JP4574880B2 - 射出成形品の構造強度シミュレーション方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維を含有しているナイロン樹脂などの射出成形品について、製品形状や金型形状の設計および成形条件の決定にあたって、最終成形品の機械的強度が要求性能を満足できるように成形条件および製品形状を決定するために有用な構造強度シミュレーション方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
射出成形品の製品設計においては、繊維強化樹脂、非繊維強化樹脂とも樹脂物性が等方性であると仮定して行った構造解析や材料力学計算を用いて強度の評価を行っている。また、射出成形用の金型形状の設計や変更および成形条件の決定は、金型内での樹脂の流動解析を行い、結果として得られる製品形状の寸法精度を検討するという過程を繰り返して行っている。
【0003】
そのため、要求されている機械強度を満足するような射出成形品の設計は、製品設計のために行った強度評価の結果と、金型形状設計および成形条件の決定のために行った流動解析結果を合わせて、多くの工数をかけて試行錯誤的に行っているのが現状である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、射出成形品の設計に際し、最終成形品の機械的強度が要求性能を満足するように成形条件および製品形状を迅速に決定することを可能にする射出成形品の構造強度シミュレーション方法及び装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明の射出成形品の構造強度シミュレーション方法は、以下の通りである。
【0006】
即ち、本発明の射出成形品の構造強度シミュレーション方法は、繊維強化樹脂射出成形品の構造強度を向上させることを目的とするシミュレーション方法であって、
(1) 前記成形品の形状を複数の微小要素に分割した計算用モデルを作成する計算用モデル作成工程と、
(2) 前記成形品の少なくとも一箇所のゲート位置を設定するゲート位置設定工程と、
(3) 前記計算用モデルを用いて、前記成形品を前記ゲート位置を含む所定の成形条件で射出成形したときの流動物性データを算出する流動解析工程と、
(4) 前記流動解析工程で得られる結果に基づいて各微小要素の体積収縮率を算出する保圧冷却解析工程と、
(5) 前記流動解析工程で得られる結果に基づいて各微小要素の繊維配向を算出する繊維配向解析工程と、
(6) 前記保圧冷却解析工程と繊維配向解析工程で得られる結果に基づいて各微小要素の異方性物性データを算出する物性解析工程と、
(7) 前記計算用モデルを用いて、前記物性解析工程で得られる結果を示す成形品に荷重を負荷した場合の破壊予想位置及び該破壊予想位置の引張応力方向を求める構造解析工程と、
(8) 前記繊維配向解析工程で算出した結果のうち、前記破壊予想位置の繊維配向を求める繊維配向抽出工程と、
(9) 前記成形品の破壊予想位置について、その引張応力方向と繊維配向とのなす角度が許容範囲内で最小となるか否かを判定する判定工程と、
を含み、前記判定工程において角度が最小と判定されるまで前記(2) 〜(9) の工程を繰り返し、その判定条件を満たす少なくとも一箇所のゲート位置を探索することを特徴とするものである。
【0007】
更に、本発明の射出成形品の構造強度シミュレーション方法は、繊維強化樹脂射出成形品の構造強度を向上させることを目的とするシミュレーション方法であって、
(1) 前記成形品の形状を複数の微小要素に分割した計算用モデルを作成する計算用モデル作成工程と、
(2) 前記成形品の少なくとも一箇所の肉厚変化が可能な位置の肉厚を設定する肉厚設定工程と、
(3) 前記計算用モデルを用いて、前記肉厚条件を備えた成形品を所定の成形条件で射出成形したときの流動物性データを算出する流動解析工程と、
(4) 前記流動解析工程で得られる結果に基づいて各微小要素の体積収縮率を算出する保圧冷却解析工程と、
(5) 前記流動解析工程で得られる結果に基づいて各微小要素の繊維配向を算出する繊維配向解析工程と、
(6) 前記保圧冷却解析工程と繊維配向解析工程で得られる結果に基づいて各微小要素の異方性物性データを算出する物性解析工程と、
(7) 前記計算用モデルを用いて、前記物性解析工程で得られる結果を示す成形品に荷重を負荷した場合の破壊予想位置及び該破壊予想位置の引張応力方向を求める構造解析工程と、
(8) 前記繊維配向解析工程で算出した結果のうち、前記破壊予想位置の繊維配向を求める繊維配向抽出工程と、
(9) 前記成形品の破壊予想位置について、その引張応力方向と繊維配向のなす角度が許容範囲内で最小となるか否かを判定する判定工程と、
を含み、前記判定工程において角度が最小と判定されるまで前記(2) 〜(9) の工程を繰り返し、その判定条件を満たす少なくとも一箇所の肉厚を探索することを特徴とするものである。
【0008】
一方、上記目的を達成するために本発明の射出成形品の構造強度シミュレーション装置は、以下の通りである。
【0009】
即ち、本発明の射出成形品の構造強度シミュレーション装置は、繊維強化樹脂射出成形品の構造強度を向上させることを目的とするシミュレーション装置であって、
(1) 前記成形品の形状を複数の微小要素に分割した計算用モデルを作成する計算用モデル作成手段と、
(2) 前記成形品の少なくとも一箇所のゲート位置を設定するゲート位置設定手段と、
(3) 前記計算用モデルを用いて、前記成形品を前記ゲート位置を含む所定の成形条件で射出成形したときの流動物性データを算出する流動解析手段と、
(4) 前記流動解析手段で得られる結果に基づいて各微小要素の体積収縮率を算出する保圧冷却解析手段と、
(5) 前記流動解析手段で得られる結果に基づいて各微小要素の繊維配向を算出する繊維配向解析手段と、
(6) 前記保圧冷却解析手段と繊維配向解析手段で得られる結果に基づいて各微小要素の異方性物性データを算出する物性解析手段と、
(7) 前記計算用モデルを用いて、前記物性解析手段で得られる結果を示す成形品に荷重を負荷した場合の破壊予想位置及び該破壊予想位置の引張応力方向を求める構造解析手段と、
(8) 前記繊維配向解析手段で算出した結果のうち、前記破壊予想位置の繊維配向を求める繊維配向抽出手段と、
(9) 前記成形品の破壊予想位置について、その引張応力方向と繊維配向のなす角度が許容範囲内で最小となるか否かを判定する判定手段と、
を含み、前記判定手段において角度が最小と判定されるまで前記(2) 〜(9) の手段の実行を繰り返し、その判定条件を満たす少なくとも一箇所のゲート位置を探索することを特徴とするものである。
【0010】
更に、本発明の射出成形品の構造強度シミュレーション装置は、繊維強化樹脂射出成形品の構造強度を向上させることを目的とするシミュレーション装置であって、
(1) 前記成形品の形状を複数の微小要素に分割した計算用モデルを作成する計算用モデル作成手段と、
(2) 前記成形品の少なくとも一箇所の肉厚変化が可能な位置の肉厚を設定する肉厚設定手段と、
(3) 前記計算用モデルを用いて、前記肉厚条件を備えた成形品を所定の成形条件で射出成形したときの流動物性データを算出する流動解析手段と、
(4) 前記流動解析手段で得られる結果に基づいて各微小要素の体積収縮率を算出する保圧冷却解析手段と、
(5) 前記流動解析手段で得られる結果に基づいて各微小要素の繊維配向を算出する繊維配向解析手段と、
(6) 前記保圧冷却解析手段と繊維配向解析手段で得られる結果に基づいて各微小要素の異方性物性データを算出する物性解析手段と、
(7) 前記計算用モデルを用いて、前記物性解析手段で得られる結果を示す成形品に荷重を負荷した場合の破壊予想位置及び該破壊予想位置の引張応力方向を求めるための構造解析手段と、
(8) 前記繊維配向解析手段で算出した結果のうち、前記破壊予想位置の繊維配向を求める繊維配向抽出手段と、
(9) 前記成形品の破壊予想位置について、その引張応力方向と繊維配向のなす角度が許容範囲内で最小となるか否かを判定する判定手段と、
を含み、前記判定手段において角度が最小と判定されるまで前記(2) 〜(9) の手段の実行を繰り返し、その判定条件を満たす少なくとも一箇所の肉厚を探索することを特徴とするものである。
【0011】
本発明では、繊維強化樹脂射出成形品のように異方性物性をもつ射出成形品について、成形品形状及び成形条件と共に異方性物性を加味した構造強度シミュレーションを行い、例えば引張応力方向と繊維配向とのなす角度を指標として、破壊予想位置での強度が最大限に大きくなるような判定を得るまで所定のパラメータを探究するので、最終成形品の機械的強度が要求性能を満足するように成形条件および製品形状を迅速に決定することが可能である。
【0012】
本発明の射出成形品の製造方法は、上述した射出成形品の構造強度シミュレーション方法により少なくとも成形条件のパラメータを決定し、そのパラメータにより射出成形品を製造することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のソフトウェアは、上述した射出成形品の構造強度シミュレーション方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを含むものである。
【0014】
更に、本発明のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、上述した射出成形品の構造強度シミュレーション方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを記憶したものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の実施形態からなる射出成形品の構造強度シミュレーション方法を示すフローチャートである。
【0017】
先ず、ステップS1において計算用モデルを作成する。これには、3次元CADデータから中立面を作成し、2次元シェル要素を自動作成したり、CADデータを直接利用して3次元ソリッド要素を自動作成する方法がある。これは多くのCADに搭載されている既存の技術である。また、2次元図面より、中立面を考慮して2次元シェル要素を作成したり、3次元ソリッド要素を作成する方法などがある。これらの計算用モデル作成作業には、汎用の計算用モデル作成ソフト(例えばMSC 社のPATRAN)を用いることができる。
【0018】
次に、ステップS2において少なくとも一箇所のゲート位置の設定を行う。次いで、ステップS31において流動解析を行う。流動解析では、入力データとして樹脂物性データ、成形条件データ、解析条件データが与えられ、出力データとして、流動挙動データ、樹脂温度データ及び圧力データなどの流動物性データが得られる。ここで、成形条件データとは充填時間、射出温度、ゲート位置、金型温度などである。
【0019】
続いて、ステップS32において保圧冷却解析を行う。保圧冷却解析では、樹脂物性データ、成形条件データに加え、流動解析の結果が入力データとなり、出力データとして各微小要素の体積収縮率などが得られる。
【0020】
続いて、ステップS33において繊維配向解析を行う。繊維配向解析においても、流動解析の結果が入力データとなり、出力データとして各微小要素の繊維配向が得られる。
【0021】
次に、ステップS34において物性解析を行う。物性解析では、ここまで計算した流動解析、保圧冷却解析、繊維配向解析の結果に加え、樹脂物性データが入力データとなり、最終的に出力データとして、各微小要素の異方性物性データが得られる。但し、1回目(i=1)の計算では、この物性解析のステップは省略し、物性を等方性と仮定して進める。
【0022】
次に、ステップS4において破壊予想位置及び該破壊予想位置の引張応力方向を求めるために構造解析を行う。構造解析では、入力データとして境界条件データ、外力や強制変位などの荷重データ、成形品形状データ及び物性データが与えられ、出力データとして変形量データ及び応力データなど荷重に対する応答データが得られる。このとき物性として、ステップS34で得られた成形品の局所的な物性値を構造解析用データとして設定する。反映する各部の局所的な物性値は、ステップS33の繊維配向解析で得られた繊維の向き、配向度、ステップS32の保圧・冷却解析で得られた密度・収縮ひずみ量等から算出する。但し、1回目の解析では等方性を仮定する。このような解析は、MSC.Nastran (MSC 社製)、ABAQUS(HKS 社製)などのソフトウェアを使用することで実行可能な既存の技術である。また、簡易な形状や条件であれば、ソフトウェアを使用しなくても、材料力学理論より結果を得ることができる。
【0023】
次に、ステップS5において破壊予想位置の繊維配向を求める。ここではステップS33より得られた繊維配向のうち、ステップS4で算出された破壊予想位置での繊維配向を求める。
【0024】
次に、ステップS6において、破壊予想位置について、ステップS4の構造解析の結果得られた引張応力方向と、ステップS5の結果得られた繊維配向とのなす角度が許容範囲内で最小となるか否かを判定する。ガラス繊維などを含有する樹脂の場合、繊維の配向によって強度が大きく異なる。例えばガラス繊維30%含有のナイロン樹脂の引張試験を行った場合、脆性破壊に近い挙動を示すため降伏点で破壊すると仮定すると、繊維配向方向に引張力をかけた場合と、繊維配向と垂直方向に引張力をかけた場合とでは、前者の降伏点応力が後者に比べて約1.5倍大きくなる。樹脂製品は一般に引張応力によって破壊することから、上述した破壊予想位置の繊維を引張応力方向に配向させることによって、成形品の構造強度を向上させることが可能となる。
【0025】
上記実施形態はゲート位置をパラメータとしてシミュレーションを行うものであるが、本発明ではゲート位置以外の成形条件や成形品の少なくとも一箇所の肉厚変化が可能な位置の肉厚をパラメータとしても良い。これら成形条件や肉厚をパラメータとする場合も、構造解析の結果得られた破壊予想位置の引張応力方向と、繊維配向解析の結果得られた破壊予想位置の繊維配向とのなす角度が許容範囲内で最小であるか否かを判定し、その角度が最小と判定されるまで再計算して、破壊予想位置の繊維を引張応力方向に配向させることで、最適な成形条件又は肉厚を探索することができる。
【0026】
本発明では、繊維強化樹脂射出成形品について構造強度を向上させるためのシミュレーションを行う場合、破壊予想位置における引張応力方向と繊維配向とのなす角度を利用して最適化の判定を行うことが好ましい。また、異方性物性をもつ射出成形品であれば、計算用モデルを用いて、成形品を特定の成形条件で射出成形したときの各微小要素の異方性物性データを算出すると共に、該成形品に荷重を負荷した場合の破壊予想位置の応力方向を求め、その破壊予想位置における応力方向と異方性物性データに基づく最大強度方向(繊維配向に相当)とのなす角度を利用して最適化の判定を行うことが可能である。
【0027】
最適化の方法としては、例えばゲート位置等の成形条件をパラメータとして評価関数の再計算を行い、評価関数が目的範囲に入った時のパラメータを最適とする方法等が考えられる。また、比較的簡易な形状である場合には、最初の解析結果から最適なゲート位置などのパラメータを推測し、再計算により確認することも考えられる。評価関数を用いた最適化の場合には、破壊予想位置の引張応力方向に対して繊維がなす角度θを目的関数として用いることが考えられる。
【0028】
次に、本発明のシミュレーション方法を実行するための装置について図2を用いて説明する。図2は本発明のハードウェア構成を示す図である。コンピュータ101に入力装置103、表示装置104及び補助記憶装置102が接続されている。コンピュータ101のメモリ上には計算用モデル作成ソフト105、射出成形解析ソフト106、構造解析ソフト107が記憶されている。
【0029】
計算用モデル作成ソフト105(計算用モデル作成手段)は、射出成形品の形状を微小な要素に分割した計算用モデルを作成し、そのデータを補助記憶装置102に格納する。
【0030】
射出成形解析ソフト106(ゲート位置設定手段、流動解析手段、保圧冷却解析手段、繊維配向解析手段、物性解析手段)は、成形条件及び計算用モデルを用いて、各微小要素の繊維配向及び物性値を算出し、そのデータを補助記憶装置102に格納する。
【0031】
構造解析ソフト107(構造解析手段)は、計算用モデルと射出成形解析ソフトで算出された物性値を読み込み破壊予想部分の引張応力方向を算出し、そのデータを補助記憶装置102に格納する。
【0032】
そして、コンピュータ101(繊維配向抽出手段、判定手段)が破壊予想位置について射出成形解析ソフト106で算出された繊維配向と、構造解析ソフト107で算出された引張応力方向を内部のランダムアクセスメモリ(RAM)に読み込んで2つの成す角度θを算出し、例えば表示装置104に表示する。この角度が許容範囲内で最小となるまで、計算を繰り返す手段として、例えば表示装置104に表示された結果を確認した後、オペレータが成形条件や計算用モデルを修正して再計算を繰り返しても良いし、コンピュータ101に最適化ソフトを記憶させ、角度θを目的関数として、目的関数が許容範囲内で最小となるまで繰り返し最適化計算を実行させても良い。
【0033】
【実施例】
図3〜図7は構造強度を向上させるためにゲート位置を最適化した具体例を示すものである。図3及び図4は、縦12mm、横46mm、高さ12mmで肉厚が1mm、内部に肉厚1mmのリブが8つある箱の中立面を使用して、2次元シェルにて一辺1mmの正方形のメッシュを生成させた形状データからなる計算用モデルであり、このモデルは2326個の節点と2350個の要素で構成されている。
【0034】
図3及び図4の形状を有する成形品において破壊予想位置の繊維配向を引張方向に配向させるゲート位置を決定する。成形温度290度、充填時間1秒、金型温度80度、保圧40MPa 、保圧時間4sec 、冷却時間10sec の成形条件と、ナイロン樹脂(ガラス繊維含有率30%)の物性データを用いて、射出成形解析(流動解析、保圧冷却解析、繊維配向解析)を実行した。ゲート位置Gは図6に示す通り長辺サイド2点とした。射出成形解析ソフトとして、TIMON (東レ株式会社製)を使用した。
【0035】
次に、等方性を仮定して構造解析を行う。ここでは、図3に示すように箱上縁中央部に荷重負荷点Lを設ける一方で、図4に示すように箱底面両端部にZ方向変位を規制する支持部Sを設けた3点曲げの解析を行い、荷重として強制変位を負荷した。構造解析には、ABAQUS(HKS 社製)を使用した。
【0036】
以上2つの解析の結果、構造解析の出力として、引張応力によって破壊すると仮定した場合の破壊予想位置Pの引張応力の向きを図5に示し、繊維配向解析の出力として得られる破壊予想位置Pの繊維配向を図6に示す。箱底面の破壊予想位置Pについて、構造解析の結果得られた引張応力方向と、射出成形解析の結果得られた繊維配向を比較すると、図5では破壊予想位置Pの引張応力の向きがX軸方向であるのに対し、図6の繊維配向はY軸方向であり、破壊予想位置Pにおける引張応力の向きと繊維配向のなす角度は90度である。
【0037】
次に、オペレータの手動作業により、ゲート位置Gを変更して再計算を行う。
再計算では、ゲート位置Gは図7に示す通り短辺サイド1点とした。また、2回目からの計算では、射出成形解析で求められた繊維の向き、配向度、保圧・冷却解析で得られた密度・収縮ひずみ量等から算出した物性を各微小要素に反映して構造解析を行う。なお、物性解析にもTIMON (東レ株式会社製)を使用した。
【0038】
その結果、図7に示す通り、破壊予想位置Pに相当する箱底面中央の繊維配向はX軸方向に配向し、破壊予想位置Pにおける引張応力の向きと繊維配向のなす角度は0度である。角度θの許容範囲を0度以上90度以下とすると、図7のゲート位置Gが判定条件を満たすゲート位置となる。
【0039】
本実施例ではゲート位置をパラメータとしたが、肉厚が変更できる箇所がある場合には、その肉厚を変動させることで繊維配向を制御しても良い。但し、この場合には計算用モデルがシェル要素で作成されていることが望ましい。
【0040】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、繊維強化樹脂射出成形品のように異方性物性をもつ射出成形品について、成形品の形状及び成形条件と共に異方性物性を加味した構造強度シミュレーションを行い、破壊予想位置での強度が最大限に大きくなるような判定を得るまで所定のパラメータを探究するので、最終成形品の機械的強度が要求性能を満足するように成形条件および製品形状を迅速に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態からなる射出成形品の構造強度シミュレーション方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明のシミュレーション方法を実行するハードウエアを示すブロック構成図である。
【図3】計算用モデルの一例を示す上方斜視図である。
【図4】図3の下方斜視図である。
【図5】図4の計算用モデルに対して構造解析を行って得られた最大主応力分布図である。
【図6】図4の計算用モデルに対して2点のゲート位置を設定した条件で射出成形解析を行って得られた繊維配向図である。
【図7】図4の計算用モデルに対して1点のゲート位置を設定した条件で再度射出成形解析を行って得られた繊維配向図である。
【符号の説明】
101 コンピュータ
102 補助記憶装置
103 入力装置
104 表示装置
105 計算用モデル作成ソフト
106 射出成形解析ソフト
107 構造解析ソフト
Claims (7)
- 繊維強化樹脂射出成形品の構造強度を向上させることを目的とするシミュレーション方法であって、
(1) 前記成形品の形状を複数の微小要素に分割した計算用モデルを作成する計算用モデル作成工程と、
(2) 前記成形品の少なくとも一箇所のゲート位置を設定するゲート位置設定工程と、
(3) 前記計算用モデルを用いて、前記成形品を前記ゲート位置を含む所定の成形条件で射出成形したときの流動物性データを算出する流動解析工程と、
(4) 前記流動解析工程で得られる結果に基づいて各微小要素の体積収縮率を算出する保圧冷却解析工程と、
(5) 前記流動解析工程で得られる結果に基づいて各微小要素の繊維配向を算出する繊維配向解析工程と、
(6) 前記保圧冷却解析工程と繊維配向解析工程で得られる結果に基づいて各微小要素の異方性物性データを算出する物性解析工程と、
(7) 前記計算用モデルを用いて、前記物性解析工程で得られる結果を示す成形品に荷重を負荷した場合の破壊予想位置及び該破壊予想位置の引張応力方向を求める構造解析工程と、
(8) 前記繊維配向解析工程で算出した結果のうち、前記破壊予想位置の繊維配向を求める繊維配向抽出工程と、
(9) 前記成形品の破壊予想位置について、その引張応力方向と繊維配向とのなす角度が許容範囲内で最小となるか否かを判定する判定工程と、
を含み、前記判定工程において角度が最小と判定されるまで前記(2) 〜(9) の工程を繰り返し、その判定条件を満たす少なくとも一箇所のゲート位置を探索することを特徴とする射出成形品の構造強度シミュレーション方法。 - 繊維強化樹脂射出成形品の構造強度を向上させることを目的とするシミュレーション方法であって、
(1) 前記成形品の形状を複数の微小要素に分割した計算用モデルを作成する計算用モデル作成工程と、
(2) 前記成形品の少なくとも一箇所の肉厚変化が可能な位置の肉厚を設定する肉厚設定工程と、
(3) 前記計算用モデルを用いて、前記肉厚条件を備えた成形品を所定の成形条件で射出成形したときの流動物性データを算出する流動解析工程と、
(4) 前記流動解析工程で得られる結果に基づいて各微小要素の体積収縮率を算出する保圧冷却解析工程と、
(5) 前記流動解析工程で得られる結果に基づいて各微小要素の繊維配向を算出する繊維配向解析工程と、
(6) 前記保圧冷却解析工程と繊維配向解析工程で得られる結果に基づいて各微小要素の異方性物性データを算出する物性解析工程と、
(7) 前記計算用モデルを用いて、前記物性解析工程で得られる結果を示す成形品に荷重を負荷した場合の破壊予想位置及び該破壊予想位置の引張応力方向を求める構造解析工程と、
(8) 前記繊維配向解析工程で算出した結果のうち、前記破壊予想位置の繊維配向を求める繊維配向抽出工程と、
(9) 前記成形品の破壊予想位置について、その引張応力方向と繊維配向のなす角度が許容範囲内で最小となるか否かを判定する判定工程と、
を含み、前記判定工程において角度が最小と判定されるまで前記(2) 〜(9) の工程を繰り返し、その判定条件を満たす少なくとも一箇所の肉厚を探索することを特徴とする射出成形品の構造強度シミュレーション方法。 - 繊維強化樹脂射出成形品の構造強度を向上させることを目的とするシミュレーション装置であって、
(1) 前記成形品の形状を複数の微小要素に分割した計算用モデルを作成する計算用モデル作成手段と、
(2) 前記成形品の少なくとも一箇所のゲート位置を設定するゲート位置設定手段と、
(3) 前記計算用モデルを用いて、前記成形品を前記ゲート位置を含む所定の成形条件で射出成形したときの流動物性データを算出する流動解析手段と、
(4) 前記流動解析手段で得られる結果に基づいて各微小要素の体積収縮率を算出する保圧冷却解析手段と、
(5) 前記流動解析手段で得られる結果に基づいて各微小要素の繊維配向を算出する繊維配向解析手段と、
(6) 前記保圧冷却解析手段と繊維配向解析手段で得られる結果に基づいて各微小要素の異方性物性データを算出する物性解析手段と、
(7) 前記計算用モデルを用いて、前記物性解析手段で得られる結果を示す成形品に荷重を負荷した場合の破壊予想位置及び該破壊予想位置の引張応力方向を求める構造解析手段と、
(8) 前記繊維配向解析手段で算出した結果のうち、前記破壊予想位置の繊維配向を求める繊維配向抽出手段と、
(9) 前記成形品の破壊予想位置について、その引張応力方向と繊維配向のなす角度が許容範囲内で最小となるか否かを判定する判定手段と、
を含み、前記判定手段において角度が最小と判定されるまで前記(2) 〜(9) の手段の実行を繰り返し、その判定条件を満たす少なくとも一箇所のゲート位置を探索することを特徴とする射出成形品の構造強度シミュレーション装置。 - 繊維強化樹脂射出成形品の構造強度を向上させることを目的とするシミュレーション装置であって、
(1) 前記成形品の形状を複数の微小要素に分割した計算用モデルを作成する計算用モデル作成手段と、
(2) 前記成形品の少なくとも一箇所の肉厚変化が可能な位置の肉厚を設定する肉厚設定手段と、
(3) 前記計算用モデルを用いて、前記肉厚条件を備えた成形品を所定の成形条件で射出成形したときの流動物性データを算出する流動解析手段と、
(4) 前記流動解析手段で得られる結果に基づいて各微小要素の体積収縮率を算出する保圧冷却解析手段と、
(5) 前記流動解析手段で得られる結果に基づいて各微小要素の繊維配向を算出する繊維配向解析手段と、
(6) 前記保圧冷却解析手段と繊維配向解析手段で得られる結果に基づいて各微小要素の異方性物性データを算出する物性解析手段と、
(7) 前記計算用モデルを用いて、前記物性解析手段で得られる結果を示す成形品に荷重を負荷した場合の破壊予想位置及び該破壊予想位置の引張応力方向を求めるための構造解析手段と、
(8) 前記繊維配向解析手段で算出した結果のうち、前記破壊予想位置の繊維配向を求める繊維配向抽出手段と、
(9) 前記成形品の破壊予想位置について、その引張応力方向と繊維配向のなす角度が許容範囲内で最小となるか否かを判定する判定手段と、
を含み、前記判定手段において角度が最小と判定されるまで前記(2) 〜(9) の手段の実行を繰り返し、その判定条件を満たす少なくとも一箇所の肉厚を探索することを特徴とする射出成形品の構造強度シミュレーション装置。 - 請求項1〜2のいずれかに記載の射出成形品の構造強度シミュレーション方法により少なくとも成形条件のパラメータを決定し、そのパラメータにより射出成形品を製造することを特徴とする射出成形品の製造方法。
- 請求項1〜2のいずれかに記載の射出成形品の構造強度シミュレーション方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを含むソフトウェア。
- 請求項1〜2のいずれかに記載の射出成形品の構造強度シミュレーション方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
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