JP2012140657A - マグネシウム合金材 - Google Patents

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Yugo Kubo
優吾 久保
Koji Iguchi
光治 井口
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Abstract

【課題】耐食性に優れるマグネシウム合金材を提供する。
【解決手段】A1を7.3質量%〜16質量%含有するマグネシウム合金からなるマグネシウム合金材、代表的にはダイカスト材に溶体化処理を施してなるものである。このマグネシウム合金材の表面側領域は、その断面においてAlやMgを含む金属間化合物の合計面積が3面積%以下である。また、このマグネシウム合金材全体のAlの含有量をx質量%とするとき、Alの含有量が0.8x質量%以上1.2x質量%以下の領域が50面積%以上、Alの含有量が1.4x質量%以上の領域が17.5面積%以下、かつAlの含有量が4.2質量%以下の領域が実質的に存在しない。このマグネシウム合金材は、Al濃度のばらつきが小さく、Alの含有量が極端に少ない領域が少ないことで、局所的な腐食の発生や進行を効果的に防止でき、全体のAlの含有量が同じであるダイカスト材に比較して耐食性に優れる。
【選択図】なし

Description

本発明は、電気・電子機器類の筐体、自動車用部品などの各種の部材やこれらの部材の素材に適したマグネシウム合金材に関するものである。特に、耐食性に優れるマグネシウム合金材に関するものである。
マグネシウムに種々の添加元素を含有したマグネシウム合金が、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータといった携帯用電気・電子機器類の筐体や自動車部品などの各種の部材の構成材料に利用されてきている。
マグネシウム合金からなる部材は、ダイカスト材やチクソモールド材(ASTM規格のAZ91合金)が主流である。近年、ASTM規格のAZ31合金に代表される展伸用マグネシウム合金からなる板にプレス加工を施した部材が使用されつつある。特許文献1は、ASTM規格におけるAZ91合金相当の合金からなり、プレス加工性に優れるマグネシウム合金板を提案している。
マグネシウムは、活性な金属であるため、上記部材やその素材となるマグネシウム合金板の表面に陽極酸化処理や化成処理といった防食処理を施して、耐食性を高めることがなされている。
特開2007-098470号公報
上述したAZ31合金やAZ91合金などのAlを含有するマグネシウム合金は、Alの含有量が多くなるほど耐食性に優れる傾向にある。例えば、AZ91合金は、マグネシウム合金の中でも耐食性に優れるとされている。しかし、AZ91合金により構成された部材(主としてダイカスト材やチクソモールド材)であっても、上記防食処理が必要とされている。この理由は、AZ91合金から構成されたダイカスト材などであっても防食処理を施さない場合、後述するように腐食試験を行うと、局所的な腐食が生じ得るからである。従って、マグネシウム合金材に対して、更なる耐食性の向上が望まれる。
そこで、本発明の目的は、耐食性に優れるマグネシウム合金材を提供することにある。
上述のようにAlの含有量が多いほど、耐食性を向上できる。そこで、本発明者らは、Alを7.3質量%以上含有するマグネシウム合金を対象とし、種々の条件でマグネシウム合金材を作製して耐食性を調べた。その結果、マグネシウム合金材全体のAlの含有量が同じであっても、耐食性に優劣があった。この原因を解明するために、まず、組織を調べたところ、耐食性に劣るマグネシウム合金材では、粗大な析出物(合金中の添加元素に基づくもの。代表的には、Al及びMgの少なくとも一方を含む金属間化合物)が存在しており、耐食性に優れるマグネシウム合金材では、析出物が実質的に存在していなかった。
ここで、マグネシウム合金中のAlといった添加元素は主として、析出物(代表的には金属間化合物)、晶出物、及び固溶体の少なくとも一つの状態で存在する。Alが析出物などに利用されると、析出物及びその周囲から離れた領域を構成するマグネシウム合金の母相自体のAl量が少なくなる。
上述の粗大な析出物が存在する組織とは、Al濃度が周囲と比較して高く、かつこの高Al濃度部分の面積が比較的大きい領域(主として析出物及びその周囲によりつくられる領域)が局所的に存在する組織と言える。換言すれば、Al濃度が相対的に低い領域が局所的に、かつ多く存在する組織と言える。そして、上記Al濃度が低い領域のそれぞれにおいて腐食が発生し易く、孔食といった局所的な腐食が生じたり、進行したりすると考えられる。
一方、析出物が実質的に存在しない組織とは、実質的にAlが均一的に分散した母相からなり、非常に微細な析出物が若干存在する、或いは全く存在しない組織と言える。Alが均一的に分散することで、上記のような局所的な腐食の発生や進行が生じ難く、このような組織を有するマグネシウム合金材は、耐食性に優れる、と考えられる。
上述のような粗大な領域から非常に微小な領域に亘ってAl濃度を分析するには、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer、電子線マイクロアナライザ)を好適に利用できる。そこで、EPMA装置を利用し、上記種々のマグネシウム合金材について、Al濃度を分析した結果、後述する実施例に示すように、耐食性に優れるマグネシウム合金材は、当該合金材全体のAlの含有量をx質量%とするとき、x質量%±αの領域が半数を占め、Alの含有量が非常に少ない箇所が実質的に存在せず、かつAlの含有量が非常に多い箇所も比較的少ない、との知見を得た。即ち、本発明者らは、Al濃度の面積率といったパラメータを用いて、耐食性に優れることを定量的に規定できる、との知見を得た。また、この定量規定は、Alの存在形態を問わず利用可能であると考えられる。
本発明は上記知見に基づくものであり、耐食性に優れるマグネシウム合金材として、金属間化合物の存在量と、Al濃度及びその面積率とを規定する。
本発明は、Alを7.3質量%以上16質量%以下含有するマグネシウム合金からなるマグネシウム合金材に係るものである。このマグネシウム合金材は、上記マグネシウム合金材全体のAlの含有量をx質量%とするとき、以下の(1)〜(3)を満たす。かつ、このマグネシウム合金材は、その表面側領域の断面において、Al及びMgの少なくとも一方を含む金属間化合物の合計面積が3面積%以下である。
(1) Alの含有量が(x×0.8)質量%以上(x×1.2)質量%以下の領域が50面積%以上
(2) Alの含有量が(x×1.4)質量%以上の領域が17.5面積%以下
(3) Alの含有量が4.2質量%以下の領域が実質的に存在しない
本発明マグネシウム合金材は、上述のようにAlの含有量が4.2質量%以下といった耐食性に劣る領域が実質的に存在せず、かつ、Al濃度が高い領域(0.8x質量%〜1.2x質量%の領域)が半数以上を占め、その上、Al濃度が非常に高い領域(1.4x質量%以上の領域)が少ない。即ち、本発明マグネシウム合金材は、Al濃度が低い領域が実質的に存在しないことで、局所的な腐食を効果的に防止できる。また、本発明マグネシウム合金材は、AlやMgを含む金属間化合物が非常に微細でその合計存在量が少ない、或いは全く存在しない。即ち、Alの濃度が非常に高い領域が非常に少ない、或いは実質的に存在しないことで、マグネシウム合金母相自体にもAlが十分に、かつ広く分散して存在する。このように本発明マグネシウム合金材は、その少なくとも表面側領域の全体に亘って、Al濃度が均一的に高い状態となっている。この構成により、本発明マグネシウム合金材は、耐食性に優れる。
本発明の一形態として、Alの含有量が(x×0.8)質量%以上(x×1.2)質量%以下の領域が70面積%以上、かつAlの含有量が(x×1.4)質量%以上の領域が5面積%以下である形態が挙げられる。
上記形態によれば、Al濃度が高い領域(0.8x質量%〜1.2x質量%の領域)が7割以上を占め、かつAl濃度が非常に高い領域(1.4x質量%以上の領域)が非常に少ないことから、Alがより均一的に存在しており、耐食性により優れる。
本発明の一形態として、当該マグネシウム合金材は、板材に塑性加工が施された塑性加工材である形態が挙げられる。
本発明マグネシウム合金材は、後述するように種々の形態を取り得る。特に、上記形態のように所望の形状に成形された塑性加工材であることで、各種の構成部材や筐体などに好適に利用できる。上記板材が後述する最終溶体化処理を施されたものである場合、伸びに優れるため、このような板材にプレス加工や鍛造可能などの塑性加工が施された形態は、ダイカスト材やチクソモールド材に比較して、耐食性に加えて、靭性にも優れる。或いは、上記板材が圧延などの塑性加工(1次加工)を施され、更に最終溶体化処理が施されたものである場合、圧延などの加工時に空隙(巣)などの内部欠陥が低減されたり、実質的に消滅されたりすることで靭性が向上したり、圧延などにより結晶粒が微細化されることで強度が向上したりする。このような板材にプレス加工や鍛造可能などの塑性加工(2次加工)が施された形態は、ダイカスト材やチクソモールド材に比較して、耐食性に加えて、靭性や強度といった機械的特性にも優れる。
本発明マグネシウム合金材は、耐食性に優れる。
図1は、Alの含有量が異なるマグネシウム合金材におけるICP発光分光分析によるAl濃度(質量%)と、EPMAによるX線強度との関係を示すグラフである。
以下、本発明をより詳細に説明する。
[マグネシウム合金材]
(組成)
本発明マグネシウム合金材を構成するマグネシウム合金は、Mgに添加元素を含有した種々の組成のもの(残部:Mg及び不純物、Mg:50質量%以上)が挙げられる。特に、本発明では、添加元素を7.3質量%以上含有する高濃度合金、なかでも、添加元素に少なくともAlを含有するMg-Al系合金とする。Alの含有量が多いほど、耐食性に優れる上に、強度、硬度といった機械的特性にも優れる傾向にある。従って、本発明のようにAlの含有量が7.3質量%以上といった高濃度な合金は、Alの含有量が少ない合金に比較して耐食性、機械的特性に優れる。但し、Alの含有量が16質量%を超えると塑性加工性の低下を招くことから、上限は16質量%とする。Alの含有量は、12質量%以下であると塑性加工性に更に優れて好ましく、特に11質量%以下、更に8.3質量%〜9.5質量%がより好ましい。
Al以外の添加元素は、Zn,Mn,Si,Be,Ca,Sr,Y,Cu,Ag,Sn,Li,Zr,Ce,Ni,Au及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択された1種以上の元素が挙げられる。これらの元素を含む場合、各元素の含有量は、0.01質量%以上10質量%以下が挙げられ、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下が挙げられる。また、上記添加元素のうち、Si,Ca,Sn,Y,Ce,及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択される少なくとも1種の元素を合計0.001質量%以上、好ましくは合計0.1質量%以上5質量%以下含有すると、耐熱性、難燃性に優れる。希土類元素を含有する場合、その合計含有量は0.1質量%以上が好ましく、特に、Yを含有する場合、その含有量は0.5質量%以上が好ましい。不純物は、例えば、Feなどが挙げられる。
Mg-Al系合金のより具体的な組成は、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg-Al-Zn系合金、Zn:0.2質量%〜1.5質量%)、AM系合金(Mg-Al-Mn系合金、Mn:0.15質量%〜0.5質量%)、Mg-Al-RE(希土類元素)系合金、AX系合金(Mg-Al-Ca系合金、Ca:0.2質量%〜6.0質量%)、AJ系合金(Mg-Al-Sr系合金、Sr:0.2質量%〜7.0質量%)などが挙げられる。特に、Alを8.3質量%〜9.5質量%、Znを0.5質量%〜1.5質量%含有するMg-Al系合金、代表的にはAZ91合金は、耐食性、機械的特性に優れて好ましい。
本発明においてマグネシウム合金材全体のAlの含有量(以下、Al全平均量と呼ぶ):x質量%は、マグネシウム合金材中におけるAlの存在状態(主として、析出物、晶出物、及び固溶体の少なくとも一つ)に係わらず、マグネシウム合金材に含有されるAlの総量を意味する。この総量の測定には、代表的には、ICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES)を好適に利用することができる。
(Al濃度と面積率(面積割合))
本発明マグネシウム合金材の最も特徴とするところは、Al濃度分布にある。具体的には、当該合金材の表面に対して、Al濃度を分析した場合、(1)Alの含有量がAl全平均量(x質量%)±20%である領域が過半数を占める(但し、7.3≦x≦16)。0.8x質量%(最小5.84質量%)未満の領域は、耐食性に劣る領域であり、1.2x質量%(最大19.2質量%)超の領域は、この領域自体の耐食性は高いものの、この領域にAlが集中して存在することで耐食性に劣る領域が相対的に存在し易くなる。これに対して、0.8x質量%〜1.2x質量%の領域(以下、この領域を中心組成領域と呼ぶ)は、Al濃度の差が小さく、このようなAl濃度が均一的な領域が50面積%以上であることで、Al濃度の差が大きな箇所、即ち、上述のような0.8x質量%未満の領域及び1.2x質量%超の領域が存在し難い。従って、本発明マグネシウム合金材は耐食性に劣る領域が少なく、或いは実質的に存在せず、かつAl濃度が比較的高い領域により、少なくとも当該合金材の表面側領域が構成されることで、局所的な腐食が生じ難く、耐食性に優れる。中心組成領域の面積率が高いほど、上述のようにAl濃度が均一的な領域が広く、Al濃度が均一的になり易い。即ち、Al濃度分布幅が狭くなり易い。従って、中心組成領域の面積率は、55面積%以上、特に70面積%以上、更に90面積%以上が好ましい。また、Al濃度がより高い領域、具体的には0.9x質量%〜1.2x質量%の領域が30面積%以上であると、Al濃度が高く、かつこの高濃度な領域が均一的に存在することで、耐食性により優れる。Al濃度の測定方法及び面積率の測定方法の詳細は、後述する。
Al濃度の測定は、マグネシウム合金材の任意の断面をとり、断面の任意の箇所について行うことができるが、腐食に最も関与する領域は、当該合金材の表面である。従って、本発明マグネシウム合金材では少なくともその表面が上記規定するAl濃度分布を満たすものとする。マグネシウム合金材の内部(例えば、表面から厚さ方向に厚さの1/4を超える領域)のAl濃度分布が表面のAl濃度分布と同様である形態の他、本発明では、内部のAl濃度分布が表面のAl濃度分布と異なる形態を許容する。
また、本発明マグネシウム合金材は、(2)Alの含有量がAl全平均量(x質量%)×140%以上の領域が少ない(但し、7.3≦x≦16)。1.4x質量%(最大22.4質量%)以上の領域は、この領域自体の耐食性は高いものの、この領域にAlが集中して存在することでAl濃度が相対的に低くて耐食性に劣る領域が存在し易くなる。これに対して、本発明マグネシウム合金材は、1.4x質量%以上の領域(以下、この領域を超高濃度領域と呼ぶ)が17.5面積%以下と少ないことで、耐食性に劣る領域が存在し難く、耐食性に優れる。超高濃度領域の面積率が低いほど、Al濃度が相対的に低い領域が少なく、耐食性に劣る領域を低減できる。即ち、Al濃度分布幅が狭くなり易い。従って、超高濃度領域の面積率は、15面積%以下、更に14面積%以下、特に5面積%以下、とりわけ3面積%以下がより好ましく、1面積%以下が更に好ましい。理想的には存在しないことが更に好ましい。
更に、本発明マグネシウム合金材は、(3)Alの含有量が4.2質量%以下の領域(以下、この領域を低濃度領域と呼ぶ)、即ち、上述のように耐食性に劣る領域が実質的に存在しない。Alの含有量が相対的に多い箇所が存在する場合、相対的に少ない箇所で優先的に腐食が生じたり、腐食が進行したりする。これに対して、本発明マグネシウム合金材は、このようなAl濃度が極端に低い箇所、即ち、腐食が発生し易い箇所や腐食が進行し易い箇所が実質的に存在しないことから耐食性に優れる。なお、実質的に存在しないとは、EPMAの測定により、4.2質量%以下の地点が観測されないことを言う。
(組織)
耐食性に優れる組織としては、Al濃度が極端に高い領域が小さく、少ないこと、好ましくは実質的に存在しないことが望まれる。従って、Al12Mg17、添加元素によっては、Al2Ca,Al4Ca,Al3NiなどといったAlリッチな金属間化合物に代表されるAlリッチな析出物が実質的に存在しない組織は、耐食性に最も優れると期待される。本発明マグネシウム合金材は、少なくともその表面側領域においてAlやMgを含む金属間化合物が合計で3面積%以下であることから、上述の組織に相当し、耐食性に優れる。また、本発明マグネシウム合金材は、上述のように超高濃度領域が少ないこと、及び上記金属間化合物の面積率が非常に小さいことにより、相対的にAlが少ない領域を効果的に低減できる。上述のように金属間化合物の面積率は、小さいほど好ましく、下限は特に設けない。また、上記Al濃度と同様に、少なくとも当該合金材の表面側領域の組織が上記金属間化合物が少ない組織となっていることが望まれる。本発明において上記金属間化合物の面積率を測定する表面側領域とは、マグネシウム合金材の表面から厚さ方向に100μmまでの領域とする。マグネシウム合金材の厚さが100μm未満の場合、表面から厚さ方向に厚さの1/4までの領域とする。なお、本発明では、上記超高濃度領域の面積率が特定の範囲を満たし、かつ低濃度領域が実質的に存在しない範囲で、上記金属間化合物のようなAlリッチな析出物の存在を許容する。上記金属間化合物の面積割合の測定方法は後述する。
(形態)
本発明マグネシウム合金材の形態としては、ダイカスト材・チクソモールド材・押出材・鋳造材(例えば、双ロール連続鋳造法によるもの)・圧延材といった種々の形態に最終溶体化処理を施した溶体化材、溶体化材が板状である場合に更に矯正を施した矯正材、矯正材・溶体化材に研削を施した研磨材が挙げられる。更に、矯正材・溶体化材・研磨材のいずれかの形態の板材に、絞り、曲げ、鍛造、プレス加工などの塑性加工や、切削、打抜きなどの機械加工を施した加工材が挙げられる。
溶体化材は、過飽和固溶体を生成する溶体化処理が施されていることから、Alといった添加元素が主として固溶体として存在し、Al12Mg17,Al(MnFe),Al2Ca,Al4Ca,Al3NiといったAlを含有する金属間化合物などの析出物が存在し難く、存在しても小さくかつ少なく、上述のように合計で3面積%以下である。従って、Alを含有する金属間化合物の存在割合が3面積%以下であることが溶体化材であることを示す一つの指標となり得る。その他、溶体化材は、400℃×30時間以上の熱処理を施した場合、当該熱処理後において硬度が低下し難かったり、伸びが実質的に変化しなかったりする、という傾向にある(但し、試験片は表面を研削したものとする)。従って、このような熱処理前後における機械的特性の変化度合いを溶体化材の指標に利用できると考えられる。
溶体化材は、上述のようにその全体に亘って過飽和固溶体が形成されることでAlが均一的に存在し易く、中心組成領域が90面積%以上、超高濃度領域が3面積%以下、更には1面積%以下といったAl濃度分布を有する形態を取り得る。この形態は、耐食性により優れて好ましい。また、溶体化材は、塑性加工時に割れの起点となるような粗大な析出物(代表的には金属間化合物)などの欠陥が実質的に存在しないことで、塑性加工性にも優れる。そのため、この溶体化材は、塑性加工材の素材に好適に利用することができる。
矯正には、例えば、圧延材に施す場合、レベラロール加工などが利用できる。レベラロール加工による矯正材は、矯正加工の度合いによってはせん断帯が導入されることで顕微鏡観察を行っても明確な粒界が観察され難い組織となる場合がある。この場合、単色光X線回折ピークが取得可能なことから非晶質でもない組織であり、単色光X線回折ピークが取得でき、粒界が観察できない組織を有することが、レベラロール加工による矯正材であることを示す一つの指標となり得る。矯正材、特にレベラロール加工による矯正材は、プレス加工などの塑性加工時に再結晶化を生じて、塑性加工性に優れる傾向にある。矯正の度合いが低い場合は、外観、組織、機械的性質が上記圧延材に類似する場合がある。
研磨材は、表面が平滑化されて表面性状に優れる。従って、表面粗さが小さいこと(例えば、最大高さRzで20μm以下)、或いは研磨痕が見られることが、研磨材であることを示す一つの指標となる。
上述した加工材が塑性加工材である場合、素材として、本発明マグネシウム合金材が板材である形態を利用し、かつ特定の条件で塑性加工を施すことで、この塑性加工材も、中心組成領域が50面積%以上、超高濃度領域が17.5面積%以下、低濃度領域が実質的に存在しないというAl濃度分布を有し、かつ金属間化合物の合計面積が3面積%以下を満たし、耐食性に優れる。即ち、この塑性加工材は、上記素材のAl濃度分布や組織を実質的に維持できる。上述した機械加工材も、上記素材のAl濃度分布や組織を実質的に維持できる。
一方、本発明マグネシウム合金材の形態を形状で区別すると、板材(実質的に平面からなる平行する表裏面と、これら表裏面間を繋ぐ側面とから構成され、表裏間の距離(=厚さ)が全体に亘って実質的に均一的な形状であり、平面視した場合、代表的には矩形状、その他、円形状、楕円状、多角形状などの種々の平面形状を取り得る)、上記板材を除く種々の異形状体が挙げられる。異形状体は、例えば、ダイカスト法やチクソモールド法で成形可能な任意の三次元形状体やプレス加工などの塑性加工で成形可能な三次元形状体が挙げられる。上記三次元形状体は、例えば、板材の一部にリブなどの突起や凹溝を一体に有して、部分的に厚さが異なる形状、各種の機器の筐体などに利用される断面]状の箱体や]状の枠体、有底筒状体、その他、球体、楕円体、三角柱状体などの多角柱状体といった比較的単純な形状のものが挙げられる。また、異形状体は、その一部に貫通孔(窓のような大きなものも含む)を具える形態とすることができる。このような凹凸形状や貫通孔を有する形状はダイカスト法などを利用することで容易に成形できる。インゴットなどに切削加工、研削加工などを施して所望の形状に成形した素材を利用してもよい。その他、異形状体は、プレス加工などの塑性加工が一部にのみ施された塑性加工部を有する形態などが挙げられる。
本発明マグネシウム合金材を例えば、板状とする場合、その厚さ、幅、長さは適宜選択することができる。例えば、厚さが10mm以下、更に5mm以下、幅が100mm以上、更に200mm以上、とりわけ250mm以上のものが挙げられる。上記のような広幅材は、上述のように塑性加工材の素材に好適である。特に、本発明マグネシウム合金材の製造にあたり、圧延材を素材にする場合、鋳造材を素材に利用する場合と比較して、厚さが更に薄いものにすることができる。例えば、厚さが2mm以下、特に1.5mm以下、とりわけ1mm以下といった薄肉材とすることができる。厚さが2mm以下といった薄肉材は、薄型、軽量の塑性加工材の素材に好適に利用できる。但し、厚さは、0.1mm以上が好ましく、0.3mm〜1.2mmが利用し易い。また、本発明マグネシウム合金材の製造にあたり、圧延材を素材にすると、空隙(巣)といった内部欠陥が少なかったり、小さかったり、好ましくは実質的に存在しないことで、引張強さ、伸び、剛性などの機械的特性に優れるため、構造材や構造材の素材に好適に利用することできる。
本発明マグネシウム合金材は、耐食性に優れることから、腐食環境によっては化成処理や陽極酸化処理などの防食処理を施していなくても、十分に使用できると期待される。この場合、防食処理の工程を削減でき、マグネシウム合金材の生産性を高められる上に、廃棄物を低減できるため、環境負荷を低減できると期待される。勿論、本発明マグネシウム合金材は、化成処理や陽極酸化処理といった防食処理を施した形態、即ち、防食層を具える形態とすることができる。表面に防食層を具える場合、高精度な断面観察を行わなくても、研磨や切削などにより防食層を除去してマグネシウム合金からなる基材表面を露出させることで、Al濃度を測定できる。防食層に加えて、塗装層などを具える形態とすると、耐食性の更なる向上を図ったり、着色や模様の付与などによる商品価値の向上を図ったりすることができる。防食層や塗装層は所望の箇所に施すとよい。
[製造方法]
本発明マグネシウム合金材を製造するには、最終製品を得るまでの間に溶体化処理を少なくとも1回施すことを必須とする。例えば、本発明マグネシウム合金材の製造方法として、圧延工程を具える形態(製造方法1)と、圧延工程を具えない形態(製造方法2)とが挙げられる。
(製造方法1)
本発明マグネシウム合金材の製造にあたり、素材に圧延材を用いる場合、例えば、以下の準備工程、中間溶体化工程、圧延工程、及び最終溶体化工程を具える製造方法により、製造することができる。
準備工程:Alを7.3質量%以上16質量%以下含有するマグネシウム合金からなり、連続鋳造法で製造した鋳造材を準備する工程。
中間溶体化工程:上記鋳造材に保持温度:以下の最低保持温度以上、保持時間:1時間以上25時間以下の溶体化処理を施して、中間溶体化材を製造する工程。
最低保持温度:Mg-Alの二元状態図(質量%)においてAlがMgに固溶する温度(固相線温度)よりも10℃低い温度
圧延工程:上記中間溶体化材に1パス以上の温間圧延を施し、圧延材を製造する工程。
最終溶体化工程:上記圧延材に保持温度:上記最低保持温度以上、保持時間:1時間以上40時間以下の最終溶体化処理を施す工程。
特に、最終溶体化工程では、330℃〜380℃の温度域における冷却速度が以下を満たす。
上記圧延材の表面から厚さ方向に10μmまでの領域を表層領域とするとき、表層領域を1℃/min以上で冷却する。
上記最低保持温度:Mg-Alの二元状態図(質量%)において固相線温度よりも10℃低い温度とは、代表的には以下のように表わされる。マグネシウム合金中のAl全平均量:x質量%が5質量%以上13質量%以下の場合、固相線温度は283℃〜437℃であり、Al全平均量の増加に伴って固相線温度が上昇することから、上記最低保持温度は、以下の一次式で表わされる。
(式) (最低保持温度)=20×x+(182-10)=20x+172
一方、Al全平均量が13質量%超16質量%以下の場合、上記最低保持温度は(437-10)℃=427℃とする。
上述のように圧延後に最終溶体化処理を施すことで、圧延工程までに生成されたAlリッチな金属間化合物などの析出物を固溶させて、超高濃度領域や低濃度領域の増大を効果的に抑制したり、金属間化合物の面積率を低減したりすることができる。
上記製造方法1において、中間溶体化工程以降の製造工程で、加工対象である素材(代表的には圧延材)を150℃以上300℃以下の温度域に保持する総合計時間を12時間以内とすることができる。150℃〜300℃の温度域は、Al12Mg17といったAlリッチな金属間化合物が成長され易い温度域である。この温度域の保持時間を上述のように比較的短時間とすることで、特に上記金属間化合物の成長を抑止し、超高濃度領域や低濃度領域の増大を抑制したり、金属間化合物の面積率を低減したりすることができる。
また、上記製造方法1において、最終溶体化工程以降、最終製品が得られるまでにおいて、150℃以上300℃以下の温度域に保持する総合計時間をできる限り短くし、かつ300℃超の温度に加熱しないように、素材の熱履歴を制御すると、最終溶体化工程を経て得られた溶体化材のAl濃度分布を維持することができて好ましい。300℃超に加熱しないようにすることでも、上記金属間化合物の成長の抑制を図ることができる。
更に、上記製造方法1において、圧延工程で最終の温間圧延後、冷却を開始するときの素材の温度から素材の温度が100℃以下になるまでの間の平均冷却速度を0.8℃/min以上とすることができる。最終の温間圧延後においてAlの拡散が実質的に生じないように、冷却工程において少なくとも100℃になるまでは上記特定の冷却速度となるように冷却状態を調整すると、圧延段階において上記金属間化合物の成長を抑止し、超高濃度領域や低濃度領域、金属間化合物の面積率の増大を抑制することができる。冷却速度を速めるほど、圧延材の超高濃度領域や低濃度領域の増大や金属間化合物の面積率を抑制できて好ましい。
その他、製造方法1で製造された溶体化材に対して、直進性を高めるなどを目的として矯正(代表的には温間矯正)を施したり、表面性状の向上(酸化層や表面欠陥、圧延などで用いた潤滑剤などの除去)などを目的として洗浄や研磨を施すことができる。特に、本発明マグネシウム合金材を矯正材や研磨材とする場合、準備工程、中間溶体化工程、圧延工程、最終溶体化工程に加えて、後述する矯正工程及び研磨工程の少なくとも一方を具える製造方法により、製造することができる。
(製造方法1の生産物の形態)
上記製造方法1では、長尺な板材の他、所定の長さの板材(巻き取ることが難しいと考えられる短尺な板材(例えば、長さ5m以下、特に1m以下)。以下、シート材と呼ぶ)が得られる。
上記シート材は、例えば、準備工程で鋳造材を所定の長さに切断して所定の長さの鋳造材(鋳造板)とし、この鋳造材を素材として以降の工程を経ることで得られる。或いは、準備工程で長尺な鋳造材を巻き取って鋳造コイル材を作製し、各工程でもコイル材を作製し、最終的に所定の長さに切断することでもシート材が得られる。コイル材を素材に用いる場合、準備工程以降の各工程では、コイル材の繰出し及び巻き取りを概ね行う。コイル材を素材に用いると、一度に大量の素材を移行したり加熱したり、連続して各工程の処理を行えることから、マグネシウム合金材の生産性に優れる。本発明マグネシウム合金材は、各工程の素材にシート材、コイル材のいずれを用いても作製することができる。
或いは、上記溶体化材、矯正材、研磨材及び洗浄材のいずれかの板材に塑性加工を施して本発明マグネシウム合金材を塑性加工材とする場合、上述の製造方法に、更に以下の塑性加工工程を具えることで、製造することができる。
塑性加工工程:得られた板材を保持温度:350℃以下(好ましくは300℃以下)、保持時間:8時間以下(好ましくは0.5時間以下)で予備加熱を行い、この加熱状態の板材に塑性加工を施す工程。
以下、製造方法1の各工程をより詳細に説明する。
≪準備工程≫
上記鋳造材は、連続鋳造法を利用することが好ましい。連続鋳造法は、長手方向に均一的な品質の鋳造材を安定して得られる上に、急冷凝固が可能であるため、酸化物や偏析などを低減できる上に、圧延時などで割れの起点と成り得る10μm超といった粗大な晶析出物の生成を抑制でき、圧延、押出などの塑性加工性に優れた鋳造材が得られる。特に、双ロール連続鋳造法は、偏析が少ない板状の鋳造材を形成し易い。鋳造材の断面積や厚さ、幅、及び長さは特に問わないが、厚過ぎると偏析が生じ易いため、厚さは10mm以下、更に7mm以下、特に5mm以下が好ましい。また、長さが30m以上、更に50m以上、とりわけ100m以上といった長尺な鋳造材や、幅が100mm以上、更に250mm以上、とりわけ600mm以上といった広幅な鋳造材を圧延材の素材とすると、長尺な圧延板や広幅な圧延板を作製できる。鋳造材は、コイル状に巻き取った鋳造コイル材としてもよいし、所定の長さに切断した鋳造シート材としてもよく、適宜選択するとよい。コイル状に巻き取るにあたり、鋳造コイル材の内径が小さい場合、鋳造材を巻き取る直前で150℃以上に加熱した状態で巻き取ると、割れが生じることなく巻き取れて、鋳造コイル材を容易に作製できる。
≪中間溶体化工程≫
上記鋳造材に中間溶体化処理を施して、組成を均質化すると共に、Alといった元素を固溶させることで、粗大な析出物の存在を低減でき、圧延、押出などの塑性加工性に優れる素材とすることができる。中間溶体化処理の保持温度は、代表的には350℃以上450℃以下が挙げられ、特に380℃以上、更に390℃以上420℃以下が挙げられる。保持時間は1時間以上25時間以下、特に10時間以上25時間以下が挙げられる。保持時間は、Alの含有量が多いほど長くすることが好ましい。更に、上記保持温度からの冷却工程において、後述する最終溶体化処理時と同様に水冷や衝風といった強制冷却などを利用して冷却速度を速めると(好ましくは1℃/min以上、より好ましくは50℃/min以上)、析出物の成長や析出を抑制することができて好ましい。特に、鋳造シート材を利用する場合、冷却速度を制御し易い。
上記鋳造材にそのまま中間溶体化処理を施してもよいが、中間溶体化処理を施す前に、圧下率が小さい圧延(圧下率:1%/1パス〜15%/1パス程度)を施したり、表面研削を行ったりしてもよい。
≪圧延工程≫
マグネシウム合金に圧延を施す場合、素材の温度を室温とすると、圧下率を高めることが難しく生産効率の低下を招くことから、生産性を考慮すると、少なくとも1パスは温間圧延を行うことが好ましい。素材(中間溶体化材や圧延途中の圧延材)を加熱することで圧延といった塑性加工性を高められ、素材の温度を高めるほど塑性加工性を高められるが、素材の温度の上昇は、Alを含有する金属間化合物といった析出物が粗大化して、超高濃度領域や低濃度領域の増大を招いたり、粗大な析出物により塑性加工性の低下を招く。従って、素材の温度は、300℃以下、特に150℃以上280℃以下が好ましい。素材の加熱は、予備加熱工程を設けて、雰囲気加熱炉などの加熱手段を利用して行うことができる。加熱炉は、素材(シート材又はコイル材)を収納可能な適宜なものを利用できる。
特に、本発明マグネシウム合金材の製造にあたり、圧延材を素材に利用する場合、上記予備加熱工程の保持温度の保持時間を短くすることが好ましい。ここで、上述のように主として圧延時に素材が特定の温度域:150℃〜300℃に保持される時間ができるだけ短くなるように(好ましくは12時間以内となるように)制御すると、圧延工程において析出物(特にAlリッチな金属間化合物)の成長を効果的に抑制して、超高濃度領域や低濃度領域、金属間化合物の面積率の増大を防止できる。このような超高濃度領域や低濃度領域、金属間化合物が低減された圧延材に最終溶体化処理を施すことで、得られた溶体化材も超高濃度領域や低濃度領域、金属間化合物を低減し易いと期待される。予備加熱時間を短縮するための手法として、例えば、圧延装置の直前にインライン加熱装置(代表的には、輻射熱、通電加熱、誘導加熱などを利用した加熱装置)を設けて急速加熱を実施することが挙げられる。インラインとすることで、加熱後、圧延を施すまでの時間も短縮できる。また、素材が150℃〜300℃に保持される時間を短くするための手法として、圧延装置(代表的には圧延ローラ)を通過後、圧延材を冷媒や潤滑剤に浸漬するなどして急冷する(好ましくは冷却速度:1℃/sec以上)ことが挙げられる。上記急熱及び急冷の双方を行うと、圧延工程において素材が150℃〜300℃に保持される時間を効果的に短縮できる。特に、上記急熱及び急冷は、圧延を施す素材が鋳造シート材といった短尺材である場合に容易に施すことができる。その他、例えば、素材を複数用意して積層し、これらを一度に加熱する場合などでも、素材間に適宜な隙間を設けることで各素材を均一的な温度に加熱するための時間を比較的短くできる。この手法も、圧延を施す素材が鋳造シート材といった短尺材である場合に容易に施すことができる。例えば、上述した(1)〜(3)の条件を満たす特定のAl濃度分布を有するものを作製するにあたり、1パス以上の温間圧延を施す工程を具える場合、圧延前の予備加熱における合計の保持時間を0.01時間以上8時間以下、特に、0.01時間以上0.3時間以下とすることが好ましい。
上記温間圧延を含む圧延は、1パスでも複数パス行ってもよい。複数パスの圧延を行うことで、厚さが薄い圧延材が得られる上に、圧延材を構成する組織の平均結晶粒径を小さくしたり(例えば、10μm以下、好ましくは5μm以下)、プレス加工といった塑性加工性を高められる。所望の厚さの圧延材が得られるように、パス数、各パスの圧下率、及び総圧下率を適宜選択することができる。その他、公知の圧延条件、例えば、素材だけでなく圧延ロールも加熱するなど、適宜な条件を利用してもよい。
特に、最終の温間圧延を施した後の冷却工程において、冷却開始時の素材の温度から当該素材の温度が少なくとも100℃になるまでの間の平均冷却速度を0.8℃/min以上とすることが好ましい。最終の温間圧延後の素材を速やかに冷却することで、冷却中に析出物が成長して、超高濃度領域や低濃度領域が増大したり、金属間化合物の面積率が大きくなったりすることを効果的に防止することができる。圧延後に最終溶体化処理を施すことで、必ずしも上記冷却速度を満たす必要はないが、最終溶体化処理前までに超高濃度領域や低濃度領域、金属間化合物を低減することで、上述のように最終的に得られる溶体化材においても、超高濃度領域や低濃度領域、金属間化合物を低減し易いと期待される。上記平均冷却速度は、例えば、最終の温間圧延後、冷却を開始するときの素材の温度を測定し、得られた測定温度:Tmp(℃)から100℃になるまでの時間t(min)を設定し、(Tmp-100)/t(℃/min)で表わされる速度とすることが挙げられる。そして、(Tmp-100)/t(℃/min)≧0.8(℃/min)となるように冷却状態を調整するとよい。素材の温度の測定は、熱電対などの接触型センサ、サーモグラフィといった非接触型センサのいずれを用いてもよい。熱電対は、極薄いものを用意して、素材の表面に設置して測定するとよい。
上記冷却速度は速いほど好ましく、1℃/sec以上、更に5℃/sec以上がより好ましい。冷却工程では、上記冷却速度を達成し得る任意の冷却手段が利用できる。特に、強制冷却を利用すると、冷却速度を速められる。強制冷却手段は、ファン(空冷)や衝風(ジェット空冷)などの気体媒体を使用するもの、水冷などの液体媒体を使用するもの、その他、冷却ロールなどの固体媒体を利用するものなど、種々利用することができる。特に、衝風などの空冷を利用すると、素材に付着した液体冷媒の除去工程が不要である、液体冷媒の付着による表面性状の劣化が生じない、といった効果が得られる。一方、液体冷媒を利用すると、冷却速度を速め易い。液体冷媒は、圧延などで利用した潤滑剤の除去が可能な洗浄剤(例えば、界面活性剤)などを含むものを利用すると、冷却と共に洗浄も行えて好ましい。強制冷却手段は、オフラインで配置してもよいが、インラインで配置すると、素材表面と冷却媒体との接触面積を大きく確保できることから、冷却効率を高められる。コイル材の場合、最終の温間圧延後、一旦巻き取ってから上記冷却を行ってもよい。また、コイル材の場合、巻き取った状態で上記冷却を行ってもよいが、巻き戻した状態で行うと、冷却速度を速め易い。上記冷却速度を達成できる場合は、上記強制冷却手段を用いず自然放冷を行ってもよい。
なお、仕上げ圧延などで圧下率が小さい圧延を行う場合は、冷間加工とすることができる。冷間加工では、Al濃度の変化が実質的に生じ難く、冷間加工前のAl濃度の分布が実質的に維持される。
複数パスの圧延を行う場合、上述した150℃〜300℃の温度域の保持時間が上記総合計時間に含まれる範囲で、パス間に中間熱処理を行うことができる。中間熱処理により、当該熱処理までの塑性加工(主として圧延)により素材に導入された歪みや残留応力、集合組織などを除去、軽減することができる。こうすることで、当該熱処理後の圧延で不用意な割れや歪み、変形を防止して、より円滑に圧延を行える。この中間熱処理の素材の保持温度も300℃以下とすることが好ましい。保持温度は、150℃以上、特に250℃以上280℃以下が好ましい。保持時間は、例えば、0.5時間〜3時間程度が挙げられる。また、中間熱処理後の冷却工程においても、冷却速度を速める(好ましくは1℃/min以上、より好ましくは50℃/min以上)ことで、析出物の成長を抑制できて好ましい。
上述のように圧延材の厚さ、幅、及び長さは、適宜選択することができる。また、上記圧延は、潤滑剤を適宜利用すると、圧延時の摩擦抵抗を低減でき、素材の焼き付きなどを防止して、圧延を施し易い。更に、圧延ロールとして、ロール外周に凹溝を有するものを利用すると、リブを有する圧延材、ロール外周に凸部を有するものを利用すると、凹溝を有する圧延材を製造できる。その他、得られた圧延材に対して、切削加工や研削加工を施して、所望の凹凸形状、段差形状に形成したり、ボスや貫通孔を形成したりすることができる。
≪最終溶体化処理≫
上記圧延後に最終溶体化処理を施すことで、析出物を再固溶させて、超高濃度領域や金属間化合物を十分に低減し、低濃度領域を実質的に存在しないようにすることができる。保持温度が上記最低保持温度未満或いは保持時間が1時間未満では、過飽和固溶体を十分に生成できず、超高濃度領域や金属間化合物の低減を十分に図ることが難しい。保持温度が高過ぎる(代表的には450℃超)或いは保持時間が40時間超では、母相の焼付きが生じたり、十分に固溶状態となった後にも加熱することはエネルギーロスであり、生産性を低下させたりすることもあるため、保持温度は低めに設定することが好ましい。例えば、390℃以上420℃以下、保持時間:10時間以上25時間以下が挙げられる。
この最終溶体化処理では、上記保持温度からの冷却工程において、330℃〜380℃の温度域における冷却速度が1℃/min以上となるように冷却速度を調整する。ここで、Alの含有量が7.3質量%以上といったAlを多く含有するマグネシウム合金では、330℃〜380℃の温度域でAl12Mg17といったAlリッチな金属間化合物といった析出物が発生し易いと言われている。従って、この温度域をできるだけ速やかに通過することが望まれる。そこで、Alの含有量が7.3質量%以上である本発明マグネシウム合金材の製造にあたり、330℃〜380℃の温度域における冷却速度を上述のように速めて析出物が発生し易い温度域を通過する時間を短くすることで、上記金属間化合物の析出を抑制し、当該析出物の生成に伴う超高濃度領域や低濃度領域の増大を抑制する。冷却速度は大きいほど好ましく、1℃/min以上、更に50℃/min以上が好ましい。
少なくとも、処理対象である圧延材の表層領域が上記冷却速度を満たせばよい。上述のように、腐食はマグネシウム合金材の表面から発生、進行する。従って、マグネシウム合金材における上記表層領域が耐食性に優れる状態、即ち、上述した(1)〜(3)の条件を満たす特定のAl濃度分布を有し、かつ金属間化合物の面積率が特定の範囲を満たしていればよいことから、処理対象の表層領域が少なくとも上記冷却速度で冷却されるようにする。具体的には、上述したような強制冷却を好適に利用できる。特に、ファンや冷風のジェット噴出機構などの衝風手段を用いた衝風などの空冷を利用すると、酸化し難い、冷却斑が少ないといった効果の他、上述のように液体冷媒の除去や液体冷媒の付着に伴う表面性状の劣化の抑制といった効果が得られる。一方、液体冷媒を利用する場合は、水や還元性液体などの液体冷媒を噴霧するミスト噴霧や散水、液体冷媒への浸漬といった冷却方法が利用できる。また、最終溶体化処理後に矯正加工を施したり、プレス加工などの塑性加工を施したりする場合、液体冷媒として潤滑剤を利用し、溶体化材に潤滑剤を塗布或いは潤滑剤に浸漬して冷却してもよい。圧延などに利用した潤滑剤を除去することを望む場合、強制冷却手段として、上述のように洗浄剤を含有する液体冷媒を利用してもよい。液体冷媒を用いた水冷は、空冷よりも冷却速度を速められる。
上記冷却速度は、最終溶体化後の素材の表面温度を測定し、330℃〜380℃の温度域における冷却速度が所望の速度となるように、時間(min)を設定し、所望の速度となるように冷却状態を調整するとよい。ここで、マグネシウム合金は熱伝導性に優れることから、表面から厚さ方向に10μmまでの領域(表層領域)の温度は、最表面の温度と同義である。従って、表面領域の冷却速度は、素材の最表面の温度を測定し、この測定温度により設定できる。素材の最表面の温度の測定には、上述した熱電対やサーモグラフィなどの接触型センサ、非接触型センサのいずれも利用できる。
≪矯正≫
最終溶体化処理後などに矯正を施すことで、板材の平坦性を高められる。矯正は、室温或いは室温以下の温度でも実施できるが、温間で行うと、平坦性をより高められる。温間矯正を行う場合、保持温度を300℃以下とすることが好ましい。より具体的な条件は、保持温度:100℃以上300℃以下、好ましくは150℃〜280℃が挙げられる。この矯正工程における素材を150℃以上300℃以下の温度域に保持する時間も上記総合計時間に含まれるようにすることが好ましい。温間矯正は、例えば、素材を加熱可能な加熱炉と、加熱された素材に連続的に曲げ(歪)を付与するために複数のロールが上下に対向して千鳥状に配置されたロール部とを具えるロールレベラ装置を好適に利用できる。その他、温間矯正には、例えば、温間プレス装置を利用することができる。温間矯正後においても、冷却を開始するときの素材の温度から当該素材の温度が100℃以下になるまでの間の平均冷却速度を0.8℃/min以上とすると、析出物の成長による超高濃度領域や低濃度領域の増大、Alリッチな金属間化合物といった析出物の存在量の増大を効果的に抑制できる。この冷却速度を達成するには、上述のように強制冷却手段を適宜利用してもよいし、自然放冷でもよい。
≪塑性加工≫
上述のようにして作製したシート材にプレス加工などの塑性加工を施す場合、素材を加熱することで塑性加工性を高められる。素材の温度は350℃以下が好ましく、更に300℃以下、特に280℃以下がより好ましい。とりわけ、150℃以上280℃以下、更に150℃以上220℃以下が好適である。当該温度に素材を予備加熱するにあたり、上述のように保持時間を8時間以下とすることで、析出物の成長を抑制し、超高濃度領域や低濃度領域、金属間化合物の面積率の増大を効果的に防止できる。所望の塑性加工が可能な程度に素材が加熱されていれば、保持時間は短いほど好ましく、0.5時間以下(30分以下)、更に0.3時間以下がより好ましい。プレス加工といった塑性加工時の時間自体は、形状にもよるが、プレス加工で数秒〜数分程度と短く、析出物の粗大化などの不具合は実質的に生じないと考えられる。このような特定の条件で塑性加工を行うことで、上述した(1)〜(3)の条件を満たす特定のAl濃度分布を有し、金属間化合物の面積率が特定の範囲である塑性加工材とすることができる。
上記塑性加工後に熱処理を施して、塑性加工により導入された歪みや残留応力の除去、機械的特性の向上を図ることができる。この熱処理条件は、保持温度:100℃〜300℃、保持時間:5分〜60分程度が挙げられる。但し、この熱処理においても150℃〜300℃の温度域の保持時間が上記総合計時間に含まれるようにすることが望ましい。
≪素材を特定の温度域に保持する総合計時間≫
上述のように最終溶体化処理以降、最終製品までの工程(圧延(中間熱処理を含む)、矯正、塑性加工前の予備加熱などの各工程)において、素材を150℃〜300℃の温度域に保持する総合計時間を12時間以下と比較的短い時間に制御することが好ましい。中間溶体化処理を施す場合は、中間溶体化処理以降最終溶体化処理までの工程において、素材を150℃〜300℃の温度域に保持する総合計時間を12時間以下と比較的短い時間に制御することが好ましい。
中間溶体化処理以降最終溶体化処理までの工程において、圧延などの塑性加工に十分な加熱時間を確保するには、上記150℃〜300℃の温度域に保持する総合計時間が0.01時間以上が好ましい。より好ましくは、温度域:150℃以上280℃以下、更に好ましくは150℃以上220℃以下、総合計時間:8時間以下、特に0.3時間以下となるように、圧延工程における各パスの加工度や総加工度、予備加熱の条件(予備加熱の手段や時間など)、冷却工程の条件(冷却手段や時間など)、ライン速度などの製造条件を制御する。また、Alの含有量が多いほど、上述したAlリッチの金属間化合物が析出し易いため、上記総合計時間は、Alの含有量に応じても調整することが好ましい。
上述のように最終溶体化処理以降は300℃超に加熱しないことが好ましいが、析出物の粗大化などが生じないような短時間(好ましくは8時間以下、より好ましくは1時間以下)であれば許容する。
(製造方法2)
一方、本発明マグネシウム合金材が圧延工程を含まない製造方法により形成される形態、代表的には、ダイカストなどで成形される成形体(異形状体を含む)である場合、例えば、以下の準備工程及び最終溶体化工程を具える製造方法により、製造することができる。
準備工程:Alを7.3質量%以上16質量%以下含有するマグネシウム合金からなるダイカスト材、チクソモールド材、及び押出材から選択される1種の素材を準備する工程。
最終溶体化工程:上記素材に保持温度:Mg-Alの二元状態図(質量%)においてAlがMgに固溶する温度よりも10℃低い温度(最低保持温度)以上、保持時間:1時間以上40時間以下の最終溶体化処理を施す工程。
特に、330℃〜380℃の温度域における冷却速度が以下を満たす。
上記素材の表面から厚さ方向に10μmまでの領域を表層領域とするとき、表層領域を1℃/min以上で冷却する。
製造方法2では、上記準備工程で用意した素材に上述した製造方法1と同様の最終溶体化処理を施すことで、上述した(1)〜(3)の条件を満たす特定のAl濃度分布を有し、かつ金属間化合物の面積率が特定の範囲を満たす溶体化材とすることができる。特に、上記製造方法2は、上述したような複雑な三次元形状のマグネシウム合金材の製造に好適に利用できる。
ダイカスト条件やチクソモールド条件は、公知の条件を利用することができる。押出材は、例えば、上記特定量のAlを含有するマグネシウム合金からなるインゴットを用意し、公知の条件で押し出すことで製造することができる。
≪その他の工程≫
製造方法1,2で得られた溶体化材に対して研磨(好ましくは湿式研磨)を施す研磨工程を具えることで、上述した(1)〜(3)の条件を満たす特定のAl濃度分布を有し、かつ金属間化合物の面積率が特定の範囲を満たす研磨材(本発明マグネシウム合金材の一形態)が得られる。また、製造方法1,2のいずれにおいても、更に、化成処理や陽極酸化処理といった防食処理を施す工程を具えたり、塗装層を形成する工程を具えることで、上述した(1)〜(3)の条件を満たす特定のAl濃度分布を有し、かつ金属間化合物の面積率が特定の範囲を満たす基材と、この基材の上に形成された防食層や塗装層とを具える本発明マグネシウム合金材が得られる。防食層や塗装層の材質・形成条件は公知の材質・条件を利用することができる。防食処理にあたり、脱脂、酸エッチング、脱スマット、表面調整といった前処理を施すことが好ましい。塑性加工を行う場合は、防食層や塗装層は、塑性加工後に形成すると、塑性加工時における防食層や塗装層の損傷を防止できる。
以下、本発明のより具体的な実施の形態を説明する。
[試験例1]
種々の条件でAlを含有するマグネシウム合金材を作製し、Al濃度の分布、及び耐食性を調べた。
この試験では、以下のように作製した試料No.1,2のマグネシウム合金材と、比較として市販のダイカスト材(AZ91合金、厚さ3mm、幅75mm、長さ150mmの板材)を用意した。このダイカスト材に、後述する試料No.1,2に施した研磨処理と同様の条件で湿式ベルト研磨を施して研磨板を作製し、この研磨板を試料No.100とした。
試料No.1,2の製造工程を以下に示す。
試料No.1:溶体化材(ダイカスト)
ダイカスト材の用意→最終溶体化
試料No.2:溶体化材(押出)
押出材の用意→最終溶体化
《試料No.1》
試料No.100と同様の市販のダイカスト材(AZ91合金(Al:8.75質量%)、厚さ3mm、幅75mm、長さ150mmの板材)を用意し、このダイカスト材に380℃(≧(20×8.75+172)=347)×20時間の最終溶体化処理を施した後、室温(約20℃)まで強制冷却により冷却した。この冷却は、ジェット噴出機構を用いて、板材の表面に冷風を吹き付けることで行い、380℃〜330℃の温度域における表層領域の冷却速度が50℃/min(≧1℃/min)になるように、冷風の温度、風量、風速などを調整した。上記強制冷却後、250℃以下の条件で温間プレス加工による平坦化(矯正)を実施してから、#600の研磨ベルトを用いて湿式研磨を施した。得られた研磨板を試料No.1とする。
《試料No.2》
試料No.100と同様の市販のダイカスト材を再溶解鋳造した後、押出加工した素材(AZ91合金、厚さ3mm、幅50mm、長さ150mmの板材)を用意し、この押出材に380℃×20時間の最終溶体化処理を施した後、試料No.1と同様にジェット噴出機構を用いて室温(約20℃)まで強制冷却により冷却した。この強制冷却後、試料No.1と同様の条件で温間プレス加工による矯正及び湿式研磨を施し、得られた研磨板を試料No.2とする。試料No.2も、380℃〜330℃の温度域における表層領域の冷却速度が50℃/min(≧1℃/min)になるように、冷風の温度、風量、風速などを調整した。
なお、上記冷却速度の調整は、以下のような相関データを予め作成し、この相関データを参照すると、容易に行える。厚さや長さが異なる複数の冷却対象の最表面、又は表面から10μmの地点の温度を温度センサにより測定できるようにし(例えば、上記地点に溝を形成してこの溝に温度センサを埋設するなど)、冷風の温度、風量、風速などの強制冷却手段の各パラメータを適宜変更したときに、380℃から330℃に達するまでの時間を測定して冷却速度を求め、各パラメータと冷却速度との相関データを作成する。
得られた試料No.1,2、及び比較の試料No.100から、試料全体のAlの含有量(Al全平均量):x質量%を測定するために全体量用試験片を切り出し、この試験片を利用して、ICP発光分光分析により、Al全平均量を求めたところ、いずれの試料もx=8.75質量%であった。
得られた試料No.1,2、及び比較の試料No.100から、マッピング用試験片を切り出し、各試験片の表面の元素:Alの分析・測定を、FE(Field Emission)-EPMA装置(日本電子株式会社製JXA-8530F)を用いて行った。測定条件を以下に示す。
(測定条件)
加速電圧:15kV
照射電流:100nA
サンプリングタイム:50ms
上記元素分析におけるAlの含有量(質量%)は、以下の検量線を作成し、この検量線を用いてEPMAのX線強度をAlの含有量(質量%)に換算して求めた。
〔検量線の作成〕
Alの含有量が異なる市販のAZ31合金材、AZ61合金材、AZ91合金相当材に溶体化処理(400℃×120時間)を施して、均質化したものをサンプルとした。AZ91合金相当材は、以下のようにして作製したコイル材を切断して利用した。双ロール連続鋳造法を用いて、Mg-8.75%Al-0.65%Zn(全て質量%)を有するマグネシウム合金からなる鋳造コイル材(厚さ4mm、幅300mm)を作製した。この鋳造コイル材に400℃×24時間の中間溶体化処理を施した後、圧下率:5%/パス〜40%/パス、素材の温度:200℃〜280℃、ロール温度:100℃〜250℃の条件で複数パスの圧延を施して圧延コイル材を作製した。この圧延コイル材に、ロールレベラ装置により温間矯正を施し(素材の温度:250℃)、この矯正材に試料No.1,2と同様の湿式研磨を施して、上記コイル材を作製した。そして、各サンプルの表面に対してICP発光分光分析を行い、Alの含有量を測定すると共に、上記測定条件によりFE-EPMAに元素分析を行い、AlのX線強度(cps/μA)を測定する。
そして、図1に示すように得られたX線強度:yをAlの含有量:xの一次関数として表わし、一次関数の近似式:y=11977x+1542.5を検量線として用いる。なお、この近似式は、相関係数R2が0.9998であり、信頼性の高いものである。
FE-EPMAにより分析したAlの含有量に関するマッピング像(観察視野:24μm×18μm)は、Al濃度に応じて、Alの含有量が少ない順に黒(例えば、Al濃度:0質量%)〜紺〜青〜水色〜緑〜黄色〜橙〜赤〜桃色〜白(例えば、Al濃度:8.75×1.4=12.25質量%以上)で表わされる。
分析の結果、試料No.100のダイカスト材は、Al濃度が非常に高い領域が多いこと、Al濃度が非常に低い領域が存在することを確認した。これに対して、ダイカスト材や押出材に最終溶体化を施した試料No.1,2はいずれも、Al濃度が非常に高い領域が小さくかつ非常に少ないこと、及びAl濃度が非常に低い領域が実質的に存在しないことを確認した。
このマッピング像を用いて、各試料の観察視野において、Al濃度が4.2質量%以下の低濃度領域の面積率、Al濃度が0.8x(=8.75×0.8=7)質量%以上1.2x(=8.75×1.2=10.5)質量%以下の中心組成領域の面積率、Al濃度が0.9x(=8.75×0.9=7.875)質量%以上1.2x質量%以下の領域の面積率、Al濃度が1.4x(=8.75×1.4=12.25)質量%以上の超高濃度領域の面積率、Al濃度の最大値及び最小値を求めた。その結果を表1に示す。
また、走査電子顕微鏡:SEMによる顕微鏡写真により、各試料を観察したところ、試料No.100のダイカスト材は、析出物が大きく、異形状であることを確認した。このことは、マッピング像において、Al濃度が非常に高い超高濃度領域が大きく、異形状をとることと一致する。これに対して、試料No.1,2の溶体化材はいずれも、析出物が非常に小さな粒状体であり、かつ非常に少ないことを確認した。このことは、マッピング像において超高濃度領域が非常に小さいことと一致する。上記析出物の組成をEDS(エネルギー分散型X線分析装置:Energy Dispersive X-ray Spectrometer)により調べたところ、Mg17Al12やAl(MnFe)といったAlやMgを含む金属間化合物であった。当該金属間化合物の存在は、X線回折などを利用して組成及び構造を調べることでも判別できる。
各試料No.1,2,100の金属間化合物の平均粒径(μm)及び合計面積の割合(面積%)を測定した。その結果も表1に示す。平均粒径や面積割合は、市販の画像処理装置を利用して、上記顕微鏡写真を画像処理することで容易に算出できる。
金属間化合物の平均粒径は、以下のようにして測定した。各試料に対してそれぞれ、板厚方向に5つの断面をとり、各断面の観察像から任意に3つの視野(ここでは1視野:22.7μm×17μmの領域)をそれぞれとる。ここでは、上記視野は、各試料の表面から厚さ方向に100μmまでの表面側領域から選択した。観察視野ごとに、一つの観察視野内に存在する各金属間化合物の円相当径(各金属間化合物の面積の等価面積円の直径)をそれぞれ求め、上記円相当径の総和を一つの観察視野内に存在する金属間化合物の数で除した値:(円相当径の合計)/(合計数)を当該観察視野の平均粒径とする。そして、各試料のそれぞれについて、15個の観察視野の平均粒径の平均を表1に示す。
金属間化合物の合計面積の割合は、以下のようにして測定した。上述のように表面側領域から観察視野をとり、観察視野ごとに、一つの観察視野内に存在する全ての金属間化合物の面積をそれぞれ調べて合計面積を算出し、この合計面積を一つの観察視野の面積(ここでは385.9μm2)で除した値:(合計面積)/(観察視野の面積)を当該観察視野の面積割合とする。そして、各試料のそれぞれについて、15個の観察視野の面積割合の平均を表1に示す。
各試料No.1,2,100に対して、塩水腐食試験を行い、腐食減量(μg/cm2)、Mg溶出量(μg/cm2)を測定した。その結果を表1に示す。
腐食減量は、塩水腐食試験として、JIS H 8502(1999)に準拠して塩水噴霧試験を行い、以下のように測定した。試料No.1,2,100から腐食用試験片を作製し、この腐食用試験片の質量(初期値)を測定した後、腐食用試験片において予め設定した大きさの試験面が露出するように、腐食用試験片の不要な箇所にマスキングを施す。マスキングした腐食用試験片を腐食試験装置内に装入し、当該装置底面に対して所定の角度に傾斜するように立て掛けて配置する(ここでは装置底面と試験片とがつくる角:70°〜80°)。試験液(5質量%のNaCl水溶液、温度:35±2℃)を霧状にして腐食用試験片に吹き掛けた状態で所定時間保持する(ここでは96時間)。所定時間経過後、腐食用試験片を腐食試験装置から取り出して、マスキングを除去した後、JIS Z 2371(2000)の参考表1に記載の方法に準拠して、腐食用試験片に生成された腐食生成物をクロム酸溶解により除去する。腐食生成物を除去した後の腐食用試験片の質量を測定し、この質量と上記初期値との差分を腐食用試験片の試験面の面積で除した値を腐食減量(μg/cm2)とする。
Mg溶出量は、塩水腐食試験として、以下の条件で塩水浸漬試験を行い、以下のように測定した。試料No.1,2,100から腐食用試験片を作製し、腐食用試験片において予め設定した大きさの試験面が露出するように、腐食用試験片の不要な箇所にマスキングを施す。マスキングした腐食用試験片を試験液(5質量%のNaCl水溶液、液量:試験片の試験面の面積(露出面積)を(A)cm2としたとき、(A)×20mlとする)に完全に浸漬した状態で所定時間保持する(ここでは96時間、空調下の室温(25±2℃)に保持)。所定時間経過後、試験液を回収し、ICP-AESにて、試験液中のMgイオン量を定量し、Mgイオン量を腐食用試験片の試験面の面積で除した値をMg溶出量(μg/cm2)とする。
Figure 2012140657
表1に示すように、試料No.1,2は、少なくとも表面側領域においてAl濃度が0.8x質量%〜1.2x質量%(ここではx=8.75)である中心組成領域が50面積%以上を占め、かつAl濃度が4.2質量%以下である低濃度領域が存在せず、Al濃度が1.4x質量%以上の超高濃度領域が17.5面積%以下であることが分かる。特に、試料No.1,2は、中心組成領域が90面積%以上と非常に大きい上に、超高濃度領域が5面積%以下(ここでは3面積%以下)と非常に小さいこと、Al濃度が0.9x質量%〜1.2x質量%である領域が30面積%以上であること、Al濃度の最大値と最小値との差が小さいことが分かる。即ち、試料No.1,2はAl濃度のばらつきが小さいと言える。また、試料No.1,2は、少なくとも表面側領域において金属間化合物の面積割合が3面積%以下と非常に小さいことが分かる。そして、このようなAl濃度のばらつきが小さく、金属間化合物の面積率が非常に小さい試料No.1,2は、表1に示すように、腐食減量及びMg溶出量が少なく、耐食性に優れることが分かる。
これに対して、試料No.100のダイカスト材は、Al濃度が0.8x質量%〜1.2x質量%の中心組成領域が少なく、かつAl濃度が4.2質量%以下である低濃度領域が存在する。特に、Alの最小値がAZ31合金相当の値となっている。また、金属間化合物の面積率が大きい。このことから、試料No.100は、相対的に耐食性に劣る箇所が存在して、耐食性に劣る結果となったと考えられる。
[試験例2]
試験例1で作製した試料No.1,2の板材にプレス加工を施した後、同様にAl濃度を測定した。用意した各板材を250℃に予備加熱を行い、この加熱状態でプレス加工に供した。上記予備加熱の保持時間及びプレス加工時の総合計時間は2分(0.1時間以下)である。
得られたプレス加工材(塑性加工材)のいずれも、試料No.1,2と同様のAl濃度の分布を有していた。このことから、これらのプレス加工材も耐食性に優れると期待される。
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、マグネシウム合金の組成(特にAlの含有量)、マグネシウム合金材の形状、仕様(厚さ、幅、長さ)、製造条件などを適宜変更することができる。
本発明マグネシウム合金材は、各種の電気・電子機器類の構成部材、特に、携帯用や小型な電気・電子機器類の筐体、高強度であることが望まれる種々の分野の部材、例えば、自動車部品などに好適に利用することができる。或いは、本発明マグネシウム合金材は、上記部材の素材に好適に利用することができる。

Claims (3)

  1. Alを7.3質量%以上16質量%以下含有するマグネシウム合金からなるマグネシウム合金材であって、
    前記マグネシウム合金材の表面側領域の断面において、Al及びMgの少なくとも一方を含む金属間化合物の合計面積が3面積%以下であり、
    前記マグネシウム合金材全体のAlの含有量をx質量%とするとき、
    Alの含有量が(x×0.8)質量%以上(x×1.2)質量%以下の領域が50面積%以上であり、
    Alの含有量が(x×1.4)質量%以上の領域が17.5面積%以下であり、
    Alの含有量が4.2質量%以下の領域が実質的に存在しないことを特徴とするマグネシウム合金材。
  2. Alの含有量が(x×0.8)質量%以上(x×1.2)質量%以下の領域が70面積%以上であり、
    Alの含有量が(x×1.4)質量%以上の領域が5面積%以下であることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金材。
  3. 前記マグネシウム合金材は、板材に塑性加工が施された塑性加工材であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマグネシウム合金材。
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