JP5356894B2 - 残留応力算出方法及び残留応力分布導出方法 - Google Patents

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Description

本発明は、所定の厚みを有する樹脂成形品の厚み方向における上記樹脂成形品の内部の残留応力を算出する残留応力算出方法及び残留応力分布導出方法に関する。
従来、樹脂成形品内部の残留応力を測定する方法としては、樹脂成形品を破壊しながら測定する方法である孔あけ法や表層逐次除去法等、また、樹脂成形品を破壊しない光弾性法等が知られている。
孔あけ法は、樹脂成形品における歪量測定部分の周辺に予め歪みゲージを貼り付け、樹脂成形品を厚み方向に穿孔した際の歪みの変化を測定して残留応力を測定する方法である。板状製品もしくは3次元立体形状製品の平面部分の残留応力測定に主に用いられている。しかし、穴あけ部分と歪みを測定する歪みゲージとの間に距離が生じるため、成形加工時に発生する残留応力を正確に測定できない。
表層逐次除去法は、板状の樹脂成形品の一方の面に歪みゲージを貼り付け、他方の面を薄く層状に除去しながら歪みを測定して、残留応力を求める方法である。樹脂成形品の面内だけでなく、肉厚方向の残留応力が測定できる。しかし、測定対象となる樹脂成形品は板状、パイプ状等の簡単な形状に限定される。また、歪みゲージが樹脂成形品に完全に接着しない場合には適用できないこと、測定に手間と時間がかかること等の欠点がある。
光弾性法は偏光板にて偏光させた光を透明な樹脂成形品にあて、透過光の縞模様から残留応力を評価する方法であり、面内の残留応力が簡単に測定できる。しかし、肉厚方向の残留応力が測定できないこと、不透明な樹脂成形品には適用できないこと等の欠点がある。
このように、樹脂成形品内部の残留尾応力を測定する方法は、改善が求められている。そこで、特許文献1には、簡便な方法で複雑な形状の樹脂成形品に生じる残留応力を測定できる方法が開示されている。
特開平11−194056号公報
残留応力が存在すると製品寿命の低下や成形後の変形等の不具合が生じるため、残留応力の評価は重要であるが樹脂成形品の残留応力分布を算出する有効な手法はない。
特許文献1に記載の残留応力の測定方法では、成形品内部に残留応力のない樹脂成形品を用意する必要がある。しかし、このような残留応力のない樹脂成形品を得ることは困難であり、特に最も一般的に用いられている射出成形品の場合は極めて困難である。一般に、液状もしくは溶融状の樹脂を賦形後、樹脂が固化する際の不均一な収縮が、残留応力を生む。熱可塑性樹脂成形品は溶融状態から冷却する際、表層から急冷されるため、表層の樹脂はほとんど縮まないが、内部の樹脂はゆっくり冷却されるため大きく縮む。その結果、内部では表層に引っ張られるため引張応力が発生し、表層では内部に引っ張られるため圧縮応力が発生するからである。
また、特許文献1に記載の残留応力の測定方法も含めて、従来の残留応力の測定方法では、樹脂成形品内の所定の方向での全体の平均もしくは総和としての残留応力を求めることはできるが、所定の方向での残留応力分布を求めることはできない。即ち、所定の方向での各位置での残留応力を求めることができない。このため、樹脂成形品内部の所定の位置での残留応力を求める方法が望まれている。
また、従来の残留応力を導出する方法は、樹脂材料の種類によって、ストレスクラックを用いる方法、光を用いる方法等異なる。その結果、樹脂材料の種類による残留応力の程度の差を適切に評価することができない。
また、現在、樹脂成形品の成形条件は、経験的に決められる場合が多い。樹脂成形品の内部の残留応力分布を求めることができれば、樹脂成形品を成形する際の成形条件を容易に決定することができる。このため、樹脂成形品の内部の残留応力分布を求める方法が望まれている。
さらに、樹脂成形品内部の残留応力の分布を求める方法は、容易且つ迅速に実施できるものが望まれる。特に、射出成形の成形条件を決定するために残留応力分布を求める場合には、様々な成形条件で得られた樹脂成形品それぞれについて、残留応力分布を求める必要があるからである。
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、使用する樹脂材料の種類によらず、簡便に行うことが可能な、樹脂成形品内部の残留応力分布及び、所定の位置での残留応力算出手法を提供することにある。
本発明者らは、樹脂成形品を破壊しながら測定する方法である孔あけ法に着目し、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、樹脂成形品を穿孔することで生じる、成形品表面のひずみ変化を測定することで上記課題を解決できることを見出し、さらに、樹脂成形品内部の所定の位置での残留応力算出手法として好ましい方法として、先ず、穿孔部を有する樹脂成形品の厚み方向に、上記穿孔部を所定の第一穿孔深さまで穿孔したときの、上記樹脂成形品の歪み量を測定し、得られた歪み量から穿孔により樹脂成形品に発生する第一の応力を求め、次いで、穿孔部を上記厚み方向に、所定の第二穿孔深さまで、さらに穿孔したときの、上記樹脂成形品の歪み量を測定し、得られた歪み量からこの穿孔により上記樹脂成形品に発生する第二の応力を求め、最後に、第二の応力から第一の応力を差し引くことにより得られる差分が、第一穿孔深さと第二穿孔深さとの中間深さにおける、およその残留応力の値として得られることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
(1) 樹脂成形品を所定の方向に穿孔したときの、前記樹脂成形品の表面の歪み量の変化を測定することで、前記樹脂成形品の内部の前記所定の方向における所定の位置での残留応力を算出することを特徴とする樹脂成形品の残留応力算出方法。
(2) 樹脂成形品において厚み方向における前記樹脂成形品の内部の所定の位置での残留応力を算出する残留応力算出方法であって、前記樹脂成形品には、前記厚み方向に垂直な面に、前記樹脂成形品を厚み方向に穿孔するための穿孔部と、前記穿孔したときに前記垂直な面に発生する歪を測定するための歪測定部とを設け、前記穿孔部を前記厚み方向に、所定の第一穿孔深さまで穿孔したときの、前記樹脂成形品の歪み量を前記歪測定部で測定し、得られた歪み量から前記穿孔により前記樹脂成形品に発生する第一の応力を測定する第一応力測定工程と、前記穿孔部を前記厚み方向に、所定の第二穿孔深さまで穿孔したときの、前記樹脂成形品の歪み量を前記歪測定部で測定し、得られた歪み量から前記穿孔により前記樹脂成形品に発生する第二の応力を測定する第二応力測定工程と、前記第二の応力から前記第一の応力を差し引くことにより得られる差分を、第一穿孔深さと第二穿孔深さとの中間深さにおける残留応力として算出する残留応力算出工程と、を備えることを特徴とする残留応力算出方法。
(3) 前記樹脂成形品の前記所定の厚みが1.2×穿孔径以下であることを特徴とする(2)に記載の残留応力算出方法。
(4) 前記樹脂成形品が前記厚み方向に対称な形状であることを特徴とする(2)又は(3)に記載の残留応力算出方法。
(5) 前記歪み量の測定を、前記樹脂成形品の表面の変形をもとにした画像解析により行うことを特徴とする(2)から(4)のいずれかに記載の残留応力算出方法。
(6) 前記樹脂成形品が前記歪み量を測定する位置が平坦でない樹脂成形品であり、
前記歪み量の測定を三次元画像解析により行うことを特徴とする(2)から(5)のいずれかに記載の残留応力算出方法。
(7) 前記樹脂成形品は穿孔することが困難な形状であり、前記第一応力測定工程の前に、該樹脂成形品を穿孔可能な状態に加工する加工工程を備え、前記加工工程の際の樹脂成形品の表面の歪み量を測定し、前記第一応力測定工程で測定する歪み量に前記加工工程の際の歪み量を加算したものを前記得られた歪み量とすることを特徴とする(2)から(6)のいずれかに記載の残留応力算出方法。
(8) 所定の厚みを有する樹脂成形品の厚み方向における前記樹脂成形品の内部の残留応力分布を導出する残留応力分布導出方法であって、(2)から(7)のいずれかに記載の方法で残留応力を算出した後に、前記第二穿孔深さから所定の第三穿孔深さまでさらに穿孔し、前記第一応力測定工程と同様にして、前記樹脂成形品に発生する第三の応力を測定する第三応力測定工程と、前記第三の応力から前記第二の応力を差し引くことにより得られる差分を、前記第二穿孔深さと前記第三穿孔深さとの中間深さにおける第二の残留応力として算出する第二残留応力算出工程と、を備えることを特徴とする残留応力分布導出方法。
(9) (8)に記載の残留応力分布導出方法後に行う残留応力分布導出方法であって、第三の残留応力以降は、符号nを4以上の自然数として、第(n−1)穿孔深さから所定の第n穿孔深さまでさらに穿孔し、前記第一応力測定工程と同様にして、前記樹脂成形品に発生する第nの応力を測定する第n応力測定工程と、前記第nの応力から第(n−1)の応力を差し引くことにより得られる差分を、前記第(n−1)穿孔深さと前記第n穿孔深さとの中間深さにおける第(n−1)の残留応力として算出する第(n−1)残留応力算出工程と、を備え、第一残留応力算出工程から第(n−1)残留応力算出工程を順次行うことを特徴とする残留応力分布導出方法。
(10) 第一残留応力算出工程から第n残留応力算出工程において、各工程の前記穿孔の際の前記厚み方向の穿孔長さが等しいことを特徴とする(8)又は(9)に記載の残留応力分布導出方法。
(11) (1)から(7)に記載の残留応力算出方法により算出された残留応力が所望の値以下となるように製品設計を行うことを特長とする樹脂成形品設計法。
(12) (1)から(7)に記載の残留応力算出方法により算出された残留応力をもとに短期もしくは長期破壊解析を行うことを特徴とする故障解析法。
本発明によれば、樹脂成形品内部の所定の位置での残留応力を容易に求めることができる。そして、所定の位置毎に残留応力を求めることで樹脂成形品内部の応力分布を容易に求めることができる。
図1は、z方向に延びる所定の厚みを有する樹脂成形品において、残留応力を測定する方向に垂直な面を示す平面図である。 図2は、第一残留応力を導出するまでを示す樹脂成形品の側面断面図である。 図3は、第二残留応力測定後から第三残留応力導出までを示す樹脂成形品の側面断面図である。 図4は、第(n−1)残留応力測定後から第(n−1)残留応力導出までを示す樹脂成形品の側面断面図である。 図5は、第一の残留応力から第(n−1)の残留応力までの測定結果をもとに作成した残留応力分布を示す図である。 図6は、実施例で用いた樹脂成形品を示す図である。 図7は、孔あけ法により得られる残留応力と穿孔により樹脂成形品から開放された応力との関係を示す図である。 図8は、成形条件が残留応力分布に与える影響を示す図である。 図9は、成形品の形状が残留応力分布に与える影響を示す図である。 図10は、アニーリング処理が残留応力分布に与える影響を示す図である。 図11はガラス充填材料での残留応力分布を示す図である。 図12は非結晶性樹脂での残留応力分布を示す図である。 図13は実施例12で用いた金属製の角ピンをインサートした成形品を示す図である。 図14は実施例12で用いた金属製の角ピンをインサートした成形品の残留応力分布を示す図である。
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
本発明の残留応力算出方法は、樹脂成形品を穿孔することで生じる、成形品表面のひずみ変化を測定することで、樹脂成形品内部の所定の位置での残留応力を算出する。
穿孔することで生じる成形品表面の歪み量を、後述するような従来公知の方法で応力に変換すると、得られた応力の値は、穿孔深さの中間の位置(中間の深さ)での残留応力になる。このように得られる応力が、穿孔深さの中間の位置での残留応力になることを見出した点が本発明の特徴である。
また、複数の位置での残留応力を算出することで残留応力分布を導出することができる。例えば、以下のような方法で樹脂成形品内部の所定の位置での残留応力を算出し、さらに、複数の位置での残留応力を算出することで残留応力分布を導出することができる。以下の説明では、先ず、本発明の対象となる樹脂成形品について説明する。また、以下の説明は、本発明の残留応力算出方法及び残留応力分布導出方法の好ましい一例であり、本発明は以下の方法に限定されない。
<樹脂成形品>
本発明に用いる樹脂成形品は、所定の厚みを有し、上記厚み方向に垂直な面に樹脂成形品を厚み方向に穿孔するための穿孔部と、この穿孔によって樹脂成形品内部の応力が開放されることにより生じる歪を測定するための歪測定部とを設ける。
本発明は、本発明に用いる樹脂成形品が結晶性熱可塑性樹脂の射出成形品の場合において特に効果的である。射出成形品の成形の際には、一般に成形品表面付近では冷却が速く進み、内部では比較的冷却がゆっくり進むため、金型内に注入された溶融樹脂の固化が不均一に進行する。その結果、内部では表層に引っ張られるため引張応力が発生し、表層では内部に引っ張られるため圧縮応力が発生する。実際の樹脂成形品における応力分布は、成形品の形状や成形条件等によって応力分布は必ずしもはっきりした圧縮−引張の関係になるわけではない。本発明では、応力の種類や分布状態がどのようになっているのか、樹脂成形品内部の所定の領域での残留応力分布、ならびに樹脂成形品内部の所定の位置での残留応力を求めることができる。
本発明に用いる樹脂成形品は、所定の厚みを有する。本発明の残留応力算出方法、残留応力分布導出方法は、樹脂成形品内部の上記所定の厚みの方向での所定の位置での残留応力、及び厚み方向での所定の領域での残留応力分布を求める。どのような樹脂成形品であっても、全ての方向に所定の厚みを持つが、厚みの方向の決め方は特に限定されず、樹脂成形品内の所望の方向を上記厚み方向に設定することができる。
図1は、z方向に延びる所定の厚みを有する樹脂成形品の、残留応力を測定する方向に垂直な面を示す平面図である。本発明に用いる樹脂成形品は、図1(a)に示すように、厚み方向に垂直な面に、樹脂成形品を厚み方向に穿孔するための穿孔部と、穿孔したときにこの厚み方向に垂直な面に発生する歪を測定するための歪測定部とを設ける。
穿孔部は、上記垂直な面の中央部に設けられている。穿孔部は、穿孔部を有する上記垂直な面から厚み方向(z方向)に穿孔される。穿孔部は、図1に円で表しているが、特に目印となるような模様等をつける必要はない。また、穿孔部は、上記垂直な面の中央部に設ける必要はなく、所望の位置に設けることができる。
歪測定部は、上記穿孔部の周囲に三箇所設けられている。上記穿孔部が、厚み方向に穿孔された際に、穿孔によって開放される応力により発生する歪の量を測定する。また、歪測定部の数は特に限定されず、単数の歪測定部であってもよいし、複数の歪測定部を設けてもよい。穿孔部と歪測定部との位置関係は、特に限定されないが異方的な残留応力を定量的に、最大主応力の値と方向、及び最小主応力の値と方向を評価できるという理由から、穿孔部を3箇所の歪測定部で囲うことが好ましい。
樹脂成形品の所定の厚みは後述する通り、穿孔径の1.2倍以下であることが好ましい。得られる残留応力がより正確になるからである。また、従来の方法では、厚みが3軸ロゼットタイプひずみゲージ半径の1.2倍以下のような薄い樹脂成形品の厚み方向の残留応力を測定することはASTMでの保障範囲外であり、実質上困難であった。本発明の算出方法を用いれば、上記のような非常に薄い厚みの樹脂成形品であっても、厚み方向の残留応力を算出できる点も特徴の一つである。
後述する通り、樹脂成形品の厚みを所定の厚み以下にすることで、得られる残留応力の値は、より正確なものになる。厚み方向(z方向)に対称な形状を有し、厚み方向の長さがLzの樹脂成形品であれば、(1/2)Lzまでの残留応力分布を求めれば、Lzまでの残留応力分布を求めることができる。樹脂成形品が厚み方向(z方向)に対称な形状であれば、残留応力分布もz方向に対称になるためである。
本発明に使用する樹脂成形品に含まれる樹脂は、特に限定されず、従来公知の一般的な樹脂を用いることができる。また、樹脂成形品には、複数の樹脂が含まれていてもよい。また、樹脂成形品には、ガラスファイバー等の強化材、タルク等の無機フィラー、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料等の顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与した組成物を成形してなる樹脂成形品も含まれる。このように、本発明は、樹脂材料の種類によらず適用することができるため、候補となる複数の樹脂材料の中から適切な材料を選択する場合に好ましく用いることができる。また、樹脂材料によらず同じ方法で残留応力を算出し比較することで、残留応力の使用材料による程度の差をより正確に評価することができる。
樹脂成形品は、どのような成形法で成形されていても、どのような使用履歴のものであっても良いが、残留応力が発生しやすい射出成形法により成形されたものにおいて、特に効果的である。また、本発明に用いる樹脂成形品は、所望の条件で成形することができる。
表面に穿孔部と歪を測定できるところがあれば、単一の樹脂で作成されたものでも、複数の樹脂もしくは樹脂と他材質とで積層されていても複合化されていても構わない。平面状、湾曲状、屈折状等が組み合わさったどのような形状であっても構わない。
穿孔することが困難な形状の樹脂成形品であっても、穿孔可能な状態に加工することができるものであれば、本発明を適用することができる。具体的な方法については後述する。「穿孔することが困難な形状」とは、例えば成形品が箱型で高い壁がある場合等では、底面表層付近の残留応力を精度良く求めるために、底面に対し垂直に穿孔しようとすると、底面の壁とのL字コーナー部付近では、穿孔器具が成形品の壁と当たり、穿孔が困難となる、このような形状が挙げられる。
<残留応力算出方法>
本発明の残留応力算出方法は、穿孔部を厚み方向に、所定の第一穿孔深さまで穿孔したときの、樹脂成形品の歪み量を測定し、得られた歪み量から上記穿孔により樹脂成形品に発生する第一の応力を測定する第一応力測定工程と、穿孔部を厚み方向に、所定の第二穿孔深さまで穿孔したときの、樹脂成形品の歪み量を測定し、得られた歪み量からこの穿孔により樹脂成形品に発生する第二の応力を測定する第二応力測定工程と、第二の応力から第一の応力を差し引くことにより得られる差分を、第一穿孔深さと第二穿孔深さとの中間深さにおける残留応力として算出する残留応力算出工程と、を備えることを特徴とする。以下、本発明の残留応力算出方法の一例について説明する。
[第一応力測定工程]
第一応力測定工程は、全く穿孔しない場合も含む。全く穿孔しない場合には、第一穿孔深さは0になる。また、全く穿孔しないため、歪み量(δr1)も0になり、穿孔により樹脂成形品から開放される応力も0になるので、第一の応力は0になる。以下、第一穿孔深さzが0の場合について説明する。なお、第一穿孔深さzが0でない場合には、以下の第二応力測定工程のようにして得られる応力が第一の応力になる。
なお、穿孔することが困難な形状の樹脂成形品の場合には、先ず、穿孔可能な状態に加工してから以下の穿孔を行う。加工方法は特に限定されず従来公知の加工方法を用いることができる。従来公知の加工方法としては、切削や研磨等が挙げられる。加工の際には、後述するような方法でこの加工により生じる樹脂成形品表面の歪み量を測定しておく。
[第二応力測定工程]
第二応力測定工程とは、穿孔部を厚み方向に、所定の第二穿孔深さまで穿孔したときの、樹脂成形品の歪み量を歪測定部で測定し、得られた歪み量から上記穿孔により樹脂成形品に発生する第二の応力を測定する工程である。以下、図を用いて第二応力測定工程を詳細に説明する。
図2(a)には、穿孔前の樹脂成形品を示す。樹脂成形品1はz方向に長さLz、x−y断面が半径Rの円柱状の場合である。樹脂成形品1の上端面11は、図1(b)に示すようになっている。上端面11は、図1に示すように半径Rの円形になっている。また、上端面11には穿孔部111と歪ゲージ112、112、112が設けられている。
穿孔部111は、図1(b)に示すように、半径rの円形であり、上端面11の中央部に設けられる。穿孔部111は、後述する通り、厚み方向(z方向)に穿孔される部分である。なお、穿孔部111の形状、大きさ等は特に限定されず、所望の形状、大きさに適宜変更して実施することができる。
歪ゲージ112、112、112は、図1(b)に示すように、穿孔部111の周囲に90°、135°、135°の間隔で設けられる。歪ゲージ112、112、112は、上記穿孔部111を厚み方向(z方向)に穿孔した際に生じる、上端面11の穿孔部111を除いた部分((R−r)の部分)の歪み量を測定するための部位である((R−r)を「歪み量を測定する部分」という場合がある)。歪ゲージ112、112、112は、本発明において歪測定部にあたる。歪測定部は、上記のような歪ゲージに限定されず、穿孔部111を穿孔した際に生じる上端面11の歪み量を測定できるものであればよい。例えば、樹脂成形品表面の変形を画像解析することにより歪み量を算出するコリレーションシステム等を用いる間接的に歪み量を測定する方法であってもよい。また、歪み量を測定する位置が平坦でない場合には、歪み量の測定を従来公知の三次元画像解析方法により行うことができる。例えばコリレーションシステムでは、2台の撮像装置を組み合わせることで、3次元測定が可能である。
図2(b)には、所定の第二穿孔深さまで穿孔したときの樹脂成形品の断面図を示す。図2(b)に示すように穿孔部111を厚み方向(z方向)に深さzだけ穿孔する。穿孔する方法は、特に限定されず従来公知の加工方法で穿孔することができる。例えば、ドリル加工等により穿孔部111を穿孔することができる。
この穿孔により、歪み量を測定する部分(R−r)は、図2(b)に示すように(R−r+δr2)になりδr2だけ歪む。この歪み量は、上記歪ゲージ112、112、112を用いて測定する。ここで、測定した歪み量は従来公知の方法で応力に変換することができる。例えば、歪ゲージ112、112、112を電気抵抗線歪み計に接続して、上記穿孔の際に発生する応力に変換することができる。即ち、穿孔部111を厚み方向(z方向)に深さz穿孔した際に、樹脂成形品から開放される樹脂成形品の内部応力を求めることができる。ここで得られる応力が第二の応力である。なお、穿孔することができない樹脂成形品を予め加工した場合には、上記δr2に上記加工の際に生じた歪み量を加算して応力を測定する。
[残留応力算出工程]
残留応力算出工程とは、上記第二の応力から0(上記第一の応力)を差し引くことにより得られる差分を、上記穿孔部と上記第一穿孔深さとの中間深さにおける残留応力として算出する工程である。本発明の大きな特徴の一つは、樹脂成形品を所定の厚み方向に第一穿孔深さ穿孔し、第一の応力を求め、さらに第二穿孔深さまで穿孔し第二の応力を求め、第二の応力から第一の応力を差し引くことにより得られる差分が、第一穿孔深さと第二穿孔深さの中間深さにおける残留応力として得られることを見出した点にある。ここでの残留応力を第一の残留応力という場合がある。
本発明によれば、第一穿孔深さと第二穿孔深さとを調整することで所望の深さにおける残留応力を求めることができる。即ち、樹脂成形品内の所望の位置での残留応力を求めることができる。また、同じ深さにおける残留応力を求める場合であっても、第一穿孔深さと第二穿孔深さとの間の距離を調整することで、求まる残留応力の精度を調整することができる。また、第一穿孔深さと第二穿孔深さとの距離が短い方が、求まる残留応力の正確性が高まる。例えば、zを調整することで、所望の位置での残留応力を求めることができる。また、zが短い方が、第二穿孔深さと第一穿孔深さの差が小さくなり、求まる残留応力の正確性が高まる。特に本発明の残留応力算出方法は、樹脂成形品1の厚み方向の長さLzが短い方が、厚み方向(z方向)全ての位置で、より正確に残留応力を測定することができる。厚みが薄ければ、穿孔される部分と歪量測定部との位置が近く、正確に歪み量を測定でき、その歪み量から得られる応力もより正確になるからである。即ち、本発明の残留応力算出方法は、残留応力の測定方向の厚みが薄いものに適用することが好ましい。具体的には、厚み方向(z方向)の長さLzは、穿孔する孔径の1.2倍以下であることが好ましい。
また、厚みが、大きいものであっても樹脂成形品が厚み方向(z方向)に対称な形状であれば、得られる残留応力の算出結果は、より正確な結果になる。上述の通り、樹脂成形品が厚み方向(z方向)に対称な形状であれば、残留応力分布も厚み方向(z方向)に対称になるためである。
<残留応力分布導出方法>
本発明の残留応力分布導出方法は、上記残留応力算出方法に続けて行う発明である。そこで、本発明の残留応力分布導出方法について、上記残留応力算出方法での説明に続けて、以下詳細に説明する。
本発明の残留応力分布導出方法は、上記残留応力算出方法により得られる第一の残留応力を算出した後に、上記第二穿孔深さzから所定の第三穿孔深さzまでさらに穿孔し、上記残留応力算出方法での第二応力測定工程と同様にして、上記樹脂成形品に発生する第三の応力を測定する第三応力測定工程と、上記第三の応力から上記第二の応力を差し引くことにより得られる差分を、第二穿孔深さzと第三穿孔深さzとの中間深さにおける第二の残留応力として算出する第二残留応力算出工程と、を備えることを特徴とする。さらに、第三の残留応力以降は、符号nを4以上の自然数として、第(n−1)穿孔深さから所定の第n穿孔深さzまでさらに穿孔し、上記第二応力測定工程と同様にして、上記樹脂成形品に発生する第nの応力を測定する第n応力測定工程と、第nの応力から第(n−1)の応力を差し引くことにより得られる差分を、第(n−1)穿孔深さz(n−1)と前記第n穿孔深さzとの中間深さにおける第(n−1)の残留応力として算出する第n残留応力算出工程を備える方法で導出する。なお、第一残留応力算出工程から第(n−1)残留応力算出工程を順次行う。
[第三応力測定工程]
第三応力測定工程とは、上記第二応力測定工程後に、上記第二穿孔深さzから所定の第三穿孔深さまでさらに穿孔し、第二応力測定工程と同様にして、樹脂成形品に発生する第三の応力を測定する工程である。以下に図を用いて第三応力測定工程について詳細に説明する。
第三応力測定工程では、図3(a)に示すように深さzまで穿孔した部分をさらに厚み方向(z方向)に所定の深さまで穿孔する。穿孔後の穿孔深さが第三穿孔深さであり、図3(a)に示すように、第三穿孔深さをzとする。穿孔する方法は、第二応力測定方法と同様に、その方法は特に限定されず従来公知の方法を用いることができる。
図3(a)に示すように、この第三応力測定工程における穿孔により、第二の応力を測定する際の歪み量δr2に加えて、さらにδr3だけ歪む。歪み量の測定は、第二応力測定工程と同様の方法で行うことができる。さらに、第二応力測定工程と同様の方法で、この第三応力測定工程での穿孔によって樹脂成形品から開放される応力を測定することができる。ここで得られる応力が第三の応力である。
[第二残留応力算出工程]
第二残留応力算出工程とは、上記第三の応力から上記第二の応力を差し引くことにより得られる差分を、第二穿孔深さzと第三穿孔深さzとの中間深さにおける残留応力(第二の残留応力)として算出する工程である。上記第一の残留応力は、厚み方向(z方向)の深さz/2での残留応力であり、第二の残留応力は、厚み方向(z方向)の深さ(z+(z−z)/2)での残留応力である。第二の残留応力は、上記残留応力と同様にz、zの深さを調整することにより所望の位置での残留応力として求めることができる。このように、本発明の残留応力算出方法を用いることで、樹脂成形品1の厚み方向(z方向)の所望の2箇所での残留応力が求まる結果、厚み方向の残留応力の分布を得ることができる。後述するように二箇所以上の点で残留応力を求めることにより、さらに詳細な残留応力分布を導出することができる。
[第n応力測定工程]
第n応力測定工程とは、第四の応力以降を測定する工程であり、符号nを4以上の自然数として、第(n−1)穿孔深さz(n−1)から所定の第n穿孔深さzまでさらに穿孔し、上記第二応力測定工程と同様にして、上記樹脂成形品から開放される第nの応力を測定する工程である。
第n応力測定工程について、具体例を用いて説明する。符号n=4の場合を考えると、第n応力測定工程は、第四応力測定工程になる。この場合、第(n−1)穿孔深さz(n−1)は、第三穿孔深さzになり、第n穿孔深さzは第四穿孔深さzになる。即ち、第四応力測定工程とは、上記残留応力算出方法により得られる第二の残留応力を算出した後に、上記第三穿孔深さzから所定の第四穿孔深さzまでさらに穿孔し、上記残留応力算出方法での第二応力測定工程と同様にして、上記樹脂成形品から開放される第四の応力を測定する工程である。第二の残留応力の算出の後、樹脂成形品1は図3(a)に示すようになっている。図3(b)に示すように、深さzまで穿孔した部分をさらに厚み方向(z方向)に所定の深さまで穿孔する。穿孔後の穿孔深さが第四穿孔深さであり、図3(b)に示すように、第四穿孔深さをzとする。穿孔する方法は、第二応力測定方法と同様に、その方法は特に限定されず従来公知の方法を用いることができる。
図3(b)に示すように、この第四応力測定工程における穿孔により、第三の応力を測定する際の歪量δr2+δr3に加えて、さらにδr4だけ歪む。この歪量の測定は、第二応力測定工程と同様の方法で行うことができる。さらに、第二応力測定工程と同様の方法で、この第四応力測定工程での穿孔によって樹脂成形品1に発生する応力を測定することができる。ここで得られる応力が第四の応力である。
次いで、第n応力測定工程について、自然数nの場合について説明する。図4(a)には、樹脂成形品1を厚み方向に第(n−1)穿孔深さz(n−1)まで穿孔し、第(n−2)の残留応力を求めたときの樹脂成形品1の断面図を示す。本工程では、図4(a)に示す深さz(n−1)まで穿孔した部分をさらに厚み方向(z方向)に所定の深さまで穿孔する。図4(b)に示すように、穿孔後の穿孔深さが第n穿孔深さzである。穿孔する方法は、第二応力測定方法と同様に、その方法は特に限定されず従来公知の方法を用いることができる。
図4(b)に示すように、この第 n応力測定工程における穿孔により、第(n−1)の応力を測定後の図4(a)に示す総歪み量に加えて、さらにδrnだけ歪む。この歪み量の測定は、第二応力測定工程と同様の方法で行うことができる。さらに、第二応力測定工程と同様の方法で、この第n応力測定工程での穿孔によって樹脂成形品1に発生する応力を測定することができる。ここで得られる応力が第nの応力である。
[第(n−1)残留応力算出工程]
第(n−1)残留応力算出工程とは、第三の残留応力以降の残留応力を求める工程である。より具体的には、符号nを4以上の自然数として、第nの応力から第(n−1)の応力を差し引くことにより得られる差分を、第(n−1)穿孔深さz(n−1)と第n穿孔深さzとの間の中間深さにおける残留応力として第(n−1)の残留応力を算出する工程である。
第(n−1)残留応力算出工程について、具体例を用いて説明する。符号nが4の場合を考えると、第(n−1)残留応力算出工程は、第三残留応力算出工程になる。この場合、第(n−1)の応力は第三の応力になり、第nの応力は第四の応力になる。また、第(n−1)穿孔深さz(n−1)は第三穿孔深さzになり、第n穿孔深さzは第四穿孔深さzになる。したがって、第四の応力から第三の応力を差し引くことにより得られる差分を、第三穿孔深さzと第四穿孔深さzとの間の中間深さにおける第三の残留応力として算出することができる。
次いで、第(n−1)残留応力算出工程について、符号nが自然数nの場合について説明する。本工程で算出される第(n−1)の残留応力は、第nの応力と第(n−1)の応力を差し引くことにより得られる差分として求めることができる。この差分が、第(n−1)穿孔深さz(n−1)と第n穿孔深さzとの間の中間深さにおける残留応力である。図4(b)に示すように、「第(n−1)穿孔深さz(n−1)と第n穿孔深さzとの間の中間の位置」とは、((z−z(n−1))/2+z(n−1))である。このように最初の残留応力算出工程から第(n−1)残留応力算出工程までを順次行うことで、樹脂成形品の厚み方向(z方向)の詳細な残留応力分布を得ることができる。
図5に第一の残留応力から第(n−1)の残留応力までの測定結果をもとに作成した残留応力分布を示す。図5中において、第一の応力を0第二の応力をF、第三の応力をF、第(n−1)の応力をF(n−1)、第nの応力をFとし、最初の残留応力をσ、第二の残留応力をσ、第三の残留応力をσ、第(n−1)の残留応力をσ(n−1)とする。
図5に示すように、樹脂成形品1が射出成形品の場合には、表層付近の残留応力σは、圧縮応力になり、樹脂成形品の内部の残留応力であるσ、σ、σ(n−1)は、引張応力である。より適切な残留応力分布をより容易に得るためには残留応力を、厚み方向に等しい間隔で導出することが好ましい。また、適切な残留応力分布を求めるために必要となる残留応力の数は、特に限定されず、樹脂成形品の形状、使用材料等により異なるが、一般的には、所定の厚み方向に5箇所以上の残留応力を求めることで、正確な所定の厚み方向の残留応力分布を得ることができる。
樹脂成形品の形状が厚み方向に対称な形状であれば、Lz/2までの残留応力分布を導出することで、厚み方向(z方向)全体の残留応力分布を導出することができる。樹脂成形品が厚み方向(z方向)に対称な形状であれば、残留応力分布もz方向に対称になるためである。
<成形材料の検討>
本発明の残留応力分布算出方法により導出される残留応力分布を用いれば、任意の樹脂材料を成形してなる樹脂成形品において、樹脂成形品内の所定の領域での残留応力分布を導出できる。さらに異方性のある材料を成形してなる樹脂成形品においても3方向のひずみを算出することで、残留応力の異方性を定量的に評価できる。
<成形条件の検討>
本発明の残留応力分布導出方法により導出される残留応力分布を用いれば、好ましい射出成形の条件を容易に決定することができる。即ち、本発明を用いることで残留応力の少ない成形条件を容易に決定することができる。検討する成形条件は、樹脂成形品内部の残留応力に影響を与えるものが好ましい。樹脂成形品内部の残留応力に影響を与える成形条件としては、射出速度、金型温度等が挙げられる。
<成形品の形状の検討>
射出成形は、複雑な形状の成形品を作製する際に好適な成形方法である。このため、複雑な形状の射出成形品は多く存在する。複雑な形状を持つ場合、複雑な形状の部分は、他の部分と残留応力分布が異なる。本発明は、残留応力分布の測定方向を様々な方向に設定することができるため、複雑な形状の部分と、それ以外の部分とを分けて残留応力分布を導出したり、成形品厚みによる残留応力分布の差を求めたりすることができる。したがって、本発明は成形品の設計等の形状を検討する段階でも有用で、上記射出成形条件の検討と併せて、所望の材料のデータを組み合わせることで残留応力の予測技術としての利用が可能である。既存の成形品に関しても、残留応力の小さい樹脂成形品を容易に作製することができるとともに、成形品の故障解析における活用も可能である。
<二次加工の影響>
二次加工とは、樹脂成形品内部の残留応力を緩和するための加工である。樹脂成形品内部の残留応力を緩和するための方法として、アニーリング処理が挙げられる。従来、このアニーリング処理の効果の有用性を定量的に評価することができなかった。しかし、本発明を用いて、アニーリング処理前後の樹脂成形品内部の残留応力分布を導出することで、アニーリング処理による残留応力の変化を確認することができる。その結果、本発明によれば、アニーリング処理の効果の有用性を定量的に評価することができ、さらに、アニーリング処理の際の好ましい処理条件も容易に決定することができる。このように本発明によれば、二次加工の有用性を定量的に評価することができる。
残留応力が、樹脂成形品を使用するにあたり問題にならない、もしくは極力小さくなるように、使用する材料、形状、成形条件、成形品の二次加工等の樹脂成形品にかかわる設定を行うといった製品設計を精度良く行うことが可能となる。また、製品を使用するにあたり、製品の残留応力をもとに短期もしくは長期破壊解析を行うことにより、精度良く故障を未然に防ぐことが可能となる。
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<材料>
ポリアセタール樹脂1:DURACON M90−44(ポリプラスチックス社製)
ポリアセタール樹脂2:DURACON M25−44(ポリプラスチックス社製)
ポリフェニレンサルファイド樹脂;FORTRON 6565A7(ポリプラスチックス社製)
シクロオレフィンコポリマー樹脂;TOPAS 5013S−04(ポリプラスチックス社製)
〔実施例1〕
上記ポリアセタール樹脂1、射出成形機SE100D(住友重機械工業社製)を用いて、標準的な成形条件にて金型温度80℃にて射出成形を行い、図6に示すような、樹脂成形品を作製した。図6(a)は斜視図であり、図6(b)は底面図である。成形品の形状は上面が開放された直方体状であり、長さ80mm、幅40mm、高さ20mm、厚み2mmであった。
<第一応力測定工程>
第一応力測定工程は、第一穿孔深さを0に設定したため、歪み量が0になり、穿孔の際に樹脂成形品内部から開放される応力も0になる。
<第二応力測定工程>
図6(b)に示すように、樹脂成形品底面のコーナー部には、図6(c)に示すような、ドリル(「RS−200」、Vishay社製)で穿孔するための穿孔部(図6(c)中の中央部)を設け、穿孔部を囲むように設けられた三つの歪みゲージを一枚の基盤上に設置したゲージ(ひとつのゲージ長2mm(ひずみゲージ全体の半径D=5.13mm)、「FRS−2−11」、東京測器研究所社製)を設置する。歪みゲージをデータロガー(「UCAM−60B」、共和電業社製)に接続し、厚み方向に0.2mm穿孔した際に樹脂成形品から開放される応力を測定した。開放される応力は、−7.2MPaであった。なお、穿孔径は1.7mmであった。
<残留応力算出工程>
樹脂成形品を穿孔することにより応力が開放される。したがって、穿孔前は、樹脂成形品から開放される応力がゼロである。−7.2MPa−0MPa=−7.2MPaが、厚み方向に0.1mm位置での残留応力として得られる。
<第三応力測定工程>
第二応力測定工程に続いて、第二応力測定工程と同様の方法で、さらに厚み方向に0.2mm穿孔した。この穿孔により樹脂成形品から開放される応力は、−9.7MPaであった。
<第二残留応力算出工程>
−9.7MPa−(−7.2MPa)=−2.5MPaが、厚み方向に0.3mmの位置での残留応力として得られる。
<第四応力測定工程>
第三応力測定工程に続いて、第二応力測定工程と同様の方法で、さらに厚み方向に0.2mm穿孔した。この穿孔により樹脂成形品から開放される応力は、−10.9MPaであった。
<第三残留応力算出工程>
−10.9MPa−(−9.7MPa)=−1.2MPaが、厚み方向に0.5mmの位置での残留応力として得られる。
<第五応力測定工程>
第四応力測定工程に続いて、第二応力測定工程と同様の方法で、さらに厚み方向に0.2mm穿孔した。この穿孔により樹脂成形品から開放される応力は、−9.7MPaであった。
<第四残留応力算出工程>
−9.7MPa−(−10.9MPa)=1.2MPaが、厚み方向に0.7mmの位置での残留応力として得られる。
<第六応力測定工程>
第四応力測定工程に続いて、第二応力測定工程と同様の方法で、さらに厚み方向に0.2mm穿孔した。この穿孔により樹脂成形品から開放される応力は、−8.0MPaであった。
<第五残留応力算出工程>
−8.0MPa−(−9.7MPa)=1.7MPaが、厚み方向に0.9mmの位置での残留応力として得られる。
<第七応力測定工程>
第五応力測定工程に続いて、第二応力測定工程と同様の方法で、さらに厚み方向に0.2mm穿孔した。この穿孔により樹脂成形品から開放される応力は、−6.9MPaであった。
<第六残留応力算出工程>
−6.9MPa−(−8.0MPa)=1.1MPaが、厚み方向に1.1mmの位置での残留応力として得られる。
<第八応力測定工程>
第四応力測定工程に続いて、第二応力測定工程と同様の方法で、さらに厚み方向に0.2mm穿孔した。この穿孔により樹脂成形品から開放される応力は、−5.2MPaであった。
<第七残留応力算出工程>
−5.2MPa−(−6.9MPa)=1.7MPaが、厚み方向に1.3mmの位置での残留応力として得られる。
<第九応力測定工程>
第四応力測定工程に続いて、第二応力測定工程と同様の方法で、さらに厚み方向に0.2mm穿孔した。この穿孔により樹脂成形品から開放される応力は、−3.5MPaであった。
<第八残留応力算出工程>
−3.5MPa−(−5.2MPa)=1.7MPaが、厚み方向に1.5mmの位置での残留応力として得られる。
<第十応力測定工程>
第四応力測定工程に続いて、第二応力測定工程と同様の方法で、さらに厚み方向に0.2mm穿孔した。この穿孔により樹脂成形品から開放される応力は、−1.7MPaであった。
<第九残留応力算出工程>
−1.7MPa−(−3.5MPa)=1.8MPaが、厚み方向に1.7mmの位置での残留応力として得られる。
<第十一応力測定工程>
第四応力測定工程に続いて、第二応力測定工程と同様の方法で、さらに厚み方向に0.2mm穿孔した。この穿孔により樹脂成形品から開放される応力は、−4.8MPaであった。
<第十残留応力算出工程>
−4.8MPa−(−1.7MPa)=−3.1MPaが、厚み方向に1.9mmの位置での残留応力として得られる。
以上の孔あけ法により得られる残留応力、穿孔により樹脂成形品から開放された応力の結果を図7に示した。残留応力を四角で表し、穿孔により樹脂成形品から開放される応力を菱形で表した。
また、図7に示された残留応力分布が適切な残留応力分布であるか否かを評価するために、上記残留応力分布の導出の際に用いた樹脂成形品と同じ樹脂成形品を用いて、塩酸クラック法による残留応力の測定を行った。成形品の内側コーナー部から底面上を長辺中心方向およそ2mmの箇所(図6(a)のA部)にクラックが入り、クラック位置での残留応力はおよそ12MPaと判定された。この結果は、これまでに他の方法で求められた値と比較して、上記残留応力分布の厚み方向に0.1mmの位置での残留応力と比較的近い値である。したがって、本発明を用いることで、既存残留応力算出法との整合性が得られるとともに、本発明では、樹脂成形品内部の残留応力の分布まで容易に導出できることが確認された。
〔実施例2〕
金型温度を50℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件(成形品形状、測定位置、手法を同様とする)で、厚み方向に1mmまでの残留応力分布を導出した。測定個数を3とした平均値を求め、導出結果を図8に示した(図8中の実線)。
〔実施例3〕
実施例1と同様の条件(金型温度、成形品形状、測定位置、手法を同様とする)で残留応力分布を導出した。測定個数を3とした平均値を求め、導出結果を図8に示した(図8中の点線)。
〔実施例4〕
金型温度を120℃に変更した以外は、実施例2と同様の条件(成形品形状、測定位置、手法を同様とする)で残留応力分布を導出した。測定個数を3とした平均値を求め、導出結果を図8に示した(図8中の二点鎖線)。
実施例2から4の結果から明らかなように、金型温度の条件毎に残留応力分布が得られる。本発明を用いて、上記のように成形条件による残留応力分布の違いを評価することで、適切な成形条件を容易に決定できることが確認された。
〔実施例5〕
測定する樹脂成形品を平板(縦80mm、横80mm、厚み2mm)の中央部(縦40mm、横40mmの地点)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、厚み方向に1mmまでの残留応力分布を導出した。導出結果を図9に示した(図9中の実線)。
実施例1の結果(図9中の点線)と実施例5の結果(図9中の実線)との比較から明らかなように本発明を用いれば、成形品の穿孔位置による残留応力分布の違いも適切に評価できることが確認された。
〔実施例6〕
実施例5で用いた平板形状の樹脂成形品を120℃の条件でアニーリング処理を施した後に穿孔した以外は、実施例5と同様の方法で残留応力分布を導出した。導出結果を図10に示した(図10中の点線)。なお、図10には参考のために実施例7の結果についても示した(図10中の実線)。
これらの結果から明らかなように、本発明によりアニーリング処理の前後で残留応力分布を導出することでアニーリング処理の効果を定量的に評価できることが確認された。
〔実施例7〕
実施例5で用いた平板形状の樹脂成形品をポリフェニレンサルファイド樹脂に変更した以外は、実施例5と同様の方法で残留応力分布を導出した。導出結果を図11に示した。なお、残留応力が異方性を有しているため、最大主応力(図11中の実線)と最小主応力(図11中の点線)を図11に示した。
〔実施例8〕
実施例5で用いた平板形状の樹脂成形品をシクロオレフィンコポリマー樹脂に変更した以外は、実施例5と同様の方法で残留応力分布を導出した。導出結果を図12に示した。
〔実施例9〕
ポリアセタール樹脂2を用いて、金属製角ピンをインサートして射出成形を行い、図13に示すような、樹脂成形品を作製した。図13中の網掛け部分には図6(c)に示したゲージを設置した。成形品の形状は縦20mm、横20mm、高さ25mmであった。成形品形状、成形品の材料を変更した以外は実施例1と同様の方法で残留応力分布を導出した。導出結果を図14に示した。図14中の四角のプロットは最大主応力を表し、菱形のプロットは最小主応力を表す。
実施例7から9の結果から明らかなように、本発明はガラスファイバー等の強化材や無機フィラー、その他各種添加剤の有無や材料樹脂を問わず、任意の残留応力分布の様式で、異方性を持つ残留応力分布を定量的に評価できることが確認された。

Claims (11)

  1. 樹脂成形品において厚み方向における前記樹脂成形品の内部の所定の位置での残留応力を算出する残留応力算出方法であって、
    前記樹脂成形品には、前記厚み方向に垂直な面に、前記樹脂成形品を厚み方向に穿孔するための穿孔部と、前記穿孔したときに前記垂直な面に発生する歪を測定するための歪測定部とを設け、
    前記穿孔部を前記厚み方向に、所定の第一穿孔深さまで穿孔したときの、前記樹脂成形品の歪み量を前記歪測定部で測定し、得られた歪み量から前記穿孔により前記樹脂成形品に発生する第一の応力を測定する第一応力測定工程と、
    前記穿孔部を前記厚み方向に、所定の第二穿孔深さまで穿孔したときの、前記樹脂成形品の歪み量を前記歪測定部で測定し、得られた歪み量から前記穿孔により前記樹脂成形品に発生する第二の応力を測定する第二応力測定工程と、
    前記第二の応力から前記第一の応力を差し引くことにより得られる差分を、第一穿孔深さと第二穿孔深さとの中間深さにおける残留応力として算出する残留応力算出工程と、を備えることを特徴とする残留応力算出方法。
  2. 前記樹脂成形品の前記所定の厚みが1.2×穿孔径以下であることを特徴とする請求項に記載の残留応力算出方法。
  3. 前記樹脂成形品が前記厚み方向に対称な形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の残留応力算出方法。
  4. 前記歪み量の測定を、前記樹脂成形品の表面の変形をもとにした画像解析により行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の残留応力算出方法。
  5. 前記樹脂成形品が前記歪み量を測定する位置が平坦でない樹脂成形品であり、
    前記歪み量の測定を三次元画像解析により行うことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の残留応力算出方法。
  6. 前記樹脂成形品は穿孔することが困難な形状であり、
    前記樹脂成形品を穿孔する前に、該樹脂成形品を穿孔可能な状態に加工する加工工程を備え、
    前記加工工程の際の樹脂成形品の表面の歪み量を測定し、
    前記樹脂成形品を穿孔したときに測定する歪み量に前記加工工程の際の歪み量を加算したものを、前記樹脂成形品の内部の前記所定の方向における所定の位置での残留応力を求めるのに用いることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の残留応力算出方法。
  7. 所定の厚みを有する樹脂成形品の厚み方向における前記樹脂成形品の内部の残留応力分布を導出する残留応力分布導出方法であって、
    請求項1から6のいずれかに記載の方法で残留応力を算出した後に、前記第二穿孔深さから所定の第三穿孔深さまでさらに穿孔し、前記第一応力測定工程と同様にして、前記樹脂成形品に発生する第三の応力を測定する第三応力測定工程と、
    前記第三の応力から前記第二の応力を差し引くことにより得られる差分を、前記第二穿孔深さと前記第三穿孔深さとの中間深さにおける第二の残留応力として算出する第二残留応力算出工程と、
    を備えることを特徴とする残留応力分布導出方法。
  8. 請求項に記載の残留応力分布導出方法後に行う残留応力分布導出方法であって、
    第三の残留応力以降は、符号nを4以上の自然数として、第(n−1)穿孔深さから所定の第n穿孔深さまでさらに穿孔し、前記第一応力測定工程と同様にして、前記樹脂成形品に発生する第nの応力を測定する第n応力測定工程と、
    前記第nの応力から第(n−1)の応力を差し引くことにより得られる差分を、前記第(n−1)穿孔深さと前記第n穿孔深さとの中間深さにおける第(n−1)の残留応力として算出する第(n−1)残留応力算出工程と、を備え、
    第一残留応力算出工程から第(n−1)残留応力算出工程を順次行うことを特徴とする残留応力分布導出方法。
  9. 第一残留応力算出工程から第n残留応力算出工程において、各々の第n応力測定工程(符号nは1からnの自然数)の前記穿孔の際の前記厚み方向の穿孔長さが等しいことを特徴とする請求項7又は8に記載の残留応力分布導出方法。
  10. 請求項1からに記載の残留応力算出方法により算出された残留応力が所望の値以下となるように製品設計を行うことを特長とする樹脂成形品設計法。
  11. 請求項1からに記載の残留応力算出方法により算出された残留応力をもとに短期もしくは長期破壊解析を行うことを特徴とする故障解析法。
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