JP5359382B2 - 磁石成形体及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、磁石成形体及びその製造方法に関する。より詳細にいえば、特に高い電気抵抗を有し、モータ等に組み込んだ場合の渦電流損失を低減してモータ効率を向上可能な磁石成形体、及びその製造方法に関する。
従来より、モータ等に搭載される永久磁石としては、安価なフェライト磁石が多用されているが、近年では、モータの小型化や高性能化に伴い、より高性能な希土類磁石の使用量が年々増加する傾向にある。
しかし、希土類磁石は金属磁石であるため電気抵抗が低く、モータに組みこんだ場合に、渦電流損失が増大し、モータの効率を低下させるという問題がある。
そこで、希土類磁石自体の電気抵抗を高めて、このような問題を解決しようとする各種の提案がなされている。
例えば、SiO及び/またはAlからなる粒子状酸化物を磁石粉末に結着した構造を有する希土類磁石が開示されている(特許文献1)。
特開平10−321427号公報
しかしながら、これらの酸化物は磁気特性を損なうため、モータの出力が高くなると使用が困難になるという問題がある。
そこで本発明は、電気抵抗及び磁気特性の双方に優れた磁石及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明に係る磁石成形体及びその製造方法は、平均粒径のより小さな磁性微粒子を、磁石粉末と一体化させた点に特徴を有する。
本発明によれば、平均粒径のより小さな磁性微粒子を、磁石粉末と一体化させることによって、電気抵抗及び磁気特性の双方に優れた磁石を得ることが可能となる。
本発明の第1実施形態における磁石粉末と第1の磁石成形前駆体とを示す写真及び模式的な断面図である。 本実施形態に係る磁石成形体を模式的に示す断面図である。 図2Aに示された磁石成形体内に存在する界面近傍を模式的に示す断面図である。 様々な被覆量の絶縁皮膜で処理した後、600℃にて圧密化した磁石成形体の、磁気特性と比抵抗の関係を示したグラフである。 本発明の磁石成形体が適用された集中巻の表面磁石型モータの1/4断面図である。 磁石粉末を球状化処理した後に得られる第1の磁石成形前駆体を示すSEM写真である。 図5A中の黒色の点線部分を拡大したSEM写真である。 実施例1において、磁石粉末に球状化処理を施して得られた磁石成型体における、磁石粉末および磁性微粒子の断面形状を観察した光学顕微鏡写真である。 図6Aの一部を拡大した光学顕微鏡写真である。 比較例1において、磁石粉末に球状化処理を施さずに得られた磁石成型体における、磁石粉末の断面形状を観察した光学顕微鏡写真である。 図6Cの一部を拡大した光学顕微鏡写真である。
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。ここで、本明細書における「%」は、特記しない限り、「質量%」を意味するものとする。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る磁石成形体は、磁石粉末と、前記磁石粉末よりも平均粒径の小さな磁性微粒子と、一体化した前記磁石粉末及び前記磁性微粒子を覆う絶縁皮膜とを含む。なかでも、前記磁性微粒子は、前記磁石粉末及び前記絶縁皮膜の間の少なくとも一部に存在する。
そして、前記磁石成形体は、前記磁性微粒子と前記絶縁皮膜とから形成された反応層を有することが好ましい。
本明細書において、まず、「磁石粉末」とは、不定形の単磁区粒子(ドメイン)の集合体であって一般に入手可能な磁石粒子の粉末を意味する。さらに、「第1の磁石粉末」及び「第2の磁石粉末」とは、上記の磁石粉末と同義であって、互いに別個の磁石粉末であることを意味する。次に、「磁性微粒子」とは、前記磁石粉末よりも平均粒径の小さな粒子を意味する。また、「第1の磁石成形前駆体」とは、磁石粉末と磁性微粒子とが一体化した構造体を意味し、「第2の磁石成形前駆体」とは、上記の一体化した磁石粉末及び磁性微粒子に皮膜を施した構造体を意味する。このように、「第1の磁石成形前駆体」と「第2の磁石成形前駆体」とは別個の前駆体である。次に、「磁石成形体」とは、第1の磁石成形前駆体を加熱加圧成形して得られた、本実施形態に係る目的物を意味する。
上述のように、電気抵抗及び磁気特性の双方に優れた、出力の高いモータ等にも好適に使用可能な磁石が強く求められている。しかしながら、従来技術はいずれも、最近のモータ等が要求する出力水準を必ずしも満足するものではない。
例えば、磁石特性を損なうことのない絶縁材料として、希土類主体の酸化物が見出され、磁石特性の低下を最小限に抑制しつつ、高い電気抵抗を有する希土類磁石が開示されている(特開2004−319955号公報)。かような高い電気抵抗を有する磁石の製造に際して、原料となる希土類磁石の粉末を圧密化することになる。具体的には、圧密時に単純に絶縁物を混合する手法や、磁石粉末に絶縁材を被覆した原料粉末(第2の磁石成形前駆体)を圧密化する手法が用いられる。しかし、上記の手法では、磁石粉末内または磁石粉末間に分散する酸化物の分布状況にばらつきが生じ、高い電気抵抗を安定して実現させることは非常に困難である。また、高い電気抵抗を安定して実現でき渦電流損失を低減することが可能な希土類磁石や、絶縁物質として希土類酸化物を用いることを特徴とする希土類磁石の製造方法が開示されている(特開2004−31781号公報、特開2007−88108号公報)。
上記の磁石は、磁石粉末を希土類酸化物で被覆したものであるため、電気抵抗を向上させる点では、一見すると比較的有益なものと考えられる。しかし、実際には電気抵抗の向上が阻害される場合があり、そのような場合の解決手段が何ら開示されていない。したがって、電気抵抗性及び磁気特性の双方に関して安定的に優れた磁石、及びその製造方法が依然として要求されているのが現状である。
本発明者らは、かような従来からの問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、まず、従来技術に係る磁石が安定して高い電気抵抗を発揮できない原因を突き止めた。即ち、かかる原因の根源は、磁石粉末が多数の鋭角の突起を有した形状であるという点にあることを見出した。そして、かかる形状に起因して、被覆した粉末の圧密化の過程で磁石粉末が破損したり、皮膜(絶縁皮膜)が損傷したりして短絡箇所が増加する。そのため、電気抵抗の向上が阻害されるということを見出した。
次に、本発明者らは、このような知見に基づき、以下の点を見出した。即ち、原料たる磁石粉末と、当該磁石粉末よりも有意に微細な磁性微粒子を混合すると、磁性微粒子が前記磁石粉末と一体化し、全体として、ほぼ球状で鋭角の突起が殆どない第1の磁石成形前駆体(加工された磁石粉末)を形成することである。さらに、上記の第1の磁石成形前駆体は、酸化を抑制した環境下で磁石粉末を研磨することにより、容易に得られることも見出した。
このようにして、ほぼ球状で鋭角の突起が殆どない磁石粉末を用いて、上述の従来技術と同様の手法で磁石を作製した。その結果、同程度の絶縁被覆量を有する場合に、これまでにない程度の優れた電気抵抗及び磁気特性を併有する磁石を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
本実施形態に係る磁石成形体の構成は上述した通りであるが、その技術的原理について以下、説明する。原料である磁石粉末と前記磁石粉末を覆う絶縁皮膜との間に、磁石粉末よりも微細な磁性微粒子が存在すると、かかる磁性微粒子が鋭利な突起を多数有する磁石粉末の隙間に入り込んで、磁石粉末と磁性微粒子とが一体化する。かかる一体化してなる「第1の磁石成形前駆体」の形状はほぼ球形となる。そのため、後工程において磁石粉末を覆う絶縁皮膜を形成し、これを加熱加圧成形(焼結を含む)する際に、上記の鋭利な突起が殆ど消失していることに起因して、亀裂の伝播を効果的に防ぐことができる。換言すれば、本実施形態における上記の磁石粉末と磁性微粒子との一体化構造が、鋭利な突起に起因した絶縁皮膜の破損及び原料である磁石粉末自体の割れを効果的に防止し、そのため、電気抵抗を安定して有意に向上させることができる。
さらに、上記の一体化構造は、本実施形態に係る磁石成形体の磁気特性の向上にも貢献する。具体的にいえば、絶縁皮膜の原料(絶縁被覆材)と磁石成分との間で化学反応が積極的に起こる。このとき、磁性微粒子が磁石粉末の隙間を埋めるように存在するため、上記の化学反応は、少なくとも磁石粉末の内部で起こることが殆どなくなる。なお、化学反応の殆どは、前記磁石粉末及び前記絶縁皮膜の間の少なくとも一部に存在する磁性微粒子と前記絶縁皮膜とから形成された「反応層」で起こる。したがって、前記反応層は、絶縁被覆材の磁石粉末内部への浸透を阻害し、磁石粉末内部での絶縁被覆材と磁石粉末との化学反応による磁石粉末の劣化を全体的に抑制する役割を果たす。そのため、磁石粉末本来の優れた磁気特性を、圧密化後であっても維持することができる。なお、前記反応層については後でより詳細に説明する。さらに、絶縁皮膜の亀裂を防止することにより、磁石粉末間の亀裂の伝播を一層効果的に防止しうる。
以上の技術的原理により、本実施形態に係る磁石成形体は電気抵抗性及び磁気特性に共に優れる。そして、かような永久磁石を搭載したモータは、渦電流損失を有意に抑えることができ、モータ効率の向上が可能になるという優れた効果が得られる。
図1は、第1実施形態における磁石粉末と第1の磁石成形前駆体とを示す写真及び模式的な断面図である。具体的にいえば、磁石粉末1は、市販の原料用磁石粉末に相当する。一方、第1の磁石成形前駆体3は、表面研磨により生じた磁性微粒子4が、磁石粉末1(原料用磁石粉末)に一体化(吸着など)して形成されてなる、球状化処理後の粉末であると言える。以下、各構成成分について説明する。
<磁石粉末>
磁石粉末1は、永久磁石であって固体磁石である限り、特に制限されることはない。磁石粉末1の素材としては、例えば、磁鉄鉱(マグネタイト)、クロム鋼、高コバルト鋼、アルニコ、フェライト、希土類または希土類鉄などが挙げられる。このうち、強力な磁気特性が得られ、高性能の磁石が得られる観点からいえば、磁石粉末1は希土類磁石からなることが好ましい。なお、本明細書において、「希土類磁石からなる」とは、正確には「実質的に希土類磁石からなる」ことを意味する。換言すれば、本実施形態による磁石成形体の性能が有意に損なわれない範囲であれば、磁石粉末は希土類磁石以外の成分を含有してもよい。
希土類は、磁鉄鉱(マグネタイト)、クロム鋼や高コバルト鋼などと比較して、モータ用磁石として使用する際の磁気特性が強い。また、希土類は、アルニコ磁石などと比較すると、磁気特性が同等に優れている。さらに、フェライトなどの酸化物磁石は、酸化物であることに起因して、高抵抗化手法を用いることなく十分な電気抵抗を有する。そこで、本発明による高抵抗化手法は、必ずしも必要でない場合が多いため、本発明による高抵抗化手法は、希土類磁石を用いることにより、最も高性能の磁石を得ることが可能となる。
上記の希土類磁石からなる磁石粉末(以下、「希土類磁石粉末」ともいう)としては、以下に制限されることはないが、Nd−Fe−B(ネオジム−鉄−ホウ素)系磁石、Sm−Co(サマリウム−コバルト)系磁石などが挙げられる。希土類磁石は、これらNd−Fe−B系磁石などの構成要素が1種単独からなっても、2種以上からなってもよい。また、各構成要素における組成比、例えばNd−Fe−B系磁石におけるNd、Fe及びBの組成比については、特に制限されることはない。数例を挙げると、本実施形態による希土類磁石は、単一の組成比を有するNd−Fe−B系磁石からなってもよく、2種以上の異なる組成比を有するNd−Fe−B系磁石からなってもよい。あるいは、単一のまたは2種以上の異なる組成比を有するNd−Fe−B系磁石に加えて、Sm−Co系磁石からなってもよい。したがって、上記の「2種以上」の構成要素とは、先に例示した、「2種以上の異なる組成比を有するNd−Fe−B系磁石」、及び「単一のまたは2種以上の異なる組成比を有するNd−Fe−B系磁石に加えて、Sm−Co系磁石」の双方の意味を含む。
希土類磁石粉末として、好ましくは、永久磁石の中でも高い磁気特性を有するという観点より、Nd−Fe−B系磁石を主成分とする。HDDR法によって製造されたNd−Fe−B系磁石や、熱間アップセット(熱間後方押出し加工)処理によって配向処理したNd−Fe−B磁石から作製した粉末を主成分とするのが好ましい。かかる場合、従来の(焼結用)磁石粉末とは異なり、絶縁皮膜の被覆処理を施しても、磁気特性が損なわれることが殆どないため有利である。なお、前記HDDR法とは、Hydrogenation Decomp - osition Desorption Recombination法のことである。
上記のなかでも、経済的に優れ、熱間加工によるバルク化にも耐えうる磁石であるという理由から、HDDR処理を施したNd−Fe−B系磁石を主成分とすることが特に好ましい。そして、HDDR処理によって作製されたNd−Fe−B系磁石粉末を用いた場合、一層高い磁気特性が得られうる。HDDR処理によって作製された磁石粉末は、バルク化時に加圧することにより、通常の焼結磁石より低温での成形が可能なため、過剰な液相が発現しない低温で高密度な成形体を得ることができるため、優れた磁気特性が得られうる。
また、磁石粉末1が希土類磁石からなる場合に、アップセット処理によって製造されたMQパウダー(ネオジウム系磁性粉末)や、ボンド磁石用に用いられるナノコンポジット磁石粉末を使用してもよい。かかる場合も、通常の焼結磁石用の磁石粉末とは異なり、絶縁皮膜の被覆処理を施しても、磁気特性を発現できるため、有利である。
以下、希土類磁石粉末についてさらに詳細に説明する。
希土類磁石粉末は、強磁性の主相および他成分からなる。例えば、希土類磁石がNd−Fe−B系磁石である場合には、主相はNdFe14B相である。したがって、磁石粉末1がNdFe14Bを主成分とすることは経済面及び磁気特性の面から特に好適である。前記希土類磁石粉末として、磁場配向処理をしない等方性希土類磁石を製造するためのものと、磁場配向処理をする異方性希土類磁石を製造するためのものとが挙げられる。しかし、異方性磁石の方が強磁力性など磁石特性に優れている点より、前記希土類磁石粉末は、異方性希土類磁石を製造可能な磁石粉末であることが好ましい。
ここで、磁石粉末1の粒径について、本明細書における「平均粒径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)により得られたイメージより、無作為に選択した20個の磁石粉末の長軸及び短軸を測定し、それらの平均を算出して得られる値を意味する。特に言及のない限り、他の説明における「平均粒径」の測定法も上記と同一である。磁石粉末1の平均粒径については、後述する磁性微粒子4の平均粒径との関係により決めることが好ましいため、磁性微粒子4の項において詳細に説明する。
ここで、本明細書における「主成分」とは、含量として最も多い成分を必ずしも意味するものではなく、本願所望の効果を得る上で主要かつ不可欠な成分を意味する。上記主成分を具体的な数値で表すと、希土類磁石粉末100atom%に対して、Nd−Fe−B系の合金相の濃度は、75atom%以上であることが好ましく、85〜100%atom%であることがより好ましい。75atom%以上の場合、得られる希土類磁石の磁石特性の向上や、製造コストの低減などが達成できる。なお、Nd−Fe−B系の合金相以外の成分として、配向性や保磁力向上のため、Co、Tb、Dy、Zn、Al、Cu、Zrなどを含有してもよい。
本明細書における「Nd−Fe−B系磁石」とは、Nd及び/またはFeの一部が他の元素で置換されている形態をも包含する概念である。Ndは、その一部または全体がプラセオジム(Pr)に置換されていてもよく、また、Ndの一部がテルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)等の他の希土類元素で置換されていてもよい。置換にはこれらの一方のみを用いてもよく、双方を用いてもよい。置換は、元素合金の配合量を調整することによって行うことができる。かような置換によって、Nd−Fe−B系磁石の保磁力向上を図ることができる。置換されるNdの量は、Ndに対して、0.01〜50atom%であることが好ましい。かような範囲でNdが置換されると、置換による効果を十分に確保しつつ、残留磁束密度を高レベルで維持することが可能である。
一方、Feは、Co等の他の遷移金属で置換されていてもよい。かような置換によって、Nd−Fe−B系磁石のキュリー温度(Tc)を上昇させ、磁石の耐熱性を向上させることができる。置換されるFeの量は、Fe100atom%に対して、0.01〜30atom%であることが好ましく、0.1〜5atom%であることがより好ましい。かような範囲でFeが置換されると、置換による効果を十分に確保しつつ、保磁力の低下が抑制されうる。
上記に加えて、例えば、HDDR処理により作製された、前記「異方性希土類磁石を製造可能な希土類磁石粉末」を原料として異方性磁石を製造する場合には、希土類磁石粉末における主相の配向を揃えることが容易となる。なお、前記主相は、Nd−Fe−B系磁石においてはNdFe14B相を指す。
磁石粉末1の含有量は、100%の第1の磁石成形前駆体3に対して、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90〜98%であることがさらに好ましい。かかる範囲内の場合、優れた磁気特性が得られうる。
<磁性微粒子>
磁性微粒子4は、比抵抗を向上させるという観点からいえば、原料用の磁石粉末であれば特に制限されない。しかし、磁性微粒子4が磁石粉末1と同一物質の粉砕物であると、不要且つ不利な化学反応による磁石粉末1の劣化を伴わないため、好ましいものとなる。ここで、前記「同一物質」についてさらにいえば、磁石粉末1と磁性微粒子4とが完全に同一の物質からなることも好ましい。しかし、100質量%の磁石粉末1に対して磁性微粒子4が、60質量%以上が同一であることが好ましい。なぜなら、かかる場合、不要且つ不利な化学反応による磁石粉末1の劣化を殆ど伴わないと言えるからである。そして、残りの成分が互いに異なっている場合でも、軟化点の調整、液相の創出、及び異方性磁界向上のために調整される成分であれば、本実施形態に却って有利な効果を与え得る。ここで、前記軟化点の調整のために調整される成分とは、例えばNd(の増大)である。前記液相の創出のために調整される成分とは、例えばDy、Nd、Co及びCuである。また、前記異方性磁界向上のために調整される成分とは、複数の単磁区粒子(ドメイン)の向きをほぼ一致させて磁場を向上させるような成分をいう。
ここで、上記「60質量%以上」、即ち、磁石粉末1(粗粒)に対して磁性微粒子4(微細粒子)を同一組成60質量%以上とすることが好ましい理由について、より詳細に説明する。粗粒と微細粒子が同一組成であれば、ボールミルやバレル研磨、ジェットミル等で研磨することにより、直ちに微細粒子が吸着して球状化した粉末が得ることができるため、製造性に優れて好適である。一方、保磁力を向上させるには、DyやTb等の元素を含有することが効果的であることが知られている。その際、焼結磁石では二合金法として、NdFe14Bの主相がリッチな磁粉に、高DyでNdやDyなどの希土類元素を主相化学量論組成より過剰に含有した磁粉とを混合する手法や、得られたバルク磁石の表面にDyを粒界拡散させる手法が用いられる。本実施形態においても、保磁力向上の目的で希土類元素、なかでもDyやTbを粗粒磁粉より過剰に含有した磁粉を微細粒子として用いることで、二合金法や粒界拡散磁石と同等の効果が得られる。その上、絶縁皮膜の内側に低融点の合金層を有することで、プレス成形時の割れを低減し、比抵抗にも優れた磁石成形体を得ることができる。しかし、このような、希土類元素を過剰に含有した磁粉を大量に用いた場合、比抵抗、保磁力や耐熱性は向上しうる反面、磁化性及び最大エネルギー積が低下しうる。そこで、磁石粉末1(粗粒)に対する磁性微粒子4(微細粒子)の含有率を40%以下とすると、磁化性や最大エネルギー積を過度に低減させることを回避でき、好適である。
本実施形態においては、磁石粉末1の表面に吸着する等して磁石粉末1と一体化する磁性微粒子4における磁性微粒子4の平均粒径が、磁石粉末1のそれよりも大きすぎると、第1の磁石成形前駆体3の球状化を阻害する。また、磁性微粒子4のみならず、原料である磁石粉末1まで磁化すると、磁石粉末1同士が一体化(吸着)するため、所定の効果を得ることができない。したがって、磁性微粒子4を磁化させた状態で、これを原料である磁石粉末1に吸着等させることによって、磁石粉末1を球状化することが好ましい。加えて、磁性微粒子4は独立した粒子として振る舞うため、一体化の程度を一層高める観点から、磁性微粒子4の平均粒径は小さいほど好ましい。具体的には、磁石粉末1の平均粒径に対する磁性微粒子4の平均粒径が、1/10以下であることが好ましく、1/15以下がより好ましく、1/15〜1/30がさらに好ましい。また、磁石粉末1が球状化するには、磁性微粒子4が磁石として磁石粉末1に吸着する必要がある。そのため、磁性微粒子4の平均粒径が大きすぎると、多磁区構造をとり、磁石粉末1に磁性微粒子4が吸着することが困難になる。外部から着磁処理を施さなくても、磁性微粒子4が磁石としての特性を発現して、磁石粉末1に吸着するには、単磁区構造をとる程度の大きさであることが好ましい。そのため、磁性微粒子4の平均粒径は30μm以下が好ましく、さらには25μm以下が好ましい。
ここで、吸着、粒径及び磁化の相関性についてより詳細に説明する。磁石粒子は、一定以上の粒径を有している場合には多磁区化し、磁性として見ると、当該粒子内で「閉じた」状態となる。これに対し、磁石粒子が、本実施形態における磁性微粒子4のような一定以下の平均粒径(上記)を有する場合、単磁区化することとなり、当該粒子内で「開いた」状態、すなわち磁化した状態となる。かかる磁性微粒子4が磁石粉末1に磁力によって吸着すれば、磁石粉末1に均一に吸着することができる。そして、磁石粉末1や磁性微粒子4が不均一に吸着、凝集することなく、適度に球状化した第1の磁石成形前駆体を得ることができる。このように、第1の磁石成形前駆体、ひいては目的物である磁石成形体が強磁性を有する上で、磁性微粒子4が上記した範囲の平均粒径を有することは非常に好適である。
また、磁性微粒子4は、磁石粉末1及び後述する絶縁皮膜の間の少なくとも一部に存在すれば、得られる成形体において十分な効果を発揮することができる。なお、前記「少なくとも一部」の程度は特に制限されない。
磁石粉末1がNd−Fe−B系のHDDR磁石粉末である場合、磁気特性の低下を効果的に抑制できる観点より、磁石粉末1の平均粒径は、50〜500μmが好ましい。より好ましくは100〜400μmであり、さらに好ましくは150〜350μmである。なお、後述する加熱加圧成形後には第1の磁石成形前駆体に割れが入り得るため、顕微鏡による断面観察では元の半分以下の粒径に破砕した粒子(粉末)も存在し得る。しかし、電子後方散乱パターン(Electron Back Scattering Pattern:EBSP)等を用いることにより、磁石粉末1の連続性という性質から、焼結前に存在する磁性微粒子4とは容易に区別することができる。なお、磁性微粒子4の平均粒径は、磁石粉末1との関係より、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、25〜1μmがさらに好ましい。なお、磁性微粒子4の平均粒径の測定法については、SEMにより得られたイメージより、無作為(但し1μm以上)に選択した20個の磁石粉末の長軸及び短軸を測定し、それらの平均を算出して得られる値を意味する。
<絶縁皮膜>
図2Aは、本実施形態に係る磁石成形体を模式的に示す断面図である。また、図2Bは、図2Aに示された磁石成形体内に存在する界面近傍を模式的に示す断面図である。図2Aに示すように、磁石成形体10において、磁石粉末12及び磁性微粒子14を絶縁皮膜15が被覆している。図2A中、磁石成形体内に存在する界面(絶縁皮膜15)近傍を示す図2Bに示すように、磁石粉末12及び絶縁皮膜15の間の少なくとも一部に存在する磁性微粒子14と、絶縁皮膜15とから形成された反応層16が界面近傍に存在する。なお、反応層16については、後でより詳細に説明する。
ここで、本実施形態における磁石粉末12及び磁性微粒子14と絶縁皮膜15との関係は、図2Aに示すように、磁石粉末12及び磁性微粒子14からなる第1の磁石成形前駆体が絶縁皮膜15で被覆されているというものである。かかる第1の磁石成形前駆体は、絶縁皮膜に被覆された磁石粉末と絶縁皮膜に被覆された磁性微粒子との集合体という構成とは明確に異なる。絶縁皮膜に被覆された磁石粉末と絶縁皮膜に被覆された磁性微粒子との集合体では、本実施形態の技術的効果である電気抵抗及び磁気特性の双方に優れた磁石を得ることは困難である。なぜなら、上記した本発明の技術的原理に照らしてみれば、まず、絶縁皮膜で被覆された磁石粉末は鋭利な突起を多数有するため、絶縁皮膜の亀裂が生じやすくなるとともに、磁石粉末間の亀裂の伝播も生じやすくなるからである。そのため、電気抵抗が低下することを回避しづらくなる。次に、磁石粉末と絶縁皮膜の原料(絶縁被覆材)との間で反応を抑制するため、磁石粉末の表面を取り囲む磁性微粒子を絶縁皮膜の原料と反応させる効果がほとんど得られない。その結果、磁石粉末、磁性微粒子共に化学反応による磁石粉末の劣化が進行し、磁石粉末本来の優れた磁気特性が低下することを余儀なくされてしまう。
これに対し、本実施形態における第2の磁石成形前駆体によれば、上記した技術的原理の通りに、電気抵抗及び磁気特性の双方に優れた磁石成形体を得ることができ、本発明の技術的効果を効果的に発揮することができる。
磁石粉末12及び磁性微粒子14は、実質上完全に絶縁皮膜15によって被覆されていることが好ましい。なぜなら、磁石粉末12(磁性微粒子14)同士の間に絶縁皮膜15が実質的に常に存在するような状態の下では、磁石成形体10の電気抵抗が有意に高まるからである。
絶縁皮膜15は、絶縁性材料から構成される。絶縁皮膜15は、特に制限されることはないが、希土類酸化物を含むことが好ましい。前記希土類酸化物として、好ましくは下記式(I):
で表される組成を有する希土類酸化物が挙げられる。希土類酸化物は、非晶質であってもよいし、結晶質であってもよい。式(I)において、Rはイットリウム(Y)を含んでもよい希土類元素を表す。Rの具体例としては、上記イットリウム(Y)の他、ジスプロシウム(Dy)、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)が挙げられる。希土類酸化物を構成する希土類元素は、1種単独の元素からなってもよく、2種以上の元素からなってもよい。なかでも、絶縁皮膜15はジスプロシウム(Dy)及び/またはテルビウム(Tb)の酸化物を含むことが好ましい。なぜなら、希土類磁石粉末12との反応を抑制できるため、優れた磁気特性(保磁力)と高い電気抵抗性とを共に得ることができるためである。経済性(コスト面)で見れば、Dyの酸化物を必須に含むことがより好ましい。
このように、希土類酸化物は、希土類元素の酸化物でさえあれば、混合物であっても複合酸化物であっても特に限定されない。ここで、比抵抗の低下を一層抑制する観点からは、下記式(II):
で表される組成を有する希土類酸化物を含むことがさらに好ましい。なお、上記式(II)中、R’及びR”は、それぞれテルビウム(Tb)及びジスプロシウム(Dy)を示し、Xは0を超えて1以下の値を意味する。
前記希土類酸化物の含有量としては、絶縁皮膜100%に対して、1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、3〜20%であることがさらに好ましい。上記した範囲の場合、希土類磁石における絶縁性が十分に確保され、高抵抗の希土類磁石が得られる。さらに、磁石粉末12や磁性微粒子14との反応性が低く、且つ磁気特性に優れた磁石成形体10を得ることができる。希土類酸化物の具体的な構成元素や組成については上述の通りである。なお、絶縁皮膜15の構成成分としては、絶縁物質であれば特に制限されることはなく、希土類酸化物以外にも、例えば、金属酸化物、フッ化物またはガラスなどがありうる。
なお、絶縁皮膜15が希土類酸化物からなる場合であっても、これ以外の不純物や製造工程に起因する反応生成物、未反応残存物、微小な空孔等の存在が生じうることは不可避的にありうる。これらの不純物の混入量は、導電性や磁気特性の観点からは少ないほど好ましい。ただし、絶縁皮膜15における希土類酸化物の含有量が上記した範囲内であれば、製品としての磁石の磁気特性にとって実質的に問題ない。
絶縁皮膜15の含有量については特に制限はないが、磁石成形体100%に対して、好ましくは1〜20%であり、より好ましくは3〜10%である。特に、絶縁皮膜15の含有量が1%以上であれば、磁石における高い絶縁性が確保され、一層高抵抗の磁石成形体10が提供される。また、絶縁皮膜15の含有量が20%以下であれば、磁石粉末12や磁性微粒子14の含有量が相対的に減少することに伴う磁気特性の低下を効果的に防止できる。
磁石成形体10における絶縁皮膜15の膜厚は、磁気特性(保磁力)と電気抵抗(比抵抗)との比較衡量によって決めることが好適である。以下、具体的に説明する。高抵抗化のために要する絶縁皮膜15の電気抵抗が磁石粉末12のそれより2桁程度高い場合、誘導起電力により発生する渦電流の分断に十分な効果を発揮することを本発明者らは確認している。絶縁皮膜の抵抗値は絶縁材の比抵抗と膜厚の積であり、比抵抗が高い物質ほど膜厚は薄くてよい。また、必要となる抵抗値は誘導起電力の大きさによるが、完全に酸化した状態の絶縁皮膜15を用いる場合、その絶縁皮膜15を構成する酸化物の比抵抗は磁石粉末に比べて10桁以上高くなる。そのため、数十nmオーダーの絶縁皮膜15でも十分な効果を発揮することができる。但し、後述するような、希土類元素の有機錯体の熱分解によって形成した絶縁皮膜15の場合、不可避的に不純物や残留物を含有する。そのため、完全に酸化した状態の絶縁皮膜15と比べて、少なからず電気比抵抗の劣化を生じ得る。しかし、かかる場合においても、希土類酸化物という電気比抵抗の高い物質を絶縁材料として用いた絶縁皮膜15であれば、50nm以上の膜厚を有していれば、上記の電気比抵抗の劣化という問題を十分に回避することができる。さらに、100nm以上の膜厚を有していれば、上記の電気比抵抗の劣化という問題をほぼ確実に回避することができる。一方、絶縁皮膜15が厚すぎると、磁石成形体10の正味の体積率が減少し、却って磁気特性を損なうことになる。したがって、結局のところ、原料用の磁石粉末のごく一般的な平均粒径に対して1/10以下となる20μm以下に留めておくことが好ましい。より好ましくは、10μm以下である。
一方、絶縁皮膜15は、希土類元素の有機錯体を熱分解して得られた酸化物を含むことも好ましい。希土類元素の有機錯体を原料として熱分解により得られる絶縁皮膜は、XPS(光電子分光法)等を用いて希土類元素の結合形態を解析すると、酸素との結合(酸化物)に混じって炭素や炭化水素との結合が確認できる。酸化物以外の上記の結合は、少なければ少ないほど好ましいものと言える。しかし、磁石粉末12(及び磁性微粒子14)の磁気特性を維持する観点からいえば、相変態を防止し粒成長を抑制するために、通常、熱分解温度を完全な酸化物の形成に必要な温度にまで高めることは困難である。したがって、不可避的に残留する不純物や残留物が、絶縁皮膜15中に存在してしまう。
このため、完全な酸化物からなる絶縁皮膜と比較した場合、現実の絶縁皮膜は少なからず電気抵抗が劣化していることが考えられる。しかし、絶縁皮膜は、モータ内の電磁誘導により発生する起電力に起因した、磁石粉末12(及び磁性微粒子14)内の誘導電流が、その内部で還流するように、粒子間での経路を阻害すればよい。したがって、本実施形態における絶縁皮膜15は、完全な酸化物からなる絶縁皮膜が有すると考えられる値ほど高い絶縁性を必要とせず、2〜10桁程度低くなった値でも十分に本願所望の目的を果たし、効果を発揮することができる。
<反応層>
図2Bにおいて、磁性微粒子14と絶縁皮膜15との重なり部分に対応する境界層17、及び前記重なり部分の一部に形成される反応層16が見られる。本実施形態における「反応層」とは、磁性微粒子14と絶縁皮膜15との間の反応により生じる層を意味する。なお、本明細書における境界層17とは、一の磁石粉末12と一体化した磁性微粒子14(の最内側)から、絶縁皮膜15を介して、他の磁石粉末12と一体化した磁性微粒子14(の最内側)までに存在する層を意味する。したがって、境界層17と反応層16とは一致せず、反応層16は境界層17の一部に該当する。
反応層16は大きく分けて2段階の生成過程を経て形成ざれる。前記2段階の生成過程のうち、1段階目は絶縁皮膜の形成時である。絶縁皮膜の形成時には、ある程度の厚さの反応層が形成されるものの、この時点では未だ、本実施形態の技術的効果を十分に発揮しうるほどの厚さの反応層は形成されない。前記2段階の生成過程のうち、2段階目は第2の磁石成形前駆体の加熱加圧時である。この加熱加圧時に、温度が磁石微粒子の軟化点に近づくため、反応層の厚さが有意に増し、得られる反応層16は本実施形態の技術的効果を十分に発揮しうるものとなる。
反応層16形成の具体的なメカニズムについて説明する。反応層16形成の主な反応は、磁石微粒子14の構成元素(Fe、Nd、Co、B、Al、Zr、Cu等)の酸化反応である。なかでもFe、Nd、CoやBの酸化反応の影響が大きく、特に磁石の主相が分解する形式で、Ndの酸化反応が起きると反応層の厚さが顕著に増すと同時に、Feが生成することで磁気特性のひとつである保磁力を大きく損なう場合がある。そのため、磁石微粒子14の構成元素として、過剰にNdが含まれていることは好ましいといえる。
反応層16の層厚として、本実施形態の技術的効果を有意に発揮しうるという観点からは、厚いほど好ましい。しかし、厚すぎても内部の磁気特性に優れた磁石粉末の体積率を不必要に低減することになる。そのため、1〜50μmであることが好ましく、1〜30μmであることがより好ましく、1〜25μmであることが特に好ましい。前記本実施形態の技術的効果とは、上述したように、反応層16が十分な層厚を有していると、絶縁被覆材の磁石粉末内部への浸透を阻害し、磁石粉末内部での絶縁被覆材と磁石粉末との化学反応による磁石粉末の劣化を全体的に抑制することができる。そのため、磁石粉末本来の優れた磁気特性を、圧密化後であっても維持することができる。また、絶縁皮膜の亀裂を防止することにより、磁石粉末間の亀裂の伝播を一層効果的に防止できるというものである。
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る磁石成形体の製造方法は、以下の工程を含むことを特徴とするものである。まず、第1の磁石粉末から磁性微粒子を得る工程である。次に、前記磁性微粒子、及び前記磁性微粒子よりも平均粒径の大きな第2の磁石粉末を一体化する工程である。次に、前記一体化した磁石粉末及び磁性微粒子を絶縁皮膜で被覆する工程である。次に、前記絶縁皮膜で被覆された粉末を加熱加圧成形して磁石成形体を得る工程である。ここで、前記磁性微粒子は、前記磁石成形体を得る工程の際、前記磁石粉末及び前記絶縁皮膜の間の少なくとも一部に存在する。
そして、磁性微粒子と前記絶縁皮膜とが接触する部分に反応層を形成させることが好ましい。
以下、本実施形態を詳細に説明するが、上記第1実施形態で説明した事項と重複するものについては、既に説明した事項がそのまま本実施形態に引用されるため、ここでは説明を省略する。
本実施形態における希土類磁石は、希土類酸化物で被覆された希土類磁石粉末を、さらに結着用の希土類酸化物(上記希土類酸化物と同一物質であっても異なる物質であってもよい)と共に混合することにより混合体としてもよい。そして、これを高温加圧成形することによって製造することができる。その際、磁石粉末(希土類磁石粉末など)に絶縁性材料(希土類酸化物など)を被覆させるに際し、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、物理気相蒸着(PVD)法及び化学気相蒸着(CVD)法などによる蒸着法、並びに磁石粉末に塗布した希土類錯体を出発材として酸化物を得る方法などである。
まず、第1の磁石成形前駆体が球形になるようにする方法については、特に限定されることはない。例えば、単に磁性微粒子を磁石粉末に混合することにより、上述の技術的原理を充足する本願所望の第1の磁石成形前駆体が得られる。しかし、第1の磁石粉末から磁性微粒子を得る工程は、磁石粉末を表面研磨処理することによって磁性微粒子を得ることが好ましい。表面研磨処理は、磁石粉末と磁性微粒子とを完全に同一の組成とする場合、特にコスト面で優れる。第1の磁石粉末を表面研磨することによって、第1の磁石粉末の一部(特に突起部)から多数の微小な磁性微粒子が研削される。そして、磁性微粒子と表面研磨処理後の第1の磁石粉末とが、好ましくは(磁性により)吸着することによって一体化する。これにより、第1の磁石成形前駆体はほぼ球状となって、上述の本発明の技術的原理を充足する。
表面研磨処理としては、特に制限されることはないが、単磁区粒子が得られやすいという理由から、ボールミルやバレル研磨処理が好ましい。また、研磨量をより少なくできると共に、微粒子の粒径をより小さくできるという点から、ボールミルがより好ましい。このとき、生成した磁性微粒子及び表面研磨後の第1の磁石粉末における新生面が酸化しないようにするため、処理時の雰囲気を制御することが好ましい。具体的には、真空または不活性ガス中での研磨、あるいは十分に脱水された有機溶剤中での湿式の研磨が好適である。
次に、磁石粉末(希土類磁石粉末など)に絶縁性材料(希土類酸化物など)を被覆させるに際し、以下の方法を用いることができる。即ち、物理気相蒸着(PVD)法及び化学気相蒸着(CVD)法などによる蒸着法、並びに磁石粉末に塗布した希土類錯体を酸化させる方法などである。
上記の蒸着法によれば、高純度の希土類酸化物からなる理想的な絶縁皮膜を形成できる反面、コストが高くなる虞がある。そのため、前記一体化した磁石粉末及び磁性微粒子(第1の磁石成形前駆体)を絶縁皮膜で被覆する工程は、以下の2つの段階からなる方法を採用することが好ましい。前記「2つの段階」は、希土類錯体を含む溶液を磁石粉末に塗布する段階と、前記希土類錯体を熱分解して酸化物化させて希土類酸化物とする段階とである。即ち、上記の2段階からなる方法を用いることにより、溶液を用いることによって均一な膜厚の塗布被膜(絶縁皮膜)が得られる。加えて、磁石粉末に対する密着性及び酸化物に対する濡れ性に優れた絶縁皮膜を有する第2の磁石成形前駆体が得られる。
上記の希土類錯体としては、希土類元素を含有し、軟磁性合金粉末に被膜を形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、Rで表される希土類錯体を用いることができる。ここで、Rはイットリウム(Y)を含んでもよい希土類元素を表す。Rの具体例としては、上記イットリウム(Y)の他、ジスプロシウム(Dy)、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)が挙げられる。なかでも好ましくはDy及び/またはTbである。
一方、Lは有機物の配位子であって、(CO(CO)CHCO(CH))−、(CO(C(CH)CHCO(CCH))−、(CO(C(CH)CHCO(C))−、及び(CO(CF)CHCO(CF))−、並びにβ−ジケトナトイオン等の陰イオンの有機基を表す。なお、例えば、(CO(CO)CHCO(CH))−における「−」は結合手を表し、ここで列挙した他の化合物についても同様である。
また、絶縁皮膜の形成の際には、メタノール、エタノール、n−プロパノールや2−プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンやジエチルケトン等のケトン類、またはヘキサン等を用いてもよい。Rを溶解させ得るこれらの低沸点溶媒に溶解させて塗布することができる。
本実施形態により得られる希土類磁石は、上記のように、第1の磁石成形前駆体に絶縁皮膜を被覆して得られる第2の磁石成形前駆体を、加熱加圧成形(燒結を含む)して得られる磁石成形体である。そして、絶縁体である希土類酸化物により被覆された希土類磁石粉末の粒子間に希土類酸化物が介在することによって、磁石粉末同士が結着した構造を採る。例えば、前記希土類磁石は、希土類酸化物からなる絶縁皮膜で被覆された希土類磁石粉末を希土類酸化物と共に高温で加圧成形することによって得られるものである。上記の磁石粉末の被覆層または被覆された磁石粉末間に介在する結着部を形成する希土類酸化物については、1種単独であってもよいし、2種以上の混合物または複合酸化物であってもよい。
本実施形態により得られる磁石成形体は、従来の磁石成形体とは異なり、圧密体を得るために加圧下で加熱処理(加熱加圧処理)することを特徴とする。加圧と加熱は同時に行っても別工程で行ってもよいが、加圧時の温度は通常、500〜800℃となるように調節する。従来の磁石成形体の場合には、磁気特性を得るために1000℃以上での加熱による液相焼結が不可避である。これに対し、本実施形態は、磁石粉末の表面に絶縁物質を塗布することを特徴の1つとするため、従来の磁石成形体のような液相焼結による磁気特性発現を期待し難い。そのため、既に磁気特性を備えた磁石粉末を用いることが好ましい。そのような磁石粉末の加熱温度は500〜800℃とすることが好ましい。800℃以下で加熱すると、粒成長などのミクロレベルでの組織変化の発生を効果的に抑制でき、磁気特性の劣化を防止しうる。一方、500℃以上で加熱すれば、粒子の変形が十分となって、密度の大きな成形体が得られうる。より好ましくは600〜750℃であり、さらに好ましくは620〜720℃である。なお、加圧をせずに緻密化する場合、加熱温度が500〜800℃では低すぎ、1000℃以上での加熱が必要となりうる。そのため、加圧成形を施すことによって圧密化を促進することが好ましい。なお、加圧する際の圧力としては、緻密化を促進するという観点より、好ましくは200〜600MPaであり、より好ましくは300〜500MPaである。
得られた成形体は、歪み取りを目的として、500〜800℃の範囲で、再度加熱することにより、安定した磁気特性を得ることができる。
図3は、様々な被覆量の絶縁皮膜で処理した後、600℃にて圧密化した磁石成形体の、磁気特性(保磁力)と比抵抗との関係を示したグラフである。図3より、磁石粉末に対する球状化処理を施すことによって、磁気特性(保磁力)及び比抵抗の双方に優れた磁石成形体が得られることが分かる。
以上のように、本実施形態では、絶縁酸化物により被覆された磁石粉末を絶縁酸化物と共に高温で加熱加圧成形(焼結を含む)する。そして、磁石成形体においては、個々の磁石粉末が絶縁皮膜によって効果的に絶縁されると共に、絶縁された磁石粉末の粒子間に絶縁酸化物が介在することによって磁石粉末同士が結着した構造を備える。そのため、従来、絶縁材の混合や被覆のみでは避けることのできなかった磁石粉末間の絶縁不良部を、本実施形態によれば大幅に低減することができる。さらに、磁石粉末と絶縁皮膜との間に、微細な磁性微粒子が存在し、圧密化されて磁性微粒子と絶縁皮膜との間で形成される反応層を有することにより、圧密化時の割れや皮膜の損傷を低減することができ、優れた電気抵抗が安定的に得られる。これにより、成形後の本実施形態に係る磁石成形体の電気抵抗が増し、かような永久磁石を搭載したモータの渦電流損失を減らすことにより、モータ効率の向上が可能になるという優れた効果がもたらされる。
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係るモータは、上記第1実施形態の磁石成形体、または上記第2実施形態の製造方法により得られる磁石成形体を用いてなる。参考までに図4に、上記第1または第2の実施形態における磁石成形体が適用された集中巻の表面磁石型モータの1/4断面図を示す。図中、21はu相巻線、22はu相巻線、23はv相巻線、24はv相巻線、25はw相巻線、26はw相巻線、27はアルミケース、28はステータ、29は磁石、30はロータ鉄、31は軸である。第1または第2の実施形態における磁石成形体は、高い電気抵抗を有し、その上、保磁力などの磁石特性にも優れる。このため、第1または第2の実施形態における磁石成形体を用いて製造されたモータを利用すれば、モータの連続出力を高めることが容易に可能であり、特に大出力のモータとして好適といえる。また、第1または第2の実施形態における磁石成形体を用いたモータは、保磁力などの磁石特性が優れるために、製品の小型軽量化が図れる。
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係る電動駆動車両は、上記第3実施形態のモータを搭載してなる。第1または第2の実施形態における磁石成形体を用いたモータは、例えば、自動車用部品に適用した場合には、車体の軽量化に伴う燃費の向上が可能である。さらに、特に電気自動車やハイブリッド電気自動車の駆動用モータとしても有効である。これまではスペースの確保が困難であった場所にも駆動用モータを搭載することが可能となり、電気自動車やハイブリッド電気自動車の汎用化に大きな役割を果たすと考えられる。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、以下の実施例によって本発明の技術的範囲は何ら限定されるものではない。
[実施例1]
希土類磁石として、HDDR法を用いて調製したNd−Fe−B系異方性磁石粉末を用いた。具体的な調製の手順は以下の通りである。
まず、「Nd:1 2.6%、Co:17.4%、B:6.5%、Ga:0.3%、Al:0.5%、Zr:0.1%、Fe:残部」の成分組成を有する鋳塊を準備し、この鋳塊を1120℃に20時間保持して均質化した。さらに、均質化した鋳塊を水素雰囲気中で室温から500℃まで昇温させて保持し、さらに850℃まで昇温させて保持した。
引き続いて850℃の真空中に保持した後、冷却して微細な強磁性相の再結晶組織を有する合金を得た。この合金をジョークラッシャー及びブラウンミルを用いて、Ar雰囲気中で粉体化し、平均粒径300μmの希土類磁石粉末とした。
得られた磁石粉末を分級して、212μm以上の粒子30gを研磨砥石(チップトンSC−4)55gとともに、露点−80℃のAr気流中のグローブボックス内で内径φ55×60のSUS製ポットに挿入した。さらに、ヘキサンを30cc加え、挿入物全体を浸漬させた後、ポットの蓋をして遊星ボールミル(フレッチェ製)にて300回転で2時間攪拌して、研磨した。
研磨後の粒子をグローブボックス内で取出し、乾燥させた。研磨して生成した粒子は、非常に微細であるため、磁化し、粗大な磁石粉末(粗粉末)に吸着することによって、ほぼ球状の第1の磁石成形前駆体を形成した。得られた粉末にカーボン蒸着を施し、SEMを用いて磁石粉末および磁性微粒子の形状を観察した(図5A、図5B)。図5Aは、磁石粉末を球状化処理した後に得られる第1の磁石成形前駆体を示すSEM写真である。図5Aを見ると、第1の磁石成形前駆体の形状はほぼ球形であることが分かる。また、図5Bは、図5A中の黒色の点線部分を拡大したSEM写真である。図5Bのうち、白枠で囲んだ部分が、結晶粒がクラスター化してなる磁性微粒子である。なお、図5B中、第1の磁石成形前駆体の表面に見られる最も小さな一粒一粒は、サブミクロンオーダの磁石の結晶粒であって、本願では特に触れない。
得られた粒子への絶縁皮膜の形成は、以下の手法によった。
希土類磁石粉末の表面への絶縁皮膜の形成には、希土類アルコキシドであるジスプロシウムトリイソプロポキシド((株)高純度化学研究所製)を塗布し、ジスプロシウムトリイソプロポキシドの加熱処理による重縮合により、希土類酸化物を表面に固着させる手法を採用した。絶縁皮膜の形成から磁石の成形に至るまでの詳細な手順は、以下の通りである。
(1)露点が−80℃以下のArガスを満たしたグローブボックス内で、希土類アルコキシドであるジスプロシウムトリイソプロポキシド20gに、有機溶媒として脱水ヘキサンを加えて溶解し、全量が100mlのジスプロシウム表面処理液を調製した。ICPにて、溶液残渣中のDy濃度を分析した結果、5.7mg/mlであった。
(2)Ar雰囲気としたグローブボックス内で、前記ジスプロシウム表面処理液28mlを、上記で得た混合粉末100gに添加し、攪拌したのち、溶媒を除去し、混合粉末の表面を、希土類アルコキシド(ジスプロシウムトリイソプロポキシド)で被覆した。
(3)上記の操作により得られた皮膜を有する磁石粉末を、真空中で350℃にて30分間熱処理した。引き続き、600℃で60分間熱処理を実施して錯体を熱分解し、絶縁皮膜を形成することにより、被覆粉末を得た。
被覆後の磁石粉末の断面をSEM観察した結果、希土類酸化物から成る絶縁被覆の膜厚は、厚いところで約4μmであった(図示せず)。また、薄いところでは、AES解析によって表面からの酸素の浸透深さを測定した結果、約100nmであった(図示せず)。
得られた希土類酸化物で被覆された軟磁性合金粉末に、希土類酸化物としてDyを体積比で2.5%となるように混合し、十分に攪拌し、4gの混合物を調製した。上記の希土類酸化物(Dy)の平均粒径は、SEM観察の結果0.5〜5μmであった。なお、得られた希土類酸化物で被覆された軟磁性合金粉末に、さらに希土類酸化物を添加し混合したのは以下の理由による。即ち、粉末の隙間を充填して嵩密度を高めておくことで、磁石粉末の変形量を抑制することができ、絶縁皮膜のプレス成形時の変形による破損を低減し、比抵抗を効果的に向上させる成形体が得られるためである。
なお、上記希土類酸化物の添加量については、希土類磁石粉末と希土類酸化物粉末のバルク体における真密度の値を用いて、計算によって求めた。また、上記希土類酸化物は、(株)高純度化学研究所製のDy試薬を用いた。
上記のジスプロシウム表面処理液30mlを、混合粉末10gに添加する塗布量を標準塗布量、即ち「1」として、他の実施例及び比較例の塗布量は相対値(比)で下記の表1に示した。
上記混合粉末を10mm×10mmのプレス面を有する金型に充填し、室温で磁場配向させながら仮成形した。この時の配向磁場は1.6MA/m、成形圧力は20MPaとした。
そして、仮成形された上記混合体を真空中での加圧焼成によって成形し、バルク成形体の希土類磁石を得た。この成形にはホットプレスを用い、昇温中も一定の成形圧力490MPaを保持すると共に、成形温度600℃で1分間保持し、冷却することにより、10mm×10mm×約5mmの寸法を有する希土類磁石に加工した。なお、このとき、冷却中も室温まで真空を保持した。また、得られた磁石成形体には、600℃で0.5時間、歪取り焼鈍を施した。
図6Aは、磁石粉末に球状化処理を施して得られた磁石成型体(上記希土類磁石)における、磁石粉末および磁性微粒子の断面形状を観察した光学顕微鏡写真である。また、図6Bは、図6Aの一部を拡大した光学顕微鏡写真である。図6Aを拡大した図6Bを見れば、磁石粉末の突起部分を埋めるように磁性微粒子(図6B中の色のより濃い灰色がかった部分)が存在していることが確認できる。
このようにして得られた希土類磁石について、その密度(単位:g/cm)、磁気特性(保磁力(iHc)(単位:kA/m)、最大エネルギー積BHmax(単位:kJ/m)、及び電気比抵抗(単位:μΩm)を測定した。このとき、上記密度は得られた磁石の寸法及び密度から算出する一方、保磁力及び最大エネルギー積の磁石特性については、東英工業(株)製パルス励磁型着磁器MPM−15を用いた。具体的には、着磁磁界10Tにて予め試験片を着磁した後、東英工業(株)製BH測定器TRF−5AH−25Autoを用いて測定した。また、電気抵抗率(電気比抵抗)については、エヌピイエス(株)製抵抗率プローブを使用した4探針法によって測定した。このとき、プローブの針材料をタングステンカーバイド、針先端半径を40μm、針間隔を1mm、4本の針の総荷重は400gとした。
以上の条件及び結果を表1にまとめて示す。
[実施例2]
混合粉末10gに添加するジスプロシウム表面処理液を18mlとした以外は、実施例1と同様の操作をした。
被覆後の磁石粉末の断面をSEM観察した結果、希土類酸化物から成る絶縁被覆の膜厚は、厚いところで約2μmであった(図示せず)。また、薄いところでは、AES解析によって表面からの酸素の浸透深さを測定した結果、約100nmであった(図示せず)。
[実施例3]
実施例1に対して、磁石粉末と磁性微粒子の組成を変えた実験を行った。具体的には、実施例1の磁石粉末とは別に、磁性微粒子を得るために、「Nd:10.0%、Co:17.4%、B:6.5%、Ga:0.3%、Al:0.5%、Zr:0.1%、Dy:2.8%、Fe:残部」の成分組成を有する鋳塊から、実施例1と同様の手法で、磁石粉末を作製した。機械破壊を繰り返し、篩いで25μm以下の粒子を分級した。一方、実施例1で作製した平均粒径300μmの磁石粉末を分級し、粒径355μm以上のものを分級した。先に調製しておいた25μm以下の粒子1gと、355μm以上の粒子9gとを混合し、粗粒に微細粉末が吸着して球状化した原料粉末(第1の磁石成形前駆体)を得た。得られた粉末は、実施例1と同様の操作で、磁石成形体に加工した。篩いは、東京スクリーン社のステンレス製試験用ふるい(JIS Z 8801)を用いた。
被覆後の磁石粉末の断面をSEM観察した結果、希土類酸化物から成る絶縁被覆の膜厚は、厚いところで約3μmであった(図示せず)。また、薄いところでは、AES解析によって表面からの酸素の浸透深さを測定した結果、約150nmであった(図示せず)。
[実施例4]
実施例1において、乾式で研磨した以外は、同様の操作を行った。具体的に、180μm以上に分級した磁石粉末をAr気流中のグローブボックス内で内径φ55×60のSUS製ポットに挿入した。そのまま、ポットの蓋をして遊星ボールミル(フレッチェ製)にて300回転で2時間攪拌して、研磨した。このとき、ポットは気密性を得られるよう、Oリングとシールテープで、蓋からのリークが無いように注意した。
被覆後の磁石粉末の断面をSEM観察した結果、希土類酸化物から成る絶縁被覆の膜厚は、厚いところで約1.5μmであった(図示せず)。また、薄いところでは、AES解析によって表面からの酸素の浸透深さを測定した結果、約200nmであった(図示せず)。
[実施例5]
実施例1において、篩いのメッシュ径を125μmとした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
被覆後の磁石粉末の断面をSEM観察した結果、希土類酸化物から成る絶縁被覆の膜厚は、厚いところで約10μmであった(図示せず)。また、薄いところでは、AES解析によって表面からの酸素の浸透深さを測定した結果、約150nmであった(図示せず)。磁石粒子の表面に付着している磁性微粒子の平均粒径は、10μm程度であった。
[実施例6]
実施例1において、篩いのメッシュ径を75μmとした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
被覆後の磁石粉末の断面をSEM観察した結果、希土類酸化物から成る絶縁被覆の膜厚は、厚いところで約5μmであった(図示せず)。また、薄いところでは、AES解析によって表面からの酸素の浸透深さを測定した結果、約300nmであった(図示せず)。
[実施例7]
実施例1の「Nd:12.6%、Co:17.4%、B:6.5%、Ga:0.3%、Al:0.5%、Zr:0.1%、Fe:残部」の組成を有する磁石粉末(i)とは別に、「Nd:13.5%、Co:17.4%、B:6.5%、Ga:0.3%、Al:0.5%、Zr:0.1%、Fe:残部」の成分組成を有する鋳塊から、実施例1と同様の手法で、磁石粉末(ii)を作製した。磁性粉末(i)と(ii)とを8:2の質量比で混合し、原料の磁性粉末として用いた。別途「Nd:12.0%、Co:17.4%、B:6.5%、Ga:0.3%、Al:0.5%、Zr:0.1%、Dy:3.5%、Fe:残部」の成分組成を有する鋳塊から、実施例1と同様の手法で磁石粉末にし、さらに機械破壊を繰り返し、篩いで25μm以下の粒子を分級した。また、磁石粉末を分級し、粒径300μm以上のものを分級した。先に調製しておいた25μm以下の磁性微粒子1gと、300μm以上の磁性粉末9gとを混合し、粗粒に微細粉末が吸着して球状化した原料粉末(第1の磁石成形前駆体)を得た。得られた粉末は、実施例1と同様の操作で、磁石成形体に加工した。
被覆後の磁石粉末の断面をSEM観察した結果、希土類酸化物から成る絶縁被覆の膜厚は、厚いところで約1μmであった(図示せず)。また、薄いところでは、AES解析によって表面からの酸素の浸透深さを測定した結果、約200nmであった(図示せず)。
実施例7より、Dyを磁石粉末の表面に極在させた場合、保磁力を増大させつつ最大エネルギー積の低下をできるだけ防止することができる、非常に優れた磁石が得られることが分かった。
[実施例8]
実施例1で用いた212μm以上の粒子20gを秤量し、さらに実施例3で作製した25μm以下の微細な粒子10gを混合した。そして、研磨砥石(チップトンSC−4)55gと共に、露点−80℃のAr気流中のグローブボックス内で内径φ55×60のSUS製ポットに挿入した。さらに、ヘキサンを30cc加え、挿入物全体を浸漬させた後、ポットの蓋をして遊星ボールミル(フレッチェ製)にて300回転で2時間攪拌して研磨した。このように、研磨する磁石粉末を代替し、さらに上述した点以外は、実施例1と同様の手法でバルク磁石を製造した。
[比較例1]
実施例1において、研磨工程を省略した。さらに塗布量は、4倍の量の表面処理液を塗布した。それ以外は実施例1と同様の操作を行った。
被覆後の磁石粉末の断面をSEM観察した結果、希土類酸化物から成る絶縁被覆の膜厚は、厚いところで約2μmであった。また、薄いところでは、AES解析によって表面からの酸素の浸透深さを測定した結果、約200nmであった(図示せず)。
図6Cは、磁石粉末に球状化処理を施さずに得られた磁石成型体における、磁石粉末の断面形状を観察した光学顕微鏡写真である。また、図6Dは、図6Cの一部を拡大した光学顕微鏡写真である。即ち、図6Cは、上記した図6Aと対比することを目的とする。図6Cを見ると、磁石粉末の形状は不定形であり、周辺部に突起が多く存在することが分かり、さらに、図6Aとは異なり磁性微粒子のような粒子を観察することはできないことも分かる。また、図6Cを拡大した図6Dを見れば、かかる突起をより鮮明に見ることができる。
[比較例2]
研磨工程を省略し、分級のメッシュを150μmとした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
被覆後の磁石粉末の断面をSEM観察した結果、希土類酸化物から成る絶縁被覆の膜厚は、厚いところで約3μmであった(図示せず)。また、薄いところでは、AES解析によって表面からの酸素の浸透深さを測定した結果、約100nmであった(図示せず)。
[比較例3]
研磨工程を省略し、分級のメッシュを125μmとした。塗布量は、2倍の量の表面処理液を塗布した。それ以外は実施例1と同様の操作を行った。
被覆後の磁石粉末の断面をSEM観察した結果、希土類酸化物から成る絶縁被覆の膜厚は、厚いところで約5μmであった(図示せず)。また、薄いところでは、AES解析によって表面からの酸素の浸透深さを測定した結果、約150nmであった(図示せず)。
[比較例4]
実施例1における研磨処理前の原料粉末を300μmのメッシュで分級し、絶縁皮膜を形成する表面処理を施さずに実施例1と同様の操作で磁石成形体を作製した。なお、比較例1では、研磨処理前の原料粉末をそのまま使用しており、球状化処理は行わなかった。
[比較例5]
用いたメッシュを212μmとした以外は、比較例4と同様の操作を行った。
[比較例6]
用いたメッシュを180μmとした以外は、比較例4と同様の操作を行った。
表1より、実施例1〜6により得られた磁石成形体はいずれも、磁気特性の指標の1つである保磁力と、比抵抗(電気抵抗率)とが共に高くて優れた磁石成形体であることを確認した。一方、比較例を見るといずれも、保磁力または比抵抗が低いことが分かる。
1 磁石粉末、
3 第1の磁石成形前駆体、
4 磁性微粒子、
10 磁石成形体、
12 磁石粉末、
14 磁性微粒子、
15 絶縁皮膜、
16 反応層、
17 境界層、
21 u相巻線、
22 u相巻線、
23 v相巻線、
24 v相巻線、
25 w相巻線、
26 w相巻線、
27 アルミケース、
28 ステータ、
29 磁石、
30 ロータ鉄、
31 軸。

Claims (13)

  1. 磁石粉末と、
    前記磁石粉末よりも平均粒径の小さな磁性微粒子と、
    一体化した前記磁石粉末及び前記磁性微粒子を覆う絶縁皮膜とを含み、
    その際、前記磁性微粒子は、前記磁石粉末及び前記絶縁皮膜の間の少なくとも一部に存在し、
    前記磁石粉末の平均粒径に対する前記磁性微粒子の平均粒径が1/10以下であり、
    前記絶縁皮膜は、希土類酸化物、金属酸化物およびフッ化物よりなる群から選ばれてなり、少なくとも希土類酸化物を含むものであり、
    前記磁性微粒子と前記絶縁皮膜とから形成された反応層を有する、磁石成形体。
  2. 前記磁性微粒子は、前記磁石粉末と同一物質の粉砕物である、請求項1に記載の磁石成形体。
  3. 前記磁石粉末は希土類磁石からなる、請求項1または2に記載の磁石成形体。
  4. 前記磁石粉末はNdFe14Bを主成分とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の磁石成形体。
  5. 前記絶縁皮膜はジスプロシウム及び/またはテルビウムの酸化物を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の磁石成形体。
  6. 前記絶縁皮膜は、希土類元素の有機錯体を熱分解して得られた酸化物を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の磁石成形体。
  7. 第1の磁石粉末から磁性微粒子を得る工程と、
    前記磁性微粒子、及び前記磁性微粒子よりも平均粒径の大きな第2の磁石粉末を一体化する工程と、
    前記一体化した磁石粉末及び磁性微粒子を絶縁皮膜で被覆する工程と、
    前記絶縁皮膜で被覆された粉末を加熱加圧成形して磁石成形体を得る工程とを含み、
    その際、前記磁性微粒子は、前記磁石粉末及び前記絶縁皮膜の間の少なくとも一部に存在し、
    前記磁石粉末の平均粒径に対する前記磁性微粒子の平均粒径が1/10以下である、磁石成形体の製造方法。
  8. 前記磁石成形体を得る工程の際、前記磁石粉末及び前記絶縁皮膜の間の少なくとも一部に存在する磁性微粒子と前記絶縁皮膜とが接触する部分に反応層を形成させる、請求項に記載の磁石成形体の製造方法。
  9. 前記磁性微粒子と磁石粉末とを一体化する工程は、前記磁性微粒子を前記磁石粉末に吸
    着させることを特徴とする、請求項またはに記載の磁石成形体の製造方法。
  10. 前記第1の磁石粉末から磁性微粒子を得る工程は、前記磁石粉末を表面研磨処理することによって磁性微粒子を得ることを特徴とする、請求項のいずれか1項に記載の磁石成形体の製造方法。
  11. 前記表面研磨処理は、ボールミルを用いることを特徴とする、請求項10に記載の磁石成形体の製造方法。
  12. 請求項1〜のいずれか1項に記載の磁石成形体、または請求項11のいずれか1項に記載の製造方法により製造されてなる磁石成形体を用いた、モータ。
  13. 請求項1に記載のモータを搭載した、電動駆動車両。
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