JP5434663B2 - シアン含有排水の処理方法および処理装置 - Google Patents

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Description

本発明は、シアン含有排水の処理方法および処理装置に関し、特には、様々な化学形態のシアンを含有する排水を効率的且つ安定的に処理する方法および装置に関するものである。
従来、めっき工場、製錬所、コークス製造工場、化学工場などの産業施設から排出されるシアン含有排水の処理方法としては、アルカリ塩素法や難溶性錯化合物沈殿法などが広く用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
ここで、アルカリ塩素法とは、シアン含有排水に対し、アルカリ性下で次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)等の塩素源を添加して、排水中の遊離シアンや易分解性シアノ錯体(亜鉛、銅、カドミウム等のシアノ錯体)を酸化分解する方法である(例えば、特許文献1参照)。しかし、このアルカリ塩素法では、難分解性シアノ錯体(ニッケル、銀、鉄などのシアノ錯体)を分解することは困難である。そのため、アルカリ塩素法では、遊離シアンや易分解性シアノ錯体以外に難分解性シアノ錯体も含まれているシアン含有排水から十分にシアンを除去することができない。
一方、難溶性錯化合物沈殿法とは、シアノ錯体と重金属塩とを反応させて難溶性塩(難溶性錯化合物)を生成させ、該難溶性塩を凝集沈殿法等で排水から分離除去することにより、排水中のシアンを除去する方法である。そして、難溶性錯化合物沈殿法としては、例えば、シアン含有排水に対し、硫酸銅などの2価の銅塩と、亜硫酸塩などの還元剤とを添加し、2価の銅塩を1価の銅塩に還元して難溶性の銅塩(CuCN、CuAg(CN)等)を生成させ、該銅塩を排水から分離除去する還元銅塩法が知られている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この還元銅塩法では、各種シアノ錯体(易分解性シアノ錯体、難分解性シアノ錯体)および遊離シアンを同時に処理することができるものの、排水中のシアン濃度を十分に低減することができない。
そこで、近年、還元銅塩法とアルカリ塩素法とを組み合わせたシアン含有排水の処理方法が提案されている。具体的には、シアン含有排水に対し、還元銅塩法による処理を行った後にアルカリ塩素法による処理を行うことにより、還元銅塩法による処理後の排水中に残存している反応中間体、金属のシアノ錯体、遊離シアン等をアルカリ塩素法で酸化分解し、処理水中のシアン濃度を十分に低減する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
特開2001−269674号公報 特公平2−48315号公報 特開2008−036608号公報
「新・公害防止の技術と法規2007 水質編」、社団法人産業環境管理協会、2007年2月15日、p.223−240
しかし、還元銅塩法とアルカリ塩素法とを組み合わせた上記従来の処理方法では、前段の還元銅塩法による処理を行う際に、亜硫酸塩などの還元剤を添加し、2価の銅塩を還元して1価の銅塩にする必要があるため、後段のアルカリ塩素法による処理時に、還元剤や1価の銅塩が残存している排水に対して次亜塩素酸ナトリウム等の塩素源を添加することとなる。そのため、還元銅塩法とアルカリ塩素法とを組み合わせた従来の処理方法には、アルカリ塩素法による処理時に、添加した塩素源の一部が排水中に残存している還元剤や1価の銅塩との反応に使用されてしまい、塩素源の使用量が増大して処理コストが増加するという問題があった。
そこで、本発明者らは、シアン含有排水を効率的且つ安定的に処理する方法を提供することを目的として、還元銅塩法による処理のみでは排水中のシアン濃度を十分に低減することができないという問題点に着目し、鋭意研究を行った。
具体的には、本発明者らは、還元銅塩法による処理のみでは排水中のシアン濃度を十分に低減することができない原因を調査するため、次の実験を行った。まず、NaCl(1000mg−NaCl/L)およびNaCO(50mg−NaCO/L)を含む溶液に、図4に示す初期濃度となるようにKCN、[Zn(CN)2−、[Cu(CN)2−、[Ni(CN)2−、[Fe(CN)4−、[Fe(CN)3−を添加した合成排水に対し、硫酸銅(II)水溶液を150mg−Cu/Lとなるように添加すると共に、重亜硫酸ナトリウム水溶液を300mg/Lとなるように添加した後、水酸化ナトリウム水溶液でpHを6に調整して難溶性の沈殿物を析出させた(銅塩処理)。そして、この銅塩処理後の処理水中の全シアン濃度をJIS K 0102に準拠して測定した。その結果を図4に示す。図4に示すように、難分解性シアノ錯体である[Ni(CN)2−、[Fe(CN)4−、[Fe(CN)3−は、難溶性の銅塩として除去され、JIS K 0102に準拠した分析方法の定量下限である0.05mg−CN/Lまで処理水中の濃度が低下しているが、遊離シアン、並びに、易分解性シアノ錯体である[Zn(CN)2−および[Cu(CN)2−は、一部が難溶性の銅塩を形成せずに処理水中に残留していることが明らかとなった。
そこで、本発明者らは、銅塩処理後の遊離シアンと易分解性シアノ錯体の残留について調査すべく、さらに次の実験を行った。まず、NaCl(1000mg−NaCl/L)およびNaCO(50mg−NaCO/L)を含む溶液に、全シアン濃度が20mg−CN/Lとなるように、KCN(遊離シアン)、[Zn(CN)2−(易分解性シアノ錯体)、[Fe(CN)4−(難分解性シアノ錯体)を図5に示す所定の濃度比で添加した合成排水に対し、硫酸銅(II)水溶液を150mg−Cu/Lとなるように添加すると共に、重亜硫酸ナトリウム水溶液を300mg/Lとなるように添加した後、水酸化ナトリウム水溶液でpHを6に調整して難溶性の沈殿物を析出させた(銅塩処理)。そして、この銅塩処理後の処理水中の全シアン濃度をJIS K 0102に準拠して測定した。その結果を図5に示す。図5に示すように、遊離シアンおよび易分解性シアノ錯体の割合が増加するに従い、処理水中の残留シアン濃度が増加することが明らかとなった。
即ち、本発明者らの研究によれば、還元銅塩法では、排水中の難分解性シアノ錯体は安定的に難溶性銅塩を生成して除去されるが、遊離シアンや易分解性シアノ錯体は一部が難溶性銅塩を生成せずに処理水中に残留するため、遊離シアンや易分解性シアノ錯体が含まれているシアン含有排水のシアン濃度を十分に低減することができないことが分かった。そして、本発明者らは、還元銅塩法では遊離シアンや易分解性シアノ錯体の一部が難溶性銅塩を生成せずに処理水中に残留してしまうという知見に基づき、本発明を完成させた。
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のシアン含有排水の処理方法は、遊離シアンおよび易分解性シアノ錯体の少なくとも一方を含むシアン含有排水に対し、難分解性シアノ錯体化剤(ただし、フェントン試薬を除く)を添加して前記遊離シアンおよび易分解性シアノ錯体を難分解性シアノ錯体にする前処理工程と、前記前処理工程を経た、難分解性シアノ錯体を含有するシアン含有排水に対し、2価の銅塩と、該銅塩を1価の銅塩に還元する還元剤とを添加して難溶性の沈殿物を生成する難溶性沈殿物生成工程と、前記難溶性沈殿物生成工程で生成した難溶性の沈殿物と、処理水とを分離する難溶性沈殿物分離工程とを含むことを特徴とする。
また、本発明のシアン含有排水の処理装置は、遊離シアンおよび易分解性シアノ錯体の少なくとも一方を含むシアン含有排水に対し、難分解性シアノ錯体化剤(ただし、フェントン試薬を除く)を添加して前記遊離シアンおよび易分解性シアノ錯体を難分解性シアノ錯体にする前処理手段と、前記前処理手段で生成した難分解性シアノ錯体を含有するシアン含有排水に対し、2価の銅塩と、該銅塩を1価の銅塩に還元する還元剤とを添加して難溶性の沈殿物を生成する難溶性沈殿物生成手段と、前記難溶性沈殿物生成手段で生成した難溶性の沈殿物と、処理水とを分離する難溶性沈殿物分離手段とを備えることを特徴とする。
なお、本発明において、「易分解性シアノ錯体」とは、アルカリ塩素法を用いて酸化分解することができるシアノ錯体を指し、「難分解性シアノ錯体」とは、アルカリ塩素法を用いて酸化分解することができないシアノ錯体を指す。因みに、アルカリ塩素法による酸化分解は、例えば「新公害防止の技術と法規 (社)産業環境管理協会編」の「シアン排水処理」に記載の方法に従い行うことができる。
ここで、本発明のシアン含有排水の処理方法および処理装置では、前記難分解性シアノ錯体化剤が、鉄および鉄化合物よりなる群より選択される1種または2種であることが好ましい。難分解性シアノ錯体化剤として鉄や鉄化合物を用いれば、低コストで、シアン含有排水中の遊離シアンや易分解性シアノ錯体を難分解性シアノ錯体(鉄シアノ錯体)にすることができるからである。
また、本発明のシアン含有排水の処理方法および処理装置では、前記シアン含有排水が、シアン含有ガスの冷却または洗浄で発生する排水であることが好ましい。シアン含有ガスの冷却または洗浄で発生する排水は、遊離シアン、易分解性シアノ錯体、難分解性シアノ錯体などの様々な化学形態のシアンが混在している排水だからである。
本発明のシアン含有排水の処理方法および処理装置によれば、様々な化学形態のシアンを含有する排水を効率的且つ安定的に処理することができる。
本発明に従う代表的なシアン含有排水処理装置の説明図である。 図1に示すシアン含有排水処理装置の後段に設置し得る予備的なシアン含有排水処理装置の説明図である。 比較例のシアン含有排水処理装置の説明図である。 合成排水中の銅塩処理前のシアン濃度と、銅塩処理後の残留シアン濃度との関係を示すグラフである。 合成排水中の遊離シアンおよび易分解性シアノ錯体の割合が、銅塩処理後の残留シアン濃度に与える影響を示すグラフである。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明のシアン含有排水処理装置の一例の説明図である。図1に示すシアン含有排水処理装置10は、遊離シアンおよび易分解性シアノ錯体の少なくとも一方を含むシアン含有排水を処理するためのものであり、被処理水としてのシアン含有排水(原水)を貯留する原水槽1と、原水槽1から流入するシアン含有排水中の遊離シアンおよび易分解性シアノ錯体を難分解性シアノ錯体にする前処理手段としての前処理槽2と、前処理槽2で生成した難分解性シアノ錯体を難溶性の沈殿物(難溶性銅塩)として析出させる難溶性沈殿物生成手段としての難溶性沈殿物生成システム3と、難溶性沈殿物生成システム3で生成した難溶性の沈殿物と処理水とを分離する難溶性沈殿物分離手段としての難溶性沈殿物分離システム4と、処理水を貯留する処理水槽5とを備えている。
ここで、シアン含有排水処理装置10で処理するシアン含有排水としては、アルカリ金属塩等の遊離シアン(CN)と、銅シアノ錯体([Cu(CN)3−、[Cu(CN)2−、[Cu(CN)など)、亜鉛シアノ錯体([Zn(CN)2−)、カドミウムシアノ錯体([Cd(CN)2−)等の易分解性シアノ錯体との少なくとも一方を含む排水が挙げられる。具体的には、シアン含有排水としては、例えば、めっき工場、製錬所、コークス製造工場、化学工場などの産業施設から排出される排水、特にシアン含有ガスを冷却または洗浄した際に発生する排水を挙げることができる。なお、シアン含有排水中の金属シアノ錯体の化学形態等は、例えば米国材料試験協会の規格(ASTM D 6994)に従い分析することができる。また、シアン含有排水中の遊離シアンは、例えばイオンクロマトグラフを用いて分析することができる。なお、シアン含有排水処理装置10で処理するシアン含有排水は、遊離シアンや易分解性シアノ錯体以外に、鉄シアノ錯体([Fe(CN)4−)、ニッケルシアノ錯体([Ni(CN)4−)などの難分解性シアノ錯体を含有していても良い。
原水槽1は、シアン含有排水を一旦貯留することにより、シアン含有排水処理装置10に流入するシアン含有排水(原水)のシアン濃度が経時変化した場合でも、シアン含有排水処理装置10で処理されるシアン含有排水のシアン濃度が大きく変化しないようにするためのものである。そして、原水槽1では、シアン含有排水のシアン濃度が平均化されて、例えば1〜100mg−CN/Lとされる。
前処理槽2は、原水槽1の後段に設けられており、原水槽1から前処理槽2へ流入したシアン含有排水のpHを調整するためのpH調整手段(図示せず)と、シアン含有排水に対して難分解性シアノ錯体化剤を添加するための難分解性シアノ錯体化剤添加手段(図示せず)とを備えている。そして、前処理槽2では、難分解性シアノ錯体化剤の添加により、シアン含有排水中の遊離シアンや易分解性シアノ錯体が、鉄シアノ錯体やニッケルシアノ錯体等の難分解性シアノ錯体となる。
ここで、pH調整手段としては、塩酸や水酸化ナトリウム水溶液等の既知のpH調整剤をシアン含有排水に添加するための薬品ポンプ等を用いることができる。また、難分解性シアノ錯体化剤としては、遊離シアンや易分解性シアノ錯体を難分解性シアノ錯体化する公知の物質、例えば、鉄や鉄化合物、ニッケルやニッケル化合物を用いることができる。より具体的には、難分解性シアノ錯体化剤としては、粒鉄、製鋼ダスト、スラグ等の鉄や、2価の鉄塩(FeSO、FeClなど)、酸化鉄等の鉄化合物、或いは、ニッケルダスト、ニッケル酸化物等を用いることができ、難分解性シアノ錯体化剤添加手段としては、薬品ポンプやホッパー等を用いることができる。
そして、前処理槽2では、難分解性シアノ錯体化剤として例えば鉄や鉄化合物を用いた場合には、遊離シアンや易分解性シアノ錯体と、難分解性シアノ錯体化剤由来の鉄イオンとが、例えば下記反応式(I)〜(VI)のように反応して、鉄シアノ錯体が生成する。
Fe2++6CN → [Fe(CN)4− ・・・(I)
2Fe2++3[Zn(CN)2− → 2[Fe(CN)4−+3Zn2+ ・・・(II)
2Fe2++3[Cu(CN)3− → 2[Fe(CN)4−+3Cu ・・(III)
Fe2++2[Cu(CN)2− → [Fe(CN)4−+2Cu ・・・(IV)
Fe2++3[Cu(CN) → [Fe(CN)4−+3Cu ・・・(V)
2Fe2++3[Cd(CN)2− → 2[Fe(CN)4−+3Cd2+ ・・・(VI)
なお、より低コストで鉄シアノ錯体を生成するという観点からは、難分解性シアノ錯体化剤として製鋼ダストを用いることが好ましい。製鋼ダストは、安価であると共に、表面における反応効率が高い物質であると推察されているからである。また、シアン化水素の発生を防止する観点からは、前処理槽2中のシアン含有排水のpHは8.0以上とすることが好ましく、水酸化鉄の生成による鉄シアノ錯体の生成反応効率の低下を防止する観点からは、前処理槽2中のシアン含有排水のpHは11.0以下とすることが好ましい。更に、難分解性シアノ錯体化剤として2価の鉄塩を用いる場合、取り扱い性の観点からは2価の鉄塩を水溶液として添加することが好ましく、遊離シアンや易分解性シアノ錯体と鉄イオンとの反応を十分に進行させる観点からは、2価の鉄塩を反応当量の2倍以上添加することが好ましい。
また、前処理槽2では、難分解性シアノ錯体化剤として例えばニッケルやニッケル化合物を用いた場合には、遊離シアンや易分解性シアノ錯体と、難分解性シアノ錯体化剤由来のニッケルイオンとが、例えば下記反応式(VII)〜(XII)のように反応して、ニッケルシアノ錯体が生成する。
Ni2++6CN → [Ni(CN)4− ・・・(VII)
2Ni2++3[Zn(CN)2− → 2[Ni(CN)4−+3Zn2+ ・・・(VIII)
2Ni2++3[Cu(CN)3− → 2[Ni(CN)4−+3Cu ・・(IX)
Ni2++2[Cu(CN)2− → [Ni(CN)4−+2Cu ・・・(X)
Ni2++3[Cu(CN) → [Ni(CN)4−+3Cu ・・・(XI)
2Ni2++3[Cd(CN)2− → 2[Ni(CN)4−+3Cd2+ ・・・(XII)
なお、より低コストでニッケルシアノ錯体を生成するという観点からは、難分解性シアノ錯体化剤としてニッケル含有ダストを用いることが好ましい。また、シアン化水素の発生を防止する観点からは、前処理槽2中のシアン含有排水のpHは8.0以上とすることが好ましく、水酸化ニッケルの生成によるニッケルシアノ錯体の生成反応効率の低下を防止する観点からは、前処理槽2中のシアン含有排水のpHは11以下とすることが好ましい。更に、難分解性シアノ錯体化剤として2価のニッケル塩を用いる場合、取り扱い性の観点からは2価のニッケル塩を水溶液として添加することが好ましく、遊離シアンや易分解性シアノ錯体とニッケルイオンとの反応を十分に進行させる観点からは、2価のニッケル塩を反応当量の2倍以上添加することが好ましい。
難溶性沈殿物生成システム3は、前処理槽2の後段に設けられており、第1反応槽31と、第1反応槽31の後段に設けられた第2反応槽32とからなる。ここで、第1反応槽31は、前処理槽2から第1反応槽31へ流入した、難分解性シアノ錯体を含有するシアン含有排水に対して2価の銅塩を添加するための銅塩添加手段(図示せず)と、2価の銅塩を1価の銅塩に還元する還元剤を添加するための還元剤添加手段(図示せず)と、シアン含有排水のpHを調整するためのpH調整手段(図示せず)とを備えている。また、第2反応槽32は、シアン含有排水のpHを調整するためのpH調整手段(図示せず)を備えている。そして、難溶性沈殿物生成システム3では、前処理槽2で生成した易溶性の難分解性シアノ錯体が、難溶性の沈殿物として析出する。なお、難溶性沈殿物生成システム3では、シアン含有排水処理装置10に流入するシアン含有排水(原水)中に当初から難分解性シアノ錯体が含まれていた場合には、該難分解性シアノ錯体も、難溶性の沈殿物として析出する。
ここで、2価の銅塩としては、硫酸銅(CuSO)、塩化銅(CuCl)、硝酸銅(Cu(NO)等を用いることができ(図1では硫酸銅を用いた場合を示す)、銅塩添加手段としては、薬品ポンプやホッパー等を用いることができる。また、還元剤としては、銅塩由来の2価の銅イオンを1価の銅イオンに還元できるもの、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウムなどの亜硫酸塩、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸アンモニウム等の重亜硫酸塩、塩化第一鉄(FeCl)等の2価の鉄塩、ヒドラジン等を用いることができ(図1では重亜硫酸ナトリウムを用いた場合を示す)、還元剤添加手段としては、薬品ポンプやホッパー等を用いることができる。更に、第1反応槽31および第2反応槽32のpH調整手段としては、塩酸や水酸化ナトリウム等の既知のpH調整剤をシアン含有排水に添加するための薬品ポンプ等を用いることができる。
そして、第1反応槽31では、2価の銅塩由来の銅イオンが還元剤により還元されて生じた1価の銅イオンと、前処理槽2で生成した難分解性シアノ錯体やシアン含有排水中に当初から含まれていた難分解性シアノ錯体とが反応して、難溶性の沈殿物が生成する。具体的には、1価の銅イオンと難分解性シアノ錯体とが、下記反応式(XIII)〜(XIV)のように反応して難溶性の銅塩(銅−鉄シアノ複合錯体、銅−ニッケルシアノ複合錯体など)が析出する。
4Cu+[Fe(CN)4− → Cu[Fe(CN)]↓ ・・・(XIII)
4Cu+[Ni(CN)4− → Cu[Ni(CN)]↓ ・・・(XIV)
なお、汚泥発生量の低減および入手容易性の観点からは、還元剤として亜硫酸塩、重亜硫酸塩を用いることが好ましい。また、還元剤の添加量は、反応(沈殿物の析出)を十分に進行させる観点からは、2価の銅イオンを1価に還元するために必要な理論量と、シアン含有排水中の溶存酸素等によって消費される量との合計量以上とすることが好ましい。また、2価の銅塩の添加量は、反応を十分に進行させる観点からは、シアン含有排水中の難分解性シアノ錯体との反応当量以上とすることが好ましく、反応を促進する観点からは、シアン含有排水中の難分解性シアノ錯体の濃度(モル濃度)の2〜5倍とすることが特に好ましい。そして、1価の銅イオンを安定的に生成させて効率的に沈殿物を生成させる観点からは、1価の銅イオンと難分解性シアノ錯体とを反応させる第1反応槽31のpHは2〜9.5とすることが好ましく、7〜9.5とすることが特に好ましい。
また、第2反応槽32では、第1反応槽31で2価の銅塩および還元剤が添加されたシアン含有排水が十分な時間滞留することにより、難溶性の銅塩が十分に析出する。
難溶性沈殿物分離システム4は、難溶性沈殿物生成システム3の後段に設けられており、凝集槽41と、凝集槽41の後段に設けられた沈殿槽42および沈殿槽42から引き抜いた汚泥を貯留する汚泥貯槽43と、沈殿槽42の後段に設けられたろ過原水槽44と、ろ過原水槽44の後段に設けられたろ過器45とからなる。ここで、凝集槽41は、第2反応槽32から凝集槽41へ流入したシアン含有排水に対して凝集剤としてのポリマーを添加するためのポリマー添加手段(図示せず)を備えている。そして、難溶性沈殿物分離システム4では、難溶性沈殿物生成システム3で生成した難溶性の沈殿がシアン含有排水から分離除去されて、低シアン濃度(例えば1mg−CN/L以下)の処理水が得られる。
ここで、凝集槽41で添加するポリマーとしては、カチオン系凝集剤などの既知の高分子凝集剤を用いることができ、ポリマー添加手段としては、薬品ポンプ等を用いることができる。また、ろ過器45としては砂ろ過装置や膜ろ過装置などを用いることができる。なお、凝集槽41では、ポリマーに代えて、アルミ系凝集剤などの既知の無機凝集剤を凝集剤として用いても良い。
そして、難溶性沈殿物分離システム4では、最初に、難溶性沈殿物生成システム3で生成した沈殿物が、凝集槽41でのポリマーの添加により凝集してフロック化する。次に、フロック化した沈殿物が、沈殿槽42で沈降分離される。なお、沈殿槽42の下部に沈降した沈殿物は、引き抜かれて汚泥貯槽43に貯留され、スラッジとして処理される。更に、難溶性沈殿物分離システム4では、沈殿槽42で分離し切れなかった沈殿物が、ろ過器45でろ過される。よって、難溶性沈殿物生成システム3で生成した沈殿物を含むシアン含有排水は、難溶性沈殿物分離システム4で、低シアン濃度の処理水と、沈殿物とに分離される。
処理水槽5は、難溶性沈殿物分離システム4の後段に設けられており、処理水中のシアン濃度を測定・監視するためのシアン濃度測定手段(図示せず)を備えている。ここで、シアン濃度測定手段としては、イオン電極法を用いた自動分析計やフローインジェクション分析法を利用した吸光光度法を用いた自動分析計などを用いることができる。
そして、上述したシアン含有排水処理装置10では、前処理槽2で、シアン含有排水に対して難分解性シアノ錯体化剤を添加し、シアン含有排水中の遊離シアンや易分解性シアノ錯体を難分解性シアノ錯体にしてから(前処理工程)、難溶性沈殿物生成システム3で、難分解性シアノ錯体を含有するシアン含有排水に対して2価の銅塩と還元剤とを添加して、難溶性の沈殿物を生成した後に(難溶性沈殿物生成工程)、難溶性沈殿物分離システム4で沈殿物を分離して処理水を得ているので(難溶性沈殿物分離工程)、2価の銅塩および還元剤の添加のみ、即ち還元銅塩法のみでは十分にシアン濃度が低下し難い、遊離シアンおよび易分解性シアノ錯体の少なくとも一方を含む排水から、十分にシアンを除去することができる。従って、シアン含有排水処理装置10によれば、後段にアルカリ塩素法によるシアン除去工程を設けることなく、様々な化学形態のシアンを含有する排水を効率的且つ安定的に処理することができる。なお、シアン含有排水処理装置10では、上述した反応式(XIII)および(XIV)に示すように、難溶性沈殿物生成工程で、4モルのCuを用いて6モルのCNを処理することができるので、下記反応式(XV)に示すように遊離シアンを還元銅塩法で直接処理した場合や、下記反応式(XVI)に示すように易分解性シアノ錯体を還元銅塩法で直接処理した場合(反応式(XVI)では易分解性シアノ錯体が亜鉛シアノ錯体の場合を示す)に比べて、少量の銅塩でシアンを除去することができる。
Cu+CN → CuCN↓ ・・・(XV)
4Cu+[Zn(CN)2− → 4CuCN↓+Zn2+ ・・・(XVI)
このように、本発明に係るシアン含有排水の処理方法によれば、還元銅塩法のみでは十分に除去することができない排水中の遊離シアンや易分解性シアノ錯体を、前処理工程で難分解性シアノ錯体とした後に、該難分解性シアノ錯体を、難溶性沈殿物生成工程で2価の銅塩と還元剤とを用いた還元銅塩法により難溶性の沈殿物とし、分離除去できるので、難溶性沈殿物生成工程の後にアルカリ塩素法を用いた処理工程を設けることなく、即ち大量の塩素源を使用することなく、シアン含有排水を効率的且つ安定的に処理することができる。
また、本発明に係るシアン含有排水の処理装置によれば、還元銅塩法のみでは十分に除去することができない排水中の遊離シアンや易分解性シアノ錯体を、前処理手段で難分解性シアノ錯体とした後に、該難分解性シアノ錯体を、難溶性沈殿物生成手段で2価の銅塩と還元剤とを用いた還元銅塩法により難溶性の沈殿物とし、分離除去できるので、難溶性沈殿物生成手段の後段にアルカリ塩素法を用いた処理手段を設けることなく、即ち大量の塩素源を使用することなく、シアン含有排水を効率的且つ安定的に処理することができる。
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、本発明のシアン含有排水処理装置は上述した例に限定されることは無く、適宜変更を加えることができる。
また、本発明のシアン含有排水処理装置の後段には、安全性確保の観点から、予備的なシアン含有排水処理装置を設けても良い。具体的には、本発明のシアン含有排水処理装置の後段には、図2に示すような予備的なシアン含有排水処理装置20を設けて、本発明のシアン含有排水処理装置が故障等した場合であっても、シアン濃度が十分に低下していない処理水が河川等へ放流されないようにしても良い。
ここで、予備的なシアン含有排水処理装置20としては、例えば特開2008−36608号公報に記載されているような、塩素(次亜塩素酸ナトリウム水溶液)添加手段、凝集剤(塩鉄)添加手段およびpH調整剤添加手段を備える第3反応槽61、ポリマー添加手段を備える凝集槽62並びに沈殿槽63からなるアルカリ塩素処理システム6と、pH調整剤添加手段を備える中和槽7と、水質監視槽8とを備えるシアン含有排水処理装置を用いることができる。そして、このシアン含有排水処理装置20では、機械故障などにより本発明のシアン含有排水処理装置から排出される処理水のシアン濃度が上昇した場合、例えば図1に示すシアン含有排水処理装置10の処理水槽5中の処理水のシアン濃度が上昇した場合には、第3反応槽61におけるアルカリ塩素法を用いた処理、凝集槽62および沈殿槽63における凝集沈殿処理により、処理水中のシアン濃度を十分に低下させてから、処理水を河川等に放出する。
以下、実施例1により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
(試験例1)
NaCl、NaCOおよびKCNを純水に溶解して、合成排水(組成:1000mg−NaCl/L、50mg−NaCO/L、20mg−CN/L)を調製した。そして、合成排水に対し、表1に示す濃度となるように硫酸鉄(II)水溶液を添加し、pH11で30分間撹拌した(前処理工程)。次に、硫酸銅(II)水溶液を150mg−Cu/Lとなるように添加すると共に、重亜硫酸ナトリウム水溶液を300mg/Lとなるように添加した後、水酸化ナトリウム水溶液でpHを6に調整して難溶性の沈殿物を析出させた(難溶性沈殿物生成工程)。その後、液体高分子凝集剤を用いて生成した沈殿物を分離除去し(難溶性沈殿物分離工程)、処理水中の全シアン濃度をJIS K 0102に準拠して測定した。処理水中の全シアン濃度を表1に示す。
(試験例2)
硫酸鉄(II)水溶液を表1に示す濃度となるように添加した以外は試験例1と同様にして合成排水を処理し、処理水中の全シアン濃度を試験例1と同様にして測定した。処理水中の全シアン濃度を表1に示す。
(試験例3)
前処理工程を実施しなかった、即ち、硫酸鉄(II)水溶液を添加しなかった以外は試験例1と同様にして合成排水を処理し、処理水中の全シアン濃度を試験例1と同様にして測定した。処理水中の全シアン濃度を表1に示す。
(試験例4)
シアンガスの洗浄時に発生したシアン含有排水(遊離シアン濃度:6mg−CN/L、易分解性シアノ錯体濃度:2mg−CN/L、難分解性シアノ錯体濃度:25mg−CN/L、遊離シアンはイオンクロマトグラフ(ダイオネクス製)で分析、易分解性シアノ錯体および難分解性シアノ錯体はASTM D 6994に従い分析)に対し、表1に示す濃度となるように硫酸鉄(II)水溶液を添加し、pH11で30分間撹拌した(前処理工程)。次に、硫酸銅(II)水溶液を150mg−Cu/Lとなるように添加すると共に、重亜硫酸ナトリウム水溶液を300mg/Lとなるように添加した後、水酸化ナトリウム水溶液でpHを6に調整して難溶性の沈殿物を析出させた(難溶性沈殿物生成工程)。その後、液体高分子凝集剤を用いて生成した沈殿物を分離除去し(難溶性沈殿物分離工程)、処理水中の全シアン濃度をJIS K 0102に準拠して測定した。処理水中の全シアン濃度を表1に示す。
(試験例5)
硫酸鉄(II)水溶液を表1に示す濃度となるように添加した以外は試験例4と同様にしてシアン含有排水を処理し、処理水中の全シアン濃度を試験例4と同様にして測定した。処理水中の全シアン濃度を表1に示す。
(試験例6)
硫酸鉄(II)水溶液の代わりに鉄粉(Fe>99質量%)を表1に示す濃度となるように添加した以外は、試験例4と同様にしてシアン含有排水を処理し、処理水中の全シアン濃度を試験例4と同様にして測定した。処理水中の全シアン濃度を表1に示す。
(試験例7)
硫酸鉄(II)水溶液の代わりに製鋼ダスト(転炉ダスト、T−Fe:56質量%、FeO:5.6質量%、SiO:1.2質量%、CaO:1.8質量%を含有)を表1に示す濃度となるように添加した以外は、試験例4と同様にしてシアン含有排水を処理し、処理水中の全シアン濃度を試験例4と同様にして測定した。処理水中の全シアン濃度を表1に示す。
(試験例8)
前処理工程を実施しなかった以外は試験例4と同様にしてシアン含有排水を処理し、処理水中の全シアン濃度を試験例4と同様にして測定した。処理水中の全シアン濃度を表1に示す。
Figure 0005434663
表1の試験例1〜2、4〜7および試験例3、8より、本発明のシアン含有排水処理方法によれば、シアン含有排水を還元銅塩法のみで処理した場合と比較して、低濃度の処理水を安定的に得ることができることが分かる。
以下、実施例2により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
(試験例9)
図1に示すシアン含有排水処理装置10を用いて、シアンガスの洗浄時に発生したシアン含有排水を処理した。そして、360mのシアン含有排水の処理に要した費用(処理コスト)を、使用薬剤である硫酸銅、重亜硫酸ナトリウム、難分解性シアノ錯体化剤の費用から算出し、試験例10で要した費用を基準(100)として指数評価した。なお、難分解性シアノ錯体化剤としては製鋼ダストを用いた。結果を表2に示す。ここで、表2中の指数値は小さいほど処理コストが低いことを意味する。
(試験例10)
図1に示すシアン含有排水処理装置10から前処理槽2を除去したシアン含有排水処理装置の後段に図2に示すアルカリ塩素法を用いたシアン含有排水処理装置20を設けたシアン含有排水処理装置30(図3参照)を用いて、シアンガスの洗浄時に発生したシアン含有排水を処理した。そして、360mのシアン含有排水の処理に要した費用を、使用薬剤である硫酸銅、重亜硫酸ナトリウム、塩化第二鉄、次亜塩素酸ナトリウムの費用から算出し、評価した。結果を表2に示す。
Figure 0005434663
表2の試験例9および試験例10より、本発明のシアン含有排水処理装置によれば、銅塩処理後にアルカリ塩素法による処理を行う従来のシアン含有排水処理装置に比べて、低コストで効率的にシアン含有排水を処理し得ることが分かる。
本発明のシアン含有排水の処理方法および処理装置によれば、様々な化学形態のシアンを含有する排水を効率的且つ安定的に処理することができる。
1 原水槽
2 前処理槽
3 難溶性沈殿物生成システム
4 難溶性沈殿物分離システム
5 処理水槽
6 アルカリ塩素処理システム
7 中和槽
8 水質監視槽
10 シアン含有排水処理装置
20 シアン含有排水処理装置
30 シアン含有排水処理装置
31 第1反応槽
32 第2反応槽
41 凝集槽
42 沈殿槽
43 汚泥貯槽
44 ろ過原水槽
45 ろ過器
61 第3反応槽
62 凝集槽
63 沈殿槽

Claims (6)

  1. 遊離シアンおよび易分解性シアノ錯体の少なくとも一方を含むシアン含有排水に対し、難分解性シアノ錯体化剤(ただし、フェントン試薬を除く)を添加して前記遊離シアンおよび易分解性シアノ錯体を難分解性シアノ錯体にする前処理工程と、
    前記前処理工程を経た、難分解性シアノ錯体を含有するシアン含有排水に対し、2価の銅塩と、該銅塩を1価の銅塩に還元する還元剤とを添加して難溶性の沈殿物を生成する難溶性沈殿物生成工程と、
    前記難溶性沈殿物生成工程で生成した難溶性の沈殿物と、処理水とを分離する難溶性沈殿物分離工程と、
    を含むことを特徴とする、シアン含有排水の処理方法。
  2. 前記難分解性シアノ錯体化剤が、鉄および鉄化合物よりなる群より選択される1種または2種であることを特徴とする、請求項1に記載のシアン含有排水の処理方法。
  3. 前記シアン含有排水が、シアン含有ガスの冷却または洗浄で発生する排水であることを特徴とする、請求項1または2に記載のシアン含有排水の処理方法。
  4. 遊離シアンおよび易分解性シアノ錯体の少なくとも一方を含むシアン含有排水に対し、難分解性シアノ錯体化剤(ただし、フェントン試薬を除く)を添加して前記遊離シアンおよび易分解性シアノ錯体を難分解性シアノ錯体にする前処理手段と、
    前記前処理手段で生成した難分解性シアノ錯体を含有するシアン含有排水に対し、2価の銅塩と、該銅塩を1価の銅塩に還元する還元剤とを添加して難溶性の沈殿物を生成する難溶性沈殿物生成手段と、
    前記難溶性沈殿物生成手段で生成した難溶性の沈殿物と、処理水とを分離する難溶性沈殿物分離手段と、
    を備えることを特徴とする、シアン含有排水の処理装置。
  5. 前記難分解性シアノ錯体化剤が、鉄および鉄化合物よりなる群より選択される1種または2種であることを特徴とする、請求項4に記載のシアン含有排水の処理装置。
  6. 前記シアン含有排水が、シアン含有ガスの冷却または洗浄で発生する排水であることを特徴とする、請求項4または5に記載のシアン含有排水の処理装置。
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