JP5584740B2 - グルコースセンサ - Google Patents

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Description

本開示は、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHとルテニウム化合物とを含有するグルコースセンサに関する。
各種グルコース酸化酵素を用いてグルコースを定量する方法に使用されるGDH(グルコースデヒドロゲナーゼ)として、アスペルギルス・オリゼのFAD−GDHが開示される。(特許文献1)。アスペルギルス・オリゼの野生型FAD−GDH及びその改変体はマルトース及びガラクトースに対する作用性が低くグルコースに対する基質特異性が高いと報告されている(特許文献2)。
グルコースセンサなどのバイオセンサは、一般的に、電気絶縁性の基板上に作用極と対極を有する電極系を形成し、その上にGDHやGODなどの酸化還元酵素とメディエータとを含む試薬層が配置される構成をとる(特許文献3)。前記メディエータとしては、フェリシアン化合物やルテニウム化合物などが使用される(特許文献4)。
特許第4292486号公報 特許第4348563号公報 WO2005/043146 WO2003/025558
各種グルコース酸化酵素を用いてグルコースを定量する方法は従来種々検討がなされ、市販されている。グルコース酸化酵素を用いたグルコース定量法の原理は、グルコースが酵素によって酸化されたときに同時に該酸化酵素の補酵素が還元されることを利用したものであり、具体的には還元された補酵素もしくは電子伝達物質の吸光度を測定する方法(比色法)と酸化還元反応によって生じた電流を測定する方法(電極法)に大別される。特に近年においては、糖尿病患者が日常的に自己の血糖値を把握するための簡易型血糖センサとして電極法が主に使用されている。
グルコース酸化酵素としては、古くからグルコースオキシダーゼ(GOD)が用いられてきた。しかしGODを電極法に適用した場合、GODは分子状酸素を電子受容体とすることが可能であるため、試料中の溶存酸素濃度が定量値に影響するという問題があった。これを解消する方法として、分子状酸素を電子受容体としえないグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)が多用されるようになった。
GDHとしては、ピロロキノリンキノン(PQQ)を補酵素とするもの(PQQ−GDH)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を補酵素とするもの(FAD−GDH)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)あるいはニコチンアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を補酵素とするもの(NAD(P)−GDH)の3種類に大きく大別される。GDHは、しばしば基質特異性が問題となった。すなわち、GDHは、グルコース以外のマルトースやガラクトースをも基質としてしまうことが知られていた。この基質特異性の問題を解消できるGDHとして、アスペルギルス・オリゼのFAD−GDH(特許文献1)が発見された。アスペルギルス・オリゼの野生型FAD−GDH及びその改変体(特許文献2)はマルトース及びガラクトースに対する作用性が低くグルコースに対する基質特異性が高いため、グルコースセンサへの適用が提案されている。
グルコースセンサなどのバイオセンサは、一般的に、電気絶縁性の基板上に作用極と対極を有する電極系を形成し、その上にGDHやGODなどの酸化還元酵素とメディエータとを含む試薬層が配置された構成をとる(特許文献3)。前記メディエータとしては、フェリシアン化合物やルテニウム化合物などが使用される(特許文献4)。
アスペルギルス・オリゼの野生型FAD−GDH及びその改変体(以下、「アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDH」ともいう。)は、フェリシアン化合物などのメディエータ(但し、ルテニウム化合物を除く)と組み合わせることにより、グルコース濃度が測定可能なグルコースセンサを作製できる(例えば、特許文献1及び2)。また、前記ルテニウム化合物も、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDH以外のGDH又はGODと組み合わせれば、グルコース濃度が測定可能なグルコースセンサを作製できる(例えば、特許文献3及び4)。しかし、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHとメディエータであるルテニウム化合物とを組み合わせると、グルコース濃度が測定できるグルコースセンサを作製できないという問題が見出された。アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHとルテニウム化合物とを組み合せたグルコースセンサがグルコース濃度を測定できないという問題点は、これまで知られていなかった。
そこで、本開示は、一態様として、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHとルテニウム化合物とを組み合わせて使用する場合であっても、グルコース濃度を測定できるグルコースセンサを提供する。
本開示は、一態様として、絶縁性基板、前記基板上に配置された作用極及び対極を有する電極系、及び、前記電極系上に配置された試薬層を備え、前記試薬層が、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDH、ルテニウム化合物、及び、PMS(フェナジンメトサルフェート)を含む、グルコースセンサ(以下、「本開示のグルコースセンサ」ともいう。)に関する。
本開示は、その他の態様として、絶縁性基板上に配置された作用極及び対極を有する電極系、グルコースデヒドロゲナーゼ、及びメディエータを用いて試料中のグルコースを測定する方法であって、前記試料とアスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHを接触させること、及び、前記試料中のグルコースと前記アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHとの反応を、PMS及びルテニウム化合物を介して電気化学的に測定することを含む、グルコース濃度の測定方法(以下、「本開示のグルコース濃度測定方法」ともいう。)に関する。
本開示は、その他の態様として、作用極及び対極を有する電極系が配置された絶縁性基板の前記電極系上に、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDH、ルテニウム化合物、及び、PMSを含む試薬層を形成することを含むグルコースセンサの製造方法に関する。
本開示は、その他の態様として、本開示のグルコースセンサと、前記グルコースセンサの電極系に電圧を印加する手段と、電極系における電流を測定するための手段とを含む、試料中のグルコース濃度を測定するためのグルコース濃度測定システムに関する。
本開示によれば、一態様として、マルトースやガラクトースに対する作用性が低くグルコースに対する基質特異性の高いアスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHと、メディエータであるルテニウム化合物との組み合わせを使用して、グルコース濃度が測定可能なグルコースセンサを提供できる。
図1は、2種類のメディエータ:PMS及びルテニウム化合物(Ru)を介したアスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHによるグルコースの電気化学的センシングスキームを示す。(Ox)は酸化型、(Re)は還元型であることを示す。 図2は、実施例1及び参考例1のグルコースセンサで検体試料を測定した時に検出された電流値のタイムコースを示すグラフの一例である。 図3は、グルコースセンサの構成及び製造方法の一例を説明する模式図である。 図4は、グルコースセンサの構成の一例を説明する模式図である。
本開示は、一態様において、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHのメディエータとしてルテニウム化合物を単独で使用しグルコースセンサを作製した場合、試料中のグルコース濃度に依存した電流値を得ることができず、グルコース濃度を測定できない、という知見に基づく。本開示は、また、一態様において、前記の構成のグルコースセンサであっても、メディエータとしてルテニウム化合物に加えてPMSを使用すれば、グルコース濃度が測定できるようになる、という知見に基づく。
アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHとルテニウム化合物との組み合わせのグルコースセンサではグルコース濃度が測定できず、前記組み合わせにPMSを加えたグルコースセンサであるとグルコース濃度が測定できるメカニズムの詳細は不明であるが、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHとルテニウム化合物と間では電子授受効率が悪いと考えられる。一方、PMSは、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHから電子伝達されやすく、かつ、ルテニウム化合物に電子伝達をし易い性質があり、反応系にこれら3者が存在することで、ようやくグルコース濃度が測定できるようになると考えられる。すなわち、本開示におけるアスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHとグルコースとの反応の電気化学的測定スキームは、図1のようになると考えられる。まず、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHがグルコースとの反応により供与された電子が、第1のメディエータであるPMS(酸化型)に供与されPMSを還元型にする。次に、還元型PMSから第2のメディエータであるルテニウム化合物(Ru)(酸化型)に電子が供与されルテニウム化合物を還元型とする。そして、還元型ルテニウム化合物から電極(作用極)に電子が供与され、電流値として測定される。但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
[アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)型FAD−GDH]
本明細書において「FAD−GDH」は、フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ又はフラビンアデニンジヌクレオチド結合型グルコースデヒドロゲナーゼを意味する。本明細書において「アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDH」は、アスペルギルス・オリゼの野生型FAD−GDH及び/又はその改変体を意味し、特に記載のない場合、野生型及びその改変体の双方を含む。本明細書において「アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDH」は、好ましくは、従来公知のFAD非結合型GDHと比較して、マルトース及びガラクトースに対する作用性が低く、かつ、グルコースに対する基質特異性が高いFAD−GDHを意味する。
アスペルギルス・オリゼの野生型FAD−GDHとしては、一又は複数の実施形態において、配列表の配列番号1のアミノ酸配列で表される公知のタンパク質が挙げられる。
本明細書において、アスペルギルス・オリゼの野生型FAD−GDHの改変体とは、前記野生型FAD−GDHのアミノ酸配列のアミノ酸残基を置換した配列を有し、かつ、フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するものをいう。前記改変体は、好ましくは、野生型と同様に、マルトース及びガラクトースに対する作用性が低く、かつ、グルコースに対する基質特異性が高いことが好ましい。前記置換アミノ酸残基の数は、例えば、1、2、3、4、5個であって、1〜3個が好ましく、1〜2個がより好ましい。
本明細書におけるアスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHは、市販のものを使用できる。一又は複数の実施形態において、実施例で使用した東洋紡社製のアスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHが挙げられる。また、本明細書におけるアスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHの実施形態としては、特許文献1及び2に記載のものが挙げられる。
本明細書において、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHは、一又は複数の実施形態において、アミノ酸配列のN末端又はC末端に酵素精製のためのタグ配列、ペプチド配列、及び/又はそれらの配列の切断残部が付加された組換え体であって、フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するものを含みうる。
アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHのグルコースセンサ1枚あたりの含有量は、一又は複数の実施形態において、従来又は今後開発されるグルコースセンサに配置されている量であってよく、生産性(コスト)及び検出感度の維持の観点から、0.5〜10Uが好ましく、より好ましくは1〜6U、さらに好ましくは1〜4Uである。なお、本明細書においてUは酵素単位であって、1Uは、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHが1μmolのグルコースを37℃1分で酸化する酵素量である。
なお、本明細書において「グルコースセンサ1枚あたりの含有量」とは、一又は複数の実施形態において、作用極及び対極を有する電極系を1つ有するグルコースセンサに使用される量をいい、さらなる一又は複数の実施形態において、1つの電極系の上に配置される試薬層に含まれる量をいい、さらなる一又は複数の実施形態において、試料が添加された時(使用時)に反応系に含まれるように配置される量をいう。また、本明細書において「グルコースセンサ1枚あたりの含有量」と言う時のグルコースセンサは、一又は複数の実施形態において、血液試料に対して使用される通常のサイズのものをいう。前記サイズは、一又は複数の実施形態において、添加される血液試料が、例えば0.2〜1.0μL、又は0.2〜0.4μLのもの、或いは、血液試料が試薬層と接触して形成する反応系の容量が、例えば0.2〜1.0μL、又は0.2〜0.4μLのものをいう。したがって、「グルコースセンサ1枚あたりの含有量」は、一又は複数の実施形態において、電極系の数、及び/又は、試料若しくは反応系の容量に応じ、本明細書に開示する範囲を適宜調節できる。
[ルテニウム化合物]
本明細書における「ルテニウム化合物」として、一又は複数の実施形態において、従来又は今後開発されるグルコースセンサやバイオセンサにメディエータに使用されるルテニウム化合物を使用できる。ルテニウム化合物は、酸化型のルテニウム錯体として反応系に存在し得るものであることが好ましい。前記ルテニウム錯体としては、メディエータ(電子伝達体)として機能すればその配位子の種類はとくに限定されないが、酸化型のものが下記化学式で示されるものを使用するのが好ましい。
[Ru(NH35X]n+
前記化学式におけるXとしては、NH3、ハロゲンイオン、CN、ピリジン、ニコチンアミド、またはH2Oが挙げられるが、NH3又はハロゲンイオン(例えば、Cl-、F-、Br-、I-)が好ましい。前記化学式におけるn+は、Xの種類により決定される酸化型ルテニウム(III)錯体の価数を表す。
ルテニウム化合物のグルコースセンサ1枚あたりの含有量は、一又は複数の実施形態において、従来又は今後開発されるグルコースセンサに配置されている量であってよく、生産性(コスト)及び検出感度の観点から、5〜50μgが好ましく、より好ましくは10〜40μg、さらに好ましくは15〜25μgである。
[PMS]
本明細書において、「PMS」は、フェナジンメトサルフェート及びその誘導体を示す。前記PMSとしては、試薬安定性の観点から、1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルサルフェート(1-メトキシPMS)が好ましい。
PMSのグルコースセンサ1枚あたりの含有量は、生産性(コスト)及び検出感度の観点から、40〜900pmolが好ましく、より好ましくは50〜500pmol、さらに好ましくは100〜300pmolである。
グルコースセンサ1枚あたりのPMSの含有量が200pmolとした場合、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHの含有量は、一又は複数の実施形態において、1〜6U、又は1〜4Uであり、ルテニウム化合物の含有量は、一又は複数の実施形態において、10〜40μg、又は15〜25μgである。
[試薬層に含まれるその他の成分]
試薬層には、さらに、一又は複数の実施形態において、測定感度向上の観点から、層状無機化合物、界面活性剤、緩衝剤などが含有されてもよい。前記層状無機化合物としては、一又は複数の実施形態において、従来又は今後開発されるグルコースセンサに使用されるものが使用できるが、同様の観点から、イオン交換能を有する膨潤性粘土鉱物が好ましく、ベントナイト、スメクタイト、バーミキュライト、合成フッ素雲母などがより好ましく、合成ヘクトライトや合成サポナイト等の合成スメクタイト;合成フッ素雲母等の膨潤性合成雲母;Na型雲母等の合成雲母(天然の雲母は、通常、非膨潤性の粘土鉱物である)などがより好ましい。これらの層状無機化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記界面活性剤としては、従来又は今後開発されるグルコースセンサに使用されるものが使用でき、特に制限されないが一又は複数の実施形態において、適宜、非イオン性、アニオン性、カチオン性、両性の界面活性剤を使用し得る。これらの中でも、測定感度向上の観点からは、両性界面活性剤が好ましい。両性界面活性剤としては、例えば、カルボキシベタイン、スルホベタイン、及びホスホベタイン等が挙げられ、同様の観点からスルホベタインが好ましい。スルホベタインとしては、例えば、CHAPS(3−[(3−コールアミドプロピル])ジメチルアンモニオ]プロパンスルホネート)、CHAPSO(3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート)、及びアルキルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられ、同様の点からCHAPSが好ましい。
前記緩衝剤としては、従来又は今後開発されるグルコースセンサに使用されるものが使用でき、特に制限されないが一又は複数の実施形態において、測定感度向上の観点から、アミン系緩衝剤及びカルボキシル基を有する緩衝剤が好ましい。前記アミン系緩衝剤としては、同様の観点から、Tris、ACES、CHES、CAPSO、TAPS、CAPS、Bis−Tris、TAPSO、TES、Tricine及びADA等が好ましく、より好ましくはACES、Tris、さらに好ましくはACESである。前記カルボキシル基を有する緩衝剤としては、同様の観点から、酢酸−酢酸Na緩衝剤、リンゴ酸−酢酸Na緩衝剤、マロン酸−酢酸Na緩衝剤、コハク酸−酢酸Na緩衝剤等が好ましく、コハク酸−酢酸Na緩衝剤がより好ましい。これらの緩衝剤は、1種類でもよいし2種類以上を併用してもよい。
前記試薬層は、一又は複数の実施形態において、全ての試薬が含まれる単層構造であってもよく、多層の積層構造であってもよい。一又は複数の実施形態において、前記層状無機化合物を含む無機ゲル層を形成し、その上にアスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHを含む酵素層を形成するという積層構成の試薬層であってもよい。グルコースセンサにおける前記試薬層は、保存安定性の観点から、電極系上に乾燥状態で配置されることが好ましい。
[試料]
本開示のグルコースセンサ及び本開示のグルコース測定方法における測定対象試料は、一又は複数の実施形態において、血液、体液、尿などの生体試料であってもよく、その他の液体試料であってもよい。
[グルコースセンサ]
本開示のグルコースセンサは、絶縁性基板、前記基板上に配置された作用極及び対極を有する電極系、及び、前記電極系上に配置された試薬層を備える構成である。前記電極系は一又は複数の実施形態において参照極を有してもよい。前記電極は、従来又は今後開発されるグルコースセンサで使用されるものが使用でき、特に制限されないが一又は複数の実施形態において、作用極及び対極にはカーボン電極を用いてもよいし、白金、金、銀、ニッケル、パラジウムなどの金属電極を用いてもよい。参照極としては、特に限定されるものではなく、電気化学実験において一般的なもの及び今後開発されるものを適用することができるが、一又は複数の実施形態において、飽和カロメル電極、銀−塩化銀などが挙げられる。絶縁性基板上に電極を形成する方法としては、一又は複数の実施形態において、フォトリゾグラフィ技術や、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷技術により、電極を基板上に形成することが挙げられる。また、絶縁性基板の素材としても、従来又は今後開発されるグルコースセンサで使用されるものが使用でき、特に制限されないが一又は複数の実施形態において、シリコン、ガラス、ガラスエポキシ、セラミック、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、及びポリイミドなどが挙げられる。
本開示のグルコースセンサの一実施形態について、図3及び図4に基づいて説明する。図3(A)〜(F)は、本実施形態のグルコースセンサを製造する一連の工程を示した斜視図である。また、図4は、前記図3(F)に示すグルコースセンサのI−I方向断面図である。なお、図3(A)〜(F)及び図4において、同一箇所には同一符号を付している。
図3(F)及び図4に示すように、このグルコースセンサは、基板11、リード部12aを有する作用極12とリード部13aを有する対極13とから構成された電極系、絶縁層14、層状無機化合物を含む無機ゲル層16、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHを含む酵素層17、開口部を有するスペーサー18及び貫通孔20を有するカバー19を備えている。なお、ルテニウム化合物及びPMSは、それぞれ独立に無機ゲル層16及び酵素層17の少なくとも一方に含有される。また、その他の実施形態として、無機ゲル層16及び酵素層17が1層の試薬層を形成する構成であってもよい。
図3(B)に示すように、基板11の一方の端部(両図において右側)上には、検出部15が設けられており、検出部15には、作用極12と対極13とが、基板11の幅方向に並行して配置されている。前記両電極の一端は、それぞれリード部12a、13a(両図において左側)となり、これらと、検出部15における他端とが、垂直となるように配置されている(図3(A))。また、作用極12と対極13との間は、絶縁部となっている。このような電極系を備えた基板11の上には、図3(B)に示すように、リード部12a、13a及び検出部15を除いて、絶縁層14が積層されており、絶縁層14が積層されていない前記検出部15上には、無機ゲル層16及び酵素層17がこの順序で積層されている。そして、絶縁層14の上には、図3(E)に示すように、検出部15に対応する箇所が開口部になっているスペーサー18が配置されている。さらにスペーサー18の上には、前記開口部に対応する一部に貫通孔20を有するカバー19が配置されている(図3(F))。このグルコースセンサにおいて、前記開口部の空間部分であり、かつ、前記酵素層17及び絶縁層14とカバー19とに挟まれた空間部分が、キャピラリー構造の試料供給部21となる。そして、前記貫通孔20が、試料を毛管現象により吸入するための空気孔となる。
このグルコースセンサは、例えば、ある一定の時間で所定の電圧を加える手段、前記バイオセンサから伝達される電気信号を測定する手段、前記電気信号を測定対象物濃度に演算する演算手段等の種々の手段を備えた測定機器と組み合わせて使用できる。
このグルコースセンサの使用の一例について、説明する。
まず、全血試料をグルコースセンサの開口部21の一端に接触させる。この開口部21は、前述のようにキャピラリー構造となっており、その他端に対応するカバー19には空気孔20が設けられているため、毛管現象によって前記試料が内部に吸引される。吸引された前記試料は、検出部15上に設けられた酵素層17に浸透し、酵素層17中のアスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHを溶解して、さらに酵素層17の下層である無機ゲル層16表面に達する。そして、表面に達した試料中のグルコースと、前記FAD−GDHと、PMSと、ルテニウム化合物とが反応する。具体的には、測定対象物であるグルコースは前記FAD−GDHにより酸化され、その酸化反応により移動した電子がPMSを介してルテニウム化合物に伝えられ、還元型ルテニウム(II)錯体が形成される。そして、無機ゲル層16中で還元された還元型ルテニウム(II)錯体と、無機ゲル層16の下に位置する電極との間で、電子授受が行われ、これによってグルコース濃度が測定されうる。
[グルコースセンサの製造方法]
本開示は、その他の態様において、作用極及び対極を有する電極系が配置された絶縁性基板の前記電極系上に、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDH、ルテニウム化合物、及び、PMSを含む試薬層を形成することを含む、グルコースセンサの製造方法に関する。本開示の製造方法によれば、本開示のグルコースセンサを製造することができる。絶縁性基板、電極系、及び試薬層の構成及び又は含有量等は上述と同様にすることができる。
[グルコース濃度の測定方法]
本開示は、その他の態様において、試料中のグルコース濃度の測定方法であって、前記試料とアスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHを接触させること、及び、前記試料中のグルコースと前記アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHとの反応を、PMS及びルテニウム化合物を介して電気化学的に測定することを含む、グルコース濃度の測定方法に関する。
本明細書において「電気化学的に測定する」とは、電気化学的な測定手法を適用する測定することをいい、一又は複数の実施形態において、電流測定法、電位差測定法、電量分析法等が挙げられる。電流測定法としては、一又は複数の実施形態において、還元された電子伝達物質を印加により酸化される際に生ずる電流値を測定する方法が挙げられる。
本開示のグルコース濃度測定方法の一実施形態として、前記試料、前記アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDH、前記PMS、及び前記ルテニウム化合物を含む反応系を直接、絶縁性基板上に配置された作用極及び対極を有する電極系に配置することが挙げられる。あるいは、その他の実施形態として、前記電極系の上に無機ゲル層を配置し、その上に前記試料及び前記アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHを含む反応系を配置してもよい。この場合、2種類の前記メディエータは、前記液相反応毛及び前記無機ゲル層の少なくとも一方に存在させることが好ましく、前記PMSを前記反応系に存在させ、前記ルテニウム化合物を前記無機ゲル層の存在させることがより好ましい。
本開示のグルコース濃度測定方法の好ましい実施形態としては、本開示のグルコースセンサを用いたグルコース濃度測定方法が挙げられる。
本開示のグルコース濃度測定方法は、その他の実施形態において、前記試料とアスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHとの接触後に前記電極系に電圧を印加すること、前記印加時に放出される応答電流値を測定すること、及び、前記応答電流値に基づいて前記試料中のグルコース濃度を算出することを含んでもよい。印加する電圧としては特に制限されるものではないが、一又は複数の実施形態において、10〜700mV、50〜500mV、又は100〜400mVである。
本開示のグルコース濃度測定方法は、その他の実施形態において、前記試料とアスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHとの接触後所定の時間非印加の状態で保持した後に前記電極系に電圧を印加してもよいし、前記接触と同時に電極系に電圧を印加してもよい。非印加の状態で保持する時間としては、一又は複数の実施形態において、0秒を超え30秒以下、又は0秒を超え10秒以下である。
本開示のグルコースセンサ及び本開示のグルコース濃度測定方法における、電極系への電圧の印加、応答電流値の測定、及び、グルコース濃度の算出は、従来又は今後開発されるグルコース濃度測定装置等を用いて適宜行うことができる。
[グルコース濃度測定システム]
本開示は、さらにその他の態様として、本開示のグルコースセンサと、前記グルコースセンサの電極系に電圧を印加する手段と、前記電極系における電流を測定するための手段とを含む、試料中のグルコース濃度を測定するためのグルコース濃度測定システムに関する。
印加手段としては、グルコースセンサの電極系と導通し、電圧を印加可能であれば特に制限されるものではなく、公知又は今後開発される印加手段が使用できる。印加手段としては、一又は複数の実施形態においてグルコースセンサの電極系と接触可能な接触子、及び直流電源等の電源等を含みうる。
測定手段は、電圧印加時に生じた電極系における電流を測定するためのものであって、一又は複数の実施形態においてグルコースセンサの試薬層のルテニウム化合物から放出された電子の量に相関する応答電流値を測定可能なものであればよく、従来又は今後開発されるグルコースセンサで使用されているものが使用できる。
以下に、実施例及び比較例を用いて本開示をさらに説明する。但し、本開示は以下の実施例に限定して解釈されない。
[実施例1及び参考例1]
以下に示すようにして、図3(F)の模式図と同様の構造の実施例1及び参考例1のグルコースセンサを作製した。
まず、グルコースセンサの絶縁性基板11として、PET製基板(長さ50mm、幅6mm、厚み250μm)を準備し、その一方の表面に、スクリーン印刷により、リード部をそれぞれ有する作用極12及び対極13からなるカーボン電極系を形成した。
つぎに、以下に示すようにして前記電極上に絶縁層14を形成した。まず、絶縁性樹脂ポリエステルを、濃度75重量%になるように溶媒カルビトールアセテートに溶解させて絶縁性ペーストを調製し、これを前記電極上にスクリーン印刷した。印刷条件は、300メッシュスクリーン、スキージ圧40kgであり、印刷する量は、電極面積1cm2当たり0.002mLとした。なお、検出部15上と、リード部12a、13a上には、スクリーン印刷を行わなかった。そして、90℃で60分間加熱処理することによって絶縁層14を形成した。
続いて、前記絶縁層14を形成しなかった前記検出部15に、以下に示すようにして無機ゲル層16を形成した。まず、合成スメクタイト(商品名「ルーセンタイトSWN」、コープケミカル社製)0.3重量%、ルテニウム化合物([Ru(NH36]Cl3、同仁化学研究所社製)6.0重量%、酢酸ナトリウム、及びコハク酸を含む無機ゲル形成液(pH7.5)を調製した。この無機ゲル形成液1.0μLを、検出部15に分注した。なお、検出部15の表面積は約0.6cm2であり、前記検出部15における電極12、13の表面積は約0.12cm2であった。そして、これを、30℃で乾燥させて、無機ゲル層16を形成した。
さらに、前記無機ゲル層16の上に、酵素層17を形成した。まず、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDH(商品名「Glucose dehydrogenase(FAD-dependent)(GLD-351)」、東洋紡社製)2.7U、1-メトキシPMS(同仁化学研究所社製)25重量%、ACES緩衝液(pH7.5)を含む酵素液を調製した。この酵素液1.0μLを、検出部15の前記無機ゲル層16の上に分注して、30℃で乾燥させて酵素層17を形成した。
最後に、開口部を有するスペーサー18を絶縁層14上に配置し、さらに、前記スペーサー18上に空気孔となる貫通孔20を有するカバー19を配置して実施例1のグルコースセンサを作製した。前記カバー19と絶縁層14とに挟まれたスペーサー18の開口部の空間が、キャピラリー構造となるため、これを試料供給部21とした。
前記酵素液に1-メトキシPMSを含まないことの他は実施例1と同様にして、参考例1のグルコースセンサを作製した。
実施例1のグルコースセンサ1枚あたりの含有量は、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDH2.7U、1-メトキシPMS500ppm、ルテニウム化合物20μgであった。なお、前記酵素単位Uは、1μmolのグルコースを37℃1分で酸化する酵素量を意味する。
このようにして得られた実施例1及び参考例1のバイオセンサについて、自己血糖測定装置(商品名「グルコカードXメーター」、アークレイ社製)を用いて検体試料と反応させた後に測定される電流値のタイムコースを記録した。前記自己血糖測定装置は、性能検査装置に接続され、電流値データの集積が可能となっている。検体試料としては、グルコース濃度を調整した静脈全血(グルコース濃度:45,67,134,336,600mg/dL)を使用した。その結果を図2のグラフに示す。図2の実施例1のグラフに示される5種類のラインは、下から試料中グルコース濃度が45,67,134,336,及び600mg/dLの結果を示す。
図2に示す通り、実施例1のグルコースセンサでは検体試料中のグルコース濃度に依存した電流値が発生しているため、グルコース濃度が測定できることがわかる。一方、参考例1のグルコースセンサでは検体試料中のグルコース濃度に依存した電流値の発生が測定できず、グルコース濃度の測定が困難である。
[実施例2及び参考例2]
実施例1及び参考例1のアスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHに換えて、前記FAD−GDHに結合している糖鎖が付加されていない糖鎖非結合型アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDH(東洋紡社製)を使用した他は実施例1及び参考例1と同様にして、実施例2及び参考例2のグルコースセンサを作製した。
作製した実施例2及び参考例2のグルコースセンサを用いて、実施例1と同様に、グルコース濃度を調整した静脈全血の検体試料と反応させた後に測定される電流値のタイムコースを測定した。その結果、実施例2のグルコースセンサでは検体試料中のグルコース濃度に依存した電流値が発生しているため、グルコース濃度が測定できることがわかった(データ示さず)。一方、参考例2のグルコースセンサでは検体試料中のグルコース濃度に依存した電流値の発生が測定できず、グルコース濃度の測定が困難であることがわかった(データ示さず)。
[参考例3〜7]
実施例1の1-メトキシPMSに換えて、それぞれ、Saccharomyces cerevisiae由来のCytochrome c(シグマアルドリッチ社製)、equine haert由来のCytochrome c(シグマアルドリッチ社製)及びacetylated equine haert由来のCytochrome c(シグマアルドリッチ社製)を使用した他は実施例1と同様にして参考例3〜5のグルコースセンサを作製した。また、参考例6のグルコースセンサとしてルテニウム化合物を除いた他は実施例1と同様のグルコースセンサを作製し、参考例7のグルコースセンサとして2種類のメディエータを含まない他は実施例1と同様のグルコースセンサを作製した。
作製した参考例3〜7のグルコースセンサを用いて、実施例1と同様に、グルコース濃度を調整した静脈全血の検体試料と反応させた後に測定される電流値のタイムコースを測定した。その結果、参考例3〜6のグルコースセンサでは検体試料中のグルコース濃度に依存した電流値の発生が測定できず、グルコース濃度の測定が困難であることがわかった。参考例6のグルコースセンサで測定された電流値のタイムコースの一例を図2に示す。また、参考例7のグルコースセンサでは電流値を検知できなかった。
実施例1〜2、及び、参考例1〜7の結果を下記表1にまとめる。
Figure 0005584740
[実施例3〜6]
グルコースセンサ1枚あたりの1−メトキシPMSの含有量を、それぞれ、45、67、134、及び336ppmとした他は実施例1と同様にして実施例3〜6のグルコースセンサを作製した。
作製した実施例3〜6のグルコースセンサを用いて、実施例1と同様に、グルコース濃度を調整した静脈全血の検体試料と反応させた後に測定される電流値のタイムコースを測定した。その結果、実施例3〜6のグルコースセンサでは検体試料中のグルコース濃度に依存した電流値が発生しているため、グルコース濃度が測定できることがわかった(データ示さず)。
本開示は、医療分野、及び/又は、医療を目的としない医学、生化学、生物学等の学術分野で有用である。

Claims (11)

  1. 絶縁性基板、前記基板上に配置された作用極及び対極を有する電極系、及び、前記電極系上に配置された試薬層を備え、
    前記試薬層が、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)型FAD−GDH(フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ)、ルテニウム化合物、及び、PMS(フェナジンメトサルフェート)を含む、
    グルコースセンサ。
  2. 前記アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHは、アスペルギルス・オリゼの野生型FAD−GDH及びその改変体からなる群から選択され、前記改変体は前記野生型FAD−GDHのアミノ酸配列のうち1〜4個のアミノ酸残基を置換した配列を有し、フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する、請求項1のグルコースセンサ。
  3. 前記PMSが、1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルサルフェートである、請求項1又は2に記載のグルコースセンサ。
  4. グルコースセンサ1枚あたりの前記アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHの含有量が、1μmolのグルコースを37℃1分で酸化する酵素量を1Uとした場合に、1〜4Uである、請求項1から3のいずれかに記載のグルコースセンサ。
  5. グルコースセンサ1枚あたりの前記PMSの含有量が、100〜300pmolである、請求項1から4のいずれかに記載のグルコースセンサ。
  6. グルコースセンサ1枚あたりの前記ルテニウム化合物の含有量が、15〜25μgである、請求項1から5のいずれかに記載のグルコースセンサ。
  7. 試料中のグルコース濃度の測定方法であって、
    前記試料とアスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHを接触させること、及び、前記試料中のグルコースと前記アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDHとの反応を、PMS及びルテニウム化合物を介して電気化学的に測定することを含む、グルコース濃度の測定方法。
  8. 請求項1から6のいずれかに記載のグルコースセンサを用いて行う、請求項7記載のグルコース濃度の測定方法。
  9. 前記接触後に前記電極系に電圧を印加すること、前記印加時に放出される応答電流値を測定すること、及び、前記応答電流値に基づいて前記試料中のグルコース濃度を算出することを含む、請求項8記載の測定方法。
  10. 作用極及び対極を有する電極系が配置された絶縁性基板の前記電極系上に、アスペルギルス・オリゼ型FAD−GDH、ルテニウム化合物、及び、PMSを含む試薬層を形成することを含む、グルコースセンサの製造方法。
  11. 請求項1から6のいずれかに記載のグルコースセンサと、前記グルコースセンサの電極系に電圧を印加する手段と、電極系における電流を測定するための手段とを含む、試料中のグルコース濃度を測定するためのグルコース濃度測定システム。
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