以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施例(実施例1)になるモータ制御装置の概要構成を示す。なお、この実施例1になるモータ制御装置は、図にも示すように、ベクトル制御によりPWM信号を生成する制御回路1と、6個のスイッチング素子を内蔵したインバータ回路2と、モータ3に電流を供給している直流電源4と、直流電源4とインバータ回路を結ぶ母線上にモータ3の電流を検出するための電流検出器5で構成されており、圧縮機やファンの動力部であるモータ3を駆動している。
制御回路1には、ベクトル演算を行うベクトル制御器13と、三角波PWMタイマを内蔵したPWM信号生成器14と、スイッチング素子のON/OFFを制御する2種類のドライブ信号を切換えるためのドライブ信号切換器15と、相電流測定器11と、更には、母線電流計測器12が備えられている。
以上にその概略構成を述べたモータ制御装置において、先ず初めに、ベクトル制御器13の動作について説明する。このベクトル制御器13は、正弦波の電流をモータコイルに流すために、所定の周期で、電流指令値、モータ3の速度指令値、モータ定数等を基に、ベクトル演算を行い、d軸、q軸上の基準電圧指令値を求め、そして、この基準電圧指令値と回転子の推定位置を基にして、三相分の電圧指令値を生成(変換)している。さらに、電圧指令値とPWM信号生成器14内の三角波PWMタイマの周期を基に、三相分の電圧指令タイマ比較値を計算している。
次に、PWM信号生成器14の動作について説明する。PWM信号生成器14は、三角波PWMタイマの半周期毎に三相分の電圧指令タイマ比較値を三角波PWMタイマに設定することにより、インバータ回路内の6個のスイッチング素子に対応したPWM信号を生成している。この三角波PWMタイマには、タイマカウント値と比較値が一致するとPWM信号を変化させる機能が備えられており、PWM信号生成器14は、この機能により、6個のスイッチング素子に対応したPWM信号を自動で出力している。なお、電圧指令タイマ比較値を設定するタイミングは、タイマカウント値がゼロになるタイミング、即ち、谷エッジのタイミングと、タイマカウント値がPWM半周期を計時したタイミング、即ち、山エッジのタイミングで実施している。
このタイマカウント値と比較値が一致する動作、即ち、コンペアマッチ動作について、より詳しく、添付の図2を用いて説明する。図2(a)には、三角波PWMタイマのカウント動作と共に、三相分の電圧指令タイマ比較値を示し、図2(b)には、スイッチング素子の動きを示し、更に、図2(c)には、母線電流の流れを示す。また、ここで母線電流の表記について説明すると、上方向に図示した場合は、直流電源側からモータ側へ(正方向に)電流が流れている状態(以下、「供給状態」と称す)を意味し、下方向に図示した場合はモータ側から直流電源側へ(負方向に)電流が流れている状態(以下、「回生状態」と称す)を意味する。更に、これらの図2中では、U相の電圧指令タイマ比較値が最大電圧相に、V相の電圧指令タイマ比較値が中間電圧相に、W相の電圧指令タイマ比較値が最小電圧相に設定されている例を示している。
上述した図2の例の場合、三角波PWMタイマは、タイマカウント値がゼロから増加してW相の電圧指令タイマ比較値に到達するまで、3つの上側スイッチング素子に対応したPWM信号を「1」、即ちON状態の信号として出力し、また、3つの下側スイッチング素子に対応したPWM信号を「0」、即ちOFF状態の信号として出力している。そして、W相の電圧指令タイマ比較値にタイマカウンタ値が到達すると、W相の上側スイッチング素子に対応したPWM信号を「0」に、W相の下側スイッチング素子に対応したPWM信号を「1」に、自動更新する。このコンペアマッチ動作を、PWM半周期を計時するまでに、全ての電圧指令タイマ比較値に対して行い、もって、6個のスイッチング素子に対応したPWM信号を更新している。また、後半の半周期では、カウント値を減少させていき、上記とは逆の動作を行うことにより、タイマカウンタ値がゼロに到達するまでに全てのPWM信号の出力を反転させている。
そして、三角波PWMタイマから出力されたPWM信号は、ドライブ信号切換器15を経由して、インバータ回路の各スイッチング素子に伝達され、他方、これら6個のスイッチング素子は、このPWM信号の変化に連動してON/OFF動作を繰り返すことにより、直流電圧を擬似的な交流電圧に変換してモータコイルに印加している。
次に、相電流測定器11の動作について説明する。この相電流測定器11は、母線電流から相電流を求めるため、所定の周期で動作しており、具体的には、PWM信号生成器14内の三角波PWMタイマの谷エッジで動作を開始する。相電流を求めるタイミングになると、先ず始めに、相電流測定器11はベクトル制御器13から現時点の電流位相角度を取得し、これを基にして、どの相が最大電流相、中間電流相、最小電流相に該当するかを判定している。
ここで、最大電流相、中間電流相、最小電流相の定義と判定方法について説明する。ベクトル制御により正弦波駆動を行うことにより、U相、V相、W相の相電流の大きさは、電流位相角度に応じて、正弦波状に変化する。そこで、本実施例1では、電流位相角度毎の相電流の大きさを比較の対象として捉え、各相に流れている電流の大きさを、吸込み(正方向)、吐出し(負方向)の向きに係らず、その絶対値で評価し、大きな電流を流している相から順に、最大電流相、中間電流相、最小電流相と定義している。なお、U相、V相、W相と、最大電流相、中間電流相、最小電流相との関係は、電流位相角度で30度毎に変化する。
このことから、相電流測定器11は、ベクトル制御器13から得た電流位相角度を30度で割り、その結果を基にして、図示を省略したテーブルからどの相が最大電流相、中間電流相、最小電流相に該当するかを判定している。なお、このテーブルには、電流位相角度の0度から30度毎に、U相、V相、W相と、最大電流相、中間電流相、最小電流相との関係が記されており、前記の計算結果から、容易に、各相の状態を特定することが可能になっている。
なお、上述した判定について、添付の図3に示した電流位相角度と相電流のグラフを用いて、最大電流相、中間電流相、最小電流相の具体的な判定例を以下に説明する。即ち、電流位相角度が75度の時点では、U相を最大電流相、V相を中間電流相、W相を最小電流相と判定し、また、電流位相角度が105度の時点ではV相とW相が入れ代り、U相を最大電流相、W相を中間電流相、V相を最小電流相と判定する。更に、電流位相角度が135度の時点では、U相とW相が入れ代り、W相を最大電流相、U相を中間電流相、V相を最小電流相と判定する。なお、この図3に示した電流位相角度と相電流のグラフは、上記実施例1における電流位相角度と各相電流との関係を示したものであり、この実施例1では、U相電流の吸込み開始点を電流位相角度の起点と定義し、これを0度と定めている。
以上に説明した内容に基づき、相電流測定器11は、最大電流相、中間電流相、最小電流相の判定を行っている。
次に、相電流測定器11は、電流位相区間を計算する。なお、電流位相区間は、電流位相角度の0度から360度までの期間を60度毎に分割し、各期間に対して「0」から「5」までのコードを割り付けたものである。なお、この割り付け方は、小さな位相角度側から、順次、数値の小さなコードが割付けられており、図3に示したような電流位相角度と電流位相区間との関係になっている。よって、相電流測定器11は、ベクトル制御器13から得た電流位相角度を60度で割り、その結果を電流位相区間としている。
<回生による相電流の測定>
更に、相電流測定器11は、電流位相区間から、最小電流相と中間電流相の2つの相を、回生電流として計測可能なタイミングを計算している。ここで、最小電流相と中間電流相の2つの相の電流を回生させて計測するための原理について説明する。
上述したように、ベクトル制御によりモータ3を駆動すると、モータコイルに流れる電流、即ち相電流は、各相共に、正弦波状に流れ、電流位相角度で60度毎にモータコイル上で流れる向きを変える。なお、上記図3には、その下部において、この内容を纏め、「モータコイル内の相電流の向き」として示している。ここで注視すべき点は、最大電流相の電流の向きと、中間電流相と最小電流相の電流の向きとが、互いに逆向きになる点と、そして、最大電流相の電流の向きは、電流位相区間が「偶数」の場合には吐出し側となり、「奇数」の場合には吸込み側となる点である。
そして、これらの2点に着眼してインバータ回路2の内部における相電流の流れを考察すると、インバータ回路2からモータ3に電圧を印加していない期間、即ち、上側スイッチング素子を全てONしている期間、又は、下側スイッチング素子を全てONしている期間中のどちらか一方では、最大電流相の電流は最大電流相に対応したスイッチング素子内の還流ダイオードを通過して流れ、残りの2相の電流はスイッチング素子内のトランジスタを通過して流れていることが分かる。この内容を整理して添付の図4に示す。
この図4から、最大電流相の電流が還流ダイオードを通過している期間であって、電流位相区間が偶数(但し、「0」を含む)の場合は、上側スイッチング素子を全てONしている期間であり、他方、電流位相区間が奇数の場合は、下側スイッチング素子を全てONしている期間であることが分かる。更に、この図4を考察すると、最大電流相の電流が還流ダイオードを通過している期間中に、最小電流相又は中間電流相のスイッチング素子をOFFすると、スイッチング素子をOFFした相の相電流のみが、直流電源側に戻る(即ち、回生する)ことが分かる。
更に、図5には、電流位相角度が65度で、かつ、電流位相区間が1の期間において、最小電流相、又は、中間電流相に対応したスイッチング素子をOFFした場合の電流の流れを具体的に示す。なお、図5は、直流電源4と、インバータ回路2と、そして、モータ内のモータコイルの部分だけを取り出して図示したものであり、図中の矢印は、前記電気回路内に流れる電流を意味する。以下、図5(a)から(c)の各状態について順次説明を行う。
まず、図5(a)は相間に電圧を印加していない状態であり、各相の相電流はインバータ回路2とモータ3の間で還流電流として流れている。図5(b)は最小電流相に該当しているW相の下側スイッチング素子をOFFした状態であり、W相の相電流のみが回生し、直流電源側に流れた後、再び、U相の下側スイッチング素子に戻っている。図5(c)は中間電流相に該当しているV相の下側スイッチング素子をOFFした状態であり、V相の相電流のみが回生し、直流電源側に流れた後、再び、U相の下側スイッチング素子に戻っている。
本発明は、かかる現象を利用するものであり、即ち、最大電流相の電流が還流ダイオードを通過している期間中に、残りの最小電流相と中間電流相の相電流を回生電流として計測することを特徴とするものである。即ち、実施例1では、以上の原理を利用することにより、2つの相の回生電流を計測している。
但し、回生電流による相電流の計測を可能にするためには、上述した原理から明らかなように、以下の次の2つの条件が満たされた期間中に計測を実施する必要がある。即ち、1つ目の条件は、相間に電圧を印加していないことである。2つ目の条件は、最大電流相の相電流が還流ダイオードを通過していることである。これらの2つの条件を満たす期間中に最小電流相、又は、中間電流相のスイッチング素子をOFFするための信号、即ち、相電流計測用信号を出力し、もって、回生電流を計測する必要がある。そこで、相電流測定器11は、電流位相区分を基にして、この条件を満たすタイミング(以下、「計測タイミング」と称す)を決定している。以下に、その内容を説明する。
上述したように、相電流測定器11は、計測タイミングを、電流位相区が偶数である場合と奇数である場合に分けて定めている。そして、偶数の電流位相区間では、相電流計測用信号を上側スイッチング素子が全てON状態で出力し、かつ、計測処理を完了させる必要がある。よって、相電流測定器11は、三角波PWMタイマのカウント値が「0」から初回のコンペアマッチ動作が発生する迄の期間内で、かつ、計測処理が全て完了できるタイミングを、計測タイミングとして定めている。また、奇数の電流位相区間では、相電流計測用信号を下側スイッチング素子が全てON状態で出力する必要がある。よって、相電流測定器11は、三角波PWMタイマのカウント値が最後のコンペアマッチ動作を終えてから、カウンタの値が最大値に到達する迄の期間内で、かつ、計測処理が全て完了できるタイミングを計測タイミングとして定めている。そして、これらの計測タイミングを同期信号発生用タイマ比較値として、三角波PWMタイマに設定している。即ち、かかる設定を行うことによれば、相電流計測用信号を出力するタイミングでPWM信号生成器14から同期信号が得られることから、これを受けて相電流測定器11は、次の動作を行っている。
同期信号を受けた相電流測定器11は、現在の最小電流相に対応した上側スイッチング素子、又は、下側スイッチング素子をOFF状態にするための通電パターン、即ち、相電流計測用信号をドライブ信号切換器15へ出力し、更に、このドライブ信号切換器15を介して、インバータ回路へ出力している。この動作により、選定した相の相電流を直流電源側に回生させ、母線上の電流検出器5を通過させている。
なお、ドライブ信号切換器15には、インバータ回路2へ出力するドライブ信号を切り換える仕掛けが備えられており、通常、PWM信号をインバータ回路2に出力しているが、相電流計測用信号が設定されると、この信号をインバータ回路2に出力する。
更に、相電流計測用信号を出力した相電流測定器11は、所定時間経過後に、母線電流計測器12に対して計測要求信号を出力する。そして、この計測要求信号を受けた母線電流計測器12は、電流検出器5からアナログ信号を取り込み、母線電流値に変換した後、この値を相電流測定器11へ与えている。そして、相電流測定器11は、計測した母線電流値を最小電流相の回生電流値として取り扱い、更に、計測結果の正負符号を補正(逆転)することで、相電流値としている。即ち、この正負符号の補正とは、電流位相区間が偶数の場合は、計測結果を正符号に、他方、奇数の場合は、計測結果を負符号に変更することである。
上記のように最小電流相の計測を終えた相電流測定器11は、次に、中間電流相の計測を、直ちに、開始する。なお、中間電流相を計測する動作については、相電流計測用信号の出力から母線電流値を取り込み、その後、正負符号の補正処理まで、上記最小電流相の測定動作と同じであり、ここでは、その詳細な説明は省略する。また、相電流測定器11は、中間電流相の計測が終了した時点で相電流計測用信号の出力を終了し、インバータ回路2には元のPWM信号を出力している。
以上の動作により、最小電流相と共に。中間電流相の相電流値が得られることから、これら2つの相の相電流値を基に、相電流測定器11は、最大電流相の相電流値を演算により求め、求めた相電流値をベクトル制御器13に与える。
更に、相電流測定器11の計測動作について、上記の図5と共に、添付の図6を用いて、より具体的に説明する。なお、図6の表記は、上記図2と同じため、ここでは各部の説明を省略する。また、各相の電圧指令タイマ比較値の設定内容についても、上記図2と同じ状態で示している。以下、図5(a)から(c)の状態について順次説明を行う。
上記図5(a)に示した相間に電圧を印加していない状態は、図6ではタイミング「(1)」で示した状態に対応しており、この状態では、各相の相電流はインバータ回路とモータ3間で還流電流として流れており、母線上に電流は流れていない。
他方、上記図5(b)に示した最小電流相に該当しているW相の下側スイッチング素子をOFFした状態は、図6ではタイミング「(2)」で示した状態に対応している。この状態では、W相の相電流のみが回生し、直流電源側に流れ、その後、U相の下側スイッチング素子に戻ることから、母線上には、W相の相電流が回生電流として出現することとなる。相電流測定器11は、この時の母線電流値を、W相の相電流として計測している。
また、上記図5(c)に示した中間電流相に該当しているV相の下側スイッチング素子をOFFした状態は、図6ではタイミング「(3)」で示した状態に対応している。この状態では、V相の相電流のみが回生し、直流電源側に流れ、その後、U相の下側スイッチング素子に戻ることから、母線上には、V相の相電流が回生電流として出現することとなる。相電流測定器11は、この時の母線電流値をV相の相電流として計測している。
以上のようにして、相電流測定器11は、2つの相の電流の計測を終了すると、相電流計測用信号の出力を終了する。その後、相電流測定器11は、インバータ回路に元のPWM信号を出力することにより、電気回路内に流れる電流を上記図5(a)の状態に戻している。
以上に詳細を説明した本実施例によれば、モータ3の回転数を極めて低い回転数で動作させる場合に生じる減少、即ち、三相分の電圧指令タイマ比較値が常に近似した値となっても、母線電流の実測回数を減らすことなく、実測した相電流を基にベクトル制御を行うことが可能となり、極めて低い回転数でも、圧縮機やファンを駆動できる。よって最小能力運転時でも、冷凍サイクルの運転効率が良好な空気調和機や冷蔵庫を提供することが可能となる。
なお、以上の実施例では、電流位相角度に応じて、始に最小電流相を計測し、次に、中間電流相を計測している。しかしながら、本発明は、これに限定されることなく、これに代えて、上記の順序を逆にして計測を行うことによっても、U相、V相、W相の関連付けを一致させておけば、各相の相電流値を正しく得ることが可能である。
<実施例1の変形例>
上述した実施例では、最小電流相と中間電流相の2つの相を計測するために、各相の電流を直流電源側に回生させるが、しかしながら、このことにより、モータ3の電流が僅かに減少してしまい、これにより、モータ3の出力トルクも僅かに低下することとなる。そこで、本変形例では、上記計測により不足したモータ3の電流を補填し、もって、モータ3の出力トルクの低下を防止することを目的にしたものである。
以下、この変形例について説明するが、この変形例の構成は、上述した実施例1と同じであり、そして、上記実施例1で説明した相電流測定器11とPWM信号生成器14に、以下に述べるように、電圧指令タイマ比較値を一時的に補正することでモータ3の電流を補填するものである。そこで、以下には、相電流測定器11とPWM信号生成器14に追加する動作についてのみ、以下に説明する。
なお、相電流測定器11は、3相分の相電流値をベクトル制御器13に与えた直後に、モータ3の電流を補填するためのタイマ補正値をPWM信号生成器14へ出力する。このタイマ補正値は、U相用、V相用、W相用の三相分が準備されている。そこで、相電流測定器11では、最大電流相に該当した相のタイマ補正値に対しては、1相分の計測に要した所定時間を設定し、また、その他の2つの相のタイマ補正値にはゼロを設定し、それらをPWM信号生成器14へ出力している。
一方、このタイマ補正値を受けたPWM信号生成器14は、現在の電圧指令タイマ比較値に対し、個別に、タイマ補正値を加え、その後、三角波PWMタイマに設定している。但し、PWM信号生成器14は、この補正処理を、計測直後に1回だけ実施しており、より具体的には、三角波PWMタイマの山エッジのタイミングで実施している。
以上の動作によれば、最大電流相の通電時間が、当初の時間よりも1相分の計測に要した所定時間だけ長くなり、その結果として、最小電流相、中間電流相の両方に対して減少した電流を補填することが可能となる。
以下には、上述した変形例を機能させた場合の三角波PWMタイマとスイッチング素子の動きと母線電流の変化について、添付の図7を用いて説明する。なお、この図7の表記は上記図2と同じであるため、ここでは、各部の説明を省略する。更に、各相の電圧指令タイマ比較値の設定内容も、上記図2と同じ状態で示している。また、電流位相角度は65度の場合を示しており、W相が最小電流相、V相が中間電流相、U相が最大電流相に該当している。
この図からも明らかなように、PWM周期の前半周期において、順次、2つの動作が行われている。始めに、PWM信号生成器14がベクトル制御器13の設定した電圧指令タイマ比較値に応じてモータ3に電流を供給しており、次に、相電流測定器11がスイッチング素子を操作してモータ3の電流を回生させ、もって、W相とV相の電流を計測している。また、その後半周期では、PWM信号生成器14が最大電流相に該当しているU相の電圧指令タイマ比較値を前述した内容に基づいて補正することにより、V相とW相の相電流を1度に補填している。これにより、計測により不足したモータ3の電流を補填し、もって、モータ3の出力トルクの低下を防止することが可能となる。
続いて、本発明の第2の実施例(実施例2)になるモータ制御装置について、以下に説明する。なお、この実施例2は、上述した実施例1と同様の効果を達成すると共に、更に、以下の欠点をも補うことを目的としたものである。
まず、上記実施例1の欠点について説明すると、上記実施例1では、電流位相角度を基にして、現時点の最大電流相、中間電流相、最小電流相を定義している。しかしながら、電流位相角度はベクトル制御器13内で演算により求められた推定値であり、実際のモータ3の電流位相角度と比較すると、多かれ少なかれ、誤差が含まれた値となっている。このため、電流位相区間の端境期において、実際のモータ3の電流位相角度とベクトル制御器13の電流位相角度との間に差異が生じている状態(以下、位相差が生じている状態と略す)では、最大電流相と中間電流相の定義とその計算した電流位相区間が、実際のものと異なった結果になる場合がある。その場合、上記に説明した実施例1の動作により計測を行った場合、最小電流相の相電流値がゼロとして取込まれてしまい、即ち、正しい相電流値を得ることができない。
この誤計測について、添付の図8を用いてより詳しく説明する。この図8は、電流位相角度に誤差があり、誤計測する場合の具体例を示したものであり、図8(a)は、計測の開始時点の回路動作を、図8(b)は、最小電流相の計測の回路動作を示している。また、モータコイルに記した矢印は、実際の相電流の向きを示しており、表記した相電流の向きは、上記図3において、電流位相角度が55度である状態を示している。よって、U相が吸込み側の中間電流相、V相が吐出し側の最大電流相、そして、W相が吸込み側の最小電流相にそれぞれ該当している。
一方、この時点のベクトル制御器13は、電流の位相角度を65度と認識しているものとし、U相が吸込み側の最大電流相、V相が吐出し側の中間電流相、W相が吐出し側の最小電流相として認識しているものとする。そして、ベクトル制御器13の電流位相角度が65度であることから、相電流測定器11で計算した電流位相区間は「1」となり、相電流測定器11は下側スイッチング素子が全てONの状態から計測を始める。
測定を開始すると、上記図6(b)にも示したように、相電流測定器11は、最小電流相として認識しているW相の下側スイッチング素子をON状態からOFF状態とし、W相の相電流を直流電源側に回生させようとする。しかし、実際のW相の相電流は、吸込み側の最小電流相になっていることから、回生せず、インバータ回路内に留まってしまう。そのため、相電流測定器11は、電流が流れていない電流検出器5から母線電流値を計測してしまい、これでは、最小電流相の相電流値をゼロとして誤計測することとなる。そして、この様な誤計測は、前記の場合のみではなく、逆の場合にも、即ち、実際のモータ3の電流位相角度が進み、ベクトル制御器13の電流位相角度が遅れている場合にも発生する。よって、この実施例2は、かかる欠点を解消し、もって、全ての相電流値について正しく計測することを可能とするものである。
この実施例2になるモータ制御装置は、基本的には、上記実施例1のモータ制御装置と同じ構成となっているが、しかしながら、当該実施例3では、相電流測定器11には、更に、通電パターンテーブル111が設けられている。また、他の各部の動作についても、本実施例は上記実施例1と基本的に同じであるが、相電流測定器11の動作のみが異なることから、以下、相電流測定器11の動作についてのみ説明を行う。
相電流測定器11は、上記実施例1と同様に、母線電流から相電流を求めるために所定の周期で動作しており、具体的には、PWM信号生成器14内の三角波PWMタイマの谷エッジで動作を開始する。
先ず初めに、相電流測定器11は、相電流を測定するタイミングになると、ベクトル制御器13で演算されている電流位相角度を基に、電流位相区間を計算する。そして上記実施例1と同じく、電流位相区間から計測タイミングを計算し、これを同期信号発生用タイマ比較値として三角波PWMタイマに対し設定している。その後、PWM信号生成器14から同期信号を受けると、相電流測定器11は動作を再開する。
次に、相電流測定器11が動作を再開した後の動作の流れを、添付の図9のフローチャートに示す。先ず始に、動作を再開した相電流測定器11は、電流位相区間を基に、通電パターンテーブル111から相電流計測用信号を取得し、インバータ回路へ出力することにより、母線電流値を計測する。ここで、インバータ回路へ相電流計測用信号を出力してから母線電流値を計測するまでの動作は上記実施例1と同じであるが、しかしながら、本実施例では、この動作を3回繰り返す。但し、通電パターンテーブル111から取得する相電流計測用信号は全て異なることから、計測した3つの母線電流値は全て異なったものとなる。
より具体的には、図9にも示すように、まず、計測カウンタを「1」とし(ステップS91)、計測カウンタに基づいて、通電パターンテーブルから相電流計測用信号を取得する(ステップS92)。その後、パターン出力を開始し(ステップS93)、所定の時間の経過を待ち(ステップS94)、計測要求信号を出力して母線電流を取得する(ステップS95)。その後、計測カウンタに「1」を加算し(ステップS96)、当該計測カウンタが3より大きいか否かを判定し(ステップS97)、その結果、大きくない(「NO」)場合には、処理は上記のステップS92へ戻り、上記のステップS92からS96を繰り返す。一方、当該計測カウンタが3より大きい(「YES」)場合には、以下のパターン出力の終了(ステップS98)に移行する。
ここで、図9の動作の流れに関する説明を一旦中断し、通電パターンテーブル111についての詳細を説明する。通電パターンテーブル111には、電流位相区間毎に3つの相電流計測用信号が登録されており、更に、3つの相電流計測用信号は計測順序毎に、特定のスイッチング素子を1つONするパターンが登録されている。添付の図10に、この通電パターンテーブル111の内容を表に纏めて示す。なお、この表内の計測順序欄に記された記号「始」は、計測開始時を意味し、「(1)」、「(2)」、「(3)」は計測の順番を意味する。また、表内のドライブ信号欄に記した数値「1」は、スイッチング素子をONする信号を意味し、数値「0」はOFFする信号を意味する。なお、計測開始時の欄に記載されたパターンは、以下の説明を理解しやすくするために便宜上記載したものであり、実際の通電パターンテーブル111には登録されていない。
次に、上述したように、1回目、2回目、3回目の各計測で使用する相電流計測用信号の目的とパターンについて、以下に、詳細に説明する。なお、説明を理解しやすくするために、ここで以下の定義を行う。まず、1つの電流位相区間で仕切られた期間において、前半で最小電流相となり、後半で中間電流相となる相を「A相」と定義する。また、1つの電流位相区間で仕切られた期間において、前半で中間電流相となり、後半で最小電流相となる相を「B相」と定義する。更に、1つの電流位相区間で仕切られた期間において、最大電流相となる相を「C相」と定義する。
そして、1回目のパターンは、B相の電流をインバータ回路内に還流させて留めておき、A相の電流を直流電源側に回生させ、もって、母線上に流すことを目的に設定されたものである。そのため、計測開始時にONしているB相のスイッチング素子のみをONさせ、その他のスイッチング素子は全てOFFするためのパターンが設定されている。
また、3回目のパターンは、A相の電流をインバータ回路内に還流させて留めておき、B相の電流を直流電源側に回生させ、もって、母線上に流すことを目的に設定されたものである。そのため、計測開始時にONしているA相のスイッチング素子のみをONさせ、その他のスイッチング素子は全てOFFするパターンが設定されている。
そして、最も重要な2回目のパターンは、電流位相角度とベクトル制御器13の電流位相角度が一致している状態では、A相、B相の電流をインバータ回路内で還流させておき、他方、位相差が生じている状態では、最小電流相になっているA相、またはB相の電流を直流電源側に回生させることを目的に設定されたものである。そのため、計測開始時にOFFしているC相のスイッチング素子のみONさせ、その他のスイッチング素子は全てOFFするパターンが設定されている。
なお、1回目のパターンを2回目のパターンに瞬時に切り換えても、インバータ回路内で短絡が発生しないよう、1回目のパターンでは、計測開始時にONしているC相の上側及び下側の両スイッチング素子をあえてOFFしたパターンとしている。また、3回目のパターンについても、同様である。
次に、添付の図11、図12、更には、図13を用いて、通電パターンテーブル111に登録されている相電流計測用信号の働きについて説明する。なお、これら図11、図12及び図13における表記は上記図5と同じであり、ここでは、その説明を省略する。また、これらの図中では、説明を理解しやすくするため、相電流測定器11が電流位相区間を「1」として認識している場合の動作例を示す。よって、これらの図中では、U相がC相に、V相がB相に、そして、W相がA相に、それぞれ、該当している。
先ず始めに、図11には、実際のモータ3の電流位相角度とベクトル制御器13の電流位相角度が一致している状態(以下、「同一位相」と略す)の動作を示す。なお、この図11は、電流位相角度が65度であり、電流位相区間が「1」の期間中において、相電流計測用信号を順次出力した場合の例を図示したものである。
図11(a)は相間に電圧を印加していない状態を示しており、各相の相電流は、インバータ回路とモータ3との間で、還流電流として流れている。図11(b)は1回目の相電流計測用信号を出力し、V相の下側スイッチング素子のみをONした状態を示している。W相の相電流のみが回生して直流電源側に流れ、その後、U相の下側スイッチング素子に戻っている。図11(c)は2回目の相電流計測用信号を出力し、U相の上側スイッチング素子をのみをONした状態を示している。V相とW相の相電流がU相の上側スイッチング素子内のトランジスタを通過し、モータ3に戻っている。更に、図11(d)は3回目の相電流計測用信号を出力し、W相の下側スイッチング素子のみをONした状態を示している。V相の相電流のみが回生し直流電源側に流れ、その後、U相の下側スイッチング素子に戻っている。以上のこのことから、同一位相の場合、1回目ではA相の電流が、3回目ではB相の電流が回生して母線上を流れるが、しかしながら、2回目では、母線上には電流が流れないことが分かる。
次に、実際のモータ3の電流位相角度が55度であり、他方、ベクトル制御器13の電流位相角度が65度と認識している場合、即ち、進み位相で電流位相角度に差異が生じている状態(以下、「進み位相」と略す)の動作を図12に示す。なおこの動作例では、ベクトル制御器13が電流位相角度を65度と認識しているので、相電流測定器11は電流位相区間が「1」の相電流計測用信号を出力している。また、モータ3の電流位相角度が55度であることから、実際の各相電流は、U相が吸込み側の中間電流相に、V相が吐出し側の最大電流相に、そして、W相が吸込み側の最小電流相に、それぞれ、割り当れられている。
図12(a)は相間に電圧を印加していない状態であり、各相の相電流はインバータ回路とモータ3との間で、還流電流として流れている。図12(b)は1回目の相電流計測用信号を出力し、V相の下側スイッチング素子のみをONした状態を示しており、これは図12(a)に示した電流の流れと同一となり、即ち、母線電流は流れない。
一方、図12(c)は2回目の相電流計測用信号を出力し、U相の上側スイッチング素子のみをONした状態を示しており、この状態では、V相の相電流の内、U相分の電流が分離してU相の上側スイッチング素子のトランジスタを通過し、その後。モータ3に戻り、W相分の電流が回生し、直流電源側に流れた後に、W相の下側スイッチング素子の還流ダイオードに戻っている。また、図12(d)は、3回目の相電流計測用信号を出力し、W相の下側スイッチング素子のみをONした状態を示しており、この状態では、V相の相電流が回生して直流電源側に流れ、その後、U相とW相の下側スイッチング素子の還流ダイオードに戻っている。このように、進み位相の場合、2回目にはA相の電流が、3回目にはB相の電流が回生して母線上を流れるが、しかしながら、1回目には母線上に電流が流れないことが分かる。
最後に、実際のモータ3の電流位相角度が125度であり、他方、ベクトル制御器13の電流位相角度が115度と認識している場合、即ち、遅れ位相で電流位相角度に差異が生じている状態(以下、「遅れ位相」と略す)の動作を図13に示す。なお、この動作例では、ベクトル制御器13が電流位相角度を115度と認識しているので、相電流測定器11は電流位相区間が「1」の相電流計測用信号を出力している。また、モータ3の電流位相角度が125度であることから、実際の各相電流は、U相が吸込み側の中間電流相、V相が吸込み側の最小電流相、そして、W相が吐出し側の最大電流相にそれじれ割り当てられている。
図13(a)は相間に電圧を印加していない状態を示しており、各相の相電流はインバータ回路とモータ3との間で、還流電流として流れている。図13(b)は1回目の相電流計測用信号を出力し、V相の下側スイッチング素子のみをONした状態を示している。この状態では、W相の相電流はW相の上側スイッチング素子の還流ダイオードを通過し、回生電流として直流電源側に流れ、その後、U相とV相の下側スイッチング素子の還流ダイオードに戻っている。図13(c)は2回目の相電流計測用信号を出力し、U相の上側スイッチング素子のみをONした状態を示している。この状態では、W相の相電流の内、U相分の電流が分離し、U相の上側スイッチング素子のトランジスタを通過してモータ3に戻り、他方、V相分の電流が回生し、直流電源側に流れた後に、V相の下側スイッチング素子の還流ダイオードに戻っている。更に、図13(d)は3回目の相電流計測用信号を出力し、W相の下側スイッチング素子のみをONした状態を示している。この状態では、電流の流れは上記図13(a)に示したと同一となり、即ち、母線電流は流れない。このように、遅れ位相の場合、1回目ではA相の電流が、2回目ではB相の電流が回生して母線上を流れるが、しかしながら、3回目では母線上に電流が流れないことが分かる。
以上のことを纏めると、通電パターンテーブル111に登録されている相電流計測用信号を用いて3回の計測を実施することによれば、母線電流値がゼロである結果を必ず1つ作ることが可能となる。そして、この母線電流値がゼロである計測タイミングから、どの様な位相差が生じているかを判別することが可能となる。更に、位相差が生じている状態においても、2回目の計測タイミングで計測した電流が、A相又はB相の何れかの電流であるかを判別できるため、期待する2つの相分の計測結果を得ることも可能となる。
更に、上述した内容を全ての電流位相区間において整理し、その結果を、図14の表に示す。なお、この表中に記された記号「(1)」、「(2)」、「(3)」は各電流位相区間の計測順番を意味し、また、母線電流値に記した電流は、吸込み側、吐出し側の表記を省略して記載する。
ここで、再び、上述した図9のフローチャートに戻り、以上に説明した動作原理を基にして、相電流測定器11は、以下の動作を行う。なお、上記図9に示した動作の流れによれば、既述のように、始に、通電パターンテーブル111に登録されている相電流計測用信号を用いて計測を3回実施し、3つの母線電流値を計測している。そして、更に、計測順に記録した3つの母線電流値から、何番目の母線電流値が0であるかを判定し(ステップS99)、その結果に基づいて、位相差が生じている状態か否かを調べる。
更に、上記の位相差の判定結果に基づいて、A相、B相の母線電流値を特定すると共に、特定したA相、B相の母線電流値に対して符号調整を行っている。具体的には、1回目(進み位相)の母線電流が0である場合は、A相電流値=2回目の母線電流値×(−1)、B相電流値=3回目の母線電流値とする(ステップS100)。また、2回目(同一位相)の母線電流が0である場合は、A相電流値=1回目の母線電流値、B相電流値=3回目の母線電流値とする(ステップS101)。そして、3回目(遅れ位相)の母線電流が0である場合は、A相電流値=1回目の母線電流値、B相電流値=2回目の母線電流値×(−1)とする(ステップS102)。
更に、相電流測定器11は、電流位相区間が偶数か否かを判定し(ステップS103)、その結果、電流位相区間が「偶数」の場合には、A相とB相の母線電流値を符号反転し(即ち、A相電流値=A相電流値×(−1)、B相電流値=B相電流値×(−1))(ステップS104)、他方、「奇数」の場合には、A相とB相の母線電流値をそのまま計測結果としている。そして、相電流測定器11は、上記A相とB相の母線電流値を基にしてC相を計算(C相電流=(A相電流値+B相電流値)×(−1))により求め(ステップS105)、最後に、電流位相区間を基に、A相、B相、C相の母線電流値をU相、V相、W相の相電流値として割り振ることにより(ステップS106)、各相の相電流値をベクトル制御器13に与えている。
以上に詳述したように、本実施形態2によれば、推定による電流位相角度を用いることによっても、正しい相電流を計測することが可能となり、特に、極めて低い回転数で圧縮機やファンを駆動するモータであっても、これを確実に駆動・制御することができる。よって、最小能力運転時でも、冷凍サイクルの運転効率が良好な空気調和機や冷蔵庫を提供することが可能となる。
なお、本実施例2では、通電パターンテーブル111には、A相、B相の順に計測を行うパターンを設定しているものとして説明したが、しかしながら、これに限定されることなく、これとは逆の順序で計測するためのパターンを設定することによっても、予め、U相、V相、W相の関連付けを一致させておけば、各相の相電流値を正しく得ることが可能である。
<実施例2の変形例>
なお、上述した実施例2においても、上記実施例1と同様に、回生を利用した相電流の計測によりモータ電流が、僅かではあるが、不足することとなる。そこで、この変形例は、この不足したモータ3の電流を補填して、モータの出力トルクの低下を防止するためのものである。
以下、この変形例について説明すると、その概要としては、上記実施例2に説明した相電流測定器11とPWM信号生成器14に、以下に説明する動作を追加し、もって、電圧指令タイマ比較値を一時的に補正することによりモータ3の電流を補填するものである。また、PWM信号生成器14に追加した動作は、上記実施例1の変形例と同じであるため、ここでは、その詳細な説明を省略し、相電流測定器11の追加動作についてのみ説明する。
相電流測定器11は、3相分の相電流値をベクトル制御器13に与えた直後に、モータ3の電流を補填するためのタイマ補正値を位相差の判定結果に基づいて以下の設定を行い、PWM信号生成器14へ出力する。ここで、タイマ補正値の設定内容について説明する。
タイマ補正値の設定は、電流位相区間が「偶数」の場合と「奇数」の場合とで異なる。電流位相区間が「偶数」の場合は、次のタイマ補正値を設定している。
まず始に、位相差の判定結果が同一位相の場合は、以下の値を設定している。
A相に該当した相のタイマ補正値 = 0
B相に該当した相のタイマ補正値 = 0
C相に該当した相のタイマ補正値 =(−)1相分の計測に要した所定時間
次に、位相差の判定結果が進み位相の場合は、以下の値を設定している。
A相に該当した相のタイマ補正値 =(−)1相分の計測に要した所定時間
B相に該当した相のタイマ補正値 =(+)1相分の計測に要した所定時間
C相に該当した相のタイマ補正値 = 0
最後に、位相差の判定結果が遅れ位相の場合は、以下の値を設定している。
A相に該当した相のタイマ補正値 =(+)1相分の計測に要した所定時間
B相に該当した相のタイマ補正値 =(−)1相分の計測に要した所定時間
C相に該当した相のタイマ補正値 = 0
他方、電流位相区間が「奇数」の場合は次のタイマ補正値を設定している。
まず始に、位相差の判定結果が同一位相の場合は、以下の値を設定している。
A相に該当した相のタイマ補正値 = 0
B相に該当した相のタイマ補正値 = 0
C相に該当した相のタイマ補正値 =(+)1相分の計測に要した所定時間
次に、位相差の判定結果が進み位相の場合は、以下の値を設定している。
A相に該当した相のタイマ補正値 =(+)1相分の計測に要した所定時間
B相に該当した相のタイマ補正値 =(−)1相分の計測に要した所定時間
C相に該当した相のタイマ補正値 = 0
最後に、位相差の判定結果が遅れ位相の場合は、以下の値を設定している。
A相に該当した相のタイマ補正値 =(−)1相分の計測に要した所定時間
B相に該当した相のタイマ補正値 =(+)1相分の計測に要した所定時間
C相に該当した相のタイマ補正値 = 0
続いて、このタイマ補正値を受けたPWM信号生成器14は、上述した実施例1の変形例で説明したと同様の動作で、現在の電圧指令タイマ比較値を補正しており、その結果として各相の電流を補填することが可能となる。
なお、各電流位相区間における補正計算の内容を、添付の図14に示す「電圧指令タイマ比較値の補正内容」の欄に整理して示す。ここで用いているTu、Tv、Twは、U相、V相、W相に対応した電圧指令タイマ比較値であり、また、Tkは、1相分の計測に要した所定時間を意味するものである。
更に、以下には、添付の図15、図16及び図17を用いて、上記実施例2の変形例になる電流補填動作を機能させた場合における、三角波PWMタイマとスイッチング素子の動き、更には、母線電流の変化について説明する。なお、各図の表記は上記図2と同じため、ここでは各部分の説明を省略する。また本図中では説明を理解し易くするため、相電流測定器11が電流位相区間を「1」として認識している場合の動作例を示す。よって、本図中では、U相がC相に、V相がB相に、W相がA相に該当している。
先ず始に、「同一位相」の場合を示す図15について説明する。なお、この図15中では、各相の電圧指令タイマ比較値の設定内容は、上記図2と同じ状態で示されており、実際のモータ3の電流位相角度とベクトル制御器13の電流位相角度の状態は、上記図11と同じ状態で示している。以下、同一位相の場合について説明を続ける。
この同一位相の場合は、上記実施例1の変形例と同様な動作となっており、即ち、PWM周期の前半周期において、順次、2つの動作が行われている。始めに、PWM信号生成器14がベクトル制御器13の設定した電圧指令タイマ比較値に応じてモータ3に電流を供給し、次に、相電流測定器11がスイッチング素子を操作してモータ3の電流を回生させ、もって、A相に該当しているW相とB相に該当しているV相の電流を計測している。また、後半周期では、PWM信号生成器14がC相に該当しているU相の電圧指令タイマ比較値を補正することにより、V相とW相の相電流を1度に補填している。
次に、「進み位相」の場合を示す図16について説明する。なお、この図16中でも、各相の電圧指令タイマ比較値の設定内容は、上記図2と同じ状態で示されており、実際のモータ3の電流位相角度とベクトル制御器13の電流位相角度の状態は、上記図12と同じ状態で示している。以下、進み位相の場合について説明を続ける。
この進み位相の場合は、A相に該当しているW相の相電流を2倍回生させているため、相電流を1度に補填することが出来ない。よって、B相に該当しているV相のタイマ値を小さく、そして、A相に該当しているW相のタイマ値を大きくすることにより、V相とW相の相電流を個別に補填している。
最後に、「遅れ位相」の場合を示す図17について説明する。なお、この図17中でも、各相の電圧指令タイマ比較値の設定内容は上記図2と同じ状態で示されており、実際のモータ3の電流位相角度とベクトル制御器13の電流位相角度の状態は、上記図13と同じ状態で示されている。以下、遅れ位相の場合について説明を続ける。
このように、「遅れ位相」の場合も、「進み位相」の場合と同様に、B相に該当しているV相の相電流を2倍回生させているため、相電流を1度に補填することが出来ない。よって、A相に該当しているW相のタイマ値を小さく、B相に該当しているV相のタイマ値を大きくすることにより、V相とW相の相電流を個別に補填している。
以上からも明らかなように、本変形例によれば、上記実施例2において、回生電流による相電流の計測により不足したモータ3の電流を補填し、モータ3の出力トルクの低下を防止することが可能となる。
以上の実施例1及び実施例2、更には、それらの変形例では、本発明の特徴となる回生電流による相電流の計測を、一般的な、ベクトル制御を用いた3相変調方式のモータ制御装置に適用した場合について述べたが、以下に述べる他の実施例(実施例3)、これに代え、本発明を2相変調方式のモータ制御装置に適用した例を示している。より具体的には、特に、上記実施例2に示した相電流の計測を、2相変調方式のモータ制御装置に適用したものである。
なお、ここで、2相変調方式とは、インバータ回路のスイッチング損失を低減するために用いられる手段であり、PWM周期の1周期において、3つの相の内で1相分のスイッチングを休止させ、残りの2つの相でスイッチングを実施することでモータ3に電圧を印加する制御方法である。
ここでは、3相変調方式と一般的な2相変調方式の相違を説明するために、電圧変調率が90%の場合の波形を図18に示す。なお、図18(a)は3相変調方式を実施した場合の波形を、図18(b)は2相変調方式を実施した場合の波形を示しており、各相に印加する電圧は、電圧指令タイマ比較値に置換えて示している。なお、グラフ内の「電圧指令タイマ比較値」の単位はパーセント表記とし、PWM周期の半周期に相当するタイマのカウンタ値に対する比率を用いている。更に、印加電圧の位相角度の起点は、U相の電圧指令タイマ比較値が上昇して50%に達し点を0度と定めている。また、以降の説明を容易にするため、各グラフには、各相に流れる相電流の波形も示しておく。この電流波形は、U相電流の吸込み開始点を起点と、即ち、0度として定めている。なお、図18の例では、印加電圧の位相と相電流の位相が一致している場合を示している。以下、3相変調方式と一般的な2相変調方式の相違について説明を続ける。
図18(a)に示した3相変調方式では、タイマ比較値が正弦波状に変化するため、電圧変調率が100%未満では、どの位相角度でも、PWM周期の前半周期に必ず2回、モータ3に対して電圧を印加しない期間(以下、「印加電圧ゼロ期間」と略す)が存在する。具体的には、1回目の印加電圧ゼロ期間は、三角波PWMタイマのタイマカウンタ値が「0」からカウントアップし、最小電圧相のタイマ比較値に到達する迄の期間であり、この期間は、3つの上側スイッチング素子はON状態であり、他の3つの下側スイッチング素子はOFF状態となる。また、2回目の印加電圧ゼロ期間は、タイマカウンタ値がカウントアップ中に最大電圧相に到達してからPWM周期の半周期に到達する迄の期間である。この期間は、3つの上側スイッチング素子はOFF状態であり、他の下側スイッチング素子はON状態となる。よって、上記実施例1とその変形例、及び、上記実施例2とその変形例では、最大電流相の相電流が還流ダイオードを通流している印加電圧ゼロ期間が、PWM周期の前半周期内に、必ず、1回は存在するので、この期間を用いて相電流の計測を行っていた。
これに対し、図18(b)に示した2相変調方式では、当該図18(b)に示した2相変調方式は先に説明した3相変調方式のタイマ比較値を変形したものであり、そのため、以下に説明する基準電圧相のタイマ比較値を100%、又は、0%に設定することで、その期間中、基準電圧相のスイッチングを休止している。また、基準電圧相以外の2相についても、相間電圧が維持できるタイマ比較値を設定しており、この設定により、各相電流を正弦波状にしている。以下、3相変調方式の電圧指令タイマ比較値から2相変調方式の電圧指令タイマ比較値に変換する手段について、一例を挙げて説明する。
始に、前記3相変調方式により各相の電圧指令タイマ比較値を計算する。次に、50%に該当するタイマ比較値と各相の電圧指令タイマ比較値との偏差を絶対値で求め、最大偏差値が得られた相を特定し、この相を基準電圧相に定める。次に、基準電圧相が最大電圧相の場合と最小電圧相場合に分け、各相の電圧指令タイマ比較値を補正する。基準電圧相が最大電圧相の場合は100%に該当する電圧指令タイマ比較値から基準電圧相のタイマ比較値を差し引いて補正値を求め、これを各相の電圧指令タイマ比較値に加算する。基準電圧相が最小電圧相の場合は、この相の電圧指令タイマ比較値を補正値とし、各相の電圧指令タイマ比較値から減算する。以上の補正計算を行うことで、基準電圧相のタイマ比較値を100%、又は0%に設定し、他方、残り2相の電圧指令タイマ比較値との偏差を維持している。
しかしながら、前述した2相変調方式の電圧指令タイマ比較値の変換手段では、電流位相に関連性が無いため、基準電圧相と最大電流相が同一相である場合、印加電圧ゼロの期間中に、最大電流相の相電流が還流ダイオードを通流しない期間が生じてしまう。その具体的例を、添付の図19と図20を用いて、以下に説明する。
図19は、上記図18(b)に示した位相角度105度における、三角波PWMタイマの動作と母線電流の流れを示したものである。なお、図中の表記は上記図2と同じであるため、ここでは各部の説明は省略する。また、電圧位相角度が105度であることから、基準電圧相はU相となり、U相の電圧指令タイマ比較値は100%に設定されている。よって、PWM周期の1周期の期間中、U相の上側スイッチング素子のトランジスタが、常時、ONしている。
また、図20は、上記図19のPWM周期の前半周期における相電流の流れを示している。即ち、図20(a)は、上記図19の期間(1)の相電流の流れを示し、図20(b)は、図19の期間(2)の相電流の流れを示し、そして、図20(c)は、図19の期間(3)の相電流の流れを、それぞれ、示している。そして、電流位相角度が105度であることから、各相の相電流は、U相が吸込み側の最大電流相、V相が吐出し側の最小電流相、W相が吐出し側の中間電流相に割り当てられている。次に、図19中の期間(1)から期間(3)の間において、最大電流相に該当しているU相の相電流に着眼し、この相電流の動きについて、以下に説明する。
上述したように、上記図19中の期間(1)は、印加電圧ゼロ期間中であり、各相の上側スイッチング素子が全てONした状態を示している。即ち、図20(a)に示す通り、各相の相電流は、上側スイッチング素子と各モータコイルとの間で、還流電流として流れている。この期間においては、最大電流相に該当するU相の相電流は、U相の上側スイッチング素子のトランジスタを通流してモータコイルに戻っている。
上記図19中の期間(2)は、W相の相電流を増加させる期間を示している。即ち、図20(b)に示す通り、この期間においても、最大電流相に該当するU相の相電流は、U相の上側スイッチング素子のトランジスタを通流して、モータコイルに戻っている。
上記図19中の期間(3)は、V相とW相の相電流を増加させる期間を示している。即ち、図20(c)に示す通り、この期間においても、最大電流相に該当するU相の相電流は、U相の上側スイッチング素子のトランジスタを通流してモータコイルに戻っている。
以上の通り、基準電圧相と最大電流相が同一相である場合には、印加電圧ゼロ期間中に最大電流相の相電流が還流ダイオードを通流しない期間が生じてしまう。この場合、上記の実施例1や実施例2の方法では、相電流を計測することが不可能となる。そこで、本実施例3では、特に、2相変調方式でモータ3を駆動中でも相電流の計測を可能とするものであり、より具体的には、上記実施例2における相電流の計測を可能とするものである。
なお、この実施例3になるモータ制御装置は、上記実施例2のモータ制御装置と同じ構成となっているが、しかしながら、この実施例3では、特に、ベクトル制御器の内部に、2相変調器が設けられている。また、その他の各部の動作についても、本実施例3と上記実施例2とは基本的に同じであるが、但し、ベクトル制御器の動作のみが異なる。そこで、以下、本実施例3におけるベクトル制御器の動作についてのみ説明を行う。
ベクトル制御器は、上記実施例1で説明した通り、先ず始に、所定の周期で3相分の電圧指令タイマ比較値を計算し、これらを3相分の変調用電圧指令タイマ比較値として取り扱う。そして、これら3相分の変調用電圧指令タイマ比較値と電流位相角度を2相変調器に与え、2相変調用電圧指令タイマ比較値に変換している。
ここで、上記2相変調器内に設けられている電圧指令タイマ比較値の変換手段について説明する。先ず始に、現在の電流位相角度を基に電流位相区間を計算する。この電流位相区間の計算とコードの意味づけは、上記実施例1で説明した内容と同じであるため、その説明は省略する。そして、電流位相区間が「偶数」か「奇数」かにより計算方法を変えて2相変調用電圧指令タイマ比較値を変換している。
まず、電流位相区間が「偶数」の場合は、以下の手順で電圧指令タイマ比較値を変換している。即ち、先ず始に、3相分の変調用電圧指令タイマ比較値を、値の大きさで比較し、最大値が設定されている相を基準電圧相と定める。次に、100%に該当するタイマ比較値から基準電圧相の変調用タイマ比較値を差し引いて補正値を求め、これを各相の変調用タイマ比較値に加算する。
他方、電流位相区間が「奇数」の場合は、以下の手順で電圧指令タイマ比較値を変換している。即ち、先ず始に、3相分の変調用電圧指令タイマ比較値を値の大きさで比較し、最小値が設定されている相を基準電圧相と定める。次に、基準電圧相のタイマ比較値を補正値とし、これを各相の変調用タイマ比較値から減算する。
以上の動作により、電流位相区間に応じて選定する基準電圧相を変えながら、3相分の変調用電圧指令タイマ比較値を、2相分の変調用タイマ比較値に変換している。そして、この変換後の2相分の変調用電圧指令タイマ比較値をPWM信号生成器に出力する。
ここで、変換前の3相分の変調用電圧指令タイマ比較値と、変換後の2相分の変調用電圧指令タイマ比較値とを比較するため、電圧変調率が90%の場合におけるこれらの波形を添付の図21に示す。なお、図21(a)は、3相分の変調用電圧指令タイマ比較値の波形を、他方、図21(b)は、2相分の変調用電圧指令タイマ比較値の波形を示している。その他、表記内容については上記図18と同じであることから、ここでの説明は省略する。
次に、図21(b)に示す位相角度105度における、三角波PWMタイマの動作と母線電流の流れを添付の図22に示す。なお、ここでの表記も上記図2と同じであるため、ここでは各部の説明を省略する。また、電圧位相角度が105度であることから、基準電圧相はW相となり、W相の電圧指令タイマ比較値が0%に設定されている。よって、PWM周期の1周期の期間中、W相の下側スイッチング素子のトランジスタが、常時、ONしている。更に、添付の図23は、上記図22に示したPWM周期の前半周期における、相電流の流れを示している。ここで、図23(a)は、上記図22の期間(1)での相電流の流れを示し、図23(b)は、上記図22の期間(2)での相電流の流れを示し、そして、図23(c)は、上記図22の期間(3)での相電流の流れを、それぞれ、示している。そして、電流位相角度が105度であることから、各相電流は、U相が吸込み側の最大電流相、V相が吐出し側の最小電流相、W相が吐出し側の中間電流相に割り当てられている。次に、上記図22中の期間(1)から期間(3)までの間におけるU相の相電流の動きについて、以下に説明する。
上記図22中の期間(1)は、W相の相電流を増加させる期間を示している。そして、図23(a)にも示す通り、この期間では、最大電流相に該当するU相の相電流はU相の上側スイッチング素子のトランジスタを通流し、モータコイルに戻っている。
また、上記図22中の期間(2)は、V相とW相の相電流を増加させる期間を示している。そして、図23(b)にも示す通り、この期間でも、最大電流相に該当するU相の相電流はU相の上側スイッチング素子のトランジスタを通流し、モータコイルに戻っている。
更に、上記図22中の期間(3)は、印加電圧ゼロ期間中を示しており、ここでは、各相の下側スイッチング素子は全てONした状態となっている。そして、図23(c)にも示す通り、各相の相電流は下側スイッチング素子と各モータコイル間で、還流電流として流れている。そして、この期間では、最大電流相に該当するU相の相電流はU相の下側スイッチング素子の還流ダイオードを通流し、そして、モータコイルに戻る。よって、この期間(3)において、上記実施例2と同様の計測動作を行えば、各相の相電流を計測することが可能となる。
以上に詳述したように、この実施例3になる2相変調方式のモータ制御装置においても、上述した変換手段を用いることによれば、電流位相に関連性を持たせた2相変調方式のPWM信号を出力することが可能となるため、基準電圧相と最大電流相が同一相になった場合でも、最大電流相の相電流が還流ダイオードを通流している印加電圧ゼロ期間を、PWM周期の前半周期内に、必ず1回は設けられることとなる。よって、この期間を用いることにより、同様に、再生電流を利用して相電流の計測を行うことが可能になる。
<実施例3の変形例>
以下に説明する変形例は、上記の変形例と同様に、上記実施例3における相電流の計測により不足したモータ3の電流を補填し、モータ3の出力トルクの低下を防止することを目的にしたものであり、以下に、その詳細について説明する。なお、その概要としては、上記実施例3で説明した相電流測定器11とPWM信号生成器14に対して、以下の動作を追加し、電圧指令タイマ比較値を一時的に補正することにより、モータ3の電流を補填している。なお、PWM信号生成器14に追加した動作は、上記実施例1の変形例と同じであるため、ここでは、その説明を省略する。また、相電流測定器11に追加した動作の内で、タイマ補正値を求める動作についても、上記実施例2の変形例と同じであるため、ここでは説明を省略する。即ち、以下には、上記実施例2の変形例に対して更に追加した動作についてのみ説明する。
先ず始に、上記実施例2の変形例における動作の欠点について説明する。即ち、上記実施例2の変形例で説明した相電流測定器11は、上記実施例3で説明した基準電圧相とは無関係に、タイマ補正値を求めていた。このため、基準電圧相に該当する相のタイマ補正値が、ゼロ以外に設定される可能性がある。基準電圧相に該当する相のタイマ補正値がゼロ以外に設定されると、設定された値がPWM信号生成器14で加算され、そのため、上記実施例3の特徴である、2相変調方式の動作が崩れることとなる。
そこで、この変形例6では、上記実施例2の変形例に示したタイマ補正値に対し、基準電圧相との関連性を持たせ、これにより、基準電圧相に該当する相のタイマ補正値が、常に、ゼロを維持するように再補正する。以下に、この再補正の内容について、添付の図24の流れ図を用いて詳細に説明する。
図24は、本変形例において、相電流測定器に追加された動作を示す流れ図である。即ち、上記実施例2の変形例で得られた各相のタイマ補正値を、更に、ベクトル制御器で求めた基準電圧相に基づいて、再補正している。始に、流れ図の先頭では、基準電圧相に該当する相のタイマ補正値がゼロか否かを確認している(ステップS241)。その結果、ゼロの場合(「YES」)は、上記実施例2の変形例で得られた各相のタイマ補正値を、そのまま、有効値としている(ステップS242)。次に、ゼロ以外(「NO」)の場合は、各相のタイマ補正値から基準電圧相に該当する相のタイマ補正値を減算し、減算後の各相のタイマ補正値を有効値としている(ステップS243)。なお、この図24では、減算式の可読性を向上するため、基準電圧相に該当する相のタイマ補正値を変数Thへ代入して表記している。
以上のことによれば、基準電圧相に該当する相のタイマ補正値は、常に、ゼロに維持され、更に、補正したい相間電圧分も維持することが可能となる。
最後に、添付の図25、図26、更に、図27を用いて、上記の変形例を機能させた場合の三角波PWMタイマとスイッチング素子の動き、更には、母線電流の変化について、以下に詳細に説明する。なお、各図の表記は上記図2と同じであるため、ここでは各部分の説明を省略する。
先ず始に、「同一位相」の場合を示した図25について、説明する。実際のモータ3の電流位相角度とベクトル制御器13の電流位相角度の状態は、上記図20と同じ状態で示している。よって、電流位相角度が105度であることから、電流位相区間は「1」となり、各相については、U相がC相に、V相がB相に、そして、W相がA相に、それぞれ、該当している。また、この図25では、各相の電圧指令タイマ比較値の設定内容を、図19と同じ状態で示している。但し、上記実施例3における動作により、W相が基準電圧相に該当している。以下、「同一位相」の場合について説明を続ける。
この「同一位相」の場合は、上記実施例2の変形例と同様な動作となっており、即ち、PWM周期の前半周期において順次2つの動作が行われている。始めに、PWM信号生成器14がベクトル制御器13の設定した電圧指令タイマ比較値に応じて、モータ3に電流が供給されている。次に、相電流測定器11が相電流計測用信号を出力し、モータ3の電流を回生させ、もって、A相に該当しているW相とB相に該当しているV相との電流を計測している。なお、ここでは、電流位相区間が「1」の場合の相電流計測用信号を出力して、計測を行っている。そして、後半の半周期では、PWM信号生成器14がC相に該当しているU相の電圧指令タイマ比較値を補正することにより、V相とW相の相電流を1度に補填している。
次に、「進み位相」の場合を示した図26について説明する。この動作例では、ベクトル制御器13が電流位相角度を115度と認識しており、かつ、モータ3の電流位相角度が55度である状態を示している。ベクトル制御器13が電流位相角度を115度と認識していることから、電流位相区間は「1」となり、各相については、U相がC相に、V相がB相に、そして、W相がA相に、それぞれ、該当している。一方、モータ3の電流位相角度が55度であることから、実際の各相電流は、U相が吸込み側の中間電流相、V相が吐出し側の最大電流相、そして、W相が吸込み側の最小電流相に割り当てられている。なお、この図26中では、各相の電圧指令タイマ比較値の設定内容は、上記図19と同じ状態として示している。但し、上記実施例3の動作により、ここでは、W相が基準電圧相に該当している。以下、進み位相の場合について説明を続ける。
「進み位相」の場合は、相電流測定器11が2相の回生電流を計測した後に、初回の相電流計測用信号を出力したポイントで母線電流が流れないことを検出し、これにより「進み位相」と判断する。そして、相電流測定器11は、電流位相区間が「1」であることから、始に、各相のタイマ補正値に以下の値を設定する。
A相に該当した相のタイマ補正値 =(+)1相分の計測に要した所定時間
B相に該当した相のタイマ補正値 =(−)1相分の計測に要した所定時間
C相に該当した相のタイマ補正値 = 0
ここで、以降の説明を理解し易くするため、上記内容をより具体的な相に置換えて示すと、以下の内容になる。
W相のタイマ補正値 =(+)1相分の計測に要した所定時間
V相のタイマ補正値 =(−)1相分の計測に要した所定時間
U相のタイマ補正値 = 0
次に、相電流測定器11は、上記図24に示した流れ図に従い、各相のタイマ補正値を再補正する。その結果、各相のタイマ補正値は、以下の内容に更新される。
W相のタイマ補正値 = 0
V相のタイマ補正値 =(−)1相分の計測に要した所定時間 × 2倍
U相のタイマ補正値 =(−)1相分の計測に要した所定時間
そして、このタイマ補正値をPWM信号生成器14に与え、PWM周期の後半の半周期で電圧指令タイマ比較値を補正することにより、U相とW相の相電流を補正している。
次に、「遅れ位相」の場合を示した図27について説明する。この動作例では、ベクトル制御器13が電流位相角度を115度と認識しており、かつ、モータ3の電流位相角度が125度である状態を示している。ベクトル制御器13が電流位相角度を115度と認識していることから、電流位相区間は「1」となり、各相は、U相がC相に、V相がB相に、そして、W相がA相に、それぞれ、該当している。一方、モータ3の電流位相角度が125度であることから、実際の各相電流は、U相が吸込み側の中間電流相、V相が吸込み側の最小電流相、そして、W相が吐出し側の最大電流相に、それぞれ、割り当てられている。なお、この図27中では、各相の電圧指令タイマ比較値の設定内容は、上記図19と同じ状態として示されている。但し、上記実施例3の動作により、W相が基準電圧相に該当している。更に、以下には、遅れ位相の場合について説明を続ける。
「遅れ位相」の場合は、相電流測定器11が2相の回生電流を計測した後に、3回目の相電流計測用信号を出力したポイントで母線電流が流れないことを検出し、これにより、遅れ位相と判断する。そして、相電流測定器11は電流位相区間が「1」であることから、始に、各相のタイマ補正値に以下の値を設定する。
A相に該当した相のタイマ補正値 =(−)1相分の計測に要した所定時間
B相に該当した相のタイマ補正値 =(+)1相分の計測に要した所定時間
C相に該当した相のタイマ補正値 = 0
ここで、以降の説明を理解し易くするため、上記内容をより具体的な相に置換えて示すと、以下の内容になる。
W相のタイマ補正値 =(−)1相分の計測に要した所定時間
V相のタイマ補正値 =(+)1相分の計測に要した所定時間
U相のタイマ補正値 = 0
次に、相電流測定器11は、上記図24の流れ図に従い、各相のタイマ補正値を再補正する。その結果、各相のタイマ補正値は、以下の内容に更新される。
W相のタイマ補正値 = 0
V相のタイマ補正値 =(+)1相分の計測に要した所定時間 × 2倍
U相のタイマ補正値 =(+)1相分の計測に要した所定時間
そして、このタイマ補正値をPWM信号生成器14に与え、PWM周期の後半の半周期で電圧指令タイマ比較値を補正することにより、U相とV相の相電流を補正している。
よって、本変形例によれば、上記実施例3において行われる相電流の計測により不足したモータ3の電流を補填し、モータ3の出力トルクの低下を防止することが可能となる。