本発明の有機トランジスタ材料は、単層CNTおよび有機半導体材料を含む。ここで、CNTには1枚の炭素膜(グラッフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層CNTと、2枚のグラッフェン・シートが同心円状に巻かれた2層CNTと、複数のグラッフェン・シートが同心円状に巻かれた多層CNTとがある。本発明の有機トランジスタ材料は、単層CNTを含み、さらに2層CNTまたは多層CNTを含んでもかまわないが、2層CNTや多層CNTはCNT全体の50重量%以下であることが好ましい。特に単層CNTが優れた性質を持つので、単層CNTのみのものがより好ましく用いられる。
単層CNTには金属的CNTと半導体的CNTがあり、単層CNTの集合体はこれら両者の混合体となっている。一般的には、合成された単層CNT集合体には、半導体的CNTが3分の2、金属的CNTが3分の1の比率で存在している。本発明においては、単層CNT集合体中の金属的CNTの比率を増やすことによって、有機FET素子の閾値電圧を低減することができる有機半導体材料を得ることができる。
本発明における単層CNTの役割を考慮すると、金属的CNTの比率を上げることができれば、移動度の向上、ヒステリシスの低減、閾値電圧の低減が期待される。すなわち、金属的CNTの比率を高めることにより、有機半導体の結晶子間でのキャリアのパスがスムーズになり、移動度が向上することが期待される。また、金属的CNTの比率を高めることにより、余分なキャリアを減らし、ヒステリシスの低減や閾値電圧の低減が期待される。本発明においては、金属的CNTの比率を上げることで、高移動度でありながら、特に閾値電圧の低減に効果のあることがわかった。
金属的CNTの比率の変化は、近赤外領域の吸光度の変化によってみることができる。波長1200nmには、半導体的CNTに特有の吸収が見られる。一方、波長1000nm付近の吸収は、金属的CNTと半導体的CNTとの比率に依存しない。したがって、金属的CNTと半導体的CNTとの比率を示す指標として、波長1000nmにおける吸光度(A)に対する波長1200nmにおける吸光度(B)の比(B/A)を用いることができる。
具体的には、単層CNTの膜を形成し、その膜に対して吸光度を測定すればよい。単層CNTの膜は、例えば、単層CNTを共役系重合体あるいは分散剤などと共に溶媒中に分散し、分散液を塗布することによって形成することができる。波長1000nm付近の吸光度は膜厚のみに依存するので、膜厚に比例した吸光度を知ることができる。これに対し、波長1200nmにおける吸収は半導体的CNTに特有の吸収であるから、波長1000nmにおける吸光度(A)に対する波長1200nmにおける吸光度(B)の比(B/A)を、金属的CNTと半導体的CNTとの比率を示す指標とすることができる。本発明において、B/Aの値は1.0未満であることが必要である。この値が1.0以上であると、閾値電圧が20V以上と大きくなる。B/Aの値は小さいほど好ましく、より好ましくは0.8以下である。
先に記載したとおり、一般的には、合成された単層CNT集合体には、半導体的CNTが3分の2、金属的CNTが3分の1の比率で存在している。この場合、B/Aの値は1.0となる。そこで、本発明においては、B/Aの値が1.0未満となるよう、金属的CNT比率を増加させる処理を行うことが好ましい。金属的CNT比率を増加させる方法としては、金属的および半導体的CNTの集合体を過酸化水素水中で加熱処理する方法(例えば、特開2006−188380号公報参照)や、レーザーを照射して半導体的CNTを選択的に破壊する方法(例えば、特開2007−31239号公報参照)、ポルフィリンダイマーを用いて金属的CNTを選択的に取り出す方法(例えば、特開2006−265178号公報参照)、金属的CNTを電極上で電気的に保護した状態で強酸処理を行う方法(例えば、国際公開05/041227号パンフレット参照)などがあり、いずれも好ましく用いられる。これらの中でも、過酸化水素処理が簡便に確実に処理できることから好ましく用いられる。過酸化水素処理においては、加熱撹拌することで半導体的CNTも金属的CNTも少しずつ酸化され、炭酸ガスとなって消滅していくが、半導体的CNTの方が酸化される速度が速く、処理を続けることによって結果として金属的CNTの比率の多い単層CNT集合体を得ることができる。これらの処理前後で、単層CNT集合体から得られる膜の吸光度を測定してB/Aの値の変化を調べることにより、処理による金属CNT比率の増減を知ることができる。例えば、処理によってB/Aの値が減少すれば、半導体的CNTの比率が減少し、その分だけ金属的CNTの比率が増大したことになる。
本発明において、単層CNTはその表面の少なくとも一部に、共役系重合体が付着していることが好ましい。共役系重合体が付着していることによって、単層CNTは有機半導体中への分散性が向上し、有機トランジスタの移動度をより向上させることができる。また、溶媒中への分散性が向上するので、単層CNTを含む有機半導体材料の塗布液を調製する際に、より均一性に優れた塗布液を得ることができる。共役系重合体としては、例えば、ポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリ−p−フェニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリフラン、ポリインドール系などが挙げられる。中でも、ポリチオフェン系重合体が好ましく用いられ、親媒性の側鎖のある、ポリ−3−アルキルチオフェンが特に好ましく用いられる。これらの共役系重合体は、重量平均分子量が8000〜200000のものが好ましく用いられるが、これ以上の高分子量のものであっても、分子量800〜8000のオリゴマーであっても用いることができる。
なお、共役系重合体が付着した単層CNTの膜の吸収スペクトルには、これらの重合体に対応する吸収が、主に可視光領域に現れる。共役系の発達した重合体であっても吸収が見られるのは波長800nm以下であり、本発明に用いられる単層CNTの吸光度を測定する1000nmや1200nmでは、単層CNTと重合体の吸収が重ならないので、共重合体が付着した単層CNTの吸収をそのまま観察することができる。
本発明の有機トランジスタ材料は、後述する有機半導体材料100重量部に対し、単層CNTを0.01〜3重量部含むことが好ましい。単層CNTの含有量を0.01重量部以上とすることにより、有機トランジスタの特性として、良好なオンオフ比を維持したまま移動度をより向上させることができる。より好ましくは0.1重量部以上である。一方、3重量部以下とすることにより、半導体としての性質を保つことができ、良好な移動度とオンオフ比を得ることができる。より好ましくは1重量部以下である。1重量部以下にすることで、良好な移動度とオンオフ比を維持しつつ、閾値電圧をより小さくすることができる。
本発明において、有機半導体材料としては、共役系重合体や有機低分子半導体等を挙げることができる。
共役系重合体は有機溶媒可溶性のものが好ましく、溶液を基板やフィルム上に塗布することで簡便に半導体層を形成することができる。共役系重合体の種類は特に限定されないが、ポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリ−p−フェニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリフラン、ポリインドール系などのポリマーが挙げられる。中でも半導体特性の優れたものとしてポリチオフェン系重合体、またはポリチオフェン系ユニットを含む共重合体を用いることが好ましい。ポリチオフェン系重合体とはポリチオフェン構造の骨格を持つ重合体に側鎖が付いた構造を有するポリアルキルチオフェンである。具体例としては、ポリ−3−メチルチオフェン、ポリ−3−ブチルチオフェン、ポリ−3−ヘキシルチオフェン、ポリ−3−オクチルチオフェン、ポリ−3−ドデシルチオフェン等のポリ−3−アルキルチオフェン、ポリ(3,3”−ジアルキルターチオフェン)、ポリ[5,5’−ビス(3−アルキル−2−チエニル−2,2’−ジチオフェン)]、ポリ[2,5−ビス(2−チエニル)−3,4−ジアルキルチオフェン]等(アルキル基の炭素数は特に制限はないが好ましくは1〜16)、ポリ−3−メトキシチオフェン、ポリ−3−エトキシチオフェン、ポリ−3−ドデシルオキシチオフェン等のポリ−3−アルコキシチオフェン(アルコキシ基の炭素数はとくに制限はないが好ましくは1〜12)、ポリ−3−メトキシ−4−メチルチオフェン、ポリ−3−ドデシルオキシ−4−メチルチオフェン等のポリ−3−アルコキシ−4−アルキルチオフェン(アルコキシ基およびアルキル基の炭素数は特に制限はないが好ましくは1〜12)、ポリ−3−チオヘキシルチオフェンやポリ−3−チオドデシルチオフェン等のポリ−3−チオアルキルチオフェン(アルキル基の炭素数は特に制限はないが好ましくは1〜12)、ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、1種もしくは2種以上を用いることができる。中でも、ポリ−3−アルキルチオフェン、ポリ(3,3”−ジアルキルターチオフェン)、ポリ[5,5’−ビス(3−アルキル−2−チエニル−2,2’−ジチオフェン)]、ポリ−3−アルコキシチオフェンが好ましい。またポリチオフェン系ユニットを含む共重合体とは、チオフェンユニットが並んだ間にアリーレンユニット、チエニルチアゾールユニット、フルオレンユニット、カルバゾールユニットや、フタロシアニンユニット、または上記のユニットの誘導体をはさんだポリマー等が挙げられ、共役系の連続するものであれば好ましく用いることができる。ここでいう重合体とは、分子量3000を超えるものを指し、通常100000程度以下である。
本発明において用いられる上記のポリチオフェン系重合体の側鎖の結合様式は、レジオレギュラーな構造を有するものが好ましく、少なくとも80%以上のレジオレギュラリティーを有するものが好ましく用いられる。レジオレギュラリティーとは、複数並んだモノマーユニットにおいて、側鎖の方向がどれだけ一方向に規則正しく並んで連結しているかを表す指標である。レジオレギュラリティーは核磁気共鳴分光装置(NMR)によって定量することが可能であり、レジオレギュラーの割合が高いほど良好な半導体特性を得ることができる。本発明では以上のように共役系重合体の主鎖の立体構造や側鎖置換基の配列を制御してもよい。
有機低分子半導体としては、半導体性を示す材料であれば用いることができ、特にキャリア移動度の高い材料が好ましい。また、有機溶媒可溶性のものが好ましい。ここで、本発明における有機低分子半導体とは、分子量3000以下で分子量分布のない単一の化合物として単離・同定できるものである。有機低分子半導体はカラム精製や再結晶、昇華精製などの方法により精製することができるため、高純度化が可能であり、しかも単一の分子量のものを得ることができるので、高移動度の有機FET素子を作製することができる。さらに、分子量を3000以下にすることによって有機半導体分子の共役長を抑えることができるので、酸化に対する安定性が向上し、大気中においても高いオンオフ比を維持することもできる。分子量が3000以下であれば、高純度な有機半導体材料を簡便に高収率で合成することも可能となる。なお、分子量は一般に使用されている質量分析装置で測定できる。
有機低分子半導体としては、例えば、ピリジン、キノリン、フェナントロリン、オキサゾール、オキサジアゾールなどの含窒素芳香環を構成単位とするポリヘテロアリール類、アントラセン、ピレン、ナフタセン、ペンタセン、ヘキサセン、ルブレンなどの縮合多環芳香族化合物、フラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、ピリジン、キノリン、フェナントロリン、オキサゾール、オキサジアゾールなどが4個以上連結された化合物、4,4’−ビス(N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ)ビフェニルに代表される芳香族アミン誘導体、ビス(N−アリルカルバゾール)またはビス(N−アルキルカルバゾール)などのビスカルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、銅フタロシアニンなどの金属フタロシアニン類、銅ポルフィリンなどの金属ポルフィリン類、ジスチリルベンゼン誘導体、アミノスチリル誘導体、芳香族アセチレン誘導体、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸ジイミド、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸ジイミドなどの縮合環テトラカルボン酸ジイミド類、メロシアニン、フェノキサジン、ローダミンなどの有機色素などが例として挙げられる。これらの中でも、チオフェン骨格を有するものが好ましい。チオフェン骨格を有することにより分子の配向性が向上し、移動度がより向上する。
チオフェン骨格を有する有機低分子半導体として、下記一般式(1)で表されるチオフェン化合物が好ましく用いられる。
B1−A1−B2 (1)
上記一般式(1)中、B1およびB2は同じでも異なっていてもよく、それぞれ、下記一般式(2)で表される基を示す。A1は下記一般式(3)〜(11)のいずれかで表される2価の連結基を示す。
上記一般式(2)中、R1〜R5は同じでも異なっていてもよく、それぞれ、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、カルバモイル基、アミノ基およびシリル基からなる群から選ばれる。R1〜R5は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。Aは下記に挙げる群から選択される少なくとも1種の2価の連結基を表す。mは0〜11の整数である。mが2以上の場合、それぞれのR1、R2は同じでも異なっていてもよい。
ここでR6〜R10は同じでも異なっていてもよく、それぞれ、アルキレン基、シクロアルキレン基、2価の複素環基、カルボニル基、オキシカルボニル基およびカルボニルオキシ基からなる群から選ばれる。Ar1〜Ar12は同じでも異なっていてもよく、アリーレン基またはヘテロアリーレン基である。X1〜X6は同じでも異なっていてもよく、それぞれ、−O−、−S−、−NR11−または−SiR12R13−を示す。Y1〜Y6は同じでも異なっていてもよく、それぞれ、−CR14−または−N−を表す。なお、R11〜R14は上記R1〜R5と同様の群から選択される。a1〜a6は同じでも異なっていてもよく、1または2である。b1〜b8は同じでも異なっていてもよく、0〜4の整数である。但し、b3、b4、b7、b8が0の場合、Ar1、Ar3、Ar9およびAr11は、それぞれ、アリーレン基、窒素原子を少なくとも一つ含むヘテロアリーレン基または縮合ヘテロアリーレン基を示す。
上記の一般式(1)で表される有機低分子半導体として、具体的に好ましい例として下記の[1]が挙げられる。
本発明の有機トランジスタ材料には、上述の複数種の有機半導体材料を含んでもよい。
次に、本発明の有機トランジスタ材料を製造する方法について説明する。
本発明に用いられる単層CNTは、アーク放電法、化学気相成長法(以下CVD法とする)、レーザー・アブレーション法等によって作製されるが、本発明に使用されるCNTはいずれの方法によって得られたものであってもよい。
単層CNT集合体に対して金属的CNTの比率を増やす処理を行う場合には、事前にCNTを精製しておくことが好ましい。単層CNT集合体中に含まれる金属触媒やアモルファスカーボンなどの不純物が5重量%以下の場合は特に精製を行う必要はないが、不純物がそれ以上に存在していると、上述のFET特性向上効果が小さくなる上に、金属的CNT比率を増やす処理の効率が低下する場合がある。単層CNTの精製は公知の方法を用いることができ、硝酸、硫酸などによる酸処理や、大気雰囲気下での加熱処理などが用いられる。
本発明に用いる単層CNTは、有機FET素子の電極間の短絡を防ぐために、素子電極間の距離よりも短い単層CNTを使用することが望ましい。単層CNTは一般には紐状で生成されるので、短繊維状で使用するためにカット、あるいはフィルターを用いて長い成分のCNTを除去して、素子電極間の距離よりも短い単層CNTを得ることができる。短繊維へのカットには、硝酸、硫酸などによる酸処理とともに超音波処理が有効であり、またフィルターによる分離を併用することは、純度を向上させる上でもさらに好ましい。なお、カットした単層CNTだけではなく、あらかじめ短繊維状に作製した単層CNTも、本発明により好ましく使用される。このような短繊維状単層CNTは、基板上に鉄、コバルトなどの触媒金属を形成し、その表面にCVD法により700〜900℃で炭素化合物を熱分解して単層CNTを気相成長させることによって、基板表面に垂直方向に配向した形状で得られる。このようにして作製された短繊維状単層CNTを基板から剥ぎ取るなどの方法で取り出すことができる。また、短繊維状単層CNTはポーラスシリコンのようなポーラスな支持体や、アルミナの陽極酸化膜上に触媒金属を担持させ、その表面に単層CNTをCVD法にて成長させることもできる。触媒金属を分子内に含む鉄フタロシアニンのような分子を原料とし、アルゴン/水素のガス流中でCVDを行うことによって基板上に単層CNTを作製する方法でも、配向した短繊維状の単層CNTを作製することができる。さらには、SiC単結晶表面にエピタキシャル成長法によって配向した短繊維状単層CNTを得ることもできる。
本発明に用いる単層CNTは有機半導体材料中に分散させて用いられるが、有機半導体材料中に添加する前に、溶媒中に均一分散しておくことが好ましい。単層CNTは通常、数十本以上から成る束状の構造をしており、金属的CNT比率を増やす処理を行ったあとでも束状の構造である。しかし、これを数本以下にほどくことで、より良好なFET特性を得ることができるので、束状構造をほどき、かつ溶媒中に均一分散していることが好ましい。単層CNTを溶媒中に分散する方法としては、単層CNTと共役系重合体を溶媒に混合した後、超音波照射して分散する方法が好ましく用いられる。超音波照射は、超音波洗浄機あるいは超音波ホモジナイザーなどを用いて行うことができる。短時間で高効率に分散を行う場合には超音波ホモジナイザーが好ましく用いられる。
単層CNTと共役系重合体を溶媒に混合する際、単層CNT濃度は0.001〜1g/lの範囲が好ましい。また、単層CNTに対する共役系重合体の量は0.5〜10倍程度であることが好ましい。より好ましくは1〜2倍である。この範囲にあることで高い分散性を維持しつつ、余剰の共役系重合体が少ない状態が得られ、良好な単層CNT分散液を得ることができる。
超音波の照射出力は、超音波ホモジナイザーなどを用いて直接照射装置する場合は100〜500Wであることが好ましい。バッチ式で分散処理を行う場合は100〜500Wが好ましく、100〜300Wがさらに好ましく、連続フロー式で分散処理を行う場合は200〜750Wが好ましく、200〜500Wがさらに好ましい。この範囲にあることで、分散液の超音波照射による液温上昇を適度に制御しながら良好なCNT分散液を得ることができる。また、超音波洗浄機などを用いて間接照射する場合の超音波の出力は、10〜1000Wが好ましい。通常市販されている超音波洗浄機は、超音波の出力と洗浄槽の大きさがほぼ比例するように設計されているので、単層CNT分散液の処理量にあわせて出力と洗浄槽の大きさを選定すればよく、出力約100W/洗浄槽約2リットルから、出力300W/洗浄槽10リットル程度のものを用いることが好ましい。超音波の周波数は20〜100kHzであることが好ましい。なお、超音波の照射を終了する直前に共役系重合体を、上述の配合比の範囲内で追加してもよく、こうすることで単層CNTの再凝集を抑制し分散安定性を向上させることができる。
上述の方法で溶媒中に均一分散した単層CNTは、共役系重合体と単層CNTから構成されるが、両者は単なる混合体ではなく、共役系重合体が単層CNTの少なくとも一部、あるいは全部に付着した状態であると考えられる。共役系重合体がCNTに付着できるのは、それぞれの共役系構造に由来するπ電子雲が重なることによって相互作用が生じるためと推測される。共役系重合体がCNTに付着しているか否かは、共役系重合体が付着したCNTの反射色が、共役系重合体の色に近づくことで判別できる。定量的には元素分析やX線光電子分光法(XPS)などによって付着物の存在とCNTに対する付着物の重量比を同定することができる。また、CNTに付着させる共役系重合体は、共役系重合体であれば、分子量、分子量分布や構造に関わらず用いることができる。
本発明では、単層CNT分散液、あるいは単層CNTを含有する有機半導体材料の溶液をフィルターによって濾過する工程を設けることが好ましい。フィルター孔径よりも小さい単層CNTを濾液から得ることで、ソース電極とドレイン電極間の距離よりも短いCNTを効率よく得られることができる。
濾過に用いるフィルターは、チャネル長よりも小さい孔径を有するフィルターであれば、メンブレンフィルター、セルロース濾紙、ガラス繊維濾紙など何れの種類のフィルターも用いることができる。中でもメンブレンフィルターは、濾紙内部で吸着されるCNTの量を減らすことができるので、濾液から収率よく単層CNTを回収できるので好ましく用いることができる。
濾過に用いるフィルターの孔径は、チャネル長よりも小さければよく、例えばチャネル長が20μmの場合は、孔径10μmのフィルターを用いることで電極間の短絡を確実に防ぐことができる。実際には孔径0.5〜10μmのフィルターを好ましく用いることができ、チャネル長に応じて使い分けることができる。
本発明に用いられる有機半導体材料は、合成過程で使用した原料や副生成物などの不純物をできるだけ除去しておくことが好ましい。その精製方法は特に限定されないが、再沈殿法、ソクスレー抽出法、濾過法、イオン交換法、キレート法等を用いることができる。中でも重合中に使用したモノマーやその副生成物、重合中に失活したダイマー等の不純物を除去する場合には、再沈殿法やソクスレー抽出法が好ましく用いられ、金属成分の除去には、再沈殿法やキレート法、イオン交換法が好ましく用いられる。これらの方法のうち、1種を単独で用いるか、あるいは複数を組み合わせてもよい。
本発明の有機トランジスタ材料は、例えば、前記単層CNTと前記有機トランジスタ材料とを、好ましくは溶媒中で混合することにより得ることができる。より具体的には、単層CNT分散液と有機半導体材料を混合する方法や、単層CNT分散液と有機半導体材料溶液とを混合する方法などが好ましく用いられる。これらを混合した後、マグネチックスターラーや撹拌羽根を用いた撹拌や、超音波照射による振動撹拌によって溶解・分散することが好ましい。
単層CNTや有機半導体材料を溶解させる溶媒、およびCNT分散液に用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール、トルエン、キシレン、o−クロロフェノール、アセトン、酢酸エチル、エチレングリコール、クロロホルム、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられるが、これらに限定されず必要に応じて溶媒を選ぶことができる。
単層CNT分散液中の単層CNTの分散性や形状、または有機トランジスタ材料の単層CNTの分散性や形状は、単層CNT分散液または有機トランジスタ材料溶液を基板上に塗布し、塗布された膜を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察することで評価できる。例えば、単層CNT分散液を希釈せずにそのまま塗布すれば膜中の単層CNTの分散性が観察でき、溶媒で2〜100倍に希釈して基板上に塗布すれば、単層CNT同士の重なりが少なくなり、単層CNTの太さや形状を観察して評価することができる。AFMによるCNT観察では装置の特性上、単層CNTの幅方向の太さは実際の単層CNT太さよりも大きく観察されてしまうが、高さ方向の値は実際の数値を表すので、高さの値を単層CNTの太さとして評価することができる。このようにして、単層CNTがどの程度、凝集が解かれているかを評価することができる。具体的には単層CNTが1〜10本程度の束にまで解かれていることが好ましい。
次に、本発明の有機FET素子について説明する。図1および図2は、本発明の有機FET素子の例を示す模式断面図である。絶縁層3で覆われたゲート電極2を有する基板1上に、図1では金等のソース電極5およびドレイン電極6が形成された後、半導体層4がこの順に形成されている。一方、図2では前記基板1上に半導体層4が形成された後、金等のソース電極5およびドレイン電極6が形成されている。本発明の有機トランジスタ材料を半導体層4に用いることにより、閾値電圧の低い有機FET素子を得ることができる。なお、閾値電圧とは、トランジスタのソースとドレイン間に流れる電流がオフからオンに立ち上がるところのゲート電圧をいう。従来、半導体層が有機半導体材料のみで形成される場合は閾値電圧が0〜10Vであるのに対し、単層CNTを含有することにより移動度が1〜2桁向上した有機FET素子においては、20V以上になってしまうという課題があった。しかし、上述の通り金属的CNTの比率の増えた単層CNTを用いることで閾値電圧を20V以下にすることができ、低電圧駆動が可能で高性能な有機FET素子を得ることができる。本発明においては、半導体特性は主に有機半導体材料が担い、単層CNTは有機半導体材料の結晶子間でのキャリアのパスをスムーズにすることを担っている。そのため、単層CNT中の金属的CNTの比率は高いほど良い。
基板1に用いる材料としては、例えば、シリコンウエハ、ガラス、アルミナ焼結体等の無機材料、ポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシレン等の有機材料が挙げられる。
ゲート電極2、ソース電極5およびドレイン電極6としては、例えば、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)などの導電性金属酸化物、あるいは白金、金、銀、銅、鉄、錫、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、パラジウム、モリブデン、アモルファスシリコンやポリシリコンなどの金属やこれらの合金、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体、ヨウ素などのドーピングによって導電率を向上させた導電性ポリマーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの電極材料は、単独で用いてもよいが、複数の材料を積層または混合して用いてもよい。
上記ゲート電極2、ソース電極5およびドレイン電極6の形成方法としては、抵抗加熱蒸着、電子線ビーム、スパッタリング、メッキ、CVD、イオンプレーティングコーティング、インクジェットおよび印刷などが挙げられるが、導通を取ることができれば特に制限されない。またパターン形成方法としては、インクジェット技術やスクリーン印刷技術で直接パターンを形成することができ、また、フォトレジストを用いたリフトオフ法、電極成分や半導体層成分に感光性を付与してフォトリソグラフィーを用いる方法、膜をパターンエッチングする方法、フォトレジストを用いて基板表面に親水性面と撥水性面を形成してパターン形成する方法、全面塗布したのちに除去部分を拭き取りや掻き取りによってパターン形成する方法、あるいは電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターン形成する方法など、何れの方法も用いることができる。
絶縁層3(ゲート絶縁膜)に用いる材料としては特に限定されないが、具体的には酸化シリコン、アルミナ等の無機材料、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルクロライド、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリパラキシレン等の有機高分子材料、あるいは無機材料粉末と有機高分子材料の混合物を用いることができる。上記絶縁層の形成方法としては、特に限定されないが、抵抗加熱蒸着、電子線ビーム、スパッタリング、CVD、イオンプレーティング、スピンコート法、キャスト法、ディップ法、バーコーター法、滴下法、スプレー法、ブレードコート法、スリットダイコート法、スクリーン印刷法、鋳型塗布法、印刷転写法、浸漬引き上げ法、インクジェット法などが挙げられ、材料に応じて使用できる。
絶縁層3の膜厚は特に制限されないが、一般的には50nm〜3μm、好ましくは100nm〜1μmである。絶縁層は単層、もしくは複数層で構成されていてよく、単層の場合は複数の絶縁性材料を混合して形成してもよく、また複数層の場合は複数の絶縁性材料を積層して形成しても構わない。
半導体層4の形成方法としては、スピンコート法、ブレードコート法、スリットダイコート法、スクリーン印刷法、バーコーター法、鋳型法、印刷転写法、浸漬引き上げ法、インクジェット法、ディスペンス法など何れの方法でも用いることができ、塗膜厚み制御や配向制御など、得ようとする塗膜特性に応じて塗布方法を選択できる。例えばスピンコート塗布を行う場合には有機半導体材料の溶液の濃度は1〜20g/lであると、厚み5〜200nmの塗膜を得ることができる。形成した塗膜に対して、大気下、減圧下または不活性ガス雰囲気下(窒素やアルゴン雰囲気下)でアニーリング処理を行ってもよい。
半導体層4の膜厚は5nm以上100nm以下が好ましい。この範囲の膜厚にすることにより、均一な薄膜形成が容易になり、さらにゲート電圧によって制御できないソース・ドレイン間電流を抑制し、有機FET素子のオンオフ比をより高くすることができる。膜厚は通常、原子間力顕微鏡やエリプソメトリ法などにより測定できる。半導体層は単層でも複数層でもよく、単層の場合は複数の有機半導体材料を混合して形成してもよく、複数層の場合は複数の有機半導体材料を積層して形成してもかまわない。
また、絶縁層3と半導体層4の間に配向性層を設けることもできる。配向性層には、シラン化合物、チタン化合物、有機酸、ヘテロ有機酸など、公知の材料を用いることができ、シラン化合物が好適に用いられる。シラン化合物では、シラン残基の一部または全部が絶縁層表面と反応し、化学結合することで薄膜を形成する。反応を円滑に進めるために、シラン残基が、ハロゲン原子、水酸基またはアルコキシ基を有していることが好ましい。配向性層は、絶縁層表面の濡れ性を改善し、半導体層の膜形成能を向上させるだけではなく、有機トランジスタ材料の配向性を高め、移動度をより向上させる効果もある。
このようにして形成された有機FET素子は、ソース電極とドレイン電極との間に流れる電流をゲート電圧を変化させることによって制御することができる。有機FET素子の移動度は、下記の(a)式を用いて算出することができる。
μ=(δId/δVg)L・D/(W・εr・ε・Vsd) (a)
ただしIdはソース・ドレイン間の電流(A)、Vsdはソース・ドレイン間の電圧(V)、Vgはゲート電圧(V)、Dは絶縁層の厚み(m)、Lはチャネル長(m)、Wはチャネル幅(m)、εrは絶縁層の比誘電率(ここではSiO2の3.9を使用)、εは真空の誘電率(8.85×10−12F/m)である。
また、あるマイナスのゲート電圧におけるId(オン電流)の値と、あるプラスのゲート電圧におけるId(オフ電流)の値の比からオンオフ比を求めることができる。
さらに、ドレイン電流の絶対値の平方根と、ゲート電圧の関係からドレイン電流Id=0に外挿することにより閾値電圧を求めることができる。
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
実施例1
はじめに、半導体的CNT比率を減らして金属的CNT比率を増やす処理を行った。CNTは単層カーボンナノチューブ(サイエンスラボラトリーズ社から購入したHiPco法のCNT、純度95%)を精製せずにそのまま用いた。CNT5mgと30%過酸化水素水2mlをフラスコに入れ、撹拌しながら90℃のオイルバスで3時間加熱処理を行った。処理後のCNTを、吸引濾過器を用いて孔径0.45μmのメンブレンフィルター上に捕集し、水洗した後、真空乾燥して酸化処理CNT1.1mg(収率22%)を得た。
次に、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(以下、P3HTと略す)(アルドリッチ社製、レジオレギュラー)を再沈殿法により精製した。P3HT20mgにクロロホルム5mlを加えて溶解し、孔径0.45μmのメンブレンフィルターによってろ過を行い、ろ液をメタノール15mlと0.1規定塩酸15mlの混合液の中に滴下し、沈澱したP3HTを、ろ別によって孔径0.45μmのメンブレンフィルター上に捕集し、真空乾燥により溶媒を除去した。この操作を2回繰り返して精製した。
ついで、上記方法で精製したP3HTを用いてCNT分散液を作製した。酸化処理CNT1.5mgと精製したP3HT1.5mgと、クロロホルム30mlを50mlのサンプル管に入れ、CNT混合液を調製し、超音波ホモジナイザー(東京理化器械(株)製VCX−502、出力250W、直接照射)を用いて超音波照射した。超音波ホモジナイザーは、超音波照射用のプローブに直径13mmのチタン合金製のものを用い、プローブ表面を予め目の細かいサンドペーパーで研磨しておき、表面粗さRaが1μm以下になるようにして使用した。超音波照射を30分行った時点で一度照射を停止し、精製したP3HTを1.5mg追加し、さらに1分間超音波照射して、表面に共役系重合体が付着したCNT分散液a(溶媒に対するCNTの濃度0.05g/l、溶媒に対するP3HTの濃度0.1g/l)を得た。
ここで、CNT分散液aの中のCNTの表面に共役系重合体が付着していることを、次の方法で確認した。CNT分散液a3mlを、孔径0.1μm、直径13mmのメンブレンフィルターを用いてろ過を行い、クロロホルム3mlで2回洗浄し、フィルター上にCNT膜を形成した。次いで、CNT膜を3cm角の清浄なシリコンウエハ上に押しつけて転写し、真空乾燥した。該CNT膜をX線電子分光法(XPS)によって解析を行ったところ、P3HTに含まれる硫黄元素が検出され、CNTの表面に共役系重合体が付着していることがわかった。
次いで、CNT分散液a(CNT濃度0.05g/l)を3cm角のガラス基板上に塗布して単層CNT膜を形成し、分光光度計(日立製作所製U3410)を用いて波長1000nmおよび1200nmでの吸光度を測定した。塗布はスピンコーターを用い、塗布を10回繰り返して、厚み35nmの単層CNT膜を形成した。半導体的CNTに固有の吸収が表れる波長1200nmの吸光度を測定したところ0.027であった。また膜厚にのみ依存する波長1000nmでの吸光度は0.036であった。すなわち、B/Aの値は0.75であった。
次いで半導体層用の塗布液を調製した。上述の分散液aにクロロホルムを加えて0.02g/lに希釈し、メンブレンフィルター(孔径10μm、直径25mm、ミリポア社製オムニポアメンブレン)を用いてろ過を行い、長さ10μm以上のCNTを除去した。ろ液には大半のCNTが含まれていた。得られたろ液をCNT分散液cとした。CNT分散液c0.6mlと、クロロホルム0.4mlと、精製したP3HT3mgを容積10mlのサンプル管に入れ、超音波洗浄機(井内盛栄堂(株)製US−2、出力120W、間接照射)を用いて30分間超音波撹拌することにより、半導体層用の塗布液(溶媒に対するP3HTの濃度3g/l、溶媒に対するCNTの濃度約0.012g/l、P3HT100重量部に対するCNTの重量が0.4重量部)を得た。
次いで、有機電界効果型トランジスタを以下の要領で作製した。この有機FET素子の構造を図1に示した。
有機FET素子の基板には熱酸化によるSiO2膜(膜厚300nm)付きのアンチモンドープシリコンウエハ(抵抗率0.02Ωcm以下)を用いた。ここで、シリコンウエハは基板1であると同時に、ゲート電極2であり、熱酸化膜は絶縁層3となる。次に以下の手順に基づき、金のソース電極5およびドレイン電極6を形成した。熱酸化膜付きのシリコンウエハ上にポジ型レジスト溶液を滴下し、スピナーを用いて塗布した後、90℃のホットプレートで乾燥し、レジスト膜を形成した。次いで露光機を用いて、フォトマスクを介した紫外線照射を行った。次いでレジスト膜の付いたウエハをアルカリ水溶液に浸漬し、紫外線照射部を除去し、櫛形電極が抜けた形状のレジスト膜を得た。前述のレジスト膜付きのウエハ上に、クロムを厚み5nmになるよう真空蒸着し、次いで金を厚み45nmになるように真空蒸着した。次いで、金/クロムとレジストの付いたウエハをアセトン中に浸漬し、超音波洗浄機で超音波照射することによって、レジスト上の金/クロムを除去した。このようにして、ウエハ上に金の両櫛形電極を形成した。これら両電極の幅(チャネル幅)は0.5cm、両電極の間隔(チャネル長)は20μm、電極高さは50nmとした。
次いで、上述のソース電極、ドレイン電極により形成されたチャネルの上に半導体層用の塗布液0.05mlを滴下し、スピンコート法(回転速度1000rpm、0.3秒)で膜厚25nmの薄膜を形成した。このとき、ソース電極、ドレイン電極はいずれも、重合体コンポジット溶液に含まれるクロロホルムによる溶出や浸食はしておらず、もとの形状を維持していることが光学顕微鏡観察から確認された。ソース電極、ドレイン電極に銀線と銀ペーストを用いてリード線を取りつけた後、110℃の真空乾燥機中に2時間静置し、50℃以下になるまで徐冷して乾燥機から取り出した。こうして有機FET素子を作製した。
得られた有機FET素子を測定ボックスに移動させ、真空にして18時間静置した後、電流電圧特性を測定し、FET特性を調べた。測定装置にはケースレーインスツルメンツ社製半導体特性評価システム4200−SCSを用い、測定ボックスは1torr以下の減圧状態を保持しておいた。
有機FET素子のゲート電圧(Vg)を変えたときのソース・ドレイン間電流(Isd)−ソース・ドレイン間電圧(Vsd)を測定しFET特性を求めたところ、移動度が3.0×10−2cm2/V・sec、オンオフ比が8.5×104、閾値電圧が11Vと非常に良好な値が得られた。
実施例2
CNTの過酸化水素処理を3時間から1時間に換えた以外は実施例1と同様の操作を行った。酸化処理後のCNTの収量は3mg(収率60%)であった。厚み35nmの単層CNT膜の吸光度を波長1000nmおよび1200nmで測定したところ、それぞれ0.036、0.029であり、B/Aの値は0.81であった。
該CNTを用いて半導体層用の塗布液を調製し、有機FET素子を作製した。有機FET素子のゲート電圧(Vg)を変えたときのソース・ドレイン間電流(Isd)−ソース・ドレイン間電圧(Vsd)を測定しFET特性を求めたところ、移動度が3.6×10−2cm2/V・sec、オンオフ比が2.2×104、閾値電圧が17Vと良好な値が得られた。
実施例3
CNTの過酸化水素処理を3時間から5時間に換えた以外は実施例1と同様の操作を行った。酸化処理後のCNTの収量は0.3mg(収率6%)であった。厚み35nmの単層CNT膜の吸光度を波長1000nmおよび1200nmで測定したところ、それぞれ0.036、0.022であり、B/Aの値は0.61であった。
該CNTを用いて半導体層用の塗布液を調製し、有機FET素子を作製した。有機FET素子のゲート電圧(Vg)を変えたときのソース・ドレイン間電流(Isd)−ソース・ドレイン間電圧(Vsd)を測定しFET特性を求めたところ、移動度が2.3×10−2cm2/V・sec、オンオフ比が8.0×104、閾値電圧が10Vと良好な値が得られた。
実施例4
上述の実施例1で処理したCNTを用い、P3HT100重量部に対するCNTの重量を0.4重量部から0.1重量部に換えた以外は実施例1と同様の操作を行った。有機FET素子を作製し、有機FET素子のゲート電圧(Vg)を変えたときのソース・ドレイン間電流(Isd)−ソース・ドレイン間電圧(Vsd)を測定し、FET特性を求めたところ、移動度が1.1×10−2cm2/V・sec、オンオフ比が1.0×105、閾値電圧が9Vと良好な値が得られた。
実施例5
上述の実施例1で処理したCNTを用い、P3HT100重量部に対するCNTの重量を0.4重量部から1.0重量部に換えた以外は実施例1と同様の操作を行った。有機FET素子を作製し、有機FET素子のゲート電圧(Vg)を変えたときのソース・ドレイン間電流(Isd)−ソース・ドレイン間電圧(Vsd)を測定し、FET特性を求めたところ、移動度が5.2×10−2cm2/V・sec、オンオフ比が1.1×104、閾値電圧が15Vと良好な値が得られた。
実施例6
上述の実施例1で処理したCNTを用い、P3HT100重量部に対するCNTの重量を0.4重量部から2.0重量部に換えた以外は実施例1と同様の操作を行った。有機FET素子を作製し、有機FET素子のゲート電圧(Vg)を変えたときのソース・ドレイン間電流(Isd)−ソース・ドレイン間電圧(Vsd)を測定し、FET特性を求めたところ、移動度が9.2×10−2cm2/V・sec、オンオフ比が1.1×103、閾値電圧が19Vであった。
実施例7
一般式(1)で表される化合物として下記化合物[1]を次の方法で合成した。なお、合成化合物同定のための1H−NMRは超伝導FT−NMR「EX−270」(日本電子(株)製)を用い、重クロロホルム溶液にて測定を行った。
3−n−ヘキシルチオフェン60gをジメチルホルムアミド400mlに溶解し、N−ブロモスクシンイミド50gを加え、窒素雰囲気下、室温で4時間撹拌した。得られた溶液に水200mlとヘキサン200mlを加え、有機層を分取した。水200mlで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液からロータリーエバポレーターを用いて溶媒を減圧留去し、2−ブロモ−3−n−ヘキシルチオフェン60gを得た。
次に、マグネシウム粉末4.3gとヨウ素10mgをテトラヒドロフラン100mlに加え、窒素雰囲気下で30分撹拌した。ここへ、上記2−ブロモ−3−n−ヘキシルチオフェン42gとテトラヒドロフラン100mlの混合溶液を滴下し、1時間加熱還流した。室温に冷却後、5,5’−ジブロモ−2,2’−ビチオフェン20gとテトラヒドロフラン200mlの混合溶液を加え、さらにジフェニルホスフィノプロパンニッケル(II)ジクロライド0.48gを少しずつ加え、窒素雰囲気下で3時間加熱還流した。得られた溶液に1N塩化アンモニウム水溶液800mlとヘキサン600mlを加え、有機層を分取した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液200mlと水200mlで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(充填材:シリカゲル、溶離液:ヘキサン)で精製し、下記式に示す4Tを28g得た。
16.3gの上記4Tとテトラヒドロフラン20mlの混合溶液を−30℃に冷却した後、n−ブチルリチウム溶液(1.6mol/lのヘキサン溶液)21mlを滴下し、室温で1時間撹拌した。混合溶液を−10℃に冷却し、2−イソポロポキシ−4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン5.7gを加え、室温で3時間撹拌した。得られた溶液に1N塩酸水溶液33ml、水200mlおよびジクロロメタン200mlを加え、有機層を分取した。水100mlで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(充填材:シリカゲル、溶離液:ヘキサン/ジクロロメタン)で精製し、下記式に示す4T−BPinを11g得た。
1.6gの上記4T−BPinと4,4’−ジブロモスチルベン0.30g、トルエン50mlの混合溶液に、エタノール10mlと2Nの炭酸ナトリウム水溶液15ml、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)31mgを加え、窒素気流下110℃で9時間還流した。得られた溶液中に析出した固体をろ取し、水20ml、エタノール20ml、トルエン20mlで洗浄後、トルエンから再結晶した。真空乾燥した後、橙色粉末0.90gを得た。得られた粉末の1H−NMR分析結果は次の通りであり、化合物[1]であることを確認した。
1H−NMR(CDCl3(d=ppm)):0.89-0.93(t,12H),1.26-1.42(m,24H),1.57-1.68(m,8H),2.74-2.82(m,8H),6.93-6.96(m,6H),7.02(d,2H),7.06(d,2H),7.13-7.24(m,8H),7.52-7.63(dd,8H)
半導体層をP3HTから化合物[1]に換えた以外は実施例3と同様の操作を行って半導体層用の塗布液を調製し、有機FET素子を作製した。CNTは、過酸化水素処理5時間行ったものを用い、厚み35nmの単層CNT膜の波長1000nmおよび1200nmで吸光度が、それぞれ0.036、0.022で、B/Aの値が0.61のものを用いた。有機FET素子のゲート電圧(Vg)を変えたときのソース・ドレイン間電流(Isd)−ソース・ドレイン間電圧(Vsd)を測定しFET特性を求めたところ、移動度が4.7×10−2cm2/V・sec、オンオフ比が8.5×104、閾値電圧が11Vと良好な値が得られた。
比較例1
CNTの過酸化水素処理を行わなかった以外は実施例1と同様の操作を行った。過酸化水素処理を行わなかったCNTを用い、上述の分散方法で調製したCNT分散液b(CNT濃度0.05g/l)をガラス基板上に塗布し、得られた厚み35nmの単層CNT膜について吸光度を波長1200nmおよび1000nmで測定したところ、それぞれ0.037、0.037であり、B/Aの値は1.0であった。
該CNTを用いて半導体層用の塗布液を調製し、有機FET素子を作製した。有機FET素子のゲート電圧(Vg)を変えたときのソース・ドレイン間電流(Isd)−ソース・ドレイン間電圧(Vsd)を測定しFET特性を求めたところ、移動度は4.3×10−2cm2/V・sec、オンオフ比は3.0×104と良好な値であったが、閾値電圧が25Vと大きかった。
比較例2
半導体層をP3HTから化合物[1]に換えた以外は比較例1と同様の操作を行って半導体層用の塗布液を調製し、有機FET素子を作製した。CNTは過酸化水素処理を行わなかったものを用い、厚み35nmのCNT膜の波長1200nmおよび1000nmの吸光度が、それぞれ0.037、0.037で、B/Aの値が1.0のものを用いた。有機FET素子のゲート電圧(Vg)を変えたときのソース・ドレイン間電流(Isd)−ソース・ドレイン間電圧(Vsd)を測定しFET特性を求めたところ、移動度は6.5×10−2cm2/V・sec、オンオフ比は4.0×104と良好な値であったが、閾値電圧が27Vと大きかった。
各実施例および比較例の評価結果を表1に示す。