JP5534650B2 - 外観意匠性を改善したアクリル系樹脂フィルム - Google Patents

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Description

本発明は、アクリル系樹脂フィルムに関する。更に詳しくは、アクリル系樹脂フィルムもしくは多層のフィルムまたはシートが熱可塑性樹脂成形品の表面に積層一体化された積層成形品に関する。
近年、塗装に代わる樹脂成形品の表面に加飾する方法として、印刷等により加飾されたアクリル系樹脂フィルム(以降、「加飾用積層フィルム」と記す)を、射出成形金型内に挿入し、射出成形した後、加飾層のみを成形品表面に転写してからフィルムを剥がす転写法;加飾フィルムを成形品の最表面として成形品に残すインサート成形法、インモールド成形法等の射出成形と同時に加飾を施す方法(例えば、特許文献1)、フィルムを射出成形品表面にラミネーションする方法、等が広く使用されている。
加飾用積層フィルムは、アクリル系樹脂フィルム(例えば、特許文献2および3)に、印刷を施すことにより得られるものである。
しかしながら、加飾用積層フィルムを、自動車等車両の内外装材料、光学材料、建設材料、パソコン部材、家庭電化製品の保護用フィルムや加飾用フィルムとして使用する場合、アクリル系樹脂フィルムの成形法としてフラットダイを使用したTダイ法で成形すると、ダイラインと呼ばれるフィルムの流れ方向に連続的に発生するスジ状の欠点が発生し、外観意匠性が好まれないことがあり、問題となっていたが、発生原因が明らかではなかった。また、曲面加工や端部のトリミング加工時に応力白化することや、真空成形等の二次加工時に100℃以上で加熱されることにより、フィルムの透明性が低下することも問題となっていた。
これらのことは、上記加飾用積層フィルムの使用条件を著しく限定することとなっていた。
特開平7−9484号公報 特開平8−323934号公報 特開平10−279766号公報
そこで、本発明の目的は、ダイラインが改善されて外観意匠性に優れ、曲面加工やトリミング加工時に応力白化が無く、二次成形加熱後の透明性の低下もない、種々の用途に適用し得るアクリル系樹脂フィルムを提供することにある。
本発明者らは、上記問題点について鋭意検討の結果、Tダイ押出法により成形されたアクリル系樹脂フィルムを作製する場合、特定のスウェル比を有するアクリル系樹脂組成物樹脂を使用することにより、ダイラインが改善されて外観意匠性が優れることを見出し、さらに、用いるメタクリル系樹脂組成物(C)を制御することにより、の本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
[1] アクリル系樹脂組成物(D)を押出機中にて溶融混練した後、押出機の先端に接続されたフラットダイを通して押出成形して得られるアクリル系樹脂フィルムであって、
アクリル系樹脂組成物(D)の、加熱温度260℃、せん断速度122(1/sec)の条件にて測定されるスウェル比が1.05〜1.40であることを特徴とする、アクリル系樹脂フィルム、
[2] アクリル系樹脂組成物(D)の、加熱温度260℃、せん断速度122(1/sec)にて測定される溶融粘度が300〜2500Pa・secであることを特徴とする、[1]記載のアクリル系樹脂フィルム、
[3] アクリル系樹脂組成物(D)が、メタクリル系樹脂組成物(C)100重量部に対して、重量平均分子量が80万〜500万であるメタクリル系加工助剤(E)を0.5〜8.0重量部添加したものであることを特徴とする、[1]または[]2記載のアクリル系樹脂フィルム、
[4] メタクリル系樹脂組成物(C)が、アクリル系ゴム状重合体(A−a)を含むアクリル系グラフト共重合体(A)を含有することを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム、
[5] メタクリル系樹脂組成物(C)が、平均粒子径が50〜200nmであるアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)を含むアクリル系グラフト共重合体(A)およびメタクリル酸メチル単位を80重量%以上含有するメタクリル系重合体(B)からなる樹脂組成物であり、
かつ、メタクリル系高分子加工助剤(E)が、メタクリルメチル単位60重量部以上およびこれと共重合可能なビニル系単量体単位40重量%以下からなる共重合体であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム、
[6] アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の平均粒子径d(nm)および前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)に用いられる架橋剤の量w(重量%)が下記の関係式を満たし、
0.02d≦w≦0.06d
かつ、メタクリル系樹脂組成物(C)のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度が0.2〜0.8dl/gであることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム、
[7] 23℃環境下において1秒間にて180℃にフィルムを折り曲げる際、白化しないことを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム、
[8] 180℃にて10分間加熱処理した前後での、ヘイズ値の差が1.0%以下であることを特徴とする、[1]〜[7]のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム、および
[9] [1]〜[8]のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルムを積層してなることを特徴とする、積層成形品
に関する。
本発明によれば、ダイラインが改善されることにより、外観意匠性に優れたアクリル系樹脂フィルムを、並びに、これを用いた積層成形体を提供することができる。
本発明におけるアクリル系樹脂フィルムは、アクリル系樹脂組成物(D)を押出機中にて溶融状態とし、押出機先端に接続されたフラットダイ(Tダイ)を通して、フィルム状に成形される、いわゆる「Tダイ押出法」により成形されて得られるフィルムである。
本発明のアクリル系樹脂組成物(D)は、加熱温度260℃におけるせん断速度122(1/sec)でのスウェル比が1.05〜1.40であることが好ましく、1.10〜1.35であることが更に好ましい。アクリル系樹脂組成物(D)のスウェル比が1.05以上であれば、Tダイ法によるフィルム成形時に、フラットダイ(Tダイ)先端のリップ部に存在するキズ部を反映させて発生されるダイラインが改善され、フィルムの外観意匠性が向上することから、好ましい。スウェル比が1.40以下であれば、Tダイリップ部に付着した目ヤニがフィルムに付着せず、ダイラインが改善され、フィルムの外観意匠性が向上することから、好ましい。
なお、本発明におけるスウェル比は、以下の操作により算出した値である。すなわち、キャピログラフ(東洋精機(株)製、オリフィス径φ1mm、L=10mm)を使用して、260℃の温度条件にて溶融状態とした後、剪断速度122(1/sec)にて鉛直方向に吐出させた際に、オリフィス先端部から1.2mmの位置でのストランド径を測定して、オリフィス径との比から、スウェル比の値を算出した値である。
本発明のアクリル系樹脂組成物(D)は、せん断速度122(1/sec)、温度260℃での樹脂組成物(D)の溶融粘度が300〜2500Pa・secであることが好ましく、300〜2000Pa・secであることが更に好ましい。アクリル系樹脂組成物(D)の溶融粘度が300Pa・sec以上であれば、押出機での混練がしやすく、分散不良によるフィッシュアイ、ブツなどのきょう雑物が発生しないことから、好ましい。溶融粘度が2500Pa・sec以下であれば、Tダイ法でのフィルム成形時に押出機への負荷が小さく、吐出量を増やすことができ、生産性が向上することから好ましい。
なお、本発明における溶融粘度は、以下の操作により測定した値である。すなわち、キャピログラフ(東洋精機(株)製、オリフィス径φ1mm、L=10mm)を使用して、260℃の温度条件にて溶融状態とした後、剪断速度122(1/sec)にて鉛直方向に吐出させた際に、シェアストレスを検出し、溶融粘度を測定した。
本発明に用いられるアクリル系樹脂組成物(D)は、メタクリル系樹脂組成物(C)100重量部に対して、重量平均分子量Mwが80万〜500万であるメタクリル系高分子加工助剤(E)を0.5〜8.0重量部添加したものであることが、溶融粘度の上昇幅が小さく、効率的にスウェル比を上げることができる点から、好ましい。
本発明に用いられるメタクリル系高分子加工助剤(E)の重量平均分子量Mwは、80万〜500万であることが好ましく、100万〜300万であることがより好ましい。メタクリル系高分子加工助剤(E)の重量平均分子量Mwが80万以上であれば、アクリル系樹脂組成物(D)のスウェル比が大きくなり、ダイラインが改善されてフィルムの外観意匠性が向上することから、好ましい。重量平均分子量Mwが500万以下であれば、アクリル系樹脂組成物(D)中に分散して混合しやすく、ブツやフィッシュアイが発生せずにフィルムの外観意匠性が向上することから好ましい。
本発明に用いられるメタクリル系高分子加工助剤(E)は、メチルメタクリレート単位を主成分とする共重合体であることが好ましい。共重合体中のメチルメタクリレート単位の含有量は、共重合体全体を100重量部とした場合、60重量部以上であることが好ましい。
メタクリル系高分子加工助剤には、共重合可能なビニル単量体を共重合成分として含むことができるが、40重量部以下であることが好ましい。メタクリル系高分子加工助剤(E)において、メチルメタクリレートと共重合可能なビニル系単量体として、芳香族ビニル化合物、ビニルシアン化合物、メチルメタクリレート以外のアルキル(メタ)アクリレート等を使用することができる。芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−置換スチレン、核置換スチレンおよびその誘導体、例えばα−メチルスチレン、クロルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。ビニルシアン化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。メチルメタクリレート以外のアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレート等が挙げられる。
本発明に用いられるメタクリル系高分子加工助剤(E)としては、市販品として、商品名メタブレン(三菱レイヨン(株)製)や商品名カネエースPA((株)カネカ製)、アクリロイド(ロームアンドハー(株)製)などが挙げられる。
本発明におけるメタクリル系高分子加工助剤(E)の添加量は、メタクリル系樹脂組成物(C)100重量部に対して、0.5〜8重量部が好ましく、1〜6重量部が更に好ましい。メタクリル系高分子加工助剤(E)の添加量が0.5重量部以上であれば、アクリル系樹脂フィルムのダイラインが改善され、フィルムの外観意匠性が向上することから好ましい。メタクリル系高分子加工助剤(E)の添加量が8重量部以下であれば、アクリル系樹脂組成物(D)に分散して混合しやすく、ブツやフィッシュアイが発生しなくフィルムの外観意匠性が向上し、また、メルトフラクチャーによる膜厚変動が発生しないことから好ましい。
本発明のアクリル系樹脂フィルムを構成するメタクリル系樹脂組成物(C)は、フィルムの割れ性を向上させ、トリミングや二次成形時にフィルムが伸ばされた時に白くなりにくいことから、アクリル系ゴム状重合体(A−a)を含むアクリル系グラフト共重合体(A)を含むことが好ましい。さらに、メタクリル系樹脂組成物(C)は、硬度を高くできる点から、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)を含むアクリル系グラフト共重合体(A)および、メタクリル酸メチル単位を80重量%以上含有するメタクリル系重合体(B)からなるものであることが好ましい。
180℃に折り曲げた場合に白くならないことは、インサート成形、インモールド成形などの3次元成形時やトリミング加工時に白くならないことから好ましい。
本発明のアクリル系樹脂フィルムにおけるメタクリル系樹脂組成物(C)は、アクリル系グラフト共重合体(A)およびメタクリル系重合体(B)をそれぞれ重合して、これらを混合して得ることができるが、製造に際しては、同一の反応機内でアクリル系グラフト共重合体(A)を製造した後、メタクリル系重合体(B)を続けて製造することもできる。アクリル系グラフト共重合体(A)およびメタクリル系重合体(B)を混合する方法としては、ラテックス状あるいはパウダー、ビーズ、ペレット等で混合が可能である。
本発明で用いられるアクリル系グラフト共重合体(A)としては、アクリル酸エステル系ゴム状重合体[アクリル酸エステルを主成分とした架橋ゴム状重合体](A−a)の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物(A−b)をグラフト重合して[1段でも良いし、組成を変更させて2段以上で重合しても良い]得られるものが、生産性や物性調整の点から好ましい。
本発明で用いられるアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)は、アクリル酸エステル、共重合可能な他のビニル系単量体および特定量の共重合可能な架橋剤からなる単量体混合物を、重合させてなるものである。
本発明のアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)に用いられるアクリル酸エステルとしては、重合性やコストの点より、アルキル基の炭素数1〜12のものを用いることができる。その具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられる。これらの単量体は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明のアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)に用いられる共重合可能な他のビニル系単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル類;スチレン、メチルスチレン等の芳香族ビニル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類があげられる。これらのうちでは、耐候性、透明性の点から、メタクリル酸エステル類が特に好ましい。これらの単量体は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明のアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)におけるアクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル系単量体との組成比率は、アクリル酸エステル50〜100重量%、および他のビニル系単量体0〜50重量%である[アクリル酸エステル、および他のビニル系単量体の合計量は100重量%]ことが好ましく、アクリル酸エステル60〜100重量%、および他のビニル系単量体0〜40重量%であることがより好ましく、アクリル酸エステル70〜100重量%および他のビニル系単量体0〜30重量%であることがさらに好ましい。アクリル酸エステルの組成比率が50重量%以上であれば、耐衝撃性が向上し、引張破断時の伸びが向上し、フィルム切断時にクラックが生じにくくなるために好ましい。
本発明のアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)に用いられる架橋剤としては、例えば、アクリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアクリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、テトロメチロールメタンテトラメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレートおよびこれらのアクリレート類などがあげられる。これらの架橋剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明における共重合可能な架橋剤の添加量wは、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の重量平均粒子径と共に、基体フィルムの応力白化、引張破断時の伸びあるいは透明性に大きく影響するため、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量平均粒子径d(nm)と架橋剤量w(重量%)は、0.02d≦w≦0.06dを満たすことが好ましく、0.02d≦w≦0.05dを満たすことがより好ましい。
架橋剤の添加量wは、上記式に示される範囲が好ましく、上記範囲外では、応力白化が生じやすく、耐衝撃性が低下し、引張破断時の伸びが低下しフィルム切断時にクラックが生じやすく、透明性が低下し、フィルムの成形性が悪化する傾向がある。また、架橋剤の添加量wが0.05d以下であれば、スウェル比を大きくできることから好ましい。
なお、本発明におけるアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の重量平均粒子径dは、50〜200nmが好ましく、50〜180nmがより好ましく、50〜150nmがさらに好ましく、60〜120nmが特に好ましい。アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の平均粒子径が50nm以上であれば、耐衝撃性および引張破断時の伸びが低下しにくく、フィルム切断時にクラックが生じにくくなり、スウェル比が大きくなることから好ましく、200nm以下であれば、応力白化が生じにくく、透明性、特に真空成形後の透明性(加熱前後の透明性保持)を確保することができ、好ましい。
本発明のアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の製造においては、上記単量体混合物を全部混合して重合してもよく、また、単量体組成を変化させて2段以上で重合してもよい。
本発明で用いられるアクリル系グラフト共重合体(A)は、好ましくは、前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)5〜75重量部の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物(A−b)95〜25重量部をグラフト重合させることより得られる。
本発明におけるグラフト共重合組成[単量体混合物(A−b)の組成]は、得られるフィルムの耐熱性、耐溶剤性の点から、メタクリル酸エステル50〜100重量%およびアクリル酸エステル0〜50重量%が好ましく、メタクリル酸エステル60〜100重量%およびアクリル酸エステル0〜40重量%がより好ましく、得られるフィルムの硬度、剛性の点からは、メタクリル酸エステル80〜100重量%およびアクリル酸エステル0〜20重量%がさらに好ましく、メタクリル酸エステル85〜100重量およびアクリル酸エステル0〜15重量%が特に好ましい。グラフト共重合に用いられるメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの具体例としては、前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体にて例示したものが使用可能である。
本発明で用いられるアクリル系グラフト共重合体(A)では、(A−b)のグラフト重合において、第1段階でメタクリル酸エステルを86重量%以上含有する単量体混合物をグラフト重合させ、第2段階でメタクリル酸エステルを85重量%以下含有する単量体混合物をグラフト重合させても構わない。第1段階でメタクリル酸エステルを86重量%以上含有する単量体混合物をグラフト重合させ、第2段階でメタクリル酸エステルを85重量%以下含有する単量体混合物をグラフト重合させたものでは、応力白化が生じにくくなるため好ましい。
この際、単量体混合物(A−b)のうち、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)にグラフト反応せずに、未グラフトの重合体となる成分が生じる。該未グラフト成分は、共重合体(B)の一部または全部を構成する。アクリル系グラフト共重合体(A)は、メチルエチルケトンに不溶となる。
本発明のアクリル系グラフト共重合体(A)におけるアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)に対するグラフト率は、30〜200%が好ましく、50〜200%我より好ましく、80〜200%がさらに好ましい。グラフト率が30%以上であれば透明性が低下せず、引張破断時の伸びが低下せず、フィルム切断時にクラックが生じにくくなるため好ましく、200%以下であればフィルム成形時の溶融粘度が高くならず、フィルムの成形性が低下せず好ましい。
なお、グラフト率とは、アクリル酸エステル系ゴム重合体(A−a)に対するグラフト層の割合を測定した値であり、以下の操作により得られるメチルエチルケトン不溶分を、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)およびグラフト層(A−bの一部または全部)として、次式により算出する。
グラフト率G(%)={(メチルエチルケトン不溶分の重量−アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(A−a)の重量)/アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(A−a)の重量}×100
すなわち、メタクリル系樹脂組成物(C)1gをメチルエチルケトン40mlに添加し、12時間室温で放置後、マグネチックスターラーを用い30分間攪拌を行う。これを遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い30000rpmで1時間遠心分離し、デカンテーションにより、メチルエチルケトン不溶分および可溶分(溶液)に分離する。メチルエチルケトン不溶分に、さらにメチルエチルケトン20mlを加え、同様に遠心分離およびデカンテーションを2回繰り返すことにより、メチルエチルケトン不溶分と可溶分に分離する。
本発明で用いられるメタクリル系重合体(B)は、得られるフィルムの耐熱性、耐溶剤性の点から、メタクリル酸エステル50〜100重量%およびアクリル酸エステル0〜50重量%を含有する単量体混合物を、少なくとも1段以上で共重合させてなるものであるが、より好ましくは、メタクリル酸エステル60〜100重量%およびアクリル酸エステル0〜40重量%を含有するものである。特に、得られるフィルムの硬度、剛性を重視する場合には、メタクリル系重合体(B)の単量体混合物組成としては、メタクリル酸メチルを80重量%以上含有するものが好ましく、85重量%以上含有するものがより好ましく、90重量%以上含有するものがさらに好ましく、92重量%以上含有するものが特に好ましい。
また、本発明のメタクリル系重合体(B)においては、必要に応じて、メタクリル酸アルキルエステルおよびアクリル酸アルキルエステルに対して共重合可能なエチレン系不飽和単量体を共重合しても構わない。これらの共重合可能なエチレン系不飽和単量体としては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のアクリル酸アルキルエステル誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩、メタクリルアミド、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸アルキルエステル誘導体等があげられ、これらの単量体は2種以上が併用されてもよい。
本発明で用いられるメタクリル系樹脂組成物(C)中におけるアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の含有量は、5〜40重量%が好ましく、10〜35重量%がより好ましい。アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の含有量が5重量%以上であれば、得られる基体フィルムの引張破断時の伸びが低下せず、応力白化が生じにくくなるため、好ましい。含有量が40重量%以下であれば、得られるフィルムの硬度、剛性が低下しにくくなるため、好ましい。
本発明で用いられるメタクリル系樹脂組成物(C)のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度は、0.2〜0.8dl/gが好ましく、0.3〜0.7dl/gがより好ましい。メチルエチルケトン可溶分の還元粘度が0.2dl/g以上であれば、得られるフィルムの引張破断時の伸びが低下せず、耐溶剤性が低下せず好ましく、0.8dl/g以下であればフィルムの成形性が低下しにくく、好ましい。
ここで、メタクリル系樹脂組成物(C)のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度とは、上記の操作により得られたるメチルエチルケトン可溶分150mgをN,N−ジメチルホルムアミド50mlに溶解させた溶液に対して、JIS K6721に従い、30℃での還元粘度を測定した値である。
すなわち、メタクリル系樹脂組成物(C)をメチルエチルケトン40mlに添加し、12時間室温で放置後、マグネチックスターラーを用い30分間攪拌を行う。これを遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い30000rpmで1時間遠心分離し、デカンテーションにより、メチルエチルケトン不溶分および可溶分(溶液)に分離する。メチルエチルケトン不溶分に、さらにメチルエチルケトン20mlを加え、同様に遠心分離およびデカンテーションを2回繰り返すことによりメチルエチルケトン不溶分と可溶分とに分離する。さらに、メチルエチルケトン可溶分は、該溶液に対してメタノールを用いて析出させ、真空乾燥機を用いて60℃にて10時間乾燥させて、可溶分サンプルを得る。
本発明で用いられるメタクリル系樹脂組成物(C)におけるアクリル系グラフト共重合体(A)およびメタクリル系重合体(B)の製造方法は、特に限定されたものではなく、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法等が適用可能である。
乳化重合法においては、通常の重合開始剤が使用される。その具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの無機過酸化物;クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物;さらにアゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性開始剤があげられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
これらの開始剤は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒド、スルフォキシレート、アスコロビン酸、硫酸第一鉄などの還元剤と組み合わせた通常のレドックス型重合開始剤として使用してもよい。
前記乳化重合に使用される界面活性剤にも特に制限はなく、通常の乳化重合用の界面活性剤であれば使用することができる。その具体例としては、例えば、アルキル硫酸ソーダ、アルキルスルフォン酸ソーダ、アルキルベンデンスルフォン酸ソーダ、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリン酸ソーダなどの陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノール類とエチレンオキサイドとの反応生成物などの非イオン性界面活性剤などが示される。これらの界面滑性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
このように得られる共重合体ラテックスから、通常の凝固と洗浄により、または、スプレー乾燥、凍結乾燥などによる処理により、アクリル系グラフト共重合体(A)またはメタクリル系重合体(B)が分離、回収される。
本発明のアクリル系樹脂組成物には、着色のため無機または有機系の顔料、染料、熱や光に対する安定性をさらに向上させるための抗酸化剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤などを単独または2種以上組み合わせて添加してもよい。
本発明においては、紫外線吸収剤を含有させることにより、耐候性の優れた成形品とすることができる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤やベンゾフェノン系の紫外線吸収剤を、それぞれ単独で、または2種以上混合して用いることができる。なかでも、高分子量のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、例えば、2,2′−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール]などが、耐候性が高く、フィルムからの揮発も少ないことから好ましい。
本発明においては、メタクリル系樹脂組成物(C)に紫外線吸収性を示す単量体を共重合することもできる。そのことにより、押出成形時に紫外線吸収剤の一部が揮発することなく、押出成形時のロールおよび金属ベルト、または、射出成形用金型への揮発成分の付着による汚れが少なくなる。
紫外線吸収性能を示す単量体としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール類であり、2−(2’−ヒドロキシ−5’−アクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシプロピルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチル−3’−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等が挙げられる。これらのうちでも、より好ましくは、コストおよび取り扱い性から、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールである。
紫外線吸収性を示す単量体の共重合比率は、メタクリル系樹脂組成物(C)100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましく、0.05〜5重量部が特に好ましい。共重合比率が0.01〜5重量部の範囲では、フィルムの耐候性と乳化重合の安定性とのバランスが良好となる。
本発明におけるアクリル系樹脂フィルムは、アクリル系樹脂組成物(D)をTダイ法によりフィルム成形することにより得られる。Tダイ法は、生産性やフィルム膜厚の均一性の点から好ましい。
Tダイ押出法で成形する場合、ペレット形状とした樹脂を使用することが好ましい。使用する押出機としては、スクリュー径が40mmφ以上の単軸押出機、またはスクリュー径が32mmφ以上の二軸押出機を用いることが好ましく、例えば、シリンダおよび連結管の設定温度を150〜280℃の範囲で運転し、170〜280℃の範囲に設定したTダイから溶融樹脂吐出させることにより、フィルムを得ることができる。また、必要に応じ、押出機にはベント、ギアポンプ、スクリーンチェンジャー、スクリーンメッシュ、リーフディスクフィルター等を用いることができる。
Tダイ法によるフィルム成形時における、Tダイのリップ部のクリアランスは、0.3〜1.2mmとすることが好ましく、0.3〜1.0mmとすることが更に好ましい。Tダイ先端のリップ部のクリアランスが0.3mm以上であれば、リップ先端同士の衝突を防止できることから好ましい。クリアランスが1.2mm以下であれば、メルトフラクチャ−による膜厚変動が発生しにくいことから好ましい。
本発明において、アクリル系樹脂フィルムをTダイ法により成形するに際し、Tダイにより吐出される溶融状態の前記基体樹脂の、片面を金属ロールまたは金属ベルトに接触させ、反対の面を金属ロール、金属スリーブロール、金属ベルト、ゴムロール、金属スリーブ付きゴムロール、ポリエチレンテレフタレート系樹脂よりなる群より選ばれるいずれか1種に接触させることにより、表面の平滑性を向上させることができる。金属ロール、金属スリーブロール、金属スリーブ付きゴムロールであれば、100μm以下のフィルムを成形できる。また、アクリル系樹脂フィルムにおいては、エンボス柄を賦形しても良い。
本発明におけるアクリル系樹脂フィルムにおいては、気温23℃の環境下で、1秒間で180℃折り曲げた際に白くならないことが、インサート成形やインモールド成形時に部材の曲面やトリミング時に白くならないことから、好ましい。アクリル系樹脂フィルムの折り曲げ白化を抑制するためには、前述のように、メタクリル系樹脂組成物(C)において、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の平均粒子径d(nm)および前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)に用いられる架橋剤の量w(重量%)が、0.02d≦w≦0.05dの関係式を満たし、かつ、メタクリル系樹脂組成物(C)のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度を0.2〜0.8dl/gとすることが好ましい。
本発明におけるアクリル系樹脂フィルムは、180℃にて10分間加熱した後のヘイズ値と、加熱前のヘイズ値との差が1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましい。加熱前後でのヘイズ値の差が0.8%以下であれば、フィルムの一方にコーティング層や印刷層や蒸着層を形成した後の加工時における加熱においても、柄が鮮明に残ることから好ましい。アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の平均粒子径が400nm以下であれば、加熱後にフィルム表面の凹凸が小さく、ヘイズの上昇が小さいことから好ましい。アクリル系樹脂フィルムの加熱前後のヘイズ差を小さくするためには、前述のように、メタクリル系樹脂組成物(C)において、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の重量平均粒子径dを50〜200nmとすることが好ましい。
本発明のアクリル系樹脂フィルムの平均厚みは、30〜400μmであることが好ましく、30〜200μmがさらに好ましい。アクリル樹脂フィルムの平均厚みが30μm以上であれば、絵柄を印刷した場合に深みのある外観が得られ易いことから好ましい。また、厚みが400μm以下であれば、フィルムの生産性が良くコストが高くなり過ぎないことから、より使用し易く好ましい。
本発明のアクリル系樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、コーティング層、印刷層、または蒸着層を設けることにより、自動車用部品やパソコン部品、家電製品として使用する際、意匠性や耐薬品性、耐候性を向上させることができる。
印刷層の形成方法としては、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェットプリンター等による印刷などの公知の方法を採用することができる。
コーティング層の形成方法としては、ダイコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ディップコート法、リバースコート法など、公知の各種方法が使用できる。外観を均一に保つ為、グラビアコート法、またはマイクログラビアコート法が更に好ましい。
コーティング層を形成する樹脂組成物としては、公知の熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂を用いることが、フィルムの耐擦傷性の観点から好ましく、さらにフィルムの伸び性を高くできることから、熱硬化性樹脂を用いることがより好ましい。熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン−アクリレート系樹脂、シリコーン−アクリレート系樹脂、エポキシ系樹脂、エステル系樹脂、フッ素系樹脂、フッ素シリコーン系樹脂を用いることができる。
コーティング層には、艶消し剤を含有することができる。艶消し剤としては、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタンなどの無機系微粒子、アクリル系樹脂架橋粒子、フッ素系樹脂架橋粒子などの架橋樹脂粒子が好ましい。
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、他のフィルム、シート、射出成形材料等の成形品に積層することにより、フィルム単体では表現できない意匠性を持たせることや、耐熱性、硬度、接着性などの特性を変化させることもできる。フィルムがコーティング層を有する場合には、コーティング層を再表面とすることが、意匠性の面で好ましい。
本発明で得られる積層品の製造方法は特に制限されるものではない。例えば、二次元形状(シート・フィルム状)で、かつ基材が熱融着できる成形品の場合には、熱ラミネーション等の公知の方法を用いることができる。また、熱融着しない成形品に対しては、プライマー層または接着層を介して貼り合せることが可能である。二次元形状の積層品に関しては、真空成形等を行うことにより、三次元形状とすることができる。
三次元形状の成形品の場合には、射出成形時にアクリル系樹脂フィルムを成型品の最表面とするインサート成形法、インモールド成形法等の射出成形同時貼合法、等の公知の方法を用いることができる。射出成形される樹脂としては、種類は問わず、射出成形可能な全ての樹脂が使用可能である。
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、共押出法によっても、熱可塑性樹脂成形品に積層することができる。共押出法としては、特に限定されないが、通常のフィードブロック法やマルチマニホールド法などの多層押出成形が有用であり、例えば、通常の溶融Tダイ押出法等により良好に加工される。
また、得られる積層品がフィルムやシートの場合には、必要に応じて、両面をロールまたは金属ベルトに同時に接触させることができ、コーティング加工や印刷を施し易くなることから好ましい。また、目的に応じて、二軸延伸による基体シートの改質も可能である。
共押出できる熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS系樹脂、AS系樹脂、MBS系樹脂、MS系樹脂、スチレン系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリグルタルイミド、無水グルタル酸ポリマー、ラクトン環化メタクリル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の組成物があげられ、これらの組成物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中では、相溶性と工業的観点から、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS系樹脂、ポリフッ化ビニリデンの組成物が好ましい。
なお、ポリ塩化ビニル系樹脂には、塩化ビニル単独重合体だけでなく、塩化ビニルおよび酢酸ビニル等の他の単量体との共重合体、後塩素化した塩素化塩化ビニル樹脂も含まれる。また、軟質塩化ビニル樹脂も含まれる。
本発明のアクリル系樹脂フィルムを積層して得られる積層品の使用方法は、特に制限されるものではないが、例えば、自動車内装や自動車外装や携帯電話の部材、AV機器の部材、パソコン機器の部材、家具製品、各種ディスプレイ、レンズ、窓ガラス、小物、雑貨等の外観意匠性の必要となる各種用途等に使用することができ、真空成形加工性に優れることから、自動車内外装部材に好ましく使用される。
以下に、実施例、比較例により本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例にある「部」は重量部、「%」は重量%を表す。
また、略号は、それぞれ下記の物質を表す。
OSA:ソジウムジオクチルスルホサクネシート
BA:アクリル酸ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
AlMA:メタクリル酸アリル
CHP:キュメンハイドロパーオキサイド
tDM:ターシャリードデシルメルカプタン
EA:アクリル酸エチル
得られたフィルムの特性、評価は、次の方法、条件に従った。
(アクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量平均粒子径)
得られたアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)ラテックスを固形分濃度0.02%に希釈したものを試料として、分光光度計(HITACHI製、Spectrophotometer U−2000)を用いて波長546nmでの光線透過率より、重量平均粒子径を求めた。
(グラフト率G)
製造例で得られた樹脂粉末1gをメチルエチルケトン40mlに添加し、12時間室温で放置後、マグネチックスターラーを用い30分間攪拌を行った。これを遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い30000rpmで1時間遠心分離し、デカンテーションにより、メチルエチルケトン不溶分と可溶分(溶液)とに分離した。メチルエチルケトン不溶分に、さらにメチルエチルケトン20mlを加え、同様に遠心分離およびデカンテーションを2回繰り返すことによりメチルエチルケトン不溶分と可溶分とに分離した。
得られた不溶分を、アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)およびグラフト分(A−bの一部または全部)として、次式により算出した。
グラフト率G(%)={(メチルエチルケトン不溶分の重量−アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(A−a)の重量)/アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(A−a)の重量}×100。
(還元粘度)
グラフト率測定の前処理にて得られたメチルエチルケトン可溶分(溶液)に対して、さらに以下の操作を行い、メチルエチルケトン可溶分サンプルを得た。
すなわち、メチルエチルケトン可溶分(溶液)を過剰量のメタノールにより析出させ、真空乾燥機を用いて60℃にて10時間乾燥させて、可溶分サンプルを得た。
得られたメチルエチルケトン可溶分150mgをN,N−ジメチルホルムアミド50mlに溶解させた溶液に対して、JIS K6721に従い、30℃での還元粘度を測定した。
(スウェル比)
得られた樹脂ペレットを85℃で5時間以上乾燥した後、キャピログラフ(東洋精機(株)製、CAPILOGRAPH 1D;オリフィス径φ1mm、L=10mm)を使用して、260℃の温度条件で測定し、剪断速度122(1/sec)でのスウェル比の値を示した。
スウェル比は、オリフィスより出てきて1.2mm離れた位置のストランド径を測定し、オリフィス直径1mmで割った値を示した。(例えば、オリフィスより1.2mm離れた位置のストランド直径が1.15mmであれば、スウェル比は1.15である。)。
(溶融粘度)
得られた樹脂ペレットを85℃で5時間以上乾燥した後、キャピログラフ(東洋精機製(株)、CAPILOGRAPH 1D;オリフィス径φ1mm、L=10mm)を使用して、260℃の温度条件で測定し、剪断速度122(1/sec)での溶融粘度の値を示した。
(表面外観)
(1)ダイライン
1m幅のフィルムを流れ方向に2m観察し、フィルムから30cm離れた位置から目視でダイラインの有無を観察した。
◎:ダイラインが無い。
○:ダイラインが3本以下である。
△:濃いダイラインが4〜5本有る。
×:濃いダイラインが6本以上ある。
(2)ブツ、フィッシュアイ
○:ブツ、フィッシュアイが無い。
△:ブツ、フィッシュアイがあるが目立たない。
×:ブツ、フィッシュアイが全面に有る。
(応力白化)
得られたフィルムを、23℃において1秒間で180度折り曲げて、白化状態を観察し、次の基準にて評価をした。
○:白化が認められない。
△:白化がわずか認められる。
×:白化が著しい。
(フィルム成形性)
フィルム成形時にフィルムが破断することなく長時間の製造出来るかを評価した。
○:10時間以上、連続でフィルムが成形できる。
△:フィルムは成形出来るが、10時間未満しか連続で成形出来ない。
×:フィルムが成形出来ない。
(加熱前後のヘイズ値の差)
得られたフィルムを、定温恒温乾燥器(東京理化器機械(株)製、ナチュラルオーブンNDO−450ND)を用いて、180℃雰囲気下にて10分間加熱した。
フィルムの加熱前後でのヘイズを、JIS K7136に準拠し、光線透過率測定装置(日本電色工業製ヘイズメーター:NDH−2000型)を用いて測定して、加熱前後でのヘイズ値の差(=|加熱後のヘイズ値−加熱前のヘイズ値|)を算出した。
(製造例1)
撹拌機付き8L重合機に次の物質を仕込んだ。
水 200部
ソジウムオクチルスルホサクシネート 0.2部
エチレンジアミン・2Na 0.001部
硫酸第一鉄 0.00025部
ソジウムホルムアルデヒドスルフォキシレート 0.15部
脱酸素後、内温を60℃にした後、表1に示した単量体混合物(a)[BA90%、MMA7.6%およびALMA2.4%からなる単量体混合物100重量%に対し、CHP0.2重量%を添加した単量体混合物21部]を10部/時間の割合で連続的に滴下し、その後30分間後重合を行い、アクリル酸エスエル系ゴム状重合体を得た。重合転化率は99.5%であった。その後、ソジウムオクチルスルホサクシネート0.2部を仕込んだ後、表1に示した単量体混合物(b)[BA10%、MMA90%からなる単量体混合物100重量%に対し、CHP0.3%およびtDM0.3%を添加した単量体混合物79部]を12部/時間の割合で連続的に滴下し、その後1時間後重合を行い、アクリル系グラフト共重合体(A)を得た。アクリル系グラフト共重合体(A)の重合転化率は99.0%、グラフト率は135%、メチルエチルケトン可溶分の還元粘度は0.35dl/gであった。
得られたラテックスを酢酸カルシウムで塩析凝固し、水洗、乾燥して樹脂粉末1を得た。
得られた樹脂粉末の粒子径、還元粘度、グラフト率を測定して、表1に示した。
(製造例2〜6)
表1に示す重合処方にて、製造参考例1と同様の操作により、樹脂粉末2〜6を得た。
得られた樹脂粉末の粒子径、還元粘度、グラフト率を測定して、表1に示した。
Figure 0005534650
(樹脂ペレット7)
樹脂ペレット7として、懸濁重合で製造したMMA−EA共重合体[住友化学工業(株)製、スミペックスEX:MMA/EA=95/5(重量比:H1−NMR測定による分析結果)、還元粘度0.30dl/g、ゴム状重合体不含]を用いた。
(実施例1)
[樹脂ペレットの製造]
製造例1で得られた樹脂粉末1・アクリル系グラフト重合体100部に対し、メタクリル系高分子加工助剤(E)としてメタブレンP−531(三菱レイヨン(株)製、重量平均分子量Mw=500万)を1.0部、紫外線吸収剤としてチヌビン234(チバスペシャルケミカル社製)1.0部を混合した後、ベント式90mmφ単軸押出機を用い、シリンダ設定温度260℃にて溶融混練を行い、押出ペレットを得た。
[基材フィルムの製造]
流路面およびリップ先端部にハードクロムメッキ処理を施し、リップ部の隙間を0.4〜0.7mmの間に調整したTダイ付きφ90mm押出機(スクリーンメッシュに400メッシュを使用)を用いて、得られたペレットを、シリンダ設定温度180〜240℃、ダイス温度240℃にて押出した。Tダイから押し出された溶融樹脂の両面を弾性金属ロールに接触させ(金属ロールの温度:一方を90℃、もう一方を60℃に設定)、125μmのフィルムを成形した。
得られたフィルムを用いて種々の物性を評価した結果を、表2に示した。
(実施例2〜26)
樹脂粉末および樹脂ペレットの種類・量、メタクリル系高分子加工助剤(E)の種類・量を表2に示した配合比率に変更したて以外は、実施例1と同様の操作により、フィルムを作製した。なお、使用したメタクリル系高分子加工助剤は、いずれも三菱レイヨン(株)製である。
得られたフィルムを用いて種々の物性を評価した結果を、表2に示した。
Figure 0005534650
(比較例1〜6)
樹脂粉末および樹脂ペレットの種類・量を、表2に示した配合比率に変更し、メタクリル系高分子加工助剤(E)を用いなかった以外は、実施例1と同様の操作により、フィルムを作製した。
得られたフィルムを用いて種々の物性を評価した結果を、表3に示した。
(比較例7〜9)
樹脂粉末および樹脂ペレットの種類・量、メタクリル系高分子加工助剤(E)の種類・量を表3に示した配合比率に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、フィルムを作製した。
得られたフィルムを用いて種々の物性を評価した結果を、表3に示した。
(比較例10)
メタクリル系高分子加工助剤(E)としてメタブレンP−531(三菱レイヨン(株)製、重量平均分子量Mw=500万)の配合量を10部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行ったがメルトフラクチャーによる膜厚変動が大きくフィルムを作製することができなかった。
(比較例11)
メタクリル系高分子加工助剤(E)としてメタブレンP−530A(三菱レイヨン(株)製、重量平均分子量Mw=300万)の配合量を10部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行ったがメルトフラクチャーによる膜厚変動が大きくフィルムを作製することができなかった。
(比較例12)
メタクリル系高分子加工助剤(E)としてメタブレンP−551A(三菱レイヨン(株)製、重量平均分子量Mw=150万)の配合量を10部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行ったがメルトフラクチャーによる膜厚変動が大きくフィルムを作製することができなかった。
(比較例13)
メタクリル系高分子加工助剤(E)としてメタブレンP−501(三菱レイヨン(株)製、重量平均分子量Mw=80万)の配合量を10部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行ったがメルトフラクチャーによる膜厚変動が大きくフィルムを作製することができなかった。
(比較例14)
樹脂として樹脂ペレット7のみを用い、メタクリル系高分子加工助剤(E)を用いなかった以外は、実施例1と同様の操作を行ったが、フィルム成形加工時に、フィルムが割れて作製することができなかった。
Figure 0005534650
表2および表3に示す結果から、重量平均分子量が80万〜500万のメタアクリル系高分子加工助剤(E)を0.5〜8部配合したアクリル系樹脂フィルムは、ダイラインが改善され、フィルムの外観意匠性が改善されていることが判る。

Claims (7)

  1. アクリル系樹脂組成物(D)を押出機中にて溶融混練した後、押出機の先端に接続されたフラットダイを通して押出成形して得られるアクリル系樹脂フィルムであって、
    前記アクリル系樹脂組成物(D)は、加熱温度260℃、せん断速度122(1/sec)の条件にて測定されるスウェル比が1.05〜1.40であって、
    樹脂組成物(C)100重量部に対して、重量平均分子量が80万〜500万であるメタクリル系高分子加工助剤(E)を0.5〜8.0重量部添加したものであり、
    前記樹脂組成物(C)がアクリル系ゴム状重合体(A−a)を含むアクリル系グラフト共重合体(A)を含有する、
    アクリル系樹脂フィルム。
  2. アクリル系樹脂組成物(D)の、加熱温度260℃、せん断速度122(1/sec)にて測定される溶融粘度が300〜2500Pa・secであることを特徴とする、請求項1記載のアクリル系樹脂フィルム。
  3. 前記樹脂組成物(C)が、平均粒子径が50〜200nmであるアクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)を含むアクリル系グラフト共重合体(A)およびメタクリル酸メチル単位を80重量%以上含有するメタクリル系重合体(B)からなる樹脂組成物であり、かつ、
    前記メタクリル系高分子加工助剤(E)が、メタクリルメチル単位60重量部以上およびこれと共重合可能なビニル系単量体単位40重量部以下からなる共重合体であることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム。
  4. アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)の平均粒子径d(nm)および前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体(A−a)に用いられる架橋剤の量w(重量%)が下記の関係式を満たし、
    0.02d≦w≦0.06d
    かつ、樹脂組成物(C)のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度が0.2〜0.8dl/gであることを特徴とする、
    請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム。
  5. 23℃環境下において1秒間にて180にフィルムを折り曲げる際、白化しないことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム。
  6. 180℃にて10分間加熱処理した前後での、ヘイズ値の差が1.0%以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルムを積層してなることを特徴とする、積層成形品。
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