以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る負極の断面構成を表している。この負極は、例えば二次電池などの電気化学デバイスに用いられるものであり、一対の面を有する負極集電体1と、その負極集電体1に設けられた負極活物質層2と、その負極活物質層2に設けられた被膜3とを有している。この負極活物質層2は、負極集電体1の両面に設けられていてもよいし、片面だけに設けられていてもよい。被膜3も同様である。なお、以下では、この負極において吸蔵および放出される電極反応物質をリチウムとした場合について説明する。
負極集電体1は、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有する金属材料によって構成されているのが好ましい。このような金属材料としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)あるいはステンレス(SUS)などが挙げられ、中でも銅が好ましい。高い電気伝導性が得られるからである。
特に、上記した金属材料は、リチウムと金属間化合物を形成しない金属元素のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいるのが好ましい。リチウムと金属間化合物を形成すると、電気化学デバイスの動作時(例えば二次電池の充放電時)に負極活物質層2の膨張および収縮による応力の影響を受けやすいため、集電性が低下する可能性があると共に、負極活物質層2が負極集電体1から剥離する可能性もあるからである。このような金属元素としては、例えば、銅、ニッケル、チタン(Ti)、鉄(Fe)あるいはクロム(Cr)などが挙げられる。
また、上記した金属材料は、負極活物質層2と合金化する金属元素のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいるのが好ましい。負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性が向上するため、その負極活物質層2が負極集電体1から剥離しにくくなるからである。リチウムと金属間化合物を形成せず、しかも負極活物質層2と合金化する金属元素としては、例えば、負極活物質層2が負極活物質としてケイ素を含む場合には、銅、ニッケルあるいは鉄などが挙げられる。これらの金属元素は、強度および導電性の観点からも好ましい。
なお、負極集電体1は、単層構造を有していてもよいし、多層構造を有していてもよい。負極集電体1が多層構造を有する場合には、例えば、負極活物質層2と隣接する層がそれと合金化する金属材料によって構成され、隣接しない層が他の金属材料によって構成されるのが好ましい。
負極集電体1の表面は、粗面化されているのが好ましい。いわゆるアンカー効果によって負極集電体1と負極活物質層2との間の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層2と対向する領域において、負極集電体1の表面が粗面化されていればよい。この粗面化の方法としては、例えば、電解処理によって微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中において電解法によって負極集電体1の表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。この電解処理により粗面化された銅箔を含め、電解処理が施された銅箔は、一般に「電解銅箔」と呼ばれている。
負極活物質層2は、負極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。この負極活物質層2は、必要に応じて、導電剤あるいは結着剤などの他の材料を含んでいてもよい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料が挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。このような負極材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。
なお、本発明における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。また、「合金」は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
上記した金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種が好ましく、ケイ素がより好ましい。リチウムを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
ケイ素の単体を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体を主体として有する材料が挙げられる。この負極材料を含む負極活物質層2は、例えば、ケイ素単体層の間にケイ素以外の第2の構成元素と酸素とが存在する構造を有している。この負極活物質層2におけるケイ素および酸素の合計の含有量は、50質量%以上であるのが好ましく、特にケイ素単体の含有量が50質量%以上であるのが好ましい。ケイ素以外の第2の構成元素としては、例えば、チタン(Ti)、クロム、マンガン(Mn)、鉄、コバルト(Co)、ニッケル、銅、亜鉛、インジウム、銀、マグネシウム、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、ビスマスあるいはアンチモン(Sb)などが挙げられる。ケイ素の単体を主体として有する材料を含む負極活物質層2は、例えば、ケイ素と他の構成元素とを共蒸着することにより形成可能である。
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。ケイ素の化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素(C)を有するものが挙げられ、ケイ素に加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。ケイ素の合金あるいは化合物の一例としては、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 N4 、Si2 N2 O、SiOv (0<v≦2)あるいはLiSiOなどが挙げられる。
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。スズの化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素を有するものが挙げられ、スズに加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。スズの合金あるいは化合物の一例としては、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnOあるいはMg2 Snなどが挙げられる。
特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、それに加えて第2および第3の構成元素を有するものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種である。第2および第3の構成元素を有することにより、負極が二次電池などの電気化学デバイスに用いられた場合にサイクル特性が向上するからである。
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として有し、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を有していてもよい。この他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上を有していてもよい。より高い効果が得られるからである。
なお、SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性あるいは非晶質な相であるのが好ましい。この相は、リチウムと反応可能な反応相であり、これによって優れたサイクル特性が得られるようになっている。この相のX線回折によって得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムがより円滑に吸蔵および放出され、しかも電解液を備えた二次電池などの電気化学デバイスに負極が用いられた場合に、電解液との反応性が低減されるからである。
X線回折によって得られた回折ピークがリチウムと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較することによって容易に判断することができる。例えば、リチウムとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性あるいは非晶質な反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。この低結晶性あるいは非晶質な反応相は、例えば、上記した各構成元素を含んでおり、主に、炭素によって低結晶化あるいは非晶質化しているものと考えられる。
なお、SnCoC含有材料は、低結晶性あるいは非晶質な相に加えて、各構成元素の単体あるいは一部を含む相を有している場合もある。
特に、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合しているのが好ましい。スズなどの凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSは、軟X線(市販の装置ではAl−Kα線か、Mg−Kα線を用いる)を試料表面に照射し、試料表面から飛び出してくる光電子の運動エネルギーを測定することによって、試料表面から数nmの領域の元素組成、および元素の結合状態を調べる方法である。
元素の内殻軌道電子の束縛エネルギーは、第1近似的には、元素上の電荷密度と相関して変化する。例えば、炭素元素の電荷密度が近傍に存在する元素との相互作用によって減少した場合には、2p電子などの外殻電子が減少しているので、炭素元素の1s電子は殻から強い束縛力を受けることになる。すなわち、元素の電荷密度が減少すると、束縛エネルギーは高くなる。XPSでは、束縛エネルギーが高くなると、高いエネルギー領域にピークはシフトするようになっている。
XPSにおいて、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば炭素よりも陽性な元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合している場合には、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる。
なお、XPS測定を行う場合には、表面が表面汚染炭素で覆われている際に、XPS装置に付属のアルゴンイオン銃で表面を軽くスパッタするのが好ましい。また、測定対象のSnCoC含有材料を有する負極が電解液を備えた二次電池などの電気化学デバイスの中に存在する場合には、電気化学デバイスを解体して負極を取り出したのち、炭酸ジメチルなどの揮発性溶媒で洗浄するとよい。負極表面に存在する揮発性の低い溶媒と電解質塩とを除去するためである。これらのサンプリングは、不活性雰囲気下で行うのが好ましい。
また、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸の補正に、例えばC1sのピークを用いる。通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。なお、XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
このSnCoC含有材料は、例えば、各構成元素の原料を混合した混合物を電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解させたのち、凝固させる方法によって形成可能である。また、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法や、各種ロール法や、メカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法などを用いてもよい。中でも、メカノケミカル反応を利用した方法が好ましい。SnCoC含有材料が低結晶性あるいは非晶質な構造になるからである。メカノケミカル反応を利用した方法では、例えば、遊星ボールミルやアトライタなどの製造装置を用いることができる。
原料には、各構成元素の単体を混合して用いてもよいが、炭素以外の構成元素の一部については合金を用いるのが好ましい。このような合金に炭素を加えてメカニカルアロイング法を利用した方法によって合成することにより、低結晶性あるいは非晶質な構造が得られ、反応時間も短縮されるからである。なお、原料の形態は、粉体であってもよいし、塊状であってもよい。
このSnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄および炭素を構成元素として有するSnCoFeC含有材料も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、鉄の含有量が0.3質量%以上5.9重量%以下、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるのが好ましい。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が11.9質量%以上29.7質量%以下、スズとコバルトと鉄との合計に対するコバルトと鉄との合計の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))が26.4質量%以上48.5質量%以下、コバルトと鉄との合計に対するコバルトの割合(Co/(Co+Fe))が9.9質量%以上79.5質量%以下であるのが好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の結晶性、元素の結合状態の測定方法、および形成方法などについては、上記したSnCoC含有材料と同様である。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料として、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料を用いた負極活物質層2は、例えば、気相法、液相法、溶射法、塗布法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて形成される。この場合には、負極集電体1と負極活物質層2とが界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。詳細には、両者の界面において、負極集電体1の構成元素が負極活物質層2に拡散していてもよいし、負極活物質層2の構成元素が負極集電体1に拡散していてもよいし、それらの構成元素が互いに拡散し合っていてもよい。充放電時における負極活物質層2の膨張および収縮に起因する破壊が抑制されると共に、負極集電体1と負極活物質層2との間の電子伝導性が向上するからである。
なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(Chemical Vapor Deposition :CVD)法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電解鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。塗布法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合したのち、溶剤に分散させて塗布する方法である。焼成法とは、例えば、塗布法によって塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
上記した他、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。この炭素材料とは、例えば、易黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このコークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものである。炭素材料は電極反応物質の吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないため、例えば、他の負極材料と一緒に用いることにより、高いエネルギー密度が得られると共に、負極が二次電池などの電気化学デバイスに用いられた場合に優れたサイクル特性も得られ、さらに導電剤としても機能するので好ましい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれでもよい。
また、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な金属酸化物あるいは高分子化合物なども挙げられる。金属酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどが挙げられ、高分子化合物としては、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンあるいはポリピロールなどが挙げられる。
もちろん、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記した一連の負極材料を任意の組み合わせで2種類以上混合してもよい。
上記した負極材料よりなる負極活物質は、複数の粒子状をなしている。すなわち、負極活物質層2は、複数の負極活物質粒子を有している。この負極活物質粒子は、例えば、上記した気相法などによって形成されている。ただし、負極活物質粒子は、気相法以外の方法によって形成されていてもよい。
負極活物質粒子が気相法によって形成されている場合には、その負極活物質粒子が単一の堆積工程を経て形成された単層構造を有していてもよいし、複数回の堆積工程を経て形成された多層構造を有していてもよい。ただし、堆積時に高熱を伴う蒸着法などによって負極活物質粒子を形成する場合には、その負極活物質粒子が多層構造を有しているのが好ましい。負極材料の堆積工程を複数回に分割して行う(負極材料を順次薄く形成して堆積させる)ことにより、その堆積工程を1回で行う場合と比較して負極集電体1が高熱に晒される時間が短くなり、熱的ダメージを受けにくくなるからである。
この負極活物質粒子は、例えば、負極集電体1の表面から負極活物質層2の厚さ方向に成長しており、その根元において負極集電体1に連結されている。この場合には、負極活物質粒子が気相法によって形成されており、上記したように、負極集電体1との界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。具体的には、両者の界面において、負極集電体1の構成元素が負極活物質粒子に拡散していてもよいし、負極活物質粒子の構成元素が負極集電体1に拡散していてもよいし、両者の構成元素が互いに拡散し合っていてもよい。
特に、負極活物質層2は、必要に応じて、負極活物質粒子の表面(電解液と接する領域)を被覆する酸化物含有膜を有しているのが好ましい。電解液を備えた二次電池などの電気化学デバイスに負極が用いられた場合に、酸化物含有膜が電解液に対する保護膜として機能するため、充放電を繰り返しても電解液の分解反応が抑制されるからである。この酸化物含有膜は、負極活物質粒子の表面のうちの一部を被覆していてもよいし、全部を被覆していてもよい。
この酸化物含有膜は、金属元素あるいは半金属元素の酸化物を含有している。この金属元素あるいは半金属元素の酸化物としては、例えば、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、ゲルマニウムあるいはスズなどの酸化物が挙げられる。中でも、この酸化物含有膜は、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群のうちの少なくとも1種の酸化物を含有しているのが好ましく、特にケイ素の酸化物を含有しているのが好ましい。負極活物質粒子の表面を全体に渡って容易に被覆しやすいと共に、優れた保護機能が得られるからである。もちろん、酸化物含有膜は、上記以外の他の酸化物を含有していてもよい。
この酸化物含有膜は、例えば、気相法あるいは液相法などの1種あるいは2種以上の方法を用いて形成される。この場合の気相法としては、例えば、蒸着法、スパッタ法あるいはCVD法などが挙げられ、液相法としては、例えば、液相析出法、ゾルゲル法、ポリシラザン法、電析法、塗布法あるいはディップコーティング法などが挙げられる。中でも、液相法が好ましく、液相析出法がより好ましい。負極活物質粒子の表面を広い範囲に渡って容易に被覆しやすいからである。なお、液相析出法では、まず、金属元素あるいは半金族元素のフッ化物錯体と共にアニオン捕捉剤としてフッ化物イオンを配位しやすい溶存種を含む溶液中において、負極活物質粒子の表面が被覆されるように金属元素あるいは半金族元素の酸化物を析出させる。この際、溶液中では、フッ化物錯体から生じるフッ化物イオンをアニオン捕捉剤に捕捉させることとなる。こののち、水洗および乾燥させることにより、酸化物含有膜を形成する。
また、負極活物質層2は、必要に応じて、負極活物質粒子の粒子間の隙間および粒子内の隙間に、リチウムと合金化しない金属材料を有しているのが好ましい。金属材料を介して複数の負極活物質粒子が結着されると共に、上記した隙間に金属材料が存在することで負極活物質層2の膨張および収縮が抑制されるため、負極が二次電池などの電気化学デバイスに用いられた場合にサイクル特性が向上するからである。
この金属材料は、例えば、リチウムと合金化しない金属元素を構成元素として有している。このような金属元素としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛および銅からなる群のうちの少なくとも1種が挙げられ、中でもコバルトが好ましい。上記した隙間に金属材料が容易に入り込みやすいと共に、優れた結着機能が得られるからである。もちろん、金属材料は、上記以外の他の金属元素を有していてもよい。ただし、ここで言う「金属材料」とは、単体に限らず、合金や金属化合物まで含む広い概念である。この金属材料は、例えば、気相法あるいは液相法によって形成されており、中でも電解鍍金法あるいは無電解鍍金法などの液相法が好ましく、電解鍍金法がより好ましい。上記した隙間に金属材料が入り込みやすくなると共に、その形成時間が短くて済むからである。
なお、負極活物質層2は、上記した酸化物含有膜あるいは金属材料のいずれか一方だけを有していてもよいし、双方を有していてもよい。ただし、二次電池などの電気化学デバイスのサイクル特性をより向上させるためには、双方を有しているのが好ましい。
ここで、図2〜図5を参照して、負極の詳細な構成について説明する。
まず、負極活物質層2が複数の負極活物質粒子と共に酸化物含有膜を有する場合について説明する。図2は本発明の負極の断面構造を模式的に表しており、図3は参考例の負極の断面構造を模式的に表している。なお、図2および図3では、負極活物質粒子が単層構造を有している場合を示している。
本発明の負極では、図2に示したように、例えば、蒸着法などの気相法によって負極集電体1上に負極材料が堆積されると、その負極集電体1上に複数の負極活物質粒子201が形成される。この場合には、負極集電体1の表面が粗面化され、その表面に複数の突起部(例えば、電解処理により形成された微粒子)が存在すると、負極活物質粒子201が上記した突起部ごとに厚さ方向に成長するため、複数の負極活物質粒子201が負極集電体1上において配列されると共に根元において負極集電体1に連結される。こののち、例えば、液相析出法などの液相法によって負極活物質粒子201の表面に酸化物含有膜202が形成されると、その酸化物含有膜202は負極活物質粒子201の表面をほぼ全体に渡って被覆し、特に、負極活物質粒子201の頭頂部から根元に至る広い範囲を被覆する。この酸化物含有膜202による広範囲な被覆状態は、その酸化物含有膜202が液相法によって形成された場合に得られる特徴である。すなわち、液相法によって酸化物含有膜202を形成すると、その被覆作用が負極活物質粒子201の頭頂部だけでなく根元まで広く及ぶため、その根元まで酸化物含有膜202によって被覆される。
これに対して、参考例の負極では、図3に示したように、例えば、気相法によって複数の負極活物質粒子201が形成されたのち、同様に蒸着法などの気相法によって酸化物含有膜203が形成されると、その酸化物含有膜203は負極活物質粒子201の頭頂部だけを被覆する。この酸化物含有膜203による狭範囲な被覆状態は、その酸化物含有膜203が気相法によって形成された場合に得られる特徴である。すなわち、気相法によって酸化物含有膜203を形成すると、その被覆作用が負極活物質粒子201の頭頂部に及ぶものの根元まで及ばないため、その根元までは酸化物含有膜203によって被覆されない。
なお、図2では、気相法によって負極活物質層2が形成される場合について説明したが、焼結法などによって負極活物質層2が形成される場合においても同様に、複数の負極活物質粒子の表面をほぼ全体に渡って被覆するように酸化物含有膜が形成される。
次に、負極活物質層2が複数の負極活物質粒子と共にリチウムと合金化しない金属材料を有する場合について説明する。図4は負極の断面構造を拡大して表しており、(A)は走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)写真(二次電子像)、(B)は(A)に示したSEM像の模式絵である。図4では、複数の負極活物質粒子が粒子内に多層構造を有している場合を示している。
負極活物質粒子201が多層構造を有する場合には、その複数の負極活物質粒子201の密集構造、多層構造および表面構造に起因して、負極活物質層2中に複数の隙間204が生じている。この隙間204は、主に、発生原因に応じて分類された2種類の隙間204A,204Bを含んでいる。隙間204Aは、隣り合う負極活物質粒子201間に生じるものであり、隙間204Bは、負極活物質粒子201内の各階層間に生じるものである。
なお、負極活物質粒子201の露出面(最表面)には、空隙205が生じる場合がある。この空隙205は、負極活物質粒子201の表面にひげ状の微細な突起部(図示せず)が生じることに伴い、その突起部間に生じた空隙である。この空隙205は、負極活物質粒子201の露出面において、全体に渡って生じる場合もあれば、一部だけに生じる場合もある。ただし、上記したひげ状の突起部は、負極活物質粒子201の形成時ごとにその表面に生じるため、空隙205は、負極活物質粒子201の露出面だけでなく、各階層間にも生じる場合がある。
図5は負極の他の断面構造を表しており、図4に対応している。負極活物質層2は、隙間204A,204Bに、リチウムと合金化しない金属材料206を有している。この場合には、隙間204A,204Bのうちのいずれか一方だけに金属材料206を有していてもよいが、双方に金属材料206を有しているのが好ましい。より高い効果が得られるからである。
この金属材料206は、隣り合う負極活物質粒子201間の隙間204Aに入り込んでいる。詳細には、気相法などによって負極活物質粒子201が形成される場合には、上記したように、負極集電体1の表面に存在する突起部ごとに負極活物質粒子201が成長するため、隣り合う負極活物質粒子201間に隙間204Aが生じる。この隙間204Aは、負極活物質層2の結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、上記した隙間204Aに金属材料206が充填されている。この場合には、隙間204Aの一部でも充填されていればよいが、その充填量が多いほど好ましい。負極活物質層2の結着性がより向上するからである。金属材料206の充填量は、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
また、金属材料206は、負極活物質粒子201内の隙間204Bに入り込んでいる。詳細には、負極活物質粒子201が多層構造を有する場合には、各階層間に隙間204Bが生じる。この隙間204Bは、上記した隙間204Aと同様に、負極活物質層2の結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、上記した隙間204Bに金属材料206が充填されている。この場合には、隙間204Bの一部でも充填されていればよいが、その充填量が多いほど好ましい。負極活物質層2の結着性がより向上するからである。
なお、負極活物質層2は、最上層の負極活物質粒子201の露出面に生じるひげ状の微細な突起部(図示せず)が電気化学デバイスの性能に悪影響を及ぼすことを抑えるために、空隙205に金属材料206を有していてもよい。詳細には、気相法などによって負極活物質粒子201が形成される場合には、その表面にひげ状の微細な突起部が生じるため、その突起部間に空隙205が生じる。この空隙205は、負極活物質粒子201の表面積の増加を招き、その表面に形成される不可逆性の被膜の量も増加させるため、電極反応の進行度を低下させる原因となる可能性がある。したがって、電極反応の進行度の低下を抑えるために、上記した空隙205に金属材料206が埋め込まれている。この場合には、空隙205の一部でも埋め込まれていればよいが、その埋め込む量が多いほど好ましい。電極反応の進行度の低下がより抑えられるからである。図5において、最上層の負極活物質粒子201の表面に金属材料206が点在していることは、その点在箇所に上記した微細な突起部が存在していること表している。もちろん、金属材料206は、必ずしも負極活物質粒子201の表面に点在していなければならないわけではなく、その表面全体を被覆していてもよい。
特に、隙間204Bに入り込んだ金属材料206は、各階層における空隙205を埋め込む機能も果たしている。詳細には、負極活物質粒子201が複数回に渡って堆積される場合には、その堆積時ごとに負極活物質粒子201の表面に上記した微細な突起部が生じる。このことから、金属材料206は、各階層における隙間204Bに充填されているだけでなく、各階層における空隙205も埋め込んでいる。
確認までに、図4および図5では、負極活物質粒子201が多層構造を有しており、負極活物質層2中に隙間204A,204Bの双方が存在している場合について説明したため、負極活物質層2が隙間204A,204Bに金属材料206を有している。これに対して、負極活物質粒子201が単層構造を有しており、負極活物質層2中に隙間204Aだけが存在する場合には、負極活物質層2が隙間204Aだけに金属材料206を有することとなる。もちろん、空隙205は両者の場合において生じるため、いずれの場合においても空隙205に金属材料206を有する。
導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、あるいはケチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。なお、導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
被膜3は、1種あるいは2種以上の化合物を含有して構成されており、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS)で、Cn H2n+1S+ (nは1以上の整数である。)で表される正二次イオンのピークを有するようになっている。なお、飛行時間型二次イオン分析は、飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて行うことができ、上記した正二次イオンは、その装置による正二次イオン分析で検出することができる。すなわち、負極活物質層2の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて正二次イオン分析すると、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンが検出され、その正二次イオンがピークとして得られることとなる。このことは、負極活物質層2の表面に、TOF−SIMSで、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンのピークが検出される材料(化合物)を含有する被膜3が設けられていることを表し、具体的には、被膜3は、炭素原子に共有結合を介して硫黄原子が結合した構造(C−S結合)を含む化合物を含有することを表している。このような被膜3を有することにより、負極の化学的安定性が向上する。よって、負極が二次電池などの電気化学デバイスに用いられた場合に、負極において、被膜3が負極活物質層2の酸化を抑制しつつ、リチウムイオンが被膜3を効率よく通過し、良好に吸蔵および放出される。加えて、この際、負極が他の物質(例えば二次電池における電解液)と反応しにくくなる。このため、サイクル特性の向上に寄与するうえ、高容量となる。
この被膜3は、負極活物質層2の全面を覆うように設けられていてもよいし、その表面の一部を覆うように設けられていてもよい。また、被膜3の一部は、負極活物質層2の内部に入り込んでいてもよい。また、被膜3は、飛行時間型二次イオン質量分析で、Cn H2n+1S+ で表されるピークの他に、他のピークを有していてもよい。この他のピークは、被膜3を構成する材料の分解物によるものでもよい。
Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンのnは、1以上の整数であれば任意である。中でもCn H2n+1S+ は、C2 H5 S+ (n=2)、C3 H7 S+ (n=3)およびC4 H9 S+ (n=4)の少なくとも1種であるのが好ましい。被膜3中にC−S結合を適度に多く含むこととなり、より高い効果が得られるからである。
また、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンのピーク強度は、負極活物質層2が負極活物質としてケイ素を含む場合に、被膜3の正二次イオン分析において負極活物質層2が含むケイ素の正二次イオン(Si+ )のピーク強度よりも高いものとなるのが好ましい。被膜3が負極活物質層2の表面を均一に覆うように設けられたこととなるからである。この場合には、ケイ素の正二次イオン(Si+ )に対するCn H2n+1S+ で表される正二次イオンのピーク強度比(Cn H2n+1S+ /Si+ )が10以上となるのが好ましい。十分な効果が得られるからである。
このような被膜3は、C−S結合を有する化合物として、C−S結合を有する高分子化合物を含有していることが好ましい。サイクル特性の向上に寄与するからである。このような高分子化合物としては、例えば、化1で表される構造を含む高分子化合物、あるいは化2で表される構造(化1に示した構造に該当するものを除く)を含む高分子化合物などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混在していてもよい。中でも、化1に示した構造を含む高分子化合物が好ましい。より高い効果が得られるからである。化1中のR1およびR2は同一でもよいし、異なっていてもよい。このことは、化2中のR3〜R6およびR8についても同様である。また、a1およびb1は同一でもよいし、異なっていてもよい。
(R1およびR2は水素基あるいは炭化水素基である。ただし、R1およびR2は結合して環状構造を形成してもよい。a1およびb1は1以上の整数である。)
(R3〜R5は水素基あるいは炭化水素基である。Xは−S−R6、あるいは−C(=O)−O−R7−S−R8である。R6およびR8は炭化水素基である。R7はアルキレン基である。c1は1以上の整数である。)
R1およびR2は、水素基あるいは炭化水素基であればよく、炭化水素基の場合には、その炭素数や構造は任意であり、直鎖状であっても分岐状であってもよく、環状構造を有していてもよい。このような炭化水素基としては、例えば、脂肪族飽和炭化水素基、脂肪族不飽和炭化水素基、芳香族基、あるいは脂環式炭化水素基などが挙げられる。このことは、R3〜R5についても同様である。また、R6およびR8は、炭化水素基であり、R1等が炭化水素基の場合と同様である。また、R7は、アルキレン基であれば、直鎖状であっても分岐状であってもよく、その炭素数も任意である。
また、a1は、1以上の整数であれば任意であるが、1以上5以下であるのが好ましい。a1が6以上の場合よりも、高い効果が得られるからである。b1は1以上の整数であれば任意であり、このことはc1についても同様である。
化1に示した構造を含む高分子化合物としては、例えば、化3で表される一連の高分子化合物などが挙げられ、化2に示した構造を含む高分子化合物としては、例えば、化4で表される一連の高分子化合物などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混在していてもよい。なお、化3に示した(1)はポリエチレンスルフィド(=ポリ(チイラン))である。同様に化3に示した(2)はポリプロピレンスルフィド(=ポリ(メチルチイラン))、(3)はポリ(トリメチレンスルフィド)(=ポリ(チエタン))、(4)はポリ(イソブチレンスルフィド)(=ポリ(ジメチルチイラン))、(5)はポリ(テトラヒドロチオフェン)、化4に示した(1)はポリ(ビニルフェニルスルフィド)である。中でも、化3(1)〜(5)に示した高分子化合物が好ましい。より高い効果が得られるからである。
なお、化1に示した構造あるいは化2に示した構造を含む高分子化合物は、例えば、重合して化1に示した構造あるいは化2に示した構造となる重合性モノマーを用いて合成することができる。例えば、上記した化3(1)〜(5)に示した高分子化合物を合成する場合には、重合して化3(1)〜(5)に示した各構造となる重合性の環状のモノマーを、カチオン重合開始剤あるいはアニオン重合開始剤を用いて開環重合させる。このような環状モノマーとしては、例えば、エチレンスルフィド(化3(1))、プロピレンスルフィド(化3(2))、トリメチレンスルフィド(化3(3))、イソブチレンスルフィド(化3(4))、テトラヒドロチオフェン(化3(5))などが挙げられる。
また、被膜3は、上記した化合物の他に、他の化合物を含有していてもよく、例えば、アルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩を含有していてもよい。被膜抵抗が抑えられるため、負極が二次電池などの電気化学デバイスに用いられた場合に、サイクル特性がより向上するからである。なお、ここでの「アルカリ土類金属」とは、ベリリウム(Be)およびマグネシウムを含むものであり、長周期型周期表における2族元素のことをいう。
このようなアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩としては、例えば、アルカリ金属元素あるいはアルカリ土類金属元素の炭酸塩、ハロゲン化物塩、ホウ酸塩、リン酸塩あるいはスルホン酸塩などが挙げられる。具体的には、例えば、炭酸リチウム(Li2 CO3 )、フッ化リチウム(LiF)、四ホウ酸リチウム(Li2 B4 O7 )、メタホウ酸リチウム(LiBO2 )、ピロリン酸リチウム(Li4 P2 O7 )、トリポリリン酸リチウム(Li5 P3 O10)、オルトケイ酸リチウム(Li4 SiO4 )、メタケイ酸リチウム(Li2 SiO3 )、エタンジスルホン酸二リチウム、プロパンジスルホン酸二リチウム、スルホ酢酸二リチウム、スルホプロピオン酸二リチウム、スルホブタン酸二リチウム、スルホ安息香酸二リチウム、コハク酸二リチウム、スルホコハク酸三リチウム、スクエア酸二リチウム、エタンジスルホン酸マグネシウム、プロパンジスルホン酸マグネシウム、スルホ酢酸マグネシウム、スルホプロピオン酸マグネシウム、スルホブタン酸マグネシウム、スルホ安息香酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、二スルホコハク酸三マグネシウム、エタンジスルホン酸カルシウム、プロパンジスルホン酸カルシウム、スルホ酢酸カルシウム、スルホプロピオン酸カルシウム、スルホブタン酸カルシウム、スルホ安息香酸カルシウム、コハク酸カルシウム、あるいは二スルホコハク酸三カルシウムなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
被膜3の厚さは、100nm以下であることが好ましい。あまり厚くなると電気的な抵抗が大きくなるおそれがあるからである。
被膜3を形成する方法は、形成された被膜3の飛行時間型二次イオン質量分析で、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンのピークが得られるのであれば、任意である。この方法としては、例えば、塗布法、浸漬法あるいはディップコーティング法などの液相法や、蒸着法、スパッタ法あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法などの気相法が挙げられる。これらの方法を単独で用いてもよいし、2種以上の方法を用いてもよい。中でも、液相法として、例えば、上記したような高分子化合物を含有する溶液を用いて被膜3を形成するのが好ましい。具体的には、例えば、浸漬法では、その高分子化合物を含有する溶液中に、負極活物質層2が形成された負極集電体1を浸漬し、あるいは塗布法では、上記した溶液を負極活物質層2に塗布する。これにより、化学的安定性の高い良好な被膜3が容易に形成される。高分子化合物を溶解させる溶媒としては、例えば、有機溶媒などが挙げられる。
なお、この負極が二次電池などの電気化学デバイスの中に存在する場合において、上記した被膜3が形成されているか否かは、例えば、以下の2つの方法により確認することができる。第1の方法としては、まず、充電前の電気化学デバイスを用意し、それを解体して負極を取り出す。続いて、負極活物質層の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて正二次イオン分析する。また、第2の方法としては、電気化学デバイスを解体して負極を取り出したのち、その負極の正極との未対向部分における負極活物質層の表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置を用いて正二次イオン分析する。いずれの方法においても、この正二次イオン分析で、Cn H2n+1S+ のピークが検出されることによって、負極が被膜3を有することを確認することができる。特に、第2の方法では、負極活物質層2の正極との未対向部分が充放電に寄与しない(リチウムの吸蔵および放出に関与しない)ため、負極活物質層2および被膜3の状態が初期状態(負極の製造直後)のまま維持されていることとなる。よって、負極が製造時において被膜3を有するか否かも確認することができる。
この負極は、例えば、以下の手順によって製造される。
まず、負極集電体1の両面に、負極活物質層2を形成する。この負極活物質層2を形成する場合には、蒸着法などの気相法によって負極集電体1の表面に負極材料を堆積させて、複数の負極活物質粒子を形成する。続いて、必要に応じて、液相析出法などの液相法によって酸化物含有膜を形成し、あるいは電解鍍金法などの液相法によって金属材料を形成する。最後に、負極活物質層2の表面に、被膜3を飛行時間型二次イオン質量分析で、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンのピークを有するように形成する。この被膜3を形成する場合には、例えば、高分子化合物を含有する溶液として、例えば、1重量%以上5重量%以下の濃度の溶液を準備し、負極活物質層2が形成された負極集電体1を溶液中に数秒間浸漬したのちに引き上げ、乾燥する。あるいは、上記した溶液を準備し、それを負極活物質層2の表面に塗布して乾燥させる。これにより、負極が完成する。
この負極によれば、負極活物質層2の上に、飛行時間型二次イオン質量分析で、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンのピークを有する被膜3を設けるようにしたので、その被膜を形成しない場合と比較して、負極の化学的安定性が向上する。したがって、負極が二次電池などの電気化学デバイスに用いられた場合に、負極において、被膜3が負極活物質層2の酸化を抑制しつつ、リチウムイオンが被膜3を効率よく通過し、良好に吸蔵および放出される。加えて、この際、負極が他の物質(例えば二次電池における電解液)と反応しにくくなる。このため、サイクル特性の向上に寄与することができる。この場合に、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンがC2 H5 S+ 、C3 H7 S+ およびC4 H9 S+ の少なくとも1種であれば、高い効果を得ることができる。
また、被膜3が化1に示した構造を含む高分子化合物および化2に示した構造(化1に示した構造に該当するものを除く)を含む高分子化合物のうちの少なくとも1種を含有するようにしてもよい。この場合においても、被膜を形成しない場合と比較して、高い効果を得ることができる。
本実施の形態の負極の製造方法によれば、高分子化合物を含有する溶液を用いて、負極活物質層2の上に、上記した被膜3を形成するようにしたので、化学的安定性が高い負極を製造することができる。よって、この負極の製造方法を用いて二次電池などの電気化学デバイスを製造した場合には、サイクル特性の向上に寄与することができる。また、減圧環境などの特殊な環境条件を要する方法を用いる場合と比較して、良好な被膜を簡単に形成することができる。
次に、上記した負極の使用例について説明する。ここで、電気化学デバイスの一例として二次電池を例に挙げると、負極は以下のように用いられる。
(第1の二次電池)
図6および図7は第1の二次電池の断面構成を表しており、図7では図6に示した巻回電極体20の一部を拡大して示している。ここで説明する二次電池は、例えば、負極22の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。
この二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、セパレータ23を介して正極21と負極22とが巻回された巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されたものである。この電池缶11を含む電池構造は、円筒型と呼ばれている。
電池缶11は、例えば、鉄、アルミニウムあるいはそれらの合金などの金属材料によって構成されており、その一端部は閉鎖されていると共に他端部は開放されている。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)16とがガスケット17を介してかしめられて取り付けられている。これにより、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料によって構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続が切断されるようになっている。熱感抵抗素子16は、温度の上昇に応じた抵抗の増大によって電流を制限し、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料によって構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
巻回電極体20の中心には、センターピン24が挿入されていてもよい。この巻回電極体20では、アルミニウムなどの金属材料によって構成された正極リード25が正極21に接続されていると共に、ニッケルなどの金属材料によって構成された負極リード26が負極22に接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接されて電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は、電池缶11に溶接されて電気的に接続されている。
正極21は、例えば、一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。この正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケル、あるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。なお、正極活物質層21Bは、正極活物質を含んでおり、必要に応じて結着剤や導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
正極活物質は、電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。この正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、あるいはリチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物が挙げられ、特に、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、二次電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni(1-z) Coz O2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw O2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 O4 )などが挙げられる。中でも、コバルトを含む複合酸化物が好ましい。高い容量が得られると共に優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe(1-u) Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。
この他、正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、セレン化ニオブなどのカルコゲン化物や、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
負極22は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bおよび被膜22Cが設けられたものである。負極集電体22A、負極活物質層22Bおよび被膜22Cの構成は、それぞれ上記した負極における負極集電体1、負極活物質層2および被膜3の構成と同様である。この負極22では、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量が正極21の充電容量よりも大きくなっているのが好ましい。満充電時においても、負極22にリチウムがデンドライトとなって析出する可能性が低くなるからである。
図8は図6,図7に示した正極21および負極22の平面構成を模式的に表している。なお、図8では、正極活物質層21Bおよび負極活物質層22B(被膜22C)の形成範囲に網掛けを施している。
この二次電池では、例えば、正極活物質層21Bが正極集電体21Aに部分的に設けられていると共に、負極活物質層22Bが負極集電体22Aに対して部分的に設けられている。もちろん、被膜22Cは負極活物質層22B上に設けられている。この負極活物質層22Bは正極活物質層21Bと対向しているが、その負極活物質層22Bの形成範囲は正極活物質層21Bの形成範囲よりも広くなっている。すなわち、負極活物質層22Bは、正極活物質層21Bの形成領域と対向する領域R1と、それと対向しない領域R2とに設けられている。この領域R2は、領域R1の両側に設けられているのが好ましい。
負極活物質層22Bでは、領域R1に設けられている部分が充放電に寄与するのに対して、領域R2に設けられている部分(負極活物質層22Bの正極活物質層21Bとの未対向部分)は充放電に寄与しないため、その領域R2では、負極活物質層22Bの状態が初期状態(二次電池の製造直後)のまま維持される。このことから、負極活物質層22Bに設けられた被膜22Cの状態は領域R2において充放電の影響を受けずに維持されるため、被膜22Cの飛行時間型二次イオン質量分析は、領域R2においてするのが好ましい。
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡(ショート)を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などによって構成されており、これらの2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は、ショート防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による二次電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特に、ポリエチレンは、100℃以上160℃以下でシャットダウン効果を得ることができると共に、電気化学的安定性が優れているので好ましい。また、ポリプロピレンも好ましく、他にも化学的安定性を備えた樹脂であれば、ポリエチレンあるいはポリプロピレンと共重合させたものや、ブレンド化したものであってもよい。
このセパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒のいずれか1種あるいは2種以上を含有している。この非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチルあるいはジメチルスルホキシドなどが挙げられる。中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルからなる群のうちの少なくとも1種が好ましい。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性が得られるからである。この場合には、特に、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば、比誘電率ε≧30)と炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば、粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するため、より高い効果が得られるからである。
この溶媒は、化5で表されるハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび化6で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。負極22の表面に安定な保護膜が形成されて電解液の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。
(R11〜R16は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
(R17〜R20は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
なお、化5中のR11〜R16は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、化6中のR17〜R20についても同様である。ハロゲンの種類は、特に限定されないが、例えば、フッ素、塩素および臭素からなる群のうちの少なくとも1種が挙げられ、中でも、フッ素が好ましい。高い効果が得られるからである。もちろん、他のハロゲンであってもよい。
ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上であってもよい。保護膜を形成する能力が高くなり、より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
化5に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
化6に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルとしては、例えば、化7および化8で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化7に示した(1)の4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)のテトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4−クロロ−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)のテトラクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4,5−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(10)の4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(11)の4,4−ジフルオロ−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(12)の4−エチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。また、化8に示した(1)の4−フルオロ−5−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−メチル−5−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4−フルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)の5−(1,1−ジフルオロエチル)−4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4,5−ジクロロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4−エチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)の4−エチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4−エチル−4,5,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンがより好ましい。特に、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
また、溶媒は、化9〜化11で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有しているのが好ましい。高いサイクル特性が得られるからである。これらは単独でも良いし、複数種が混合されてもよい。
(R21およびR22は水素基あるいはアルキル基である。)
(R23〜R26は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
化9に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン系化合物である。この炭酸ビニレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸メチルビニレン(4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸エチルビニレン(4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4,5−ジエチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4−フルオロ−1,3−ジオキソール−2−オン、あるいは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソール−2−オンなどが挙げられ、中でも炭酸ビニレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
化10に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニルエチレン系化合物である。炭酸ビニルエチレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、4−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−n−プロピル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、中でも炭酸ビニルエチレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。もちろん、R23〜R26としては、全てがビニル基でもよいし、全てがアリル基でもよいし、ビニル基とアリル基とが混在していてもよい。
化11に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸メチレンエチレン系化合物である。炭酸メチレンエチレン系化合物としては、4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジメチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,4−ジエチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。この炭酸メチレンエチレン系化合物としては、1つのメチレン基を有するもの(化11に示した化合物)の他、2つのメチレン基を有するものであってもよい。
なお、不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、化9〜化11に示したものの他、ベンゼン環を有する炭酸カテコール(カテコールカーボネート)などであってもよい。
溶媒中における上記した不飽和結合を有する環状炭酸エステルの含有量は、0.01重量%以上10重量%以下であるのが好ましい。十分な効果が得られるからである。
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)や酸無水物を含有しているのが好ましい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。
スルトンとしては、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどが挙げられ、中でも、プロペンスルトンが好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
酸無水物としては、例えば、コハク酸無水物、グルタル酸無水物あるいはマレイン酸無水物などのカルボン酸無水物や、エタンジスルホン酸無水物あるいはプロパンジスルホン酸無水物などのジスルホン酸無水物や、スルホ安息香酸無水物、スルホプロピオン酸無水物あるいはスルホ酪酸無水物などのカルボン酸とスルホン酸との無水物などが挙げられ、中でも、コハク酸無水物あるいはスルホ安息香酸無水物が好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。このリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムあるいは六フッ化ヒ酸リチウムなどが挙げられる。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性が得られるからである。中でも、六フッ化リン酸リチウムが好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
この電解質塩は、化12〜化14で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有していてもよい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、化12中のR33は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、化13中のR41〜R43および化14中のR51およびR52についても同様である。
(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウムである。M31は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−(O=)C−R32−C(=O)−、−(O=)C−C(R33)
2 −あるいは−(O=)C−C(=O)−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−(O=)C−(C(R41)
2 )
b4−C(=O)−、−(R43)
2 C−(C(R42)
2 )
c4−C(=O)−、−(R43)
2 C−(C(R42)
2 )
c4−C(R43)
2 −、−(R43)
2 C−(C(R42)
2 )
c4−S(=O)
2 −、−(O=)
2 S−(C(R42)
2 )
d4−S(=O)
2 −あるいは−(O=)C−(C(R42)
2 )
d4−S(=O)
2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属元素、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−(O=)C−(C(R51)
2 )
d5−C(=O)−、−(R52)
2 C−(C(R51)
2 )
d5−C(=O)−、−(R52)
2 C−(C(R51)
2 )
d5−C(R52)
2 −、−(R52)
2 C−(C(R51)
2 )
d5−S(=O)
2 −、−(O=)
2 S−(C(R51)
2 )
e5−S(=O)
2 −あるいは−(O=)C−(C(R51)
2 )
e5−S(=O)
2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
なお、長周期型周期表とは、IUPAC(国際純正・応用化学連合)が提唱する無機化学命名法改訂版によって表されるものである。具体的には、1族元素とは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウムである。2族元素とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムである。13族元素とは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびタリウムである。14族元素とは、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズおよび鉛である。15族元素とは、窒素、リン、ヒ素、アンチモンおよびビスマスである。
化12に示した化合物としては、例えば、化15の(1)〜(6)で表される化合物などが挙げられる。化13に示した化合物としては、例えば、化16の(1)〜(8)で表される化合物などが挙げられる。化14に示した化合物としては、例えば、化17で表される化合物などが挙げられる。なお、化12〜化14に示した構造を有する化合物であれば、化15〜化17に示した化合物に限定されないことは言うまでもない。
また、電解質塩は、化18〜化20で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有していてもよい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、化18中のmおよびnは、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、化20中のp、qおよびrについても同様である。
(R61は炭素数が2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
化18に示した鎖状の化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )2 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 F5 SO2 )2 )、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 F5 SO2 ))、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 F7 SO2 ))、あるいは(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 F9 SO2 ))などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
化19に示した環状の化合物としては、例えば、化21で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化21に示した(1)の1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウム、(2)の1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム、(3)の1,3−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウム、(4)の1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
化20に示した鎖状の化合物としては、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )などが挙げられる。
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であるのが好ましい。この範囲外では、イオン伝導性が極端に低下する可能性があるからである。
この二次電池は、例えば、以下の手順によって製造される。
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、結着剤と、導電剤とを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどによって正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながらロールプレス機などによって塗膜を圧縮成型して正極活物質層21Bを形成する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
また、上記した負極の作製手順と同様の手順により、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bおよび被膜22Cを形成して負極22を作製する。
二次電池の組み立ては、以下のようにして行う。最初に、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などして取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層および巻回させて巻回電極体20を作製したのち、その巻回中心にセンターピン24を挿入する。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら巻回電極体20を電池缶11の内部に収納すると共に、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接し、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接する。続いて、上記した電解液を電池缶11の内部に注入して、セパレータ23に含浸させる。最後に、電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより、固定する。これにより、図6および図7に示した二次電池が完成する。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
この円筒型の二次電池によれば、負極22が上記した負極と同様の構成を有しているので、その負極22の化学的安定性が向上する。これにより、負極22においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなると共に電解液の分解が抑制されるため、サイクル特性を向上させることができる。
この場合には、負極22が高容量化に有利なケイ素等(リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を有する材料)を含む場合にサイクル特性が向上するため、炭素材料などの他の負極材料を含む場合よりも高い効果を得ることができる。
この二次電池およびその製造方法に関する他の効果は、上記した負極と同様である。
(第2の二次電池)
図9は第2の二次電池の分解斜視構成を表しており、図10は図9に示した巻回電極体30のX−X線に沿った断面を拡大して示している。この二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、主に、フィルム状の外装部材40の内部に、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30が収納されたものである。この外装部材40を含む電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
正極リード31および負極リード32は、例えば、いずれも外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの金属材料によって構成されており、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。これらの金属材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされたアルミラミネートフィルムによって構成されている。この外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体30と対向するように、2枚の矩形型のアルミラミネートフィルムの外縁部同士が融着あるいは接着剤によって互いに接着された構造を有している。
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料によって構成されている。この種の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
なお、外装部材40は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムによって構成されていてもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムによって構成されていてもよい。
巻回電極体30は、セパレータ35および電解質36を介して正極33と負極34とが積層されたのちに巻回されたものであり、その最外周部は保護テープ37によって保護されている。
図11は、図10に示した巻回電極体30の一部を拡大して表している。正極33は、例えば、一対の面を有する正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、上記した負極と同様の構成を有しており、例えば、一対の面を有する負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bおよび被膜34Cが設けられたものである。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34B、被膜34Cおよびセパレータ35の構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、被膜22Cおよびセパレータ23の構成と同様である。
電解質36は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。
電解液を保持する高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドを含む架橋体あるいはポリプロピレンオキサイドなどのエーテル系高分子化合物や、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸あるいはポリメタクリル酸などのアクリレート系あるいはエステル系高分子化合物や、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレンあるいはポリヘキサフルオロプロピレンなどのフッ素系高分子化合物などが挙げられ、その他に、ポリアクリロニトリル、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、あるいはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、高分子化合物としては、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系高分子化合物が好ましい。酸化還元安定性が高いため、電気化学的に安定だからである。電解質中における高分子化合物の含有量は、電解液との相溶性によっても異なるが、例えば、5重量%以上50重量%以下であるのが好ましい。
電解液の組成は、第1の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、この場合の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
なお、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
ゲル状の電解質36を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の方法によって製造される。
第1の製造方法では、最初に、例えば、上記した第1の二次電池における正極21および負極22の作製手順と同様の手順により、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bおよび被膜34Cを形成して負極34を作製する。続いて、電解液と、それを保持する高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製して正極33および負極34に塗布したのち、溶剤を揮発させてゲル状の電解質36を形成する。続いて、正極33に正極リード31を取り付けると共に、負極34に負極リード32を取り付ける。続いて、電解質36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層させてから長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させて巻回電極体30を作製する。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、その外装部材40の外縁部同士を熱融着などで接着させて巻回電極体30を封入する。この際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、図9〜図11に示した二次電池が完成する。
第2の製造方法では、最初に、正極33に正極リード31を取り付けると共に負極34に負極リード32を取り付けたのち、セパレータ35を介して正極33と負極34とを積層して巻回させると共に最外周部に保護テープ37を接着させて、巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させて、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、それを保持する高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材40の内部に注入したのち、外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質36を形成する。これにより、二次電池が完成する。
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第2の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質36が形成されるため、二次電池が完成する。
この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、二次電池の膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや溶媒などが電解質36中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質36との間において十分な密着性が得られる。
この二次電池では、第1の電池と同様に、正極33と負極34との間でリチウムイオンが吸蔵および放出される。すなわち、充電を行うと、例えば、正極33からリチウムイオンが放出され、電解質36を介して負極34に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極34からリチウムイオンが放出され、電解質36を介して正極33に吸蔵される。
このラミネートフィルム型の二次電池によれば、負極34が上記した負極と同様の構成を有しているので、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池に関する上記以外の効果は、第1の二次電池と同様である。
本発明の実施例について詳細に説明する。
(実施例1−1)
以下の手順により、図9〜図11に示したラミネートフィルム型の二次電池を作製した。この際、負極34の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
まず、正極33を作製した。最初に、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃×5時間の条件で焼成してリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物91質量部と、導電剤としてグラファイト6質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、バーコータによって帯状のアルミニウム箔(厚さ=12μm)からなる正極集電体33Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機によって圧縮成形して正極活物質層33Bを形成した。
次に、負極34を作製した。最初に、粗面化された電解銅箔からなる負極集電体34A(厚さ=10μm)を準備したのち、電子ビーム蒸着法によって負極集電体34Aの両面に負極活物質としてケイ素を堆積させて複数の負極活物質粒子を形成することにより、負極活物質層34Bを形成した。この負極集電体34Aの片面に形成する負極活物質層34Bの厚さは5μmとなるようにした。続いて、高分子化合物を含有する溶液として、化1に示した構造を含む高分子化合物である化3(1)に示した高分子化合物(ポリエチレンスルフィド)を、1重量%となるように、有機溶媒である4−クロロフェノールに溶解させて調製した。最後に、負極活物質層34Bが形成された負極集電体34Aを溶液中に数秒間浸漬させてから引き上げたのち、60℃の減圧環境中において乾燥させ、負極活物質層34B上に被膜34Cを形成した。この負極34について、負極活物質層34Bの表面を飛行時間型二次イオン分析装置により正二次イオン分析をしたところ、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンとして、C2 H5 S+ 、C3 H7 S+ およびC4 H9 S+ のピークが検出され、被膜34Cが形成されていることが確認された。この際、分析装置としては、ION−TOF社製のTOF−SIMS・Vを用い、分析条件としては、一次イオン;Bi3+、イオン銃加速電圧;25keV、バンチングモード、照射イオン電流;0.2pA(パルスビームでの計測)、質量範囲;1〜880amu、走査範囲;200μm×200μmで行った。
次に、溶媒として炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを混合したのち、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶解させて、電解液を調製した。この際、溶媒の組成(EC:DEC)を重量比で30:70とし、六フッ化リン酸リチウムの含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
最後に、正極33および負極34と共に電解液を用いて二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体33Aの一端にアルミニウム製の正極リード31を溶接すると共に、負極集電体34Aの一端にニッケル製の負極リード32を溶接した。続いて、正極33と、微多孔性ポリプロピレンフィルムからなるセパレータ35(厚さ=25μm)と、負極34とをこの順に積層してから長手方向に巻回させたのち、粘着テープからなる保護テープ37で巻き終わり部分を固定して、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成した。続いて、外側から、ナイロンフィルム(厚さ=30μm)と、アルミニウム箔(厚さ=40μm)と、無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ=30μm)とが積層された3層構造のラミネートフィルム(総厚=100μm)からなる外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外縁部同士を熱融着して、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納した。続いて、外装部材40の開口部から電解液を注入してセパレータ35に含浸させて巻回電極体30を作製した。最後に、真空雰囲気中において外装部材40の開口部を熱融着して封止することにより、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。この二次電池については、負極34の充放電容量が正極33の充放電容量よりも大きくなるように正極活物質層33Bの厚さを調節することにより、満充電時において負極34にリチウム金属が析出しないようにした。
(実施例1−2〜1−6)
高分子化合物として化3(1)に示した高分子化合物に代えて、化3(2)〜化3(5)に示した高分子化合物(実施例1−2〜1−5)あるいは化2に示した構造を含む高分子化合物である化4(1)に示した高分子化合物(実施例1−6)を用いたことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。この際、これらの負極34について、実施例1−1と同様にして負極活物質層34Bの表面を飛行時間型二次イオン分析したところ、いずれの実施例においても、C2 H5 S+ 、C3 H7 S+ およびC4 H9 S+ のピークが検出され、被膜34Cが形成されていることが確認された。
(実施例1−7〜1−12)
溶媒としてECに代えて、化6に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルである4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)を用い、溶媒の組成(FEC:DEC)を重量比で30:70に変更したことを除き、実施例1−1〜1−6と同様の手順を経た。
(実施例1−13〜1−18)
溶媒として、炭酸プロピレン(PC)および化6に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルである4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)を加え、溶媒の組成(PC:FEC:DFEC:DEC)を重量比で10:10:10:70に変更したことを除き、実施例1−7〜1−13と同様の手順を経た。
(比較例1−1〜1−3)
被膜34Cを形成しなかったことを除き、実施例1−1,1−7,1−13と同様の手順を経た。この際、これらの負極について、実施例1−1と同様にして負極活物質層の表面を飛行時間型二次イオン分析したところ、いずれにおいても、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンのピークは検出されなかった。
これらの実施例1−1〜1−18および比較例1−1〜1−3の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。また、実施例1−1〜1−18および比較例1−1〜1−3の二次電池について、充放電後に二次電池を解体して、負極活物質層の表面を飛行時間型二次イオン分析装置により正二次イオン分析し、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンのピーク(以下、Cn H2n+1S+ のピークという。)を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
サイクル特性を調べる際には、23℃の雰囲気中において2サイクル充放電させて放電容量を測定し、引き続き同雰囲気中においてサイクル数の合計が100サイクルとなるまで充放電させて放電容量を測定したのち、放電容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。この際、1サイクルの充放電条件としては、1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに達するまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流密度が0.02mA/cm2 に達するまで充電したのち、1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに達するまで放電した。
Cn H2n+1S+ のピークを調べる際には、まず、上記のサイクル特性を調べた際の手順および条件で、100サイクル充放電させたのち、放電後の二次電池を分解して負極を取り出した。こののち、図8に示したように、負極活物質層の正極活物質層との未対向部分(領域R2に相当する部分)の表面を飛行時間型二次イオン分析装置により正二次イオン分析し、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンのピークについて調べた。この際、分析結果として、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンとして、C2 H5 S+ 、C3 H7 S+ およびC4 H9 S+ のピークが検出されたものを「○」、検出されなかったものを「×」とした。この場合、分析装置としては、ION−TOF社製のTOF−SIMS・Vを用い、分析条件としては、一次イオン;Bi3+、イオン銃加速電圧;25keV、バンチングモード、照射イオン電流;0.2pA(パルスビームでの計測)、質量範囲;1〜880amu、走査範囲;200μm×200μmで行った。
なお、上記したサイクル特性およびCn H2n+1S+ のピークを調べる際の手順および条件は、以降の一連の実施例および比較例についても同様である。
表1に示したように、被膜34Cを形成した実施例1−1〜1−6では、それを形成しなかった比較例1−1よりも放電容量維持率が高くなった。また、実施例1−1〜1−6では、負極活物質層34Bの正極活物質層33Bとの未対向部分において充放電後にCn H2n+1S+ (C2 H5 S+ 、C3 H7 S+ およびC4 H9 S+ )のピークが検出されたが、比較例1−1では、Cn H2n+1S+ のピークは検出されなかった。この結果は、被膜34Cを形成することにより、負極34においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなると共に、充放電を繰り返しても電解液が分解されにくくなることを表している。すなわち、被膜34Cを形成することにより、負極34の化学的安定性が向上したものと考えられる。しかも、この結果は、負極活物質層34Bの正極活物質層33Bとの未対向部分では、充放電後であっても被膜34Cの初期状態が維持されていることを表している。
この場合には、被膜34Cが含有する高分子化合物の種類に着目すると、化3(1)〜化3(5)に示した高分子化合物を含有する被膜34Cを形成した実施例1−1〜1−5では、化4(1)に示した高分子化合物を含有する被膜34Cを形成した実施例1−6よりも放電容量維持率が高く、中でも実施例1−1において放電容量維持率が最も高かった。この結果から、高分子化合物中における硫黄原子は、主鎖に含まれるほうが負極34の化学的安定性が向上し、硫黄原子の含有量が多いほど負極34の化学的安定性が向上するものと考えられる。
なお、ここでは化1に示した構造を含む高分子化合物および化2に示した構造を含む高分子化合物のうちの一部を用いた場合の結果だけを示しており、他の高分子化合物を用いた場合の結果を示していない。しかしながら、実施例1−1〜1−6の結果から明らかなように、化3(1)に示した高分子化合物等はいずれも単独で放電容量維持率を高くする役割を果たし、他の高分子化合物も同様の役割を果たすことから、その他の高分子化合物を用いた場合においても同様の結果が得られることは、明らかである。このことは、化1に示した構造を含む高分子化合物および化2に示した構造を含む高分子化合物のうちの2種以上を混在させた場合や、化1に示した構造および化2に示した構造を共に含む高分子化合物を用いた場合においても同様である。
これらのことから、上記した二次電池では、負極34が負極活物質としてケイ素(電子ビーム蒸着法)を含む場合に、負極活物質層34B上に、飛行時間型二次イオン質量分析で、Cn H2n+1S+ (nは1以上の整数である。)で表される正二次イオンのピークを有する被膜34Cを設けることにより、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、被膜34Cが化1に示した構造を含む高分子化合物および化2に示した構造を含む高分子化合物のうちの少なくとも1種を含有するようにすれば、十分な効果が得られ、特に化1に示した構造を含む高分子化合物を含有するようにすれば、より高い効果が得られることが確認された。
また、溶媒としてFEC等を加えた実施例1−7〜1−18では、それを含有しない実施例1−1〜1−6よりも放電容量維持率が高くなり、被膜を形成しなかった比較例1−2,1−3よりも放電容量維持率が高くなった。この場合には、溶媒の組成に着目すると、FECを含有する実施例1−7〜1−12よりも、さらにDFECを含有する実施例1−13〜1−18ほうが、放電容量維持率は高くなった。また、このように溶媒としてFEC等を用いた実施例1−7〜1−18においても、被膜34Cが含有する高分子化合物の種類に着目すると、実施例1−1〜1−6と同様の傾向を示した。すなわち、化3(1)〜化3(5)に示した高分子化合物を含有する被膜34Cを形成した実施例1−7〜1−11,1−13〜1−17では、化4(1)に示した高分子化合物を含有する被膜34Cを形成した実施例1−12,1−18よりも放電容量維持率が高くなり、中でも実施例1−7,1−13において放電容量維持率が最も高かった。この場合においても、実施例1−7〜1−18では、負極活物質層34Bの正極活物質層33Bとの未対向部分において充放電後にCn H2n+1S+ のピークが検出されたが、比較例1−2,1−3では、Cn H2n+1S+ のピークが検出されなかった。
なお、ここでは化6に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルを用いた場合の結果だけを示しており、化5に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルを用いた場合の結果を示していない。しかしながら、化5に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルは、化6に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルと同様に電解液の分解を抑制する機能を果たすため、前者を用いた場合においても後者を用いた場合と同様の結果が得られることは、明らかである。
これらのことから、上記した二次電池では、溶媒の組成に依存せずに、負極活物質層34B上に、飛行時間型二次イオン質量分析で、Cn H2n+1S+ (nは1以上の整数である。)で表される正二次イオンのピークを有する被膜34Cを設けることにより、サイクル特性が向上することが確認された。この場合、溶媒が化5に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび化6に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含むことにより、サイクル特性がより向上することが確認された。
(実施例2−1〜2−4)
溶媒として、化9に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルである炭酸ビニレン(VC:実施例2−1)、スルトンであるプロペンスルトン(PRS:実施例2−2)、または酸無水物であるコハク酸無水物(SCAH:実施例2−3)あるいは2−スルホ安息香酸無水物(SBAH:実施例2−4)を加えたことを除き、実施例1−7と同様の手順を経た。この際、溶媒中におけるVC等の含有量を1重量%とした。この場合においても、これらの負極34について、実施例1−1と同様にして負極活物質層34Bの表面を飛行時間型二次イオン質量分析したところ、いずれの実施例においても、C2 H5 S+ 、C3 H7 S+ およびC4 H9 S+ のピークが検出され、被膜34Cが形成されていることが確認された。
(比較例2−1〜2−4)
被膜34Cを形成しなかったことを除き、実施例2−1〜2−4と同様の手順を経た。この際、これらの負極について、実施例1−1と同様にして負極活物質層の表面を飛行時間型二次イオン質量分析したところ、いずれにおいても、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンのピークは検出されなかった。
これらの実施例2−1〜2−4および比較例2−1〜2−4の二次電池についてサイクル特性およびCn H2n+1S+ のピークを調べたところ、表2に示した結果が得られた。
表2に示したように、溶媒としてVC等を加えた場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、被膜34Cを形成した実施例2−1〜2−4では、それを形成しなかった比較例1−2および比較例2−1〜2−4よりも放電容量維持率が高くなった。この場合には、VC等を加えた実施例2−1〜2−4では、それらを加えなかった実施例1−7よりも放電容量維持率が高くなった。また、実施例2−1〜2−4では、負極活物質層34Bの正極活物質層33Bとの未対向部分において充放電後にCn H2n+1S+ のピークが検出されたが、比較例2−1〜2−4では、Cn H2n+1S+ のピークは検出されなかった。
なお、ここでは化9に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いた場合の結果だけを示しており、化10あるいは化11に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いた場合の結果を示していない。しかしながら、化10に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステル等は、化9に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルと同様に電解液の分解を抑制する機能を果たすため、前者を用いた場合においても後者を用いた場合と同様の結果が得られることは、明らかである。
これらのことから、上記した二次電池では、負極34が負極活物質としてケイ素(電子ビーム蒸着法)を含む場合に、負極活物質層34B上に、飛行時間型二次イオン質量分析で、Cn H2n+1S+ (nは1以上の整数である。)で表される正二次イオンのピークを有する被膜34Cを設けると共に、溶媒が化9〜化11に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステル、スルトンあるいは酸無水物を含んでいれば、サイクル特性がより向上することも確認された。
(実施例3−1〜3−6)
気相法(電子ビーム蒸着法)に代わり、焼結法によって負極活物質層34Bを片面側の厚さが20μmとなるように形成したことを除き、実施例1−1〜1−6と同様の手順を経た。焼結法によって負極活物質層34Bを形成する際には、負極活物質としてケイ素(平均粒径=1μm)95質量部と、結着剤としてポリイミド5質量部とを混合した負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとし、バーコータによって粗面化された電解銅箔(厚さ=18μm)からなる負極集電体34Aの両面に均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機によって圧縮成型し、真空雰囲気中において400℃×12時間の条件で加熱した。この場合においても、これらの負極34について、実施例1−1と同様にして負極活物質層34Bの表面を飛行時間型二次イオン質量分析したところ、いずれの実施例においても、C2 H5 S+ 、C3 H7 S+ およびC4 H9 S+ のピークが検出され、被膜34Cが形成されていることが確認された。また、ここでも、負極34の充放電容量が正極33充放電容量よりも大きくなるように正極活物質層33Bの厚さを調整することにより、満充電時において負極34にリチウム金属が析出しないようにした。
(比較例3)
実施例3−1〜3−6と同様に焼結法によって負極活物質層34Bを形成したことを除き、比較例1−1と同様の手順を経た。この場合においても、この負極について、実施例1−1と同様にして負極活物質層の表面を飛行時間型二次イオン質量分析したところ、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンのピークは検出されなかった。
これらの実施例3−1〜3−6および比較例3の二次電池についてサイクル特性およびCn H2n+1S+ のピークを調べたところ、表3に示した結果が得られた。
表3に示したように、焼結法によって負極活物質層34Bを形成した場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、被膜34Cを形成した実施例3−1〜3−6では、それを形成しなかった比較例3よりも放電容量維持率が高くなった。また、実施例3−1〜3−6では、負極活物質層34Bの正極活物質層33Bとの未対向部分において充放電後にCn H2n+1S+ のピークが検出されたが、比較例3では、Cn H2n+1S+ のピークは検出されなかった。この場合においても、化3(1)〜化3(5)に示した高分子化合物を含有する被膜34Cを形成した実施例3−1〜3−5では、化4(1)に示した高分子化合物を含有する被膜34Cを形成した実施例3−6よりも放電容量維持率が高くなった。中でも実施例3−1において放電容量維持率が最も高かった。
このことから、上記した二次電池では、負極34が負極活物質としてケイ素(焼結法)を含む場合に、負極活物質層34B上に、飛行時間型二次イオン質量分析で、Cn H2n+1S+ (nは1以上の整数である。)で表される正二次イオンのピークを有する被膜34Cを設けることにより、サイクル特性が向上することが確認された。この場合においても、被膜34Cが化1に示した構造を含む高分子化合物および化2に示した構造を含む高分子化合物のうちの少なくとも1種を含有するようにすれば、十分な効果が得られ、特に化1に示した構造を含む高分子化合物を含有するようにすれば、より高い効果が得られることが確認された。
(実施例4−1〜4−6)
負極活物質としてケイ素に代えて、スズ・コバルト・炭素(SnCoC)含有材料を用い、塗布法によって負極活物質層34Bを片面側の厚さが25μmとなるように形成したことを除き、実施例1−1〜1−6と同様の手順を経た。塗布法によってSnCoC含有材料を含む負極活物質層34Bを形成する場合には、まず、スズ・コバルト・インジウム・チタン合金粉末と、炭素粉末とを混合したのち、メカノケミカル反応を利用してSnCoC含有材料を合成した。この際に、得られたSnCoC含有材料の組成を分析したところ、スズの含有量は48質量%、コバルトの含有量は23質量%、炭素の含有量は20質量%、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))は32質量%であった。続いて、負極活物質としてSnCoC含有材料粉末80質量部と、導電剤として黒鉛12質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン8質量部とを混合して負極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとした。最後に、銅箔(15μm厚)からなる負極集電体34Aに負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型した。この場合においても、これらの負極34について、実施例1−1と同様にして負極活物質層34Bの表面を飛行時間型二次イオン質量分析したところ、いずれの実施例においても、C2 H5 S+ 、C3 H7 S+ およびC4 H9 S+ のピークが検出され、被膜34Cが形成されていることが確認された。また、ここでも、負極34の充放電容量が正極33充放電容量よりも大きくなるように正極活物質層33Bの厚さを調整することにより、満充電時において負極34にリチウム金属が析出しないようにした。
(比較例4)
実施例4−1〜4−6と同様にSnCoC含有材料を含む負極活物質層34Bを形成したことを除き、比較例1−1と同様の手順を経た。この場合においても、この負極について、実施例1−1と同様にして負極活物質層の表面を飛行時間型二次イオン質量分析したところ、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンのピークは検出されなかった。
これらの実施例4−1〜4−6および比較例4の二次電池についてサイクル特性およびCn H2n+1S+ のピークを調べたところ、表4に示した結果が得られた。
表4に示したように、SnCoC含有材料を含む負極活物質層34Bを形成した場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、被膜34Cを形成した実施例4−1〜4−6では、それを形成しなかった比較例4よりも放電容量維持率が高くなった。また、実施例4−1〜4−6では、負極活物質層34Bの正極活物質層33Bとの未対向部分において充放電後にCn H2n+1S+ のピークが検出されたが、比較例4では、Cn H2n+1S+ のピークは検出されなかった。この場合においても、化3(1)〜化3(5)に示した高分子化合物を含有する被膜34Cを形成した実施例4−1〜4−5では、化4(1)に示した高分子化合物を含有する被膜34Cを形成した実施例4−6よりも放電容量維持率が高くなった。中でも実施例4−1において放電容量維持率が最も高かった。
このことから、上記した二次電池では、負極34が負極活物質としてSnCoC含有材料を含む場合に、負極活物質層34B上に、飛行時間型二次イオン質量分析で、Cn H2n+1S+ (nは1以上の整数である。)で表される正二次イオンのピークを有する被膜34Cを設けることにより、サイクル特性が向上することが確認された。この場合においても、被膜34Cが化1に示した構造を含む高分子化合物および化2に示した構造を含む高分子化合物のうちの少なくとも1種を含有するようにすれば、十分な効果が得られ、特に化1に示した構造を含む高分子化合物を含有するようにすれば、より高い効果が得られることが確認された。
(実施例5−1〜5−6)
負極活物質としてケイ素に代えて、人造黒鉛を用いて塗布法によって負極活物質層34Bを片面側の厚さが70μmとなるように形成したことを除き、実施例1−1〜1−6と同様の手順を経た。塗布法によって負極活物質層34Bを形成する際には、負極活物質として人造黒鉛粉末97質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合した負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとし、バーコータによって銅箔(厚さ=15μm)からなる負極集電体34Aの両面に均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機によって圧縮成型した。この場合においても、これらの負極34について、実施例1−1と同様にして負極活物質層34Bの表面を飛行時間型二次イオン質量分析したところ、いずれの実施例においても、C2 H5 S+ 、C3 H7 S+ およびC4 H9 S+ のピークが検出され、被膜34Cが形成されていることが確認された。また、ここでも、負極34の充放電容量が正極33充放電容量よりも大きくなるように正極活物質層33Bの厚さを調整することにより、満充電時において負極34にリチウム金属が析出しないようにした。
(比較例5)
実施例4−1〜4−6と同様に人造黒鉛を含む負極活物質層34Bを形成したことを除き、比較例1−1と同様の手順を経た。この場合においても、この負極について、実施例1−1と同様にして負極活物質層の表面を飛行時間型二次イオン質量分析したところ、Cn H2n+1S+ で表される正二次イオンのピークは検出されなかった。
これらの実施例5−1〜5−6および比較例5の二次電池についてサイクル特性およびCn H2n+1S+ のピークを調べたところ、表5に示した結果が得られた。
表5に示したように、人造黒鉛を含む負極活物質層34Bを形成した場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、被膜34Cを形成した実施例5−1〜5−6では、それを形成しなかった比較例5よりも放電容量維持率が高くなった。また、実施例5−1〜5−6では、負極活物質層34Bの正極活物質層33Bとの未対向部分において充放電後にCn H2n+1S+ のピークが検出されたが、比較例5では、Cn H2n+1S+ のピークは検出されなかった。この場合においても、化3(1)〜化3(5)に示した高分子化合物を含有する被膜34Cを形成した実施例5−1〜5−5では、化4(1)に示した高分子化合物を含有する被膜34Cを形成した実施例5−6よりも放電容量維持率が高くなった。中でも実施例5−1において放電容量維持率が最も高かった。
このことから、上記した二次電池では、負極34が負極活物質として炭素材料を含む場合に、負極活物質層34B上に、飛行時間型二次イオン質量分析で、Cn H2n+1S+ (nは1以上の整数である。)で表される正二次イオンのピークを有する被膜34Cを設けることにより、サイクル特性が向上することが確認された。この場合においても、被膜34Cが化1に示した構造を含む高分子化合物および化2に示した構造を含む高分子化合物のうちの少なくとも1種を含有するようにすれば、十分な効果が得られ、特に化1に示した構造を含む高分子化合物を含有するようにすれば、より高い効果が得られることが確認された。
上記した表1〜表5の結果から、本発明の二次電池では、負極活物質層34B上に、飛行時間型二次イオン質量分析装置による正二次イオン分析で、Cn H2n+1S+ (nは1以上の整数である。)で表される正二次イオンのピークを有する被膜を設けることにより、溶媒の組成や、負極活物質の種類あるいは負極活物質層の形成方法などに依存せずに、サイクル特性が向上することが確認された。この場合には、負極活物質として炭素材料を用いた場合よりもケイ素を用いた場合において、放電容量維持率の増加率が大きくなった。この結果は、負極活物質として高容量化に有利なケイ素を用いると、炭素材料を用いる場合よりも電解液が分解しやすくなるため、被膜により負極の化学的安定性が向上することによって電解液の分解抑制効果が際立って発揮されたものと考えられる。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の負極の使用用途は、必ずしも二次電池に限らず、二次電池以外の他の電気化学デバイスであっても良い。他の用途としては、例えば、キャパシタなどが挙げられる。
また、上記した実施の形態および実施例では、二次電池の種類として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の二次電池は、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくし、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に伴う容量とリチウムの析出および溶解に伴う容量とを含み、かつ、それらの容量の和によって表される二次電池についても、同様に適用可能である。
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の二次電池の電解質として、電解液や、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状電解質を用いる場合について説明したが、他の種類の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性セラミックス、イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などのイオン伝導性無機化合物と電解液とを混合したものや、他の無機化合物と電解液とを混合したものや、これらの無機化合物とゲル状電解質とを混合したものや、電解質塩とイオン伝導性の高分子化合物とを混合した固体電解質などが挙げられる。
また、上記した実施の形態および実施例では、電池構造が円筒型およびラミネートフィルム型である場合、ならびに電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、本発明の二次電池は、角型、コイン型およびボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウムあるいはカリウムなどの他の1族元素や、マグネシウムあるいはカルシウムなどの2族元素や、アルミニウムなどの他の軽金属を用いてもよい。これらの場合においても、負極活物質として、上記した実施の形態で説明した負極材料を用いることが可能である。
1,22A,34A…負極集電体、2,22B,34B…負極活物質層、3,22C,34C…被膜、11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33…正極、21A,33A…正極集電体、21B,33B…正極活物質層、22,34…負極、23,35…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム、201…負極活物質粒子、202…酸化物含有膜、204(204A,204B)…隙間、205…空隙、206…金属材料、R1,R2…領域。