JP5675303B2 - ニッケルめっき浴およびこれを用いた電鋳型の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ニッケルめっき浴に関するものである。
電鋳とは、電気鋳造を略したものであり、日本工業規格(JIS)では「電気めっき法による金属製品の製造・補修又は複製法」と規定されている。電鋳により形成される金属製品の一例は、金型である。すなわち、原型に所要の厚さの電気めっきを施した後、析出しためっき層を原型から剥離することにより、原型とは逆の形状の電鋳型(めっき層からなる型)が得られる。一般的には、この電鋳型を補強部材に埋め込んで使用する。電鋳型を補強部材に埋め込んだものが電鋳金型と称されている。
ニッケルめっき浴としては、硫酸ニッケルおよびホウ酸を含むワット浴が知られている。ワット浴は実用的ではあるが、pH緩衝剤(以下、単に緩衝剤と記載する)としてのホウ酸が欠かせない。しかしながら、めっき排水中のホウ酸やホウ素は除去が難しいという問題があるため、近年では、ホウ酸を含まないめっき浴、いわゆるホウ酸フリーのめっき浴が求められるようになってきている。
特許文献1には、ホウ酸フリーの電気めっき浴の一例が開示されている。この電気めっき浴は、硫酸ニッケル:200〜360g/L、塩化ニッケル:30〜90g/L、クエン酸ニッケル:24〜42g/Lを含み、pH:3〜5であるニッケルめっき浴により、ニッケルめっき皮膜が緻密で、ピットやピンホール欠陥が殆どなく、また共析物質が少ないためニッケルめっき皮膜の純度が高く、耐食性が良好なものになること、また、ほう酸を使用しないので、めっき排水中のほう酸やほう素の除去処理を行わなくてもよいものであることが開示されている。
特開2001−172790号公報
ワット浴や特許文献1に開示されているめっき浴のように、硫酸ニッケルをベースとしためっき浴を用いた電鋳は、耐食性を付与するための下地めっきなどの形成には好適であるが、同時に、析出するめっき層(めっき皮膜)の内部応力が比較的大きい。内部応力の大きいめっき層は、反り返りなどが起こるために電鋳型が歪んで転写精度が劣化するので、電鋳には不向きである。
スルファミン酸ニッケルをベースとしためっき浴(スルファミン酸浴)を用いることにより、内部応力の比較的小さいめっき層を形成することができ、電鋳に適している。しかしながら、従来用いられているスルファミン酸ニッケルをベースとしためっき浴はホウ酸を含むため、上述のように、めっき排水の処理が難しい。
本発明の一態様は電解ニッケルめっきに用いられるニッケルめっき浴(電気ニッケルめっき浴)であり、スルファミン酸ニッケルを350〜600g/L含み、さらに、酢酸ニッケル・四水和物を20〜50g/L含む。スルファミン酸ニッケルをベースとするニッケルめっき浴において、スルファミン酸ニッケルの濃度が350〜600g/Lに対して、酢酸ニッケルを20〜50g/Lで含ませることにより、典型的にはホウ酸を含まなくても、外観が良好なめっき層を形成できることを見いだした。このニッケルめっき浴は、ホウ酸を含む従来のスルファミン酸浴とは異なり、スルファミン酸を主成分とした硫酸ニッケルを含まないニッケルめっき浴であって、ホウ酸フリーのニッケルめっき浴である。そして、このニッケルめっき浴により内部応力の比較的小さなめっき層を形成できるので電鋳(電気鋳造)製品、たとえば金型(電鋳型)の製造などに好適である。
このニッケルめっき浴においては、さらに、クエン酸またはクエン酸ニッケルを含む。この際、クエン酸のにおけるクエン酸相当の含有量は、酢酸ニッケルの含有量の1/3〜1/2である。クエン酸の濃度は10〜15g/Lである。これにより、形成されるめっき層の硬度(めっき硬度)をより高めることができる。電鋳型はある程度のめっき硬度が必要である。したがって、クエン酸を含むニッケルめっき浴は電鋳型の製造に適している。
このニッケルめっき浴においては、塩化ニッケルや臭化ニッケルといった陽極の溶解性を高める成分を適量、たとえば、塩化ニッケル・六水和物を0〜10g/L、好ましくは5g/L、または臭化ニッケル・三水和物を0〜10g/L、好ましくは5g/Lをさらに含んでいてもよい。
また、このニッケルめっき浴においては、さらに水酸化カリウムなどのpH調整剤を含め、pHを調整してもよい。pHは3.5〜5程度が好ましく、4.0〜4.5がさらに好ましく、典型的には4前後であることがさらに好ましい。
また、このニッケルめっき浴においては、さらに、光沢剤および/または応力調整剤を含んでいてもよい。例えば、ナフタレントリスルホン酸三ナトリウムやサッカリンナトリウムなどといった一次光沢剤、2−ブチン−1,4−ジオールなどの二次光沢剤を添加することにより、形成されるめっき層の硬度を向上でき、同時にめっき層の転写面の鏡面性を向上できる。また、このニッケルめっき浴においては、さらに、ラウリル硫酸ナトリウムなどのピット防止剤(界面活性剤)を含めてもよい。
本発明の他の態様は、上記のニッケルめっき浴中でめっき対象物に通電することを含む、めっき方法およびめっき物の製造方法である。
本発明のさらに他の態様は、上記のニッケルめっき浴を用いて電鋳型を製造する方法である。この製造方法は、上記のニッケルめっき浴に原型(母型であってもよい)を入れることと、この原型にめっき層を形成することと、原型からめっき層を離型して電鋳型を形成することとを含む。電鋳型を金型すなわち射出成型金型として用いてもよく、電鋳型の強度が不足している場合は、補強部材で補強して電鋳金型(成形型)としてもよい。電鋳型は、ミクロンあるいはサブミクロンの精度で面転写が可能であり、数ミクロン程度から10mm程度の範囲の厚みのものを製造できる。電鋳型の典型的な厚みは3〜10mm程度であり、3〜5mm程度がさらに好ましい。
本発明のさらなる他の態様は、上記のニッケルめっき浴を用いて電鋳型を形成することと、製造された電鋳型を含む成形型に樹脂を注入して成型することとを含む、樹脂成形物の製造方法である。樹脂成形物の一例は光学素子である。
図1(a)はめっきにより電鋳型を製造する様子を模式的に示す図、図1(b)は電鋳型を用いた成型によりレンズを製造する様子を模式的に示す図。 めっき浴に含まれる緩衝剤を変化させた際のめっき状態および曲げ強度の測定結果を纏めて示す図。 各緩衝剤に対する水酸化ナトリウムの添加量とpHとの関係を示す図。 各緩衝剤のpHの経時変化(めっき時間に対する変化)を示す図。 実施例1〜5および比較例1のめっき浴の成分および濃度を纏めて示す図。 実施例1のめっき浴の調整方法を纏めて示す図。 図7(a)は実施例1のめっき浴を用いて形成した電鋳型の硬度の測定結果を示す図、図7(b)は比較例1のめっき浴を用いて形成した電鋳型の硬度の測定結果を示す図。 レンズの製造工程の一例を説明するためのフローチャート。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図1(a)および(b)は電鋳型によりレンズを製造する方法を模式的に示している。図1(a)は、ニッケルめっき浴を用いて電鋳型を形成(製造)する様子を模式的に示している。図1(b)は、電鋳型を用いた成形型によりレンズを製造する様子を模式的に示している。
まず、図1(a)に示すように、後述するスルファミン酸ベースのめっき浴(電解浴)1の中で、陽極として金属ニッケル2、陰極として金属製の原型(母型またはめっき対象物であってもよい)3に通電し、原型3の周囲にめっき層(めっき皮膜)5を析出させる。これは、一般に電解ニッケルめっきと称されるものである。光学素子の一例としてレンズを製造するための電鋳型を形成する場合の原型3は、所望のレンズの面を備えたモデルである。原型3としては、レンズの一方の面をもつモデルと、レンズの他方の面をもつモデルとを用意することができる。成形するレンズの面の数が多い場合は、それぞれのレンズの面に対応する数の所望の形状を有するモデルを用意できる。
原型3の周囲に形成させためっき層5を原型3から剥離(離型)し、必要に応じて適当な形状に整えることにより電鋳型10が得られる(形成される、製造される)。本例では、剥離しためっき層5の一部、すなわち、図1(a)中の一点鎖線の位置より下側の部分を電鋳型10として得ている。電鋳型10として使用するためには、めっき層5の厚みは3〜5mm程度あるいはそれ以上であることが好ましい。
次に、図1(b)に示すように、電鋳型(めっき層)10を含む成形型12に樹脂を注入し硬化させることによりレンズ20を製造する。電鋳型10となるめっき層5を、それ自体で成形型12としての強度が得られる程度まで厚く製造することは時間がかかる。したがって、電鋳型10を補強部材11により補強した(埋め込んだ)成形型(電鋳金型)12がレンズを製造するために用いられる。電鋳型10は、原型3から直に製造されたものであってもよく、原型3から製造された母型(第2世代の原型)から製造されたものであってもよい。また、補強の必要のない程度の強度を持つ厚さの電鋳型(電鋳金型)を原型3あるいは母型から直に製造することも可能である。
本例のニッケルめっき浴1は、硫酸ニッケルを含まないスルファミン酸ベースのめっき浴であって、さらに、ホウ酸を含まない(ホウ酸フリー)のめっき浴である。このニッケルめっき浴1は、スルファミン酸ニッケルを350〜600g/Lと、酢酸ニッケル・四水和物を20〜50g/Lと、クエン酸:10〜15g/Lとを含む。酢酸ニッケルおよびクエン酸は、主に緩衝剤(pH緩衝剤)として機能する。
めっき浴1は、この他に、陽極溶解性物質、応力調整剤(一次光沢剤)、光沢剤(二次光沢剤)、ピット防止剤(界面活性剤)、pH調整剤を含んでいてもよい。陽極溶解性物質としては、塩化ニッケルおよび臭化ニッケルのうちのいずれか一方を用いることができる。すなわち、めっき浴1は、塩化ニッケル・六水和物を0〜10g/L、好ましくは5g/L、または臭化ニッケル・三水和物を0〜10g/L、好ましくは5g/Lを含む。一次光沢剤と二次光沢剤はセットで用いる添加剤であり、応力調整剤(一次光沢剤)としては、ナフタレントリスルホン酸三ナトリウムおよびサッカリンナトリウムを挙げることができ、これらのうちのいずれか一方を用いることができる。さらに、他の光沢剤(二次光沢剤)として、2−ブチン−1,4−ジオールを加えて用いることができる。ピット防止剤(界面活性剤)としては、ラウリル硫酸ナトリウムを挙げることができる。pH調整剤としては、5mol/Lの水酸化カリウムや、1mol/Lのアミド硫酸を挙げることができる。めっき浴1のpHは3.5〜5の範囲に維持することが好ましく、4.0〜4.5の範囲に維持することがさらに好ましい。以下ではニッケルめっき浴のpHが4程度になるようにしている。
(緩衝剤の検討)
以下、ホウ酸フリーのめっき浴とするために、緩衝剤について検討した結果について記載する。まず、基準となるめっき浴を用意した。この基準のめっき浴が含む化合物およびその濃度は、以下の通りである。
・スルファミン酸ニッケル(600g/L)
・塩化ニッケル(5g/L)
・ナフタレン1,3,6−トリスルホン酸三ナトリウム(10g/L)
・2−ブチン−1,4−ジオール(1g/L)
この基準のめっき浴に、緩衝剤として、それぞれ、以下の化合物を以下に記した濃度で加えて試験用のめっき浴(B0〜B6)を調整した。なお、すべてのめっき浴のpHは、水酸化カリウムおよび/またはアミド硫酸にて、pH4となるように調整した。
B0.ホウ酸(30g/L)
B1.プロピオン酸(30g/L)
B2.酢酸(30g/L)
B3.プロピオン酸(30g/L)+クエン酸(10g/L)
B4.酢酸(30g/L)+クエン酸(10g/L)
B5.酢酸ニッケル(30g/L)
B6.酢酸ニッケル(30g/L)+クエン酸(10g/L)
これらのように調整された各めっき浴B0〜B6を用いてハルセル試験を行い、めっき状態(光沢、ビットの有無など)を観察した。ハルセル試験には、陰極に用いるニッケルめっき基板としてハルセル黄銅板を用意するとともに、陽極にはS(L)→(K)ニッケル板(ともに山本鍍金試験器社製)を用い、めっき液の液量を267mlとし、陰極および陽極を設置して、電流3A/dm2(一定)で、5分間通電した。めっき浴の初期温度は50℃とし、エアー攪拌を行った。
さらに、各めっき浴(バス)B0〜B6を用いてハルセル黄銅板に電流密度が0.3A/dm2で6時間のめっきを施したサンプルを製造し、それぞれのサンプルの曲げ強度を確認した。各めっき浴B1〜B6を用いためっきの状態およびサンプルの曲げ強度は、ホウ酸を用いためっき浴B0およびそのサンプルとの比較で評価した。ハルセル試験におけるめっき状態は目視で確認し、曲げ強度はサンプルを折り曲げて評価した。評価基準は、以下の通りである。
○:ホウ酸を使用したバスB0と同程度
△:ホウ酸を使用したバスB0よりもやや劣る
×:ホウ酸を使用したバスB0よりも劣る
図2に、めっき浴に含まれる緩衝剤を変化させた際のめっき状態の評価結果および曲げ強度の測定結果を纏めて示している。緩衝剤としてプロピオン酸を用いためっき浴B1は、めっき状態(外観)および曲げ強度の双方ともホウ酸を用いためっき浴B0に対して劣っていた。また、プロピオン酸とともにクエン酸を加えためっき浴B3も、同様に、めっき状態(外観)および曲げ強度の双方ともホウ酸を用いためっき浴B0に対して劣っていた。
緩衝剤として酢酸を用いためっき浴B2については、ホウ酸を用いためっき浴B0に対し、曲げ強度は良好であったが、めっき状態が若干劣っていた。また、酢酸とともにクエン酸を加えためっき浴B4も、同様に、ホウ酸を用いためっき浴B0に対し曲げ強度は良好であったが、めっき状態が若干劣っていた。
これらに対し、酢酸ニッケル(30g/L)を含めためっき浴B5および酢酸ニッケルとクエン酸とを含めためっき浴B6は、めっき状態および曲げ強度とも、ホウ酸を用いためっき浴B0と同程度に良好であった。
また、上記のめっき浴B0〜B6に含まれる緩衝剤について、めっきによるpHの緩衝性とpHの安定性を検証した。図3は、各緩衝剤に対する水酸化ナトリウムの添加量とpHとの関係を示している。図4は、各緩衝剤のpHの経時変化(めっき時間に対する変化)を示している。すなわち、図3は各緩衝剤のpHの緩衝性を検証する実験であり、図4は各緩衝剤のめっき時間に対するpHの安定性を検証するための実験である。
図3に示すように、酢酸ニッケルおよび酢酸ニッケル+クエン酸のpHの緩衝性は、他の緩衝剤よりも良好であった。また、図4に示すように、酢酸ニッケルおよび酢酸ニッケル+クエン酸のpHの安定性は、ホウ酸と同程度であった。これらの結果より、スルファミン酸ベースのニッケルめっき浴においては、酢酸ニッケルまたは酢酸ニッケルおよびクエン酸の組み合わせが緩衝剤として適しており、スルファミン酸ベースでありながら、ホウ酸を用いなくても内部応力の少ないめっき層を形成できるめっき浴1を提供できる。
以下、いくつかの実施例を挙げる。また、比較のために酢酸ニッケルに代えてホウ酸を用いた比較例を挙げる。図5に、以下の実施例1〜5および比較例1において用いたニッケルめっき浴の成分および濃度を纏めて示している。図6に、実施例1において用いたニッケルめっき浴の調整方法を代表して示している。
(実施例1)
実施例1において用いたニッケルめっき浴1は、以下に示した化合物を含むように調整した。なお、以下の「適量」は、従来知られているスルファミン酸浴において、各性能を良好に発揮するために用いる量と同程度の量であることを示している。また、pH調整剤として、5mol/Lの水酸化カリウムと、1mol/Lのアミド硫酸を使用し、pH4に調整した。
・スルファミン酸ニッケル(60%スルファミン酸ニッケルを使用):450g/L(結晶濃度換算)
・塩化ニッケル(塩化ニッケル(II)六水和物を使用):5g/L(水和物換算)
・酢酸ニッケル(酢酸ニッケル(II)四水和物を使用):30g/L(水和物換算)
・クエン酸:10g/L
・サッカリンナトリウム二水和物:適量(本例では3g/L)
・2−ブチン−1,4−ジオール:適量(本例では0.4g/L)
・ラウリル硫酸ナトリウム:適量(本例では20〜40ppm)
このように調整されたニッケルめっき浴を用い、めっき層(めっき皮膜)5を形成した。この際、ニッケルめっき浴の温度は50℃、ウォーターバスで保温した状態で、電流密度3〜15A/dm2、電圧9Vにて通電した。めっき中は、空気攪拌および連続でろ過を行った。
(実施例2)
実施例2において用いたニッケルめっき浴1は、実施例1のニッケルめっき浴に対し、スルファミン酸ニッケル(60%スルファミン酸ニッケルを使用)の含有量を600g/L(結晶濃度換算)に変更するとともに、サッカリンナトリウム二水和物の代わりにナフタレントリスルホン酸三ナトリウムを適量(本例では10g/L)含むように変更した。その他は、pHおよびその調整方法も含めて、実施例1と同様である。また、このように調整されたニッケルめっき浴1を用い、実施例1と同様にしてめっき皮膜5を形成した。
(実施例3)
実施例3において用いたニッケルめっき浴1は、実施例1のニッケルめっき浴に対し、スルファミン酸ニッケル(60%スルファミン酸ニッケルを使用)の含有量を400g/L(結晶濃度換算)に変更するとともに、サッカリンナトリウム二水和物の代わりにナフタレントリスルホン酸三ナトリウムを適量(本例では10g/L)含むように変更した。その他は、pHおよびその調整方法も含めて、実施例1と同様である。また、このように調整されたニッケルめっき浴1を用い、実施例1と同様にしてめっき皮膜5を形成した。
(実施例4)
実施例4において用いたニッケルめっき浴1は、実施例1のニッケルめっき浴に対し、サッカリンナトリウム二水和物の代わりにナフタレントリスルホン酸三ナトリウムを適量(本例では10g/L)含むように変更した。その他は、pHおよびその調整方法も含めて、実施例1と同様である。また、このように調整されたニッケルめっき浴1を用い、実施例1と同様にしてめっき皮膜5を形成した。
(実施例5)
実施例5において用いたニッケルめっき浴1は、実施例1のニッケルめっき浴に対し、塩化ニッケルの代わりに臭化ニッケル(臭化ニッケル(II)三水和物を使用)を5g/L(水和物換算)含むように変更するとともに、サッカリンナトリウム二水和物を、ナフタレントリスルホン酸三ナトリウムを適量(本例では10g/L)含むように変更した。その他は、pHおよびその調整方法も含めて、実施例1と同様である。また、このように調整されたニッケルめっき浴1を用い、実施例1と同様にしてめっき皮膜5を形成した。
(比較例1)
比較例1において用いたニッケルめっき浴は、実施例1のニッケルめっき浴に対し、スルファミン酸ニッケル(60%スルファミン酸ニッケルを使用)の含有量を600g/L(結晶濃度換算)に変更するとともに、酢酸ニッケルの代わりにホウ酸を30g/L含むように変更した。また、クエン酸は用いなかった。pHは、スルファミン酸と水酸化カリウムにて、pH4に調整した。
このように調整されたニッケルめっき浴を用い、めっき皮膜を形成した。この際、めっき浴の温度は50℃、ウォーターバスで保温した状態で、電流密度3〜15A/dm2、電圧9Vにて通電した。めっき中は、空気攪拌および連続でろ過を行った。
(めっき皮膜の比較)
実施例1〜実施例5および比較例1において形成されためっき皮膜5の状態について比較した。まず、実施例1において形成されためっき皮膜5の光沢具合および反りの状態は、比較例1において形成されためっき皮膜と同程度であり、ホウ酸を含有しないニッケルめっき浴1を用いた際のデメリットは見当たらなかった。
さらに、めっき皮膜5の硬度を測定した。図7(a)は、実施例1のニッケルめっき浴1を用いて形成しためっき皮膜5の硬度の測定結果を示している。図7(b)は、比較例1のニッケルめっき浴を用いて形成しためっき皮膜の硬度の測定結果を示している。硬度は松沢精機社の微小硬度計MODEL DMH−2を用い、測定個所(5か所)を変えて硬度を測定した。そして、最大値および最小値を削除して、中間の3つの測定値の平均を、硬度(平均)とした。図7(a)および(b)からもわかるように、実施例1において形成されためっき皮膜5は、比較例1において形成されためっき皮膜と比べて強度が高く、射出成型金型などに適していることがわかった。
これより、スルファミン酸ニッケルベースのニッケルめっき浴において、酢酸ニッケルまたは酢酸ニッケルとクエン酸との組み合わせを用いることにより、緩衝剤としてホウ酸を用いることなく、同程度の光沢具合であって、反りもほとんどなく、強度が良好なニッケルめっき皮膜を得られることがわかった。さらに、一次光沢剤のサッカリンナトリウム二水和物、またはナフタレントリスルホン酸三ナトリウムと二次光沢剤の2−ブチン−1,4−ジオールを添加することにより強度が高く鏡面性も高いニッケルめっき皮膜が得られることがわかった。
次に、実施例1〜5において形成されためっき皮膜5を用いて、スルファミン酸ニッケルの濃度変化に伴うめっきの状態、析出速度を検証した。この結果、いずれのニッケルめっき浴1を用いて製造されたニッケルめっき皮膜5の状態も、ホウ酸を用いた比較例1のニッケルめっき浴を用いて製造されたニッケルめっき皮膜の状態と同程度であることが確認された。スルファミン酸ニッケルの含有量が増加すると、電流密度を上昇させることが可能なため析出速度が向上するので、製造効率を考慮するとスルファミン酸ニッケルの含有量は多い方が望ましい。しかしながら、ニッケルめっき層5の成長速度が速すぎると内部応力が増加する傾向になる。したがって、電鋳型の製造にはスルファミン酸ニッケルの濃度が450g/L程度の実施例1のニッケルめっき浴1が最も好ましいと考えられる。
(電鋳型の製造およびそれを用いたレンズの製造)
図8は、電鋳型を用いてレンズを製造する工程をフローチャートにより示している。まず、ステップ31において原型を製造する。ステップ32において原型に対して前処理を行う。前処理は原型の表面についた汚れを取り除くためのアルカリ脱脂、次に、原型の表面の反応性を高めるための酸活性、最後に、電鋳めっきにより形成した電鋳型の剥離を容易にするための剥離剤の塗布を行う。ステップ33においてニッケルめっき浴1を調整する。典型的なニッケルめっき浴1は実施例1において用いたニッケルめっき浴である。ステップ34において、調整が完了したニッケルめっき浴1の中で、原型3を陰極とし、純ニッケルまたは硫黄含有ニッケルなどの金属板などの可溶性または不可溶性の電極を陽極2として通電し、原型3の周囲に電鋳型となるめっき層10を形成する。電流密度の一例は3〜15A/dm2程度であり、めっき時間の一例は10日間である。これにより、3mm程度の厚さにニッケル(金属)めっき層5を原型3に析出させることができる。
ステップ35において、製造された(析出した)めっき層5を電鋳型10として原型3から剥離する。ステップ36において、電鋳型10を補強部材11に挿入し成形型12を製造する。ステップ37において、レンズの両面の形状を含む一対の電鋳型10を用いて、レンズ20を成形する。このようにすることにより、電鋳型10を用い、面精度の高いレンズ20を製造することができる。
(まとめ)
以上のように、緩衝剤として酢酸ニッケルを用いることにより、ホウ酸フリーのスルファミン酸浴(めっき浴)を得ることができる。この際、このめっき浴にクエン酸を加えることがさらに好ましく、このようにすることにより、電鋳型として用いることができる程度の硬度を持つニッケル皮膜を形成することができる。応力調整剤および光沢剤を加えることがさらに好ましい。このニッケルめっき浴は、電解ニッケルめっき法により電鋳型の製造に好適であり、レンズなどの光学素子、導光板や反射防止フィルム、偏光フィルム、光ディスク、バイオチップなどの表面に微細加工を有する物品、注射針やスプレー缶、禁煙パイポなどの深くかつ鏡面性を有する物品を良好に形成することができる。また、このニッケルめっき浴はホウ酸フリーなのでめっき排水中のホウ酸やホウ素の除去を省くことができ、めっき廃液の処理に要するコストを削減できる。
なお、上記では、光学素子を形成するための電鋳型を例に、本発明に係るニッケルめっき浴を説明しているが、めっき対象物は電鋳型に限定されるものではない。

Claims (7)

  1. スルファミン酸ニッケルを350〜600g/L含み、ホウ酸を含まず、酢酸ニッケルとクエン酸とを含み、酢酸ニッケル・四水和物の含有量は20〜50g/L、クエン酸の含有量は10〜15g/Lであり、さらに、クエン酸相当の含有量は酢酸ニッケルの含有量の1/3〜1/2である、電鋳型形成用のニッケルめっき浴。
  2. 請求項1において、さらに、塩化ニッケル・六水和物をg/L、または臭化ニッケル・三水和物をg/L含み、pHが3.5〜5に調整され、ナフタレントリスルホン酸三ナトリウムまたはサッカリンナトリウムを含む一次光沢剤と、2−ブチン−1,4−ジオールを含む二次光沢剤とが添加された、ニッケルめっき浴。
  3. 請求項1または2に記載のニッケルめっき浴に原型を入れることと、
    前記原型にめっき層を形成することと、
    前記原型から前記めっき層を離型して電鋳型を形成することとを有する電鋳型の製造方法。
  4. 請求項1または2に記載のニッケルめっき浴を用いて電鋳された電鋳型。
  5. 請求項1または2に記載のニッケルめっき浴を用いて電鋳型を形成することと、
    前記電鋳型を含む成形型に樹脂を注入することとを有する、樹脂成形物の製造方法。
  6. 請求項に記載の電鋳型を含む成形型に樹脂を注入することを含む、樹脂成形物の製造方法。
  7. 請求項5または6において、前記樹脂成形物は光学素子である、樹脂成形物の製造方法。
JP2010267208A 2010-11-30 2010-11-30 ニッケルめっき浴およびこれを用いた電鋳型の製造方法 Expired - Fee Related JP5675303B2 (ja)

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