JP5447129B2 - クーラント穴付きドリル - Google Patents

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Description

本発明は、穴明け加工を行うドリル本体先端部の切刃部に、切削油剤等のクーラントを供給するクーラント穴が形成されたクーラント穴付きドリルに関するものである。
このようなクーラント穴付きドリルにおいては、クーラント穴は一般的に断面円形状のものが多いが、クーラントの供給量の増大や効率的な供給を図るため、例えば特許文献1にはクーラント穴の軸断面形状を、内壁面間距離がクーラント穴の略中央から回転中心へ向かうに従って漸次減少する滴形に形成したものが、特許文献2にはクーラント穴の軸断面形状を楕円としたものが、特許文献3にはクーラント穴の少なくとも開口部を略三角形としたものが、それぞれ提案されている。
実開昭64−42816号公報 特開2004−154883号公報 特開2005−52940号公報
ところで、このようなクーラント穴付きドリルにおいてクーラントの供給量を増大させるには、クーラント穴の断面積を大きくすればよいのであるが、徒に断面積を大きくしただけでは、供給量が増大したクーラントを、特に軸線からの回転半径が大きくて切屑生成量や切削負荷、切削熱の発生が大きい外周側の切刃や、この外周側の切刃による被削材の切削部位に効率的に供給することはできない。
すなわち、特許文献1に記載のドリルのようにクーラント穴を断面滴形、すなわち断面円形の本孔と、この本孔がなす円弧にそれぞれ接し回転中心寄りで交叉するほぼ平坦な2つの壁面によって画成される副孔とから構成したものでは、副孔の2つの壁面間の周方向の間隔は外周側に向けて漸次増大するものの、その増大する割合は外周側に向けて一定であり、この外周側で効率的なクーラントの供給を図ることができなくなって、例えばステンレスのような熱伝導率の低い被削材に対して十分な冷却効果を得ることができない。
これは、特許文献3に記載のドリルのようにクーラント穴の開口部を略三角形としたものでも同様である。しかも、この特許文献3のように上記三角形の底辺を先端切刃と略平行又は先端切刃より45°回転方向後方側に設けたり、あるいは特許文献2のように楕円形状のクーラント穴の長軸方向をドリル切刃とほぼ平行からドリル切刃平行より45°回転方向後方側以下に設けたりすると、このクーラント穴開口部は、外周側では周方向の幅が漸次小さくなってしまうため、効率的なクーラントの供給が一層困難となる。
本発明は、このような背景の下になされたもので、切屑生成量や切削負荷、切削熱の発生が大きくなる切刃の外周側部位や、この切刃の外周側部位によって切削される被削材の加工穴外周側の切削部位に多くのクーラントを効率的に供給することが可能なクーラント穴付きドリルを提供することを目的としている。
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転させられるドリル本体の先端側に形成された切刃部に、この切刃部の先端逃げ面に開口するクーラント穴が穿設されており、このクーラント穴は、上記軸線に直交する断面において、ドリル回転方向前方側に位置する前穴壁面と、ドリル回転方向後方側に位置する後穴壁面と、上記ドリル本体の外周側に位置する外周穴壁面とを備えていて、このうち上記前穴壁面と後穴壁面とは、外周側に向かうに従い互いの周方向の間隙が漸次増大し、しかもこの間隙が増大する割合も外周側に向けて漸次大きくなるように形成されていることを特徴とする。
このように構成されたクーラント穴付きドリルでは、クーラント穴の前穴壁面と後穴壁面との周方向の間隙が、外周側に向かうに従い漸次増大し、しかもこの間隙が増大する割合も外周側に向けて漸次大きくなるようにされているので、例えば特許文献1に記載のドリルにおける上記副孔の2つの平坦な壁面をそのまま外周側に延長した場合のようにこれら内壁面間の間隙が外周側に向けて一定の割合で大きくなるのに比べ、この外周側における前後穴壁面間の間隙をより大きなものとすることができる。
従って、これら前後穴壁面の間隙を通るクーラントの供給量も外周側でより多くすることができ、その一方で、ドリル本体が軸線回りに回転されつつ該軸線方向先端側に送り出されて被削材に穴明け加工を行うドリルでは、クーラント穴を通って供給されるクーラントにも外周側に向けて遠心力が作用することになるので、こうして外周側で供給量を増大させることが可能となったクーラントを加速して、より高速で先端逃げ面の開口部から吐出させることができ、この外周側における切刃や加工穴の切削部位に効率的に行き渡らせることが可能となる。
ここで、クーラント穴の上記前後穴壁面が、互いの周方向の間隙が上述のように外周側に向かうに従い漸次増大し、かつこの間隙が増大する割合も外周側に向けて漸次大きくなるようにされるには、ドリル本体の軸線に直交する断面において、少なくとも一方がクーラント穴の内側に凸となる凸曲線状とされていればよく、他方は、同断面において直線状であったり、上記間隙が増大する割合が外周側に向けて漸次大きくなる範囲では、クーラント穴の外側に凹となる凹曲線であったりしてもよいが、前穴壁面と後穴壁面とがともにクーラント穴の内側に凸となる凸曲線状断面をなすように形成することにより、ドリル本体の外周側においてドリル回転方向側とドリル回転方向後方側との広範囲にクーラントを行き渡らせることが可能となる。
また、クーラント穴の上記外周穴壁面は、こうして外周側で大きくされた前後穴壁面間の間隙を狭めるものでなければ、例えば軸線に直交する断面において直線状をなしていてもよいが、同断面においてクーラント穴の外側に凹となるような凹曲線状をなすように形成することにより、外周側で供給量がより多くされたクーラントを、特に加工穴の外周側の切削部位に偏り無く行き渡らせることができる。なお、この外周穴壁面と上記前後穴壁面とのそれぞれの交差稜線部や前後穴壁面同士の交差稜線部は、クラック等の発生を防ぐために上記断面において曲率半径の小さな凹曲線をなす凹曲面部によって滑らかに接続されるのが望ましい。
一方、上記軸線に直交する断面において、上記前穴壁面と後穴壁面との周方向の間隙が増大する割合は、これが小さすぎると、特許文献1に記載のドリルにおける副孔の2つの平坦な壁面をそのまま外周側に延長した場合と変わらなくなって、外周側でのクーラント供給量を十分に増大させることができなくなるおそれがある。ただし、この割合が大きすぎても、軸線に直交する断面におけるクーラント穴内壁面の周長が長くなって圧力損失が大きくなり、先端逃げ面におけるクーラント穴開口部からのクーラントの吐出圧が低下して効率的な供給を図ることができなくなるおそれが生じるので、この前後穴壁面の周方向の間隙が増大する割合は、上記軸線に対する径方向に外周側に向けて1mmごとに130%〜190%の範囲内で大きくなるようにされるのが望ましい。
以上説明したように、本発明によれば、穴明け加工時の切屑生成量や切削負荷、切削熱の発生が大きくなる切刃の外周側部位や、この切刃の外周側部位によって切削される被削材の加工穴外周側の切削部位により多くのクーラントを効率的に供給することが可能となり、例えばステンレスのような熱伝導率の低い難削材に対しても、効果的な冷却、潤滑を図るとともに切屑の円滑な排出を促して、安定的かつ効率的な穴明け加工を行うことができる。
本発明の一実施形態を示す側面図である。 図1に示す実施形態の平面図である。 図1に示す実施形態の正面図である。 図1に示す実施形態の先端部の斜視図である。 図1に示す実施形態の軸線Oに直交する断面図である。 図1に示す実施形態の軸線Oに直交する断面におけるクーラント穴10の拡大図である。 本発明の実施例と比較例1〜3におけるクーラント穴の断面積の比率を示す図である。 本発明の実施例と比較例1〜3におけるクーラント穴の流量を相対的に比較した図である。 本発明の実施例と比較例1〜3におけるクーラントの圧力損失を相対的に比較した図である。
図1ないし図6は、本発明のクーラント穴付きドリルの一実施形態を示すものである。本実施形態において、ドリル本体1は、超硬合金等の硬質材料により一体に形成されて、外形が軸線Oを中心とした概略円柱状をなし、その後端側部分(図1および図2において右側部分)が円柱状のままのシャンク部2とされるとともに、先端側部分(図1および図2において左側部分)には切刃部3が形成されている。このようなクーラント穴付きドリルは、シャンク部2が工作機械に把持されて軸線O回りにドリル回転方向Tに回転されつつ、軸線O方向先端側に送り出されて被削材に穴明け加工を行う。
切刃部3の外周には、本実施形態では一対の切屑排出溝4が、軸線Oに関して互いに対称に、ドリル本体1の先端逃げ面5に開口して、軸線O方向後端側に向かうに従い軸線O回りに例えば40°以下の捩れ角でドリル回転方向T後方側に捩れつつ延び、シャンク部2の手前で切れ上がるように形成されている。これらの切屑排出溝4は、軸線Oに直交する断面においてその溝壁面6が図5に示すように概ね滑らかな凹曲線状をなすように形成されており、ただしこの溝壁面6のうちドリル回転方向T前方側を向く前溝壁面6Aの外周側部分は、この凹曲線に滑らかに接する凸曲線をなすように形成される一方、ドリル回転方向T後方側を向く後溝壁面6Bの外周側部分(ヒール部)には面取り部6Cが形成されている。
このように一対の切屑排出溝4が形成されることにより、切刃部3には周方向に隣接する切屑排出溝4の間に、該切屑排出溝4と同じく軸線O回りにドリル回転方向T後方側に捩れる一対のランド部7が形成される。ここで、このランド部7の外周壁面8は、本実施形態ではドリル回転方向T前方側に位置して軸線Oを中心とした円筒面上に延び、上記前溝壁面6Aと交差することによりリーディングエッジを形成する幅の小さなマージン部8Aと、このマージン部8Aのドリル回転方向T後方側に凹曲面状の段部8Bを介して連なり、該マージン部8Aから僅かに一段縮径した軸線Oを中心とする円筒面上に位置して上記面取り部6Cに交差する、外周壁面8の大部分を占める外周逃げ面(二番取り面)8Cとから構成されている。
また、先端逃げ面5は、本実施形態ではドリル回転方向T後方側に向けて逃げ角が段階的に大きくなる第1〜第3の3つの逃げ面部5A、5B、5Cにより形成されており、このうちドリル回転方向T前方側の第1逃げ面部5Aと切屑排出溝4の上記前溝壁面6Aの先端側部分との交差稜線部に、切刃9が形成されている。なお、この前溝壁面6A先端側部分の内周部には、上記先端逃げ面5のうちドリル回転方向T後方側の第3逃げ面部5Cと凹V字状をなして交差するようにシンニング面6Dが形成されていて、このシンニング面6Dと第1逃げ面部5Aとの交差稜線部に切刃9の内周側において軸線Oに向かうシンニング刃9Aが形成されるように、切刃9にはシンニングが施されている。
さらに、ドリル本体1には、そのシャンク部2の後端面から切屑排出溝4の捩れと等しいリードで軸線O回りに捩れつつ先端側に向かう一対のクーラント穴10が軸線Oに関して対称に穿設されており、これらのクーラント穴10は、切刃部3においては上記ランド部7内を切屑排出溝4に並行して螺旋状に延び、先端逃げ面5のうち第2逃げ面部5Bにそれぞれ開口させられている。
これらのクーラント穴10は、軸線Oに直交する断面における形状、寸法がドリル本体1の全長に亙って一定とされて、この軸線Oに直交する断面において、ドリル回転方向T前方側に位置する前穴壁面10Aと、ドリル回転方向T後方側に位置する後穴壁面10Bと、ドリル本体1の外周側に位置する外周穴壁面10Cとを備えた形状とされている。そして、このうち前穴壁面10Aと後穴壁面10Bとは、ドリル本体1の外周側に向かうに従い互いの周方向の間隙が漸次増大し、しかもこの間隙が増大する割合も外周側に向けて漸次大きくなるように形成されている。
ここで、本実施形態では、前穴壁面10Aは切屑排出溝4の上記前溝壁面6Aとの間隔Aが一定とされるとともに、後穴壁面10Bは切屑排出溝4の上記後溝壁面6Bとの間隔Bが一定とされている。さらに、外周穴壁面10Cは、ランド部7の外周壁面8のうち上記外周逃げ面8Cとの間隔Cが一定となるようにされている。従って、切屑排出溝4の溝壁面6が上述のように断面凹曲線状をなすように形成された本実施形態のクーラント穴付きドリルでは、前穴壁面10Aと後穴壁面10Bはクーラント穴10の内周側に凸となるような断面凸曲線状をなすとともに、外周穴壁面10Cはクーラント穴10の外周側に凹となるような断面凹曲線状をなすことになる。
すなわち、クーラント穴10自体は軸線Oに直交する断面において「銀杏の葉」形を呈することになり、これによって前後穴壁面10A、10Bの周方向の間隙が、図6に符号W1、W2、W3で示すように単位長さLずつ径方向外周側に向かうに従いW1<W2<W3と漸次増大し、かつその増大する割合もW2−W1<W3−W2となるように外周側に向けて漸次大きくなることになる。ただし、これら前穴壁面10A、後穴壁面10B、および外周穴壁面10Cがそれぞれ互いに交差する3つの交差稜線部は、該穴壁面10A〜10Cや切屑排出溝4の溝壁面6および外周逃げ面8Cが軸線Oに直交する断面においてなす凹凸曲線よりも小さな曲率半径の凹曲面部10Dによって滑らかに接続されており、前後穴壁面10A、10Bの間隙はこれらの凹曲面部10Dを除いた部分で、外周側に向けて漸次増大し、かつその増大する割合も漸次大きくなるようにされている。
ここで、本実施形態では、これら前穴壁面10Aと前溝壁面6Aとの間隔A、後穴壁面10Bと後溝壁面6Bとの間隔B、および外周穴壁面10Cと外周壁面8(外周逃げ面8C)との間隔Cの大きさは、間隔Cが最も大きくされるとともに間隔A、Bは互いに等しくされている。なお、これらの間隔A〜Cが一定であるとは、各穴壁面10A〜10Cが形成された部分における溝壁面6A、6Bおよび外周壁面8(外周逃げ面8C)との間隔A〜Cが一定となる正規寸法に対して寸法差がそれぞれ±10%の範囲にあればよく、また間隔A、Bが等しいとは、これらの間隔A、Bが等しくなる位置を基準としてクーラント穴10が軸線Oを中心に±5°の範囲内に形成されていればよい。また、間隔A、Bは、切刃9の外径(切刃9の外周端が軸線O回りになす円の直径)Dの3〜15%の範囲内とされており、間隔Cは外径Dの5〜20%の範囲内とされており、さらに上記凹曲面部10Dの曲率半径は外径Dの15%以下とされている。
また、ドリル本体1の軸線Oとクーラント穴10との間隔E、すなわちクーラント穴10の前後穴壁面10A、10Bの交差稜線部に形成された上記凹曲面部10Dに接する軸線Oを中心とした円の半径は、上記切刃9の外径Dの5〜25%の範囲内とされており、特に本実施形態では軸線Oを中心として切屑排出溝4の溝壁面6に接する心厚円の半径よりも大きくされている。さらに、このクーラント穴10の軸線Oに対する径方向の幅Fは切刃9の外径Dの10〜30%の範囲内とされ、クーラント穴10の周方向の最大幅Gも同様に切刃9の外径Dの10〜30%の範囲内とされている。
一方、これら穴壁面10A〜10Cのうち前穴壁面10Aと後穴壁面10Bは、ドリル本体1の内周側に向かうに従い互いに接近するように延びることになるが、軸線Oに直交する断面において、これら前穴壁面10Aと後穴壁面10Bとがなす挟角αは、切屑排出溝4の前溝壁面6Aとランド部7の外周壁面8との交点(マージン部8Aとの交点)Pと軸線Oを結ぶ直線Mと、後溝壁面6Bと外周壁面8との交点(面取り部6Cと外周逃げ面8Cとの交点)Qと軸線Oを結ぶ直線Nとがなす挟角βの50〜80%の範囲内とされている。
なお、本実施形態では上記前穴壁面10Aと後穴壁面10Bは上述のようにクーラント穴10の内周側に凸となるような断面凸曲線状をなし、その両端部で、互いの交差稜線部に形成された凹曲面部10Dと、それぞれの外周穴壁面10Cとの交差稜線部に形成された凹曲面部10Dとに滑らかに連なるように接続されているので、図5に示すように上記挟角αは、これら前穴壁面10Aと後穴壁面10Bの両端部にそれぞれ接する接線同士がなす交差角とすればよい。
このように構成されたクーラント穴付きドリルでは、上述のようにクーラント穴10の前穴壁面10Aと後穴壁面10Bとの周方向の間隙W1〜W3が、単位長さLごとに外周側に向かうに従いW1<W2<W3となるように漸次増大し、しかもこの間隙が増大する割合もW2−W1<W3−W2となるように外周側に向けて漸次大きくなるようにされているので、これら前後穴壁面10A、10Bの間隙が外周側に向けてW2−W1=W3−W2となるように一定の割合で大きくなるのに比べて、外周側における間隙をより大きなものとすることができ、これに伴いクーラントの供給量もクーラント穴10の外周側でより多くすることができる。
その一方で、こうしてクーラント穴10を通って供給されるクーラントには、穴明け加工時にドリル本体1が高速で軸線O回りに回転されることにより、外周側に向けて遠心力が作用する。従って、こうして外周側で供給量を増大させることが可能となったクーラントを遠心力によって加速して、より高速で先端逃げ面5における開口部から吐出させることができ、特に軸線Oからの回転径が大きいために切屑生成量や切削負荷、切削熱の発生が大きくなる切刃の外周側部位や、この切刃の外周側部位によって切削される被削材の加工穴外周側の切削部位により多くのクーラントを効率的に供給することが可能となる。このため、上記構成のクーラント穴付きドリルによれば、例えばステンレスのような熱伝導率の低い難削材に対しても、効果的な冷却、潤滑を図るとともに切屑の円滑な排出を促して、安定的かつ効率的な穴明け加工を行うことができる。
また、本実施形態では、こうしてクーラント穴10の前後穴壁面10A、10Bの周方向の間隙を外周側に向かうに従い漸次増大させ、かつこの間隙が増大する割合も外周側に向けて漸次大きくなるようにするのに、これら前穴壁面10Aと後穴壁面10Bとを、軸線Oに直交する断面において、ともにクーラント穴10の内側に凸となる凸曲線状をなすように形成しており、これによってドリル本体1の外周側におけるドリル回転方向T側とドリル回転方向Tの後方側とに広範囲にクーラントを行き渡らせることが可能となる。
すなわち、このようにクーラント穴10の前後穴壁面10A、10Bの間隙を外周側に向かうに従い漸次増大し、かつこの間隙が増大する割合も外周側に向けて漸次大きくなるようにするには、ドリル本体1の軸線Oに直交する断面において、これら前後穴壁面10A、10Bの少なくとも一方がクーラント穴10の内側に凸となる凸曲線状とされていればよく、他方は、同断面において直線状であっても、また間隙が増大する割合が外周側に向けて漸次大きくなっていればクーラント穴10の外側に凹となる凹曲線であったりしてもよい。
ただし、これらの場合には、クーラント穴10の内側に凸となる断面凸曲線状とされた前後穴壁面10A、10Bのうちの一方の側にクーラントが偏って供給されがちとなるのに対し、本実施形態では上述のように前後穴壁面10A、10Bをともにクーラント穴10の内側に凸となる断面凸曲線状とすることにより、このような偏りを防いで周方向すなわちドリル回転方向Tとその後方側との広範囲にクーラントを行き渡らせることが可能となるのである。なお、クーラント穴10の軸線Oに直交する断面形状自体は、上述の場合のように周方向に非対称であってもよいが、このような効果をさらに確実に奏功するには、周方向の中心線に対して対称形状とされるのが望ましい。
また、本実施形態では、クーラント穴10の外周穴壁面10Cは、軸線Oに直交する断面においてクーラント穴10の外側に凹となるような凹曲線状をなすように形成されている。しかるに、この外周穴壁面10Cについても、前後穴壁面10A、10Bの間隙部分にまで突出してこの間隙を狭めるものでなければ前後穴壁面10A、10Bと同様にクーラント穴10の内側に凸となる断面凸曲線状であったり、あるいは直線状であったりしてもよいが、上述のように断面凹曲線状とすることにより、先端逃げ面5のクーラント穴10の開口部において、外周穴壁面10Cと加工穴の穴底外周側の切削部位や加工穴内壁面との間隔を小さくすることができるので、本実施形態によれば、クーラント穴10の外周側に効率的に供給された上記クーラントを、これら加工穴の外周側の切削部位に偏り無く行き渡らせることができる。
ところで、上述のように前後穴壁面10A、10Bの間隙W1、W2、W3が単位長さLごとに外周側に向けて大きくなる割合、すなわち(W3−W2)/(W2−W1)が小さすぎて例えば1(100%)に近くなると、W3−W2≒W2−W1となって、上述のように外周側でのクーラントの供給量を十分に増大させることができなくなるおそれがある。その一方で、この割合が大きすぎても、クーラントの供給量は増大する反面、クーラント穴10の上記断面における全穴壁面の周長が長くなることにより圧力損失が増大し、先端逃げ面5におけるクーラント穴10の開口部からのクーラント吐出圧が低下して、クーラントの供給効率が損なわれるおそれがある。このため、前後穴壁面10A、10Bの間隙が増大する割合は、後述する実施例で実証するように、軸線Oに対する径方向に外周側に向けての単位長さLを1mmとした場合に、この単位長さLごとに1.3倍〜1.9倍の範囲すなわち130%〜190%の範囲で大きくなるようにされるのが望ましい。
一方、本実施形態では、このクーラント穴10が、ランド部7を形成する切屑排出溝4の前溝壁面6Aと一定の間隔Aをあけた前穴壁面10Aと、後溝壁面6Bと一定の間隔Bをあけた後穴壁面10Bと、外周壁面8の外周逃げ面8Cと一定の間隔Cをあけた外周穴壁面10Cとを備えており、これら穴壁面10A〜10Cと溝壁面6A、6Bおよび外周壁面8との間に残されるドリル本体1の壁部の肉厚も該間隔A〜Cとそれぞれ等しく一定とされる。このため、これらの壁部において肉厚が薄くなる部分が形成されるのを防いで、ドリル本体1の切刃部3における強度を確保することができ、穴明け加工時にドリル本体1に折損が生じたりするのを防止することができる。
さらに、これらの穴壁面10A〜10Cは、こうして壁部の強度を確保したまま、それぞれ溝壁面6A、6Bおよび外周壁面8に沿って延びるように、ある程度の幅をもって形成することができるので、これによりクーラント穴10の断面積自体を大きくすることができて、総クーラント供給量を増大させることが可能となる。従って、本実施形態によれば、上述のように外周側に向けて前後穴壁面10A、10Bの間隙を増大させるとともにその増大割合も大きくするのと相俟って、こうして多量に供給されるクーラントにより、穴明け加工時のドリル本体1の送りを大きくしても一層確実かつ効果的な潤滑、冷却を図ることができるとともに、生成された切屑を、切屑排出溝4を通して円滑に排出することが可能となる。
しかも、こうして間隔A〜Cがそれぞれ一定とされることにより、先端逃げ面5におけるクーラント穴10の開口部においても、前穴壁面10Aと切刃9との間隔を該切刃9に沿って略一定とすることができて、この切刃9の外周側だけでなく、内周側も含めて全長に亙って効率的にクーラントを供給することが可能となる。従って、切刃9や切削部位の潤滑、冷却効果に偏りが生じたりするのを防ぐことができて、やはりステンレスのような熱伝導率の低い難削材の穴明け加工においても、切刃9に部分的に溶着が発生したりするのを防止して安定した穴明け加工を行うことが可能となる。
これは、先端逃げ面5におけるクーラント穴10の開口部の後穴壁面10Bと切屑排出溝4の後溝壁面6Bとの間隔や、外周穴壁面10Cと外周逃げ面8Cとの間隔についても同様であり、例えばこの外周穴壁面10Cと外周逃げ面8Cとの間隔が一定とされることにより、外周逃げ面8Cと加工穴の内周面との間にも均等にクーラントを供給することが可能となって、マージン部8Aの擦過により摩擦熱が生じた加工穴内周面の効率的な冷却や、これらマージン部8Aと加工穴内周面との潤滑を図ることができる。また、クーラント穴10の後穴壁面10Bと切屑排出溝4の後溝壁面6Bとの間隔が一定とされることで、この後溝壁面6B側から切屑排出溝4に流入して切屑を押し出すクーラントの流れも切屑排出溝4内で略均等となるようにして、切刃9により生成された切屑を滞留させることなく速やかに排出することができる。
また、本実施形態では、このクーラント穴10の外周穴壁面10Cと外周壁面8(外周逃げ面8C)との間隔Cが、他の前穴壁面10Aと前溝壁面6Aとの間隔Aや後穴壁面10Bと後溝壁面6Bとの間隔Bよりも大きくされており、これらの間隔A〜C部分に残されるドリル本体1の肉厚も外周側で大きく確保される。このため、クーラント穴10の断面積を増大させてクーラント供給量を増大させても、切刃部3におけるドリル本体1の強度をより効果的に維持あるいは向上させることができる。
ただし、この間隔Cが小さすぎると上記肉厚も小さくなって、このようなドリル本体1の強度を確保することができなくなり、逆に大きすぎるとクーラント穴10の断面積が小さくなることになって、クーラント供給量の増大が望めなくなるおそれがある。このため、上記間隔Cは本実施形態のように切刃9の外径Dに対して5〜20%の範囲内とされるのが望ましい。
一方、本実施形態では、上記間隔Cより小さくされた前穴壁面10Aと前溝壁面6Aとの間隔Aと、後穴壁面10Bと後溝壁面6Bとの間隔Bとが互いに等しくされていて、上述のように肉厚が大きくされた間隔C部分の壁部を、その周方向の両端で、これら互いに等しい大きさとされた間隔A、B部分の壁部で支持するような形状となり、ランド部7のドリル回転方向T前方側と後方側とでドリル本体1の強度のバランスをとることができるので、例えばいずれか一方の壁部が薄肉となるような場合に比べ、折損等の発生を一層確実に防止することができる。また、こうして間隔A、Bが等しくされることにより、先端逃げ面5における前穴壁面10Aから切刃9までの間隔と、後穴壁面10Bから後溝壁面6Bまでの間隔も等しくできるので、クーラントを切刃9側とヒール側とに一層均等に分散させることができる。
なお、互いに等しくされたこれら間隔A、Bについても、これが小さすぎると当該間隔A、B部分に残される壁部の肉厚も小さくなって、ドリル本体1の強度を十分に確保することができなくなるおそれがあり、逆にこの間隔A、Bが大きすぎるとクーラント穴10の断面積が小さくなって、クーラント供給量を増大することができなくなるおそれが生じる。このため、間隔A、Bは本実施形態のように切刃9の外径Dに対して3〜15%の範囲内とされるのが望ましい。
また、本実施形態では、ドリル本体1の軸線Oとクーラント穴10との間隔Eが、軸線Oに直交する断面における該軸線Oと、クーラント穴10の前後穴壁面10A、10Bに形成された凹曲面部10Dとの間隔として、切刃9の外径Dの5〜25%の範囲内とされている。
このため、ドリル本体1の軸線O周辺のウェブ部分にはクーラント穴10が形成されることがなく、このウェブ部分に十分な肉厚を確保してドリル本体1の強度や捩れに対する剛性をさらに確実に維持することができる。ただし、この間隔Eが上記範囲より大きすぎると、軸線Oから大きく離れた位置から外周側にクーラント穴10が形成されることになって、そのようなクーラント穴10において上記間隔A、Bを一定にしようとするとクーラント穴10の断面積は小さくならざるを得ない。
一方、本実施形態では、このクーラント穴10自体の大きさとして、軸線Oに対する径方向の幅Fが切刃9の外径Dの10〜30%の範囲内とされ、周方向の幅Gも外径Dの10〜30%の範囲内とされ、さらに前穴壁面10Aと後穴壁面10Bとがなす挟角αは、切屑排出溝4の前溝壁面6Aとランド部7の外周壁面8との交点(マージン部8Aとの交点)Pと軸線Oを結ぶ直線Mと、後溝壁面6Bと外周壁面8との交点(面取り部6Cと外周逃げ面8Cとの交点)Qと軸線Oを結ぶ直線Nとがなす挟角βの50〜80%の範囲内とされており、これによっても十分な断面積を確保しつつ、ドリル本体1の強度の低下を防いでいる。
すなわち、これら幅Fや幅G、挟角αがそれぞれ上記範囲よりも大きすぎるとクーラント穴10が大きくなりすぎて、間隔A〜Cを一定としてもドリル本体1の強度を維持することができなくなる一方、逆に上記範囲よりも小さいとクーラント穴10の断面積を切刃9の外径Dに対して大きくできずに、十分な潤滑、冷却効果を得ることができなくなるおそれがある。また、特に挟角αについては、上記範囲を上回った場合も、下回った場合も、間隔A、Bを一定とすることができなくなるおそれも生じるので、これら幅Fや幅G、挟角αについても、本実施形態の範囲内とされるのが望ましい。
以下、上記実施形態におけるクーラント穴10の前後穴壁面10A、10Bの間隙が外周側に向けて増大する割合について、実施例を挙げて上記範囲が好適であることを実証する。本実施例では、この割合が上記範囲内の160%である実施例に対して、この実施例のクーラント穴10に内接する円形断面の丸穴のクーラント穴を備えた比較例1と、上記割合がそれぞれ上記範囲の下限値を下回る116%とされた比較例2、および上限値を上回る197%とされた比較例3とで、いずれもCAE流体解析により、クーラントの流量と圧力損失とを、丸穴の比較例1を100%として比較した。
なお、この流体解析モデルとしては、切刃9の外径Dが6mmのドリルにおいて、軸線O方向の長さが85mmのクーラント穴10を1つのみモデル化し、クーラントを水として、クーラントの供給圧を3MPa、クーラント穴10の開口部における圧力を大気圧として流量および圧力損失を解析した。ここで、実施例におけるクーラント穴10の幅Fは切刃9の外径Dの18%、挟角αの挟角βに対する割合は70%とした。
また、上記割合がそれぞれ上記範囲の下限値と上限値を越えている比較例2、3については、前後穴壁面10A、10Bの交差稜線部の凹曲面部10Dの両端における間隙(図6における間隙W1)およびクーラント穴10の幅Fを実施例と同じとして、間隙がL=1mmごとに増大する割合をそれぞれ上述のように比較例2では116%、比較例3では197%とした。これら実施例および比較例1〜3について、クーラント穴10の断面形状の外観、実施例および比較例2、3についての前後穴壁面10A、10Bの間隙が外周側に向けて増大する割合、クーラント穴10の断面積、周長、比較例1を100%としたときの断面積比、クーラント流量を次表1に示すととともに、断面積比、クーラント流量、および圧力損失については図7〜図9にも示す。
Figure 0005447129
これらの結果より、比較例1は勿論、前後穴壁面10A、10Bの間隙が増大する割合が上記範囲よりも小さい比較例2においても、クーラントの圧力損失は少ないものの絶対的なクーラント穴10の断面積が小さく、従ってクーラントの流量も少なくなるため、切刃9や被削材の切削部位の十分な冷却、潤滑、および良好な切屑排出を図ることができなくなるおそれがある。一方、逆に前後穴壁面10A、10Bの間隙が増大する割合が上記範囲よりも大きい比較例3においては、クーラント穴10の断面積および流量は実施例と比べても大きいが、図9に示すように実施例と比べて圧力損失の増大分が特に流量の増大分を上回るほど大きく、開口部からの吐出圧が不十分となって効率的なクーラントの供給が損なわれる結果となる。
これら比較例1〜3に対して、実施例では、クーラント穴10の断面積およびクーラント流量は比較例1、2と比べて大きく、その一方で圧力損失は比較例3ほど大きくならないので、効率よくクーラント流量を増大させることができて、切刃9や被削材の切削部位に十分にクーラントを供給することができ、その確実な冷却や潤滑、および切屑の円滑な排出を図ることができる。
1 ドリル本体
3 切刃部
4 切屑排出溝
5 先端逃げ面
6 切屑排出溝4の溝壁面
6A 前溝壁面
6B 後溝壁面
7 ランド部
8 外周壁面
8A マージン部
8C 外周逃げ面
9 切刃
10 クーラント穴
10A 前穴壁面
10B 後穴壁面
10C 外周穴壁面
O ドリル本体1の軸線
T ドリル回転方向
A 前穴壁面10Aと前溝壁面6Aとの間隔
B 後穴壁面10Bと後溝壁面6Bとの間隔
C 外周穴壁面10Cと外周壁面8(外周逃げ面8C)との間隔
D 切刃9の外径
E 軸線Oとクーラント穴10との間隔
F クーラント穴10の軸線Oに対する径方向の幅
G クーラント穴10の周方向の最大幅
W1〜W3 クーラント穴10の前後穴壁面10A、10Bの周方向の間隙
α 軸線Oに直交する断面において、前穴壁面10Aと後穴壁面10Bとがなす挟角
β 軸線Oに直交する断面において、前溝壁面6Aと外周壁面8との交点Pと軸線Oを結ぶ直線Mと、後溝壁面6Bと外周壁面8との交点Qと軸線Oを結ぶ直線Nとがなす挟角

Claims (4)

  1. 軸線回りに回転させられるドリル本体の先端側に形成された切刃部に、この切刃部の先端逃げ面に開口するクーラント穴が穿設されており、このクーラント穴は、上記軸線に直交する断面において、ドリル回転方向前方側に位置する前穴壁面と、ドリル回転方向後方側に位置する後穴壁面と、上記ドリル本体の外周側に位置する外周穴壁面とを備えていて、このうち上記前穴壁面と後穴壁面とは、外周側に向かうに従い互いの周方向の間隙が漸次増大し、しかもこの間隙が増大する割合も外周側に向けて漸次大きくなるように形成されていることを特徴とするクーラント穴付きドリル。
  2. 上記軸線に直交する断面において、上記前穴壁面と後穴壁面とは、上記クーラント穴の内側に凸となる凸曲線状をなしていることを特徴とする請求項1に記載のクーラント穴付きドリル。
  3. 上記軸線に直交する断面において、上記外周穴壁面は、上記クーラント穴の外側に凹となるような凹曲線状をなしていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のクーラント穴付きドリル。
  4. 上記軸線に直交する断面において、上記前穴壁面と後穴壁面との周方向の間隙が増大する割合は、上記軸線に対する径方向に外周側に向けて1mmごとに130%〜190%の範囲内で大きくなるようにされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のクーラント穴付きドリル。
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