図1はこの発明の実施例に係る自動変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
以下説明すると、符号T/Mは自動変速機(以下「トランスミッション」という)を示す。トランスミッションT/Mは車両(図示せず)に搭載されてなると共に、前進5速および後進1速の速度段を有する平行軸式の有段型からなる。
トランスミッションT/Mは、エンジン(内燃機関)Eのクランクシャフトに接続されるアウトプットシャフト10にロックアップ機構Lを有するトルクコンバータ12を介して接続されたメインシャフト(入力軸)MSと、このメインシャフトMSに複数のギヤ列を介して接続されたカウンタシャフト(出力軸)CSとを備える。エンジンEは複数気筒を備えると共に、ガソリンを燃料とする火花点火式のエンジンからなる。
トルクコンバータ12のロックアップ機構LはロックアップクラッチLCを備え、供給される油圧(作動油ATFの圧力)に応じてアウトプットシャフト10に対してメインシャフトMSをオン(より正確にはスリップ)させる。
アウトプットシャフト10の回転数とメインシャフトMSの回転数の差SLIPはトルクコンバータ12、より具体的にはロックアップクラッチLCのスリップ量(係合度あるいはオン状態)を示す。アウトプットシャフト10の回転数に対するメインシャフトMSの回転数の比ETRは直接的にはロックアップクラッチLCのスリップ率を意味するが、スリップ量と等価である。
メインシャフトMSには、メイン1速ギヤ14、メイン2速ギヤ16、メイン3速ギヤ18、メイン4速ギヤ20、メイン5速ギヤ22、およびメインリバースギヤ24が支持される。
また、カウンタシャフトCSには、メイン1速ギヤ14に噛合するカウンタ1速ギヤ28、メイン2速ギヤ16と噛合するカウンタ2速ギヤ30、メイン3速ギヤ18に噛合するカウンタ3速ギヤ32、メイン4速ギヤ20に噛合するカウンタ4速ギヤ34、メイン5速ギヤ22に噛合するカウンタ5速ギヤ36、およびメインリバースギヤ24にリバースアイドルギヤ40を介して接続されるカウンタリバースギヤ42が支持される。
上記において、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン1速ギヤ14を1速用油圧クラッチ(摩擦係合要素。以下同様)C1でメインシャフトMSに結合すると、1速(ギヤ。速度段)が確立する。
メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン2速ギヤ16を2速用油圧クラッチC2でメインシャフトMSに結合すると、2速(ギヤ。速度段)が確立する。カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ3速ギヤ32を3速用油圧クラッチC3でカウンタシャフトCSに結合すると、3速(ギヤ。速度段)が確立する。
カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ4速ギヤ34をセレクタギヤSGでカウンタシャフトCSに結合した状態で、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン4速ギヤ20を4速−リバース用油圧クラッチC4RでメインシャフトMSに結合すると、4速(ギヤ。速度段)が確立する。
また、カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ5速ギヤ36を5速用油圧クラッチC5でカウンタシャフトCSに結合すると、5速(ギヤ。速度段)が確立する。
さらに、カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタリバースギヤ42をセレクタギヤSGでカウンタシャフトCSに結合した状態で、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメインリバースギヤ24を4速−リバース用油圧クラッチC4RでメインシャフトMSに結合すると、後進速度段が確立する。
カウンタシャフトCSの回転は、ファイナルドライブギヤ46およびファイナルドリブンギヤ48を介してディファレンシャルDに伝達され、それから左右のドライブシャフト50,50を介し、エンジンEおよびトランスミッションT/Mが搭載される車両(図示せず)の駆動輪W,Wに伝達される。
車両運転席(図示せず)のフロア付近にはシフトレバー54が設けられ、運転者の操作によって8種のレンジ、P,R,N,D5,D4,D3,2,1のいずれか選択される。
エンジンEの吸気路(図示せず)に配置されたスロットルバルブ(図示せず)はDBW(Drive By Wire)機構55に接続される。即ち、スロットルバルブはアクセルペダル(図示せず)との機械的な連結が断たれ、電動機などのアクチュエータ(図示せず)によって駆動される。
DBW機構55のアクチュエータの付近にはスロットル開度センサ56が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットル開度THHFを示す信号を出力する。またファイナルドリブンギヤ48の付近には車速センサ58が設けられ、ファイナルドリブンギヤ48が1回転するごとに車速Vを示す信号を出力する。
更に、カムシャフト(図示せず)の付近にはクランク角センサ60が設けられ、特定気筒の所定クランク角度でCYL信号を、各気筒の所定クランク角度でTDC信号を、所定クランク角度を細分したクランク角度(例えば15度)ごとにCRK信号を出力する。また、エンジンEの吸気路のスロットルバルブ配置位置の下流には絶対圧センサ62が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAを示す信号を出力する。
また、メインシャフトMSの付近には第1の回転数センサ64が設けられ、メインシャフトMSの回転数(トランスミッションT/Mの入力回転数)NMを示す信号を出力すると共に、カウンタシャフトCSの付近には第2の回転数センサ66が設けられ、カウンタシャフトCSの回転数(トランスミッションT/Mの出力回転数)NCを示す信号を出力する。
さらに、車両運転席付近に装着されたシフトレバー54の付近にはシフトレバーポジションセンサ68が設けられ、前記した8種のポジション(レンジ)の中、運転者によって選択されたポジションを示す信号を出力する。
後述するようにトランスミッションT/Mの油圧装置Oのリザーバの付近には温度センサ70が設けられて油温(作動油Automatic Transmission Fluidの温度)TATFに比例した信号を出力すると共に、各油圧クラッチCnに接続される油路には油圧スイッチ72(図2で図示省略)がそれぞれ設けられ、各油圧クラッチCnに供給される油圧が所定値に達したとき、ON信号を出力する。
車両運転席のブレーキペダル(図示せず)の付近にはブレーキスイッチ74が設けられ、運転者のブレーキペダル操作に応じてON信号を出力すると共に、アクセルペダル(図示せず)の付近にはアクセル開度センサ76が設けられ、運転者のアクセル開度(アクセルペダル踏み込み量)APに応じた出力を生じる。
これらセンサ56などの出力は、ECU(電子制御ユニット)80に送られる。
ECU80は、CPU82,ROM84,RAM86、入力回路88、および出力回路90からなるマイクロコンピュータから構成される。マイクロコンピュータはA/D変換器92を備える。
前記したセンサ56などの出力は、入力回路88を介してECU80内に入力され、アナログ出力はA/D変換器92を介してデジタル値に変換されると共に、デジタル出力は波形整形回路などの処理回路(図示せず)を経て処理され、前記RAM86に格納される。
車速センサ58の出力およびクランク角センサ60のCRK信号出力はカウンタ(図示せず)で時間間隔が計測され、車速Vおよびエンジン回転数NEが検出される。第1の回転数センサ64および第2の回転数センサ66の出力もカウントされ、トランスミッションの入力軸回転数NMおよび出力軸回転数NCが検出される。
図示の如く、トランスミッションT/Mの油圧装置OはシフトソレノイドSL1からSL5とリニアソレノイドSL6からSL9を備える。図2は図1の油圧装置Oをトルクコンバータ12を中心に部分的に示す油圧回路図である。
油圧装置Oには油圧ポンプO1が設けられる。油圧ポンプO1はエンジンEで駆動され、前記したリザーバ(符号O2で示す)に貯留された作動油ATFを汲み上げ、PHレギュレータバルブO3に送る。
PHレギュレータバルブO3は車両の走行状態に応じて油圧ポンプO1の吐出圧を調整し、PH圧(元圧あるいはライン圧)を生成し、油路O4に供給する。
油路O4は各油圧クラッチCnに接続されると共に、トルクコンバータ12に接続される。即ち、トルクコンバータ12のロックアップクラッチLCは背圧室LC1と、背圧室LC1に接続される内圧室LC2を備える。内圧室LC2は油路O4から分岐される油路O5に接続されて油圧を供給される一方、背圧室LC1はリニアソレノイドSL8に接続されてオン状態(係合量)が制御される。
また、ロックアップクラッチLCの解放時には、背圧室LC1は油路O4から分岐される油路O5に接続されて油圧を供給される一方、内圧室LC2は油路O6を介してドレンXに接続されて油圧を排出する。
トルクコンバータ12においてロックアップクラッチLCは背圧室LC1と内圧室LC2の差圧(供給油圧)に応じた圧力でアウトプットシャフト10に対してメインシャフトMSを係合(スリップ)させる。
ECU80においてCPU82は行先段あるいは目標段(変速比)を決定し、出力回路90および電圧供給回路(図示せず)を介して油圧装置Oに配置されたシフトソレノイドSL1からSL5を励磁・非励磁してクラッチ油路の切替え制御を行う。
またCPU82はリニアソレノイドSL6,SL7を励磁・非励磁して変速に関係する油圧クラッチCnへの供給油圧を制御すると共に、リニアソレノイドSL8を励磁・非励磁してロックアップクラッチLCの背圧室LC1の油圧を制御し、さらにリニアソレノイドSL9を励磁・非励磁してPH圧を調整する。
図3は図1のトルクコンバータ(トルコン)12の構造を詳細に示す説明図である。トルクコンバータ12のロックアップクラッチLCが伝達するトルク(以下「LC伝達トルク」あるいは「LCトルク」という)TLCなどは、図示の理論関係式に従って算出される。
尚、CPU82はエンジンEの燃料噴射量と点火時期を決定し、インジェクタ(図示せず)を介して決定された噴射量の燃料を供給すると共に、点火装置(図示せず)を介して決定された点火時期に従って噴射された燃料と吸気の混合気を点火するが、それらはこの発明と直接の関連を有しないので、それ以上の説明を省略する。
次いで、この発明に係る自動変速機の制御装置の動作を説明する。
図4はその処理を示すフロー・チャートである。図示のプログラムはCPU82によって所定時間ごとに実行される。
以下説明すると、S10においてLCON制御許可条件(LCON(オン)制御を行う領域)以内か否か判断する。これは、現在の変速段から該当の特性(LC制御マップ)を選択し、アクセル開度APと車速VからLCON制御を行う領域にあるか否か判定することで行う。
図5はその処理を示す説明図である。図示の如く、LCON制御許可条件は、変速段(変速比)SHとアクセル開度APと車速Vで設定される。尚、制御ハンチングを防止するため、領域の境界線にはヒステリシスが設けられる。
S10で否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS12に進み、LCON制御の初回、即ち、所定時間ごとに実行されるLCON制御周期の初回か、換言すればS10で肯定されて初めてのプログラムループか否か判断する。
図4フロー・チャートの説明を続ける前に、図6を参照してこの実施例に係る制御を概説する。
図6はこの実施例に係る制御を説明するブロック図、図7はそのトルクベースFF値の算出を説明するタイム・チャート、図8は図6に示す制御をより具体的に示すタイム・チャートである。
この制御は、図7に示す如く、ロックアップクラッチLCのオンショックがトルクコンバータ12のタービントルクTTに比例し、タービントルクがエンジンEとトルクコンバータ12のイナーシャトルクTI(図3に示す)に依存するという知見に基づき、イナーシャトルクから伝達トルクを算出するようにした。
具体的には、図6に示す如く、その伝達トルクをトルクベースFF(フィードフォワード)値としてフィードフォワード的に与えるようにした。即ち、ロックアップクラッチLCの背圧室LC1への供給油圧を調整するリニアソレノイドSL8への通電量Iを操作量とすると共に、トルクベースFFからフィードフォワード値Iffと、ロックアップクラッチLCのスリップ量の目標値と実際値との偏差eに応じてフィードバック制御器によって算出される操作量Ifbとの和Iを実プラント(ロックアップクラッチLC)に入力するようにした。
より具体的には、図8に示す如く、予め求められた特性に従って目標スリップ量を算出し、次いで目標吸収LCスリップ量、即ち、算出された目標スリップ量を吸収するのに必要なエンジン回転数NEの減少量を算出する。
次いで予め求められた特性に従って油温TATFと算出された目標吸収LCスリップ量から目標ON時間(ロックアップクラッチLCの目標ON(オン)時間)を算出する。
次いでエンジンEとトルクコンバータ12のイナーシャトルクが算出された目標ON時間の途中、より具体的にはその1/2あるいはその近傍で最大となるように、ロックアップクラッチLCが伝達すべきLC伝達トルク(LCトルク)TLC、より正確にはその目標値(目標LCトルク)を算出する。
即ち、ロックアップクラッチLCをON(オン)したことによるエンジン回転数NEの減少に伴って発生するショックの最大値、換言すればエンジンEとトルクコンバータ12のイナーシャトルクTIの最大値が、目標ON時間の半分で発生するようにLCトルク(LC伝達トルク)TLCを制御してエンジン回転を減少させるように構成した。
さらに、算出された目標LCトルクとなるように、より具体的にはロックアップクラッチLCへの供給油圧(より正確にはその背圧室LC1と内圧室LC2の差圧)と供給油圧によってロックアップクラッチLCに実際に発生するLCトルクTLCとの関係に基づいて予め設定された遅れ特性に従ってロックアップクラッチLCへの供給油圧を算出し、算出された供給油圧となるように油圧制御値を算出するように構成した。
上記を前提として図4フロー・チャートの説明に戻ると、S12で肯定されるときはS14に進み、LCON初回処理を実行する。
図9はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
以下説明すると、S100において目標スリップ量を算出する。即ち、予め求められた特性に従って上記した目標スリップ量を算出する。
尚、目標スリップ量はアウトプットシャフト10の回転数とメインシャフトMSの回転数の差SLIPで算出するが、アウトプットシャフト10の回転数に対するメインシャフトMSの回転数の比ETRで算出しても良い。即ち、この明細書において目標「スリップ量」は回転数の差SLIPと回転数の比ETRの双方を含む。
図10はその特性を示す説明図である。図示の如く、目標スリップ量は変速段SH(3rd,4thなど)とメインシャフト回転数NMとスロットル開度THHFごとに設定され、それらのパラメータの検出値から検索して得た値を補間演算して算出する。
次いでS102に進み、上記した目標吸収LCスリップ量を算出する。
図11はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
先ずS200においてON制御初回実エンジン回転数NEと実メインシャフト回転数NMと目標スリップ量(S100で算出された)からON制御初回目標エンジン回転数NEを算出する。具体的には、目標スリップ量にON制御初回実メインシャフト回転数NMを加算して算出する。
次いでS202に進み、ON制御初回実エンジン回転数NEからON制御初回目標エンジン回転数NEを減算して目標吸収LCスリップ量を算出する。
図9フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS104に進み、上記した目標ON時間を算出する。
図12はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
先ずS300において、温度センサ70から検出された油温TATFと、S102で算出された目標吸収LCスリップ量から予め設定された適宜な特性を検索して基準変速段目標ON時間を算出する。
次いでS302に進み、現在の変速段とスロットル開度THHFから予め設定された適宜な特性を検索して目標ON時間検索用変速段係数を算出し、S304に進み、算出された基準変速段目標ON時間と変速段係数とから予め設定された適宜な特性を検索して目標ON時間を算出する。
図9フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS106に進み、制御周期毎の目標イナーシャトルク吸収量を算出する。
図13はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
先ずS400において、S102で算出された目標吸収LCスリップ量をS104で算出された目標ON時間で除算して目標吸収NE量傾き(エンジン回転数NEの吸収傾きの目標値)を算出する。
次いでS402に進み、算出された目標吸収NE量傾きから適宜な特性を検索して平均イナーシャトルク吸収量を算出し、S404に進み、S402で算出された平均イナーシャトルク吸収量とS104で算出された目標ON時間からエンジン・トルコンイナーシャIと求めた値を積算して制御周期毎の目標イナーシャトルク吸収量を算出する。即ち、前記した所定時間、換言すれば図4フロー・チャートのプログラムループ周期の目標イナーシャトルク吸収量を算出する。
図9フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS108に進み、ON制御終了時目標LCトルクを算出する。
図14はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャート、図15はその処理を説明するタイム・チャートである。
図14を中心に説明すると、S500において目標ETRと、目標エンジン回転数NEと、油温TATFから適宜な特性を検索して効率τを算出し、S502に進み、図示の式に従ってON制御終了時ポンプ吸収トルクTPonを算出する。
次いでS504に進み、算出された値を図示のように置き換えることで、ON制御終了時目標LCトルクTLCon(LC伝達トルクTLCのON制御終了時の目標値。図15に示す)を算出する。
即ち、トルクコンバータ12の釣り合い式は以下の通りである。
TLC=TE+TI+TP
上記のON制御終了時の値にonを付して示すと、以下のようになる。
TLCon=TEon+TIon+TPon
図15に示す如く、イナーシャトルクがON制御の間に吸収されることから、結局、ON制御終了時目標LCトルクTLConはS504に示すように算出することができる。
図4フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS16に進み、TOTAL学習量を検索する。
図16はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
これはS600においてB/U(バックアップ)RAM(RAM86のエンジン停止時もメモリが保持されるバックアップ部)に格納されるマップからON制御終了時目標LCトルクTLConと目標ON時間と油温TATFを用いて検索することで行う。TOTAL学習量については後述する。
図4フロー・チャートにあっては次いでS18に進み、学習許可フラグのビットを1にセットして以降の処理を一旦スキップする。
次回以降のプログラムループにおいてS12で否定されてLCON制御の初回ではないと判断されるときはS20に進み、LCON処理(LC制御が開始されてから2回目以降の処理)を実行する。
図17はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
以下説明すると、S700において次回目標LCトルク(LC伝達トルクTLCの次回の目標値)を算出する。尚、この明細書において「次回」は次の制御周期、即ち、図4フロー・チャートの次回のプログラムループを意味する。従って、S700では次回の制御周期のLCトルクの目標値を算出する。
図18はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
以下説明すると、S800において次回のエンジントルクTEを算出する。これは、エンジンEの回転数NEと負荷(例えばスロットル開度THHF)から適宜な特性を検索して算出する。
次いでS802に進み、次回の目標イナーシャトルクTI、即ち、吸収されるべきイナーシャトルク値を算出する。即ち、図8に示す如く、エンジンEとトルクコンバータ12のイナーシャトルクTIが算出された目標ON時間の途中、より具体的にはその1/2あるいはその付近で最大となるように、算出した値を加減算して吸収されるべきイナーシャトルク値を算出する。
図19はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャート、図20は同様にその処理を示すタイム・チャートである。
図19(および図20)を参照しながら説明すると、S900において目標吸収LCスリップ量の残りが目標吸収LCスリップ量の1/2を上回るか否か判断し、肯定されるときはS902に進み、次回の制御周期毎の目標イナーシャトルク吸収量を所定量で補正する。
目標イナーシャトルク吸収量を補正する所定量は、図8の末尾に示す如く、平均イナーシャトルク吸収量を2倍した値を目標ON時間の半分で除算して得た商に制御周期に応じた値γを乗じて算出する。
次いでS904に進み、所定量で加算補正された値をリミット処理、即ち、加算補正された値が平均イナーシャトルク吸収量の2倍以下となるように制限する。
他方、S900で否定されるときはS906に進み、次回の制御周期毎の目標イナーシャトルク吸収量を所定量で減算補正し、S908に進み、減算補正された値をリミット、即ち、減算補正された値が零未満にならないように制限する。
尚、図20においてAで示す場合を所望する理論回転推移とするとき、Bで示す場合は放置するが、Cで示すようなLCスリップ量の吸収が遅い場合、トルク指令値(次回目標LCトルク)はピークを維持させる。ピークの維持は、イナーシャトルク吸収量に上限を設け、エンジン回転変化を防止することで行う。
図18フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS804に進み、図3に示す計算式に従って次回のポンプトルクTPを算出する。次いでS806に進み、S800からS804までに算出された値に基づき、次回の目標LCトルク(次の制御周期のLC伝達トルクTLCの目標値)を算出する。
図17フロー・チャートの説明に戻ると、続いてS702に進み、LC指令制御値を算出する。即ち、予め実験を通じて求められたロックアップクラッチLCへの供給油圧(即ち、その背圧室LC1と内圧室LC2の差圧)と供給油圧によってロックアップクラッチLCに実際に発生するLCトルクTLCとの関係に基づいて設定された特性に従い、算出された目標LCトルクを実現するのに必要な、換言すれば算出されたトルクとなるようにLC指令制御値を算出する。
次いでS704に進み、算出されたLC指令制御値となるようにLC指令電流(前記したリニアソレノイドSL8への通電指令値LCICMD。主制御量)を算出する。
次いでS706に進み、算出されたLC指令電流値と検索されたTOTAL学習量を加算してLC指令学習電流を算出する。次いでS708に進み、算出されたLC指令学習電流から適宜な特性を検索してLC制御用油圧制御値を算出すると共に、油圧装置OのリニアソレノイドバルブSL8に出力してロックアップクラッチLCの供給油圧を制御する。
図4フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS22に進み、ON制御の初期か否か判断する。これは、LCON制御を開始してからの経過時間が図8(あるいは図20)に示す目標ON時間の1/2未満か否か判定することで判断する。
S22で肯定されるときはS24に進み、学習領域か否か判断する。これはアクセル開度APの変動が設定値以下で前回(図4フロー・チャートの前回実行時)がLCON制御かその準備段階にあるか否か判定することで判断する。
S24で否定されて学習領域にないと判断されるときはS26に進み、学習許可フラグのビットを0にリセットする一方、肯定されるときはS28に進み、学習許可フラグのビットを1にセットし、S30に進み、学習パラメータ処理を実行する。
図21はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートであり、学習パラメータ処理はS1000においてフィードバック制御量積分値を格納することで行う。これについては後述する。尚、S22で否定されるときはS24からS30までをスキップする。
図4フロー・チャートにあっては次いでS32に進み、学習量の反映処理が可能か否か判断する。これはLCON制御が終了した直後にあり、学習フラグのビットが1であるか否か判断することで行う。
S32で否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS34に進み、学習量の反映処理を実行する。
図22はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
以下説明すると、S1100において学習が収束したか否か判断する。
図22フロー・チャートの説明を続ける前に、図23を参照して説明すると、この実施例においてはLCON制御中の目標スリップ量と実スリップ量との偏差に基づいてフィードバック制御積分量αが算出される。
他方、油温TATFから適宜な特性を検索することで学習係数KLEARNが算出され、それとフィードバック制御量積分量αを乗じることで学習MAX量が算出され、それに基づいて前記したTOTAL学習量が算出される。
図22フロー・チャートの説明に戻ると、S1100の判断は、図23の下部に示す如く、算出された積分量αが0を中心として±βの範囲に設定された学習収束判定域に入ったか否か判定することで行う。
S1100で肯定されるときは以降の処理をスキップする一方、否定されるときはS1102に進み、上記した如く、油温TATFから学習係数KLEARNを検索(算出)し、S1104に進み、検索された学習係数KLEARNにフィードバック制御積分量αを乗じて学習MAX量を算出する。
次いでS1106に進み、算出された学習MAX量から制御電流変更量を算出する。
図24はS1106の制御電流値変更量の算出処理を示す説明図である。
図24に示す算出処理では、縦軸の目標LCトルクと横軸の目標ON時間に対して0から1.0の間で増減すると共に、それぞれ補完関係にある実線と破線で示される2種の三角波からなり、合算値が常に1.0となる重み関数が使用される。
即ち、学習MAX量(黒丸で示す)が重み関数を用いて隣接領域に制御電流変更量(白丸で示す)として割り振られる。さらに、図示の特性は油温TATFの適宜温度ごとに別々に設定される。
この重み関数を用いた隣接領域の制御電流変更量は縦軸の重み×横軸の重み×LC指令電流で算出される。尚、図24に示す例では学習MAX量(黒丸)が偶々関数の中心と一致しているが、もしそれが同図のP1であったとすると、4個の制御電流変更量(白丸)は、LC指令電流を例えば10とするとき、左上が0.75(目標LCトルク軸)×0.75(目標ON時間軸)×(10)=5.625となり、以下反時計回りに、
0.25×0.75×(10)=1.875
0.75×0.25×(10)=1.875
0.25×0.25×(10)=0.625
となる(総和10)。
このように算出された結果は、4つの格子点に反映される。即ち、次回の算出時には、かかる修正された4つの格子点を含む新たな特性に従って制御電流変更量が算出される。
その場合、制御電流変更量は、図24に示す4個の値を含む特性において該当する格子点があればその値、ない場合は隣接する格子点の値を補間して得られる値を用いて算出される。
図22フロー・チャートにあっては次いでS1108に進み、TOTAL学習量の前回値に算出された制御電流値を加算してTOTAL学習量の次回値を算出し、S1110に進み、算出されたTOTAL学習量の次回値を前記したバックアップRAMに格納する。
図25はその処理を示すブロック図である。
図示の如く、学習で収束していないと判定される限り、同図の上部の処理が実行されると共に、同図の下部に示すLCON処理時には図17フロー・チャートのS708で述べたようにTOTAL学習量とLC指令電流が加算されてLC指令学習電流が算出される。
この実施例にあっては上記の如く、ロックアップクラッチLCを有するトルクコンバータ12を介して車両に搭載されたエンジンEの出力を入力して変速する自動変速機(トランスミッション)T/Mの制御装置(ECU80)において、予め求められた特性に従って前記ロックアップクラッチの目標スリップ量を算出する目標スリップ量算出手段(S14,S100)と、前記算出された目標スリップ量を吸収するのに必要な前記エンジンの回転数の減少量(目標吸収LCスリップ量)を算出するエンジン回転数減少量算出手段(S14,S102,S200からS202)と、予め求められた特性に従って前記算出されたエンジンの回転数の減少量から前記ロックアップクラッチの目標係合(ON)時間を算出する目標係合時間算出手段(S14,S104,S300からS304)と、前記エンジンEとトルクコンバータ12のイナーシャトルクTIが前記算出された目標係合時間の途中で最大となるように前記ロックアップクラッチの伝達トルクTLC(より正確にはその目標値(目標LCトルク。ON制御終了時目標LCトルクTLCon)を算出する伝達トルク算出手段(S14,S108,S500からS504)と、前記算出された伝達トルクに基づいて主制御量(LC指令電流)を算出する制御量算出手段(S20,S700からS704)と、前記ロックアップクラッチの目標スリップ量と実スリップ量の偏差に基づいてフィードバック制御量(フィードバック制御量積分値)を算出するフィードバック制御量算出手段(S30,S1000)と、前記算出されたフィードバック制御量に基づいて学習補正量(TOTAL学習量)を算出する学習補正量算出手段(S34,S1100からS1110)と、前記算出された主制御量(LC指令電流)を前記学習補正量(TOTAL学習量)で補正した値(LC指令学習電流)に基づいて前記ロックアップクラッチへの供給油圧を制御する油圧制御手段(S20,S706,S708)とを備える如く構成したので、即ち、算出されたロックアップクラッチLCの目標スリップ量を吸収するのに必要なエンジンEの回転数NEの減少量を算出し、それから目標ON時間を算出し、目標ON時間の途中で最大となるように伝達トルク(より正確にはその目標値(ON制御終了時目標LCトルクTLCon))を算出してその値となるように油圧制御することで、換言すればロックアップクラッチLCのオン(係合)時に発生するショックはロックアップクラッチLCのタービントルクTTに比例し、それはエンジンEとトルクコンバータ20のイナーシャトルクTIに依存することから、そのイナーシャトルクTIが目標ON時間の途中で最大となるように伝達トルクを算出して制御することで、ロックアップクラッチLCの作動状態を常にフィードフォワード的に推定することができ、ロックアップクラッチLCを速やかにオンさせることができて燃費性能やロックアップクラッチLCの耐久性を低下させることがない。
さらに、ロックアップクラッチLCのスリップ量の目標値と実際値との偏差に基づいて得たフィードバック制御量(より正確にはフィードバック制御量積分値)から学習補正量を算出し、それから制御量(主制御量)を補正するように構成することで、外乱やトルクコンバータ20およびロックアップクラッチLCの個体ばらつきを吸収してロックアップクラッチLCを一層速やかでかつショックなく、オンさせることができる。
また、エンジンEとトルクコンバータ20のイナーシャトルクTIが算出された目標ON時間の途中で最大となるようにロックアップクラッチLCの伝達トルク(ON制御終了時目標LCトルクTLCon)を算出し、その伝達トルクとなるようにロックアップクラッチLCへの油圧制御値を算出することにより、エンジンEの回転数の変化速度を最適に制御できるため、LCオンショックが生じることもない。
また、前記学習補正量算出手段は、前記フィードバック制御量が所定の収束範囲に入ったとき、前記学習補正量の算出を中止する(S1100)如く構成したので、上記した効果に加え、学習補正量の算出を必要最小限の範囲に限定することができる。
また、前記学習補正量算出手段は、前記学習補正量を少なくとも前記目標オン時間(目標ON時間)と前記伝達トルク(目標LCトルク)からなるパラメータの格子点で規定されるマップに格納する如く構成したので、上記した効果に加え、該当する格子点がないとき、補間演算するなどして学習補正量を求めることができる。
また、前記学習補正量算出手段は、図24に示す如く、前記学習補正量を、前記パラメータに該当する格子点がないとき、隣接する格子点から検索自在に前記マップに格納する如く構成したので、上記した効果に加え、該当する格子点がないとき、補間演算することなく、学習補正量を求めることができる。
尚、上記において、この発明を平行軸式の自動変速機を例にとって説明したが、この発明はプラネタリ型の自動変速機にも妥当する。