以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る負極の断面構成を表している。この負極は、例えば二次電池などの電気化学デバイスに用いられるものであり、一対の面を有する負極集電体1と、それに設けられた負極活物質層2とを有している。さらに、この負極は、満充電状態における単位面積当たりのリチウムの吸蔵量をCとし、単位面積当たりの、電気化学的に吸蔵可能なリチウムの量をDとしたとき、以下の条件式(2)を満足するものであるとよい。
0.1≦C/D≦0.8 ……(2)
負極集電体1は、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する金属材料によって構成されているのが好ましい。このような金属材料としては、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどが挙げられ、中でも、銅が好ましい。高い電気伝導性が得られるからである。
特に、金属材料は、電極反応物質と金属間化合物を形成しない1種あるいは2種以上の金属元素を構成元素として有しているのが好ましい。電極反応物質と金属間化合物を形成すると、電気化学デバイスの動作時(例えば二次電池の充放電時)に、負極活物質層2の膨張および収縮による応力の影響を受けて、集電性が低下したり、負極活物質層2が負極集電体1から剥離したりする可能性があるからである。このような金属元素としては、例えば、銅、ニッケル、チタン、鉄あるいはクロムなどが挙げられる。
また、金属材料は、負極活物質層2と合金化する1種あるいは2種以上の金属元素を構成元素として有しているのが好ましい。負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性が向上するため、その負極活物質層2が負極集電体1から剥離しにくくなるからである。電極反応物質と金属間化合物を形成せず、しかも負極活物質層2と合金化する金属元素としては、例えば、負極活物質層2が負極活物質としてケイ素を含む場合には、銅、ニッケルあるいは鉄などが挙げられる。これらの金属元素は、強度および導電性の観点からも好ましい。
なお、負極集電体1は、単層構造あるいは多層構造のいずれを有していてもよい。負極集電体1が多層構造を有する場合には、例えば、負極活物質層2と隣接する層がそれと合金化する金属材料によって構成され、隣接しない層が他の金属材料によって構成されるのが好ましい。
負極集電体1の表面は、粗面化されているのが好ましい。いわゆるアンカー効果によって負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層2と対向する負極集電体1の表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理によって微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中において電解法によって負極集電体1の表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。電解法を使用して作製された銅箔は、一般に「電解銅箔」と呼ばれている。この他、粗面化の方法としては、例えば、圧延銅箔をサンドブラスト処理する方法なども挙げられる。
この負極集電体1の表面の十点平均粗さRzは、1.5μm以上であるのが好ましく、1.5μm以上40μm以下であるのがより好ましく、3μm以上30μm以下であるのがさらに好ましい。負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性がより高くなるからである。詳細には、十点平均粗さRzが1.5μmよりも小さいと、十分な密着性が得られない可能性がある。また、十点平均粗さRzが40μmよりも大きいと、かえって密着性が低下する可能性がある。
負極活物質層2は、負極活物質として電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。負極活物質層2は、さらに、必要に応じて導電材あるいは結着材などの他の材料を含んでいてもよい。また、負極活物質層2は、例えば、気相法、塗布法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて形成されたものであり、その内部に空隙を有している。この空隙は電極反応時において負極活物質が膨張および収縮した場合の逃げ場(緩和スペース)として機能するので、負極活物質層2の膨張および収縮による体積変化が緩和される。具体的には、負極活物質層2は、負極集電体1側の面近傍の空隙率をA、負極集電体1と反対側の面近傍の空隙率をBとしたとき、以下の条件式(1)を満足するように構成されている。ここで、負極活物質層2における負極集電体1側の面近傍とは、負極活物質層2の負極集電体1側の表面から、負極活物質層2全体の厚みの1/4に至るまでの厚み範囲をいう。同様に、負極活物質層2における負極集電体1と反対側の面近傍とは、負極活物質層2における負極集電体1と反対側の表面から、負極活物質層2全体の厚みの1/4に至るまでの厚み範囲をいう。
1.1≦A/B≦1.7 ……(1)
負極活物質層2は、上記の条件式(1)を満足するため、例えば負極活物質を構成する粒子の平均径が互いに異なった複数層からなる多層構造を有している。あるいは、負極活物質層2は、ポリマーからなる結着材を含んでおり、その結着材の含有率および結着材の種類のうちの少なくとも一方が互いに異なった複数層からなる多層構造を有している。また、それらを組み合わせた多層構造、すなわち、負極活物質の平均粒径が互いに異なり、かつ、ポリマーからなる結着材の含有率および種類のうちの少なくとも一方が互いに異なった複数層からなる多層構造であってもよい。また、負極活物質層2は、その空隙率が厚み方向に連続的に傾斜した分布を有するものであってもよい。
条件式(1)において、A/Bが1.7を上回る場合、例えば空隙率が大きすぎる場合には、負極集電体1と負極活物質層2との接着強度が不十分となり、充放電時の膨張および収縮により、負極活物質層2が負極集電体1から剥離しやすくなるので好ましくない。また、空隙率Bが小さすぎてA/Bが1.7を上回る場合として、結着材が負極活物質に対して過剰に存在する場合、あるいは負極活物質を構成する粒子の平均径が小さすぎる場合が考えられるが、いずれの場合も充放電時の膨張および収縮を十分に緩和することが困難となり、やはり好ましくない。
さらに、完全放電状態において、負極活物質層2の全体の平均空隙率は、3%以上35%以下であることが望ましい。完全放電状態とは、負極活物質層内にリチウムが存在していない理想状態をいう。
気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(Chemical Vapor Deposition :CVD)法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電気鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。塗布法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合したのち、溶剤に分散させて塗布する方法である。焼成法とは、例えば、塗布法を用いて塗布したのち、結着材などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても、公知の手法を使用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
負極活物質層2が、気相法によって形成されたものである場合、負極活物質の1回の堆積工程によって形成された単層構造を有していてもよいし、複数回の堆積工程によって形成された多層構造を有していてもよい。この場合には、負極活物質層2が多層構造を有する部分を一部に含んでいてもよい。ただし、堆積時に高熱を伴う場合には、負極集電体1が熱的ダメージを受けることを抑制するために、負極活物質層2が多層構造を有しているのが好ましい。負極活物質の堆積工程を複数回に分割して行うことにより、その堆積工程を1回で行う場合と比較して、負極集電体1が高熱に晒される時間が短くなるからである。
なお、負極活物質層2は、少なくとも一部において負極集電体1に連結されていればよい。一部だけでも負極集電体1に連結されていれば、全く連結されていない場合と比較して、負極集電体1に対する負極活物質層2の密着強度が向上するからである。負極活物質層2が一部において負極集電体1に連結されている場合、その負極活物質層2は、負極集電体1に接触する部分と、負極集電体1に接触しない部分を有することになる。
負極活物質層2が非接触部分を有していない場合には、その負極活物質層2が全体に渡って負極集電体1に接触するため、両者の間における電子伝導性が高くなる。その一方で、電極反応時において負極活物質層2が膨張および収縮した場合に逃げ場(緩和スペース)がないため、その膨張および収縮時における応力の影響を受けて負極集電体1が変形する可能性がある。
これに対して、負極活物質層2が非接触部分を有している場合には、電極反応時において負極活物質層2が膨張および収縮した場合の逃げ場(緩和スペース)が存在するため、膨張および収縮時における応力の影響を受けて負極集電体1が変形しにくくなる。その一方で、負極集電体1と負極活物質層2との間に接触していない部分があるため、両者の間における電子伝導性が低くなる可能性がある。
この負極活物質層2は、例えば、負極集電体1の両面に設けられている。ただし、負極活物質層2は、負極集電体1の片面だけに設けられていてもよい。
負極活物質層2は、負極集電体1との界面のうちの少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。電極反応時において負極活物質層2が膨張および収縮しにくくなるため、その負極活物質層2の破損が抑制されるからである。また、負極集電体1と負極活物質層2との間において電子伝導性が向上するからである。この「合金化」とは、負極集電体1の構成元素と負極活物質層2の構成元素とが完全な合金を形成している場合だけでなく、両者の構成元素が混在状態にある場合も含む。この場合には、両者の界面において、負極集電体1の構成元素が負極活物質層2に拡散していてもよいし、負極活物質層2の構成元素が負極集電体1に拡散していてもよいし、両者の構成元素が拡散しあっていてもよい。
負極活物質は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極材料として、ケイ素を構成元素として有する材料を含有している。電極反応物質を吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。このような材料は、ケイ素の単体、合金あるいは化合物のいずれであってもよく、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するものであってもよい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
なお、本発明における合金には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。もちろん、本発明における合金は、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物あるいはそれらの2種以上が共存するものもある。
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の構成元素として、スズ(Sn)、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン(Mn)、亜鉛、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものなどが挙げられる。
ケイ素の化合物としては、例えば、ケイ素以外の構成元素として、酸素および炭素(C)を有するものなどが挙げられる。なお、ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、ケイ素の合金について説明した一連の元素の1種あるいは2種以上を含んでいてもよい。
また、負極活物質は、鉄、ニッケル、モリブデン、チタン、クロム、コバルト、銅、マンガン、亜鉛、ゲルマニウム、アルミニウム、ジルコニウム、銀、スズ、アンチモンおよびタングステンからなる群のうちの少なくとも1種の金属元素を構成元素として有しているのが好ましい。負極活物質の結着性が向上し、負極活物質層2の膨張および収縮が抑制され、負極活物質の抵抗が低下するからである。負極活物質中における金属元素の含有量は、任意に設定可能である。ただし、負極が二次電池に用いられる場合には、金属元素の含有量が多くなりすぎると、所望の電池容量を得るために負極活物質層2を厚くしなければならないため、負極活物質層2が負極集電体1から剥がれたり、割れたりする可能性がある。
なお、負極活物質は、ケイ素を構成元素として有する材料の他に、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な他の材料を含有していてもよい。このような他の材料としては、例えば、電極反応物質を吸蔵よび放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含有する材料(ケイ素を構成元素として有する材料を除く)が挙げられる。このような材料を用いれば、高いエネルギー密度が得られるので好ましい。この材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。
上記した金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、電極反応物質と合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素、アルミニウム、ガリウム(Ga)、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛(Pb)、ビスマス、カドミウム(Cd)、銀、亜鉛、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などであり、中でもスズが好ましい。電極反応物質を吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。スズを含有する材料としては、例えば、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。
スズの合金としては、例えば、スズ以外の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。スズの化合物としては、例えば、スズ以外の構成元素として、酸素あるいは炭素を有するものなどが挙げられる。なお、スズの化合物は、例えば、スズ以外の構成元素として、スズの合金について説明した一連の元素のいずれか1種あるいは2種以上を含有していてもよい。スズの合金あるいは化合物の一例としては、SnSiO3 、LiSnOあるいはMg2 Snなどが挙げられる。
特に、スズを構成元素として有する材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、それに加えて第2および第3の構成元素を有するものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種である。第2および第3の構成元素を有することにより、サイクル特性が向上するからである。
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として有し、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を有していてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上を有していてもよい。より高い効果が得られるからである。
なお、SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性あるいは非晶質な相であるのが好ましい。この相は、電極反応物質と反応可能な反応相であり、これによって優れたサイクル特性が得られるようになっている。この相のX線回折によって得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムがより円滑に吸蔵および放出されると共に、電解質との反応性が低減されるからである。
X線回折によって得られた回折ピークがリチウムと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較することによって容易に判断することができる。例えば、リチウムとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性あるいは非晶質な反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。この低結晶性あるいは非晶質な反応相は、例えば、上記した各構成元素を含んでおり、主に、炭素によって低結晶化あるいは非晶質化しているものと考えられる。
なお、SnCoC含有材料は、低結晶性あるいは非晶質な相に加えて、各構成元素の単体または一部を含む相を有している場合もある。
特に、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合しているのが好ましい。スズなどの凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSは、軟X線(市販の装置ではAl−Kα線か、Mg−Kα線を用いる)を試料表面に照射し、試料表面から飛び出してくる光電子の運動エネルギーを測定することによって、試料表面から数nmの領域の元素組成、および元素の結合状態を調べる方法である。
元素の内殻軌道電子の束縛エネルギーは、第1近似的には、元素上の電荷密度と相関して変化する。例えば、炭素元素の電荷密度が近傍に存在する元素との相互作用によって減少した場合には、2p電子などの外殻電子が減少しているので、炭素元素の1s電子は殻から強い束縛力を受けることになる。すなわち、元素の電荷密度が減少すると、束縛エネルギーは高くなる。XPSでは、束縛エネルギーが高くなると、高いエネルギー領域にピークはシフトするようになっている。
XPSにおいて、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば炭素よりも陽性な元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素などと結合している場合には、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる。
なお、XPS測定を行う場合には、表面が表面汚染炭素で覆われている際に、XPS装置に付属のアルゴンイオン銃で表面を軽くスパッタするのが好ましい。また、測定対象のSnCoC含有材料が負極22中に存在する場合には、二次電池を解体して負極22を取り出したのち、炭酸ジメチルなどの揮発性溶媒で洗浄するとよい。負極22の表面に存在する揮発性の低い溶媒と電解質塩とを除去するためである。これらのサンプリングは、不活性雰囲気下で行うのが望ましい。
また、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸の補正に、例えばC1sのピークを用いる。通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。なお、XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
このSnCoC含有材料は、例えば、各構成元素の原料を混合した混合物を電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解させたのち、凝固させることによって形成可能である。また、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法や、各種ロール法や、メカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法などを用いてもよい。中でも、メカノケミカル反応を利用した方法が好ましい。SnCoC含有材料が低結晶性あるいは非晶質な構造になるからである。メカノケミカル反応を利用した方法では、例えば、遊星ボールミル装置やアトライタなどの製造装置を用いることができる。
原料には、各構成元素の単体を混合して用いてもよいが、炭素以外の構成元素の一部については合金を用いるのが好ましい。このような合金に炭素を加えてメカニカルアロイング法を利用した方法によって合成することにより、低結晶化あるいは非晶質な構造が得られ、反応時間も短縮されるからである。なお、原料の形態は、粉体であってもよいし、塊状であってもよい。
このSnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄および炭素を構成元素として有するSnCoFeC含有材料も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、鉄の含有量が0.3質量%以上5.9質量%以下、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるのが好ましい。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が11.9質量%以上29.7質量%以下、スズとコバルトと鉄との合計に対するコバルトと鉄との合計の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))が26.4質量%以上48.5質量%以下、コバルトと鉄との合計に対するコバルトの割合(Co/(Co+Fe))が9.9質量%以上79.5質量%以下であるのが好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の結晶性、元素の結合状態の測定方法、および形成方法などについては、上記したSnCoC含有材料と同様である。
導電材としては、例えば、黒鉛、カーボンブラックあるいはケッチェンブラックなどの炭素材料が挙げられ、1種または2種以上が混合して用いられる。また、炭素材料の他にも、導電性を有する材料であれば金属材料あるいは導電性高分子材料などを用いるようにしてもよい。結着材としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンゴムなどの合成ゴム、またはポリフッ化ビニリデンやポリイミドなどの高分子材料が挙げられ、1種または2種以上が混合して用いられる。
この負極は、例えば負極集電体1の両面に、気相法、塗布法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて負極活物質層2を形成することで製造される。
具体的には、負極活物質層2を電子ビーム蒸着などの気相法によって形成する場合、例えばチャンバ内への酸素ガスの導入量を連続的、あるいは段階的に調整しながら(減らしながら)負極活物質を堆積させる。あるいは、堆積速度を連続的、あるいは段階的に調整しながら負極活物質を堆積させる。こうすることで、条件式(1)を満足するように、負極集電体1との界面近傍における空隙率を負極集電体1と反対側の界面近傍における空隙率よりも高めることができる。この際、負極活物質層2を複数回の堆積工程によって形成する場合、各回の堆積工程の相互間で酸素ガスの導入量や堆積速度を変更するようにすればよい。
また、塗布法による場合には、例えば負極活物質の粒子と、導電材と、結着材とを混合した負極合剤を溶剤に分散させたペースト状の負極合剤スラリーを作製し、それをドクタブレードあるいはバーコータなどを用いて負極集電体1に塗布して乾燥させたのち、圧縮成型する。焼成法による場合には、さらに所定温度で所定時間に亘って加熱処理する。ここで、負極活物質層2を多層構造とする場合には、例えば比較的大きな平均粒径の負極活物質の粒子を用いて第1の層を形成したのち、その上に、比較的小さな平均粒径の負極活物質の粒子を用いて第2の層を形成する。あるいは、負極活物質の粒子に対する結着材の含有率を比較的高くした負極合剤スラリーを用いて第1の層を形成したのち、その上に、上記結着材の含有率を比較的低くした負極合剤スラリーを用いて第2の層を形成するようにしてもよい。こうすることで負極集電体1との界面近傍における空隙率を、負極集電体1と反対側の表面近傍における空隙率よりも高めることができる。
このように、本実施の形態の負極およびその製造方法によれば、条件式(1)を満足するように、ケイ素およびケイ素化合物などを含む負極活物質層2のうちの負極集電体1側の面近傍において、負極集電体1と反対側の面近傍よりも高い空隙率を確保するようにしたので、高容量化を図りつつ、充放電時の負極活物質の膨張および収縮に伴う応力変動を緩和することができる。このため、負極集電体1に対する負極活物質層2の剥離強度の向上や、充放電効率の向上を図るうえで有利となっている。その一方で、負極活物質層全体の空隙率を大きくした場合よりも、高容量化に有利となっている。したがって、この負極を電解質と共に二次電池などの電気化学デバイスに用いた場合には、高容量でありながらサイクル特性の向上に寄与することができる。
次に、上記した負極の使用例について説明する。ここで、電気化学デバイスの一例として二次電池を例に挙げると、上記した負極は、以下のようにして二次電池に用いられる。
(第1の二次電池)
図2および図3は第1の二次電池の断面構成を表しており、図3では図2に示したIII−III線に沿った断面を示している。ここで説明する二次電池は、例えば、負極22の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。
この二次電池は、電池缶11の内部に、扁平な巻回構造を有する電池素子20が収納されたものである。
電池缶11は、例えば、角型の外装部材である。この角型の外装部材とは、図3に示したように、長手方向における断面が矩形型あるいは略矩形型(一部に曲線を含む)の形状を有するものであり、矩形状の角型電池だけでなくオーバル形状の角型電池も構成するものである。すなわち、角型の外装部材とは、矩形状あるいは円弧を直線で結んだ略矩形状(長円形状)の開口部を有する有底矩形型あるいは有底長円形状型の器状部材である。なお、図3では、電池缶11が矩形型の断面形状を有する場合を示している。この電池缶11を含む電池構造は、いわゆる角型と呼ばれている。
この電池缶11は、例えば、鉄、アルミニウムあるいはそれらの合金などの金属材料によって構成されており、電極端子としての機能を有している場合もある。この場合には、充放電時に電池缶11の固さ(変形しにくさ)を利用して二次電池の膨れを抑えるために、アルミニウムよりも固い鉄が好ましい。電池缶11が鉄によって構成される場合には、例えば、ニッケルなどの鍍金が施されていてもよい。
また、電池缶11は、一端部および他端部がそれぞれ閉鎖および開放された中空構造を有しており、その開放端部に絶縁板12および電池蓋13が取り付けられて密閉されている。絶縁板12は、電池素子20と電池蓋13との間に、その電池素子20の巻回周面に対して垂直に配置されており、例えば、ポリプロピレンなどによって構成されている。電池蓋13は、例えば、電池缶11と同様の材料によって構成されており、それと同様に電極端子としての機能を有していてもよい。
電池蓋13の外側には、正極端子となる端子板14が設けられており、その端子板14は、絶縁ケース16を介して電池蓋13から電気的に絶縁されている。この絶縁ケース16は、例えば、ポリブチレンテレフタレートなどによって構成されている。また、電池蓋13のほぼ中央には貫通孔が設けられており、その貫通孔には、端子板14と電気的に接続されると共にガスケット17を介して電池蓋13から電気的に絶縁されるように正極ピン15が挿入されている。このガスケット17は、例えば、絶縁材料によって構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
電池蓋13の周縁付近には、開裂弁18および注入孔19が設けられている。開裂弁18は、電池蓋13と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などに起因して電池の内圧が一定以上となった場合に、電池蓋13から切り離されて内圧を開放するようになっている。注入孔19は、例えば、ステンレス鋼球からなる封止部材19Aにより塞がれている。
電池素子20は、セパレータ23を介して正極21および負極22が積層および巻回されたものであり、電池缶11の形状に応じて扁平状になっている。正極21の端部(例えば内終端部)にはアルミニウムなどの金属材料によって構成された正極リード24が取り付けられており、負極22の端部(例えば外終端部)にはニッケルなどの金属材料によって構成された負極リード25が取り付けられている。正極リード24は、正極ピン15の一端に溶接されて端子板14と電気的に接続されており、負極リード25は、電池缶11に溶接されて電気的に接続されている。
正極21は、例えば、一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて、正極結着材や正極導電材などの他の材料を含んでいてもよい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物などが挙げられる。中でも、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-z Coz O2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw O2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 O4 )などが挙げられる。中でも、コバルトを含む複合酸化物が好ましい。高い容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。
この他、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、セレン化ニオブなどのカルコゲン化物や、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
もちろん、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記した一連の正極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
正極結着材としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
正極導電材としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックあるいはケチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。なお、正極導電材は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
負極22は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成は、それぞれ上記した負極における負極集電体1および負極活物質層2の構成と同様である。この負極22では、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料における充電可能な容量が、正極21の放電容量よりも大きくなっているのが好ましい。
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながら電極反応物質のイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などによって構成されており、これらの2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。
このセパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒の1種あるいは2種以上を含有している。以下で説明する一連の溶媒は、任意に組み合わされてもよい。
非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、あるいはジメチルスルホキシドなどが挙げられる。中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルからなる群のうちの少なくとも1種が好ましい。この場合には、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
特に、溶媒は、化1で表されるハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび化2で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。充放電時において負極22の表面に安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。
(R11〜R16は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
(R17〜R20は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
化1中のR11〜R16は、同一でもよいし、異なってもよい。すなわち、R11〜R16の種類については、上記した一連の基の範囲内において個別に設定可能である。化2中のR17〜R20についても、同様である。
ハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素、塩素あるいは臭素が好ましく、フッ素がより好ましい。高い効果が得られるからである。他のハロゲンと比較して、高い効果が得られるからである。
ただし、ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上であってもよい。保護膜を形成する能力が高くなり、より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
化1に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、炭酸ビス(フルオロメチル)が好ましい。高い効果が得られるからである。
化2に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルとしては、例えば、化3および化4で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化3に示した(1)の4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)のテトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4−クロロ−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)のテトラクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4,5−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(10)の4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(11)の4,4−ジフルオロ−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(12)の4−エチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。また、化4に示した(1)の4−フルオロ−5−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−メチル−5−トリフルオロ−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4−フルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)の5−(1,1−ジフルオロエチル)−4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4,5−ジクロロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4−エチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)の4−エチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4−エチル−4,5,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンがより好ましい。特に、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
また、溶媒は、化5〜化7で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有しているのが好ましい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
(R21およびR22は水素基あるいはアルキル基である。)
(R23〜R26は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
化5に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン系化合物である。この炭酸ビニレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸メチルビニレン(4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸エチルビニレン(4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4,5−ジエチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4−フルオロ−1,3−ジオキソール−2−オン、あるいは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソール−2−オンなどが挙げられ、中でも、炭酸ビニレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
化6に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニルエチレン系化合物である。炭酸ビニルエチレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、4−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−n−プロピル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、中でも、炭酸ビニルエチレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。もちろん、R23〜R26としては、全てがビニル基でもよいし、全てがアリル基でもよいし、ビニル基とアリル基とが混在していてもよい。
化7に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸メチレンエチレン系化合物である。炭酸メチレンエチレン系化合物としては、4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジメチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,4−ジエチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。この炭酸メチレンエチレン系化合物としては、1つのメチレン基を有するもの(化7に示した化合物)の他、2つのメチレン基を有するものであってもよい。
なお、不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、化5〜化7に示したものの他、ベンゼン環を有する炭酸カテコール(カテコールカーボネート)などであってもよい。
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)や酸無水物を含有しているのが好ましい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。
スルトンとしては、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどが挙げられ、中でも、プロペンスルトンが好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
酸無水物としては、例えば、コハク酸無水物、グルタル酸無水物あるいはマレイン酸無水物などのカルボン酸無水物や、エタンジスルホン酸無水物あるいはプロパンジスルホン酸無水物などのジスルホン酸無水物や、スルホ安息香酸無水物、スルホプロピオン酸無水物あるいはスルホ酪酸無水物などのカルボン酸とスルホン酸との無水物などが挙げられ、中でも、コハク酸無水物あるいはスルホ安息香酸無水物が好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種あるいは2種以上を含有している。以下で説明する一連の電解質塩は、任意に組み合わせてもよい。
リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 H5 )4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)、あるいは臭化リチウム(LiBr)などが挙げられる。電気化学デバイスにおいて、優れた電気的性能が得られるからである。
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
特に、電解質塩は、化8〜化10で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、化8中のR31およびR33は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、化9中のR41〜R43および化10中のR51およびR52についても同様である。
(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウムである。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−(O=)C−R32−C(=O)−、−(O=)C−C(R33)
2 −あるいは−(O=)C−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−(O=)C−(C(R41)
2 )
b4−C(=O)−、−(R43)
2 C−(C(R42)
2 )
c4−C(=O)−、−(R43)
2 C−(C(R42)
2 )
c4−C(R43)
2 −、−(R43)
2 C−(C(R42)
2 )
c4−S(=O)
2 −、−(O=)
2 S−(C(R42)
2 )
d4−S(=O)
2 −あるいは−(O=)C−(C(R42)
2 )
d4−S(=O)
2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−(O=)C−(C(R51)
2 )
d5−C(=O)−、−(R52)
2 C−(C(R51)
2 )
d5−C(=O)−、−(R52)
2 C−(C(R51)
2 )
d5−C(R52)
2 −、−(R52)
2 C−(C(R51)
2 )
d5−S(=O)
2 −、−(O=)
2 S−(C(R51)
2 )
e5−S(=O)
2 −あるいは−(O=)C−(C(R51)
2 )
e5−S(=O)
2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
なお、長周期型周期表とは、IUPAC(国際純正・応用化学連合)が提唱する無機化学命名法改訂版によって表されるものである。具体的には、1族元素とは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウムである。2族元素とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムである。13族元素とは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびタリウムである。14族元素とは、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズおよび鉛である。15族元素とは、窒素、リン、ヒ素、アンチモンおよびビスマスである。
化8に示した化合物としては、例えば、化11の(1)〜(6)で表される化合物などが挙げられる。化9に示した化合物としては、例えば、化12の(1)〜(8)で表される化合物などが挙げられる。化10に示した化合物としては、例えば、化13で表される化合物などが挙げられる。なお、化8〜化10に示した構造を有する化合物であれば、化11〜化13に示した化合物に限定されないことは言うまでもない。
また、電解質塩は、化14〜化16で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有していてもよい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、化14中のmおよびnは、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、化16中のp、qおよびrについても同様である。
(R61は炭素数が2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
化14に示した鎖状の化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 F5 SO2 )2 )、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 F5 SO2 ))、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 F7 SO2 ))、あるいは(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 F9 SO2 ))などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
化15に示した環状の化合物としては、例えば、化17で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化17に示した(1)の1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウム、(2)の1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム、(3)の1,3−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウム、(4)の1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウムが好ましい。高い効果が得られるからである。
化16に示した鎖状の化合物としては、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )などが挙げられる。
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であるのが好ましい。この範囲外では、イオン伝導性が極端に低下する可能性があるからである。
この二次電池は、例えば、以下の手順によって製造される。
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、正極結着材と、正極導電材とを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどを用いて正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて塗膜を圧縮成型して正極活物質層21Bを形成する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
次に、上記した負極の作製手順と同様の手順により、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成して負極22を作製する。
次に、正極21および負極22を用いて電池素子20を作製する。最初に、正極集電体21Aに正極リード24を溶接などして取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード25を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層させたのち、長手方向において巻回させる。最後に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。
二次電池の組み立ては、以下のようにして行う。最初に、電池缶11の内部に電池素子20を収納したのち、その電池素子20上に絶縁板12を配置する。続いて、正極リード24を正極ピン15に溶接などして接続させると共に、負極リード25を電池缶11に溶接などして接続させたのち、レーザ溶接などによって電池缶11の開放端部に電池蓋13を固定する。最後に、注入孔19から電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させたのち、その注入孔19を封止部材19Aで塞ぐ。これにより、図2および図3に示した二次電池が完成する。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
この角型の二次電池によれば、負極22が上記した負極と同様の構成を有しているので、高容量を確保しつつ、サイクル特性を向上させることができる。
特に、電解液の溶媒が、化1に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび化2に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、化5〜化7に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種や、スルトンや、酸無水物を含有していれば、より高い効果を得ることができる。
また、電解質塩の電解質塩が、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種や、化8〜化10に示した化合物からなる群のうちの少なくとも1種や、化14〜化16に示した化合物からなる群のうちの少なくも1種を含有していれば、より高い効果を得ることができる。
また、電池缶11が固い金属製であれば、柔らかいフィルム製である場合と比較して、負極活物質層22Bが膨張および収縮した際に負極22が破損しにくくなる。したがって、サイクル特性をより向上させることができる。この場合には、電池缶11がアルミニウムよりも固い鉄製であれば、より高い効果を得ることができる。
この二次電池に関する上記以外の効果は、上記した負極と同様である。
(第2の二次電池)
図4および図5は第2の二次電池の断面構成を表しており、図5では図4に示した巻回電極体40の一部を拡大して示している。第2の二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様に、リチウムイオン二次電池である。この第2の二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶31の内部に、セパレータ43を介して正極41と負極42とが積層および巻回された巻回電極体40と、一対の絶縁板32,33とが収納されたものである。この電池缶31を含む電池構造は、いわゆる円筒型と呼ばれている。
電池缶31は、例えば、上記した第1の二次電池における電池缶11と同様の金属材料によって構成されており、その一端部および他端部はそれぞれ閉鎖および開放されている。一対の絶縁板32,33は、巻回電極体40を上下から挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
電池缶31の開放端部には、電池蓋34と、その内側に設けられた安全弁機構35および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)36とが、ガスケット37を介してかしめられることによって取り付けられている。これにより、電池缶31の内部は密閉されている。電池蓋34は、例えば、電池缶31と同様の金属材料によって構成されている。安全弁機構35は、熱感抵抗素子36を介して電池蓋34と電気的に接続されている。この安全弁機構35では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板35Aが反転して電池蓋34と巻回電極体40との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子36は、温度の上昇に応じて抵抗が増大することによって電流を制限し、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット37は、例えば、絶縁材料によって構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
巻回電極体40の中心には、センターピン44が挿入されていてもよい。この巻回電極体40では、アルミニウムなどの金属材料によって構成された正極リード45が正極41に接続されていると共に、ニッケルなどの金属材料によって構成された負極リード46が負極42に接続されている。正極リード45は、安全弁機構35に溶接などされて電池蓋34と電気的に接続されており、負極リード46は、電池缶31に溶接などされて電気的に接続されている。
正極41は、例えば、一対の面を有する正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bが設けられたものである。負極42は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、一対の面を有する負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bが設けられたものである。正極集電体41A、正極活物質層41B、負極集電体42A、負極活物質層42Bおよびセパレータ43の構成、ならびに電解液の組成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成、ならびに電解液の組成と同様である。
この二次電池は、例えば、以下の手順によって製造される。
まず、例えば、上記した第1の二次電池における正極21および負極22の作製手順と同様の手順により、正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bを形成して正極41を作製すると共に、負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bを形成して負極42を作製する。続いて、正極41に正極リード45を溶接などして取り付けると共に、負極42に負極リード46を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ43を介して正極41と負極42とを積層および巻回させて巻回電極体40を作製したのち、その巻回中心にセンターピン44を挿入する。続いて、一対の絶縁板32,33で挟みながら巻回電極体40を電池缶31の内部に収納すると共に、正極リード45の先端部を安全弁機構35に溶接し、負極リード46の先端部を電池缶31に溶接する。続いて、電池缶31の内部に電解液を注入してセパレータ43に含浸させる。最後に、電池缶31の開口端部に電池蓋34、安全弁機構35および熱感抵抗素子36をガスケット37を介してかしめて固定する。これにより、図4および図5に示した二次電池が完成する。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極41からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極42に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極42からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極41に吸蔵される。
この円筒型の二次電池によれば、負極42が上記した負極と同様の構成を有しているので、高容量を確保しつつ、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池に関する上記以外の効果は、第1の二次電池と同様である。
(第3の二次電池)
図6は第3の二次電池の分解斜視構成を表しており、図7は図6に示したVII−VII線に沿った断面を拡大して示している。第3の二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様に、リチウムイオン二次電池である。この第3の二次電池は、主に、フィルム状の外装部材60の内部に、正極リード51および負極リード52が取り付けられた巻回電極体50が収納されたものである。この外装部材60を含む電池構造は、いわゆるラミネートフィルム型と呼ばれている。
正極リード51および負極リード52は、例えば、外装部材60の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード51は、例えば、アルミニウムなどの金属材料によって構成されており、負極リード52は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。これらの金属材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
外装部材60は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされたアルミラミネートフィルムによって構成されている。この外装部材60は、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体50と対向するように、2枚の矩形型のアルミラミネートフィルムの外縁部同士が融着あるいは接着剤によって互いに接着された構造を有している。
外装部材60と正極リード51および負極リード52との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム61が挿入されている。この密着フィルム61は、正極リード51および負極リード52に対して密着性を有する材料によって構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
なお、外装部材60は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムによって構成されていてもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムによって構成されていてもよい。
巻回電極体50は、セパレータ55および電解質56を介して正極53と負極54とが積層および巻回されたものであり、その最外周部は、保護テープ57によって保護されている。
正極53は、例えば、一対の面を有する正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bが設けられたものである。負極54は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、一対の面を有する負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bが設けられたものである。正極集電体53A、正極活物質層53B、負極集電体54A、負極活物質層54Bおよびセパレータ55の構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。
電解質56は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、あるいはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。電気化学的に安定だからである。
電解液の組成は、第1の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、ゲル状の電解質である電解質56において、電解液の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
なお、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質56に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ55に含浸される。
このゲル状の電解質56を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の手順によって製造される。
第1の製造方法では、最初に、例えば、上記した第1の二次電池における正極21および負極22の作製手順と同様の手順により、正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bを形成して正極53を作製すると共に、負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bを形成して負極54を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製して正極53および負極54に塗布したのち、溶剤を揮発させてゲル状の電解質56を形成する。続いて、正極集電体53Aに正極リード51を取り付けると共に、負極集電体54Aに負極リード52を取り付ける。続いて、電解質56が形成された正極53と負極54とをセパレータ55を介して積層および巻回したのち、その最外周部に保護テープ57を接着させて巻回電極体50を作製する。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回電極体50を挟み込んだのち、その外装部材60の外縁部同士を熱融着などで接着させて巻回電極体50を封入する。この際、正極リード51および負極リード52と外装部材60との間に、密着フィルム61を挿入する。これにより、図6および図7に示した二次電池が完成する。
第2の製造方法では、最初に、正極53に正極リード51を取り付けると共に、負極54に負極リード52を取り付ける。続いて、セパレータ55を介して正極53と負極54とを積層して巻回させたのち、その最外周部に保護テープ57を接着させて、巻回電極体50の前駆体である巻回体を作製する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させて、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材60の内部に注入したのち、外装部材60の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質56を形成する。これにより、図6および図7に示した二次電池が完成する。
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ55を用いることを除き、上記した第2の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材60の内部に収納する。このセパレータ55に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材60の内部に注入したのち、その外装部材60の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材60に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ55を正極53および負極54に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質56が形成されるため、図6および図7に示した二次電池が完成する。
この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、二次電池の膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや溶媒などが電解質56中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極53、負極54およびセパレータ55と電解質56との間において十分な密着性が得られる。
このラミネートフィルム型の二次電池によれば、負極54が上記した負極と同様の構成を有しているので、高容量を確保しつつ、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池に関する上記以外の効果は、第1の二次電池と同様である。
(第4の二次電池)
図8は、第4の二次電池の断面構成を表している。この二次電池は、正極71を外装缶74に貼り付けると共に負極72を外装カップ75に収容し、それらを電解液が含浸されたセパレータ73を介して積層したのちにガスケット76を介してかしめたものである。この外装缶74および外装カップ75を用いた電池構造は、いわゆるコイン型と呼ばれている。
正極71は、正極集電体71Aの一面に正極活物質層71Bが設けられたものである。負極72は、正極集電体72Aの一面に負極活物質層72Bが設けられたものである。正極集電体71A、正極活物質層71B、負極集電体72A、負極活物質層72Bおよびセパレータ73の構成は、それぞれ上記した第1の電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。
この二次電池では、上記した第1の電池の同様に、正極71と負極72との間でリチウムイオンが吸蔵および放出される。すなわち、充電を行うと、例えば、正極71からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極72に吸蔵される。一方、放電を行うと、負極72からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極71に吸蔵される。
このコイン型の二次電池によれば、負極72が上記した負極と同様の構成を有しているので、高容量を確保しつつ、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池に関する上記以外の効果は、第1の二次電池と同様である。
本発明の実施例について詳細に説明する。
(実施例1−1)
以下の手順により、図8に示したコイン型の二次電池を製造した。この際、負極72の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
最初に、正極71を作製した。まず、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃で5時間焼成することにより、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物91質量部と、正極導電材としてグラファイト6質量部と、正極結着材としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーとした。さらに、帯状のアルミニウム箔(厚さ=12μm)からなる正極集電体71Aの一面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型することにより、正極活物質層71Bを形成した。最後に、正極活物質層71Bが形成された正極集電体71Aを直径15.5mmのペレットとなるように打ち抜いた。
次に、負極72を作製した。まず、負極集電体72Aとして粗面化された電解銅箔(厚さ=15μm,十点平均粗さRz=3.6μm)と、負極活物質としてのケイ素粒子とを準備した。こののち、焼成法により、負極集電体72Aの一面に負極活物質層72Bを形成した。具体的には、負極活物質としての平均粒径5μmのケイ素粒子と、結着材としてのポリイミドを20重量%の濃度でN−メチル−2−ピロリドンに溶解させたものとを重量比7:2の割合で混合して第1の負極合剤スラリーを作製した。この第1の負極合剤スラリーを負極集電体72Aの一面に均一に塗布して80℃で乾燥させたのち、圧縮成型することで約6μmの第1の負極活物質層を得た。続いて、負極活物質としての平均粒径3μmのケイ素粒子と、結着材としてのポリイミドを20重量%の濃度でN−メチル−2−ピロリドンに溶解させたものとを重量比7:2の割合で混合して第2の負極合剤スラリーを作製した。そののち、この第2の負極合剤スラリーを第1の負極活物質層上に均一に塗布して80℃で乾燥させたのち、圧縮成型することで約6μmの第2の負極活物質層を得た。さらに、全体を、真空雰囲気下において700℃の温度で3時間に亘って加熱することで、厚さ12μmの負極活物質層72Bを得た。最後に、負極活物質層72Bが形成された負極集電体72Aを直径16mmのペレットとなるように打ち抜いた。
続いて、正極71、負極72、およびセパレータ73を、正極活物質層71Bと負極活物質層72Bとがセパレータ73を介して対向するように積層したのち、外装缶74に収容した。セパレータ73としては、微多孔性ポリエチレンフィルムを一対の微多孔性ポリプロピレンフィルムによって挟み込んだ構造を有し、全体の厚さが23μmのものを用いた。そののち、電解液を注入し、ガスケット76を介して外装カップ75を被せてかしめることにより、コイン型の二次電池を完成させた。
ここで、電解液については、溶媒として4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)と炭酸ジエチル(DEC)とを混合したのち、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )および四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )を溶解させたものを用いた。この際、溶媒の組成(FEC:DEC)を重量比で50:50とし、LiPF6 の含有量を溶媒に対して1.0mol/kgとし、LiBF4 の含有量を溶媒に対して1.0mol/kgとした。
(実施例1−2)
平均粒径7μmのケイ素粒子を用いて第1の負極活物質層を形成すると共に、平均粒径5μmのケイ素粒子を用いて第2の負極活物質層を形成したことを除き、他は実施例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
(実施例1−3)
平均粒径7μmのケイ素粒子を用いて第1の負極活物質層を形成すると共に、平均粒径2μmのケイ素粒子を用いて第2の負極活物質層を形成したことを除き、他は実施例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
(実施例1−4)
第1および第2の負極活物質層の厚みをそれぞれ8μmとして、合計の厚みが16μmとなるように負極活物質層を形成したことを除き、他は実施例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
(比較例1−1)
平均粒径3μmのケイ素粒子を用いて第1の負極活物質層を形成すると共に、平均粒径5μmのケイ素粒子を用いて第2の負極活物質層を形成したことを除き、他は実施例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
(比較例1−2)
平均粒径3μmのケイ素粒子を用いて第1の負極活物質層を形成すると共に、平均粒径2μmのケイ素粒子を用いて第2の負極活物質層を形成したことを除き、他は実施例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
(比較例1−3)
平均粒径7μmのケイ素粒子を用いて第1の負極活物質層を形成すると共に、平均粒径5μmのケイ素粒子を用いて第2の負極活物質層を形成したことを除き、他は実施例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
(比較例1−4)
平均粒径7μmのケイ素粒子を用いて第1の負極活物質層を形成すると共に、平均粒径2μmのケイ素粒子を用いて第2の負極活物質層を形成したことを除き、他は実施例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
(比較例1−5)
平均粒径2μmのケイ素粒子を用いて単層構造の負極活物質層を形成したことを除き、他は実施例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。具体的には、平均粒径2μmのケイ素粒子と、結着材としてのポリイミドを20重量%の濃度でN−メチル−2−ピロリドンに溶解させたものとを重量比7:2の割合で混合して負極合剤スラリーを作製した。この負極合剤スラリーを負極集電体の両面に均一に塗布して80℃で乾燥させたのち、圧縮成型することで約12μmの厚さとした。こののち、真空雰囲気下において700℃の温度で3時間に亘って加熱することで、厚さ12μmの単層構造の負極活物質層を得た。
(比較例1−6〜1−8)
それぞれ平均粒径3μm,5μm,7μmのケイ素粒子を用いて負極活物質層を形成したことを除き、他は比較例1−5と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
実施例1−1〜1−4および比較例1−1〜1−8の各二次電池における負極について、以下のようにして空隙率を調査した。具体的には、まず、ミクロトームによって負極の断面を切り出し、負極活物質層と負極集電体との界面近傍、および負極活物質層の表面近傍の双方について走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察像を得た。次いで、その観察像上の面積比率をもとに、負極活物質層における、負極集電体との界面から負極活物質層全体の厚みの1/4に至るまでの厚み範囲の空隙率Aと、負極集電体と反対側の表面から負極活物質層全体の厚みの1/4に至るまでの厚み範囲の空隙率Bとをそれぞれ算出した。その一方で、各二次電池における負極から、2.5cm×35cmの試験片を切り出し、水銀ポロシメータにより負極活物質層全体の平均空隙率を測定した。それらの結果を表1に示す。
また、実施例1−1〜1−4および比較例1−1〜1−8の二次電池について初回充電容量およびサイクル特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
具体的には、23℃の雰囲気中において以下の要領で充放電を行った。まず充電については、電池電圧が4.2Vに到達するまで0.2Cの定電流で定電流充電を行い、引き続き4.2Vの定電圧で電流値が0.05Cに到達するまで定電圧充電した。ここで、初回の充電容量を測定した。次に、放電については、電池電圧が2.5Vに到達するまで0.2Cの定電流で定電流放電を行った。この充電と放電との組み合わせを1サイクルとし、100サイクルまで充放電を繰り返し行い、放電容量維持率(サイクル特性)として、1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の比率、すなわち、放電容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100を算出した。
なお、上記した空隙率A,B、平均空隙率、初回充電容量およびサイクル特性を調べる際の手順および条件は、以降の一連の実施例および比較例に関する同特性の評価についても同様である。
表1に示したように、実施例1−1〜1−4では、空隙率Aと空隙率Bとの比A/Bが1.1以上1.7以上であるので、比較例1−1〜1−3と比較して、同程度の初回充電容量を確保しつつ、より高い放電容量維持率が得られた。
これらの結果は、負極活物質層のうち、負極集電体との界面近傍において空隙率を高めたことにより、充放電時において負極活物質層の膨張および収縮が緩和されたことによるものと考えられる。
(実施例2−1〜2−6)
焼成法に代えて電子ビーム蒸着法により負極活物質層72Bを形成したこと、および負極集電体72Aとして、表面の十点平均粗さRzが表2に示した値の電解銅箔を用いたことを除き、他は実施例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。具体的には、ケイ素からなる厚み6μmの負極活物質層72Bを、1回の堆積工程で1μmずつ堆積させ、合計6回繰り返すことで形成した。その際、チャンバ内に導入する酸素量を各回の堆積工程で変更すると共に、堆積後に大気中の酸素によって高酸素濃度領域を負極活物質層72Bの内部に形成するようにした。厚み方向の堆積速度は21μm/分とした。
(比較例2−1)
負極集電体として、表面の十点平均粗さRzが0.5μmの電解銅箔を用いたことを除き、他は実施例2−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
(比較例2−2)
負極集電体として、表面の十点平均粗さRzが48μmの電解銅箔を用いたことを除き、他は実施例2−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
(比較例2−3)
厚み方向の堆積速度を10μm/分としたこと、および表面の十点平均粗さRzが39μmの電解銅箔を用いたことを除き、他は実施例2−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
(比較例2−4)
厚み方向の堆積速度を40μm/分としたことを除き、他は実施例2−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
これらの実施例2−1〜2−6および比較例2−1〜2−4の二次電池について空隙率A,B、平均空隙率、初回充電容量およびサイクル特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
表2に示したように、実施例2−1〜2−6では、空隙率Aと空隙率Bとの比A/Bが1.1以上1.7以上であるので、比較例2−1〜2−4と比較して、同程度の初回充電容量を確保しつつ、より高い放電容量維持率が得られた。
これらの結果は、負極活物質層のうち、負極集電体との界面近傍において空隙率を高めたことにより、充放電時において負極活物質層の膨張および収縮が緩和されたことによるものと考えられる。
(実施例3−1〜3−7)
負極集電体72Aとして、表面の十点平均粗さRzが表3に示した値の電解銅箔を用いたことを除き、他は実施例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。
これらの実施例3−1〜3−7の二次電池について空隙率A,B、平均空隙率、初回充電容量およびサイクル特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
表3に示したように、実施例3−1〜3−7では、空隙率Aと空隙率Bとの比A/Bが1.1以上1.7以上であるので、実施例1−1と同程度の初回充電容量および放電容量維持率が得られた。特に、負極集電体72Aの表面の十点平均粗さRzが1.5μm以上40μm以下の場合に、良好な初回充電容量を確保しつつ、より高い放電容量維持率が得られた。
(比較例4−1)
負極活物質としてケイ素粒子の代わりに炭素粒子を用い、以下のように負極を形成したことを除き、他は実施例1−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した。まず、負極活物質としての平均粒径20μmのメソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)と、結着材としてのポリフッ化ビニリデンと、黒鉛化した気相法炭素繊維VGCF (Vapor Grown Carbon Fiber)とを90:7:3の重量比で混合し、その混合物を所定量のN−メチル−2−ピロリドンに溶解させることで第1の負極合剤スラリーを作製した。この第1の負極合剤スラリーを負極集電体72Aの両面に均一に塗布して80℃で乾燥させたのち、圧縮成型することで約75μmの第1の負極活物質層を得た。続いて、負極活物質としての平均粒径10μmのMCMBと、結着材としてのポリフッ化ビニリデンと、黒鉛化した気相法炭素繊維VGCFとを90:7:3の重量比で混合し、その混合物を所定量のN−メチル−2−ピロリドンに溶解させることで第2の負極合剤スラリーを作製した。そののち、この第2の負極合剤スラリーを第1の負極活物質層上に均一に塗布して80℃で乾燥させたのち、圧縮成型することで約75μmの第2の負極活物質層を得た。さらに、全体を、真空雰囲気下において700℃の温度で3時間に亘って加熱することで、厚さ145μmの負極活物質層72Bを得た。最後に、負極活物質層72Bが形成された負極集電体72Aを直径16mmのペレットとなるように打ち抜いた。
(比較例4−2)
平均粒径10μmのMCMBを用いて第1の負極活物質層を形成すると共に、平均粒径20μmのMCMBを用いて第2の負極活物質層を形成したことを除き、他は比較例4−1と同様にしてコイン型の二次電池を作製した
これらの比較例4−1,4−2の二次電池について空隙率A,B、平均空隙率、初回充電容量およびサイクル特性を調べたところ、表4に示した結果が得られた。
表4に示したように、比較例4−1,4−2では、空隙率Aと空隙率Bとの比A/Bが異なっているにもかかわらず、ほぼ同等の初回充電容量および放電容量維持率が得られた。しかしながら、負極活物質がケイ素を含む場合(実施例1−1〜1−4,2−1〜2−6,3−1〜3−5)と比べると、初回充電容量が小さな値であった。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の負極の使用用途は、必ずしも二次電池に限らず、二次電池以外の他の電気化学デバイスであっても良い。他の用途としては、例えば、キャパシタなどが挙げられる。
また、上記した実施の形態および実施例では、二次電池の種類として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の二次電池は、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に伴う容量とリチウムの析出および溶解に伴う容量とを含み、かつ、それらの容量の和によって表される二次電池についても、同様に適用可能である。この二次電池では、負極活物質としてリチウムを吸蔵および放出することが可能な材料が用いられ、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料における充電可能な容量が正極の放電容量よりも小さくなるように設定される。
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他の1族元素や、マグネシウム(Mg)あるいはカルシウム(Ca)などの2族元素や、アルミニウムなどの他の軽金属を用いてもよい。これらの場合においても、負極活物質として、上記した実施の形態で説明した負極材料を用いることが可能である。
1,22A,42A,54A,72A…負極集電体、2,22B,42B,54B,72B…負極活物質層、11,31…電池缶、12,32,33…絶縁板、13,34…電池蓋、14…端子板、15…正極ピン、16…絶縁ケース、17,37…ガスケット、18…開裂弁、19…注入孔、19A…封止部材、20…電池素子、21,41,53,71…正極、21A,41A,53A,71A…正極集電体、21B,41B,53B,71B…正極活物質層、22,42,54,72…負極、23,43,55,73…セパレータ、24,45,51…正極リード、25,46,52…負極リード、35…安全弁機構、35A…ディスク板、36…熱感抵抗素子、40,50…巻回電極体、44…センターピン、56…電解質、57…保護テープ、61…密着フィルム、60…外装部材。