図1はこの発明の実施例に係る自動変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
以下説明すると、符号Tは自動変速機(以下「トランスミッション」という)を示す。トランスミッションTは車両(図示せず)に搭載されてなると共に、前進5速および後進1速の速度段を有する平行軸式の有段型からなる。
トランスミッションTは、エンジン(内燃機関)Eのクランクシャフトに接続されるアウトプットシャフト10にロックアップ機構Lを有するトルクコンバータ12を介して接続されたメインシャフト(入力軸)MSと、このメインシャフトMSに複数のギヤ列を介して接続されたカウンタシャフト(出力軸)CSとを備える。エンジンEは複数気筒を備えると共に、ガソリンを燃料とする火花点火式のエンジンからなる。
トルクコンバータ12のロックアップ機構LはロックアップクラッチLCを備え,背面側に給排される油圧(作動油の圧力)に応じてアウトプットシャフト10に対してメインシャフトMSをスリップさせる。
アウトプットシャフト10の回転数に対するメインシャフトMSの回転数の比ETRはトルクコンバータ12、より正確にはロックアップクラッチLCのスリップ率、換言すればトルクコンバータ12の係合度を示すと共に、アウトプットシャフト10の回転数とメインシャフトMSの回転数の差SLIPはロックアップクラッチLCのスリップ量(トルクコンバータ12の係合度)を示す。
メインシャフトMSには、メイン1速ギヤ14、メイン2速ギヤ16、メイン3速ギヤ18、メイン4速ギヤ20、メイン5速ギヤ22、およびメインリバースギヤ24が支持される。
また、カウンタシャフトCSには、メイン1速ギヤ14に噛合するカウンタ1速ギヤ28、メイン2速ギヤ16と噛合するカウンタ2速ギヤ30、メイン3速ギヤ18に噛合するカウンタ3速ギヤ32、メイン4速ギヤ20に噛合するカウンタ4速ギヤ34、メイン5速ギヤ22に噛合するカウンタ5速ギヤ36、およびメインリバースギヤ24にリバースアイドルギヤ40を介して接続されるカウンタリバースギヤ42が支持される。
上記において、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン1速ギヤ14を1速用油圧クラッチ(摩擦係合要素。以下同様)C1でメインシャフトMSに結合すると、1速(ギヤ。速度段)が確立する。
メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン2速ギヤ16を2速用油圧クラッチC2でメインシャフトMSに結合すると、2速(ギヤ。速度段)が確立する。カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ3速ギヤ32を3速用油圧クラッチC3でカウンタシャフトCSに結合すると、3速(ギヤ。速度段)が確立する。
カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ4速ギヤ34をセレクタギヤSGでカウンタシャフトCSに結合した状態で、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン4速ギヤ20を4速−リバース用油圧クラッチC4RでメインシャフトMSに結合すると、4速(ギヤ。速度段)が確立する。
また、カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ5速ギヤ36を5速用油圧クラッチC5でカウンタシャフトCSに結合すると、5速(ギヤ。速度段)が確立する。
さらに、カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタリバースギヤ42をセレクタギヤSGでカウンタシャフトCSに結合した状態で、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメインリバースギヤ24を4速−リバース用油圧クラッチC4RでメインシャフトMSに結合すると、後進速度段が確立する。
カウンタシャフトCSの回転は、ファイナルドライブギヤ46およびファイナルドリブンギヤ48を介してディファレンシャルDに伝達され、それから左右のドライブシャフト50,50を介し、エンジンEおよびトランスミッションTが搭載される車両(図示せず)の駆動輪W,Wに伝達される。
車両運転席(図示せず)のフロア付近にはシフトレバー54が設けられ、運転者の操作によって8種のレンジ、P,R,N,D5,D4,D3,2,1のいずれか選択される。
エンジンEの吸気路(図示せず)に配置されたスロットルバルブ(図示せず)はDBW(Drive By Wire)機構55に接続される。即ち、スロットルバルブはアクセルペダル(図示せず)との機械的な連結が断たれ、電動機などのアクチュエータ(図示せず)によって駆動される。
DBW機構55のアクチュエータの付近にはスロットル開度センサ56が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットル開度THHFを示す信号を出力する。またファイナルドリブンギヤ48の付近には車速センサ58が設けられ、ファイナルドリブンギヤ48が1回転するごとに車速Vを示す信号を出力する。
更に、カムシャフト(図示せず)の付近にはクランク角センサ60が設けられ、特定気筒の所定クランク角度でCYL信号を、各気筒の所定クランク角度でTDC信号を、所定クランク角度を細分したクランク角度(例えば15度)ごとにCRK信号を出力する。また、エンジンEの吸気路のスロットルバルブ配置位置の下流には絶対圧センサ62が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAを示す信号を出力する。
また、メインシャフトMSの付近には第1の回転数センサ64が設けられ、メインシャフトMSの回転数(トランスミッションTの入力回転数)NMを示す信号を出力すると共に、カウンタシャフトCSの付近には第2の回転数センサ66が設けられ、カウンタシャフトCSの回転数(トランスミッションTの出力回転数)NCを示す信号を出力する。
さらに、車両運転席付近に装着されたシフトレバー54の付近にはシフトレバーポジションセンサ68が設けられ、前記した8種のポジション(レンジ)の中、運転者によって選択されたポジションを示す信号を出力する。
さらに、トランスミッションTの油圧回路Oのリザーバの付近には温度センサ70が設けられて油温(作動油Automatic Transmission Fluidの温度)TATFに比例した信号を出力すると共に、各クラッチに接続される油路には油圧スイッチ72がそれぞれ設けられ、各クラッチに供給される油圧が所定値に達したとき、ON信号を出力する。
また車両運転席のブレーキペダル(図示せず)の付近にはブレーキスイッチ74が設けられ、運転者のブレーキペダル操作に応じてON信号を出力すると共に、アクセルペダル(図示せず)の付近にはアクセル開度センサ76が設けられ、運転者のアクセル開度(アクセルペダル踏み込み量)APに応じた出力を生じる。
また、運転席のダッシュボード付近にはトランスミッションTの変速特性を燃費性能重視型(ECO−ON)と否との間で運転者に選択させるスイッチ78が設けられる。
これらセンサ56などの出力は、ECU(電子制御ユニット)80に送られる。
ECU80は、CPU82,ROM84,RAM86、入力回路88、および出力回路90からなるマイクロコンピュータから構成される。マイクロコンピュータはA/D変換器92を備える。RAM86は、エンジンEの停止後もデータを保存するB/URAM(バックアップRAM)86aを有する。
前記したセンサ56などの出力は、入力回路88を介してECU80内に入力され、アナログ出力はA/D変換器92を介してデジタル値に変換されると共に、デジタル出力は波形整形回路などの処理回路(図示せず)を経て処理され、前記RAM86に格納される。
前記した車速センサ58の出力およびクランク角センサ60のCRK信号出力はカウンタ(図示せず)で時間間隔が計測され、車速Vおよびエンジン回転数NEが検出される。第1の回転数センサ64および第2の回転数センサ66の出力もカウントされ、トランスミッションの入力軸回転数NMおよび出力軸回転数NCが検出される。
ECU80においてCPU82は行先段あるいは目標段(変速比)を決定し、出力回路90および電圧供給回路(図示せず)を介して油圧回路Oに配置されたシフトソレノイドSL1からSL5を励磁・非励磁してクラッチ油路の切替え制御を行う。
またCPU82は、リニアソレノイドSL6からSL8を励磁・非励磁して変速に関係する油圧クラッチCnとトルクコンバータ12のロックアップ機構LのロックアップクラッチLCへの供給油圧を制御(スリップ制御)する。
さらに、CPU82はエンジンEの燃料噴射量と点火時期を決定し、インジェクタ(図示せず)を介して決定された噴射量の燃料を供給すると共に、点火装置(図示せず)を介して決定された点火時期に従って噴射された燃料と吸気の混合気を点火する。
次いで、この発明に係る自動変速機の制御装置の動作、即ち、トルクコンバータ12のロックアップクラッチLCのスリップ制御を説明する。
図2はその処理を示すフロー・チャートである。図示のプログラムはCPU82によって所定時間ごとに実行される。
以下説明すると、S10においてDNCを算出する。DNCは、今回の(プログラムループ時の)NC(第2の回転数センサ66で検出されるカウンタシャフトCSの回転数(トランスミッションTの出力回転数、換言すれば車速V))から2msec前の(プログラムループ時の)NCを減算して得られた差を意味する。尚、DNCの算出は、回転数センサ66の出力をローパスフィルタでフィルタリングして高周波ノイズを除去した波形に対して行われる。
図2の説明を続ける前に、図3を参照してこの発明における、ロックアップクラッチLCのスリップ制御によって発生する振動・音の定量化について説明する。ここで振動・音は、それらを総合した騒音を示すパラメータを意味する。以下、この振動・音を「NV」という。NはNoiseノイズ(騒音)、VはVibration(振動)を意味する。
発明者達は知見を重ねた結果、NCがNVを表現可能と考えた。即ち、図3に示す如く、その変化量DNCを高速サンプリングし、検出されたエンジン回転数NEから得られる周期に基づいてフィルタリングして振幅を算出し、それからNVの大きさが判定できることを見出してこの発明をなしたものである。
上記を前提として図2の説明に戻ると、次いでS12に進み、BPF処理を行う。即ち、検出されたエンジン回転数NEから得られる周期に基づいてDNCをフィルタリングする。
図3にあって(a)2000rpmのときのエンジン回転数NEの振幅を、(b)はそのエンジン回転数において振幅が基準値(±α)より小さい(NVがOK)場合を、(c)は同様にそのエンジン回転数において振幅が基準値(±α)より大きい(NVがNG)場合を示す波形図である。
尚、基準値はNVが問題となる下限値に設定される。またNCの実際の波形は高調波状を呈するが、図示の簡略化のため、滑らかな曲線で示す。
図2においては次いでS14に進み,NV評価領域にあるか否か判断する。
これは車両の走行状態とエンジンEの運転状態から判断し、車速Vがある所定の範囲内、例えば2km/h以上で60km/h以下にあり、エンジン回転数NEもある所定の範囲内、例えば1000rpmから2000rpmにあるか否か判断し、肯定されるとき、NV評価領域にあると判断する。
即ち、NVが問題となるのは比較的低速で走行する場合であるので、以下に述べる処理を低速走行時に限定し、不要な処理を省略して構成を簡易にするためである。
S14で否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS16に進み、DNC振幅を演算する。即ち、BPF処理後のDNCの振幅を演算する。
図4はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
以下説明すると、S100においてMAX/MIN値を算出する。図3(c)を参照して説明すると、S100ではMAX値(最大値)・MIN値(最小値)のそれぞれ3周期分の値を求め、バッファ(3個)に格納する。
図5はその処理、特にMAX値(最大値)の演算を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
図3(c)を参照して説明すると、S200においてDNCの値が平均値+αより大きいか否か判断し、肯定されるときはS202に進み、MAX確定タイマの値(15msec)が経過したか否か判断する。
S202で否定されるときはS204に進み、DNCの前回値(前回プログラムループ時の値)より今回値(今回プログラムループ時の値)が大きい、換言すればDNCが増加中か否か判断する。
S204で肯定されるときはS206に進み、今回値をMAX値として格納(更新)し、S208に進み、MAX値確定タイマとMAX値リセットタイマにタイマ値をセットする。上記した処理をS204で肯定される度に実行してMAX値を更新する。尚、S204で否定されるときはDNCがMAX値を越えたことを意味するので、以降の処理をスキップする。
他方、S202で肯定されるときはS210に進み、S100で述べたバッファをカウントするバッファカウンタの値を1つインクリメントしてS206以降に進む。即ち、3個のバッファの2個目に格納された値について同様の処理を行う。
また、S200で否定されるときはS212に進み、MAX値リセットタイマの値が経過したか否か判断し、否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS214に進み、バッファカウンタをリセットして終わる。
即ち、MAX値リセットタイマの値は2secで図3(c)に示す如く、MAX確定タイマの値に比して遥かに大きい値なので、この値が経過したときは処理が不要と判断する。
尚、図示は省略するが、MIN(最小値)の演算も同様である。
図4フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS102に進み、DNCの振幅を演算する。即ち、MAX(最大値)・MIN(最小値)のそれぞれ3周期分の値をRAMから読み出し、それらの振幅を演算する。
次いでS104に進み、平均化処理を行う。即ち、S102で演算された振幅の10回分の平均値を算出する。
図2フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS18に進み、トルクコンバータ12のロックアップクラッチLCの目標スリップ回転差(目標値)SLIPの学習値の反映処理を実行する。即ち、DNC振幅値よりNVを判定し、目標値SLIPを増減補正(学習)する。
図6はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
以下説明すると、S300において燃費性能重視型(ECO−ON)の選択を示すSW(スイッチ)78がオンされているか否か判断し、それに応じてS302あるいはS304でNV許容振幅値を検索する。この値は(発明者達にとって)許容できるNVの限界を示す。
図7にその特性を示す。図示の如く、NVの限界、即ち、NV許容DNC振幅値は燃費性能重視型の運転者(燃費重視ユーザ)の方が、然らざる運転者(一般ユーザ)に比してNVが悪化(増加)する方向に設定される反面、燃費は良好となる方向に設定される。
図6においてS300で肯定されるときはS302に進み、燃費重視ユーザ用のNV許容DNC振幅値(許容値)を前記した車両の走行状態に応じて検索する一方、否定されるときはS304に進み、一般ユーザ用のNV許容DNC振幅値を検索する。
図7を参照して説明した如く、燃費重視ユーザ用のNV許容DNC振幅値は、一般ユーザ用のNV許容DNC振幅値に比してNVが悪化(増加)する方向に設定される。
次いでS306に進み、DNC振幅値が設定されたDNC振幅許容値以下か否か判断し、その判断結果に応じてS308あるいはS310に進み、LC制御目標値SLIPを所定rpm、例えば10rpmだけ増減補正する。
尚、増減補正値が決定されると、それが重み関数で周辺格子点に反映され、NVと状態量の関係から全域に反映される。ECU80においてCPU82は、それから得られた学習値に基づいて目標SLIP量を決定し、それに応じてリニアソレノイドSL8を励磁・非励磁し、トルクコンバータ12のロックアップ機構のロックアップクラッチLCのスリップ回転差が目標SLIPとなるように供給油圧を制御する。
前記した如く、LC制御目標値SLIPはトルクコンバータ12のロックアップクラッチLCの目標スリップ回転差、換言すればロックアップクラッチLCの係合度を示すことから、S300からS310の処理は、DNC振幅値がNV許容DNC振幅値(許容値)を超えるとき、最大で10rpmロックアップクラッチLCをルーズ化(解放)し、逆に超えないとき、最大で10rpmロックアップクラッチLCをタイト化(係合)する処理を意味する。
次いでS312に進み、LC制御目標値SLIPの変更量を演算し、S314に進み、TOTAL学習量MAPを演算する。
図8は図6フロー・チャートのS312のLC制御目標値SLIPの学習条件成立時と常時の変更処理などを説明するブロック図、図9は特に学習条件成立時の同様の処理などを説明するブロック図である。
図示の如く、図8ブロック図は学習条件成立時の演算ブロック80aとLC制御目標値演算(常時)ブロック80bを備える。図8ブロック図の処理もECU80が行う。
以下説明すると、ブロック80aは、初期LC制御目標値を規定するマップ(初期LC制御目標MAP)80a1を備える。NVに相関する状態量としてはエンジンEのトルクを近似的に示すことからスロットル開度THHFと、回転数NEが選択される。
より具体的には、トルクとしてはそれに相応することからスロットル開度THHF、エンジンEの回転数NEとしてはロックアップクラッチLCが直結されるときに等価となることからトランスミッションTの入力回転数NMが、NVに相関する状態量を示すパラメータとして使用される。
図9に示す如く、初期LC制御目標MAP80a1はそれらパラメータにより、例えば入力回転数NMとしては250rpm、スロットル開度THHFとしては全開を8とするとき、0.5/8ごとに区分された運転領域ごとに、目標値(アウトプットシャフト10の回転数とメインシャフトMSの回転数の差)SLIPが予め決定されて格納される。図9などで「CALIB」は予め設定された固定値であることを示す。
図8ブロック図において、初期LC制御目標MAP80a1には加算段80a2において同様のパラメータから構成されるTOTAL学習量前回値(後述)80a3と、目標値変更量演算ブロック80a4の演算結果が加算される。
図10は目標値変更量演算ブロック80a4の処理を示す説明図である。
図示の如く、演算ブロック80a4は学習値で目標値を変更(補正)するための変更量(補正量)を規定するマップ(変更量MAP)80a41を備え、学習成立前には全域の値を0にリセットし、学習成立後には算出された学習値を所定の学習領域に隣接する領域に反映させる。これについては後述する。
図8において加算段80a2の出力は反映された変更量を規定するマップ(変更量反映MAP。図9に示す)80a5に送られ、そこに書き込まれる。変更量反映MAP80a5(および前記した変更量MAP80a41)も初期LC制御目標MAP80a1と同一のパラメータから構成されると共に、RAM86に格納される。
変更量反映MAP80a5は加算段80a6において状態量とNVの相関を示すブロック80a7の処理結果が加算され、その結果は学習MAP演算ブロック80a8に送られる。即ち、NVの伝達特性に応じて学習値が算出されると共に、算出された学習値の所定の学習領域に隣接する領域への反映処理が行われる。
図11はブロック80a7の処理を示す説明図、図12は学習MAP演算ブロック80a8の処理を示す説明図、図13は目標値変更量演算ブロック80a4の処理を示す説明図である。
尚、図12において黒丸は規定の学習条件、例えば前記したNV評価領域でエンジンEが定常運転にあるような条件が成立した運転領域、即ち、所定の学習領域(例えば入力回転数NM1375rpm、スロットル開度THHF0.75/8で規定される)を、白丸はそれに隣接する領域を、ハッチングを付された丸はその外の領域を示す。
図12と図13を参照して説明すると、状態量としては前記したようにエンジンEのトルク(スロットル開度THHF)とエンジン回転数NE(入力回転数NM)が使用されると共に、NVの伝達特性に応じて学習値が反映される。
即ち、エンジンEのトルク、即ち、スロットル開度THHFに関しては、開度THHFが大きくなるほどNV(より正確にはこもり音)が大きくなることから、高開度ほどスリップが大きくなるように学習値が算出されると共に、隣接する領域にも反映、即ち、重み関数を用いて隣接する領域の学習値としても算出される。
また、エンジンEの回転数NE、即ち、ロックアップクラッチLCが直結されるときに等価となるトランスミッションTの入力回転数NMに関しては、NV(より正確にはこもり音)はエンジンEの爆発変動とロックアップクラッチLCのダンパとしての性能から決まり、車体全体のこもり音として発生する。
実験を通じてNVは入力回転数NM(エンジン回転数NE)が1250rpm(40Hz付近)にあるとき、最大となることが判明しているので、その回転数でスリップが最大になるように学習値が算出されると共に、隣接する領域にも反映、即ち、重み関数を用いて隣接する領域の学習値としても算出される。
ここで、図13を参照して重み関数を用いた隣接領域の学習値の算出を説明すると、重み関数は所定の学習領域に隣接する領域を規定する状態量に対して設定されると共に、総和が1となる如く設定される。
即ち、重み関数は縦軸のスロットル開度THHFと横軸の入力回転数NMに対して0から1.0の間で増減すると共に、それぞれ補完関係にある実線と破線で示される2種の三角波からなり、合算値が常に1.0となる関数で定義される。
2種の関数は、学習領域に隣接する領域でそれぞれ1.0となるように設定される。即ち、学習領域の値(黒丸)に基づいて重み関数により4個の白丸で隣接領域が決定され、次に状態量とNVの相関(関係)から8個のハッチング丸でその外の領域が決定される。
この重み関数を用いた隣接領域の学習値は、図10の中段に示す如く、THHF軸の重み×NM軸の重み×SLIPで算出される。図13に示す例では、黒丸の値は全て0.5であり、図6フロー・チャートのS308の値が10rpmであることから、4個の白丸の値は全て0.5×0.5×(−)10=−2.5で表わされる。
図13に示す例では黒丸で示される学習が成立したポイントが偶々関数の中心と一致したために上記のようになるが、もしそのポイントが同図のP1であったとすると、4個の白丸は、左上が0.75(THHF軸)×0.75(NM軸)×(−10)=−5.625となり、以下反時計回りに、
0.25×0.75×(−10)=−1.875
0.75×0.25×(−10)=−1.875
0.25×0.25×(−10)=−0.625
となる(総和−10)。
従って、図10の末尾に示す如く、目標値変更量演算ブロック80a4においては前記した変更量MAP80a41の所定の学習領域に隣接する(予定される)領域にはその値(変更量)が書き込まれる。
図8に戻って説明を続けると、学習MAP演算ブロック80a8の出力は加算段80a9に送られ、そこで初期LC制御目標MAP80a1の値が減算され、よって得られた値がTOTAL学習量次回値80a10として算出される。
図9にTOTAL学習量次回値80a10(と前記したTOTAL学習量前回値80a3)、より正確にはそれらの値を規定するマップ(MAP)を示す。図示の如く、初期LC制御目標値以上の過度のスリップ(燃費悪化)を防止するため、TOTAL学習量は0以下の値とされる。
図9に示すTOTAL学習量次回値80a10とTOTAL学習量前回値80a3はRAM86のB/URAM86aに格納され、エンジンEが停止されても保存される。
図8に戻り、LC制御目標値演算ブロック(常時)80bの処理を説明すると、ブロック80bにおいて初期LC制御目標MAP80a1とTOTAL学習量、即ち、TOTAL学習量前回値80a3とTOTAL学習量次回値80a10は加算段80b1で加算され、LC制御目標値80b2が演算される。
LC制御目標値演算ブロック80bにあっては、常時、即ち、学習が成立すると否とに関わらず、所定時間ごとにLC制御目標値80b2、即ち、LC制御目標値SLIPが演算される。
図14は、図8のLC制御目標値演算ブロック80bの処理を示す説明図である。
図示の如く、初期LC制御目標MAP80a1とTOTAL学習量前回値80a3(あるいはTOTAL学習量次回値80a10)は加算段80b1で加算され、LC制御目標値、より具体的にはLC制御目標値MAP前回値80b2(あるいはLC制御目標値MAP次回値80b2)が演算される。
従って図6フロー・チャートのS308,S310においては、前記した如く、S306の判断結果に応じて算出されたSLIPから10rpmを増減した値に基づいて決定される目標値となるようにロックアップクラッチLCがスリップ制御される。
上記した如く、この実施例にあっては、ロックアップクラッチLCを有するトルクコンバータ12を備え、前記ロックアップクラッチLCのスリップ制御を介して車両に搭載されたエンジンEの出力を変速する自動変速機(トランスミッション)Tの制御装置(ECU80)において、前記自動変速機の出力回転数NCの変化量DNCに基づいて前記ロックアップクラッチのスリップ制御、より具体的にはスリップ制御をタイト化することによって発生する振動・音(NV)を検出する振動・音検出手段(S10からS14)と、前記振動・音に相関する状態量から規定される領域が所定の学習領域にあるとき、前記振動・音の伝達特性に応じて前記スリップ制御の目標値SLIPの学習値を算出すると共に、前記算出された学習値を前記所定の学習領域に隣接する領域に反映させる学習値反映手段(S312)と、前記学習値で前記目標値を補正して補正目標値を算出する補正目標値算出手段(S314)と、前記検出された振動・音が許容値を超えるとき、前記補正目標値に従って前記ロックアップクラッチをスリップ制御するロックアップクラッチ制御手段(S16,S100からS104,S200からS214,S300からS310)とを備える如く構成した。
このように、自動変速機(トランスミッション)Tの出力回転数の変化量DNCに基づいてロックアップクラッチLCのスリップ制御によって発生する振動・音(NV)を検出するように構成したので、ロックアップクラッチLCのスリップ制御をタイト化することによって発生する振動・音の大きさを専用のセンサを用いることなく、判定することができる。
また、振動・音に相関する状態量から規定される領域が所定の学習領域にあるとき、振動・音の伝達特性に応じてスリップ制御の目標値SLIPの学習値を算出すると共に、算出された学習値を所定の学習領域に隣接する領域に反映させ、学習値で目標値を補正して補正目標値を算出し、検出された振動・音が許容値を超えるとき、補正目標値に従ってロックアップクラッチLCをスリップ制御するように構成したので、必要な領域の全てで最適値を速やかに求めることができ、よって学習を通じて振動・音の低減と燃費性能が両立する限界までスリップ制御の目標値を引き上げることができる。
また、前記振動・音に相関する状態量が、前記エンジンEのトルクと前記エンジンの回転数NEを示すパラメータ、より具体的にはスロットル開度THHFと自動変速機(トランスミッション)Tの入力回転数NMからなる如く構成したので、上記した効果に加え、振動・音に相関する状態量を正確に求めることができる。
また、前記振動・音の伝達特性は、前記エンジンEのトルクが増加するほど前記目標値が大きくなると共に、前記エンジンの回転数NEが所定値にあるときに前記目標値が最大となるように設定される特性である如く構成したので、上記した効果に加え、必要な領域の全てで振動・音の低減と燃費性能が両立する限界まで目標値を速やかに引き上げることができる。
また、前記パラメータは、前記スリップ目標値SLIPと前記学習値(TOTAL学習量前回値80a3、TOTAL学習量次回値80a10)、と前記補正スリップ目標値(LC制御目標値80b2,LC制御目標値MAP前回値80b2,LC制御目標値MAP次回値80b2)において同一である如く構成したので、上記した効果に加え、構成を簡易にすることができる。
また、前記学習値反映手段は、前記所定の学習領域に隣接する領域を規定する状態量に対して設定された重み関数を用いて前記算出された学習値を前記隣接する領域に反映させる(S312。図13)如く構成したので、上記した効果に加え、必要な領域の全てにおいて目標値を的確に求めることができる。
また、前記所定の学習領域に隣接する領域を規定する状態量に対して設定された重み関数は、総和が1となる(S312。図13)如く構成したので、上記した効果に加え、学習がどの領域で成立しても、総操作量である10rpmを超えることがないように目標値を決定することができ、よって目標値を一層的確に求めることができる。
尚、上記において、この発明を平行軸式の自動変速機を例にとって説明したが、この発明はプラネタリ型の自動変速機にも妥当すると共に、さらには無段変速機(CVT)にも妥当する。
また、ロックアップクラッチLCのスリップをエンジンEのアウトプットシャフト10と自動変速機(トランスミッション)TのメインシャフトMSの回転数の差SLIPで示したが、回転数の比ETRで示しても良い。
また、スイッチ78は、トランスミッションTの変速特性を燃費性能重視型(ECO−ON)と否との間で切り換えるオン・オフスイッチでも良く、あるいは操作に応じて燃費性能重視型(ECO−ON)の比率を徐々に変化させるボリュームであっても良い。