JP2005093172A - 燃料電池用セパレータおよび燃料電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】 本発明は、アノード、カドードとの接触電気抵抗が小さく、且つ、耐食性に優れた高分子固体電解質燃料電池用セパレータ、及びそれを用いた高性能な高分子固体電解質形燃料電池の提供を目的とする。
【解決手段】 高分子固体電解質形燃料電池に用いるセパレータであって、燃料電池の負極、正極の少なくとも片方と接触する該セパレータの表面に、主に水素及び炭素から構成されるダイヤモンド状炭素から成る層を有することを特徴とする燃料電池用セパレータ。前記ダイヤモンド状炭素から成る層が、水素、炭素以外のドーパントを含有する燃料電池用セパレータ及びこれを用いた燃料電池である。
【選択図】 図1

Description

本発明は、燃料電池自動車、家庭内コージェネレーションシステム、ポータブル電源、携帯機器用電源等に使用される高分子固体電解質形燃料電池システムに関するものである。さらに詳しくは、燃料電池としての耐久性に優れる高性能な高分子固体電解質形燃料電池用セパレータ及び当該セパレータを用いて成る高分子固体電解質形燃料電池に関するものである。
高分子電解質を用いた燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと、空気等の酸素を含有する酸化剤ガスとを、電気化学的に反応させることにより、電力と熱を同時に発生させるものである。この燃料電池は、基本的には、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜、及び、高分子電解質膜の両面に形成された一対の電極、すなわちアノードとカソードから構成される。前記の電極は、通常は金属触媒を担持したカーボン粉末を主成分とし、高分子電解質膜の表面に形成される触媒層及びこの触媒層の外面に形成される通気性と電子伝導性を併せ持つガス拡散層からなる。ガス拡散層には、カーボン繊維を用いた織布(カーボンクロス)や不織布(カーボンペーパー)が一般に広く用いられている。
さらに、電極に供給される燃料ガス及び酸化剤ガスが外にリークしたり、二種類のガスが互いに混合しないように、電極の周囲には、高分子電解質膜を挟んでガスシール材やガスケットが配置される。これらのシール材やガスケットは、電極及び高分子電解質膜と一体化して予め組み立てられる。これをMEA(電極電解質膜接合体)と呼ぶ。MEAの外側には、これを機械的に固定すると共に、隣接したMEAを互いに電気的に直列に、場合によっては並列に、接続するための導電性のセパレータ板が配置される。セパレータ板のMEAと接触する部分には、電極面に反応ガスを供給し、生成ガスや余剰ガスを運び去るためのガス流路が形成される。ガス流路は、セパレータ板と別に設けることも出来るが、セパレータ板の表面に溝を設けてガス流路とする方式が一般的である。
燃料電池は、運転中に発熱するので、電池を良好な温度状態に維持するために、冷却水等で冷却する必要がある。通常、1〜3セル毎に、冷却水を流す冷却部が設けられる。冷却部をセパレータ板とセパレータ板との間に挿入する形式と、セパレータ板の背面に冷却水流路を設けて冷却部とする形式とがあり、後者の方がより一般的である。これらのMEAとセパレータ板及び冷却部を交互に重ねて10〜数100セル積層し、その積層体を集電板と絶縁板を介して端板ではさみ、締結ボルトで両端から固定するのが一般的な積層電池の構造である。このような高分子固体電解質形燃料電池では、セパレータ板は導電性が高く、かつ燃料ガス及び酸化剤ガスに対して気密性が高く、さらに水素/酸素を酸化還元する際の反応に対して高い耐食性を持つ必要がある。このような理由から、従来のセパレータ板は、通常グラッシーカーボンや、膨張黒鉛含有の樹脂又は炭素材料で構成され、ガス流路もその表面の切削や、金型による成型により、作製されていた。
従来のカーボン材料の板の切削や、金型による成型は、材料及び製造工程におけるコストを引き下げることが困難である。加えて、カーボン材料は、金属に比べて機械特性に劣り、薄型化が困難という問題が有り、近年、従来より使用されたカーボン材料に代えて、ステンレス鋼等の金属材料を用いる試みが行われている。
これまでに、金属材料を高分子固体電解質形燃料電池用部材として使用する技術が報告されており、例えば、特許文献1及び特許文献2において、ステンレス鋼をセパレータ等の固体高分子形燃料電池用部材として使用するための具体的形状や成分が報告されている。しかしながら、ステンレス鋼製セパレータにおいては、ガス拡散層に用いるカーボンペーパー或いはカーボンクロスとの接触抵抗が大きいため、燃料電池としてのエネルギー効率を大幅に低下させることが問題である。ガス拡散層に用いるカーボンペーパー或いはカーボンクロスとの接触抵抗を低減させる試みとしては、例えば、特許文献3において、SUS304をプレス成形することにより、内周部に多数個の凹凸からなる膨出成形部を形成し、膨出先端側端面に金めっき層を形成させた燃料電池セパレータが、また、特許文献4において、接触抵抗を生じる部分に貴金属又は貴金属の合金が付着していることを特徴とする高分子固体電解質形燃料電池用低接触抵抗ステンレス鋼、チタン等、金属材料適用に関する技術が開示されている。しかし、これらは、いずれも接触抵抗を低下させるために貴金属を用いており、さらなるコストダウンや希少資源節約の観点から、貴金属を使わないで接触抵抗を下げる方法が望まれている。
貴金属の使用を低減する方法としては、例えば、特許文献5において、ステンレス鋼中の中のクロムと炭素を焼鈍過程で析出させ、不動態被膜から表面に露出したクロム炭化物析出物を介して通電することにより接触抵抗を下げる手法が開示されている。しかしながら、この技術では、ステンレス鋼の焼鈍工程に時間がかかりすぎ、生産性を低下させコストアップする懸念が大きいこと、逆に、低コスト化のために焼鈍時間を短くすると、析出するクロム炭化物周辺で金属組織学的にクロム欠乏層が生じ、耐食性を低下させる懸念が大きいこと、さらにはセパレータ加工には強加工工程が必須である中、加工前に金属組織中に多量のクロム炭化物析出が起きていると加工工程において割れ発生の懸念もある。
さらに、金属材料を固体高分子形燃料電池部材として用いるための問題点として、耐久性、特に耐食性の向上が挙げられる。従来用いられている炭素系材料は、耐食性と言う点では、極めて優れており、燃料電池反応条件で副生成物として微量に生成する過酸化水素等の強酸化性物質や、イオン導電体である高分子電解質膜由来のフッ素イオン、スルホン酸、等の負イオン及びこれを含む強酸溶液環境に対して、化学的に安定である。これに対して、通常の金属材料では、前記強酸腐食環境中に長期間安定に存在することが困難であり、表面の腐食により、接触抵抗の増加や、ガスシールの信頼性低下といった深刻な問題が引き起こされる。
以上のように、高分子固体電解質形燃料電池用セパレータ部材として金属材料を用い、その優れた機械特性、加工性等を活用して、燃料電池の小型化、コストダウンを図るためには、ステンレス等の高耐食性鋼を用いた場合、ガス拡散層を形成するカーボンペーパーやカーボンクロスとの接触抵抗が大きく、燃料電池としてのエネルギー効率を大幅に低下する、という問題を防ぐために貴金属の使用が不可欠である、さらに、長期の間、強酸腐食環境中に安定に存在することが困難であり、表面の更なる耐食性向上の達成が不可欠であるという、実用上の問題点があった。
特開2000−260439号公報 特開2000−256808号公報 特開平09−6888号公報 特開2001−6713号公報 特開2000−309854号公報
本発明は、アノード、カドードとの接触電気抵抗が小さく、且つ、耐食性に優れた高分子固体電解質燃料電池用セパレータ、及びそれを用いた高性能な高分子固体電解質形燃料電池の提供を目的とする。
本発明者らは、高分子固体電解質形燃料電池用セパレータにおいて、アノード及びカソードとの接触抵抗が小さく、且つ、高分子固体電解質形燃料電池の運転環境において耐食性の高い表面処理材料を鋭意検討した結果、ダイヤモンド状炭素が非常に優れた耐食性を示し、さらに、その構造を最適化することにより接触抵抗も大幅に改善できることを見出した。さらに詳細に検討した結果、金属材料をセパレータ材料に用い、その表面にダイヤモンド状炭素の層を形成することにより、金属材料の持つ強度・加工性等の特性を活かした上で、高分子固体電解質形燃料電池用セパレータとしての要求特性を満たすことが可能であることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、
(1) 高分子固体電解質形燃料電池に用いるセパレータであって、燃料電池の負極、正極の少なくとも片方と接触する該セパレータの表面に、主に水素及び炭素から構成されるダイヤモンド状炭素から成る層を有することを特徴とする燃料電池用セパレータ、
(2) 前記ダイヤモンド状炭素から成る層が、水素、炭素以外のドーパントを含有する(1)記載の燃料電池用セパレータ、
(3) 前記ドーパントが、13族元素及び15族元素よりなる群から選ばれる1種以上の元素から成る(2)記載の燃料電池用セパレータ、
(4) 前記ドーパントが窒素、ホウ素の一方又は双方から成る(3)記載の燃料電池用セパレータ、
(5) 前記ダイヤモンド状炭素から成る層が導電性粉末を含有してなる(1)記載の燃料電池用セパレータ、
(6) 前記ダイヤモンド状炭素から成る層のラマンスペクトルが、1360cm−1近傍と1580cm−1近傍の2箇所にピークを示し、ピーク高比I(1580cm−1)/I(1360cm−1)が、0.1≦I(1580cm−1)/I(1360cm−1)≦3.0である(1)記載の燃料電池用セパレータ、
(7) 前記ダイヤモンド状炭素から成る層の厚さが、1nm以上10μm以下である(1)記載の燃料電池用セパレータ、
(8) 前記ダイヤモンド状炭素から成る層とセパレータ表面との界面に導電性層を有する(1)記載の燃料電池用セパレータ、
(9) 前記燃料電池用セパレータが、燃料電池反応ガス流通のための溝加工を施した形状を有している(1)記載の燃料電池用セパレータ、
(10) 前記燃料電池用セパレータが、金属材料から成る(9)記載の燃料電池用セパレータ、
(11) 前記金属材料が、鉄、鉄基合金、チタン、チタン基合金のうち少なくとも1種を主成分とする合金である(10)記載の燃料電池用セパレータ、
(12) 前記金属材料が、ステンレス鋼である(10)記載の燃料電池用セパレータ、
(13) 水素イオン伝導性高分子電解質膜、該水素イオン伝導性高分子膜を挟む位置に配置したアノード及びカソード、該アノードに燃料ガス、該カソードに酸化剤ガスを供給するためのガス流路を形成したアノード側セパレータ、及びカソード側セパレータを少なくとも具備した高分子固体電解質形燃料電池であって、該アノード側、カソード側セパレータのうち少なくとも一方が、(1)〜(12)のいずれかに記載の燃料電池用セパレータであることを特徴とする燃料電池、
である。
本発明のダイヤモンド状炭素層を表面に有する燃料電池用セパレータは、耐食性、電極との接触抵抗において、黒鉛材料と同等の優れた特性を発揮する。また、本発明のセパレータの基材に金属材料を用い、ダイヤモンド状炭素層を表面に有する燃料電池用セパレータ、及びこのセパレータを用いた燃料電池は、従来の切削加工した黒鉛のセパレータに対して、軽量化・小型化、並びに、低コスト化を達成することが可能である。
以下に本発明の内容について具体的に説明する。
本発明におけるセパレータの特徴は、構造を制御したダイヤモンド状炭素から成る層を電極と接触するセパレータ表面に形成することにより、高分子固体電解質形燃料電池の腐食環境における耐腐食性の向上と、セパレータ表面と電極との界面の接触抵抗の低減とを同時に達成したことにある。
本発明は、更に、セパレータの材質を金属とすることにより、コスト、成形性、生産性、セパレータの薄板化・軽量化によるスタックの小型化・軽量化等、金属材料をセパレータに適用することで生まれる長所を活かしつつ、従来の金属系の材料をセパレータに適用した際に課題となっていた接触抵抗の低減と耐腐食性の向上とを同時に解決するものである。
他の被覆材料に比較して、ダイヤモンド状炭素膜をセパレータの電極と接触する表面に被覆膜として形成することの最大の利点は、ダイヤモンド状炭素膜の耐食性が高いため、現在検討されているフッ素樹脂系のプロトン伝導性樹脂を用いた高分子固体電解質形燃料電池の腐食環境、即ち、微量のフッ素イオン、硫酸イオン等が遊離した強酸性の腐食環境において、ダイヤモンド状炭素膜自体は化学的、電気化学的に安定で腐食せず、従って、ダイヤモンド状炭素膜によるセパレータ表面の被覆が緻密であって環境からの腐食物質がセパレータ材料に接触さえしなければ、原理的にセパレータ材料の腐食を抑制することが可能である。即ち、ダイヤモンド状炭素膜を表面に形成することができれば、セパレータ材料の選定の条件から耐腐食性に関する課題を除くことができるのである。他方、一般にダイヤモンド状炭素膜はsp結合が構造の主体となり電子伝導性が必ずしも高くないために、セパレータ表面にダイヤモンド状炭素膜を形成することによりセパレータと電極との接触抵抗が増大するという課題を有する。また、セパレータ材料表面に対する密着性が材料に依存し、特に金属材料に対する密着力は必ずしも強くないこと、従って、被覆膜と金属材料との界面に応力が加わるようなセパレータの変形により、界面剥離を生じその結果腐食が進行しやすくなる。
このようにダイヤモンド状炭素膜を電極と接触する表面に形成した材料を燃料電池用セパレータに適用するには、ダイヤモンド状炭素膜の電子伝導性を高めること(膜自体の抵抗の低減と膜・セパレータの界面抵抗の低減)と、ダイヤモンド状炭素膜とセパレータ表面との密着性の改善とが必須であり、本発明では、その具体的解決手段として、(1)ダイヤモンド状炭素膜の構造最適化、(2)膜中への炭素、水素以外のヘテロ元素のドーピング、(3)ダイヤモンド状炭素膜とセパレータ界面に導電性層を形成する、(4)ダイヤモンド状炭素膜中に導電性粉末を含有する、ことを規定するものである。
本発明におけるダイヤモンド状炭素膜とは、膜中に水素を含有することを特徴とするものであり、炭素のみからなる完全なダイヤモンド構造(sp結合した炭素の結晶)ではなく、水素の含有、炭素の結合様式の乱れ、即ち、sp結合炭素の混合等により、ダイヤモンド構造に非晶質性を導入したダイヤモンド状構造を有する膜である。水素の含有量が増加するのに応じて炭素−炭素間のsp結合の密度が減少し(炭素−水素結合が増加し)、ダイヤモンドに比較して膜の硬度が低下する。他方、炭素−炭素結合の連鎖が炭素−水素結合で断ち切られるため、膜の弾性率は低下し、破断伸びは増加、即ち、膜の柔軟性が水素含有量の増加と共に増加する。ダイヤモンド状炭素膜と基材表面との密着性の観点からは、膜と基材の界面に生じる応力によるダイヤモンド状膜の剥離等が問題となる。このような膜の機械的強度物性に由来する剥離を回避するためには、ダイヤモンド状炭素膜が水素を含有し、膜に柔軟性を持たせることが重要である。セパレータ基材に黒鉛、ガラス状炭素等の炭素材料を用いた際には密着性は良好で問題にはならないが、基材に金属材料を用いた際に、膜の機械的物性が膜の密着性に鋭敏に影響を与える。鋭意検討の結果、本発明において、好ましい水素含有量は50原子%以下1原子%以上であり、より好ましくは40原子%以下、5原子%以上である。膜中に含有する水素量が1原子%未満では、膜の柔軟性が低すぎて膜の密着性が不十分であり、本発明の目的には用いるには不適当な場合がある。また、50原子%を超える水素の含有量では、ダイヤモンドが本来有する緻密性、化学的・電気化学的安定性が損なわれるため、高分子固体電解質形燃料電池の腐食環境下での耐食性が低下し、本発明の目的には適さない場合がある。
炭素−炭素間がsp結合で構成されるダイヤモンドは、その伝導帯と価電子帯のエネルギーギャップが大きいため、室温付近では電気伝導性が小さく、絶縁体に属する。他方、炭素−炭素間の結合がsp結合からなるグラファイトは、バンドギャップがゼロ、或いは僅かに重なる半金属に属し、グラファイト面に沿った電子伝導性は高い。従って、ダイヤモンド状炭素膜の導電性を高めるには、ダイヤモンドが有する性質を損なうことのない程度に、膜構造中にグラファイト的な構造、即ち、sp結合の炭素−炭素の結合からなる領域を導入することが有効な手段となる。本発明において鋭意検討の結果、グラファイト的な構造とダイヤモンド的な構造の比率を表す構造指標として、ラマンスペクトルが適しており、本発明に最適なダイヤモンド状炭素質は、そのラマンスペクトルが1360cm−1近傍と1580cm−1近傍の2箇所にピークを示し、且つ、ピーク高比I(1580cm−1)/I(1360cm−1)が、0.1≦I(1580cm−1)/I(1360cm−1)≦3.0であり、より好ましくは、0.2≦I(1580cm−1)/I(1360cm−1)≦2.0である。ピーク高比I(1580cm−1)/I(1360cm−1)が、0.1未満では、グラファイト構造(sp構造)の膜中への導入量が少ないため、電気伝導性が低く、改善効果が得られない恐れが高くなる。他方、ピーク高比I(1580cm−1)/I(1360cm−1)が3.0を超えると、グラファイト的な構造領域が優勢となり、膜物性はダイヤモンド的な性質を損ない、よりグラファイト的な性質を有する。その結果、水素を含有したダイヤモンド的膜の物性である密着性が損なわれる恐れが高くなる。
本発明者らが鋭意検討の結果、上記炭素質の構造の最適化に加えて、さらに膜構造中に炭素、水素以外のヘテロ元素をドーパントとして導入することにより、他の物性を損なうことなく、ダイヤモンド状炭素膜の電気伝導性を高められることを見出した。電気伝導性改善の原理は、いわゆる半導体材料におけるp型、n型であり、ダイヤモンド状炭素質膜中に13族元素、例えば、ホウ素、ガリウムをドーパントとして導入することでp型キャリヤーを増やし、また、15族元素、例えば、窒素、リン、砒素をドーパントとして導入することでn型キャリヤーを増やし、ダイヤモンド状炭素膜の電気伝導度を高めることができ、本発明に好適に用いることが可能である。キャリヤーを増やす目的で、13族元素と15族元素の中から複数の元素をドープすることも可能である。本発明において特に好ましくは、窒素とホウ素のうち少なくとも1種以上をドーパントとして用いることである。ドーパントとして導入するヘテロ元素の量は、13族元素では、0.1原子%以上、30原子%以下が好ましい。0.1原子%未満ではヘテロ元素の導入効果が現れず、30原子%を超えると機構は明確でないが電気伝導度はむしろ低下してしまう恐れが高い。同様に、15族元素では、0.1原子%以上、30原子%以下が好ましい。0.1原子%未満ではヘテロ元素の導入効果が現れず、30原子%を超えると機構は明確でないが電気伝導度はむしろ低下してしまう恐れが高い。
ダイヤモンド状炭素膜の膜厚は、10μm以下が好ましく、より好ましくは、5μm以下、さらに好ましくは、3μm以下である。10μmを超えるダイヤモンド状炭素膜は、亀裂を生じやすく、また、基板金属の変形に伴い、膜の剥離を生じやすくなる恐れが高い。他方、1nm未満のダイヤモンド状炭素膜は、広範囲にわたって緻密性の維持が実質的に困難になる恐れが高い。
薄膜形成技術の分野において一般的に知られるPVD(Physical Vapor Deposition)プロセス、CVD(Chemical Vapor Deposition)プロセスを用いて、ダイヤモンド状炭素膜を基板上に形成することが可能である。本発明のダイヤモンド状炭素膜の特徴である膜構成成分として、炭素と水素とを含有し、且つ、基板材料表面への密着性が高く、更に緻密な膜形成という条件を同時に満たすためのダイヤモンド状炭素膜の形成方法として、イオン化蒸着法と呼ばれる薄膜形成方法が、以下の理由から、特に好適であることを見出した。イオン化蒸着法とは、炭素源である炭化水素分子をイオン化した状態で基板上に沈着させ、沈着した分子と基板表面の構成原子との結合、沈着した分子どうしの結合形成等、化学的な反応を伴って基板上で炭素膜を形成する製膜方法である。PVD法、CVD法では、イオン化した分子も含め種々の励起状態の分子を基板に照射するのに対して、イオン化蒸着法では、イオン化した炭化水素分子のみを基板上に照射することで製膜するというのが最大の特徴である。一般に、基板材料表面への密着性が高く、かつ、緻密な膜を形成するためには、基板材料の種類、表面の状態に応じて、膜形成製膜プロセスを最適化することが必須であるが、本発明者らが鋭意検討した結果、密着性発現における必要条件が、入射した炭素膜形成分子と基板表層を構成する原子とが化学的に結合した中間層を形成することであり、そして、イオン化した炭素源を用いて、その入射エネルギーの高低により最適な中間層の形成を制御可能であることを見出した。イオン化蒸着法は、イオン化した炭素源の入射エネルギーの制御に最適な製膜方法であり、本発明に好適に用いることができる。
イオン化した炭素源の入射エネルギーとしては、100eV以上、1300eV以下が好ましく、より好ましくは、200eV以上1200eV以下、さらに好ましくは1000eV以下である。1300eVを超える電圧で加速したイオンは、入射エネルギーが大きすぎるために、基板表面のエッチング作用が強く、炭素膜の沈積反応が進行しない。また、100eV未満の加速電圧では、入射エネルギーが小さすぎて、中間層を形成することができず、形成した炭素膜の密着性は低く、容易に剥離してしまうために、耐腐食性が発現せず、本発明には適用できない。
また、基板に応じた密着性の確保には、製膜時の基板の温度も重要である。中間層の形成を促すためには高温化が望ましい。鋭意検討の結果、1000℃以下の基板温度が本発明に好適であることが判明した。1000℃を超えると、ダイヤモンド状炭素膜中の水素含有量が低下しすぎるため、密着性が低下してしまう。
また、緻密な膜形成には、イオン濃度分布が均一なイオンビームを基板表面へ一様に照射することが必要である。この観点において、イオン化蒸着法は、高周波プラズマ、マグネトロンプラズマ、ECRプラズマ、グロー放電等の種々のプラズマを用いて炭化水素等の炭素源ガスを励起・イオン化する技術を適用可能であり、従来技術の範囲で充分な均一性を持った炭素源のイオンビームを得ることができる。
炭素源として炭化水素化合物を用いることが可能であるが、特に、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、アセチレン、プロピレン、ベンゼン、トルエンの内、少なくとも1つを含む化合物を原料ガスに用いることにより、適度な水素含有量を特徴とする本発明のダイヤモンド状炭素膜を得ることができる。芳香族環を2環以上含む芳香族性の高い炭化水素を原料とすると、黒鉛性が増加し過ぎるために、基板とダイヤモンド状炭素膜との密着性が低下して、本発明には不適である。他方、脂肪族化合物を原料とする場合には、炭素数5以上の化合物を用いると、原因は不明であるが、良好なダイヤモンド状炭素膜が生成せず、本発明に使用することはできない。本発明に用いる原料ガスには、炭素源である炭化水素ガスと併せて、水素ガスを導入することもできる。水素を同時に導入することで膜中の水素含有量の制御が可能となり、耐食性、硬度、基板との密着性、膜の緻密性を改善することが可能である。
また、炭素膜の形成速度を向上させるなどの目的で、炭化水素、水素などの原料ガスに、NiやTi−Al合金の蒸気を触媒として加えることも可能である。但し、これらの金属は耐食性が高くないために、その含有量を抑制することが重要であり、1原子%以下、より好ましくは、0.1原子%以下に抑制する必要がある。
ダイヤモンド状炭素膜の導電性を改善する目的でヘテロ元素を膜中にドーパントとして導入するには、炭化水素原料ガスと同時にヘテロ元素を構成成分とする原料ガスを、上記のイオン蒸着法のイオン生成装置のイオン生成領域へ導入する方法、或いは、予めイオンガン等によりイオン化したヘテロ元素、又は、イオン化したヘテロ元素を含む原料ガスを採用することが可能である。例えば、窒素ガスを炭化水素ガスと同時に原料としてイオン化蒸着装置へ導入することで、窒素を含有したダイヤモンド状炭素膜を形成することが可能であるし、金属ホウ素を加熱して蒸気状態のホウ素原子をイオン化蒸着装置内へ導入することでホウ素を膜中に含有したダイヤモンド状炭素膜を形成することが可能である。
本発明において第二に重要な技術は、セパレータに要求される特性、即ち、耐食性(膜の緻密性)、導電性、ダイヤモンド状炭素膜と基板との密着性を改善する目的で、(1)耐食性の高い導電性の粒子をダイヤモンド状炭素膜中に分散させる、(2)耐食性の高い導電性粒子をダイヤモンド状炭素膜とセパレータ基板表面の界面に介在させる、(3)耐食性の高い導電性の膜或いは層をダイヤモンド状炭素膜とセパレータ基板との界面に形成する、等の技術を併用することである。
導電性が高く、酸性環境に対して耐腐食性の高い材料を例示するならば、(1)金属炭化物、金属窒化物、金属硼化物、或いは、SiC、(2)金、ジルコニウム、ニオブ、ハウニウム、タンタル、モリブデン、チタンから選ばれる少なくとも1種以上の元素からなる金属、或いはそれらの元素を主成分とした合金、を本発明に好適に用いることができる。これら導電性材料の内少なくとも1種以上からなる粉末をセパレータ材料表面に固定化した後に、ダイヤモンド状炭素膜の被覆処理を施すことにより、ダイヤモンド状炭素膜の導電性を導電性の粉末により補うことが可能となる。この際、粉末の粒子径は、ダイヤモンド状炭素膜の膜厚よりも大きく、従って導電性粉末がダイヤモンド状炭素膜表面から突出した状態であっても、反対に、ダイヤモンド状炭素膜の膜厚の方が導電性粉末の粒子径よりも大きく粒子が膜中に分散した状態であっても、本発明には好適に用いることが可能である。具体的な粒子径の範囲は、0.5nm以上10μm以下の粒子を本発明に好適に用いることが可能である。0.5nm未満の粒子径の粉末では、膜中での分散を均一な状態にすることが困難となり、導電性の改善効果が現れ難く、10μmを超える粒子径では、膜の機械的物性の低下をもたらし、膜の剥離等を生じる恐れが高い。また、膜中の粉末の含有量は、0.1体積%以上30体積%以下が本発明では好ましい。30体積%を超える粉末の含有量では、柔軟性の低下等の膜の機械的物性の低下をもたらし、膜の剥離等を生じる恐れが高い。0.1体積%未満の粉末の含有量では、粉末の添加効果が殆ど現れない。粉末の形状は本発明で特に制限されるものではない。球状、繊維状、一次粒子の集合体を基本構造とするようなストラクチャーを有する粉末等、種々の形状の粉末を適用することが可能である。
導電性の粉末のセパレータ基材表面への固定化の方法は、本発明において特に制限されるものではないが、例示するならば、不活性ガスと共に粉末をセパレータ基材表面へ吹き付けて固定化する方法、金属材料をセパレータ基材に適用した場合に、金属構成元素として組成中に炭素、窒素、硼素を含有させておいて、熱処理により選択的に炭化物、窒化物、或いは、硼化物を金属材料表面に濃縮、析出させる方法を挙げることができる。この場合、熱処理の方法により粒状に析出させることも、表面に層状に偏析させることも可能である。
セパレータ基材表面とダイヤモンド状炭素膜との界面に上記の導電性材料の膜、或いは、層を形成する方法は、本発明において特に制限されるものではないが、例示するならば、イオンプレーティング法、固体プレーティング材の投射による被覆法、各種PVD法、各種CVD法等を適用することが可能である。例えば、SiC、TiC膜を金属と炭素膜の界面に形成する場合には、各々、SiH、TiClを原料ガスとして用いた、各種のCVD法を適用することが可能である。導電性材料の膜の厚みは、単原子、単分子層以上10μm以下を本発明に好適に用いることができる。単原子、単分子層を満たさないような被覆では導電性の改善が不充分であり、他方、10μmを超える厚みの膜では、導電性膜自体の剥離を生じやすくなってしまう。
セパレータの基材には、いわゆる炭素材料が用いられることが多い。例示するならば、黒鉛材料、ガラス状炭素、黒鉛粉末とバインダー樹脂とを混合した粉体を金型で加熱成型するもの等を挙げることができる。セパレータとしての機能を発現させるには、ガス流路をセパレータ表面に形成する必要があり、さらに、実用的には高い電圧を発生させるため、セルを数百層に積層したスタックを形成することが多く、スタックの軽量化、小型化等の実用上の観点から、セパレータの軽量化、薄板化、高い機械的強度といった要求をも同時に満たす必要がある。本発明は、セパレータ基材によらずその表面にダイヤモンド状炭素の層を形成することにより、耐食性、導電性といったセパレータに要求される機能を発現させるものであるが、上述の実用的な要求を満たすために、セパレータ基材に金属板を適用し、その表面にダイヤモンド状炭素膜を形成することにより、耐食性、導電性、機械的強度、軽量化、薄板化といった一連の要求を満たすセパレータを得ることが可能となる。
本発明において規定する金属材料表面をダイヤモンド状炭素膜により被覆したセパレータは、固体高分子形燃料電池の運転環境における腐食因子、例えば、フッ素イオン、硫酸イオン等に、金属材料表面が広い範囲に渡って接触することはない。しかしながら、熱履歴、機械的変形等により、一度ダイヤモンド状炭素被覆膜にひび割れ等の微小な亀裂や貫通孔が発生した場合、金属表面は腐食因子に絶えず曝されることになり、基本的な耐食性の高さがセパレータに用いる金属材料に要求される。本発明のセパレータの目的は、電極との接触抵抗の低減、耐腐食性の他に、軽量化、セパレータの薄板化によるスタックの小型化、低コストを同時に満たすことである。これらを達成するには、金属材料に基本的耐食性と共に機械的な強度が要求される。耐食性と高強度を主眼におくと、ステンレス鋼、チタン、或いはチタンを主成分としたチタン合金、チタンの金属間化合物を本発明に好適に用いることができる。ステンレス鋼は、約11質量%以上のCrを含有するFe−Cr系合金を基本とし、その耐食性は基本的にはCr酸化物による広い電位範囲での不動態化によるものである。ステンレス鋼は、その用途に応じた種々の物性を調整するためにNi、Mo、Cu、Al、Si等を添加して使用されるが、本発明では、ステンレス鋼の持つ基本的耐食性と機械的強度が必要条件であり、これを満たすのであればステンレス鋼の組成、組織構造等を限定するものではない。
チタン又はチタンを主成分とするチタン合金(金属間化合物を含む)は、金属表面に形成される安定な酸化皮膜(不動態皮膜)のために優れた耐食性を発現するもので、さらなる耐食性改善のためにタンタルを添加したTi−Ta合金や、Ti−Pd合金を本発明に好適に適用することができる。
さらに、強度、加工性、コストを主眼とした金属材料の選定の観点から、鉄(Fe)、又はFeを主成分とし種々の物性調整のために複数の元素を添加したFe基合金を本発明に適用することができる。Fe−Cr系のステンレス鋼に比較して耐食性を発揮することが難しいため、(1)ダイヤモンド状炭素膜の膜厚を厚くして腐食因子の浸入の程度を小さくする、(2)鉄、或いは鉄を主成分とした合金表面とダイヤモンド状炭素膜との界面に耐食性の高い導電性材料の層を形成することで、本発明に好適に用いることが可能である。界面層の形成のための方法には特に制限はないが、具体例を挙げるならば、イオンプレーティング法、或いは、固体プレーティング法等を例示することができる。鉄、又は鉄を主成分とした合金表面とダイヤモンド状炭素膜との界面に形成する層に適する化合物は、具体的には、金、ジルコニウム、ニオブ、ハウニウム、タンタル、モリブデン、チタンから選ばれる少なくとも1種以上の元素からなる金属、又はそれらの元素を主成分とした合金を例示することができる。このような積層構造にすることにより、鋼の機械的強度、加工性、低コストを活かすと同時に、密着性の改善、並びに、耐食性の改善、導電性の改善を確立することが可能となる。
金属材料の板厚は、1mm以下が好ましい。1mmを超える板厚では、黒鉛材に対する軽量性の優位性が失われるばかりでなく、セパレータとして利用するためのガス流路の溝加工が困難となってしまう。
また、金属材料として、鉄、又は鉄を主成分とする合金、チタン、又はチタンを主成分とする合金から成る金属層を少なくとも1層含むクラッド鋼を用いることも可能である。
ダイヤモンド状炭素膜により被覆した金属材料を固体高分子形燃料電池のセパレータに適用させるためには、燃料ガス(水素ガス)、空気(酸素ガス)を流通させるための溝を金属材料に加工する必要がある。金属板に切削により溝加工を施すか、或いは、プレス成型等により金属板を変形させて溝加工する方法を採ることが可能である。切削加工の場合には、溝加工後にダイヤモンド状炭素膜を形成して、セパレータとして使用することが可能であるし、プレス成型等の成型法の場合には、成型前にダイヤモンド状炭素膜を製膜することも可能であるし、成型後に製膜することも可能である。但し、成型による金属の変形に伴いダイヤモンド状炭素膜の亀裂等の損傷をもたらす可能性があるので、成型前の製膜の場合には、膜厚の薄膜化、中間層の導入(密着性強化、耐食性強化)等の工夫が必要である。
水素イオン伝導性高分子電解質膜の両側に、各々、アノード、カソード電極を形成し、前記アノードに燃料ガスを供給するためのガス流路を形成したアノード側導電性セパレータ、及び、前記カソードに酸化剤ガスを供給するためのガス流路を形成したカソード側導電性セパレータを少なくとも具備した高分子固体電解質形燃料電池であれば、本発明で規定する燃料電池用セパレータを適用することができる。本発明で規定するセパレータは、アノード側、カソード側のどちらの極のセパレータにも適用可能である。ここで、本発明で規定する燃料電池用セパレータとは、炭素と水素を主体とするダイヤモンド状炭素膜又はこれにドーパントを含むダイヤモンド状炭素膜に被覆されてなる高分子固体電解質形燃料電池用セパレータ、又は、金属材料が炭素と水素を主体とするダイヤモンド状炭素膜又はこれにドーパントを含むダイヤモンド状炭素膜に被覆され、かつ該ダイヤモンド状炭素膜の内部もしくは前記金属材料との界面に、導電性の粉末又は薄膜の一方又は双方を含む高分子固体電解質形燃料電池用セパレータを示すものである。
本発明において規定する燃料電池用セパレータは、基板を被覆するダイヤモンド状炭素膜が耐熱性にも優れるため、高分子固体電解質形燃料電池の通常の運転温度である70〜90℃を超える温度、具体的には100℃以上の温度であっても、その燃料電池のセパレータに適用可能である。
耐腐食性の更なる改善、長期安定性の改善等を目的に、本発明で規定するダイヤモンド状炭素膜により被覆した金属材料は、さらにその表面を導電性材料により被覆して使用することが可能である。例示するならば、ポリアニリン、ポリピロール等の導電性樹脂による表面被覆、導電性を有する塗料の塗布による表面被覆等を挙げることができる。本発明にて規定するダイヤモンド状炭素膜は、主要な膜構成成分として炭素と水素を含有するために有機材料との親和性が高く、従って、樹脂系の導電性皮膜との密着性が高く、前記例示の被覆材料により耐食性改善、長期安定性を確保することが可能である。
以下、実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<金属材料へのダイヤモンド状炭素膜の被覆処理>
金属材料へのダイヤモンド状炭素膜の被覆処理には、ホール型イオン源を用いた。ホール型イオン源(Hall Accelerator for low−voltage Continuous Operation)は、図1の概略図に示すような装置で、その最大の特徴は、原料ガス導入孔4からの導入ガスの放電プラズマの生成(アノード1、カソード2及び電磁石3によるグロー放電とマグネトロン放電により生成するプラズマ)とプラズマ中で生成した炭化水素イオンの加速とが同一領域で行われるため、幅広いエネルギー分布を持った炭化水素イオンビームを基板(被覆材料)6に照射し得ることである。また、プラズマ生成領域が二本の円筒で挟まれる広い領域であるため、大面積化への対応も容易であり、且つその構造がシンプルであるため、設備的に大型化が容易という利点がある。実施例では、このホール型イオン源を用いて、原料の炭化水素ガスにメタンを用い、基板電位と基板温度を変化させてダイヤモンド状炭素膜を形成した。図中の符号5は排気孔を表す。
<膜の物性評価>
(1) 水素含有量の測定
ラザフォード弾性散乱法の一種であるERDA(Elastic Recoil Detection Analysis)法で評価した。入射ビームに50MeVの40Ar4+(ビーム電流1nA、断面1×2mm)を用い、入射ビームにより前方に散乱される軽元素を固体検出器で検知することで、膜中の水素含有量を評価した。
(2) 窒素、ホウ素含有量の測定
GDS(グロー放電発光分光分析装置、RSV社製GDS HVG702−3)を用いて評価した。4mmφの面積に対して、ダイヤモンド状炭素膜の膜厚に応じて、10〜40Wの高周波出力で、1〜100秒の範囲で、膜中の窒素とホウ素の含有量を測定した。
(3) ラマン分光分析
ラマン分光装置(日本分光社製、NR−1000)を用いて、反射法で測定した。励起光にはアルゴンイオンレーザー(波長514.5nm)、レーザー出力200mWで、サンプル表面約0.1mmφの範囲にレーザー光を照射して、ラマンスペクトルを測定した。
(4) 膜厚の測定
触針式表面粗さ計(Sloan社製 Dektak3030、分解能約2nm)を用いて、針圧約10μNで1〜2mm走査して、ダイヤモンド状炭素膜で被覆された部分と被覆されていない部分の高低差により、膜厚を算出した。膜厚を測定するために、ダイヤモンド状炭素膜の製膜の際に、一部炭素源の照射しない領域を設けた。
<耐食性の簡易評価>
評価対象の基板表面に、室温でマイクロピペッターを用いてpH2.0に調製した硫酸水溶液を約50μL滴下し、5〜6mm直径の液滴を基板上に形成する。内径15mm、高さ10mmのガラスの筒で液滴を中心にして蓋をした状態で、80℃の恒温槽中で24時間静置した後の基板表面の状態を目視で判断した。即ち、変色、膜の消失、部分的な剥離等の状態変化により、耐食性を同時に評価した。評点は3段階とし、◎は目視で全く変化なし、○は若干の膜の変色を生じるが、剥離、膜の部分的消失、ピンホール等は発生していない、×は膜の部分的剥離、膜の消失を伴う状態、として評価した。○以上を良好とした。
<膜の密着性評価>
膜の付着力を引っ掻き試験法で測定した。これは、先端が球状に加工されたダイヤモンド(直径0.4mm)針の荷重を増加させながら膜表面を引っ掻き、膜が剥離したときの荷重から付着力(単位面積当たりの限界付着力;N/mm)を評価するものである。荷重は0〜100N、荷重増加速度は100N/min、試料移動速度は10mm/minを評価条件とした。1000N/mm以上の付着力を示すものを良好とした。膜厚に依存するが、1000N/mm以上の付着力であれば、ピンセットでの引っ掻き程度で膜の剥離はなく、少々の加工をしても剥離しない。
<電気抵抗評価>
ダイヤモンド状炭素膜を被覆したセパレータ基材から直径3cmの円盤を切り出し、被覆面側にテフロンエマルジョン(テフロン:米国のデュポン社の登録商標)で撥水処理したカーボンペーパー(東レ社製TGP−H−060)を重ね、実際の固体高分子電解質形燃料電池のセパレータ環境を模擬した。このダイヤモンド状炭素膜で被覆した基材とカーボンペーパーの積層体を金の板で両側から挟み、約69Paの一定の締め付け圧力下で、7Aの一定電流を流すのに要する電圧を測定することで、電気抵抗を算出した。7Aの電流は1cm当たり1Aに相当し、固体高分子形燃料電池の実用的な使用環境を模擬したものである。20mΩ・cm以下の電気抵抗を示すものを良好とした。
<固体高分子形燃料電池での特性評価>
カーボンブラック(キャボット社製、XC72R)に白金微粒子を25質量%担持した触媒を作製し、この触媒とナフィオン溶液(Electrochem社製、EC−NS−05)とを混合・攪拌し、エタノールを濃度調整に添加して、触媒インクを調製した。このインクを撥水処理したカーボンペーパー(Electrochem社製、EC−TP1−060T)に塗布し、80℃で温風乾燥した後、水素極用と酸素極用に各々25mm角に切り出し、ナフィオン膜(デュポン社製、ナフィオン112)にホットプレス(120℃)して、膜・電極積層体(MEA)を作製した。酸素極、水素極の白金量は、各々、0.2mg/cm、0.1mg/cmであった。また、ダイヤモンド状炭素膜で被覆した各種基板を、図2、図3の概略図を示すガス流路をプレス成型により導入して、金属セパレータを作製した。上記MEAと各種金属セパレータを積層し、黒鉛板をさらにその外側から挟み込んだ単セルを組上げて、負荷特性とセルの内部抵抗を評価した。負荷特性と内部抵抗評価にはスクリブナー社の890Bを用いた。評価条件は、水素極に露点90℃に加湿した純水素(99.999%以上の純度)、酸素極には露点75℃に加湿した純酸素(純度99.999%以上)を流し、セル温度は80℃とした。内部抵抗は0.3A/cmの電流密度の時の内部抵抗を代表値として採用した。
(実施例1〜9、比較例1〜3)
金属基板としてSUS304板(板厚0.5mm)を用いて、ホール型イオン源を用いてダイヤモンド状炭素膜を製膜し、膜厚、水素含有量、ラマンスペクトルによる1580cm−1と1360cm−1のピーク高比、ダイヤモンド状炭素膜で被覆したステンレス板の電気抵抗、簡易耐食性評価、並びに、膜の付着力を評価した。表1にその結果をまとめて示す。ダイヤモンド状炭素膜の物性の制御は、ホール型イオン源で製膜時の金属基板の温度、基板へ印加する加速電圧の高低、処理時間で制御し、他の製膜条件は一定(メタンガス流量3mL/分、基板電流750mA、高圧電源650V)とした。
また、比較として、同じSUS板に対し、結晶性の高いダイヤモンド状炭素膜(比較例1)、黒鉛構造性の高い膜(比較例2)、実施例1と同じSUS基板を製膜しない状態で(比較例3)、実施例1〜9と同様に評価し、その結果を表1にまとめて示した。
表1から明らかなように、本発明で規定するダイヤモンド状炭素膜の膜厚、ラマンのピーク高比、水素含有量を制御することにより、電気抵抗、耐腐食性、付着力を同時に満たすことが分かる。
Figure 2005093172
(実施例10〜15)
ヘテロ元素として窒素をドープしたダイヤモンド状炭素膜を、実施例1〜9と同じSUS板に被覆処理して、その物性を評価した。窒素のダイヤモンド状炭素膜へのドープは、窒素ガスを炭素、水素源であるメタンガスと同時にホール型イオン源へ流入させることで、制御した。表2に、組成、膜物性をまとめて示す。表1の窒素ドープなしの膜に比較して、耐食性、付着力は維持しつつ、明確に電気抵抗が低減されていることが認められる。
Figure 2005093172
(実施例16〜18)
ヘテロ元素としてホウ素をドープしたダイヤモンド状炭素膜を、実施例1〜9と同じSUS板に被覆処理してその物性を評価した。ホウ素のダイヤモンド状炭素膜へのドープは、金属ホウ素をホール型イオン源中で加熱して、ホウ素の蒸気を発生させ、炭素、水素源であるメタンガスと同時に励起・イオン化することで、制御した。表3に組成、膜物性をまとめて示す。表1のホウ素なしの膜に比較して、耐食性、付着力は維持しつつ、明確に電気抵抗が低減されていることが認められる。
Figure 2005093172
(実施例19〜26)
金属基板を純チタン板(板厚0.5mm)とし、実施例1〜9のSUS板を基板とした場合と同様に、ホール型イオン源を用いて同様の製膜条件で、ダイヤモンド状炭素膜をチタン板上に製膜した。表4に組成、膜物性をまとめて示す。表4から明らかに、良好な電気抵抗、付着力、並びに、耐腐食性を発現した。
Figure 2005093172
(実施例27〜32)
冷延鋼板(板厚0.5mm)を金属基板に用いて、実施例1〜9のSUS板を基板とした場合と同様に、ホール型イオン源を用いて同様の製膜条件で、ダイヤモンド状炭素膜を冷延鋼板上に製膜した。表5に組成、膜物性をまとめて示す。電気抵抗、付着力共に良好な値となったが、耐腐食性評価において、膜剥離はないものの膜質変化に起因する金属材料表面の目視での僅かな色変化を生じた。
(実施例33〜38)
実施例27〜32と同一の冷延鋼板(板厚0.5mm)を金属基板に用いて、実施例1〜9のSUS板を基板とした場合と同様に、ホール型イオン源を用いて同様の製膜条件で、ダイヤモンド状炭素膜を製膜した。但し、耐腐食性を改善するために、冷延鋼板の表面に各種金属イオンをイオン注入して表面改質した後に、ダイヤモンド状炭素膜を製膜した。各種金属イオンのイオン注入は、真空アーク放電型のイオン源を用いて行った。イオン注入は、照射量として1.0×1017〜1.0×1018ions/cmの範囲で制御した。表5に組成、膜物性をまとめて示す。各種金属のイオン注入により導入した中間層により、密着性を維持しつつ、耐腐食性、並びに電気抵抗が改善されていることが分かる。
Figure 2005093172
(実施例39、40)
実施例1〜9と同じSUS板の表面に、TiN、TiCの粉末(平均粒子径0.1μm)をアルゴンガスをキャリアガスとして投射し、TiN、TiCの粉末をステンレス板上に固定させ、その上から改めて実施例1〜9の場合と同様に、ホール型イオン源を用いて同様の製膜条件で、ダイヤモンド状炭素膜を製膜した。導電粒子の含有量は、約10体積%であった。表6に組成、膜物性をまとめて示す。導電性粒子を膜中に含有させることにより、密着性を維持しつつ、耐腐食性並びに電気抵抗が改善されていることが分かる。
Figure 2005093172
(実施例41〜43、比較例4〜7)
予め金型でプレス加工して、図2、図3に示すガス流路を形成した金属基板として、SUS304板(板厚0.1mm)、純チタン板(板厚0.1mm)、冷延鋼板(板厚0.1mm)を用いて、SUS板に対しては実施例5と、純チタン板に対しては実施例20と、冷延鋼板に対しては実施例35と、同様の条件で各々ダイヤモンド状炭素膜を製膜し、これら被覆処理を施した金属基板を負極、正極のセパレータに適用した単セルを組み立てて、その発電特性を評価した(各々、実施例41、実施例42、実施例43とする)。図4に実施例41〜43の電流−電圧特性(負荷特性)、比較として、市販の黒鉛材料のセパレータ(Electrochem社製)、並びに表面処理をしていないSUS304板、純チタン板、冷延鋼板をセパレータに用いた、単セルの負荷特性をまとめて示した。図4から明らかなように、黒鉛材料製セパレータと本発明の被覆処理をした金属材料製セパレータは全く同等の負荷特性を示し、接触抵抗が黒鉛材と本発明の被覆処理をした金属材料とは同等であることが認められる。他方、表面に何ら処理を施していないSUS304板、純チタン板、冷延鋼板を用いた場合には、接触抵抗に由来すると思われるセルの内部抵抗のために、出力電圧が大きく低下することが示された。また、黒鉛材料製セパレータに対して、本発明の被覆処理をした金属材料製セパレータを用いたセルは、軽量化・薄型化(小型化)が達成された。
ホール型イオン源の構造を示す概略図である。 セパレータの平面構造を模式的に示す図である。 実施例で用いたセパレータの断面形状を模式的に示す図である。 実施例と比較例のセパレータを用いた単セルの負荷特性を示す図である。
符号の説明
1 アノード、
2 カソード、
3 電磁石、
4 原料ガス導入孔、
5 排気孔、
6 基板(被覆材料)。

Claims (13)

  1. 高分子固体電解質形燃料電池に用いるセパレータであって、燃料電池の負極、正極の少なくとも片方と接触する該セパレータの表面に、主に水素及び炭素から構成されるダイヤモンド状炭素から成る層を有することを特徴とする燃料電池用セパレータ。
  2. 前記ダイヤモンド状炭素から成る層が、水素、炭素以外のドーパントを含有する請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
  3. 前記ドーパントが、13族元素及び15族元素よりなる群から選ばれる1種以上の元素から成る請求項2に記載の燃料電池用セパレータ。
  4. 前記ドーパントが、窒素、ホウ素の一方又は双方から成る請求項3に記載の燃料電池用セパレータ。
  5. 前記ダイヤモンド状炭素から成る層が、導電性粉末を含有してなる請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
  6. 前記ダイヤモンド状炭素から成る層のラマンスペクトルが、1360cm−1近傍と1580cm−1近傍の2箇所にピークを示し、ピーク高比I(1580cm−1)/I(1360cm−1)が、0.1≦I(1580cm−1)/I(1360cm−1)≦3.0である請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
  7. 前記ダイヤモンド状炭素から成る層の厚さが、1nm以上10μm以下である請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
  8. 前記ダイヤモンド状炭素から成る層とセパレータ表面との界面に導電性層を有する請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
  9. 前記燃料電池用セパレータが、燃料電池反応ガス流通のための溝加工を施した形状を有している請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
  10. 前記燃料電池用セパレータが、金属材料から成る請求項9に記載の燃料電池用セパレータ。
  11. 前記金属材料が、鉄、鉄基合金、チタン、チタン基合金のうち少なくとも1種を主成分とする合金である請求項10に記載の燃料電池用セパレータ。
  12. 前記金属材料が、ステンレス鋼である請求項10に記載の燃料電池用セパレータ。
  13. 水素イオン伝導性高分子電解質膜、該水素イオン伝導性高分子膜を挟む位置に配置したアノード及びカソード、該アノードに燃料ガス、該カソードに酸化剤ガスを供給するためのガス流路を形成したアノード側セパレータ、及びカソード側セパレータを少なくとも具備した高分子固体電解質形燃料電池であって、
    該アノード側、カソード側セパレータのうち少なくとも一方が、請求項1〜12のいずれかに記載の燃料電池用セパレータであることを特徴とする燃料電池。
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