JP5578324B2 - マグネシウム合金部材 - Google Patents

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Description

本発明は、電気・電子機器の筐体といった各種の構成部品に適したマグネシウム合金部材に関するものである。特に、耐食性に優れる上に、低抵抗であるマグネシウム合金部材に関するものである。
携帯電話やノート型パーソナルコンピュータといった携帯用や小型な電気・電子機器類の筐体などの構造部品の材料に、軽量で、比強度、比剛性が高いマグネシウム合金が検討されている。マグネシウム合金からなる部材は、ダイカスト法やチクソモールド法による鋳造材(ASTM規格のAZ91合金)が主流であり、近年、ASTM規格のAZ31合金に代表される展伸用マグネシウム合金からなる板にプレス加工を施した部材が使用されつつある。特許文献1では、AZ91合金からなる圧延板を特定の条件で作製し、この板にプレス加工を施すことを開示している。
マグネシウム合金は、一般に、特許文献1に開示されるように耐食性を向上するために化成処理や陽極酸化処理といった防食処理が施される。また、合金組成を調整することでも、耐食性を向上することができる。例えば、AZ91合金は、AZ31合金よりもAlを多く含有することで、耐食性に優れる。
国際公開第2008/029497号
しかし、防食処理を施すことで、表面抵抗が高くなることがある。
例えば、化成処理を施して形成される化成処理層は、代表的にはリン酸化合物といった絶縁物で構成されているため、抵抗値が高い。
ここで、電気・電子機器の筐体には、アース(接地)をとることが望まれる場合がある。この場合、筐体の表面は、電気抵抗(表面抵抗)が低いことが望まれる。しかし、従来のマグネシウム合金部材では防食層を具えることで、抵抗値が高くなることがある。防食層を施さない、或いは防食層を非常に薄くすることで、抵抗値を下げられるが、マグネシウム合金部材の耐食性が低下する。従って、防食層を具えるマグネシウム合金部材であって、抵抗値が低いものの開発が望まれる。
そこで、本発明の目的は、耐食性に優れると共に、低抵抗なマグネシウム合金部材を提供することにある。
本発明者らは、マグネシウム合金自体の耐食性を高めるために、マグネシウム合金として、Alを5質量%以上含有するものを用い、かつプレス加工などの塑性加工を施して、種々の形状の構成部品が形成できるように板状材を対象として、種々の製造方法を検討した。そして、得られた板状材に防食処理を施して、防食層の状態、耐食性などを調べたところ、特定の製造条件で作製した板状材、及びこの板状材に特定の条件で前処理を施した後、防食処理を施した場合、耐食性に優れる上に低抵抗である、との知見を得た。
具体的には、防食層の形成後において耐食性が高いマグネシウム合金部材を調べたところ、マグネシウム合金からなる基材は、例えば、Mg17Al12、Al6(MnFe)といったMg及びAlの少なくとも一方を含む金属間化合物(所謂β相)などからなる粒状の析出物がある程度存在しており、かつこの析出物の粒子が比較的小さく、均一的に分散しており、5μm以上といった粗大な粒子が実質的に存在していなかった。そこで、上記析出物の粒径及びその存在量を制御する、即ち、上述のような粗大な析出物が生成されないようにすると共に、ある程度の量の微細な析出物を生成する製法を検討した。その結果、鋳造以降、特に溶体化処理以降、最終製品となるまでの製造工程において、マグネシウム合金からなる素材を特定の温度域に保持する総合計時間が特定の範囲となるように製造条件を制御することが好ましい、との知見を得た。
また、金属間化合物などの微細な析出物が均一的に分散した素材にエッチング処理を含む前処理を施した後、防食処理を施したところ、エッチング処理の条件によって、防食層中に複数の析出物の粒子が介在した状態となる、との知見を得た。そして、低抵抗なマグネシウム合金部材を調べたところ、防食層中に上述のように析出物の粒子が介在しており、かつこれら介在する粒子のうち、少なくとも一部の粒子は、粒子の一部が基材に接触或いは埋設され、同じ粒子の別の一部が防食層中に埋設され、更に同じ粒子の別の一部が防食層の表面から露出された状態のもの(後述する表出粒子)が存在していた。
本発明は、上記知見に基づくものである。本発明のマグネシウム合金部材は、Alを5質量%以上含有するマグネシウム合金からなる基材と、この基材の表面に防食処理により形成された防食層とを具える。上記基材中には、析出物の粒子が分散して存在しており、これら析出物の粒子の平均粒径が50nm以上1500nm以下である。また、上記マグネシウム合金部材の断面において、上記基材中における上記析出物の粒子の合計面積の割合が1%以上20%以下である。更に、上記マグネシウム合金部材の断面において、上記析出物の粒子のうち、上記基材から上記防食層中を経て上記防食層の表面に一部が露出して存在する粒子を表出粒子とするとき、上記防食層の面積に対する上記表出粒子の合計面積の割合が10%以上である。
本発明マグネシウム合金部材に具える基材は、特定量の析出物(マグネシウム合金中の添加元素を含有するもの。代表的には金属間化合物、より具体的にはAl及びMgの少なくとも一方を含む金属間化合物)が分散して存在する組織を有する。特に、これら析出物はいずれも非常に微細で、粗大なものが実質的に存在しない。この組織は、粗大な析出物の存在や析出物の過剰な析出によりマグネシウム合金中の添加元素(代表的にはAl)の固溶量の低下が少なく、その結果、Alといった添加元素の固溶量の低下に伴うマグネシウム合金自体の耐食性の低下が少なく、耐食性に優れる。また、金属間化合物といった析出物自体は母材のマグネシウム合金よりも耐食性に優れる傾向にあるため、これらが分散した組織であることで、母材の腐食の進行を抑制でき、この点からも本発明マグネシウム合金部材は耐食性に優れると考えられる。
その他、微細な析出物が分散して存在する組織であることで、析出物の分散強化による剛性の向上、及びAlといった添加元素の固溶量の低下を抑制したことによる強度の維持により、上記基材は、衝撃を受けても凹み難く、耐衝撃特性にも優れる。更に、上記組織を有する圧延板などは、粗大な析出物が起因となる割れなどが生じ難く塑性加工性にも優れ、プレス加工といった塑性加工を容易に施せる。従って、上記特定の組織を有する圧延板などを素材として上記塑性加工を施すことで、本発明マグネシウム合金部材の一形態として、種々の形状の成形体(塑性加工材)とすることができる。なお、本発明マグネシウム合金部材の一形態として、上記圧延板などの板状材である場合、その全体が上記微細な析出物が分散した組織を有する。一方、本発明マグネシウム合金部材が上記塑性加工材であって、塑性変形に伴う変形が少ない箇所(代表的には平坦な部分)を有する場合、当該変形が少ない箇所の組織は、塑性加工前の圧延板といった素材の組織(上記微細な析出物が分散した組織)を概ね維持する。
そして、本発明マグネシウム合金部材は、基材中のみならず防食層中にも、析出物の粒子、代表的には、金属間化合物といった導電性を有する粒子が存在する。即ち、防食層中に、当該防食層の構成材料よりも低抵抗である析出物の粒子、特に上述した表出粒子が存在する。防食層中にこのような析出物の粒子が介在することで、防食層が絶縁物で構成されていても、当該粒子の存在により防食層の見かけの抵抗値が下がる。或いは、主として金属からなる基材からこの粒子を経て防食層の表面に亘って、この粒子により導通をとることができる。即ち、析出物の粒子自体を導通パスに利用できる。いずれにしても、防食層の見かけの抵抗値が小さくなる。従って、本発明マグネシウム合金部材を電気・電子機器の筐体などに利用して、当該筐体にアースをとることが望まれる場合にその要求特性(代表的には抵抗値が0.1Ω・cm以下)を十分に満たすことができる。かつ、防食層中に、上述のように耐食性に優れる析出物が介在することで、耐食性をも向上できる。
本発明の一形態として、上記防食層の表面粗さが算術平均粗さRaで0.2μm以上である形態が挙げられる。
本発明マグネシウム合金部材は、防食層の表面に少なくとも一つの析出物(代表的には金属間化合物)の一部が露出した状態であるため、その表面は凹凸になり易い。特に、防食層の表面粗さが算術平均粗さRaで0.2μm以上であれば、析出物の粒子が十分に露出しており、当該防食層の抵抗値が低い状態になる。また、防食層の表面に微細な凸部分が多数存在することで、アース用電極を取り付ける際の圧力により、これら凸部分が電極に押し潰され、局所的に防食層が薄くなった領域が形成されたり、或いは防食層が破壊されて電極と母材のマグネシウム合金又は析出物とが直接接触する状態となったりすることで、結果として接触面圧が高まり、防食層の抵抗値が低い状態になると考えられる。従って、防食層中に低抵抗な析出物が存在すること、及び表面粗さが特定の範囲を満たすことの双方の相乗効果により、上記形態は、防食層の表面抵抗を効果的に低減できると考えられる。防食層の表面粗さは、Raで0.4μm以上が好ましく、特に上限は設けない。
なお、基材表面に防食処理を施すにあたり、前処理としてエッチングなどを行うことで、基材表面がある程度粗くなり、この上に防食層が形成されると、基材の表面形状に倣って、防食層の表面も粗くなり易く、上述のような微細な凸部が多数存在する状態になり得る。上述のように基材中に微細な析出物が分散して存在する組織を有する場合、上記凸部は、析出物の少なくとも一部が露出されることで形成され易い。一方、微細な析出物が実質的に存在しない場合でも、母材自体が荒れた状態となり得る。そして、基材表面の凸部が上述のようにアース用電極により押し潰されて、局所的に防食層が薄くなったり、破壊されるなどして、防食層の抵抗値が低い状態を形成し得ると考えられる。つまり、表面粗さがある程度大きいことで、電極と確実に接触する箇所が多くなるため、防食層の抵抗値が下がると考えられる。従って、添加元素が少ない組成(例えば、AZ31合金など)などからなるマグネシウム合金であって上記微細な析出物が実質的に存在しない、或いは十分に存在しない場合であっても、防食層の表面粗さを上記のように粗くすることで、接触面圧を高めて防食層の表面抵抗(接触抵抗)を低減できると期待される。
本発明の一形態として、上記防食層の平均厚さが50nm以上500nm以下である形態が挙げられる。
上記形態によれば、平均粒径が50nm以上の析出物の粒子の一部が防食層の表面から十分に露出することができる。また、上述のように特定の組織で構成されることで基材自体が耐食性に優れるため、防食層の厚さが上記のようにナノオーダーといった非常に薄いものでも耐食性に優れる。防食層がこのように薄いことで、(1)形成時間が短い、(2)衝撃時などでクラックが生じ難い、(3)最終製品の寸法や外観に影響を与え難い、といった効果も相する。防食層の厚さは、クラックの発生などを考慮すると薄い方が好ましく、400nm以下、更に300nm以下、特に200nm以下がより好ましい。防食層の厚さは、防食処理の処理時間(処理液への浸漬時間)を調整することで容易に変化させられる。
上述のように防食層の表面粗さを調整することで低抵抗化が図れると期待されることから、基材を構成するマグネシウム合金は、種々の元素を添加元素とするマグネシウム合金(残部Mg及び不純物)、或いは純マグネシウムが適用できると期待される。特に、本発明では、耐食性に優れるAlを添加元素に少なくとも含有するMg-Al系合金とする。Alを5質量%以上含有することで、マグネシウム合金自体の耐食性を高められる上に、β相といった金属間化合物を十分に析出できる。また、Alを5質量%以上含有することで、強度、耐塑性変形性といった機械的特性にも優れる。
本発明の一形態として、上記基材がAlを7.5質量%超12質量%以下含有する形態が挙げられる。
Al量が多いほど、耐食性、強度などの機械的特性に優れる傾向にある。従って、上記形態によれば、耐食性に非常に優れる上に機械的特性にも優れる。Alの含有量が12質量%を超えると塑性加工性の低下を招き、圧延時などに素材を高温に加熱する必要があるため、上限を12質量%とする。11質量%以下がより好ましい。
Al以外の添加元素は、Zn,Mn,Si,Be,Ca,Sr,Y,Cu,Ag,Sn,Li,Zr,Ce,Ni,Au及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択される少なくとも1種の元素が挙げられる。不純物は、例えば、Feなどが挙げられる。Al以外の各元素の含有量は、0.01質量%以上10質量%以下、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下が挙げられる。
Mg-Al系合金のより具体的な組成は、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg-Al-Zn系合金、Zn:0.2質量%〜1.5質量%)、AM系合金(Mg-Al-Mn系合金、Mn:0.15質量%〜0.5質量%)、Mg-Al-RE(希土類元素)系合金、AX系合金(Mg-Al-Ca系合金、Ca:0.2質量%〜6.0質量%)、AJ系合金(Mg-Al-Sr系合金、Sr:0.2質量%〜7.0質量%)などが挙げられる。
Alを7.5質量%超〜12質量%含有する形態、特に8.3質量%〜9.5質量%含有する形態は、耐食性及び強度の双方により優れる。Alを8.3質量%〜9.5質量%含有する合金として、更にZnを0.5質量%〜1.5質量%含有するMg-Al-Zn系合金、代表的にはAZ91合金が挙げられる。
Alを5質量%以上含有し、かつY,Ce,Ca,及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択される少なくとも1種の元素を合計0.001質量%以上、好ましくは合計0.1質量%以上5質量%以下含有するマグネシウム合金、或いはAlが5質量%未満(0%を含む)で、上記希土類元素やCaを上記特定の範囲で含有するマグネシウム合金は、耐熱性、難燃性に優れる。希土類元素を含有する場合、その合計含有量は0.1質量%以上が好ましく、特に、Yを含有する場合、その含有量は0.5質量%以上が好ましい。
本発明の一形態として、上記表出粒子がAl及びMgの少なくとも一方を含む金属間化合物である形態が挙げられる。
上記形態によれば、防食層中に存在する析出物が導電性に優れる金属間化合物であることで、低抵抗なマグネシウム合金部材となる上に、母材のマグネシウムよりも耐食性に優れることで、耐食性にも優れるマグネシウム合金部材となる。
本発明マグネシウム合金部材は、耐食性に優れる上に、表面抵抗が小さい。
図1は、マグネシウム合金部材の断面の顕微鏡写真(5000倍)であり、図1(A)は、試料No.100、図1(B)は、試料No.110、図1(C)は、試料No.1を示す。
以下、本発明をより詳細に説明する。
[マグネシウム合金部材]
<基材>
(組成)
上記基材を構成するマグネシウム合金の添加元素については、先に詳細に説明している。
(形態)
上記基材は、板状材や、この板状材に、曲げ加工、絞り加工、打抜加工といったプレス加工などの塑性加工を施した成形体が挙げられる。所望の用途に応じて、基材の大きさ(面積、容積)や厚さ、形状を選択するとよい。特に、厚さが2.0mm以下、更に1.5mm以下、とりわけ1mm以下であると、薄型、軽量の部品(代表的には筐体)に好適に利用することができる。
上記成形体は、代表的には、天板部(底面部)と、天板部の周縁から立設される側壁部とを有する断面]状の箱体や]状の枠体、天板部が円板状で、側壁部が円筒状の有蓋筒状体などが挙げられる。上記天板部などや上記板状材は、ボスなどを一体に成形又は接合していたり、表裏に貫通する孔や厚さ方向に凹んだ溝を有していたり、段差形状になっていたり、塑性加工や切削加工などにより局所的に厚さが異なる部分を有していてもよい。
(析出物)
上記基材は、平均粒径が50nm〜1500nmといった微細な析出物、代表的には、Mg17Al12などのMgやAlを含む金属間化合物(Mg17Al12に限定されない)からなる粒子が分散した組織を有し、基材の断面において基材全体を100面積%とするとき、上記析出物が1面積%〜20面積%存在する。析出物の平均粒径が50nm以上、かつ析出物の含有量が1面積%以上であることで、上記基材中に析出物が十分に存在して耐食性などに優れ、析出物の平均粒径が1500nm以下、かつ析出物の含有量が20面積%以下であることで、上記基材中に析出物が過剰に存在せず、母材中にもAlなどの添加元素が固溶されており、耐食性に優れる上に、割れなどの起点になり得る粗大な析出物が実質的に存在せず、耐衝撃性にも優れる。上記平均粒径は、100nm以上500nm以下、析出物の含有量は、3面積%以上15面積%以下、更に5面積%以上10面積%以下がより好ましい。平均粒径や面積割合は、後述する熱履歴により変化させることができる。
<防食層>
(組成)
本発明マグネシウム合金部材に具える防食層は、化成処理又は陽極酸化処理により形成される。両処理のいずれも処理液には、JIS H 8651(1995)に規定されるもの、その他、市販のものを利用することができる。例えば、化成処理液は、JIS H 8651(1995)に規定されるクロム(Cr)を含むもの(クロメート処理液)が汎用されているが、リン酸マンガン・カルシウム系溶液、リン酸カルシウム系溶液などのリン酸溶液といったノンクロム系処理液を利用すると、環境保全の観点から好ましい。処理液の種類に応じて、形成される防食層の組成が異なる。例えば、リン酸マンガン・カルシウム系溶液を用いた場合、マンガン及びカルシウムのリン酸化合物を主成分とする防食層が形成される。一般的な陽極酸化処理では、10μm程度の比較的厚い防食層が形成されることが多いため、薄い防食層を形成可能な処理液を利用することが好ましい。これに対して、化成処理では、0.5μm以下といった薄い防食層を形成可能であり、利用し易い。
(厚さ)
防食層の厚さは、上述のように処理時間により調整することができ、上述のように50nm以上500nm以下が好ましい。
(組織)
そして、本発明では、上記基材中に存在する金属間化合物などの析出物と同様の組成からなる析出物が防食層中にも上述した特定の割合で存在していることを最大の特徴とする。基材中に存在する析出物のうち、一部が基材に接触又は埋設し、同じ粒子における別の一部が防食層から露出する表出粒子が本発明マグネシウム合金部材の低抵抗化に寄与すると期待される。従って、表出粒子は、少なくとも防食層の厚さと同程度の大きさを有することが好ましいと考えられる。但し、表出粒子が大き過ぎると防食層からの露出部分が大きくなり過ぎて、防食層から脱落して防食層に欠陥が生じ、耐食性を低下させる恐れがある。そのため、基材中に存在する粒子と同様に、表出粒子もその平均粒径が50nm〜1500nm程度のものが好ましいと考えられる。
なお、「防食層から一部が露出する粒子」とは、断面を顕微鏡写真で観察したとき、防食層から明らかに露出している箇所を有する粒子、その他、防食層中の粒子において防食層の厚さ方向の大きさが防食層の平均厚さと同等以上の場合、この粒子も上記一部が露出する粒子として扱う。
表出粒子の合計面積の割合が10%以上であることで、導通パスとして機能する金属間化合物などの析出物が十分に存在し、防食層の表面抵抗が小さくなり易い。表出粒子の絶対量自体は、後述するように基材中に存在していた金属間化合物などの析出物の粒子の量に依存する。そのため、防食層の平均厚さを500nm以下とすると、表出粒子の合計面積割合の上限値は30%程度になる。表出粒子の面積割合が20%以下程度であることで、表出粒子が防食層から脱落し難く、防食層中に十分に存在できると考えられる。
(表面状態)
防食層の表面粗さは、上述のようにある程度粗いことで、防食層の低抵抗化に寄与することができて好ましい。
[製造方法]
上記特定の組織を有する基材及び防食層を具える本発明マグネシウム合金部材は、例えば、以下の各工程を具える製造方法により製造することができる。
準備工程:Alを5質量%以上含有するマグネシウム合金からなり、連続鋳造法で製造した鋳造板を準備する工程。
溶体化工程:上記鋳造板に350℃以上の温度で溶体化処理を施して、固溶板を製造する工程。
圧延工程:上記固溶板に温間圧延を施し、圧延板を製造する工程。
特に、溶体化工程以降の製造工程において、加工対象である素材板(代表的には圧延板)を150℃以上300℃以下の温度域に保持する総合計時間を1時間以上12時間以内とすると共に、300℃超の温度に加熱しないように、上記素材板の熱履歴を制御する。
前処理工程:上記圧延板にエッチング処理を施して、当該圧延板中に存在する析出物の粒子の少なくとも一部を当該圧延板の表面に露出させる工程。
特に、上記エッチング処理は、上記圧延板の厚さ方向に5μm超15μm以下の表層部分が除去されるように、処理条件を調整する。
防食処理工程:上記前処理が施された処理板に防食処理を施す工程。
更に、上記製造方法は、上記前処理(エッチング処理)を施す前に、上記圧延板に矯正を施す矯正工程を具えることができる。この矯正工程では、上記圧延板を100℃以上300℃以下に加熱した状態で矯正を行う温間矯正を施すと、当該圧延板に割れなどが生じ難く、平坦で、プレス加工などの塑性加工性に優れる素材を得易く好ましい。特に、この矯正工程における圧延板を150℃以上300℃以下の温度域に保持する時間が、上記総合計時間に含まれるようにする。
或いは、上記製造方法は、(1)上記圧延工程の後、又は(2)上記防食処理工程の後、又は(3)上記矯正工程を具える場合は上記矯正工程の後の適宜なときに、各工程により得られた素材にプレス加工などの塑性加工を施す塑性加工工程を具えることができる。この製造方法は、本発明マグネシウム合金部材を上述した箱体などの塑性加工材(成形体)や一部に塑性加工部を具える形態とする場合に好適に利用することができる。塑性加工工程を具えない上述の製造方法は、本発明マグネシウム合金部材を板状材とする場合に好適に利用することができる。上記塑性加工工程は、上記防食処理工程より先に行うと、塑性加工による防食層の損傷を防止できる。防食処理工程後に上記塑性加工工程を行うと、防食処理の対象が板といった単純な形状のものとなるため、防食処理の作業性に優れる。
上述のように、溶体化処理を行うことでマグネシウム合金中にAlなどの添加元素を十分に固溶させられる。そして、溶体化処理以降の製造工程(例えば、圧延など)において、マグネシウム合金からなる素材を、析出物が析出され易い温度域(150℃〜300℃)に保持する時間を特定の範囲内とすることで、析出物を析出させつつ、その量を特定の範囲内とすることができる。また、上記特定の温度域に保持する時間を制御することで、上記析出物の過度な成長を抑制して、微細な析出物が分散した組織とすることができる。
以下、製造方法における各工程をより詳しく説明する。
(準備工程)
鋳造板は、双ロール法といった連続鋳造法、特に、WO/2006/003899に記載の鋳造方法で製造した鋳造板を利用することが好ましい。連続鋳造法は、急冷凝固が可能であるため、酸化物や偏析などを低減でき、圧延性に優れる鋳造板が得られる。鋳造板の大きさは特に問わないが、厚過ぎると偏析が生じ易いため、10mm以下、特に5mm以下が好ましい。
(溶体化工程)
上記鋳造板に溶体化処理を施して、組成を均質化すると共に、Alといった添加元素を固溶させた固溶板を製造する。溶体化処理は、保持温度を350℃以上、特に、保持温度:380℃〜420℃、保持時間:60分〜2400分(1時間〜40時間)とすることが好ましい。保持時間は、Alの含有量が高いほど長くすることが好ましい。また、上記保持時間からの冷却工程において、水冷や衝風といった強制冷却などを利用して、冷却速度を速めると(好ましくは50℃/min以上)、粗大な析出物の析出を抑制することができて好ましい。
(圧延工程)
上記固溶板には、少なくとも1パスの温間圧延を施す。素材(固溶板や圧延途中の板)を加熱することで塑性加工性を高められ、圧延時に割れなどの発生を抑制できる。素材の加熱温度が高いほど、塑性加工性を高められるものの、高過ぎると、150℃〜300℃の温度域の保持時間が過度に長くなり、上述のように析出物の過度な成長や過度の析出を招いたり、Alの固溶量の低下による耐食性の低下を招いたり、素材の焼き付きが発生したり、素材の結晶粒が粗大化して圧延後の板の機械的特性が低下したりする。そのため、圧延工程において素材の加熱温度も300℃以下とすることが好ましく、150℃以上280℃以下がより好ましい。複数回(多パス)の圧延を施すことで、所望の板厚にできると共に、素材の平均結晶粒径を小さくしたり(例えば、10μm以下)、圧延やプレス加工といった塑性加工性を高められる。圧延は、公知の条件、例えば、素材だけでなく圧延ロールも加熱したり、特許文献1に開示されるノンプレヒート圧延や制御圧延などを組み合わせて利用してもよい。仕上げ圧延などで、圧下率が小さい圧延を行う場合は、冷間圧延とすることができる。上記圧延は、潤滑剤を適宜利用すると、圧延時の摩擦抵抗を低減でき、素材の焼き付きなどを防止して、圧延を施し易い。
多パスの圧延を行う場合、上述した150℃〜300℃の温度域の保持時間が上記総合計時間に含まれる範囲で、パス間に中間熱処理を行ってもよい。中間熱処理までの塑性加工(主として圧延)により加工対象である素材に導入された歪みや残留応力、集合組織などを除去、軽減すると、その後の圧延で不用意な割れや歪み、変形を防止して、より円滑に圧延を行える。中間熱処理を行う場合も保持温度を300℃以下とすることで、析出物の成長を抑制することができる。好ましい保持温度は、250℃以上280℃以下である。
(矯正工程)
上記圧延工程により得られた圧延板に、特許文献1に記載されるように最終熱処理(最終焼鈍)を施すことができるが、この最終熱処理を施さず、上述のように矯正(代表的には温間矯正)を施す方がプレス加工といった塑性加工性に優れる素材が得られて好ましい。矯正処理には、圧延板に連続的に曲げ(歪)を付与するために複数のロールが上下に対向して千鳥状に配置されたロール部を具えるロールレベラ装置を好適に利用できる。温間矯正を行う場合、圧延板を加熱可能な加熱炉を利用して、圧延板を100℃〜300℃、好ましくは150℃以上280℃以下に加熱した状態で上記ロール部に導入することが挙げられる。得られた矯正板は平坦になると共に、圧延時に導入された歪み量が調整されてプレス加工といった塑性加工を施すと、塑性加工時に動的再結晶化が生じ、塑性加工性に優れる。矯正工程においても、上述した150℃〜300℃の温度域の保持時間が上記総合計時間に含まれるように、加熱時間などを調整する。なお、圧延により比較的薄くなった素材に対して矯正加工を施すことで、矯正工程における上記保持時間を非常に短くすることができる。例えば、素材の厚さによっては上記保持時間を数分程度、更に1分以内とすることができる。
(塑性加工工程)
上記圧延板や、上記圧延板に上記最終熱処理を施した熱処理板、上記圧延板に上記矯正を施した矯正板、圧延板・熱処理板・矯正板のいずれかに後述する防食処理を施した防食板(本発明マグネシウム合金部材の一形態)にプレス加工といった塑性加工を施す場合、200℃〜300℃の温度域で行うと、素材の塑性加工性を高められて好ましい。なお、塑性加工時における素材を上記200℃〜300℃に保持する時間は、一般に、上述した析出物の粗大化などの不具合が実質的に生じない程度の短時間であり、上記総合計時間に含めない。
上記塑性加工後に熱処理を施して、塑性加工により導入された歪みや残留応力の除去、機械的特性の向上を図ることができる。この熱処理条件は、加熱温度:100℃〜300℃、加熱時間:5分〜60分程度が挙げられる。但し、この熱処理においても150℃〜300℃の温度域の保持時間が上記総合計時間に含まれるようにする。
(前処理工程)
上述した圧延板、熱処理板、矯正板、塑性加工材のいずれかの素材に防食処理を施すにあたり、素材中の金属間化合物などの析出物の粒子を表出させるために、素材に少なくともエッチング処理を前処理として施す。エッチング処理には、マグネシウム合金に化成処理や陽極酸化処理を施す前に行われる前処理(脱脂、エッチング、脱スマット、表面調整など)で利用される処理液と同様のもの、その他、市販品を利用することができる。本発明者らが調べたところ、上記圧延板などの素材に対して、その表層部分(厚さ方向に5μm超〜15μmの領域)が除去されるように、エッチングに用いる処理液の種類や濃度、処理時間(浸漬時間)を調整することが好ましい、との知見を得た。上記表層部分を除去することで、上記素材の表面をRaで0.2μm以上といった比較的粗い状態とすることができる。また、上記素材中に上記粒子が存在する場合、上記表層部分を除去することで、当該粒子が十分に表出することができる。圧延直後や矯正直後などの前処理前の素材(代表的には圧延板)の最表面及び最表面から当該板の厚さ方向に5μmまでの表面領域は、内部に比較して冷却速度が速いことから、析出物が存在していない、或いは十分に存在していない、と考えられる。そこで、上記圧延板などの素材の厚さ方向に少なくとも5μm超、好ましくは5μm以上がエッチングにより除去されるように、処理液の種類や濃度、処理時間を調整する。処理液の濃度が高かったり、処理時間が長過ぎたりすると、母材を過度に失うため、エッチングによる除去量の上限は15μmとする。
なお、前処理工程では、エッチング処理だけでなく、脱脂、エッチング、脱スマットや表面調整を行うことがより好ましい。このような前処理を行うことで、圧延時や塑性加工時などに使用した潤滑剤などを除去することができ、防食層を精度良く形成できる上に、基材と防食層とを密着させることができる。また、上記前処理前に研磨などを施すと、素材表面の酸化物層などを除去することができる。
(防食処理工程)
上記前処理が施されて、表面に金属間化合物などの析出物の粒子の少なくとも一部が表出された上記圧延板などの素材に化成処理や陽極酸化処理といった防食処理を施す。ここで、上記金属間化合物などの析出物は、防食処理の処理液と実質的に反応しないものが多いため、当該析出物の表面には、上記処理による防食層が形成されない。しかし、析出物の周囲に存在するマグネシウム合金と処理液との反応により、析出物の周囲を覆うように防食層が形成されることで、析出物の少なくとも一部が防食層に覆われ、一部が露出した状態になる。この結果、防食層中に析出物の粒子が介在した状態になる。そして、これら析出物のうちの一部の粒子は、一部が基材に接触又は埋設し、同じ粒子の他の一部が上記防食層に覆われきれず露出した表出粒子として存在する。
なお、上記析出物の外周前面が防食層に完全に覆われた状態になることもあるが、析出物において最表面側に近い箇所の防食層は薄くなり易く、上述のようにアース用電極の取り付けの際の加圧により、当該箇所の防食層が破壊するなどして、防食層の抵抗値を低減できると期待される。
(素材を特定の温度域に保持する総合計時間)
上記溶体化工程以降、上記防食層を具える最終製品を得るまでの工程において、素材を150℃以上300℃以下の温度域に保持する総合計時間が0.5時間〜12時間、好ましくは1時間〜6時間となるように熱履歴を制御すると共に、素材を300℃超の温度に加熱しないようにする。主として、上述のように加熱を行う圧延、熱処理や矯正などの工程において熱履歴を制御する。従来、溶体化処理以降、最終製品までの工程において、素材を150℃〜300℃の温度域に保持する総合計時間をどの程度にするか十分に検討されていなかった。これに対して、上述のように析出物が生成され易かったり、生成物が成長し易い上記温度域の保持時間を特定の範囲に制御することで、特定の大きさの微細な析出物が特定の存在量で分散して存在する組織を有する上記基材が得られる。
上記150℃〜300℃の温度域に保持する総合計時間を1時間以上とすることで、析出物が十分に析出され、12時間以下としたり、素材の最大加熱温度を300℃以下としたりすることで、平均粒径が1μmを超える粗大な析出物が存在した組織や析出物の面積割合が20面積%超である、析出物が過剰に存在した組織にならない。好ましくは、温度域:150℃以上280℃以下、総合計時間:6時間以下となるように、圧延工程における各パスの加工度や圧延工程の総加工度、中間熱処理時の条件、矯正時の条件などを制御する。また、Alなどの添加元素の含有量が多いほど、析出物が析出し易いため、上記総合計時間は、Alなどの添加元素の含有量に応じても調整することが好ましい。
上記防食処理が施された素材においてアース用電極を取り付けない箇所には、保護や装飾などを目的として塗装を行うことができる。塗装層を具える形態とすることで、耐食性を更に向上したり、商品価値を高めたりすることができる。
[試験例]
マグネシウム合金板を作製して基材とし、この基材の表面に防食処理を施して防食層を具えるマグネシウム合金部材(ここでは板状材)を作製し、基材の金属組織、防食層の組織、抵抗値、表面粗さを調べた。
基材は、鋳造→溶体化処理→圧延(温間)→矯正(温間)→研磨→前処理→防食層の形成、という工程により作製する。
この試験では、AZ91合金相当の組成(Mg-9.0%Al-1.0%Zn(全て質量%))を有するマグネシウム合金からなり、双ロール連続鋳造法により得られた鋳造板(厚さ4mm)を複数用意した。得られた各鋳造板に、400℃×24時間の溶体化処理を施した。溶体化処理を施した固溶板に以下の圧延条件で、厚さが0.6mmになるまで複数回圧延を施した。
(圧延条件)
加工度(圧下率):5%/パス〜40%/パス
板の加熱温度:250℃〜280℃
ロール温度:100℃〜250℃
圧延工程の各パスにおいて、圧延対象となる素材の加熱時間及び圧延速度(ロール周速)を調整することで、素材が150℃〜300℃の温度域に保持される総合計時間が6時間程度となるようにした。
得られた圧延板を220℃に加熱した状態で、ロールレベラ装置を用いて、温間矯正を施して、矯正板を作製した。この矯正工程において素材が150℃〜300℃の温度域に保持される時間は数分程度と非常に短く、この矯正工程を含めた素材が150℃〜300℃の温度域に保持される総合計時間は、6時間であり、12時間以下である。
得られた矯正板に、更に、#600の研磨ベルトを用いて湿式ベルト式研磨を施して、矯正板の表面を研磨により平滑化して、研磨板を作製した。
得られた研磨板に、脱脂→エッチング→脱スマットという手順で前処理を施した後、化成処理→乾燥という手順で防食層を形成した。具体的な条件を以下に示す。この試験では、エッチング処理にあたり、後述のように処理液に酸溶液を用いると共に、試料ごとに処理液に素材を浸漬する時間を異ならせた。具体的には浸漬時間を、試料No.100:50秒、試料No.110:70秒、試料No.1:90秒とした。そして、予めエッチング前の素材の平均厚さを測定しておき、エッチング後、各試料の素材の平均厚さをそれぞれ調べ、エッチングにより除去された素材の厚さを求めたところ、試料No.100:4μm、試料No.110:5μm、試料No.1:7μmであった。この結果から、エッチング時の処理時間(浸漬時間)が長くなるほど、除去量が多くなっていることが分かる。
脱脂:15%NaOHとノニオン系界面活性剤0.5%溶液の攪拌下、70℃,5分
エッチング:5%リン酸溶液の攪拌下、60℃、処理時間は上記の通り。
脱スマット:15%NaOH溶液の攪拌下、60℃,10分
化成処理:ミリオン化学株式会社製商品名 グラインダー MC-1000(リン酸カルシウム・マンガン皮膜化成剤)、処理液温度35℃,浸漬時間60秒
乾燥:120℃,20分
上記工程により、マグネシウム合金からなる基材の表面に防食層を具えるマグネシウム合金部材(ここでは、板状材)が得られる。
得られた試料No.1,100,110のマグネシウム合金部材をそれぞれ板厚方向に切断して断面をとり、その断面を走査型電子顕微鏡:SEM(5000倍)で観察した。図1(A)に試料No.100の観察像、図1(B)に試料No.110の観察像、図1(C)に試料No.1の観察像を示す。図1において、下方側の薄い灰色の領域が基材であり、基材中に存在する更に薄い灰色の小さい粒状体が析出物である。基材上に存在する濃い灰色の帯状の領域が防食層(ここでは化成処理層)であり、防食層中の粒状体は析出物である。防食層の存在やその組織は、顕微鏡観察を行うことで、このように簡単に確認することができる。
図1に示すように、いずれの試料も、マグネシウム合金の基材中に微細な析出物の粒子が分散した組織を有すること、防食層が薄いことが分かる。また、防食層中にも析出物の粒子が介在していることが分かる。特に、同じ処理液を用いていながら、エッチング時の処理時間が長かった試料No.1は、防食層中に介在する析出物の粒子が多く、そのうちの一部の粒子は、当該粒子の一部が防食層の表面から露出していることが分かる。
上記断面において、基材中の析出物の粒子の合計面積の割合を以下のようにして求めた。上述のようにして5つの断面をとり、各断面の観察像の基材中から3つの視野(ここでは22.7μm×17μmの領域)をそれぞれとる。観察視野ごとに、一つの観察視野内に存在する全ての析出物の粒子の面積をそれぞれ調べて合計面積を算出し、一つの観察視野の面積(ここでは385.9μm2)に対する当該観察視野中の全ての粒子の合計面積の割合:(粒子の合計面積)/(観察視野の面積)を求め、この割合を当該観察視野の面積割合とする。そして、各試料について、15個の観察視野の面積割合の平均を表1に示す。
上記断面において、基材中の析出物の粒子の平均粒径を以下のようにして求めた。上記基材中の観察視野ごとに、一つの観察視野内に存在する各粒子の面積の等価面積円の直径をそれぞれ求めて粒径のヒストグラムを作成し、粒径の小さい粒子から、当該観察視野内の全ての粒子の合計面積の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径(面積)を当該観察視野の平均粒径とする。そして、各試料について、15個の観察視野の平均粒径の平均を表1に示す。
上記断面において、基材表面に具える防食層の平均厚さを以下のようにして求めた。上記各断面の観察像から防食層を含む観察視野を上記と同様にとり、観察視野ごとに、一つの観察視野内の防食層において析出物が介在していない箇所を3つ選択して厚さを測定し、この3点の平均を当該観察視野の平均厚さとする。そして、各試料について、15個の観察視野の平均厚さの平均を表1に示す。
上記断面において、防食層の面積に対する表出粒子の合計面積の割合を以下のようにして求めた。上記防食層を含む観察視野ごとに、一つの観察視野内の防食層と基材との境界を抽出する。境界上に析出物が介在する箇所は、析出物で分断された境界の端部同士を円滑に繋ぐように仮想線を引き、防食層が存在すると仮定して境界の長さを求め、ここでは、この境界の長さを当該観察視野内の防食層の面積として取り扱う。また、上記観察視野ごとに、一つの観察視野内において、防食層中に存在する析出物の粒子を抽出し、上記境界を上記平均厚さだけ移動させた地点を防食層の表面の輪郭線と仮想し、抽出した粒子のうち、上記輪郭線に接触する箇所、又は輪郭線を切断する箇所を有する粒子を表出粒子とし、各表出粒子が上記輪郭線を切断する箇所の合計長さを求め、ここでは、この合計長さを当該観察視野内の表出粒子の合計面積として取り扱う。そして、一つの観察視野において、(当該観察視野内における表出粒子の合計面積)/(当該観察視野内の防食層の面積)を当該観察視野の防食層に対する表出粒子の合計面積の割合とする。各試料について、15個の観察視野における上記表出粒子の合計面積の割合の平均を表1に示す。
上記析出物の粒子の面積や直径、防食層の厚さや面積、表出粒子の面積は、市販の画像処理装置を利用することで容易に算出することができる。また、基材中及び防食層中の粒状体(析出物)の組成をEDS(エネルギー分散型X線分析装置:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)により調べたところ、Mg17Al12といったAlやMgを含む金属間化合物であった。上記金属間化合物などの析出物の粒子の存在は、X線回折などを利用して組成及び構造を調べることでも判別することができる。
更に、得られた試料No.1,100,110のマグネシウム合金部材について、抵抗値を調べた。抵抗値は、三菱化学社製ロレスターを用い、2探針プローブタイプMCP−TPAPで二探針法により測定した。ここでは、各試料No.1,100,110をそれぞれ複数用意して、最頻値を表1に示す。
更に、得られた試料No.1,100,110のマグネシウム合金部材について、表面粗さを調べた。表面粗さは、株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定機を利用し、JIS B 0601(2001)に準じて算術平均粗さRaを測定した(測定長さ:1mm)。その結果を表1に示す。
表1に示すように、製造工程において熱履歴を制御することで、微細な析出物(ここでは金属間化合物)の粒子が特定の割合で存在し、かつ図1に示すようにこれらの粒子が分散した組織を有するマグネシウム合金が得られることが分かる。また、この組織を有するマグネシウム合金の素材に防食処理を施すにあたり、前処理工程で、上記析出物の粒子を十分に表出させておくことで、表面が比較的粗い防食層を具えるマグネシウム合金部材が得られることが分かる。そして、このような前処理を行うことで、この防食層中にも、マグネシウム合金からなる基材中に存在する析出物の粒子と同様の粒子であって、一部が防食層の表面に露出する表出粒子が図1に示すように十分に存在する組織が得られることが分かる。このように表出粒子が十分に存在し、表面が荒れた防食層、即ち、特定の表面粗さを満たす防食層を具える試料No.1は、抵抗値が0.1Ω・cm以下と非常に小さいことが分かる。また、試料No.1は、抵抗値のばらつきも小さく、抵抗値が局所的に高い箇所が実質的に存在せず、高品質と言える。これに対して、表出粒子が少ない防食層を具える試料No.100,110では、抵抗値が大きいことが分かる。また、特定の表面粗さを満たさない試料No.100では、抵抗値が大きい上に抵抗値にばらつきが大きかった。このことから、前処理工程(エッチング)において、素材の表層部分を5μm超15μm以下除去しておくことで、低抵抗な防食層を具えるマグネシウム合金部材を安定して製造できると言える。
また、この試験では、防食層の厚さを500nm以下とすることで、平均粒径が50nm〜1500nmの析出物が防食層中に十分に介在できたことが分かる。更に、防食処理前の前処理において、エッチング時の浸漬時間を異ならせて表出粒子の面積割合を調べたところ、この試験で用いたエッチング処理液では、表出粒子の面積割合は、エッチング時間が50秒の場合:2%〜5%、エッチング時間が70秒の場合:5%〜8%、エッチング時間が90秒の場合:10%〜15%であった。
以上の結果から、Alの含有量が5質量%超のマグネシウム合金からなり、溶体化処理以降の製造工程において、150℃〜300℃の温度域に保持する総合計時間を1時間〜12時間とすると共に、300℃超の加熱を行わないようにして基材を作製し、この基材に防食処理を施すことで、耐食性に優れるマグネシウム合金部材が得られることが分かる。また、防食処理前の前処理において、基材表面を適切に荒らした状態としておくことで、低抵抗な防食層を具えるマグネシウム合金部材が得られることが分かる。
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、マグネシウム合金の組成(添加元素の種類、及び含有量)、防食層の形成方法(処理液、処理時間)、防食層の厚さなどを適宜変更することができる。
本発明マグネシウム合金部材は、各種の電気・電子機器類の構成部品、例えば、携帯用や小型な電気・電子機器類の筐体に好適に利用することができる。特に、本発明マグネシウム合金部材は、アースをとるなど、表面抵抗が小さいことが望まれる種々の分野の構成部品に好適に利用することができる。

Claims (6)

  1. Alを5質量%以上含有するマグネシウム合金からなる基材と、この基材の表面に防食処理により形成された防食層とを具えるマグネシウム合金部材であって、
    前記基材中に、析出物の粒子が分散して存在しており、
    前記析出物の粒子の平均粒径が50nm以上1500nm以下であり、
    前記マグネシウム合金部材の断面において、前記基材中における前記析出物の粒子の合計面積の割合が1%以上20%以下であり、
    前記マグネシウム合金部材の断面において、前記析出物の粒子のうち、前記基材から前記防食層中を経て前記防食層の表面に一部が露出して存在する粒子を表出粒子とするとき、前記防食層の面積に対する前記表出粒子の合計面積の割合が10%以上であり、
    前記表出粒子は、Al及びMgの少なくとも一方を含む金属間化合物であるマグネシウム合金部材。
  2. 前記表出粒子は、Mg 17 Al 12 およびAl 6 (MnFe)の少なくとも一方である請求項1に記載のマグネシウム合金部材。
  3. 前記防食層の表面粗さが算術平均粗さRaで0.2μm以上である請求項1又は請求項2に記載のマグネシウム合金部材。
  4. 前記防食層の平均厚さが50nm以上500nm以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
  5. 前記基材は、Alを7.5質量%超12質量%以下含有する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
  6. 前記防食層の抵抗値が0.1Ω・cm以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
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