以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、下記の形態のみには制限されない。
本発明の一形態によれば、磁性粒子と、前記磁性粒子間に存在する絶縁皮膜とを含む磁性体成形体であって、前記磁性粒子における平均濃度よりも高い元素濃度を有する濃化元素を含む濃化相が前記磁性粒子と前記絶縁皮膜との界面に存在することを特徴とする、磁性体成形体が提供される。
図1は、本形態の第1の形態の磁性体成形体の一実施形態である希土類磁石の断面模式図である。本実施形態の希土類磁石1は、磁石特性を発現する磁性粒子としての希土類磁石粒子2、および絶縁皮膜3を含む。絶縁皮膜3は希土類磁石粒子2の間に存在し、希土類磁石粒子2が絶縁皮膜3によって連結された構造となっている。そして、本発明の希土類磁石1においては、希土類磁石粒子2と絶縁皮膜3との界面に濃化相4が存在する。この濃化相4は、濃化元素を含む。ここで「濃化元素」とは、当該濃化相4における当該元素の平均濃度が、磁性粒子である希土類磁石粒子2における平均濃度よりも高い元素を意味する。本実施形態において、前記濃化元素はDyである。つまり、本実施形態において、濃化相4におけるDyの平均元素濃度は、希土類磁石粒子2におけるDyの平均濃度よりも高い。なお、図は理解の容易のために簡略化されたものであり、本発明の技術的範囲が、図示する形態(形状、サイズなど)の磁石に限定されるものではない。
「磁性粒子」とは、磁石材料の粉末を意味する。磁性粒子の一例として、図1に示すような希土類磁石粒子2が挙げられる。磁性粒子を構成する磁石材料としては、フェライト磁石のように、そもそも渦電流損失が小さい材料が用いられてもよい。しかしながら、希土類磁石は導電性に優れ、かつ渦電流が発生しやすい材料である。このため、希土類磁石を用いて本発明の磁性体成形体を構成することにより、高性能な磁気特性と低渦電流損失とを両立した磁性体成形体を実現することができる。よって以下、磁性体成形体を構成する磁性粒子が希土類磁石粒子である場合を例に挙げて説明する。ただし、本発明の技術的範囲がかような形態のみに限定されるわけではない。
「希土類磁石粒子」とは、上述した通り磁性粒子の1種であって、図1に示すように磁性体成形体を構成する成分である。希土類磁石粒子は、強磁性の主相および他成分からなる。希土類磁石がNd−Fe−B系磁石である場合には、主相はNd2Fe14B相である。磁石特性の向上を考慮すると、希土類磁石粒子はHDDR法や熱間塑性加工、特にHDDR法を用いて調製された異方性希土類磁石用磁粉から製造された希土類磁石粒子であることが好ましい。HDDR法や熱間塑性加工を用いて調製された異方性希土類磁石用磁粉を用いて製造された希土類磁石粒子は、多数の結晶粒の集合体となる。この際、希土類磁石粒子を構成する結晶粒が単磁区粒径程度の平均粒径を有していると、保磁力を向上させる上で好適である。希土類磁石粒子は、Nd−Fe−B系磁石の他にも、Sm−Co系磁石などから構成されうる。得られる磁性体成形体の磁石特性や、製造コストなどを考慮すると、希土類磁石粒子は、Nd−Fe−B系磁石から構成されることが好ましい。ただし、本発明の磁性体成形体がNd−Fe−B系磁石に限定されるものではない。場合によっては、磁性体成形体中に基本成分が同じ2種類以上の磁性体が混在していてもよい。例えば、異なる組成比を有するNd−Fe−B系磁石が2種以上含まれていてもよく、あるいは、Sm−Co系磁石を用いてもよい。
なお、本願において「Nd−Fe−B系磁石」とは、NdやFeの一部が他の元素で置換されている形態をも包含する概念である。Ndは、その一部または全量をPrに置換されていてもよく、また、Ndの一部をTb、Dy、Ho等の他の希土類元素で置換されていてもよい。置換にはこれらの一方のみを用いてもよく、双方を用いてもよい。置換は、元素合金の配合量を調整することによって行うことができる。かような置換によって、Nd−Fe−B系磁石の保磁力向上を図ることができる。置換されるNdの量は、Ndに対して、0.01〜50atom%であることが好ましい。かような範囲でNdが置換されると、置換による効果を十分に確保しつつ、残留磁束密度を高レベルで維持することが可能である。
一方、Feは、Co等の他の遷移金属で置換されていてもよい。かような置換によって、Nd−Fe−B系磁石のキュリー温度(TC)を上昇させ、使用温度範囲を拡大させることができる。置換されるFeの量は、Feに対して、0.01〜30atom%であることが好ましい。かような範囲でFeが置換されると、置換による効果を十分に確保しつつ、保磁力の低下が抑制されうる。
本発明の磁石は、焼結磁石用の磁粉では微細すぎて、バルク化すると磁石材料として成立しない。ある程度の大きさを有し、一粒の磁石粉末でも単磁区粒子磁粉の集合体としての磁石挙動が可能な磁石粉末を使用する必要がある。希土類磁石における希土類磁石粒子の平均粒径は、好ましくは5〜500μmであり、より好ましくは10〜300μmであり、さらに好ましくは15〜200μmである。希土類磁石粒子の平均粒径が5μm以上であれば、磁石の比表面積の増大が抑制され、希土類磁石(磁性体成形体)の磁石特性の低下が防止されうる。一方、希土類磁石粒子の平均粒径が500μm以下であれば、製造時の圧力に起因する磁石粒の破砕やこれに伴う電気抵抗の低下が防止されうる。加えて、例えば、HDDR処理により作製された異方性希土類磁石用磁粉を原料として異方性磁石を製造する場合には、希土類磁石粒子における主相(Nd−Fe−B系磁石においてはNd2Fe14B相)の配向方向を揃えることが容易となる。希土類磁石粒子の粒径は、磁石の原料である希土類磁石用磁粉の粒径を調整することによって、制御される。なお、希土類磁石粒子の平均粒径は、SEM像から算出されうる(本願において以下同じ)。
「絶縁皮膜」もまた、図1に示すように希土類磁石を構成する構成成分である。絶縁皮膜は、絶縁性材料から構成される。絶縁皮膜を構成する絶縁性材料としては、例えば、希土類酸化物が挙げられる。かような形態によれば、希土類磁石における絶縁性が十分に確保され、高抵抗の希土類磁石(磁性体成形体)が提供されうる。絶縁性材料は、好ましくは、式(I):
で表される組成を有する希土類酸化物が挙げられる。希土類酸化物は、非晶質であってもよいし、結晶質であってもよい。式(I)において、RはYを含む希土類元素を表す。なお、「Yを含む希土類元素」とは、本願において希土類元素の概念には、イットリウムが含まれることを確認的に明記する記載である。つまり、「Yを含む希土類元素」とは、Yを必須に含む希土類元素を意味しているのではなく、希土類元素としてYが用いられてもよいことを示す。Rの具体例としては、ジスプロシウム(Dy)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)が挙げられる。2種以上の希土類酸化物が含有されていてもよい。なかでも、保磁力の維持という観点からは、絶縁皮膜は酸化ジスプロシウム(Dy2O3)、酸化テルビウム(Tb2O3)から構成され、経済性の観点からは、特に好ましくはDy2O3から構成される。
なお、絶縁皮膜が希土類酸化物からなる場合であっても、これ以外の不純物や製造工程に起因する反応生成物、未反応残存物、微小な空孔等の存在は避けられないことは当然である。これらの不純物の混入量は、電気伝導性や磁気特性の観点からは少ないほど好ましい。ただし、絶縁皮膜における希土類酸化物の含有量が80体積%以上、好ましくは90体積%以上であれば、製品磁石の磁気特性や電気伝導性に実質的には問題ない。
絶縁皮膜の含有量については特に制限はないが、本発明の磁性体成形体全体に対する体積比として、好ましくは0.5〜20%であり、より好ましくは1.0〜15%である。絶縁皮膜の含有量が0.5%以上であれば、磁石における高い絶縁性が確保され、高抵抗の磁性体成形体が提供される。また、絶縁皮膜の含有量が20%以下であれば、希土類磁石粒子の含有量が相対的に減少することに伴う磁気特性の低下が防止される。
希土類磁石1において、希土類磁石粒子2の間に絶縁皮膜3が存在すると、希土類磁石1の電気抵抗が著しく高まる。なお、希土類磁石粒子2は、完全に絶縁皮膜3によって被覆されていることが好ましいが、電気抵抗を高めて渦電流を抑制する効果が発現するのであれば、絶縁皮膜3によって被覆されていない部分が存在していてもよい。また、絶縁皮膜3の形状は、図示するように連続する壁となって希土類磁石粒子2を取り囲むものであってもよく、粒子状の固まりが連なって希土類磁石粒子2を隔離しているものであってもよい。
さらに、本発明の第1の形態の磁性体成形体は、「濃化相」を含む点に特徴を有する。濃化相もまた、図1に示す希土類磁石の構成成分である。図1に示すように、濃化相4は、希土類磁石粒子2と絶縁皮膜3との界面に存在する相である。濃化相4は、図示するように連続する壁となって希土類磁石粒子2を取り囲むものであることが好ましい。
図1に示す形態においては、上述したように、濃化相4における濃化元素はDyである。ただし、濃化元素はDyのみに限定されない。また、濃化元素は複数存在してもよい。さらに、濃化相は好ましくは合金相である。例えば、濃化元素は、Nd、Dy、TbおよびCoからなる群から選択される1種または2種以上でありうる。換言すれば、好ましい形態においては、これらの元素の少なくとも1種の元素濃度が磁性粒子における平均濃度よりも高い相が、磁性粒子と絶縁皮膜との間に存在する。より好ましくは、濃化相はこれらの元素を含む合金相である。さらに好ましくは、濃化相はこれらの元素のうちの2種以上からなる合金相である。例えば、濃化相は、Dy−Co合金、Nd−Co合金、Dy−Tb合金、Dy−Tb−Nd−Co合金、Fe−Co合金などから構成されうる。なかでも、合金成分の安定性の観点からは、濃化相は、Dy−Co合金、Dy−Tb−Nd−Co合金から構成されることが特に好ましい。これらの合金の構成元素の組成について特に制限はなく、合金化できる範囲で製造することが可能である。合金からなる濃化相を形成するには、予め合金化した粒子を付着させてもよいし、後述するような物理蒸着手法を用いることで、粉末表面に直接的に成膜する手法を用いてもよい。濃化相としての合金相は、好ましくは単相合金からなるが、複数の金属相が生成しても、添加する粒子よりも十分微細な混合組織であれば問題ない。具体的には、分散相が数μm以下の微細組織を生じて母相に分散していれば、本発明に用いるのに好適である。
なお、濃化相4の存在は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた観察により確認されうる。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察では、SEMの分解能によっては、濃化相と絶縁皮膜または磁性粒子との境界の特定が困難で、絶縁皮膜内または磁性粒子内の界面近傍において濃化元素が濃度勾配を有するように見える場合がある。ただしかような場合であっても、本発明の効果は十分に発現させることが可能である。
従来の粒界拡散による手法や二合金法によって得られる磁石成形体では、DyやTbといった添加元素が絶縁皮膜の外側に分布するに過ぎず、必ずしも十分な効果を得ることができなかった。また、従来、Nd、Coなどを添加して低融点化させることにより得ていた粒子表面のクリーニング作用も、絶縁皮膜の外側にこれらの元素が分布した状態では、必ずしも十分な効果が得られない場合があった。
これに対し、本発明の好ましい形態によれば、Nd、Dy、Tb、Coといった元素の濃度が高い相が磁性粒子(希土類磁石粒子)の表面に存在する。これにより、磁性体成形体の保磁力が効果的に向上しうる。なお、かような効果が得られるメカニズムとして、例えばDyやTbを濃化元素とする濃化相が存在すると、これらの濃化元素が磁石粒子表面の異方性磁場を高め、これが高保磁力化に貢献しているのではないかと考えられる。磁性体成形体の保磁力が向上する結果、高価な元素の使用量が削減され、保磁力の高い高抵抗磁性体成形体が安価に提供されうる。
本発明において、元素の「濃度」とは、当該元素が存在する相における当該元素の原子換算での含有百分率(atom%)を意味する。そして、希土類磁石粒子2における「平均濃度」とは、本発明の磁性体成形体を構成する個々の磁性粒子における元素の濃度の平均値を意味する。例えば、一般的な希土類磁石の主相であるNd2Fe14B相におけるNd濃度は、2/(2+14+1)=11.8atom%である。従って、希土類磁石粒子がNd2Fe14B相のみからなる場合には、濃化相は、11.8atom%よりも高い濃度でNdを含むか、Dy、Tb、Coのうちの少なくとも1種を含めばよい。なお、本発明において、上述した元素濃度は、EPMA解析またはAES解析により測定された値を採用するものとする。
濃化相の融点は、上述した希土類磁石粒子の融点および上述した絶縁被膜の融点よりも低いことが好ましい。かような形態によれば、磁気特性の低下が防止され、かつ、焼結時の皮膜の破損が防止されうる。その結果、得られた磁性体成形体の比抵抗を向上させることが可能となる。ここで、上述した希土類磁石粒子の融点は、通常700℃以上で、好ましくは800℃程度までのものを用いるとよい。また、上述した絶縁皮膜の融点は、通常800℃以上である。従って、濃化相の融点の好ましい値は、これらのいずれよりも低い値であればよく、特に制限されない。具体的には、濃化相の融点は、好ましくは500〜700℃であり、より好ましくは550〜650℃であり、さらに好ましくは600〜650℃である。濃化相の融点がかような範囲内の値であれば、絶縁皮膜の破損が少ない磁性体成形体を得ることが可能となる。なお、以上、濃化相の融点が希土類磁石粒子および絶縁皮膜よりも低い場合について詳細に説明したが、かような形態のみには制限されず、濃化相の融点が比較的高くてもよい。
濃化相の含有量についても特に制限はないが、本発明の磁性体成形体全体に対する体積比として、好ましくは1〜20%であり、より好ましくは3〜10%である。濃化相の含有量が1%以上であれば、濃化層が効果的に亀裂の進展を防止するという利点がある。また、濃化相の含有量が20%以下であれば、主相の相比を増大できるという利点がある。
濃化層においては、磁性粒子(希土類磁石粒子)側から絶縁皮膜側に向かって、濃化元素の濃度が変化していることが好ましく、濃化元素の濃度が減少していることがより好ましい。かような形態によれば、本発明の作用効果がより一層発揮されうる。濃化元素の濃度が変化(減少)する形態の一例としては、例えば以下のような形態が挙げられる。すなわち、濃化元素がDyであって、絶縁皮膜がDy2O3からなる場合に、濃化相の磁性粒子近傍がDy単体から構成され、そこから絶縁皮膜へと向かって酸素(O)元素の濃度が漸増し、Dy濃度が漸減する形態である。
上述した形態の本発明の磁性体成形体は、等方性磁石粉末から製造される等方性磁石、異方性磁石粉末をランダム配向させた等方性磁石、および異方性磁石粉末を一定方向に配向させた異方性磁石のいずれであってもよい。高い最大エネルギー積を有する磁石が必要であれば、異方性磁石粉末を原料とし、これを磁場中配向させた異方性磁石が好適である。
上述した形態の磁性体成形体を製造する手法について特に制限はないが、本発明者らは、本発明の磁性体成形体を製造するための2通りの好適な方法を見出した。従って、本発明の第2および第3の形態は、磁性体成形体の製造方法に関する。ただし、本発明に係る磁性体成形体の技術的範囲は、後述する本発明に係る製造方法により製造されたもののみに限定されることはない。一方、本発明に係る製造方法の技術的範囲が、本発明に係る磁性体成形体が得られる形態のみに限定されることもない。
本発明の第2の形態に係る製造方法は、簡単に言えば、磁性粉末(磁性粒子の粉末状の集合体)の表面に絶縁皮膜を形成した後に加圧で加熱することによってバルク磁石へと成形して磁性体成形体を製造する。その際、絶縁皮膜の形成前に、磁性粉末の表面を予め所定の低融点材料またはその前駆体で被覆しておく。そして、その後に絶縁皮膜を形成し、さらに所定温度での加熱加圧処理を経て、磁性体成形体を得る。より具体的には、本発明の第2の形態に係る製造方法は、磁性粉末の表面を、前記磁性粉末の融点よりも低い融点を有する低融点材料またはその前駆体で被覆する工程(以下、「被覆工程」とも称する)と、低融点材料またはその前駆体で被覆された前記磁性粉末の表面に、前記低融点材料よりも高い融点を有する絶縁皮膜を形成する工程(以下、「絶縁皮膜形成工程」とも称する)と、絶縁皮膜が形成された前記磁性粉末を、加圧下で、前記低融点材料の融点よりも高く前記磁性粉末の融点および前記絶縁皮膜の融点よりも低い温度で加熱する工程(以下、「成形工程」とも称する)とを含む、磁性体成形体の製造方法である。かような製造方法によれば、濃化相の融点が磁性粒子の融点および絶縁被膜の融点よりも低い形態の磁性体成形体が製造されうる。以下、図2を参照しながら、磁性粉末が希土類磁石粉末である場合を例に挙げて、工程毎に順に説明する。
図2は、本発明の第2の形態に係る製造方法を説明するためのフローチャートである。
(被覆工程)
本工程においては、希土類磁石粉末の表面を、前記希土類磁石粉末の融点よりも低い融点を有する低融点材料またはその前駆体で被覆する。これにより、低融点材料またはその前駆体で被覆された前記希土類磁石粉末(以下、単に「第1被覆粉末」とも称する)を得る。
まず、希土類磁石粉末、および低融点材料またはその前駆体を準備する(S1)。
希土類磁石粉末は、製造する希土類磁石の所望の組成に応じて、原料を配合して製造する。主相がNd2Fe14B相であるNd−Fe−B系磁石を製造する場合には、Nd、Fe、およびBを所定量配合する。
希土類磁石粉末としては、公知の手法を用いて製造したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。好ましくは、HDDR法や熱間塑性加工を利用したUPSET法を用いて製造された異方性希土類磁石粉末を用いる。なお、「粉末」とは、粒子の集合体を意味する。かような異方性希土類磁石粉末に含まれる個々の希土類磁石粒子は、多数の結晶粒の集合体となっている。個々の異方性希土類磁石粒子を構成する結晶粒は、その平均粒径が単磁区臨界粒子径以下であると、保磁力を向上させる上で好適である。具体的には、結晶粒の平均粒径は、500nm以下であるとよい。なお、HDDR法とは、Nd−Fe−B系合金を水素化させることにより、主相であるNd2Fe14B化合物をNdH3、α−Fe、およびFe2Bの三相に分解させ、その後、強制的な脱水素処理によって再びNd2Fe14Bを生成させる手法である。UPSET法とは、超急冷法により作製したNd−Fe−B系合金を、粉砕、仮成形後、熱間で塑性加工する手法である。
準備する希土類磁石粉末の平均粒径の好ましい形態については、本発明の第1の欄において説明した通りである。希土類磁石粉末の平均粒径は、粉砕機の選択および粉砕された希土類磁石粒子の選別によって、制御されうる。
低融点材料またはその前駆体は、後述する成形工程において融解して液相となり、その後に冷却して再度固化する。そして最終的には、本発明の第1の希土類磁石における濃化相を形成することとなる。
「低融点材料」とは、希土類磁石粉末の融点、および後述する絶縁皮膜形成工程において形成される絶縁皮膜の融点の双方よりも低い融点を有する材料を意味する。低融点材料としては、例えば、Nd、Dy、TbおよびCoからなる群から選択される1種または2種以上の元素を含有する合金が挙げられ、具体的には、Dy−Co合金、Nd−Co合金、Dy−Tb合金、Dy−Tb−Nd−Co合金、Fe−Co合金などの合金が挙げられる。なかでも、合金組成の安定性の観点からは、Dy−Co合金、Dy−Tb−Nd−Co合金が低融点材料として用いられることが特に好ましい。
「低融点材料の前駆体」とは、後述する成形工程における加熱によって「低融点材料」へと変化しうる材料を意味する。低融点材料の前駆体としては、例えば、DyF2などのフッ化物が挙げられる。低融点材料の融点の好ましい形態は、本発明の第1の欄における濃化相の融点の好ましい形態と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
低融点材料またはその前駆体としては、公知の手法を用いて製造したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。合金形態の低融点材料を自ら製造する手法としては、例えば、真空アークボタン溶解や真空高周波溶解という手法が挙げられる。
準備する低融点材料またはその前駆体の平均粒径は特に制限されないが、希土類磁石粉末の表面をまんべんなく被覆するという観点からは、好ましくは1〜100μmであり、より好ましくは1〜50μmであり、さらに好ましくは1〜20μmである。低融点材料またはその前駆体の平均粒径についても、粉砕機の選択および粉砕された材料の選別によって、制御されうる。
続いて、上記で準備した希土類磁石粉末の表面を、同様に上記で準備した低融点材料またはその前駆体で被覆する。これにより、第1被覆粉末が得られる(S2)。被覆手段について特に制限はなく、従来公知の混合機などが採用されうる。また、被覆工程の具体的な条件も特に制限されず、従来公知の知見を適宜参照することによって調整されうる。
希土類磁石粉末を低融点材料またはその前駆体で被覆する際のそれぞれの材料の使用量は、製造される希土類磁石における所望の存在量を考慮して適宜決定されうる。一例を挙げると、前記低融点材料またはその前駆体の被覆量は、前記希土類磁石粉末の全量100質量%に対して、好ましくは1〜20質量%であり、より好ましくは2〜10質量%である。低融点材料(またはその前駆体)の被覆量がかような範囲内の値であれば、希土類磁石粉末の表面が適切に被覆され、後述する成形工程において所望の濃化相が形成されうる。
(絶縁皮膜形成工程)
本工程では、上述した被覆工程において得られた第1被覆粉末の表面に、低融点材料よりも高い融点を有する絶縁皮膜を形成する。これにより、低融点材料またはその前駆体で被覆された希土類磁石粉末(第1被覆粉末)がさらに絶縁皮膜により被覆された粉末(以下、単に「第2被覆粉末」とも称する)が得られる。
第1被覆粉末の表面に絶縁皮膜を形成する手法についても特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、特開2005−191187号公報に記載の手法が採用されうる。具体的には、第1被覆粉末の表面に希土類アルコキシドを塗布し、加熱処理によって熱分解や重縮合させることにより、希土類酸化物からなる絶縁皮膜が表面に固着されてなる第2被覆粉末を得ることが可能である。このような製法を用いる場合、少量の希土類酸化物の添加により、希土類磁石粒子間に絶縁皮膜が存在する希土類磁石を製造可能である。このため、最大エネルギー積を大きな値に維持しつつ、高い電気抵抗値と渦電流の抑制能を、希土類磁石に付与することが可能である。また、希土類アルコキシドを、加水分解物よりなるゾル液を介さずに、希土類磁石粉末の表面に塗布した後に熱分解する製法であるため、希土類磁石の製造工程において、ゾルのゲル化や沈殿物の発生が抑制される。以下、かような手法により絶縁皮膜を形成する場合について、詳細に説明する。
本工程において、希土類アルコキシドは、希土類酸化物として第1被覆粉末の表面に固着して第2被覆粉末を形成する。そして最終的には、後述する成形工程を経て、希土類磁石粒子間に存在する絶縁皮膜となる。希土類アルコキシドとしては、市販の試薬を用いればよい。希土類アルコキシドが液体である場合には、液体の希土類アルコキシドを、第1被覆粉末の表面に塗布すればよい。一方、希土類アルコキシドが固体である場合には、適切な有機溶媒に溶解した状態で、第1被覆粉末の表面に塗布すればよい。
希土類アルコキシドの具体例としては、例えば希土類トリイソプロポキシドが挙げられる。希土類トリイソプロポキシドは、様々な有機溶媒との併用が可能であるため、好ましい。希土類トリイソプロポキシドの具体例としては、ジスプロシウムトリイソプロポキシド、ホルミウムトリイソプロポキシド、エルビウムトリイソプロポキシド、ツリウムトリイソプロポキシド、イッテルビウムトリイソプロポキシド、ルテチウムトリイソプロポキシド、ジスプロシウムトリイソプロポキシド、イットリウムトリイソプロポキシド、ガドリニウムトリイソプロポキシドなどが挙げられる。有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;ヘキサンなどの非極性溶媒;テトラヒドロフラン等の環状エーテル系溶媒;イソプロピルアルコールや2−エトキシエタノール等のアルコール系溶媒など、低温で除去可能な低沸点有機溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は、予め脱水した上で用いることが好ましい。
上記被覆工程において得られた第1被覆粉末、および希土類アルコキシド(場合によっては、希土類アルコキシドが有機溶媒に溶解してなる希土類表面処理液)を用いて、第1被覆粉末の表面に希土類アルコキシドを塗布する(S3)。前述のように、希土類アルコキシドが液体であれば、希土類アルコキシドそのものを、第1被覆粉末に塗布することが可能である。希土類アルコキシドは、ケイ素アルコキシド、アルミニウムアルコキシド、チタニウムアルコキシドなどと比較して、水分との反応活性が大きく、加水分解して、有機溶媒に不溶性の希土類水酸化物を生成しやすい。このため、大気中の水分との接触など、僅かな水分の混入にも、注意することが好ましい。そこで、第1被覆粉末の表面に希土類アルコキシドを塗布する作業は、不活性ガス雰囲気等の乾燥雰囲気下にて行うことが好ましい。使用する雰囲気の露点は−40℃以下とするのがより好ましい。また、上述のように、希土類アルコキシド溶解用の有機溶媒は、あらかじめ脱水処理を施した上で用いることが好ましい。
有機溶媒を用いる場合には、希土類アルコキシドを有機溶媒に溶解し、希土類表面処理液を調製する。処理液の濃度は、第1被覆粉末への希土類アルコキシドの添加量を考慮して決定されうる。
液体の希土類アルコキシドまたは希土類表面処理液を、第1被覆粉末に供給する。有機溶媒を用いた場合には、次いで溶媒を乾燥させて、第1被覆粉末の表面に希土類アルコキシドを析出させる。乾燥の際には、必要に応じて、減圧乾燥等の手法が併用されうる。1回の塗布で十分な量の希土類アルコキシドが塗布できない場合には、希土類アルコキシドまたは希土類表面処理液を供給する工程を、2回以上繰り返してもよい。このような作業により、第1被覆粉末の表面の全部または一部が希土類アルコキシドで被覆される。
次いで、上記希土類アルコキシドで被覆された第1被覆粉末を真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で加熱処理する。これにより、希土類アルコキシドの熱分解と重縮合が促進され、第1被覆粉末の表面に絶縁皮膜が形成し、第2被覆粉末が得られる(S4)。希土類アルコキシドの重縮合反応は、加熱によって促進しうる。ただし、酸素や水分共存下での加熱は希土類磁石の酸化劣化をもたらす恐れがあるため、大気中での加熱は200℃までに留めることが好ましい。より一層の重縮合反応促進のためには、真空雰囲気または不活性ガスフローの下、600℃以下の温度での熱処理が有効である。不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどが用いられうる。上記塗布工程および加熱工程を、適宜繰返し適用してもよい。
(成形工程)
本工程においては、上記で得られた第2被覆粉末を加圧下で加熱する。これにより、希土類磁石(磁石成形体)が完成する(S5)。
具体的には、まず、上記で得られた第2被覆粉末を成形型中に充填する。成形型の形状は特に限定されず、磁石が適用される部位に応じて決定するとよい。成形型に充填する際には、適当な圧力を加えて仮成形するとよい。仮成形の圧力は、49〜490MPa程度である。第2被覆粉末を仮成形する段階の温度は特に限定されないが、作業の容易性、コストを考慮すると、作業環境の温度下で圧縮することが好ましい。また、作業環境としては、第2被覆粉末が酸化により劣化することを防ぐため、湿度などの環境に配慮するとよい。なお、用いる希土類磁石粉末が異方性磁石粉末である場合には、希土類磁石粉末を磁場配向させながら仮成形することによって、異方性の希土類磁石を得ることができる。なお、かような形態において、加える配向磁場は1.2〜2.2MA/m程度である。
第2被覆粉末を成形型中にて成形する場合には、必要に応じて、緩衝剤をさらに添加してもよい。この緩衝剤は、磁粉の過度な変形を抑制するという機能を有する。かような緩衝剤としては、例えば、酸化ジスプロシウム(Dy2O3)やケイ酸(SiO2)ガラス、酸化テルビウム(Tb2O3)などの酸化物が挙げられる。緩衝剤をさらに添加する場合の添加量については特に制限はないが、第2被覆粉末の全量100質量%に対して、1〜30質量%程度である。なお、緩衝剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
続いて、成形型中に充填された(場合によってはさらに仮成形された)第2被覆粉末を成形してバルク磁石を得る。なお、上述の仮成形によって第2被覆粉末を固める作業は、本願における「成形」には該当しないものとする。成形手段としては、磁石製造に通常用いられる公知の装置を用いることができる。
本発明では、第2被覆粉末は、熱間成形することが好ましい。より具体的には、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で熱間成形することが好ましい。希土類磁石は常温付近では硬く脆いが、熱間成形した場合には、原料である希土類磁石粉末を十分に塑性変形させ、高密度な希土類磁石を得ることができる。熱間成形方法は特に限定されないが、ホットプレスまたは通電焼結装置による熱間成形を用いることができる。
熱間成形時の加熱温度は、上述した低融点材料の融点よりも高く希土類磁石粉末の融点および絶縁皮膜の融点よりも低い温度である。具体的には、550〜650℃程度であり、好ましくは600〜650℃である。かような温度で加熱することにより、第2被覆粉末において、低融点材料(加熱により低融点材料の前駆体から生成したものを含む)が融解して液相となる。これに対し、希土類磁石粉末および絶縁皮膜は融解しない。その結果、希土類磁石粉末と絶縁皮膜との間に、低融点材料(例えば、合金)由来の連続相(本発明の第1の磁石の濃化相に相当)が形成される。なお、熱間成形時の加熱均熱時間は、1〜30分程度である。また、加圧圧力は、49〜980MPa程度である。また、加熱時間の経過とともに加圧圧力を変化させてもよい。
従来、本発明における低融点材料を用いずに、希土類磁石粉末の表面に直接絶縁皮膜を形成して希土類磁石を製造すると、得られた磁石において十分な絶縁性が確保されない場合があり、磁石のより一層の高抵抗化が求められていた(比較例3を参照)。これに対し、本発明の製造方法によれば、かような問題の解決が図れる。本発明によって高抵抗化が達成されることについて、推測されるメカニズムは以下の通りである。すなわち、一般的に磁石粉末を成形型中で加圧成形すると、加圧に伴って磁石粉末に割れが発生する場合がある。そして、従来のように希土類磁石粉末の表面に直接絶縁皮膜を形成した後に加圧成形すると、磁石粉末に生じた割れが絶縁皮膜にまで伝播し、絶縁皮膜も同様に割れてしまう。これに対し、本発明によれば、加圧成形時には磁石粉末の周囲には液相が存在する。このため、磁石粉末に生じた割れが絶縁皮膜にまで伝播することがない。従って、磁石粉末由来の割れが絶縁皮膜にまで伝播せず、絶縁皮膜における割れの発生が防止される。かようなメカニズムによって、高い絶縁性が確保され、十分に高抵抗の希土類磁石が提供されると考えられる。ただし、当該メカニズムはあくまでも推測に基づくものに過ぎず、実際には他のメカニズムによって本発明の作用効果が得られていたとしても、本発明の技術的範囲は何ら影響を受けることはない。
(成形後の処理)
バルク磁石の成形後には、成形温度以下での歪とりを主な目的とした熱処理を実施した後、加工(切断、研磨など)、表面処理(保護膜の形成、塗装など)、着磁などの処理を行う。
希土類磁石の加工には、各種公知技術を適宜適用できる。すなわち、研削(外面研削、内面研削、平面研削、成形研削)、切断(外周切断、内周切断)、ラッピング、面取り等の加工を実施できる。加工用具としては、ダイヤモンド、GC砥石、外内周切断機、外内周研削機、NC旋盤、フライス盤、マシニングセンターなどが用いることができる。
着磁は、静磁場またはパルス磁場によって行うことができる。飽和に近い着磁状態を得るための目安は、自発保磁力の2倍以上、望ましくは4倍程度の着磁磁場強度である。
以上、本発明の第2の形態に係る製造方法について詳細に説明した。本発明者らは、本発明に係る磁性体成形体を得るための他の製造方法をも完成させた。以下、本発明の第3の形態に係る他の製造方法につき、上述した製造方法とは異なる点に重点を置きつつ、詳細に説明する。
本発明の第3の形態に係る磁性体成形体の製造方法は、減圧下で、雰囲気中の酸素濃度を増加させながら、イオン化された金属元素を磁性粉末の表面に蒸着させて、前記金属元素を含有する絶縁皮膜を前記磁性粉末の表面に形成して絶縁被覆磁性粉末を得る工程(以下、「蒸着工程」とも称する)と、前記絶縁被覆磁性粉末を、加圧下で加熱する工程(成形工程)とを含む。かような製造方法によれば、濃化相の融点と磁性粒子および絶縁皮膜の融点との相対的な関係にこだわらずに磁性体成形体を得ることが可能となる。換言すれば、磁性粒子および/または絶縁皮膜の融点よりも高い融点を有する濃化相を含む磁性体成形体の製造が可能となる。また、製造条件を制御することで、濃化元素の濃度が変化している形態の濃化相を作製することも可能である。以下、工程毎に順に説明する。
蒸着工程では、まず、磁性粉末(例えば、Nd−Fe−B系異方性希土類磁石粉末)を準備する。準備する磁性粉末の具体的な形態については、上述したのと同様の形態が採用されうるため、ここでは詳細な説明を省略する。
続いて、準備した磁性粉末の表面に、イオン化された金属元素を蒸着させる。これにより、当該金属元素を含む領域が磁性粉末を構成する粒子(磁性粒子)の表面に形成される。この領域は、最終的には磁性粒子の表面に存在する濃化相および絶縁皮膜となる。イオン化により蒸着させる金属元素の種類は特に制限されないが、濃化相を構成する濃化元素として上述した金属元素が好ましく用いられうる。
金属元素を磁性粒子の表面に蒸着させるためにイオン化させる手段について特に制限はない。イオン化手段の一例としては、蒸着させる金属元素を含む金属単体または合金をカソードとして用いて、アーク放電により当該金属元素を溶融・イオン化させるという手法が挙げられる。当該イオン化手段において放電パルス数を制御可能である場合には、放電パルス数を調節することで、磁性粒子の表面に形成される濃化相および絶縁皮膜のサイズ(厚さ)を制御することが可能となる。なお、イオン化手段は上述した形態のみには限定されず、例えばレーザアブレーションといった従来公知の手法もまた、適宜採用されうる。
蒸着工程は、減圧下において行なう。雰囲気の圧力の具体的な形態について特に制限はないが、蒸着開始時の雰囲気の圧力は、好ましくは10−3Pa以下であり、より好ましくは10−4以下であり、さらに好ましくは10−5Pa以下である。かような形態とすることにより、イオン化した金属元素の磁性粒子表面への蒸着が効率的に行なわれうる。
蒸着工程は、雰囲気中の酸素(O2)濃度を増加させながら行なう。これにより、イオン化された金属元素が徐々に酸化物の形態で蒸着されることとなる。そして最終的に、磁性粒子の表面の最外領域には、絶縁皮膜が形成されることとなる。このように、本形態に係る製造方法によれば、雰囲気の酸素濃度を増加させるという極めて簡便な処理によって、濃化相から絶縁皮膜の形成を連続的に行なうことが可能となるという利点もある。なお、蒸着開始時の雰囲気中の酸素分圧は、最高加熱温度到達時にFeの還元性雰囲気となる酸素分圧が好ましい。かような形態によれば、磁性粒子の最外領域に効率的に絶縁皮膜を形成することが可能となる。
雰囲気中の酸素濃度を増加させながら蒸着工程を行なうことに伴い、雰囲気の圧力が増加することとなってもよい。具体的には、蒸着終了時の雰囲気の圧力は、好ましくは10−4〜10−2Pa程度であり、より好ましくは10−3〜10−2Paである。ただし、かような形態のみには制限されない。
蒸着工程において、金属元素を蒸着させる際の磁性粒子の温度は特に制限されない。ただし、磁石粉末の酸化を防止するという観点からは、当該温度は好ましくは100℃以下であり、より好ましくは20〜50℃である。このように磁性粒子を比較的低温に保つには、イオン化手段として例えば上述したアーク放電を用いる場合には、磁性粉末自体を電極として用いない形態を採用することが好ましい。また、金属元素の蒸着をより効率的に行なうという観点からは、攪拌器や振動器などを用いて磁性粒子粉末を適当な速度で攪拌しつつ蒸着を行なうとよい。かようなイオン化手段を用いると、従来のようなキャリアガスの使用や成膜物質の溶融が不要となる。このため、雰囲気を制御することで蒸着元素の酸化状態を制御することが可能である。また、蒸着元素に直接通電することで放電させることから、比較的融点の高い希土類元素を蒸着元素とした場合であっても、磁性粉末の特性の低下を最小限に抑えつつ、蒸着を行なうことが可能となる。
なお、希土類磁石粉末の表面を予め所定の元素の濃化層またはその前駆体で被覆しておく方法として、従来、特開昭62−278132号公報や特開平3−217003号公報、特開2005−15918号公報などに記載の物理蒸着法を利用する技術が提案されている。しかしながら、これらの技術では、単一組成の皮膜を形成するには有効であっても、特開平3−217003号公報に記載の技術では皮膜の組成制御が困難であるという問題がある。また、特開2005−15918号公報に記載の技術のように被覆材を溶融する手法では、希土類金属のような高融点材料を被覆する場合に、溶融した皮膜用金属が雰囲気内で汚染され、目的の組成の皮膜を形成できないという問題がある。これに対し、本発明の第3の形態の製造方法によれば、磁性粉末の表面に所望の組成を有する相を形成することが可能となる。
続いて、本発明のさらに他の形態である、モータについて説明する。具体的には、本発明の第4の形態に係るモータは、上述した本発明に係る磁性体成形体や、同様に上述した本発明に係る製造方法によって製造された磁性体成形体を用いてなるモータである。参考までに図3に、本発明の磁性体成形体が適用された集中巻の表面磁石型モータの1/4断面図を示す。図中、11はu相巻線、12はu相巻線、13はv相巻線、14はv相巻線、15はw相巻線、16はw相巻線、17はアルミケース、18はステータ、19は磁石、20はロータ鉄、21は軸である。本発明の磁性体成形体は、高い電気抵抗を有し、その上、保磁力等の磁石特性にも優れる。このため、本発明の磁性体成形体を用いて製造されたモータを利用すれば、モータの連続出力を高めることが容易に可能であり、中から大出力のモータとして好適といえる。また、本発明の磁性体成形体を用いたモータは、保磁力等の磁石特性が優れるために、製品の小型軽量化が図れる。例えば、自動車用部品に適用した場合には、車体の軽量化に伴う燃費の向上が可能である。さらに、特に電気自動車やハイブリッド電気自動車の駆動用モータとしても有効である。これまではスペースの確保が困難であった場所にも駆動用モータを搭載することが可能となり、電気自動車やハイブリッド電気自動車の汎用化に大きな役割を果たすと考えられる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、下記実施例により本発明が限定されることはない。
<実施例1>
希土類磁石粉末(希土類磁石粒子の粉末状の集合体)として、公知のHDDR法を用い、Nd−Fe−B系異方性磁石粉末を調製した。具体的な調製手順は以下の通りである。
まず、組成Nd12.6Fe残部Co17.4B6.5Ga0.3Al0.5Zr0.1の成分組成の鋳塊を準備した。この鋳塊を1120℃にて20時間保持して均質化した。均質化した鋳塊を水素雰囲気中で室温から500℃まで5℃/minの昇温速度で昇温させて60分間保持し、さらに、5℃/minの昇温速度で850℃まで昇温させて150分間保持した。続いて、850℃の真空雰囲気中に保持した後、アルゴンガス冷却により冷却して、微細な強磁性相の再結合集合組織(結晶粒)を有する合金を得た。この合金をジョークラッシャーおよびブラウンミルを用いてアルゴンガス中で粉体化し、平均粒径300μm以下の希土類磁石粉末を得た。得られた希土類磁石粉末の融点をDSC解析した結果、740℃付近で溶融反応が認められた。
続いて、低融点材料として、真空アークボタン溶解にてDy−Co合金(組成比70:30(Dy:Co))を溶成した。得られた合金を10μm以下の粒径まで機械的に粉砕して合金粉末を得た。上記で得た磁石粉末と混合した粉末についてDSCにて比熱測定を実施したところ、600℃近辺から僅かに溶融物が生じていることが示唆された。
次いで、上記で得た磁石粉末10g(100質量%)に、同様に上記で得た低融点材料(Dy−Co合金)を30質量%混合し、自動攪拌機で30分間以上攪拌した。これにより、磁石粉末の表面に低融点材料が付着した粉末(第1被覆粉末)を得た。
第1被覆粉末の表面への絶縁皮膜の形成には、希土類アルコキシドであるジスプロシウムトリイソプロポキシドを塗布し、ジスプロシウムトリイソプロポキシドの加水分解および加熱処理による重縮合により、希土類酸化物を表面に固着させる手法を採用した。絶縁皮膜の形成から磁石の成形に至るまでの詳細な手順は、以下の通りである。
(1)露点−80℃以下のアルゴンガスを満たしたグローブボックス内で、希土類アルコキシドであるジスプロシウムトリイソプロポキシド200gに、有機溶媒として脱水ヘキサンを加えて溶解し、全量が1000mLのジスプロシウム表面処理液を調製した。
(2)アルゴン雰囲気としたグローブボックス内で、前記ジスプロシウム表面処理液273mLを、上記で得た第1被覆粉末1000gに添加し、攪拌したのち、溶媒を除去し、第1被覆粉末の表面を希土類アルコキシド(ジスプロシウムトリイソプロポキシド)で被覆して、被覆処理磁石粉末を得た。
(3)得られた被覆処理磁石粉末を、真空中、500℃にて30分間熱処理し、錯体を熱分解して絶縁皮膜を形成させて、第2被覆粉末を得た。なお、シリコンウエハ上に同等の処理をして成膜した膜をDSCにて解析した結果、皮膜は750℃までは溶融しなかった。
(4)第2被覆粉末4gを成形型に充填した。成形型としては、10×10mmの開口部を有する超硬製の成形型を用いた。続いて、成形型中の第2被覆粉末に磁場を印加することによって、磁石粉末を磁場配向させながら仮成形した。配向磁場は1.6MA/mとし、成形圧力は19MPaとした。
(5)仮成形された第2被覆粉末を、真空中での加圧焼結によって成形し、バルクの磁石成形体を得た。成形にはホットプレス装置を用いた。焼結温度は650℃で、保持時間は3分間、成形時圧力は室温から600℃までは19MPaを保持し、600℃に到達後は500MPaを付与した。
得られた磁石成形体の磁石密度は7.4×103kg/m3であり、保磁力(Hcj)は1900kA/mであり、最大エネルギー積(BHmax)は117kJ/m3であり、電気抵抗率は2.5μΩmであった。このように、得られた磁石は、高保磁力で電気抵抗率が優れた磁石成形体であった。これらの結果をまとめて下記の表1に示す。
なお、磁石成形体の物性評価は、以下の手法により行った。磁石密度は希土類磁石の寸法および質量から算出した。磁石特性(保磁力、最大エネルギー積)は、東英工業株式会社製パルス励磁型着磁器MPM−15を用い、着磁磁界10Tにてあらかじめ試験片を着磁後、東英工業株式会社製BH測定器TRF−5AH−25Autoを用いて測定した。また、電気抵抗率は、エヌピイエス株式会社製抵抗率プローブを使用した4探針法にて測定した。この際、プローブの針材質はタングステンカーバイト、針先端半径は40μm、針間隔は1mmであり、4本の針の総荷重は約400gとした。なお、以下の実施例および比較例においても同様の方法に従って、得られた磁石成形体を評価した。
<実施例2>
低融点材料(Dy−Co合金)の混合量を、磁石粉末100質量%に対して20質量%としたこと以外は、実施例1と同様の手法により、磁石成形体を製造した。
<実施例3>
低融点材料として、55質量%Dy-5質量%Tb-15質量%Nd-Co合金を実施例1と同様の手法により溶成し、粉砕した。その後、得られた低融点材料(合金)を、磁石粉末10g(100質量%)に対して15質量%になるように混合したこと以外は、実施例1と同様の手法により、磁石成形体を製造した。なお、本実施例で得られた低融点材料(合金)と磁石粉末とを混合してDSC解析に供したところ、560℃付近で液相生成が認められた。
<実施例4>
第2被覆粉末(100質量%)に対し、2質量%のDy2O3粉末および1質量%のSiO2ガラスを混合して成形型に充填した。焼結温度は600℃で、保持時間は3分間、成形時圧力は室温から600℃までは19MPaを保持し、600℃に到達後は500MPaを付与した。その他は、実施例1と同様の手法により、磁石成形体を製造した。
<実施例5>
上述した実施例1に記載のNd−Fe−B系異方性磁石粉末を篩い分けして粒径50μm以下および粒径300μm以上の粒子を除去し、篩い分け後の粉末15gをガラスシャーレに入れた。次いで、ガラス製の攪拌器で粉末を攪拌しつつ、カソード電極としてDy金属(純度99.9%、φ8mm)を備えた、成膜レートを放電パルス数で制御可能なプラズマ発生装置を用い、10−4Paオーダーの真空雰囲気下、真空アーク放電により当該粉末の表面に厚さ50nmのDy皮膜を形成した。なお、上記装置を用いて予めシリコン基板上に成膜する実験を行ない、放電回数と膜厚との関係を求めておき、これに基づいて所望の膜厚が得られる放電回数を決定した。このことは同様の装置を用いた以下の実施例についても同様である。
その後、上記装置に酸素を流入させて真空度を10−2Paオーダーにまで変化させ、上記で形成したDy皮膜上にさらに厚さ200nmのDy2O3皮膜を形成した。形成された皮膜の結晶構造をX線解析により分析したところ、アモルファス状態であった。
Dy2O3皮膜が形成された粉末を、20cc/minのAr気流中で500℃にて15分間加熱した。これにより、結晶化したDy2O3皮膜を最外部に有する被覆粉末を得た。得られた被覆粉末をDSCにより700℃まで解析したが、成膜物質の結晶化以外に特に溶融現象は認められなかった。
このようにして得られた被覆粉末を第2被覆粉末に代えて用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、磁石成形体を製造した。
なお、本実施例において得られた磁石成形体の絶縁皮膜近傍の分析結果を図4に示す。図4(a)は、本実施例において得られた磁石成形体における絶縁皮膜の近傍を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した写真(倍率1000倍)である。また、図4(b)は、図4(a)の四角で囲んだ部位の拡大写真(倍率20000倍)に、同一の部位の元素組成をオージェ電子分光分析法(AES法)により分析した結果を重ねた図である。図4(b)に示すAES法の分析結果から、本実施例において得られた磁石成形体を構成する磁石粉末と絶縁皮膜(Dy2O3相)との間には、磁石粉末におけるDy濃度よりも高い濃度のDyを含む相(濃化相)が存在することが示される。
<実施例6>
カソード電極としてDy電極とCo電極との2系統を用い、1:1の割合で交互に放電させて、実施例5相当の放電回数で、Dy皮膜に代えて厚さ50nmのDy−Co合金皮膜を磁石粉末の表面に形成した。それ以外は、上述した実施例5と同様の手法により、被覆粉末を得た。なお、Dy2O3皮膜の形成時には、Dy電極のみを放電させた。得られた被覆粉末をDSCにより解析したところ、550℃付近で溶融現象が認められた。
このようにして得られた被覆粉末を第2被覆粉末に代えて用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、磁石成形体を製造した。
<実施例7>
カソード電極としてDy−Co合金(組成比70:30(Dy:Co))を用い、Dy皮膜に代えて厚さ100nmのDy−Co合金皮膜を磁石粉末の表面に形成した。それ以外は、上述した実施例5と同様の手法により、被覆粉末を得た。なお、Dy2O3皮膜の形成時には、Dy電極を用いた。得られた被覆粉末をDSCにより解析したところ、600℃近辺から僅かに溶融物が生じていることが示唆された。
このようにして得られた被覆粉末を第2被覆粉末に代えて用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、磁石成形体を製造した。
<実施例8>
Dy皮膜の厚さが10nmとなるように、かつ、Dy2O3皮膜の厚さが350nmとなるように放電回数を変更したこと以外は、上述した実施例5と同様の手法により、被覆粉末を得た。得られた被覆粉末をDSCにより700℃まで解析したが、成膜物質の結晶化以外に特に溶融現象は認められなかった。
このようにして得られた被覆粉末を第2被覆粉末に代えて用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、磁石成形体を製造した。
<実施例9>
市販のSmCo型希土類永久磁石を機械粉砕した後、ボールミルにて粉砕し篩い分けして、粒径が45〜450μmの磁石粉末を得た。カソード電極としてCo金属を用いたこと以外は、上述した実施例5と同様の手法により、被覆粉末を得た。具体的には、磁石粉末の表面に厚さ100nmのCo皮膜を形成し、次いで、厚さ400nmのCo2O3皮膜を形成して、被覆粉末を得た。
得られた被覆粉末をAr気流中で700℃まで加熱し、X線解析によりCo2O3の結晶化ピークを確認した。また、700℃まで加熱してDSCにて解析したが、特に溶融現象は認められなかった。
このようにして得られた被覆粉末を第2被覆粉末に代えて用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、磁石成形体を製造した。
<比較例1>
実施例1で用いたHDDR処理後の希土類磁石粉末4gを、成形型に充填した。続いて、成形型中の磁石粉末に磁場を印加することによって、磁石粉末を磁場配向させながら仮成形した。配向磁場は1.6MA/m、成形圧力は19MPaとした。この仮成形された磁石粉末を、真空中での加圧焼結によって成形し、バルクの磁石成形体を製造した。成形にはホットプレス装置を用いた。焼結温度は600℃で、保持時間は3分、成形時圧力は室温から600℃までは19MPaを保持し、600℃に到達後は500MPaを付与した。
<比較例2>
成形型に充填する磁石粉末100質量%に対して2質量%のDy2O3粉末および1質量%のSiO2ガラスを混合したこと以外は、比較例1と同様の手法により、磁石成形体を製造した。
<比較例3>
HDDR処理した磁石粉末に低融点材料(合金)を混合する工程を省略して、HDDR処理した磁石粉末に直接絶縁皮膜を形成したこと以外は、実施例1と同様の手法により、磁石成形体を製造した。
<比較例4>
HDDR処理した磁石粉末に低融点材料(合金)を混合する工程を省略して、HDDR処理した磁石粉末に直接絶縁皮膜を形成した。また、成形型に充填する磁石粉末100質量%に対して2質量%のDy2O3粉末および1質量%のSiO2ガラスを混合した。その他は、実施例1と同様の手法により、磁石成形体を製造した。
<比較例5>
希土類磁石粉末の表面を、希土類アルコキシド(ジスプロシウムトリイソプロポキシド)で被覆する作業を2回繰り返して、被覆量を2倍にしたこと以外は、比較例4と同様の手法により、磁石成形体を製造した。
<比較例6>
Co皮膜やCo2O3皮膜で被覆する前の磁石粉末をそのまま成形したこと以外は、上述した実施例9と同様の手法により、磁石成形体を製造した。
表1に示す結果から、本発明によれば、高保磁力を維持しつつ、高抵抗の磁石成形体(磁性体成形体)が提供されうることが示される。