JP4381369B2 - 可溶性補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(gdh)を含む組成物の熱安定性を向上する方法 - Google Patents
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Description
本発明者らはさらに検討を加え、FADGDH、NADGDHについても同様の効果があることを見出し本願発明を完成させた。
これまでPQQGDHの安定性を向上する方策に関する報告としては特許文献2があり、その中では遺伝子レベルでのPQQGDH改変手段を用いた検討が報告されているが、酵素の改変を用いずに安定性を増大させる手段については、その可能性すら触れられていなかった。
[項1]
FAD結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、該酵素と牛血清アルブミン(BSA)を共存させる工程を含む、BSAを共存させない場合と比べてGDHの熱安定性を向上させる方法。
[項2]
BSAの終濃度が0.1%以上である項1記載のGDHの熱安定性を向上させる方法。
[項3]
FAD結合型のGDHおよびBSAを含む、BSAを共存させない場合と比べて熱安定性が向上した、FAD結合型のGDHを含む組成物。
[項4]
BSAの終濃度が0.1%以上である項3記載のGDHを含む組成物。
[項5]
項3または4記載の組成物を用いるグルコース濃度の測定方法。
[項6]
項3または4記載の組成物を含むグルコースセンサ。
[項7]
FAD結合型のGDHを含む組成物において、該酵素とBSAを共存させる工程を含む、BSAを共存させない場合と比べてGDHの熱安定性が向上した組成物の製造方法。
D−グルコース + 電子伝達物質(酸化型)
→ D−グルコノ−δ−ラクトン + 電子伝達物質(還元型)
D−グルコースを酸化してD−グルコノ−1,5−ラクトンを生成するという反応を触媒する酵素であり、由来や構造に関しては特に限定するものではない。
補酵素としては、例えばフラビン化合物をとることができる。
技術基盤機構・生物資源部門に登録されている。
このような改変は当該技術分野における公知技術を用いて当業者であれば容易に実施することが出来る。例えば、蛋白質に部位特異的変異を導入するために当該蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列を置換または挿入するための種々の方法が、Sambrookら著、Molecular Cloning; A Laboratory Manual 第2版(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに記載されている。
例えば、本発明におけるFADGDHの濃度は特に制約がないが、溶液中の場合、好ましくは、0.01〜100U/mL、さらに好ましくは、0.1〜50U/mL、さらに好ましくは0.2〜10U/mLである。粉末あるいは凍結乾燥物中でも同程度の濃度が望ましいが、粉末標品を調製する目的では、100U/mL以上の濃度にすることができる。
グラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動などの公知の分離方法を適当に選択して行うことができる。
添加する化合物として好ましいものとして、マンニトール、イノシトール、アラビトール、アドニトール、ガラクチトール、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、ロイシン、イノシトール、グリセリン酸カルシウム、コハク酸、塩化カリウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、フマル酸、マロン酸、ピメリン酸、3−3’ジメチルグルタル酸、リジン、フタル酸、マレイン酸、グルタル酸、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、牛血清アルブミン(BSA)からなる群より選ばれるいずれか1つ以上を挙げることができる。
これらの共存させる各化合物の濃度は特に限定されるものではないが、溶液中の場合、好ましくは、0.001〜30重量%、さらに好ましくは、0.01〜5%、さらに好ましくは0.01〜1%である。粉末あるいは凍結乾燥物中でも同程度の濃度が望ましいが、粉末あるいは凍結乾燥物中では、溶液中の場合と比べて、更に低濃度の化合物添加で有効性を発揮する傾向にある。
なお、実施例で記載されている化合物の濃度は、GDH酵素と共存して保存する時の終濃度である。好ましい組合せとしては、性質が近似する塩化合物中での組合せや、カルボン酸含有化合物同士での組合せなどが挙げられるが、例えば、塩化合物とカルボン酸含有化合物などを組み合わせて、お互いの効果を相補するものが好ましい。
上記形態においてさらに熱安定性を向上させるため、組成物のpHをpH7以下の酸性側で保持させることができる。あるいは、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、フタル酸、マレイン酸などのジカルボン酸、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムなどの塩化合物を含有することができる。
あるいは、本発明のGDHの熱安定性を向上させる方法のさらに別の一形態は、可溶性の補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、該組成物のpHをpH3.1〜7.0に保持させる工程を含む、該組成物をpH7.4にした場合と比べて該組成物の熱安定性を向上させる方法である。
pHは、好ましくは3.1〜7.0、さらに好ましくは4.0〜6.5、さらに好ましくは4.0〜6.0である。
上記の組成物は、4℃で保存した該組成物と比べて、50℃、15分処理した場合でも、10%以上のGDH活性を残存する。あるいは、フラビン化合物を補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、4℃で保存した該組成物と比べて、50℃、15分処理した場合でも、45%以上のGDH活性を残存する。
上記形態においては、組成物中に、1種類以上のジカルボン酸、塩化合物を含有することが好ましい。ジカルボン酸としてはコハク酸、マロン酸、グルタル酸、フタル酸、マレイン酸、塩化合物としては塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムなどが挙げられる。本発明では、これらのうち1種類以上の化合物を含有することができる。
これらの共存させる各化合物の濃度は特に限定されるものではないが、溶液中の場合、好ましくは、1mM〜10M、さらに好ましくは、5mM〜5M、さらに好ましくは20
mM〜1Mである。粉末あるいは凍結乾燥物を作製する場合には、溶液中の場合と同程度の化合物濃度を含有する組成にて乾燥処理を施すことにより同様の効果を持った乾燥標品を取得することができる。
なお、実施例で記載されている化合物の濃度は、GDH酵素と共存して保存する時の終濃度である。好ましい組合せとしては、性質が近似する塩化合物中での組合せや、カルボン酸含有化合物同士での組合せなどが挙げられるが、例えば、塩化合物とカルボン酸含有化合物などを組み合わせて、お互いの効果を相補するものが好ましい。
上記形態においてさらに熱安定性を向上させるため、糖アルコール、カルボキシル基含有化合物、アルカリ金属含有化合物、アルカリ土類金属化合物、アンモニウム塩、硫酸塩、タンパク質、例えば、マンニトール、イノシトール、アラビトール、アドニトール、ガラクチトール、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、ロイシン、イノシトール、グリセリン酸カルシウム、コハク酸、塩化カリウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、フマル酸、マロン酸、ピメリン酸、3−3’ジメチルグルタル酸、リジン、フタル酸、マレイン酸、グルタル酸、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、牛血清アルブミン(BSA)などの化合物を含有することができる。
これらのうち1種のみを適用してもよいし、2種以上を用いてもよい。さらには上記以外を含む1種以上の複合組成であってもよい。
また、これらの添加濃度としては、緩衝能を持つ範囲であれば特に限定されないが、好ましい上限は100mM以下、より好ましくは50mM以下である。好ましい下限は5mM以上である。
粉末あるいは凍結乾燥物中においては緩衝剤の含有量は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1%(重量比)以上、特に好ましくは0.1〜30%(重量比)の範囲で使用される。
これらは、種々の市販の試薬を用いることが出来る。
。本願発明では、ほぼ完全に活性が維持される4℃保存のサンプルを100%として、これと一定温度で一定時間熱処理した後のGDH溶液の活性値を比較して、その酵素の残存率を算出している。この残存率が該化合物無添加のものと比べて増大していた場合、GDHの熱安定性が向上したと判断した。
後述のGDH酵素活性の測定方法に記載の活性測定法において、4℃保存した溶液のGDH活性値(a)と、一定温度で一定時間熱処理した後のGDH活性値(b)を測定し、測定値(a)を100とした場合に対する相対値((b)/(a)×100)を求めた。この相対値を残存率(%)とした。そして、該化合物の添加の有無を比較して、添加により残存率が増大した場合、熱安定性が向上したと判断した。
これらの各メディエーターは感度に様々な違いが存在するために、添加濃度を一律に規定する必要性はないが、一般的には1mM以上の添加が望ましい。
これらのメディエーターは測定時に添加してもよいし、後記するグルコース測定用試薬、グルコースアッセイキットあるいはグルコースセンサを作製するときに予め含有させておくこともできる。なお、その際には、液体状態、乾燥状態などの形態は問われず、測定時に反応時に解離してイオンの状態になるようにしておけばよい。
例えば、グルタミン酸、グルタミンおよびリジンからなる群から選択されるアミノ酸は、1種または2種以上であってもよい。ここにさらに、牛血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミン(OVA)を含有させてもよい。
本発明のグルコース測定用試薬、グルコースアッセイキット、グルコースセンサは、液状(水溶液、懸濁液等)、真空乾燥やスプレードライなどにより粉末化したもの、凍結乾燥など種々の形態をとることができる。乾燥法としては、特に制限されるものではなく常法に従って行えばよい。本発明の酵素を含む組成物は凍結乾燥物に限られず、乾燥物を再溶解した溶液状態であってもよい。
本発明においては以下の種々の方法によりグルコースを測定することができる。
本発明のグルコース測定用試薬は、典型的には、GDH、緩衝液、メディエーターなど測定に必要な試薬、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明のキットは、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。好ましくは本発明のGDHはホロ化した形態で提供されるが、アポ酵素の形態で提供し、使用時にホロ化することもできる。
本発明はまた、本発明に従うGDHを含むグルコースアッセイキットを特徴とする。本発明のグルコースアッセイキットは、本発明に従うGDHを少なくとも1回のアッセイに十分な量で含む。典型的には、キットは、本発明のGDHに加えて、アッセイに必要な緩衝液、メディエーター、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明に従うGDHは種々の形態で、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。好ましくは本発明のGDHはホロ化した形態で提供されるが、アポ酵素の形態で提供し、使用時にホロ化することもできる。
本発明はまた、本発明に従うGDHを用いるグルコースセンサを特徴とする。電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上に本発明の酵素を固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどがあり、あるいはメディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。好ましくは本発明のGDHはホロ化した形態で電極上に固定化するが、アポ酵素の形態で固定化し、補酵素を別の層としてまたは溶液中で供給することも可能である。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明のGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。
FAD依存型GDH生産菌としてAspergillus terreus亜種とPenicillium lilacinoechinulatum NBRC6231(独立行政法人製品評価技術基盤機構より購入)を用い、それぞれのL乾標本をポテトデキストロース寒天培地(Difco製)に植菌し25℃でインキュベートすることにより復元した。復元させたプレート上の菌糸を寒天ごと回収してフィルター滅菌水に懸濁した。2基の10L容ジャーファーメンター中に生産培地(1%麦芽エキス、1.5%大豆ペプチド、0.1%MgSO4・7水和物、2%グルコース、pH6.5)6Lを調製し、120℃15分オートクレーブ滅菌後に上記の菌糸懸濁液をそれぞれ投入、培養を開始した。培養条件は、温度30℃、通気量2L/分、攪拌数380rpmで行った。培養開始から64時間後に培養を停止し、ヌッチェろ過器を用いて吸引ろ過によりろ紙上にそれぞれの菌株の菌体を集めた。培養液5Lを分子量10,000カットの限外ろ過用中空糸モジュールで1/10量に濃縮し、濃縮液にそれぞれ硫酸アンモニウムを終濃度が60%飽和(456g/L)となるように添加、溶解した。続いて日立高速冷却遠心機で8000rpm15分遠心し残渣を沈殿させたのち、上清をOctyl−Sepharoseカラムに吸着させ、硫酸アンモニウム濃度0.6〜0.0飽和でグラジエント溶出してGDH活性のある画分を回収した。得られたGDH溶液を、G−25セファロースカラムでゲルろ過を行ってタンパク質画分を回収することで脱塩を行い、脱塩液に0.6飽和相当の硫酸アンモニウムを添加して溶解した。これをPhenyl−Sepharoseカラムに吸着させ、硫酸アンモニウム濃度0.6〜0.0飽和でグラジエント溶出してGDH活性のある画分を回収した。さらに、得られたGDH溶液を、G−25セファロースカラムでゲルろ過を行ってタンパク質画分を回収し、取得した精製酵素をFAD依存型GLD評価標品として使用した。
本発明において、FAD依存型GDHの活性測定は以下の条件で行う。
<試薬>
50mM PIPES緩衝液pH6.5(0.1%TritonX−100を含む)
14mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)溶液
1M D−グルコース溶液
上記PIPES緩衝液15.8ml、DCPIP溶液0.2ml、D―グルコース溶液4mlを混合して反応試薬とする。
反応試薬2.9mlを37℃で5分間予備加温する。GDH溶液0.1mlを添加しゆるやかに混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で、600nmの吸光度変化を5分記録し、直線部分から1分間あたりの吸光度変化(ΔODTEST)を測定する。盲検はGDH溶液の代わりにGDHを溶解する溶媒を試薬混液に加えて同様に1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を測定する。これらの値から次の式に従ってGDH活性を求める。ここでGDH活性における1単位(U)とは、濃度200mMのD−グルコース存在下で1分間に1マイクロモルのDCPIPを還元する酵素量として定義している。
活性(U/ml)=
{−(ΔODTEST−ΔODBLANK)×3.0×希釈倍率}/{16.3×0.1×1.0}
なお、式中の3.0は反応試薬+酵素溶液の液量(ml)、16.3は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm2/マイクロモル)、0.1は酵素溶液の液量(ml)、1.0はセルの光路長(cm)を示す。
検討は、先述の試験例1のFADGDH活性の測定方法に準じて行った。
まず、実施例1で所得したFADGLDを約10U/mlになるように酵素希釈液(50mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.2))にて溶解したものを50ml用意した。この酵素溶液0.5mlに、1%,0.5%のBSAを0.5ml添加して、合計容量を1.0mlとしたものを2本用意した。また、表2、3に記載の各2倍濃度のコハク酸、マロン酸、フタル酸、マレイン酸、グルタル酸、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムを用意して、同様に0.5ml添加して、合計容量を1.0mlとしたものを2本用意した。コントロールには、各種化合物の代わりに蒸留水0.1mlを添加したものを2本用意した。
2本のうち、1本は4℃で保存し、もう1本は、50℃、30分間処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて21倍希釈した後、FADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100として、50℃、1時間処理後の活性値を比較して活性残存率(%)として算出した。
これらの検討の結果、タンパク質性の安定化剤(BSA)を添加することにより、FAD−GLDの熱安定性が増大することが明らかとなった(表1)。また、各種ジカルボン酸化合物あるいは各種塩化合物の添加でFAD−GLDの熱安定性の向上効果が見られ、ジカルボン酸化合物の中ではコハク酸、マロン酸が、塩化合物の中では硫酸ナトリウムが最大の効果が見られた(表2、3)。コハク酸、マロン酸、硫酸ナトリウムにおいては、数モル程度の添加でも安定性向上効果が見られるものと思われる。また、塩化ナトリウムのような単純な塩化合物でも十分な効果が見られていることから、FAD−GLDにおいては、単純にイオン強度を上げるだけで熱安定化することがはじめて見出された。
表1は、タンパク質性の安定化剤を共存させたFADGDH組成物の50℃,30分間処理後のFADGDH活性の残存率(%)を示す。
表2は、ジカルボン酸化合物を共存させたFADGDH組成物の50℃,30分間処理後のFADGDH活性の残存率(%)を示す。
表3は、塩化合物を共存させたFADGDH組成物の50℃,15分間処理後のFADGDH活性の残存率(%)を示す。
検討は、先述の試験例1のFADGDH活性の測定方法に準じて行った。
まず、実施例1で所得した2種類のFADGDHをそれぞれ約10U/mlになるように酵素希釈液(50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5))にて溶解したものを10ml用意した。この酵素溶液0.2mlに、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH4.3)、または、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH5.6)、または、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を1.8ml添加して、合計容量を2.0mlにした。それぞれの酵素溶液のpHを実測したところ、pH5.6、6.0、7.2付近に変動していた。1mlずつ分注したものを2本用意して、1本は4℃で保存し、もう1本は、50℃にて熱処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて2倍希釈した後、FADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100%として、50℃、15分間あるいは30分間処理後の活性値を比較してGDH活性残存率(%)を算出した。
これらの検討の結果、GDH含有組成物のpHを酸性側で保持するとFADGLD含有組成物の熱安定性が増大することが明らかとなった(表4)。
更に、細かくpH条件を検討するため、先の方法と同様に、表5記載の各種バッファーにて酵素液を10倍希釈して、実測pHを確認した後に50℃、15分間熱処理を行い、GDH活性を測定して、その残存率(%)を算出した。
その結果、Aspergillus terreus亜種とPenicillium lilacinoechinulatum NBRC6231株のいずれの由来のFADGLDを含有する組成物でも、pH3.14 〜 6.97の範囲でpH7.4付近の場合と比べて、熱安定性が向上することが明らかになった(表5、図1、図2)。
GDH組成物の汎用用途であるグルコースセンサのセンサチップ作製時には、加熱乾燥する工程があり、FADGDH含有組成物を酸性側で維持することにより該組成物自体の安定性を向上させることは、FADGDHを用いたセンサチップ製品の安定性、測定精度を高める上で、非常に重要である。
検討は、先述の試験例1のFADGDH活性の測定方法に準じて行った。
まず、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)にて、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムを、それぞれ1Mとなるように溶解した各種化合物溶液を作製した。また、実施例1で所得した2種類のFADGDHをそれぞれ約10U/mlになるように酵素希釈液(50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5))にて溶解したものを20ml用意した。4種類の化合物溶液のそれぞれに、2種類のFADGDHを1:1で混合した8種類の酵素液サンプル(2ml)を用意した。また、化合物溶液を添加しないコントロールとして、50mMリン酸カリウム緩衝液にてpH6.25、6.65付近に調製したコントロール酵素液サンプルも用意した。それぞれの酵素液サンプルの実測pHを測定して程近いpHが維持されていることを確認した。酵素液サンプルを1mlずつ分注したものを2本用意して、1本は4℃で保存し、もう1本は、55℃、30分間熱処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて10倍希釈した後、FADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100%として、55℃、30分間処理後の活性値を比較してGDH活性残存率(%)を算出した。
これらの検討の結果、GDH含有組成物のpHを酸性側で保持し、なおかつ、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムなどの塩化合物を添加することにより、pHを酸性側に保持したコントロール酵素液サンプル以上の熱安定性が得られることが明らかになった(表6)。
次に、先の2種類のFADGDHをコハク酸バッファーにてpH5.3に調製した酵素液サンプル(5U/ml)に、等量の2M塩化ナトリウム、または、1M硫酸ナトリウム、または、1Mクエン酸三ナトリウム、または、1M硫酸アンモニウムを添加して、8種類の酵素液サンプル(2ml)を用意した。また、化合物溶液を添加しないコントロールとして、50mMコハク酸ナトリウム緩衝液(pH5.3)にて2倍希釈したコントロール酵素液サンプルも用意した。それぞれの酵素液サンプルの実測pHを測定して、コントロールに程近いpHが維持されていることを確認した。酵素液サンプルを1mlずつ分注したものを2本用意して、1本は4℃で保存し、もう1本は、55℃、30分間熱処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて5倍希釈した後、FADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100%として、55℃、30分間処理後の活性値を比較してGDH活性残存率(%)を算出した。
これらの検討の結果、pH5前後の低いpHにおいても、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムなどの塩化合物を添加することにより熱安定性が向上できることを確認できた。塩化ナトリウムのようなあまり特徴のない化合物においても添加効果が認められたことは、広く塩化合物全般において、それらを共存させることにより、FADGDH組成物の熱安定性を向上させることができるものと推測する(表7)。
また、コハク酸バッファーを使用した時に、リン酸カリウムバッファーをベースとした場合よりも熱安定性が向上する傾向が見られていたことから、コハク酸バッファーが含まれるジカルボン酸化合物が、先の塩化合物と同じく、熱安定性を向上させる効果があるものと推測した。そこで、GDH含有組成物のpHを酸性側で保持し、なおかつ、ジカルボン酸化合物を添加することにより、熱安定性が変動するか検討した。
まず、ベースバッファーとして、100mM酢酸ナトリウム(pH5.0)と100mMリン酸カリウムバッファー(pH5.6)を準備した。また、実施例1で所得した2種類のFADGDHをそれぞれ約10U/mlになるように酵素希釈液(50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5))にて溶解したものを20ml用意した。次に、0.4Mコハク酸(pH7.0にNaOHで調整)、0.4Mマロン酸(pH7.0にNaOHで調整)、0.4Mグルタル酸(pH7.0にNaOHで調整)を調製した。
ベースバッファー0.8mlと酵素液(10U/ml)0.2mlを混合させた後、各種ジカルボン酸化合物1mlを添加して、それぞれのpHを実測した。また、化合物溶液を添加しないコントロールとして、ジカルボン酸化合物の代わりに蒸留水を添加して、各サンプルのpH実測値付近に調整したものを準備した。酵素液サンプルを1mlずつ分注したものを2本用意して、1本は4℃で保存し、もう1本は、55℃にて熱処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて2倍希釈した後、FADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100%として、55℃、15分間または30分間処理後の活性値を比較してGDH活性残存率(%)を算出した。
これらの検討の結果、pH5.5あるいは6.0前後のpHにおいて、コハク酸、マロン酸、グルタル酸などのジカルボン酸化合物を添加することにより熱安定性が向上できることを確認できた。以上の結果から、広くジカルボン酸化合物全般において、それらを共存させることにより、FADGDH組成物の熱安定性を向上させることができるものと推測する(表8)
Claims (9)
- Aspergillus属の微生物由来のFAD結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、該酵素と牛血清アルブミン(BSA)を共存させる工程を含む、BSAを共存させない場合と比べてGDHの熱安定性を向上させる方法。
- Aspergillus属の微生物がAspergillus terreusである請求項1に記載の方法。
- BSAの終濃度が0.1%以上である請求項1または2に記載の方法。
- Aspergillus属の微生物由来のFAD結合型のGDHおよびBSAを含む、BSAを共存させない場合と比べて熱安定性が向上した、FAD結合型のGDHを含む組成物。
- Aspergillus属の微生物がAspergillus terreusである請求項4に記載の組成物。
- BSAの終濃度が0.1%以上である請求項4または5に記載の組成物。
- 請求項4〜6のいずれかに記載の組成物を用いるグルコース濃度の測定方法。
- 請求項4〜6のいずれかに記載の組成物を含むグルコースセンサ。
- Aspergillus属の微生物由来のFAD結合型のGDHを含む組成物において、該酵素とBSAを共存させる工程を含む、BSAを共存させない場合と比べてGDHの熱安定性が向上した組成物の製造方法。
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