JP5522000B2 - マグネシウム合金部材 - Google Patents
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Description
準備工程:Alを7.5質量%超12質量%以下含有するマグネシウム合金からなり、連続鋳造法で製造した鋳造板を準備する工程。
溶体化工程:上記鋳造板に350℃以上の温度で溶体化処理を施して、固溶板を製造する工程。
圧延工程:上記固溶板に温間圧延を施し、圧延板を製造する工程。
特に、溶体化工程以降の製造工程において、加工対象である素材板(代表的には圧延板)を150℃以上300℃以下の温度域に保持する総合計時間を0.5時間以上12時間以内とすると共に、300℃超の温度に加熱しないように、上記素材板の熱履歴を制御する。
[マグネシウム合金部材]
<基材>
(組成)
上記基材を構成するマグネシウム合金は、Mgに添加元素を含有した種々の組成のもの(残部:Mg及び不純物)が挙げられる。特に、本発明では、添加元素に少なくともAlを7.5質量%超12質量%以下含有するMg-Al系合金とする。Alを7.5質量%超含有することで、マグネシウム合金自体の耐食性を高められる上に、強度、耐塑性変形性といった機械的特性にも優れる。Al量が多いほど、耐食性に優れる傾向にあるが、12質量%を超えると塑性加工性の低下を招き、圧延時などに素材を高温に加熱する必要があるため、上限を12質量%とする。
上記基材は、代表的には板状材であり、塑性加工が施されていない形態(マグネシウム合金板)とすることができる。その他、この板状材に、曲げ加工や絞り加工といったプレス加工などの塑性加工を施した成形体を基材としてもよい。所望の用途に応じて、基材の大きさ(面積)や厚さを選択するとよい。特に、厚さが2.0mm以下、更に1.5mm以下、とりわけ1mm以下であると、薄型、軽量の部品(代表的には筐体)に好適に利用することができる。
上記基材は、平均粒径が0.05μm〜1μmといった微細で、MgやAlを含む金属間化合物、代表的には、Mg17Al12からなる粒子(Mg17Al12に限定されない)が分散した組織を有し、基材を100面積%とするとき、上記金属間化合物が1面積%〜20面積%存在する。平均粒径が0.05μm未満、又は金属間化合物の含有量が1面積%未満では、上記基材に析出物が十分に存在しておらず、AZ91合金の鋳造材のように単一の厚い防食層が形成され、耐食性に劣る。平均粒径が1μm超、又は金属間化合物の含有量が20面積%超では、上記基材中に析出物が過剰に存在したり、粗大な析出物が存在することで、Alの固溶量が低減されて耐食性の低下を招く上に、ポーラスな防食層のみが形成されることでも耐食性の低下を招く。より好ましい平均粒径は、0.1μm以上0.5μm以下、より好ましい金属間化合物の含有量は、3面積%以上15面積%以下、更に5面積%以上10面積%以下である。
(防食層の形成メカニズム)
上記基材の表面に、化成処理により形成された二層構造の防食層を具える。例えば、マンガン(Mn)及びカルシウム(Ca)を含有するリン酸溶液を化成処理液に用いて、マグネシウム合金からなる素材に防食層を形成する場合、化成処理液に上記素材を浸漬すると、素材中のMgが溶出して、素材近傍の化成処理液の酸濃度(ペーハー)が変化し、化成処理液中のMn(H2PO4)2やCa(H2PO4)2が加水分解する。この加水分解により、MnとCaとのリン酸被膜(防食層)が形成される。この防食層は、Mgの溶出量に依存し、Mgの溶出量が多いほど(或いはMgの溶出速度が速いほど)、急速に厚く形成される傾向にある。
本発明マグネシウム合金部材に具える防食層の表面層は、基材側の下層よりも緻密である、即ち、下層は、表面層よりもポーラスである。上記防食層の疎密とは、例えば、本発明マグネシウム合金部材の断面の顕微鏡観察像において、上記防食層を256階調のグレースケールで表したとき、上記表面層は、階調のばらつき(標準偏差)が6以上10以下を満たし、上記下層は、階調のばらつき(標準偏差)が13以上17以下を満たすことが挙げられる。上記階調のばらつきの値が小さいほど、気孔が少なく緻密であり、ばらつきの値が大きいほど、ポーラス(疎)であることを示す。256階調のグレースケールによる表示は、市販の画像解析装置を利用することで簡単に求められる。本発明マグネシウム合金部材に具える防食層がこのような緻密層と疎層との二層構造であることで、上述のように耐食性に優れると共に、耐クラック性や耐剥離性にも優れる。
本発明マグネシウム合金部材に具える防食層は、AZ31合金といったAlの含有量が少ないマグネシウム合金からなる素材に形成された防食層と比較して非常に薄い。具体的には、上記二層構造の防食層の合計厚さが50nm以上300nm以下であり、ポーラスな下層が合計厚さの60〜75%程度を占め、表面層が残りを占める。防食層がこのように薄くても本発明マグネシウム合金部材は、上述のように耐食性に優れる上に、防食層が薄いことで、防食層にクラックが生じ難くい。また、防食層が薄いことで、最終製品の寸法や外観に影響を与え難い。防食層が薄過ぎると、耐食性の低下を招き易く、厚過ぎても上述のようにクラックが生じて防食性の低下を招く。防食層の合計厚さは、50nm以上200nm以下がより好ましい。防食層の厚さは、化成処理の処理時間やAlの含有量などを調整することで変化させられる。
上記防食層の構成材質は、化成処理液によって変化させられる。化成処理液は、従来、クロム(Cr)を含むもの(クロメート処理液)が使用されているが、環境保全などの観点から、ノンクロム系処理液を用いることが望ましい。ノンクロム系処理液は、例えば、リン酸溶液が挙げられる。より具体的には、リン酸マンガン・カルシウム系溶液、リン酸カルシウム系溶液などが挙げられる。リン酸マンガン・カルシウム系溶液を用いた場合、マンガン及びカルシウムのリン酸化合物を主成分とする防食層が形成される。
(準備工程)
鋳造板は、双ロール法といった連続鋳造法、特に、WO/2006/003899に記載の鋳造方法で製造した鋳造板を利用することが好ましい。連続鋳造法は、急冷凝固が可能であるため、酸化物や偏析などを低減でき、圧延性に優れる鋳造板が得られる。鋳造板の大きさは特に問わないが、厚過ぎると偏析が生じ易いため、10mm以下、特に5mm以下が好ましい。
上記鋳造板に溶体化処理を施して、組成を均質化すると共に、Alといった元素を固溶させた固溶板を製造する。溶体化処理は、保持温度を350℃以上、特に、保持温度:380℃〜420℃、保持時間:60分〜2400分(1時間〜40時間)とすることが好ましい。また、保持時間は、Alの含有量が高いほど長くすることが好ましい。更に、上記保持時間からの冷却工程において、水冷や衝風といった強制冷却などを利用して、冷却速度を速めると、粗大な析出物の析出を抑制することができて好ましい。
上記固溶板に圧延を施すにあたり、素材(固溶板や圧延途中の板)を加熱することで塑性加工性を高める。但し、素材の加熱温度が高過ぎると、150℃〜300℃の温度域の保持時間が過度に長くなり、上述のように析出物の過度な成長や過度の析出を招いたり、素材の焼き付きが発生したり、素材の結晶粒が粗大化して圧延後の板の機械特性が低下したりする。そのため、圧延工程において素材の加熱温度も300℃以下とする。特に、150℃以上280℃以下が好ましい。複数回(多パス)の圧延を施すことで、所望の板厚にできると共に、素材の平均結晶粒径を小さくしたり、圧延やプレス加工といった塑性加工性を高められる。圧延は、公知の条件、例えば、素材だけでなく圧延ロールも加熱したり、特許文献1に開示されるノンプレヒート圧延や制御圧延などを組み合わせて利用してもよい。
上記圧延工程により得られた圧延板に、特許文献1に記載されるように最終熱処理(最終焼鈍)を施すことができるが、この最終熱処理を施さず、上述のように温間矯正を施す方がプレス加工といった塑性加工性に優れて好ましい。矯正は、特許文献2に記載されるようなロールレベラなどを用い、圧延板を100℃〜300℃、好ましくは150℃以上280℃以下に加熱して行うことが挙げられる。このような温間矯正を行った矯正板にプレス加工といった塑性加工を施すと、塑性加工時に動的再結晶化が生じることで、塑性加工性に優れる。
上記圧延板や、上記圧延板に上記最終熱処理を施した熱処理板、上記圧延板に上記矯正を施した矯正板にプレス加工といった塑性加工を施す場合、200℃〜300℃の温度域で行うと、素材の塑性加工性を高められて好ましい。塑性加工時において素材を上記200℃〜300℃に保持する時間は、非常に短く、例えば、プレス加工では60秒以内であり、上述したような析出物の粗大化などの不具合は実質的に生じないと考えられる。なお、上記マグネシウム合金板は、上記圧延板、熱処理板、矯正板のいずれかの形態が挙げられる。
上記基材や上記マグネシウム合金板を製造するにあたり、上記溶体化工程以降、最終製品を得るまでの工程において、素材を150℃以上300℃以下の温度域に保持する総合計時間が0.5時間〜12時間となるように制御すると共に、素材を300℃超の温度に加熱しないことを最大の特徴とする。従来、溶体化処理以降、最終製品までの工程において、素材を150℃〜300℃の温度域に保持する総合計時間をどの程度にするか十分に検討されていなかった。これに対して、上述のように析出物が生成され易かったり、生成物が成長し易い上記温度域の保持時間を特定の範囲に制御することで、特定量の微細な析出物が分散して存在する組織を有する上記基材や上記マグネシウム合金板を得ることができる。
本発明マグネシウム合金部材に具える基材は、代表的には、上述した圧延板、上記圧延板に上記最終熱処理を施した熱処理板、上記圧延板に上記矯正を施した矯正板、これらの板に塑性加工を加えた成形体のいずれかの形態が挙げられる。この基材を素材として、化成処理を施す。化成処理は、公知の化成処理液を適宜用いて、公知の条件により行うとよい。上述のようにノンクロム処理液であるリン酸マンガン・カルシウム系溶液などを用いることが好ましい。
[試験例]
マグネシウム合金板を作製して基材とし、この基材の表面に化成処理を施して防食層を具えるマグネシウム合金部材を作製し、基材の金属組織、防食層の形態、耐食性を調べた。
試料No.1のマグネシウム合金部材は、鋳造→溶体化処理→圧延(温間)→矯正(温間)→研磨→防食層の形成、という工程により作製する。
(圧延条件)
加工度(圧下率):5〜40%/パス
板の加熱温度:250〜280℃
ロール温度:100〜250℃
酸エッチング:5%リン酸溶液の攪拌下、40℃,1分
脱スマット:10%KOH溶液の攪拌下、60℃,10分
表面調整:pH8に調整した炭酸水溶液の攪拌下、60℃,5分
化成処理:ミリオン化学株式会社製商品名 グラインダー MC-1000(リン酸カルシウム・マンガン皮膜化成剤)、処理液温度35℃,浸漬時間60秒
乾燥:120℃,20分
上述した試料No.1と同様の鋳造材(但し、厚さ4.2mm)を用意し、以下の条件で圧延を行った後、矯正(温間)を行わず、矯正(温間)に代えて320℃×30分の熱処理を行ったものを作製した。この熱処理板に、試料No.1と同様にして研磨した後、防食層の形成を行った。得られたマグネシウム合金部材を試料No.100とする。
[粗圧延] 厚さ4.2mm→1mm
加工度(圧下率):20〜35%/パス
板の加熱温度:300〜380℃
ロール温度:180℃
[仕上げ圧延] 厚さ1mm→0.6mm
加工度(圧下率):平均7%/パス
板の加熱温度:220℃
ロール温度:170℃
なお、試料No.100において溶体化処理以降の150℃〜300℃の温度域に保持した総合計時間は、15時間である。
市販のAZ31合金からなる展伸材(厚さ:0.6mmの板)を準備し、試料No.1と同様にして研磨を施した後、防食層の形成を行った。得られたマグネシウム合金部材を試料No.110とする。
市販のAZ91合金からなる鋳造材(厚さ:0.6mmの板)を準備し、試料No.1と同様にして研磨を施した後、防食層の形成を行った。得られたマグネシウム合金部材を試料No.120とする。
Claims (4)
- ASTM規格におけるAZ91合金のマグネシウム合金からなる基材と、
この基材の表面に化成処理により形成された防食層と、を具え、
前記基材中に、Al及びMgの少なくとも一方を含む金属間化合物の粒子が分散して存在しており、
前記金属間化合物の粒子の平均粒径が0.05μm以上1μm以下であり、
前記マグネシウム合金部材の断面において、前記金属間化合物の粒子の合計面積の割合が1%以上20%以下であり、
前記防食層は、前記基材側に形成された下層と、前記下層の上に形成されて、前記下層よりも緻密な表面層とを具えるマグネシウム合金部材。 - 前記マグネシウム合金部材の断面の顕微鏡観察像において、前記防食層を256階調のグレースケールで表したとき、
前記表面層は、階調のばらつきが6以上10以下であり、
前記下層は、階調のばらつきが13以上17以下である請求項1に記載のマグネシウム合金部材。 - 前記防食層の合計厚さが50nm以上300nm以下である請求項1又は請求項2に記載のマグネシウム合金部材。
- 前記防食層は、リン酸マンガン・カルシウム系溶液で得られると共に、マンガン及びカルシウムのリン酸化合物を含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
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