JP5544406B2 - 渦流探傷装置 - Google Patents

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Description

本発明は、渦流探傷装置に関する。
渦流探傷装置は、上置コイルに交流電圧を印加することにより検査対象物を励磁し、この励磁によって上置コイルに発生する起電力を検出する。検査対象物に表面開口傷などが形成されている場合、検査対象物の表面(探傷面)に沿って上置コイルを移動させることにより、上置コイルに発生する起電力の変化として傷を検出できる。
特開平06−148141号公報 特開平07−027744号公報
ところで、特許文献1、2にあるように、渦流探傷装置では、金属線を円筒状に巻いた上置コイルを使用する。上置コイルに、円柱形状の磁性コアを挿入することもある。
しかしながら、検査対象物の探傷面は、平面とは限らない。たとえば、ガス管、ガスタンク、熱交換器の配管などは、円筒面または球面の曲面形状を有する。このような曲面に対して上置コイルは密着できない。上置コイルと検査対象物の探傷面との間にギャップが形成される。上置コイルは、検査対象物の探傷面に対してガタつく。
上置コイルが探傷面に密着しない場合、上置コイルと検査対象物の探傷面との間には、ガタつきによるギャップが形成される。ギャップが介在することにより、探傷面の傷によって上置コイルに発生する起電力が小さくなる。渦流探傷装置の傷の検出性能が低下し、細かい傷を検出できない可能性がある。
また、棒形状の上置コイルを手に持って検査対象物の探傷面上で移動させる場合、ガタつきにより、上置コイルの姿勢(角度)が探傷面に対して変動し易い。上置コイルの姿勢が変動すると、上置コイルに生じる起電力も変動する。この上置コイルの姿勢の変動により、検出結果がばらつく。
特に、渦流探傷装置が検出結果として上置コイルの起電力による信号波形を表示し、表示された指示波形に基づいて傷の有無を判断する場合、細かい傷による波形の変化がガタつきによる波形の変動に埋もれてしまう。作業者は、表示される指示波形に基づいて、傷の有無を正確に判断できないことがある。ましてや、指示波形において、傷と溶接部とを区別することは容易でない。
このように上置コイルを用いた渦流探傷装置では、良好な検査結果を得られないことがある。
本発明に係る渦流探傷装置は、検査対象物の励磁により検知コイルに発生する起電力に基づいて、前記検査対象物の傷を探索可能な渦流探傷装置であって、前記検知コイルとしての平面コイルが形成され、前記検査対象物の探傷面の曲面形状に沿ってたわむことができる検知用可撓板と、前記検知用可撓板に設けられ又は前記検査対象物の探傷面の曲面形状に沿って撓むことができる補正用可撓板であって且つ前記検知用可撓板と重ねて用いる補正用可撓板に設けられ、前記検知コイルと重ねて使用される補正コイルと、前記検査対象物の探傷面の複数の位置における前記検知コイルの起電力による検出信号と前記補正コイルの起電力による検出信号との差分を、各信号成分を検出した際の前記検査対象物上での前記検知コイルの探傷位置と対応付けて記憶する記憶部と、表示部と、前記記憶部および前記表示部に接続され、前記検査対象物の探傷面に対応する二次元画像であって探傷した位置毎の探傷結果を表す画像を前記表示部に表示させる制御部と、を有し、前記制御部は、前記記憶部に記憶されている前記位置毎の差分の信号成分について、前記信号成分の分布を示す二次元平面にプロットした場合でのプロット位置を特定し、前記プロット位置を、前記二次元平面を、傷等が無い場合の原点を含む領域、傷を検出した場合の領域、および傷以外を検出した場合の領域に分けるように前記検査対象物に応じて予め設定した二次元判定図と比較し、前記表示部に表示させる前記二次元画像において、各位置の探傷結果の表示は、前記二次元判定図において前記プロット位置が対応している領域毎に異なる表示とする。
好適には、前記傷以外を検出した場合の領域は、前記検査対象物の端末部や溶接熱の影響部を検出した場合の領域である、とよい。
好適には、前記二次元判定図において、前記傷等が無い場合の原点を含む領域は、前記二次元判定図において横軸に沿って延びる領域として設定され、前記傷を検出した場合の領域と、前記傷以外を検出した場合の領域とは、前記傷等が無い場合の原点を含む領域の上下において、二次元の原点についての円周方向に並べて設定される、とよい。
好適には、先端が前記検知用可撓板に接続された第1ワイヤを所定の力で巻き取る第1巻取部と、先端が前記検知用可撓板に接続された第2ワイヤを所定の力で巻き取る第2巻取部と、を有し、前記記憶部は、前記第1ワイヤの繰出し長さおよび前記第2ワイヤの繰出し長さから演算される前記検知用可撓板の位置を、前記検査対象物上での前記検知コイルの探傷位置として記憶する、とよい。
好適には、前記第1巻取部および前記第2巻取部は、前記検査対象物に巻き付けることができるロープに所定の間隔で配置される、とよい。
好適には、ガスタービンのタービン軸またはタービン羽に複数のクリスマスツリー形状の溝を形成したことにより前記タービン軸または前記タービン羽に形成されたクリスマスツリー形状の突起部に対して取り外し可能に取り付けられる支持台と、前記支持台上で前記溝の延在方向に沿って移動可能な移動部と、前記移動部に設けられ、前記溝の延在方向での前記移動部の位置を検出する第1エンコーダと、前記移動部に設けられ、前記検知用可撓板を前記溝の奥行方向へ移動可能に保持するアームと、前記検知用可撓板および前記アームの一方に設けられ、先端が前記検知用可撓板および前記アームの他方に接続されて且つ前記溝の奥行方向に沿って延在するワイヤを所定の力で巻き取る、巻取部と、前記検知用可撓板の移動による前記ワイヤの繰出し長さを検出する第2エンコーダと、を有し、前記記憶部は、前記第1エンコーダにより検出される前記溝の延在方向での前記移動部の位置および前記第2エンコーダにより検出される前記ワイヤの繰出し長さに基づく位置を、前記検査対象物上での前記検知コイルの探傷位置として記憶する、とよい。
本発明では、検知コイルが形成された検知用可撓板を検査対象物の探傷面の形状に沿ってたわませることができる。探傷面の形状が曲面であっても、その曲面形状の探傷面に対して検知コイルを密着できる。ガタつきによるギャップ、所謂リフトオフの影響を抑制できる。探傷面の細かい傷を検出できる。良好な探傷結果が得られる。
また、検知コイルは、検知用可撓板に同心円状に形成される。よって、端末効果の影響を受けにくく、検査対象物の端部の近傍まで探傷できる。
図1は、本発明の第1実施形態に係る渦流探傷装置の概略機能ブロック図である。 図2は、コイルによる傷の検出原理の説明図である。 図3は、探傷器の一例を示す概略構成図である。 図4は、蓄積部のデータテーブルの説明図である。 図5は、図1の探傷器による検査方法および探索結果の一例の説明図である。 図6は、上置コイルによる検査方法および探索結果の一例の説明図である。 図7は、端末効果の比較説明図である。 図8は、検査対象物の端末部の検出操作および探索結果の比較説明図である。 図9は、検査対象物の傷の検出操作および探索結果の比較説明図である。 図10は、検査対象物の傷および溶接熱の影響部の探索結果の比較説明図である。 図11は、差分信号成分の二次元判定図である。 図12は、探傷結果の二次元表示画像の説明図である。 図13は、本発明の第2実施形態に係る渦流探傷装置の検出操作の説明図である。 図14は、本発明の第3実施形態に係る渦流探傷装置の探傷器の概略構成図である。 図15は、図14の探傷器の使用状態の説明図である。 図16は、ガスタービンのタービン軸を示す部分斜視図である。 図17は、本発明の第4実施形態に係る渦流探傷装置の探傷器の概略構成図である。 図18は、図17の移動部の概略構成図である。
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る渦流探傷装置1の概略機能ブロック図である。
図1の渦流探傷装置1は、検査対象物9に載置される探傷器2、AD(Analog to Digital)変換ボード3、カウンタボード4、コンピュータ装置5、を有する。探傷器2は、AD変換ボード3およびカウンタボード4に接続される。AD変換ボード3およびカウンタボード4は、コンピュータ装置5に接続される。
検査対象物9には、たとえばステンレスなどの金属で形成された例えば熱交換器の配管、ガス管、ガスタンクなどがある。これらの検査対象物9では、経年劣化、腐食、応力集中などにより、クラックなどによる傷が発生することがある。渦流探傷装置1は、この検査対象物9の表面に形成された傷などを探索する。
探傷器2は、平面コイル11が形成された検知用可撓板12、X軸エンコーダ13、Y軸エンコーダ14、補正コイル15が形成された補正用可撓板16、減算器17、sin波生成部18、第1ミキサ19、cos波生成部20、第2ミキサ21、を有する。
検知用可撓板12は、たとえば指先より一回り大きい矩形の板形状を有する。検知用可撓板12は、たとえばフレキシブルプリント基板に用いられるプラスチック材料などで形成され、可撓性を有する。
平面コイル11は、検知用可撓板12の板面内で、巻線を同心円状に巻いたものである。
sin波生成部18は、sin波信号を生成する。sin波生成部18は、平面コイル11および補正コイル15へsin波信号を出力する。平面コイル11および補正コイル15は、sin波信号が入力されると、磁界を発生する。
図2は、コイル100による傷の検出原理の説明図である。図2(A)は、導体101の表面に傷等が無い場合の説明図である。図2(B)は、導体101の表面に傷102がある場合の説明図である。
そして、図2(A)に示すように、交流電流を流したコイル100を導体101に近づけると、コイル100が発生した交流磁束が導体101を貫く。導体101には、電磁誘導により、円形の渦電流が誘導される。この円形の渦電流により、平面コイル11の交流磁束の変化を打ち消す磁束が発生する。すなわち、導体101に渦電流が流れることにより、平面コイル11が発生させた交流磁束が打ち消される。平面コイル11には、起電力により電圧が発生する。
また、図2(B)に示すように、導体101の表面に傷102がある場合、この傷102が形成された不連続部分において渦電流の流れが変化する。この場合、平面コイル11に作用する磁束が変化し、平面コイル11のインピーダンスも変化する。
このように導体101などの検査対象物9をコイル100で励磁することにより、コイル100に起電力が発生する。また、起電力は、検査対象物9の表面の傷102の有無に応じて変化する。
そして、検査対象物9の表面に沿ってコイル100を移動させることで、検査対象物9の表面に形成された傷102などを、コイル100の起電力の変化として検出できる。
探傷器2は、平面コイル11に生じる上記電磁誘導の原理に基づいて、検査対象物9の表面に形成された傷102などを探索する。
図3は、探傷器2の一例を示す概略構成図である。
図3には、探傷器2の構成として、ハウジング31、一対のマグネットホイール32,33、Y軸エンコーダ14、アーム34、スライダ35、検知用可撓板12、無端ベルト36、一対のローラ37,38、X軸エンコーダ13、が図示されている。
ハウジング31は、上面および下面が無い箱形の枠形状を有する。一対のマグネットホイール32,33は、ハウジング31内で回転可能に軸支される。一対のマグネットホイール32,33は、検査対象物9の表面に接触して回転する。ハウジング31は、検査対象物9の表面をY軸方向へ移動する。Y軸エンコーダ14は、たとえば検査対象物9の表面と接触するロータリエンコーダである。ロータリエンコーダは、ハウジング31がY軸方向へ移動すると、その移動量に応じた数のパルス信号を生成して出力する。
アーム34は、長尺の棒形状を有する。アーム34は、長尺方向がX軸方向となる姿勢で、ハウジング31に固定される。X軸方向は、検査対象物9の表面において、Y軸方向と垂直な方向である。アーム34には、X軸方向へ移動可能なスライダ35が取り付けられる。スライダ35には、検知用可撓板12が固定される。
スライダ35には、無端ベルト36が固定される。無端ベルト36は、アーム34の両端から突出して設けられた一対のローラ37,38の間に架け渡される。一対のローラ37,38のうち、たとえばハウジング31側のローラ38には、X軸エンコーダ13としての、ロータリエンコーダが取り付けられる。アーム34上でスライダ35がX軸方向へ移動すると、無端ベルト36およびローラ38が回転し、X軸エンコーダ13はスライダ35の移動量に応じた数のパルス信号を生成して出力する。
図1において、探傷器2の補正用可撓板16は、たとえば検知用可撓板12と同じ材料で、検知用可撓板12と同じサイズの矩形板形状に形成したものでよい。この場合、補正用可撓板16は、可撓性を有する。
補正コイル15は、補正用可撓板16の板面内で、巻線を同心円状に巻いたものである。補正コイル15には平面コイル11と同じsin波が印加され、後述するように補正コイル15の起電力信号は平面コイル11の起電力信号と相殺される。このため、補正コイル15は、たとえば平面コイル11と同じ大きさ、巻き数で形成するとよい。
減算器17は、平面コイル11と、補正コイル15とに接続される。減算器17は、平面コイル11の起電力信号から、補正コイル15の起電力信号を減算する。補正コイル15の起電力信号を基準とした、平面コイル11の起電力信号についての差分信号成分を生成する。
たとえば平面コイル11が傷のある場所を検出し、補正コイル15が傷の無い場所を検出している場合、減算器17から有効な差分信号成分を出力できる。
この他にもたとえば、平面コイル11および補正コイル15が共に傷の無い場所を検出している場合、減算器17から振幅が略0の差分信号成分を出力できる。
減算器17は、傷の有無により生じる起電力の変化量を、差分信号成分として出力する。探傷する検査対象物9の表面の状態に応じて、たとえば傷がある場合と無い場合とで変化する差分信号成分を出力する。
第1ミキサ19は、減算器17とsin波生成部18とに接続される。第1ミキサ19は、差分信号成分とsin波信号との積を演算する。これにより、差分信号成分に含まれる信号成分のうち、sin波信号と同相の信号成分を抽出する。
cos波生成部20は、cos波信号を生成する。cos波信号は、sin波信号に対して位相が90度ずれた交流信号である。
第2ミキサ21、減算器17とcos波生成部20とに接続される。第2ミキサ21は、差分信号成分とcos波信号との積を演算する。これにより、差分信号成分に含まれる信号成分のうち、cos波信号と同相の信号成分を抽出する。
このように、探傷器2は、差分信号成分を、sin波成分とcos波成分とに直交分離し、AD変換ボード3へ出力する。
AD変換ボード3は、第1ADC(Analog to Digital Converter)41、第2ADC42を有する。
第1ADC41は、第1ミキサ19に接続される。第1ミキサ19から出力されるsin波信号と同相の差分信号成分を、デジタル値へ変換する。
第2ADC42は、第2ミキサ21に接続される。第2ミキサ21から出力されるcos波信号と同相の差分信号成分を、デジタル値へ変換する。
カウンタボード4は、X軸カウンタ51、Y軸カウンタ52を有する。
X軸カウンタ51は、X軸エンコーダ13に接続される。X軸エンコーダ13から出力されるパルスの個数をカウントする。
Y軸カウンタ52は、Y軸エンコーダ14に接続される。Y軸エンコーダ14から出力されるパルスの個数をカウントする。
コンピュータ装置5は、蓄積部61、判定テーブル62、制御部63、表示部64、を有する。
コンピュータ装置5は、たとえばメモリ、CPU(Central Processing Unit)、表示デバイスがシステムバスに接続された構造を有する。メモリに記憶されたプログラムをCPUが読み込んで実行することにより、コンピュータ装置5に、蓄積部61、判定テーブル62、制御部63、表示部64などの機能が実現する。
蓄積部61は、探傷器2から出力される各種の検出データを蓄積して記憶する。蓄積部61は、検査対象物9の探傷範囲についての検出結果を探傷位置毎に蓄積する。具体的には、探傷位置毎の差分信号成分のデータとして、第1ADC41によりデジタル値へ変換されたsin波信号と同相の信号成分、第2ADC42によりデジタル値へ変換されたcos波信号と同相の信号成分を蓄積する。また、各探傷位置の差分信号成分には、各々の探傷位置を示すデータとして、X軸方向の移動量に対応するX軸カウンタ51のカウント値、Y軸方向の移動量に対応するY軸カウンタ52のカウント値が、対応付けて蓄積される。
図4は、蓄積部61のデータテーブルの説明図である。
図4のデータテーブルは、検査対象物9の探索結果を整理して蓄積するものである。検査対象物9の探傷範囲についての複数の探傷位置の差分信号成分が、探傷位置毎に整理して蓄積される。
検査対象物9の探傷範囲は、複数の行および複数の列により、複数の探傷位置に区分けされる。データテーブルの各列はX軸に対応し、各行はY軸に対応する。行数および列数は、たとえば探傷範囲について必要とされる分解能に応じて設定される。データテーブルの各セルは、各探傷位置に対応する。たとえば、図4のデータテーブルにおいて座標値(X,Y)=(3,2)には、探傷範囲の左上の角を基準として、探傷範囲の上から2行目で且つ左から3列目の探傷位置の探傷結果が格納される。各探傷位置の探傷結果は、差分信号成分のsin波成分と、cos波成分とで構成される。
なお、図4のデータテーブルは、探傷器2から出力される複数の検出結果を、検査対象物9の探傷位置を基準に整理して蓄積するものである。この場合、制御部63が、たとえばAD変換ボード3およびカウンタボード4から入力される探傷器2の検出データを用いて、蓄積部61のデータテーブルを更新すればよい。この他にもたとえば、蓄積部61は、探傷器2から出力される検出データをそのまま蓄積してもよい。この場合、制御部63は、探傷器2から入力される複数の差分信号成分を、各々の探傷位置の座標値に対応付けたレコードを生成し、入力順に蓄積部61に順次蓄積させればよい。
図5は、図1の探傷器2による検査方法および探索結果の一例の説明図である。
図5(A)に示すように、検査においては、検知用可撓板12を、検査対象物9である金属管の外周面に沿って湾曲させる。検知用可撓板12は、金属管の外周面に密着する。
そして、図5(B)に示すように、作業者は、検知用可撓板12を、金属管の表面に密着させたまま、金属管の表面に沿って移動させる。検知用可撓板12の先端部分に同心円状に形成された平面コイル11は、検査対象物9である金属管の外周面に沿って移動する。平面コイル11は、金属管の表面との間にギャップを形成することなく移動する。平面コイル11は、金属管の表面に対してガタ付くことがない。
検知用可撓板12に平面コイル11を形成することにより、ガタ付きが無くなる。無傷の金属管の外周面に沿って平面コイル11を移動させた場合、差分信号成分は略一定の0に安定する。その結果、図5(C)に示すように、傷等がない複数の探傷位置の差分信号成分は、一点に重なる。原点が得られる。
図5(C)は、差分信号成分を、二次元平面にプロットした図である。横軸は、差分信号成分のsin波成分の軸である。縦軸は、差分信号成分のcos波成分の軸である。
平面コイル11に発生する起電力は、検査対象物9の電磁気的な特性、傷の有無、溶接熱の影響部の有無などに応じて変動する。補正コイル15の起電力との差分を示す差分信号成分も変動する。探傷位置に形成された傷等が大きいほど、その影響により、差分信号成分についての二次元平面のプロット点は、原点からずれる。
これに対し、巻線を円筒形状に形成した従来の上置コイル111では、検査対象物9の曲面に密着できないので、原点を得ることができない。
図6は、上置コイル111による検査方法および探索結果の一例の説明図である。
図6(A)に示すように、上置コイル111は、検査対象物9の曲がった外周面との間に、隙間やギャップが形成される。上置コイル111は、外周面に密着できず、外周面上でガタつき、安定できない。
上置コイル111の起電力信号は、安定できない上置コイル111を無傷の金属管の外周面に沿って移動させた場合でも、変動する。差分信号成分も変動する。その結果、図6(B)に示すように、複数の探傷位置の差分信号成分は、傷等がない範囲を探傷した場合でも、二次元平面上でばらける。原点において重ならない。
図7は、端末効果の比較説明図である。図7(A)は、平面コイル11の磁束と検査対象物9の端縁との関係を示す図である。図7(B)は、上置コイル111の磁束と検査対象物9の端縁との関係を示す図である。
そして、図7(A)に示すように、平面コイル11は、平面内で同心円状に形成される。磁束は、平面コイル11の周囲の狭い範囲で閉じる。その結果、検知用可撓板12が、検査対象物9の端縁の近傍部分に位置したとしても、磁束が検査対象物9の外へ漏れ出ない。検査対象物9の外へ磁束が漏れ出すことに起因する差分信号成分の変動、すなわち端末効果を抑制できる。平面コイル11は、検査対象物9の端縁の近傍部分まで移動させて探傷できる。
これに対し、図7(B)に示すように、上置コイル111において、コイルは円筒形状に形成される。磁束は、上置コイル111の周囲に広がる。その結果、上置コイル111を検査対象物9の端縁の近傍部分まで移動させると、磁束が、検査対象物9の外へ漏れ出す。磁束が検査対象物9の外へ漏れ出すことによって、差分信号成分が変動する。上置コイル111では、検査対象物9の端縁の近傍部分について探傷できない。
図8は、検査対象物9の端末部の検出操作および探索結果の比較説明図である。図8(A)は、検査対象物9の端縁を探傷する状態の説明図である。図8(B)は、検査対象物9の端縁を含む範囲で平面コイル11を移動させた場合に得られる複数の探傷位置の差分信号成分を、二次元平面にプロットした図である。
検査対象物9の表面に密着させたまま検知用可撓板12を移動させた場合、傷等が検出されない複数の位置の差分信号成分は、図8(B)に示すように、二次元平面の原点において重なる。また、差分信号成分は、検査対象物9の端縁の影響を受ける探傷位置において変動する。この端末部の影響を受けた複数の探傷位置の差分信号成分は、二次元平面の原点から左上方向へ延びるループ形状にプロットされる。このループ形状が、二次元平面での傷等の指示波形になる。図8(B)の指示波形の長尺方向の位相角度は、θ2度である。
これに対し、上置コイル111を使用した場合、図8(C)に示すように、ガタつきによるリフトオフなどの影響により、傷等がない複数の探傷位置の差分信号成分は、ばらつく。原点において重ならない。端末部の影響を受けた複数の探傷位置の差分信号成分は、原点から一方向へ延びる指示波形(ループ)を形成しない。波形が不明瞭になる。
図9は、検査対象物9の傷(クラック)の検出操作および探索結果の比較説明図である。
図9(A)は、検査対象物9の傷を探傷する状態の説明図である。傷は、検査対象物9の端縁から内側へ向かうクラックとして形成されている。
図9(B)は、検査対象物9の傷を含む範囲で平面コイル11を移動させた場合に得られる複数の探傷位置の差分信号成分を、二次元平面にプロットした図である。
検査対象物9の表面に密着させたまま検知用可撓板12を移動させた場合、傷等がない複数の位置の差分信号成分は、図9(B)に示すように、二次元平面の原点において重なる。
差分信号成分は、検査対象物9の傷の影響を受ける探傷位置において変動する。傷の影響を受けた複数の探傷位置の差分信号成分は、二次元平面の左上方向へ延びるループ形状にプロットされる。ループによる指示波形の長尺方向の位相角度は、θ1度である。図8および図9の場合、θ1は、θ2より大きい。
これに対し、上置コイル111を使用した場合、図9(C)に示すように、ガタつきによるリフトオフなどの影響により、傷等がない複数の探傷位置の差分信号成分は、ばらつく。原点において重ならない。傷の影響を受けた複数の探傷位置の差分信号成分は、原点から一方向へ延びるループを形成しない。
図10は、検査対象物9の傷および溶接熱の影響部の探索結果の比較説明図である。図10(A)は、検査対象物9の傷または溶接熱の影響部に沿って平面コイル11を移動させる状態の説明図である。図10(B)は、検査対象物9の傷の上で平面コイル11を移動させた場合に得られる複数の探傷位置の差分信号成分を、二次元平面にプロットした図である。図10(C)は、検査対象物9の溶接熱の影響部の上で平面コイル11を移動させた場合に得られる複数の探傷位置の差分信号成分を、二次元平面にプロットした図である。
図10において、複数の探傷位置の差分信号成分の一部は、二次元平面の原点において重なり、残りがループによる指示波形を形成する。
ただし、図10(B)および図10(C)に示すように、傷の影響を受けた差分信号成分のループによる指示波形と、溶接熱の影響を受けた差分信号成分のループによる指示波形とでは、指示波形の振幅(長さ)および位相角度が異なる。傷の影響を受けた差分信号成分の指示波形の位相角度は、溶接熱の影響を受けた差分信号成分の指示波形の位相角度より大きい。
以上のように、平面コイル11を使用することで、傷等の影響を受けていない複数の探傷位置の差分信号成分を、二次元平面の原点で重ねることができる。上置コイル111を使用した場合には不可能であった原点を得ることができる。
また、傷等の影響を受けた複数の探傷位置の差分信号成分は、二次元平面において、原点から一方向へ延びるループ形状の指示波形を形成する。
また、傷の影響による指示波形は、検査対象物9の端末部の影響による指示波形または溶接熱の影響による指示波形とは異なる位相角度で延びる指示波形として、二次元平面において区別可能である。指示波形の振幅および位相角度は、傷等の種類および大きさに応じたものになる。
図11は、傷等の有無および種類を判定するために使用される、差分信号成分の二次元判定図である。図1の判定テーブル62は、図11の二次元判定図をデータ化したものである。判定テーブル62は、コンピュータ装置5のメモリに記憶される。
図11の二次元判定図において、横軸は差分信号成分のsin成分に対応し、縦軸は差分信号成分のcos成分に対応する。図11の二次元判定図は、たとえば所定のステンレス配管の探傷のためのものである。
図11の二次元判定図において、横軸に沿って横線のハッチングが付された第1領域71は、傷等が無い場合の差分信号成分がプロットされる範囲である。
原点の右上側に位置し、左下斜線のハッチングが付された第2領域72、第3領域73、および第4領域74は、傷を検出した場合の差分信号成分がプロットされる範囲である。傷を判定する領域は、指示波形の振幅、すなわち傷の大きさに応じて、3つの領域に分割される。
原点の左下側に位置し、右下斜線のハッチングが付された第5領域75および第6領域76は、傷以外のたとえば端末部や溶接熱の影響部を検出した場合の差分信号成分がプロットされる範囲である。これらの傷以外の影響を判定する領域では、指示波形の振幅を判定せず、影響の有無のみを判定する。
このように二次元判定図を用いることにより、制御部63は、各探傷位置の傷等の有無、傷等の種類および大きさを判定できる。
なお、二次元判定図での、これらの領域の割り当ては、検査対象物9の材質、検出する必要がある傷等の種類、検査内容などに応じて適宜調整してよい。
また、作業者は、傷等の状態が予め判明している検査対象物9と同一材料のものについて検査し、判別したい要因(たとえば傷と端末部または溶接熱の影響部などと)による指示波形の位相角度および振幅を特定し、これに基づいて二次元判定図での領域分けを決定すればよい。
たとえば、図11の例では、図9(B)の傷による指示波形の位相角度θ1と、図8(B)の端末部による指示波形の位相角度θ2とを判定できるように、第2領域72から第4領域74と、第5領域75との間の境界を決めている。
次に、以上の渦流探傷装置1の動作について説明する。
検査対象物9の表面の傷等を探索する場合、作業者は、渦流探傷装置1の探傷器2を、検査対象物9の表面に載せる。作業者は、補正コイル15を有する補正用可撓板16を、検査対象物9において傷等が形成されていない部位に密着させる。
以上の初期設定後、検査対象物9の表面の傷などを探索するために、作業者は、平面コイル11が形成された検知用可撓板12を、検査対象物9の表面に押し当てる。また、所望の探傷範囲において、検査対象物9の表面に密着させたまま、検知用可撓板12を移動させる。
探傷器2のsin波生成部18は、平面コイル11および補正コイル15へsin波を出力する。平面コイル11には、探傷位置の表面状態に応じた起電力が発生する。補正コイル15には、傷等が形成されていない部位での起電力が発生する。
減算器17は、平面コイル11の起電力信号から、補正コイル15の起電力信号を減算し、差分信号成分を生成する。
第1ミキサ19は、差分信号成分とsin波とをミキシングし、差分信号成分のsin成分を抽出する。第1ADC41は、sin成分をデジタル値へ変換する。第2ミキサ21は、差分信号成分とcos波とをミキシングし、差分信号成分のcos成分を抽出する。第2ADC42は、cos成分をデジタル値へ変換する。AD変換ボード3からコンピュータ装置5へ、差分信号成分が、sin成分とcos成分とに直交分離されて出力される。
また、作業者が検知用可撓板12を探傷範囲において移動させると、それに従って探傷器2のX軸エンコーダ13およびY軸エンコーダ14は、検知用可撓板12の移動に応じたパルス信号を出力する。X軸カウンタ51およびY軸カウンタ52は、それぞれのパルス信号をカウントし、カウント値を出力する。カウンタボード4からコンピュータ装置5へ、平面コイル11の探傷位置に対応する位置情報として、X軸方向のカウント値およびY軸方向のカウント値が出力される。
以上の探傷器2、AD変換ボード3、およびカウンタボード4の動作により、コンピュータ装置5には、検査対象物9の表面の探傷結果を示す差分信号成分(sin波成分のデジタル値およびcos波成分のデジタル値)と、平面コイル11の探傷位置に対応する探傷位置(X軸方向のカウント値およびY軸方向のカウント値)と、が入力される。制御部63は、これらの情報を蓄積部61に蓄積する。蓄積部61は、たとえば図4のデータテーブルに整理して蓄積する。
また、制御部63は、蓄積部61に蓄積されたデータに基づいて、検査対象物9の探傷範囲の探傷結果を表示するための二次元表示画像を生成し、表示部64に表示させる。
制御部63は、蓄積部61から探傷範囲の各探傷位置の差分信号成分を読み込み、図11に対応する判定テーブル62と比較する。二次元判定図での、各差分信号成分のプロット位置を特定する。そして、特定したプロット位置のハッチングを、二次元表示画像において探傷位置に対応する区画に割り当てる。制御部63は、蓄積部61に蓄積されたすべての差分信号成分について以上の処理を繰り返す。
これにより、探傷済の探傷位置の区画が、それぞれの位置の差分信号成分に対応するハッチングにより表された二次元表示画像が生成される。表示部64は、この二次元表示画像を表示する。探傷範囲は、二次元表示画像により可視化される。
図12は、表示部64に表示される、探傷結果の二次元表示画像79の説明図である。
図12の二次元表示画像79は、図9(A)の検査対象物9の表面を探傷した場合の画像である。
図9(A)の探傷範囲では、下部に、傷が無い領域が存在する。このため、図12の二次元表示画像79の下部には、傷が無い第1領域71での横方向のハッチングが付されている。
図9(A)の探傷範囲では、中央部に、傷がある。このため、図12の二次元表示画像79の中央部には、傷を探索した場合の第2領域72から第4領域74での左下斜線のハッチングが付されている。
図9(A)の探傷範囲では、上部に、検査対象物9の端部が存在する。このため、図12の二次元表示画像79の上部には、傷以外を探索した場合の第5領域75または第6領域76での右下斜線のハッチングが付されている。
制御部63は、蓄積部61に蓄積されたデータに基づいて、検査中に繰り返し二次元表示画像79を生成し、表示部64に表示させる。作業者は、表示部64に表示された二次元表示画像79に基づいて、ハッチングの違いにより、傷等の有無、傷等の種類、傷の大きさを判断できる。
また、検査中に更新される二次元表示画像79では、検査が済んだ探傷位置にハッチングが付される一方で、検査が済んでいない探傷位置にはハッチングが付されない。作業者は、表示された二次元表示画像79でのハッチングの付加状況により、探傷範囲の検査の進行状況を確認できる。作業者は、ハッチングが付されていない区画にハッチングが付されるように検知用可撓板12を移動できる。効率よく、探傷範囲の全体を探傷できる。
なお、表示部64は、図11の二次元判定図と、図12の探傷結果の二次元表示画像79とを、1画面に並べて表示してよい。
以上のように、本実施形態では、平面コイル11が形成された検知用可撓板12を検査対象物9の探傷面の形状に沿ってたわませることにより、平面コイル11を検査対象物9の探傷面に密着できる。探傷面の形状が曲面であっても、その曲面形状の探傷面に対して平面コイル11を密着できる。
検知用可撓板12をたとえば指で抑えることにより、平面コイル11を探傷面に密着させたまま、平面コイル11を探傷面上で移動できる。ガタつきによるギャップを無くし、検査結果における所謂リフトオフの影響を抑制できる。探傷面の細かい傷を検出できる。高い検出性能が得られる。また、上置コイル111のようにガタつきを無くすための冶具が不要である。
また、平面コイル11は、検知用可撓板12に同心円状に形成される。平面コイル11の磁束は、平面状のコイルの周囲に密に形成される。検査対象物9の端部近傍に検知用可撓板12が位置しても、検査対象物9からの磁束の漏れが生じ難い。その結果、上置コイル111を用いる場合に比べて、検査対象物9の端縁の近傍部分まで探傷できる。端末効果の影響を受けにくい。
また、本実施形態では、探傷面に対して平面コイル11が密着するので、リフトオフの影響を抑制でき、探傷面の傷等が形成されていない部位での複数の差分信号成分を略0に揃えることができる。その結果、探傷範囲の複数の探傷位置の差分信号成分を二次元平面にプロットした場合、傷等が無い部分での複数の差分信号成分を、二次元平面において略同じ位置にプロットできる。傷等が無い部位を示す原点が得られる。
また、本実施形態では、リフトオフの影響を抑制できるので、傷等の影響がある複数の探傷位置の差分信号成分は、二次元平面において一方向へ延びるループ形状の指示波形にプロットされる。傷の影響を受けている差分信号成分は、傷の大きさ、深さなどに応じて異なるが、二次元平面において一定の範囲にプロットされる。また、傷以外のたとえば溶接熱の影響部に対応する差分信号成分は、二次元平面での傷とは異なる範囲へ延びるループ形状の指示波形にプロットされる。
すなわち、リフトオフの影響が抑制できることにより、傷の影響による差分信号成分の分布範囲と、それ以外の影響による差分信号成分の分布範囲とを、二次元平面において互いに重ならない異なる範囲に分布させることができる。
また、これらの分布範囲は、検査対象物9について、たとえば既知の傷および溶接熱の影響部を測定することにより、事前に把握可能である。事前に把握した分布範囲に基づいて二次元判定図を複数の領域に分けることができる。予め設定した領域分けを利用して、傷等の有無だけでなく、傷とそれ以外の原因とを識別できる。また、これを二次元表示画像79により可視化して表示することにより、作業者は表示に基づいて容易に傷等の種類や大きさを判定できる。
これに対し、たとえば従来のように図8(B)や図9(B)の波形を表示部64に表示させ、この指示波形の表示に基づいて作業者が傷であるか否かを判断する場合、波形の傾き、位相角度、振幅に基づいて、傷とそれ以外のたとえば検査対象物9の端末部とを区別できないことがある。特に、端末部にクラックが形成されている場合、このクラックの有無を正確に判断することができないことがある。また、リフトオフの影響がある場合、図8(C)や図9(C)のように指示波形が乱れるため、傷等の有無の判断すら難しくなる。
[第2実施形態]
次に、渦流探傷装置1の異なる使用方法を説明する。
第2実施形態では、第1実施形態の渦流探傷装置1を使用する。
ただし、渦流探傷装置1を用いた探傷方法が異なる。
第1実施形態において、補正コイル15を有する補正用可撓板16は、平面コイル11を有する検知用可撓板12とは異なる場所に配置される。
検知用可撓板12を検査対象物9に密着させる場合、補正コイル15は、検査対象物9の温度の影響を受ける。平面コイル11の起電力信号は、検査中に温度ドリフトする可能性がある。
また、検知用可撓板12を指で抑える場合、平面コイル11の起電力信号は、検査中に温度ドリフトする可能性がある。
これらの温度ドリフトの影響により、検出結果(差分信号成分)には、ノイズ成分が含まれる可能性がある。このようなノイズ成分を含む場合、二次元平面に複数の差分信号成分をプロットしても、好適な原点や指示波形を得られなくなる可能性がある。
これらの温度ドリフトの影響を抑制するため、本実施形態では、補正用可撓板16を、検知用可撓板12の上に重ねて使用する。
図13は、本発明の第2実施形態に係る渦流探傷装置1の検出操作の説明図である。
図13に示すように、本実施形態では、補正用可撓板16は、検知用可撓板12の上に重ねて配置される。
補正用可撓板16は、検知用可撓板12の上に、接着剤などにより張り合わされてよい。
作業者は、重ねられた補正用可撓板16および検知用可撓板12を、検査対象物9の表面に抑える。また、補正用可撓板16および検知用可撓板12を、重ねたまま、移動させる。
本実施形態では、補正用可撓板16が検知用可撓板12の上に重なる。補正コイル15には、平面コイル11と同様に、検査対象物9の温度および作業者の体温が伝わる。補正コイル15は、平面コイル11を同じように温度ドリフトする。よって、差分信号成分では、温度ドリフトがキャンセルできる。
また、平面コイル11および補正コイル15は、検査対象物9からの距離が互いに異なるため、これらの起電力信号に差を生じる。よって、このように自己誘導型の比較方式の原理を用いて熱影響をキャンセルしつつも、検査対象物9との距離の相違に基づく起電力の相違により、すなわち感度差により、検査対象物9の傷等に応じた差分信号成分を得ることができる。
平面コイル11および検知用可撓板12を検査対象物9に密着させているにもかかわらず、温度ドリフトの影響を抑制できる。傷等がない複数の探傷位置の差分信号成分を、二次元平面の原点において重ねることができる。
また、補正コイル15は平面コイル11と重ねて配置されているので、補正コイル15と平面コイル11とを横並びに配置した場合のように傷等の検出性能が低下しない。
なお、本実施形態では、平面コイル11は検知用可撓板12に形成され、補正コイル15は補正用可撓板16に形成されている。
この他にもたとえば、1つの可撓板に、平面コイル11および補正コイル15を形成してもよい。
[第3実施形態]
次に、探傷器2の変形例について説明する。
第3実施形態の探傷器2は、円筒形状の配管などの検査に好適に使用できる。
図14は、本発明の第3実施形態に係る渦流探傷装置1の探傷器2の概略構成図である。
図14(A)には、探傷器2の構成のうち、検知用可撓板12、連結プレート81、第1ワイヤ82、第1リール83、第1エンコーダ84、第2ワイヤ85、第2リール86、第2エンコーダ87、ロープ88、が図示されている。探傷器2は、この他にも、図1に示すように、補正用可撓板16、減算器17、第1ミキサ19、第2ミキサ21、sin波生成部18、cos波生成部20、を有する。
探傷器2以外の渦流探傷装置1の構成と、探傷器2とAD変換ボード3およびカウンタボード4との接続関係は、第1実施形態と同様であり、説明を省略する。
連結プレート81は、検知用可撓板12が固定される。連結プレート81には、第1ワイヤ82の先端および第2ワイヤ85の先端が取り付けられる。第1リール83は、第1ワイヤ82を所定の張力で巻き取る。第1エンコーダ84は、第1ワイヤ82の引き出し量に応じたパルス信号を、図1のカウンタボード4へ出力する。第2リール86は、第2ワイヤ85を所定の張力で巻き取る。第2エンコーダ87は、第2ワイヤ85の引き出し量に応じたパルス信号を、図1のカウンタボード4へ出力する。
図15は、図14の探傷器2の使用状態の説明図である。
図15に示すように、作業者は、探傷器2のロープ88を、検査対象物9の外周に巻き付ける。第1リール83および第2リール86は、所定の間隔で、検査対象物9の外周面上に位置決めして固定される。
作業者は、図15の固定状態で、検知用可撓板12を検査対象物9の表面に押し当てながら移動させる。これにより、コンピュータ装置5には、探傷範囲の探傷結果が入力される。
制御部63は、第1リール83と第2リール86との間隔と、第1エンコーダ84のパルス信号に基づいてカウントされたカウント値と、第2エンコーダ87のパルス信号に基づいてカウントされたカウント値とを用いて、連結プレート81の位置を演算する。連結プレート81の位置は、平面コイル11の位置に対応する。
図14(B)は、連結プレート81の位置の演算方法の説明図である。
図14(B)の各部の配置は、14(A)での各部の配置に対応する。
制御部63は、カウント値に基づいて第1ワイヤ82の繰出し長さW1を演算し、カウント値に基づいて第2ワイヤ85の繰出し長さW2を演算する。制御部63は、演算した第1ワイヤ82の繰出し長さW1、第2ワイヤ85の繰出し長さW2、および第1リール83と第2リール86との間隔Lを、三角形の3辺としたピタゴラスの定理により、連結プレート81の位置を特定する。制御部63は、特定した連結プレート81の位置のX座標およびY座標を、平面コイル11の探傷位置として用いる。
これにより、蓄積部61には、探傷位置のX座標およびY座標が蓄積保存される。
本実施形態では、簡易な構造および演算に基づいて、各差分信号成分に対応する、検査対象物9上での平面コイル11の探傷位置を得ることができる。
また、検知用可撓板12は、第1ワイヤ82および第2ワイヤ85の2本のワイヤにより引っ張られている。検知用可撓板12を指などにより手動で動かす場合、作業者は、これら2本のワイヤの張力に抗して検知用可撓板12を移動させる力を加えればよい。検知用可撓板12に対して所望の方向へ力を加えるだけで、検知用可撓板12を容易に移動させて位置決めできる。ワイヤ方式を採用することにより、簡単な操作で効率よく作業できる。
これに対し、たとえばX軸方向への可動部材とY軸方向への可動部材とを用いて検知用可撓板12を移動させる場合、これらの可動部材を順番に操作する必要がある。
また、本実施形態では、たとえば円筒形状の配管のように曲面形状の検査対象物9に対してロープ88を巻きつけることにより、第1巻取部および第2巻取部を、検査対象物9に対して位置決めして固定できる。そして、この固定状態において検知用可撓板12を移動させることにより、検査対象物9の曲面部分について容易に探傷できる。
[第4実施形態]
図16は、ガスタービンのタービン軸121を示す部分斜視図である。
タービン軸121の外周部には、クリスマスツリー形状の溝122が形成される。このタービン軸121のクリスマスツリー形状の溝122に、タービン羽の根元部のクリスマスツリー形状の溝122が嵌め合わされる。これにより、タービン軸121にタービン羽が固定される。
また、タービン軸121には、クリスマスツリー形状の溝122の内部に、凹部123が形成される。凹部123は、たとえば、溝122の側端から少し内側へ入った部位に形成される。凹部123を形成することにより、たとえば使用環境下でタービン軸121に作用する応力を逃がすことができる。また、凹部123から、熱を逃がすことができる。凹部123は、クーリングスロットとしても機能する。
しかしながら、タービン軸121に凹部123を形成した場合、凹部123の周囲に亀裂124が入ることがある。
本実施形態の渦流探傷装置1は、凹部123の周囲について、亀裂124などを探傷する。
図17は、本発明の第4実施形態に係る渦流探傷装置1の探傷器2の概略構成図である。
図17の探傷器2は、支持台91、移動部92を有する。
探傷器2以外の渦流探傷装置1の構成は、第1実施形態と同様であり、説明を省略する。
図18は、図17の移動部92の概略構成図である。
図18には、移動部92の構成のうち、ハウジング31、一対のマグネットホイール32,33、Y軸エンコーダ14、アーム34、スライダ35、平面コイル11が形成された検知用可撓板12、X軸リール93、X軸エンコーダ13、が図示されている。移動部92は、この他にも、図1に示すように、補正用可撓板16、減算器17、第1ミキサ19、第2ミキサ21、sin波生成部18、cos波生成部20、を有する。
ハウジング31は、上面および下面が無い箱形の枠形状を有する。一対のマグネットホイール32,33は、ハウジング31内で回転可能に軸支される。一対のマグネットホイール32,33が検査対象物9の表面に接触して回転することで、ハウジング31は、検査対象物9の表面をY軸方向へ移動する。Y軸エンコーダ14と、一方のマグネットホイール32の回転軸との間には、無端ベルト94が架け渡される。Y軸エンコーダ14は、ロータリエンコーダである。ハウジング31がY軸方向へ移動すると、ロータリエンコーダは、その移動量に応じた数のパルス信号を生成し、図1のカウンタボード4へ出力する。他方のマグネットホイール33は、ピニオンラック機構95により、ハンドル96に接続される。
アーム34は、長尺の棒形状を有する。アーム34は、長尺方向がX軸方向となる姿勢で、ハウジング31に固定される。アーム34には、X軸方向へ移動可能なスライダ35が取り付けられる。スライダ35には、検知用可撓板12が固定される。
スライダ35には、X軸リール93とX軸エンコーダ13とが固定される。X軸リール93は、先端がアーム34に固定されたワイヤ97を所定の張力で巻き取る。X軸エンコーダ13は、X軸リール93からのワイヤ97の引き出し量に応じたパルス信号を、図1のカウンタボード4へ出力する。
図17の支持台91は、プレート部98と、固定部99と、を有する。
固定部99は、複数のクリスマスツリー形状の溝122を形成したことによりタービン軸121に形成されたクリスマスツリー形状の突起部を挟む。プレート部98は、固定部99に固定される。これにより、探傷器2を乗せるプレート部98は、クリスマスツリー形状の溝122に対して位置決めして固定される。プレート部98は、図17の紙面に垂直な方向に延びる溝122に沿って、配置される。
そして、プレート部98には、移動部92が載置される。移動部92は、一対のマグネットホイール32,33で、プレート部98上を走行する。マグネットホイール32,33は、磁力でプレート部98に密着して固定される。ハンドル96を回転させることにより、マグネットホイール32,33が回転し、移動部92はプレート部98上を移動する。
また、移動部92のアーム34は、その先端がクリスマスツリー形状の溝122の奥に到達するように、溝122内に挿入して配置される。プレート部98を有する支持台91を用いるので、移動部92がプレート部98上で走行しても、挿入されたアーム34は、クリスマスツリー形状の突起部と干渉しない。なお、ハウジング31に対するアーム34の取付高さを調整することにより、様々な大きさおよび形状の溝122に対して、アーム34を挿入できる。
作業者は、図17の設置状態で、検知用可撓板12を、クリスマスツリー形状の溝122の表面に押し当てる。また、検知用可撓板12を押し当てたまま、移動させる。検知用可撓板12が固定されるスライダ35には、X軸リール93およびワイヤ97により張力が作用しているので、作業者は、この張力に抗する力を作用させるように、溝122内で検知用可撓板12を移動できる。また、移動部92のY軸方向の位置は、マグネットホイール32,33により固定されている。検知用可撓板12は、X軸方向へ移動する。移動部92をY軸方向へ移動させる場合、作業者はハンドル96を回転操作する。
また、図17の設置状態で、検知用可撓板12をクリスマスツリー形状の溝122の表面に押し当てながら移動させると、コンピュータ装置5には、探傷位置の差分信号成分とともに、X軸エンコーダ13およびY軸エンコーダ14のパルス信号に基づいてカウントしたカウント値が入力される。制御部63は、これらのカウント値に基づいて、スライダ35の位置を演算する。スライダ35の位置は、平面コイル11の位置に対応する。蓄積部61には、探傷位置および差分信号成分が蓄積保存される。
本実施形態において、平面コイル11および検知用可撓板12は、支持台91、移動部92およびアーム34により、クリスマスツリー形状の溝122の延在方向および奥行方向へ移動可能に保持される。上置コイル111を有する従来のプローブでは挿入することができなかったクリスマスツリー形状の溝122内に、コイルを挿入できる。クリスマスツリー形状の溝122に挿入された平面コイル11および検知用可撓板12は、溝122の表面に密着させたまま、溝122内で移動できる。従来検査が困難であったクリスマスツリー形状の溝122について、表面の傷を詳しく探索できる。
また、表示される二次元表示画像79では、溝122内に形成された凹部123と、クラックなどの傷とをハッチングにより区別して表示できる。しかも、探傷範囲は、複数の探傷位置の区画に分けて表示される。作業者は、直視した凹部123の形状から、二次元表示画像79における凹部123の形状、位置および範囲を特定できる。クラックなどの傷との識別精度が向上する。
クリスマスツリー形状の溝122に挿入された平面コイル11および検知用可撓板12には巻取部により所定の張力が加えられている。作業者は、この張力に抗して検知用可撓板12を移動させる力を加えるだけで、検知用可撓板12を溝122の表面に密着させたまま溝122内で移動できる。ワイヤ97方式を採用することにより、簡単な操作で効率よく作業できる。
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
たとえば上記実施形態では、制御部63は、判定テーブル62に基づいて、傷等が無い部位、傷付いた部位、それ以外の部位を判別し、それらをハッチングにより区別して表示している。
この他にもたとえば、これらの部位は、色分けなどにより区別して表示してもよい。また、判定テーブル62を変更して、傷等が無い部位と、傷を含むそれ以外の部位とを区別してもよい。
上記実施形態では、探傷器2は、平面コイル11とともに補正コイル15を有する。
この他にもたとえば、探傷器2は、平面コイル11のみを有してもよい。この場合、探傷器2は、検査対象物9の傷等がない部位を平面コイル11で予め検出し、その時の差分信号成分の波形またはそのデジタルデータを記憶し、検査中の差分信号成分とその記憶した補正用の差分信号成分との差分を演算すればよい。
1 渦流探傷装置
2 探傷器
9 検査対象物
11 平面コイル(検知コイル)
12 検知用可撓板
15 補正コイル
16 補正用可撓板
34 アーム
61 蓄積部
63 制御部
64 表示部
82 第1ワイヤ
83 第1リール(第1巻取部)
84 第1エンコーダ
85 第2ワイヤ
86 第2リール(第2巻取部)
87 第2エンコーダ
88 ロープ
91 支持台
92 移動部
93 X軸リール(巻取部)
121 タービン軸
122 クリスマスツリー形状の溝

Claims (6)

  1. 検査対象物の励磁により検知コイルに発生する起電力に基づいて、前記検査対象物の傷を探索可能な渦流探傷装置であって、
    前記検知コイルとしての平面コイルが形成され、前記検査対象物の探傷面の曲面形状に沿ってたわむことができる検知用可撓板と、
    前記検知用可撓板に設けられ又は前記検査対象物の探傷面の曲面形状に沿って撓むことができる補正用可撓板であって且つ前記検知用可撓板と重ねて用いる補正用可撓板に設けられ、前記検知コイルと重ねて使用される補正コイルと、
    前記検査対象物の探傷面の複数の位置における前記検知コイルの起電力による検出信号と前記補正コイルの起電力による検出信号との差分を、各信号成分を検出した際の前記検査対象物上での前記検知コイルの探傷位置と対応付けて記憶する記憶部と、
    表示部と、
    前記記憶部および前記表示部に接続され、前記検査対象物の探傷面に対応する二次元画像であって探傷した位置毎の探傷結果を表す画像を前記表示部に表示させる制御部と、
    を有し、
    前記制御部は、
    前記記憶部に記憶されている前記位置毎の差分の信号成分について、前記信号成分の分布を示す二次元平面にプロットした場合でのプロット位置を特定し、
    前記プロット位置を、前記二次元平面を、傷等が無い場合の原点を含む領域、傷を検出した場合の領域、および傷以外を検出した場合の領域に分けるように前記検査対象物に応じて予め設定した二次元判定図と比較し、
    前記表示部に表示させる前記二次元画像において、各位置の探傷結果の表示は、前記二次元判定図において前記プロット位置が対応している領域毎に異なる表示とする、
    渦流探傷装置。
  2. 前記傷以外を検出した場合の領域は、前記検査対象物の端末部や溶接熱の影響部を検出した場合の領域である、
    請求項1記載の渦流探傷装置。
  3. 前記二次元判定図において、
    前記傷等が無い場合の原点を含む領域は、前記二次元判定図において横軸に沿って延びる領域として設定され、
    前記傷を検出した場合の領域と、前記傷以外を検出した場合の領域とは、前記傷等が無い場合の原点を含む領域の上下において、二次元の原点についての円周方向に並べて設定される、
    請求項1または2記載の渦流探傷装置。
  4. 先端が前記検知用可撓板に接続された第1ワイヤを所定の力で巻き取る第1巻取部と、
    先端が前記検知用可撓板に接続された第2ワイヤを所定の力で巻き取る第2巻取部と、
    を有し、
    前記記憶部は、
    前記第1ワイヤの繰出し長さおよび前記第2ワイヤの繰出し長さから演算される前記検知用可撓板の位置を、前記検査対象物上での前記検知コイルの探傷位置として記憶する、
    請求項1からのいずれか一項記載の渦流探傷装置。
  5. 前記第1巻取部および前記第2巻取部は、前記検査対象物に巻き付けることができるロープに所定の間隔で配置される、
    請求項4記載の渦流探傷装置。
  6. ガスタービンのタービン軸またはタービン羽に複数のクリスマスツリー形状の溝を形成したことにより前記タービン軸または前記タービン羽に形成されたクリスマスツリー形状の突起部に対して取り外し可能に取り付けられる支持台と、
    前記支持台上で前記溝の延在方向に沿って移動可能な移動部と、
    前記移動部に設けられ、前記溝の延在方向での前記移動部の位置を検出する第1エンコーダと、
    前記移動部に設けられ、前記検知用可撓板を前記溝の奥行方向へ移動可能に保持するアームと、
    前記検知用可撓板および前記アームの一方に設けられ、先端が前記検知用可撓板および前記アームの他方に接続されて且つ前記溝の奥行方向に沿って延在するワイヤを所定の力で巻き取る、巻取部と、
    前記検知用可撓板の移動による前記ワイヤの繰出し長さを検出する第2エンコーダと、
    を有し、
    前記記憶部は、
    前記第1エンコーダにより検出される前記溝の延在方向での前記移動部の位置および前記第2エンコーダにより検出される前記ワイヤの繰出し長さに基づく位置を、前記検査対象物上での前記検知コイルの探傷位置として記憶する、
    請求項1から3のいずれか一項記載の渦流探傷装置。
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