JP4770911B2 - 可溶性補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(gdh)を含む組成物の熱安定性を向上する方法 - Google Patents

可溶性補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(gdh)を含む組成物の熱安定性を向上する方法 Download PDF

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本発明は、フラビン化合物を補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼなどの可溶性補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(本書ではグルコースデヒドロゲナーゼをGDHとも記載する。)を含む組成物の熱安定性を向上する方法および該方法を用いた組成物に関するものである。
血糖自己測定は、糖尿病患者が通常の自分の血糖値を把握し治療に生かすために重要である。血糖自己測定に用いられるセンサにはグルコースを基質とする酵素が利用されている。そのような酵素の例としては例えばグルコースオキシダーゼ(EC 1.1.3.4)が挙げられる。グルコースオキシダーゼはグルコースに対する特異性が高く、熱安定性に優れているという利点を有していることから血糖センサ用酵素として古くから利用されており、その最初の発表は実に40年ほど前に遡る。グルコースオキシダーゼを利用した血糖センサにおいては、グルコースを酸化してD−グルコノ−δ−ラクトンに変換する過程で生じる電子がメディエーターを介して電極に渡されることで測定がなされるが、グルコースオキシダーゼは反応で生じたプロトンを酸素に渡しやすいため溶存酸素が測定値に影響してしまうという問題があった。
このような問題を回避するために、例えばNAD(P)依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.47)あるいはピロロキノリンキノン(本書ではピロロキノリンキノンをPQQとも記載する。)依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(EC1.1.5.2(旧EC1.1.99.17))が血糖センサ用酵素として用いられている。これらは溶存酸素の影響を受けない点で優位であるが、前者のNAD(P)依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(本書ではNAD(P)依存型グルコースデヒドロゲナーゼをNADGDHとも記載する。)は安定性の乏しさや補酵素の添加が必要という煩雑性がある。一方後者のPQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(本書ではPQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼをPQQGDHとも記載する。)は、基質特異性に乏しく、マルトースやラクトースといったグルコース以外の糖類にも作用するため測定値の正確性を損ねてしまうという欠点がある。
また、特許文献1にはアスペルギルス属由来フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ(本書ではフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼをFADGDHとも記載する。)が開示されている。本酵素は基質特異性に優れかつ溶存酸素の影響を受けない点で優位である。熱安定性については50℃15分処理で89%程度の活性残存率であり安定性についても優れているとされている。しかし、センサーチップ作製の工程において加熱処理を要する場合があることを考えれば決して十分な安定性とはいえない。
WO 2004/058958
本発明の目的は、上述のような公知の血糖センサ用酵素の熱安定性に関する欠点を克服して、より実用面において有利な血糖値測定用試薬に使用可能な組成物を提供することである。
本発明者らは、これまでのPQQGDHの研究で、該酵素の基質特異性を改善した多重変異体を多数取得したが、その一部には、野生型PQQGDHと比べて熱安定性が低減した変異体が見られた。そこで、この課題を解決するため、その原因について鋭意研究したところ、本特許で提示した該酵素にある種の化合物を添加することにより、PQQGDHの立体構造が安定に維持され安定性が改善できることがわかった。
本発明者らはさらに検討を加え、FADGDH、NADGDHについても同様の効果があることを見出し本願発明を完成させた。
これまでPQQGDHの安定性を向上する方策に関する報告としては特許文献2があり、その中では遺伝子レベルでのPQQGDH改変手段を用いた検討が報告されているが、酵素の改変を用いずに安定性を増大させる手段については、その可能性すら触れられていなかった。
WO02/072839
また、本発明者らは、鋭意研究を実施した結果、フラビン化合物を含有するGDHを含む組成物のpHで酸性側pHを保持することにより、該組成物が加熱乾燥可能なレベルの高い熱安定性が得られることを見出した。
加熱乾燥可能なレベルとは、50℃、15分処理後の残存活性が10%以上存在する状態であり、好ましくは45%以上の残存活性が得られる状態であり、更に好ましくは、70%以上の残存活性が得られる状態である。
さらに、本発明者らは、過去の方策とは異なる視点から、より簡便な熱安定性の改良策を探ることとし、さらなる鋭意研究を実施した結果、GDHを含む組成物で酸性側のpHを利用して、なおかつ、1種類以上のジカルボン酸、塩化合物を共存させることにより組成物全体の安定性を向上できることを明らかにして、遂に本発明を完成するに到った。
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
[項1]
FAD結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、該酵素とカルボキシル基含有化合物を共存させる工程を含む、カルボキシル基含有化合物を共存させない場合と比べてGDHの熱安定性を向上させる方法。
[項2]
カルボキシル基含有化合物の終濃度が0.1%以上である項1記載のGDHの熱安定性を向上させる方法。
[項3]
FAD結合型のGDHおよびカルボキシル基含有化合物を含む、カルボキシル基含有化合物を共存させない場合と比べて熱安定性が向上した、FAD結合型のGDHを含む組成物。
[項4]
カルボキシル基含有化合物の終濃度が0.1%以上である項3記載のGDHを含む組成物。
[項5]
項3または4の組成物を用いるグルコース濃度の測定方法。
[項6]
項5の組成物を含むグルコースセンサ。
[項7]
FAD結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、該酵素とカルボキシル基含有化合物を共存させる工程を含む、カルボキシル基含有化合物を共存させない場合と比べてGDHの熱安定性が向上した組成物の製造方法。
本発明による熱安定性の向上は、グルコース測定試薬、グルコースアッセイキット及びグルコースセンサー作製時の酵素の熱失活を低減して、該酵素の使用量低減や測定精度の向上を可能にする。また、保存安定性に優れたGDHを用いた血糖値測定試薬の提供を可能にする。
GDHは、以下の反応を触媒する酵素である。
D−グルコース + 電子伝達物質(酸化型)
→ D−グルコノ−δ−ラクトン + 電子伝達物質(還元型)
D−グルコースを酸化してD−グルコノ−1,5−ラクトンを生成するという反応を触媒する酵素であり、由来や構造に関しては特に限定するものではない。
本発明の方法に適用することができるGDHは、可溶性の補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)であれば特に限定されない。
補酵素としては、例えばピロロキノンキノリンまたはフラビン化合物またはニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド(NAD)などをとることができる。
本発明の方法に適用することができる、補酵素としてピロロキノンキノリンをとるGDH(PQQGDH)としては、特に限定されるものではないが、例えば、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)LMD79.41由来のもの(A.M.Cleton−Jansenら、J.Bacteriol.,170,2121(1988)およびMol.Gen.Genet.,217,430(1989))、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のもの(A.M.Cleton−Jansenら、J.Bacteriol.,172,6308(1990))、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)由来のもの(Mol.Gen.Genet.,229,206(1991))、及び、特許文献1で報告されているアシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumanni) NCIMB11517などの微生物由来のものなどが例示できる。
ただし、エシェリヒア・コリなどに存在する膜型酵素を改変して可溶型にすることは困難であり、起源としてはアシネトバクター・カルコアセティカスもしくはアシネトバクター・バウマンニなどの可溶性PQQGDHを選択することが好ましい。
なお、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)NCIMB11517株は、以前、Acinetobacter calcoaceticusに分類されていた。
これらのPQQGDHは、たとえば東洋紡績製GLD−321など市販のものを用いることが出来る。あるいは、当該技術分野における公知技術を用いて当業者であれば容易に製造することが出来る。
本発明の方法に適用することができる、補酵素としてFADをとるGDH(FAD結合型GDH)としては、特に限定されるものではないが、例えば、真核生物の範疇に属する糸状菌のペニシリウム(Penicillium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属などの微生物に由来するものが挙げられる。これら微生物菌株は各菌株保存機関より分譲を依頼することにより容易に入手することができる。例えば、ペニシリウム属のペニシリウム・リラシノエキヌラタムは、寄託番号NBRC6231として製品評価技術基盤機構・生物資源部門に登録されている。
本発明の方法に適用することができる、補酵素としてNADをとるGDHとしては、特に限定されるものではないが、東洋紡より販売されている市販品(GLD−311)を入手して使用することができる。あるいは、種々の公知の方法により調製することが可能である。
本発明の方法に適用することができるGDHは、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する限り、上記に例示されたものにさらに他のアミノ酸残基の一部が欠失または置換されていてもよく、また他のアミノ酸残基が付加されていてもよい。
このような改変は当該技術分野における公知技術を用いて当業者であれば容易に実施することが出来る。例えば、蛋白質に部位特異的変異を導入するために当該蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列を置換または挿入するための種々の方法が、Sambrookら著、Molecular Cloning; A Laboratory Manual 第2版(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkに記載されている。
例えば、上記のGDHを生産する天然の微生物、あるいは、天然のGDHをコードする遺伝子をそのまま、あるいは、変異させてから、発現用ベクター(多くのものが当該技術分野において知られている。例えばプラスミド。)に挿入し、適当な宿主(多くのものが当該技術分野において知られている。例えば大腸菌。)に形質転換させた形質転換体を培養し、培養液から遠心分離などで菌体を回収した後、菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また、必要に応じてEDTAなどのキレート剤や界面活性剤等を添加して可溶化し、GDHを含む水溶性画分を得ることができる。または適当な宿主ベクター系を用いることにより、発現したGDHを直接培養液中に分泌させることが出来る。
上記のようにして得られたGDH含有溶液を、例えば減圧濃縮、膜濃縮、さらに硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、あるいは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿せしめればよい。また、加熱処理や等電点処理も有効な精製手段である。また、吸着剤あるいはゲルろ過剤などによるゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーを行うことにより、精製されたGDHを得ることができる。該精製酵素標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的に単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
上記工程と前後して、全GDH酵素タンパク質に対するホロ型GDHの割合を向上させるために、好ましくは25〜50℃、より好ましくは30〜45℃の加熱処理を行っても良い。
本発明におけるGDHの濃度は特に制約がない。用いる酵素の特性等によって適切な範囲は異なるが、実用上、当該酵素を用いてグルコースを十分な信頼性をもって測定できると当業者が判断できる濃度であればよい。
例えば、本発明におけるPQQGDHの濃度は特に制約がないが、溶液中の場合、好ましくは、0.1〜100U/mL、さらに好ましくは、1〜50U/mL、さらに好ましくは2〜10U/mLである。粉末あるいは凍結乾燥物中でも同程度の濃度が望ましいが、粉末標品を調製する目的では、100U/mL以上の濃度にすることができる。
例えば、本発明におけるNADGDHの濃度は特に制約がないが、溶液中の場合、好ましくは、10〜1000U/mL、さらに好ましくは、20〜500U/mL、さらに好ましくは50〜150U/mLである。粉末あるいは凍結乾燥物中でも同程度の濃度が望ましいが、粉末標品を調製する目的では、1000U/mL以上の濃度にすることができる。
例えば、本発明におけるFADGDHの濃度は特に制約がないが、溶液中の場合、好ましくは、0.01〜100U/mL、さらに好ましくは、0.1〜50U/mL、さらに好ましくは0.2〜10U/mLである。粉末あるいは凍結乾燥物中でも同程度の濃度が望ましいが、粉末標品を調製する目的では、100U/mL以上の濃度にすることができる。
上記微生物を培養する培地としては、微生物が生育し、かつ本発明に示すGDHを生産しうるものであれば特に限定されないが、より好適には微生物の生育に必要な炭素源、無機窒素源及び/または有機窒素源を含有するものがよく、さらに好ましくは通気攪拌に適した液体培地であるのがよい。液体培地の場合、炭素源としては例えばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、蔗糖などが、窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスティープリカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、脱脂大豆、バレイショ抽出液などが例示される。また所望により他の栄養素(例えば塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム等の無機塩、ビタミン類等)を含んでいてもよい。
培養方法は、当分野において知られている常法に従う。例えば上記栄養素を含む液体培地に微生物の胞子もしくは生育状態の菌体を植菌し、静置もしくは通気攪拌により菌体を増殖させるが、好ましくは通気攪拌により培養するのがよい。培養液のpHは好ましくは5〜9であり、さらに好ましくは6〜8である。温度は通常14〜42℃、より好ましくは20℃〜40℃で行うのがよい。通常は14〜144時間培養を継続するが、好ましくは各々の培養条件においてGDHの発現量が最大となる時点で培養を終了するのがよい。このような時点を見極める方策としては、培養液のサンプリングを行って培養液中のGDH活性を測定することでその変化をモニタリングし、経時的なGDH活性の上昇がなくなった時点をピークとみなして培養停止すればよい。
上記の培養液からGDHを抽出する方法としては、菌体内に蓄積したGDHを回収する場合にあっては遠心分離もしくはろ過等の操作によって菌体のみを集め、この菌体を溶媒、好ましくは水もしくは緩衝液に再懸濁する。再懸濁した菌体は公知の方法により破砕することで菌体中のGDHを溶媒中に抽出することができる。破砕方法としては、溶菌酵素を用いることもでき、また物理的破砕方法を用いてもよい。溶菌酵素としては、真菌細胞壁を消化する能力を有するものであれば特に限定しないが、適用可能な酵素の例としてはシグマ社製「Lyticase」等が挙げられる。また、物理的破砕の方法としては例えば超音波破砕、ガラスビーズ破砕、フレンチプレス破砕等が挙げられる。破砕処理後の溶液は、遠心分離もしくはろ過により残渣を取り除いてGDH粗抽出溶液を得ることができる。
また本発明における培養方法としては固体培養によることもできる。好ましくは温度や湿度等を適宜制御の上で小麦等のふすま上に本発明のGDH生産能を有する真核微生物を生育させる。このとき、培養は静置により行ってもよく、また培養物を攪拌する等して混合してもよい。GDHの抽出は、培養物に溶媒、このましくは水もしくは緩衝液を加えてGDHを溶解させ、遠心分離もしくはろ過により菌体やふすま等の固形物を取り除くことでなされる。
GDHの精製は、GDH活性の存在する画分に応じて通常使用される種々の分離技術を適宜組み合わせることにより行うことができる。上記GDH抽出液から、例えば塩析、溶媒沈殿、透析、限外ろ過、ゲルろ過、非変性PAGE、SDS−PAGE、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動などの公知の分離方法を適当に選択して行うことができる。
本発明のGDHの熱安定性を向上させる方法の一形態は、可溶性の補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、(1)該酵素、と、(2)糖アルコール、カルボキシル基含有化合物、アルカリ金属含有化合物、アルカリ土類金属化合物、アンモニウム塩、硫酸塩、タンパク質からなる群より選ばれるいずれか1つ以上の化合物、を共存させる工程を含む。
添加する化合物として好ましいものとして、マンニトール、イノシトール、アラビトール、アドニトール、ガラクチトール、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、ロイシン、イノシトール、グリセリン酸カルシウム、コハク酸、塩化カリウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、フマル酸、マロン酸、ピメリン酸、3−3’ジメチルグルタル酸、リジン、フタル酸、マレイン酸、グルタル酸、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、牛血清アルブミン(BSA)からなる群より選ばれるいずれか1つ以上を挙げることができる。
これらの共存させる各化合物の濃度は特に限定されるものではないが、溶液中の場合、好ましくは、0.001〜30重量%、さらに好ましくは、0.01〜5%、さらに好ましくは0.01〜1%である。粉末あるいは凍結乾燥物中でも同程度の濃度が望ましいが、粉末あるいは凍結乾燥物中では、溶液中の場合と比べて、更に低濃度の化合物添加で有効性を発揮する傾向にある。
なお、実施例で記載されている化合物の濃度は、GDH酵素と共存して保存する時の終濃度である。好ましい組合せとしては、性質が近似する塩化合物中での組合せや、カルボン酸含有化合物同士での組合せなどが挙げられるが、例えば、塩化合物とカルボン酸含有化合物などを組み合わせて、お互いの効果を相補するものが好ましい。
上記形態においてさらに熱安定性を向上させるため、組成物のpHをpH7以下の酸性側で保持させることができる。あるいは、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、フタル酸、マレイン酸などのジカルボン酸、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムなどの塩化合物を含有することができる。
本発明のGDHの熱安定性を向上させる方法の別の一形態は、可溶性の補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、該組成物のpHをpH7以下の酸性側で保持させる工程を含む、該組成物をpH7.3以上にした場合と比べて該組成物の熱安定性を向上させる方法である。
あるいは、本発明のGDHの熱安定性を向上させる方法のさらに別の一形態は、可溶性の補酵素結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、該組成物のpHをpH3.1〜7.0に保持させる工程を含む、該組成物をpH7.4にした場合と比べて該組成物の熱安定性を向上させる方法である。
pHは、好ましくは3.1〜7.0、さらに好ましくは4.0〜6.5、さらに好ましくは4.0〜6.0である。
上記の組成物は、4℃で保存した該組成物と比べて、50℃、15分処理した場合でも、10%以上のGDH活性を残存する。あるいは、フラビン化合物を補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、4℃で保存した該組成物と比べて、50℃、15分処理した場合でも、45%以上のGDH活性を残存する。
上記形態においては、組成物中に、1種類以上のジカルボン酸、塩化合物を含有することが好ましい。ジカルボン酸としてはコハク酸、マロン酸、グルタル酸、フタル酸、マレイン酸、塩化合物としては塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムなどが挙げられる。本発明では、これらのうち1種類以上の化合物を含有することができる。
これらの共存させる各化合物の濃度は特に限定されるものではないが、溶液中の場合、好ましくは、1mM〜10M、さらに好ましくは、5mM〜5M、さらに好ましくは20mM〜1Mである。粉末あるいは凍結乾燥物を作製する場合には、溶液中の場合と同程度の化合物濃度を含有する組成にて乾燥処理を施すことにより同様の効果を持った乾燥標品を取得することができる。
なお、実施例で記載されている化合物の濃度は、GDH酵素と共存して保存する時の終濃度である。好ましい組合せとしては、性質が近似する塩化合物中での組合せや、カルボン酸含有化合物同士での組合せなどが挙げられるが、例えば、塩化合物とカルボン酸含有化合物などを組み合わせて、お互いの効果を相補するものが好ましい。
上記形態においてさらに熱安定性を向上させるため、糖アルコール、カルボキシル基含有化合物、アルカリ金属含有化合物、アルカリ土類金属化合物、アンモニウム塩、硫酸塩、タンパク質、例えば、マンニトール、イノシトール、アラビトール、アドニトール、ガラクチトール、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、ロイシン、イノシトール、グリセリン酸カルシウム、コハク酸、塩化カリウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、フマル酸、マロン酸、ピメリン酸、3−3’ジメチルグルタル酸、リジン、フタル酸、マレイン酸、グルタル酸、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、牛血清アルブミン(BSA)などの化合物を含有することができる。
また本発明のGDHを含む組成物は液状で供することもできるが、凍結乾燥、真空乾燥あるいはスプレードライ等により粉末化することができる。このとき、GDHは緩衝液等に溶解したものを用いることができ、さらに賦形剤あるいは安定化剤として本発明で用いる上記化合物以外の糖・糖アルコール類、アミノ酸、タンパク質、ペプチド等を添加することができる。また、粉末化後さらに造粒することもできる。このような物質の例としては例えばトレハロース・スクロース・ソルビトール・エリスリトール、グリセロール等に代表される糖・糖アルコール類・グルタミン酸・アルギニン等に代表されるアミノ酸、牛血清アルブミン・卵白アルブミンや各種シャペロン等に代表されるタンパク質・ペプチド類等を挙げることができる。
上記に示すGDHの抽出・精製・粉末化、および安定性試験に用いる緩衝液の組成は特に限定しないが、好ましくはpH5〜8の範囲で緩衝能を有するものであればよく、例えばホウ酸、トリス塩酸、リン酸カリウム等の緩衝剤や、BES、Bicine、Bis−Tris、CHES、EPPS、HEPES、HEPPSO、MES、MOPS、MOPSO、PIPES、POPSO、TAPS、TAPSO、TES、Tricineといったグッド緩衝剤が挙げられる。
これらのうち1種のみを適用してもよいし、2種以上を用いてもよい。さらには上記以外を含む1種以上の複合組成であってもよい。
また、これらの添加濃度としては、緩衝能を持つ範囲であれば特に限定されないが、好ましい上限は100mM以下、より好ましくは50mM以下である。好ましい下限は5mM以上である。
粉末あるいは凍結乾燥物中においては緩衝剤の含有量は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1%(重量比)以上、特に好ましくは0.1〜30%(重量比)の範囲で使用される。
これらは、種々の市販の試薬を用いることが出来る。
上記に示す種々の化合物は測定時に添加してもよいし、後記するグルコース測定用試薬、グルコースアッセイキットあるいはグルコースセンサを作製するときに予め含有させておくこともできる。また、GDHの抽出・精製・粉末化などの各製造工程において工程液に添加することもできる。なお、その際には、液体状態、乾燥状態などの形態は問われず、測定時に機能するようにしておけばよい。
本発明でいう熱安定性の向上とは、GDH酵素を含む組成物をある一定の温度で、一定時間熱処理した後、維持されているGDH酵素の残存率(%)が増大することを意味する。本願発明では、ほぼ完全に活性が維持される4℃保存のサンプルを100%として、これと一定温度で一定時間熱処理した後のGDH溶液の活性値を比較して、その酵素の残存率を算出している。この残存率が該化合物無添加のものと比べて増大していた場合、GDHの熱安定性が向上したと判断した。
具体的に、安定性が向上しているかどうかの判断は、次のように行った。
後述のGDH酵素活性の測定方法に記載の活性測定法において、4℃保存した溶液のGDH活性値(a)と、一定温度で一定時間熱処理した後のGDH活性値(b)を測定し、測定値(a)を100とした場合に対する相対値((b)/(a)×100)を求めた。この相対値を残存率(%)とした。そして、該化合物の添加の有無を比較して、添加により残存率が増大した場合、熱安定性が向上したと判断した。
本発明の効果は、メディエーターを含む系においてより顕著なものとなる。本発明の方法に適用できるメディエーターは特に限定されないが、フェナジンメトサルフェート(PMS)と2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)との組み合わせ、PMSとニトロブルーテトラゾリウム(NBT)との組み合わせ、DCPIP単独、フェリシアン化物イオン(化合物としてはフェリシアン化カリウムなど)単独、フェロセン単独などが挙げられる。中でもフェリシアン化物イオン(化合物としてはフェリシアン化カリウムなど)が好ましい。
これらの各メディエーターは感度に様々な違いが存在するために、添加濃度を一律に規定する必要性はないが、一般的には1mM以上の添加が望ましい。
これらのメディエーターは測定時に添加してもよいし、後記するグルコース測定用試薬、グルコースアッセイキットあるいはグルコースセンサを作製するときに予め含有させておくこともできる。なお、その際には、液体状態、乾燥状態などの形態は問われず、測定時に反応時に解離してイオンの状態になるようにしておけばよい。
本発明においてはさらに必要に応じて種々の成分を共存させることが出来る。例えば、界面活性剤、安定化剤、賦形剤などを添加しても良い。
例えば、グルタミン酸、グルタミンおよびリジンからなる群から選択されるアミノ酸は、1種または2種以上であってもよい。ここにさらに、牛血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミン(OVA)を含有させてもよい。
PQQGDHの場合は、例えば、カルシウムイオンまたはその塩、およびグルタミン酸、グルタミン、リジン等のアミノ酸類、さらに血清アルブミン等を添加することによりPQQGDHをより安定化することができる。
例えば、カルシウムイオンまたはカルシウム塩を含有させることにより、PQQGDHを安定化させることができる。カルシウム塩としては、塩化カルシウムまたは酢酸カルシウムもしくはクエン酸カルシウム等の無機酸または有機酸のカルシウム塩などが例示される。また、水性組成物において、カルシウムイオンの含有量は、1×10−4〜1×10−2Mであることが好ましい。
カルシウムイオンまたはカルシウム塩を含有させることによるPQQGDHの安定化効果は、グルタミン酸、グルタミンおよびリジンからなる群から選択されたアミノ酸を含有させることにより、さらに向上する。グルタミン酸、グルタミンおよびリジンからなる群から選択されるアミノ酸は、1種または2種以上であってもよい。ここにさらに卵白アルブミン(OVA)を含有させてもよい。
あるいは、(1)アスパラギン酸、グルタミン酸、α−ケトグルタル酸、リンゴ酸、α−ケトグルコン酸、α−サイクロデキストリンおよびそれらの塩からなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物および(2)アルブミンを共存せしめることにより、PQQGDHを安定化することができる。
本発明においては以下の種々の方法によりグルコースを測定することができる。
本発明のグルコース測定用試薬、グルコースアッセイキット、グルコースセンサは、液状(水溶液、懸濁液等)、真空乾燥やスプレードライなどにより粉末化したもの、凍結乾燥など種々の形態をとることができる。乾燥法としては、特に制限されるものではなく常法に従って行えばよい。本発明の酵素を含む組成物は凍結乾燥物に限られず、乾燥物を再溶解した溶液状態であってもよい。
本発明においては以下の種々の方法によりグルコースを測定することができる。
グルコース測定用試薬
本発明のグルコース測定用試薬は、典型的には、GDH、緩衝液、メディエーターなど測定に必要な試薬、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明のキットは、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。好ましくは本発明のGDHはホロ化した形態で提供されるが、アポ酵素の形態で提供し、使用時にホロ化することもできる。
グルコースアッセイキット
本発明はまた、本発明に従うGDHを含むグルコースアッセイキットを特徴とする。本発明のグルコースアッセイキットは、本発明に従うGDHを少なくとも1回のアッセイに十分な量で含む。典型的には、キットは、本発明のGDHに加えて、アッセイに必要な緩衝液、メディエーター、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明に従うGDHは種々の形態で、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。好ましくは本発明のGDHはホロ化した形態で提供されるが、アポ酵素の形態で提供し、使用時にホロ化することもできる。
グルコースセンサ
本発明はまた、本発明に従うGDHを用いるグルコースセンサを特徴とする。電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上に本発明の酵素を固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどがあり、あるいはメディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。好ましくは本発明のGDHはホロ化した形態で電極上に固定化するが、アポ酵素の形態で固定化し、補酵素を別の層としてまたは溶液中で供給することも可能である。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明のGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。
グルコース濃度の測定は、以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、メディエーターを加えて一定温度に維持する。作用電極として本発明のGDHを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明する。
実施例1 :PQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子の発現プラスミドの構築
野生型PQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼの発現プラスミドpNPG5は、ベクターpBluescript SK(−)のマルチクローニング部位にアシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii) NCIMB115
17株由来のPQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼをコードする構造遺伝子を挿入したものである。その塩基配列を配列表の配列番号2に、また該塩基配列から推定されるPQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列を配列表の配列番号1に示す。
pNPG5のDNA5μgを制限酵素BamHIおよびXhoI(東洋紡績製)で切断して、変異型PQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼの構造遺伝子部分を単離した。単離したDNAとBamHIおよびXhoIで切断したpTM33(1μg)とT4DNAリガーゼ1単位で16℃、16時間反応させ、DNAを連結した。連結したDNAはエシェリヒア・コリDH5αのコンピテントセルを用いて形質転換を行った。得られた発現プラスミドをpNPG6と命名した。
実施例2:シュードモナス属細菌の形質転換体の作製
シュードモナス・プチダTE3493(微工研寄12298号)をLBG培地(LB培地+0.3%グリセロール)で30℃、16時間培養し、遠心分離(12,000rpm、10分間)により菌体を回収し、この菌体に氷冷した300mMシュークロースを含む5mMK−リン酸緩衝液(pH7.0)8mlを加え、菌体を懸濁した。再度遠心分離(12,000rpm、10分間)により菌体を回収し、この菌体に氷冷した300mMシュークロースを含む5mMK−リン酸緩衝液(pH7.0)0.4mlを加え、菌体を懸濁した。
該懸濁液に実施例1で得た発現プラスミドpNPG6を0.5μg加え、エレクトロポレーション法により形質転換した。100μg/mlのストレプトマイシンを含むLB寒天培地に生育したコロニーより、目的とする形質転換体を得た。
実施例3:PQQ依存型GDH標品の調製
500mlのTerrific brothを2L容坂口フラスコに分注し、121℃、20分間オートクレーブを行い、放冷後別途無菌濾過したストレプトマイシンを100μg/mlになるように添加した。この培地に100μg/mlのストレプトマイシンを含むPY培地で予め30℃、24時間培養したシュードモナス・プチダTE3493(pNPG6)の培養液を5ml接種し、30℃で40時間通気攪拌培養した。培養終了時のPQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼ活性は、前記活性測定において、培養液1ml当たり約30U/mlであった。
上記菌体を遠心分離により集菌し、20mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した後、超音波処理により破砕し、更に遠心分離を行い、上清液を粗酵素液として得た。得られた粗酵素液をHiTrap−SP(アマシャム−ファルマシア)イオン交換カラムクロマトグラフィーにより分離・精製した。次いで10mM PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5)で透析した後に終濃度が1mMになるように塩化カルシウムを添加した。最後にHiTrap−DEAE(アマシャム−ファルマシア)イオン交換カラムクロマトグラフィーにより分離・精製し、精製酵素標品を得た。本方法により得られた標品は、SDS−PAGE的にほぼ単一なバンドを示した。
このようにして取得した精製酵素をPQQ依存型GLD評価標品として使用した。
実施例4:NAD依存型GDH標品の調製
NAD依存型GDH標品は、東洋紡より販売されている市販品(GLD−311)を入手して使用した。
実施例5:FAD依存型GDH標品の調製
FAD依存型GDH生産菌としてAspergillus terreus亜種とPenicillium lilacinoechinulatum
NBRC6231(独立行政法人製品評価技術基盤機構より購入)を用い、それぞれのL乾標本をポテトデキストロース寒天培地(Difco製)に植菌し25℃でインキュベートすることにより復元した。復元させたプレート上の菌糸を寒天ごと回収してフィルター滅菌水に懸濁した。2基の10L容ジャーファーメンター中に生産培地(1%麦芽エキス、1.5%大豆ペプチド、0.1%MgSO4・7水和物、2%グルコース、pH6.5)6Lを調製し、120℃15分オートクレーブ滅菌後に上記の菌糸懸濁液をそれぞれ投入、培養を開始した。培養条件は、温度30℃、通気量2L/分、攪拌数380rpmで行った。培養開始から64時間後に培養を停止し、ヌッチェろ過器を用いて吸引ろ過によりろ紙上にそれぞれの菌株の菌体を集めた。培養液5Lを分子量10,000カットの限外ろ過用中空糸モジュールで1/10量に濃縮し、濃縮液にそれぞれ硫酸アンモニウムを終濃度が60%飽和(456g/L)となるように添加、溶解した。続いて日立高速冷却遠心機で8000rpm15分遠心し残渣を沈殿させたのち、上清をOctyl−Sepharoseカラムに吸着させ、硫酸アンモニウム濃度0.6〜0.0飽和でグラジエント溶出してGDH活性のある画分を回収した。得られたGDH溶液を、G−25セファロースカラムでゲルろ過を行ってタンパク質画分を回収することで脱塩を行い、脱塩液に0.6飽和相当の硫酸アンモニウムを添加して溶解した。これをPhenyl−Sepharoseカラムに吸着させ、硫酸アンモニウム濃度0.6〜0.0飽和でグラジエント溶出してGDH活性のある画分を回収した。さらに、得られたGDH溶液を、G−25セファロースカラムでゲルろ過を行ってタンパク質画分を回収し、取得した精製酵素をFAD依存型GLD評価標品として使用した。
本発明のグルコース測定用組成物、グルコースアッセイキット、グルコースセンサ、あるいはグルコース測定方法に用いるメディエーターは、特に制限されるものではないが、好ましくは、2,6−dichlorophenol−indophenol(略称DCPIP)、フェロセンあるいはそれらの誘導体(例えばフェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなど)を用いるのがよい。これらのメディエーターは市販のものを入手することができる。
試験例1:PQQ依存型GDH活性の測定方法
本発明において、PQQ依存型GDHの活性測定は以下の条件で行う。
測定原理
D−グルコース+PMS+PQQGDH → D−グルコノ−1,5−ラクトン + PMS(red)
PMS(red) + DCPIP → PMS + DCPIP(red)
フェナジンメトサルフェート(PMS)(red)による2,6−ジクロロフェノール−インドフェノール(DCPIP)の還元により形成されたDCPIP(red)の存在は、600nmで分光光度法により測定した。また、基質特異性の検討では、D−グルコースの部分を他の糖類に変更して、それぞれの基質に対する特異性を測定した。
単位の定義
1単位は、以下に記載の条件下で1分当たりDCPIP(red)を1.0ミリモル形成させるPQQGDHの酵素量をいう。
方法
試薬
A.D−グルコース溶液:1.0M(1.8g D−グルコース(分子量180.16)/10ml HO)
B.PIPES−NaOH緩衝液, pH6.5:50mM(60mLの水中に懸濁した1.51gのPIPES(分子量302.36)を、5N NaOHに溶解し、2.2mlの10% Triton X−100を加える。5N NaOHを用いて25℃でpHを6.5±0.05に調整し、水を加えて100mlとした。)
C.PMS溶液:24mM(73.52mgのフェナジンメトサルフェート(分子量817.65)/10mlHO)
D.DCPIP溶液:2.0mM(6.5mgのニトロテトラゾリウムブルー(分子量817.65)/10mlHO)
E.酵素希釈液:1mM CaCl, 0.1% Triton X−100, 0.1% BSAを含む50mM PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5)

手順
1. 遮光ビンに以下の反応混合物を調製し、氷上で貯蔵した(用時調製)
4.5ml D−グルコース溶液 (A)
21.9ml PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5) (B)
2.0ml PMS溶液 (C)
1.0ml DCPIP溶液 (D)

上記アッセイ混合物の反応液中の濃度は次のとおり。
PIPES緩衝液 36mM
D−グルコース 148mM

PMS 1.58mM
DCPIP 0.066mM

2. 3.0mlの反応混合液を試験管(プラスチック製)に入れ、37℃で5分間予備加温した。
3. 0.1mlの酵素溶液を加え、穏やかに反転して混合した。
4. 600nmでの水に対する吸光度の減少を37℃に維持しながら分光光度計で4〜5分間記録し、曲線の初期直線部分からの1分当たりのΔODを計算した(ODテスト)。
同時に、酵素溶液に代えて酵素希釈液(E)加えることを除いては同一の方法を繰り返し、ブランク(ΔODブランク)を測定した。
アッセイの直前に氷冷した酵素希釈液(E)で酵素粉末を溶解し、同一の緩衝液で0.05−0.10U/mlに希釈した(該酵素の接着性のためにプラスチックチューブの使用が好ましい)。
基質特異性を評価する目的には、上記活性測定操作はグルコース溶液の代わりに他の種類の糖溶液を基質として実施した
計算
活性を以下の式を用いて計算する:
U/ml={ΔOD/min(ΔODテスト− ΔODブランク)×Vt×df}/(16.8×1.0×Vs)
U/mg=(U/ml)×1/C
Vt:総体積(3.1ml)
Vs:サンプル体積(0.1ml)
16.8:上記測定条件でのDCPIPのミリモル分子吸光係数(cm/マイクロモル)
1.0:光路長(cm)
df:希釈係数
C:溶液中の酵素濃度(c mg/ml)
試験例2:NAD依存型GDH活性の測定方法
本発明において、NAD依存型GDHの活性測定は以下の条件で行う。なお、NAD依存型GDH酵素標品として、東洋紡製のグルコース脱水素酵素(GLD311)を使用した。
測定原理
D−グルコース + NAD → D−グルコノ−1,5−ラクトン + NADH + H
NADHの生成量を340nmの吸光度の変化で測定した。
単位の定義
1単位は、以下に記載の条件下で1分当たりNADHを1.0マイクロモル形成させるNADGDHの酵素量をいう。
方法
試薬
A.D−グルコース溶液:1.5M(2.7g D−グルコース(分子量180.16)/10ml HO)
B.Tris−HCl緩衝液,pH8.0:100mM(90mLの水中に懸濁した1.21gのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(分子量121.14)を、5N HClを用いて25℃でpHを8.0±0.05に調整し、水を加えて100mlとした。)
C.NAD溶液:8%(80mgのNAD(分子量717.48)/1mlHO)
D.酵素希釈液:リン酸カリウム緩衝液(pH7.2)

手順
1. 遮光ビンに以下の反応混合物を調製し、氷上で貯蔵した(用時調製)
0.9ml D−グルコース溶液 (A)
7.8ml Tris−HCl緩衝液(pH8.0) (B)
0.3ml NAD溶液 (C)

上記アッセイ混合物の反応液中の濃度は次のとおり。
D−グルコース 148mM
Tris−HCl緩衝液 77mM
NAD 0.26%

2. 3.0mlの反応混合液を試験管(プラスチック製)に入れ、37℃で5分間予備加温した。
3. 0.05mlの酵素溶液を加え、穏やかに反転して混合した。
4. 340nmでの水に対する吸光度の変化を37℃に維持しながら分光光度計で4〜5分間記録し、曲線の初期直線部分からの1分当たりのΔODを計算した(ODテスト)。
同時に、酵素溶液に代えて酵素希釈液(D)加えることを除いては同一の方法を繰り返し、ブランク(ΔODブランク)を測定した。
アッセイの直前に氷冷した酵素希釈液(D)で酵素粉末を溶解し、同一の緩衝液で0.10−0.70U/mlに希釈した(該酵素の接着性のためにプラスチックチューブの使用が好ましい)。
基質特異性を評価する目的には、上記活性測定操作はグルコース溶液の代わりに他の種類の糖溶液を基質として実施した。

計算
活性を以下の式を用いて計算する:
U/ml={ΔOD/min(ΔODテスト− ΔODブランク)×Vt×df}/(6.22×1.0×Vs)
U/mg=(U/ml)×1/C
Vt:総体積(3.05ml)
Vs:サンプル体積(0.05ml)
6.22:NADHのミリモル分子吸光係数(cm/マイクロモル)
1.0:光路長(cm)
df:希釈係数
C:溶液中の酵素濃度(c mg/ml)
試験例3:FAD依存型GDH活性の測定方法
本発明において、FAD依存型GDHの活性測定は以下の条件で行う。
<試薬>
50mM PIPES緩衝液pH6.5(0.1%TritonX−100を含む)
14mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)溶液
1M D−グルコース溶液
上記PIPES緩衝液15.8ml、DCPIP溶液0.2ml、D―グルコース溶液4mlを混合して反応試薬とする。
<測定条件>
反応試薬2.9mlを37℃で5分間予備加温する。GDH溶液0.1mlを添加しゆるやかに混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で、600nmの吸光度変化を5分記録し、直線部分から1分間あたりの吸光度変化(ΔODTEST)を測定する。盲検はGDH溶液の代わりにGDHを溶解する溶媒を試薬混液に加えて同様に1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を測定する。これらの値から次の式に従ってGDH活性を求める。ここでGDH活性における1単位(U)とは、濃度200mMのD−グルコース存在下で1分間に1マイクロモルのDCPIPを還元する酵素量として定義している。

活性(U/ml)=
{−(ΔODTEST−ΔODBLANK)×3.0×希釈倍率}/{16.3×0.1×1.0}

なお、式中の3.0は反応試薬+酵素溶液の液量(ml)、16.3は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm/マイクロモル)、0.1は酵素溶液の液量(ml)、1.0はセルの光路長(cm)を示す。
3種類の異なる補酵素を利用するGDHは、各々、異なる条件で熱安定性の向上を検討している。例えば、以下の実施例6−8において、PQQGDHでは、pH6.5の緩衝液で5U/mlに調製した酵素液を50℃、16時間熱処理した後、残存するPQQGDH活性を比較して、熱安定性の向上を確認している。同じく、NADGDHでは、pH7.2の緩衝液で85U/mlに調製した酵素液を50℃、1時間熱処理した後、残存するNADGDH活性を比較して、熱安定性の向上を確認している。また、同じく、FADGDHでは、pH7.2の緩衝液で5U/mlに調製した酵素液を50℃または55℃で、15〜30分間熱処理した後、残存するFADGDH活性を比較して、熱安定性の向上を確認した。
また、以下の実施例9および10においては、50mMの各種緩衝液で調製した酵素液組成物(0.4〜5.1U/ml)のpHを実測した後、50℃、15分間、または、50℃、30分間、または、55℃、15分間、または、55℃、30分間の熱処理を行い、GDH活性を測定して活性残存率(%)を算出した。この活性残存率を比較することにより、熱安定性の向上を確認した。
実施例6:グルコース測定系を用いた熱安定性の確認1
検討は、先述の試験例1のPQQGDH活性の測定方法に準じて行った。また、アポ型も含めた形でPQQGDHの酵素活性を測定するために、終濃度860nMのPQQを添加した反応混合液でも活性を測定した。
まず、PQQGDHを約5.0U/mlになるように酵素希釈液(1mM CaCl, 0.1% Triton X−100, 0.1% BSAを含む50mM PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5))にて溶解したものを50ml用意した。この酵素
溶液0.33mlに、表1,2記載の10倍濃度の各種化合物を0.1ml添加して、同じく表1,2記載のベースバッファーを加え、合計容量を1.0mlとしたものを2本用意した。また、コントロールには、各種化合物の代わりに蒸留水0.1mlを添加したものを2本用意した。2本のうち、1本は4℃,16時間保存し、もう1本は、50℃、16時間処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて10倍希釈した後、PQQGDH活性を測定した。各々、4℃,16時間保存したものの酵素活性を100として、50℃、16時間処理後の活性値を比較して相対値(%)として算出した。
PQQGDH組成物に、表1,2で示す全ての化合物において、それらを共存させることにより、熱安定性の向上が認められた。リン酸カリウムバッファーをベースにしたものでは、コハク酸、ピメリン酸、ジメチルグルタル酸を添加した場合、ホロ型PQQGLDの熱安定性が低下しているが、これは該酵素からPQQが脱落していることが起因すると思われる。アポ型も含めた熱安定性としては向上が見られており、酵素自体の立体構造の維持にこれら化合物が効果を発揮しているものと思われる。
表1は、PIPESバッファー(pH6.5)をベースとして各種化合物を共存させたPQQGDH組成物の50℃,16時間処理後のPQQGDH活性の残存率(%)を示す。
表2は、フタル酸バッファー(pH7.0)、リン酸カリウムバッファー(pH7.0)をベースとして各種化合物を共存させたPQQGDH組成物の50℃,16時間処理後のPQQGDH活性の残存率(%)を示す。
Figure 0004770911
Figure 0004770911
実施例7:グルコース測定系を用いた熱安定性の確認2
検討は、先述の試験例2のNADGDH活性の測定方法に準じて行った。
まず、NADGLD(東洋紡製GLD−311)を約250U/mlになるように酵素希釈液にて溶解したものを50ml用意した。この酵素溶液0.33mlに、表3記載の10倍濃度の各種化合物を0.1ml添加して、リン酸カリウム緩衝液(pH7.2)を加え、合計容量を1.0mlとしたものを2本用意した。また、コントロールには、各種化合物の代わりに蒸留水0.1mlを添加したものを2本用意した。2本のうち、1本は4℃で保存し、もう1本は、50℃、1時間処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて500倍希釈した後、NADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100として、50℃、1時間処理後の活性値を比較して活性残存率(%)として算出した。
その結果、検討した全てのジカルボン酸で効果が見られ、中でもコハク酸またはマレイン酸を添加した時に、最も高い熱安定性の向上効果が認められた。
表3は、各種化合物を共存させたNADGDH組成物の50℃,1時間処理後のNADGDH活性の残存率(%)を示す。
Figure 0004770911
実施例8:グルコース測定系を用いた熱安定性の確認3
検討は、先述の試験例3のFADGDH活性の測定方法に準じて行った。
まず、実施例5で所得したFADGLDを約10U/mlになるように酵素希釈液(50mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.2))にて溶解したものを50ml用意した。この酵素溶液0.5mlに、1%,0.5%のBSAを0.5ml添加して、合計容量を1.0mlとしたものを2本用意した。また、表5、6に記載の各2倍濃度のコハク酸、マロン酸、フタル酸、マレイン酸、グルタル酸、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムを用意して、同様に0.5ml添加して、合計容量を1.0mlとしたものを2本用意した。コントロールには、各種化合物の代わりに蒸留水0.1mlを添加したものを2本用意した。
2本のうち、1本は4℃で保存し、もう1本は、50℃、30分間処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて21倍希釈した後、FADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100として、50℃、1時間処理後の活性値を比較して活性残存率(%)として算出した。
これらの検討の結果、タンパク質性の安定化剤(BSA)を添加することにより、FAD−GLDの熱安定性が増大することが明らかとなった(表4)。また、各種ジカルボン酸化合物あるいは各種塩化合物の添加でFAD−GLDの熱安定性の向上効果が見られ、ジカルボン酸化合物の中ではコハク酸、マロン酸が、塩化合物の中では硫酸ナトリウムが最大の効果が見られた(表5、6)。コハク酸、マロン酸、硫酸ナトリウムにおいては、数モル程度の添加でも安定性向上効果が見られるものと思われる。また、塩化ナトリウムのような単純な塩化合物でも十分な効果が見られていることから、FAD−GLDにおいては、単純にイオン強度を上げるだけで熱安定化することがはじめて見出された。
表4は、タンパク質性の安定化剤を共存させたFADGDH組成物の50℃,30分間処理後のFADGDH活性の残存率(%)を示す。
表5は、ジカルボン酸化合物を共存させたFADGDH組成物の50℃,30分間処理後のFADGDH活性の残存率(%)を示す。
表6は、塩化合物を共存させたFADGDH組成物の50℃,15分間処理後のFADGDH活性の残存率(%)を示す。
Figure 0004770911
Figure 0004770911
Figure 0004770911
実施例9:酸性側のpHを保持させたGDH組成物の熱安定性の向上効果の検討
検討は、先述の試験例3のFADGDH活性の測定方法に準じて行った。
まず、実施例5で所得した2種類のFADGDHをそれぞれ約10U/mlになるように酵素希釈液(50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5))にて溶解したものを10ml用意した。この酵素溶液0.2mlに、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH4.3)、または、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH5.6)、または、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を1.8ml添加して、合計容量を2.0mlにした。それぞれの酵素溶液のpHを実測したところ、pH5.6、6.0、7.2付近に変動していた。1mlずつ分注したものを2本用意して、1本は4℃で保存し、もう1本は、50℃にて熱処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて2倍希釈した後、FADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100%として、50℃、15分間あるいは30分間処理後の活性値を比較してGDH活性残存率(%)を算出した。
これらの検討の結果、GDH含有組成物のpHを酸性側で保持するとFADGLD含有組成物の熱安定性が増大することが明らかとなった(表7)。
更に、細かくpH条件を検討するため、先の方法と同様に、表8記載の各種バッファーにて酵素液を10倍希釈して、実測pHを確認した後に50℃、15分間熱処理を行い、GDH活性を測定して、その残存率(%)を算出した。
その結果、Aspergillus terreus亜種とPenicillium lilacinoechinulatum NBRC6231株のいずれの由来のFADGLDを含有する組成物でも、pH3.14 〜 6.97の範囲でpH7.4付近の場合と比べて、熱安定性が向上することが明らかになった(表8、図1、図2)。
GDH組成物の汎用用途であるグルコースセンサのセンサチップ作製時には、加熱乾燥する工程があり、FADGDH含有組成物を酸性側で維持することにより該組成物自体の安定性を向上させることは、FADGDHを用いたセンサチップ製品の安定性、測定精度を高める上で、非常に重要である。
Figure 0004770911
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実施例10:酸性側のpHを保持させたGDH組成物に1種類以上の塩化合物あるいはジカルボン酸を共存させることにより得られる該組成物の熱安定性向上効果の検討
検討は、先述の試験例3のFADGDH活性の測定方法に準じて行った。
まず、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)にて、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムを、それぞれ1Mとなるように溶解した各種化合物溶液を作製した。また、実施例5で所得した2種類のFADGDHをそれぞれ約10U/mlになるように酵素希釈液(50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5))にて溶解したものを20ml用意した。4種類の化合物溶液のそれぞれに、2種類のFADGDHを1:1で混合した8種類の酵素液サンプル(2ml)を用意した。また、化合物溶液を添加しないコントロールとして、50mMリン酸カリウム緩衝液にてpH6.25、6.65付近に調製したコントロール酵素液サンプルも用意した。それぞれの酵素液サンプルの実測pHを測定して程近いpHが維持されていることを確認した。酵素液サンプルを1mlずつ分注したものを2本用意して、1本は4℃で保存し、もう1本は、55℃、30分間熱処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて10倍希釈した後、FADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100%として、55℃、30分間処理後の活性値を比較してGDH活性残存率(%)を算出した。
これらの検討の結果、GDH含有組成物のpHを酸性側で保持し、なおかつ、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムなどの塩化合物を添加することにより、pHを酸性側に保持したコントロール酵素液サンプル以上の熱安定性が得られることが明らかになった(表9)。
次に、先の2種類のFADGDHをコハク酸バッファーにてpH5.3に調製した酵素液サンプル(5U/ml)に、等量の2M塩化ナトリウム、または、1M硫酸ナトリウム、または、1Mクエン酸三ナトリウム、または、1M硫酸アンモニウムを添加して、8種類の酵素液サンプル(2ml)を用意した。また、化合物溶液を添加しないコントロールとして、50mMコハク酸ナトリウム緩衝液(pH5.3)にて2倍希釈したコントロール酵素液サンプルも用意した。それぞれの酵素液サンプルの実測pHを測定して、コントロールに程近いpHが維持されていることを確認した。酵素液サンプルを1mlずつ分注したものを2本用意して、1本は4℃で保存し、もう1本は、55℃、30分間熱処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて5倍希釈した後、FADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100%として、55℃、30分間処理後の活性値を比較してGDH活性残存率(%)を算出した。
これらの検討の結果、pH5前後の低いpHにおいても、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、硫酸アンモニウムなどの塩化合物を添加することにより熱安定性が向上できることを確認できた。塩化ナトリウムのようなあまり特徴のない化合物においても添加効果が認められたことは、広く塩化合物全般において、それらを共存させることにより、FADGDH組成物の熱安定性を向上させることができるものと推測する(表10)。
また、コハク酸バッファーを使用した時に、リン酸カリウムバッファーをベースとした場合よりも熱安定性が向上する傾向が見られていたことから、コハク酸バッファーが含まれるジカルボン酸化合物が、先の塩化合物と同じく、熱安定性を向上させる効果があるものと推測した。そこで、GDH含有組成物のpHを酸性側で保持し、なおかつ、ジカルボン酸化合物を添加することにより、熱安定性が変動するか検討した。
まず、ベースバッファーとして、100mM酢酸ナトリウム(pH5.0)と100mMリン酸カリウムバッファー(pH5.6)を準備した。また、実施例5で所得した2種類のFADGDHをそれぞれ約10U/mlになるように酵素希釈液(50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5))にて溶解したものを20ml用意した。次に、0.4Mコハク酸(pH7.0にNaOHで調整)、0.4Mマロン酸(pH7.0にNaOHで調整)、0.4Mグルタル酸(pH7.0にNaOHで調整)を調製した。
ベースバッファー0.8mlと酵素液(10U/ml)0.2mlを混合させた後、各種ジカルボン酸化合物1mlを添加して、それぞれのpHを実測した。また、化合物溶液を添加しないコントロールとして、ジカルボン酸化合物の代わりに蒸留水を添加して、各サンプルのpH実測値付近に調整したものを準備した。酵素液サンプルを1mlずつ分注したものを2本用意して、1本は4℃で保存し、もう1本は、55℃にて熱処理を施した。処理後、各サンプルを酵素希釈液にて2倍希釈した後、FADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100%として、55℃、15分間または30分間処理後の活性値を比較してGDH活性残存率(%)を算出した。
これらの検討の結果、pH5.5あるいは6.0前後のpHにおいて、コハク酸、マロン酸、グルタル酸などのジカルボン酸化合物を添加することにより熱安定性が向上できることを確認できた。以上の結果から、広くジカルボン酸化合物全般において、それらを共存させることにより、FADGDH組成物の熱安定性を向上させることができるものと推測する(表11)
Figure 0004770911
Figure 0004770911
Figure 0004770911
実施例11:グルコース測定系を用いた保存安定性の確認
検討は、先述の試験例1のPQQGDH活性の測定方法に準じて行った。また、アポ型も含めた形でPQQGDHの酵素活性を測定するために、終濃度860nMのPQQを添加した反応混合液でも活性を測定した。
まず、PQQGDHを約10U/mlになるように酵素希釈液(1mM CaCl2、50mM PIPES−NaOH緩衝液(pH6.5))にて溶解したものを10ml用意した。この酵素溶液0.54mlに、表12記載の10倍濃度の各種化合物を0.06ml添加して、合計容量を0.6mlとしたものを3本用意した。また、コントロールには、各種化合物の代わりに蒸留水0.06mlを添加したものを3本用意した。用意したバイアルを凍結乾燥(FDR)して、水分を完全に蒸発させた後、コントロールバイアルは、直ちに、活性測定を行った。一方、検体バイアルでは、25℃、湿度70%で6時間処理した後、37℃で保存して、1週間後または2週間後の残存活性を測定した。活性残存率は、FDR直後の活性値を100%として、各検体の活性値から活性残存率(%)を算出した。活性残存率が高くなっているほど、保存安定性が向上していると判断した。
コハク酸,塩化アンモニウム,マロン酸などを添加することにより、ホロ化率低下の抑制効果が見られ、また、粉末安定性の向上も認められた。化合物添加の有無による粉末時の形状のちがいを比較したところ、添加したものは粉末体が引き締まった形状をしており、吸湿耐性が増大していることが容易に予想された。今回の検討では、資材の関係から限られた種類のカルボン酸含有化合物にて検討したが、広くさまざまな化合物で同様の効果を発揮するものと思われる。また、粉末形状の変化が保存安定性の増大に繋がることが推測できることから、NAD−GLD,FAD−GLDでも同様の効果が得られることは、同様に類推できる。
Figure 0004770911
本発明による熱安定性の改良は、グルコース測定試薬、グルコースアッセイキット及びグルコースセンサの保存安定性、測定精度を向上することができる。
Aspergillus terreus亜種に由来するFADGDHの熱安定性のpH依存性 Penicillium lilacinoechinulatum NBRC6231株に由来するFADGDHの熱安定性のpH依存性

Claims (7)

  1. FAD結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を含む組成物において、該酵素とコハク酸、マロン酸、フタル酸、グルタル酸およびマレイン酸からなる群のうちいずれかを共存させる工程を含む、GDHの熱安定性を向上させる方法。
  2. コハク酸、マロン酸、フタル酸、グルタル酸およびマレイン酸からなる群のうちいずれかの終濃度が0.1%以上である請求項1に記載のGDHの熱安定性を向上させる方法。
  3. FAD結合型のGDHおよびコハク酸、マロン酸、フタル酸、グルタル酸およびマレイン酸からなる群のうちいずれかを含む組成物。
  4. コハク酸、マロン酸、フタル酸、グルタル酸およびマレイン酸からなる群のうちいずれかの終濃度が0.1%以上である請求項3に記載のGDHを含む組成物。
  5. 請求項3または4に記載の組成物を用いるグルコース濃度の測定方法。
  6. 請求項3または4に記載の組成物を含むグルコースセンサ。
  7. FAD結合型のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)とコハク酸、マロン酸、フタル酸、グルタル酸およびマレイン酸からなる群のうちいずれかを共存させる工程を含む、GDHを含む組成物の製造方法。
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