以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、図において各構成要素は本発明が理解できる程度の形状、大きさおよび配置関係を概略的に示したものであり、実寸とは異なっている。
図1は、本発明の一実施の形態としての負極10の断面構成を表したものである。負極10は、例えば負極集電体1にケイ素(Si)などの負極活物質を含む負極活物質層2が設けられた構造を有する。負極活物質層2は、負極集電体1の両面に形成されていてもよいし、片面のみに形成されていてもよい。
負極集電体1は、基材1Aにおける負極活物質層2が形成される側の表面に、粒子状の突起部1Bが設けられたものである。すなわち、負極集電体1の表面は凹凸形状となっている。この突起部1Bによる優れたアンカー効果によって、負極集電体1と負極活物質層2との密着性が向上しており、充放電に伴う負極活物質の膨張および収縮による負極活物質層2の脱落,剥離および微細化が抑制されるようになっている。
基材1Aは、良好な機械的強度および電気化学的安定性を有し、かつ、導電率が高い銅(Cu)を主成分とする金属箔(電解銅箔)により構成されている。銅は、高い導電率を有し、かつ、電極反応物質として一般的に用いられるリチウムと金属間化合物を形成しない金属元素であることから、基材1Aとして好ましい物質である。基材1Aを構成する電解銅箔は、複数の結晶子を含んでおり、その平均径が0.01μm以上5μm以下となっている。さらに、この電解銅箔には、炭素(C)および硫黄(S)が、それぞれ100ppm以下の含有率で含まれている。炭素(C)および硫黄(S)は、例えば銅の結晶子同士の隙間に粒子として存在する。
基材1Aの厚みは、例えば25μm以下とするとよい。あまりに厚いと、充放電時における負極活物質層2の膨張収縮に伴い、負極集電体1と負極活物質層2との間で発生する応力が大きくなってしまうからである。また、基材1Aの厚みは、8μm以上であるとよい。あまりに薄いと負極活物質層2を機械的に支える能力が低下してしまい、充放電時に折れ曲がり(皺)が生じやすくなるからである。なお、基材1Aは、単層により構成してもよいが、複数層により構成してもよい。基材1Aの引張強度は、例えば400N/mm2 以上であるとよい。負極集電体1と負極活物質層2との密着性および集電性が、より向上するからである。さらに、基材1Aの体積抵抗率は、2.0μΩ・cm以上3.0μΩ・cm以下であるとよい。2.0μΩ・cmを下回ると、十分な引張強度が得られにくくなり、3.0μΩ・cmを上回ると十分な放熱性が得られにくくなるからである。
また、基材1Aにおける複数の結晶子のうち、以下の条件式(1)および条件式(2)を満足するものが基材1Aの90体積%以上を占めることが好ましい。
0<f<0.5 ……(1)
f=(a−b)/a ……(2)
但し、
f:扁平率
a:結晶子の最大径
b:結晶子の最小径
さらに、条件式(3)を満足する結晶子(すなわち、扁平率が極めて低い結晶子)が基材1Aの90体積%以上を占めるようにすると、より高い引張強度が得られるので特に好ましい。
0<f≦0.1 ……(3)
なお、より高い引張強度を得るため、結晶子は、その最大径方向が基材1Aの表面と直交する方向以外となるように配向しているとよい。結晶子の配向については、基材1Aを電解析出法によって形成する際、めっき浴に通電する電流密度の大きさを調整することで制御することができる。
突起部1Bは、銅などの金属微粒子であり、例えば電解析出法により析出されたものである。あるいは、焼結により基材1Aの表面に固着されたものであってもよい。突起部1Bは、上述したようにアンカー効果によって負極集電体1と負極活物質層2との密着性を高めると共に、充放電に伴って負極活物質層2に発生する亀裂を多方向に分散させて小さくするものである。突起部1Bの形状は、球状あるいは角状など、どのような形状でもよいが、突起部1Bの平均径は、例えば0.5μm以上5.0μm以下であることが望ましい。また、基材1Aの表面に突起部1Bが複数存在することで、負極集電体1の表面粗さが十点平均粗さRz値で3.2μm以上5.2μm以下となっているとよい。このような条件であれば、負極集電体1と負極活物質層2との密着性を十分に高めつつ、負極活物質層2に発生する内部応力を効果的に緩和することができるからである。
なお、負極集電体1と負極活物質層2との間に、基材1Aおよび突起部1Bを覆うめっき膜(図示せず)を設けるようにしてもよい。このめっき膜は、負極活物質層2と合金化することが可能な元素を含むことが好ましい。負極集電体1と負極活物質層2との合金化が促進され、密着性がより向上するからである。特に、例えばコバルト(Co),鉄(Fe)またはニッケル(Ni)の単体および化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含む金属などの、銅よりも機械的強度の高いものであることが好ましい。なお、めっき膜の表面には酸化被膜が設けられていてもよい。
負極活物質層2は、負極活物質として電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。この負極活物質層2は、負極集電体1との界面の少なくとも一部において負極集電体1と合金化していることが好ましい。具体的には、界面において負極集電体1の構成元素が負極活物質層2に、または負極活物質の構成元素が負極集電体1に、またはそれらが互いに拡散していることが好ましい。すなわち、負極活物質層2は、負極集電体1の突起部1B(または図示しないめっき膜)との界面の少なくとも一部において合金化していることが好ましい。充放電時における負極活物質層2の膨張および収縮に起因する破壊が抑制されると共に、負極集電体1と負極活物質層2との間の電子伝導性が向上するからである。この合金化は、負極活物質層2を後述する気相法,液相法あるいは焼成法により形成する際に同時に起こることが多いが、さらに熱処理が施されることにより起こったものでもよい。なお、本明細書では、上述した元素の拡散も合金化の一形態に含める。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料が挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。このような負極材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。
なお、本発明における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。また、「合金」は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
上記した金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種が好ましく、ケイ素がより好ましい。リチウムを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
ケイ素の単体を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体を主体として有する材料が挙げられる。この負極材料を含む負極活物質層2は、例えば、ケイ素単体層の間にケイ素以外の第2の構成元素と酸素とが存在する構造を有している。この負極活物質層2におけるケイ素および酸素の合計の含有量は、50質量%以上であるのが好ましく、特にケイ素単体の含有量が50質量%以上であるのが好ましい。ケイ素以外の第2の構成元素としては、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛(Zn)、インジウム、銀、マグネシウム、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、ビスマスあるいはアンチモン(Sb)などが挙げられる。ケイ素の単体を主体として有する材料を含む負極活物質層2は、例えば、ケイ素と他の構成元素とを共蒸着することにより形成可能である。
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。ケイ素の化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素を有するものが挙げられ、ケイ素に加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。ケイ素の合金あるいは化合物の一例としては、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 N4 、Si2 N2 O、SiOv (0<v≦2)あるいはLiSiOなどが挙げられる。
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。スズの化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素を有するものが挙げられ、スズに加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。スズの合金あるいは化合物の一例としては、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnOあるいはMg2 Snなどが挙げられる。
特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、それに加えて第2および第3の構成元素を有するものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種である。第2および第3の構成元素を有することにより、負極が二次電池などの電気化学デバイスに用いられた場合にサイクル特性が向上するからである。
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として有し、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を有していてもよい。この他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上を有していてもよい。より高い効果が得られるからである。
なお、SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性あるいは非晶質な相であるのが好ましい。この相は、リチウムと反応可能な反応相であり、これによって優れたサイクル特性が得られるようになっている。この相のX線回折によって得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムがより円滑に吸蔵および放出され、しかも電解液を備えた二次電池などの電気化学デバイスに負極が用いられた場合に、電解液との反応性が低減されるからである。
X線回折によって得られた回折ピークがリチウムと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較することによって容易に判断することができる。例えば、リチウムとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性あるいは非晶質な反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。この低結晶性あるいは非晶質な反応相は、例えば、上記した各構成元素を含んでおり、主に、炭素によって低結晶化あるいは非晶質化しているものと考えられる。
なお、SnCoC含有材料は、低結晶性あるいは非晶質な相に加えて、各構成元素の単体あるいは一部を含む相を有している場合もある。
特に、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合しているのが好ましい。スズなどの凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray hotoele
ctron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSは、軟X線(市販の装置ではAl−Kα線か、Mg−Kα線を用いる)を試料表面に照射し、試料表面から飛び出してくる光電子の運動エネルギーを測定することによって、試料表面から数nmの領域の元素組成、および元素の結合状態を調べる方法である。
元素の内殻軌道電子の束縛エネルギーは、第1近似的には、元素上の電荷密度と相関して変化する。例えば、炭素元素の電荷密度が近傍に存在する元素との相互作用によって減少した場合には、2p電子などの外殻電子が減少しているので、炭素元素の1s電子は殻から強い束縛力を受けることになる。すなわち、元素の電荷密度が減少すると、束縛エネルギーは高くなる。XPSでは、束縛エネルギーが高くなると、高いエネルギー領域にピークはシフトするようになっている。
XPSにおいて、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば炭素よりも陽性な元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合している場合には、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる。
なお、XPS測定を行う場合には、表面が表面汚染炭素で覆われている際に、XPS装置に付属のアルゴンイオン銃で表面を軽くスパッタするのが好ましい。また、測定対象のSnCoC含有材料を有する負極が電解液を備えた二次電池などの電気化学デバイスの中に存在する場合には、電気化学デバイスを解体して負極を取り出したのち、炭酸ジメチルなどの揮発性溶媒で洗浄するとよい。負極表面に存在する揮発性の低い溶媒と電解質塩とを除去するためである。これらのサンプリングは、不活性雰囲気下で行うのが好ましい。
また、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸の補正に、例えばC1sのピークを用いる。通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。なお、XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
このSnCoC含有材料は、例えば、各構成元素の原料を混合した混合物を電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解させたのち、凝固させる方法によって形成可能である。また、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法や、各種ロール法や、メカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法などを用いてもよい。中でも、メカノケミカル反応を利用した方法が好ましい。SnCoC含有材料が低結晶性あるいは非晶質な構造になるからである。メカノケミカル反応を利用した方法では、例えば、遊星ボールミルやアトライタなどの製造装置を用いることができる。
原料には、各構成元素の単体を混合して用いてもよいが、炭素以外の構成元素の一部については合金を用いるのが好ましい。このような合金に炭素を加えてメカニカルアロイング法を利用した方法によって合成することにより、低結晶性あるいは非晶質な構造が得られ、反応時間も短縮されるからである。なお、原料の形態は、粉体であってもよいし、塊状であってもよい。
このSnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄および炭素を構成元素として有するSnCoFeC含有材料も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、鉄の含有量が0.3質量%以上5.9重量%以下、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるのが好ましい。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が11.9質量%以上29.7質量%以下、スズとコバルトと鉄との合計に対するコバルトと鉄との合計の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))が26.4質量%以上48.5質量%以下、コバルトと鉄との合計に対するコバルトの割合(Co/(Co+Fe))が9.9質量%以上79.5質量%以下であるのが好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の結晶性、元素の結合状態の測定方法、および形成方法などについては、上記したSnCoC含有材料と同様である。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料として、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料を用いた負極活物質層2は、例えば、気相法、液相法、溶射法、塗布法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて形成される。気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(Chemical Vapor Deposition :CVD)法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電解鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。塗布法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合したのち、溶剤に分散させて塗布する方法である。焼成法とは、例えば、塗布法によって塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
この負極10は、例えば、以下のようにして製造される。
まず、基材1Aとして、以下のようにして電解銅箔を形成する。詳細には、所定のめっき浴を入れた容器内に、アノードとしてのステンレス鋼板とカソードとしての銅板とを入れ、めっき浴を所定温度に保持しつつ所定の電流密度で所定時間通電することで、銅板の表面に所定の厚さの電解銅箔を析出させる。めっき浴としては、例えば硫酸銅5水和物(CuSO4 ・5H2 O)と、硫酸と、塩化銅と、一般的に添加剤として用いられる有機化合物(例えばポリエチレングリコール、3−3’−ジチオビス(1−プロパンスルホン酸)ナトリウムなど)とを含むものを用いる。ここで、めっき浴の組成比を調整し、塩化物イオンの濃度を高めると結晶子の寸法を大きくすることができ、塩化物イオンの濃度を低くすると結晶子の寸法を小さくすることができる。また、結晶子の配向については、前述したようにめっき浴に通電する電流密度の大きさを調整することで制御することができる。続いて、基材1Aの表面に例えば気相法あるいは液相法(例えば電解析出法)により粒子状の突起部1Bを形成する。または、金属微粒子からなる粉末を所定の溶媒に溶解させてスラリーを作製し、そのスラリーを基材1Aに塗布したのち焼結させることにより、基材1Aの表面に粒子状の突起部1Bを設ける。その際、金属微粒子としては、真球形のものに限らず、岩状,ブロック状あるいは他の形状のものを用いてもよい。また、これらの方法によって突起部1Bを形成したのちに、さらに真空雰囲気下または非酸化性雰囲気下で熱処理を行うことにより、基材1Aと突起部1Bとの界面における合金化を促進させるようにしてもよい。このような突起部1Bの形成によって、基材1Aの表面には凹凸形状が現れる。こののち、その凹凸形状を損なわないように、めっき処理により突起部1Bと基材1Aとを繋ぐようにめっき膜を形成してもよい。このめっき処理は、いわゆる被せめっきと呼ばれるものであり、粒子状ではなく緻密なめっき膜を形成する処理である。この際、めっき膜は、基材1Aの表面と突起部1Bの周囲とを全面的に覆うようにすることが望ましいが、基材1Aの表面の一部と突起部1Bの周囲の一部とに亘って設けるようにしてもよい。以上により、負極集電体1を得る。
負極集電体1を作製したのち、気相法または液相法により、上述した負極材料を含む負極活物質を負極集電体1に堆積させることにより負極活物質層2を形成する。また、粒子状の負極活物質を含む前駆層を負極集電体1に形成したのち、これを焼成する焼成法により負極活物質層2を形成してもよいし、気相法,液相法および焼成法のうちの2つまたは3つの方法を組み合わせて負極活物質層2を形成するようにしてもよい。このように気相法,液相法および焼成法からなる群のうちの少なくとも1つの方法により負極活物質層2を形成することで、負極活物質層2が負極集電体1との界面の少なくとも一部において合金化したものとなる。なお、負極集電体1と負極活物質層2との界面をより合金化させるために、さらに真空雰囲気下または非酸化性雰囲気下で熱処理を行うことが好ましい。
なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法を用いることができ、具体的には、真空蒸着法,スパッタ法,イオンプレーティング法,レーザーアブレーション法,熱CVD(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長)法あるいはプラズマCVD法等が利用可能である。液相法としては電解鍍金あるいは無電解鍍金等の公知の手法が利用可能である。焼結法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼結法,反応焼結法あるいはホットプレス焼結法が利用可能である。以上により、負極10が完成する。
本実施の形態の負極集電体1によれば、基材1Aとして、所定量の炭素および硫黄を含むとともに、0.01μm以上5μm以下の平均径を有する結晶子を含む電解銅箔を用いるようにしたので、より低い体積抵抗率と、より高い引張強度とが得られる。よって、この負極集電体1Aを備えた負極10では、充放電時における負極活物質層の膨張および収縮に伴う負極集電体の伸びや歪みが生じにくく、負極集電体1と負極活物質層2との密着性および集電性が良好に維持される。また、負極集電体1の放熱性が高いので、充放電時の負極10の温度上昇が抑制される。
さらに、この負極10では、負極集電体1において基材1Aの表面に銅からなる突起部1Bを設けるようにしたので、負極集電体1と負極活物質層2との接触面積が増加し、相互の密着性がより向上する。そのうえ、膨張収縮の際に生じる負極活物質層2の内部応力が突起部1Bによって分散され、負極活物質層2に亀裂が生じにくくなる。さらに、突起部1Bを、基材1Aと共に銅以外の金属からなるめっき膜によって覆うようにすれば、突起部1Bが基材1Aから剥離しにくくなる。そのため、負極10では、負極集電体1と負極活物質層2との密着性および集電性をより向上させることができる。
したがって、この負極10は、二次電池などの電気化学デバイスに用いた場合、優れたサイクル特性と、高い安全性との確保に寄与することができる。
次に、上記した負極の使用例について説明する。ここで、電気化学デバイスの一例として二次電池を例に挙げると、負極は以下のように用いられる。
(第1の二次電池)
図2は第1の二次電池の断面構成を表している。この第1の二次電池は、いわゆるコイン型といわれるものであり、外装カップ55に収容された負極50と、外装缶54内に収容された正極57とが、電解液が含浸されたセパレータ53を介して積層されたものである。外装カップ55および外装缶54の周縁部は絶縁性のガスケット56を介してかしめることにより密閉されている。外装カップ55および外装缶54は、例えば、ステンレスあるいはアルミニウム(Al)などの金属によりそれぞれ構成されている。
正極57は、正極集電体57Aの一面に正極活物質層57Bが設けられたものである。正極集電体57Aは、例えば、アルミニウム,ニッケルあるいはステンレスなどにより構成されている。なお、正極活物質層57Bは、正極活物質を含んでおり、必要に応じて結着剤や導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
正極活物質は、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。この正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、あるいはリチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物が挙げられ、特に、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、二次電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni(1-z) Coz O2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw O2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 O4 )などが挙げられる。中でも、コバルトを含む複合酸化物が好ましい。高い容量が得られると共に優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe(1-u) Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。
この他、正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化チタンあるいは二硫化モリブデンなどの二硫化物や、セレン化ニオブなどのカルコゲン化物や、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
負極50は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体51の、正極活物質層57Bと対向する側の面に負極活物質層52が設けられたものである。負極集電体51および負極活物質層52の構成は、それぞれ上記した負極10における負極集電体1および負極活物質層2の構成と同様である。すなわち、負極集電体51は、基材51Aの表面に突起部51Bが複数設けられたものである。基材51Aおよび突起部51Bを覆うように銅以外の金属からなるめっき膜(図示せず)を設けるようにしてもよい。この負極50では、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量が正極57の充電容量よりも大きくなっているのが好ましい。満充電時においても、負極50にリチウムがデンドライトとなって析出する可能性が低くなるからである。
セパレータ53は、正極57と負極50とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡(ショート)を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ53は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などによって構成されており、これらの2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は、ショート防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による二次電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特に、ポリエチレンは、100℃以上160℃以下でシャットダウン効果を得ることができると共に、電気化学的安定性が優れているので好ましい。また、ポリプロピレンも好ましく、他にも化学的安定性を備えた樹脂であれば、ポリエチレンあるいはポリプロピレンと共重合させたものや、ブレンド化したものであってもよい。
このセパレータ53には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒のいずれか1種あるいは2種以上を含有している。この非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチルあるいはジメチルスルホキシドなどが挙げられる。中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルからなる群のうちの少なくとも1種が好ましい。優れた容量特性、サイクル特性および保存特性が得られるからである。この場合には、特に、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば、比誘電率ε≧30)と炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば、粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するため、より高い効果が得られるからである。
この溶媒は、化1〜化3で表される不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルを含有しているのが好ましい。高いサイクル特性が得られるからである。これらは単独でも良いし、複数種が混合されてもよい。
(R11およびR12は水素基あるいはアルキル基である。)
(R13〜R16は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
化1に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン系化合物である。この炭酸ビニレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸メチルビニレン(4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸エチルビニレン(4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4,5−ジエチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4−フルオロ−1,3−ジオキソール−2−オン、あるいは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソール−2−オンなどが挙げられ、中でも炭酸ビニレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
化2に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニルエチレン系化合物である。炭酸ビニルエチレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、4−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−n−プロピル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、中でも炭酸ビニルエチレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。もちろん、R13〜R16としては、全てがビニル基でもよいし、全てがアリル基でもよいし、ビニル基とアリル基とが混在していてもよい。
化3に示した不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸メチレンエチレン系化合物である。炭酸メチレンエチレン系化合物としては、4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジメチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,4−ジエチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。この炭酸メチレンエチレン系化合物としては、1つのメチレン基を有するもの(化3に示した化合物)の他、2つのメチレン基を有するものであってもよい。
なお、不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステルとしては、化1〜化3に示したものの他、ベンゼン環を有する炭酸カテコール(カテコールカーボネート)などであってもよい。
溶媒中における上記した不飽和結合を有する環状炭酸エステルの含有量は、0.01重量%以上10重量%以下であるのが好ましい。十分な効果が得られるからである。
また、溶媒は、化4で表されるハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび化5で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。負極50の表面に安定な保護膜が形成されて電解液の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。
(R21〜R26は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
(R27〜R30は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
なお、化4中のR21〜R26は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、化5中のR27〜R30についても同様である。ハロゲンの種類は、特に限定されないが、例えば、フッ素、塩素および臭素からなる群のうちの少なくとも1種が挙げられ、中でも、フッ素が好ましい。高い効果が得られるからである。もちろん、他のハロゲンであってもよい。
ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上であってもよい。保護膜を形成する能力が高くなり、より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
化4に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
化5に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルとしては、例えば、化6および化7で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化6に示した(1)の4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)のテトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4−フルオロ−5−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)のテトラクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4,5−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(10)の4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(11)の4−メチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(12)の4−エチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。また、化7に示した(1)の4−トリフルオロメチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−トリフルオロメチル−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4−フルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)の4,4−ジフルオロ−5−(1,1−ジフルオロエチル)−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4,5−ジクロロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4−エチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)の4−エチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4−エチル−4,5,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンがより好ましい。特に、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)や酸無水物を含有しているのが好ましい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。
スルトンとしては、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどが挙げられ、中でも、プロペンスルトンが好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸あるいは無水マレイン酸などのカルボン酸無水物や、無水エタンジスルホン酸あるいは無水プロパンジスルホン酸などのジスルホン酸無水物や、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸あるいは無水スルホ酪酸などのカルボン酸とスルホン酸との無水物などが挙げられ、中でも、無水コハク酸あるいは無水スルホ安息香酸が好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類あるいは2種類以上を含有している。以下で説明する一連の電解質塩は、任意に組み合わせてもよい。
リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 H5 )4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)、あるいは臭化リチウム(LiBr)などが挙げられる。
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
この電解質塩は、化8〜化10で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、化8中のR33は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、化9中のR41〜R43および化10中のR51およびR52についても同様である。
(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウムである。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−OC−R32−CO−、−OC−C(R33)
2 −あるいは−OC−CO−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−OC−(C(R41)
2 )
b4−CO−、−(R43)
2 C−(C(R42)
2 )
c4−CO−、−(R43)
2 C−(C(R42)
2 )
c4−C(R43)
2 −、−(R43)
2 C−(C(R42)
2 )
c4−SO
2 −、−O
2 S−(C(R42)
2 )
d4−SO
2 −あるいは−OC−(C(R42)
2 )
d4−SO
2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−OC−(C(R51)
2 )
d5−CO−、−(R52)
2 C−(C(R51)
2 )
d5−CO−、−(R52)
2 C−(C(R51)
2 )
d5−C(R52)
2 −、−(R52)
2 C−(C(R51)
2 )
d5−SO
2 −、−O
2 S−(C(R51)
2 )
e5−SO
2 −あるいは−OC−(C(R51)
2 )
e5−SO
2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
なお、長周期型周期表における1族元素とは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウムである。2族元素とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムである。13族元素とは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびタリウムである。14族元素とは、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズおよび鉛である。15族元素とは、窒素、リン、ヒ素、アンチモンおよびビスマスである。
化8に示した化合物としては、例えば、化11の(1)〜(6)で表される化合物などが挙げられる。化9に示した化合物としては、例えば、化12の(1)〜(8)で表される化合物などが挙げられる。化10に示した化合物としては、例えば、化13で表される化合物などが挙げられる。なお、化8〜化10に示した構造を有する化合物であれば、化11〜化13に示した化合物に限定されないことは言うまでもない。
また、電解質塩は、化14〜化16で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、化14中のmおよびnは、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、化16中のp、qおよびrについても同様である。
(R61は炭素数が2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
化14に示した鎖状の化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 F5 SO2 )2 )、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 F5 SO2 ))、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 F7 SO2 ))、あるいは(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 F9 SO2 ))などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
化15に示した環状の化合物としては、例えば、化17で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化17に示した(1)の1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウム、(2)の1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム、(3)の1,3−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウム、(4)の1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウムが好ましい。高い効果が得られるからである。
化16に示した鎖状の化合物としては、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )などが挙げられる。
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であるのが好ましい。この範囲外では、イオン伝導性が極端に低下する可能性があるからである。
この第1の二次電池は、例えば、以下の手順によって製造される。
まず、正極57を作製する。最初に、正極活物質と、結着剤と、導電剤とを混合して正極合剤を作製したのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどによって正極集電体57Aの一面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。さらに、必要に応じて加熱しながらロールプレス機などによって塗膜を圧縮成型して正極活物質層57Bを形成する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。最後に、正極活物質層57Bが形成された正極集電体57Aを所定の直径のペレットとなるように打ち抜くことで正極57が得られる。
また、上記した負極10の作製手順と同様の手順により、負極50を作製する。具体的には、まず、基材51Aの表面に突起部51Bを形成し、必要に応じてめっき膜で覆うことにより負極集電体51を作製する。そののち、負極集電体51の突起部51Bが設けられた面に負極活物質層52を形成し、所定の直径のペレットとなるように打ち抜くようにする。
続いて、正極57、負極50、およびセパレータ53を、正極活物質層57Bと負極活物質層52とがセパレータ53を介して対向するように積層したのち、外装缶54に収容した。そののち、電解液を注入し、ガスケット56を介して外装カップ55を被せてかしめることにより、コイン型を有する第1の二次電池が完成する。
この第1の二次電池では、正極57と負極50との間でリチウムイオンが吸蔵および放出される。すなわち、充電を行うと、例えば、正極57からリチウムイオンが放出され、セパレータ53に含浸された電解液を介して負極50に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極50からリチウムイオンが放出され、セパレータ53に含浸された電解液を介して正極57に吸蔵される。
このコイン型の二次電池によれば、負極50が上記した負極10と同様の構成を有しているので、負極集電体51と負極活物質層52との密着性および集電性を向上させることができ、優れたサイクル特性を実現することができる。
特に、電解液の溶媒が、化1に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび化2に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、化5〜化7に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、スルトンや、酸無水物を含有していれば、より高い効果を得ることができる。
また、電解液の電解質塩が、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種や、化8〜化10に示した化合物からなる群のうちの少なくとも1種や、化14〜化16に示した化合物からなる群のうちの少なくも1種を含有していれば、より高い効果を得ることができる。
この二次電池に関する上記以外の効果は、上記した負極10と同様である。
(第2の二次電池)
図3および図4は第2の二次電池の断面構成を表しており、図4では図3に示したIV−IV線に沿った断面を示している。ここで説明する二次電池は、上記した第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池である。
この第2の二次電池は、電池缶11の内部に、扁平な巻回構造を有する巻回電極体20が収納されたものである。
電池缶11は、例えば、角型の外装部材である。この角型の外装部材とは、図4に示したように、長手方向における断面が矩形型あるいは略矩形型(一部に曲線を含む)の形状を有するものであり、矩形状の角型電池だけでなくオーバル形状の角型電池も構成するものである。すなわち、角型の外装部材とは、矩形状あるいは円弧を直線で結んだ略矩形状(長円形状)の開口部を有する有底矩形型あるいは有底長円形状型の器状部材である。なお、図4では、電池缶11が矩形型の断面形状を有する場合を示している。この電池缶11を含む電池構造は、いわゆる角型と呼ばれている。
この電池缶11は、例えば、鉄、アルミニウムあるいはそれらの合金などの金属材料によって構成されており、電極端子としての機能を有している場合もある。この場合には、充放電時に電池缶11の固さ(変形しにくさ)を利用して二次電池の膨れを抑えるために、アルミニウムよりも固い鉄が好ましい。電池缶11が鉄によって構成される場合には、例えば、ニッケルなどのめっきが施されていてもよい。
また、電池缶11は、一端部および他端部がそれぞれ閉鎖および開放された中空構造を有しており、その開放端部に絶縁板12および電池蓋13が取り付けられて密閉されている。絶縁板12は、巻回電極体20と電池蓋13との間に、その巻回電極体20の巻回周面に対して垂直に配置されており、例えば、ポリプロピレンなどによって構成されている。電池蓋13は、例えば、電池缶11と同様の材料によって構成されており、それと同様に電極端子としての機能を有していてもよい。
電池蓋13の外側には、正極端子となる端子板14が設けられており、その端子板14は、絶縁ケース16を介して電池蓋13から電気的に絶縁されている。この絶縁ケース16は、例えば、ポリブチレンテレフタレートなどによって構成されている。また、電池蓋13のほぼ中央には貫通孔が設けられており、その貫通孔には、端子板14と電気的に接
続されると共にガスケット17を介して電池蓋13から電気的に絶縁されるように正極ピン15が挿入されている。このガスケット17は、例えば、絶縁材料によって構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
電池蓋13の周縁付近には、開裂弁18および注入孔19が設けられている。開裂弁18は、電池蓋13と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などに起因して電池の内圧が一定以上となった場合に、電池蓋13から切り離されて内圧を開放するようになっている。注入孔19は、例えば、ステンレス鋼球からなる封止部材19Aにより塞がれている。
巻回電極体20は、セパレータ23を介して正極21および負極22が積層および巻回されたものであり、電池缶11の形状に応じて扁平状になっている。正極21の端部(例えば内終端部)にはアルミニウムなどの金属材料によって構成された正極リード24が取り付けられており、負極22の端部(例えば外終端部)にはニッケルなどの金属材料によって構成された負極リード25が取り付けられている。正極リード24は、正極ピン15の一端に溶接されて端子板14と電気的に接続されており、負極リード25は、電池缶11に溶接されて電気的に接続されている。
正極21は、例えば正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。正極集電体21Aおよび正極活物質層21Bの構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体57Aおよび正極活物質層57Bと同様である。
負極22は、上記した負極10と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体22Aの両面にそれぞれ負極活物質層22Bが設けられたものである。これら負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成は、それぞれ上記した負極10における負極集電体1および負極活物質層2の構成と同様である。なお、図3および図4では、負極22における突起部およびめっき膜の図示を省略している。この負極22では、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料における充電可能な容量が、正極21の放電容量よりも大きくなっているのが好ましい。
また、セパレータ23、およびセパレータ23に含浸された電解液も、それぞれ第1の二次電池のセパレータ53、およびセパレータ53に含浸された電解液と同様である。
この第2の二次電池は、例えば、以下の手順によって製造される。
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、正極結着材と、正極導電材とを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどを用いて正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。さらに、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて塗膜を圧縮成型して正極活物質層21Bを形成する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
次に、上記した負極10の作製手順と同様に、基材の両面に突起部を形成してめっき膜で覆うことにより負極集電体22Aを作製し、その負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成して負極22を作製する。
次に、正極21および負極22を用いて巻回電極体20を作製する。最初に、正極集電体21Aに正極リード24を溶接などして取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード25を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層させたのち、長手方向において巻回させながら扁平な形状となるように成型することで、巻回電極体20を作製する。
二次電池の組み立ては、以下のようにして行う。最初に、電池缶11の内部に巻回電極体20を収納したのち、その巻回電極体20上に絶縁板12を配置する。続いて、正極リード24を正極ピン15に溶接などして接続させると共に、負極リード25を電池缶11に溶接などして接続させたのち、レーザ溶接などによって電池缶11の開放端部に電池蓋13を固定する。最後に、注入孔19から電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させたのち、その注入孔19を封止部材19Aで塞ぐ。これにより、図3および図4に示した二次電池が完成する。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
この角型の二次電池によれば、負極22が上記した負極10と同様の構成を有している
ので、サイクル特性を向上させることができる。
また、電池缶11が固い金属製であれば、柔らかいフィルム製である場合と比較して、負極活物質層22Bが膨張および収縮した際に負極22が破損しにくくなる。したがって、サイクル特性をより向上させることができる。この場合には、電池缶11がアルミニウムよりも固い鉄製であれば、より高い効果を得ることができる。この二次電池に関する上記以外の効果は、第1の二次電池と同様である。
(第3の二次電池)
図5および図6は第3の二次電池の断面構成を表しており、図6では図5に示した巻回電極体40の一部を拡大して示している。第3の二次電池は、例えば、上記した第1および第2の二次電池と同様に、リチウムイオン二次電池である。この第3の二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶31の内部に、所定の電解液を含浸したセパレータ43を介して正極41と負極42とが積層および巻回された巻回電極体40と、一対の絶縁板32,33とが収納されたものである。この電池缶31を含む電池構造は、いわゆる円筒型と呼ばれている。
正極41は、例えば正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層41Bは、正極集電体41Aの片面だけに設けられていてもよい。正極集電体41Aおよび正極活物質層41Bの構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体57Aおよび正極活物質層57Bと同様である。
負極42は、上記した負極10と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体42Aの両面にそれぞれ負極活物質層42Bが設けられたものである。これら負極集電体42Aおよび負極活物質層42Bの構成は、それぞれ上記した負極10における負極集電体1および負極活物質層2の構成と同様である。なお、図5および図6では、負極42における突起部およびめっき膜の図示を省略している。この負極42では、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料における充電可能な容量が、正極41の放電容量よりも大きくなっているのが好ましい。
また、セパレータ43、およびセパレータ43に含浸された電解液も、それぞれ第1の二次電池のセパレータ53、およびセパレータ53に含浸された電解液と同様である。
電池缶31は、例えば、上記した第2の二次電池における電池缶11と同様の金属材料によって構成されており、その一端部および他端部はそれぞれ閉鎖および開放されている。一対の絶縁板32,33は、巻回電極体40を上下から挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
電池缶31の開放端部には、電池蓋34と、その内側に設けられた安全弁機構35および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)36とが、ガスケット37を介してかしめられることによって取り付けられている。これにより、電池缶31の内部は密閉されている。電池蓋34は、例えば、電池缶31と同様の金属材料によって構成されている。安全弁機構35は、熱感抵抗素子36を介して電池蓋34と電気的に接続されている。この安全弁機構35では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板35Aが反転して電池蓋34と巻回電極体40との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子36は、温度の上昇に応じて抵抗が増大することによって電流を制限し、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット37は、例えば、絶縁材料によって構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
巻回電極体40の中心には、センターピン44が挿入されていてもよい。この巻回電極体40では、アルミニウムなどの金属材料によって構成された正極リード45が正極41に接続されていると共に、ニッケルなどの金属材料によって構成された負極リード46が負極42に接続されている。正極リード45は、安全弁機構35に溶接などされて電池蓋34と電気的に接続されており、負極リード46は、電池缶31に溶接などされて電気的に接続されている。
この第3の二次電池は、例えば、以下の手順によって製造される。
まず、例えば、上記した第2の二次電池における正極21および負極22の作製手順と同様の手順により、正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bを形成して正極41を作製すると共に、負極集電体42Aの両面にそれぞれ金属層を介して負極活物質層42Bを形成して負極42を作製する。続いて、正極41に正極リード45を溶接などして取り付けると共に、負極42に負極リード46を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ43を介して正極41と負極42とを積層および巻回させて巻回電極体40を作製したのち、その巻回中心にセンターピン44を挿入する。続いて、一対の絶縁板32,33で挟みながら巻回電極体40を電池缶31の内部に収納すると共に、正極リード45の先端部を安全弁機構35に溶接し、負極リード46の先端部を電池缶31に溶接する。続いて、電池缶31の内部に電解液を注入してセパレータ43に含浸させる。最後に、電池缶31の開口端部に電池蓋34、安全弁機構35および熱感抵抗素子36をガスケット37を介してかしめて固定する。これにより、図5および図6に示した二次電池が完成する。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極41からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極42に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極42からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極41に吸蔵される。
この円筒型の二次電池によれば、負極42が上記した負極10と同様の構成を有しているので、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池に関する上記以外の効果は、第1の二次電池と同様である。
(第4の二次電池)
図7は第4の二次電池の分解斜視構成を表しており、図8は図7に示したVIII−VIII線に沿った断面を拡大して示している。第4の二次電池は、上記した第1〜第3の二次電池と同様に、リチウムイオン二次電池である。この第4の二次電池は、主に、フィルム状の外装部材60の内部に、正極リード71および負極リード72が取り付けられた巻回電極体70が収納されたものである。この外装部材60を含む電池構造は、いわゆるラミネートフィルム型と呼ばれている。
正極リード71および負極リード72は、例えば、外装部材60の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード71は、例えば、アルミニウムなどの金属材料によって構成されており、負極リード72は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。これらの金属材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
外装部材60は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされたアルミラミネートフィルムによって構成されている。この外装部材60は、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体70と対向するように、2枚の矩形型のアルミラミネートフィルムの外縁部同士が融着あるいは接着剤によって互いに接着された構造を有している。
外装部材60と正極リード71および負極リード72との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム61が挿入されている。この密着フィルム61は、正極リード71および負極リード72に対して密着性を有する材料によって構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
なお、外装部材60は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムによって構成されていてもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムによって構成されていてもよい。
巻回電極体70は、セパレータ75および電解質76を介して正極73と負極74とが積層および巻回されたものであり、その最外周部は、保護テープ77によって保護されている。
正極73は、例えば正極集電体73Aの両面に正極活物質層73Bが設けられたものであり、負極74は、例えば負極集電体74Aの両面に負極活物質層74Bが設けられたものである。正極集電体73A、正極活物質層73B、負極集電体74A、負極活物質層74Bおよびセパレータ73の構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体57A、正極活物質層57B、負極集電体51、負極活物質層53およびセパレータ53の構成と同様である。なお、図7および図8では、負極74における突起部およびめっき膜の図示を省略している。
電解質76は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、あるいはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。電気化学的に安定だからである。
電解液の組成は、第1の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、ゲル状の電解質である電解質76において、電解液の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
なお、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質76に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ75に含浸される。
このゲル状の電解質76を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の手順によって製造される。
第1の製造方法では、最初に、例えば上記した第2の二次電池における正極21および負極22の作製手順と同様の手順により、正極集電体73Aの両面に正極活物質層73Bを形成して正極73を作製すると共に、負極集電体74Aの両面に負極活物質層74Bを形成して負極74を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製して正極73および負極74に塗布したのち、溶剤を揮発させてゲル状の電解質76を形成する。続いて、正極集電体73Aに正極リード71を取り付けると共に、負極集電体74Aに負極リード72を取り付ける。続いて、電解質76が形成された正極73と負極74とをセパレータ75を介して積層および巻回したのち、その最外周部に保護テープ77を接着させて巻回電極体70を作製する。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回電極体70を挟み込んだのち、その外装部材60の外縁部同士を熱融着などで接着させて巻回電極体70を封入する。この際、正極リード71および負極リード72と外装部材60との間に、密着フィルム61を挿入する。これにより、図7および図8に示した二次電池が完成する。
第2の製造方法では、最初に、正極73に正極リード71を取り付けると共に、負極74に負極リード72を取り付ける。続いて、セパレータ75を介して正極73と負極74とを積層して巻回させたのち、その最外周部に保護テープ77を接着させて、巻回電極体70の前駆体である巻回体を作製する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させて、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材60の内部に注入したのち、外装部材60の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質76を形成する。これにより、図7および図8に示した二次電池が完成する。
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ75を用いることを除き、上記した第2の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材60の内部に収納する。このセパレータ75に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材60の内部に注入したのち、その外装部材60の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材60に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ75を正極73および負極74に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質76が形成されるため、図7および図8に示した二次電池が完成する。
この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、二次電池の膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや溶媒などが電解質76中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極73、負極74およびセパレータ75と電解質76との間において十分な密着性が得られる。
このラミネートフィルム型の二次電池によれば、負極74が上記した負極10と同様の構成を有しているので、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池に関する上記以外の効果は、第1の二次電池と同様である。
本発明の実施例について詳細に説明する。
(実験例1−1)
以下の手順により、図2に示したコイン型の二次電池を製造した。この際、負極50の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
最初に、正極57を作製した。まず、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃で5時間焼成することにより、平均粒径が5μmのリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質として上記のリチウムコバルト複合酸化物96質量部と、正極導電材としてカーボンブラック1質量部と、正極結着材としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーとした。さらに、帯状のアルミニウム箔(厚さ=15μm)からなる正極集電体57Aの一面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型することにより、正極活物質層57Bを形成した。最後に、正極活物質層57Bが形成された正極集電体57Aを直径15.5mmのペレットとなるように打ち抜くことにより正極57を得た。
次に、以下のようにして負極50を作製した。まず、基材51Aとして、粗面化処理がなされていない厚さ20μmの電解銅箔を作製した。詳細には、表1に示した組成のめっき浴を入れた容器内に、アノードとしてのステンレス鋼板とカソードとしての銅板とを入れ、めっき浴を30℃に保持しつつ5A/dm2 の電流密度で通電することで、銅板の表面に厚さ20μmの電解銅箔を析出させた。めっき浴としては、硫酸銅5水和物(CuSO4 ・5H2 O)300g/dm3 と、硫酸180g/dm3 と、塩化銅5mg/dm3 と、添加剤としてのポリエチレングリコール、3−3’−ジチオビス(1−プロパンスルホン酸)ナトリウムを含むものを用いた。
このようにして得た基材51A(電解銅箔)の一面に電解析出法により銅微粒子からなる突起部51Bを形成した。詳細には、硫酸銅5水和物(CuSO4 ・5H2 O)50g/dm3 と、硫酸100g/dm3 と、ゼラチン1g/dm3 とを含むめっき浴を30℃に保持し、30A/dm2 の電流密度で5秒間通電することで、平均径が2.0μmの微細な銅粒子を析出させた。続いて、めっき処理(被せめっき)を行い、突起部51Bと基材51Aとを連続して覆うめっき膜を形成した。ここでは、硫酸コバルト7水和物(CoSO4 ・7H2 O)100g/dm3 と、ホウ酸10g/dm3 とを含むめっき浴を60℃に保持し、10A/dm2 の電流密度で15秒間通電することで、コバルトからなるめっき膜を形成した。この結果、表面粗さがRz値で2.5μmである負極集電体51を得た。こののち、電子ビーム蒸着法により、負極集電体51の一面にケイ素からなる厚さ6μmの負極活物質層52を形成し、さらに直径16mmのペレットとなるように打ち抜くことにより負極50を得た。
続いて、正極57、負極50、および微多孔性ポリプロピレンフィルムからなるセパレータ53を、正極活物質層57Bと負極活物質層52とがセパレータ53を介して対向するように積層したのち、外装缶54に収容した。セパレータ53には、全体の厚みが23μmであり、多孔性ポリエチレンを主成分とする中心層の両面に、多孔性ポリプロピレンを主成分とする外層を設けた3層構造のポリマーフィルムを用いた。そののち、電解液を注入し、ガスケット56を介して外装カップ55を被せてかしめることにより、コイン型の二次電池を完成させた。
ここで、電解液については、溶媒として炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)と炭酸ビニレン(VC)とを混合したのち、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶解させたものを用いた。この際、溶媒の組成(EC:DEC:VC)を重量比で30:60:10とし、LiPF6 の含有量を溶媒に対して1.0mol/kgとした。
(実験例1−2〜1−17)
基材51Aとしての電解銅箔を作製する際、めっき浴の組成をそれぞれ表1に示したようにしたことを除き、他は実験例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
(実験例1−18〜1−27)
基材51Aとしての電解銅箔を作製する際、めっき浴の組成をそれぞれ表2に示したようにしたことを除き、他は実験例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
これらの実験例1−1〜1−27の二次電池における負極50の基材51A(電解銅箔)の体積抵抗率を、ダイアインスツルメンツ社製の4探針式の抵抗測定装置を用いて測定した。さらに、炭素硫黄同時分析装置(LECO社製)を用いて、高周波燃焼−ソリッドステート型赤外線吸収法により、基材51A(電解銅箔)に含まれる炭素および硫黄の定量を行った。より詳細には、電解銅箔0.5gを試料として切り取り、これを助燃剤と共に坩堝に入れて燃焼させ、炭素および硫黄成分としてCO2 およびSO2を生成し、赤外線吸収法により検出した。成分既知のステンレス鋼(SUS304)の標準試料から検量線を求め、それに従って定量を行った。表3および表4に、実験例1−1〜1−27の基材51A(電解銅箔)における体積抵抗率、ならびに炭素および硫黄の含有率の測定結果をまとめて示す。なお、体積抵抗率、ならびに炭素および硫黄の含有率を調べる際の手順および条件は、以降の一連の実験例においても同様である。
さらに、これらの実験例1−1〜1−27の二次電池について以下の要領でサイクル特性を調べたところ、表3および表4に示した結果が得られた。
具体的には、23℃の雰囲気中において以下の要領で充放電を行った。まず充電については、電池電圧が4.2Vに到達するまで0.2Cの定電流で定電流充電を行い、引き続き4.2Vの定電圧で電流値が0.05Cに到達するまで定電圧充電した。次に、放電については、電池電圧が2.5Vに到達するまで0.2Cの定電流で定電流放電を行った。この充電と放電との組み合わせを1サイクルとし、100サイクルまで充放電を繰り返し行い、放電容量維持率(サイクル特性)として、1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の比率、すなわち、放電容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100を算出した。
なお、上記したサイクル特性を調べる際の手順および条件は、以降の一連の実験例に関する同特性の評価についても同様である。
さらに、これらの実験例1−1〜1−27の二次電池について以下の要領で貫通釘刺試験を実施したところ、表3および表4に示した結果が得られた。ここでは、上記の充放電条件で100サイクルを行ったサンプルを、23±3℃の環境下において4.25Vの電池電圧に達するまで0.2Cの定電流で再度の充電を行った。続いて、その状態で二次電池の外装缶54および外装カップ55のほぼ中央を貫通するように鉄製の釘(φ4.5mm)を突き刺し、10秒後の外装缶54の表面温度を測定した。その結果、外装缶54の表面温度が90℃以下のものを「○」、90℃超150℃以下のものを「△」とした。なお、釘刺し速度100mm/秒とした。
表3および表4の結果から、実験例1−1〜1−4,1−7〜1−15,1−18〜1−27のように基材51Aの結晶子の平均径が0.01μm以上5μm以下であり、かつ、炭素および硫黄の含有率が各々100ppm以下であれば、比較的高い引張強度と、比較的低い体積抵抗率とが得られることがわかった。ところが、実験例1−5では、結晶子の平均径が小さすぎて箔状の基材51Aが得られず、各特性値の測定ができなかった。実験例1−6では、結晶子の平均径が大きすぎてしまい、引張強度がやや低下し、放電容量維持率もやや低い数値となった。実験例1−16では、炭素濃度が高すぎてしまい、緻密な電解銅箔とはならず、引張強度および放電容量維持率が極めて低い数値となった。同様に、実験例1−17では、硫黄濃度が高すぎてしまったことで緻密な電解銅箔とならず、引張強度および放電容量維持率が極めて低い数値となった。さらに、実験例1−6,1−16,1−17では、体積抵抗率が比較的高い数値となってしまった。以上により、本発明の二次電池によれば、優れたサイクル特性と、高い安全性とを確保することができることが確認された。
(実験例2−1〜2−6)
負極集電体51の表面粗さ(Rz値)を、表5に表すように3.1μm〜5.3μmの範囲で変更したことを除き、他は実験例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
これらの実験例2−1〜2−6の二次電池についてサイクル特性を調べると共に釘刺し試験を実施したところ、表5に示した結果が得られた。併せて、基材51A(電解銅箔)における体積抵抗率、ならびに炭素および硫黄の含有率の測定結果を表5に示す。
表5に示したように、負極集電体1の表面粗さがRz値で3.2μm以上5.2μm以下の場合(実験例2−2〜2−5)において、より優れたサイクル特性が得られることがわかった。
(実験例3−1)
溶媒としてECおよびVCに代えて、化5に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルの1種である4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)を加え、溶媒の組成(FEC:DEC)を重量比で50:50に変更したことを除き、他は実験例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
(実験例3−2)
溶媒としてVCに代えて、化5に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルの1種である4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)を加え、溶媒の組成(FEC:DEC:DFEC)を重量比で30:65:5に変更したことを除き、他は実験例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
(実験例3−3,3−4)
電解液に添加剤として、酸無水物であるスルホ安息香酸無水物(SBAH:実験例3−3)あるいはスルホプロピオン酸無水物(SPAH:実験例3−4)を加えたことを除き、他は実験例3−2と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。この際、電解液中におけるSBAHおよびSPAHの含有量を1重量%とした。この「1重量%」は、溶媒全体を100重量%としたとき、1重量%に相当する分だけSBAHまたはSPAHを添加したという意味である。
(実験例3−5)
電解質塩として、さらに四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )を加え、LiPF6 の含有量を0.9mol/kg、LiBF4 の含有量を0.1mol/kgに変更したことを除き、他は実験例6−2と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
これらの実験例3−1〜3−5の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
表6に示したように、溶媒としてFECやDFECを加えた場合には、放電容量維持率が、より向上することがわかった。また、電解液中に添加剤としてSBAHやSPAHを加えた場合(実施例3−3,3−4)、あるいは電解質塩としてLiBF4 を加えた場合(実施例3−5)においては、それらを加えない場合(実施例3−2)よりもやや高い放電容量維持率が得られた。
(実験例4−1,4−2)
負極活物質層52の形成方法を、表7に表すように変更したことを除き、他は実験例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
実験例4−1では、塗布法により負極活物質層52を形成した。具体的には、まず、平均粒子径が5μmのケイ素粒子を用意すると共に、結着材として熱可塑性ポリイミドを用意した。次いで、ケイ素粒子と熱可塑性ポリイミドとを重量比で7:2となるように混合すると共に、それらを溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに溶解させて混練し、負極合剤スラリーを作製した。この負極合剤スラリーを負極集電体51に塗布して80℃の温度雰囲気中で乾燥させたのち、500℃で3時間に亘って加熱することで負極活物質層52を形成した。一方、実験例4−2では、溶射法により負極活物質層52を形成した。具体的には、ケイ素粉末(メジアン径=30μm)を用意し、負極集電体51に、ケイ素粉末(メジアン径=1μm以上300μm以下)を溶融した状態で吹き付け、複数の負極活物質粒子を形成するようにした。この溶射法では、ガスフレーム溶射を用い、吹き付け速度を約45m/秒から55m/秒とし、負極集電体51が熱的ダメージを負わないように炭酸ガスで基盤を冷却しながら吹き付け処理を行った。
これらの実験例4−1,4−2の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表7に示した結果が得られた。
表7の結果から、塗布法および溶射法においても、電子ビーム蒸着法の場合とほぼ同等のサイクル特性が得られることがわかった。
(実験例5−1〜5−3)
基材51Aを作製する際のめっき浴の組成および電流密度を表8に示したようにすることで、基材51Aにおける結晶子の扁平率が表9に示した数値範囲に含まれるように変更したことを除き、他は実験例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
これらの実験例5−1〜5−3の二次電池についてサイクル特性を調べると共に釘刺し試験を実施したところ、表9に示した結果が得られた。併せて、基材51A(電解銅箔)における体積抵抗率、ならびに炭素および硫黄の含有率の測定結果を表9に示す。
表9に示したように、結晶子の扁平率が大きくなるほど、引張強度が低下し、サイクル特性が劣化する傾向が確認された。一方、体積抵抗率は、結晶子の扁平率が小さいものほど僅かに大きな値となることがわかった。すなわち、電解銅箔が形成可能な程度の炭素濃度および硫黄濃度を有する場合には、結晶子の扁平率を小さくすれば、体積抵抗率の大幅な上昇を伴うことなく、サイクル特性を向上させることができる。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は実施の形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる電池について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他のアルカリ金属、またはマグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などのアルカリ土類金属、またはアルミニウムなどの他の軽金属を用いる場合についても、本発明を適用することができる。その際、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質などは、その電極反応物質に応じて選択される。
また、上記実施の形態および実施例では、円筒型および扁平型(楕円型)の巻回構造を有する電池素子(巻回電極体)を備えた二次電池やコイン型の二次電池について具体的に例示して説明したが、本発明は、多角形型の巻回構造を有する電池素子を備えた二次電池、または、正極および負極を折り畳んだ構造、あるいは複数積層した構造など他の構造を有する電池素子を備えた二次電池についても同様に適用することができる。加えて、本発明は、角型などの他の外装形状を有する二次電池についても同様に適用することができる。
また、上記実施の形態および実施例では、電解質として液状の電解液を用いる場合について説明したが、電解液を高分子化合物などの保持体に保持させたゲル状の電解質を用いるようにしてもよい。このような高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル,ポリフッ化ビニリデン,フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体,ポリテトラフルオロエチレン,ポリヘキサフルオロプロピレン,ポリエチレンオキサイド,ポリプロピレンオキサイド,ポリフォスファゼン,ポリシロキサン,ポリ酢酸ビニル,ポリビニルアルコール,ポリメタクリル酸メチル,ポリアクリル酸,ポリメタクリル酸,スチレン−ブタジエンゴム,ニトリル−ブタジエンゴム,ポリスチレンあるいはポリカーボネートが挙げられる。特に電気化学的安定性の点からはポリアクリロニトリル,ポリフッ化ビニリデン,ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。電解液に対する高分子化合物の割合は、これらの相溶性によってもことなるが、通常、電解液の5質量%以上50質量%以下に相当する高分子化合物を添加することが好ましい。
さらにまた、上記実施の形態および実施例では、本発明の二次電池の負極集電体における結晶子の寸法や表面粗さ(Rz値)について、実施例の結果から導き出された適正範囲を説明したが、その説明は、それらの各パラメータが上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、各パラメータが上記した範囲から多少外れてもよい。
10,22,42,50…負極、1,22A,42A,51…負極集電体、1A,51A…基材、1B,51B…突起部、2,52…金属層、3,22B,42B,53…負極活物質層、21,41,57,73…正極、21A,41A,57A,73A…正極集電体、21B,41B,57B,73B…正極活物質層、11,31…電池缶、12,32,33…絶縁板、13,34…電池蓋、14…端子板、15…正極ピン、16…絶縁ケース、17,37,56…ガスケット、18…開裂弁、19…注入孔、19A…封止部材、20,40,70…巻回電極体、23,43,58,75…セパレータ、24,45,71…正極リード、25,46,72…負極リード、35A…ディスク板、35…安全弁機構、36…熱感抵抗素子、44…センターピン、54…外装缶、55…外装カップ、60…外装部材、61…密着フィルム、76…電解質、77…保護テープ。