JP5706579B2 - リン酸化多糖の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、リン酸化多糖の製造方法に関する。さらに詳しくは、リン酸化多糖を低温下の水溶液中で合成する方法に関する。
従来、リン酸化多糖を合成する方法としては、リン酸化剤と多糖との間で加熱合成する方法が主流となっている。リン酸化剤としては、例えば、オキシ塩化リンPOCl3や五酸化リンP25、ポリリン酸が用いられている。また、特許文献1には、糖類(オリゴ糖、多糖類)とシクロ三リン酸アルカリとをアルカリ性の水溶液中で反応させる方法が開示されている。
また、その他の方法として、乳酸菌を所定の条件で発酵させてリン酸化糖を産生させる方法が挙げられる(特許文献2参照)。特許文献3では、馬鈴薯澱粉溶液にα−アミラーゼ等の澱粉分解酵素を反応させて調製したリン酸化糖に、特定のホスファターゼを反応させることで、リン酸基の結合位置が制御されたリン酸化糖を得る方法が開示されている。
特開平7−145201号公報 特開平8−224060号公報 特開平11−158197号公報
しかしながら、特許文献1の方法は、シクロ三リン酸アルカリのため、大量生産には向かない。また、特許文献2、3の方法も、酵素等を用いるため、工業的に生産するにはコスト的に問題がある。
一方、従来の加熱による方法では、多糖の熱分解による分子量低下を避けることができず、また部分酸化による着色も防げない。さらには、加熱によるリン酸エステル形成反応では、エステル化反応と脱エステル化反応の両反応が生じるため、エステル化によるリン酸基の置換度には限界があり、例えば、水溶液中での反応では重量にして3%程度(置換度で6%)以上の高いリン酸化度の多糖を得ることが困難である。高リン酸化度の多糖を得ようとすると有機溶媒中での反応が考えられるが、製造後、溶媒の除去等を行う必要があり、高コストな製造方法となってしまう。
また、一般的なリン酸化剤であるオキシ塩化リンを用いた場合にも、従来の条件下での反応では、反応生成物中に残留している未反応基により架橋反応が生じるので、得られたリン酸化多糖を水に再溶解させようとするとゲル状になり、溶解性に劣るものとなる。
本発明の課題は、置換率が高く、かつ、水への溶解性が高い、リン酸化多糖を簡便に合成する方法を提供することにある。
本発明は、プルラン、グルコマンナン、アミロース、デンプン、デキストラン、及びレンチナンからなる群から選ばれた少なくとも1種を含む多糖(a)とアルカリ化合物(b)を含有する水溶液と、オキシ塩化リンを含むリン化合物(c)とを−5〜10℃で混合して反応させることを特徴とするリン酸化多糖の製造方法、に関する。
本発明の製造方法によれば、置換率が高く、かつ、水への溶解性が高い、リン酸化多糖を簡便に合成することができるという優れた効果が奏される。また、得られるリン酸化多糖は、加熱による分子量低下や酸化による着色が生じないため、リン酸化多糖を使用する製品への利用がより容易になる。
本発明の製造方法は、多糖にリン酸化剤を反応させてリン酸化多糖を生成させるものであるが、その反応が、多糖をアルカリ化合物の水溶液中にて処理後、低温下でリン酸化剤を反応させることに大きな特徴を有する。
従来のリン酸化剤を反応させる方法では、原料を含有する水溶液を加熱して反応を行う。しかしながら、加熱方法では分子内又は分子間の高い水素結合性により反応性が低い多糖を選択的に反応させるには、未だ十分な方法とは言えない。また、分子量低下や酸化による着色も問題である。そこで、本発明者らが検討した結果、驚くべきことに、アルカリ化合物の水溶液中で処理した多糖に、低温下でリン酸化剤を反応させたところ、高い反応性でリン酸化が進行し、得られたリン酸化多糖は分解による低分子量画分が少なく、酸化による着色も抑制されたものであることが判明した。これは、多糖を予めアルカリ化合物により処理することにより、水酸基をより活性化して反応しやすい状態にして、反応させる。水中であるのでリン酸化剤が極めて活性が高い場合、多糖のリン酸化とともに、加水分解が進むため、リン酸化が進みにくくなるが、アルカリ処理することにより、多糖のリン酸化の反応性を高め、リン酸化反応のみが促進されることに起因すると推察される。
本発明の製造方法では、先ず、多糖をアルカリ化合物の水溶液中で処理する。具体的な処理としては、多糖とアルカリ化合物を含有する水溶液を攪拌混合して、多糖とアルカリ化合物を含有する水溶液を調製する。
本発明における多糖(a)としては、例えば、ラクトース、スクロース、スクラロース、セロビオース、トレハロース、マルトース、パラチノース(登録商標)、マルトトリオース、マルトデキストリン、シクロデキストリン、グリコシルスクロース、アミロース、アミロペクチン、シクロアミロース、グリコーゲン、セルロース、アガロース、クラスターデキストリン、マンナン、グルコマンナン、プルラン、デンプン、デキストラン、レンチナン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができるが、アミロース、グルコマンナン、プルラン、デンプン、デキストラン、レンチナンが好ましい。なお、前記多糖としては、一部の水酸基がリン酸基以外の官能基で置換されたものも含まれる。
本発明におけるアルカリ化合物(b)としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、アンモニア、等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができるが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
本発明において、多糖とアルカリ化合物を含有する水溶液としては、水にアルカリ化合物が予め溶解したアルカリ水溶液に多糖を投入し攪拌混合して調製してもよく、また、多糖とアルカリ化合物を同時に水に投入し攪拌混合して調製してもよく、多糖とアルカリ化合物を固体状態で予め混合した後、さらに水に投入し攪拌混合して調製してもよい。いずれにしても水溶液が多糖とアルカリ化合物が溶解したものとなればよいが、これらが溶解した後も、均一な反応性を確保する観点から、攪拌を続けることが好ましい。
水溶液におけるアルカリ化合物の濃度は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは10〜30重量%である。
また、アルカリ化合物と多糖の量比(b/a)としては、多糖の加水分解を抑制する観点から、好ましくは0.1/1〜20/1、より好ましくは0.5/1〜10/1、さらに好ましくは1/1〜5/1である。
水溶液中での処理温度(攪拌温度)は、着色や多糖の加水を防ぐ観点から、好ましくは−5〜50℃、より好ましくは0〜50℃、さらに好ましくは0〜25℃である。
また、処理時間(攪拌時間)は、反応を確実に進めかつ未反応性分をなくす観点から、好ましくは0.01〜96時間、より好ましくは0.1〜48時間、さらに好ましくは0.1〜24時間である。
また、処理時の溶液pHは特に限定されず、アルカリ化合物によってアルカリ性、好ましくはpH10以上を呈する。
かくして、多糖のアルカリ化合物の水溶液中での処理が行われる。次いで、該処理が行われた多糖にリン酸化剤であるリン化合物(c)を反応させる。具体的な処理としては、多糖とアルカリ化合物を含有する水溶液に、リン化合物を添加し攪拌混合して反応を行う。
本発明におけるリン化合物(c)としては、オキシ塩化リン、三塩化リン、五塩化リン、塩化リンのアルキルエステル等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができるが、オキシ塩化リンが好ましい。オキシ塩化リンとしては、例えば、塩化ホスホリル等が挙げられる。
多糖(a)とリン化合物(c)の量比は、得られるリン酸化多糖のリン酸化度(多糖1分子に含まれる全水酸基のうちリン酸基によって置換される割合)によって、適宜、調整することができる。従来の加熱方法では、仕込み量、反応温度、水分量等の複数の要因によってリン酸化度が変化するため、調整が容易でない上、解離反応との間の熱平衡によるリン酸化度の限界が存在していたが、本発明では仕込み量を変えることによってリン酸化度の調節が可能となり、従来技術の問題点を解決するものである。
前記リン化合物を、多糖とアルカリ化合物を含有する水溶液中に混合するが、混合方法としては、特に限定はなく、例えば、多糖とアルカリ化合物を含有する水溶液を攪拌しているところに、前記リン化合物を滴下混合することができる。
混合時の温度としては、好ましくは−5〜50℃、より好ましくは0〜45℃、さらに好ましくは0〜10℃である。このような低温下で混合されることにより、多糖の加水分解が抑制され、着色も防ぐことができる。さらに低温で副反応を抑えることにより、ジエステル等の架橋反応を防ぐことができる。低温で反応することにより、水による加水分解反応を遅らせて結果として、多糖のリン酸化反応がより促進される。なお、前記温度としては、リン化合物を添加前の水溶液の温度を意味し、リン化合物の添加混合中、水溶液温度は前記温度範囲内に保たれていることが好ましい。
リン化合物の添加混合時の溶液pHは特に限定されず、アルカリ化合物と多糖が予め混合されていることからアルカリ性、好ましくはpH8以上を呈する。
リン化合物を混合後は、未反応成分の除去の観点から、好ましくは0.1〜96時間、より好ましくは0.1〜48時間、さらに好ましくは0.1〜24時間の間溶液を攪拌混合して反応を進行させる。
なお、本発明においては、多糖(a)、アルカリ化合物(b)及びリン化合物(c)以外に、本発明の効果を損なわない範囲内で、合成高分子等を用いることができる。
合成高分子としては、多数の水酸基を有しているという観点から、水酸基を有する合成高分子が好ましく、なかでも、ポリビニルアルコールがより好ましい。ポリビニルアルコールの含有量としては、反応に供される水溶液中において、0.01〜10重量%が好ましく、1〜3重量%がより好ましい。
かくして、本発明の方法により、リン酸化多糖が得られる。なお、リン酸化多糖は水溶液中に溶解した状態で得られるが、本発明の製造方法は、低温下での反応のため必要以上のリン化合物による架橋反応が抑えられるので、該水溶液を公知の方法に従って、分画、濾過、透析、精製、凍結乾燥などを行なうことにより、副生成物(例えば、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム)を除いて、固体のリン酸化多糖を回収することができる。具体的には、得られた反応後の水溶液を、再生セルロース膜、限外濾過膜等を用いて透析して副生成物を除去したり、さらに限外濾過膜を用いてクロスフロー濾過を行って濃縮・精製したりすることができる。また、回収されたリン酸化多糖は、本発明の製造方法が低温下で行なわれるため、低分子量化や着色がなく、再溶解可能なものとなる。そのため、粉末もしくは錠剤としての製剤化が可能であるため、利用範囲が広がる。なお、個体の構造はIR分析やNMR分析等により確認することができる。
本発明の製造方法は、高リン酸化度を確保する観点から、原料に用いた多糖のうち、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上の多糖がリン酸化されるという収率を有する。
得られたリン酸化多糖の数平均分子量(Mn)は、低温下での反応のため分解が少なくかつ、高分子量を維持可能である観点から、好ましくは、用いた多糖(a)の数平均分子量と変化がなく同程度となるか、または大きくなることが望ましい。具体的には、例えば、2000〜10000000が好ましく、2000〜1000000がより好ましく、2000〜500000がさらに好ましい。なお、本明細書において、リン酸化多糖の数平均分子量(Mn)は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
また、リン酸化多糖のリン酸化度としては、本発明では特に限定されず、1分子に含まれる全水酸基のうち少なくとも1個数%程度の水酸基をリン酸化することができる。好ましくは1〜30個数%、より好ましくは5〜20個数%の水酸基がリン酸化されていることが望ましい。また、1分子中のリン酸基の含有割合として、好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは0.1〜10重量%であることが望ましい。なお、リン酸化多糖におけるリン酸化された水酸基の個数割合は、ICP発光分析を用いてリン酸化多糖の元素分析を行ってリンの含有量を測定し、測定されたリンが全て、リン酸化された水酸基に由来するものとして算出することができる。また、リン酸基の含有割合はリンの含有率から、すべてがリン酸基に由来するとして算出することができる。
リン酸化多糖は、生体組織に対して低刺激であり親和性が高く、生体吸収性を示す。また、リン酸化多糖は、リン酸基が生体硬組織の構成無機成分であるアパタイトを溶解して、アパタイトの構成元素であるカルシウムの一部をイオンとして放出させ、そこに、リン酸化多糖のリン酸基が新たにキレート結合することで骨や歯に吸着する。さらには、生体硬組織の補綴材料である金属、セラミックスに対しても、リン酸化多糖のリン酸基がキレート結合することで吸着性を示す。また、かかるリン酸化多糖を介して、他の物質、例えば、抗菌剤などを保持することが可能となる。従って、本発明の製造方法により得られたリン酸化多糖は、生体親和性の高い接着成分として、歯磨剤類、洗口剤、トローチ剤、錠剤、クリーム剤、軟膏剤、貼付剤、マウススプレー、歯面や歯科用補綴物へのコーティング剤、知覚過敏抑制剤、歯周ポケットに塗布する歯周病治療剤、口腔ケア用ウェットティッシュ、口中清涼剤、チューインガム、又はうがい液などに用いることが出来る。
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
〔リン酸化多糖の構造確認〕
IR分析により行なう。
〔リン酸化多糖の数平均分子量(Mn)〕
GPC分析(カラム:TSKgel α−M(東ソー社製)、移動相:0.1M−NaCl水)によって、算出する。
〔リン酸化多糖のリン酸化度(個数%、重量%)〕
ICP(セイコーインスツルメンツ製VISTA−PRO)により測定して、算出する。
実施例1
局方プルラン(林原商事社製、数平均分子量30000、白色)20gを水1.5リットル、水酸化ナトリウム19.7gと共に溶解させ、1晩、室温(20℃)にて攪拌した(pH14以上)(アルカリ化合物/多糖=約1/1)。その後、前記溶液を0℃に冷却した後、塩化ホスホリル7.7mL(11.2g)を滴下し、さらに、0℃で6時間攪拌して反応を行った。得られた反応溶液は、再生セルロース膜による透析により、電導度が30μS以下となるまで副生成物のリン酸ナトリウム及び塩化ナトリウムを除去した。次いで、分画分子量5000の限外濾過膜により、クロスフロー濾過を行い、濃縮後、凍結乾燥を行って、リン酸化プルランを得た(収量20g、収率100%)。得られたリン酸化プルランは、IR分析により構造確認し、また、リン酸化度としてリン酸基含有割合が2.8重量%、水酸基の置換割合が6個数%、数平均分子量が約30000、白色であった。
実施例2
実施例1において、水酸化ナトリウムの使用量を19.7gから200gに変更し(アルカリ化合物/多糖=約10/1)、塩化ホスホリルの使用量を7.7mL(11.2g)から80mL(116g)に変更した以外は、実施例1と同様に反応を行い、リン酸化プルランを得た(収量20g、収率100%)。得られたリン酸化プルランは、IR分析により構造確認し、また、リン酸化度としてリン酸基含有割合が4.7重量%、水酸基の置換割合が10.3個数%、数平均分子量が約50000、白色であった。
比較例1
内容積2Lのセパラブルフラスコを用いて、実施例1と同じプルラン45.0gを蒸留水205gに室温(20℃)で溶解させた。この溶液を攪拌しながら、1Mのリン酸水溶液(水酸化ナトリウムでpH5.5に調整)1000gを加え、混合した後、水分が9.7%となるまで、全量を加熱真空乾燥した。その後、170℃、5時間加熱してリン酸化プルランを得た(収量25g、収率56%)。得られたリン酸化プルランは、IR分析により構造確認し、また、リン酸化度としてリン酸基含有割合が2.8重量%、水酸基の置換割合が6個数%、数平均分子量が約22000、褐色であった。
試験例1(再溶解性)
実施例1〜2及び比較例1において得られたリン酸化プルランの溶解性を調べた。具体的には、各リン酸化プルランを1gを蒸留水10mLに添加し、攪拌することにより目視で溶解性を確認した。
結果、オキシ塩化リンで合成した場合、従来、架橋してしまい、溶解不可能となっていたリン酸化多糖(比較例1)を、溶解可能なリン酸化多糖(実施例1〜2)とすることが可能となった。
本発明の製造方法によれば、リン酸化多糖を乾燥固体として得ることが可能であり、該乾燥固体の再溶解が可能となる。そのため、粉末もしくは錠剤としての製剤化が可能であるため、利用範囲が広がる。また、例えば、リン酸化プルランを生体内吸収性の材料として用いる場合、内毒素エンドトキシンの除去が必要になるが、本方法で作製したリン酸化プルランは従来品よりも分子量が大きく、分画により、容易に除去が可能となる。

Claims (6)

  1. プルラン(a)とアルカリ化合物(b)を含有する水溶液と、オキシ塩化リンを含むリン化合物(c)とを−5〜10℃で混合して反応させることを特徴とするリン酸化プルランの製造方法であって、前記プルラン(a)とアルカリ化合物(b)を含有する水溶液が、プルラン(a)とアルカリ化合物(b)を水に溶解させ、−5〜50℃で攪拌処理したものである、リン酸化プルランの製造方法。
  2. 反応温度が0〜10℃である請求項1記載の製造方法。
  3. アルカリ化合物(b)が、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである請求項1又は2記載の製造方法。
  4. アルカリ化合物(b)とプルラン(a)の重量比(b/a)が0.1/1〜20/1である、請求項1〜3いずれか記載の製造方法。
  5. 反応後の反応混合物を限外濾過膜透析することにより副生成物を除去する請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
  6. 反応後の反応混合物の限外濾過膜透析により副生成物を除去した後、さらに限外濾過膜によるクロスフロー濾過により濃縮する請求項5に記載の製造方法。
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