(第1の実施形態)
以下、図面を参照しつつ実施形態について説明する。また、以下説明する図面において、符号が一致するものは、同様のものを示しており、重複した説明は省略する。
先ず、第1の実施形態について説明する。
図1は第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の積層体を例示する断面図である。
図1に示すように、第1の実施形態の磁気抵抗効果素子10には、積層体が設けられている。積層体には、第1の磁性層14と、第2の磁性層18と、これらの間に設けられたスペーサ層16とが含まれる。
第1の磁性層14及び第2の磁性層18は共に強磁性体からなり、第1の磁性層14は、その磁化方向が実質的に一方向に固着されたピン層、又は磁化方向が外部磁界に応じて変化するフリー層である。第2の磁性層18は、その磁化方向が外部磁界に応じて変化するフリー層である。磁気抵抗効果素子10は、第1の磁性層14の磁化方向と第2の磁性層18の磁化方向との相対角度が外部磁界に応じて変化することで、膜面の垂直方向に通電した際の電気抵抗が変化し、磁気センサとして機能する。
ここで、垂直通電型の磁気抵抗効果素子10のMR変化率は、磁性層内部のスピン依存散乱(バルク散乱)と、磁性層とスペーサ層の界面でのスピン依存界面散乱によって決定される。磁性層やスペーサ層にスピン依存散乱の大きな材料を適用することで、MR変化率が増大する。
本発明者らは、かかる観点から、独自の実験試作検討を進めた結果、第1の磁性層、第2の磁性層、スペーサ層のうち、少なくとも1層中に、独特の結晶構造を有する酸化物層21を設けることにより、スピン依存散乱を促進し、MR変化率を大きくできることを知得した。
図1に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の積層体には、酸化物層21が設けられている。酸化物層21を設けることにより、磁気抵抗効果素子10のMR変化率を増大させることができる。酸化物層21は金属酸化物により形成されているが、その結晶構造及び組成には制約がある。
図2(a)は、NaCl構造をした金属酸化物の結晶構造を例示する図であり、(b)及び(c)は、スピネル構造をした金属酸化物の結晶構造を例示する図である。
酸化物層21には、図2(a)に示すようなNaCl構造の結晶構造をした金属酸化物、又は、図2(b)及び(c)に示すようなスピネル構造の結晶構造をした金属酸化物が含まれている。
金属元素をMeとし、酸素元素をOとするとき、図2(a)に示すNaCl構造の金属酸化物の化学式は、ほぼ、MeOと表すことができる。酸素元素は2価のマイナスイオンとなるため、この金属酸化物の金属元素は2価のプラスイオン(Me2+)となる。なお、実際には、NaCl構造の金属酸化物は、Me0.95O1.00程度の組成比をとる場合に、最も安定する。この場合、この金属酸化物の酸素濃度は、約51原子%である。図2(a)には、金属元素(Me)が鉄(Fe)である場合を示している。化学式は、Fe0.95O1と表される。このNaCl構造の鉄酸化物は「ウスタイト(Wustit)」と呼ばれる。
また、図2(b)に示すスピネル構造の金属酸化物の化学式は、Me3O4と表すことができる。図2(b)には、金属元素が鉄である場合を示している。化学式は、Fe3O4と表される。
また、図2(b)に示すスピネル構造の金属原子Meのサイトに陽イオン空格子を有するものとして、γ−Me2O3が存在する。図2(c)には、金属元素が鉄である場合を示している。化学式はγ−Fe2O3と表される。なお、図2(a)及び(c)において、金属原子を示す黒丸のうち、黒で塗られている領域の面積割合は、そのサイトにおける原子の存在確率に対応している。
実際には、この中間の組成比をとる場合もある。Me3O4においては、金属原子Meとして、2価のプラスイオン(Me2+)と3価のプラスイオン(Me3+)が混在する。この場合の酸素濃度は約57原子%である。一方、γ−Me2O3においては、金属原子Meとして、実質的に3価のプラスイオン(Me3+)のみが存在する。この場合の酸素濃度は約60原子%である。金属元素(Me)が鉄(Fe)である場合には、Fe3O4は「マグネタイト(Magnetite)」と呼ばれ、γ−Fe2O3は「マグヘマイト(Maghemite)」と呼ばれる。
そして、磁気抵抗効果素子10のMR変化率を十分に増大させるためには、酸化物層21を形成する金属酸化物が、NaCl構造であるか、化学式がMe3O4であるスピネル構造である必要がある。これに対して、化学式がMe2O3であるスピネル構造では、高いMR変化率を得ることができない。すなわち、酸化物層21を形成する金属酸化物には、2価の金属イオンが含まれている必要がある。この場合、金属酸化物の組成をMeXOYと表すと、比(Y/X)の値は4/3以下となる。但し、金属酸化物の組成比には多少の幅が許容されるため、比(Y/X)の値が4/3を超えていても、2価の金属イオンが含まれていれば、高いMR変化率を得ることができる。
上述した構造の酸化物層を設けることでMR変化率が向上する理由は、以下のように考えられる。すなわち、上述したNaCl構造、もしくはMe3O4であるスピネル構造である酸化物層のバンド構造において、フェルミ面におけるアップスピン電子とダウンスピン電子の状態密度の差もしくはアップスピン電子とダウンスピン電子の状態密度の微分の差(フェルミ速度)が大きいために、高いスピン依存散乱を実現できるためと考えられる。
ここで、図3には、Me0.95O1とMe3O4とγ−Me2O3の[111]方向の原子層構造を示す。(a)、(d)はMe0.95O1、(b)、(e)はMe3O4、(c)、(f)はγ−Me2O3の原子層構造である。ここで、(a)、(b)、(c)は[−1−12]方向からの断面図であり、(d)、(e)、(f)は[1−10]方向からの断面図である。図3に示すとおり、Me3O4とγ−Me2O3の[111]方向の原子層構造はすべてMeT/O/Me/Oのユニットで繰り返される。ここで、MeTはtetrahedral位置のMe原子の層を、下付文字のないMeとOはそれぞれoctahedral位置のMe原子とO原子の層を表している。
一方、Me0.95O1の[111]方向の原子層構造はMe/O/Me/Oのユニットで繰り返される。このように、Me0.95O1とMe3O4とγ−Me2O3の原子層構造は4層の中で1層のみ異なる非常に近い構造をしており、前述したようにこれら3つの構造はその酸素含有量に応じて連続的に変化する。ここで、MeがFe原子の場合、Fe0.95O1の[111]方向の面間隔は0.25nm、Fe3O4の[111]方向の面間隔は0.242nm、γ−Fe2O3の[111]方向の面間隔は0.241nmであり、Fe0.95O1、Fe3O4、γ−Fe2O3の順に面間隔が小さくなる。
Me0.95O1とMe3O4がγ−Me2O3に比べて高いスピン依存散乱を実現できた1つの要因として、Me0.95O1とMe3O4がγ−Me2O3に比べて大きい面間隔を有し、Me原子とO原子の原子間距離が長くなったことにより、酸化物層21のバンド構造が変化して、フェルミ面におけるアップスピン電子とダウンスピン電子の状態密度の差もしくはアップスピン電子とダウンスピン電子の状態密度の微分の差(フェルミ速度)が大きくなったことが考えられる。
また、図2及び図3に示すとおり、Me0.95O1は、他のMe3O4とγ−Me2O3に比べて、単純な結晶構造および原子層構造を有する。そのため、磁気抵抗効果膜中に極薄の薄膜として作製した場合に、結晶構造が単純なMe0.95O1はバルクと近い理想的な結晶構造が得られやすいため、Me0.95O1が最も高いスピン依存散乱を実現できた可能性がある。
酸化物層21がNaCl構造の結晶構造をした金属酸化物によって形成されている場合には、この金属酸化物として、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、カルシウム(Ca)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、サマリウム(Sm)、タンタル(Ta)、ガドリニウム(Gd)、ネオジウム(Nd)、シリコン(Si)、及びカドミウム(Cd)からなる群より選択された少なくとも1つの材料を含む酸化物を用いることができる。
これらの金属酸化物は、NaCl構造の結晶構造を有する酸化化合物をとることができる酸化物なので用いることができ、高いMR変化率を実現できる。ここで、酸化物層21が、鉄(Fe)を含む場合には特に高いMR変化率を実現することができる。酸化物層21が鉄(Fe)を含む場合、添加元素としてコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、カルシウム(Ca)、ロジウム(Rh)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、カルシウム(Ca)などを添加元素として用いることができる。
このような添加元素を加えることにより、バンド構造を変化させ、高いスピン依存散乱を実現することができる。また、これらの添加元素を加えることにより、高い耐熱性を得ることができる。上述した酸化物材料は磁性を示すものと示さないものの両方を含んでおり、その両方がスピン依存散乱の増強の効果を有する。
ここで、磁性体の酸化物層21を用いた場合は、その酸化物層21自体がスピン依存バルク散乱およびスピン依存界面散乱を有する。一方、非磁性体の酸化物層21を用いた場合には、金属強磁性体に接して用いることにより、金属強磁性体からのスピン蓄積効果で非磁性体の酸化物層内部にスピン分極が発生する。このような場合でも、高いスピン依存散乱を実現することができる。特に、酸化物層21を形成する金属酸化物が、鉄(Fe)及び亜鉛(Zn)を含む場合に、著しく高いMR変化率を実現することができる。
酸化物層21が、スピネル構造の結晶構造をした酸化物材料であって、2価の金属イオンを含む金属酸化物により形成されている場合には、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)から選択された少なくとも1つの金属並びに亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)及びインジウム(In)からなる群より選択された少なくとも1つの材料を含む酸化物材料を用いた場合に、高いMR変化率が実現できる。上述した酸化物材料は磁性を示すものと示さないものの両方を含んでおり、その両方がスピン依存散乱の増強の効果を有する。ここで、磁性体の酸化物層を用いた場合は、その酸化物層自体がスピン依存バルク散乱およびスピン依存界面散乱を示す。一方、非磁性体の酸化物層を用いた場合には、金属強磁性体に接して用いることにより、金属強磁性体からのスピン蓄積効果で非磁性体の酸化物層内部にスピン分極が発生する。このような場合でも、高いスピン依存散乱を実現することができる。特に、酸化物層21を形成する金属酸化物が、鉄(Fe)及び亜鉛(Zn)を含む場合に、著しく高いMR変化率を実現することができる。
図4(a)〜(m)は、磁気抵抗効果素子の要部における酸化物層の形成位置を例示する断面図である。図4(a)〜(m)に示す基本構造は、下から第1の磁性層14、スペーサ層16、第2の磁性層18となっている。なお、上下は逆でもよい。つまり、第1の磁性層14が下側でも第2の磁性層18が下側でもどちらでもよい。
図4(a)〜(m)は、酸化物層の形成位置のバリエーションを示している。すなわち、図4(a)は、酸化物層が第2の磁性層の下部又はスペーサ層の上部に設けられている場合を示し、(b)は第2の磁性層中、(c)は第2の磁性層の上部、(d)は第1の磁性層の上部又はスペーサ層の下部、(e)は第1の磁性層中、(f)は第1の磁性層の下部、(g)はスペーサ層中、(h)はスペーサ層のすべてを酸化物層とした場合、(i)は第1の磁性層の上部又はスペーサ層の下部、及び、スペーサ層の上部又は第2の磁性層の下部、(j)は第2の磁性層の下部又はスペーサ層の上部、及び、第2の磁性層中に配置されている場合を示す。(m)はスペーサ層の上部に酸化物層を配置し、さらに酸化物層と第2の磁性層の間に非磁性層29を追加した場合を示す。
図4(a)〜(m)に示すいかなる構造においても、酸化物層21を設けることにより、MR変化率を増大させることができる。すなわち、酸化物層21は、第1の磁性層14、第2の磁性層18、スペーサ層16のいずれの位置にも設けることができる。
また、酸化物層21の膜厚は、均一な酸化物層を形成するためには、0.5nm以上であることが望ましく、素子抵抗の増大を抑えるためには、4nm以下であることが望ましい。
また、図4(i)、(j)に示すように、酸化物層は複数層設けることができ、第1の磁性層中に酸化物層を複数層設けてもよい。また、図4(m)に示すように、酸化物層と第2の磁性層の間に非磁性層29を設ける場合、磁性層からの酸化物層へのスピン蓄積がなされ、十分なスピンフィルタリング効果を発揮するためには、非磁性層29の膜厚が2nm以下であることが望ましい。
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の詳細について説明する。
図5は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を例示する斜視図である。
図5に示すように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子10においては、下電極11が設けられており、下電極11上に下地層12が設けられ、下地層12上にピニング層13が設けられている。下地層12は、例えば、バッファ層及びシード層が積層されている。バッファ層は下電極11側に位置し、シード層はピニング層13側に位置する。
ピニング層13上には、磁化方向が固着されたピン層14が設けられ、ピン層14上には、スペーサ層16が設けられている。スペーサ層16は、非磁性体からなる材料を含んでいる。
スペーサ層16上には、磁化方向が自由に回転するフリー層18が設けられ、フリー層上には、磁気抵抗効果素子10を酸化等の劣化から保護するキャップ層19が設けられている。
キャップ層19上には、上電極20が設けられている。
下電極11及び上電極20の材料としては、電流を磁気抵抗効果素子10に流すために、電気抵抗が比較的小さい銅(Cu)、金(Au)等が用いられる。
本実施形態においては、フリー層18の下部又はスペーサ層の上部に酸化物層21が設けられている。
本実施形態においては、下電極11および上電極20は、磁気抵抗効果素子10の積層方向に電流を流す。下電極11と上電極20との間に電圧が印加されることで、磁気抵抗効果素子10の内部を積層方向に沿って電流が流れる。この電流が流れることで、磁気抵抗効果に起因する抵抗の変化を検出することができ、磁気の検知が可能となる。
バッファ層は下電極11の表面の荒れを緩和し、バッファ層上に積層される層の結晶性を改善する。バッファ層としては、例えばタンタル(Ta)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)及びクロム(Cr)からなる群より選択された少なくとも1つの金属を用いることが出来る。これらの合金も用いることができる。バッファ層の膜厚は1nm以上10nm以下が好ましく、1nm以上5nm以下がより好ましい。バッファ層の厚さが薄すぎるとバッファ効果が失われる。一方、バッファ層の厚さが厚すぎるとMR変化率に寄与しない直列抵抗を増大させることになる。なお、バッファ層上に形成されるシード層がバッファ効果を有する場合には、バッファ層を必ずしも設ける必要はない。好ましい一例として、タンタル層を1nmの厚さに形成することができる。
シード層は、シード層上に積層される層の結晶配位向及び結晶粒径を制御する。シード層としては、fcc構造(face-centered cubic structure:面心立方格子構造)、hcp構造(hexagonal close-packed structure:六方最密格子構造)またはbcc構造(body-centered cubic structure:体心立方格子構造)を有する金属等が好ましい。
例えば、シード層として、hcp構造を有するルテニウム(Ru)またはfcc構造を有するNiFeを用いることにより、その上のスピンバルブ膜の結晶配向をfcc(111)配向にすることができる。また、ピニング層13がIrMnの場合には良好なfcc(111)配向が実現され、ピニング層13がPtMnの場合には規則化したfct(111)構造(face-centered tetragonal structure:面心正方構造)が得られる。また、フリー層18及びピン層14としてfcc金属を用いたときには良好なfcc(111)配向を実現でき、フリー層18及びピン層14としてbcc金属を用いたときには、良好なbcc(110)配向とすることができる。結晶配向を向上させるシード層としての機能を十分発揮するために、シード層の膜厚としては、1nm以上5nm以下が好ましく、1nm以上3nm以下がより好ましい。好ましい一例として、ルテニウム層を2nmの厚さで形成することができる。
他にも、シード層の材料として、ルテニウムの代わりに、NiFeベースの合金(例えば、NixFe100−x(x=90%〜50%、好ましくは75%〜85%)又は、NiFeに第3元素Xを添加して非磁性にした(NixFe100−x)100−yXy(X=Cr、V、Nb、Hf、Zr、Mo))を用いることもできる。NiFeベースのシード層では、良好な結晶配向性を得るのが比較的容易であり、ロッキングカーブの半値幅を3°〜5°とすることができる。
シード層には、結晶配向を向上させる機能だけでなく、スピンバルブ膜の結晶粒径を制御する機能もある。具体的には、スピンバルブ膜の結晶粒径を5nm以上20nm以下に制御することができ、磁気抵抗効果素子のサイズが小さくなっても、特性のばらつきを招くことなく高いMR変化率を実現できる。
なお、シード層の結晶粒径を5nm以上20nm以下にすることで、結晶粒界による電子乱反射及び非弾性散乱サイトが少なくなる。このサイズの結晶粒径を得るには、ルテニウム層を2nm形成する。また、(NixFe100−x)100−yZy(ZはCr、V、Nb、Hf、Zr又はMo)の場合には、第3元素Zの組成yを0%〜30%程度として(yが0の場合も含む)、2nm形成することが好ましい。
スピンバルブ膜の結晶粒径は、シード層とスペーサ層16との間に配置された層の結晶粒の粒径によって判別できる(例えば、断面TEMなどによって決定できる)。例えば、ピン層14がスペーサ層16よりも下層に位置するボトム型スピンバルブ膜の場合には、シード層の上に形成されるピニング層13(反強磁性層)や、ピン層14(磁化固着層)の結晶粒径によって判別することができる。
ピニング層13は、その上に形成されるピン層14となる強磁性層に一方向異方性(unidirectional anisotropy)を付与して磁化を固着する機能を有する。ピニング層13の材料としては、IrMn、PtMn、PdPtMn、又はRuRhMnなどの反強磁性材料を用いることができる。この内、高記録密度対応のヘッドの材料として、IrMnが有利である。IrMnは、PtMnよりも薄い膜厚で一方向異方性を印加することができ、高密度記録の為に必要な狭ギャップ化に適している。
十分な強さの一方向異方性を付与するために、ピニング層13の膜厚を適切に設定する。ピニング層13の材料がPtMnやPdPtMnの場合には、膜厚として、8nm以上20nm以下が好ましく、10nm以上15nm以下がより好ましい。ピニング層13の材料がIrMnの場合には、PtMnなどより薄い膜厚でも一方向異方性を付与可能であり、4nm以上18nm以下が好ましく、5nm以上15nm以下がより好ましい。好ましい一例として、Ir22Mn78を7nm形成することができる。
ピニング層13として、反強磁性層の代わりに、ハード磁性層も用いることができる。ハード磁性層として、例えば、CoPt(Co=50%〜85%)、(CoxPt100−x)100−yCry(x=50%〜85%、y=0%〜40%)、FePt(Pt=40%〜60%)を用いることができる。ハード磁性層(特に、CoPt)は比抵抗が比較的小さいため、直列抵抗および面積抵抗RA(Resistance Area)の増大を抑制できる。
ここで、面積抵抗RAとは、磁気抵抗効果素子10の積層膜の積層方向に対して垂直な断面積と磁気抵抗効果素子10の積層膜の膜面に垂直に電流を流したときに一対の電極から得られる抵抗との積を示す。
スピンバルブ膜及びピニング層13の結晶配向性は、X線回折により測定できる。スピンバルブ膜のfcc(111)ピーク、ピニング層13(PtMn)のfct(111)ピークまたはbcc(110)ピークでのロッキングカーブの半値幅を3.5°〜6°として、良好な配向性を得ることができる。なお、この配向の分散角は断面TEMを用いた回折スポットからも判別することができる。
ピン層14においては、ピニング層13側から下部ピン層141、磁気結合層142、及び上部ピン層143がこの順に積層されている。
ピニング層13と下部ピン層141は一方向異方性(Unidirectional Anisotropy)を持つように交換磁気結合している。磁気結合層142を挟む下部ピン層141及び上部ピン層143は、磁化の向きが互いに反平行になるように強く結合している。
下部ピン層141の材料としては、例えば、CoxFe100−x合金(x=0%〜100%)、NixFe100−x合金(x=0%〜100%)、又はこれらに非磁性元素を添加したものを用いることができる。また、下部ピン層141の材料として、Co、Fe、Niの単元素やこれらの合金を用いることもできる。または、(CoxFe100−x)100−YBX合金(x=0%〜100%、x=0%〜30%)を用いることもできる。(CoxFe100−x)100−YBXのようなアモルファス合金を用いた場合、磁気抵抗効果素子の素子サイズが小さくなった場合に素子間のバラツキを抑えることができ、好ましい。
下部ピン層141の膜厚は1.5nm以上5nm以下が好ましい。ピニング層13による一方向異方性磁界強度および磁気結合層142を介した下部ピン層141と上部ピン層143との反強磁性結合磁界を強く保つためである。
また、下部ピン層141が薄すぎると、MR変化率に影響を与える上部ピン層143も薄くしなければならなくなるため、MR変化率が小さくなる。一方、下部ピン層141が厚すぎるとデバイス動作に必要な十分な一方向性異方性磁界を得ることが困難になる。
また、下部ピン層141の磁気膜厚(飽和磁化Bs×膜厚t(Bs・t積))を考慮する場合、上部ピン層143の磁気膜厚とほぼ等しいことが好ましい。つまり、上部ピン層143の磁気膜厚と下部ピン層141の磁気膜厚とが対応することが好ましい。
例えば、上部ピン層143がFe50Co50[3nm]の場合、薄膜でのFe50Co50の飽和磁化が約2.2Tであるため、磁気膜厚は2.2T×3nm=6.6Tnmとなる。Co75Fe25の飽和磁化が約2.1Tなので、上記と等しい磁気膜厚を与える下部ピン層141の膜厚tは6.6Tnm/2.1T=3.15nmとなる。したがって、この場合、下部ピン層141の膜厚は約3.2nmのCo75Fe25を用いることが好ましい。
ここで、‘/’は‘/’の左側に記載されたものから順に積層していることを示し、Au/Cu/Ruと記載された場合、Au層上にCu層を積層し、Cu層上にRu層を積層していることを示す。また、‘×2’とは、2層であることを示し、(Au/Cu)×2と記載された場合、Au層上にCu層を積層し、Cu層上にさらにAu層、Cu層と順次積層していることを示す。また、‘[ ]’はその材料の膜厚を示す。
磁気結合層142は、磁気結合層142を挟む下部ピン層141及び上部ピン層143に反強磁性結合を生じさせてシンセティックピン構造を形成する機能を有する。磁気結合層142として、Ruを用いることができ、磁気結合層142の膜厚は0.8nm以上1nm以下であることが好ましい。なお、磁気結合層142を挟む下部ピン層141及び上部ピン層143に十分な反強磁性結合を生じさせる材料であれば、Ru以外の材料を用いてもよい。磁気結合層142の膜厚は、RKKY(Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida)結合の2ndピークに対応する膜厚0.8nm以上1nm以下の代わりに、RKKY結合の1stピークに対応する膜厚0.3nm以上0.6nm以下を用いることもできる。ここでは、より高信頼性の結合を安定して特性が得られる、膜厚が0.9nmのルテニウム層が一例として挙げられる。
上部ピン層143は、MR効果に直接的に寄与する磁性層であり、大きなMR変化率を得るために、この構成材料、膜厚の双方が重要である。
上部ピン層143としては、Fe50Co50を用いることができる。Fe50Co50は、bcc構造を有する磁性材料である。この材料は、スピン依存界面散乱効果が大きいため、大きなMR変化率を実現することができる。bcc構造をもつFeCo系合金として、FexCo100−x(x=30%〜100%)や、FexCo100−xに添加元素を加えたものが挙げられる。そのなかでも、諸特性をすべて満たしたFe40Co60〜Fe80Co20が使いやすい材料の一例である。
上部ピン層143が、高MR変化率を実現しやすいbcc構造をもつ磁性層から形成されている場合には、この磁性層の全膜厚が1.5nm以上であることが好ましい。bcc構造を安定に保つためである。スピンバルブ膜に用いられる金属材料は、fcc構造またはfct構造であることが多いため、上部ピン層143のみがbcc構造を有することがあり得る。このため、上部ピン層143の膜厚が薄すぎると、bcc構造を安定に保つことが困難になり、高いMR変化率が得られなくなる。
また、上部ピン層143の材料として、(CoxFe100−x)100−YBX合金(x=0%〜100%、x=0%〜30%)を用いることもできる。(CoxFe100−x)100−YBXのようなアモルファス合金を用いた場合、磁気抵抗効果素子の素子サイズが小さくなった場合に懸念される結晶粒に起因した素子間のバラツキを抑えることができるため、好ましい。また、このようなアモルファス合金を用いた場合、上部ピン層143を平坦な膜にすることができるため、上部ピン層143の上に形成されるトンネル絶縁層を平坦化する効果がある。トンネル絶縁層の平坦化は、トンネル絶縁層の欠陥の頻度を減らすことができるため、低い面積抵抗で高いMR変化率を得るために重要である。特に、トンネル絶縁層材料としてMgOを用いる場合、(CoxFe100−x)100−YBXのようなアモルファス合金を用いることでその上に形成されるMgO層の(100)配向性を強めることができる。MgO層の(100)配向性は高いMR変化率を得るために重要である。また、(CoxFe100−x)100−YBX合金はアニール時にMgO(100)面をテンプレートとして結晶化するため、MgOと(CoxFe100−x)100−YBX合金の良好な結晶整合を得ることができる。このような良好な結晶整合は高いMR変化率を得るために重要である。
上部ピン層143の膜厚は、厚いほうが大きなMR変化率を得やすいが、大きなピン固着磁界を得るためには薄いほうが好ましく、トレードオフの関係が存在する。例えば、bcc構造をもつFeCo合金層を用いたときには、bcc構造を安定にする必要があるため、1.5nm以上の膜厚が好ましい。また、fcc構造のCoFe合金層を用いるときにも、大きなMR変化率を得るため、やはり1.5nm以上の膜厚が好ましい。一方、大きなピン固着磁界を得るためには、上部ピン層143の膜厚が最大でも、5nm以下であることが好ましく、4nm以下であることがより好ましい。以上のように、上部ピン層143の膜厚は、1.5nm以上5nm以下が好ましく、2.0nm以上4nm以下がより好ましい。
上部ピン層143には、bcc構造をもつ磁性材料の代わりに、従来の磁気抵抗効果素子で広く用いられているfcc構造を有するCo90Fe10合金や、hcp構造をもつCoや、Co合金を用いることができる。上部ピン層143として、Co、Fe、又はNiなどの単体金属、若しくはこれらのいずれか一つの元素を含む合金材料を用いることができる。上部ピン層143の磁性材料として、大きなMR変化率を得るのに有利なものは、bcc構造をもつFeCo合金材料、50%以上のコバルト組成をもつコバルト合金、50%以上のNi組成である。
また、上部ピン層143として、Co2MnGe、Co2MnSi、Co2MnAlなどのホイスラー磁性合金層を用いることも可能である。
スペーサ層16は、ピン層14とフリー層18との磁気的な結合を分断する。スペーサ層16として、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)から選択される少なくとも1つの元素を含む非磁性金属層やCCPスペーサ層、トンネル絶縁スペーサ層が形成される。CCPスペーサ層を用いる場合は、例えば酸化アルミニウム(Al2O3)絶縁層中に銅(Cu)メタルパスを有する構造を用いることができる。トンネル絶縁層を用いる場合、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)などを用いることができる。
スペーサ層16の上部又は第2の磁性層18の下部に酸化物層21が形成されている。酸化物層21の形成方法の例として、酸化物層21の材料としてNaCl構造を有するZn−Fe酸化物、および(Zn−Fe)XOY(Y/X≦4/3)で表されるスピネル構造を有するZn−Fe酸化物を用いた場合を例にとり説明する。まず、スペーサ層16上にFeとZnを含む金属層を成膜する。ここで、FeとZnの金属層は、Fe/ZnやZn/Feや(Fe/Zn)×2のようなFe層とZn層の積層体としても良いし、Zn20Fe80のような合金の単層としてもよい。
次に、ZnとFeを含む金属材料に酸化処理を施す。この酸化処理は、希ガスなどのイオンビームまたはプラズマを金属材料層に照射しながら、酸素を供給して行う、イオンアシスト酸化(IAO:Ion assisted Oxidation)を用いることができる。また、上記のイオンアシスト酸化処理において、酸素ガスをイオン化またはプラズマ化してもよい。イオンビームの照射による金属材料層へのエネルギーアシストにより、安定で均一な酸化物層21として形成することができる。
また、一層の酸化物層21を形成するに当たり、上述した金属材料層の形成と酸化処理を数回繰り返して行ってもよい。この場合、所定の膜厚の酸化物層21を一度の成膜および酸化処理で作製するのではなく、膜厚を分割して薄い膜厚の金属材料層に酸化処理を行うほうが好ましい。また、ZnとFeを含む金属材料層を酸素雰囲気に晒す自然酸化を用いてもよい。ただし、安定な酸化物を形成するためには、エネルギーアシストを用いた酸化方法のほうが好ましい。また、ZnとFeの金属材料を積層体とした場合は、均一に混合されたZnとFeの酸化物層21を形成する上で、イオンビームの照射を行いながら酸化したほうが好ましい。
希ガスなどのイオンビームまたはプラズマを用いる場合、当該希ガスは、例えば、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオンおよびクリプトンから成る群より選択される少なくとも1つを含むガスを使用することができる。
なお、エネルギーアシストの方法として、イオンビームの照射以外に加熱処理などを行ってもよい。この場合、たとえば、金属材料層を成膜後に100℃〜300℃の温度で加熱しながら、酸素を供給してもよい。
以下、酸化物層21を形成する酸化処理において、イオンビームアシスト酸化処理を行った場合のビーム条件について説明する。酸化処理により、酸化物層21を形成する際に前述した希ガスをイオン化またはプラズマ化して照射する場合、その加速電圧Vを30V〜130V、ビーム電流Ibを20mA〜200mAに設定することが好ましい。これらの条件は、イオンビームエッチングを行う場合の条件と比較すると著しく弱い条件である。イオンビームの換わりにRFプラズマなどのプラズマを用いても同様に酸化物層21を形成することができる。
イオンビームの入射角度は、膜面に対して垂直に入射する場合を0°、膜面に平行に入射する場合を90°と定義して、0°〜80°の範囲で適宜変更する。この工程による処理時間は15秒〜1200秒が好ましく、制御性などの観点から30秒以上がより好ましい。処理時間が長すぎると、磁気抵抗効果素子の生産性が劣るため好ましくない。これらの観点から、処理時間は30秒から600秒が好ましい。
イオン又はプラズマを用いた酸化処理の場合、酸素暴露量はIAOの場合には1×103〜1×104L(Langmiur、1L=1×10−6Torr×sec)が好ましい。自然酸化の場合には3×103L〜3×104Lが好ましい。
上述した酸化処理の後に、還元性ガスを用いた還元処理を行ってもよい。還元性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトンまたはキセノンのイオン、プラズマまたはラジカル、または水素または窒素の分子、イオン、プラズマまたはラジカルの少なくとも何れかを含むガスを使用することができる。特に還元性ガスとして、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトンまたはキセノンのイオンまたはプラズマ、または水素または窒素のイオンまたはプラズマの少なくとも何れかを含むガスを使用することが好ましい。さらに、還元性ガスとしては、アルゴンのイオンまたはプラズマの少なくとも何れかを含むガスを使用することが好ましい。
この還元処理によって、酸化処理後の母材料から成る膜の酸素濃度を調整することができ、スピン依存散乱を最も強く発現できる酸素含有量を有する構造に調整することができる。第3工程において、還元処理は、酸化処理後の母材料から成る膜を加熱しながら行うことができる。例えば、100℃から300℃に加熱した母材料に対して還元処理を行うことができる。加熱することで、より効率的に還元処理を行うことができる。
ここで、還元処理後の膜に対して、さらにアルゴンイオンの照射、アルゴンプラズマの照射又は加熱等の水分除去処理を施すことができる。これによって、還元処理の際に生成する水分を除去することができる。
また、酸化物層21の作製において、上記の工程を終えた後、酸化処理と還元処理とを再度繰り返すことができる。生成した水の除去と還元処理とを交互に繰り返すことで、より効率的に膜を還元することができる。
このような還元処理について、特にArイオンビーム照射を行った場合のビーム条件を以下に説明する。還元処理により、酸化物層21を形成する際に前述した希ガスをイオン化またはプラズマ化して照射する場合、その加速電圧Vを30V〜130V、ビーム電流Ibを20mA〜200mAに設定することが好ましい。これらの条件は、イオンビームエッチングを行う場合の条件と比較すると著しく弱い条件である。
イオンビームの換わりにRFプラズマなどのプラズマを用いても同様に酸化物層21を形成することができる。イオンビームの入射角度は、膜面に対して垂直に入射する場合を0°、膜面に平行に入射する場合を90°と定義して、0°〜80°の範囲で適宜変更する。この工程による処理時間は15秒〜1200秒が好ましく、制御性などの観点から30秒以上がより好ましい。処理時間が長すぎると、磁気抵抗効果素子の生産性が劣るため好ましくない。これらの観点から、処理時間は30秒から600秒が好ましい。
上述した酸化処理、還元処理において、適切なエネルギーアシストを行うことにより、NaCl構造を有するZn−Fe酸化物、および(Zn−Fe)XOY(Y/X≦4/3)で表されるスピネル構造を有するZn−Fe酸化物を作成することができる。すなわち、イオンビームアシスト酸化処理を行った場合においては、酸化物層21を形成する際に前述した希ガスをイオン化またはプラズマ化して照射する場合、その加速電圧Vを40V〜130V、ビーム電流Ibを40mA〜200mAに設定することが好ましい。
イオンビームの換わりにRFプラズマなどのプラズマを用いる場合、そのプラズマ電圧は20W〜200Wに設定することが望ましい。また、還元処理においては、特にArイオンビーム照射を行った場合、その加速電圧Vを40V〜130V、ビーム電流Ibを40mA〜200mAに設定することが好ましい。イオンビームの換わりにRFプラズマなどのプラズマを用いる場合、そのプラズマ電圧は20W〜200Wに設定することが望ましい。
フリー層18は、磁化方向が外部磁界によって変化する強磁性体を有する層である。例えば、界面にCoFeを形成してNiFeを用いたCo90Fe10[1nm]/Ni83Fe17[3.5nm]という二層構成を用いることができる。なお、NiFe層を用いない場合には、Co90Fe10[4nm]単層を用いることができる。また、CoFe/NiFe/CoFeなどの三層構成からなるフリー層18を用いても構わない。
フリー層18には、CoFe合金のなかでも、軟磁気特性が安定であることから、Co90Fe10が好ましい。Co90Fe10近傍のCoFe合金を用いる場合には、膜厚を0.5nm以上4nm以下とすることが好ましい。その他、CoxFe100−x(x=70%〜90%)も用いることができる。
また、フリー層18として、1nm以上2nm以下のCoFe層またはFe層と、0.1nm以上0.8nm以下の極薄Cu層とを複数層交互に積層したものを用いてもよい。
また、フリー層18の一部として、CoZrNbなどのアモルファス磁性層を用いても構わない。ただし、アモルファス磁性層を用いる場合でも、MR変化率に大きな影響を与えるスペーサ層16と接する界面は結晶構造を有する磁性層を用いることが必要である。
フリー層18の構造としては、スペーサ層16側からみて、次のような構成が可能である。即ち、フリー層18の構造として、(1)結晶層のみ、(2)結晶層/アモルファス層の積層、(3)結晶層/アモルファス層/結晶層の積層、などが考えられる。ここで重要なことは、(1)から(3)のいずれでもスペーサ層16との界面は必ず結晶層が接することである。
キャップ層19は、スピンバルブ膜を保護する機能を有する。キャップ層19は、例えば、複数の金属層、例えば、Cu層とRu層の2層構造(Cu[1nm]/Ru[10nm])とすることができる。また、キャップ層19として、Ruをフリー層18側に配置したRu/Cu層なども用いることができる。この場合、Ruの膜厚は0.5nm以上2nm以下が好ましい。この構成のキャップ層19は、特に、フリー層18がNiFeからなる場合に好ましい。RuはNiと非固溶な関係にあるので、フリー層18とキャップ層19の間に形成される界面ミキシング層の磁歪を低減できるからである。
キャップ層19が、Cu/RuやRu/Cuのいずれの場合も、Cu層の膜厚は0.5nm以上10nm以下が好ましく、Ru層の膜厚は0.5nm以上5nm以下とすることができる。Ruは比抵抗値が高いため、あまり厚いRu層を用いることは好ましくないため、このような膜厚範囲にしておくことが好ましい。
キャップ層19として、Cu層やRu層の代わりに他の金属層を設けてもよい。キャップ層19の構成は特に限定されず、キャップとしてスピンバルブ膜を保護可能なものであれば、他の材料を用いてもよい。但し、キャップ層の選択によってMR変化率や長期信頼性が変わる場合があるので、注意が必要である。CuやRuはこれらの観点からも好ましいキャップ層の材料の例である。
次に、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の動作について説明する。
図5において、下電極11及び上電極20は、磁気抵抗効果素子10の積層方向に電流を流す。この電流が流れることによって、磁気抵抗効果に起因する抵抗の変化を検出することができる。
次に、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の効果について、比較例と比較しながら説明する。
第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10を作製して、RA値及びMR変化率を評価した。すなわち、図5に示すように、酸化物層21をスペーサ層16の上部又はフリー層18の下部に設けた。
以下に、本実施形態で形成した磁気抵抗効果素子10の構成を示す。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
酸化物層21の作製方法は、スペーサ層16上に、Feを1nm形成し、その上にZnを0.6nm形成した。次に、表面酸化によりZnとFeの混合酸化物(以下、Zn−Fe−Oと表記する)へと変換を行って酸化物層21を形成した。
また、本実施形態では比較例として、酸化物層21を設けていない磁気抵抗効果素子も作製した。膜構造は下記のとおりである。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
フリー層18:Fe50Co50[4nm]
これらの層を積層後、280℃で5時間アニール処理を行った。その後、下電極11及び上電極20を形成した。
本発明者らは、酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、異なる結晶構造を有する酸化物層の作成に成功した。
表1は、酸化物層21の形成工程及び酸化物層の構造を変化させた時の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表1に示すように、比較例1−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。比較例1−2は、酸化物層21の形成工程として、鉄(Fe)を1.0nm及び亜鉛(Zn)を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件(加速度電圧Vb=60V、ビーム電流Ib=60mA)として形成した場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、スピネル構造の結晶構造を示し、γ−(Fe85Zn15)2O3を材料とするものであった。
実施例1−1は、酸化物層21の形成工程として、鉄(Fe)を1.0nm及び亜鉛(Zn)を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件(加速度電圧Vb=60V、ビーム電流Ib=60mA)とし、さらに、イオンビームアシスト酸化後に、アルゴン(Ar)プラズマの照射時の投入電力を高加速度条件(60W)とした場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、NaCl構造の結晶構造を示し、(Fe85Zn15)Ox、すなわち、ウスタイトの鉄酸化物を材料とするものであった。
実施例1−2は、酸化物層21の形成工程として、鉄を1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を高加速度条件(加速度電圧Vb=80V、ビーム電流Ib=60mA)とした場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、NaCl構造の結晶構造を示し、(Fe85Zn15)Ox、すなわち、ウスタイトの鉄酸化物を材料とするものであった。
実施例1−3は、酸化物層21の形成工程として、鉄を1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件(加速度電圧Vb=60V、ビーム電流Ib=60mA)とし、さらに、イオンビームアシスト酸化後に、アルゴン(Ar)プラズマの照射時の投入電力を低加速度条件(20W)とした場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、スピネル構造の(Fe85Zn15)3O4を材料とするものであった。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の酸化物層21におけるZn−Fe酸化物は、NaCl構造を有する(Zn−Fe)1O1、スピネル構造を有する(Zn−Fe)3O4、同じくスピネル構造を有するγ‐(Zn−Fe)2O3などの構造を有する。ここで、後の構造ほど高い酸素含有量を有する。これら3つの酸化物は、同じ立方晶の基本結晶構造を有しているため、酸化・還元反応により連続的に構造変化が確認されている材料系である。それぞれのストイキオメトリの酸化価数の中間の酸素含有量を有する構造も、酸化・還元条件により連続的に実現される。本実施形態では、表1に示すように表面酸化処理の条件を検討することで、前述した3つの構造を作製することに成功した。
表面酸化条件を変えて作製した、実施例1−1〜1−3および比較例1−2のZn−Fe−O酸化物層の構造の評価には、X線回折法とXPS分析により行った。X線回折法では、酸化物の結晶構造を正確に同定するために、Zn−Fe−O層の形成プロセスを繰り返し30回行い、およそ45nmのZn−Fe−O層をTa5nm/Cu5nm下地上に形成した試料を用いた。
図6(a)は、第1の実施形態に係る比較例1−2について、(b)は、第1の実施形態に係る実施例1−3について、(c)は第1の実施形態に係る実施例1−1についての酸化物層21のX線回折プロファイルを例示するグラフである。横軸は2θ、縦軸は強度を示す。
図7(a)は、第1の実施形態に係る比較例1−2についての鉄2pのXPSスペクトル、(b)は、第1の実施形態に係る実施例1−3についての鉄2pのXPSスペクトル、(c)は、第1の実施形態に係る実施例1−1についての鉄2pのXPSスペクトルを例示するグラフである。横軸は結合エネルギー、縦軸は強度を示す。
図6(a)に示すように、比較例1−2の低加速条件のIAO工程のみで形成したZn−Fe−O酸化物層は、X回折における2θが20°付近に出現するスピネル構造特有のピークP11を有することにより、スピネル構造であることが確認できた。
また、図7(a)に示すように、比較例1−2の低加速条件のIAO工程のみで形成したZn−Fe−O酸化物層の鉄2pスペクトルは、XPS分析における結合エネルギーが712及び725eV付近に出現するFe3+のピークP21と一致しており、718eV付近にこのFe3+サテライトピークP22が出現していることから、この酸化物層21の鉄イオンは主に3価となっていることがわかる。すなわち、比較例1−2の酸化物層の酸化価数は(Zn−Fe)2O3となっていることが確認され、γ‐(Zn−Fe)2O3型のスピネル構造となっていることが同定された。
次に、図6(b)に示すように、低加速条件のIAO工程を行った後に、高加速条件のArプラズマ照射処理を行った実施例1−3のZn−Fe−O酸化物層は、図6(a)と同様に、X回折における2θが20°付近に出現するスピネル構造特有のピークP12を有することにより、スピネル構造である。しかし、図7(b)に示すように、実施例1−3のZn−Fe−O酸化物層の鉄2pスペクトルは、XPS分析における結合エネルギーが712及び725eV付近に出現するFe3+のピークP23の他に、結合エネルギーが710及び723eV付近に出現するFe2+のピークP24を有する。これらのピークP23及びP24が両方確認された結果より、この酸化物層21は、鉄イオンの2価及び3価を有することがわかる。すなわち、実施例1−3の酸化物層の酸化価数は(Zn−Fe)3O4であることが確認され、(Zn−Fe)3O4型のスピネル構造なっていることが同定された。
次に、図6(c)に示すように、低加速条件のIAO工程を行った後に、高加速条件のArプラズマ照射処理を行った実施例1−1のZn−Fe−O酸化物層は、NaCl構造を示す構造を示し、特に、スピネル構造特有のピークを有していないことより、NaCl構造であることが同定された。また、図7(c)に示すように、低加速条件のIAO工程を行った後に、高加速条件のArプラズマ照射処理を行った実施例1−1のZn−Fe−O酸化物層の鉄2pスペクトルは、XPS分析における結合エネルギーが710及び723eV付近に出現するFe2+のピークP25と一致しており、715eV付近にFe2+サテライトピークP26が出現していることから、この酸化物層21において、鉄イオンは主に2価となっていることがわかる。すなわち、実施例1−1の酸化物層21の酸化価数は(Zn−Fe)Ox(x≒1)であることが確認された。すなわち、実施例1−1のZn−Fe−O酸化物層は、前述した3つの結晶構造の中で最も酸素含有量の低いNaCl構造(Feを含有する場合には通称ウスタイト)となっていることが確認された。
高加速条件のIAO工程を行った実施例1−2のZn−Fe−O酸化物層についても同様の分析を行うことにより、NaCl構造となっていることが確認された。また、実施例1−2の酸価数は、(Zn−Fe)Ox(x≒1)と(Zn−Fe)3O4の間の価数となっていることがわかった。また、実施例1−1〜1−3および比較例1−2の結晶配向はすべて立方晶系の(111)配向であることが確認された。
表1に示すように、実施例1−1〜1−3および比較例1−2のZn−Fe−O酸化物層をスピンフィルタリング層として挿入した磁気抵抗効果素子はいずれも比較例1−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を示した。ここで、実施例1−1〜1−3に示すNaCl構造もしくは(Zn−Fe)3O4型のスピネル構造を有するZn−Fe−O酸化物層を設けた磁気抵抗効果素子は、比較例1−2に示すγ‐(Zn−Fe)2O3型のスピネル構造のそれに比べて、高いMR変化率を示した。さらに、実施例1−1、1−2のNaCl構造のZn−Fe−O酸化物層を設けた素子は、(Zn−Fe)3O4型のスピネル構造を有するZn−Fe−O酸化物層を設けた素子に比べて高いMR変化率を示した。
上記の結果より、NaCl構造もしくはMeXOY型(Y/X≦4/3)のスピネル構造を有する酸化物層をスピンフィルタリング層として磁気抵抗効果素子に挿入することで著しいMR変化率の向上を確認することができた。
図8は、第1の実施形態に係る実施例1−1の酸化物層の結晶配向分散のプロファイルを例示するグラフである。横軸はあおり角、縦軸は強度を示す。
実施例1−1の酸化物層の結晶配向分散角をX線回折装置において、2θ―θをNaCl(111)面の値に固定して、あおり角ωを変えて測定を行った結果を示す。図7より、実施例1−1の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例1−1のように5°以下がさらに望ましい。
図9(a)は、第1の実施形態に係る実施例1−1の磁気抵抗効果素子10の断面を例示するTEM像写真である。図9(a)に示すように、スペーサ層16とフリー層18の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できる。
図9(b)は、(a)に対応したEDXライン分析を例示するグラフである。縦軸は(a)に示す写真の縦方向、すなわち積層体の深さを示し、縦軸は、各元素の濃度を示す。図9(b)に示すように、酸化物層21に相当する場所は、Zn、Fe、Oのピークが一致しており、成膜時にはFe[1nm]/Zn[0.6nm]のように積層構造で成膜したZnとFeが表面酸化時のエネルギーアシストにより、完全に混合した酸化物層が形成されていることがわかる。なお、本発明に係わる何れの磁気抵抗効果素子でも、TEM像及びEDXライン分析により同様に均一な酸化物層が形成されていることが確認できた。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料にたいして、酸化物層部分に直径を1nm程度に絞り込んだ電子ビームを照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。
図10は、実施例1−1の酸化物層におけるナノディフラクションの測定結果を例示する図である。
図10に示すように、回折スポットDS31として、膜面垂直方向に配向した面間隔d=0.252nmを有する結晶面に起因した回折スポットが確認されており、回折スポットDS31から70°傾いた方向に、同様に面間隔d=0.252nmの結晶面に起因した回折スポットDS32が確認されている。この回折スポットDS31と回折スポットDS32がなす角度は、<111>方向とその等価面、例えば<−111>のなす角度70°と一致しているため、回折スポットDS31は(111)配向面、回折スポットDS32は(111)配向面の等価面であることがわかる。
一方で、図10に示すナノディフラクションの測定結果では、面間隔がおよそ0.485nmであるスピネル構造の(111)面に起因した回折スポットは確認できていないことから、実施例1−1の酸化物層は、NaCl構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンであることがわかる。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
図11は、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を例示する斜視図である。
図11に示すように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子においては、酸化物層21が、スペーサ層とピン層の間に設けられている。その他の構成は、フリー層の膜厚が4nmであることを除けば、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[3nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
フリー層18:Fe50Co50[4nm]
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、異なる結晶構造および結晶配向を有する酸化物層の作成に成功した。
表2は、酸化物層21の形成工程及び酸化物層の構造を変化させた時の第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表2に示すように、比較例2−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。比較例2−2は、酸化物層21の形成工程として、Feを1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件として形成した場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層は、スピネル構造の結晶構造を示し、γ−(Fe85Zn15)2O3を材料とするものであった。
実施例2−1は、酸化物層21の形成工程として、鉄を1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件として形成し、さらに、イオンビームアシスト酸化後に、Arプラズマの照射時の投入電力を高加速度条件とした場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、NaCl構造結晶構造を示し、(Fe85Zn15)Ox、すなわち、ウスタイトの鉄酸化物を材料とするものであった。
実施例2−2は、酸化物層21の形成工程として、鉄を1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を高加速度条件として形成した場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、NaCl構造の結晶構造を示し、(Fe85Zn15)Ox、すなわち、ウスタイトの鉄酸化物を材料とするものであった。
実施例2−3は、酸化物層21の形成工程として、鉄を1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件とし、さらに、イオンビームアシスト酸化後に、アルゴン(Ar)プラズマの照射時の投入電力を低加速度条件とした場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、スピネル構造の(Fe85Zn15)3O4を材料とするものであった。
第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表2には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。また、実施例2−1〜2−3および比較例2−2の結晶配向はすべて立方晶系の(111)配向であることが確認された。
実施例2−1〜2−3および比較例2−2のZn−Fe−O酸化物層をスピンフィルタリング層として挿入した磁気抵抗効果素子はいずれも比較例2−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いWR変化率を示した。ここで、実施例2−1〜2−3に示すNaCl構造もしくは(Zn−Fe)3O4型のスピネル構造を有するZn−Fe−O酸化物層を設けた磁気抵抗効果素子は、比較例2−2に示すγ‐(Zn−Fe)2O3型のスピネル構造のそれに比べて、高いMR変化率を示した。さらに、実施例2−1、2−2のNaCl構造のZn−Fe−O酸化物層を設けた素子は、実施例2−3の(Zn−Fe)3O4型のスピネル構造を有するZn−Fe−O酸化物層を設けた素子に比べて高いMR変化率を示した。
上記の結果より、酸化物層をスペーサ層とピン層の間に設けた場合においても、NaCl構造もしくはMeXOY型(Y/X≦4/3)のスピネル構造を有する酸化物層をスピンフィルタリング層として磁気抵抗効果素子に挿入することで著しいMR変化率の向上を確認することができた。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料にたいして、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例2−1の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、NaCl構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例2−1の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例2−1のように5°以下がさらに望ましい。
実施例2−1の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、スペーサ層16とピン層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。また、EDXライン分析結果より、酸化物層21に相当する場所は、Zn、Fe、Oのピークが一致しており、成膜時にはFe1nm/Zn0.6nmのように積層構造で成膜したZnとFeが表面酸化時のエネルギーアシストにより、完全に混合した酸化物層が形成されていることがわかった。
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
図12は、第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を例示する斜視図である。
図12に示すように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子においては、酸化物層21が、スペーサ層16中に設けられている。すなわち、ピン層14上にスペーサ層16を構成する下部金属層15が設けられ、その上に、酸化物層21が設けられている。そして、酸化物層21上に、スペーサ層16を構成する上部金属層17が設けられている。その他の構成は、フリー層の膜厚が4nmであることを除けば、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
下部金属層15:Cu[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
上部金属層15:Zn[0.5nm]
フリー層18:Fe50Co50[4nm]
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、異なる結晶構造および結晶配向を有する酸化物層の作成に成功した。
表3は、酸化物層21の形成工程及び酸化物層の構造を変化させた時の第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表3に示すように、比較例3−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。比較例3−2は、酸化物層21の形成工程として、Feを1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件として形成した場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、スピネル構造のγ−(Fe85Zn15)2O3を材料とするものであった。
実施例3−1は、酸化物層21の形成工程として、鉄を1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件とし、さらに、イオンビームアシスト酸化後に、Arプラズマの照射時の投入電力を高加速度条件とした場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、NaCl構造の(Fe85Zn15)Ox、すなわち、ウスタイトの鉄酸化物を材料とするものであった。
実施例3−2は、酸化物層21の形成工程として、鉄を1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を高加速度条件として形成した場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、NaCl構造の(Fe85Zn15)Ox、すなわち、ウスタイトの鉄酸化物を材料としたものであった。
実施例3−3は、酸化物層21の形成工程として、鉄1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件とし、さらに、イオンビームアシスト酸化後に、Arプラズマの照射時の投入電力を低加速度条件とした場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、スピネル構造の(Fe85Zn15)3O4を材料とするものであった。
第3の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表3には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。また、実施例3−1〜3−3および比較例3−2の結晶配向はすべて立方晶系の(111)配向であることが確認された。
実施例3−1〜3−3および比較例3−2のZn−Fe−O酸化物層をスピンフィルタリング層として挿入した磁気抵抗効果素子はいずれも比較例3−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を示した。ここで、実施例3−1〜3−3に示すNaCl構造もしくは(Zn−Fe)3O4型のスピネル構造を有するZn−Fe−O酸化物層を設けた磁気抵抗効果素子は、比較例3−2に示すγ‐(Zn−Fe)2O3型のスピネル構造のそれに比べて、高いMR変化率を示した。さらに、実施例3−1、3−2のNaCl構造のZn−Fe−O酸化物層を設けた素子は、実施例3−3の(Zn−Fe)3O4型のスピネル構造を有するZn−Fe−O酸化物層を設けた素子に比べて高いMR変化率を示した。
上記の結果より、酸化物層をスペーサ層中に設けた場合においても、NaCl構造もしくはMeXOY型(Y/X≦4/3))のスピネル構造を有する酸化物層をスピンフィルタリング層として磁気抵抗効果素子に挿入することで著しいMR変化率の向上を確認することができた。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例3−1の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、NaCl構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例3−1の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例3−1のように5°以下がさらに望ましい。
実施例3−1の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、下部金属層と上部金属層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。また、EDXライン分析結果より、機能層21に相当する場所は、Zn、Fe、Oのピークが一致しており、成膜時にはFe1nm/Zn0.6nmのように積層構造で成膜したZnとFeが表面酸化時のエネルギーアシストにより、完全に混合した酸化物層が形成されていることがわかった。
ここで、スぺーサ層16はピン層14とフリー層18の磁気結合を分断する機能を有する。通常スペーサ層16に鉄、コバルト、ニッケルなどの通常の金属磁性材料を用いた場合には、ピン層14とフリー層18の磁気結合を分断することはできないが、本実施形態においてスペーサ層16の内部に設けた酸化物層は、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属磁性材料に比べて、磁化が極めて小さいか、もしくは非磁性体となっているため、スペーサ層16としてピン層14とフリー層18の磁気結合を分断する機能を有する。ここで、ピン層14とフリー層18の磁気結合を十分に分断するためには、本実施形態のように下部金属層15と上部金属層17を設けて、ピン層14とフリー層18の間の膜厚を調整することが望ましい。
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
図13は、第4の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を例示する斜視図である。
図13に示すように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子においては、酸化物層21が、スペーサ層すべてを占めている。すなわち、酸化物層21のみでスペーサ層が構成されている。その他の構成は、酸化物層の膜厚が2nm、フリー層の膜厚が4nmであることを除けば、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[2nm]
フリー層18:Fe50Co50[4nm]
本実施例においても、実施例1と同様に酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、異なる結晶構造および結晶配向を有する酸化物層の作成に成功した。
表4は、酸化物層21の形成工程及び酸化物層の構造を変化させた時の第4の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表4に示すように、比較例4−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。比較例4−2は、酸化物層21の形成工程として、Feを1.5nm及び亜鉛を0.8nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件として形成した場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、スピネル構造のγ−(Fe85Zn15)2O3を材料とするものであった。
実施例4−1は、酸化物層21の形成工程として、鉄を1.5nm及び亜鉛を0.8nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件とし、さらに、イオンビームアシスト酸化後に、Arプラズマの照射時の投入電力を高加速度条件とした場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、NaCl構造の(Fe85Zn15)Ox、すなわち、ウスタイトの鉄酸化物を材料とするものであった。
実施例4−2は、酸化物層21の形成工程として、鉄を1.5nm及び亜鉛を0.8nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を高加速度条件として形成した場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、NaCl構造の(Fe85Zn15)Ox、すなわち、ウスタイトの鉄酸化物を材料とするものであった。
実施例4−3は、酸化物層21の形成工程として、鉄を1.5nm及び亜鉛を0.8nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件とし、さらに、イオンビームアシスト酸化後に、Arプラズマの照射時の投入電力を低加速度条件とした場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、スピネル構造の(Fe85Zn15)3O4を材料とするものであった。
第4の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表4には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。また、実施例4−1〜4−3および比較例4−2の結晶配向はすべて立方晶系の(111)配向であることが確認された。
実施例4−1〜4−3および比較例4−2のZn−Fe−O酸化物層をスピンフィルタリング層として挿入した磁気抵抗効果素子はいずれも比較例4−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を示した。ここで、実施例4−1〜4−3に示すNaCl構造もしくは(Zn−Fe)3O4型のスピネル構造を有するZn−Fe−O酸化物層を設けた磁気抵抗効果素子は、比較例4−2に示すγ‐(Zn−Fe)2O3型のスピネル構造のそれに比べて、高いMR変化率を示した。さらに、実施例4−1、4−2のNaCl構造のZn−Fe−O酸化物層を設けた素子は、実施例4−3の(Zn−Fe)3O4型のスピネル構造を有するZn−Fe−O酸化物層を設けた素子に比べて高いMR変化率を示した。
上記の結果より、酸化物層をスペーサ層として設けた場合においても、NaCl構造もしくはMeXOY型(Y/X≦4/3)のスピネル構造を有する酸化物層をスピンフィルタリング層として磁気抵抗効果素子に挿入することで著しいMR変化率の向上を確認することができた。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例3−1の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、NaCl構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例4−1の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例4−1のように5°以下がさらに望ましい。
実施例4−1の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、ピン層とフリー層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。また、EDXライン分析結果より、機能層21に相当する場所は、Zn、Fe、Oのピークが一致しており、成膜時にはFe[1nm]/Zn[0.6nm]のように積層構造で成膜したZnとFeが表面酸化時のエネルギーアシストにより、完全に混合した酸化物層が形成されていることがわかった。
ここで、スペーサ層16はピン層14とフリー層18の磁気結合を分断する機能を有する。通常スペーサ層16に鉄、コバルト、ニッケルなどの通常の金属磁性材料を用いた場合には、ピン層14とフリー層18の磁気結合を分断することはできないが、本実施形態においてスペーサ層16の内部に設けた酸化物層は、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属磁性材料に比べて、磁化が極めて小さいか、もしくは非磁性体となっているため、スペーサ層としてピン層14とフリー層18の磁気結合を分断する機能を有する。
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
図14は、第5の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を例示する分解斜視図である。
図14に示すように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子においては、酸化物層21が、スペーサ層とフリー層の間に設けられているとともに、スペーサ層には電流狭窄層41が設けられている。すなわち、ピン層上には、スペーサ層を構成する下部金属層が設けられ、下部金属層上には、電流狭窄層41が設けられている。電流狭窄層41は、貫通孔が形成された絶縁材で、貫通孔には、金属部材が埋設されたものである。電流狭窄層41上には、スペーサ層を構成する上部金属層が設けられ、上部金属層上には、酸化物層21が設けられている。本実施形態においては、スペーサ層は、下部金属層、電流狭窄層41及び上部金属層から構成されている。その他の構成は、フリー層の膜厚が4nmであることを除けば、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
下部金属層15:Cu[0.6nm]
電流狭窄層41:Al2O3絶縁層中にCuメタルパスが上下に貫通した構造[2nm]
上部金属層15:Zn[0.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
フリー層18:Fe50Co50[4nm]
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、異なる結晶構造および結晶配向を有する酸化物層の作成に成功した。
表5は、酸化物層21の形成工程及び酸化物層の構造を変化させた時の第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表5に示すように、比較例5−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。比較例5−2は、酸化物層21の形成工程として、Feを1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件として形成した場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、スピネル構造のγ−(Fe85Zn15)2O3を材料とするものであった。
実施例5−1は、酸化物層21の形成工程として、鉄を1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件とし、さらに、イオンビームアシスト酸化後に、Arプラズマの照射時の投入電力を高加速度条件とした場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、NaCl構造の(Fe85Zn15)Ox、すなわち、ウスタイトの鉄酸化物を材料とするものであった。
実施例5−2は、酸化物層21の形成工程として、鉄を1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を高加速度条件として形成した場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21は、NaCl構造の(Fe85Zn15)Ox、すなわち、ウスタイトの鉄酸化物を材料とするものであった。
実施例5−3は、酸化物層21の形成工程として、鉄を1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件とし、さらに、イオンビームアシスト酸化後に、Arプラズマの照射時の投入電力を低加速度条件とした場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層は、スピネル構造の(Fe85Zn15)3O4を材料とするものであった。
第5の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表5には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。また、実施例5−1〜5−3および比較例5−2の結晶配向はすべて立方晶系の(111)配向であることが確認された。
実施例5−1〜5−3および比較例5−2のZn−Fe−O酸化物層をスピンフィルタリング層として挿入した磁気抵抗効果素子はいずれも比較例5−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を示した。ここで、実施例5−1〜5−3に示すNaCl構造もしくは(Zn−Fe)3O4型のスピネル構造を有するZn−Fe−O酸化物層を設けた磁気抵抗効果素子は、比較例5−2に示すγ‐(Zn−Fe)2O3型のスピネル構造のそれに比べて、高いMR変化率を示した。さらに、実施例5−1、5−2のNaCl構造のZn−Fe−O酸化物層を設けた素子は、実施例5−3の(Zn−Fe)3O4型のスピネル構造を有するZn−Fe−O酸化物層を設けた素子に比べて高いMR変化率を示した。
上記の結果より、酸化物層をスペーサ層中に設けた場合においても、NaCl構造又はMeXOY型(Y/X≦4/3)のスピネル構造を有する酸化物層をスピンフィルタリング層として磁気抵抗効果素子に挿入することで、著しいMR変化率の向上を確認することができた。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例3−1の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、NaCl構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例5−1の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例5−1のように5°以下がさらに望ましい。
実施例5−1の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、上部金属層とフリー層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。また、EDXライン分析結果より、機能層21に相当する場所は、Zn、Fe、Oのピークが一致しており、成膜時にはFe[1nm]/Zn[0.6nm]のように積層構造で成膜したZnとFeが表面酸化時のエネルギーアシストにより、完全に混合した酸化物層が形成されていることがわかった。
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成は、図5に示すような第1の実施形態に係るものと同様であるが、第1の実施形態との違いは酸化物層21の材料を変更した点である。
表6は、酸化物層21の材料を変化させた場合の第6の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表6に示すように、比較例6−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例6−1〜6−16は、酸化物層21がNaCl構造を有する場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。具体的には、実施例6−1はFeOx(ウスタイト)、実施例6−2はCoOx、実施例6−3はNiOx、実施例6−4は(Fe50Co50)Ox(ウスタイト)、実施例6−5は(Fe50Ni50)Ox(ウスタイト)、実施例6−6は(Co50Ni50)Ox、実施例6−7はTiOx、実施例6−8はVOx、実施例6−9はMnOx、実施例6−10はZnOx、実施例6−11はPdOx、実施例6−12はPtOx、実施例6−13はSmOx、実施例6−14はAgOx、実施例6−15はCdOx、実施例6−16はRuOxを酸化物層21の材料とする磁気抵抗効果素子についてのものである。
その他の構成は、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
酸化物層21:[表6に記載]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表6には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。本発明者らは、酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、表6に記載した材料でNaCl構造の(111)配向膜を作製することに成功した。
表6より、NaCl構造を有するさまざまな酸化物材料をスピンフィルタリング層として挿入した磁気抵抗効果素子はいずれも比較例6−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を示した。
上記の結果より、NaCl構造を有するさまざまな材料の酸化物層をスピンフィルタリング層として磁気抵抗効果素子に挿入することで著しいMR変化率の向上を確認することができた。表6で挙げていない材料についても、NaCl構造を持つ酸化物層ならばスピンフィルタリング層として磁気抵抗効果素子に挿入することで著しいMR変化率の向上を確認することができる。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例6−1〜6−15の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、NaCl構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例6−1の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例6−1のように5°以下がさらに望ましい。
実施例6−1〜6−15の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、スペーサ層とフリー層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。
(第7の実施形態)
次に、第7の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成は、図5に示すような第1の実施形態に係るものと同様であるが、第1の実施形態との違いは酸化物層21の材料を変更した点である。
表7は、酸化物層21の材料を変化させた場合の第7の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表7に示すように、比較例7−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例7−1〜7−23は、酸化物層21がNaCl構造を有する場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。本実施例では、Feを含む酸化物層21に添加元素を加えた場合について検討した結果を示している。具体的には、実施例7−1はFeOx(ウスタイト)、実施例7−2は(Fe85Zn15)Ox(ウスタイト)、実施例7−3は(Fe42.5Co42.5Zn15)Ox(ウスタイト)、実施例7−4は(Fe42.5Ni42.5Zn15)Ox(ウスタイト)、実施例7−5は(Fe85In15)Ox(ウスタイト)、実施例7−6は(Fe85Sn15)Ox(ウスタイト)、実施例7−7は(Fe85Cd15)Ox(ウスタイト)、実施例7−8は(Fe85Co15)Ox(ウスタイト)、実施例7−9は(Fe85Ni15)Ox(ウスタイト)、実施例7−10は(Fe85Cu15)Ox(ウスタイト)、実施例7−11は(Fe85Ti15)Ox(ウスタイト)、実施例7−12は(Fe85V15)Ox(ウスタイト)、実施例7−13は(Fe85Cr15)Ox(ウスタイト)、実施例7−14は(Fe85Mn15)Ox(ウスタイト)、実施例7−15は(Fe85Al15)Ox(ウスタイト)、実施例7−16は(Fe85Si15)Ox(ウスタイト)、実施例7−17は(Fe85Mg15)Ox(ウスタイト)、実施例7−18は(Fe85Pt15)Ox(ウスタイト)、実施例7−19は(Fe85Pd15)Ox(ウスタイト)、実施例7−20は(Fe85Ag15)Ox(ウスタイト)、実施例7−21は(Fe85Zr15)Ox(ウスタイト)、実施例7−22は(Fe85Hf15)Ox(ウスタイト)、実施例7−23は(Fe85Ta15)Ox(ウスタイト)、を酸化物層21の材料とする磁気抵抗効果素子についてのものである。
その他の構成は、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
酸化物層21:[表7に記載]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表7には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。本発明者らは、酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、表7に記載した材料でNaCl構造の(111)配向膜を作製することに成功した。
表7より、NaCl構造を有するさまざまな酸化物材料をスピンフィルタリング層として挿入した磁気抵抗効果素子はいずれも比較例7−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を示した。表7に示したように、酸化物層21の金属元素MeにFeを用いた場合に対して、Zn、In、Sn、Cd、Co、Ni、Cu、Ti、V、Cr、Mn、Al、Si、Mg、Pt、Pd、Ag、Zr、Hf、Ta様々な添加元素を加えた場合においても、高いMR変化率を得ることができる。表7では、添加元素を15at.%加えた場合を代表例として示しているが、添加量が0.5at.%〜50at.%の範囲で同様に比較例7−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を確認できている。
ここで、特に酸化物層21の金属元素MeにFeを用いた場合、添加元素としてZn、In、Sn、Cdを加えた場合に特に高いMR変化率が確認できた。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例7−1〜7−23の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、NaCl構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例7−1の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例6−1のように5°以下がさらに望ましい。
実施例7−1〜7−23の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、スペーサ層とフリー層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。
(第8の実施形態)
次に、第8の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成は、図5に示すような第1の実施形態に係るものと同様であるが、第1の実施形態との違いは酸化物層21の材料を変更した点である。
表7は、酸化物層21の材料を変化させた場合の第8の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表8に示すように、比較例8−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例8−1〜8−20は、酸化物層21がNaCl構造を有する場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。本実施例では、Fe50Co50を含む酸化物層21に添加元素を加えた場合について検討した結果を示している。具体的には、実施例8−1は(Fe50Co50)Ox(ウスタイト)、実施例8−2は((Fe50Co50)85Zn15)Ox(ウスタイト)、実施例8−3は((Fe50Co50)85In15)Ox(ウスタイト)、実施例8−4は((Fe50Co50)85Sn15)Ox(ウスタイト)、実施例8−5は((Fe50Co50)85Cd15)Ox(ウスタイト)、実施例8−6は((Fe50Co50)85Ni15)Ox(ウスタイト)、実施例8−7は((Fe50Co50)85Cu15)Ox(ウスタイト)、実施例8−8は((Fe50Co50)85Ti15)Ox(ウスタイト)、実施例8−9は((Fe50Co50)85V15)Ox(ウスタイト)、実施例8−10は((Fe50Co50)85Cr15)Ox(ウスタイト)、実施例8−11は((Fe50Co50)85Mn15)Ox(ウスタイト)、実施例8−12は((Fe50Co50)85Al15)Ox(ウスタイト)、実施例8−13は((Fe50Co50)85Al15)Ox(ウスタイト)、実施例8−14は((Fe50Co50)85Si15)Ox(ウスタイト)、実施例8−15は((Fe50Co50)85Pt15)Ox(ウスタイト)、実施例8−16は((Fe50Co50)85Pd15)Ox(ウスタイト)、実施例8−17は((Fe50Co50)85Ag15)Ox(ウスタイト)、実施例8−18は((Fe50Co50)85Zr15)Ox(ウスタイト)、実施例8−19は((Fe50Co50)85Hf15)Ox(ウスタイト)、実施例8−20は((Fe50Co50)85Ta15)Ox(ウスタイトを酸化物層21の材料とする磁気抵抗効果素子についてのものである。
その他の構成は、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
酸化物層21:[表8に記載]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表8には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。本発明者らは、酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、表8に記載した材料でNaCl構造の(111)配向膜を作製することに成功した。
表8より、NaCl構造を有するさまざまな酸化物材料をスピンフィルタリング層として挿入した磁気抵抗効果素子はいずれも比較例8−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を示した。表8に示したように、酸化物層21の金属元素MeにFe50Co50を用いた場合に対して、Zn、In、Sn、Cd、Ni、Cu、Ti、V、Cr、Mn、Al、Si、Mg、Pt、Pd、Ag、Zr、Hf、Ta様々な添加元素を加えた場合においても、高いMR変化率を得ることができる。表8では、添加元素を15at.%加えた場合を代表例として示しているが、添加量が0.5at.%〜50at.%の範囲で同様に比較例8−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を確認できている。ここで、特に酸化物層21の金属元素MeにFe50Co50を用いた場合、添加元素としてZn、In、Sn、Cdを加えた場合に特に高いMR変化率が確認できた。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例8−1〜8−20の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、NaCl構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例8−1の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例8−1のように5°以下がさらに望ましい。
実施例8−1〜8−20の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、スペーサ層とフリー層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。
(第9の実施形態)
次に、第9の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成は、図5に示すような第1の実施形態に係るものと同様であるが、第1の実施形態との違いは酸化物層21の材料を変更した点である。
表9は、酸化物層21の材料を変化させた場合の第9の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表9に示すように、比較例9−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例9−1〜9−20は、酸化物層21がNaCl構造を有する場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。本実施例では、Co、Ni、またはCo50Ni50を含む酸化物層21に添加元素を加えた場合について検討した結果を示している。具体的には、実施例9−1はCoOx、実施例9−2は(Co85Zn15)Ox、実施例9−3は(Co85In15)Ox、実施例9−4は(Co85Sn15)Ox、実施例9−5は(Co85Cd15)Ox、実施例9−6はNiOx、実施例9−7は(Ni85Zn15)Ox、実施例9−8は(Ni85In15)Ox、実施例9−9は(Ni85Sn15)Ox、実施例9−10は(Ni85Cd15)Ox、実施例9−11は((Co50Ni50)85Zn15)Oxを酸化物層21の材料とする磁気抵抗効果素子についてのものである。
その他の構成は、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
酸化物層21:[表9に記載]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表9には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。本発明者らは、酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、表8に記載した材料でNaCl構造の(111)配向膜を作製することに成功した。
表9より、NaCl構造を有するさまざまな酸化物材料をスピンフィルタリング層として挿入した磁気抵抗効果素子はいずれも比較例9−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を示した。表9に示したように、酸化物層21の金属元素MeにCo、Ni、またはCo50Ni50を用いた場合に対して、Zn、In、Sn、Cdなどの様々な添加元素を加えた場合においても、高いMR変化率を得ることができる。添加元素としては、Zn、In、Sn、Cd以外にCu、Ti、V、Cr、Mn、Al、Si、Mg、Pt、Pd、Ag、Zr、Hf、Taなどを用いた場合でも高いMR変化率を得ることができる。表9では、添加元素を15at.%加えた場合を代表例として示しているが、添加量が0.5at.%〜50at.%の範囲で同様に比較例9−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を確認できている。ここで、特に酸化物層21の金属元素MeにCo、Ni、またはCo50Ni50を用いた場合、添加元素としてZn、In、Sn、Cdを加えた場合に特に高いMR変化率が確認できた。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例9−1〜9−11の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、NaCl構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例9−1の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例9−1のように5°以下がさらに望ましい。
実施例9−1〜9−11の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、スペーサ層とフリー層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。
(第10の実施形態)
次に、第10の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成は、図5に示すような第1の実施形態に係るものと同様であるが、第1の実施形態との違いは酸化物層21の材料を変更した点である。
表10は、酸化物層21の材料を変化させた場合の第10の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表10に示すように、比較例10−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例10−1〜10−6は、酸化物層21がNaCl構造を有する場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。本実施例では、((Co−Fe)85Zn15)Oxで表される酸化物層21において、CoとFeの組成比を変えた場合について検討した結果を示している。具体的には、実施例10−1は(Fe85Zn15)Ox、実施例10−2は((Fe80Co20)85Zn15)Ox、実施例10−3は((Fe50Co50)85Zn15)Ox、実施例10−4は((Fe25Co75)85Zn15)Ox、実施例10−5は((Fe10Co90)85Zn15)Ox、実施例10−6は(Co85Zn15)Oxを酸化物層21の材料とする磁気抵抗効果素子についてのものである。
その他の構成は、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
酸化物層21:[表10に記載]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表9には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。本発明者らは、酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、表10に記載した材料でNaCl構造の(111)配向膜を作製することに成功した。
表10より、NaCl構造を有するさまざまな酸化物材料をスピンフィルタリング層として挿入した磁気抵抗効果素子はいずれも比較例10−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を示した。表10に示したように、酸化物層21の金属元素Meに((Co−Fe)85Zn15)Oxで表される酸化物層21において、Coに対するFe濃度が0at.%〜100at.%で高いMR変化率が確認された。特に、Coに対するFe濃度が25at.%〜100at.%で特に高いMR変化率が確認された。表10では、添加元素としてZnを15at.%加えた場合を代表例として示しているが、添加量が0.5at.%〜50at.%の範囲で同様に比較例10−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を確認できている。ここで、添加元素として、Zn以外にもIn、Sn、Cd、Cu、Ti、V、Cr、Mn、Al、Si、Mg、Pt、Pd、Ag、Zr、Hf、Taなどを用いた場合でも高いMR変化率を得ることができる。特に、添加元素として、Zn、In、Sn、Cdを用いた場合に特に高いMR変化率を得ることができる。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例10−1〜10−6の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、NaCl構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例10−3の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例10−3のように5°以下がさらに望ましい。
実施例10−1〜10−6の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、スペーサ層とフリー層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。
(第11の実施形態)
次に、第11の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成は、図5に示すような第1の実施形態に係るものと同様であるが、第1の実施形態との違いは酸化物層21の材料を変更した点である。
表11は、酸化物層21の材料を変化させた場合の第11の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表11に示すように、比較例11−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例11−1〜11−6は、酸化物層21がNaCl構造を有する場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。本実施例では、((Fe−Ni)85Zn15)Oxで表される酸化物層21において、FeとNiの組成比を変えた場合について検討した結果を示している。具体的には、実施例11−1は(Fe85Zn15)Ox、実施例11−2は((Fe80Ni20)85Zn15)Ox、実施例11−3は((Fe50Ni50)85Zn15)Ox、実施例11−4は((Fe25Ni75)85Zn15)Ox、実施例11−5は((Fe10Ni90)85Zn15)Ox、実施例11−6は(Ni85Zn15)Oxを酸化物層21の材料とする磁気抵抗効果素子についてのものである。
その他の構成は、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
酸化物層21:[表11に記載]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表11には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。本発明者らは、酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、表11に記載した材料でNaCl構造の(111)配向膜を作製することに成功した。
表11より、NaCl構造を有するさまざまな酸化物材料をスピンフィルタリング層として挿入した磁気抵抗効果素子はいずれも比較例11−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を示した。表11に示したように、酸化物層21の金属元素Meに((Co−Ni)85Zn15)Oxで表される酸化物層21において、Niに対するFe濃度が0at.%〜100at.%で高いMR変化率が確認された。特に、Niに対するFe濃度が25at.%〜100at.%で特に高いMR変化率が確認された。表11では、添加元素としてZnを15at.%加えた場合を代表例として示しているが、添加量が0.5at.%〜50at.%の範囲で同様に比較例11−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を確認できている。ここで、添加元素として、Zn以外にもIn、Sn、Cd、Cu、Ti、V、Cr、Mn、Al、Si、Mg、Pt、Pd、Ag、Zr、Hf、Taなどを用いた場合でも高いMR変化率を得ることができる。特に、添加元素として、Zn、In、Sn、Cdを用いた場合に特に高いMR変化率を得ることができる。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例11−1〜11−6の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、NaCl構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例11−3の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例11−3のように5°以下がさらに望ましい。
実施例11−1〜11−6の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、スペーサ層とフリー層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。
(第12の実施形態)
次に、第12の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成は、図5に示すような第1の実施形態に係るものと同様であるが、第1の実施形態との違いは酸化物層21の材料を変更した点である。
表12は、酸化物層21の材料を変化させた場合の第12の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表12に示すように、比較例12−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例12−1〜12−9は、酸化物層21がスピネル構造を有する場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。具体的には、実施例12−1は(Fe85Zn15)3O4、実施例12−2は(Fe42.5Co42.5Zn15)3O4、実施例12−3は(Fe42.5Ni42.5Zn15)3O4、実施例12−4は(Co42.5Ni42.5Zn15)3O4、実施例12−5は(Co85Zn15)3O4、実施例12−6は(Ni85Zn15)3O4、実施例12−7は(Fe85In15)3O4、実施例12−8は(Fe85Sn15)3O4、実施例12−9は(Fe85Cd15)3O4を酸化物層21の材料とする磁気抵抗効果素子についてのものである。
その他の構成は、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
酸化物層21:[表12に記載]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
本実施例においても、第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表12には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。本発明者らは、酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、表12に記載した材料で2価の金属イオンを含むMeXOY型(Y/X≦4/3)のスピネル構造の(111)配向膜を作製することに成功した。
表7より、実施例12−1〜12〜9のMeXOY型(Y/X≦4/3以下)のスピネル構造を有するさまざまな酸化物材料をスピンフィルタリング層として挿入した磁気抵抗効果素子はいずれも比較例12−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を示した。表12に示すように、Fe、Co及びNiから選択された少なくとも1つの金属並びにZn、Cd、Sn及びInからなる群より選択された少なくとも1つの材料を含む酸化物材料を用いた場合に、高いMR変化率が実現できることが確認できている。
上記の結果より、MeXOY型(Y/X≦4/3)のスピネル構造を有するさまざまな材料の酸化物層をスピンフィルタリング層として磁気抵抗効果素子に挿入することで著しいMR変化率の向上を確認することができた。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例12−1〜12−9の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、スピネル構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例12−1の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例12−1のように5°以下がさらに望ましい。
実施例12−1〜12−9の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、スペーサ層とフリー層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。
(第13の実施形態)
次に、第13の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成は、図5に示すような第1の実施形態に係るものと同様であるが、第1の実施形態との違いは酸化物層21の膜厚を変更した点である。
表13は、NaCl構造の(Fe−Zn)Ox(ウスタイト)を構成要素とする酸化物層21の膜厚を変化させた場合における第13の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表13に示すように、比較例13−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例13−1〜13−10は、酸化膜層21の厚さを、それぞれ、0.2、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、5nmとする磁気抵抗効果素子についてのものである。
その他の構成は、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[膜厚は表13に記載]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表8には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。本発明者らは、酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、NaCl構造の(111)配向であるZn−Fe−O膜を作製することに成功した。
表13より、NaCl構造を有するZn−Fe−O膜をスピンフィルタリング層として挿入した実施例13−1〜13−10は、0.2nm〜5nmのいずれの膜厚においても比較例13−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を示した。特に、0.5nm〜4nmの時、著しく高いMR変化率を示した。このようなMR変化率の膜厚依存性は、第6の実施形態、第7の実施形態、第8の実施形態、第9の実施形態、第10の実施形態及び第11の実施形態に示した酸化物層21の材料においても同様に確認された。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例13−3の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、NaCl構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例13−3の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例13−3のように5°以下がさらに望ましい。
実施例13−3の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、スペーサ層とフリー層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。
(第14の実施形態)
次に、第14の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成は、図5に示すような第1の実施形態に係るものと同様であるが、第1の実施形態との違いは酸化物層21の膜厚を変更した点である。
表14は、MeXOY型(Y/X≦4/3)のスピネル構造の酸化物層21の膜厚を変化させた場合における第14の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表14に示すように、比較例14−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例14−1〜14−10は、酸化膜層21の厚さを、それぞれ、0.2、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、5nmとする磁気抵抗効果素子についてのものである。
その他の構成は、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[膜厚は表14に記載]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表9には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。本発明者らは、酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、MeXOY型(Y/X≦4/3)のスピネル構造の(111)配向のZn−Fe−O膜を作製することに成功した。
表14より、MeXOY型(Y/X≦4/3)のスピネル構造を有するZn−Fe−O膜をスピンフィルタリング層として挿入した実施例14−1〜14−10は、0.2nm〜5nmのいずれの膜厚においても比較例14−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を示した。このようなMR変化率の膜厚依存性は、第12の実施形態に示した酸化物層21の材料においても同様に確認された。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例14−3の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、スピネル構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例14−3の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例14−3のように5°以下がさらに望ましい。
実施例14−3の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、スペーサ層とフリー層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。
(第15の実施形態)
次に、第15の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成は、図5に示すような第1の実施形態に係るものと同様であるが、第1の実施形態との違いは酸化物層21に用いたZn−Fe−O膜中のメタル元素であるZnXFe1−XのZn濃度Xを変更した点である。
表15は、ZnXFe1−XのZn濃度を変化させた場合における第15の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表15に示すように、比較例15−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例15−1はZnXFe1−XのZn濃度を0、すなわち酸化物層21としてFeOx(ウスタイト)を用いた場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例15−2〜15−10は、ZnXFe1−XのZn濃度をそれぞれ0.5、2、5、10、15、20、30、50、70原子%(at.%)とした場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。
その他の構成は、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表15には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。本発明者らは、酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、NaCl構造の(111)配向であるZn−Fe−O膜を作製することに成功した。また、酸化物膜中のZnXFe1−XのZn濃度XはICP−MS測定により行った。
表15より、NaCl構造を有するZn−Fe−O膜をスピンフィルタリング層として挿入した実施例15−1〜15−10は、Zn−Fe−O膜中のメタル元素であるZnXFe1−XのZn濃度Xが0%〜70%の範囲で比較例15−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を確認することができた。また、Zn濃度Xが0.5%〜50%の範囲で特に高いMR変化率を確認することができた。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例15−6の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、NaCl構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例15−6の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例15−6のように5°以下がさらに望ましい。
実施例15−6の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、スペーサ層とフリー層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。
(第16の実施形態)
次に、第16の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成は、図5に示すような第1の実施形態に係るものと同様であるが、第1の実施形態との違いは酸化物層21に用いたZn−Fe−Co−O膜中のメタル元素であるZnX(Fe50Co50)1−XのZn濃度Xを変更した点である。
表16は、ZnX(Fe50Co50)1−XのZn濃度を変化させた場合における第16の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表16に示すように、比較例16−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例16−1はZnx(Fe50Co50)1−XのZn濃度を0、すなわち酸化物層21として(Fe50Co50)Ox(ウスタイト)を用いた場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例16−2〜16−10は、ZnxFe1−xのZn濃度をそれぞれ0.5、2、5、10、15、20、30、50、70原子%(at.%)とした場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。
その他の構成は、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表16には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。本発明者らは、酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、NaCl構造の(111)配向であるZn−Fe−Co−O膜を作製することに成功した。また、酸化物膜中のZnX(Fe50Co50)1−XのZn濃度XはICP−MS測定により行った。
表16より、NaCl構造を有するZn−Fe−Co−O膜をスピンフィルタリング層として挿入した実施例16−1〜16−10は、Zn−Fe−Co−O膜中のメタル元素であるZnX(Fe50Co50)1−XのZn濃度Xが0%〜70%の範囲で比較例16−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を確認することができた。また、Zn濃度Xが0.5%〜50%の範囲で特に高いMR変化率を確認することができた。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例16−6の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、NaCl構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例16−6の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例16−6のように5°以下がさらに望ましい。
実施例16−6の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、スペーサ層とフリー層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。
(第17の実施形態)
次に、第17の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成は、図5に示すような第1の実施形態に係るものと同様であるが、第1の実施形態との違いは酸化物層21に用いたZn−Fe−O膜中のメタル元素であるZnXFe1−XのZn濃度Xを変更した点である。
表17は、ZnXFe1−XのZn濃度を変化させた場合における第17の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。
表17に示すように、比較例17−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。比較例17−2はZnXFe1−XのZn濃度を0、すなわち酸化物層21としてFe3O4を用いた場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例17−1〜17−9はZnXFe1−XのZn濃度をそれぞれ0.5、2、5、10、15、20、30、50、70原子%(at.%)とした場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。
その他の構成は、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
酸化物層21:Zn−Fe−O[1.5nm]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
本実施形態においても、前述の第1の実施形態と同様に、X線回折とXPS分析により、酸化物層21の結晶構造の解析を行った。表17には、結晶構造の解析結果と磁気抵抗効果素子10の素子特性も合わせてのせている。本発明者らは、酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、MeXOY型(Y/X≦4/3)のスピネル構造の(111)配向のZn−Fe−O膜を作製することに成功した。また、酸化物膜中のZnXFe1−XのZn濃度XはICP−MS測定により行った。
表17より、MeXOY型(Y/X≦4/3)のスピネル構造の(111)配向のZn−Fe−O膜をスピンフィルタリング層として挿入した実施例17−1〜17−9は、Zn−Fe−O膜中のメタル元素であるZnXFe1−XのZn濃度Xが0.5%〜70%の範囲で比較例17−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を確認することができた。また、Zn濃度Xが0.5%〜50%の範囲で特に高いMR変化率を確認することができた。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例17−5の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、スピネル構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。
また、実施例17−5の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例17−5のように5°以下がさらに望ましい。
実施例17−5の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、スペーサ層とフリー層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。
(第18の実施形態)
次に、第18の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成は、図5に示すような第1の実施形態に係るものと同様であるが、第1の実施形態との違いは酸化物層21に用いたZn−Fe−O膜の膜面垂直方向の面間隔を変更した点である。本発明者らは、酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、異なる面間隔を有する酸化物層の作製に成功した。
表18は、Zn−Fe−O膜の作製プロセスの違いによる膜面垂直方向の面間隔の変化と、面間隔を変化させた場合における第18の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。ここで、酸化物層の面間隔は、磁気抵抗効果素子10の断面TEMの明視野像で観察された酸化物層を直接計測することで確認した。
表18に示すように、比較例18−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。比較例18−2は、酸化物層21の形成過程として、鉄を1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件(加速度電圧Vb=60V、ビーム電流Ib=60mA)として形成した場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21の膜面垂直方向の面間隔は0.241nmであった。
実施例18−1〜18−8は、酸化物層21の形成工程として、鉄を1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件(加速度電圧Vb=60V、ビーム電流Ib=60mA)とし、さらに、イオンビームアシスト酸化後に、アルゴンプラズマの照射を行った場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例18−1〜18−8では、アルゴンプラズマ照射プロセスの投入電力を高加速度条件の5、10、20、40、60、80、100、120Wと変えることにより、表12に示すようにそれぞれ、0.242、0.245、0.247、0.249、0.252、0.255、0.26、0.261nmを示す面間隔を有する酸化物層21の作製に成功した。
その他の構成は、下記に示すように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
酸化物層21:表18に記載[1.5nm]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
表18より、Zn−Fe−O膜を設けた実施例18−1〜18−8及び比較例18−2は、比較例18−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を確認することができた。また、酸化物層21の膜面垂直方向の面間隔は、0.242nm〜0.26nmの範囲で特に高いMR変化率を確認することができた。
このようなMR変化率の酸化物層21の膜面垂直方向の面間隔に対する依存性は、表18に示した(Zn15Fe85)−O膜のZn添加量が15at.%の場合のみでなく、(ZnXFe1−X)−O膜においてZn添加量が0.5at.%〜50at.%の場合でも同様に0.242nm〜0.26nmの範囲で高いMR変化率を確認することができた。また、表18に示した(Zn15Fe85)−O膜以外にも、Fe−O膜やFe−O膜にZn以外の添加元素としてIn、Sn、Cd、Co、Ni、Cu、Ti、V、Cr、Mn、Al、Si、Mg、Pt、Pd、Ag、Zr、Hf、Taを0.5at.%〜50at.%の添加量で添加した酸化物層21においても同様に0.242nm〜0.26nmの範囲で高いMR変化率を確認できている。
ここで、酸化物層の面間隔は、断面TEMの明視野像で観察された酸化物層の面間隔を直接計測することで確認する以外に、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、計測することができる。また、磁気抵抗効果素子10の断面TEMの明視野像の酸化物層部分に、FFT(高速フーリエ変換)処理を行うことによっても、計測することができる。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによって解析できる。実施例18−1〜18−8の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、NaCl構造の(111)面配向もしくはスピネル構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。よって、酸化物層に含まれる金属酸化物の結晶配向は、(111)面配向であり、(111)面の面間隔が0.242nm以上0.26nm以下であると、特に高いMR変化率を示すことが確認された。
また、実施例18−5の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例18−5のように5°以下がさらに望ましい。
実施例18−5の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、スペーサ層とフリー層の間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。
(第19の実施形態)
次に、第19の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子の構成は、図5に示すような第19の実施形態に係るものと同様であるが、第19の実施形態との違いは酸化物層21に用いた材料をZn−Fe−O膜からZn−FeCo−O膜に変更した点である。本発明者らは、酸化物層21の表面酸化の条件を鋭意検討することにより、Zn−FeCo−O膜においても異なる面間隔を有する酸化物層の作製に成功した。
表19は、Zn−FeCo−O膜の作製プロセスの違いによる膜面垂直方向の面間隔の変化と、面間隔を変化させた場合における第19の実施形態に係る磁気抵抗効果素子のMR変化率及び面積抵抗を示したものである。ここで、酸化物層の面間隔は、磁気抵抗効果素子10の断面TEMの明視野像で観察された酸化物層を直接計測することで確認した。
表19に示すように、比較例19−1は、酸化物層21が形成されていない磁気抵抗効果素子についてのものである。比較例19−2は、酸化物層21の形成工程として、Fe50Co50を1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件(加速度電圧Vb=60V、ビーム電流Ib=60mA)として形成した場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。形成された酸化物層21の膜面垂直方向の面間隔は0.241nmであった。
実施例19−1〜19−8は、酸化物層21の形成工程として、Fe50Co50を1.0nm及び亜鉛を0.6nmスパッタ法で成膜した後、イオンビームアシスト酸化のビーム条件を低加速度条件(加速度電圧Vb=60V、ビーム電流Ib=60mA)とし、さらに、イオンビームアシスト酸化後に、アルゴンプラズマの照射を行った場合の磁気抵抗効果素子についてのものである。実施例19−1〜19−8では、アルゴンプラズマ照射プロセスの投入電力を高加速度条件の5、10、20、40、60、80、100、120Wと変えることにより、表19に示すように0.242、0.245、0.247、0.249、0.252、0.255、0.26、0.261nmを示す面間隔を有する酸化物層の作製に成功した。
その他の構成は、下記に示すように、第19の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様である。
下地層12:Ta[1nm]/Ru[2nm]
ピニング層13:Ir22Mn78[7nm]
ピン層14:Co90Fe10[4.4nm]/Ru[0.9nm]/Fe50Co50[4nm]
スペーサ層16:Cu[1.5nm]
酸化物層21:表19に記載[1.5nm]
フリー層18:Fe50Co50[3nm]
表19より、Zn−FeCo−O膜を設けた実施例19−1〜19−8及び比較例19−2は、比較例19−1のスピンフィルタリング層を設けていない素子に比べて高いMR変化率を確認することができた。また、酸化物層21の膜面垂直方向の面間隔は、0.242nm〜0.26nmの範囲で特に高いMR変化率を確認することができた。
このようなMR変化率の酸化物層21の膜面垂直方向の面間隔に対する依存性は、表18に示した(Zn15(Fe50Co50)85)−O膜のZn添加量が15at.%の場合のみでなく、(Znx(Fe50Co50)1−x)−O膜においてZn添加量が0.5at.%〜50at.%の場合でも同様に0.242nm〜0.26nmの範囲で高いMR変化率を確認することができた。
また、表18に示した(Zn15(Fe50Co50)85)−O膜以外にも、(Fe50Co50)−O膜や(Fe50Co50)−O膜にZn以外の添加元素としてIn、Sn、Cd、Co、Ni、Cu、Ti、V、Cr、Mn、Al、Si、Mg、Pt、Pd、Ag、Zr、Hf、Taを0.5at.%〜50at.%の添加量で添加した酸化物層21においても同様に0.242nm〜0.26nmの範囲で高いMR変化率を確認できている。また、(FexCo1−x)−O膜で表される酸化物層21に含まれるFeXCo1−X合金の組成Xが10at.%〜100at.%の範囲で同様に0.242nm〜0.26nmの範囲で高いMR変化率を確認できた。
また、(FexCo1−x)YM1−Y−O膜(X=10at.%〜100at.%)で表される酸化物層21に添加元素MとしてIn、Sn、Cd、Co、Ni、Cu、Ti、V、Cr、Mn、Al、Si、Mg、Pt、Pd、Ag、Zr、Hf、TaをY=0.5at.%〜50at.%の添加量で添加した酸化物層21においても同様に0.242nm〜0.26nmの範囲で高いMR変化率を確認できた。
ここで、酸化物層の面間隔は、断面TEMの明視野像で観察された酸化物層の面間隔を直接計測することで確認する以外に、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても計測することができる。また、磁気抵抗効果素子10の断面TEMの明視野像の酸化物層部分に、FFT(高速フーリエ変換)処理を行うことによっても、計測することができる。
ここで、前述したように酸化物層21の結晶構造は、磁気抵抗効果素子10の断面TEM試料に対して、酸化物層部分に1nm程度に電子ビームを絞り込んで照射し、ナノディフラクションパターンをとることによっても、解析できる。実施例19−1〜19−8の試料のナノディフラクションパターンを測定した結果、NaCl構造の(111)面配向もしくはスピネル構造の(111)面配向に対応したディフラクションパターンを確認することができた。よって、酸化物層に含まれる金属酸化物の結晶配向は、(111)面配向であり、(111)面の面間隔が0.242nm以上0.26nm以下であると、特に高いMR変化率を示すことが確認された。
また、実施例19−5の酸化物層の結晶配向分散角は5°であった。この結晶配向分散は少ないほど、高いMR変化率を得ることができ、望ましい。10°以下が望ましく、実施例19−5のように5°以下がさらに望ましい。
実施例19−5の磁気抵抗効果素子10の断面TEM観察結果より、スペーサ層とフリー層との間に酸化物層21が均一に形成されていることが確認できた。
(第20の実施形態)
次に、第20の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
図15は、第20の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を例示する斜視図である。
図15に示すように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子は、ピン層14がフリー層18よりも上に設けられたトップスピンバルブ型の構造であることが第1の実施形態と異なる。
このようなトップスピンバルブ構造を用いた場合でも、NaCl構造、もしくはMeXOY型(Y/X≦4/3)で表されるスピネル構造を有する酸化物層を設けることにより、高いスピン依存界面散乱を発現し、MR変化率を大きく向上することができる。
よって、高集積化を図ることができる磁気抵抗効果素子を提供することができる。
(第21の実施形態)
次に、第21の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
図16は、第21の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を例示する分解斜視図である。
図16に示すように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子は、フリー層上にスペーサ層が設けられ、スペーサ層上に酸化物層が設けられている。そして、酸化物層上には再びフリー層が設けられている。すなわち、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子においては、ピン層を有しておらず、2層のフリー層で形成されている点が第1の実施形態と異なる。
このような磁気抵抗効果素子では、磁気ディスクからの磁界が加わっていない状態におけるフリー層181とフリー層182の磁化が90°になるようにバイアスされており、磁気ディスクからの磁界によって、2層のフリー層の相対角度が変化することにより、再生ヘッドとして用いることができる。このような90°の磁化アライメントは、スペーサ層を介した磁気結合とハードバイアスなどの組合せなどで得ることができる。
ここで、酸化物層21はスペーサ層の上部又はフリー層の下部に設けられている。
このような2層のフリー層からなる磁気抵抗効果素子を用いた場合でも、NaCl構造、もしくはMeXOY(X/Y≦4/3)で表されるスピネル構造を有する酸化物層を設けることにより、高いスピン依存界面散乱を発現し、MR変化率を大きく向上することができる。
よって、高集積化を図ることができる磁気抵抗効果素子を提供することができる。
(第22の実施形態)
次に、第22の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。
図17は、第22の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を例示する斜視図である。
図17に示すように、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子は、ピン層14a上にスペーサ層16aが設けられ、スペーサ層16a上に、フリー層18aが設けられている。スペーサ層16aの上部又はフリー層18aの下部に酸化物層21aが設けられている。ここまでは、第1の実施形態と同様である。しかし、フリー層18a上に中間層51が設けられ、中間層51上に、第1の実施形態と逆の構成、すなわち、フリー層18b、スペーサ層16b、ピン層14bがこの順で設けられている。そして、フリー層18bの上部又はスペーサ層16bの下部に、酸化物層21bが設けられている。
したがって、スペーサ層に接したピン層の磁化方向が逆に固着された2つの磁気抵抗効果素子を直列に接続した差動型構造を有している点が第1の実施形態と異なる。このような磁気抵抗効果素子では、接続された2つの磁気抵抗効果素子の抵抗変化が外部磁界に対して逆極性で振舞う。そのため、垂直磁気記録媒体において媒体磁化の向きが上向きと下向きが隣り合う、磁化遷移領域において出力が得られる。すなわち、差動型の媒体磁界検出を行うことができる。
なお、中間層51には、例えば5nmの膜厚の銅膜を用いることができる。中間層51として、その他、金、銀、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、レニウム、ロジウム、タンタルなどの非磁性金属を用いてもよい。また、中間層51として、コバルト、鉄及びニッケルからなる群より選択された強磁性金属の層と、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、レニウム及びロジウムからなる群より選択された強磁性金属の層と、これらの層間に配置した際に反強磁性結合を生ずる金属の層との積層体で形成してもよい。この場合は、フリー層18aとフリー層18bの磁化方向を反平行結合とすることができる。
このような差動型の磁気抵抗効果素子を用いた場合でも、NaCl構造、もしくはMeXOY(Y/X≦4/3)で表されるスピネル構造を有する酸化物層を設けることにより、高いスピン依存界面散乱を発現し、MR変化率を大きく向上することができる。
よって、高集積化を図ることができる磁気抵抗効果素子を提供することができる。
(第23の実施形態)
次に、第23の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。本実施形態は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法についてのものである。
図18は、第23の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を例示するフローチャート図である。以降、本実施形態に係る磁気抵抗効果素子10の製造方法について説明する。本実施形態においては、各層の形成方法として、DCマグネトロンスパッタ、RFマグネトロンスパッタ等のスパッタ法、イオンビームスパッタ法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、およびMBE(Molecular Beam Epitaxy)法などを用いることができる。
図18に示すように、ステップS11では、基板(図示せず)上に、電極11を微細加工プロセスによって前もって形成しておく。次に、電極11上に下地層12として例えば、Ta[1nm]/Ru[2nm]を形成する。Taは下電極の荒れを緩和等するためのバッファ層12aに相当する。Ruはその上に形成されるスピンバルブ膜の結晶配向および結晶粒径を制御するシード層12bに相当する。
ステップS12では、下地層12上にピニング層13を形成する。ピニング層13の材料としては、IrMn、PtMn、PdPtMn、又はRuRhMn等の反強磁性材料を用いることができる。
ステップS13では、ピニング層13上にピン層14を形成する。ピン層14は、例えば、下部ピン層141(Co75Fe25[4.4nm])、磁気結合層142(Ru)、および上部ピン層143(Fe50Co50[4nm])からなるシンセティックピン層とすることができる。
ステップS14では、ピン層14上に第1の金属層を形成する。第1の金属層は、Au、Ag、Cu、及びZnのいずれかの金属を用いて形成する。
ステップS15では、スペーサ層16上に酸化物層21を形成する。一例を挙げると、スペーサ層16上にFeとZnの金属層を成膜する。ここで、FeとZnの金属層は、Fe/ZnやZn/Feや(Fe/Zn)×2のようなFe層とZn層の積層体としても良いし、Zn50Fe50のような合金の単層としてもよい。ここで、酸化物層の母材料としては、Zn、In、Sn及びCdからなる群より選択された少なくとも1種の材料並びにFe、Co及びNiからなる群より選択された少なくとも1種の金属を含む金属層を成膜することができる。
次に、ステップS15の続きとして、ZnとFeを含む金属材料に酸化処理を施す。この酸化処理は、希ガスなどのイオンビームまたはプラズマを金属材料層に照射しながら、酸素を供給して行う、イオンアシスト酸化(IAO:Ion assisted Oxidation)を用いることができる。また、上記のイオンアシスト酸化処理において、酸素ガスをイオン化またはプラズマ化してもよい。イオンビームの照射による金属材料層へのエネルギーアシストにより、安定で均一な酸化物層を機能層21として形成することができる。また、一層の酸化層21を形成するに当たり、上述した金属材料層の形成と酸化処理を数回繰り返して行ってもよい。
この場合、所定の膜厚の機能層21を一度の成膜および酸化処理で作製するのではなく、膜厚を分割して薄い膜厚の金属材料層に酸化処理を行うほうが好ましい。
また、ZnとFeを含む金属材料層を酸素雰囲気に晒す自然酸化を用いてもよい。ただし、安定な酸化物を形成するためには、エネルギーアシストを用いた酸化方法のほうが好ましい。
また、ZnとFeの金属材料を積層体とした場合は、均一に混合されたZnとFeの酸化物層21を形成する上で、イオンビームの照射を行いながら酸化したほうが好ましい。また、NaCl構造を有する(Zn15Fe85)0.95O1やスピネル構造を有する(Zn15Fe85)3O4の酸化物ターゲットをスパッタで形成しても良い。
また、前述した酸化物ターゲットを用いてスパッタで成膜した後に、追加酸化処理や還元処理を組み合わせても良い。このような追加処理を行うことで、最も高いスピン依存散乱効果を発揮するFe―Zn混合酸化物の酸素濃度に調整することができる。
希ガスなどのイオンビームまたはプラズマを用いる場合、当該希ガスは、例えば、アルゴン、キセノン、ヘリウム、ネオンおよびクリプトンから成る群より選択される少なくとも1つを含むガスを使用することができる。
なお、エネルギーアシストの方法として、イオンビームの照射以外に加熱処理などを行ってもよい。この場合、たとえば、金属材料層を成膜後に100℃〜300℃の温度で加熱しながら、酸素を供給してもよい。
以下、酸化物層21を形成する酸化処理において、イオンビームアシスト酸化処理を行った場合のビーム条件について説明する。酸化処理により、酸化物層21を形成する際に前述した希ガスをイオン化またはプラズマ化して照射する場合、その加速電圧Vを30V〜130V、ビーム電流Ibを20mA〜200mAに設定することが好ましい。これらの条件は、イオンビームエッチングを行う場合の条件と比較すると著しく弱い条件である。イオンビームの換わりにRFプラズマなどのプラズマを用いても同様に酸化物層21を形成することができる。
イオンビームの入射角度は、膜面に対して垂直に入射する場合を0°、膜面に平行に入射する場合を90°と定義して、0°〜80°の範囲で適宜変更する。この工程による処理時間は15秒〜1200秒が好ましく、制御性などの観点から30秒以上がより好ましい。処理時間が長すぎると、磁気抵抗効果素子の生産性が劣るため好ましくない。これらの観点から、処理時間は30秒から600秒が好ましい。
イオン又はプラズマを用いた酸化処理の場合、酸素暴露量はIAOの場合には1×103〜1×104L(Langmiur、1L=1×10−6Torr×sec)が好ましい。自然酸化の場合には3×103L〜3×104Lが好ましい。
ステップS15の続きとして、還元性ガスを用いた還元処理を行ってもよい。還元性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトンまたはキセノンのイオン、プラズマまたはラジカル、または水素または窒素の分子、イオン、プラズマまたはラジカルの少なくとも何れかを含むガスを使用することができる。特に還元性ガスとして、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトンまたはキセノンのイオンまたはプラズマ、または水素または窒素のイオンまたはプラズマの少なくとも何れかを含むガスを使用することが好ましい。
さらに、還元性ガスとしては、アルゴンのイオンまたはプラズマの少なくとも何れかを含むガスを使用することが好ましい。この還元処理によって、酸化処理後の母材料から成る膜の酸素濃度を調整することができ、スピンフィルタリング効果を最も強く発現できる濃度に調整することができる。
還元処理は、酸化処理後の母材料から成る膜を加熱しながら行うことができる。例えば、100℃から300℃に加熱した母材料に対して還元処理を行うことができる。加熱することで、より効率的に還元処理を行うことができる。ここで、還元処理後の膜に対して、さらにアルゴンイオンの照射、アルゴンプラズマの照射および加熱から成る群より選択される少なくとも1つの水分除去処理を施すことができる。これによって、還元処理の際に生成する水分を除去することができる。
また、酸化物層21の作製において、上記の工程を終えた後、酸化処理と還元処理とを再度繰り返すことができる。生成した水の除去と還元処理とを交互に繰り返すことで、より効率的に膜を還元することができる。
このような還元処理について、特にArイオンビーム照射を行った場合のビーム条件を以下に説明する。還元処理により、機能層21を形成する際に前述した希ガスをイオン化またはプラズマ化して照射する場合、その加速電圧Vを30V〜130V、ビーム電流Ibを20mA〜200mAに設定することが好ましい。これらの条件は、イオンビームエッチングを行う場合の条件と比較すると著しく弱い条件である。イオンビームの換わりにRFプラズマなどのプラズマを用いても同様に機能層21を形成することができる。イオンビームの入射角度は、膜面に対して垂直に入射する場合を0°、膜面に平行に入射する場合を90°と定義して、0°〜80°の範囲で適宜変更する。この工程による処理時間は15秒〜1200秒が好ましく、制御性などの観点から30秒以上がより好ましい。処理時間が長すぎると、磁気抵抗効果素子の生産性が劣るため好ましくない。これらの観点から、処理時間は30秒から600秒が好ましい。
ステップS16では、第2の金属層状にフリー層18を形成する。フリー層18としては、例えば、Fe50Co50[1nm]/Ni90Fe10[3nm]を形成する。
ステップS17では、フリー層18上にキャップ層19を形成する。キャップ層19としては、例えば、Cu[1nm]/Ru[10nm]を形成する。
ステップS18では、アニール処理を行う。
その後に、キャップ層19上に磁気抵抗効果素子10へ垂直通電するための電極20を形成する。
本実施形態によって、MR変化率を増大させることができ、高集積化を図ることができる磁気抵抗効果素子を提供することができる。
(第24の実施形態)
次に、第24の実施形態について説明する。本実施形態は磁気ヘッドの実施形態である。
図19及び図20は、第24の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する断面図である。
図19は、磁気記録媒体(図示せず)に対向する媒体対向面(ABS面)に対してほぼ平行な方向に磁気抵抗効果素子10を切断した断面図である。図18は、磁気抵抗効果素子10をABS面に対して垂直な方向に切断した断面図である。
図19および図20に例示した磁気ヘッドは、いわゆるハード・アバッテッド(hard abutted)構造を有する。磁気抵抗効果素子10の上下には、下電極11と上電極20とがそれぞれ設けられている。図19において、磁気抵抗効果素子10の両側面には、バイアス磁界印加膜41と絶縁膜42とが積層して設けられている。図20に示すように、磁気抵抗効果素子10のABS面には保護層43が設けられている。
磁気抵抗効果素子10に対するセンス電流は、その上下に配置された下電極11および上電極20によって矢印Aで示したように、膜面に対してほぼ垂直方向に通電される。また、左右に設けられた一対のバイアス磁界印加膜41により、磁気抵抗効果素子10にはバイアス磁界が印加される。このバイアス磁界により、磁気抵抗効果素子10のフリー層18の磁気異方性を制御して単磁区化することによりその磁区構造が安定化し、磁壁の移動に伴うバルクハウゼンノイズ(Barkhausen noise)を抑制することができる。
磁気抵抗効果膜10のS/N比が向上しているので、磁気ヘッドに応用した場合に高感度の磁気再生が可能となる。
よって、MR変化率を高くすることができる磁気ヘッドを提供することができる。
(第25の実施形態)
次に、第25の実施形態について説明する。本実施形態は、磁気記録再生装置の実施形態である。
図21は、第25の実施形態に係る磁気記録再生装置を例示する斜視図である。
図21に示すように、実施形態に係る磁気記録再生装置310は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。磁気記録媒体230は、スピンドルモータ330に設けられ、駆動制御部(図示せず)からの制御信号に応答するモータ(図示せず)により媒体移動方向Aの方向に回転する。磁気記録再生装置310は、複数の磁気記録媒体230を備えてもよい。
図22は、第25の実施形態に係る磁気ヘッドが設けられたヘッドスライダを例示する斜視図である。
磁気記録媒体230に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ280は、図22に示すように、磁気抵抗効果素子10を備えた磁気ヘッド140がヘッドスライダ280に設けられる。ヘッドスライダ280は、Al2O3/TiCなどからなり、磁気ディスクなどの磁気記録媒体230の上を、浮上又は接触しながら相対的に運動できるように設計されている。
ヘッドスライダ280は薄膜状のサスペンション350の先端に取り付けられている。ヘッドスライダ280の先端付近には、磁気ヘッド140が設けられている。
磁気記録媒体230が回転すると、サスペンション350により押し付け圧力とヘッドスライダ280の媒体対向面(ABS)で発生する圧力とがつりあう。ヘッドスライダ280の媒体対向面は、磁気記録媒体230の表面から所定の浮上量をもって保持される。ヘッドスライダ280が磁気記録媒体230と接触する「接触走行型」としてもよい。
サスペンション350は、駆動コイル(図示せず)を保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム360の一端に接続されている。アクチュエータアーム360の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ370が設けられている。ボイスコイルモータ370は、アクチュエータアーム360のボビン部に巻き上げられた駆動コイル(図示せず)と、この駆動コイルを挟み込むように対向して設けられた永久磁石及び対向ヨークからなる磁気回路から構成することができる。
アクチュエータアーム360は、軸受部380の上下2箇所に設けられたボールベアリング(図示せず)によって保持され、ボイスコイルモータ370により回転摺動が自在にできるようになっている。その結果、磁気ヘッド140を磁気記録媒体230の任意の位置に移動可能となる。
以上のような構成によって、高集積化を図ることができる磁気ヘッドを提供することができる。
(第26の実施形態)
次に、第26の実施形態について説明する。本実施形態は、磁気ヘッドアセンブリの実施形態である。
図23(a)は、第26の実施形態に係る磁気ヘッドアセンブリを組み込んだヘッドスタックアセンブリを例示する斜視図であり、図23(b)は、第26の実施形態に係る磁気ヘッドアセンブリを例示する斜視図である。
図23(a)に示すように、ヘッドスタックアセンブリ390は、軸受部380と、この軸受部380から延出したヘッドジンバルアセンブリ400と、軸受部380からヘッドジンバルアセンブリ400と反対方向に延出しているとともにボイスコイルモータのコイル410を支持した支持フレーム420を有する。
図23(b)に示すように、ヘッドジンバルアセンブリ400は、軸受部380から延出したアクチュエータアーム360と、アクチュエータアーム360から延出したサスペンション350とを有する。
サスペンション350の先端には、実施形態に係る磁気記録ヘッド140を有するヘッドスライダ280が設けられている。
実施形態に係る磁気ヘッドアセンブリ(ヘッドジンバルアセンブリ(HGA))400は、実施形態に係る磁気記録ヘッド140と、磁気記録ヘッド140が設けられたヘッドスライダ280と、ヘッドスライダ280を一端に搭載するサスペンション350と、サスペンション350の他端に接続されたアクチュエータアーム360とを備える。
サスペンション350は、信号の書き込み及び読み取り用、浮上量調整のためのヒータ用、STO10用のリード線(図示せず)を有し、このリード線とヘッドスライダ280に組み込まれた磁気記録ヘッド140の各電極とが電気的に接続される。電極パッド(図示せず)はヘッドジンバルアセンブリ400に設けられる。本実施形態では、電極パッドは8個設けられる。主磁極のコイル用の電極パッドが2つ、磁気再生素子用の電極パッドが2つ、DFH(ダイナミックフライングハイト)用の電極パッドが2つ、STO10用の電極パッドが2つ設けられている。
信号処理部(図示せず)が、図21に示す磁気記録再生装置310の図面中の背面側に設けられる。信号処理部は、磁気記録ヘッド140を用いて磁気記録媒体230への信号の書き込みと読み出しを行う。信号処理部の入出力線は、ヘッドジンバルアセンブリ400の電極パッドに接続され、磁気記録ヘッド140と電気的に結合される。
実施形態に係る磁気記録再生装置310は、磁気記録媒体230と、磁気記録ヘッド140と、磁気記録媒体230と磁気記録ヘッド140とを離間させ、又は、接触させた状態で対峙させながら相対的に移動可能とした可動部と、磁気記録ヘッド140を磁気記録媒体230の所定記録位置に位置あわせする位置制御部と、磁気記録ヘッド140を用いて磁気記録媒体230への書き込みと読み出しを行う信号処理部とを備える。
上記の磁気記録媒体230として、磁気記録媒体230が用いられる。上記の可動部は、ヘッドスライダ280を含むことができる。上記の位置制御部は、ヘッドジンバルアセンブリ400を含むことができる。
磁気記録再生装置310は、磁気記録媒体230と、ヘッドジンバルアセンブリ400と、ヘッドジンバルアセンブリ400に搭載された磁気記録ヘッド140を用いて磁気記録媒体230への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部とを備える。
実施形態として上述した磁気ヘッドおよび磁気記録再生装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施しうるすべての磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気記録再生装置および磁気メモリも同様に本発明に係る磁気抵抗効果素子を用いることができる。
実施形態では、ボトム型の磁気抵抗効果素子10について説明したが、ピン層14がスペーサ層16よりも上に形成されたトップ型の磁気抵抗効果素子10でも実施形態の効果を得ることができる。
(第27の実施形態)
次に、第27の実施形態について説明する。
本実施形態は、前述の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を搭載した磁気メモリについてのものである。すなわち、前述の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いて、例えばメモリセルがマトリクス状に配置されたランダムアクセス磁気メモリ(Magnetic Random Access Memory:MRAM)などの磁気メモリを実現できる。
図24は、第27の実施形態に係る磁気メモリを例示する回路図である。
図24は、メモリセルをアレイ状に配置した場合の回路構成を示す。アレイ中の1ビットを選択するために、列デコーダ550、行デコーダ551が備えられており、ビット線534とワード線532によりスイッチングトランジスタ530がオンになり一意に選択され、センスアンプ552で検出することにより磁気抵抗効果素子10中の磁気記録層(フリー層)に記録されたビット情報を読み出すことができる。ビット情報を書き込むときは、特定の書き込みワード線523とビット線522に書き込み電流を流して発生する磁場を印加する。
図25は、第27の実施形態に係る磁気メモリの要部を例示する断面図である。
図26は、図25に示すA−A’線による断面図である。
これらの図に示した構造は、図23に示した磁気メモリに含まれる1ビット分のメモリセルに対応する。
図25及び図26に示すように、このメモリセルは、記憶素子部分511とアドレス選択用トランジスタ部分512とを有する。
記憶素子部分511は、磁気抵抗効果素子10と、これに接続された一対の配線522、524とを有する。磁気抵抗効果素子10は、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子である。
一方、選択用トランジスタ部分512には、ビア526および埋め込み配線528を介して接続されたトランジスタ530が設けられている。このトランジスタ530は、ゲート532に印加される電圧に応じてスイッチング動作をし、磁気抵抗効果素子10と配線334との電流経路の開閉を制御する。
また、磁気抵抗効果素子10の下方には、書き込み配線523が、配線522とほぼ直交する方向に設けられている。これら書き込み配線522、523は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、タンタル(Ta)あるいはこれらいずれかを含む合金により形成することができる。
このような構成のメモリセルにおいて、ビット情報を磁気抵抗効果素子10に書き込むときは、配線522、523に書き込みパルス電流を流し、それら電流により誘起される合成磁場を印加することにより磁気抵抗効果素子の記録層の磁化を適宜反転させる。
また、ビット情報を読み出すときは、配線522と、磁気記録層を含む磁気抵抗効果素子10と、下電極524とを通してセンス電流を流し、磁気抵抗効果素子10の抵抗値または抵抗値の変化を測定する。
本発明の実施形態に係る磁気メモリは、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いることにより、セルサイズを微細化しても、記録層の磁区を確実に制御して確実な書き込みを確保でき、且つ、読み出しも確実に行うことができる。
(第28の実施形態)
次に、第28の実施形態について説明する。
本実施形態は、前述の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を搭載した磁気メモリについてのものである。
図27は、第28の実施形態に係る磁気メモリを例示する回路図である。
図27に示すように、本実施形態においては、マトリクス状に配線されたビット線522とワード線534とが、それぞれデコーダ560、561により選択されて、アレイ中の特定のメモリセルが選択される。それぞれのメモリセルは、磁気抵抗効果素子10とダイオードDとが直列に接続された構造を有する。ここで、ダイオードDは、選択された磁気抵抗効果素子10以外のメモリセルにおいてセンス電流が迂回することを防止する役割を有する。書き込みは、特定のビット線522と書き込みワード線523とにそれぞれに書き込み電流を流して発生する磁場により行われる。
第20の実施形態に係る磁気メモリにおける上記以外の構成は、前述した第27の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
以上説明した実施形態によれば、MR変化率が高い磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアセンブリ、磁気記録装置及び磁気記憶装置を実現することができる。
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明及びその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。