補正信号に応じて補正される。すなわち、摩擦円半径Fpfl,Fpfrのダイナミクスモデルに、タイヤ力(SAT)の推定誤差を、オブザーバゲイン38Cに含まれる補正ゲインLを介して帰還する構造とした。
このため、計測SATから推定摩擦円半径までの伝達特性が低域通過フィルタとなり、その遮断周波数を補正ゲインLの設定に応じて自由に設計できる。そして、推定摩擦円半径の耐ノイズ性と高応答性とを両立して実現するタイヤ接地状態推定装置30Cが構成できる。ここで、低域通過フィルタの遮断周波数は、補正ゲインLの設定に応じて自由に設計できる。例えば、ノイズなど、高周波領域の不確かさが計測SATに多く含まれる場合には、補正ゲインLを小さく設定することで遮断周波数を小さくし、摩擦円半径の推定誤差を抑えることができる。反対に、計測SATが精度良く計測できるときには、補正ゲインLを大きく設定することで遮断周波数を大きくし、速い摩擦円半径の変化を高応答に推定できる。
この摩擦円半径の推定値に基づいて車両運動制御を実施すると、タイヤ力計測値に含まれるノイズ等に起因する摩擦円半径推定値の変動を抑えられるので、目標値のハンチングを抑えた滑らかな制御が実現でき、推定値の応答性を制御器よりも十分速く設定することで、安定な制御系を構成することができる。
次に、効果を説明する。
実施例4のタイヤ接地状態推定装置30Cにあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
(15) 前記タイヤ接地状態は、前記タイヤ(左右前輪)FL,FRの摩擦円半径Fpfl,Fpfrであり、前記タイヤ接地状態推定手段(左輪摩擦円半径モデル,右輪摩擦円半径モデル)41,42は、前記摩擦円半径Fpfl,Fpfrのダイナミクスモデルを含み、前記補正信号に応じて補正する構成とした。
このため、推定摩擦円半径の耐ノイズ性と高応答性とを両立して実現することができる。
実施例5のタイヤ接地状態推定装置は、実施例1〜実施例4において観測可能と仮定したヨーレートや横加速度等の出力車両状態が観測できないときの例である。
まず、構成を説明する。
実施例5における車両の全体システムでは、実施例1における車両の全体システムからヨーレートセンサ22を省略できる他は同一である。そして、実施例5における統合コントローラでは、図10に示すタイヤ接地状態推定装置30Dを実装する。
図10は、実施例5のタイヤ接地状態推定装置を示す制御ブロック図である。
実施例5のタイヤ接地状態推定装置30Dは、路面μモデル31Dと、車両走行状態検出器32Dと、2輪モデル47と、タイヤSATモデル34Dと、SAT計測器35Dと、比較器37Dと、オブザーバゲイン38Dと、を備えている。
前記路面μモデル31Dは、車両が走行する路面の路面摩擦係数(以下、路面μという)の動特性をモデル化した路面μのダイナミクスモデルを有し、車両のタイヤ接地状態である路面μを推定するタイヤ接地状態推定手段である。この路面μモデル31Dによって推定された推定路面μ(推定タイヤ接地状態)は、タイヤSATモデル34Dに入力される。
前記車両走行状態検出器32Dは、車両の前輪転舵角δと車速Vを演算により求めるものであり、前輪転舵角δを検出する転舵角検出手段と、車速Vを検出する車速検出手段と、を含んでいる。なお、前輪転舵角δと車速Vの求め方は実施例1と同一であるため、説明を省略する。この車両走行状態検出器32Dによって求められた前輪転舵角δは、2輪モデル47及びタイヤモデル34Dに入力され、車速Vは、2輪モデル47に入力される。
前記2輪モデル47は、車両走行状態検出器32Dにより求められた前輪転舵角δ及び車速Vと、に基づいて、車両の横方向状態であるヨーレートγと車体すべり角βを推定する横方向車両状態推定手段である。この2輪モデル47により推定された推定ヨーレート(推定横方向状態)及び推定車体すべり角(推定横方向状態)は、タイヤSATモデル34Dに入力される。
前記タイヤSATモデル34Dは、前輪転舵角δと、路面μモデル31Dにより推定された推定路面μと、2輪モデル47により推定された推定ヨーレート及び推定車体すべり角と、に基づいて、タイヤ力であるタイヤセルフアライニングトルク(以下、SATという)を推定するタイヤ力推定手段である。ここでは、左右前輪FL,FRのSATの合計である前輪SAT左右合計値Mzを「SAT」として推定する。なお、SATの推定の仕方は実施例1と同一であるため、説明を省略する。このタイヤSATモデル34Dにより推定された推定SAT(推定タイヤ力)は、比較器37Dに入力される。
前記SAT計測器35Dは、タイヤ力である実際の左右前輪FL,FRに発生するSATを計測するタイヤ力計測手段である。ここでは、左右前輪FL,FRのSATの合計である前輪SAT左右合計値Mzを計測する。なお、前輪SAT左右合計値Mzの計測の仕方は実施例1と同一であるため、説明を省略する。このSAT計測器35Dにより計測された計測SAT(計測タイヤ力)は、比較器37Dに入力される。
前記比較器37Dは、タイヤSATモデル34Dからの推定SATと、SAT計測器35Dからの計測SATとの差を計算し、推定誤差であるSAT推定誤差を求める。この比較器37Dにより求められたSAT推定誤差は、オブザーバゲイン38Dに入力される。
前記オブザーバゲイン38Dは、比較器37Dから入力されたSAT推定誤差に基づいて補正信号を出力するものである。ここでは、オブザーバゲイン38Dは、SAT推定誤差に補正ゲインLを乗算して補正信号とする。すなわち、この比較器37D及びオブザーバゲイン38Dは、補正信号を演算する補正信号演算手段に相当する。そして、このオブザーバゲイン38Dにより求められた補正信号は、路面μモデル31Dに入力(帰還)される。
次に、作用を説明する。
実施例5のタイヤ接地状態推定装置30Dにおいて、路面μの時間に応じた変化が区分的に一定、すなわちタイヤ接地状態である路面μの時間による1階微分がゼロであると仮定すると、以下の式(65)のようにモデル化できる。
そして、車両のタイヤ力である左右前輪SAT合計値Mzが観測できると仮定すると、系の出力yは、式(66)と定義できる。
さらに、これらの式(65)及び式(66)を一般的な状態方程式の形式で表現すると、以下の式(67)及び式(68)となる。
ここで、状態量xはμ、入力uは前輪転舵角δである。
この式(67)及び式(68)の状態方程式に基づいて、状態オブザーバを構成すると、以下の式(69)及び式(70)を得る。
なお、状態オブザーバにおいて、状態量以外の変数である車体すべり角βとヨーレートγは、例えば、以下の式(71),式(72)に示す前輪転舵角δを入力とする2輪モデルを用いて推定される値を用いる。
ここで、車速Vは、例えば、従動輪である前輪用車輪速センサ23a,23bからの前輪車輪速情報から計算する。
なお、車体すべり角β及びヨーレートγが比較的小さい場合には、以下の式(73),式(74)に示す定常線形2輪モデルを用いて、前輪転舵角δから近似的に計算してもよい。
ここで、前輪コーナリングスティフネスCfは、前輪タイヤ横力のタイヤすべり角ゼロにおける傾きであり、後輪タイヤコーナリングスティフネスCrは、後輪タイヤ横力のタイヤすべり角ゼロにおける傾きである。すなわち、以下の式(75),式(76)で与えられる。
そして、式(69)における補正ゲインLは、例えば、実施例1に記載した手法を用いて状態オブザーバが安定極を有するように定められる。なお、実施例5における補正ゲインLはスカラーであるため、推定性能が所望の性能を満たすように試行錯誤的チューニングによって決定してもよい。
以上、本発明のタイヤ接地状態推定装置を実施例1〜実施例5に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
例えば、実施例1のタイヤ接地状態推定装置30では、車両1の横方向状態としてヨーレート及び車体すべり角としているが、横方向状態としては、少なくともいずれか一方を含んでいればよい。
また、実施例1のタイヤ接地状態推定装置30において、タイヤ力推定誤差であるSAT推定誤差と、横方向状態推定誤差であるヨーレート推定誤差のそれぞれに補正ゲインLを乗算して補正信号としているが、これに限らない。SAT推定誤差又はヨーレート推定誤差の少なくともいずれか一方に補正ゲインを乗算して補正信号を演算してもよい。
そして、上記各実施例のタイヤ接地状態推定装置は、モータ/ジェネレータMGを駆動源とする電気自動車に適用した例としたが、主たる動力源としてエンジンのみを搭載したエンジン車や、エンジンと電動モータを用いるハイブリッド車両に適用してもよいし、燃料電池車に適用してもよい。いずれの車両であっても、高精度でタイヤ接地状態を推定することで、より安定的な車両運動制御を実現することができる。