JP5578324B2 - マグネシウム合金部材 - Google Patents
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Description
例えば、化成処理を施して形成される化成処理層は、代表的にはリン酸化合物といった絶縁物で構成されているため、抵抗値が高い。
[マグネシウム合金部材]
<基材>
(組成)
上記基材を構成するマグネシウム合金の添加元素については、先に詳細に説明している。
上記基材は、板状材や、この板状材に、曲げ加工、絞り加工、打抜加工といったプレス加工などの塑性加工を施した成形体が挙げられる。所望の用途に応じて、基材の大きさ(面積、容積)や厚さ、形状を選択するとよい。特に、厚さが2.0mm以下、更に1.5mm以下、とりわけ1mm以下であると、薄型、軽量の部品(代表的には筐体)に好適に利用することができる。
上記基材は、平均粒径が50nm〜1500nmといった微細な析出物、代表的には、Mg17Al12などのMgやAlを含む金属間化合物(Mg17Al12に限定されない)からなる粒子が分散した組織を有し、基材の断面において基材全体を100面積%とするとき、上記析出物が1面積%〜20面積%存在する。析出物の平均粒径が50nm以上、かつ析出物の含有量が1面積%以上であることで、上記基材中に析出物が十分に存在して耐食性などに優れ、析出物の平均粒径が1500nm以下、かつ析出物の含有量が20面積%以下であることで、上記基材中に析出物が過剰に存在せず、母材中にもAlなどの添加元素が固溶されており、耐食性に優れる上に、割れなどの起点になり得る粗大な析出物が実質的に存在せず、耐衝撃性にも優れる。上記平均粒径は、100nm以上500nm以下、析出物の含有量は、3面積%以上15面積%以下、更に5面積%以上10面積%以下がより好ましい。平均粒径や面積割合は、後述する熱履歴により変化させることができる。
(組成)
本発明マグネシウム合金部材に具える防食層は、化成処理又は陽極酸化処理により形成される。両処理のいずれも処理液には、JIS H 8651(1995)に規定されるもの、その他、市販のものを利用することができる。例えば、化成処理液は、JIS H 8651(1995)に規定されるクロム(Cr)を含むもの(クロメート処理液)が汎用されているが、リン酸マンガン・カルシウム系溶液、リン酸カルシウム系溶液などのリン酸溶液といったノンクロム系処理液を利用すると、環境保全の観点から好ましい。処理液の種類に応じて、形成される防食層の組成が異なる。例えば、リン酸マンガン・カルシウム系溶液を用いた場合、マンガン及びカルシウムのリン酸化合物を主成分とする防食層が形成される。一般的な陽極酸化処理では、10μm程度の比較的厚い防食層が形成されることが多いため、薄い防食層を形成可能な処理液を利用することが好ましい。これに対して、化成処理では、0.5μm以下といった薄い防食層を形成可能であり、利用し易い。
防食層の厚さは、上述のように処理時間により調整することができ、上述のように50nm以上500nm以下が好ましい。
そして、本発明では、上記基材中に存在する金属間化合物などの析出物と同様の組成からなる析出物が防食層中にも上述した特定の割合で存在していることを最大の特徴とする。基材中に存在する析出物のうち、一部が基材に接触又は埋設し、同じ粒子における別の一部が防食層から露出する表出粒子が本発明マグネシウム合金部材の低抵抗化に寄与すると期待される。従って、表出粒子は、少なくとも防食層の厚さと同程度の大きさを有することが好ましいと考えられる。但し、表出粒子が大き過ぎると防食層からの露出部分が大きくなり過ぎて、防食層から脱落して防食層に欠陥が生じ、耐食性を低下させる恐れがある。そのため、基材中に存在する粒子と同様に、表出粒子もその平均粒径が50nm〜1500nm程度のものが好ましいと考えられる。
防食層の表面粗さは、上述のようにある程度粗いことで、防食層の低抵抗化に寄与することができて好ましい。
上記特定の組織を有する基材及び防食層を具える本発明マグネシウム合金部材は、例えば、以下の各工程を具える製造方法により製造することができる。
準備工程:Alを5質量%以上含有するマグネシウム合金からなり、連続鋳造法で製造した鋳造板を準備する工程。
溶体化工程:上記鋳造板に350℃以上の温度で溶体化処理を施して、固溶板を製造する工程。
圧延工程:上記固溶板に温間圧延を施し、圧延板を製造する工程。
特に、溶体化工程以降の製造工程において、加工対象である素材板(代表的には圧延板)を150℃以上300℃以下の温度域に保持する総合計時間を1時間以上12時間以内とすると共に、300℃超の温度に加熱しないように、上記素材板の熱履歴を制御する。
前処理工程:上記圧延板にエッチング処理を施して、当該圧延板中に存在する析出物の粒子の少なくとも一部を当該圧延板の表面に露出させる工程。
特に、上記エッチング処理は、上記圧延板の厚さ方向に5μm超15μm以下の表層部分が除去されるように、処理条件を調整する。
防食処理工程:上記前処理が施された処理板に防食処理を施す工程。
(準備工程)
鋳造板は、双ロール法といった連続鋳造法、特に、WO/2006/003899に記載の鋳造方法で製造した鋳造板を利用することが好ましい。連続鋳造法は、急冷凝固が可能であるため、酸化物や偏析などを低減でき、圧延性に優れる鋳造板が得られる。鋳造板の大きさは特に問わないが、厚過ぎると偏析が生じ易いため、10mm以下、特に5mm以下が好ましい。
上記鋳造板に溶体化処理を施して、組成を均質化すると共に、Alといった添加元素を固溶させた固溶板を製造する。溶体化処理は、保持温度を350℃以上、特に、保持温度:380℃〜420℃、保持時間:60分〜2400分(1時間〜40時間)とすることが好ましい。保持時間は、Alの含有量が高いほど長くすることが好ましい。また、上記保持時間からの冷却工程において、水冷や衝風といった強制冷却などを利用して、冷却速度を速めると(好ましくは50℃/min以上)、粗大な析出物の析出を抑制することができて好ましい。
上記固溶板には、少なくとも1パスの温間圧延を施す。素材(固溶板や圧延途中の板)を加熱することで塑性加工性を高められ、圧延時に割れなどの発生を抑制できる。素材の加熱温度が高いほど、塑性加工性を高められるものの、高過ぎると、150℃〜300℃の温度域の保持時間が過度に長くなり、上述のように析出物の過度な成長や過度の析出を招いたり、Alの固溶量の低下による耐食性の低下を招いたり、素材の焼き付きが発生したり、素材の結晶粒が粗大化して圧延後の板の機械的特性が低下したりする。そのため、圧延工程において素材の加熱温度も300℃以下とすることが好ましく、150℃以上280℃以下がより好ましい。複数回(多パス)の圧延を施すことで、所望の板厚にできると共に、素材の平均結晶粒径を小さくしたり(例えば、10μm以下)、圧延やプレス加工といった塑性加工性を高められる。圧延は、公知の条件、例えば、素材だけでなく圧延ロールも加熱したり、特許文献1に開示されるノンプレヒート圧延や制御圧延などを組み合わせて利用してもよい。仕上げ圧延などで、圧下率が小さい圧延を行う場合は、冷間圧延とすることができる。上記圧延は、潤滑剤を適宜利用すると、圧延時の摩擦抵抗を低減でき、素材の焼き付きなどを防止して、圧延を施し易い。
上記圧延工程により得られた圧延板に、特許文献1に記載されるように最終熱処理(最終焼鈍)を施すことができるが、この最終熱処理を施さず、上述のように矯正(代表的には温間矯正)を施す方がプレス加工といった塑性加工性に優れる素材が得られて好ましい。矯正処理には、圧延板に連続的に曲げ(歪)を付与するために複数のロールが上下に対向して千鳥状に配置されたロール部を具えるロールレベラ装置を好適に利用できる。温間矯正を行う場合、圧延板を加熱可能な加熱炉を利用して、圧延板を100℃〜300℃、好ましくは150℃以上280℃以下に加熱した状態で上記ロール部に導入することが挙げられる。得られた矯正板は平坦になると共に、圧延時に導入された歪み量が調整されてプレス加工といった塑性加工を施すと、塑性加工時に動的再結晶化が生じ、塑性加工性に優れる。矯正工程においても、上述した150℃〜300℃の温度域の保持時間が上記総合計時間に含まれるように、加熱時間などを調整する。なお、圧延により比較的薄くなった素材に対して矯正加工を施すことで、矯正工程における上記保持時間を非常に短くすることができる。例えば、素材の厚さによっては上記保持時間を数分程度、更に1分以内とすることができる。
上記圧延板や、上記圧延板に上記最終熱処理を施した熱処理板、上記圧延板に上記矯正を施した矯正板、圧延板・熱処理板・矯正板のいずれかに後述する防食処理を施した防食板(本発明マグネシウム合金部材の一形態)にプレス加工といった塑性加工を施す場合、200℃〜300℃の温度域で行うと、素材の塑性加工性を高められて好ましい。なお、塑性加工時における素材を上記200℃〜300℃に保持する時間は、一般に、上述した析出物の粗大化などの不具合が実質的に生じない程度の短時間であり、上記総合計時間に含めない。
上述した圧延板、熱処理板、矯正板、塑性加工材のいずれかの素材に防食処理を施すにあたり、素材中の金属間化合物などの析出物の粒子を表出させるために、素材に少なくともエッチング処理を前処理として施す。エッチング処理には、マグネシウム合金に化成処理や陽極酸化処理を施す前に行われる前処理(脱脂、エッチング、脱スマット、表面調整など)で利用される処理液と同様のもの、その他、市販品を利用することができる。本発明者らが調べたところ、上記圧延板などの素材に対して、その表層部分(厚さ方向に5μm超〜15μmの領域)が除去されるように、エッチングに用いる処理液の種類や濃度、処理時間(浸漬時間)を調整することが好ましい、との知見を得た。上記表層部分を除去することで、上記素材の表面をRaで0.2μm以上といった比較的粗い状態とすることができる。また、上記素材中に上記粒子が存在する場合、上記表層部分を除去することで、当該粒子が十分に表出することができる。圧延直後や矯正直後などの前処理前の素材(代表的には圧延板)の最表面及び最表面から当該板の厚さ方向に5μmまでの表面領域は、内部に比較して冷却速度が速いことから、析出物が存在していない、或いは十分に存在していない、と考えられる。そこで、上記圧延板などの素材の厚さ方向に少なくとも5μm超、好ましくは5μm以上がエッチングにより除去されるように、処理液の種類や濃度、処理時間を調整する。処理液の濃度が高かったり、処理時間が長過ぎたりすると、母材を過度に失うため、エッチングによる除去量の上限は15μmとする。
上記前処理が施されて、表面に金属間化合物などの析出物の粒子の少なくとも一部が表出された上記圧延板などの素材に化成処理や陽極酸化処理といった防食処理を施す。ここで、上記金属間化合物などの析出物は、防食処理の処理液と実質的に反応しないものが多いため、当該析出物の表面には、上記処理による防食層が形成されない。しかし、析出物の周囲に存在するマグネシウム合金と処理液との反応により、析出物の周囲を覆うように防食層が形成されることで、析出物の少なくとも一部が防食層に覆われ、一部が露出した状態になる。この結果、防食層中に析出物の粒子が介在した状態になる。そして、これら析出物のうちの一部の粒子は、一部が基材に接触又は埋設し、同じ粒子の他の一部が上記防食層に覆われきれず露出した表出粒子として存在する。
上記溶体化工程以降、上記防食層を具える最終製品を得るまでの工程において、素材を150℃以上300℃以下の温度域に保持する総合計時間が0.5時間〜12時間、好ましくは1時間〜6時間となるように熱履歴を制御すると共に、素材を300℃超の温度に加熱しないようにする。主として、上述のように加熱を行う圧延、熱処理や矯正などの工程において熱履歴を制御する。従来、溶体化処理以降、最終製品までの工程において、素材を150℃〜300℃の温度域に保持する総合計時間をどの程度にするか十分に検討されていなかった。これに対して、上述のように析出物が生成され易かったり、生成物が成長し易い上記温度域の保持時間を特定の範囲に制御することで、特定の大きさの微細な析出物が特定の存在量で分散して存在する組織を有する上記基材が得られる。
マグネシウム合金板を作製して基材とし、この基材の表面に防食処理を施して防食層を具えるマグネシウム合金部材(ここでは板状材)を作製し、基材の金属組織、防食層の組織、抵抗値、表面粗さを調べた。
(圧延条件)
加工度(圧下率):5%/パス〜40%/パス
板の加熱温度:250℃〜280℃
ロール温度:100℃〜250℃
エッチング:5%リン酸溶液の攪拌下、60℃、処理時間は上記の通り。
脱スマット:15%NaOH溶液の攪拌下、60℃,10分
化成処理:ミリオン化学株式会社製商品名 グラインダー MC-1000(リン酸カルシウム・マンガン皮膜化成剤)、処理液温度35℃,浸漬時間60秒
乾燥:120℃,20分
Claims (6)
- Alを5質量%以上含有するマグネシウム合金からなる基材と、この基材の表面に防食処理により形成された防食層とを具えるマグネシウム合金部材であって、
前記基材中に、析出物の粒子が分散して存在しており、
前記析出物の粒子の平均粒径が50nm以上1500nm以下であり、
前記マグネシウム合金部材の断面において、前記基材中における前記析出物の粒子の合計面積の割合が1%以上20%以下であり、
前記マグネシウム合金部材の断面において、前記析出物の粒子のうち、前記基材から前記防食層中を経て前記防食層の表面に一部が露出して存在する粒子を表出粒子とするとき、前記防食層の面積に対する前記表出粒子の合計面積の割合が10%以上であり、
前記表出粒子は、Al及びMgの少なくとも一方を含む金属間化合物であるマグネシウム合金部材。 - 前記表出粒子は、Mg 17 Al 12 およびAl 6 (MnFe)の少なくとも一方である請求項1に記載のマグネシウム合金部材。
- 前記防食層の表面粗さが算術平均粗さRaで0.2μm以上である請求項1又は請求項2に記載のマグネシウム合金部材。
- 前記防食層の平均厚さが50nm以上500nm以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
- 前記基材は、Alを7.5質量%超12質量%以下含有する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
- 前記防食層の抵抗値が0.1Ω・cm以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
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