JP4381463B2 - 可溶性補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(gdh)を含む組成物の熱安定性を向上する方法 - Google Patents
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本発明者らはさらに検討を加え、FADGDH、NADGDHについても同様の効果があることを見出し本願発明を完成させた。
これまでPQQGDHの安定性を向上する方策に関する報告としては特許文献2があり、その中では遺伝子レベルでのPQQGDH改変手段を用いた検討が報告されているが、酵素の改変を用いずに安定性を増大させる手段については、その可能性すら触れられていなかった。
[項1]
可溶性の補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、該組成物のpHをpH7以下の酸性側で保持させる工程を含む、該組成物をpH7.3以上にした場合と比べて該組成物の熱安定性を向上させる方法。
[項2]
可溶性の補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、該組成物のpHをpH3.1〜7.0に保持させる工程を含む、該組成物をpH7.4にした場合と比べて該組成物の熱安定性を向上させる方法。
[項3]
可溶性の補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)が、フラビン化合物を補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)である、項1または2に記載の組成物の熱安定性を向上させる方法。
[項4]
フラビン化合物を補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)が糸状菌由来であることを特徴とする項3記載の熱安定性を向上する方法。
[項5]
項1〜4のいずれかに記載の方法により熱安定性が向上した組成物。
[項6]
可溶性の補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、4℃で保存した該組成物と比べて、50℃、15分処理した場合でも、10%以上のGDH活性を残存することを特徴とする項5記載のGDH含有組成物。
[項7]
フラビン化合物を補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、4℃で保存した該組成物と比べて、50℃、15分処理した場合でも、45%以上のGDH活性を残存することを特徴とする項5記載のGDH含有組成物。
[項8]
1種類以上のジカルボン酸、塩化合物を含有する項5記載の組成物。
[項9]
塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウム、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、フタル酸、マレイン酸のうち1種類以上の化合物を含有する項5記載の組成物。
[項10]
項5記載の組成物を用いるグルコース濃度の測定方法。
[項11]
項5記載の組成物を含むグルコースセンサ。
[項12]
可溶性の補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、該組成物のpHをpH7以下の酸性側で保持させる工程を含む、該組成物をpH7.3以上にした場合と比べて該組成物の熱安定性が向上した組成物の製造方法。
[項13]
可溶性の補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、該組成物のpHをpH3.1〜7.0に保持させる工程を含む、該組成物をpH7.4にした場合と比べて該組成物の熱安定性が向上した組成物の製造方法。
D−グルコース + 電子伝達物質(酸化型)
→ D−グルコノ−δ−ラクトン + 電子伝達物質(還元型)
D−グルコースを酸化してD−グルコノ−1,5−ラクトンを生成するという反応を触媒する酵素であり、由来や構造に関しては特に限定するものではない。
補酵素としては、例えばピロロキノンキノリンまたはフラビン化合物またはニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド(NAD)などをとることができる。
ただし、エシェリヒア・コリなどに存在する膜型酵素を改変して可溶型にすることは困難であり、起源としてはアシネトバクター・カルコアセティカスもしくはアシネトバクター・バウマンニなどの可溶性PQQGDHを選択することが好ましい。
なお、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)NCIMB11517株は、以前、Acinetobacter calcoaceticusに分類されていた。
このような改変は当該技術分野における公知技術を用いて当業者であれば容易に実施することが出来る。例えば、蛋白質に部位特異的変異を導入するために当該蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列を置換または挿入するための種々の方法が、Sambrookら著、Molecular Cloning; A Laboratory Manual 第2版(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに記載されている。
例えば、本発明におけるPQQGDHの濃度は特に制約がないが、溶液中の場合、好ましくは、0.1〜100U/mL、さらに好ましくは、1〜50U/mL、さらに好ましくは2〜10U/mLである。粉末あるいは凍結乾燥物中でも同程度の濃度が望ましいが、粉末標品を調製する目的では、100U/mL以上の濃度にすることができる。
例えば、本発明におけるNADGDHの濃度は特に制約がないが、溶液中の場合、好ましくは、10〜1000U/mL、さらに好ましくは、20〜500U/mL、さらに好ましくは50〜150U/mLである。粉末あるいは凍結乾燥物中でも同程度の濃度が望ましいが、粉末標品を調製する目的では、1000U/mL以上の濃度にすることができる。
例えば、本発明におけるFADGDHの濃度は特に制約がないが、溶液中の場合、好ましくは、0.01〜100U/mL、さらに好ましくは、0.1〜50U/mL、さらに好ましくは0.2〜10U/mLである。粉末あるいは凍結乾燥物中でも同程度の濃度が望ましいが、粉末標品を調製する目的では、100U/mL以上の濃度にすることができる。
添加する化合物として好ましいものとして、マンニトール、イノシトール、アラビトール、アドニトール、ガラクチトール、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、ロイシン、イノシトール、グリセリン酸カルシウム、コハク酸、塩化カリウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、フマル酸、マロン酸、ピメリン酸、3−3’ジメチルグルタル酸、リジン、フタル酸、マレイン酸、グルタル酸、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、牛血清アルブミン(BSA)からなる群より選ばれるいずれか1つ以上を挙げることができる。
これらの共存させる各化合物の濃度は特に限定されるものではないが、溶液中の場合、好ましくは、0.001〜30重量%、さらに好ましくは、0.01〜5%、さらに好ましくは0.01〜1%である。粉末あるいは凍結乾燥物中でも同程度の濃度が望ましいが、粉末あるいは凍結乾燥物中では、溶液中の場合と比べて、更に低濃度の化合物添加で有効性を発揮する傾向にある。
なお、実施例で記載されている化合物の濃度は、GDH酵素と共存して保存する時の終濃度である。好ましい組合せとしては、性質が近似する塩化合物中での組合せや、カルボン酸含有化合物同士での組合せなどが挙げられるが、例えば、塩化合物とカルボン酸含有化合物などを組み合わせて、お互いの効果を相補するものが好ましい。
上記形態においてさらに熱安定性を向上させるため、組成物のpHをpH7以下の酸性側で保持させることができる。あるいは、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、フタル酸、マレイン酸などのジカルボン酸、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムなどの塩化合物を含有することができる。
あるいは、本発明のGDHの熱安定性を向上させる方法のさらに別の一形態は、可溶性の補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、該組成物のpHをpH3.1〜7.0に保持させる工程を含む、該組成物をpH7.4にした場合と比べて該組成物の熱安定性を向上させる方法である。
pHは、好ましくは3.1〜7.0、さらに好ましくは4.0〜6.5、さらに好ましくは4.0〜6.0である。
上記の組成物は、4℃で保存した該組成物と比べて、50℃、15分処理した場合でも、10%以上のGDH活性を残存する。あるいは、フラビン化合物を補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、4℃で保存した該組成物と比べて、50℃、15分処理した場合でも、45%以上のGDH活性を残存する。
上記形態においては、組成物中に、1種類以上のジカルボン酸、塩化合物を含有することが好ましい。ジカルボン酸としてはコハク酸、マロン酸、グルタル酸、フタル酸、マレイン酸、塩化合物としては塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムなどが挙げられる。本発明では、これらのうち1種類以上の化合物を含有することができる。
これらの共存させる各化合物の濃度は特に限定されるものではないが、溶液中の場合、好ましくは、1mM〜10M、さらに好ましくは、5mM〜5M、さらに好ましくは20mM〜1Mである。粉末あるいは凍結乾燥物を作製する場合には、溶液中の場合と同程度の化合物濃度を含有する組成にて乾燥処理を施すことにより同様の効果を持った乾燥標品を取得することができる。
なお、実施例で記載されている化合物の濃度は、GDH酵素と共存して保存する時の終濃度である。好ましい組合せとしては、性質が近似する塩化合物中での組合せや、カルボン酸含有化合物同士での組合せなどが挙げられるが、例えば、塩化合物とカルボン酸含有化合物などを組み合わせて、お互いの効果を相補するものが好ましい。
上記形態においてさらに熱安定性を向上させるため、糖アルコール、カルボキシル基含有化合物、アルカリ金属含有化合物、アルカリ土類金属化合物、アンモニウム塩、硫酸塩、タンパク質、例えば、マンニトール、イノシトール、アラビトール、アドニトール、ガラクチトール、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、ロイシン、イノシトール、グリセリン酸カルシウム、コハク酸、塩化カリウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、フマル酸、マロン酸、ピメリン酸、3−3’ジメチルグルタル酸、リジン、フタル酸、マレイン酸、グルタル酸、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、牛血清アルブミン(BSA)などの化合物を含有することができる。
これらのうち1種のみを適用してもよいし、2種以上を用いてもよい。さらには上記以外を含む1種以上の複合組成であってもよい。
また、これらの添加濃度としては、緩衝能を持つ範囲であれば特に限定されないが、好ましい上限は100mM以下、より好ましくは50mM以下である。好ましい下限は5mM以上である。
粉末あるいは凍結乾燥物中においては緩衝剤の含有量は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1%(重量比)以上、特に好ましくは0.1〜30%(重量比)の範囲で使用される。
これらは、種々の市販の試薬を用いることが出来る。
後述のGDH酵素活性の測定方法に記載の活性測定法において、4℃保存した溶液のGDH活性値(a)と、一定温度で一定時間熱処理した後のGDH活性値(b)を測定し、測定値(a)を100とした場合に対する相対値((b)/(a)×100)を求めた。この相対値を残存率(%)とした。そして、該化合物の添加の有無を比較して、添加により残存率が増大した場合、熱安定性が向上したと判断した。
これらの各メディエーターは感度に様々な違いが存在するために、添加濃度を一律に規定する必要性はないが、一般的には1mM以上の添加が望ましい。
これらのメディエーターは測定時に添加してもよいし、後記するグルコース測定用試薬、グルコースアッセイキットあるいはグルコースセンサを作製するときに予め含有させておくこともできる。なお、その際には、液体状態、乾燥状態などの形態は問われず、測定時に反応時に解離してイオンの状態になるようにしておけばよい。
例えば、グルタミン酸、グルタミンおよびリジンからなる群から選択されるアミノ酸は、1種または2種以上であってもよい。ここにさらに、牛血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミン(OVA)を含有させてもよい。
例えば、カルシウムイオンまたはカルシウム塩を含有させることにより、PQQGDHを安定化させることができる。カルシウム塩としては、塩化カルシウムまたは酢酸カルシウムもしくはクエン酸カルシウム等の無機酸または有機酸のカルシウム塩などが例示される。また、水性組成物において、カルシウムイオンの含有量は、1×10−4〜1×10−2Mであることが好ましい。
カルシウムイオンまたはカルシウム塩を含有させることによるPQQGDHの安定化効果は、グルタミン酸、グルタミンおよびリジンからなる群から選択されたアミノ酸を含有させることにより、さらに向上する。グルタミン酸、グルタミンおよびリジンからなる群から選択されるアミノ酸は、1種または2種以上であってもよい。ここにさらに卵白アルブミン(OVA)を含有させてもよい。
あるいは、(1)アスパラギン酸、グルタミン酸、α−ケトグルタル酸、リンゴ酸、α−ケトグルコン酸、α−サイクロデキストリンおよびそれらの塩からなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物および(2)アルブミンを共存せしめることにより、PQQGDHを安定化することができる。
本発明のグルコース測定用試薬、グルコースアッセイキット、グルコースセンサは、液状(水溶液、懸濁液等)、真空乾燥やスプレードライなどにより粉末化したもの、凍結乾燥など種々の形態をとることができる。乾燥法としては、特に制限されるものではなく常法に従って行えばよい。本発明の酵素を含む組成物は凍結乾燥物に限られず、乾燥物を再溶解した溶液状態であってもよい。
本発明においては以下の種々の方法によりグルコースを測定することができる。
本発明のグルコース測定用試薬は、典型的には、GDH、緩衝液、メディエーターなど測定に必要な試薬、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明のキットは、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。好ましくは本発明のGDHはホロ化した形態で提供されるが、アポ酵素の形態で提供し、使用時にホロ化することもできる。
本発明はまた、本発明に従うGDHを含むグルコースアッセイキットを特徴とする。本発明のグルコースアッセイキットは、本発明に従うGDHを少なくとも1回のアッセイに十分な量で含む。典型的には、キットは、本発明のGDHに加えて、アッセイに必要な緩衝液、メディエーター、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明に従うGDHは種々の形態で、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。好ましくは本発明のGDHはホロ化した形態で提供されるが、アポ酵素の形態で提供し、使用時にホロ化することもできる。
本発明はまた、本発明に従うGDHを用いるグルコースセンサを特徴とする。電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上に本発明の酵素を固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどがあり、あるいはメディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。好ましくは本発明のGDHはホロ化した形態で電極上に固定化するが、アポ酵素の形態で固定化し、補酵素を別の層としてまたは溶液中で供給することも可能である。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明のGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。
実施例1 :PQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子の発現プラスミドの構築
野生型PQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼの発現プラスミドpNPG5は、ベクターpBluescript SK(−)のマルチクローニング部位にアシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii) NCIMB115
17株由来のPQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼをコードする構造遺伝子を挿入したものである。その塩基配列を配列表の配列番号2に、また該塩基配列から推定されるPQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列を配列表の配列番号1に示す。
pNPG5のDNA5μgを制限酵素BamHIおよびXhoI(東洋紡績製)で切断して、変異型PQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼの構造遺伝子部分を単離した。単離したDNAとBamHIおよびXhoIで切断したpTM33(1μg)とT4DNAリガーゼ1単位で16℃、16時間反応させ、DNAを連結した。連結したDNAはエシェリヒア・コリDH5αのコンピテントセルを用いて形質転換を行った。得られた発現プラスミドをpNPG6と命名した。
シュードモナス・プチダTE3493(微工研寄12298号)をLBG培地(LB培地+0.3%グリセロール)で30℃、16時間培養し、遠心分離(12,000rpm、10分間)により菌体を回収し、この菌体に氷冷した300mMシュークロースを含む5mMK−リン酸緩衝液(pH7.0)8mlを加え、菌体を懸濁した。再度遠心分離(12,000rpm、10分間)により菌体を回収し、この菌体に氷冷した300mMシュークロースを含む5mMK−リン酸緩衝液(pH7.0)0.4mlを加え、菌体を懸濁した。
該懸濁液に実施例1で得た発現プラスミドpNPG6を0.5μg加え、エレクトロポレーション法により形質転換した。100μg/mlのストレプトマイシンを含むLB寒天培地に生育したコロニーより、目的とする形質転換体を得た。
500mlのTerrific brothを2L容坂口フラスコに分注し、121℃、20分間オートクレーブを行い、放冷後別途無菌濾過したストレプトマイシンを100μg/mlになるように添加した。この培地に100μg/mlのストレプトマイシンを含むPY培地で予め30℃、24時間培養したシュードモナス・プチダTE3493(pNPG6)の培養液を5ml接種し、30℃で40時間通気攪拌培養した。培養終了時のPQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼ活性は、前記活性測定において、培養液1ml当たり約30U/mlであった。
上記菌体を遠心分離により集菌し、20mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した後、超音波処理により破砕し、更に遠心分離を行い、上清液を粗酵素液として得た。得られた粗酵素液をHiTrap−SP(アマシャム−ファルマシア)イオン交換カラムクロマトグラフィーにより分離・精製した。次いで10mM PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5)で透析した後に終濃度が1mMになるように塩化カルシウムを添加した。最後にHiTrap−DEAE(アマシャム−ファルマシア)イオン交換カラムクロマトグラフィーにより分離・精製し、精製酵素標品を得た。本方法により得られた標品は、SDS−PAGE的にほぼ単一なバンドを示した。
このようにして取得した精製酵素をPQQ依存型GLD評価標品として使用した。
NAD依存型GDH標品は、東洋紡より販売されている市販品(GLD−311)を入手して使用した。
FAD依存型GDH生産菌としてAspergillus terreus亜種とPenicillium lilacinoechinulatum NBRC6231(独立行政法人製品評価技術基盤機構より購入)を用い、それぞれのL乾標本をポテトデキストロース寒天培地(Difco製)に植菌し25℃でインキュベートすることにより復元した。復元させたプレート上の菌糸を寒天ごと回収してフィルター滅菌水に懸濁した。2基の10L容ジャーファーメンター中に生産培地(1%麦芽エキス、1.5%大豆ペプチド、0.1%MgSO4・7水和物、2%グルコース、pH6.5)6Lを調製し、120℃15分オートクレーブ滅菌後に上記の菌糸懸濁液をそれぞれ投入、培養を開始した。培養条件は、温度30℃、通気量2L/分、攪拌数380rpmで行った。培養開始から64時間後に培養を停止し、ヌッチェろ過器を用いて吸引ろ過によりろ紙上にそれぞれの菌株の菌体を集めた。培養液5Lを分子量10,000カットの限外ろ過用中空糸モジュールで1/10量に濃縮し、濃縮液にそれぞれ硫酸アンモニウムを終濃度が60%飽和(456g/L)となるように添加、溶解した。続いて日立高速冷却遠心機で8000rpm15分遠心し残渣を沈殿させたのち、上清をOctyl−Sepharoseカラムに吸着させ、硫酸アンモニウム濃度0.6〜0.0飽和でグラジエント溶出してGDH活性のある画分を回収した。得られたGDH溶液を、G−25セファロースカラムでゲルろ過を行ってタンパク質画分を回収することで脱塩を行い、脱塩液に0.6飽和相当の硫酸アンモニウムを添加して溶解した。これをPhenyl−Sepharoseカラムに吸着させ、硫酸アンモニウム濃度0.6〜0.0飽和でグラジエント溶出してGDH活性のある画分を回収した。さらに、得られたGDH溶液を、G−25セファロースカラムでゲルろ過を行ってタンパク質画分を回収し、取得した精製酵素をFAD依存型GLD評価標品として使用した。
本発明において、PQQ依存型GDHの活性測定は以下の条件で行う。
測定原理
D−グルコース+PMS+PQQGDH → D−グルコノ−1,5−ラクトン + PMS(red)
PMS(red) + DCPIP → PMS + DCPIP(red)
フェナジンメトサルフェート(PMS)(red)による2,6−ジクロロフェノール−インドフェノール(DCPIP)の還元により形成されたDCPIP(red)の存在は、600nmで分光光度法により測定した。また、基質特異性の検討では、D−グルコースの部分を他の糖類に変更して、それぞれの基質に対する特異性を測定した。
単位の定義
1単位は、以下に記載の条件下で1分当たりDCPIP(red)を1.0ミリモル形成させるPQQGDHの酵素量をいう。
方法
試薬
A.D−グルコース溶液:1.0M(1.8g D−グルコース(分子量180.16)/10ml H2O)
B.PIPES−NaOH緩衝液, pH6.5:50mM(60mLの水中に懸濁した1.51gのPIPES(分子量302.36)を、5N NaOHに溶解し、2.2mlの10% Triton X−100を加える。5N NaOHを用いて25℃でpHを6.5±0.05に調整し、水を加えて100mlとした。)
C.PMS溶液:24mM(73.52mgのフェナジンメトサルフェート(分子量817.65)/10mlH2O)
D.DCPIP溶液:2.0mM(6.5mgのニトロテトラゾリウムブルー(分子量817.65)/10mlH2O)
E.酵素希釈液:1mM CaCl2, 0.1% Triton X−100, 0.1% BSAを含む50mM PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5)
手順
1. 遮光ビンに以下の反応混合物を調製し、氷上で貯蔵した(用時調製)
4.5ml D−グルコース溶液 (A)
21.9ml PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5) (B)
2.0ml PMS溶液 (C)
1.0ml DCPIP溶液 (D)
上記アッセイ混合物の反応液中の濃度は次のとおり。
PIPES緩衝液 36mM
D−グルコース 148mM
PMS 1.58mM
DCPIP 0.066mM
2. 3.0mlの反応混合液を試験管(プラスチック製)に入れ、37℃で5分間予備加温した。
3. 0.1mlの酵素溶液を加え、穏やかに反転して混合した。
4. 600nmでの水に対する吸光度の減少を37℃に維持しながら分光光度計で4〜5分間記録し、曲線の初期直線部分からの1分当たりのΔODを計算した(ODテスト)。
同時に、酵素溶液に代えて酵素希釈液(E)加えることを除いては同一の方法を繰り返し、ブランク(ΔODブランク)を測定した。
アッセイの直前に氷冷した酵素希釈液(E)で酵素粉末を溶解し、同一の緩衝液で0.05−0.10U/mlに希釈した(該酵素の接着性のためにプラスチックチューブの使用が好ましい)。
基質特異性を評価する目的には、上記活性測定操作はグルコース溶液の代わりに他の種類の糖溶液を基質として実施した
計算
活性を以下の式を用いて計算する:
U/ml={ΔOD/min(ΔODテスト− ΔODブランク)×Vt×df}/(16.8×1.0×Vs)
U/mg=(U/ml)×1/C
Vt:総体積(3.1ml)
Vs:サンプル体積(0.1ml)
16.8:上記測定条件でのDCPIPのミリモル分子吸光係数(cm2/マイクロモル)
1.0:光路長(cm)
df:希釈係数
C:溶液中の酵素濃度(c mg/ml)
本発明において、NAD依存型GDHの活性測定は以下の条件で行う。なお、NAD依存型GDH酵素標品として、東洋紡製のグルコース脱水素酵素(GLD311)を使用した。
測定原理
D−グルコース + NAD+ → D−グルコノ−1,5−ラクトン + NADH + H+
NADHの生成量を340nmの吸光度の変化で測定した。
単位の定義
1単位は、以下に記載の条件下で1分当たりNADHを1.0マイクロモル形成させるNADGDHの酵素量をいう。
方法
試薬
A.D−グルコース溶液:1.5M(2.7g D−グルコース(分子量180.16)/10ml H2O)
B.Tris−HCl緩衝液,pH8.0:100mM(90mLの水中に懸濁した1.21gのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(分子量121.14)を、5N HClを用いて25℃でpHを8.0±0.05に調整し、水を加えて100mlとした。)
C.NAD溶液:8%(80mgのNAD(分子量717.48)/1mlH2O)
D.酵素希釈液:リン酸カリウム緩衝液(pH7.2)
手順
1. 遮光ビンに以下の反応混合物を調製し、氷上で貯蔵した(用時調製)
0.9ml D−グルコース溶液 (A)
7.8ml Tris−HCl緩衝液(pH8.0) (B)
0.3ml NAD溶液 (C)
上記アッセイ混合物の反応液中の濃度は次のとおり。
D−グルコース 148mM
Tris−HCl緩衝液 77mM
NAD 0.26%
2. 3.0mlの反応混合液を試験管(プラスチック製)に入れ、37℃で5分間予備加温した。
3. 0.05mlの酵素溶液を加え、穏やかに反転して混合した。
4. 340nmでの水に対する吸光度の変化を37℃に維持しながら分光光度計で4〜5分間記録し、曲線の初期直線部分からの1分当たりのΔODを計算した(ODテスト)。
同時に、酵素溶液に代えて酵素希釈液(D)加えることを除いては同一の方法を繰り返し、ブランク(ΔODブランク)を測定した。
アッセイの直前に氷冷した酵素希釈液(D)で酵素粉末を溶解し、同一の緩衝液で0.10−0.70U/mlに希釈した(該酵素の接着性のためにプラスチックチューブの使用が好ましい)。
基質特異性を評価する目的には、上記活性測定操作はグルコース溶液の代わりに他の種類の糖溶液を基質として実施した。
計算
活性を以下の式を用いて計算する:
U/ml={ΔOD/min(ΔODテスト− ΔODブランク)×Vt×df}/(6.22×1.0×Vs)
U/mg=(U/ml)×1/C
Vt:総体積(3.05ml)
Vs:サンプル体積(0.05ml)
6.22:NADHのミリモル分子吸光係数(cm2/マイクロモル)
1.0:光路長(cm)
df:希釈係数
C:溶液中の酵素濃度(c mg/ml)
本発明において、FAD依存型GDHの活性測定は以下の条件で行う。
<試薬>
50mM PIPES緩衝液pH6.5(0.1%TritonX−100を含む)
14mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)溶液
1M D−グルコース溶液
上記PIPES緩衝液15.8ml、DCPIP溶液0.2ml、D―グルコース溶液4mlを混合して反応試薬とする。
反応試薬2.9mlを37℃で5分間予備加温する。GDH溶液0.1mlを添加しゆるやかに混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で、600nmの吸光度変化を5分記録し、直線部分から1分間あたりの吸光度変化(ΔODTEST)を測定する。盲検はGDH溶液の代わりにGDHを溶解する溶媒を試薬混液に加えて同様に1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を測定する。これらの値から次の式に従ってGDH活性を求める。ここでGDH活性における1単位(U)とは、濃度200mMのD−グルコース存在下で1分間に1マイクロモルのDCPIPを還元する酵素量として定義している。
活性(U/ml)=
{−(ΔODTEST−ΔODBLANK)×3.0×希釈倍率}/{16.3×0.1×1.0}
なお、式中の3.0は反応試薬+酵素溶液の液量(ml)、16.3は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm2/マイクロモル)、0.1は酵素溶液の液量(ml)、1.0はセルの光路長(cm)を示す。
検討は、先述の試験例1のPQQGDH活性の測定方法に準じて行った。また、アポ型も含めた形でPQQGDHの酵素活性を測定するために、終濃度860nMのPQQを添加した反応混合液でも活性を測定した。
まず、PQQGDHを約5.0U/mlになるように酵素希釈液(1mM CaCl2, 0.1% Triton X−100, 0.1% BSAを含む50mM PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5))にて溶解したものを50ml用意した。この酵素溶液0.33mlに、表1,2記載の10倍濃度の各種化合物を0.1ml添加して、同じく表1,2記載のベースバッファーを加え、合計容量を1.0mlとしたものを2本用意した。また、コントロールには、各種化合物の代わりに蒸留水0.1mlを添加したものを2本用意した。2本のうち、1本は4℃,16時間保存し、もう1本は、50℃、16時間処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて10倍希釈した後、PQQGDH活性を測定した。各々、4℃,16時間保存したものの酵素活性を100として、50℃、16時間処理後の活性値を比較して相対値(%)として算出した。
PQQGDH組成物に、表1,2で示す全ての化合物において、それらを共存させることにより、熱安定性の向上が認められた。リン酸カリウムバッファーをベースにしたものでは、コハク酸、ピメリン酸、ジメチルグルタル酸を添加した場合、ホロ型PQQGLDの熱安定性が低下しているが、これは該酵素からPQQが脱落していることが起因すると思われる。アポ型も含めた熱安定性としては向上が見られており、酵素自体の立体構造の維持にこれら化合物が効果を発揮しているものと思われる。
表1は、PIPESバッファー(pH6.5)をベースとして各種化合物を共存させたPQQGDH組成物の50℃,16時間処理後のPQQGDH活性の残存率(%)を示す。
表2は、フタル酸バッファー(pH7.0)、リン酸カリウムバッファー(pH7.0)をベースとして各種化合物を共存させたPQQGDH組成物の50℃,16時間処理後のPQQGDH活性の残存率(%)を示す。
検討は、先述の試験例2のNADGDH活性の測定方法に準じて行った。
まず、NADGLD(東洋紡製GLD−311)を約250U/mlになるように酵素希釈液にて溶解したものを50ml用意した。この酵素溶液0.33mlに、表3記載の10倍濃度の各種化合物を0.1ml添加して、リン酸カリウム緩衝液(pH7.2)を加え、合計容量を1.0mlとしたものを2本用意した。また、コントロールには、各種化合物の代わりに蒸留水0.1mlを添加したものを2本用意した。2本のうち、1本は4℃で保存し、もう1本は、50℃、1時間処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて500倍希釈した後、NADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100として、50℃、1時間処理後の活性値を比較して活性残存率(%)として算出した。
その結果、検討した全てのジカルボン酸で効果が見られ、中でもコハク酸またはマレイン酸を添加した時に、最も高い熱安定性の向上効果が認められた。
表3は、各種化合物を共存させたNADGDH組成物の50℃,1時間処理後のNADGDH活性の残存率(%)を示す。
検討は、先述の試験例3のFADGDH活性の測定方法に準じて行った。
まず、実施例5で所得したFADGLDを約10U/mlになるように酵素希釈液(50mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.2))にて溶解したものを50ml用意した。この酵素溶液0.5mlに、1%,0.5%のBSAを0.5ml添加して、合計容量を1.0mlとしたものを2本用意した。また、表5、6に記載の各2倍濃度のコハク酸、マロン酸、フタル酸、マレイン酸、グルタル酸、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムを用意して、同様に0.5ml添加して、合計容量を1.0mlとしたものを2本用意した。コントロールには、各種化合物の代わりに蒸留水0.1mlを添加したものを2本用意した。
2本のうち、1本は4℃で保存し、もう1本は、50℃、30分間処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて21倍希釈した後、FADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100として、50℃、1時間処理後の活性値を比較して活性残存率(%)として算出した。
これらの検討の結果、タンパク質性の安定化剤(BSA)を添加することにより、FAD−GLDの熱安定性が増大することが明らかとなった(表4)。また、各種ジカルボン酸化合物あるいは各種塩化合物の添加でFAD−GLDの熱安定性の向上効果が見られ、ジカルボン酸化合物の中ではコハク酸、マロン酸が、塩化合物の中では硫酸ナトリウムが最大の効果が見られた(表5、6)。コハク酸、マロン酸、硫酸ナトリウムにおいては、数モル程度の添加でも安定性向上効果が見られるものと思われる。また、塩化ナトリウムのような単純な塩化合物でも十分な効果が見られていることから、FAD−GLDにおいては、単純にイオン強度を上げるだけで熱安定化することがはじめて見出された。
表4は、タンパク質性の安定化剤を共存させたFADGDH組成物の50℃,30分間処理後のFADGDH活性の残存率(%)を示す。
表5は、ジカルボン酸化合物を共存させたFADGDH組成物の50℃,30分間処理後のFADGDH活性の残存率(%)を示す。
表6は、塩化合物を共存させたFADGDH組成物の50℃,15分間処理後のFADGDH活性の残存率(%)を示す。
検討は、先述の試験例3のFADGDH活性の測定方法に準じて行った。
まず、実施例5で所得した2種類のFADGDHをそれぞれ約10U/mlになるように酵素希釈液(50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5))にて溶解したものを10ml用意した。この酵素溶液0.2mlに、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH4.3)、または、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH5.6)、または、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を1.8ml添加して、合計容量を2.0mlにした。それぞれの酵素溶液のpHを実測したところ、pH5.6、6.0、7.2付近に変動していた。1mlずつ分注したものを2本用意して、1本は4℃で保存し、もう1本は、50℃にて熱処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて2倍希釈した後、FADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100%として、50℃、15分間あるいは30分間処理後の活性値を比較してGDH活性残存率(%)を算出した。
これらの検討の結果、GDH含有組成物のpHを酸性側で保持するとFADGLD含有組成物の熱安定性が増大することが明らかとなった(表7)。
更に、細かくpH条件を検討するため、先の方法と同様に、表8記載の各種バッファーにて酵素液を10倍希釈して、実測pHを確認した後に50℃、15分間熱処理を行い、GDH活性を測定して、その残存率(%)を算出した。
その結果、Aspergillus terreus亜種とPenicillium lilacinoechinulatum NBRC6231株のいずれの由来のFADGLDを含有する組成物でも、pH3.14 〜 6.97の範囲でpH7.4付近の場合と比べて、熱安定性が向上することが明らかになった(表8、図1、図2)。
GDH組成物の汎用用途であるグルコースセンサのセンサチップ作製時には、加熱乾燥する工程があり、FADGDH含有組成物を酸性側で維持することにより該組成物自体の安定性を向上させることは、FADGDHを用いたセンサチップ製品の安定性、測定精度を高める上で、非常に重要である。
検討は、先述の試験例3のFADGDH活性の測定方法に準じて行った。
まず、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)にて、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムを、それぞれ1Mとなるように溶解した各種化合物溶液を作製した。また、実施例5で所得した2種類のFADGDHをそれぞれ約10U/mlになるように酵素希釈液(50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5))にて溶解したものを20ml用意した。4種類の化合物溶液のそれぞれに、2種類のFADGDHを1:1で混合した8種類の酵素液サンプル(2ml)を用意した。また、化合物溶液を添加しないコントロールとして、50mMリン酸カリウム緩衝液にてpH6.25、6.65付近に調製したコントロール酵素液サンプルも用意した。それぞれの酵素液サンプルの実測pHを測定して程近いpHが維持されていることを確認した。酵素液サンプルを1mlずつ分注したものを2本用意して、1本は4℃で保存し、もう1本は、55℃、30分間熱処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて10倍希釈した後、FADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100%として、55℃、30分間処理後の活性値を比較してGDH活性残存率(%)を算出した。
これらの検討の結果、GDH含有組成物のpHを酸性側で保持し、なおかつ、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムなどの塩化合物を添加することにより、pHを酸性側に保持したコントロール酵素液サンプル以上の熱安定性が得られることが明らかになった(表9)。
次に、先の2種類のFADGDHをコハク酸バッファーにてpH5.3に調製した酵素液サンプル(5U/ml)に、等量の2M塩化ナトリウム、または、1M硫酸ナトリウム、または、1Mクエン酸三ナトリウム、または、1M硫酸アンモニウムを添加して、8種類の酵素液サンプル(2ml)を用意した。また、化合物溶液を添加しないコントロールとして、50mMコハク酸ナトリウム緩衝液(pH5.3)にて2倍希釈したコントロール酵素液サンプルも用意した。それぞれの酵素液サンプルの実測pHを測定して、コントロールに程近いpHが維持されていることを確認した。酵素液サンプルを1mlずつ分注したものを2本用意して、1本は4℃で保存し、もう1本は、55℃、30分間熱処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて5倍希釈した後、FADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100%として、55℃、30分間処理後の活性値を比較してGDH活性残存率(%)を算出した。
これらの検討の結果、pH5前後の低いpHにおいても、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムなどの塩化合物を添加することにより熱安定性が向上できることを確認できた。塩化ナトリウムのようなあまり特徴のない化合物においても添加効果が認められたことは、広く塩化合物全般において、それらを共存させることにより、FADGDH組成物の熱安定性を向上させることができるものと推測する(表10)。
また、コハク酸バッファーを使用した時に、リン酸カリウムバッファーをベースとした場合よりも熱安定性が向上する傾向が見られていたことから、コハク酸バッファーが含まれるジカルボン酸化合物が、先の塩化合物と同じく、熱安定性を向上させる効果があるものと推測した。そこで、GDH含有組成物のpHを酸性側で保持し、なおかつ、ジカルボン酸化合物を添加することにより、熱安定性が変動するか検討した。
まず、ベースバッファーとして、100mM酢酸ナトリウム(pH5.0)と100mMリン酸カリウムバッファー(pH5.6)を準備した。また、実施例5で所得した2種類のFADGDHをそれぞれ約10U/mlになるように酵素希釈液(50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5))にて溶解したものを20ml用意した。次に、0.4Mコハク酸(pH7.0にNaOHで調整)、0.4Mマロン酸(pH7.0にNaOHで調整)、0.4Mグルタル酸(pH7.0にNaOHで調整)を調製した。
ベースバッファー0.8mlと酵素液(10U/ml)0.2mlを混合させた後、各種ジカルボン酸化合物1mlを添加して、それぞれのpHを実測した。また、化合物溶液を添加しないコントロールとして、ジカルボン酸化合物の代わりに蒸留水を添加して、各サンプルのpH実測値付近に調整したものを準備した。酵素液サンプルを1mlずつ分注したものを2本用意して、1本は4℃で保存し、もう1本は、55℃にて熱処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて2倍希釈した後、FADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100%として、55℃、15分間または30分間処理後の活性値を比較してGDH活性残存率(%)を算出した。
これらの検討の結果、pH5.5あるいは6.0前後のpHにおいて、コハク酸、マロン酸、グルタル酸などのジカルボン酸化合物を添加することにより熱安定性が向上できることを確認できた。以上の結果から、広くジカルボン酸化合物全般において、それらを共存させることにより、FADGDH組成物の熱安定性を向上させることができるものと推測する(表11)
検討は、先述の試験例1のPQQGDH活性の測定方法に準じて行った。また、アポ型も含めた形でPQQGDHの酵素活性を測定するために、終濃度860nMのPQQを添加した反応混合液でも活性を測定した。
まず、PQQGDHを約10U/mlになるように酵素希釈液(1mM CaCl2、50mM PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5))にて溶解したものを10ml用意した。この酵素溶液0.54mlに、表12記載の10倍濃度の各種化合物を0.06ml添加して、合計容量を0.6mlとしたものを3本用意した。また、コントロールには、各種化合物の代わりに蒸留水0.06mlを添加したものを3本用意した。用意したバイアルを凍結乾燥(FDR)して、水分を完全に蒸発させた後、コントロールバイアルは、直ちに、活性測定を行った。一方、検体バイアルでは、25℃、湿度70%で6時間処理した後、37℃で保存して、1週間後または2週間後の残存活性を測定した。活性残存率は、FDR直後の活性値を100%として、各検体の活性値から活性残存率(%)を算出した。活性残存率が高くなっているほど、保存安定性が向上していると判断した。
コハク酸,塩化アンモニウム,マロン酸などを添加することにより、ホロ化率低下の抑制効果が見られ、また、粉末安定性の向上も認められた。化合物添加の有無による粉末時の形状のちがいを比較したところ、添加したものは粉末体が引き締まった形状をしており、吸湿耐性が増大していることが容易に予想された。今回の検討では、資材の関係から限られた種類のカルボン酸含有化合物にて検討したが、広くさまざまな化合物で同様の効果を発揮するものと思われる。また、粉末形状の変化が保存安定性の増大に繋がることが推測できることから、NAD−GLD,FAD−GLDでも同様の効果が得られることは、同様に類推できる。
Claims (7)
- FADを補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼを含む組成物のpHをpH3.14〜pH6.97にする工程を含む、グルコースセンサの作製方法。
- FADを補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼを含む組成物のpHをpH4.20〜pH6.60にする工程を含む、グルコースセンサの作製方法。
- FADを補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼが糸状菌由来である、請求項1または2に記載のグルコースセンサの作製方法。
- FADを補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼが、アスペルギルス属またはペニシリウム属の微生物由来である、請求項3に記載のグルコースセンサの作製方法。
- ジカルボン酸または塩化合物のうち1種類以上を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載のグルコースセンサの作製方法。
- ジカルボン酸または塩化合物が、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウム、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、フタル酸およびマレイン酸からなる群のうちいずれかである、請求項5に記載のグルコースセンサの作製方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の方法により作製された、グルコースセンサ。
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